(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】半導体装置、マッチング回路及びフィルタ回路
(51)【国際特許分類】
H01G 4/33 20060101AFI20241001BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01G4/33 102
H01G4/30 544
(21)【出願番号】P 2023521008
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2022019625
(87)【国際公開番号】W WO2022239722
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021079849
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】原田 真臣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 是清
(72)【発明者】
【氏名】香川 武史
【審査官】小南 奈都子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026771(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/074534(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/33
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた第1電極層と、
前記第1電極層上に設けられた誘電体膜と、
前記誘電体膜上に設けられた第2電極層と、
前記第1電極層及び前記第2電極層を覆う保護層と、
前記保護層を貫通する外部電極と、
を備え、
前記誘電体膜はシリコン窒化物からなり、
前記誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が43atom%以上70atom%以下であ
り、
前記誘電体膜に含有されるFの含有量が10
19
cm
-3
以下である、半導体装置。
【請求項2】
前記外部電極は、前記第1電極層に接続された第1外部電極と、前記第2電極層に接続された第2外部電極と、を含む、請求項
1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記誘電体膜上に前記第2電極層と離れて設けられた第3電極層をさらに備え、
前記外部電極は、前記第3電極層に接続された第1外部電極と、前記第2電極層に接続された第2外部電極と、を含む、請求項
1に記載の半導体装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の半導体装置を備える、マッチング回路。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の半導体装置を備える、フィルタ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。さらに、本発明は、上記半導体装置を備えるマッチング回路及びフィルタ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路に用いられる代表的なキャパシタ素子として、例えばMIM(Metal Insulator Metal)キャパシタが知られている。MIMキャパシタは、絶縁体を下部電極と上部電極とで挟んだ平行平板型の構造を有するキャパシタである。
【0003】
特許文献1には、基板上に形成された下部電極と、この下部電極上に形成された誘電体薄膜と、この誘電体薄膜上に形成された上部電極と、この上部電極を含む上記基板上に形成された絶縁層と、上記各電極にそれぞれ接続され、端部が互いに同一平面上に位置するように配置された一対の電極端子とを具備したことを特徴とするコンデンサ部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、誘電体薄膜の材料として、例えば二酸化シリコン、五酸化タンタル、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム等を使用することが記載されている。
【0006】
特許文献1に記載のコンデンサ部品(キャパシタ)のような半導体装置をマッチング回路などのキャパシタに用いる場合には、高いQ値が要求される。しかしながら、半導体装置のQ値を高くするために適した誘電体膜については、これまで十分に検討されていない。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、高いQ特性を有する半導体装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記半導体装置を備えるマッチング回路及びフィルタ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体装置は、基板と、上記基板上に設けられた第1電極層と、上記第1電極層上に設けられた誘電体膜と、上記誘電体膜上に設けられた第2電極層と、上記第1電極層及び上記第2電極層を覆う保護層と、上記保護層を貫通する外部電極と、を備え、上記誘電体膜はシリコン窒化物からなり、上記誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が43atom%以上70atom%以下である。
【0009】
本発明のマッチング回路は、本発明の半導体装置を備える。
【0010】
本発明のフィルタ回路は、本発明の半導体装置を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高いQ特性を有する半導体装置を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記半導体装置を備えるマッチング回路及びフィルタ回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るキャパシタの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係るキャパシタの一例を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比と容量0.2pFにおけるQ値との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、誘電体膜に含有されるFの含有量とQ値との関係を示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、絶縁膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5B】
図5Bは、第1電極層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5C】
図5Cは、誘電体膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5D】
図5Dは、第2電極層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5E】
図5Eは、耐湿膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5F】
図5Fは、保護層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5G】
図5Gは、シード層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5H】
図5Hは、第1めっき層及び第2めっき層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5I】
図5Iは、シード層の一部を除去する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5J】
図5Jは、感光性樹脂膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図5K】
図5Kは、第1樹脂体及び第2樹脂体を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2実施形態に係るキャパシタの一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、マッチング回路の一例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、フィルタ回路の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の半導体装置について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0014】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通の事項についても記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎に逐次言及しない。
【0015】
以下の説明において、各実施形態を特に区別しない場合、単に「本発明の半導体装置」と言う。本発明の半導体装置及び各構成要素の形状及び配置等は、図示する例に限定されるものではない。
【0016】
また、以下においては、本発明の半導体装置の一実施形態として、キャパシタを例にとって説明する。本発明の半導体装置は、キャパシタそのもの(すなわちキャパシタ素子)であってもよく、キャパシタを含む装置であってもよい。
【0017】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るキャパシタでは、外部電極は、第1電極層に接続された第1外部電極と、第2電極層に接続された第2外部電極と、を含む。
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態に係るキャパシタの一例を模式的に示す断面図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係るキャパシタの一例を模式的に示す平面図である。
図1は、
図2に示すキャパシタのI-I線に沿った断面図である。
【0019】
本明細書中、キャパシタ(半導体装置)の長さ方向、幅方向、及び、厚み方向を、
図1及び
図2等に示すように、各々、矢印L、矢印W、及び、矢印Tで定められる方向とする。ここで、長さ方向Lと幅方向Wと厚み方向Tとは、互いに直交している。
【0020】
図1及び
図2に示すキャパシタ1は、基板10と、基板10上に設けられた絶縁膜21と、絶縁膜21上に設けられた第1電極層22と、第1電極層22上に設けられた誘電体膜23と、誘電体膜23上に設けられた第2電極層24と、誘電体膜23及び第2電極層24上に設けられた耐湿膜25と、耐湿膜25上に設けられた保護層26と、保護層26を貫通する外部電極27と、を備える。外部電極27は、第1電極層22に接続された第1外部電極27Aと、第2電極層24に接続された第2外部電極27Bと、を含む。第1外部電極27Aは保護層26、耐湿膜25及び誘電体膜23を貫通し、第2外部電極27Bは保護層26及び耐湿膜25を貫通する。
【0021】
基板10は、特に限定されないが、好ましくは、シリコン基板又はガリウム砒素基板等の半導体基板、あるいは、ガラス又はアルミナ等の絶縁性基板である。
【0022】
絶縁膜21は、基板10の一方主面の全体を覆うように設けられている。絶縁膜21は、基板10の一方主面の一部を覆うように設けられていてもよいが、第1電極層22よりも大きく、かつ、第1電極層22の全域に重なる領域に設けられる必要がある。なお、基板10がガラス又はアルミナ等の絶縁性基板である場合には、絶縁膜21は設けられていなくてもよい。
【0023】
絶縁膜21を構成する材料は、特に限定されないが、好ましくは、SiO2、SiN、Al2O3、HfO2、Ta2O5、ZrO2等が挙げられる。
【0024】
第1電極層22は、基板10の端部と離れた位置に設けられている。すなわち、第1電極層22の端部は、基板10の端部よりも内側に位置している。
【0025】
第1電極層22を構成する材料は、特に限定されないが、好ましくは、Cu、Ag、Au、Al、Ni、CrもしくはTi又はこれらの金属を少なくとも1種含む合金等が挙げられる。
【0026】
誘電体膜23は、開口を除く部分で第1電極層22を覆うように設けられている。
図1では、誘電体膜23の端部は、第1電極層22の端部から基板10の端部までの絶縁膜21の表面上にも設けられている。誘電体膜23の端部は、基板10の端部まで設けられていなくてもよい。
【0027】
誘電体膜23はシリコン窒化物からなる。具体的には、誘電体膜23に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が43atom%以上70atom%以下である。
【0028】
誘電体膜23の厚みは、特に限定されないが、所望の容量値に従って調整される。例えば、3pF以下の容量で使用される場合、誘電体膜23の厚みは、0.4μm以上であることが好ましく、0.44μm以上であることがより好ましい。一方、誘電体膜23の厚みは、5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。
【0029】
第2電極層24は、誘電体膜23を挟んで第1電極層22に対向して設けられている。
【0030】
第2電極層24を構成する材料は、特に限定されないが、好ましくは、Cu、Ag、Au、Al、Ni、CrもしくはTi又はこれらの金属を少なくとも1種含む合金等が挙げられる。
【0031】
耐湿膜25は、開口を除く部分で誘電体膜23及び第2電極層24を覆うように設けられている。耐湿膜25が設けられていることにより、キャパシタ素子、特に、誘電体膜23の耐湿性が高まる。なお、耐湿膜25は設けられていなくてもよい。
【0032】
耐湿膜25を構成する材料は、特に限定されないが、好ましくは、SiO2、SiN等の耐湿性材料が挙げられる。
【0033】
保護層26には、誘電体膜23及び耐湿膜25の開口(第1電極層22に重なる開口)に重なる位置と、耐湿膜25の開口(第2電極層24に重なる開口)に重なる位置との各々に開口が設けられている。保護層26が設けられていることにより、キャパシタ素子、特に、誘電体膜23が水分から保護される。
【0034】
保護層26を構成する材料は、特に限定されないが、好ましくは、ポリイミド樹脂、ソルダーレジスト中の樹脂等の樹脂材料が挙げられる。
【0035】
外部電極27を構成する材料は、特に限定されないが、好ましくは、Cu、Ni、Ag、Au又はAl等が挙げられる。外部電極27は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。外部電極27の最表面は、Au又はSnから構成されることが好ましい。
【0036】
第1外部電極27Aが多層構造である場合、第1外部電極27Aは、
図1に示すように、基板10側から順に、シード層28aと、第1めっき層28bと、第2めっき層28cと、を有していてもよい。
【0037】
第1外部電極27Aのシード層28aとしては、例えば、チタン(Ti)からなる導電体層と銅(Cu)からなる導電体層との積層体(Ti/Cu)等が挙げられる。
【0038】
第1外部電極27Aの第1めっき層28bの構成材料としては、例えば、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0039】
第1外部電極27Aの第2めっき層28cの構成材料としては、例えば、金(Au)、スズ(Sn)等が挙げられる。
【0040】
第2外部電極27Bが多層構造である場合、第2外部電極27Bは、
図1に示すように、基板10側から順に、シード層28aと、第1めっき層28bと、第2めっき層28cと、を有していてもよい。
【0041】
第2外部電極27Bのシード層28aとしては、例えば、チタン(Ti)からなる導電体層と銅(Cu)からなる導電体層との積層体(Ti/Cu)等が挙げられる。
【0042】
第2外部電極27Bの第1めっき層28bの構成材料としては、例えば、ニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0043】
第2外部電極27Bの第2めっき層28cの構成材料としては、例えば、金(Au)、スズ(Sn)等が挙げられる。
【0044】
第1外部電極27Aの構成材料と第2外部電極27Bの構成材料とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0045】
図1及び
図2に示すように、厚み方向Tからの平面視において第1外部電極27Aと第2外部電極27Bとの間に第1樹脂体31が設けられていてもよい。第1樹脂体31は、例えば、保護層26の表面に設けられる。
【0046】
第1樹脂体31の先端は、
図1に示すように、厚み方向Tにおいて、第1外部電極27A及び第2外部電極27Bの先端よりも高い位置にあることが好ましい。この場合、キャパシタ1を配線基板に実装する際、第1樹脂体31が第1外部電極27A及び第2外部電極27Bよりも先に配線基板側(例えば、配線基板の上面、ランド、はんだ等)に接触することになる。そのため、第1樹脂体31に荷重が加わることになり、第1外部電極27A及び第2外部電極27Bに加わる荷重が抑制される。その結果、荷重が第1外部電極27A及び第2外部電極27Bを介してキャパシタ素子に伝わることが抑制されるため、キャパシタ素子の破損、特に、誘電体膜23の破損が抑制される。
【0047】
第1樹脂体31は、ソルダーレジスト中の樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂を含むことが好ましい。第1樹脂体31は、感光性樹脂の硬化物であることが好ましい。
【0048】
第1樹脂体31は、第1外部電極27A側に設けられた第1壁部31aと、第2外部電極27B側に設けられ、第1壁部31aと離れた第2壁部31bと、を含んでもよい。
図2に示すような平面視において、第1壁部31a及び第2壁部31bは、並行して設けられていることが好ましい。
【0049】
第1壁部31aには、第1壁部31aと第2壁部31bとを離隔する空間に連通する開口が設けられていてもよい。同様に、第2壁部31bには、第1壁部31aと第2壁部31bとを離隔する空間に連通する開口が設けられていてもよい。
【0050】
図1及び
図2に示すように、厚み方向Tからの平面視において基板10の端部と第1外部電極27Aとの間、及び、基板10の端部と第2外部電極27Bとの間に第2樹脂体32が設けられていてもよい。第2樹脂体32は、例えば、保護層26の表面に設けられる。また、第2樹脂体32は、保護層26の外側に設けられてもよく、その場合、基板10上に設けられてもよい。
【0051】
図1に示すように、厚み方向Tにおいて、第2樹脂体32の先端は、第1外部電極27A及び第2外部電極27Bの先端よりも高い位置にあることが好ましい。この場合、例えば、キャパシタ1を配線基板に実装する際、第2樹脂体32で荷重をより広く分散できるため、キャパシタ素子、特に、誘電体膜23に加わる荷重が充分に抑制される。
【0052】
さらに、
図1に示すように、厚み方向Tにおいて、第2樹脂体32の先端は、第1樹脂体31の先端よりも低い位置にあることが好ましい。この場合、例えば、キャパシタ1を配線基板に実装する際、第1樹脂体31によって配線基板上で安定して保持できる。
【0053】
第2樹脂体32は、ソルダーレジスト中の樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂を含むことが好ましい。第2樹脂体32は、感光性樹脂の硬化物であることが好ましい。
【0054】
第1樹脂体31に含まれる樹脂と第2樹脂体32に含まれる樹脂とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0055】
第2樹脂体32は、
図2に示すように、厚み方向Tからの平面視において基板10の端部と第1外部電極27Aとの間で基板10の端部に沿って設けられた第1外周部32aと、基板10の端部と第2外部電極27Bとの間で基板10の端部に沿って設けられた第2外周部32bと、を有することが好ましい。
【0056】
第1壁部31aと第1外周部32aとは、連接されていることが好ましい。また、第2壁部31bと第2外周部32bとは、連接されていることが好ましい。
【0057】
本発明の半導体装置では、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が43atom%以上70atom%以下であることを特徴としている。
【0058】
図3は、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比と容量0.2pFにおけるQ値との関係を示すグラフである。
【0059】
化学量論比のシリコン窒化物であるSi
3N
4では、SiとNの総量に対するSiの原子濃度比(
図3中、Si/(Si+N)の比と記載する)が42.8atom%である。このときのQ値を100%として規格化した相対値が
図3に示されている。
【0060】
図3に示すように、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が43atom%以上であると、Q値が向上することが確認できる。一方、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が43atom%未満であると、Q値の改善効果が小さい。
【0061】
また、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が70atom%を超えると、リーク電流が増大するため、Q値が低下すると考えられる。
【0062】
誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が60atom%を超えると、誘電体膜の静電破壊電圧が小さくなるため、電子部品に求められるHBM(Human Body Model)-ESD(Electrostatic Discharge)耐圧を満たすことが困難になる。そのため、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が60atom%以下であることが好ましい。
【0063】
誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が50atom%未満であると、Q値の相対値が125%を下回るため、改善効果が小さい。そのため、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が50atom%以上であることが好ましい。
【0064】
誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比は、X線光電子分光法(XPS)により誘電体膜の構成元素を分析することによって算出することができる。
【0065】
以下に、XPSの測定条件を示す。
測定装置:アルバック・ファイ社製 Quantes
測定領域:100μmφ
測定深さ:100nm
【0066】
本発明の半導体装置では、誘電体膜に含有されるFの含有量が1019cm-3以下であることが好ましい。
【0067】
図4は、誘電体膜に含有されるFの含有量とQ値との関係を示すグラフである。
【0068】
化学量論比のシリコン窒化物(Si/(Si+N)=42.8atom%)からなる誘電体膜に含有されるFの含有量は2×10
20cm
-3である。このときのQ値を100%として規格化した相対値が
図4に示されている。
【0069】
誘電体膜に含有されるFの含有量がQ値に影響することはこれまで知られていなかった。
図4に示すように、誘電体膜に含有されるFの含有量が10
19cm
-3以下であると、Q値の向上率が10%以上となることが確認できる。
【0070】
誘電体膜に含有されるFの含有量は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定することができる。
【0071】
以下に、SIMSの測定条件を示す。
測定装置:CAMECA IMS-6f
一次イオン種:Cs+
一次加速電圧:15kV
検出領域:8μmφ
【0072】
図1に示すキャパシタ1は、例えば以下の方法で製造される。
図5A~
図5Kは、本発明の第1実施形態に係るキャパシタの製造方法の一例を説明するための断面模式図である。
【0073】
<絶縁膜の形成>
図5Aは、絶縁膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0074】
図5Aに示すように、絶縁膜21を、例えば、熱酸化法、スパッタリング法、又は、化学蒸着法により、基板10上に形成する。
【0075】
<第1電極層の形成>
図5Bは、第1電極層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0076】
第1電極層22の構成材料からなる導電体層を、例えば、スパッタリング法により、絶縁膜21の基板10とは反対側の表面上に形成する。その後、導電体層のパターニングを、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を組み合わせて行うことにより、
図5Bに示すような第1電極層22を形成する。より具体的には、第1電極層22を、基板10の端部と離れた位置までに形成する。
【0077】
<誘電体膜の形成>
図5Cは、誘電体膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0078】
誘電体膜23の構成材料からなる層を、例えば、スパッタリング法又は化学蒸着法により、第1電極層22を覆うように形成する。その後、この層のパターニングを、例えば、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を組み合わせて行うことにより、
図5Cに示すような誘電体膜23を形成する。より具体的には、第1電極層22の一部を露出させる開口が設けられるように、誘電体膜23を形成する。
【0079】
<第2電極層の形成>
図5Dは、第2電極層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0080】
第2電極層24の構成材料からなる導電体層を、例えば、スパッタリング法により、
図5Cに示した構造体の基板10とは反対側の表面上に形成する。その後、導電体層のパターニングを、例えば、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を組み合わせて行うことにより、
図5Dに示すような第2電極層24を形成する。より具体的には、誘電体膜23を挟んで第1電極層22に対向するように、第2電極層24を形成する。
【0081】
<耐湿膜の形成>
図5Eは、耐湿膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0082】
耐湿膜25の構成材料からなる層を、例えば、化学蒸着法により、
図5Dに示した構造体の基板10とは反対側の表面上に形成する。その後、この層のパターニングを、例えば、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を組み合わせて行うことにより、
図5Eに示すような耐湿膜25を形成する。より具体的には、第1電極層22の一部を露出させるための誘電体膜23の開口に重なる位置と、第2電極層24の一部を露出させる位置との各々に開口が設けられるように、耐湿膜25を形成する。
【0083】
<保護層の形成>
図5Fは、保護層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0084】
保護層26の構成材料からなる層を、例えば、スピンコート法により、
図5Eに示した構造体の基板10とは反対側の表面上に形成する。その後、この層のパターニングを、例えば、保護層26の構成材料が感光性である場合はフォトリソグラフィー法のみを用い、また、保護層26の構成材料が非感光性である場合はフォトリソグラフィー法及びエッチング法を組み合わせて行うことにより、
図5Fに示すような保護層26を形成する。より具体的には、第1電極層22の一部を露出させるための誘電体膜23及び耐湿膜25の開口に重なる位置と、第2電極層24の一部を露出させるための耐湿膜25の開口に重なる位置との各々に開口が設けられるように、保護層26を形成する。
【0085】
<外部電極の形成>
図5Gは、シード層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
図5Hは、第1めっき層及び第2めっき層を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
図5Iは、シード層の一部を除去する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0086】
図5Gに示すように、シード層28aを、
図5Fに示した構造体の基板10とは反対側の表面上に形成する。そして、めっき処理及びフォトリソグラフィー法を組み合わせることにより、
図5Hに示すような第1めっき層28b及び第2めっき層28cを順次形成する。その後、
図5Iに示すように、シード層28aの一部を、例えば、エッチング法により除去する。以上により、外部電極27として、
図5Iに示すような第1外部電極27A及び第2外部電極27Bを形成する。より具体的には、誘電体膜23、耐湿膜25、及び、保護層26に各々設けられた開口を介して、第1電極層22に接続されるように第1外部電極27Aを形成する。また、耐湿膜25及び保護層26に各々設けられた開口を介して、第2電極層24に接続されるように第2外部電極27Bを形成する。
【0087】
<第1樹脂体及び第2樹脂体の形成>
図5Jは、感光性樹脂膜を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
図5Kは、第1樹脂体及び第2樹脂体を形成する工程の一例を説明するための断面模式図である。
【0088】
図5Jに示すように、保護層26及び外部電極27を覆うように感光性樹脂膜35を形成する。そして、感光性樹脂膜35のパターニングをフォトリソグラフィー法で行うことにより、
図5Kに示すような第1樹脂体31及び第2樹脂体32を形成する。
【0089】
【0090】
以上では、1つのキャパシタ素子を製造する場合について説明したが、同一の基板10上に複数のキャパシタ素子を形成した後、ダイシング等で基板10を切断して個片化することにより、複数のキャパシタ素子を同時に製造してもよい。
【0091】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るキャパシタは、誘電体膜上に前記第2電極層と離れて設けられた第3電極層をさらに備え、外部電極は、第3電極層に接続された第1外部電極と、第2電極層に接続された第2外部電極と、を含む。
【0092】
図6は、本発明の第2実施形態に係るキャパシタの一例を模式的に示す断面図である。
【0093】
図6に示すキャパシタ2は、基板10と、基板10上に設けられた絶縁膜21と、絶縁膜21上に設けられた第1電極層22と、第1電極層22上に設けられた誘電体膜23と、誘電体膜23上に設けられた第2電極層24と、誘電体膜23上に第2電極層24と離れて設けられた第3電極層29と、誘電体膜23、第2電極層24及び第3電極層29上に設けられた耐湿膜25と、耐湿膜25上に設けられた保護層26と、保護層26を貫通する外部電極27と、を備える。外部電極27は、第2電極層24に接続された第2外部電極27Bと、第3電極層29に接続された第1外部電極27Aと、を含む。第1外部電極27Aは保護層26及び耐湿膜25を貫通し、第2外部電極27Bは保護層26及び耐湿膜25を貫通する。
【0094】
図1に示すキャパシタ1の構成では、左側にキャパシタが形成されているのに対し、
図6に示すキャパシタ2の構成では、左右にキャパシタが形成されている。
図6に示す構成では、
図1に示す構成において第1電極層22に第1外部電極27Aが接続されている部分を、第1電極層22、誘電体膜23、第3電極層29の順に設けられた構成物に置き換えているだけである。そのため、
図6に示す構成は、
図1に示す構成に対して追加の素子形成スペースを取る必要がない。したがって、同じ素子の面積のまま、低容量のキャパシタを作製することができる。このような構造は、一定以上の厚みの誘電体膜を形成できない場合に有効である。
【0095】
[その他の実施形態]
本発明の半導体装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、キャパシタ等の半導体装置の構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0096】
本発明の半導体装置は、高いQ特性を有するため、マッチング回路又はフィルタ回路のキャパシタとして好適に用いられる。本発明の半導体装置を備えるマッチング回路又はフィルタ回路も本発明の1つである。
【0097】
【0098】
例えば、
図7に示すマッチング回路のキャパシタCに本発明の半導体装置を用いることによって、回路全体の消費電力を抑制することができる。例えば、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が42.8atom%(化学量論比)である場合の消費電力を100%としたとき、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が55atom%である場合の消費電力は89%に抑制される。
【0099】
【0100】
例えば、
図8に示すフィルタ回路のキャパシタC1に本発明の半導体装置を用いることによって、回路全体の消費電力を抑制することができる。例えば、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が42.8atom%(化学量論比)である場合の消費電力を100%としたとき、誘電体膜に含有されるSiとNの総量に対するSiの原子濃度比が55atom%である場合の消費電力は95%に抑制される。
【符号の説明】
【0101】
1、2 キャパシタ(半導体装置)
10 基板
21 絶縁膜
22 第1電極層
23 誘電体膜
24 第2電極層
25 耐湿膜
26 保護層
27 外部電極
27A 第1外部電極
27B 第2外部電極
28a シード層
28b 第1めっき層
28c 第2めっき層
29 第3電極層
31 第1樹脂体
31a 第1壁部
31b 第2壁部
32 第2樹脂体
32a 第1外周部
32b 第2外周部
35 感光性樹脂膜