(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H02M3/28 E
H02M3/28 Y
(21)【出願番号】P 2023531849
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2022024790
(87)【国際公開番号】W WO2023276797
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021106257
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高辻 寛之
(72)【発明者】
【氏名】細谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】石倉 祐樹
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-158423(JP,A)
【文献】特開2006-280131(JP,A)
【文献】特開2020-191763(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147492(WO,A1)
【文献】特開2009-296756(JP,A)
【文献】特開2009-284691(JP,A)
【文献】国際公開第2021/124758(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地アースから電気的に絶縁されたフレームグランドを有する移動体に搭載されるスイッチング電源装置において、
ノイズ低減回路と、
前記フレームグランドに電気的に接続される金属筐体と、
前記フレームグランドから電気的に絶縁された直流入力電源の入力部と、
前記フレームグランドに電気的に接続された負荷への出力部と、
前記入力部から前記出力部へ電力を変換するDC-DCコンバータと、を備え、
前記DC-DCコンバータは、入力キャパシタ、スイッチング素子、及び出力平滑キャパシタを含み、
前記ノイズ低減回路は、
前記入力部と前記入力キャパシタとの間で、前記入力部の正極と負極との間に接続された第1キャパシタと、
当該第1キャパシタと前記入力キャパシタとの間で、前記入力部の正極と前記金属筐体との間、及び前記入力部の負極と前記金属筐体との間にそれぞれ接続する第2キャパシタと、
前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとの間に接続してかつ前記入力部と前記入力キャパシタとの間の電流経路に接続する第1コモンモードチョークコイルと、
前記出力平滑キャパシタと前記出力部との間の電流経路に設けるチョークコイルと、
を備え、
前記スイッチング素子のスイッチング動作により発生するノイズに対するノイズ平衡回路は、前記ノイズ低減回路と前記フレームグランドとを含むノイズ電流の閉回路によって構成される、
ことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記ノイズ平衡回路は、前記スイッチング素子のスイッチング動作により発生するコモンモードノイズを相殺してノイズ発生を抑制することを特徴とする、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記入力部に接続される電源は高電圧バッテリである、
請求項1又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記出力部に接続される負荷は低電圧バッテリである、
請求項1又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記DC-DCコンバータは、整流素子を備え、
前記整流素子はダイオードである、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記DC-DCコンバータは、整流素子を備え、
前記整流素子はスイッチング素子である、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記DC-DCコンバータは、前記入力キャパシタ、前記スイッチング素子、絶縁トランス、整流素子及び前記出力平滑キャパシタを備える、絶縁型のDC-DCコンバータである、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項8】
前記第1コモンモードチョークコイルの自己共振周波数は0.53MHz以上108MHz以下の周波数である、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項9】
前記チョークコイルの自己共振周波数は0.53MHz以上108MHz以下の周波数である、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項10】
前記チョークコイルは、前記出力平滑キャパシタと前記出力部との間の電流経路において形成される配線のインダクタンスを用いて構成される、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項11】
前記DC-DCコンバータは、整流素子を備え、
前記整流素子と前記出力平滑キャパシタとの間に接続された平滑コイルを備える、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項12】
前記第2キャパシタと前記入力キャパシタとの間に第2コモンモードチョークコイルを備え、
前記第1コモンモードチョークコイル及び前記第2コモンモードチョークコイルの一方の自己共振周波数は0.53MHz以上1.8MHz以下であり、他方の自己共振周波数は76MHz以上108MHz以下である、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項13】
前記第2キャパシタと前記第1コモンモードチョークコイルとの間に第2コモンモードチョークコイルを備え、
前記第1コモンモードチョークコイル及び前記第2コモンモードチョークコイルの一方の自己共振周波数は0.53MHz以上1.8MHz以下であり、他方の自己共振周波数は76MHz以上108MHz以下である、
請求項1
又は2に記載のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接地アースから電気的に絶縁された移動体に搭載するスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板、スイッチング回路、絶縁トランス、整流部、フィルタ部を有するスイッチング電源装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、絶縁トランスを備えたDC-DCコンバータでは、絶縁トランスの1次巻線と2次巻線との間に形成される寄生容量により、スイッチング素子がターンオンまたはターンオフした際に急峻な電圧変化が発生して、直流電圧の出力ラインなどにコモンモードのノイズ電流が流れる。このノイズ電流は、出力部に接続される低電圧バッテリなどに到達すると、この低電圧バッテリに接続されている他の電子機器に対して電磁干渉の問題を引き起こす場合がある。
【0005】
また、前記ノイズ電流は出力部の負極や正極を通して、金属筐体およびフレームグランドに流れる。また、スイッチング素子と金属筐体との間に形成される浮遊容量などにより、スイッチング素子がターンオンまたはターンオフした際に、急峻な電圧変化が発生し、金属筐体およびフレームグランドにコモンモードのノイズ電流が流れる。これらのノイズ電流は、フレームグランドとワイヤーハーネスとの間などに形成される浮遊容量を通して、入力部に接続されている高電圧バッテリなどに到達すると、この高電圧バッテリに接続されている他の電子機器に対して電磁干渉の問題を引き起こす場合がある。
【0006】
特許文献1に記載のスイッチング電源装置では、入力部側への電磁干渉対策のため、直流入力ラインにコモンモードチョークコイルが設けられ、出力部側への電磁干渉対策のために、直流出力ラインにチョークコイルとキャパシタによるフィルタ回路が設けられている。
【0007】
一方、ノイズの周波数帯においてコモンモードチョークコイルやチョークコイルのインダクタンスやインピーダンスを大きくするには、コイルの巻数を増やす必要がある。しかし、そのことによりコイルの巻線に起因する銅損による電力損失は大きくなり、電力変換効率の低下を招く。
【0008】
また、特許文献1に記載のスイッチング電源装置は移動体に搭載される電源装置ではなく、設置型の電子機器や電気機器、静止器などに用いられる。この特許文献1に記載のスイッチング電源装置を、接地アースから電気的に絶縁された移動体に搭載する場合、ノイズ電流によって発生する電磁雑音が移動体のフレームグランドから外部に放射され、移動体の移動範囲において、外部にある電子機器などへ電磁干渉の問題を引き起こす場合がある、移動体の移動範囲の拡大と共に電磁干渉問題の被害を及ぼす範囲は広くなる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、接地アースから電気的に絶縁された移動体に搭載されるスイッチング電源装置において、移動体内に搭載する他の電子機器への電磁干渉の問題を抑制し、かつ、移動体外部への電磁雑音の放射も抑制するスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一例としてのスイッチング電源装置は、
ノイズ低減回路を有し、接地アースから電気的に絶縁されたフレームグランドを有する移動体に搭載されるスイッチング電源装置において、
前記フレームグランドに電気的に接続される金属筐体と、
前記フレームグランドから電気的に絶縁された直流入力電源の入力部と、
前記フレームグランドに電気的に接続された負荷への出力部と、
前記入力部から前記出力部へ電力を変換するDC-DCコンバータと、を備え、
前記DC-DCコンバータは、入力キャパシタ、スイッチング素子、絶縁トランス、整流素子及び出力平滑キャパシタを含めて構成し、
前記ノイズ低減回路は、前記入力部と前記入力キャパシタとの間で、前記入力部の正極と負極との間に接続された第1キャパシタと、当該第1キャパシタと前記入力キャパシタとの間で、前記入力部の正極と前記金属筐体との間、及び前記入力部の負極と前記金属筐体との間にそれぞれ接続する第2キャパシタと、前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとの間に接続してかつ前記入力部と前記入力キャパシタとの間の電流経路に接続する第1コモンモードチョークコイルと、前記出力平滑キャパシタと前記出力部との間の電流経路に設けるチョークコイルを含めて構成し、
前記ノイズ低減回路と前記フレームグランドとはノイズ平衡回路を構成し、当該ノイズ平衡回路により、前記スイッチング素子のスイッチング動作により発生するコモンモードノイズを相殺してノイズ発生を抑制する(つまり、前記接地アースからみた発生ノイズをノイズ発生源において抑制する)ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノイズ低減回路とフレームグランドとでノイズ平衡回路を構成し、スイッチング素子のスイッチング動作により発生するコモンモードノイズを相殺して平衡化することにより、移動体内に搭載する他の電子機器への電磁干渉の問題を抑制し、移動体外部への電磁雑音の放射も抑制するスイッチング電源装置が得られる。さらに、発生するコモンモードノイズを相殺して平衡化することにより、発生ノイズによるジュール損失すなわち電力損失の発生が低減され、スイッチング電源装置の高効率化を図ることができ、高効率化と低ノイズ化を同時に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101及びこのスイッチング電源装置101を備える移動体301の回路図である。
【
図2】
図2は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101及びこのスイッチング電源装置101を備える移動体301の回路に流れるノイズ電流の経路を示す図である。
【
図3】
図3は第2の実施形態に係るスイッチング電源装置102及びこのスイッチング電源装置102を備える移動体302の回路図である。
【
図4】
図4は第3の実施形態に係るスイッチング電源装置103A及びこのスイッチング電源装置103Aを備える移動体303Aの回路図である。
【
図5】
図5は第3の実施形態に係る別のスイッチング電源装置103B及びこのスイッチング電源装置103Bを備える移動体303Bの回路図である。
【
図6】
図6は比較例としてのスイッチング電源装置及びこのスイッチング電源装置を備える移動体の回路に流れるノイズ電流の経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上、複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0014】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101及びこのスイッチング電源装置101を備える移動体301の回路図である。
【0015】
スイッチング電源装置101は、接地アースGから電気的に絶縁されたフレームグランド1を有する移動体301に搭載された電源装置である。このスイッチング電源装置101は、後に示すノイズ低減回路を有する。
【0016】
移動体301は、例えばHV(ハイブリッド自動車)、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)、FCV(燃料電池自動車)等の電動車両である。フレームグランドはその電動車両のシャーシである。移動体301のフレームグランド1はゴムタイヤによって接地アース(大地)Gから電気的に絶縁されている。
【0017】
スイッチング電源装置101は、フレームグランド1に導通する金属筐体2と、フレームグランド1から電気的に絶縁された入力電源PSの入力部Pin1,Pin2と、フレームグランド1に電気的に接続された負荷Loへの出力部Poutと、入力部Pin1,Pin2に入力される電力を出力部Poutへ出力する電力に変換するDC-DCコンバータと、を備える。
【0018】
上記DC-DCコンバータは、入力キャパシタCi、スイッチング素子Q1,Q2、絶縁トランスTR、ダイオードD1,D2及び出力平滑キャパシタCoを含んで構成する。
【0019】
なお、絶縁トランスTRの漏れインダクタンスは二次巻線に対してシリーズに生じるので、この漏れインダクタンスと出力平滑キャパシタCoとによって平滑回路を構成する。この平滑回路によって出力電圧のリプルが平滑化される。
【0020】
上記ノイズ低減回路は、XキャパシタCxと、YキャパシタCy1,Cy2と、第1コモンモードチョークコイルCMCC1と、チョークコイルCCとを含んで構成する。XキャパシタCxは入力部Pin1,Pin2と入力キャパシタCiとの間に接続する。YキャパシタCy1,Cy2は、XキャパシタCxと入力キャパシタCiとの間に接続してかつ金属筐体2及びフレームグランド1に電気的に接続している。第1コモンモードチョークコイルCMCC1は、XキャパシタCxとYキャパシタCy1,Cy2との間に接続して、かつ入力部Pin1,Pin2と入力キャパシタCiとの間の電流経路に接続している。チョークコイルCCは、出力平滑キャパシタCoと出力部Poutとの間の電流経路に設けられている。XキャパシタCxは本発明に係る第1キャパシタに相当し、YキャパシタCy1,Cy2は本発明に係る第2キャパシタに相当する。
【0021】
チョークコイルCCは、出力平滑キャパシタCoと出力部Poutとの間の電流経路で形成される配線のインダクタンスで構成している。そのため、部品としてのチョークコイルCCを搭載する必要がなく、スイッチング電源装置101の小型軽量化を図ることができる。もちろん、出力平滑キャパシタCoと出力部Poutとの間の電流経路に部品としてのチョークコイルCCを接続してもよい。
【0022】
そして、後述するように、上記ノイズ低減回路と金属筐体2及びフレームグランド1とによりノイズ平衡回路を構成する。ノイズ平衡回路は、後述するように、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作により発生するノイズ(コモンモードノイズ)のノイズ電流に対する閉回路である。このノイズ平衡回路により、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作によって発生するコモンモードノイズを相殺(抑制)する。
【0023】
以下、スイッチング電源装置101の動作について示す。入力電源PSは例えばリチウムイオン電池であり、例えば数百V程度(200Vから600V程度)の高電圧バッテリであり、その直流電圧が入力部Pin1,Pin2に入力される。なお、高電圧は、数百V程度に限らず、例えば、スイッチング電源装置101が搭載される移動体のモータ等のように、負荷Loの電圧では駆動できない相対的に高い電圧である。
【0024】
スイッチング素子Q1,Q2はスイッチング制御回路からの制御信号によって制御され、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2は交互にオン/オフされる。このスイッチング素子Q1,Q2によるスイッチング回路の出力電圧は絶縁トランスTRの一次巻線に印加され、スイッチング回路の出力電流は絶縁トランスTRの一次巻線に流れる。ダイオードD1,D2は絶縁トランスTRの二次巻線の出力電流を整流する。ダイオードD1,D2は本発明に係る整流素子の一例である。出力平滑キャパシタCoはダイオードD1,D2による整流電圧を平滑する。チョークコイルCCは出力平滑キャパシタCoと出力部Poutとの間に流れる電流を平滑化する。
【0025】
負荷Loは例えば鉛蓄電池であり、例えば12V程度の低電圧バッテリである。なお、低電圧は、12V程度に限らず、例えば、スイッチング電源装置101が搭載される移動体のカーナビゲーションシステム等のように、入力電源PSの電圧をそのまま用いることができない相対的に低い電圧である。
【0026】
図1に示した例では、絶縁トランスTRの出力を整流する整流素子をダイオードD1,D2で構成したが、この整流素子を、スイッチング素子Q1,Q2に同期してスイッチングされる同期整流素子で構成してもよい。このことにより、整流素子での損失を低減できる。例えば、移動体301が電動車両であり、スイッチング電源装置101が電動車両に搭載したDC-DCコンバータであるような場合に、DC-DCコンバータでの損失を低減できる。
【0027】
次に、ノイズ低減回路の作用について説明する。
図2は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101及びこのスイッチング電源装置101を備える移動体301の回路に流れるノイズ電流の経路を示す図である。また、
図6は比較例としてのスイッチング電源装置及びこのスイッチング電源装置を備える移動体の回路に流れるノイズ電流の経路を示す図である。
【0028】
図2、
図6に示すいずれの回路においても、入力電源PSには、この入力電源PSから電力供給を受ける他の電子機器201を接続している。この他の電子機器201は上記高電圧で動作する、例えばインバータやモータである。また、この例では、負荷Loは低電圧バッテリであり、この低電圧バッテリから又はスイッチング電源装置101から電力供給を受ける他の電子機器202に接続している。この他の電子機器202は上記低電圧で動作する、例えばカーナビゲーションシステムや無線通信装置である。
【0029】
他の電子機器201とフレームグランド1との間に寄生容量Cs1、スイッチング素子Q1,Q2と金属筐体2との間に寄生容量Cs2、絶縁トランスTRの一次巻線と二次巻線との間に寄生容量Cs3をそれぞれ形成している。
【0030】
上述のとおり、他の電子機器201はインバータやモータであり、絶縁体シートを介して電気的に絶縁状態且つ熱的に伝導状態でフレームグランド1を搭載している。この絶縁体シートを介在する部分に寄生容量Cs1が生じる。
【0031】
スイッチング素子Q1,Q2は、発生する熱を金属筐体2及びフレームグランド1に放熱するため絶縁体シートを介して金属筐体2に対して熱的に結合している。この絶縁体シートを介在する部分に寄生容量Cs2が生じる。
【0032】
図6に示す比較例では、ノイズ発生源であるスイッチング素子Q1,Q2からのコモンモードノイズ電流は寄生容量Cs3を経由して他の電子機器202に流れる。このことにより、他の電子機器202に電磁干渉を引き起こす。また、スイッチング素子Q1,Q2からのコモンモードノイズ電流は寄生容量Cs3,Cs1及びフレームグランド1を経由して他の電子機器201に流れる。さらに、スイッチング素子Q1,Q2からのコモンモードノイズ電流は寄生容量Cs2,Cs1及びフレームグランド1を経由して他の電子機器201に流れる。このことにより、他の電子機器201に電磁干渉を引き起こす。また、フレームグランドに流れるコモンモードノイズ電流により高周波磁界が発生し、移動体301から外部へ電磁ノイズが放射される。そのことにより、外部の移動体や外部の電子機器に電磁干渉を引き起こす。
【0033】
また、コモンモードノイズ電流の経路において、コモンモードノイズ電流が流れることによるジュール損失が生じる。したがって、この損失分による電力変換効率の低下も生じる。
【0034】
一方、本実施形態のスイッチング電源装置101及び移動体301では、
図2に示すように、出力平滑キャパシタCoと出力部Poutとの間の電流経路にチョークコイルCCが設けられている。このチョークコイルCCを経由する電流経路のインピーダンスは高い。そのため、コモンモードノイズ電流はこの電流経路を通りにくく、出力部Poutの正極に到達するノイズ電流が抑制される。このことにより、他の電子機器202に対する電磁干渉を防止する。
【0035】
チョークコイルCCの自己共振周波数は例えば0.53MHz以上108MHz以下の周波数である。したがって、コモンモードノイズ電流の上記自己共振周波数の周波数帯における電流経路のインピーダンスは特に高く、出力部Poutの正極に到達するノイズ電流を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、
図2に示すように、ノイズ発生源であるスイッチング素子Q1,Q2からのコモンモードノイズ電流は寄生容量Cs3及びフレームグランド1を経由してYキャパシタCy1,Cy2を経由して還流する。また、スイッチング素子Q1,Q2からのコモンモードノイズ電流は寄生容量Cs2及び金属筐体2を経由してYキャパシタCy1,Cy2を経由して還流する。このことにより、ノイズ電流が入力部Pin1,Pin2に到達せず、他の電子機器201に対する電磁干渉を防止することができる。
【0037】
なお、チョークコイルCCはコモンモードノイズを除去するための素子ではなく、出力平滑キャパシタCoと出力部Poutとの間の電流経路にノイズ電流を流れにくくするだけであるので、チョークコイルCCのインピーダンスは低くても効果が得られ、そのことにより、コイルの巻数を少なくでき(増やす必要がなく)、コイルの巻線に起因する銅損による電力損失も抑制できる。したがって、電力変換効率の低下を抑制できる。
【0038】
一方、コモンモードノイズ電流の総量はほとんど変化しないため、低インピーダンスの経路である出力部Poutの負極側を流れるコモンモードノイズ電流は増大する。このため、チョークコイルCCと負荷Loとの間には平滑用のキャパシタは設けないことが好ましい。平滑用のキャパシタを設けた場合、出力部Poutの正極と負極のノイズ電流が平滑化されてしまい、出力部の正極に流れるノイズ電流が増大するためである。
【0039】
XキャパシタCxとYキャパシタCy1,Cy2との間に第1コモンモードチョークコイルCMCC1が設けられているので、YキャパシタCy1,Cy2に還流されてくるコモンモードノイズ電流は第1コモンモードチョークコイルCMCC1を経由して入力部Pin1,Pin2側へ流れない。第1コモンモードチョークコイルCMCC1の自己共振周波数は例えば0.53MHz以上108MHz以下の周波数である。したがって、コモンモードノイズ電流の上記自己共振周波数の周波数帯におけるインピーダンスが高く、特にこの周波数帯のコモンモードノイズ電流は第1コモンモードチョークコイルCMCC1を経由して入力部Pin1,Pin2側へ戻らない。
【0040】
このように、チョークコイルCC、YキャパシタCy1,Cy2及び第1コモンモードチョークコイルCMCC1は、金属筐体2を流れるコモンモードノイズ電流を最短の経路で、ノイズ源であるスイッチング素子Q1,Q2へ還流させる。つまり、ノイズ低減回路と金属筐体2及びフレームグランド1とによりノイズの平衡化回路が構成され、移動体内でコモンモードノイズ電流が平衡化される。これにより、金属筐体2及びフレームグランド1に流れるコモンモードノイズ電流の経路長は非常に短くなって、移動体301から外部への電磁ノイズ放射を抑制する。つまり、コモンモードノイズ電流を移動体301内で平衡化して、外部への電磁ノイズの放射が非常に効果的に抑制する。また、コモンモードノイズ電流は上述の短い経路で還流するので、コモンモードノイズ電流が流れることによるジュール損失が充分に抑制される。したがって、DC-DCコンバータの電力変換効率の低下を抑制することもできる。
【0041】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、絶縁トランスの二次側の整流素子から出力部までの構成が第1の実施形態で示した例とは異なるスイッチング電源装置及びそのスイッチング電源装置を備える移動体について例示する。
【0042】
図3は第2の実施形態に係るスイッチング電源装置102及びこのスイッチング電源装置102を備える移動体302の回路図である。
【0043】
スイッチング電源装置102は、接地アースGから電気的に絶縁されたフレームグランド1を有する移動体302に搭載された電源装置である。
【0044】
スイッチング電源装置102は、フレームグランド1に導通する金属筐体2と、フレームグランド1から電気的に絶縁された、入力電源PSの入力部Pin1,Pin2と、フレームグランド1に電気的に接続された負荷Loへの出力部Poutと、入力部Pin1,Pin2に入力される電力を出力部Poutへ出力する電力に変換するDC-DCコンバータと、を備える。
【0045】
スイッチング電源装置102は、
図1に示したスイッチング電源装置101に比べて、ダイオードD1,D2と出力平滑キャパシタCoとの間に設けられた平滑コイルSCを備える点で異なる。この平滑コイルSCは出力平滑キャパシタCoと共に出力電圧のリプルを平滑化する。
【0046】
絶縁トランスTRの漏れインダクタンスは二次巻線に対してシリーズに生じるので、この漏れインダクタンスは平滑コイルSCに直列接続される。したがって、漏れインダクタンスが小さい場合でも、平滑コイルSCと出力平滑キャパシタCoとによって所定の平滑特性が得られる。
【0047】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、入力部とスイッチング回路との間の構成が第1の実施形態で示した例とは異なるスイッチング電源装置及びそのスイッチング電源装置を備える移動体について例示する。
【0048】
図4は第3の実施形態に係るスイッチング電源装置103A及びこのスイッチング電源装置103Aを備える移動体303Aの回路図である。
【0049】
スイッチング電源装置103Aは、接地アースGから電気的に絶縁されたフレームグランド1を有する移動体303Aに搭載された電源装置である。
【0050】
スイッチング電源装置103Aは、フレームグランド1に導通する金属筐体2と、フレームグランド1から電気的に絶縁された、入力電源PSの入力部Pin1,Pin2と、フレームグランド1に電気的に接続された負荷Loへの出力部Poutと、入力部Pin1,Pin2に入力される電力を出力部Poutへ出力する電力に変換するDC-DCコンバータと、を備える。
【0051】
スイッチング電源装置103Aは、
図1に示したスイッチング電源装置101に比べて、YキャパシタCy1,Cy2と入力キャパシタCiとの間に第2コモンモードチョークコイルCMCC2を備える点で異なる。この第2コモンモードチョークコイルCMCC2はノイズ低減回路の一部である。
【0052】
例えば、第1コモンモードチョークコイルCMCC1及び第2コモンモードチョークコイルCMCC2の一方の自己共振周波数は0.53MHz以上1.8MHz以下であり、他方の自己共振周波数は76MHz以上108MHz以下である。このような構成によれば、AMラジオ放送周波数帯(0.53MHz~1.8MHz)およびFMラジオ放送周波数帯(76MHz~108MHz)において、入力電源PSに接続されている他の電子機器201へのノイズ電流の伝搬を効果的に抑制して、他の電子機器201との電磁干渉を低減できる。
【0053】
図5は第3の実施形態に係る別のスイッチング電源装置103B及びこのスイッチング電源装置103Bを備える移動体303Bの回路図である。
【0054】
スイッチング電源装置103Bも、
図4に示したスイッチング電源装置103
Aと同様に、入力部Pin1,Pin2と入力キャパシタCiとの間で、入力部Pin1,Pin2の正極と負極との間に接続したXキャパシタCxと、XキャパシタCxと入力キャパシタCiとの間で、入力部Pin1,Pin2の正極と金属筐体2及びフレームグランド1との間、入力部Pin1,Pin2の負極と金属筐体2及びフレームグランド1との間にそれぞれ接続したYキャパシタCy1,Cy2を備える。
【0055】
図5に示すスイッチング電源装置103Bでは、YキャパシタCy1,Cy2と第1コモンモードチョークコイルCMCC1との間に第2コモンモードチョークコイルCMCC2を備える。例えば、第1コモンモードチョークコイルCMCC1及び第2コモンモードチョークコイルCMCC2の一方の自己共振周波数は0.53MHz以上1.8MHz以下であり、他方の自己共振周波数は76MHz以上108MHz以下である。このような構成でも、入力電源PSに接続されている他の電子機器201へのノイズ電流の伝搬を効果的に抑制して、他の電子機器201との電磁干渉を低減できる。
【0056】
最後に、本発明は上述した各実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【符号の説明】
【0057】
CC…チョークコイル
Ci…入力キャパシタ
CMCC1…第1コモンモードチョークコイル
CMCC2…第2コモンモードチョークコイル
Co…出力平滑キャパシタ
Cs1,Cs2,Cs3…寄生容量
Cx…Xキャパシタ(第1キャパシタ)
Cy1,Cy2…Yキャパシタ(第2キャパシタ)
D1,D2…ダイオード
G…接地アース
Lo…負荷
Pin1,Pin2…入力部
Pout…出力部
PS…入力電源
Q1,Q2…スイッチング素子
SC…平滑コイル
TR…絶縁トランス
1…フレームグランド
2…金属筐体
101,102,103A,103B…スイッチング電源装置
201,202…電子機器
301,302,303A,303B…移動体