(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダ装置を搭載した移動体
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20241001BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20241001BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/931
G01S7/03 200
(21)【出願番号】P 2023533468
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2022022476
(87)【国際公開番号】W WO2023281948
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021111708
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】柏木 克久
(72)【発明者】
【氏名】幸野 翼
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148515(JP,A)
【文献】特開2015-072224(JP,A)
【文献】特開2000-147102(JP,A)
【文献】特開2014-119353(JP,A)
【文献】特開平10-020025(JP,A)
【文献】特開平09-178849(JP,A)
【文献】特表2019-505806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
G01S 3/80 - 3/86
G01S 5/18 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形に現れたピークを検出し、複数の周波数スペクトル波形の間におけるピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定するレーダ装置であって、
前記レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に配置された反射構造物を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域の電波を反射するメタサーフェスを含
むレーダ装置。
【請求項2】
前記反射構造物のメタサーフェスは、前記送信アンテナの放射方向と同一方向を向いており、前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において、入射波の伝搬方向と反射波の伝搬方向とのメタサーフェスに平行な成分が反対向きとなる特性を有し、
前記反射構造物は、前記反射構造物のメタサーフェスを平面視したとき、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナから、前記反射構造物のメタサーフェスより遠い領域に、入射波の伝搬方向と反射波の伝搬方向とのメタサーフェスに平行な成分が、前記送信チャープの周波数帯域の少なくとも一部の周波数において同一の向きとなる特性を有する反射表面を、さらに備えた請求項
1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形に現れたピークを検出し、複数の周波数スペクトル波形の間におけるピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定するレーダ装置であって、
前記レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に配置された反射構造物を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域の電波を反射する誘電体多層膜構造を含
むレーダ装置。
【請求項4】
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形に現れたピークを検出し、複数の周波数スペクトル波形の間におけるピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定するレーダ装置であって、
前記レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に配置された反射構造物を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において周波数に依存して反射波の伝搬方向が変化する特性を有す
るレーダ装置。
【請求項5】
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形に現れたピークを検出し、複数の周波数スペクトル波形の間におけるピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定するレーダ装置であって、
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが設けられたアンテナ基板と、
前記アンテナ基板を平面視したとき前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを取り囲むように、前記アンテナ基板に配置された反射構造物と
を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において周波数が変化すると反射波の伝搬方向が変化する特性を有す
るレーダ装置。
【請求項6】
さらに、マルチパスの影響を受けて周波数スペクトル波形に発生し得るピークの位置情報を記憶する推定マルチパス記憶部を備えており、
前記信号処理部は、複数の周波数スペクトル波形の間でのピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定する際に、前記推定マルチパス記憶部に記憶されている位置情報に基づくある範囲内において、他の範囲と比べて、ばらつきを検出しやすい方向にばらつき度合いの判定閾値を変化させる請求項1乃至
5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記送信チャープは、前記複数の解析期間における周波数帯域が、少なくとも2つの解析期間の間で部分的に重なる少なくとも2つの部分チャープを含む請求項1乃至
5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記送信チャープは、マルチパス検知用と目標検知用との2種類を含み、
マルチパス検知用の前記送信チャープは、少なくとも2つの前記部分チャープを含み、
目標検知用の前記送信チャープは、前記部分チャープのそれぞれの周波数帯域幅より広い周波数帯域幅を有し、
前記信号処理部は、
前記送信チャープがマルチパス検知用であるとき、前記複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、
前記送信チャープが目標検知用であるとき、前記送信チャープに対して前記中間周波信号の1つの周波数スペクトル波形を求め、
前記複数の周波数スペクトル波形に基づいて有効な対象物に起因するピークと判定したピークについて、目標検知用の前記送信チャープに基づく前記中間周波信号から生成された周波数スペクトル波形に基づいて対象物までの距離を求める請求項
7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
車体と、
前記車体に取り付けられたレーダ装置と
を備え、
前記レーダ装置は、
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備えており、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形の間でのピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定し、
前記レーダ装置は、前記車体に取り付けられた反射構造物を、さらに含み、
前記反射構造物は、前記レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に取り付けられており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において周波数に依存して反射波の伝搬方向が変化する特性を有す
る移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置及びレーダ装置を搭載した移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダで検出された対象物が障害物であるか否かを精度よく判定する技術が下記の特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたレーダ装置においては、受信アンテナで受信された対象物からの反射波の受信強度の変化率が所定範囲内の場合に、対象物は障害物ではないと判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術によるレーダ装置は、自車両から対象物までの距離の変化に起因して反射波の受信強度が変化することを利用している。このため、自車両と対象物とがともに静止している場合、対象物が障害物であるか否かを精度よく判定することが困難である。本発明の目的は、対象物が静止している場合でも、検知すべき対象物を精度よく識別することが可能なレーダ装置を提供することである。本発明の他の目的は、このレーダ装置を搭載した移動体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によると、
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形に現れたピークを検出し、複数の周波数スペクトル波形の間におけるピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定するレーダ装置であって、
前記レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に配置された反射構造物を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域の電波を反射するメタサーフェスを含むレーダ装置が提供される。
【0006】
本発明の他の観点によると、
車体と、
前記車体に取り付けられたレーダ装置と
を備え、
前記レーダ装置は、
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備えており、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形の間でのピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定し、
前記レーダ装置は、前記車体に取り付けられた反射構造物を、さらに含み、
前記反射構造物は、前記レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に取り付けられており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において周波数に依存して反射波の伝搬方向が変化する特性を有する移動体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
マルチパスに起因して周波数スペクトル波形に、想定外の対象物からの反射に基づくピークが現れる場合がある。想定されるマルチパスの経路に、周波数に依存する特性を持つ反射構造物を配置しておくと、周波数に応じてマルチパスの経路が変化する。この場合に、複数の解析期間ごとに生成された周波数スペクトル波形に現れるマルチパスに起因するピークの位置にばらつきが生じる、このばらつきの度合いに基づいて、検知すべき対象物に起因するピークと、マルチパスに起因するピークとを区別することができる。このように、周波数スペクトル波形に現れるピークのばらつきに基づいてマルチパスの影響を低減しているため、対象物が静止している場合でも、検知すべき対象物を精度よく識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施例によるレーダ装置の概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施例によるレーダ装置及びレーダ装置を搭載した移動体の一部を示す概略断面図である。
【
図3】
図3Aは、周波数と反射位相との関係を示すグラフであり、
図3Bは、反射構造物に入射する入射波と、反射構造物からの反射波との伝搬の様子を模式的に示す図である。
【
図4】
図4Aは、シミュレーション対象の反射構造物、及び入射波の電界強度を示す図であり、
図4Bは、金属表面及びメタサーフェスを含む反射構造物に周波数f
1、f
2、f
3の電波を入射させたときの反射波の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
【
図5】
図5Aは、送信チャープ及び受信チャープの周波数の時間変化を示すグラフであり、
図5Bは、周波数スペクトル波形の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第1実施例によるレーダ装置が実行する距離算出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7Aは、第2実施例によるレーダ装置、及びレーダ装置を搭載した移動体の一部を示す概略断面図であり、
図7Bは、レーダ装置に最も近い位置に配置された反射構造物の反射特性を説明する模式図であり、
図7Cは、金属表面を持つ反射構造物の反射特性を説明する模式図であり、
図7Dは、反射構造物のメタサーフェスの反射位相、及び反射構造物の金属表面の反射位相の周波数依存性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、第3実施例によるレーダ装置の概略図である。
【
図9】
図9Aは、レーダ装置を搭載した移動体の概略図であり、
図9Bは、レーダ装置が取り付けられた箇所を拡大した概略断面図である。
【
図10】
図10は、第3実施例によるレーダ装置の信号処理部が行うステップSA7(
図6)の手順を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第3実施例によるレーダ装置の信号処理部が解析期間T1、T2、T3(
図5A)ごとに生成した周波数スペクトル波形を示すグラフである。
【
図12】
図12は、第4実施例によるレーダ装置の概略図である。
【
図13】
図13Aは、マルチパス検知用の送信チャープ、及び送信チャープから遅延した受信チャープの周波数の時間変化を示すグラフである。
図13Bは、目標検知用の送信チャープ、及び送信チャープから遅延した受信チャープの周波数の時間変化を示すグラフである。
【
図14】
図14は、第4実施例によるレーダ装置の信号処理部が生成した周波数スペクトル波形の一例を示すグラフである。
【
図15】
図15は、第6実施例によるレーダ装置が実行する距離算出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図18】
図18A及び
図18Bは、それぞれ第6実施例及びその変形例によるレーダ装置に用いられる反射構造物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施例]
図1から
図6までの図面を参照して、第1実施例によるレーダ装置について説明する。
図1は、第1実施例によるレーダ装置20の概略図である。第1実施例によるレーダ装置20は、送信信号生成部21、送信アンテナ22Tx、受信アンテナ22Rx、ミキサ24、ADコンバータ25、及び信号処理部26を備えている。送信信号生成部21は、周波数連続変調された送信チャープを生成する。送信チャープの周波数時間変化について、後に
図5Aを参照して説明する。
【0010】
送信信号生成部21で生成された送信チャープは、送信アンテナ22Txから送信される。送信アンテナ22Txから送信された送信チャープが検知対象物100で反射され、検知対象物100からの反射波が受信アンテナ22Rxで受信される。受信アンテナ22Rxで受信される反射波の周波数は、送信チャープの周波数時間変化からやや遅れをもって時間的に連続的に変化する。受信アンテナ22Rxで受信された受信信号を受信チャープという。
【0011】
ミキサ24は、送信チャープと受信チャープとを混合して中間周波信号を生成する。ADコンバータ25は、アナログの中間周波信号をデジタル信号に変換する。信号処理部26は、デジタル信号に変換された中間周波信号に対する信号処理を行う。信号処理部26は、例えばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)を含む。信号処理部26の処理については、後に
図5B及び
図6を参照して説明する。
【0012】
送信アンテナTx及び受信アンテナ22Rxがアンテナ基板に形成される。このアンテナ基板に、送信信号生成部21、ミキサ24、ADコンバータ25、及び信号処理部26等の機能を実現する回路部品が実装される。
【0013】
図2は、第1実施例によるレーダ装置20(
図1)及びレーダ装置20を搭載した移動体の一部を示す概略断面図である。
【0014】
レーダ装置20が移動体の車体50に取り付けられている。レーダ装置20は、車体50の外側を向く視野範囲40を有しており、視野範囲40内の対象物を検知することができる。レーダ装置20から視野範囲40の方向に間隔を隔てて車体の外装51が配置されている。視野範囲40の側方の外側に複数の反射構造物35が配置されている。複数の反射構造物35は、車体50及び車体の外装51の相互に対向する面に取り付けられている。
【0015】
反射構造物35は二次元の周期構造を持つメタサーフェスを含む。なお、反射構造物35を三次元の周期構造を持つメタマテリアルで実現することも可能である。本明細書において、二次元周期構造を持つメタサーフェス及び三次元の周期構造を持つメタマテリアルを合わせて「メタサーフェス」ということとする。次に、
図3Aから
図4Bまでの図面を参照して、メタサーフェスを含む反射構造物35の性質について説明する。
【0016】
図3Aは、周波数と反射位相との関係を示すグラフである。横軸は周波数を表し。縦軸は反射位相を表す。
図3Aのグラフ中の太い実線及び細い実線は、それぞれメタサーフェスにおける反射位相φms及び金属表面における反射位相φmetの一例を示している。金属表面における反射位相φmetは一定である。これに対してメタサーフェスにおける反射位相φmsは、周波数に依存して変化する。例えば、周波数がf
1、f
2、f
3の順に高くなるにしたがって、反射位相φmsが金属表面における反射位相φmetに近づく。
【0017】
図3Bは、反射構造物35に入射する入射波と、反射構造物35からの反射波との伝搬の様子を模式的に示す図である。反射構造物35はメタサーフェスを含む。
図3Bでは、一例としてマッシュルーム型のメタサーフェスを示している。メタサーフェスの種々の例については、後に
図16Aから
図17Eまでの図面を参照して説明する。メタサーフェスからの反射波は、金属表面からの反射波とは異なり、周波数によって伝搬方向が変化する。例えば、周波数がf
1、f
2、f
3の順に高くなると、反射波の伝搬方向がメタサーフェスの法線方向から金属表面における反射波の伝搬方向に近づく。
【0018】
次に、
図4A及び
図4Bを参照して、メタサーフェスからの反射波の電界強度を電磁界シミュレーションにより求めた結果について説明する。
【0019】
図4Aは、シミュレーション対象のメタサーフェス、及び入射波の電界強度を示す図である。シミュレーション対象のメタサーフェスは、六角形の金属素子が周期的に配置されたマッシュルーム型のものである。
図4Aにおいて、電界強度を灰色の濃淡で表している。電界強度が相対的に高い領域が、相対的に淡く示されている。入射波は平面波であり、メタサーフェスに対して斜めに入射する。
【0020】
図4Bは、金属表面及びメタサーフェスに周波数f
1、f
2、f
3の電波を入射させたときの反射波の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
図4Bにおいて、電界強度が相対的に高い領域が、相対的に淡く示されている。また、電波の主たる伝搬方向を白抜きの矢印で表している。
【0021】
金属表面からの反射波の伝搬方向は、周波数に依存せず一定である。これに対してメタサーフェスからの反射波の伝搬方向は、周波数に応じて変化している。
【0022】
図3Aから
図4Bまでの図面を参照して説明したように、メタサーフェスを含む反射構造物35(
図2)で反射された反射波の伝搬方向は周波数に依存して変化する。
【0023】
図2に示したレーダ装置20及び反射構造物35を含むレーダ装置において、送信アンテナ22Txから送信された電波が、車体50や車体の外装51で反射されて伝搬する。これによりマルチパスが形成される。マルチパスを経由した電波が電波反射物によって反射され、マルチパスを経由して受信アンテナ22Rx(
図1)で受信されると、電波反射物が視野範囲40(
図1)内に存在しないにもかかわらず、偽目標(ゴースト)として検知されてしまう。
【0024】
第1実施例によるレーダ装置においては、視野範囲40から外れた方向に進行する電波、またはその間接波が入射する位置に、反射構造物35が取り付けられている。メタサーフェスを含む反射構造物35による反射波の伝搬方向は、送信チャープの周波数帯域において周波数に依存して変化する。このため、送信アンテナ22Txから送信され、マルチパスを経由して電波反射物で反射され、受信アンテナ22Rxで受信される電波の経路長も周波数に依存して変化する。
【0025】
次に、
図5Aを参照して、送信信号生成部21(
図1)が生成する送信チャープ、及び受信アンテナ22Rxで受信される受信チャープの周波数の時間変化について説明する。
【0026】
図5Aは、送信チャープ及び受信チャープの周波数の時間変化を示すグラフである。横軸は経過時間を表し、縦軸は周波数を表す。
図5Aに示したグラフ中の実線は送信チャープを示し、破線は受信チャープを示す。送信チャープは複数の部分チャープ、例えば3つの部分チャープを含む。送信チャープに含まれる部分チャープの個数は、2個でもよいし、4個以上でもよい。複数の部分チャープのそれぞれは、時間の経過とともに周波数が連続的に、例えば線形に上昇する。複数の部分チャープの周波数帯域の中心周波数f
1、f
2、f
3は、相互に異なっている。また、複数の部分チャープの周波数帯域は、部分的に重なりを持つ。
【0027】
例えば、1番目の部分チャープの終了時点において周波数が不連続に低下し、2番目の部分チャープが開始される。2番目の部分チャープの終了時点において周波数が不連続に低下し、3番目の部分チャープが開始される。受信チャープは、対象物までの距離に応じて送信チャープから遅延して周波数が変化する。
【0028】
ミキサ24(
図1)は、送信チャープと受信チャープとの周波数の差に応じた中間周波信号を生成する。
【0029】
次に、
図5Bを参照して、信号処理部26の処理について説明する。信号処理部26は、ミキサ24で生成された中間周波信号に対して、距離高速フーリエ変換(Range-FFT)を行い、周波数スペクトル波形を生成する。
【0030】
図5Bは、周波数スペクトル波形の一例を示すグラフである。横軸は中間周波数を表し、縦軸はスペクトル強度を表す。信号処理部26は、送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間T1、T2、T3(
図5A)ごとに位置高速フーリエ変換を行い、中間周波信号の周波数スペクトル波形を求める。解析期間T1、T2、T3は、それぞれ1番目、2番目、及び3番目の部分チャープが送信されている期間に含まれるように設定される。
【0031】
図5Bの太い実線、細い実線、及び破線は、それぞれ解析期間T1、T2、T3の中間周波信号に基づく周波数スペクトル波形を示す。3つの中間スペクトル波形のそれぞれに、中間周波数IF1、IF2の近傍にピークが現れている。中間周波数IF1の近傍に現れたピークの位置(以下、ピーク周波数という。)は、周波数スペクトル波形の間でばらつき度合いが大きく、中間周波数IF2の近傍に現れたピークのピーク周波数は、周波数スペクトル波形の間でほとんどばらついていない。
【0032】
ピーク周波数のばらつき度合いの大きさを評価する指標として、例えば標準偏差を用いることができる。つぎに、ばらつき度合いを評価する指標の計算方法について説明する。以下、解析期間がM個の場合について説明する。各解析期間における周波数スペクトル波形の中間周波数IFnの近傍に現れたピークのピーク周波数をf
peak[i,n]と標記する。中間周波数IFnの近傍に現れたピークのピーク周波数のばらつき度合いf
STD[n]を、例えば以下の式で定義する。
【数1】
【0033】
ピーク周波数は、電波を反射させた対象物までの電波の往復の経路長に対応する。複数の周波数スペクトル波形の間でピークの位置にばらつきがあるということは、電波の往復の経路長が、周波数に応じてばらついていることを意味する。したがって、位置のばらつきが大きい中間周波数IF1近傍のピークは、マルチパスに起因するものと考えられる。これに対して位置のばらつきが小さい中間周波数IF2の近傍のピークは、直接波に起因するものと考えられる。このように、複数の周波数スペクトル波形のそれぞれに現れたピークのピーク周波数のばらつき度合いに基づいて、マルチパスに起因するピークを距離測定対象から除外することができる。
【0034】
次に、
図6を参照して、第1実施例によるレーダ装置20(
図1)が実行する距離算出方法について説明する。
図6は、第1実施例によるレーダ装置20(
図1)が実行する距離算出方法の手順を示すフローチャートである。
【0035】
まず、送信信号生成部21(
図1)が、複数の部分チャープを含む送信チャープ(
図5A)を生成し、送信アンテナ22Tx(
図1)から送信チャープを送信する(ステップSA1)。検知対象物100(
図1)で反射した反射波が受信アンテナ22Rx(
図1)で受信される。ミキサ24(
図1)が、送信チャープと受信チャープとを混合して中間周波信号を生成する(ステップSA2)。
【0036】
信号処理部26が、中間周波信号に対して解析期間T1、T2、T3(
図5A)の部分チャープごとに距離高速フーリエ変換を行い、解析期間ごとの周波数スペクトル波形(
図5B)を生成する(ステップSA3)。生成された複数の周波数スペクトル波形の各々のピークを検出する(ステップSA4)。ピークの検出には、公知の種々のアルゴリズム、例えば一定誤警報確率(CFAR)処理を適用することができる。
図5Bに示した例では、3つの周波数スペクトル波形のそれぞれにおいて、中間周波数IF1の近傍及び中間周波数IF2の近傍でピークが検出される。
【0037】
信号処理部26は、1つの周波数スペクトル波形に現れている複数のピークから、1つの判定対象のピークを選択する(ステップSA5)。さらに、他の周波数スペクトル波形から、判定対象のピークの近傍のピークを抽出し、判定対象のピーク及びその近傍のピークのピーク周波数のばらつき度合いを算出する(ステップSA6)。例えば、式(1)に示した標準偏差を算出する。判定対象のピークの近傍のピークを抽出する際には、例えば、2つのピークのピーク周波数の差が、所定の近傍判定閾値以下の場合には、「近傍」であると判定する。なお、ばらつき度合いとして、例えば複数のピークのそれぞれのピーク周波数の最高値と最低値との差を、ピーク周波数の平均値で正規化した値を採用してもよい。
【0038】
算出されたばらつき度合いが判定閾値以下のとき、信号処理部26は、判定対象のピーク、及び他の周波数スペクトル波形から抽出されたピークは、検知対象物に起因するピークと判定する(ステップSA7、SA8)。さらに、これらのピークのピーク周波数に基づいて、検知対象物までの距離を算出する(ステップSA10)。
【0039】
算出されたばらつき度合いが判定閾値より大きいとき、信号処理部26は、判定対象のピーク、及び他の周波数スペクトル波形から抽出されたピークは、マルチパスに起因するピークと判定する(ステップSA7、SA9)。判定閾値は、送信アンテナ22Tx及び受信アンテナ22Rxの接地環境に依存して、適切な値を設定するとよい。
【0040】
信号処理部26は、ステップSA9またはSA10を実行した後、すべてのピークについて判定処理を行うまで、ステップSA5からの手順を繰り返す(ステップSA11)。なお、ステップSA6において、ばらつき度合い算出の対象となったピークは、判定処理が完了したものとして扱う。
【0041】
ステップSA6において、判定対象のピークが選択された周波数スペクトル波形とは異なる周波数スペクトル波形のうち少なくとも1つから、判定対象のピークの近傍のピークが抽出できない場合は、判定対象のピークはマルチパスに起因するピークと判定すればよい。
【0042】
次に、第1実施例の優れた効果について説明する。
第1実施例では、マルチパスが発生する可能性のある経路に、メタサーフェスを含む反射構造物35(
図2)を配置しているため、周波数に応じてマルチパスの経路長が変化する。マルチパスの経路長の変化に応じて中間周波信号の周波数スペクトル波形に現れるピークのピーク周波数のばらつきを利用して、マルチパスに起因するピークを検知することができる。このため、レーダ装置20から検知対象物100(
図1)までの距離が時間経過とともに変化しない場合にも、マルチパスの影響を排除して、検知対象物100までの距離を測定することができる。
【0043】
第1実施例では、送信チャープに含まれる複数の部分チャープ(
図5A)の周波数帯域が部分的に重なっており、複数の部分チャープのそれぞれに解析期間T1、T2、T3が設定されている。このため、周波数が連続的に変化する1つの送信チャープに対して複数の解析期間T1、T2、T3を設定する場合と比べて、部分チャープのそれぞれの周波数帯域幅が広くなる。これにより、周波数スペクトル波形に現れるピークの分解能を高めることができる。これにより、検知対象物100までの距離の測定精度の低下が抑制されるという優れた効果が得られる。
【0044】
次に、第1実施例の変形例について説明する。
第1実施例では、
図2に示した車体50及び車体の外装51の両方に反射構造物35を取り付けているが、車体50及び車体の外装51のいずれか一方にのみ反射構造物35を取り付けてもよい。また、第1実施例では、レーダ装置20(
図2)を移動体に搭載した例を示しているが、第1実施例によるレーダ装置20は、移動体以外の種々の構造物に取り付けて使用することも可能である。
【0045】
第1実施例によるレーダ装置20は、送信アンテナ22Txと受信アンテナ22Rxとを一つずつ含んでいるが、送信アンテナ22Txまたは受信アンテナ22Rxを複数個備えてもよい。これにより、検知対象物までの距離、及び検知対象物が存在する方向を検出することができる。
【0046】
[第2実施例]
次に、
図7Aから
図7Dまでの図面を参照して第2実施例によるレーダ装置について説明する。以下、
図1から
図6までの図面を参照して説明した第1実施例によるレーダ装置と共通の構成については説明を省略する。
【0047】
図7Aは、第2実施例によるレーダ装置20(
図1)及びレーダ装置20を搭載した移動体の一部を示す概略断面図である。第1実施例(
図2)では、車体50及び車体の外装51に取り付けられた複数の反射構造物35の反射特性の詳細については、特に限定していない。これに対して第2実施例では、複数の反射構造物35の反射表面における反射特性がより詳細に限定される。
【0048】
車体50に、レーダ装置20の送信アンテナ22Tx及び受信アンテナ22Rxから遠ざかる方向に向かって、反射構造物35A、35B、及び35Cがこの順番に並んで配置されている。視野範囲40の中心からレーダ装置20を見たとき、例えば、反射構造物35A、35B、35Cのそれぞれは、レーダ装置20を中心とする同心円に沿った円環状の形状を有する。反射構造物35A、35Cはメタサーフェスを含み、反射構造物35Bは金属表面を含む。車体50に取り付けられた反射構造物35A、35B、35Cのメタサーフェス及び金属表面は、レーダ装置20に含まれる送信アンテナ22Tx(
図1)の放射方向と同一方向を向いている。
【0049】
図7Bは、レーダ装置20に最も近い位置に配置された反射構造物35Aの反射特性を説明する模式図である。反射構造物35Aに送信チャープ(
図5A)の周波数帯域の入射波Iが入射する。入射波Iの伝搬方向の、メタサーフェスに平行な成分(以下、接線成分という。)Itと、反射波Rの伝搬方向の接線成分Rtとが反対向きになる。言い換えると、車体50を平面視したときレーダ装置20に近づく方向に向かって、反射構造物35Aに入射する入射波は、レーダ装置20から遠ざかる方向に向かって反射する。
【0050】
図7Cは、金属表面を持つ反射構造物35Bの反射特性を説明する模式図である。反射構造物35Bにおいては、入射波Iの伝搬方向の接線成分Itと、反射波Rの伝搬方向の接線成分Rtとが同一の向きになる。言い換えると、車体50を平面視したときレーダ装置20から遠ざかる方向に向かって、反射構造物35Cに入射する入射波は、レーダ装置20から遠ざかる方向に向かって反射する。
【0051】
反射構造物35Cは、送信チャープ(
図5A)の周波数帯域内の周波数に応じて、入射波の伝搬方向の接線成分と、反射波の伝搬方向の接線成分とが、同一の向きになる場合と反対向きになる場合とがある。
【0052】
車体の外装51に、反射構造物35D、35Eが取り付けられている。車体50を平面視したとき、反射構造物35Dは反射構造物35Eよりレーダ装置20に近い位置に配置されている。反射構造物35D、35Eは、それぞれ反射構造物35B、35Cと同一の反射特性を有する。
【0053】
図7Dは、反射構造物35A、35Cのメタサーフェスの反射位相φmsa、φmsc及び反射構造物35の金属表面の反射位相φmetの周波数依存性を示すグラフである。横軸は周波数を表し、縦軸は反射位相を表す。
図7Dのグラフの最も太い実線、2番目に太い実線、及び最も細い実線は、それぞれ反射構造物35Aのメタサーフェス、反射構造物35Cのメタサーフェス、及び反射構造物35Bの金属表面における反射位相φ
msa、φ
msc、φ
metを示す。
【0054】
反射構造物35Aに含まれるメタサーフェスにおける反射位相φ
msaの変化量は、反射構造物35Cに含まれるメタサーフェスにおける反射位相φ
mscの変化量より少ない。反射構造物35Aは、送信チャープに含まれる3つの部分チャープ(
図5A)の中心周波数f
1、f
2、f
3のいずれにおいても、上記反射特性が満たされるような反射位相φ
msaを有している。反射構造物35Cは、中心周波数f
1、f
2、f
3の少なくとも1つにおいて、上記反射特性が満たされるような反射位相φ
mscを有している。反射構造物35Bの金属表面の反射位相φmetは周波数によらず一定である。
【0055】
次に、第2実施例の優れた効果について説明する。
第2実施例では、電波反射物からの反射波がマルチパスに沿って進行し、反射構造物35Aに入射すると、レーダ装置20から遠ざかる方向に反射される。また、送信チャープの直接波または間接波が反射構造物35B、35C、35D、35Eに入射すると、レーダ装置20から遠ざかる方向に反射される。このように、マルチパスに沿って伝搬する電波がレーダ装置20から遠ざかる方向に反射されるため、マルチパスの影響を低減することができる。
【0056】
[第3実施例]
次に、
図8から
図11までの図面を参照して第3実施例によるレーダ装置及び移動体について説明する。以下、
図1から
図6までを図面を参照して説明した第1実施例によるレーダ装置と共通の構成については説明を省略する。
【0057】
図8は、第3実施例によるレーダ装置20の概略図である。第3実施例によるレーダ装置20は、第1実施例によるレーダ装置20(
図1)に加えて、推定マルチパス記憶部27を備えている。推定マルチパス記憶部27には、推定されるマルチパスの経路長に対応する中間周波数帯域IFw1、IFw2、IFw3が記憶されている。なお、記憶されている中間周波数帯域の個数は3個に限定されない。送信アンテナ22Tx及び受信アンテナ22Rxが、レーダ装置20に組み込まれている。
【0058】
図9Aは、レーダ装置20を搭載した移動体105の概略図である。移動体105は、例えば四輪車両である。レーダ装置20が、移動体105の側面に取り付けられており、レーダ装置20の視野範囲40が移動体105の側方を向く。例えば、移動体105の側方に、縁石等の検知対象物100が位置しており、検知対象物100が視野範囲40内に含まれる。なお、視野範囲40が移動体105の前方または後方を向くように、複数のレーダ装置20を取り付けてもよい。
【0059】
図9Bは、レーダ装置20が取り付けられた箇所を拡大した概略断面図である。車体50と車体の外装51との間に空間が確保されており、この空間にレーダ装置20が配置されている。レーダ装置20の送信アンテナ22Tx(
図8)から送信されて検知対象物100に向かう直接波が、検知対象物100で反射されてレーダ装置20の受信アンテナ22Rx(
図8)に直接到達する。
【0060】
レーダ装置20の送信アンテナ22Txから送信された電波の一部は、車体の外装51や車体50の表面で複数回反射され、地面101に入射する。地面101で反射された反射波は、送信された電波とは逆向きの経路を通ってレーダ装置20の受信アンテナ22Rxで受信される。車体50及び車体の外装51の形状、及び地面101からレーダ装置20までの高さによって、このマルチパスの経路長を推定することができる。この推定されたマルチパスの経路長に対応する中間周波数帯域が、推定マルチパス記憶部27(
図8)に記憶されている。この中間周波数帯域は、マルチパスの影響を受けて周波数スペクトル波形に発生するピークの位置を表す位置情報として利用される。
【0061】
次に、第3実施例によるレーダ装置20の信号処理部26が実行する手順について説明する。第3実施例によるレーダ装置20の信号処理部26が実行する手順は、第1実施例における手順(
図6)と比べて、ステップSA7の処理が異なっており、他のステップの処理が同一である。
【0062】
図10は、第3実施例によるレーダ装置20の信号処理部26(
図8)が行うステップSA7の手順を示すフローチャートである。信号処理部26は、ステップSA5(
図6)で選択された判定対象のピークが、推定マルチパス記憶部27(
図8)に記憶されている推定マルチパスの経路長に対応する中間周波数帯域に含まれるか否かを判定する(ステップSA71)。判定対象のパルスが、推定マルチパスの経路長に対応する中間周波数帯域に含まれる場合は、ばらつき度合いの判定閾値を初期の値より小さくする(ステップSA72)。その後、判定閾値に基づいて、複数のピークのばらつき度合いを判定する(ステップSA73)。判定対象のパルスが、推定マルチパスの経路長に対応する中間周波数帯域に含まれない場合は、初期の判定閾値に基づいて、複数のピークのばらつき度合いを判定する(ステップSA73)。
【0063】
図11は、信号処理部26(
図8)が解析期間T1、T2、T3(
図5A)ごとに生成した周波数スペクトル波形を示すグラフであり、
図5Bに示したものと同一である。判定対象のパルスが、推定マルチパスの経路長に対応する中間周波数帯域IFw1、IFw2、IFw3のいずれかに含まれる場合は、ばらつき度合いの判定閾値を小さくする。言い換えると、より小さなばらつきでも、判定対象のピークはマルチパスに起因するものと判定される。
図11に示した例では、中間周波数IF1の近傍のピークが、推定マルチパスの経路長に対応する中間周波数帯域IFw1に含まれ、中間周波数IF2の近傍のピークは、推定マルチパスの経路長に対応するいずれの中間周波数帯域にも含まれない。
【0064】
次に、第3実施例の優れた効果について説明する。
第3実施例では、マルチパスに起因すると推定されるピークを、マルチパスに起因するものであると正しく判定されやすくなる。このため、マルチパスに起因するピークが、検知対象物100に起因するものと誤判定されることが抑制される。
【0065】
次に、第3実施例の変形例によるレーダ装置について説明する。第3実施例では、判定対象のピークが、推定マルチパス記憶部27に記憶されている中間周波数帯域に含まれない場合に、初期の判定閾値に基づいてピークのばらつき度合いを判定する。これに対して本変形例では、判定対象のピークが、推定マルチパス記憶部27に記憶されている中間周波数帯域に含まれない場合、複数のピークのばらつき度合いの判定を行うことなく、これらのピークは、検知対象物100(
図8)に起因するものであると判定する。
【0066】
本変形例においても、マルチパスに起因するピークが、検知対象物100に起因するものと誤判定されることが抑制される。さらに、判定対象のピークが、推定マルチパス記憶部27に記憶されている中間周波数帯域に含まれない場合、複数のピークのばらつき度合いの判定を行わないため、信号処理部26の負荷を軽減することができる。
【0067】
[第4実施例]
次に、
図12を参照して第4実施例によるレーダ装置について説明する。以下、
図1から
図6までを図面を参照して説明した第1実施例によるレーダ装置と共通の構成については説明を省略する。
【0068】
図12は、第4実施例によるレーダ装置20の概略図である。送信アンテナ22Tx及び受信アンテナ22Rxが、アンテナ基板31に設けられている。アンテナ基板31が車体50に取り付けられている。レーダ装置20の視野範囲40は、車体50の外側を向く。アンテナ基板31を平面視したとき、送信アンテナ22Tx及び受信アンテナ22Rxを取り囲むように、メタサーフェスを含む反射構造物35がアンテナ基板31に取り付けられている。反射構造物35は、
図7Aに示した第2実施例によるレーダ装置20に用いられている反射構造物35Aまたは35Cと同様の反射特性を有する。
【0069】
アンテナ基板31を覆うように、レドーム55が取り付けられている。送信アンテナ22Txから送信された送信チャープは、レドーム55を透過して外部に伝搬する。検知対象物100(
図1)からの反射波は、レドーム55を透過して受信アンテナ22Rxに到達する。
【0070】
次に、第4実施例の優れた効果について説明する。
送信アンテナ22Txから送信された送信チャープの一部は、レドーム55で反射されて反射構造物35に入射する。レドーム55で反射された送信チャープは、マルチパス発生の原因になる。反射構造物35が、周波数に応じて反射波の伝搬方向を変化させる反射特性を有しているため、第1実施例と同様に、マルチパスの影響を排除して、検知対象物100までの距離を算出することができる。
【0071】
[第5実施例]
次に、
図13Aから
図15までの図面を参照して第5実施例によるレーダ装置について説明する。以下、
図1から
図6までを図面を参照して説明した第1実施例によるレーダ装置と共通の構成については説明を省略する。
【0072】
第5実施例によるレーダ装置20の送信信号生成部21(
図1)は、マルチパス検知用の送信チャープと目標検知用の送信チャープとの2種類の送信チャープを生成する。
【0073】
図13Aは、マルチパス検知用の送信チャープ、及び送信チャープから遅延した受信チャープの周波数の時間変化を示すグラフである。
図13Aにおいて、送信チャープ及び受信チャープを、それぞれ実線及び破線で示す。マルチパス検知用の送信チャープは、
図5Aに示した第1実施例によるレーダ装置20の送信信号生成部21が生成する送信チャープと同等に、複数の部分チャープを含む。マルチパス検知用の送信チャープは、解析期間T1、T2、T3ごとの部分チャープを含む。解析期間T1、T2、T3に対応する部分チャープの周波数帯域幅を、それぞれBW1、BW2、BW3と標記する。
【0074】
図13Bは、目標検知用の送信チャープ、及び送信チャープから遅延した受信チャープの周波数の時間変化を示すグラフである。
図13Bにおいて、送信チャープ及び受信チャープを、それぞれ実線及び破線で示す。目標検知用の送信チャープは、解析期間Ttの間に、周波数が連続的に、かつ線形に上昇する。解析期間Ttの間の送信チャープの周波数帯域幅をBWtと標記する。
【0075】
目標検知用の送信チャープの周波数帯域幅BWtは、マルチパス検知用の送信チャープに含まれる部分チャープのそれぞれの周波数帯域幅BW1、BW2、BW3のいずれよりも広い。また、目標検知用の送信チャープの周波数帯域の中心周波数f4は、マルチパス検知用の送信チャープの2番目の部分チャープの周波数帯域の中心周波数f2と等しい。なお、必ずしも両者を等しくする必要はない。
【0076】
信号処理部26(
図1)は、マルチパス検知用の送信チャープに含まれる部分チャープごとに、距離高速フーリエ変換を行うとともに、目標検知用の送信チャープについても距離高速フーリエ変換を行う。これにより、マルチパス検知用の送信チャープに基づいて、部分チャープの個数と同一の個数の周波数スペクトル波形が生成されるとともに、目標検知用の送信チャープに基づいて1つの周波数スペクトル波形が生成される。
【0077】
図14は、信号処理部26が生成した周波数スペクトル波形の一例を示すグラフである。
図14に示した3本の破線は、マルチパス検知用の送信チャープに含まれる部分チャープごとに生成された周波数スペクトル波形を示す。これらの波形は、第1実施例の
図5Bに示した3つの周波数スペクトル波形と同一である。
図14に示した1本の実線は、目標検知用の送信チャープに基づいて生成された周波数スペクトル波形を示す。
【0078】
いずれの周波数スペクトル波形においても、中間周波数IF1、IF2の近傍にピークが現れている。マルチパス検知用の送信チャープに含まれる部分チャープごとに生成された周波数スペクトル波形の周波数帯域幅BWt(
図13B)が、マルチパス検知用の送信チャープに含まれる部分チャープの周波数帯域幅BW1、BW2、BW3のいずれよりも広いため、目標検知用の送信チャープに基づく周波数スペクトル波形のピークの分解能が、マルチパス検知用の送信チャープに含まれる部分チャープごとの周波数スペクトル波形のピークの分解能より高い。
【0079】
図15は、第6実施例によるレーダ装置20(
図1)が実行する距離算出方法の手順を示すフローチャートである。
【0080】
まず、送信信号生成部21(
図1)が、マルチパス検知用の送信チャープを生成し、送信アンテナ22Txから送信チャープを送信する(ステップSA1a)。ミキサ24(
図1)が、マルチパス検知用の送信チャープと受信チャープとを混合して、中間周波信号を生成する(ステップSA2a)。送信信号生成部21(
図1)が、目標検知用の送信チャープを生成し、送信アンテナ22Txから送信チャープを送信する(ステップSA1b)。ミキサ24(
図1)が、目標検知用の送信チャープと受信チャープとを混合して、中間周波信号を生成する(ステップSA2b)。
【0081】
その後、信号処理部26(
図1)が、マルチパス検知用の送信チャープに含まれる部分チャープごと、及び目標検知用の送信チャープについて距離高速フーリエ変換を行い、複数の周波数スペクトル波形(
図14)を生成する(ステップSA3a)。マルチパス検知用の送信チャープに基づく周波数スペクトル波形、及び目標検知用の送信チャープに基づく周波数スペクトル波形の各々のピークを検出する(ステップSA4a)。
【0082】
マルチパス検知用の送信チャープに基づく1つの周波数スペクトル波形から判定対象のピークを選択する(ステップSA5a)。マルチパス検知用の送信チャープに基づく他の周波数スペクトル波形から、判定対象のピークの近傍のピークを抽出し、複数のピーク位置のばらつき度合いを算出する(ステップSA6a)。
【0083】
その後のステップSA7、SA8、SA9は、
図6に示した第1実施例のフローチャートのステップSA7、SA8、SA9と同一である。ステップSA8において、検知対象物100(
図1)に起因するピークと判定された場合、目標検知用の送信チャープに基づく周波数スペクトル波形から、判定対象のピークの近傍のピークを抽出し、抽出したピークに基づいて、検知対象物100(
図1)までの距離を算出する(ステップSA10a)。
【0084】
マルチパス検知用の送信チャープに基づく周波数スペクトル波形に現れているすべてのピークについて、判定処理が終了するまで、ステップSA5a以降の手順を繰り返す(ステップSA11)。
【0085】
次に、第5実施例の優れた効果について説明する。
第5実施例においても第1実施例と同様に、レーダ装置20から検知対象物100(
図1)までの距離が時間経過とともに変化しない場合にも、マルチパスの影響を排除して、検知対象物100までの距離を測定することができる。さらに、周波数帯域幅BWtが広い目標検知用の送信チャープ(
図13B)に基づいて検知対象物100までの距離を算出するため、第1実施例と比べて距離分解能を高めることができる。
【0086】
[メタサーフェスの具体例]
次に、
図16Aから
図17Eまでの図面を参照して、メタサーフェスの具体例について説明する。
【0087】
図16A、
図16B、
図16Cは、それぞれ一具体例によるメタサーフェス60の一部分を示す斜視図、断面図、及び平面図である。
図16Cにおいて、金属部分にハッチングを付している。メタサーフェス60は、周波数選択板61(FSS)、グランド板62、誘電体層63、及び複数のビア64を含む。誘電体層63の一方の表面に周波数選択板61が配置され、他方の表面にグランド板62が配置されている。周波数選択板61は、二次元的に周期的に配置された方形の複数の金属素子61Aで構成される。複数の金属素子61Aの各々の寸法は、送信チャープの波長に比べて小さい。金属素子61Aの各々は、ビア64を介してグランド板に接続されている。このようなメタサーフェスは、マッシュルーム型と呼ばれる。
【0088】
図17Aから
図17Eまでの図面は、他の具体例によるメタサーフェスの一部の平面図である。
図17Aから
図17Eまでの図面において、金属部分にハッチングを付している。
図17Aに示した具体例では、金属素子61Aが円形である。
図17Bに示した具体例では、金属素子61Aが六角形である。
【0089】
図17C、
図1D、
図17Eに示したメタサーフェスは、周波数選択板の金属素子61Aとグランド板62とがビアによって接続されていない。このようなメタサーフェスは、FSS型と呼ばれる。
図17C、
図17D、
図17Eの何れにおいても、金属素子61Aによって二次元的な周期パターンが形成されている。
【0090】
上述の第1実施例から第5実施例までのレーダ装置20(
図1)の反射構造物35に含まれるメタサーフェスとして、
図16Aから
図17Eまでの何れの図面に示されたメタサーフェスを用いてもよい。
【0091】
[第6実施例]
次に、
図18Aを参照して第6実施例によるレーダ装置について説明する。以下、
図1から
図6までを図面を参照して説明した第1実施例によるレーダ装置と共通の構成については説明を省略する。
【0092】
図18Aは、第6実施例によるレーダ装置20に用いられる反射構造物35の断面図である。第1実施例によるレーダ装置20の反射構造物35(
図2)はメタサーフェスを含んでいる。これに対して第6実施例によるレーダ装置20の反射構造物35は、誘電体多層膜構造を有する。グランド板70の上に、誘電率の異なる誘電体層71、72が順番に積層されている。誘電体層71、72の比誘電率を、それぞれε
r1、ε
r1と標記する。誘電体層71、72の厚さを、それぞれd
1、d
2と標記する。
【0093】
反射構造物35に入射した電波は、誘電体層72の表面、誘電体層72と71との界面、及び誘電体層71とグランド板70との界面で反射する。これらの反射波の合成波の伝搬方向は、誘電体層71、72の比誘電率εr1、εr2、及び厚さd1、d2によって変化し、反射波の伝搬方向が周波数に依存して変化する。
【0094】
次に、第6実施例の優れた効果について説明する。
第6実施例のように、反射構造物35として誘電体多層膜構造を有するものを用いても、反射波の伝搬方向を周波数に応じて異ならせることができる。このため、第6実施例においても第1実施例と同様に、レーダ装置20から検知対象物100(
図1)までの距離が時間経過とともに変化しない場合にも、マルチパスの影響を排除して、検知対象物100までの距離を測定することができる。
【0095】
次に、
図18Bを参照して第6実施例の変形例によるレーダ装置について説明する。
図18Bは、第6実施例の変形例によるレーダ装置20に用いられる反射構造物35の断面図である。本変形例では、グランド板70の上に、3層の誘電体層71、72、73が順番に積層されている。最上層の誘電体層73の比誘電率ε
r3は、2層目の誘電体層72の比誘電率ε
r2と異なっている。最上層の誘電体層73の厚さをd
3と標記する。
【0096】
本変形例のように、誘電体多層膜構造に3層の誘電体層71、72、73を含めてもよい。さらに、誘電体多層膜構造に、4層以上の誘電体層を含めてもよい。
【0097】
本明細書に記載した上記実施例に基づき、以下の発明を開示する。
<1>
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備え、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形に現れたピークを検出し、複数の周波数スペクトル波形の間におけるピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定するレーダ装置。
【0098】
<2>
レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に配置された反射構造物を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域の電波を反射するメタサーフェスを含む<1>に記載のレーダ装置。
【0099】
<3>
前記反射構造物のメタサーフェスは、前記送信アンテナの放射方向と同一方向を向いており、前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において、入射波の伝搬方向と反射波の伝搬方向とのメタサーフェスに平行な成分が反対向きとなる特性を有し、
前記反射構造物は、前記反射構造物のメタサーフェスを平面視したとき、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナから、前記反射構造物のメタサーフェスより遠い領域に、入射波の伝搬方向と反射波の伝搬方向とのメタサーフェスに平行な成分が、前記送信チャープの周波数帯域の少なくとも一部の周波数において同一の向きとなる特性を有する反射表面を、さらに備えた<2>に記載のレーダ装置。
【0100】
<4>
レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に配置された反射構造物を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域の電波を反射する誘電体多層膜構造を含む<1>に記載のレーダ装置。
【0101】
<5>
レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に配置された反射構造物を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において周波数に依存して反射波の伝搬方向が変化する特性を有する<1>に記載のレーダ装置。
【0102】
<6>
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが設けられたアンテナ基板と、
前記アンテナ基板を平面視したとき前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを取り囲むように、前記アンテナ基板に配置された反射構造物と
を、さらに備えており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において周波数が変化すると反射波の伝搬方向が変化する特性を有する<1>に記載のレーダ装置。
【0103】
<7>
さらに、マルチパスの影響を受けて周波数スペクトル波形に発生し得るピークの位置情報を記憶する推定マルチパス記憶部を備えており、
前記信号処理部は、複数の周波数スペクトル波形の間でのピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定する際に、前記推定マルチパス記憶部に記憶されている位置情報に基づくある範囲内において、他の範囲と比べて、ばらつきを検出しやすい方向にばらつき度合いの判定閾値を変化させる<1>乃至<6>のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【0104】
<8>
前記送信チャープは、前記複数の解析期間における周波数帯域が、少なくとも2つの解析期間の間で部分的に重なる少なくとも2つの部分チャープを含む<1>乃至<7>のいずれか1つに記載のレーダ装置。
【0105】
<9>
前記送信チャープは、マルチパス検知用と目標検知用との2種類を含み、
マルチパス検知用の前記送信チャープは、少なくとも2つの前記部分チャープを含み、
目標検知用の前記送信チャープは、前記部分チャープのそれぞれの周波数帯域幅より広い周波数帯域幅を有し、
前記信号処理部は、
前記送信チャープがマルチパス検知用であるとき、前記複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、
前記送信チャープが目標検知用であるとき、前記送信チャープに対して前記中間周波信号の1つの周波数スペクトル波形を求め、
前記複数の周波数スペクトル波形に基づいて有効な対象物に起因するピークと判定したピークについて、目標検知用の前記送信チャープに基づく前記中間周波信号から生成された周波数スペクトル波形に基づいて対象物までの距離を求める<8>に記載のレーダ装置。
【0106】
<10>
車体と、
前記車体に取り付けられたレーダ装置と
を備え、
前記レーダ装置は、
送信チャープを生成する送信信号生成部と、
前記送信チャープを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナから送信された前記送信チャープの、検知対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
前記送信チャープと、前記受信アンテナで受信された受信チャープとを混合して中間周波信号を生成するミキサと、
前記中間周波信号に対する処理を行う信号処理部と
を備えており、
前記信号処理部は、
前記送信チャープの周波数帯域が異なる複数の解析期間ごとに、前記中間周波信号の周波数スペクトル波形を求め、複数の周波数スペクトル波形の間でのピークの位置のばらつきに基づいて、有効な対象物に起因するピークか否かを判定する移動体。
【0107】
<11>
前記レーダ装置は、前記車体に取り付けられた反射構造物を、さらに含み、
前記反射構造物は、前記レーダ装置の視野範囲の外側であって、前記送信アンテナから送信された電波が入射する位置に取り付けられており、
前記反射構造物は、前記送信チャープの周波数帯域において周波数に依存して反射波の伝搬方向が変化する特性を有する<10>に記載の移動体。
【0108】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0109】
20 レーダ装置
21 送信信号生成部
22Tx 送信アンテナ
22Rx 受信アンテナ
24 ミキサ
25 ADコンバータ
26 信号処理部
27 推定マルチパス記憶部
31 アンテナ基板
35、35A、35B、35C、35D、35E 反射構造物
40 視野範囲(FOV)
50 車体
51 車体の外装
55 レドーム
60 メタサーフェス
61 周波数選択板
61A 金属素子
62 グランド板
63 誘電体層
64 ビア
70 グランド板
71、72、73 誘電体層
100 検知対象物
101 地面
105 移動体