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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】繊維マットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 25/04 20060101AFI20241001BHJP
   D04H 1/732 20120101ALI20241001BHJP
   D21H 13/24 20060101ALI20241001BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
D21H25/04
D04H1/732
D21H13/24
D21H15/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023538267
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014614
(87)【国際公開番号】W WO2023007847
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2021121191
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 光
(72)【発明者】
【氏名】山崎 孝介
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/060255(WO,A1)
【文献】特開昭60-239600(JP,A)
【文献】特開昭53-111120(JP,A)
【文献】特開昭63-035816(JP,A)
【文献】特開2006-089872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 25/04
D04H 1/732
D21H 13/24
D21H 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性を有する微細繊維を分散媒に分散させる工程と、
分散された前記微細繊維を支持体上にマット化する工程とを備え、
前記マット化する工程は、前記支持体上に前記微細繊維を抄き上げて繊維マットを形成する工程と、前記支持体が位置する側とは反対側に位置する前記繊維マットの第1主面に光照射する工程とを含み、
前記繊維マットの前記第1主面に光照射する工程において、前記第1主面側に位置する前記微細繊維を融着させる、繊維マットの製造方法。
【請求項2】
前記微細繊維として、前記支持体よりも融点が高いものを用いる、請求項1に記載の繊維マットの製造方法。
【請求項3】
前記光照射する工程において、パルス光を照射する、請求項1または2に記載の繊維マットの製造方法。
【請求項4】
前記マット化する工程は、前記第1主面に光照射された前記繊維マットを前記支持体から剥離して、前記第1主面が位置する側とは反対側に位置する前記繊維マットの第2主面に光照射する工程をさらに含み、
前記繊維マットの前記第2主面に光照射する工程において、前記第2主面側に位置する前記微細繊維を融着させる、請求項1から3のいずれか1項に記載の繊維マットの製造方法。
【請求項5】
前記微細繊維として、液晶ポリマーパウダーを用いる、請求項1から4のいずれか1項に記載の繊維マットの製造方法。
【請求項6】
前記液晶ポリマーパウダーとして、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上500倍以下の短繊維状の粒子であって、平均径が2μm以下である繊維部を含むものを用いる、請求項5に記載の繊維マットの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の繊維シート(繊維マット)の製造方法として、特開2013-076196号公報(特許文献1)には、抄紙法を用いて繊維シートを作製する方法が開示されている。具体的には、繊維が分散された繊維懸濁液を抄紙ワイヤー上に供給して、抄紙ワイヤー上に繊維を堆積させることにより、繊維シートを抄紙ワイヤー上に形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-076196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、不織布等の繊維シートは、濾過フィルター、吸着材、あるいは、断熱材等に加え、エポキシ樹脂を含有させてプリント配線基板材料としても用いられており、その用途は多岐にわたっている。
【0005】
繊維シートを構成する繊維が微細である程、繊維シートは薄く、厚みばらつきも抑制することができる。また、繊維シートにおいてはフィルター性能を向上させることが要求されており、比表面積を増加させたり、孔径を小さくして細かなものを捕集したりするために、微細な繊維を用いて繊維シートを製造することが期待されている。
【0006】
繊維をシート化(マット化)する技術としては、コーター法や抄紙法が主流であるが、繊維が細くなり比表面積が増えるほど繊維が濡れるのに必要な溶媒の量が増加する。このため、抄紙法のような溶媒回収型の手法がコスト的に有利になる。
【0007】
抄紙法を用いて、パルプのような水素結合を有する繊維を抄き上げた場合には、抄紙後に脱水、乾燥することで、形成された繊維マット内の繊維同士が、水素結合により強度を持つ。
【0008】
しかしながら、水素結合を有さない化学繊維の場合、繊維同士の絡み合いによる結合しかなく、特に微細繊維のような繊維長が短いものであればハンドリングするのに十分な強度を得るのは難しい。そのため、バインダーとなる物質を混合して、繊維マットに強度を持たせる方法が考えられるが、この場合には、繊維マットの電気特性が悪くなったり、耐熱性が悪くなったりして、繊維マットとしての性能が劣化してしまう。
【0009】
その他の方法としては、カレンダーで加熱加圧して繊維同士を圧着させ強度を持たせる技術が広く用いられている。しかしながら、カレンダーで熱圧着する際には、メッシュあるいは抄紙ワイヤーなどから繊維マットを剥離する必要がある。微細で特に超短繊維を用いる場合には、繊維マットが、剥離に耐えられるほどの強度を有していない。
【0010】
剥離を行わずにカレンダー処理を行うと、繊維マットとメッシュもしくは抄紙ワイヤーと一体化してしまい剥離不能となる。また、抄紙する繊維よりもメッシュまたは抄紙ワイヤーに高融点の材料を用いる必要があり、液晶ポリマー(LCP)のような高融点樹脂の微細繊維を用いた場合は、それに対応できる安価な材料は存在しない。
【0011】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、微細繊維を含み、高い強度を有する繊維マットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に基づく繊維マットの製造方法は、熱可塑性を有する微細繊維を分散媒に分散させる工程と、分散された上記微細繊維を支持体上にマット化する工程とを備える。上記マット化する工程は、上記支持体上に上記微細繊維を抄き上げて繊維マットを形成する工程と、上記支持体が位置する側とは反対側に位置する上記繊維マットの第1主面に光照射する工程とを含む。上記繊維マットの上記第1主面に光照射する工程において、上記第1主面側に位置する上記微細繊維を融着させる。
【0013】
上記本開示に基づく繊維マットの製造方法にあっては、上記微細繊維として、上記支持体よりも融点が高いものを用いてもよい。
【0014】
上記本開示に基づく繊維マットの製造方法にあっては、上記光照射する工程において、パルス光を照射することが好ましい。
【0015】
上記本開示に基づく繊維マットの製造方法にあっては、上記マット化する工程は、上記第1主面に光照射された上記繊維マットを上記支持体から剥離して、上記第1主面が位置する側とは反対側に位置する上記繊維マットの第2主面に光照射する工程をさらに含んでいてもよい。この場合には、上記繊維マットの上記第2主面に光照射する工程において、上記第2主面側に位置する上記微細繊維を融着させることが好ましい。
【0016】
上記本開示に基づく繊維マットの製造方法にあっては、上記微細繊維として、液晶ポリマーパウダーを用いてもよい。
【0017】
上記本開示に基づく繊維マットの製造方法にあっては、上記液晶ポリマーパウダーとして、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上500倍以下の短繊維状の粒子であって、平均径が2μm以下である繊維部を含むものを用いることが好ましい。
【0018】
本開示に基づく繊維マットは、熱可塑性を有する微細繊維で構成され、厚み方向の一方側に第1主面を有する。上記繊維マットにあっては、上記第1主面側において、上記微細繊維が融着されている。
【0019】
上記本開示に基づく繊維マットにあっては、破断強度が、45cN/20mm以上であることが好ましい。
【0020】
上記本開示に基づく繊維マットにあっては、上記微細繊維は、液晶ポリマーパウダーであってもよい。
【0021】
上記本開示に基づく繊維マットにあっては、上記液晶ポリマーパウダーは、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上500倍以下の短繊維状の粒子であって、平均径が2μm以下である繊維部を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、微細繊維を含み、高い強度を有する繊維マットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態に係る繊維マットの第1主面を拡大して示す走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施の形態に係る繊維マットの厚み方向における断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施の形態に係る繊維マットの製造工程を示すフロー図である。
図4】繊維マットの製造工程において、液晶ポリマーパウダーをマット化するマット化工程を示す図である。
図5】繊維マットの第2面に光照射を行なう工程を示す図である。
図6】実施例1、実施例2、および比較例における評価条件および評価結果を示す図である。
図7】実施例3および実施例4における評価条件および評価結果を示す図である。
図8】実施例1から4における破断強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0025】
<繊維マット>
本実施の形態に係る繊維マット30は、熱可塑性を有する微細繊維に構成されており、具体的には、液晶ポリマーが微粉砕されて繊維化された液晶ポリマーパウダーで構成される。液晶ポリマーパウダーに用いられる液晶ポリマーは、たとえば、サーモトロピック液晶ポリマーである。また、液晶ポリマーの分子は、分子軸の軸方向に負の熱膨張係数を有しており、分子軸の径方向に正の熱膨張係数を有している。本実施形態に係る液晶ポリマーはアミド結合を有していない。
【0026】
本実施の形態に係る繊維マット30は、板状形状を有し、厚み方向に互いに相対する第1主面31(図4参照)および第2主面32(図4参照)を有する。
【0027】
図1に示すように、実施の形態に係る繊維マットの第1主面を拡大して示す走査型電子顕微鏡写真である。図2は、実施の形態に係る繊維マットの厚み方向における断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。なお、図2においては、破線で囲まれた領域が、第1主面側に位置する繊維マット30の第1表層部R1である。
【0028】
図1、および図2の破線で囲まれた領域に示されるように、実施の形態に係る繊維マット30にあっては、第1主面31側において、液晶ポリマーパウダーが融着している。すなわち、第1主面31側に位置する繊維マット30の第1表層部R1において、液晶ポリマーパウダーが融着している。一方で、第1主面31側よりも厚み方向の中央側に位置する中間層部R2では、液晶ポリマーパウダーは融着していない。これにより、繊維マット30にあっては、厚み方向において第1主面31側から中央部にかけて密度勾配を有する。具体的には、厚み方向において第1主面31側の密度が、中央部側の密度よりも大きくなっている。
【0029】
なお、後述するように、第2主面32側に位置する液晶ポリマーパウダーも融着していてもよい。すなわち、第2主面32側に位置する繊維マット30の第2表層部においても、液晶ポリマーパウダーが融着していてもよい。
【0030】
上記のように、厚み方向に密度勾配を有するように、少なくとも第1主面31側において液晶ポリマーパウダーが融着していることにより、繊維マット30の強度を向上させることができる。第1主面31側および第2主面32側の双方において液晶ポリマーパウダーを融着させた場合には、さらに繊維マット30の強度を向上させることができる。
【0031】
繊維マット30の破断強度は、45cN/20mm以上であることが好ましく、50cN/20mm以上であることがより好ましい。さらには、繊維マット30の破断強度は、115cN/20mm以上であってもよいし、350cN/20mm以上であってもよい。
【0032】
繊維マット30の破断強度は、オートグラフ(島津製作所製AG-XDplus)を用いて測定することができる。この場合において、測定時における繊維マット30の幅は、20mmとする。
【0033】
繊維マット30の全体的な坪量は、略30~40g/mある。繊維マット30の全体的な密度は、たとえば、0.30~0.60g/であり、厚さ方向における液晶ポリマーパウダーの融着領域が大きくなるにつれて、密度が増加する。
【0034】
繊維マット30の厚さは、略50~100μmであり、厚さ方向における液晶ポリマーパウダーの融着領域が大きくなるにつれて、厚さは減少する。
【0035】
<フィルム>
上記繊維マット30は、プレス加工されることでフィルム(より特定的には液晶ポリマーフィルム)として用いられる。当該液晶ポリマーフィルムは、少なくとも一方の面に銅箔等の金属箔が接合されていてもよく、両面に上記金属箔が接合されていてもよい。この場合には、本実施形態に係る液晶ポリマーフィルムは、一つのラミネート状の成形体として、たとえばサブトラクト法による回路形成が可能なFCCL(Flexible Copper Clad Laminates)として使用できる。
【0036】
<繊維マットの製造方法>
図3は、繊維マットの製造工程を示すフロー図である。図3を参照して、本実施の形態に係る繊維マットの製造方法について説明する。
【0037】
図3に示すように、本実施の形態に係る繊維マットの製造方法は、前工程(S10)として、粗粉砕工程(S11)と、微粉砕工程(S12)と、粗粒除去工程(S13)と、繊維化工程(S14)とを、この順で備え、さらに、前工程(S10)後の後工程(S20)として、分散工程(S21)と、マット化工程(S22)と、を含む。
【0038】
<前工程>
前工程(S10)の最初の工程である粗粉砕工程(S12)においては、まず、原料として、液晶ポリマーの成形物を準備する。液晶ポリマーの成形物としては、一軸配向したペレット状、二軸配向したフィルム状、または、粉体状の液晶ポリマーが挙げられる。液晶ポリマーの成形物としては、製造コストの観点から、フィルム状の液晶ポリマーと比較して廉価なペレット状または粉体状の液晶ポリマーが好ましく、ペレット状の液晶ポリマーがより好ましい。本実施形態において、液晶ポリマーの成形物には、電解紡糸法またはメルトブロー法などにより直接繊維状に成形された液晶ポリマーは含まれないことが好ましい。ただし、液晶ポリマーの成形物には、ペレット状の液晶ポリマーまたは粉体状の液晶ポリマーを破砕することにより繊維状に加工された液晶ポリマーが含まれていてもよい。
【0039】
次に、液晶ポリマーの成形物を粗粉砕することで、粗粉砕液晶ポリマーを得る。たとえば、液晶ポリマーの成形物を、カッターミル装置で粗粉砕することにより、粗粉砕液晶ポリマーを得る。粗粉砕液晶ポリマーの粒子の大きさは、後述する微粉砕工程の原料として用いることができる限り、特に限定されない。粗粉砕液晶ポリマーの最大粒径は、たとえば3mm以下である。
【0040】
本実施形態における液晶ポリマーフィルムの製造方法は、粗粉砕工程(S11)を必ずしも備えていなくてもよい。たとえば、液晶ポリマーの成形物が微粉砕工程の原料として用いることができるものであれば、液晶ポリマーの成形物を直接微粉砕工程の原料として使用してもよい。
【0041】
続いて、微粉砕工程(S12)においては、液晶ポリマーとして、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素に分散させた状態で粉砕して、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得る。微粉砕工程(S12)においては、メディアを用いて、液体窒素に分散している粗粉砕液晶ポリマーを粉砕する。メディアは、たとえばビーズである。微粉砕工程(S12)においては、液体窒素を取り扱うという観点から、比較的技術的な問題が少ないビーズミルを用いることが好ましい。微粉砕工程(S12)に用いることができる装置としては、たとえば、アイメックス社製の液体窒素ビーズミルである「LNM-08」が挙げられる。
【0042】
本実施形態の微粉砕工程(S12)において、液体窒素に液晶ポリマーを分散させた状態で粉砕する粉砕方法は、従来の凍結粉砕法とは異なる。従来の凍結粉砕法は、被粉砕原料および粉砕装置本体に液体窒素を注ぎかけながら、被粉砕原料を粉砕する方法であるが、被粉砕原料が粉砕される時点において液体窒素の大部分は気化している。すなわち、従来の凍結粉砕法では、被粉砕原料が粉砕される時点において被粉砕原料の大部分は液体窒素に分散していない。
【0043】
従来の凍結粉砕法においては、被粉砕原料自体が有する熱、粉砕装置から発生する熱、および、被粉砕原料の粉砕により発生する熱が、液体窒素をきわめて短時間に気化させる。このため、従来の凍結粉砕法においては、粉砕装置の内部に位置する粉砕中の原料は、液体窒素の沸点である-196℃よりはるかに高い温度となっている。すなわち、従来の凍結粉砕法においては、粉砕装置の内部の温度が通常-100℃以上0℃以下程度の条件下で粉砕を実施している。従来の凍結粉砕法において、可能な限り液体窒素を供給した場合においても、粉砕装置の内部の温度は、最も低い場合でおよそ-150℃である。
【0044】
このため、従来の凍結粉砕法において、たとえば、一軸配向したペレット状の液晶ポリマーまたはペレット状の液晶ポリマーの粗粉砕物を粉砕した場合には、液晶ポリマーの分子軸の軸方向に略平行な面に沿って粉砕が進行するため、アスペクト比が非常に大きく、かつ、繊維径が3μmよりはるかに大きい繊維状の液晶ポリマーが得られる。すなわち、従来の凍結粉砕において、一軸配向したペレット状の液晶ポリマーまたはペレット状の液晶ポリマーの粗粉砕物を粉砕しても、本実施形態で用いられるような粒状の微粉砕液晶ポリマーを得ることができない。
【0045】
本実施形態においては、被粉砕原料を液体窒素に分散させた状態で粉砕するため、従来の凍結粉砕法と比較して、より一層冷却された状態の原料を粉砕できる。具体的には、液体窒素の沸点である-196℃より低い温度の被粉砕原料を粉砕できる。-196℃より低い温度の被粉砕原料を粉砕すると、被粉砕原料の脆性破壊が繰り返されることで、原料の粉砕が進行する。これにより、たとえば、一軸配向した液晶ポリマーを粉砕した場合においても、液晶ポリマーの分子軸の軸方向に略平行な面での破壊が進行するだけでなく、上記軸方向に交差する面に沿って脆性破壊が進行するため、粒状の微粉砕液晶ポリマーを得ることができる。
【0046】
また、微粉砕工程(S12)においては、液体窒素中において、脆性破壊することで粒状となった液晶ポリマーに対して、脆化させた状態のまま、引き続きメディアなどで衝撃を与え続ける。これにより、微粉砕工程(S12)において得られた液晶ポリマーには、外側表面から内部にかけて複数の微細なクラックが形成されている。
【0047】
微粉砕工程(S12)により得られる粒状の微粉砕液晶ポリマーは、レーザ回折散乱法による粒子径分布測定装置で測定したD50が100μm以下であることが好ましく、さらに50μm以下であることが好ましい。これにより、下記に示す繊維化工程において粒状の微粉砕液晶ポリマーがノズルで詰まることを抑制することができる。
【0048】
次に、粗粒除去工程(S13)において、上記微粉砕工程(S12)で得られた粒状の微粉砕液晶ポリマーから粗粒を除去する。たとえば、粒状の微粉砕液晶ポリマーをメッシュで篩いにかけることにより、篩下の粒状の微粉砕液晶ポリマーを得るとともに、篩上の粒状の液晶ポリマーを除去することで、粒状の微粉砕液晶ポリマーに含まれる粗粒を除去することができる。メッシュの種類は適宜選択すればよいが、メッシュとしては、たとえば目開きが100μmのものが挙げられる。なお、メッシュの目開きは、得たい液晶ポリマーパウダーの繊維長に応じて適宜変更することができる。たとえば、5μmから50μm程度の目開きを有するメッシュを用いてもよい。また、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーの製造方法は、粗粒除去工程(S13)を必ずしも備えていなくてもよい。
【0049】
次に、繊維化工程(S14)において、粒状液晶ポリマーを湿式高圧破砕装置で破砕して、液晶ポリマーパウダーを得る。繊維化工程(S14)においては、まず、微粉砕液晶ポリマーを繊維化工程用の分散媒に分散させる。分散させる微粉砕液晶ポリマーは、粗粒が除去されていなくてもよいが、粗粒が除去されていることが好ましい。繊維化工程用の分散媒としては、たとえば、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ベンゼン、キシレン、フェノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ヘキサン、または、これらの混合物等が挙げられる。
【0050】
そして、繊維化工程用の分散媒に分散させた状態の微粉砕液晶ポリマー、すなわち、スラリー状の微粉砕液晶ポリマーを、高圧で加圧した状態で、ノズルを通過させる。高圧でノズルを通過させることにより、ノズルでの高速流動による剪断力または衝突エネルギーが液晶ポリマーに作用して、粒状の微粉砕液晶ポリマーを破砕することで、液晶ポリマーの繊維化が進行し、後工程で使用可能な液晶ポリマーパウダーを得ることができる。上記ノズルのノズル径は、高い剪断力または高い衝突エネルギーを与えるという観点から、上記ノズルにおいて微粉砕液晶ポリマーの詰まりが発生しない範囲で可能な限り小さくすることが好ましい。本実施形態における粒状の微粉砕液晶ポリマーは粒径が比較的小さいため、繊維化工程において用いる湿式高圧破砕装置におけるノズル径を小さくすることができる。ノズル径は、たとえば0.2mm以下である。
【0051】
本実施形態においては、上述したように、粒状の微粉砕液晶ポリマーパウダーに複数の微細なクラックが形成されている。このため、湿式高圧破砕装置での加圧により、分散媒が、微細なクラックから微粉砕液晶ポリマーの内部に侵入する。そして、スラリー状の微粉砕液晶ポリマーがノズルを通過して常圧下に位置したときに、微粉砕液晶ポリマーの内部に侵入した分散媒がわずかな時間で膨張する。微粉砕液晶ポリマー内部に侵入した分散媒が膨張することにより、微粉砕液晶ポリマーの内部から、破壊が進行する。このため、微粉砕液晶ポリマーの内部まで繊維化が進み、かつ、液晶ポリマーの分子が一方向に並んでいるドメイン単位に分離する。このように、本実施形態における繊維化工程においては、本実施形態における微粉砕工程で得られた粒状の微粉砕液晶ポリマーを解繊することで、従来の凍結粉砕法で得られた粒状の液晶ポリマーを破砕することで得られる液晶ポリマーパウダーより、塊状部の含有率が低く、かつ、微細短繊維状である、液晶ポリマーパウダーを得ることができる。
【0052】
本実施形態における繊維化工程(S14)においては、微粉砕液晶ポリマーを、複数回、湿式高圧破砕装置で破砕することにより、液晶ポリマーパウダーを得てもよい。湿式高圧破砕装置による破砕の回数は少ないことが好ましい。湿式高圧破砕装置による破砕の回数は、たとえば、5回以下であってもよい。
【0053】
得られた液晶ポリマーパウダーは、後工程の原料として用いられる。ここで、微細繊維としての液晶ポリマーパウダーの詳細について説明する。
【0054】
液晶ポリマーパウダーは、少なくとも繊維部を含んでいる。繊維部とは、繊維径に対する長手方向の長さの比であるアスペクト比が10倍以上500倍以下の短繊維状の粒子であって、平均径が2μm以下の粒子である。このようなアスペクト比が10倍以上500倍以下かつ平均径が2μm以下という微細短繊維状の繊維部を含む液晶ポリマーパウダーは、従来公知の製造方法では製造することができないものである。
【0055】
たとえば、アスペクト比が10倍以上500倍以下の繊維部を含む液晶ポリマーパウダーは、極細連続長繊維を製造するための手法であるエレクトロスピニング法のみでは製造することができないものである。なお、エレクトロスピニング法によって製造された、連続長繊維の液晶ポリマー極細長繊維を、紡糸後に切断して短繊維化することが考えられる。しかし、繊維径が極めて小さく、かつ、アスペクト比がおよそ無限大である上記連続長繊維の液晶ポリマー極細長繊維を短く切断するのには限界がある。エレクトロスピニング法で製造された連続長繊維の液晶ポリマー極細長繊維をカットした後の、液晶ポリマー極細長繊維は、アスペクト比が500倍超になる。
【0056】
繊維部の平均径の値は、繊維部を構成する複数の繊維状の粒子における繊維径の平均値である。このように、本実施形態に係る液晶ポリマーパウダーは、微細繊維状の粒子を含んでいる。繊維径は、走査型電子顕微鏡で繊維状の粒子を観察したときに得られる繊維状の粒子の画像データから測定することができる。
【0057】
繊維部のアスペクト比は、300以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましい。繊維部の平均径は、1μm以下であることが好ましい。
【0058】
上記繊維部は、繊維状の粒子が凝集した凝集部として、液晶ポリマーパウダーに含まれていてもよい。また、上記繊維部は、繊維部を構成する液晶ポリマーの分子の軸方向と、繊維部の長手方向とが互いに一致している。なお、本実施形態に係る繊維マットの製造方法においては、上記の繊維化工程を経て液晶ポリマーパウダーが製造されているため、液晶ポリマーの分子が束になることで形成されている複数のドメイン同士の間で破壊が生じることで、液晶ポリマー分子の軸方向が繊維部の長手方向に沿って強く配向している。
【0059】
液晶ポリマーパウダーは、実質的に繊維化されていない塊状部を、含有率20%以下で含有していることが好ましい。また、液晶ポリマーパウダーは、塊状部を含有していないことがより好ましい。塊状部の含有率は、液晶ポリマーパウダーに含まれる凝集部の数に対する塊状部の数で評価される。本実施形態においては、液晶ポリマーパウダーを平面に載置したときに最大高さが10μmより大きい凝集部が、塊状部であり、最大高さが10μm以下の凝集部が、繊維部である。
【0060】
塊状部は、塊状の粒子を含みつつ凝集した凝集部として液晶ポリマーパウダーに含まれていてもよい。塊状部は、実質的に繊維化されていない液晶ポリマーパウダーである。塊状部は、扁平状の外形を有していてもよい。
【0061】
本実施形態においては、液晶ポリマーパウダーは、レーザ回折散乱法による粒子径分布測定装置を用いた粒度測定により測定されるD50の値が、たとえば13μm以下とすることができる。
【0062】
なお、後工程の原料として用いられる液晶ポリマーパウダーは、上述の前工程で製造されたものに限定されない。
【0063】
<後工程>
次に、後工程(S20)について説明する。後工程(S20)の最初の工程である分散工程(S21)においては、上述の液晶ポリマーパウダーを、分散媒に分散させることではスラリー状にする。上述の微細短繊維状の液晶ポリマーパウダーを使用するため、液晶ポリマーパウダーを高粘度の分散媒に分散させることができ、ひいては、均質な繊維マットを製造することができる。
【0064】
分散工程(S21)において使用される分散媒としては、水、またはエタノールおよびこれらの混合物などが挙げられる。このような分散媒を用いることにより、分散媒のコストを低減し、繊維マットを廉価に製造できる。
【0065】
なお、分散媒に分散させた上記液晶ポリマーパウダーにおける繊維部の長手方向は、分散媒中において、特定の方向に配向していないと考えられる。
【0066】
次に、マット化工程(S22)において、抄紙法によって、スラリー状の液晶ポリマーパウダーを液晶ポリマー繊維マットに成形する。抄紙法においては、分散工程で使用した分散媒を回収して再利用でき、繊維マットを廉価に製造できる。
【0067】
図4は、繊維マットの製造工程において、液晶ポリマーパウダーをマット化するマット化工程を示す図である。図4を参照して、マット化工程の詳細について説明する。
【0068】
図4に示すように、マット化工程においては、抄紙機100を用いる。抄紙機100は、微多孔シート10を供給する供給ローラー15、微多孔シート10を回収する巻取ローラー(不図示)、抄紙ワイヤー20、搬送ローラー25,26、上記液晶ポリマーパウダーが分散された分散媒41を貯留する貯留部40、加熱装置50、および光照射装置60を備える。
【0069】
抄紙ワイヤー20は、たとえば80~100メッシュ程度の抄紙網である。すなわち、抄紙ワイヤー20は、150μmから180μm程度の孔径を有する。抄紙ワイヤー20は、搬送方向に並ぶ搬送ローラー25,26によって搬送される。搬送ローラー26は、搬送ローラー25の下流側に配置されている。抄紙ワイヤー20は、これら搬送ローラー25,26によって貯留部40を通過するように搬送される。
【0070】
供給ローラー15は、微多孔シート10を抄紙ワイヤー20上に供給する。微多孔シート10は、液晶ポリマーパウダーを支持する支持体として機能する。抄紙ワイヤー20上に配置された微多孔シート10は、抄紙ワイヤー20によって貯留部40を通過するように搬送される。貯留部40を通過した微多孔シート10は、抄紙ワイヤー20から剥離されて、巻取りローラーによって巻き取られる。
【0071】
微多孔シート10は、抄紙ワイヤー20よりも細かいメッシュを有する。微多孔シート10は、略157メッシュ以上が好ましい。すなわち、微多孔シート10は、略100μm以下の孔径を有することが好ましい。これにより、分散媒に分散された微細な液晶ポリマーパウダーを捕集することができる。
【0072】
より好ましくは、微多孔シート10は、5μm~50μm程度の孔径を有する。微多孔シート10の孔径が小さすぎる場合には、濾水性が悪くなり脱水にかかる時間が長くなる。一方で、微多孔シート10の孔径が大きすぎる場合には、微細繊維(微細な液晶ポリマーパウダー)が捕集しにくく、歩留まりが悪くなる。
【0073】
孔径にばらつきがあるような微多孔シート10を選択する場合には、形成される繊維マットの地合いに影響するため、繊維マットに高い均一性が要求される場合には、網目状に周期的に編まれたメッシュが好ましい。すなわち、微多孔シート10としては、孔径が均一であり、孔の場所に偏りがないメッシュを用いることが好ましい。
【0074】
微多孔シート10としては、たとえば、孔径が50μm以下の織物メッシュを利用することができる。織物メッシュとしては、たとえば、ポリエステル等の合成繊維で構成されたものを採用することができる。
【0075】
また、微多孔シート10としては、たとえば、目付が15g/m以下の湿式不織布を利用してもよい。当該湿式不織布としては、マイクロファイバーで構成されたものを利用することができる。マイクロファイバーは、たとえば、ポリエステル等の合成繊維によって構成される。
【0076】
加熱装置50は、搬送方向において、貯留部40の下流側に配置されている。加熱装置50は、微多孔シート10に抄き上げられた液晶ポリマーパウダー30を加熱して、乾燥させる。これにより、微多孔シート10上に繊維マットが形成される。
【0077】
光照射装置60は、搬送方向において、加熱装置50の下流側に配置されている。光照射装置60は、微多孔シート10上に形成された繊維マットに向けて光を照射する。光照射装置60は、たとえばフラッシュランプを採用することができる。
【0078】
光照射装置60は、パルス光を照射することが好ましい。パルス光は、繊維マットの表面(第1主面31)で吸収されるため、繊維マットを支持する支持体(微多孔シート10)が光照射によって劣化されない。このため、繊維マットよりも融点が低い材質でも支持体として使用することができ、支持体の選択の幅が広がる。また、繊維マットが支持体に融着することを防止できるため、支持体を繰り返し利用することができる。光照射装置60としては、NovaCentrix社製PulseForge(登録商標)1300を採用することができる。
【0079】
マット化工程(S21)は、抄き上げ工程、剥離工程、乾燥工程、光照射工程とを含む。マット化工程(S21)においては、まず、抄き上げ工程にて、分散された液晶ポリマーパウダーを微多孔シート10に抄き上げる。具体的には、抄紙ワイヤー20上に供給された微多孔シート10を、抄紙ワイヤー20で搬送し、貯留部40を通過させる。この際、貯留部40内に貯留された分散媒41に分散された液晶ポリマーパウダーが微多孔シート10に抄き上げられる。
【0080】
続いて、剥離工程において、分散された液晶ポリマーパウダーを抄き上げた微多孔シートを抄紙ワイヤー20から剥離する。具体的には、微多孔シート10を巻取りローラーで巻取ることにより、抄紙ワイヤー20と異なる方向に微多孔シート10を搬送する。なお、搬送ローラー26によって、抄紙ワイヤー20を微多孔シート10と異なる方向に搬送してもよい。
【0081】
次に、乾燥工程において、微多孔シート10に抄き上げられた液晶ポリマーパウダーを加熱装置50によって加熱乾燥させる。これにより、微多孔シート10上に、液晶ポリマーで構成された繊維マット30が形成される。
【0082】
続いて、光照射工程において、微多孔シート10が位置する側とは反対側に位置する繊維マット30の第1主面31に光照射する。これにより、第1主面31側に位置する液晶ポリマーパウダーを融着させる。この結果、繊維マット30の強度が向上し、繊維マット30を破損させることなく次の工程へ運ぶことができる。
【0083】
さらに、第1主面31側の表層に位置する液晶ポリマーパウダーのみが融着するため、繊維マット30全体での密度は低い。これにより、高い通気性および高い捕集効率を確保することができる。
【0084】
光照射後の繊維マット30は、微多孔シート10上に配置された状態で、巻取り工程において、上記巻取りローラーによって巻き取られる。
【0085】
図5は、繊維マットの第2面に光照射を行なう工程を示す図である。図5に示すように、マット化工程は、第1主面31に光照射された繊維マット30を微多孔シート10から剥離して、当該第1主面31が位置する側とは反対側に位置する繊維マット30の第2主面32に光照射する工程をさらに含んでいてもよい。当該工程においては、光照射装置61からの光照射によって、第2主面32側に位置する微細繊維を融着させる。光照射装置61としては、上述の光照射装置60と同様のものを用いることができる。光照射する際には、繊維マット30を搬送しながら照射する。
【0086】
第1主面31側および第2主面32側の双方において液晶ポリマーパウダーを融着させる場合には、さらに繊維マット30の強度を向上させることができる。
【0087】
また、繊維マット30を微多孔シート10から剥離する際には、第1主面31側において液晶ポリマーパウダーが融着しており、繊維マット30が十分な強度を有しているため、繊維マット30を破損させることなく剥離することができる。
【0088】
<フィルムの製造方法>
続いて、微多孔シート10から繊維マット30を剥離し、繊維マット30を加熱プレスすることで、液晶ポリマーフィルムを得る。加熱プレス工程により、液晶ポリマーフィルムの厚さは、繊維マット30と比較して薄くなる。
【0089】
加熱プレス工程において、繊維マット30を、たとえば銅箔とともに加熱プレスする。これにより、加熱プレス工程が、液晶ポリマーフィルムと銅箔とを互いに接合させる工程を兼ねるため、銅箔が接合された状態の液晶ポリマーフィルムを、廉価に得ることができる。なお、加熱プレス工程おいて、長時間に加熱する場合は、繊維マット30を真空加熱プレスすることが好ましい。
【0090】
加熱プレス工程においては、液晶ポリマーパウダーを構成する液晶ポリマーの融点よりおよそ5℃~15℃低い温度で加熱プレスすることが好ましい。上記吸熱ピーク温度よりおよそ5℃~15℃低い温度で加熱プレスすれば、液晶ポリマー同士の焼結が進みやすくなる。
【0091】
また、加熱プレス工程においては、加熱プレス工程で用いるプレス機と繊維マット30との間に、リリースフィルムとしてポリイミドフィルム、PTFEフィルム、または、ガラス繊維織物などの補強材と耐熱性樹脂とからなる複合シートなどを挟んでもよい。また、ポリイミドフィルムに代えて、プレス機と繊維マット30との間に、追加の銅箔を挟んでもよい。これにより、両面に銅箔が接合された液晶ポリマーフィルムを得ることができる。両面に銅箔が接合された液晶ポリマーフィルムは、両面銅張FCCLとして用いることができる。
【0092】
なお、必要に応じて、液晶ポリマーフィルムに接合した金属箔をエッチングなどにより除去してもよい。これにより、金属箔が接合していない単体の液晶ポリマーフィルムが得られる。
【0093】
<実験例>
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実験例においては、実施例1から4に係る繊維マット30を準備し、実施例1、2に対しては、坪量、厚み、密度、破断強度を測定し、実施例3,4に対しては、破断強度を測定した。破断強度は、幅20mmの繊維マット30を準備し、オートグラフ(島津製作所製AG-XDplus)を用いて測定した。
【0094】
図6は、実施例1、実施例2、および比較例における評価条件および評価結果を示す図である。図7は、実施例3および実施例4における評価条件および評価結果を示す図である。図8は、実施例1から4における破断強度を示す図である。
【0095】
(実施例1)
実施例1においては、まず、原料となる液晶ポリマー成形体として、ペレット状の液晶ポリマーを、カッターミル装置に投入することにより、粗粉砕した。実施例1において液晶ポリマーとして、315℃の融点を有し、波長500nmでの吸収率が60%のものを用いた。粗粉砕されたフィルム状の液晶ポリマーを、カッターミル装置に設けられた3mm径の排出孔から排出することで、粗粉砕液晶ポリマーを得た。
【0096】
次に、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素ビーズミル(アイメックス社製、LNM-08)で微粉砕した。液体窒素ビーズミルでの粉砕においては、ベッセル容量を0.8Lとし、メディアとして直径が5mmのジルコニア製のビーズを使用し、メディアの投入量を500mLとして、粗粉砕液晶ポリマーを30g投入して、回転数2000rpmで120分間粉砕処理を行った。液体窒素ビーズミルにおいては、粗粉砕液晶ポリマーを液体窒素中に分散させて、湿式粉砕処理を行う。このように、粗粉砕液晶ポリマーを、液体窒素ビーズミルで粉砕することにより、粒状の微粉砕液晶ポリマーが得られた。
【0097】
次に、微粉砕液晶ポリマーを、目開き100μmのメッシュで湿式分級し、微粉砕液晶ポリマーに含まれる粗粒を除去するとともに、メッシュを通過した微粉砕液晶ポリマーを回収した。なお、実施例1においては、目開き100μmのメッシュを用いたが、当該メッシュよりも目開きの小さいメッシュを用いて分級してもよい。
【0098】
次に、粗粒が除去された微粉砕液晶ポリマーを、20wt%エタノール水溶液に分散させた。微粉砕液晶ポリマーが分散したエタノールスラリーを、湿式高圧破砕装置を用いて、ノズル径0.2mm、圧力200MPaの条件にて、繰り返し5回破砕することにより、繊維化した。湿式高圧破砕装置としては、スギノマシン製スターバーストHJP-25060を用いた。これにより、エタノール水溶液に分散した状態の液晶ポリマーパウダーが得られた。
【0099】
次に、水とエタノールを必要量添加し、50wt%エタノール水溶液30Lに対して、液晶ポリマーパウダー2.2gとなるように調合し、そのスラリー状の液晶ポリマーパウダーを抄紙法で繊維マット30に成形した。抄紙機としては、熊谷理機社製の角型シートマシン2555を用い、孔径11μmのポリエステルメッシュの微多孔シート上に、分散媒に分散された液晶ポリマーパウダーを抄き上げた。
【0100】
続いて、熱風式乾燥機を用いて100℃の温度で加熱乾燥させることにより、繊維マット30を微多孔シート上に成形した。繊維マット30の目付は、35g/m程度であった。
【0101】
次に、繊維マット30を複数準備し、光照射装置(NovaCentrix社製PulseForge(登録商標)1300)の電圧条件を変えて、各々の繊維マット30が有する第1主面31に光照射した。電圧は、230V、250V、270Vとし、パルス長は、3.5msとした。
【0102】
このような条件で光照射された繊維マット30を微多孔シートから剥離して、厚み測定器(デジタルリニアゲージDG-525H(小野精機社製))、密度測定装置を用いたり、あるいは引張試験等を実施したりして、実施例1に係る繊維マット30の坪量、厚み、密度、破断強度を測定した。
【0103】
実施例1において、230Vで光照射したマットの坪量、厚み、密度、破断強度は、それぞれ、33.9g/m、95.3μm、0.36g/、50cN/20mmであった。
【0104】
実施例1において、250Vで光照射したマットの坪量、厚み、密度、破断強度は、それぞれ、34.2g/m、84.1μm、0.41g/、130cN/20mmであった。
【0105】
実施例1において、270Vで光照射したマットの坪量、厚み、密度、破断強度は、それぞれ、34g/m、79.2μm、0.43g/、350cN/20mmであった。
【0106】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1とほぼ同様に繊維マット30を作製し、第1主面31とは反対側に位置する第2主面32に対しても、実施例1と同様のエネルギーで光照射した。すなわち、実施例2においては、第1主面31に光照射した繊維マット30を微多孔シートから剥離した後に、さらに、第2主面32に光照射を行なった。第2主面32を光照射する際の光照射装置(NovaCentrix社製PulseForge(登録商標)1300)の電圧は、実施例1同様に、230V、250V、270Vとし、パルス長は、3.5msとした。実施例2に係る繊維マット30においても、実施例1同様に、坪量、厚み、密度、破断強度を測定した。
【0107】
実施例2において、第1主面31、第2主面32の双方を230Vで光照射したマットの坪量、厚み、密度、破断強度は、それぞれ、33.9g/m、92.8μm、0.37g/、120cN/20mmであった。
【0108】
実施例2において、第1主面31、第2主面32の双方を250Vで光照射したマットの坪量、厚み、密度、破断強度は、それぞれ、34.2g/m、78.5μm、0.44g/、380cN/20mmであった。
【0109】
実施例2において、第1主面31、第2主面32の双方を270Vで光照射したマットの坪量、厚み、密度、破断強度は、それぞれ、34g/m、65μm、0.52g/、720cN/20mmであった。
【0110】
(比較例)
比較例においては、実施例1と比較して、マット化工程において、光照射工程を省略した点において相違する。すなわち、比較例に係る繊維マットは、実施例1に係る繊維マット30と比較して、表面(第1主面)に光照射がなされておらず、表面の繊維が溶融されていない。
【0111】
この場合において、マットの坪量、厚み、密度、破断強度は、それぞれ、34.2g/m、105.2μm、0.33g/、19.8cN/20mmであった。
【0112】
(実施例3)
実施例3においては、液晶ポリマーとして、315℃の融点を有し、波長500nmでの吸収率が70%のものを用いた。上記以外の点については、実施例1とほぼ同様にして、繊維マット30を得た。
【0113】
実施例3においては、230V、250V、270Vで光照射したマットの破断強度は、それぞれ、400cN/20mm、830cN/20mm、1720cN/20mmであった。
【0114】
(実施例4)
実施例4においては、液晶ポリマーとして、315℃の融点を有し、波長500nmでの吸収率が70%のものを用いた。上記以外の点については、実施例2とほぼ同様にして、繊維マット30を得た。
【0115】
実施例4においては、230V、250V、270Vで光照射したマットの破断強度は、それぞれ、930cN/20mm、1690cN/20mm、2410cN/20mmであった。
【0116】
以上のように、実施例1から4のいずれにおいても、比較例と比較して、各繊維マット30が十分な強度(破断強度)を有することが確認された。また、光照射の際の電圧を大きくすることにより、融着される液晶ポリマーパウダーの量が増加し、厚みが薄くなるものの、密度、および破断強度が増加することが確認された。
【0117】
さらに、実施例2および実施例4のように、第1主面31側に加えて第2主面32側にも光照射を行なうことにより、破断強度がさらに増加することが確認された。加えて、実施例1、2と実施例3,4とを比較して、吸収率の高い液晶ポリマーパウダーを用いることにより、破断強度がさらに増加することが確認された。
【0118】
<その他の変形例>
上述の実施の形態および実施例においては、微細繊維が液晶ポリマーパウダーである場合を例示して説明したが、微細繊維は液晶ポリマーパウダーに限定されない。微細繊維として、上述のように、熱可塑性を有する限り、水素結合を有さない化学繊維を用いてもよい。
【0119】
上述の実施の形態および実施例においては、微細繊維を抄き上げる支持体が微多孔シートである場合を例示して説明したがこれに限定されない。微多孔シートを省略し、支持体として抄紙ワイヤー20を用いてもよい。この場合には、微細繊維としては、抄紙ワイヤー20の孔径よりも繊維長が大きいものを用いることができ、繊維長が200μm以下であってもよい。さらには、繊維長が1mm以下のものを用いてもよい。
【0120】
以上、今回発明された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0121】
10 微多孔シート、15 供給ローラー、20 抄紙ワイヤー、25,26 搬送ローラー、30 繊維マット、31 第1主面、32 第2主面、40 貯留部、41 分散媒、50 加熱装置、60 光照射装置、100 抄紙機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8