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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20241001BHJP
   H01G 9/042 20060101ALI20241001BHJP
   H01G 9/055 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/042 500
H01G9/028 F
H01G9/055 103
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023546879
(86)(22)【出願日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2022032074
(87)【国際公開番号】W WO2023037890
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2021145371
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中村 和敬
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-177385(JP,A)
【文献】特開2015-043300(JP,A)
【文献】特開2013-251359(JP,A)
【文献】特開2016-192425(JP,A)
【文献】特開2003-163138(JP,A)
【文献】特開2016-009770(JP,A)
【文献】国際公開第2020/111093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/042
H01G 9/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属基体と、
前記弁作用金属基体の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質層と、
前記多孔質層の表面に設けられた誘電体層と、
前記誘電体層の表面に設けられた固体電解質層と、を備え、
前記多孔質層は空孔部を有し、前記空孔部には、導電性高分子で絶縁性無機粒子を被覆した固体電解質被覆無機粒子が充填されており、
前記絶縁性無機粒子の平均粒径は10nm以上、100nm以下である、固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記絶縁性無機粒子はシリカ及びアルミナからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記固体電解質層が、さらに前記絶縁性無機粒子の表面にも設けられている請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記空孔部の平均孔径は10nm以上、600nm以下である請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記絶縁性無機粒子の平均粒径は30nm以上、60nm以下である請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記空孔部の平均孔径は200nm以上、300nm以下である請求項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記絶縁性無機粒子の平均粒径は30nm以上である請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記絶縁性無機粒子の平均粒径は45nm以上である請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解コンデンサはアルミニウムから金属を介した陽極とアルミニウム表面の酸化膜に導電性高分子を付着させ、この導電性高分子から電極を引き出した陰極を具備する構造を有するコンデンサである。
【0003】
陰極を引き出す方法として、導電性高分子、及びカーボンが用いられ、導電性高分子及びカーボンは銅などの良導性電極に電気的に接続される。電極の引き出しとして、導電性高分子やカーボンを使用する理由は、材料の仕事関数の違い、及びアルミニウム表面に形成された酸化物の欠陥率によるものであり、良導性電極までの接続で不要な導通や電気的障壁を発生させないためのものである。
【0004】
固体電解コンデンサは、アルミニウムの表面を多孔質化し、多孔質化したアルミニウムの表面を酸化させて酸化物からなる誘電体層を形成し、さらに、その誘電体層の表面に導電性高分子を配置することにより大きな面積を得ている。この大きな面積により大きな静電容量を有する固体電解コンデンサが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-130722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電解コンデンサにおいて、多孔質化したアルミニウムの表面には空間(空孔)が存在する。この空間を埋めるのは難しく、空間には気泡が残留し易い。このため、固体電解コンデンサを封止すると、外部から加わる熱により空間内に残留した気泡が膨張し、圧力破壊を生じることがある。こうしたことから、固体電解コンデンサは熱に弱い性質を持つ。また、使用される導電性高分子は水を吸収し易い性質を持ち、外気の湿度により膨張収縮を起こしやすい。さらに、この吸収された水分が外部から加わる熱により蒸発して水蒸気となり、固体電解コンデンサの内圧が上昇して、固体電解コンデンサの破壊につながることもある。
【0007】
また、導電性高分子は吸湿性が高く、吸湿、放湿により、膨張、収縮を起こす。この膨張収縮により、内部応力が生じて、特に多孔質化したアルミニウムの表面近傍でクラックやデラミネーションが起こることがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、外部から加わる熱による固体電解コンデンサの破壊や劣化を抑え、固体電解コンデンサの寿命が低下し難い構造を備える、固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の固体電解コンデンサは、弁作用金属基体と、上記弁作用金属基体の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質層と、上記多孔質層の表面に設けられた誘電体層と、上記誘電体層の表面に設けられた固体電解質層と、を備え、上記多孔質層は空孔部を有し、上記空孔部には絶縁性無機粒子が充填されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部から加わる熱による固体電解コンデンサの破壊や劣化を抑え、固体電解コンデンサの寿命が低下し難い構造を備える、固体電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、固体電解コンデンサの内部構造を模式的に示す断面図である。
図2A図2Aは、固体電解コンデンサを製造する工程を示す工程図である。
図2B図2Bは、固体電解コンデンサを製造する工程を示す工程図である。
図2C図2Cは、固体電解コンデンサを製造する工程を示す工程図である。
図2D図2Dは、固体電解コンデンサを製造する工程を示す工程図である。
図2E図2Eは、固体電解コンデンサを製造する工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の固体電解コンデンサについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0013】
図1は、固体電解コンデンサの内部構造を模式的に示す断面図である。
図1に示す固体電解コンデンサ10において、弁作用金属基体1の少なくとも一方の主面に多孔質層2が設けられている。
多孔質層2の表面には誘電体層3が設けられており、誘電体層3の表面には固体電解質層4が設けられている。
多孔質層2は空孔部5を有しており、空孔部5には絶縁性無機粒子6が充填されている。
また、絶縁性無機粒子6の表面にはさらに固体電解質層7(無機粒子被覆層7)が設けられていて、絶縁性無機粒子は固体電解質被覆無機粒子8となっている。
【0014】
弁作用金属基体は、いわゆる弁作用を示す弁作用金属からなる。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の金属単体、又は、これらの金属を含む合金等が挙げられる。これらの中では、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
弁作用金属基体の形状は、平板状であることが好ましく、箔状であることがより好ましい。
【0015】
多孔質層は、弁作用金属基体をエッチングすることにより形成されたエッチング層であってもよい。
多孔質層は空孔部を有している。空孔部の平均孔径は10nm以上、600nm以下であることが好ましく、200nm以上、300nm以下であることがより好ましい。
空孔部の孔径は、固体電解コンデンサの断面写真を撮影して、多孔質層の表面における空孔部の径として定める。断面写真にある複数の空孔部の孔径の平均値を算出して空孔部の平均孔径とする。
空孔部の孔径は、図1に示すような断面における両矢印Wで定める位置の寸法である。
静電容量を大きくとるためには平均孔径が上記範囲であることが好ましい。平均孔径が小さすぎると導電性高分子及び絶縁性無機粒子が空孔部に入りにくくなるため好ましくない。
【0016】
誘電体層は、多孔質層の表面に設けられており、上記弁作用金属の酸化膜からなることが好ましい。例えば、弁作用金属基体としてアルミニウム箔が用いられる場合、ホウ酸、リン酸、アジピン酸、又は、それらのナトリウム塩、アンモニウム塩等を含む水溶液中で酸化することにより、アルミニウムの酸化膜を形成することができる。
【0017】
誘電体層の表面には固体電解質層が設けられている。
固体電解質層を構成する材料としては、例えば、ピロール類、チオフェン類、アニリン類等を骨格とした導電性高分子等が挙げられる。チオフェン類を骨格とする導電性高分子としては、例えば、PEDOT[ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)]が挙げられ、ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸(PSS)と複合化させたPEDOT/PSSであってもよい。
誘電体層の表面に設けられる固体電解質層は膜状に設けられており、膜状の固体電解質層が設けられた後の状態では、まだ、多孔質層に空孔部は残っている。
【0018】
固体電解質層が設けられた後の多孔質層に残っている空孔部には、絶縁性無機粒子が充填されている。絶縁性無機粒子とは、導電性を有する無機粒子である金属やカーボン粒子を含まない概念であり、金属酸化物(金属にはシリコンを含む)の粒子を好ましく使用することができる。
絶縁性無機粒子としては、シリカ及びアルミナからなる群から選択された少なくとも1種の微粒子を好適に使用することができる。なお、本明細書において絶縁性無機粒子を単に無機粒子ということもある。
【0019】
固体電解質層が設けられた後の多孔質層に残っている空孔部に絶縁性無機粒子が充填されることにより、空孔部における残留気泡を低減して、気泡の膨張による圧力破壊を防止することができる。
また、空孔部において固体電解質層となる導電性高分子の体積比率を下げることができる。そのため、空孔部に多くの導電性高分子が存在することに起因する、熱的な劣化や破壊を防止することができる。
【0020】
また、固体電解質層がさらに絶縁性無機粒子の表面にも設けられていることが好ましい。
図1には、絶縁性無機粒子6の表面に固体電解質層7を設けた固体電解質被覆無機粒子8を示している。本明細書において絶縁性無機粒子の表面に設けた固体電解質層を、誘電体層の表面に設けた固体電解質層と区別するために、無機粒子被覆層ともいう。
図1に示す形態をより詳細に記述すると、誘電体層3の表面に設けられた固体電解質層4に接するように、固体電解質被覆無機粒子8が空孔部5に充填されているといえる。
【0021】
空孔部に充填するシリカ等の無機粒子は絶縁性無機粒子であるため、空孔部に無機粒子を充填すると陽極から陰極に至る導電部の抵抗が高くなってしまう。この部分の抵抗が高いと、コンデンサに直列抵抗成分が入ってしまい、コンデンサとしてのロスが大きくなる。このため、空孔部に充填する物質を低抵抗化する必要がある。
【0022】
固体電解質層の形成に使用する導電性高分子は、高導電性を持つ樹脂であるが、高い導電性を発揮させるためには導電性高分子の粒子が適度に分散していることが好ましい。導電性高分子の粒子が凝集したり、固まりになると導電性が阻害されてしまう。そこで、絶縁性無機粒子の表面に導電性高分子の1次粒子を付着させ、導電性高分子で絶縁性無機粒子を被覆する。そして、導電性高分子で絶縁性無機粒子を被覆した固体電解質被覆無機粒子を多孔質層の空孔部に充填する。
このようにすると、空孔部に充填する物質を低抵抗化してコンデンサとしてのロスを低減し、かつ、空孔部に充填する導電性高分子の体積比率を下げて、空孔部に多くの導電性高分子が存在することに起因する、熱的な劣化や破壊を防止することができる。
また、導電性高分子であるPEDOT/PSSは吸湿膨張を起こす材料であり、導電性高分子量を少なくすることで、膨張圧を低減することができる。
【0023】
無機粒子被覆層の形成に使用する導電性高分子としては、誘電体層の表面に設ける固体電解質層を構成する材料として列挙した導電性高分子を使用することができる。
【0024】
絶縁性無機粒子の平均粒径は10nm以上、100nm以下であることが好ましく、30nm以上、60nm以下であることがより好ましい。
絶縁性無機粒子の平均粒径が小さすぎると導電性高分子の表面に絶縁性無機粒子が付着して導電性高分子を絶縁性無機粒子が被覆する形態になる。その結果、導電性高分子で絶縁性無機粒子を被覆した固体電解質被覆無機粒子が得られないことがある。また、絶縁性無機粒子の平均粒径が大きすぎると多孔質層の空孔部の内部にまで絶縁性無機粒子が充填できないことがある。
絶縁性無機粒子の平均粒径は、固体電解コンデンサの断面写真を撮影して、断面写真にある複数の絶縁性無機粒子の粒径の平均値として定める。
また、固体電解質被覆無機粒子を使用する場合の絶縁性無機粒子の好ましい平均粒径の範囲は、無機粒子被覆層の厚さを考慮しない、絶縁性無機粒子部分の平均粒径として定める。
【0025】
図1には、多孔質層2の上(多孔質層の表面で空孔部ではない部分)にも固体電解質被覆無機粒子8の層である固体電解質被覆無機粒子層9が存在することを示している。
そして、固体電解質被覆無機粒子層9の上に導電層13が設けられている。
図1には導電層の例としてカーボン層11と金属層12を設けた例を示している。
【0026】
導電層は、例えば、カーボンペースト、グラフェンペースト、銅ペースト、銀ペーストのような導電性ペーストを付与することによって形成されてなるカーボン層、グラフェン層、又は銅層や銀層といった金属層であることが好ましい。また、カーボン層やグラフェン層の上に金属層が設けられた複合層や、カーボンペーストやグラフェンペーストと金属ペーストを混合する混合層であってもよい。
【0027】
なお、絶縁性無機粒子として固体電解質層で被覆しない無機粒子を使用する場合、無機粒子自体が絶縁性であるので多孔質層と導電層の間に絶縁性無機粒子の層を設けると抵抗値が上昇してしまう。そのため、絶縁性無機粒子の層を設けず、誘電体層の表面に設けられた固体電解質層と導電層の間で電気的接続ができるようにすることが好ましい。
【0028】
続いて、本発明の固体電解コンデンサを製造する方法の例について説明する。
まず、本発明の固体電解コンデンサの製造に使用することができる混合分散体インク及び導電性樹脂ペースト、並びにそれらの製造方法について説明する。
【0029】
混合分散体インクとは、導電性高分子の分散体と、絶縁性無機粒子の分散体とを混合分散して得られるインクである。
導電性高分子の分散体は、水に分散された導電性高分子の分散体であることが好ましく、導電性高分子の固形分濃度が2重量%以下であることが好ましい。導電性高分子の固形分濃度が高いと分子間距離が接近し導電性高分子の凝集が発生することがある。
【0030】
絶縁性無機粒子の分散体に含まれる絶縁性無機粒子は親水性処理が施されたものであることが好ましい。導電性高分子として好ましく使用されるPEDOT/PSSが親水性であるため、絶縁性無機粒子が親水性であると導電性高分子が絶縁性無機粒子の表面に好適に付着するためである。
親水性処理としては、表面張力を低下させる処理であり、カップリング剤による表面処理、UV照射処理、プラズマ処理、コロナ放電処理等の空気中での活性化で導入されるOH基などによる処理が挙げられる。
絶縁性無機粒子の分散体はイソプロピルアルコールに分散された分散体であることが好ましい。水とイソプロピルアルコールの親和性が高いため、水に分散された導電性高分子の分散体とイソプロピルアルコールに分散された絶縁性無機粒子の分散体は、好適に混和する。
【0031】
混合分散体インクを得る際には、例えば、導電性高分子の分散体を撹拌しながら、そこに絶縁性無機粒子の分散体を滴下して、導電性高分子中に絶縁性無機粒子を拡散させる。導電性高分子の分散体を撹拌する際には高振動を加えることが好ましく、高振動を加える機器として超音波振動を応用した分散機を使用することが好ましい。具体的には超音波ホモジナイザー等の機器を使用することができる。
【0032】
絶縁性無機粒子の大きさによって、絶縁性無機粒子と導電性高分子の付着の態様が異なる。
絶縁性無機粒子が小さすぎる場合、特に絶縁性無機粒子の平均粒径が10nm未満の場合、導電性高分子の表面に絶縁性無機粒子が付着して導電性高分子を絶縁性無機粒子が被覆する形態になる。その結果、導電性高分子で絶縁性無機粒子を被覆した固体電解質被覆無機粒子が得られないことがある。
絶縁性無機粒子の大きさがある程度大きい場合、特に絶縁性無機粒子の平均粒径が30nm以上の場合、絶縁性無機粒子の周囲に導電性高分子が付着して、導電性高分子で絶縁性無機粒子を被覆した固体電解質被覆無機粒子が好適に得られる。
【0033】
上記の観点から、絶縁性無機粒子は、親水性処理が施された平均粒径30nm以上、100nm以下の粒子であることが好ましい。また、親水性処理が施された平均粒径30nm以上、100nm以下のシリカ粒子であることが好ましい。
そして、絶縁性無機粒子の分散体は、シリカ粒子がイソプロピルアルコールに分散された分散体であることが好ましい。
【0034】
絶縁性無機粒子の添加量が導電性高分子の分散体に対して無機粒子固形分10重量%以上、100重量%以下となるように混合することが好ましい。上記割合が100重量%を超えると絶縁性無機粒子の割合が多すぎて導電率が下がり抵抗が上昇してしまう。上記割合が10重量%未満であると導電性高分子の割合が多すぎて絶縁性無機粒子を使用する効果が得られにくい。
【0035】
混合分散体インクの粘度は2mPa・s以上、10mPa・s以下であることが好ましい。インクの粘度が上記範囲であると、インクジェット印刷により固体電解質層を形成するのに適している。
【0036】
続いて導電性樹脂ペーストについて説明する。
導電性樹脂ペーストとは、高濃度導電性高分子の水又はアルコール分散体に、上述した混合分散体インクを混合分散して得られるペーストである。
高濃度導電性高分子の水又はアルコール分散体に対して、混合分散体インクを10重量%以上、50重量%以下の割合で混合して得られるペーストであることが好ましい。
【0037】
高濃度導電性高分子の水又はアルコール分散体には、導電性高分子が固形分濃度20重量%以上の割合で含まれている。混合分散体インクを得る際に使用する導電性高分子の分散体に含まれる導電性高分子の固形分濃度よりも導電性高分子の固形分濃度が高いといえる。
【0038】
高濃度導電性高分子の水又はアルコール分散体はゲル状となり、扱いが難しいが、混合分散体インクと混合することで、混合分散体インクが分散剤の働きをし、高濃度導電性高分子の水又はアルコール分散体の粘性を低下させる。このため、導電性樹脂ペーストの導電性が損なわれることはなく、むしろ導電性が向上する。そして、スクリーン印刷により固体電解質層を形成するのに適したペーストとなる。
【0039】
導電性樹脂ペーストの粘度は50mPa・s以上、1000mPa・s以下であることが好ましい。導電性樹脂ペーストの粘度が上記範囲であると、スクリーン印刷により固体電解質層を形成するのに適している。
【0040】
以下、混合分散体インク又は導電性樹脂ペーストを使用して固体電解コンデンサを使用する工程について説明する。
図2A図2B図2C図2D及び図2Eは、固体電解コンデンサを製造する工程を示す工程図である。
【0041】
図2Aには、弁作用金属基体1の主面に多孔質層2を形成し、多孔質層2の表面に誘電体層3を形成した状態を示している。
多孔質層の形成はエッチングにより行うことができる。また、誘電体層の形成は化成処理により行うことができる。
【0042】
化成処理はアルミニウム等の金属からなる弁作用金属基体の多孔質層表面に酸化膜を形成し、これを誘電体層とする工程である。化成処理にはアジピン酸を好ましく用いることができ、例えば3Vの電圧を印加することにより酸化膜を形成することができる。
印加する電圧は高いほど酸化膜が厚くなり、耐圧が上昇する。しかし、酸化膜が厚くなると静電容量が小さくなる。一方、電圧が低いと、酸化膜が薄くなり、静電容量は大きくなる。ただし、酸化膜が薄くなりすぎると酸化膜の欠陥の確率が高くなるため、印加する電圧は3V以上が望ましい。
【0043】
図2Bには、絶縁層14を形成した状態を示している。固体電解質層を形成しない位置には絶縁層を形成する。絶縁層を設けることによって陽極と陰極が絶縁される。
絶縁層は樹脂により形成することができる。絶縁層を形成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリマー等を用いることが好ましい。
【0044】
図2Cには、誘電体層3の表面に固体電解質層4を形成した状態を示している。
固体電解質層4は、導電性高分子の分散液を印刷し、乾燥する工程により形成することができる。導電性高分子の分散液の印刷と乾燥は複数回繰り返すことが好ましい。
導電性高分子の分散液の印刷は、スポンジ転写、スクリーン印刷、スプレー塗布、ディスペンサー、インクジェット印刷等の方法により行うことができる。
【0045】
図2Dには、空孔部5に絶縁性無機粒子(固体電解質被覆無機粒子8)を充填した状態を示している。空孔部への絶縁性無機粒子の充填は、先に説明した混合分散体インク又は導電性樹脂ペーストを印刷し、乾燥することにより行うことができる。この印刷と乾燥は複数回繰り返すことが好ましい。
混合分散体インクを使用する場合、混合分散体インクをインクジェット印刷により印刷することが好ましい。また、ディスペンサーによる滴下により印刷してもよい。混合分散体インクは粘度が比較的低いためである。
導電性樹脂ペーストを使用する場合、導電性樹脂ペーストをスクリーン印刷により印刷することが好ましい。導電性樹脂ペーストは粘度が比較的高く、チクソ性を有しており、印刷時にペーストの流動性が上昇し、空孔部へ浸透し易いため、スクリーン印刷がより好ましい。
【0046】
図2Eには、カーボン層11及び金属層12からなる導電層13を設けた状態を示している。
導電層は、カーボンペースト、銀、銅又はニッケルを主成分とする金属ペースト等の導電性ペーストをスポンジ転写、スクリーン印刷、スプレー塗布、ディスペンサー、インクジェット印刷等によって固体電解質層上に形成することにより設けることができる。
上記の工程により、本発明の固体電解コンデンサを製造することができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明の固体電解コンデンサについて評価した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
導電性高分子(PEDOT/PSS)の水分散液とシリカゾル分散液(イソプロパノール分散液)を用意した。
シリカゾルは日産化学株式会社製の平均粒径20nm、45nm及び80nmのものを用意した。各シリカゾルの固形分濃度は30重量%であった。
また、平均粒径が20nmのシリカゾルはD10が10nm、D90が30nmであり、平均粒径が45nmのシリカゾルはD10が30nm、D90が60nmであり、平均粒径が80nmのシリカゾルはD10が60nm、D90が100nmであった。
【0049】
導電性高分子の分散液の重量100重量部に対し、各粒径のシリカゾルを固形分に換算し、10重量部、30重量部、50重量部、70重量部、100重量部となるように秤量した。
導電性高分子の分散液を超音波ホモジナイザー約300Wで撹拌分散しながら、1g/minの速度でシリカゾル分散液を滴下分散した。
分散後の粘度は3mPa・s程度で、粘性の低いものとなった。こうしてできた混合分散体インクをガラス基板にスピンコート法により0.2μmの厚みに塗布し、4端子法により抵抗率を測定した。
測定結果を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
平均粒径20nmのシリカゾルを有するシリカゾル分散液を導電性高分子の分散液に滴下して得られた混合分散体インクを塗布した塗膜(試料No.2a、3a)は抵抗が20MΩ/□以上であり、絶縁化していた。
一方、45nm及び80nmの平均粒径を有するシリカゾル分散液を使用した場合、添加量に応じて抵抗率は上昇するものの、シリカゾル分散液を使用しない導電性高分子の分散液に対する抵抗率の上昇率は1~10倍程度であった。
この結果から、混合分散体インクに含まれるシリカゾルの粒径がある程度大きい(45nm及び80nm)場合に、望ましい導電性が維持できることが分かる。
なお、この試験は混合分散体インクを塗布して抵抗率を測定したものであるので、固体電解コンデンサの製造において平均粒径20nmのシリカゾルを有する混合分散体インクを使用した場合に導電性が必ず確保できないということを意味するものではない。
【0052】
また、導電性高分子の分散液とシリカゾルの分散液を混合して得られた混合分散体インクは3mPa・s以下の粘度を示し、スピンコートやインクジェット印刷の工法に適していた。
また、常温で混合分散体インクを2週間放置してから塗膜形成し光学顕微鏡の倍率3000倍で検査した結果、混合分散体インクには凝集が生じていなかった。
【0053】
(実施例2)
高濃度(固形分濃度20重量%)導電性高分子(PEDOT/PSS)のペースト(分散媒は水系)を用意した。このペースト100gをプラスチック容器に入れ、振とう器(60Hz_振幅3mm)にかけ、低粘度化しながら、実施例1で作製した混合分散体インクNo.5a、6a又は8aをそれぞれ表2の比率で1g/minのスピードで滴下し、滴下終了後、高分散撹拌機(カクハンター)に投入して、30min撹拌して導電性樹脂ペーストを得た。
各導電性樹脂ペーストをスクリーン印刷法により、約30μmの厚みに印刷して4端針法により抵抗率を測定した。
測定結果を表2に示した。
【0054】
【表2】
【0055】
高濃度導電性高分子ペーストはゲル化が激しく強いチクソ性を持っており、振とう器にかけなければ、混合分散体インクを混合することが困難であった。
また、振とう器の使用のみでは、流動性が十分ではなく、ゲル化の状態が残留したため、高分散撹拌機(カクハンター)に投入して導電性樹脂ペーストを得た。
また、混合分散体インクの割合が30重量%以下(試料No.2b、3b、6b、7b、10b、11b)では時間とともに、粘性が高くなり、導電性樹脂ペーストとしての寿命は短かった。これらの条件で得られた導電性樹脂ペーストについては、使用直前の高分散撹拌処理が必要であった。
【0056】
(実施例3)
表面を加工して多孔質層を形成したアルミニウム基板を用意し、これに化成処理を施し、多孔質層の表面に酸化膜を形成した。このアルミニウム基板に、内枠10mm□、外枠15mm□のパターンでエポキシ樹脂を印刷し、硬化させた。この後、インクジェット方式により導電性高分子(PEDOT/PSS)の分散液をエポキシ樹脂の枠内に印刷し、160℃での乾燥10分を行う工程を5回繰り返し、多孔質層の表面の酸化膜(誘電体層)を導電性高分子の分散液でコーティングして固体電解質層を形成した。
【0057】
この後、実施例1で作製した混合分散体インクNo.4a~13aをインクジェット方式によりそれぞれ印刷し、180℃での乾燥10分を行う工程を複数回繰り返し、塗膜の厚さが多孔質層の表面より5μm以上、20μm以下となるようにした。
【0058】
また、混合分散体インクとして実施例1で作製した混合分散体インクNo.1aを使用した試料を作製した。
【0059】
この後、カーボンペーストを約20μmの厚みで印刷し、180℃で30分乾燥した後、銅電極ペーストを印刷し、200℃で30分乾燥して陰極を得た。
電気特性は、アルミニウム基板の多孔質層の裏面を陽極とし、銅の陰極との間で評価した。市販のLCRメーターを用い、静電容量の測定は1Vrms、120Hzで、ESRの測定は1Vrms、100KHzの条件で行った。また、2Vの電圧を印加し、60秒後の電流(リーク電流)を測定した。
さらに、125℃、85%RHのプレッシャークッカー試験(高温高湿試験)100時間を3回繰り返し、高温高湿試験前後での静電容量とESRの変化を調べた。
測定結果を表3に示した。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示すように、混合分散体インクを印刷し、多孔質層の空孔部に絶縁性無機粒子を充填することにより、静電容量の上昇及びESRの低下がみられ、リーク電流も良好なものとなった。
加速試験として高温高湿試験を3回繰り返し行った結果、混合分散体インクを使用した例では、静電容量とともにESRの変動も抑えられた。
混合分散体インクを加えなかったものでは、断面研磨観察によりデラミネーションが確認された。
【0062】
(実施例4)
表面を加工して多孔質層を形成したアルミニウム基板を用意し、これに化成処理を施し、多孔質層の表面に酸化膜を形成した。このアルミニウム基板に、内枠10mm□、外枠15mm□のパターンでエポキシ樹脂を印刷し、硬化させた。この後、インクジェット方式により導電性高分子(PEDOT/PSS)の分散液をエポキシ樹脂の枠内に印刷し、160℃での乾燥10分を行う工程を5回繰り返し、多孔質層の表面の酸化膜(誘電体層)を導電性高分子の分散液でコーティングして固体電解質層を形成した。
【0063】
この後、実施例2で作製した導電性樹脂ペーストNo.2b~13bをスクリーン印刷法により、10.5mm□のパターンを用いて固体電解質層を覆うように印刷し、180℃での乾燥10分を行う工程を2回繰り返した。
【0064】
また、導電性樹脂ペーストとして実施例2で作製した導電性樹脂ペーストNo.1bを使用した試料を作製した。
【0065】
この後、カーボンペーストを約20μmの厚みで印刷し、180℃で30分乾燥した後、銅電極ペーストを印刷し、200℃で30分乾燥して陰極を得た。
【0066】
実施例3と同様の方法により電気特性を評価した。
測定結果を表4に示した。
【0067】
【表4】
【0068】
実施例3の混合分散体インクを印刷した場合と同様、導電性樹脂ペーストを印刷した場合、静電容量の上昇及びESRの減少がみられた。ESRの減少に関しては、混合分散体インクを印刷した場合と比べ、ESRは高くなっているが、導電性樹脂ペーストはペースト状のため、スクリーン印刷が可能であり印刷回数も少なくて済むという利点がある。
混合分散体インクを加えない導電性樹脂ペーストを使用した場合(試料No.1b)は、高温高湿試験でESRの大幅な上昇がみられたが、他の試料(試料No.2b~13b)ではESRの大幅な上昇はみられなかった。
試料No.1bの試料を断面研磨して確認すると、デラミネーションが確認された。
【符号の説明】
【0069】
1 弁作用金属基体
2 多孔質層
3 誘電体層
4 固体電解質層(誘電体層表面の固体電解質層)
5 空孔部
6 絶縁性無機粒子
7 固体電解質層(無機粒子被覆層)
8 固体電解質被覆無機粒子
9 固体電解質被覆無機粒子層
10 固体電解コンデンサ
11 カーボン層
12 金属層
13 導電層
14 絶縁層
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E