(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】超音波センサ
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
H04R17/00 330A
H04R17/00 330G
(21)【出願番号】P 2023550472
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2022032398
(87)【国際公開番号】W WO2023053812
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2021158580
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 寛一
【審査官】▲高▼橋 真之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/044764(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102006028213(DE,A1)
【文献】特開2006-180317(JP,A)
【文献】実開昭59-119697(JP,U)
【文献】特開2013-141176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部と前記筒部の一方の端を塞ぐ底部とを含む振動体と、
前記振動体の前記底部の内面に固定された圧電素子と、
前記振動体を収容する筐体の少なくとも一部をなす第1筐体部材と、
前記振動体と前記第1筐体部材とによって挟み込まれて配置される第1弾性部材とを備え、
前記第1弾性部材は、表裏対称な形状であって独立気泡構造を備える、超音波センサ。
【請求項2】
前記振動体は、フランジ部を備え、
前記第1弾性部材は、前記フランジ部に当接している、請求項1に記載の超音波センサ。
【請求項3】
前記第1弾性部材は、一定の厚みを有する環状の部材である、請求項1または2に記載の超音波センサ。
【請求項4】
前記第1弾性部材は、シリコーン、変成シリコーン、およびウレタンからなる群から選択された少なくともいずれか1つの材料によって形成されている、請求項
1に記載の超音波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波センサの一例が特許第4438667号(特許文献1)に記載されている。特許文献1に記載された超音波センサは、超音波振動子を備える。この超音波振動子は、有底筒状のハウジングと、ハウジングの底部に固定された圧電素子と、ハウジングの開口部にスペーサを介して固定されたベースとを備える。スペーサは弾性体からなる。ハウジングは、底部と筒部とを備える。スペーサは、底部の振動に伴って筒部に生じる不要振動がベースに伝達されるのを防ぐ弾性体である。このような超音波振動子に対して筒状弾性体が被せられ、ベースの下側に振動を抑制する弾性体として発泡弾性体が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のスペーサは、リブ形状を備えており、振動伝達を阻害するために、超音波振動子の外周面にこのリブ形状の外面が露出している。このスペーサの形状は、表裏が対称ではないので、組み立てる際には表裏を間違えないように注意を要する。
【0005】
特許文献1では、スペーサは、たとえばシリコンゴムで構成されていると記載されている。しかし、このようなスペーサでは比重が大きく、振動伝達阻害効果が十分でない。このようなスペーサがハウジングに接触していることで、不要振動の周波数を変動させ、製品特性を変動させるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、組立作業が容易であって、不要な振動伝達をなるべく抑えることができるような超音波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に基づく超音波センサは、筒部と上記筒部の一方の端を塞ぐ底部とを含む振動体と、上記振動体の上記底部の内面に固定された圧電素子と、上記振動体を収容する筐体の少なくとも一部をなす第1筐体部材と、上記振動体と上記第1筐体部材とによって挟み込まれて配置される第1弾性部材とを備える。上記第1弾性部材は、表裏対称な形状であって独立気泡構造を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、振動体と上記第1筐体部材とによって挟み込まれて配置される第1弾性部材が、表裏対称な形状であって独立気泡構造を備えるので、組立作業が容易であって、不要な振動伝達をなるべく抑えることができるような超音波センサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に基づく実施の形態1における超音波センサの第1の斜視図である。
【
図2】本発明に基づく実施の形態1における超音波センサの分解図である。
【
図3】本発明に基づく実施の形態1における超音波センサに含まれる振動体に関係する分解図である。
【
図4】本発明に基づく実施の形態1における超音波センサの第2の斜視図である。
【
図5】
図4におけるV-V線に関する矢視断面図である。
【
図6】
図4におけるVI-VI線に関する矢視断面図である。
【
図7】
図5に示したものから第1充填部材および第2充填部材を取り去った状態の断面図である。
【
図8】
図6に示したものから第1充填部材および第2充填部材を取り去った状態の断面図である。
【
図9】
図2に示した部品群のうちの一部について異なる向きから見た状態での分解図である。
【
図10】
図9に示した部品群を途中まで組み立てた状態の分解図である。
【
図11】本発明に基づく実施の形態1における超音波センサに含まれる振動体と、第2弾性部材と、第2筐体部材とを組み合わせた状態の斜視図である。
【
図12】
図11に示したものに第1弾性部材4を組み合わせた状態の斜視図である。
【
図13】第1弾性部材が独立気泡構造を備えることによる利点について示すための第1の説明図である。
【
図14】第1弾性部材が独立気泡構造を備えることによる利点について示すための第2の説明図である。
【
図15】弾性部材に与えられた押込み量に対して周囲に生じる反力の大きさを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面において示す寸法比は、必ずしも忠実に現実のとおりを表しているとは限らず、説明の便宜のために寸法比を誇張して示している場合がある。以下の説明において、上または下の概念に言及する際には、絶対的な上または下を意味するとは限らず、図示された姿勢の中での相対的な上または下を意味する場合がある。
【0011】
(実施の形態1)
図1~
図12を参照して、本発明に基づく実施の形態1における超音波センサについて説明する。本実施の形態における超音波センサ101を
図1に示す。超音波センサ101の分解図を
図2に示す。超音波センサ101は、リアカバー6と、配線基板アセンブリ7と、第1充填部材8と、第2充填部材9と、配線10と、第1筐体部材51と、第1弾性部材4と、振動体2と、第2弾性部材5と、第2筐体部材52とを含む。第1弾性部材4は、独立気泡構造を備える。振動体2は、有底筒状である。振動体2は、たとえば金属で形成されている。ここでいう金属とは、たとえばアルミニウムである。振動体2は、底部2aと筒部2bとフランジ部2cとを含む。第1筐体部材51および第2筐体部材52は、たとえば樹脂で形成されている。第1筐体部材51の材料と第2筐体部材52の材料とは、同一種類であってよい。リアカバー6は、たとえば樹脂で形成されていてよい。第1充填部材8は、たとえば発泡シリコーンによって形成されている。第2充填部材9は、たとえばポッティング加工によって配置されたシリコーンの部材である。第2弾性部材5は、たとえばラバーで形成されている。
【0012】
図3に示すように、振動体2の内側には、圧電素子1が配置される。圧電素子1は、粘着シート3を介して底部2aの内面に貼り付けられる。粘着シート3は、両面テープであってよい。
【0013】
リアカバー6が上を向く姿勢とした状態での超音波センサ101を
図4に示す。
図4に示した姿勢は、
図1に示したものに比べて上下反転させた状態に相当する。
図4におけるV-V線に関する矢視断面図を
図5に示す。
図4におけるVI-VI線に関する矢視断面図を
図6に示す。
図5および
図6では、リアカバー6、配線基板アセンブリ7、配線10、粘着シート3などは図示省略されている。
【0014】
振動体2と第1筐体部材51との間に、第1弾性部材4が挟まれている。振動体2の内側には、第1充填部材8が、圧電素子1および底部2aに接するように配置されている。さらに、第2充填部材9が、第1充填部材8を覆うように配置されている。第2充填部材9の一部は、振動体2の内部空間から外にはみ出している。第1弾性部材4は環状である。すなわち、第1弾性部材4は開口部を有する。第2充填部材9は第1弾性部材4の開口部を貫通している。
図5に示したものから第1充填部材8および第2充填部材9を取り去った状態を
図7に示す。
図6に示したものから第1充填部材8および第2充填部材9を取り去った状態を
図8に示す。
【0015】
図2に示した部品群のうちの一部について、異なる向きから見た状態での分解図を
図9に示す。
図9では、第1筐体部材51と、第1弾性部材4と、振動体2と、第2弾性部材5と、第2筐体部材52とが表示されている。これらを途中まで組み立てた状態を
図10に示す。
図10では、振動体2の内面に貼り付けられた圧電素子1も表示されている。振動体2と、第2弾性部材5と、第2筐体部材52とを組み合わせた状態を
図11に示す。
図11に示したものに、さらに第1弾性部材4を組み合わせた状態を
図12に示す。
【0016】
超音波センサ101の構成は、たとえば以下のように表現することができる。超音波センサ101は、筒部2bと筒部2bの一方の端を塞ぐ底部2aとを含む振動体2と、振動体2の底部2aの内面に固定された圧電素子1と、振動体2を収容する筐体の少なくとも一部をなす第1筐体部材51と、振動体2と第1筐体部材51とによって挟み込まれて配置される第1弾性部材4とを備える。第1弾性部材4は、表裏対称な形状であって独立気泡構造を備える。
【0017】
本実施の形態では、超音波センサ101は、振動体2と第1筐体部材51とによって挟み込まれて配置される第1弾性部材4を備え、第1弾性部材4は独立気泡構造を備えるので、振動体2から第1筐体部材51への振動伝達をより効果的に阻害することができる。すなわち、不要な振動伝達をなるべく抑えることができる。また、第1弾性部材4は、表裏対称な形状であるので、組立作業時に表裏の区別を気にする必要がない。したがって、組立作業が容易となる。
【0018】
図13および
図14を参照して、第1弾性部材4が独立気泡構造を備えることによる利点について、説明する。
図13および
図14では、説明の便宜のために構造が模式的に表現されている。
図13に示すように、第1筐体部材51と振動体2との間に第1弾性部材4が介在していて、振動体2が振動することによって、振動体2の上面が矢印91に示すように上に向かって大きく変位したと仮定する。こうなると、第1弾性部材4の下面は、押されて第1弾性部材4の内側に入り込むように変位し、第1弾性部材4の体積を小さくする方向に作用する。
【0019】
もし第1弾性部材4がラバー製であるとしたら、一定のポアソン比を有するので、第1弾性部材4の下面が押し込まれれば、その押し込まれた体積に応じた分だけ、第1弾性部材4の上面および外周面は、元の面から外に押し出そうとする。これによって、第1筐体部材51が押されて変位する。このような変位が繰り返されることによって、第1筐体部材51に振動が伝達する。
【0020】
しかし、第1弾性部材4が独立気泡構造を備える場合、第1弾性部材4の内部の独立気泡の各々が圧縮されて縮むことができる。したがって、課せられた体積変化のうちある程度の部分は独立気泡に吸収される。その結果、
図14において矢印92,93によって示されるように、第1弾性部材4の上面および外周面において元の面から外に押し出そうとする力は小さくなる。したがって、第1筐体部材51が押されて変位する量も小さくなる。これにより、第1筐体部材51に振動が伝達する度合いを低減することができる。
【0021】
弾性部材に与えられた押込み量に対して周囲に生じる反力の大きさをグラフにしたものを
図15に示す。
図15において、曲線71は、弾性部材としてラバーの硬度50のものを用いた場合を示す。曲線72は、弾性部材としてラバーの硬度30のものを用いた場合を示す。曲線73は、弾性部材としてスポンジの硬度30のものを用いた場合を示す。曲線74は、弾性部材としてスポンジの硬度20のものを用いた場合を示す。曲線75は、弾性部材としてスポンジの硬度15のものを用いた場合を示す。ラバーの硬度は、JIS K6253-3に準拠したタイプAデュロメータ(アスカーA型)によって測定したものである。スポンジの硬度は、JIS K6253-3に準拠したタイプEデュロメータ(アスカーC型)によって測定したものである。JIS規格におけるJIS K6253-3は、ISO規格におけるISO 48-4に相当する。曲線71,72は、独立気泡構造を備えない部材を用いた場合に相当し、曲線73,74,75は、独立気泡構造を備える部材を用いた場合に相当する。
【0022】
図15に示されるように、曲線73,74,75は、曲線71,72に比べて、同じ押込み量に対しても反力が小さく抑えられる傾向にある。反力が小さく抑えられるということは、不要な振動の伝達を抑えやすい。
【0023】
なお、独立気泡を備える部材は、連続した気泡を備える部材に比べて、水などを容易に通さないので、防水能力が高い。連続した気泡を備える場合、空気が通ってしまうので、真空吸引によるピックアップを行ないにくいが、独立気泡を備える場合、空気が通らないので、真空吸引によるピックアップを行ないやすい。
【0024】
また、第1充填部材8および第2充填部材9を形成するに当たって、液状の材料を充填して形成しようとする場合、第1弾性部材4が独立気泡を備える部材であれば、液状の材料が第1弾性部材4の中に浸入してしまうことを避けることができるので、好ましい。
【0025】
発明者は、スポンジの硬度であるアスカー硬度が10である場合と30である場合とで、それぞれ残響の様子について観察した。すなわち、発明者は、一定時間だけ圧電素子1を駆動して振動体2を振動させ、その後、圧電素子1を止めたときに残る振動、すなわち、残響を観察した。その結果、アスカー硬度が10である場合の方が30である場合よりも、残響が小さく抑えられることが確認できた。
【0026】
また、発明者は、硬度10,15,20の各々の第1弾性部材4について、低温下で残響時間を測定する実験を行なった。低温では弾性部材が硬化しているにもかかわらず、反力が小さい状態を維持することができ、振動伝達阻害機能が優れていることがわかった。
【0027】
発明者は、第1弾性部材4の厚みを何通りか変えて実験を行なった。ギャップが0.85mmであるとして、このギャップの中に第1弾性部材4を圧縮状態で介在させてセンサの各種特性を測定したが、厚みの違いによって特性に影響はほとんど見られなかった。したがって、おおまかな設計が可能となる、すなわち、設計寸法公差を緩めることができる。独立気泡を備える第1弾性部材4は、ラバーなどに比べて軽量であるので、周波数に影響を与える度合いもきわめて小さくなる。
【0028】
なお、本実施の形態で示したように、振動体2は、フランジ部2cを備え、第1弾性部材4は、フランジ部2cに当接していることが好ましい。この構成を採用することにより、第1弾性部材4は、振動体2を安定して支持することができる。振動体2から他の部材に不要な振動が伝わる度合いを、第1弾性部材4によって低減することができる。
【0029】
本実施の形態で示したように、第1弾性部材4は、一定の厚みを有する環状の部材であることが好ましい。この構成を採用することにより、振動体2を均等に支持することが容易となる。第1弾性部材4は、たとえば一定の厚みを有する板材から打抜くことによって形成されたものであってもよい。
【0030】
第1弾性部材4は、シリコーン、変成シリコーン、およびウレタンからなる群から選択された少なくともいずれか1つの材料によって形成されていることが好ましい。この構成を採用することにより、不要な振動伝達を良好に抑えることができる。第1弾性部材4は、この条件に合う材料において独立気泡構造を形成できるような発泡処理を施して形成される。
【0031】
なお、上記実施の形態のうち複数を適宜組み合わせて採用してもよい。
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0032】
1 圧電素子、2 振動体、2a 底部、2b 筒部、3 粘着シート、4 第1弾性部材、5 第2弾性部材、6 リアカバー、7 配線基板アセンブリ、8 第1充填部材、9 第2充填部材、10 配線、51 第1筐体部材、52 第2筐体部材、71,72,73,74,75 線、91,92,93,94 矢印、101 超音波センサ。