(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】画像形成システム及び画像形成制御方法
(51)【国際特許分類】
H04N 1/60 20060101AFI20241001BHJP
G06F 3/12 20060101ALI20241001BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20241001BHJP
B41J 29/38 20060101ALI20241001BHJP
B41J 29/393 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H04N1/60
G06F3/12 308
G06F3/12 326
G06F3/12 344
G06F3/12 356
G06T1/00 510
B41J29/38 201
B41J29/393 107
(21)【出願番号】P 2023553443
(86)(22)【出願日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2023007754
(87)【国際公開番号】W WO2023171520
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2022035384
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003443
【氏名又は名称】弁理士法人TNKアジア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 英雄
【審査官】豊田 好一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-129097(JP,A)
【文献】特開2020-152003(JP,A)
【文献】特開2011-039898(JP,A)
【文献】特開2019-029787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/60
G06F 3/12
G06T 1/00
B41J 29/38
B41J 29/393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も広い色域を有する最広仮想ガマットと最も狭い色域を有する最狭仮想ガマットとを含む複数の仮想ガマットの再現色のそれぞれを基準として、相互に色再現領域が相違する複数の画像形成装置に対して共通する色校正を行なう校正処理部と、
画像形成対象の画像データを解析して、前記画像データの再現対象色域を特定する入力画像解析部と、
前記最広仮想ガマットを想定した前記複数の画像形成装置のそれぞれが有する色域の範囲内で前記再現対象色域を再現可能であるか否かに基づいて、前記複数の画像形成装置のそれぞれの利用可能性を判断する色管理部と、
操作表示部と、
前記複数の画像形成装置のそれぞれの前記利用可能性を表すとともに、前記複数の仮想ガマットのうちのいずれかの仮想ガマットを選択するための所定の操作入力を受付けるための操作入力画面を前記操作表示部に表示させ、前記操作入力画面を通じて入力された前記所定の操作入力に応じて前記利用可能性を表す表示を変更する制御部と、
選択された前記仮想ガマットを想定した模擬プロファイルを含む画像形成ジョブを生成する画像形成ジョブ生成部と、を備える、画像形成システム。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成システムであって、
前記校正処理部は、前記最広仮想ガマットとして、前記複数の画像形成装置のうちで再現可能な色域が最も広い基準装置の色域を設定する。
【請求項3】
請求項1に記載の画像形成システムであって、
前記制御部は、前記複数の画像形成装置のそれぞれの使用予定を表すスケジュール情報を取得し、
前記制御部は、前記操作入力画面を通じて、前記操作入力画面において利用可能と示されている画像形成装置を選択するための操作入力を受付けると、前記スケジュール情報に基づいて、選択された前記画像形成装置についての画像形成処理の完了までに要する時間を算出し、算出結果を前記操作表示部に表示させる。
【請求項4】
請求項1に記載の画像形成システムであって、
前記校正処理部は
、基準装置によって出力される基準色に基づいて前記色校正を実行して、前記複数の画像形成装置のそれぞれについて、当該それぞれの画像形成装置が再現可能な色域内で前記基準装置の画像形成をシミュレートするための模擬プロファイルを生成する。
【請求項5】
最も広い色域を有する最広仮想ガマットと最も狭い色域を有する最狭仮想ガマットとを含む複数の仮想ガマットの再現色のそれぞれを基準として、相互に色再現領域が相違する複数の画像形成装置に対して共通する色校正を行なう校正処理工程と、
画像形成対象の画像データを解析して、前記画像データの再現対象色域を特定する入力画像解析工程と、
前記最広仮想ガマットを想定した前記複数の画像形成装置のそれぞれが有する色域の範囲内で前記再現対象色域を再現可能であるか否かに基づいて、前記複数の画像形成装置のそれぞれの利用可能性を判断する色管理工程と、
前記複数の画像形成装置のそれぞれの前記利用可能性を表すとともに、前記複数の仮想ガマットのうちのいずれかの仮想ガマットを選択するための所定の操作入力を受付けるための操作入力画面を操作表示部に表示させ、前記操作入力画面を通じて入力された前記所定の操作入力に応じて前記利用可能性を表す表示を変更する表示工程と、
選択された前記仮想ガマットを想定した模擬プロファイルを含む画像形成ジョブを生成する画像形成ジョブ生成工程と、を含む、画像形成制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の画像形成装置を制御するための画像形成システム、及び画像形成制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる出力センターその他の印刷事業を行なう会社では、インクジェット方式、オフセット印刷方式、又は電子写真方式等の様々な方式の複数の画像形成装置がネットワークに接続されて使用されている。複数の画像形成装置を用いて同一の印刷物を多くの部数出力する場合には、色を一致させるために共通するガマットを想定した色校正を行なう。当該色校正によって、各画像形成装置は、それぞれが有する色域を有効活用して、印刷物の見た目が一致するように、印刷を行なう。
【発明の概要】
【0003】
このような色校正は、複数の画像形成装置の中で最も狭い範囲の色域を有する画像形成装置に合わせて行なうよう制限されるという問題がある。すなわち、広範囲の色域を利用して印刷を行なう必要がある場合には、利用可能な画像形成装置が、色域の範囲が広い高性能の画像形成装置に限定されてしまうため、少なくなる。一方、利用可能な画像形成装置を多くするためには、利用対象の色域を狭くする必要がある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、同一画像データに基づく画像の形成に利用可能な画像形成装置の数の低減を抑制しつつ、広い色域を想定した再現性の高い画像形成を実現することを目的とする。
【0005】
本発明の一局面に係る画像形成システムは、最も広い色域を有する最広仮想ガマットと最も狭い色域を有する最狭仮想ガマットとを含む複数の仮想ガマットの再現色のそれぞれを基準として、相互に色再現領域が相違する複数の画像形成装置に対して共通する色校正を行なう校正処理部と、画像形成対象の画像データを解析して、画像データの再現対象色域を特定する入力画像解析部と、最広仮想ガマットを想定した複数の画像形成装置のそれぞれが有する色域の範囲内で再現対象色域を再現可能であるか否かに基づいて、複数の画像形成装置のそれぞれの利用可能性を判断する色管理部と、操作表示部と、複数の画像形成装置のそれぞれの利用可能性を表すとともに、複数の仮想ガマットのうちのいずれかの仮想ガマットを選択するための所定の操作入力を受付けるための操作入力画面を操作表示部に表示させ、操作入力画面を通じて入力された所定の操作入力に応じて利用可能性を表す表示を変更する制御部と、選択された仮想ガマットを想定した模擬プロファイルを含む画像形成ジョブを生成する画像形成ジョブ生成部とを備える。
【0006】
本発明の他の一局面に係る画像形成制御方法は、最も広い色域を有する最広仮想ガマットと最も狭い色域を有する最狭仮想ガマットとを含む複数の仮想ガマットの再現色のそれぞれを基準として、相互に色再現領域が相違する複数の画像形成装置に対して共通する色校正を行なう校正処理工程と、画像形成対象の画像データを解析して、画像データの再現対象色域を特定する入力画像解析工程と、最広仮想ガマットを想定した複数の画像形成装置のそれぞれが有する色域の範囲内で再現対象色域を再現可能であるか否かに基づいて、複数の画像形成装置のそれぞれの利用可能性を判断する色管理工程と、複数の画像形成装置のそれぞれの利用可能性を表すとともに、複数の仮想ガマットのうちのいずれかの仮想ガマットを選択するための所定の操作入力を受付けるための操作入力画面を操作表示部に表示させ、操作入力画面を通じて入力された所定の操作入力に応じて利用可能性を表す表示を変更する表示工程と、選択された仮想ガマットを想定した模擬プロファイルを含む画像形成ジョブを生成する画像形成ジョブ生成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、同一画像データに基づく画像の形成に利用可能な画像形成装置の数の低減を抑制しつつ、広い色域を想定した再現性の高い画像形成を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】画像形成システムの構成を示すブロックダイアグラムである。
【
図2】画像形成装置、パーソナルコンピュータ、及び統合管理サーバの構成を示すブロックダイアグラムである。
【
図3】複数の画像形成装置の色域を示す色度図である。
【
図4】複数の画像形成装置による再現画像の色域を比較して示す図である。
【
図5】仮想ガマット校正処理の内容を示すフローチャートである。
【
図6】共通ガマット校正処理の内容を示すフローチャートである。
【
図7】画像形成処理の内容を示すフローチャートである。
【
図8】利用装置設定処理の内容を示すフローチャートである。
【
図9A】ユーザーインターフェース画面の一例を示す図である。
【
図9B】ユーザーインターフェース画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成システム10の構成を示すブロックダイアグラムである。
図2は、画像形成装置100、パーソナルコンピュータ200、及び統合管理サーバ700の構成を示すブロックダイアグラムである。
図1及び
図2に示すように、画像形成システム10は、複数の画像形成装置100と、複数のパーソナルコンピュータ(以下、単にPCと記す。)200と、少なくとも1つの統合管理サーバ700とを含んでいる。複数のPC200は、複数の画像形成装置100が提供するサービスの実行を指令するクライアント端末として機能する。
【0010】
画像形成システム10は、さらに、有線のローカルエリアネットワーク(単にネットワークとも呼ばれる。)LANを構成するスイッチングハブ500を含んでいる。スイッチングハブ500は、複数のPC200と、複数の画像形成装置100と、統合管理サーバ700と、ルーター600とを相互に接続している。画像形成システム10を構成するこれらの複数のPC200、複数の画像形成装置100、及び、統合管理サーバ700は、ルーター600とインターネットとを介して他の統合管理サーバ700に接続されている。スイッチングハブ500は、単にハブとも呼ばれる。
【0011】
画像形成装置100は、5つの画像形成装置100A乃至100Eの総称を示す。複数の画像形成装置100は、画像形成装置100Aと、画像形成装置100Bと、画像形成装置100Cと、画像形成装置100Dと、画像形成装置100Eとを含んでいる。画像形成装置100Aは、12色のインクを使用可能なインクジェット方式の画像形成装置(すなわち、12色機)である。
【0012】
画像形成装置100Bは、10色のインクを使用可能なインクジェット方式の画像形成装置(すなわち、10色機)である。画像形成装置100C及び画像形成装置100Dは、8色のインクを使用可能なインクジェット方式の画像形成装置(すなわち、8色機)である。画像形成装置100Eは、6色のインクを使用可能なインクジェット方式の画像形成装置(すなわち、6色機)である。
【0013】
画像形成装置100は、制御部110と、画像形成部120と、操作表示部130と、記憶部140と、通信インターフェース部150(以下、通信I/F150と記す。)と、画像読取部160とを備えている。制御部110は、校正処理部111として機能する。画像形成部120は、色変換処理部121と、ハーフトーン処理部122とを備えている。記憶部140は、個別プロファイル141を格納する。
【0014】
画像読取部160は、原稿の画像を読取ってRGB画像データを生成して、画像形成部120に送信する。RGB画像データは、デバイス依存(すなわち、画像読取部160に依存)の画像データである。個別プロファイル141は、画像形成装置100毎の、入力プロファイル、出力プロファイル、及びデバイスリンクプロファイルを含んでいる。校正処理部111の機能については後述する。
【0015】
画像読取部160は、入力プロファイルで定義される特性を有している。入力プロファイルを使用すれば、デバイス依存のRGB画像データをLab色空間の画像データであるLab画像データに変換できる。これにより、画像形成装置100は、デバイス依存のRGB画像データを、Lab色空間を経由して、例えばsRGB画像データ等に変換してスキャンデータとして出力できる。
【0016】
画像形成部120は、出力プロファイルで定義される特性を有している。出力プロファイルを使用すれば、Lab画像データを、例えばCMYKのインク色を含む6色乃至12色の色空間の画像データである色材画像データに変換できる。出力プロファイルには、CMYK等の各インクのインク階調値とインク吐出量との関係が印刷用紙毎に登録されている。
【0017】
画像形成装置100は、入力プロファイルと出力プロファイルとを組合せたデバイスリンクプロファイルをさらに有している。デバイスリンクプロファイルを使用すれば、複写処理において、色変換処理の負担を軽減しつつ印刷速度を向上できる。
【0018】
画像形成部120の色変換処理部121は、入力された画像データに基づく画像の形成時には、出力プロファイルを使用して、Lab画像データを色材画像データに変換する。色材画像データは、画像形成部120で利用可能なCMYK等の色材(この例ではインク)で画像を再現するためのデバイス依存(すなわち、画像形成部120に依存)の画像データである。
【0019】
画像形成部120のハーフトーン処理部122は、色材画像データに対してRIP処理を実行して、ドットデータを生成する。ドットデータは、各色のインクで形成される、印刷用紙上のドットの形成状態を表すビットマップデータである。例えば6色機では、CMYKLcLm、又は、CMYK+Orange+Green等の色材を利用可能である。Lcは、Cよりも濃度が低い淡シアン色のインクである。Lmは、Mよりも濃度が低い淡マゼンタ色のインクである。
【0020】
画像形成部120は、ドットデータに基づいて印刷用紙に画像を形成する。この例では、画像形成部120は、PC200から受信した画像形成ジョブに基づいて、印刷用紙に画像を形成する。印刷用紙は、画像形成媒体とも呼ばれる。
【0021】
PC200は、制御部210と、操作表示部230と、記憶部240と、通信インターフェース部250(以下、通信I/F250と記す。)と、を備えている。制御部210は、入力画像解析部211として機能する。操作表示部230は、モニタープロファイルで定義される特性を有する。操作表示部230は、タッチパネルとして機能するディスプレイ、各種ボタン、又はスイッチに対するユーザーの操作入力(以下、単にユーザー入力と記す。)を受付ける。記憶部240は、操作表示部230のディスプレイ用のICCプロファイル(すなわち、モニタープロファイル)を格納している。入力画像解析部211の機能については後述する。
【0022】
統合管理サーバ700は、制御部710と、管理データベース(以下、管理DBと記す。)740と、通信インターフェース部750(以下、通信I/F750と記す。)と、を備えている。制御部710は、色管理部711として機能する。色管理部711の機能については後述する。
【0023】
管理DB740は、リソース情報と画像特性情報とを格納している。リソース情報は、複数の画像形成装置100のそれぞれで提供可能な提供サービスの内容(例えばカラーインクジェット印刷)と単位時間当たりの提供分量(例えば単位時間当たりの印刷サイズ及び印刷ページ数)とを含んでいる。リソース情報は、複数の画像形成装置100の稼働状況(予約状況を含む。)を表すスケジュール情報を含む。制御部710は、複数の画像形成装置100の稼働状況、メインテナンス状況、利用可能時間帯、又は、資材若しくは印刷用紙を含む資材在庫等のリソースの状態に基づいて、リソース情報を更新する。画像特性情報は、複数の画像形成装置100のうちの少なくとも一部で共通して使用される共通プロファイルを含んでいる。
【0024】
制御部110,210,710は、RAM及びROM等の主記憶装置、並びに、MPU(Micro Processing Unit)又はCPU(Central Processing Unit)等の制御装置を備えている。制御部110,210,710は、各種I/O、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)、バス、及びその他のハードウェア等のインターフェースに関連するコントローラ機能を備えている。制御部110,210,710は、それぞれ、画像形成装置100、PC200、及び統合管理サーバ700の全体を制御する。
【0025】
記憶部140,240は、非一時的な記録媒体であるハードディスクドライブ又はフラッシュメモリー等の記憶装置である。記憶部140,240は、それぞれ、制御部110,210が実行する制御プログラム(例えば、画像形成制御プログラム)及びデータを記憶する。
【0026】
図3は、画像形成装置100A乃至100Eの色域を示す色度図である。12色機である画像形成装置100Aは、最も広い色域CGAを有している。10色機である画像形成装置100Bは、2番目に広い色域CGBを有している。8色機である画像形成装置100Cは、3番目に広い色域CGCを有している。8色機である画像形成装置100Dは、画像形成装置100Bとほぼ同一の色域CGDを有している。6色機である画像形成装置100Eは、最も狭い色域CGEを有している。
【0027】
画像形成装置100A乃至100Eは、それぞれが有する色域(ガマット)の範囲内で原画像と視覚的に同一の画像(すなわち見た目が同一の画像)を形成するために、色差に着目したガマットマッピングを実行して、出力プロファイルを設定している。ここで、色差とは、画像内の相対的な色の差を示す。出力プロファイルは、個別プロファイルの一部として画像形成装置10毎に設定されている。
【0028】
ガマットマッピングは、複数の画像形成装置100のそれぞれが有する色域を有効活用して原画像を再現するという観点から設定されている。そのため、色再現領域が相互に相違する複数の画像形成装置100を使用して同一画像データに基づく画像を形成することを想定していない。したがって、色域が相互に相違する複数の画像形成装置100を使用して同一画像データに基づく画像を形成し、形成された複数の画像を並べて比較すると色が違って見えるという問題が生じる。本願発明者は、この問題は、オンデマンド印刷において大量の部数の印刷を複数の画像形成装置100で実行する際に大きな問題となると考えている。
【0029】
図4は、画像形成装置100A乃至100Eによる再現画像の色域(ガマット)を比較して示す図である。
図4は、12色機である画像形成装置100Aが有する最も広いガマットGRを基準として、他の画像形成装置100B乃至100Eが有するガマットGC1乃至GC3を示している。色域ID1は、画像形成対象の画像データである第1画像データの再現対象色域を示している。再現対象色域とは、画像データで再現される色の色域を示す。色域ID2は、画像形成対象の画像データである第2画像データの再現対象色域を示している。色域ID1及び色域ID2は、12色機である画像形成装置100Aで再現可能な色域である。本実施形態では、12色機である画像形成装置100Aを、基準装置とする。
【0030】
第1画像データの色域ID1は、12色機である画像形成装置100A及び10色機である画像形成装置100Bで再現可能な色域内の色で構成されている。一方、色域ID1は、他の画像形成装置100C乃至100Eで再現不可能な色を含んでいる。第2画像データの色域ID2は、画像形成装置100A乃至100Eの全てで再現可能である。しかしながら、画像形成装置100A乃至100Eのガマットマッピングは、画像形成装置100A乃至100Eのそれぞれが有する色域を有効活用して原画像を再現するという観点から設定されている。そのため、同一画像データに基づいて画像形成装置100A乃至100Eにより形成された複数の画像を並べて比較すると、色が違って見える場合がある。
【0031】
複数の画像形成装置100の色域は、一般的にはインクデューティー制限に基づいて設定されている。インクデューティー制限とは、画像形成媒体上に打ち込むことが可能なインク量の制限を示す。インクジェット方式の印刷では、画像形成部120は、複数色のインクを画像形成媒体上へ打ち込むことによって減法混色により色再現を行なう。利用可能なインク色の種類が少ないほど混色の割合が多くなるので、インクデューティー制限に起因して色域が狭くなる傾向がある。すなわち、使用可能なインク色が少なくなるほど、画像形成装置100の色域が狭くなる。この例では、12色のインクを使用可能な画像形成装置100Aが最も広い色域を有している。
【0032】
図5は、仮想ガマット校正処理の内容を示すフローチャートである。仮想ガマット校正処理とは、仮想の画像形成装置100を想定して設定されている仮想ガマットに基づいて校正を行なうための処理である。仮想ガマットは、複数の画像形成装置100で共通して使用される。この例では、相互に広さが異なる仮想ガマットは、複数の画像形成装置100の少なくとも一部の画像形成装置100の間で共通に使用される。
【0033】
ステップS10では、ユーザーは、対象装置設定処理を実行する。対象装置設定処理では、ユーザーは、PC200の操作表示部230を操作して、画像形成装置100A乃至100Eの中から、仮想ガマット校正処理の対象となる対象装置を選択して設定する。この例では、ユーザーは、画像形成装置100A乃至100Eの全てを、対象装置として選択して設定したものとする。
【0034】
ステップS20では、PC200の制御部211は、基準装置設定処理を実行する。基準装置設定処理では、制御部211は、画像形成装置100A乃至100Eの中で最も広い色域を有する画像形成装置100(この例では、画像形成装置100A)を選択して、基準装置として設定する。
【0035】
基準装置の色域の外縁は、EPT(End Point Target)100%として定義する。EPTとは、インクデューティー制限に起因して設定されているインク量を示す。この例では、画像形成装置100BのEPTは98%であり、画像形成装置100C及び画像形成装置100DのEPTは97%であり、画像形成装置100EのEPTは95%であるものとする。画像形成装置100B乃至100EのEPTは、管理データベース740に登録されている。
【0036】
ステップS30では、制御部211は、最狭仮想ガマットを設定する。この例では、制御部211は、最狭仮想ガマットとして95%のEPTを外縁とする仮想ガマットを設定する。ユーザーは、画像形成システム10において共通ガマット校正処理(ステップS40)を繰返して実行する(ステップS40)。すなわち、ユーザーは、95%、96%、97%、98%、99%及び100%の各EPTに対応する6つの仮想ガマット毎に共通ガマット校正処理を実行する(ステップS40,ステップS50,ステップS60)。以下、例えば95%EPTに対応する仮想ガマットを、95%仮想ガマットと記す場合がある。
【0037】
この例では、画像形成装置100A乃至100Eの校正処理部111は、最も広い色域を有する最広仮想ガマット(100%仮想ガマット)と最も狭い色域を有する最狭仮想ガマット(95%仮想ガマット)とを含む複数の仮想ガマットの再現色のそれぞれを基準として、共通する色校正を行なう。
【0038】
図6は、共通ガマット校正処理の内容を示すフローチャートである。共通ガマット校正処理は、画像形成装置100B乃至100Eのそれぞれが再現可能な色域内で、基準装置(この例では、画像形成装置100A)の画像形成をシミュレートするための模擬プロファイルを生成するための処理である。
【0039】
ステップS41では、基準装置として設定されている画像形成装置100Aの制御部110は、基準画像形成処理として、画像形成部120に対し、色校正のための所定のカラーチャートを出力させる。ステップS42では、ユーザーは、測色処理として、例えば測色計を使用してカラーチャート上の色を測色する。ステップS43では、ユーザーは、基準色設定処理として、画像形成装置100B乃至100Eそれぞれの操作表示部130を操作して、例えば測色計の計測値を使用して基準色を設定する。
【0040】
ステップS44では、ユーザーは、校正対象となる画像形成装置100を、画像形成装置100B乃至100Eの中から順に選択する。この例では、ユーザーは、最初に、画像形成装置100Bを選択したものとする。ステップS45では、選択された画像形成装置100Bの校正処理部111は、基準色に基づいて校正処理を実行し、模擬プロファイルを生成する。
【0041】
画像形成装置100Bの制御部110は、通信I/F150を通じて、生成した模擬ンプロファイルを統合管理サーバ700に送信する。統合管理サーバ700の制御部710は、通信I/F750を通じて模擬プロファイルを受信すると、当該模擬プロファイルを、画像形成装置100B用の共通プロファイルとして、管理DB740に登録する。ユーザーは、ステップS44及びステップS45の処理を、他の画像形成装置100C乃至100Eに対して順に実行させる。画像形成装置100B乃至100Eの全てがステップS44及びステップS45の処理を実行すると(ステップS46にてYES)、共通ガマット校正処理は終了する。
【0042】
共通ガマット校正処理により、画像形成装置100B乃至100Eは、それぞれに設定されている模擬プロファイル等を用いて、基準装置と物理的(見た目ではなく)に同一の画像を模擬的に再現できるようになる。ただし、画像形成装置100B乃至100Eは、模擬プロファイルを用いて、基準装置としての画像形成装置100Aと同じような色を再現可能である一方、再現不可能な範囲の色再現が飽和することにより、見た目にも劣化した色を再現してしまうという特性を有している。
【0043】
図7は、画像形成処理の内容を示すフローチャートである。本実施形態では、オンデマンド印刷を行なう事業者による画像形成処理を想定しているものとする。オンデマンド印刷とは、小ロット且つ短納期で印刷物を提供するサービスである。本実施形態では、ユーザーは、オンデマンド印刷を行なう事業者の従業員である。
【0044】
ステップS100では、ユーザーは、画像データ入力処理を実行する。画像データ入力処理では、ユーザーは、オンライン又は記憶媒体を介して顧客から取得した画像データを複数のPC200のうちの一つに入力する。この例では、顧客により、印刷部数又は納期等の観点から、複数の画像形成装置100の利用を望む発注があったものとする。
【0045】
ステップS200では、画像データが入力されたPC200の制御部210は、装置検索処理を実行する。装置検索処理では、制御部210は、通信可能な画像形成装置100を検索し、検索した画像形成装置100が有するガマットを示すデータを取得する。この例では、制御部210は、基準ガマットGR及びガマットGC1乃至GC3のそれぞれを示すデータを取得する。
【0046】
ステップS300では、制御部210の入力画像解析部211は、画像データ解析処理を実行する。画像データ解析処理では、入力画像解析部211は、所定のアプリケーションプログラムを起動し、画像データ解析処理を実行する。画像データ解析処理では、入力画像解析部211は、画像形成対象の画像データをLab画像データに変換する。入力画像解析部211は、所定の変換プログラムを使用して、sRGB色空間又はAdobeRGB色空間の画像データを処理することによって、当該変換を実現する。このようにして、入力画像解析部211は、Lab画像データを取得する。
【0047】
画像データ解析処理では、入力画像解析部211はさらに、Lab画像データによって表される色域が基準ガマットGR及びガマットGC1乃至GC3のそれぞれの範囲内であるか否かを判断する。基準ガマットGRは、最も広い色域を有するが故に基準装置として選択される画像形成装置100Aが有する色域である。具体的には、入力画像解析部211は、Lab画像データが色域ID1を表す場合には、基準ガマットGR及びガマットGC1のみが色域ID1を包含していると判断する。入力画像解析部211は、Lab画像データが色域ID2を表す場合には、基準ガマットGR及びガマットGC1乃至GC3の全てが色域ID2を包含していると判断する。
【0048】
ステップS400では、入力画像解析部211は、Lab画像データの色再現に全ての画像形成装置100が対応しているか否かを、ローカルエリアネットワーク(LAN)を介して統合管理サーバ700に照会する。この例では、入力画像解析部211は、色域ID1を再現対象とする第1画像データが入力された場合には、処理をステップS500に進める。入力画像解析部211は、色域ID2を再現対象とする第2画像データが入力された場合には、処理をステップS700に進める。
【0049】
ステップS500では、統合管理サーバ700の色管理部711は、装置抽出処理を実行する。装置抽出処理では、色管理部711は、第1画像データが入力された場合には、基準ガマットGRを有する画像形成装置100Aと、ガマットGC1を有する画像形成装置100Bとを抽出し、抽出結果をPC200に送信する。PC200の制御部210は、抽出結果を受信すると、処理をステップS600に進める。
【0050】
図8は、利用装置設定処理の内容を示すフローチャートである。利用装置設定処理は、印刷部数、納期、又は、複数の画像形成装置100の空き状態等の情報に基づいて画像形成処理に利用するための画像形成装置100を設定するための処理である。
【0051】
ステップS610では、PC200の制御部210は、複数の画像形成装置100について、模擬画像生成処理を実行する。この例では、模擬画像生成処理において、制御部210はまず、画像形成装置100Bで、基準装置である画像形成装置100Aの画像形成をシミュレートするための最新の模擬プロファイル(すなわち、最後の校正処理後の模擬プロファイル)を、統合管理サーバ700から取得する。制御部210は、取得した模擬プロファイルを使用して、画像形成装置100Bについての、入力された画像データに基づく模擬画像を示す模擬画像データを生成する。制御部210はさらに、画像形成装置100C乃至画像形成装置100Eについても同様の処理を行なう。
【0052】
ステップS620では、制御部210は、モニタープロファイルを使用して、入力された画像データに基づく画像形成装置100Aの再現画像と、模擬画像データのそれぞれに基づく画像形成装置100B乃至100Eそれぞれの再現画像とを含む、
図9Aに示すユーザーインターフェース画面D1を、操作表示部230に表示させる。
【0053】
制御部210は、操作表示部230に対し、ユーザーインターフェース画面D1に、画像形成装置100Aの再現画像、及び、画像形成装置100B乃至100Eそれぞれの再現画像としての4つの模擬画像とを含む5つの再現画像を表示させている。制御部210はさらに、操作表示部230に対し、ユーザーインターフェース画面D1に、「画像形成装置は、スライドバーの操作で増減できます。」というテキストT1と、スライドバーSB1と、利用可能な装置数(この例では2)とを表示させている。
【0054】
5つの再現画像は、複数の画像形成装置100の利用可能性を表している。すなわち、制御部210は、操作表示部230に対し、画像形成装置100B乃至100Eのそれぞれの模擬画像のうち、画像形成装置100C乃至100Eのそれぞれの模擬画像に、利用不可であることを示す×印を付させている。したがって、ユーザーインターフェース画面D1は、画像形成装置100A及び画像形成装置100Bだけが、仮想ガマット内での画像形成処理が可能であることを示している。この例では、画像形成システム10において、初期許容EPTとして98%が設定されており、色管理部711が、画像形成装置100A(EPT=100%)及び画像形成装置100B(EPT=98%)を抽出したものとする。
【0055】
ステップS630では、制御部210は、装置選択処理を実行する。装置選択処理では、制御部210は、ユーザーインターフェース画面D1を介して、画像形成装置100A及び画像形成装置100Bに対するユーザーの選択を受付ける。
【0056】
ステップS640では、制御部210は、納期推定処理を実行する。納期推定処理では、制御部210は、統合管理サーバ700の管理データベース740から、選択された複数の画像形成装置100の使用予定を表すスケジュール情報を取得する。制御部210は、スケジュール情報に基づいて、画像成形処理のシミュレーションを実行して、画像形成処理の完了までに要する時間、すなわち納期を算出する。制御部210は、操作入力画面としてのユーザーインターフェース画面D1を介した画像形成装置100の選択状態と印刷部数とに応じて上記のようにして納期をリアルタイムで計算し、計算結果を操作表示部230に表示させる。
【0057】
ステップS650では、ユーザーは、ユーザーインターフェース画面D1を介して選択した複数の画像形成装置100について、例えば発注者と協議しつつ印刷部数又は納期等の観点から発注の仕様を満たすことができるか否かを判断する。
【0058】
ユーザーは、発注者の要求に応じることができると判断した場合(この例では、納期を満たす場合)には、「次画面」を示すアイコンN(次画面)をクリックして複数の画像形成装置100の選択を確定する(ステップS650にてYES)。ステップS670において、制御部210は、操作表示部230に対し、次のユーザーインターフェース画面を表示させる。
【0059】
一方、ユーザーは、発注者の要求に応じることができないと判断した場合(この例では、納期を満たさない場合)には、
図9Bに示すように、スライドバーSBを操作して、選択可能な画像形成装置100を増やすことができる(ステップS650にてNO)。制御部210は、スライドバーSBに対する操作に応じてステップS660の処理に進む。ステップS660では、制御部210は、再現範囲調整処理を実行する。
【0060】
図9Aに示すユーザーインターフェース画面D1では、スライドバーSBは、初期値として98%EPTが設定されていることを示している。再現範囲調整処理では、ユーザーは、模擬画像で画質を確認しつつスライドバーSBを操作して、許容される最狭の仮想ガマット(許容最狭仮想ガマット)を97%仮想ガマットまで下げる(切り替え又は変更)。制御部210は、スライドバーSBに対する上記操作を受付けると、
図9Bに示すように、操作表示部230に対し、ユーザーインターフェース画面D1において、画像形成装置100C及び画像形成装置100Dも選択可能に表示させる。
【0061】
制御部210は、次のユーザーインターフェース画面を介して、選択した複数の画像形成装置100のスケジュールの確保指示を受付けると、通信I/F250を通じて、画像形成ジョブを統合管理サーバ700に送信する。統合管理サーバ700の制御部710は、通信I/F750を通じて画像形成ジョブを受信すると、選択された複数の画像形成装置100の予約処理を実行する。制御部710は、通信I/F750を通じて、予定通りに、選択された複数の画像形成装置100に対して画像形成ジョブを送信する。
【0062】
なお、制御部210は、操作表示部230を介して、テスト印刷を行なうためのユーザー入力を受け付けた場合に、少なくとも一部の画像形成装置100に対して、テスト印刷を実際に実行させるように構成されていてもよい。
【0063】
図7に示すステップS700では、統合管理サーバ700の制御部710は、画像形成ジョブ生成部として機能する。制御部710は、予約状態に応じて、予約されている複数の画像形成装置100に画像形成ジョブを送信する。画像形成ジョブには、想定した仮想ガマットに対応する画像形成装置100毎の模擬プロファイルが含まれている。
【0064】
ステップS800では、複数の画像形成装置100のそれぞれの制御部110は、模擬プロファイルを使用して、仮想ガマットを想定して画像形成処理を実行する。具体的には、例えば許容EPTがスライドバーSBの操作によって97%に切替えられている場合には、台の画像形成装置100A乃至100Dは、仮想ガマット(EPT=97%)を想定した共通ガマット校正処理によって校正された各模擬プロファイルを使用して、同一の印刷物を出力する。4台の画像形成装置100A乃至100Dは、相互に異なる色域を有しているが、共通する仮想ガマットを想定したガマットマッピングを前提とする画像形成処理によって、単一で見た場合の見た目だけではなく、相互比較する場合であっても、再現性の高い画像再現を実現できる。
【0065】
このように、画像形成システム10は、同一画像データに基づく画像の形成に利用可能な画像形成装置100の数の低減を抑制しつつ、広い色域を想定した再現性の高い画像形成を実現できる。なお、上記実施形態では、印刷物の納期に着目してスライドバーSBの操作の必要性を説明している。しかしながら、スライドバーSBの利用目的はこのような要因に限定されない。スライドバーSBは、特定の画像形成装置100への負荷集中の回避等の様々な目的のために利用可能である。
【0066】
本発明は、上記実施形態だけでなく、以下のような変形例でも実施できる。
【0067】
第1変形例:上記実施形態では、校正処理部110は、最広仮想ガマットとして、複数の画像形成装置100のうちで再現可能な色域が最も広い基準装置の色域を設定しているが、本発明はそのような実施形態に限定されない。校正処理部110は、最広仮想ガマットとして、例えば再現可能な色域が2番目又は3番目に広い画像形成装置の色域を設定してもよい。ただし、最広仮想ガマットとして基準装置の色域を設定すれば、より広い色域を想定した色再現が可能になるので、再現性のより一層高い画像形成が可能になる。
【0068】
第2変形例:上記実施形態では、同一のローカルエリアネットワーク内(すなわち、同一ショップ内)の複数の画像形成装置100を対象としているが、本発明はそのような実施形態に限定されない。例えば、同一ショップ内の複数の画像形成装置100だけでなく、統合管理サーバ700を介して接続されている他のショップの画像形成装置も対象として含んでいてもよい。この場合、対象装置設定処理(ステップS10)では、ユーザーは、PC200の操作表示部230を操作して、統合管理サーバ700を介して接続されている他のショップの画像形成装置を対象装置として選択できる。
【0069】
第3変形例:上記実施形態では、画像形成システム10を、PC200の制御部210、複数の画像形成装置100の制御部210、及び統合管理サーバ700の制御部710等の組合せにより実現しているが、本発明はそのような実施形態に限定されない。例えば、画像形成システム10を、画像形成システム10が備えているいずれかの制御部のみで実現してもよい。