(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】光学シートおよび光学部品
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20241001BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20241001BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241001BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20241001BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G02B5/26
G02B5/28
G02B5/30
G02B1/04
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2023560774
(86)(22)【出願日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2023013006
(87)【国際公開番号】W WO2023190778
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2022055736
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 和房
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/086067(WO,A1)
【文献】特開2013-101330(JP,A)
【文献】特開2021-045924(JP,A)
【文献】特開2015-055818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
G02B 5/28
G02B 5/30
G02B 1/04
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する樹脂材料を主材料として構成される第1基材と、
前記第1基材の一方の面に接合して設けられ、高屈折率層と低屈折率層とを交互に繰り返し積層した積層体からなるハーフミラー層と、
前記樹脂材料を主材料として構成され、前記ハーフミラー層の前記第1基材と反対側の面に接合して設けられた第2基材とを備える光学シートであって、
前記ハーフミラー層において、前記高屈折率層の屈折率は、前記低屈折率層の屈折率よりも高く、
前記第1基材と前記ハーフミラー層との界面は、前記第1基材と前記ハーフミラー層との連続層を形成し、前記第2基材と前記ハーフミラー層との界面は、前記第2基材と前記ハーフミラー層との連続層を形成して
おり、
前記ハーフミラー層は、波長589nmにおける厚み方向位相差(Rth)が300nm以下であることを特徴とする光学シート。
【請求項2】
前記高屈折率層を構成する主材料のガラス転移点をTg1とし、前記低屈折率層を構成する主材料のガラス転移点をTg2としたとき、Tg1,Tg2≧105℃である請求項1に記載の光学シート。
【請求項3】
前記ガラス転移点Tg1と前記ガラス転移点Tg2とは、0℃≦|Tg1-Tg2|≦60℃なる関係を満足する請求項2に記載の光学シート。
【請求項4】
前記ガラス転移点Tg1と前記ガラス転移点Tg2とのうち低い方のガラス転移点は、110℃以上250℃以下である請求項2または3に記載の光学シート。
【請求項5】
前記高屈折率層の波長589nmでの屈折率をN1とし、前記低屈折率層の波長589nmでの屈折率をN2としたときの屈折率差(N1-N2)は、0.05以上0.25以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項6】
前記高屈折率層および前記低屈折率層は、それぞれ、その平均厚さが50nm以上300nm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項7】
前記ハーフミラー層において、前記高屈折率層と前記低屈折率層とが交互に繰り返して積層される繰り返し数は、50回以上750回以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項8】
前記高屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg1と前記低屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、当該光学シートを曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シートとしたときの該湾曲光学シートの波長589nmの光の反射率をR1[%]とし、
前記湾曲光学シートを、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、前記湾曲光学シートの波長589nmの光の反射率をR2[%]としたとき、R2/R1×100[%]で求められる反射率保持性が80%以上である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項9】
前記高屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg1と前記低屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、当該光学シートを曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シートとし、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、前記第1基材と前記ハーフミラー層との間、または、前記第2基材と前記ハーフミラー層との間に、剥離が生じている前記湾曲光学シートの数が、前記湾曲光学シート50個中、2個以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項10】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学シートを備えることを特徴とする光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学シートおよび光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡、サングラスのようなアイウエアが備えるレンズとして、その意匠性の向上を図ることを目的に、特定の波長領域の光を選択的に反射し、それ以外の波長領域の光を透過するハーフミラー層を備える光学シートを、その表面に有するレンズが提案されている。
【0003】
このような光学シートを表面に有するレンズは、例えば、平面視で平板状をなす光学シートを用意し、この光学シートの両面に保護フィルムを貼付した状態で、平面視で円形状等の所定の形状に、光学シートを打ち抜く。その後、この光学シートに加熱下で熱曲げ加工を施すことで、熱曲げにより湾曲形状とされた、湾曲凸面と湾曲凹面とを備える湾曲光学シートとする。そして、湾曲光学シートから、保護フィルムを剥離させた後に、湾曲形状とされた凹部を備える金型に、金型の凹部と湾曲光学シートの凸部とが当接するようにして、湾曲光学シートを吸着させた状態とする。この状態で、インサート射出成形法を用いて、この湾曲光学シートの凹面に樹脂材料を主材料として構成される樹脂層(成形層)を形成することにより光学シートを表面に有するレンズが製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなレンズの製造方法では、前述の通り、光学シートを熱曲げする熱曲げ加工を施すことで、光学シートの一方の面が湾曲凹面とされ、他方の面が湾曲凸面とされた湾曲光学シートが得られこととなるが、この熱曲げ加工において、光学シートは、優れた加工性を有することが求められている。
【0005】
そのため、特定の波長領域の光を選択的に反射し、それ以外の波長領域の光を透過するハーフミラー層を備える光学シートについて、優れた加工性を有する光学シートの開発が求められているのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特定の波長領域の光を選択的に反射し、それ以外の波長領域の光を透過するハーフミラー層を備える光学シートにおいて、優れた加工性を発揮することができる光学シート、および、かかる光学シートを備える、信頼性に優れた光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~(10)に記載の本発明により達成される。
(1) 光透過性を有する樹脂材料を主材料として構成される第1基材と、
前記第1基材の一方の面に接合して設けられ、高屈折率層と低屈折率層とを交互に繰り返し積層した積層体からなるハーフミラー層と、
前記樹脂材料を主材料として構成され、前記ハーフミラー層の前記第1基材と反対側の面に接合して設けられた第2基材とを備える光学シートであって、
前記ハーフミラー層において、前記高屈折率層の屈折率は、前記低屈折率層の屈折率よりも高く、
前記第1基材と前記ハーフミラー層との界面は、前記第1基材と前記ハーフミラー層との連続層を形成し、前記第2基材と前記ハーフミラー層との界面は、前記第2基材と前記ハーフミラー層との連続層を形成しており、
前記ハーフミラー層は、波長589nmにおける厚み方向位相差(Rth)が300nm以下であることを特徴とする光学シート。
【0009】
(2) 前記高屈折率層を構成する主材料のガラス転移点をTg1とし、前記低屈折率層を構成する主材料のガラス転移点をTg2としたとき、Tg1,Tg2≧105℃である上記(1)に記載の光学シート。
【0010】
(3) 前記ガラス転移点Tg1と前記ガラス転移点Tg2とは、0℃≦|Tg1-Tg2|≦60℃なる関係を満足する上記(2)に記載の光学シート。
【0011】
(4) 前記ガラス転移点Tg1と前記ガラス転移点Tg2とのうち低い方のガラス転移点は、110℃以上250℃以下である上記(2)または(3)に記載の光学シート。
【0012】
(5) 前記高屈折率層の波長589nmでの屈折率をN1とし、前記低屈折率層の波長589nmでの屈折率をN2としたときの屈折率差(N1-N2)は、0.05以上0.25以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の光学シート。
【0013】
(6) 前記高屈折率層および前記低屈折率層は、それぞれ、その平均厚さが50nm以上300nm以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の光学シート。
【0014】
(7) 前記ハーフミラー層において、前記高屈折率層と前記低屈折率層とが交互に繰り返して積層される繰り返し数は、50回以上750回以下である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の光学シート。
【0016】
(8) 前記高屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg1と前記低屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、当該光学シートを曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シートとしたときの該湾曲光学シートの波長589nmの光の反射率をR1[%]とし、
前記湾曲光学シートを、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、前記湾曲光学シートの波長589nmの光の反射率をR2[%]としたとき、R2/R1×100[%]で求められる反射率保持性が80%以上である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の光学シート。
【0017】
(9) 前記高屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg1と前記低屈折率層を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、当該光学シートを曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シートとし、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、前記第1基材と前記ハーフミラー層との間、または、前記第2基材と前記ハーフミラー層との間に、剥離が生じている前記湾曲光学シートの数が、前記湾曲光学シート50個中、2個以下である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の光学シート。
【0018】
(10) 上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の光学シートを備えることを特徴とする光学部品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高屈折率層と低屈折率層とが交互に繰り返して積層された積層体で構成される繰り返し部を備えるハーフミラー層と、このハーフミラー層に接合して設けられた第1基材および第2基材とは、第1基材とハーフミラー層との界面において、第1基材とハーフミラー層との連続層を形成し、第2基材とハーフミラー層との界面において、第2基材とハーフミラー層との連続層を形成している。そのため、光学シートの一方の面を湾曲凹面とし、他方の面を湾曲凸面として湾曲光学シートを得る、熱曲げ加工を光学シートに施したとしても、第1基材とハーフミラー層との界面、および、第2基材とハーフミラー層との界面において、これら同士の剥離が生じるのを、的確に抑制または防止することができる。したがって、優れた加工性を備える光学シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の光学シートを湾曲形状とした湾曲光学シートを有するレンズを備えるサングラスの実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の光学シートを湾曲形状とした湾曲光学シートを有するレンズの製造方法を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の光学シートの第1実施形態を示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、
図3中の一点鎖線で囲まれた領域[B]に位置する、光学シートが備えるハーフミラー層の一部を拡大した拡大断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の光学シートの第2実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の光学シートおよび光学部品を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明の光学シートは、光透過性を有する樹脂材料を主材料として構成される第1基材と、前記第1基材の一方の面に接合して設けられ、高屈折率層と低屈折率層とを交互に繰り返し積層した積層体を備えるハーフミラー層と、前記樹脂材料を主材料として構成され、前記ハーフミラー層の前記第1基材と反対側の面に接合して設けられた第2基材とを備える。また、前記ハーフミラー層において、前記高屈折率層の屈折率は、前記低屈折率層の屈折率よりも高く、前記第1基材と前記ハーフミラー層との界面は、前記第1基材と前記ハーフミラー層との連続層を形成し、前記第2基材と前記ハーフミラー層との界面は、前記第2基材と前記ハーフミラー層との連続層を形成している。
【0023】
このように、本発明では、ハーフミラー層と第1基材および第2基材とは、第1基材とハーフミラー層との界面において、第1基材とハーフミラー層との連続層を形成し、第2基材とハーフミラー層との界面において、第2基材とハーフミラー層との連続層を形成している。そのため、光学シートの一方の面を湾曲凹面とし、他方の面を湾曲凸面として湾曲光学シートを得る、熱曲げ加工を光学シートに施したとしても、第1基材とハーフミラー層との界面、および、第2基材とハーフミラー層との界面において、これら同士の剥離が生じるのを、的確に抑制または防止することができる。したがって、優れた加工性を備える光学シートを得ることができる。
【0024】
本発明の光学シートを、加熱下における熱曲げ加工を施すことで得られる、湾曲凸面と湾曲凹面とを備える湾曲形状とされた湾曲光学シートは、例えば、眼鏡の一種であるサングラスが備えるレンズが有する湾曲状をなす樹脂基板(湾曲樹脂基板)として、このレンズにハーフミラー性を付与するために使用される。そこで、以下では、まず、本発明の光学シートを説明するのに先立って、このサングラスについて説明する。
【0025】
<サングラス>
図1は、本発明の光学シートを湾曲形状とした湾曲光学シートを有するレンズを備えるサングラスの実施形態を示す斜視図である。なお、
図1において、サングラスを使用者の頭部に装着した際に、レンズの使用者の目側の面を裏側の面と言い、その反対側の面を表側の面と言う。
【0026】
サングラス100は、
図1に示すように、フレーム20と、レンズ30(眼鏡用レンズ)とを備えている。
【0027】
なお、本明細書中において、「レンズ(眼鏡用レンズ)」とは、集光機能を有するレンズと、集光機能を有していないレンズとの双方を含むこととする。
【0028】
フレーム20は、使用者の頭部に装着され、レンズ30を使用者の目の前方近傍に配置させるための部材である。
【0029】
このフレーム20は、リム部21と、ブリッジ部22と、テンプル部23と、ノーズパッド部24とを有している。
【0030】
リム部21は、リング状をなし、右目および左目にそれぞれ対応して1つずつ設けられており、内側にレンズ30が装着される。これにより、使用者は、レンズ30を介して、外部の情報を視認することができる。
【0031】
また、ブリッジ部22は、棒状をなし、使用者の頭部に装着された際に、使用者の鼻の上部の前方に位置して、一対のリム部21を連結する。
【0032】
テンプル部23は、つる状をなし、各リム部21のブリッジ部22が連結されている位置の反対側における縁部に連結されている。このテンプル部23は、使用者の頭部に装着する際に、使用者の耳に掛けられる。
【0033】
ノーズパッド部24は、サングラス100を使用者の頭部に装着する際に、各リム部21における使用者の鼻に対応する縁部に設けられ、使用者の鼻に当接し、このとき使用者の鼻の当接部に対応した形状をなしている。これにより、装着状態を安定的に維持することができる。
【0034】
フレーム20を構成する各部の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種金属材料や、各種樹脂材料等を用いることができる。なお、フレーム20の形状は、使用者の頭部に装着することができれば、図示の形状に限定されない。
【0035】
レンズ30(本発明の光学部品)は、各リム部21に、それぞれ装着されている。このレンズ30は、光透過性を有し、全体形状が外側に向って湾曲した板状をなす部材であり、樹脂層35(成形層)と、湾曲光学シート10とを有している。
【0036】
樹脂層35は、光透過性を有し、レンズの裏側に位置し、レンズ30に、集光機能を付与する際には、この樹脂層35が集光機能を有している。
【0037】
樹脂層35の構成材料としては、光透過性を有する樹脂材料であれば、特に限定されないが、例えば、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のような各種硬化性樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられるが、中でも、後述する湾曲光学シート10が備える第1基材11を主材料として構成する樹脂材料と、同種もしくは同一であるのが好ましい。これにより、樹脂層35と湾曲光学シート10との密着性の向上を図ることができる。また、樹脂層35と湾曲光学シート10(第1基材11)との間における屈折率差を低く設定することができるため、樹脂層35と湾曲光学シート10との間において、光が乱反射されるのを的確に抑制または防止し得ることから、優れた光透過率をもって、樹脂層35と湾曲光学シート10との間で光を透過させることができる。なお、樹脂層35と湾曲光学シート10(第1基材11)との間における屈折率差は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。これにより、前記屈折率差を低く設定することで得られる効果を、より顕著に発揮させることができる。
【0039】
樹脂層35の厚さは、特に限定されず、例えば、0.5mm以上5.0mm以下であるのが好ましく、1.0mm以上3.0mm以下であるのがより好ましい。これにより、レンズ30における、比較的高い強度と、軽量化との両立を図ることができる。
【0040】
湾曲光学シート10は、樹脂層35の外側の面、すなわち、湾曲凸面上に、かかる形状に対応して湾曲形状をなして接合される湾曲樹脂基板であり、この湾曲光学シート10をレンズ30が備えることにより、サングラス100にハーフミラー性が付与される。その結果、サングラス100が、ハーフミラー性を有するサングラスとしての機能を発揮する。この湾曲光学シート10が、本発明の光学シートを湾曲形状として構成されるが、その詳細な説明は、後に行うこととする。
【0041】
なお、前述の通り、サングラス100が備えるレンズ30は、集光機能を有するレンズであっても、集光機能を有していないレンズのいずれであってもよい。
【0042】
また、サングラス100は、前述のように、フレーム20を有するサングラスの他、ファッション性、軽量性等の観点から、フレームのない構成をなしてもよい。
【0043】
さらに、本実施形態では、レンズ30を備える眼鏡を、サングラス100に適用することとしたが、これに限定されず、この眼鏡は、例えば、度付き眼鏡、伊達メガネ、風雨、塵芥、薬品等から眼を保護するゴーグル等であってもよい。
【0044】
以上のような構成をなすサングラス100(眼鏡)において、サングラス100が備えるレンズ30は、例えば、以下に示すような、レンズ30の製造方法を経ることで製造される。
【0045】
<レンズの製造方法>
図2は、本発明の光学シートを湾曲形状とした湾曲光学シートを有するレンズの製造方法を説明するための模式図である。なお、以下では、説明の都合上、
図2の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0046】
以下、本発明の光学シート15を湾曲形状とした湾曲光学シート10を備えるレンズ30の製造方法の各工程を詳述する。
[1]まず、第1基材11とハーフミラー層13と第2基材12とを備え、これらがこの順で積層された、全体形状が平板状をなす光学シート15(本発明の光学シート)を用意する。そして、この光学シート15の両面に、保護フィルム50(マスキングテープ)を貼付することで、光学シート15の両面に保護フィルム50が貼付された多層積層体150を得る(
図2(a)参照)。
【0047】
[2]次に、
図2(b)に示すように、用意した多層積層体150を、すなわち、光学シート15の両面に保護フィルム50を貼付した状態で光学シート15を、その厚さ方向に打ち抜くことで、平面視で円形状をなす多層積層体150とする。
【0048】
[3]次に、
図2(c)に示すように、円形状とされた多層積層体150に対して、加熱下で熱曲げ加工を施すことで、多層積層体150を、第1基材11側(一方の面側)が湾曲凹面とされ、第2基材12側(他方の面側)が湾曲凸面とされた湾曲形状をなす湾曲多層積層体200とする。これにより、平板状をなす光学シート15を、両面に保護フィルム50が貼付された状態で、湾曲形状をなす湾曲光学シート10とすることができる。
【0049】
この熱曲げ加工は、通常、プレス成形または真空成形により実施される。
この際の多層積層体150(光学シート15)の加熱温度(成形温度)は、前述の通り、本実施形態では、光学シート15が基材11、12を備え、基材11、12の溶融または軟化温度を考慮して、好ましくは120℃以上250℃以下程度、より好ましくは130℃以上180℃以下程度に設定される。加熱温度をかかる範囲内に設定することにより、光学シート15の変質・劣化を防止しつつ、光学シート15を軟化または溶融状態として、光学シート15を確実に熱曲げして、湾曲形状をなす湾曲光学シート10とすることができる。
【0050】
[4]次に、熱曲げがなされた湾曲光学シート10から、保護フィルム50を剥離させる。その後、
図2(d)に示すように、湾曲形状とされた湾曲凹面を備える金型40に、金型40の湾曲凹面と湾曲光学シート10の湾曲凸面とが当接するようにして、湾曲光学シート10を吸着させた状態で、例えば、インサート射出成形法を用いて、この湾曲光学シート10の湾曲凹面に、樹脂材料を主材料として構成される樹脂層35を射出成形する。すなわち、溶融状態とされた樹脂層35の構成材料を、湾曲光学シート10の湾曲凹面に、接触させた状態で冷却して固化させることにより、湾曲光学シート10の湾曲凹面に、接着剤層等を介することなく、樹脂層35を、直接、接触させた状態で成形する。これにより、熱曲げがなされた湾曲光学シート10と、樹脂層35とを備えるレンズ30(本発明の光学部品)が製造される。
【0051】
この樹脂層35を射出成形する際における、溶融状態とするための樹脂層35の構成材料の加熱温度(成形温度)は、樹脂層35の構成材料の種類に応じて適宜設定されるが、樹脂層35の構成材料が、後述する湾曲光学シート10が備える第1基材11の構成材料と、同種もしくは同一である場合、好ましくは180℃以上320℃以下、より好ましくは230℃以上300℃以下程度に設定される。加熱温度をかかる範囲内に設定することにより、湾曲光学シート10の湾曲凹面に、溶融状態とされた樹脂層35の構成材料を、確実に供給することができる。
【0052】
また、インサート射出成形法の中でも、射出圧縮成形法が好ましく用いられる。射出圧縮成形法は、金型40の中に樹脂層35を形成するための樹脂材料を低圧で射出した後、金型40を高圧で閉じてこの樹脂材料に圧縮力を加える方法をとる。そのため、成形体としての樹脂層35ひいてはレンズ30に成形歪みや成形時の樹脂分子の局所的配向に起因する光学的異方性が生じにくいことから好ましく用いられる。また、樹脂材料に対して均一に加わる金型圧縮力を制御することにより、一定比容で樹脂材料を冷却することができるので、寸法精度の高い樹脂層35を得ることができる。
【0053】
以上のようなレンズの製造方法により製造されるレンズ30が備える湾曲光学シート10に、本発明の光学シート15を湾曲形状とした構成が用いられる。以下、この光学シート15の各実施形態について詳述する。
【0054】
<<第1実施形態>>
図3は、本発明の光学シートの第1実施形態を示す縦断面図、
図4は、
図3中の一点鎖線で囲まれた領域[B]に位置する、光学シートが備えるハーフミラー層の一部を拡大した拡大断面図である。
【0055】
なお、以下では、説明の都合上、
図3の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図3、
図4中のx方向を「左右方向」または「流れ方向(MD)」、y方向を「前後方向」または「垂直方向(TD)」、z方向を「上下方向」と言う。また、
図3、
図4では、光学シートの厚さ方向を誇張して図示しているため、実際の寸法とは大きく異なる。
【0056】
光学シート15(光学基板)は、本実施形態では、
図3に示すように、光透過性を有する第1基材11と、第1基材11の一方の面側に設けられた光透過性を有する第2基材12と、第1基材11と第2基材12との間に設けられたハーフミラー層13と、を備えている。
【0057】
光学シート15において、各層が配置される位置関係を上記のように設定することで、ハーフミラー層13は、第1基材11と第2基材12との間に位置することとなり、光学シート15の表面に露出していない。すなわち、光学シート15の上面または下面で露出する最外層を構成していない。そのため、最外層を構成した場合のように、ハーフミラー層13に砂ほこりや、雨等が衝突したり、ハーフミラー層13が他の部材等により摩耗されるのを確実に防止することができる。したがって、この衝突や摩擦により、ハーフミラー層13が傷つくのを確実に防止することができる。よって、光学シート15は、意匠性および光学特性が長期に亘って維持される。
【0058】
さらに、かかる構成をなす光学シート15において、ハーフミラー層13は、高屈折率層31と低屈折率層32とを交互に繰り返し積層した積層体で構成されている。これにより、ハーフミラー層13は、入射する光のうち、特定の波長領域の光を選択的に反射し、残部を透過させることから、光学シート15の裏面側に人が位置する場合、すなわち、人がサングラス100を装着したときには、人(装着者)により光学シート15を介して、光学シート15の表側を視認することができる。また、光学シート15の表側で、反射された特定の波長領域の光が、光学シート15を介して装着者の反対側に位置する人に、視認されることとなるため、意匠性を備えた光学シート15を得ることができる。
【0059】
以下、この光学シート15を構成する各層について説明する。
第1基材11は、ハーフミラー層13(積層体)を支持するとともに、第1基材11と、後述する第2基材12との間にハーフミラー層13を配置させる、光学シート15の最外層を構成し、ハーフミラー層13を保護する保護層としての機能を有している。
【0060】
光学シート15において、第1基材11と、後述する第2基材12とが、光学シート15の最外層を構成することで、ハーフミラー層13は、光学シート15の表面に露出していない。そのため、この光学シート15を備えるレンズ30では、ハーフミラー層13が最外層を構成し、このハーフミラー層13が露出している場合のように、ハーフミラー層13に砂ほこりや、さらには雨等が衝突したり、ハーフミラー層13が他の部材等により摩耗されるのを、確実に防止することができる。したがって、この衝突や摩擦により、ハーフミラー層13が傷つくのを確実に防止することができる。よって、光学シート15の意匠性および光学特性を、長期に亘って維持することができる。
【0061】
この第1基材11は、透明性を有する樹脂材料を主材料で構成されれば、特に限定されないが、熱可塑性を有する透明樹脂(ベース樹脂)を主材料として含有することが好ましい。
【0062】
この透明樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等の透明性を備える樹脂が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂であるのが好ましく、特にポリカーボネート系樹脂であるのが好ましい。ポリカーボネート系樹脂は、透明性(透光性)や剛性等の機械的強度に富み、さらに耐熱性も高いため、透明樹脂にポリカーボネート系樹脂を用いることで、第1基材11における透明性や第1基材11の耐衝撃性、耐熱性を向上させることができる。
【0063】
このポリカーボネート系樹脂としては、各種の樹脂を用いることができるが、中でも、芳香族系ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、その主鎖に芳香族環を備えており、これにより、より優れた強度を有する第1基材11を得ることができる。
【0064】
この芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ビスフェノールとホスゲンとの界面重縮合反応、ビスフェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等により合成される。
【0065】
ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールAや、下記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノール(変性ビスフェノール)等が挙げられる。
【0066】
【化1】
(式(1A)中、Xは、炭素数1~18のアルキル基、芳香族基または環状脂肪族基であり、RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基であり、mおよびnは、それぞれ0~4の整数であり、pは、繰り返し単位の数である。)
【0067】
なお、前記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノールとしては、具体的には、例えば4,4’-(ペンタン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ペンタン-3,3-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール、1,1’-(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2-シクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3-ビスシクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
特に、ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を主成分とするのが好ましい。かかるビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を用いることにより、第1基材11は、さらに優れた強度を発揮する。
【0069】
また、第1基材11は、光透過性を有していれば、その色は、無色であっても、赤色、青色、黄色等、如何なる色であってもよい。
【0070】
これらの色の選択は、第1基材11に染料または顔料を含有させることにより可能になる。この染料としては、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、および塩基性染料等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
染料の具体例としては、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクトブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35等が挙げられる。
【0072】
第1基材11は、必要に応じて、上述した、透明樹脂、染料または顔料の他に、さらに、酸化防止剤、フィラー、可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱線吸収剤、難燃剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0073】
また、第1基材11の波長589nmでの屈折率は、1.3以上1.8以下であるのが好ましく、1.4以上1.65以下であるのがより好ましい。第1基材11の屈折率を上記数値範囲とすることにより、入射する光の一部を透過し、残部を反射させるハーフミラー層13としての機能を阻害するのを、的確に抑制または防止することができる。
【0074】
第1基材11は、その平均厚さが好ましくは0.1mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.2mm以上0.8mm以下に設定される。第1基材11の平均厚さがかかる範囲内に設定されることで、光学シート15の薄型化を図りつつ、光学シート15に撓みが生じるのを的確に抑制または防止することができる。そのため、ハーフミラー層13により選択的に反射される特定の波長領域の光における色目を、光学シート15の全体に亘って、より均一に視認することができるようになる。
【0075】
第2基材12は、ハーフミラー層13(光学多層膜)を支持するとともに、第1基材11と第2基材12との間にハーフミラー層13を配置させる、光学シート15の最外層を構成し、ハーフミラー層13を保護する保護層としての機能を有している。
【0076】
光学シート15において、第2基材12が、光学シート15の最外層を構成することで、ハーフミラー層13は、光学シート15の表面に露出していない。そのため、この光学シート15を備えるレンズ30では、ハーフミラー層13が最外層を構成し、このハーフミラー層13が露出している場合のように、ハーフミラー層13に砂ほこりや、さらには雨等が衝突したり、ハーフミラー層13が他の部材等により摩耗されるのを、確実に防止することができる。したがって、この衝突や摩擦により、ハーフミラー層13が傷つくのを確実に防止することができる。よって、光学シート15の意匠性および光学特性を、長期に亘って維持することができる。
【0077】
また、第2基材12を構成する構成材料としては、第1基材11で挙げたのと同様のもので構成することができる。なお、第2基材12の構成材料と、第1基材11の構成材料とは、同一(同種)の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0078】
さらに、第2基材12の波長589nmでの屈折率は、第1基材11の屈折率と、同じであってもよく、異なっていてもよいが、1.3以上1.8以下であるのが好ましく、1.4以上1.65以下であるのがより好ましい。第2基材12の屈折率を上記数値範囲とすることにより、入射する光の一部を透過し、残部を反射させるハーフミラー層13としての機能を阻害するのを、的確に抑制または防止することができる。
【0079】
また、第2基材12は、その平均厚さが、第1基材11と、同じであってもよく、異なっていてもよいが、例えば、0.2mm以上1.5mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上0.8mm以下であるのがより好ましい。第2基材12の平均厚さがかかる範囲内に設定されることで、光学シート15の薄型化を図りつつ、光学シート15に撓みが生じるのを的確に抑制または防止することができる。そのため、ハーフミラー層13により選択的に反射される特定の波長領域の光における色目を、光学シート15の全体に亘って、より均一に視認することができるようになる。
【0080】
また、以上のような第1基材11および第2基材12は、後述するハーフミラー層13が備える高屈折率層31および低屈折率層32と同様に、そのガラス転移点が105℃以上であることが好ましい。これにより、第1基材11および第2基材12、ひいては光学シート15のさらなる耐熱性および熱曲げ性の向上を図ることができる。
【0081】
ハーフミラー層13は、光学シート15の厚さ方向の中央に位置する中間層であり、本発明では、特定の波長領域(特定波長領域)を有する光を選択的に反射し、この反射により反射されない光である残部を透過する。
【0082】
ハーフミラー層13は、
図4に示す通り、可視光領域における光に対して、屈折率が高い高屈折率層31と、屈折率が低い低屈折率層32とが交互に繰り返して積層された積層体で構成される繰り返し部33を備える。すなわち、ハーフミラー層13は、繰り返し部33を複数回繰り返して積層した多層積層体で構成することにより、1つの高屈折率層31を、2つの低屈折率層32で挟み込んだ構成を繰り返して有する。
【0083】
このハーフミラー層13において、高屈折率層31を、可視光領域における光に対して屈折率が高い樹脂材料を含有し、低屈折率層32を、可視光領域における光に対して屈折率が低い樹脂材料を含有する構成とすることで、高屈折率層31と低屈折率層32との層間において、可視光領域における光に対する屈折率差を大きく、反射されない光に対する屈折率差を小さくすることができる。これにより、可視光領域の特定の波長領域における光を選択的に反射して、反射されない残部の光を透過光として透過する多層積層体すなわち多層積層反射板としての機能を、ハーフミラー層13に付与することができる。換言すれば、ハーフミラー層13は、可視光領域における光がハーフミラー層13に入射光として入射すると、その入射光のうち反射される光(反射光)が、最大限でブロック(反射)すなわち最小限で透過し、これに対して、反射されない光(透過光)がハーフミラー層13に入射光として入射すると、その透過光が最小限でブロックすなわち最大限で透過する多層積層反射板としての機能を発揮する。
【0084】
ここで、可視光領域の特定の波長領域における光を選択的に反射して、反射されない残部の光を透過光として透過するには、具体的に、ハーフミラー層13において、高屈折率層31の波長589nmでの屈折率をN1とし、低屈折率層32の波長589nmでの屈折率をN2としたとき、屈折率差(N1-N2)が好ましくは0.05以上0.25以下、より好ましくは0.08以上0.25以下に設定されている。波長589nmにおける屈折率差(N1-N2)を前記範囲内に設定することにより、高屈折率層31と低屈折率層32との層間において、可視光領域における光に対する屈折率差が大きく設定されていると言うことができ、可視光領域における光を、確実に最大限でブロック(反射)することができる。
【0085】
なお、可視光領域における光を最大限でブロック(反射)し、反射されない光を最小限でブロックする可視光の特定の波長領域、さらに、その波長領域の光の強度は、高屈折率層31および低屈折率層32にそれぞれ含まれる樹脂材料の種類、ハーフミラー層13(繰り返し部33)における高屈折率層31と低屈折率層32との繰り返し数、ならびに、ハーフミラー層13(高屈折率層31、低屈折率層32)の厚さ等を適宜設定することで、所望の大きさ(範囲内)に調整される。
【0086】
したがって、光学シート15を、湾曲形状をなすように形成した湾曲光学シート10を、レンズ30が備えることで、サングラス100の外部から照射される外光、すなわち、太陽光の直接光や、その反射光は、光学シート15を透過する際に、可視光領域における特定波長領域の光が光学シート15で反射され、残りの光すなわち反射されない光として減衰された光がサングラス100の装着者の眼にまで到達することとなる。これにより、太陽光の直接光や反射光に含まれる可視光のうち特定波長領域の光の眼への侵入が抑制され、よって、装着者が視認する対象物の認識性の向上を図ることができる。これに対して、レンズ30(光学シート15)を介して、装着者とは反対側に位置する人には、光学シート15を反射した特定の波長領域の光(反射光)が視認されるため、サングラス100の意匠性の向上を図ることができる。このように光学シート15は、可視光のうち、特定の波長領域を有する光を選択的に反射し、その残部を選択的に透過させる、反射板としての機能を発揮する。
【0087】
また、光学シート15は、前述したレンズの製造方法において、前記工程[3]における熱曲げ加工や、前記工程[4]における射出成形加工が施されるため、熱履歴を経ることとなる。また、これらの加工時における加熱温度は、前述の通り、前記工程[3]では好ましくは120℃以上250℃以下程度、前記工程[4]では好ましくは180℃以上320℃以下程度に設定されるため、光学シート15が有するハーフミラー層13は、優れた耐熱性を備えることが求められる。
【0088】
ハーフミラー層13は、前述の通り、可視光領域における特定波長領域の光を最大限で反射し、これに対して、反射されない残部の光を最大限で透過する特性を発揮する。したがって、ハーフミラー層13が優れた耐熱性を発揮するとは、過酷な条件下に晒されたとしても、かかるハーフミラー層13の特性が好適に維持されていることであると言うことができる。
【0089】
そのため、ハーフミラー層13を構成する、高屈折率層31の主材料および低屈折率層32の主材料として、それぞれに含まれる、可視光領域における光に対して屈折率が高い、高屈折率層31に含まれる樹脂材料のガラス転移点をTg1とし、可視光領域における光に対して屈折率が低い低屈折率層32に含まれる樹脂材料のガラス転移点をTg2としたとき、Tg1,Tg2≧105℃なる関係を満足することが好ましい。このように、Tg1とTg2との双方が105℃以上である材料を好ましくは選択することで、高屈折率層31と低屈折率層32との双方は優れた耐熱性を有する。したがって、低屈折率層32および高屈折率層31のうちガラス転移点が低い方の屈折率層において、その膜厚が変化するのを的確に抑制または防止することができる。そのため、光学シート15が有するハーフミラー層13は、特定の波長領域の光(可視光)を選択的に反射する反射板としての機能が低下するのが的確に抑制または防止されることから、優れた耐熱性を発揮する。なお、低屈折率層32において屈折率が低い樹脂材料は、一般的に、高屈折率層31の主材料として含まれる屈折率が高い樹脂材料よりも、ガラス転移点が低い材料が選択される傾向が高い。そのため、屈折率が低い樹脂材料として、そのガラス転移点Tg2が105℃以上である材料を用いることにより、前記効果を確実に発揮させることができる。
【0090】
このハーフミラー層13を備える光学シート15は、高屈折率層31を構成する主材料のガラス転移点Tg1と、低屈折率層32を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、金属型に押し当てることで、光学シート15を曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シート10としたときの湾曲光学シート10の波長589nmの光の反射率をR1[%]とし、この湾曲光学シート10を、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、湾曲光学シート10の波長589nmの光の反射率をR2[%]としたとき、R2/R1×100[%]で求められる反射率保持性が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0091】
上記の通り、曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状とされた湾曲光学シート10が105℃の温度環境下で1000hr保管するという過酷な条件下に晒されたとしても、前記反射率保持性は前記下限値以上であることを維持している。このように、前記反射率保持性が前記下限値以上の割合で維持されていることから、このハーフミラー層13は、優れた耐熱性を発揮すると言うことができる。また、湾曲光学シート10の波長589nmの光の反射率R1は、40%以上であることが好ましく、45%以上70%以下であることがより好ましい。このような湾曲光学シート10を、可視光領域における光を優れた反射率で反射していると言うことができる。
【0092】
また、前述の通り、繰り返し部33(積層体)では、可視光領域における光を最大限でブロック(反射)し、反射されない光を最小限でブロックする可視光の特定の波長領域、さらに、その波長領域の光の強度は、高屈折率層31および低屈折率層32にそれぞれ含まれる樹脂材料の種類、ハーフミラー層13(繰り返し部33)における高屈折率層31と低屈折率層32との繰り返し数、ならびに、ハーフミラー層13(高屈折率層31、低屈折率層32)の厚さ等を適宜設定することで、所望の大きさ(範囲内)に調整される。
【0093】
このようなハーフミラー層13(繰り返し部33)において、具体的に、一般的に可視光の基準波長として使用されるナトリウムD線(589nm)を代表値として用いて、波長589nmにおける高屈折率層31の屈折率N1と低屈折率層32の屈折率N2との屈折率差(N1-N2)の大きさを、好ましくは0.05以上0.25以下に規定することにより、ハーフミラー層13(繰り返し部33)すなわち反射板は、可視光領域における光、具体的には、波長領域400nm以上780nm以下の可視光のうち、特定の波長領域の光を最大限で反射することができる。
【0094】
さらに、高屈折率層31の主材料および低屈折率層32の主材料として、高屈折率層31に含まれる可視光領域における光に対して屈折率が高い樹脂材料のガラス転移点Tg1と、低屈折率層32に含まれる可視光領域における光に対して屈折率が低い樹脂材料のガラス転移点Tg2とが好ましくはTg1,Tg2≧105℃なる関係を満足している材料を選択することで、ハーフミラー層13(繰り返し部33)すなわち反射板(多層積層反射板)は、優れた耐熱性を発揮することができる。
【0095】
以上のように、屈折率差(N1-N2)が好ましくは0.05以上0.25以下であり、さらに、好ましくはTg1,Tg2≧105℃であることを満足する、高屈折率層31の主材料すなわち可視光領域における光に対して屈折率が高い樹脂材料、および、低屈折率層32の主材料すなわち可視光領域における光に対して屈折率が低い樹脂材料としては、それぞれ、非結晶性を有するポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびアクリル系樹脂のうちの少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂およびポリエステル系樹脂のうちの少なくとも1種であることがより好ましい。これらの樹脂材料から高屈折率層31および低屈折率層32の主材料を適宜選択することで、高屈折率層31および低屈折率層32を備えるハーフミラー層13を、比較的容易に、屈折率差(N1-N2)が0.05以上0.25以下であることと、Tg1,Tg2≧105℃であることとの双方を満足させることができる。
【0096】
以上のような点を考慮して、高屈折率層31の主材料としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のようなポリエステル系樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)およびポリアリレート(PAR)のうちの少なくとも1種が好適に選択される。
【0097】
また、低屈折率層32の主材料としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のようなポリエステル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のようなアクリル系樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)のようなスチレン系樹脂およびポリアリレート(PAR)のうちの少なくとも1種が好適に選択される。
【0098】
このような樹脂材料を用いる場合、高屈折率層31と低屈折率層32とに、それぞれ含まれる主材料の組み合わせとしては、具体的には、ポリカーボネート(PC)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ、ポリアリレート(PAR)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ、ポリエーテルサルフォン(PES)とポリアリレート(PAR)との組み合わせ、ポリエチレンナフタレート(PEN)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)との組み合わせ、ポリエチレンナフタレート(PEN)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ等が挙げられる。このような組み合わせによれば、屈折率差(N1-N2)が0.05以上0.25以下であることと、Tg1,Tg2≧105℃であることとの双方を、より容易に満足させることができる。
【0099】
なお、高屈折率層31および低屈折率層32には、それぞれ、前記主材料の他に、充填材のような添加剤が含まれていてもよい。これにより、高屈折率層31および低屈折率層32を備えるハーフミラー層13を、屈折率差(N1-N2)が0.05以上0.25以下であることと、Tg1,Tg2≧105℃であることとの双方をより容易に満足する。
【0100】
また、この充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、燐酸カルシウム、カオリン、タルク、スメクタイトのような無機充填材、架橋ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体のような有機充填材が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、炭酸ストロンチウムおよびスメクタイトのうちの少なくとも1種であることが好ましく、炭酸ストロンチウムであることがより好ましい。
【0101】
また、充填剤は、球状、扁平状のような粒子状、顆粒状、ペレット状および鱗片状のいずれの形状をなしていてもよいが、粒子状をなして含まれることが好ましい。
【0102】
以上のような樹脂材料の組み合わせで得られる高屈折率層31および低屈折率層32において、可視光領域における光に対して屈折率が高い樹脂材料のガラス転移点Tg1と、可視光領域における光に対して屈折率が低い樹脂材料のガラス転移点Tg2とは、好ましくはTg1,Tg2≧105℃なる関係を満足するが、換言すればTg1とTg2とのうち温度が低い方が105℃以上であることが好ましいが、さらに、Tg1とTg2の温度が低い方が110℃以上250℃以下なる関係を満足するのが好ましく、Tg1とTg2の温度が低い方が110℃以上200℃以下なる関係を満足するのがより好ましい。また、0℃≦|Tg1-Tg2|≦60℃なる関係を満足するのが好ましく、25℃≦|Tg1-Tg2|≦60℃なる関係を満足するのがより好ましい。このように、Tg1とTg2との双方が前記範囲内であり、さらに、双方の差が前記上限値以下である組み合わせを選択することで、高屈折率層31と低屈折率層32との双方が優れた耐熱性を有することから、確実に優れた耐熱性を発揮するハーフミラー層13を得ることができる。
【0103】
また、高屈折率層31の波長589nmでの屈折率N1と、低屈折率層32の波長589nmでの屈折率N2との関係式である屈折率差(N1-N2)は、0.05以上0.25以下であるのが好ましいが、高屈折率層31は、波長589nmでの屈折率N1が1.57以上1.85以下であるのが好ましく、低屈折率層32は、波長589nmでの屈折率N2が1.49以上1.67以下であるのが好ましい。これにより、可視光領域における、特定の波長領域の光を、より確実に反射させることができる。
【0104】
さらに、高屈折率層31および低屈折率層32は、それぞれ、その平均厚さが50nm以上300nm以下であることが好ましく、その平均厚さが50nm以上200nm以下であることがより好ましい。かかる範囲内の平均厚さにおいて、高屈折率層31および低屈折率層32の光学厚み(層の平均厚さ×層の屈折率)を、選択的に反射すべき可視光領域における光の波長に対して4分の1の大きさに設定する。これにより、界面反射した光を、互いに強め合うことができるため、ハーフミラー層13により、可視光領域における特定の波長領域の光を選択的に反射させることができる。
【0105】
また、高屈折率層31と低屈折率層32とが積層された繰り返し部33は、その積層された数が50回以上750回以下であることが好ましく、100回以上600回以下であることがより好ましい。
【0106】
高屈折率層31および低屈折率層32の平均厚さ、ならびに、高屈折率層31と低屈折率層32とが積層された繰り返し部33の数を前記範囲内に設定することにより、可視光領域において最大限でブロックする光の特定の波長(波長領域)を、所望の大きさ(範囲内)に調整することができる。
【0107】
さらに、ハーフミラー層13は、延伸されてもよいし、非延伸であってもよいが、無延伸であるのが好ましく、具体的には、下記計算式(A)で表される波長589nmにおける厚み方向位相差(Rth)が500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。
【0108】
Rth=[(nx+ny)/2-nz]・d … (A)
(上記計算式(A)中、nx、nyは、ハーフミラー層13における平面内の主屈折率、nzは、ハーフミラー層13における厚さ方向の屈折率、dは、ハーフミラー層13の厚さを表す。)
【0109】
ここで、延伸されたハーフミラー層13を選択することで、ハーフミラー層13の見かけ上のガラス転移点の向上を図ること、すなわち、ハーフミラー層13の耐熱性を向上させることができるが、これに反して、熱曲げ性(加工性)が低下すると言う問題がある。これに対して、本発明では、前述の通り、好ましくはTg1,Tg2≧105℃であることを満足する、高屈折率層および低屈折率層に含まれる樹脂材料を選択しており、これにより、ハーフミラー層13に優れた耐熱性を付与している。そして、非延伸のハーフミラー層13を、好ましくは選択することで、ハーフミラー層13ひいては光学シート15のさらなる熱曲げ性の向上を図ることができる。
【0110】
以上のような、光学シート15は、第1基材11と、ハーフミラー層13と、第2基材12とが、この順で、互いに接合して積層された積層体で構成されるが、この光学シート15は、前述したレンズの製造方法において、前記工程[3]における熱曲げ加工が施されることで、第1基材11側(上側)を湾曲凹面とし、第2基材12側(下側)を湾曲凸面とする湾曲形状をなす湾曲光学シート10に熱曲げされる。そのため、光学シート15は、優れた加工性を備えることが求められる。
【0111】
第1基材11および第2基材12は、その主材料として、樹脂材料を含有している。また、ハーフミラー層13は、前述の通り、本発明では、ハーフミラー層13を構成する、高屈折率層31の主材料および低屈折率層32の主材料として、それぞれ、ガラス転移点がTg1である樹脂材料およびガラス転移点がTg2である樹脂材料を含有している。
【0112】
このように、第1基材11および第2基材12の主材料、ならびに、ハーフミラー層13を構成する、高屈折率層31および低屈折率層32の主材料を、ともに樹脂材料で構成することで、これらの積層体で構成される光学シート15に、優れた加工性を付与することができる。したがって、光学シート15を、湾曲形状に熱曲げする際に、例えば、高屈折率層31および低屈折率層32が金属系(無機系)の材料で構成される場合のように、高屈折率層31および低屈折率層32において、クラックが発生するのを的確に抑制または防止することができる。
【0113】
そして、本発明では、このような光学シート15において、第1基材11とハーフミラー層13との界面は、第1基材11とハーフミラー層13との連続層を形成し、第2基材12とハーフミラー層13との界面は、第2基材12とハーフミラー層13との連続層を形成している。このように、光学シート15では、光学シート15自体を構成する各層が互いに接合する界面において、接合する各層にそれぞれ含まれる構成材料が互いに混じり合った状態をなす連続層を形成している。そのため、第1基材11とハーフミラー層13との密着性、および、第2基材12とハーフミラー層13との密着性の向上が図られる。したがって、前記工程[3]において、第1基材11側(上側)を湾曲凹面とし、第2基材12側(下側)を湾曲凸面とする湾曲形状をなす湾曲光学シート10を得るために、光学シート15に熱曲げ加工が施されたとしても、第1基材11とハーフミラー層13との界面、および、第2基材12とハーフミラー層13との界面において、これら同士の剥離が生じるのを、的確に抑制または防止することができる。よって、光学シート15に、より優れた加工性を付与することができる。
【0114】
なお、この連続層とは、第1基材11とハーフミラー層13との界面では、第1基材11およびハーフミラー層13にそれぞれ含まれる構成材料が互いに混じり合った状態のことを言い、より詳しくは、第1基材11とハーフミラー層13との界面において、第1基材11の構成材料が、ハーフミラー層13側に分散し、さらに、ハーフミラー層13の構成材料が、第1基材11側に分散している状態のことを言う。また、第2基材12とハーフミラー層13との界面では、第2基材12およびハーフミラー層13にそれぞれ含まれる構成材料が互いに混じり合った状態のことを言い、より詳しくは、第2基材12とハーフミラー層13との界面において、第2基材12の構成材料が、ハーフミラー層13側に分散し、さらに、ハーフミラー層13の構成材料が、第2基材12側に分散している状態のことを言う。
【0115】
この光学シート15は、高屈折率層31を構成する主材料のガラス転移点Tg1と、低屈折率層32を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、金属型に押し当てることで、光学シート15を曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シート10とし、この湾曲光学シート10を、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、曲率半径が60±5mmの大きさとなっている形状を維持している湾曲光学シート10の数が、50個の湾曲光学シート10のうち、48個以上であることが好ましく、50個であることがより好ましい。
【0116】
上記の通り、曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状とされた湾曲光学シート10が105℃の温度環境下で1000hr保管するという過酷な条件下に晒されたとしても、湾曲光学シート10の形状の保持性は前記下限値以上であることを維持している。このように、前記形状の保持性が前記下限値以上の割合で維持されていることから、この湾曲光学シート10は、優れた加工性を発揮すると言うことができる。
【0117】
また、上記の通り、湾曲光学シート10を、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、第1基材11とハーフミラー層13との間、または、第2基材12とハーフミラー層13との間に、剥離が生じている湾曲光学シート10の数が、前記湾曲光学シート50個中、2個以下であることが好ましく、0個であることがより好ましい。
【0118】
上記の通り、曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状とされた湾曲光学シート10が105℃の温度環境下で1000hr保管するという過酷な条件下に晒されたとしても、湾曲光学シート10における剥離の発生は、前記上限値以下であることを維持している。このように、前記剥離の発生が前記上限値以下の割合に抑制されていることから、この湾曲光学シート10は、基材11、12とハーフミラー層13との間の剥離の発生を抑止して、優れた加工性を発揮すると言うことができる。
【0119】
さらに、光学シート15の総厚は、特に限定されないが、0.2mm以上3.0mm以下程度であるのが好ましく、0.4mm以上1.6mm以下程度であるのがより好ましい。これにより、光学シート15に優れた強度を付与しつつ、光学シート15を、湾曲形状をなす湾曲光学シート10に成形する際に、この光学シート15に優れた熱成形性を付与することができる。
【0120】
かかる構成をなす、本実施形態の光学シート15は、第1基材11と、高屈折率層31と低屈折率層32とが交互に繰り返して積層された繰り返し部33が複数形成されたハーフミラー層13と、第2基材12とが、この順で、互いに接合して積層された積層体を一体的に成膜することで得られるが、より具体的には、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0121】
すなわち、まず、高屈折率層31および低屈折率層32を形成するための樹脂組成物として、それぞれ、可視光領域における光に対して屈折率が高い樹脂材料、および、可視光領域における光に対して屈折率が低い樹脂材料を主材料として含有する材料を用意する。そして、これらを交互に積層することで、高屈折率層31と低屈折率層32とが交互に繰り返して積層された繰り返し部33(積層体)を複数積層した複数積層体を得た後に、第1基材11および第2基材12を形成するための樹脂材料を主材料とする樹脂組成物を、それぞれ、得られた複数積層体の上面および下面に積層する。これにより、第1基材11と複数積層体と第2基材12とがこの順で積層された一体物を得る(積層工程)。換言すれば、複数積層体の上面および下面が、それぞれ、第1基材11および第2基材12を被覆層(スキン層)として被覆された一体物を得る。
【0122】
このように、第1基材11と複数積層体と第2基材12とがこの順で積層された一体物を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、数台の押出機により、各層の原料となる樹脂材料を含有する樹脂組成物を、それぞれ、溶融押出するフィードブロック法や、マルチマニホールド法などの共押出Tダイ法、空冷式または水冷式共押出インフレーション法が挙げられ、なかでも、特に、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法は、厚さ方向に互いに重なるように成膜する各層の厚さ制御に優れることから好ましく用いられる。
【0123】
次いで、得られた一体物を、冷却させて、乾燥・固化させる(冷却工程)。これにより、第1基材11と、ハーフミラー層13と、第2基材12とが、この順で、互いに接合して積層された積層体として光学シート15を、一体的に得ることができる。
【0124】
<第2実施形態>
また、光学シート15は、前記第1実施形態で説明した構成の他、以下に示すような構成であってもよい。
図5は、本発明の光学シートの第2実施形態を示す縦断面図である。
【0125】
なお、以下では、説明の都合上、
図5の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図5中のx方向を「左右方向」、y方向を「前後方向」、z方向を「上下方向」と言う。さらに、
図5では、光学シートの厚さ方向を誇張して図示しているため、実際の寸法とは大きく異なる。
【0126】
以下、この図を参照して本発明の光学シートの第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0127】
本実施形態の光学シート15は、最外層として、第1基材11および第2基材12をそれぞれ被覆する被覆層17(ハードコート層)をさらに有すること以外は前記第1実施形態の光学シート15と同様である。
【0128】
すなわち、
図5に示すように、本実施形態では、光学シート15は、第1基材11の一方の面側(上面側)に、最外層として第1基材11を被覆する被覆層17をさらに有している。また、第2基材12の他方の面側(下面側)に、最外層として第2基材12を被覆する被覆層17をさらに有している。換言すれば、本実施形態の光学シート15では、被覆層17、第2基材12、ハーフミラー層13、第1基材11および被覆層17が、光学シート15の下面側から上面側に向かって、この順で積層された積層体で構成されている。
【0129】
第1基材11および第2基材12をそれぞれ被覆する被覆層17を、本実施形態のように設ける構成とすることで、第1基材11および第2基材12が傷つくのを確実に防止することができる。
【0130】
この被覆層17(コート層)は、樹脂組成物を用いて形成された、いわゆるハードコート層であり、この樹脂組成物としては、例えば、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物が好ましく用いられる。そこで、以下では、このシリコン変性(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物について説明する。
【0131】
(シリコン変性(メタ)アクリル樹脂)
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂(シロキサン変性(メタ)アクリレート)は、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルモノマーに由来する構成単位が繰り返された主鎖と、この主鎖に連結し、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体(副鎖)とを有するポリマー(プレポリマー)である。
【0132】
すなわち、主鎖としての(メタ)アクリル系化合物と、副鎖としてのシロキサン結合(-Si-O-Si-)を有する化合物とが連結したポリマー(プレポリマー)である。
【0133】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂は、前記主鎖を有することにより、被覆層17に優れた透明性を付与し、また、前記シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体を有することにより、被覆層17に優れた耐擦傷性および耐候性を付与すること、すなわち被覆層17としての機能を確実に付与することができる。
【0134】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂の主鎖としては、具体的には、下記式(1)および式(2)の少なくとも一方の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構成単位の繰り返しで構成されている構造が挙げられ、これら双方のモノマーに由来する構成単位の繰り返しを備える構造として、下記式(12)で示す化学式を有する構造が挙げられる。
【0135】
【化2】
(式(1)中、nは、1以上の整数を示し、R1は、独立して炭化水素基、有機基、または水素原子を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素原子を示す。)
【0136】
【化3】
(式(2)中、mは、1以上の整数を示し、R2は、独立して炭化水素基、有機基、または水素原子を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素原子を示す。)
【0137】
【化4】
(式(12)中、m、nは、1以上の整数を示し、R1、R2、R3は、それぞれ独立して炭化水素基、有機基、または水素原子を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素原子を示す。)
【0138】
また、かかる構成の主鎖の少なくとも1つの末端または側鎖には、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体(副鎖)が結合している。
【0139】
シロキサン結合は、結合力が高いため、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂が、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体を有することにより、耐熱性、耐候性がより良好な被覆層17を得ることができる。また、シロキサン結合の結合力が高いことで、硬質な被覆層17を得ることができるため、光学シート15の耐擦傷性をさらに増大させることができる。
【0140】
シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体としては、具体的には、下記式(3)および式(4)の少なくとも一方のシロキサン結合を有する構成単位の繰り返しで構成されている構造が挙げられる。
【0141】
【化5】
(式(3)中、X
1は、炭化水素基または水酸基を示す。)
【0142】
【化6】
(式(4)中、X
2は、炭化水素基または水酸基を示し、X
3は、炭化水素基または水酸基から水素が離脱した2価の基を示す。)
【0143】
前記シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体としては、具体的には、ポリオルガノシロキサンを有する構造や、シルセスキオキサンを有する構造が挙げられる。なお、シルセスキオキサンの構造としては、ランダム構造、籠型構造、ラダー構造(はしご型構造)等、いかなる構造であってもよい。
【0144】
前記炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基等のアリール基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等のアラルキル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0145】
また、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体の末端または側鎖には、不飽和二重結合が導入されていることが好ましい。これにより、樹脂組成物中に後述するウレタン(メタ)アクリレートが含まれる場合、このウレタン(メタ)アクリレートが有する(メタ)アクリロイル基と結合して、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とウレタン(メタ)アクリレートとのネットワークを形成することができる。そのため、被覆層17において、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とウレタン(メタ)アクリレートとがより均一に分散し、その結果、被覆層17は、前述した特性をその全体にわたってより均一に発現することができる。
【0146】
前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂の含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物100質量部中、5質量部以上45質量部以下であることが好ましく、11質量部以上28質量部以下であることがより好ましい。前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂の含有量が前記下限値未満であると、前記樹脂組成物により得られた被覆層17の硬さが低下する場合がある。また、前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂の含有量が前記上限値を超えると、前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂以外の材料の含有量が相対的に減ってしまい、前記樹脂組成物を用いて形成された被覆層17の撓み性が低下してしまう可能性がある。
【0147】
以上のような構成を有するシリコン変性(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、下記式(5)、式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0148】
【化7】
(式(5)中、Meは、メチル基を示し、m、n、pは、それぞれ1以上の整数を示す。)
【0149】
【化8】
(式(6)中、Meは、メチル基を示し、m、n、pは、それぞれ1以上の整数を示し、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立して炭化水素基、有機基、または水素原子を示す。)
【0150】
(ウレタン(メタ)アクリレート)
また、樹脂組成物は、さらに、ウレタン(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0151】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂が備える、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体の末端または側鎖に不飽和二重結合が導入されている場合、樹脂組成物中にウレタン(メタ)アクリレートが含まれることで、このウレタン(メタ)アクリレートが有する(メタ)アクリロイル基と不飽和二重結合とが結合して、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とウレタン(メタ)アクリレートとのネットワークが形成される。その結果、樹脂組成物が硬化して硬化物が得られることにより、この硬化物で構成される被覆層17が形成される。なお、この(メタ)アクリロイル基と不飽和二重結合とが結合することによる樹脂組成物の硬化は、樹脂組成物を紫外線のようなエネルギー線を照射することにより硬化する光硬化により行われる。
【0152】
以上のようにして形成される被覆層17において、ウレタン(メタ)アクリレートが含まれることにより、被覆層17の柔軟性を向上させることができ、光学シート15を、その一部または全部を、湾曲形状を有する構造に適用するため、光学シート15を熱曲げする際に、被覆層17の表面におけるクラックの発生を的確に抑制し得ることから、光学シート15に優れた熱成形性を付与することができる。
【0153】
さらに、上述したシリコン変性(メタ)アクリル樹脂と、このウレタン(メタ)アクリレートとの組み合わせとすることにより、優れた耐擦傷性と熱成形性とを高度に両立した光学シート15を得ることができる。
【0154】
このウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン結合(-OCONH-)を有する主鎖と、この主鎖に連結した(メタ)アクリロイル基とを有する化合物のことを言う。また、ウレタン(メタ)アクリレートは、モノマーまたはオリゴマーである。
【0155】
かかる構成のウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン結合を有するため、柔軟性に優れた化合物である。このため、被覆層17がウレタン(メタ)アクリレートを含むことで、被覆層17にさらなる撓み性(柔軟さ)を付与することができる。そのため、光学シート15を湾曲形状をなす湾曲光学シート10に成形した際の、曲げ部におけるクラックの発生を的確に抑制することができる。
【0156】
なお、このウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとの反応生成物として得ることができる。
【0157】
また、ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0158】
また、ポリエステルポリオールは、例えば、ジオールとジカルボン酸もしくはジカルボン酸クロライドとを重縮合反応させたり、ジオールまたはジカルボン酸をエステル化して、エステル交換反応させたりすることにより得ることができる。ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等が挙げられ、ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール等が挙げられる。
【0159】
さらに、ポリカーボネートジオールとしては、例えば、ジオールと、炭酸エステルとの反応物が挙げられ、ジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-へキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール等が用いられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0160】
また、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーの例として、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート等が挙げられる。
【0161】
また、樹脂組成物中におけるウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物100質量部中、10質量部以上75質量部以下であることが好ましく、17質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。樹脂組成物中におけるウレタン(メタ)アクリレートの含有量が、前記下限値未満であると、ウレタン(メタ)アクリレートの種類によっては、被覆層17の柔軟性が乏しくなるおそれがある。また、樹脂組成物中におけるウレタン(メタ)アクリレートの含有量が前記上限値を超えると、ウレタン(メタ)アクリレートの種類によっては、樹脂組成物中におけるウレタン(メタ)アクリレート以外の材料の含有量が相対的に減少し、光学シート15の耐擦傷性が低下するおそれがある。
【0162】
((メタ)アクリレートモノマー)
また、樹脂組成物は、さらに(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。
【0163】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂が備える、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体の末端または側鎖に不飽和二重結合が導入されている場合、樹脂組成物中に(メタ)アクリレートモノマーが含まれることで、この(メタ)アクリレートモノマーが有する(メタ)アクリロイル基と不飽和二重結合とが結合して、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂と(メタ)アクリレートモノマーとのネットワークが形成され、その結果、樹脂組成物が硬化することで被覆層17が形成される。
【0164】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化水添ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシブチルアクリレート、イソボロニルアクリレート等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、光学シート15の耐候性を向上させる観点から、芳香族を含まない樹脂であることが好ましい。
【0165】
樹脂組成物中における(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物100質量部中、15質量部以上55質量部以下であることが好ましく、27質量部以上55質量部以下であることがより好ましい。
【0166】
(イソシアネート)
また、樹脂組成物は、さらにイソシアネートを含むことが好ましい。
これにより、樹脂組成物中において、イソシアネートは、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂を分子間で結合(架橋)させる架橋剤として機能する。すなわち、架橋剤としてのイソシアネートが含まれることで、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂が備える、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルモノマーに由来する構成単位が繰り返された主鎖が備える水酸基と、イソシアネートが有するイソシアネート基とが反応してウレタン結合で構成された架橋構造が形成され、その結果、樹脂組成物の硬化物で構成される被覆層17が形成される。なお、この水酸基とイソシアネート基とが結合することによる樹脂組成物の硬化は、樹脂組成物を加熱することにより硬化する熱硬化により行われる。
【0167】
以上のようにして形成される被覆層17において、水酸基とイソシアネート基とが結合することにより形成されるネットワークを構築することができるため、被覆層17の耐擦傷性および耐候性をより向上させることができる。
【0168】
樹脂組成物中におけるイソシアネートの含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物100質量部中、3質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。
【0169】
(その他の材料)
さらに、樹脂組成物には、上述した各種材料以外に、その他の材料が含まれていてもよい。
その他の材料としては、特に限定されないが、例えば、前記シリコン変性(メタ)アクリル樹脂以外の樹脂材料、光重合開始剤、紫外線吸収剤、着色剤、増感剤、安定剤、界面活性剤、酸化防止剤、還元防止剤、帯電防止剤、表面調整剤、親水化添加剤、充填材および溶剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0170】
以上のような樹脂組成物の硬化物で構成される被覆層17の平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上40μm以下であることが好ましく、2μm以上30μm以下であることがより好ましく、5μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。被覆層17の厚さが前記下限値未満であると、光学シート15の耐候性が低下する場合がある。一方、被覆層17の厚さが前記上限値を超えると、光学シート15を、湾曲形状とされた湾曲光学シート10とする場合、湾曲光学シート10の成形の際に、湾曲光学シート10においてクラックが発生するおそれがある。
【0171】
このような第2実施形態の光学シート15によっても、前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0172】
以上、本発明の光学シートおよび光学部品について説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、ハーフミラー層13を反射板として備える光学シート15を構成する各層は、同様の機能を発揮し得る任意の構成の層と置換することができる。
また、光学シート15により優れた強度等を付与する必要がある場合には、基材11、12上に、それぞれ、接着剤層を介して、他の基材等が積層されていてもよい。
【0173】
さらに、前記実施形態では、本発明の光学シート15を、湾曲形状をなす湾曲光学シート10を、湾曲樹脂基板として備えるレンズ30に適用する場合、すなわち、本発明の光学部品がレンズ30で構成される場合について説明したが、例えば、液晶ディスプレイ、ヘッドアップディスプレイのような表示装置等が備えるカバーフィルム、バイク、車、航空機、鉄道のような移動手段、工作機械、建築物が備える窓部材、ヘッドライト、フォグランプが備えるカバー部材、ヘッドアップディスプレイが備える光源内に設けられる輝度向上フィルムやコールドミラー、赤外線センサーのような車載センサーが備える反射板等に、光学シート15を貼付して使用することもできる。なお、これらの場合、カバーフィルム、窓部材、カバー部材、輝度向上フィルム、コールドミラーまたは反射板と、これらに貼付された湾曲光学シート10とにより、光学部品が構成される。
【実施例】
【0174】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0175】
1.原材料の準備
<ポリカーボネート(PC1)>
ポリカーボネート(PC1)として、ユーピロンE2000(三菱エンジニアプラスチックス社製)を用意した。
【0176】
<ポリメタクリル酸メチル(耐熱PMMA1)>
ポリメタクリル酸メチル(耐熱PMMA1)として、デルペットPM120N(旭化成社製)を用意した。
【0177】
<ポリエチレンテレフタレート(耐熱PETG1)>
耐熱非晶性ポリエチレンテレフタレート(耐熱PETG1)として、トライタンTX2001(イーストマンケミカル社製、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)を用意した。
【0178】
<ポリエチレンテレフタレート(PETG2)>
非晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG2)として、スカイグリーンK2012(SKケミカル社製)を用意した。
【0179】
<ポリアリレート(PAR1)>
ポリアリレート(PAR1)として、UポリマーP-5001(ユニチカ社製)を用意した。
【0180】
<ポリエーテルサルフォン(PES)>
ポリエーテルサルフォン(PES)として、スミカエクセル3600G(住友化学社製)を用意した。
【0181】
<ポリエチレンナフタレート(PEN1)>
ポリエチレンナフタレート(PEN1)として、テオネックスTN8065S(帝人社製)を用意した。
【0182】
<ポリエチレンテレフタレート(APET1)>
ポリエチレンテレフタレート(APET1)として、ノバペックスGM700Z(三菱ケミカル社製、結晶性ポリエチレンテレフタレート)を用意した。
【0183】
<アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS1)>
アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS1)として、デンカAS-XGS(デンカ社製)を用意した。
【0184】
<スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体(IP1)>
スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体(IP1)として、デンカIP-ND(デンカ社製)を用意した。
【0185】
2.光学シートの製造
(実施例1)
[1]まず、基材11、12および高屈折率層31を形成するための樹脂材料としてポリカーボネート(PC1)を、低屈折率層32を形成するための樹脂材料としてポリメタクリル酸メチル(耐熱PMMA1)を、それぞれ、用意した。
【0186】
[2]次に、ポリカーボネート(PC1、Tg150℃)およびポリメタクリル酸メチル(耐熱PMMA1、Tg123℃)を、それぞれ、押出機(サン・エヌ・ティー社製、「SNT40-28」)で、270℃の溶融状態とし、フィードブロックおよびダイを用いて共押出しして、フィルム形成した。その後、これらのフィルムを冷却することで、高屈折率層31と低屈折率層32とが交互に繰り返して積層された、合計1023層(繰り返し数511回)の積層体(多層積層体)で構成されるハーフミラー層13の上面および下面が、それぞれ、第1基材11および第2基材12で被覆された、実施例1の光学シート15を得た。ここで、積層厚み比が高屈折率層31:低屈折率層32=1:1になるように吐出量を調整した。
【0187】
なお、得られたハーフミラー層13において、低屈折率層32の波長589nmにおける屈折率を、アッペ屈折率計(ATAGO社製、「NA-1T SOLID」)を用いて測定したところ1.510であった。また、高屈折率層31の波長589nmにおける屈折率を、アッペ屈折率計(ATAGO社製、「NA-1T SOLID」)を用いて測定したところ1.585であった。さらに、ハーフミラー層13の平均厚さは、100μm、第1基材11および第2基材12の平均厚さは、0.3mmであった。
【0188】
(実施例2~5、参考例1~3)
前記工程[1]において、第1基材11、第2基材12、高屈折率層31および低屈折率層32を形成するための樹脂材料として、それぞれ、表1に示す材料を用意したこと、また、前記工程[3]において得られたハーフミラー層13を、必要に応じて、MDに延伸処理を施したこと以外は前記実施例1と同様にして、実施例2~5、参考例1~3の光学シート15を得た。
【0189】
3.評価
各実施例および各参考例の光学シート15を、以下の方法で評価した。
【0190】
<1A>加熱前の湾曲光学シート10の反射率R1(%)の測定
まず、各実施例および各参考例の光学シート15を、それぞれ、高屈折率層31を構成する主材料のガラス転移点Tg1と、低屈折率層32を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、金属型に押し当てることで、前記光学シート15(積層体)を曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シート10(湾曲積層体)とした。
【0191】
次いで、湾曲光学シート10を、589nmの光を発する光源と、受光部との間に、湾曲光学シートの上面と、光源と受光部とを結ぶ直線とのなす角度が90°となるように配置した。
【0192】
次いで、湾曲光学シート10を透過した、光源から発光された発光光(透過光)を、受光部において受光し、この透過光の透過率(%)を測定することで、初期(加熱前)の反射率R1(%)を求めた。
【0193】
<2A>加熱後の湾曲光学シート10の反射率R2(%)の測定
まず、各実施例および各参考例の光学シート15を、それぞれ、高屈折率層31を構成する主材料のガラス転移点Tg1と、低屈折率層32を構成する主材料のガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度で、金属型に押し当てることで、前記光学シート15(積層体)を曲率半径60mmで湾曲した湾曲形状をなす湾曲光学シート10(湾曲積層体)とした。
【0194】
次いで、湾曲光学シート10を、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管し、その後、589nmの光を発する光源と、受光部との間に、湾曲光学シートの上面と、光源と受光部とを結ぶ直線とのなす角度が90°となるように配置した。
【0195】
次いで、湾曲光学シート10を透過した、光源から発光された発光光(透過光)を、受光部において受光し、この透過光の透過率(%)を測定することで、加熱後の反射率R2(%)を求めた。
【0196】
そして、ここで得られた、加熱後の反射率R2(%)と、前記<1A>で得られた、初期(加熱前)の反射率R1(%)とを用いて、反射率保持性(R2/R1×100[%])を求めた。
【0197】
<3A>光学シートの可視光領域における耐熱性の確認
まず、各実施例および各参考例の光学シート15について、590nmの波長での反射率を測定した。その後、耐久試験(105℃×1000hr)を行い、試験後のサンプル(光学シート)についても同様に反射率を測定した。
【0198】
そして、耐久試験前後における反射率を、それぞれ、R3、R4としたとき、これらに基づいて、以下に示すようにすることで、反射率の変化率を求めた。
【0199】
反射率の変化率:R4/R3×100(%)
その後、得られた反射率の変化率について、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
【0200】
[評価基準]
A: R4/R3×100が85%以上
B: R4/R3×100が80%以上85%未満
C: R4/R3×100が80%未満
【0201】
<5A>光学シートの熱曲げ性の確認
まず、各実施例および各参考例の光学シート15について、それぞれ、ガラス転移点Tg1とガラス転移点Tg2とのうち高い方のガラス転移点よりも10℃高い温度に加熱した状態で、曲率半径60mmの金属型に押し当てることで、熱曲げ加工を施した。
そして、熱曲げされた湾曲光学シート10について、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管し、その後の曲率半径を測定し、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
【0202】
[評価基準]
熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、曲率半径が60±5mmの大きさを維持している湾曲光学シートの数が、
A: 湾曲光学シート50個中、50個である
B: 湾曲光学シート50個中、48個以上50個未満である
C: 湾曲光学シート50個中、48個未満である
【0203】
また、熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、湾曲光学シート10が備える基材11、12とハーフミラー層13との間における剥離の有無について、目視にて確認し、以下に示す評価基準に基づいて評価した。
[評価基準]
熱循環式オーブン内に105℃の温度環境下で1000hr保管した後において、基材11、12とハーフミラー層13との間に剥離が確認される湾曲光学シートの数が、
A: 湾曲光学シート50個中、0個である
B: 湾曲光学シート50個中、1個以上3個未満である
C: 湾曲光学シート50個中、3個以上である
【0204】
以上のようにして得られた各実施例および各参考例の光学シート15における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0205】
【0206】
表1に示したように、各実施例における光学シートでは、第1基材11とハーフミラー層13との界面および第2基材12とハーフミラー層13との界面において、それぞれ、連続層が形成されており、これにより、優れた熱曲げ加工時の各界面における剥離の発生が防止されており、優れた加工性を備える光学シートであると言える結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明によれば、高屈折率層と低屈折率層とが交互に繰り返して積層された積層体で構成される繰り返し部を備えるハーフミラー層と、このハーフミラー層に接合して設けられた第1基材および第2基材とは、第1基材とハーフミラー層との界面において、第1基材とハーフミラー層との連続層を形成し、第2基材とハーフミラー層との界面において、第2基材とハーフミラー層との連続層を形成している。そのため、光学シートの一方の面を湾曲凹面とし、他方の面を湾曲凸面として湾曲光学シートを得る、熱曲げ加工を光学シートに施したとしても、第1基材とハーフミラー層との界面、および、第2基材とハーフミラー層との界面において、これら同士の剥離が生じるのを、的確に抑制または防止することができ、優れた加工性を備える光学シートを得ることができる。したがって、本発明は、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0208】
10 湾曲光学シート
11 第1基材
12 第2基材
13 ハーフミラー層
15 光学シート
17 被覆層
20 フレーム
21 リム部
22 ブリッジ部
23 テンプル部
24 ノーズパッド部
30 レンズ
31 高屈折率層
32 低屈折率層
33 繰り返し部
35 樹脂層
40 金型
50 保護フィルム
100 サングラス
150 多層積層体
200 湾曲多層積層体