(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】溶融金属吐出装置及び溶融金属吐出方法
(51)【国際特許分類】
B23K 3/06 20060101AFI20241001BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20241001BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20241001BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B23K3/06 E
H05K3/34 505Z
B05C5/00 101
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2024502406
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022008026
(87)【国際公開番号】W WO2023162178
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 俊明
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-221452(JP,A)
【文献】特開2016-032803(JP,A)
【文献】特開昭60-255167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 3/06
H05K 3/34
B05C 5/00
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を収納する収納部と、前記収納部に収納された前記溶融金属を吐出する吐出口と、前記吐出口とは異なる開口部と、前記開口部と前記収納部とを接続し前記溶融金属が流動するバイパス経路とを有するシリンジと、
前記シリンジの周囲に設けられ、前記溶融金属を加熱して溶融状態を保つヒーターと、
前記シリンジの内部を摺動して前記収納部に収納された前記溶融金属を押圧するシャフトと、
前記開口部に設けられ開閉する蓋とを備え、
前記開口部は、前記シリンジの内部にある前記溶融金属の上面より上に配置されていることを特徴とする溶融金属吐出装置。
【請求項2】
前記シャフトの摺動と前記蓋の開閉を個別に制御することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項3】
前記蓋は、前記バイパス経路の内部から外部に排出される空気の流量を調整する流量調整弁であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項4】
前記バイパス経路を通った前記溶融金属が前記開口部から外部に吐出しないことを特徴とする請求項1
又は2に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の溶融金属吐出装置を用いた溶融金属吐出方法であって、
前記シリンジの前記吐出口を溶融金属貯留槽内の前記溶融金属の液面に密着させ、前記蓋を閉めた状態で前記シャフトを上方向に引き上げて前記溶融金属を前記シリンジの内部に吸入する工程と、
前記吐出口を部品の上に配置し、前記蓋を開けた状態で前記シャフトを押し下げることで前記吐出口から前記溶融金属を前記部品に吐出する工程とを備えることを特徴とする溶融金属吐出方法。
【請求項6】
前記シャフトを押し下げる時間の一部の時間のみ前記蓋を開けることを特徴とする請求項5に記載の溶融金属吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶融した金属を吐出する溶融金属吐出装置及び溶融金属吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばSiチップ、SiCチップ等の半導体素子の電極に溶融金属を塗布してベース板又はリードフレーム等と接合するために、溶融金属吐出装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。一般的な溶融金属吐出装置は、例えばガラス製のシリンジとシャフトを備える。シリンジの先端を溶融した金属に浸した状態でシャフトを引き上げることにより、シリンジ内を負圧にして溶融金属を吸い込む。そしてシリンジの先端を所定の位置に移動させた後、シャフトを押し下げることによりシリンジ内を加圧して、溶融金属を吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、SiチップからSiCチップへの移行と高密度実装化に伴い、半導体素子の小型化が進んでいる。半導体素子が小型化することにより、接合部の面積も小さくなる。一方で電力半導体装置などでは、大電流化、長寿命化、高信頼性を実現するために、主電流の経路の接続に金属ワイヤボンドではなく溶融金属が使用される。即ち、溶融金属を半導体素子上の接合部に吐出することで外部電極と半導体素子を直接接合する。接合部の小面積化に伴い、一か所当たりの接合部に要する溶融金属の量も少なくなる。つまり、一回当たりの溶融金属の吐出量、即ち供給量をより精度よく安定化することが要求されている。溶融金属吐出装置では、シャフトの上下動作に伴うシリンジ内の容積変動量に相当する溶融金属が吐出される。しかし、吐出量の制御が難しく一回当たりの吐出量が安定しないという問題があった。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は溶融金属の吐出量を高精度に制御することができる溶融金属吐出装置及び溶融金属吐出方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る溶融金属吐出装置は、溶融金属を収納する収納部と、前記収納部に収納された前記溶融金属を吐出する吐出口と、前記吐出口とは異なる開口部と、前記開口部と前記収納部とを接続し前記溶融金属が流動するバイパス経路とを有するシリンジと、前記シリンジの周囲に設けられ、前記溶融金属を加熱して溶融状態を保つヒーターと、前記シリンジの内部を摺動して前記収納部に収納された前記溶融金属を押圧するシャフトと、前記開口部に設けられ開閉する蓋とを備え、前記開口部は、前記シリンジの内部にある前記溶融金属の上面より上に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示では、吐出口とは異なる開口部と収納部とを接続するバイパス経路を設けている。溶融金属吐出動作時に開口部に設けられた蓋を開くことで、溶融金属が吐出口から吐出されると同時にバイパス経路に一定量の溶融金属が流れ込む。これにより、シャフトの下降移動に伴うシリンジ内の容積変動量よりも小さい体積の溶融金属を吐出することができるため、溶融金属の吐出量を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吸入動作を示す断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吐出動作を示す断面図である。
【
図3】実施の形態2に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吸入動作を示す断面図である。
【
図4】実施の形態2に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吐出動作を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態に係る溶融金属吐出装置及び溶融金属吐出方法について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吸入動作を示す断面図である。
図2は、実施の形態1に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吐出動作を示す断面図である。溶融金属吐出装置100は、溶融金属1を部品2の接合部分に吐出する。吐出した溶融金属1により部品2とリードフレーム等の他の部材を接合する。溶融金属1は、例えばSn又はPbなどを主成分としAg又はCuなどの添加元素を含むはんだ材などである。
【0011】
部品2は、例えばシリコン(Si)素材のIGBT、ダイオード、逆導通IGBTでもよいし、シリコンカーバイド(SiC)又は窒化ガリウム(GaN)系の様なSiに比べてバンドギャップが大きい素材で形成されたMOSFET又はショットキーダイオードなどでもよく、回路形成のため単に銅等の金属リードフレーム又は絶縁基板上の回路パターンなどでもよい。半導体素子などの上に孔の開いた金属リードフレームを配置し、穴を介して溶融金属1を吐出することで半導体素子と金属リードフレームを接合してもよい。
【0012】
溶融金属吐出装置100は、シリンジ3、シャフト4、ヒーター5等を備える。なお、溶融金属吐出装置100は、溶融金属貯留槽6と部品2との間を往復移動するための互いに直行するX,Y,Zの3軸の移動機構を備えているが、図示を省略している。
【0013】
シリンジ3は、溶融金属1を収納する収納部3aと、収納部3aに収納された溶融金属1を吐出する吐出口3bと、吐出口3bとは異なる開口部3cと、開口部3cと収納部3aとを接続し溶融金属1が流動するバイパス経路3dとを有する。開口部3cは、シリンジ3の内部にある溶融金属1の上面より上に配置されている。シリンジ3の材質は、ガラス又はセラミックなどの溶融金属1が拡散接合しない材質が好ましいが、これに限定するものではない。
【0014】
ヒーター5が、シリンジ3の周囲に設けられ、シリンジ3内の溶融金属1を加熱して溶融状態を保つ。温度制御部7がヒーター5を制御して溶融金属1を融点以上の温度に保つ。ヒーター5は放射、誘導加熱、対流熱伝達などにより溶融金属1を加熱してもよい。
【0015】
シャフト4は、シリンジ3の内部を摺動して収納部3aに収納された溶融金属1を押圧する。シャフト4は、シリンジ3内の溶融金属1と外気を遮断するためのシール部8を有する。蓋9が開口部3cに設けられている。
【0016】
制御部10が、駆動部11を制御してシャフト4を上下に摺動させ、他の駆動部を制御して蓋9を開閉させる。制御部10はシャフト4の摺動と蓋9の開閉を個別に制御することができる。駆動部11は、アクチュエータ、エアシリンダー、単軸ロボットなどの機構を有する。
【0017】
蓋9を閉めるとバイパス経路3dが外気から遮断される。蓋9が開いている時だけ外気がバイパス経路3dに出入りできる。蓋9は、エアシリンダー又はアクチュエータなどの開閉制御できるもの、又は、一般的なゲート弁若しくはバタフライ弁などの開閉弁でもよい。なお、バイパス経路3dが1系統の場合を図示しているが、1つのシリンジ3に対して複数のバイパス経路3dを設けてもよい。
【0018】
シリンジ3内の溶融金属1は溶融金属貯留槽6から吸入される。ヒーター12が、溶融金属貯留槽6の周囲に設けられ、溶融金属貯留槽6内の溶融金属1を加熱して溶融状態を保つ。温度制御部13がヒーター12を制御して溶融金属1を融点以上の温度に保つ。溶融金属1の表面の酸化を防ぐため、溶融金属貯留槽6全体は不活性ガスなどの雰囲気中に設置されることが好ましい。
【0019】
続いて、本実施の形態に係る溶融金属吐出装置100の溶融金属吸入動作と溶融金属吐出動作について説明する。
【0020】
まず、
図1に示すように、シリンジ3の吐出口3bを溶融金属貯留槽6内の溶融金属1の液面に密着させる。そして、シリンジ3のバイパス経路3dの蓋9を閉めた状態でシャフト4を上方向に引き上げる。これにより、シリンジ3内の圧力が下がり、溶融金属1をシリンジ3の内部に吸入する(ステップ1)。
【0021】
次に、シリンジ3とシャフト4と温度制御部7を備えた溶融金属吐出装置100を、図示していない3軸の移動機構により移動させ、吐出口3bを半導体素子などの部品2の上に配置する(ステップ2)。
【0022】
次に、
図2に示すように、シリンジ3のバイパス経路3dの蓋9を開けた状態で、シャフト4を押し下げることで吐出口3bから溶融金属1を部品2に吐出する(ステップ3)。なお、シャフト4を押し下げる時間の全てでバイパス経路の蓋9を開けてもよいし、シャフト4を押し下げる時間の一部の時間のみ蓋9を開けてもよい。最後に、吐出した溶融金属1を冷却し凝固させる(ステップ4)。これにより部品2と他の部材を溶融金属1により接合することができる。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態では、吐出口3bとは異なる開口部3cと収納部3aとを接続するバイパス経路3dを設けている。溶融金属吐出動作時に開口部3cに設けられた蓋9を開くことで、溶融金属1が吐出口3bから吐出されると同時にバイパス経路3dに一定量の溶融金属1が流れ込む。これにより、シャフト4の下降移動に伴うシリンジ3内の容積変動量よりも小さい体積の溶融金属1を吐出することができるため、溶融金属1の吐出量を高精度に制御することができる。
【0024】
なお、バイパス経路3dを通った溶融金属1を外部に吐出し、その流量を流量調整弁により調整することでも、吐出口3bからの溶融金属1の吐出量を制御できる。しかし、流量調整弁の耐熱性及び高温時の熱膨張により吐出量の制御精度が悪化する。これに対して、本実施の形態では、開口部3cは、シリンジ3の内部にある溶融金属1の上面より上に配置されている。従って、バイパス経路3dを通った溶融金属1が開口部3cから外部に吐出しないため、上記の問題が発生しない。
【0025】
また、制御部10はシャフト4の摺動と蓋9の開閉を個別に制御する。このため、吐出したい溶融金属1の量に応じて蓋9を開き、バイパス経路3dに任意の時間だけ溶融金属1を流動させることができる。例えば、溶融金属吐出動作の全ての時間で蓋9を開くのではなく、溶融金属吐出動作の一部の時間だけ蓋9を開くことができる。これにより、溶融金属1の吐出量を高精度に制御することができる。
【0026】
実施の形態2.
図3は、実施の形態2に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吸入動作を示す断面図である。
図4は、実施の形態2に係る溶融金属吐出装置の溶融金属吐出動作を示す断面図である。
【0027】
本実施の形態では、バイパス経路3dの開口部3cに、蓋9の代わりに流量調整弁14を設けている。流量調整弁14は、バイパス経路3dの内部から外部に排出される空気の流量を連続的に調整する。流量調整弁14は、例えばダイヤフラムバルブ又はバタフライバルブなどである。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0028】
溶融金属1を吐出する際に流量調整弁14を閉じていると、バイパス経路3dの液面上昇に伴ってバイパス経路3dの内部の空気が加圧され、バイパス経路3dの液面上昇の抵抗となる。一方、流量調整弁14を開くと、溶融金属1が吐出口3bから吐出されると同時に一定量の溶融金属1がバイパス経路3dに流れ込む。そこで、流量調整弁14を流量調整しながら開くことで加圧された空気を抜き、バイパス経路3dの液面上昇速度を制御する。これにより、バイパス経路3dに流れる溶融金属1の流量を微調整できるため、溶融金属1の吐出量を更に高精度に制御することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 溶融金属、3 シリンジ、3a 収納部、3b 吐出口、3c 開口部、3d バイパス経路、4 シャフト、5 ヒーター、9 蓋、14 流量調整弁、100 溶融金属吐出装置