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特許7563650リング状部材の誘導加熱方法および製造方法、リング状部材、軸受、誘導加熱装置、軸受の製造方法、車両の製造方法、並びに、機械装置の製造方法
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  • 特許-リング状部材の誘導加熱方法および製造方法、リング状部材、軸受、誘導加熱装置、軸受の製造方法、車両の製造方法、並びに、機械装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】リング状部材の誘導加熱方法および製造方法、リング状部材、軸受、誘導加熱装置、軸受の製造方法、車両の製造方法、並びに、機械装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/40 20060101AFI20241001BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20241001BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20241001BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C21D9/40 A
C21D1/18 K
C21D1/42 J
C21D1/42 M
H05B6/10 331
C21D9/40 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024504929
(86)(22)【出願日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2023039097
(87)【国際公開番号】W WO2024095961
(87)【国際公開日】2024-05-10
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022174235
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】大野 直之
(72)【発明者】
【氏名】張 文宇
(72)【発明者】
【氏名】川上 欽也
(72)【発明者】
【氏名】泉 信二
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-287074(JP,A)
【文献】特開2004-204262(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221963(WO,A1)
【文献】特開2011-241415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/50
F27D 7/00-15/02
H05B 6/00- 6/10
H05B 6/14- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導コイルに電流を供給してリング状部材を誘導加熱する工程を備え、
前記誘導加熱工程は、前記リング状部材の径方向外方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向内方に配置された前記誘導コイルを用いて前記リング状部材を誘導加熱すること、又は、前記リング状部材の径方向内方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向外方に配置された前記誘導コイルを用いて前記リング状部材を誘導加熱すること、を含み、
前記誘導コイルの有効長さが、前記リング状部材の軸長さに比べて大きく設定される、
リング状部材の誘導加熱方法。
【請求項2】
前記誘導コイルの前記有効長さが、前記リング状部材の前記軸長さの110%以上に設定される、請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項3】
前記誘導コイルの前記有効長さが、前記リング状部材の前記軸長さの200%以上に設定される、請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項4】
前記誘導加熱工程は、
前記リング状部材の径方向外方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向内方に配置された、前記誘導コイルとしての内コイルを用いて前記リング状部材を誘導加熱することと、
前記リング状部材の径方向内方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向外方に配置された、前記誘導コイルとしての外コイルを用いて前記リング状部材を誘導加熱することと、
を含む、請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項5】
前記内コイル及び前記外コイルのうちの1つのコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後に、前記内コイル及び外コイルのうちの別のコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が前記第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第2加熱工程と、
を備える、請求項4に記載の誘導加熱方法。
【請求項6】
前記第1加熱工程で用いられる前記1つのコイルは、前記リング状部材の内面と外面とのうち、面高さの変化が比較的大きい第1面に隣接して配置され、
前記第2加熱工程で用いられる前記別のコイルは、前記リング状部材の前記内面と前記外面とのうち、面高さが比較的一様である第2面に隣接して配置される、
請求項5に記載の誘導加熱方法。
【請求項7】
前記誘導加熱工程の後、前記リング状部材を再加熱する工程をさらに備える、
請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項8】
リング状部材の径方向内方に配置される第1コイルと、前記リング状部材の径方向外方に配置される第2コイルと、を用意する工程と、
前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの1つのコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後に、前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの別のコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が前記第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第2加熱工程と、
を備える、誘導加熱方法。
【請求項9】
前記第1加熱工程で用いられる前記1つのコイルは、前記リング状部材の内面と外面とのうち、面高さの変化が比較的大きい第1面に隣接して配置され、
前記第2加熱工程で用いられる前記別のコイルは、前記リング状部材の前記内面と前記外面とのうち、面高さが比較的一様である第2面に隣接して配置される、
請求項8に記載の誘導加熱方法。
【請求項10】
前記第1コイルと前記第2コイルとの両方が前記リング状部材に隣接して配置された状態で、前記第1加熱工程及び前記第2加熱工程の少なくとも一方が実行される、請求項8に記載の誘導加熱方法。
【請求項11】
前記第1コイルと前記第2コイルとの一方のみが前記リング状部材に隣接して配置された状態で、前記第1加熱工程及び前記第2加熱工程の少なくとも一方が実行される、請求項8に記載の誘導加熱方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の誘導加熱方法を用いてリング状部材を熱処理する工程を備える、リング状部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の誘導加熱方法を用いて軸受のリング状部材を熱処理する工程を備える、軸受の製造方法。
【請求項14】
リング状部材を備えた車両の製造方法であって、
請求項1から11のいずれかに記載の誘導加熱方法を用いて前記リング状部材を熱処理する工程を備える、車両の製造方法。
【請求項15】
リング状部材を備えた機械装置の製造方法であって、
請求項1から11のいずれかに記載の誘導加熱方法を用いて前記リング状部材を熱処理する工程を備える、機械装置の製造方法。
【請求項16】
リング状部材を誘導加熱する誘導加熱装置であって、
誘導コイルと、
前記誘導コイルに電流を供給する電源装置と、
を備え、
前記誘導コイルは、前記リング状部材の径方向外方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向内方に配置され、又は、前記リング状部材の径方向内方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向外方に配置され、
前記誘導コイルの有効長さが、前記リング状部材の軸長さに比べて同じに設定される又は大きく設定される、
誘導加熱装置。
【請求項17】
リング状部材を誘導加熱する誘導加熱装置であって、
前記リング状部材の径方向内方に配置される第1コイルと、
前記リング状部材の径方向外方に配置される第2コイルと、
前記第1コイル及び前記第2コイルに電流を供給する電源装置と、
を備え、
前記電源装置は、前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの1つのコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第1モードと、前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの別のコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が前記第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第2モードと、を備える、
誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、軸受を構成する外輪や内輪などの金属製のリング状部材を誘導加熱するための方法に関する。
本願は、2022年10月31日に出願された特願2022-174235号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、軸受を構成する外輪や内輪には、強度および硬さ、特に転動体と接触する軌道面の硬さを確保しつつ、芯部の靭性を向上させるために、焼入れ処理および焼戻し処理が施される。焼入れ処理と焼戻し処理とはいずれも、外輪や内輪などのリング状部材(ワーク)を所定温度まで加熱し、所定時間保持した後、冷却することにより行われる。
【0003】
特開2019-185882号公報には、電気的に直列接続された外径側コイル部と内径側コイル部とを、リング状部材(短筒状のワーク)の径方向外側と径方向内側とに配置し、外径側コイル部および内径側コイル部に通電することで、リング状部材を誘導加熱する方法が記載されている。特開2019-185882号公報に記載の方法では、外径側コイル部と内径側コイル部とが電気的に直列接続されているため、外径側コイル部と内径側コイル部とに流れる電流値を等しくすることができ、リング状部材の外径側領域と内径側領域とを略同一条件で同時に加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-185882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、特開2019-185882号公報に記載の方法では、内周面に外輪軌道を有する外輪や外周面に内輪軌道を有する内輪のように、軸方向位置によって径方向厚さが異なるリング状部材を対象とした場合、径方向厚さが大きい部分の昇温速度が、径方向厚さが小さい部分の昇温速度よりも遅くなる。このため、リング状部材全体を均一に加熱することが難しい。
【0006】
こうしたリング状部材の誘導加熱において、外径側コイル部の内周面の母線形状を、リング状部材の外周面の母線形状に沿った形状とし、かつ、内径側コイル部の外周面の母線形状を、リング状部材の内周面の母線形状に沿った形状とすることが考えられる。コイルに供給する電流値を小さくすれば、軸方向位置によるリング状部材の昇温速度の差が小さく抑制されるかもしれないが、生産性の低下を招く。また、外径側コイル部および内径側コイル部と、リング状部材との位置関係を精度よく規制する必要がある。直径や形状が異なるリング状部材を加熱する際には、リング状部材に合わせたコイルを用意する必要がある。このため、小ロットのリング状部材を対象とする場合、製造コストが嵩んでしまうといった問題が生じる。
【0007】
本発明の態様は、リング状部材全体を略均一に効率よく加熱することができる、誘導加熱方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法は、誘導コイルに電流を供給してリング状部材を誘導加熱する工程を備える。前記誘導加熱工程は、前記リング状部材の径方向外方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向内方に配置された前記誘導コイルを用いて前記リング状部材を誘導加熱すること、又は、前記リング状部材の径方向内方に実質的なコイルが配置されていない状態において、前記リング状部材の径方向外方に配置された前記誘導コイルを用いて前記リング状部材を誘導加熱すること、を含む。前記誘導コイルの有効長さが、前記リング状部材の軸長さに比べて大きく設定される。
【0009】
本発明の別の一態様のリング状部材の誘導加熱方法は、リング状部材の径方向内方に配置される第1コイルと、前記リング状部材の径方向外方に配置される第2コイルと、を用意する工程と、前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの1つのコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第1加熱工程と、前記第1加熱工程の後に、前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの別のコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が前記第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第2加熱工程と、を備える。
【0010】
本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法では、前記リング状部材を、アンギュラ玉軸受、深溝型玉軸受、ころ軸受、若しくは円すいころ軸受などの転がり軸受の内輪または外輪とすることができる。
【0011】
あるいは、本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法では、前記リング状部材を、複列の転がり軸受の外輪若しくは内輪、または、滑り軸受などとすることもできる。
【0012】
本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法では、前記リング状部材を、前記外輪とすることができ、かつ、前記内径加熱工程を実施した後、前記外径加熱工程を実施することができる。
【0013】
あるいは、本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法では、前記リング状部材を、前記内輪とすることができ、かつ、前記外径加熱工程を実施した後、前記内径加熱工程を実施することができる。
【0014】
本発明の一態様のリング状部材の製造方法は、リング状部材を製造するために、本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで該リング状部材に、焼入れ、焼戻し、焼なまし、および/または焼ならしなどの熱処理を施す。
【0015】
本発明の一態様の転がり軸受の製造方法は、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える転がり軸受を製造するために、本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記内輪および/または前記外輪を加熱することで該内輪および/または該外輪に熱処理を施す。
【0016】
本発明の一態様の車両の製造方法は、リング状部材を備える車両を製造するために、本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで該リング状部材に熱処理を施す。
【0017】
本発明の一態様の機械装置の製造方法は、リング状部材を備える機械装置を製造するために、本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで該リング状部材に熱処理を施す。
【0018】
本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱装置は、前記リング状部材の径方向内方に配置される第1コイルと、前記リング状部材の径方向外方に配置される第2コイルと、前記第1コイル及び前記第2コイルに電流を供給する電源装置と、を備える。前記電源装置は、前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの1つのコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第1モードと、前記第1コイル及び前記第2コイルのうちの別のコイルに電流を供給して、前記リング状部材の少なくとも1部が前記第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、前記リング状部材を誘導加熱する第2モードと、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様のリング状部材の誘導加熱方法によれば、リング状部材全体を略均一に効率よく加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、外輪および内輪を備える転がり軸受の1例を示す断面図である。
図2図2は、誘導加熱装置を模式的に示す図である。
図3図3は、第1実施形態における、外輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図4図4は、誘導コイルに対するリング状部材の配置の例を模式的に示す図である。
図5図5は、外輪を誘導加熱したときの外輪の温度変化を模式的に示すグラフである。
図6図6は、外輪に、焼入れ処理と焼戻し処理とを施す手順の1例を示すフローチャートである。
図7図7は、変形例を示し、外輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図8図8は、別の変形例を示し、外輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図9図9は、第2実施形態における、外輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図10図10は、第3実施形態における、外輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図11図11は、第4実施形態における、内輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図12図12は、第5実施形態における、内輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図13図13は、第6実施形態における、内輪を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図14図14は、第7実施形態における、リング状部材を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図15図15は、第8実施形態における、リング状部材を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図16図16は、第9実施形態における、リング状部材を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図17図17は、様々な形状のリング状部材を誘導加熱する様子を示す断面図である。
図18図18は、リング状部材としての軸受が適用されたモータの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について、図1図6を用いて説明する。本実施形態において、例えば、図1に示すようなラジアル転がり軸受1の外輪2が誘導加熱方法により加熱され、焼入れ処理および焼戻し処理が施される。この場合、外輪2が、リング状部材に相当する。以下では、まず、ラジアル転がり軸受1の構造を説明し、その後、焼入れ処理および焼戻し処理を含む外輪2の製造方法について説明する。
【0022】
なお、以下の説明において、軸方向、径方向、および周方向とは、特に断らない限り、ラジアル転がり軸受1の軸方向、径方向、および周方向をいう。ラジアル転がり軸受1の軸方向、径方向、および周方向は、外輪2の軸方向、径方向、および周方向と一致し、かつ、内輪3の軸方向、径方向、および周方向と一致する。ラジアル転がり軸受1に関して、軸方向片側(第1軸端31、41)は、図1の右側、並びに、図2の上側をいい、軸方向他側(第2軸端32、42)は、図1の左側、並びに、図2の下側をいう。
【0023】
<ラジアル転がり軸受1の構造>
ラジアル転がり軸受1は、単列のアンギュラ玉軸受により構成されており、外輪2と、内輪3と、複数個の転動体4とを備える。
【0024】
一例において、外輪2は、軸受鋼や浸炭鋼などの硬質金属により構成される。他の例において、外輪2は、別の材料により構成される。
【0025】
外輪2は、内周面(内面)の軸方向中間部に、転動体4用の外輪軌道5を有する。一例において、外輪軌道5は、軸方向片側(第1軸端31)に向かうほど直径が大きくなる円弧形の母線形状を有する。また、外輪2は、内周面のうちで外輪軌道5の第1軸端31に隣接する部分に、第1軸端31に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜した円すい凹面状の傾斜面部6を備える。また、外輪2は、内周面のうちで外輪軌道5の軸方向他側(第2軸端32)に隣接する部分に、軸方向に関して内径が変化しない円筒面部7を備える。さらに、外輪2は、内周面の軸方向両側の端部に、円弧形の母線形状を有する面取り部8a、8bを備える。
【0026】
外輪2は、外周面(外面)の軸方向中間部に、軸方向に関して外径が変化しない円筒面部(平坦面)9を備え、かつ、外周面の軸方向両側の端部に、円弧形の母線形状を有する面取り部10a、10bを備える。
【0027】
すなわち、外輪2は、全体的に、第1軸端31に向かうほど小さくなる径方向厚さ(厚み変化、壁構造)を有する(内周面に面取り部8bを備え、かつ、外周面に面取り部10bを備える第2軸端32の近傍部分を除く)。外輪2の外周面(外面)は、平坦面を有し、凹凸が比較的小さく、軸方向に沿った基準軸に対する面高さが比較的一様である。外輪2の内周面(内面)は、外輪軌道5等による比較的大きな凹凸を有し、軸方向に沿った基準軸に対する面高さの変化が比較的大きい。
【0028】
一例において、内輪3は、軸受鋼や浸炭鋼などの硬質金属により構成される。他の例において、内輪3は、別の材料により構成される。なお、内輪3は、外輪2と同じ金属材料により構成することもできるし、外輪2と異なる金属材料により構成することもできる。
【0029】
内輪3は、外周面(外面)の軸方向中間部に、転動体4用の内輪軌道11を有する。一例において、内輪軌道11は、軸方向他側(第2軸端42)に向かうほど直径が大きくなる円弧形の母線形状を有する。また、内輪3は、外周面のうちで内輪軌道11の第2軸端42に隣接する部分に、第2軸端42に向かうほど外径が小さくなる方向に傾斜した円すい凸面状の傾斜面部12を備える。また、内輪3は、外周面のうちで内輪軌道11の軸方向片側(第1軸端41)に隣接する部分に、軸方向に関して外径が変化しない円筒面部13を備える。さらに、内輪3は、外周面の軸方向両側の端部に、円弧形の母線形状を有する面取り部14a、14bを備える。
【0030】
内輪3は、内周面(内面)の軸方向中間部に、軸方向に関して内径が変化しない円筒面部(平坦面)15を備え、かつ、内周面の軸方向両側の端部に、円弧形の母線形状を有する面取り部16a、16bを備える。
【0031】
すなわち、内輪3は、全体的に、第2軸端42に向かうほど小さくなる径方向厚さ(厚み変化、壁構造)を備える(外周面に面取り部14aを備え、かつ、内周面に面取り部16aを有する第1軸端41の近傍部分を除く)。内輪3の内周面(内面)は、平坦面を有し、凹凸が比較的小さく、軸方向に沿った基準軸に対する面高さが比較的一様である。内輪3の外周面(外面)は、内輪軌道11等による比較的大きな凹凸を有し、軸方向に沿った基準軸に対する面高さの変化が比較的大きい。
【0032】
複数個の転動体4は、外輪軌道5と内輪軌道11との間に転動可能に配置される。一例において、それぞれの転動体4は、玉により構成される。他の例において、転動体4は、コロなどの玉以外により構成される。また、一例において、それぞれの転動体4は、軸受鋼や浸炭鋼などの硬質金属またはセラミックにより構成される。他の例において、転動体4は、別の材料により構成される。
【0033】
<外輪2の製造方法>
外輪2を造る際には、まず、金属素材に鍛造加工を施して、外輪2の大まかな形状を成形し、その後、内周面に研削加工を施して、外輪軌道5を形成する。次いで、図6に示すように、外輪2に、焼入れ処理および焼戻し処理を施す。焼入れ処理および焼戻し処理はいずれも、外輪2を目標温度まで加熱し、所定時間保持した後、冷却することにより行われる。
【0034】
焼入れ処理および焼戻し処理における外輪2の加熱は、誘導加熱コイルを使用して外輪2内に渦電流を発生させることで、該外輪2を誘導加熱することにより行われる。
【0035】
図2に示すように、誘導加熱装置200は、内側コイル(内側誘導コイル、内径側誘導加熱コイル、内コイル)17と、外側コイル(外径側誘導加熱コイル、外側誘導コイル、外コイル)18と、誘導コイル17、18に高周波電流を供給する電源装置201とを備える。追加的に、誘導加熱装置200は、加熱対象物(リング状部材、ワークピース)を支持する支持装置202、リング状部材を搬送する搬送装置203、リング状部材を冷却する冷却装置204、リング状部材の温度を検出するセンサ205、電気的整合装置206、及び制御部207の少なくとも1つを備えることができる。誘導加熱装置200は、誘導コイル17及び誘導コイル18への供給出力(電流値など)をそれぞれ独立的に個別に制御することができる。一例において、誘導加熱装置200は、誘電コイル17に電流を供給するタイミングと誘電コイル18に電流を供給するタイミングとを独立的に個別に制御できる。また、一例において、誘導加熱装置200は、誘導コイル17及び誘導コイル18に対する電流値(出力値)を独立的に個別に制御することができる。また、一例において、誘導加熱装置200は、誘導コイル17及び誘導コイル18に対する出力時間(加熱時間)を独立的に個別に制御することができる。一例において、誘導加熱装置200は、誘導コイル17及び誘導コイル18とリング状部材との間の相対位置関係を独立的に個別に制御することができる。なお、誘導加熱装置200は、上述した制御の一部を非独立的に制御してもよい。
【0036】
本実施形態において、外輪2を誘導加熱する方法は、互いに独立して実施される内側加熱工程(内径加熱工程、内面加熱工程、第1加熱工程)および外側加熱工程(外径加熱工程、外面加熱工程、第2加熱工程)を備える。本例では、外輪2を誘導加熱する工程は、内側加熱工程(第1加熱工程)、外側加熱工程(第2加熱工程)の順番で実施する。誘導加熱装置200は、1つのコイルに電流を供給して、リング状部材の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、リング状部材を誘導加熱する第1モードと、別のコイルに電流を供給して、リング状部材の少なくとも1部が第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、リング状部材を誘導加熱する第2モードと、を備える。
【0037】
内側加熱工程では、図3(A)に示すように、外輪2の径方向内側に、内側コイル(内径側誘導加熱コイル、内コイル)17を配置し、かつ、外輪2の径方向外側に、誘導コイル(誘導加熱コイル、実質的なコイル)を配置しない状態で、誘導コイル17に通電することにより外輪2を径方向内側から誘導加熱する。外輪2の径方向外方に実質的なコイルが配置されていない状態において、外輪2の径方向内方に配置された誘導コイル(内コイル)17を用いて外輪2を誘導加熱する。すなわち、外輪2の径方向内側に配置された内側コイル17に通電することにより、外輪2の径方向内側部分に渦電流を発生させ、外輪2を径方向内側から加熱する。
【0038】
一例において、内側コイル17は、軸方向に関して内径を一定に螺旋状に巻き回された導線を有する、あるいは、軸方向に関して内径が一定の環状に曲げ成形された導電材を有する。他の例において、内側コイル17は、上記以外の構成を有することができる。
【0039】
本実施形態において、内側加熱工程で用いられる内側コイル17は、誘導コイル17の外面が外輪2の内面に面するように、外輪2の内面に隣接して配置される。一例において、内側コイル17の外周面(外面)と、外輪2の内周面(内面)に備えられた円筒面部7とを近接対向させている。内側コイル17の外周面と、外輪2の内周面に備えられた円筒面部7との間の距離は、外輪2の径方向内側部分に渦電流を発生させることができるように設定され、たとえば外輪2の円筒面部7の内径の1%~30%程度とすることができる。上記数値は一例であり、上記数値に限定されない。
【0040】
外輪2は、内径加熱工程において所定時間加熱された後、外径加熱工程に搬送される。
【0041】
外側加熱工程では、図3(B)に示すように、外輪2の径方向外側に、外側コイル(外径側誘導加熱コイル、外コイル)18を配置し、かつ、外輪2の径方向内側に、誘導コイル(誘導加熱コイル、実質的なコイル)を配置しない状態で、外側コイル18に通電することにより外輪2を径方向外側から誘導加熱する。外輪2の径方向内方に実質的なコイルが配置されていない状態において、外輪2の径方向外方に配置された誘導コイル(内コイル)18を用いて外輪2を誘導加熱する。すなわち、外輪2の径方向外側に配置された外側コイル18に通電することにより、外輪2の径方向外側部分に渦電流を発生させ、外輪2を径方向外側から加熱する。
【0042】
一例において、外側コイル18は、軸方向に関して外径を一定に螺旋状に巻き回された導線を有する、あるいは、軸方向に関して外径が一定の環状に曲げ成形された導電材を有する。他の例において、外側コイル18は、上記以外の構成を有することができる。
【0043】
本実施形態において、外側加熱工程で用いられる外側コイル18は、誘導コイル18の内面が外輪2の外面に面するように、外輪2の外面に隣接して配置される。一例において、外側コイル18の内周面(内面)と、外輪2の外周面(外面)とを近接対向させている。外側コイル18の内周面と、外輪2の外周面との間の距離は、外輪2の径方向外側部分に渦電流を発生させることができるように設定され、たとえば外輪2の外径の1%~30%程度とすることができる。上記数値は一例であり、上記数値に限定されない。
【0044】
例えば、外輪2の焼入れ処理において、外輪2に対して、内面加熱工程と外面加熱工程とを、この順番に実施して、外輪2を、800℃~1000℃の範囲の焼入れ温度まで加熱する。そして、外輪2を誘導加熱装置内に放置することにより、焼入れ温度で1秒~30秒保持した後、焼入れ油中に浸漬する油冷を施すなどによって、室温まで急冷する。上記数値や手順は一例であり、上記数値や手順に限定されない。
【0045】
例えば、外輪2の焼戻し処理において、外輪2に対して、内側加熱工程と外側加熱工程とを、この順番に実施して、外輪2を、150℃~300℃の範囲の焼戻し温度まで加熱する。そして、外輪2を誘導加熱装置内に放置することにより、焼戻し温度で1秒~30秒保持した後、室温まで自然冷却する。上記数値や手順は一例であり、上記数値や手順に限定されない。
【0046】
外輪2に焼入れ処理および焼戻し処理を施した後、必要に応じて、外輪軌道5に研削加工などの仕上げ加工を施して、外輪2が完成する。
【0047】
ここで、本実施形態では、誘導コイル17、18の有効長さ(誘導加熱に寄与する、軸方向におけるコイルの長さ範囲(軸方向に沿った第1有効加熱端51から第2有効加熱端52までの距離))が、リング状部材(ワークピース、外輪2など)の軸長さ(軸方向に沿った第1軸端31から第2軸端32までの距離)に比べて大きく設定される。例えば、誘導コイル17、18の有効長さが、外輪2の軸長さの110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、又は300%以上に設定される。誘導コイル17、18の有効長さが、リング状部材の軸長さの110%以上であることにより、磁界の一部が外輪2の軸端面へ回り込むことなどにより、リング状部材における加熱領域が拡大され、リング状部材の全体に対して加熱均一化が図られる。例えば、リング状部材の内面又は外面に加え、軸端面から内部に向けて加熱が進行する。誘導コイル17、18の有効長さが、リング状部材の軸長さの200%以上であることにより、リング状部材の形状変化や位置ムラに対する許容水準が緩和され、誘導コイル17、18の汎用性が高まる。例えば、誘導コイル17、18の有効長さが、所定ロット(形状が異なる複数種類のリング状部材(外輪など)を含むロット)におけるリング状部材の平均軸長さの200%以上に設定される。この場合において、1種類の誘導コイル17、18を用いて、様々な形状の複数のリング状部材が熱処理される。誘導コイル17、18の交換頻度の低減や加熱条件の共通化は、生産性の向上に有利である。
【0048】
一例において、図4(A)に示すように、リング状部材(外輪2など)の軸方向の中心位置が誘導コイル(誘導コイル17など)の軸方向の有効長さの中心位置と同じ位置になるように、誘導コイルとリング状部材との間の位置関係が設定される。この場合、リング状部材の第1軸端(外輪2の第1軸端31など)の近傍における誘導コイル(誘導コイル17など)の延出長さ(突出高さ)H1が第2軸端(外輪2の第2軸端32など)の近傍における誘導コイルの延出長さ(突出高さ)H2と同じである。すなわち、軸方向におけるリング状部材の第1軸端(外輪2の第1軸端31など)と誘導コイルの第1軸端(誘導コイル17の第1軸端51など)との間の距離H1が、軸方向におけるリング状部材の第2軸端(外輪2の第2軸端32など)と誘導コイルの第2軸端(誘導コイル17の第2軸端52など)との間の距離H2と同じである。他の例において、図4(B)に示すように、距離H2が距離H1に比べて大きく設定される。すなわち、リング状部材(外輪2など)の軸方向の中心位置が誘導コイル(誘導コイル17など)の軸方向の有効長さの中心位置と異なる位置になるように、誘導コイルとリング状部材との間の位置関係が設定される。図4(B)の例では、リング状部材の第1軸端(外輪2の第1軸端31など)の近傍部分のリング状部材の厚みに比べて第2軸端(外輪2の第2軸端32など)の近傍部分の厚みが大きい。厚みが大きい第2軸端の近傍での誘導コイルの延出長さ(突出高さ)H2が比較的大きく設定されることにより、厚み変化を有するリング状部材の全体に対して加熱均一化が図られる。これらは、リング状部材の外側に誘導コイルが配置される場合にも同様に適用され得る。誘導コイル17、18の有効長さが、リング状部材の軸長さに比べて大きいことにより、誘導コイルとリング状部材との間の相対位置関係の変化に対する許容水準が緩和される。
【0049】
図3に戻り、本実施形態では、焼入れ処理や焼戻し処理を行うべく外輪2を誘導加熱する際に、内側加熱工程と外側加熱工程とを互いに独立して実施するようにしている。外輪2の径方向外方に実質的なコイルが配置されていない状態において、外輪2が内側から加熱される。外輪2の径方向内方に実質的なコイルが配置されていない状態において、外輪2が外側から加熱される。したがって、外輪2を径方向内側から誘導加熱する内側加熱工程における加熱条件と、外輪2を径方向外側から誘導加熱する外側加熱工程における加熱条件とを独立して制御することができる。このため、外輪2の加熱状態を制御しやすい。すなわち、内側加熱工程における加熱条件と外側加熱工程における加熱条件とをそれぞれ適切に設定することで、外輪2全体を略均一に効率よく加熱することができる。リング状部材(外輪2など)に対する誘導コイルの単独配置と誘導コイル長さの設定との組み合わせにより、加熱効率の向上と生産性の向上との両方の利点が得られる。こうした利点は、複数の加熱工程及び単数の加熱工程の各々に対して達成され得る。
【0050】
なお、加熱条件としては、誘導コイル17、18に供給する電流値(∝誘導加熱コイル17、18の出力)、加熱時間、および外輪2と誘導コイル17、18との位置関係などが挙げられる。
【0051】
本実施形態において、誘導加熱方法は、外輪2の径方向内方に配置される内側コイル17と、外輪2の径方向外方に配置される外側コイル18と、を用意する工程と、内側コイル17及び外側コイル18のうちの1つのコイルに電流を供給して、外輪2の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、外輪2を誘導加熱する第1加熱工程と、第1加熱工程の後に、内側コイル17及び外側コイル18のうちの別のコイルに電流を供給して、外輪2の少なくとも1部が第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、外輪2を誘導加熱する第2加熱工程と、を備える。本実施形態において、第1加熱工程で用いられる1つのコイル(内側コイル17)は、外輪2の内面と外面とのうちの面高さが比較的変化する内面(第1面)に隣接して配置され、第2加熱工程で用いられる別のコイル(外側コイル18)は、外輪2の内面と外面とのうちの面高さが比較的一様である外面(第2面)に隣接して配置される。内側コイル17と外側コイル18との一方のみが外輪2に隣接して配置された状態で、第1加熱工程及び第2加熱工程の少なくとも一方が実行される。本実施形態では、内側加熱工程と外側加熱工程とを、この順番で実施している。
【0052】
ここで、一般に、誘導加熱により、軸受の外輪または内輪を加熱する場合、次のような問題が生じる可能性がある。たとえば、転がり軸受の外輪は、内周面に、外輪軌道を有する。外輪の径方向内側に誘導コイルを配置すると、外輪の内周面と誘導コイルとの間の距離が軸方向位置によって異なる。このため、誘導コイルに通電した際に、内周面における誘導コイルとの距離が近い部分に渦電流が集中し、当該部分が集中的に誘導加熱されやすい。誘導コイルとの距離が遠い部分は、内周面における誘導コイルとの距離が近い部分の熱が伝わることで加熱される。外輪の軸方向位置によって、昇温速度の差が大きい場合、外輪全体を均一に加熱することが難しい。外輪内部の温度が不均一なまま、焼入れ処理および焼戻し処理を施すと、外輪の表面に形成される硬化層の厚さが不均一になるなどして、要求される品質を満たせない可能性がある。このような問題を回避するためには、誘導コイルに供給する電流値を小さくすることにより、誘導コイルの出力を小さくして、外輪の加熱時間を長くする方法が考えられる。この方法は、軸方向位置による外輪の昇温速度の差を小さく抑えることができるが、生産性の低下を招くため、好ましくない。
【0053】
本実施形態では、第1加熱工程(内側加熱工程)において、面高さが比較的変化する外輪2の内面に対向して配置される誘導コイル17によって外輪2が加熱され、その後の第2加熱工程(外側加熱工程)において、面高さが比較的一様である外輪2の外面に対向して配置される誘導コイル18によって外輪2が加熱される。例えば、図5に示すように、第1加熱工程(内側加熱工程)において、外輪2の内面側の一部(Pi2)の温度が比較的早く上昇して第1目標温度T1に達し、このとき、他の部分の温度は第1目標温度よりも低い。比較的高温を有する外輪2の一部(Pi2)の熱が他の部分に伝わる。第2加熱工程(外側加熱工程)において、外輪2が外側から加熱され、あるタイミングにおいて外輪2の大部分が第2目標温度T2に近い温度に達する。厚さ変化が比較的大きい外輪2の誘導加熱において、比較的短時間で外輪2の全体が加熱されかつ、外輪2の昇温速度の差が小さく抑制される。
【0054】
内側加熱工程(第1加熱工程)では、内側コイル17に供給する電流値を大きくして、内側コイル17の出力を高くすることで、図5に模式的に示すように、外輪2のうち、径方向厚さが大きい第2軸端の端部の内周面(Pi2図3(A)参照))の温度を第1目標温度近傍まで速やかに上昇させることができる。
【0055】
内側加熱工程においては、外輪2の内周面のうち、内側コイル17との距離が近い第2軸端の端部Pi2の温度上昇量が、内側コイル17との距離が遠い第1軸端の端部Pi1の温度上昇量よりも大きくなる。一方、外輪2の外周面の第2軸端の端部PO2の温度上昇量と、外輪2の外周面の第1軸端の端部PO1の温度上昇量とは同程度である。
【0056】
外側加熱工程において、面高さが比較的一様な平坦面(軸方向両側の端部を除き外径が一定の径方向外側部分)から外輪2が加熱される。外側コイル18に供給する電流値を調節することで出力が調節され、かつ、加熱時間が調節される。これにより、図5に模式的に示すように、外輪2全体が目標温度(第2目標温度)近くになるように略均一に加熱される。換言すれば、外輪2のそれぞれの部分の温度が、ほぼ同じタイミングで目標温度まで上昇する。
【0057】
なお、外輪2を誘導加熱する工程は、後述するように、外側加熱工程、内側加熱工程の順番で実施することもできる。
【0058】
内側加熱工程における加熱条件と外側加熱工程における加熱条件とは、予め実験やシミュレーションなどにより決定することができる。内側加熱工程における加熱時間に対する外側加熱工程の加熱時間は、外輪2の径方向厚さなどにもよるが、たとえば、50%~200%とすることができ、80%~120%とすることが好ましい。内側加熱工程において内側コイル17に供給する電流値に対する外側加熱工程において外側コイル18に供給する電流値は、外輪2の径方向厚さなどにもよるが、たとえば、50%~200%とすることができ、80%~120%とすることが好ましい。
【0059】
一例において、内側加熱工程において、内側コイル17の外周面と、外輪2の内周面に備えられた円筒面部7とが近接対向し、かつ、外側加熱工程において、外側コイル18の内周面と、外輪2の外周面とが近接対向する。また、内側コイル17および外側コイル18として、特定の型番の外輪2に対応した組み合わせが使用される。この場合、内側加熱工程では、外輪2の径方向内側からの加熱が効率よく実行され、かつ、外側加熱工程では、外輪2の径方向外側からの加熱が効率よく実行される。したがって、外輪2を目標温度まで加熱するのに要する時間が短く抑制される。本例では、同一型番の外輪2の大量生産に際し、生産効率が良好に確保される。
【0060】
他の例において、内側加熱工程における内側コイル17の外周面と外輪2の内周面に備えられた円筒面部7との間部分、および/または、外側加熱工程における外側コイル18の内周面と外輪2の外周面に備えられた円筒面部9との間部分に比較的大きい径方向隙間が設けられる。たとえば、図8(A)に示すように、内径側誘導コイル17として、円筒面部7の内径に対する外径の比が、図3(A)に示す第1例の内径側誘導コイル17よりも小さいものが使用される。内側コイル17の外周面と円筒面部7との間部分に、図3(A)に示す形態における隙間よりも大きい径方向隙間が存在する。また、図7(B)に示すように、外径側誘導コイル18として、円筒面部9の外径に対する内径の比が、図3(B)に示す第1例の外径側誘導コイル18よりも大きいものが使用される。外側コイル18の内周面と円筒面部9との間部分に、図3(B)に示す形態における隙間よりも大きい径方向隙間が存在する。
【0061】
この場合、内側コイル17と外側コイル18との同じ組み合わせを使用して、外径および内径が異なる複数種類の外輪を誘導加熱することができる。たとえば、図7(A)に示す内側加熱工程においては、内側コイル17の外周面と、外輪2aの内周面に備えられた円筒面部7とが近接対向する。図7(B)に示す外側加熱工程においては、外側コイル18の内周面と、外輪2aの外周面との間部分に、比較的大きい径方向隙間が存在する。外側コイル18の内周面と外輪2aの外周面との間の距離は、外側コイル18に通電することに基づいて、外輪2aの径方向外側部分に渦電流を発生させることができる限り、特に限定されるものではないが、たとえば、最大で外輪2aの外径の1%~30%程度とすることができる。
【0062】
図7の例では、外側加熱工程における外側コイル18の内周面と、外輪2aの外周面との間部分に、比較的大きい径方向隙間が存在しているが、外側加熱工程において、外側コイル18に供給する電流値を大きくして、外側コイル18の出力を大きくすることにより、外輪2aを目標温度まで加熱するのに要する時間が過度に増大することを防止できる。
【0063】
図8に示す例では、図7の形態と同じ組み合わせの内側コイル17および外側コイル18を使用して、図7の例に比べて外径および内径が大きい外輪2bが誘導加熱される。図8(A)に示す内側加熱工程においては、内側コイル17の外周面と、外輪2bの内周面に備えられた円筒面部7との間部分に、比較的大きい径方向隙間が存在する。図8(B)に示す外側加熱工程においては、外側コイル18の内周面と、外輪2aの外周面とが近接対向する。内側コイル17の外周面と外輪2bの内周面との間の距離は、外輪2bの径方向内側部分に渦電流を発生させることができる限り、特に限定されるものではないが、たとえば、最大で外輪2bの内径の1%~30%程度とすることができる。
【0064】
図8の例では、内側加熱工程における内側コイル17の外周面と、外輪2bの内周面との間部分に、比較的大きい径方向隙間が存在している。内側加熱工程において、内側コイル17に供給する電流値を大きくして、内側コイル17の出力を大きくすることにより、外輪2bを目標温度まで加熱するのに要する時間が過度に増大することを防止できる。
【0065】
図7及び図8の例において、外側加熱工程における加熱条件と内側加熱工程における加熱条件とをそれぞれ適切に設定することで、外輪2a、2b全体を略均一に効率よく加熱することができる。
【0066】
図7及び図8の例において、内側加熱工程における内側コイル17の外周面と外輪2の内周面に備えられた円筒面部7との間部分、および/または、外側加熱工程における外側コイル18の内周面と外輪2の外周面との間部分に、比較的大きい径方向隙間が存在することが許容されるように加熱条件が設定される。内側コイル17と外側コイル18との同じ組み合わせを使用して、外径および内径が異なる複数種類の外輪を誘導加熱することができる。外輪の外径および内径が変更になるたびに、内側コイル17と外側コイル18とを交換する必要がない。例えば、特に多品種小ロットの外輪を対象とする製造ラインに対し好ましく適用される。内側コイル17と外側コイル18との組み合わせを複数用意する必要がなくなることにより、内側コイル17および外側コイル18の交換作業が省略化され、生産効率が向上する。
【0067】
なお、内側加熱工程では、外輪2の径方向外側に、誘導加熱コイルを配置していないようにし、かつ、外側加熱工程では、外輪2の径方向内側に、誘導加熱コイルを配置していないようにしている。このため、内側加熱工程における加熱条件および外側加熱工程における加熱条件を安定して制御することができる。
【0068】
たとえば、内側加熱工程において、外輪2の径方向外側に電流を供給しない誘導加熱コイルを配置した場合、内側コイル17に通電することに伴って、外輪2の径方向外側に配置された誘導加熱コイルにも電磁誘導により電流が流れる可能性がある。外輪2の径方向外側部分が不用意に加熱されてしまうと、加熱条件を安定して制御することが難しくなる。本実施形態では、内側加熱工程において、外輪2の径方向外側に、誘導加熱コイルを配置しないため、内側加熱工程における加熱条件を安定して制御することができる。
【0069】
本実施形態では、リング状部材として、単列のアンギュラ玉軸受であるラジアル転がり軸受1の外輪2を誘導加熱方法により加熱して、焼入れ処理および焼戻し処理を施す場合について説明した。
【0070】
ただし、リング状部材は、単列のアンギュラ玉軸受の外輪に限定されない。リング状部材として、任意のリング状部材を対象とすることができる。たとえば、リング状部材として、単列深溝型玉軸受、ころ軸受、若しくは円すいころ軸受の外輪、または、後述する第4実施形態~第6実施形態等に示すように、転がり軸受の内輪を適用とすることができる。あるいは、リング状部材として、複列の転がり軸受の外輪若しくは内輪を適用することもできる。また、リング状部材として、滑り軸受を適用することもできる。
【0071】
誘導加熱方法を用いる熱処理は、焼入れ処理および焼戻し処理に限定されない。熱処理として、焼なまし処理や焼ならし処理に適用することもできる。
【0072】
また、誘導加熱方法を用いる熱処理として、車両または機械装置を構成するリング状部材に、焼入れ、焼戻し、焼なまし、および/または焼ならしなどを対象にできる。
【0073】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について、図9を参照して説明する。本実施形態では、外輪2を誘導加熱する工程は、図9(A)に示す外側加熱工程、図9(B)に示す内側加熱工程の順番で実施する。
【0074】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、外側加熱工程における加熱条件と内側加熱工程における加熱条件とをそれぞれ適切に設定することで、外輪2全体を略均一に効率よく加熱することができる。
【0075】
本実施形態では、第1加熱工程(外側加熱工程)において、面高さが比較的一様である外輪2の外面に対向して配置される誘導コイル18によって外輪2が加熱され、その後の第2加熱工程(内側加熱工程)において、面高さが比較的変化する外輪2の内面に対向して配置される誘導コイル17によって外輪2が加熱される。例えば、図9(A)に示す第1加熱工程(外側加熱工程)において、外輪2の外面側の一部の温度が第1目標温度に達する。一方、外面から離れて位置する外輪2の内面側の一部(Pi2)には熱が伝わりにくく、他の部分に比べて温度が低い。
【0076】
次に、図9(B)に示す第2加熱工程(内側加熱工程)において、温度が比較的低い部分(Pi2)が加熱されやすく、その部分(Pi2)の温度が比較的早く上昇する。その結果、あるタイミングにおいて外輪2の大部分が第2目標温度T2に近い温度に達する。厚さ変化が比較的大きい外輪2の誘導加熱において、比較的短時間で外輪2の全体が加熱されかつ、外輪2の昇温速度の差が小さく抑制される。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0077】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態について、図10を参照して説明する。本実施形態では、外輪2を誘導加熱する工程は、図10(A)に示す内側加熱工程、図10(B)に示す外側加熱工程の順番で実施した後、さらに、図10(C)に示すような、外輪2を径方向内側から誘導加熱する再加熱工程を備える。
【0078】
再加熱工程では、外輪2の径方向内側に、再加熱用内側コイル(再加熱用内径側誘導加熱コイル、再加熱用内側誘導コイル、再加熱用内コイル)19を配置し、かつ、外輪2の径方向外側に、誘導加熱コイルを配置しない状態で、内側コイル19に通電することにより外輪2を径方向内側から誘導加熱する。本実施形態では、内側コイル19の外周面と、外輪2の内周面に備えられた円筒面部7とを近接対向させている。
【0079】
再加熱工程における外輪2と内側コイル19との径方向に関する位置関係は、内側加熱工程における外輪2と内側コイル17との径方向に関する位置関係と同じとすることもできるし、異ならせることもできる。また、内側コイル19として、内側加熱工程で使用した内側コイル17を使用することもできる。
【0080】
本実施形態では、内側加熱工程における加熱条件、外側加熱工程における加熱条件、および再加熱工程における加熱条件をそれぞれ適切に設定することで、外輪2全体を略均一に効率よく加熱することができる。
【0081】
本実施形態では、外輪2を誘導加熱する工程は、内側加熱工程、外側加熱工程の順番で実施した後、さらに、外輪2を径方向内側から誘導加熱する再加熱工程を備えるため、外輪2全体を、より確実に略均一に加熱することができる。
【0082】
すなわち、第1実施形態の誘導加熱方法では、内側加熱工程において、外輪2を径方向内側から加熱した後、外側加熱工程への搬送中に、外輪2の径方向内側部分の温度が低下してしまう可能性がある。この場合、外側加熱工程において、外輪2を径方向外側から加熱しても、外輪2の径方向内側部分が目標温度まで昇温しない可能性がある。
【0083】
本実施形態では、内側加熱工程、外側加熱工程の順番に実施した後、外輪2を径方向内側から誘導加熱する再加熱工程が実施される。工程間の搬送中に、外輪2の径方向内側部分の温度が低下した場合でも、当該部分を再加熱することで目標温度まで昇温させ、外輪2全体の温度を略均一に調整することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0084】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態について、図11を参照して説明する。本実施形態では、図1に示すようなラジアル転がり軸受1の内輪3が誘導加熱を用いて加熱される。
【0085】
本実施形態では、内輪3を誘導加熱する工程は、互いに独立して実施される内側加熱工程および外側加熱工程を備える。本実施形態では、内輪3を誘導加熱する工程は、外側加熱工程、内側加熱工程の順番で実施する。
【0086】
外側加熱工程では、図11(A)に示すように、内輪3の径方向外側に、外側コイル18aを配置し、かつ、内輪3の径方向内側に、誘導加熱コイルを配置しない状態で、外側コイル18aに通電することにより内輪3を径方向外側から誘導加熱する。
【0087】
本実施形態では、外側コイル18aの内周面と、内輪3の外周面に備えられた円筒面部13とを近接対向させている。外側コイル18aの内周面と、内輪3の外周面に備えられた円筒面部13との間の距離は、内輪3の径方向外側部分に渦電流を発生させることができる限り、特に限定されるものではないが、たとえば内輪3の円筒面部13の外径の1%~30%程度とすることができる。
【0088】
内側加熱工程では、図11(B)に示すように、内輪3の径方向内側に、内側コイル17aを配置し、かつ、内輪3の径方向外側に、誘導コイルを配置しない状態で、内側コイル17aに通電することにより内輪3を径方向内側から誘導加熱する。
【0089】
本実施形態では、内側コイル17aの外周面と、内輪3の内周面とを近接対向させている。内側コイル17aの外周面と、内輪3の内周面との間の距離は、内輪3の径方向内側部分に渦電流を発生させることができる限り、特に限定されるものではないが、たとえば内輪3の内径の1%~30%程度とすることができる。
【0090】
本実施形態では、外側加熱工程における加熱条件と内側加熱工程における加熱条件とをそれぞれ適切に設定することで、外輪2全体を略均一に効率よく加熱することができる。
【0091】
本実施形態では、外側加熱工程と内側加熱工程とをこの順番で実施している。
【0092】
外側加熱工程では、外側コイル18aの出力を高くすることで、内輪3のうち、径方向厚さが大きい第1軸端の端部の外周面の温度を目標温度近傍まで速やかに上昇させることができる。
【0093】
次に、内側加熱工程において、内側コイル17aに供給する電流値を調整することで、出力を調整し、かつ、加熱時間を調整し、内輪3を、軸方向両側の端部を除き外径が一定の径方向内側部分から加熱する。これにより、内輪3全体を目標温度まで略均一に加熱することができる。換言すれば、内輪3のそれぞれの部分の温度を、ほぼ同じタイミングで目標温度まで上昇させることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0094】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態について、図12を参照して説明する。本実施形態では、内輪3を誘導加熱する工程は、図12(A)に示す内側加熱工程、図12(B)に示す外側加熱工程の順番で実施する。
【0095】
本実施形態においても、内側加熱工程における加熱条件と外側加熱工程における加熱条件とをそれぞれ適切に設定することで、内輪3全体を略均一に効率よく加熱することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態および第4実施形態と同様である。
【0096】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態について、図13を参照して説明する。本実施形態では、内輪3を誘導加熱する工程は、図13(A)に示す外側加熱工程、図13(B)に示す内側加熱工程の順番で実施した後、さらに、図13(C)に示すような、内輪3を径方向外側から誘導加熱する再加熱工程を備える。
【0097】
再加熱工程では、図13(C)に示すように、内輪3の径方向外側に、再加熱用外側コイル(再加熱用外径側誘導加熱コイル、再加熱用外側誘導コイル、再加熱用外コイル)20を配置し、かつ、内輪3の径方向内側に、誘導コイルを配置しない状態で、外側コイル20に通電することにより内輪3を径方向外側から誘導加熱する。本実施形態では、外側コイル20の内周面と、内輪3の外周面に備えられた円筒面部13とを近接対向させている。
【0098】
本実施形態では、外側加熱工程における加熱条件、内側加熱工程における加熱条件、および再加熱工程における加熱条件をそれぞれ適切に設定することで、内輪3全体を略均一に効率よく加熱することができる。
【0099】
本実施形態では、内輪3を誘導加熱する工程は、外側加熱工程、内側加熱工程の順番で実施した後、さらに、内輪3を径方向外側から誘導加熱する再加熱工程を備えるため、内輪3全体を、より確実に略均一に加熱することができる。
【0100】
本実施形態では、外側加熱工程、内側加熱工程の順番で実施した後、内輪3を径方向外側から誘導加熱する再加熱工程が実施される。外側加熱工程から内側加熱工程への搬送中に、内輪3の径方向外側部分の温度が低下した場合でも、当該部分を再加熱することで目標温度まで昇温させ、内輪3全体の温度を略均一に調整することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態、第3実施形態、および第4実施形態と同様である。
【0101】
[第7実施形態]
本発明の第7実施形態について、図14を参照して説明する。
【0102】
本実施形態では、図14の(A)部及び(B)部に示すように、誘導コイル17、18の有効長さが、リング状部材30の軸長さと同程度である。リング状部材30の軸長さと誘導コイル17、18の有効長さが同じ場合、磁界がリング状部材30の軸端面へ回り込みにくく、軸端面においては径方向の内部まで加熱されにくい可能性がある。この場合、必要に応じて、再加熱工程により、追加的にリング状部材30が加熱される。一方、リング状部材30における径方向の肉厚差が比較的小さい場合、磁界の回り込みによる影響は小さく、再加熱工程を設けることなく、比較的均一な加熱が可能である。
【0103】
本実施形態では、内側コイル17に電流を供給して、リング状部材30の少なくとも1部が第1目標温度に達するように、リング状部材30を誘導加熱する第1加熱工程が実施され、その後、外側コイル18に電流を供給して、リング状部材30の少なくとも1部が第1目標温度に比べて高い第2目標温度に達するように、リング状部材30を誘導加熱する第2加熱工程が実施される。その他の部分の構成および作用効果は、上述した実施形態と同様である。
【0104】
[第8実施形態]
本発明の第8実施形態について、図15を参照して説明する。
【0105】
本実施形態では、図15の(A)部及び(B)部に示すように、誘導コイル17、18の有効長さが、リング状部材30の軸長さに比べて大きい。例えば、誘導コイルの有効長さが、リング状部材30の軸長さの110、120、130、140、又は150%以上に設定される。誘導コイル17、18の有効長さが、リング状部材30の軸長さに比べて大きい場合、磁界がリング状部材30の軸端面へ回り込みやすく、軸端面においてもリング状部材30の内部まで加熱される。その結果、リング状部材30の全断面が均一に加熱されやすい。その他の部分の構成および作用効果は、上述した実施形態と同様である。
【0106】
[第9実施形態]
本発明の第9実施形態について、図16を参照して説明する。
【0107】
本実施形態では、図16の(A)部、(B)部、(C)部、及び(D)部に示すように、誘導コイル17、18の有効長さが、リング状部材30の軸長さに比べて大きい。例えば、誘導コイルの有効長さが、リング状部材30の軸長さの160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、又は300%以上に設定される。本実施形態では、第8実施形態と同様に、磁界がリング状部材30の軸端面へ回り込みやすく、軸端面においてもリング状部材30の内部まで加熱される。その結果、リング状部材30の全断面が均一に加熱されやすい。
【0108】
本実施形態では、誘導コイル17、18の有効長さとリング状部材30の軸長さとの寸法差が第8実施形態に比べて大きい。誘導コイル17、18に供給する電流値を比較的小さく設定することで、第8実施形態と同程度の加熱時間でリング状部材30を均一に加熱することが可能である。
【0109】
本実施形態では、磁性材料からなるコア部材が追加的に設けられる。例えば、コア部材は、内側コイル17の内側(内周面の近傍位置)、及び/又は内側コイル17の両軸端面の近傍位置に設けられる。また、コア部材は、外側コイル18の外側(外周面の近傍位置)、及び外側コイル18の両軸端面の近傍位置に設けられる。コア部材の設置により、加熱効率の向上が図られる。
【0110】
本実施形態では、誘導コイル17、18の有効長さとリング状部材30の軸長さとの寸法差が比較的大きいことから、リング状部材30の形状変化や位置ムラに対する許容水準が緩和され、誘導コイル17、18の汎用性が高まる。1種類の誘導コイル17、18を用いて、様々な形状の複数のリング状部材の熱処理が可能である。内側コイル17と外側コイル18とを交換する頻度が低減され、例えば、特に多品種小ロットのリング状部材30の製造に好ましく適用される。
【0111】
上述した実施形態によれば、図17に示すように、様々な形状の複数のリング状部材に対して熱処理を施すことができる。汎用性の高い誘導コイルを用いた熱処理は、製造コストの低減に有利である。
【0112】
リング状部材は、例えば、図18に示すモータ961の回転軸963を支持する軸受900A、900B等に適用できる。
【0113】
図18において、モータ961は、ブラシレスモータであって、円筒形のセンタハウジング965と、このセンタハウジング965の一方の開口端部を閉塞する略円板状のフロントハウジング967とを有する。センタハウジング965の内側には、その軸心に沿って、フロントハウジング967及びセンタハウジング965底部に配置された軸受900A、900Bを介して、回転自在な回転軸963が支持されている。回転軸963の周囲にはモータ駆動用のロータ969が設けられ、センタハウジング965の内周面にはステータ971が固定されている。
【0114】
モータ961は、一般に、機械や車両に搭載され、軸受900A、900Bにより支持された回転軸963を回転駆動する。
【0115】
軸受要素又は軸受は、回転部を有する機械、各種製造装置、例えば、ボールねじ装置等のねじ装置、及びアクチュエータ(直動案内軸受とボールねじの組合せ、XYテーブル等)等の直動装置の回転支持部に適用可能である。また、軸受要素又は軸受は、ワイパー、パワーウィンドウ、電動ドア、電動シート、ステアリングコラム(例えば、電動チルトテレスコステアリングコラム)、自在継手、中間ギア、ラックアンドピニオン、電動パワーステアリング装置、およびウォーム減速機等の操舵装置に適用可能である。さらに、軸受要素又は軸受は、自動車、オートバイ、鉄道等の各種車両に適用可能である。相対回転する箇所であれば、本構成の軸受を好適に適用でき、製品品質の向上及び低コスト化につなげることができる。
【0116】
リング状部材を備える軸受として、転がり軸受、滑り軸受等、様々な種類のものが好適に適用可能である。例えば、軸受要素は、ラジアル転がり軸受の外輪及び内輪、円筒ころ(ニードルを含む)を使用したラジアル円筒ころ軸受の外輪及び内輪、円すいころを使用したラジアル円すいころ軸受の外輪及び内輪に適用可能である。
【0117】
上述した実施形態は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。また、本発明の技術的範囲は実施形態に記載の範囲には限定されない。実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能である。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得る。また、説明した実施形態に限らず、これらの構成の任意の組み合わせでもよい。
【符号の説明】
【0118】
1 ラジアル転がり軸受
2、2a、2b 外輪
3 内輪
4 転動体
5 外輪軌道
6 傾斜面部
7 円筒面部
8a、8b 面取り部
9 円筒面部
10a、10b 面取り部
11 内輪軌道
12 傾斜面部
13 円筒面部
14a、14b 面取り部
15 円筒面部
16a、16b 面取り部
17、17a 内側コイル
18、18a 外側コイル
19 再加熱用内側コイル
20 再加熱用外側コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18