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  • 特許-積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/023 20190101AFI20241001BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241001BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B9/00 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024513915
(86)(22)【出願日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2024004514
【審査請求日】2024-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2023022397
(32)【優先日】2023-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023114888
(32)【優先日】2023-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 倫子
(72)【発明者】
【氏名】山田 絵美
(72)【発明者】
【氏名】辻 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山本 千紘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-020129(JP,A)
【文献】特開2013-018188(JP,A)
【文献】特開2011-224875(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103507331(CN,A)
【文献】特開平09-277426(JP,A)
【文献】米国特許第06436498(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B41M 1/30
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に積層した積層体であって、前記被覆層は水溶性樹脂とシリコンアルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物を含み、かつ前記被覆層は(メタ)アクリロイル基を含み、被覆層側から以下の測定条件で測定した発光ピークの発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Yが、5以上300以下である積層体。
<測定条件>
積層体の被覆層側を1×10-4mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF(テトラヒドロフラン)溶液に60℃30分接触させた後、積層体をTHFに2度浸漬洗浄し、その後15mm×15mmに切り出し、発光スペクトル測定において、470nmにて励起し、520~550nmに見られる発光極大のピーク強度を算出。
<基準ピーク>
1×10-5mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液を、光路長10mmの石英ガラス製セルを用いて積層体と同様に測定。
【請求項2】
被覆層に含まれるケイ素元素の総mol量に対して、被覆層が(メタ)アクリロイル基を0.17mol%以上5.59mol%以下含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
被覆層に含まれるケイ素元素の総mol量に対して、被覆層が(メタ)アクリロイル基を0.25mol%以上1.25mol%以下含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記被覆層の厚さが200nm以上600nm以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
前記金属層および/または無機化合物層がアルミニウムを含む、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項6】
前記積層体の水蒸気透過率が1.0g/m/day以下、かつ酸素透過率が1.0cc/m/day以下である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項7】
前記積層体の被覆層側から以下の測定条件で測定した発光ピークの発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Yが、18以上100以下である請求項1または2に記載の積層体。
<測定条件>
積層体の被覆層側を1×10-4mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液に60℃30分接触させた後、積層体をTHFに2度浸漬洗浄し、その後15mm×15mmに切り出し、発光スペクトル測定において、470nmにて励起し、520~550nmに見られる発光極大のピーク強度を算出。
<基準ピーク>
1×10-5mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液を、光路長10mmの石英ガラス製セルを用いて積層体と同様に測定。
【請求項8】
前記基材フィルムがポリオレフィン系樹脂フィルムである請求項1または2に記載の積層体。
【請求項9】
前記被覆層をFT-IR-ATR法(全反射フーリエ変換赤外分光法)で測定して検出される下記ピーク強度P1とP2の比P1/P2の値が3.5以上8.0以下である、請求項1または2に記載の積層体。
P1:1,050~1,080cm-1に存在する最大ピークの強度
P2:920~970cm-1に存在する最大ピークの強度
【請求項10】
前記基材フィルムが、リサイクル由来のフィルムである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項11】
包装材料用途に用いられる、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項12】
電子線硬化型インキの印刷に用いられる、請求項1または2に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷層との密着性に優れた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、日用品などの包装材料には、内容物の劣化防止のために酸素バリア性や、水蒸気バリア性が求められる。これらバリア性包装材料として、ポリエステル等の樹脂フィルムにアルミニウム等の金属層や、金属酸化物層を積層したバリアフィルムが用いられてきた。特に、金属酸化物層を積層した場合は、透明フィルムとなるため視認性がよく、食品の包装においては電子レンジ加熱が可能になるなど利便性が高いため、広く用いられている。これらフィルム上に文字や絵柄など表示目的の印刷処理を施したり、他の樹脂フィルムと貼り合わせることで様々な用途の包装材料に適用している。
【0003】
さらにガスバリア性能の悪化を防止する目的でガスバリア層の上に保護層を積層することも行われており、一般には保護層上に印刷がなされる。
【0004】
こうした保護層に対する印刷は、印刷性、保護層への密着性に優れることから、軟包装印刷で主流のグラビア印刷が用いられている(特許文献1)。しかし、グラビア印刷は、溶剤を大量に含むインキを使用していることから、インキ溶剤の乾燥や排気処理に多量のエネルギーが必要となり、環境負荷も大きい。
【0005】
一方近年、活性エネルギー線、特に電子線(EB)照射によりインキを硬化させる、EBフレキソ印刷やEBオフセット印刷を、軟包装印刷で実施する試みがなされている(特許文献2)。一般に、軟包装印刷ではロールトゥロールで印刷するため、インキの速乾性が重要であり、活性エネルギー線硬化型の印刷方式は、溶剤をほとんど含まないことによる環境面での利点に加えて、熱エネルギーを使用せずに乾燥工程を短縮するため、省エネかつ高い生産性を有するものである。また電子線照射による硬化は、透過性に優れ、またインキ中の光重合開始剤が不要となるため、印刷物臭気や内容物への開始剤分解成分の移行のおそれが低減され、内容物保護という安全面からも優れている。
【0006】
しかしながら、アクリレートが主成分である活性エネルギー線硬化型インキは、保護層に対する密着性が低い。そのため、保護層にも(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシドを導入することで、活性エネルギー線硬化型インキとの密着性に優れる積層体が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/3596号
【文献】国際公開第2019/69736号
【文献】特開2022-20129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載の発明では、(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシドの導入量が非常に多く、活性エネルギー線硬化型インキとの密着性は得られるものの、親水性の強いビニルアルコール系樹脂や、分子量の小さいケイ素アルコキシド等のその他保護層の成分を鑑みると、疎水性が強く分子量も大きい(メタ)アクリレート基を多く導入することは、膜中の空隙を増加させ、内容物の劣化を抑制するほど緻密に硬化できないためにバリア性を得るには十分ではなく、改善の余地があった。さらに、(メタ)アクリレート基を有するケイ素アルコキシドの導入量が非常に多いために、活性エネルギー線硬化型以外の乾燥型インキ(媒体である溶剤や水を熱乾燥)に対する密着性が低下する課題があった。
【0009】
そこで本発明では、多様なインキからなる印刷層との高い密着性を示し、かつ高いガスバリア性を示す積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい一態様は以下の通りである。
(1)基材フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に積層した積層体であって、被覆層側から以下の測定条件で測定した発光ピークの発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Yが、5以上300以下である積層体。
<測定条件>
積層体の被覆層側を1×10-4mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF(テトラヒドロフラン)溶液に60℃30分接触させた後、積層体をTHFに2度浸漬洗浄し、その後15mm×15mmに切り出し、発光スペクトル測定において、470nmにて励起し、520~550nmに見られる発光極大のピーク強度を算出。
<基準ピーク>
1×10-5mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液を、光路長10mmの石英ガラス製セルを用いて積層体と同様に測定。
(2)前記被覆層が、水溶性樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物を含む(1)に記載の積層体。
(3)前記被覆層の厚さが200nm以上600nm以下である、(1)または(2)に記載の積層体。
(4)前記金属層および/または無機化合物層がアルミニウムを含む、(1)~(3)のいずれかに記載の積層体。
(5)前記積層体の水蒸気透過率が1.0g/m/day以下、かつ酸素透過率が1.0cc/m/day以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の積層体。
(6)被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して、被覆層が(メタ)アクリロイル基を0.25mol%以上1.25mol%以下含む(2)~(5)のいずれかに記載の積層体。
(7)前記積層体の被覆層側から以下の測定条件で測定した発光ピークの発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Yが、18以上100以下である(1)~(6)のいずれかに記載の積層体。
<測定条件>
積層体の被覆層側を1×10-4mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液に60℃30分接触させた後、積層体をTHFに2度浸漬洗浄し、その後15mm×15mmに切り出し、発光スペクトル測定において、470nmにて励起し、520~550nmに見られる発光極大のピーク強度を算出。
<基準ピーク>
1×10-5mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液を、光路長10mmの石英ガラス製セルを用いて積層体と同様に測定。
(8)前記基材フィルムがポリオレフィン系樹脂フィルムである(1)~(7)のいずれかに記載の積層体。
(9)前記被覆層をFT-IR-ATR法(全反射フーリエ変換赤外分光法)で測定して検出される下記ピーク強度P1とP2の比P1/P2の値が3.5以上8.0以下である、(1)~(8)のいずれかに記載の積層体。
P1:1,050~1,080cm-1に存在する最大ピークの強度
P2:920~970cm-1に存在する最大ピークの強度
(10)前記被覆層が、水溶性樹脂と、金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物に加え、金属元素Mを含み、飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、金属元素Mに由来するフラグメントイオンのピーク強度mと、Si-O結合を有するセグメントに由来するフラグメントイオンのピーク強度sの比率m/sが、0.05以上10.00以下である、(1)~(9)のいずれかに記載の積層体。
<測定条件>
一次イオン種 :Bi(2pA、50μs)
加速電圧:25kV
検出イオン極性:positive
測定範囲 :100μm×100μm
分解能 :128×128
エッチングイオン種:O2+(2keV、170nA)
エッチング面積:300μm×300μm
エッチングレート:1sec/cycle
(11)前記基材フィルムが、リサイクル由来のフィルムである、(1)~(10)のいずれかに記載の積層体。
(12)包装材料用途に用いられる、(1)~(11)のいずれかに記載の積層体。
(13)電子線硬化型インキの印刷に用いられる、(1)~(12)のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多様なインキからなる印刷層との高い密着性を示し、かつ高いガスバリア性を示す積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の積層体の構成を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の積層体の好ましい一態様についてさらに詳しく説明する。
【0014】
基材フィルム
本発明にかかる基材フィルムを構成する樹脂は特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂、さらにはポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコールなどの生分解性樹脂等が挙げられる。中でも、無機化合物層との密着力やハンドリングの観点からはポリエステル系樹脂が好ましく、リサイクルのしやすさという観点からはポリオレフィン系樹脂が好ましい。またリサイクル性に加えこれら樹脂全体に対し3~55質量%のリサイクル原料を含むことが好ましい。尚、リサイクル原料は、メカニカルリサイクルにてリサイクルされたものであっても、ケミカルリサイクルにてリサイクルされたものであってもよく、特に限定されるものではない。さらに、前記基材フィルムを構成する樹脂にバイオマス由来(植物由来)の原料を含んでいてもよく、例えばポリエステルの場合、その原料であるジオールもしくはジカルボン酸のいずれか一方または両方が、樹脂組成物全体に対し10~95質量%のバイオマス由来(植物由来)の原料を含むことが好ましい。基材フィルムは、未延伸であっても、延伸(一軸又は二軸)されていてもよいが、熱寸法安定性の観点から二軸延伸されていることが好ましい。
【0015】
基材フィルムの厚みは、3μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましい。基材フィルムの厚さを3μm以上とすることで支持体としての剛性を保つことができ、100μm以下とすることで、包装材料としての柔軟性を維持しつつ、追従性が向上するため好ましい。なお、基材フィルムの厚さは実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0016】
前記基材フィルムに用いられるポリオレフィン系樹脂フィルムは、オレフィン系炭化水素を主構成単位とする樹脂を主成分とするフィルムであることが好ましい。主構成単位とは、樹脂に含まれるモノマー単位のうち最も含有量(個数単位)の多いものをいい、主成分とは、構成するすべての成分の中で最も含有量(質量%)の多いものをいう。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレンの他、プロピレンや4-メチル-1ペンテンなど側鎖にアルキル基を有するα-オレフィンの重合体およびこれらの共重合体、または、α-オレフィンとアクリル酸、C=C結合含有カルボン酸、C=C結合含有カルボン酸塩あるいはC=C結合含有カルボン酸アルキルエステル等を共重合して得られる共重合体、ノルボルネンやシクロジエンの重合体およびこれらの重合体であり、単層であっても複数層であってもよい。これらの中でも、比較的安価であることから、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むことが好ましく、耐熱性の点でポリプロピレンを含むことがより好ましく、同様の観点でポリプロピレンを主成分とすることがさらに好ましい。また、フィルムは未延伸であっても、延伸されていてもよいが、熱寸法安定性の観点から二軸延伸されていることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂フィルムは、融点が150℃以上であることが好ましい。融点を150℃以上とすることで、金属酸化物層を形成したり、包装材構成に加工したりする工程の熱による熱負けを防止し、加工後の耐熱性も高くなるため、バリア性の劣化を抑制できる。なお、フィルムの融点は、DSC(示差走査熱量測定)で以下の方法で測定することができる。
【0017】
<フィルムの融点の測定方法>
示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgの試料を30℃から260℃まで、昇温速度20℃/分で昇温し、次いで、260℃で5分間保持した後、20℃/分の条件で30℃まで降温する。さらに、30℃で5分間保持した後、30℃から260℃まで20℃/分の条件で再昇温し、この再昇温時に得られる吸熱カーブのピーク温度を樹脂組成物の融点とする。なお複数のピーク温度が観測できる場合には最も高温の温度を樹脂組成物の融点とする。
【0018】
前記ポリオレフィン系樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は50℃以下であることが好ましい。本態様とすることにより、低温においてもフィルムの柔軟性が高くなり、包装体としたときに低温でも硬くなることがなく、広い温度範囲で安定した使用が可能となる。
【0019】
また、ポリオレフィン系樹脂フィルムは表面が平滑であることが好ましい。表面平滑性は、ISO25178(2012)で定義される算術平均高さSaで表すことができ、Saは50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。Saは、非接触の表面観察装置、例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製走査型白色干渉顕微鏡で測定することができる。本発明においてSaは実施例に記載の方法で求めるものとする。表面を平滑にすることで、表面に積層する無機酸化物層の欠点を減らすことができ、良好な無機酸化物層とすることができ、バリア性を向上させることができる。
【0020】
金属層および/または無機化合物層
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層を有することが好ましい。
【0021】
前記金属層および/または前記無機化合物層は、周期表の2族から14族(ただし炭素を除く)より選ばれる1種以上の元素を含み、無機化合物層はさらに、酸素、窒素の少なくとも1種を含む層であることが好ましい。これらの中でも加工コストやガスバリア性の観点から、金属層はアルミニウムを含有することが好ましく、アルミニウムを主成分とすることがより好ましい。主成分とは、構成する成分の中で最も含有量(質量%)の多いものをいう。また、同様の観点から、前記無機化合物層は少なくともアルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、及びケイ素より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、ケイ素またはアルミニウムを含むことがより好ましい。好ましい無機化合物層としては、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウムが挙げられ、特に酸化アルミニウムが好ましい。さらに、前記無機酸化物層において、周期表の2族から14族(ただし炭素を除く)の元素の総和に占めるアルミニウムの割合が50atomic%以上であることが好ましい。
【0022】
金属層を有する場合、前記金属層の厚さは、5nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることが好ましい。厚さを5nm以上とすることで、バリア性を向上することができ、500nm以下とすることで、成膜中に基材が熱負けすることを抑制できるので好ましい。
【0023】
無機化合物層を有する場合、前記無機化合物層の厚さは、2nm以上50nm以下が好ましく、2nm以上20nm以下がより好ましく、4nm以上10m以下がさらに好ましい。厚さを2nm以上とすることで無機化合物層のピンホールなどの欠陥を減らすことができ、50nm以下とすることでクラックを抑制することができ好ましい。
【0024】
なお、金属層や無機化合物層の厚さは実施例に記載の方法で求めることとする。
【0025】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層、被覆層とをこの順に積層した積層体であることが好ましい。本態様には、基材フィルムと、金属層と、被覆層とをこの順に積層した積層体や、基材フィルムと、無機化合物層と、被覆層とをこの順に積層した積層体に加え、基材フィルムと、金属層と、無機化合物層と、被覆層とをこの順に積層した積層体や、基材フィルムと、無機化合物層と、金属層と、被覆層とをこの順に積層した積層体や、基材フィルムと、無機化合物層と、金属層と、無機化合物層と、被覆層とをこの順に積層した積層体などを含む。
【0026】
被覆層
本発明における被覆層とは、前記積層体の少なくとも一方の最表層をいい、水溶性樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物を含む層であることが好ましい。
【0027】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層、被覆層とをこの順に積層した積層体であることが好ましく、被覆層は水溶性樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物を含む層であることが好ましく、最表層が被覆層であることが好ましい。
【0028】
水溶性樹脂とは、当該樹脂を5質量%の濃度になるように水に分散させ、90℃で1時間加熱攪拌した後、室温まで冷却した液30mLを、濾紙1種(JIS P 3801(1995)に準拠)に通したとき、濾紙上に残留物がないものを指す。
【0029】
前記被覆層の水溶性樹脂は、ビニルアルコール系樹脂に由来するセグメント、多糖類に由来するセグメント、及びアクリルポリオール樹脂に由来するセグメント、より選ばれる1種以上のセグメントを含むことが好ましい。
【0030】
ビニルアルコール系樹脂に由来するセグメント、多糖類に由来するセグメント、及びアクリルポリオール樹脂に由来するセグメントを含む樹脂はそれぞれ、ビニルアルコール系樹脂、メチルセルロース等の多糖類、アクリルポリオール系樹脂などが好ましく挙げられるが、酸素バリア性をより向上できる点から、ビニルアルコール系樹脂が好ましい。ビニルアルコール系樹脂としては例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの樹脂は単独で用いても、2種以上の混合物であってもよい。ビニルアルコール系樹脂の平均分子量(JIS K 6726(1994)に準拠)は、500以上3,000以下が好ましい。分子量がこれより小さい場合、層中でポリマーが固定されにくく、バリア性が低下する場合がある。
【0031】
ビニルアルコール系樹脂は、一般に、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。けん化度(JIS K 6727(1994)に準拠)は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。けん化度が高いと、立体障害の大きい酢酸基が少なく、被覆層の自由体積が小さくなるとともに、樹脂の結晶化度が上がるため、バリア性向上に有利になり好ましい。
【0032】
変性ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコールに異なる化学構造の単量体を化学反応させたもの、または異なる化学構造の単量体を共重合させたものを指す。変性ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸ビニル、プロピオンビニル等のビニルエステル系、カルボン酸系、メタアクリル酸エステル系、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル系、グリコール系、などが挙げられる。
【0033】
前記被覆層に含まれるビニルアルコール系樹脂に由来するセグメント、多糖類に由来するセグメント、及びアクリルポリオール樹脂に由来するセグメント、については、以下の方法で分析することができる。
【0034】
フィルム片を重水素化イソプロパノールへ浸漬し、被覆層組成物を溶媒に溶解させる、または被覆層をスパチュラ等を用いて物理的に削る。被覆層が溶解したかどうか、または被覆層を削り取れたかは、後述する膜厚み評価方法と同様に被覆層の膜厚みを測定することで確認できる。次いで、溶媒に溶解させた試料を液体NMRで、または削り出した試料を固体NMRで、13Cについて分析し、各ピークを帰属することで各セグメントが含まれているかを確認できる。
【0035】
前記金属アルコキシドは、Si-O結合を有するセグメントとなる、Si(OR)で表されるシリコンアルコキシド、シリコンアルコキシドの加水分解物、及びシリコンアルコキシドの加水分解物の重縮合物より選ばれる1種以上、および/または一般式 M(OR)で表される。式中nは自然数であり、Mは金属原子であり、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウムなどであることが好ましい。ここでは、Rはアルキル基であり、特に炭素数1~4の低級アルキル基が好ましい。とりわけ、反応性と安定性、コストの観点から例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランを好適に用いることができ、これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。これら金属アルコキシドは、ネットワークを形成するために加水分解したり、重縮合してもよい。
【0036】
金属アルコキシドの加水分解および/または重縮合は、水、触媒、有機溶媒の存在下で進めることができる。反応に使用する水は、Si(OR)および/またはM(OR)のアルコキシ基に対して0.8当量以上5当量以下であることが好ましい。水の量を0.8当量以上とすることで、十分に加水分解を進行させてネットワークを形成できるため好ましい。水の量を5当量以下にすることで、加水分解進行度を調整してランダムなネットワーク形成を抑制でき、膜の自由体積を小さくしてバリア性が向上するため好ましい。
【0037】
金属アルコキシドの反応に使用する触媒は、酸触媒であることが好ましい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、酒石酸等が挙げられ、特に限定されない。通常、金属アルコキシドの加水分解および重縮合反応は、酸触媒であっても塩基触媒であっても進めることができる。酸触媒を用いた場合、系中のモノマーは平均的に加水分解されやすく、直鎖状やネットワーク構造で縮合が進みやすい。一方、塩基触媒を用いた場合は、同一分子に結合したアルコキシドの加水分解・重縮合反応が進みやすい反応機構となるため、反応生成物は自由体積が大きく空隙の多い粒状になりやすい。膜中の空隙は、水蒸気や酸素の透過経路となるため、酸触媒を用いることが好ましい。触媒の使用量は、金属アルコキシド総mol量に対して、0.1mol%以上0.5mol%以下であることが好ましい。
【0038】
金属アルコキシドの反応に使用する有機溶媒は、水および金属アルコキシドと混合可能なメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類を用いることができる。
【0039】
なお、金属アルコキシドの重縮合物として、市販のシリケートオリゴマーやポリシロキサンを用いることもできる。シリケートオリゴマーやポリシロキサンは単独で用いても、低分子の金属アルコキシドと混合して用いてもよいが、過剰な架橋によるクラック発生を抑制するため、低分子の金属アルコキシドと混合して用いることが好ましい。なお、シリケートオリゴマーやポリシロキサンを使用する場合も、直鎖状やネットワーク構造のものを選定すると、膜の自由体積が小さくなり、バリア性が向上しやすく好ましい。
【0040】
前記被覆層に含まれる金属アルコキシドは、被覆層表面をFT-IR-ATR法を用いて分析し、各ピークを帰属することでSi-O結合を有するセグメント、およびM-O結合が含まれているかを確認できる。
【0041】
本発明における被覆層は、前記水溶性樹脂と、前記金属アルコキシドの加水分解および/または重縮合物を混合して得られる塗剤を、金属層および/または無機化合物層に塗布・乾燥して得ることが好ましい。被覆層に含まれる樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物の比率は、金属アルコキシドの中心原子が完全酸化した場合の質量(SiO、MOの換算質量)と樹脂の質量比率で、樹脂/金属アルコキシドの酸化物の換算質量=15/85~85/15の範囲が好ましく、20/80~65/35の範囲がより好ましく、20/80~50/50の範囲がさらに好ましく20/80~40/60の範囲が特に好ましい。この比率を15/85以上とすることで、過剰量の金属アルコキシドの加水分解物および/または重縮合物成分によって膜が脆弱化してクラックが発生することを抑制でき、好ましい。85/15以下とすることで、金属アルコキシドの加水分解物および/または重縮合物のネットワークで樹脂を固定化し、水蒸気バリア性の低下を抑制することができ、好ましい。
【0042】
本発明における被覆層は、前記水溶性樹脂と、前記金属アルコキシドの加水分解および/または重縮合物を混合して得られる塗剤中に、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を添加することにより、被覆層中に(メタ)アクリロイル基を導入することが可能となり、好ましい。被覆層中に(メタ)アクリロイル基を有することにより、被覆層上に活性エネルギー線硬化型インキを用いて印刷層を形成した際に、被覆層の(メタ)アクリロイル基と活性エネルギー線硬化型インキとがラジカル重合で架橋することができ、被覆層と印刷層との密着性を向上させることができる。
【0043】
前記(メタ)アクリロイル基は、活性エネルギー線硬化型インキのフィルム密着性を向上させることから、前記被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して、0.25mol%以上であることが好ましく、0.30mol%以上がより好ましい。またガスバリア性が良好に維持されることから、1.25mol%以下であることが好ましく、1.10mol%以下がより好ましい。これは前記(メタ)アクリロイル基が、炭素数4以下のアルコキシドやその加水分解物であるヒドロキシル基と比べると自由体積が大きく、添加量が増えるにつれて被覆層中の空隙を拡大し、結果としてガスバリア性が低下する場合があるためである。また(メタ)アクリロイル基の添加量が増えると、その分ヒドロキシル基が減るため、分子間力で密着性が発現するウレタン等の乾燥型インキではフィルム密着性が低下する場合がある。
【0044】
発光ピークの発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Y
本発明の積層体の好ましい一態様は、被覆層側から以下の測定条件で測定した発光ピークの発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Yが、5以上300以下の積層体である。
【0045】
<測定条件>
積層体の被覆層側を1×10-4mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液に60℃30分接触させた後、積層体をTHFに2度浸漬洗浄し、その後15mm×15mmに切り出し、発光スペクトル測定において、470nmにて励起し、520~550nmに見られる発光極大のピーク強度を算出。
【0046】
<基準ピーク>
1×10-5mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液を、光路長10mmの石英ガラス製セルを用いて積層体と同様に測定。
【0047】
前記(メタ)アクリロイル基は、α-β不飽和カルボニル化合物であるため、求核性の高い1級または2級アミン類が1,4共役付加して、3-アミノプロピオネート構造に変換することが可能である(マイケル付加反応)。この反応を利用して、2級アミノ基を有する蛍光色素である、4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleを(メタ)アクリロイル基に選択的に導入することで、フィルムの(メタ)アクリロイル基を定量することが可能となる。前記蛍光色素は、2級アミノ基を1つだけ有するため、(メタ)アクリロイル基と当量比1:1で反応する。また求核性が高い脂肪族アミンであるため、無触媒で常温でも反応が進行する。また、400nm以上の可視光領域に吸収と蛍光発光を有するため、分光的に検出することができる。なお、接触時間が短いこともあり被覆層の厚みはXの値にあまり影響しない。詳細な測定方法は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0048】
被覆層中に(メタ)アクリロイル基が一定量以上存在することにより、インキとの密着性が向上する。本発明においては、被覆層中における(メタ)アクリロイル基量の指標として、X/Yに着目した。X/Yが5未満であると、インキとフィルム積層体との密着性が低下する場合がある。密着性の観点からX/Yは、18以上がより好ましい。一方、X/Yが300を超えると、被覆層中の(メタ)アクリロイル基量の増大により、層内部の空隙を拡大し、ガスバリア性が低下する場合がある。また、分子間力で密着性が発現するウレタン等の乾燥型インキとの密着性が低下する場合がある。ガスバリア性と密着性の観点からX/Yは、100以下がより好ましい。
【0049】
本発明における被覆層は、厚さが200nm以上600nm以下であることが好ましく、200nm以上500nm以下がより好ましい。厚さを200nm以上とすることで、金属層および/または無機化合物層を欠点なく被覆できるとともに、バリア性を向上することができる。厚さを600nm以下とすることで、硬化時の熱収縮によるクラックや、硬化不足を防止することができ、好ましい。なお、被覆層の厚さは実施例に記載の方法で求めることとする。
【0050】
本発明における被覆層は、FT-IR-ATR法で測定して検出されるピーク強度P1とP2の比P1/P2の値が3.5以上8.0以下であることが好ましく、4.0以上6.5以下であることがより好ましい(ただし、P1:1,050~1,080cm-1に存在する最大ピークの強度、P2:920~970cm-1に存在する最大ピークの強度を示す。なお、ピーク強度とは、ピーク位置における吸光度(単位無し)である。)。FT-IR-ATR法では、表面の被覆層の特徴をとらえることができ、P1は反応生成物であるSi-O-Siを示し、P2は反応原料であるSi-OHの量を示す。したがって、ピーク強度のP1とP2の比P1/P2は、金属アルコキシドの重縮合が進行するほど大きくなる。金属アルコキシドの重縮合反応が進行すると、末端のOHが減少して強固な膜となり、バリア性が向上するとともに、包装材料としてレトルト処理される際の耐湿熱性も向上する。P1/P2を3.5以上にすると、末端OHが減少して強固な膜となっておりバリア性、耐湿熱性に優れる層とすることができる。P1/P2を8.0以下にすることで、膜の収縮によるクラックや脆化を抑制することができ、好ましい。なお、P1、P2は実施例に記載の方法で求めることとする。前記FT-IR-ATR法で測定して検出されるピーク強度P1とP2の比P1/P2を好ましい範囲にするためには、金属アルコキシドの反応を十分に進行させる必要がある。金属アルコキシドの重縮合は脱水反応であるため、加熱によって進行させることができるが、本発明のより好ましい積層体を構成する基材フィルムに用いられるポリオレフィン系樹脂フィルムは、従来のポリエステル系樹脂と比較して耐熱性が低いため、反応を十分に進行させることが難しい課題があった。発明者らは鋭意検討した結果、低温でネットワークを形成できる成分を混合することによって、低温の加工でも適切な特性の膜を得ることに成功した。また、P1/P2を3.5以上8.0以下に調整することで、後工程におけるバリア性の劣化も抑制できることを見出した。
【0051】
本発明の積層体を包装材料として使用する場合、印刷や製袋の工程を通るため、加熱されたり、圧力がかかったりする。このとき、適度にネットワークを構成した被覆は保護膜としても機能でき、好ましい。一方で、たとえばP1/P2が3.5未満であると、未反応の金属アルコキシドが多いため、被覆層が硬化できておらずキズが入ってバリア性が劣化しやすかったり、加工条件によっては未反応の金属アルコキシドが硬化収縮し、バリア劣化したりする。一方、P1/P2が8.0を超える場合は、被覆層が脆化してしまい、貼合時の圧力や搬送張力によってクラックが発生しやすくバリア劣化することがある。
【0052】
本発明における被覆層は、ビニルアルコール系樹脂に由来するセグメント、多糖類に由来するセグメント、及びアクリルポリオール樹脂に由来するセグメント、より選ばれる1種以上のセグメント、並びに、Si-O結合を有するセグメント、に加え、金属元素Mを含む層であることが好ましい。
【0053】
ビニルアルコール系樹脂に由来するセグメント、多糖類に由来するセグメント、及びアクリルポリオール樹脂に由来するセグメントは、前述の水溶性樹脂であり、Si-O結合を有するセグメントは、前述の金属アルコキシドのうち、Si(OR)で表されるシリコンアルコキシド、シリコンアルコキシドの加水分解物、及びシリコンアルコキシドの加水分解物の重縮合物より選ばれる1種以上のことである。
【0054】
被覆層に含まれる金属元素Mはケイ素Siを除くものとする。被覆層が金属元素Mを有することにより、被覆層を緻密なものとすることができる。被覆層が金属元素Mを有することにより、被覆層を緻密なものとすることができるのは、金属元素Mを含有する化合物がSi-O結合の繰り返しの中に適度に入り込むことで、結合に適度な自由度を生み、Si-O結合のみの繰り返しと比べて、非常に微細な構造欠陥やクラックが入ることを抑制できるためであると考えている。
【0055】
金属元素Mを含有する化合物は、ケイ素を除く少なくとも1種の金属や半金属の金属元素のうち少なくとも1種の金属元素の錯体(キレート)、またはアルコレートであることが好ましく、2種類の金属元素を含んでもよい。金属元素Mは、空軌道を有する金属元素を含むことが好ましく、金属元素M(ケイ素を除く)の総和100atom%中、空軌道を有する金属元素の元素比率の和が80atom%以上であることが好ましい。金属元素Mは、アルミニウム、チタン、ジルコニウムのうちの少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましく、金属元素M(ケイ素を除く)の総和100atom%中、アルミニウム、チタン、ジルコニウムの元素比率の和が80atom%以上であることがより好ましく、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、から選ばれる少なくとも1種以上のみからなることがさらに好ましく、金属元素M(Siを除く)の総和100atom%中、チタン、ジルコニウムの元素比率の和が80atom%以上であることが特に好ましく、ジルコニウム、および/またはチタンからなることが最も好ましい。
【0056】
アルミニウム元素を含むキレート、またはアルコレートの例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネ-ト)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウム-ジ-n-ブトキシド-モノエチルアセトアセテート、アルミニウム-ジ-イソ-プロポキシド-モノメチルアセトアセテート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が例示される。
【0057】
チタン元素を含むキレート、またはアルコレートの例としては、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート等のチタンオルソエステル類;チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンエチルアセトアセテート等のチタンキレート類等が例示される。
【0058】
ジルコニウム元素を含むキレート、またはアルコレートの例としては、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート等が例示される。
【0059】
これらを添加した場合の塗液安定性を確保するためには、キレートとして混合することが好ましく、例えば、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、チタンラクテート、チタンジエタノールアミネート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジルコニウムラクテート等が挙げられる。中でも、反応後の配位子残渣を小さくすると、配位子由来の自由体積増大を抑えられるため、小さい配位子でも安定性が得られるチタンキレートが好ましい。
【0060】
被覆層を形成するシリコンアルコキシドの重縮合物は、バリア性の観点から十分に反応を進行させる必要がある。そこで、反応性の高い金属キレートを混合することで、適度な反応性と塗液の安定性を両立出来る。
【0061】
本発明における被覆層は、被覆層厚みの中央部において飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、金属元素Mに由来するフラグメントイオンのピーク強度mと、Si-O結合を有するセグメントに由来するフラグメントイオンのピーク強度sの比率m/sが、0.05以上10.00以下であることが好ましい。
【0062】
飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、金属元素Mに由来するフラグメントイオンのピーク強度mと、Si-O結合を有するセグメントに由来するフラグメントイオンのピーク強度sの比率m/sは以下の方法で求めるものとする。
【0063】
<装置・測定条件>
ION TOF社製、飛行時間型2次イオン質量分析計TOF-SIMS5
<測定条件>
一次イオン種 :Bi(2pA、50μs)
加速電圧 :25kV
検出イオン極性:positive
測定範囲 :100μm×100μm
分解能 :128×128
エッチングイオン種:O2+(2keV、170nA)
エッチング面積:300μm×300μm
エッチングレート:1sec/cycle。
【0064】
<被覆層中央部の特定>
実施例に記載の膜厚算出方法にて被覆層の膜厚を算出し、膜厚の2分の1を中央部とする。次いで被覆層の膜厚み分を上記測定条件にてエッチングしながら分析する。分析後の試料を触針式の段差計(BRUKER社製 Dektak XTL)を用いて、実測のクレータ深さを求める。求めた深さをエッチング時間で割った平均のエッチングレートを用いて換算し、中央部の値を読み取る。なお、ちょうど膜厚の2分の1となる部分のTOF-SIMS測定データが無い場合は、膜厚の2分の1となる部分に最も近い測定点のTOF-SIMS測定データを用いることとする。膜厚の2分の1となる部分に最も近い測定点が1つで無い場合は、各測定点の測定データから求められるm/sの平均値を膜厚の2分の1となる部分のm/sとする。
【0065】
<前処理条件>
被覆層が最表面に露出している状態であれば特に前処理は必要ないが、被覆層上に他の層が形成されている場合は、それらの層を除去してから被覆層を分析する。被覆層上に形成される層を除去する方法は、各層の膜厚み分をアルゴンイオンビーム等の各種イオンエッチングや薬液処理により除去することができる。また、各層の膜厚みについては実施例に記載の方法で求めることとする。
【0066】
<解析方法>
ION TOF社製、飛行時間型2次イオン質量分析計TOF-SIMS5測定ソフトSURFACE LAB 7.1を用いてraw dataを読み込み、質量スペクトルから各種イオンに帰属されるピークを読み取る。
【0067】
m/sを0.05以上にすると、低温の加工条件においても反応促進効果が得られ、また、金属元素Mの効果により被覆層を緻密なものとすることができ、バリア性、耐湿熱性に優れる層とすることができる。m/sは0.30以上であることがより好ましく、0.50以上がさらに好ましい。m/sを0.05以上にすると、被覆層内に存在する金属元素Mの量を一定量以上とすることができ、金属元素Mが触媒として作用するため、低温の加工条件においても反応促進効果が得られる。
【0068】
金属元素Mはキレートを形成しやすいものであることが好ましい。キレートを形成することで反応性を確保しながら塗液状態での安定性を両立することができる。このような金属元素として、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどが挙げられる。金属元素Mを含む金属キレートを使用する場合では、価数と配位数の差である空位の配位座を持つことが好ましい。すなわち当該金属キレートはルイス酸として機能する。空位の配位座は電子的に不安定となり、その部分が攻撃されやすいため反応性が向上し、より低温での反応促進効果を得ることができる。また、金属元素Mを含む金属キレートは、シリコンアルコキシドが複数結合することができるため、近接したシリコンアルコキシド同士の反応を促進できる。すなわち、反応性の高い金属キレートは、シリコンアルコキシド同士の反応の活性化エネルギーを下げることとなり、重縮合を進めるために必要とされる熱エネルギーを小さくすることができるため、より低温での反応促進効果を得ることができる。
【0069】
積層体
本発明の積層体は、包装材料の回収・リサイクルが可能になるように、ポリオレフィン系樹脂フィルムを基材として用いることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂フィルムは、従来のポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂と比較して、ガラス転移温度が低い。そのため、ロールで保存している間にも、周囲の温度変化でフィルムが収縮して巻き締まりが起こりやすい。そのとき、被覆層は巻き外のフィルムの背面に強く押しつけられることになり、従来の樹脂基材よりも劣化しやすい課題があった。
【0070】
この課題に対して鋭意検討した結果、ポリオレフィン系樹脂フィルムで巻き締まりが起こる場合であっても、m/sを0.05以上10.00以下とすることで、バリア劣化が抑制できることがわかった。m/sを0.05以上にすると、低温の加工条件においても反応促進効果が得られるため低温加工が可能となり、追加硬化による被覆層の収縮でフィルムに応力がかかることを抑制でき、m/sを10.00以下にすることで、過度な反応の進行を制御することができ、被覆層の脆化を抑え、巻き締まりによってフィルムが押しつけられたときのバリア劣化を抑えることができる。
【0071】
また、この課題に対して、鋭意検討した結果、ポリオレフィン系樹脂フィルムで巻き締まりが起こる場合であってもP1/P2を3.5以上8.0以下とすることで、バリア劣化が抑制できることがわかった。P1/P2を3.5以上とすることで、追加硬化による被覆層の収縮でフィルムに応力がかかることを抑制でき、8.0以下とすることで被覆層の脆化を抑え、巻き締まりによってフィルムが押しつけられたときのバリア劣化を抑えることができる。
【0072】
本発明の積層体は、水蒸気透過率が1.0g/m/day以下であることが好ましく、0.5g/m/day以下であることがより好ましい。また、酸素透過率は1.0cc/m/day以下であることが好ましく、0.3cc/m/day以下であることがより好ましい。水蒸気透過率、酸素透過率は小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、実質的には水蒸気透過率は0.01g/m/day、酸素透過率は0.01cc/m/dayである。水蒸気透過率を1.0g/m/day以下、酸素透過率を1.0cc/m/day以下とすることで、包装体としたときの内容物の吸湿や酸化による劣化を防止できるので好ましい。なお、水蒸気透過率および酸素透過率の測定方法は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0073】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層を形成した後、さらに被覆層を積層して得ることができる。金属層および/または無機化合物層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法などの公知の方法を用いて形成することができるが、特に、生産性よく高速で成膜できる点から、蒸着法を好適に用いることができる。真空蒸着法の蒸着方式は、電子線(EB)蒸着法、抵抗加熱法、誘導加熱法などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。なお、長尺の樹脂フィルムロール体に金属層および/または無機化合物層を形成する場合、蒸着のメインロールは、フィルムの熱負けを防止するために冷却することが好ましく、その温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは0℃以下である。金属層を得る方法としては、目的の金属を原料として蒸着する例が挙げられる。無機化合物層を得る方法としては、目的とする組成の化合物を原料として蒸着する他、金属を原料として使用し、蒸着した金属蒸気に反応ガスを導入して無機化合物を得る方法を例示することができる。例えば、酸化アルミニウム層を得る場合は、アルミニウムを蒸着原料として使用し、蒸発させたアルミニウム蒸気に酸素を含むガスを導入してフィルム上に無機酸化物層を形成する。導入するガスは、蒸発金属と反応し、層に取り込まれる組成のガスを含んでいれば良く、膜質制御のために不活性ガスなどを含んでいても構わない。金属層および/または無機化合物層を形成する樹脂フィルムの表面は、層間密着力を向上するために、表面改質処理をしてもよい。表面改質処理は、インラインでもオフラインでも良く、改質処理方法は特に限定されないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、イオンビーム処理、フレーム処理等、公知のものが挙げられる。これらの表面改質処理は、大気中の他、アルゴン、窒素、酸素、炭酸ガス、水素、アンモニア、炭化水素(C2n+2、ただしnは1~4の整数)等の各種ガスもしくはこれらの混合ガスの雰囲気下で処理されてもよい。表面改質処理に使用するガスは、放電のしやすさや得られる活性種のエネルギー、導入したい官能基の種類によって選定できるが、官能基を導入するために炭酸ガスや酸素ガス、安定放電しやすいアルゴンや窒素を含むことが好ましい。
【0074】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の面に金属層および/または無機化合物層を有する積層体の、金属層および/または無機化合物層を有する面に、水溶性樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物と、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を含む塗剤を塗布する工程、および乾燥する工程を含む製造方法で製造されることが好ましい。本態様とすることにより、積層体上に印刷層を形成した際に、インキの種別によらず高い密着性を示し、かつバリア性良好な積層体を得ることができる。
【0075】
本発明の積層体の別の好ましい態様は、ポリオレフィン系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に金属層および/または無機化合物層を有する積層体の、金属層および/または無機化合物層を有する面に、水溶性樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物と、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を含む塗剤を塗布する工程、および乾燥する工程を含む製造方法で製造されることが好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に金属層および/または無機化合物層を有する積層体の、金属層および/または無機化合物層を有する面に、シリコンアルコキシド、シリコンアルコキシドの加水分解物、及びシリコンアルコキシドの加水分解物の重縮合物より選ばれる1種以上と、ビニルアルコール系樹脂、多糖類、及びアクリルポリオール樹脂、より選ばれる1種以上の樹脂と、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤、並びに金属元素Mを含有する化合物を含む塗剤を塗布する工程、および乾燥する工程を含む、積層体の製造方法により得られることが好ましい。本態様とすることにより、積層体上に印刷層を形成した際に、インキの種別によらず高い密着性を示し、かつバリア性良好な積層体を得ることができる。また、製造時の環境負荷を抑えつつも水蒸気バリア性と酸素バリア性の高い積層体を得ることができる。特に、本態様とすることにより、低温でも十分硬化できたり、高温であっても特に短時間で十分硬化できたりすることから、製造時の環境負荷を低減でき、好ましい。すなわち、本発明の積層体の製造方法の好ましい一態様は、基材フィルムの少なくとも一方の面に金属層および/または無機化合物層を有する積層体の、金属層および/または無機化合物層を有する面に、水溶性樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物と、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を含む塗剤を塗布する工程、および乾燥する工程を含む、積層体の製造方法である。より好ましい態様としては、前記基材フィルムがポリオレフィン系樹脂フィルムである態様であり、さらに好ましい態様としては、前記塗剤がシリコンアルコキシド、シリコンアルコキシドの加水分解物、及びシリコンアルコキシドの加水分解物の重縮合物より選ばれる1種以上と、ビニルアルコール系樹脂、多糖類、及びアクリルポリオール樹脂、より選ばれる1種以上の樹脂と、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤、並びに金属元素Mを含有する化合物を含む塗剤である態様である。
【0076】
また、前記塗剤は、水溶性樹脂と金属アルコキシドの加水分解物および/またはその重縮合物とを含有する塗剤1と、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤の加水分解物および/またはその重縮合物を含む塗剤2を混合して得られるものであることが、密着性とガスバリア性の観点で好ましい。本態様とすることで、被覆層表面に特に多く(メタ)アクリロイル基を導入することができる。また、本態様とすることにより、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して、被覆層が(メタ)アクリロイル基を0.25mol%以上1.25mol%以下としつつも、X/Yが、5以上300以下である積層体とすることが容易となる。
【0077】
塗布方法は、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。塗布後の乾燥温度は、70℃以上150℃以下であることが好ましく、90℃以上130℃以下であることがより好ましい。なお、乾燥温度は、フィルム表面の最高到達温度を指す。70℃以上とすることで溶媒を除去し、層とすることができ、150℃以下とすることで、基材フィルムの熱収縮や変形を抑制することができる。塗布・乾燥後、本発明の積層体は、シリコンアルコキシドの重縮合反応を進行させてバリア性を向上させるために、さらに熱処理してもよい。熱処理温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、40℃以上80℃以下がより好ましい。熱処理時間は、1日以上14日以下が好ましく、3日以上7日以下がより好ましい。熱処理温度を30℃以上とすることで、被覆層の架橋を進行させてバリア性を向上でき、100℃以下とすることで、熱処理によるフィルムのカールや収縮を抑制することができる。なお、熱処理温度は雰囲気温度を指す。
【0078】
本発明の積層体は、包装材料用途に用いられることが好ましい。包装材料用途に用いるため、印刷等や、製袋のためのヒートシール層、剛性を向上させるために別の樹脂フィルムと積層されていてもよい。また、リサイクル性を向上させるため、基材フィルムやヒートシール層、剛性向上のための樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0079】
本発明の積層体は、電子線硬化型インキの印刷に用いられることが好ましい。電子線硬化型インキの印刷に前記積層体を含むことで、印刷層との密着性が向上し、かつ良好なバリア性が得られるため、内容物の劣化を抑えつつ、電子線硬化型インキを用いることにより印刷層製造時の環境負荷を低減できるため好ましい。
【実施例
【0080】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを発明の範囲から除外するものではない。
【0081】
[評価方法]
(1)基材フィルムの厚み
任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で、アンリツ株式会社製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。得られた10点の厚みの算術平均値を基材フィルムの厚み(単位:μm)とした。
【0082】
(2)基材フィルムの算術平均高さSa
三次元非接触表面形状の測定器である、株式会社日立ハイテクサイエンスの走査型白色干渉顕微鏡VertscanVS1540を使用して測定した。解析においては付属の解析ソフトにより、撮影画面を多項式4次近似面補正にてうねり成分を除去し、次いでメジアン(3×3)フィルタにて処理後、補間処理(高さデータの取得ができなかった画素に対し周囲の画素より算出した高さデータで補う処理)を施した。測定条件は下記の通りとした。
・測定条件:対物レンズ 10×
鏡筒 1×
ズームレンズ 1×
波長フィルタ 530nm white
・測定モード:Wave
・測定ソフトウェア:VS-Measure Version10.0.4.0
・解析ソフトフェア:VS-Viewer Version10.0.3.0
・測定面積:0.561×0.561mm
【0083】
(3)金属層および/または無機化合物層の厚み
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察により測定した。株式会社日立製作所製マイクロサンプリングシステムFB-2000Aを使用して、FIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて)観察用サンプルを作製した。続いて、株式会社日立製作所製透過型電子顕微鏡H-9000UHRIIにより、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、任意の10箇所について金属層および/または無機酸化物層の厚みを確認した。それらの算術平均値を金属層および/または無機酸化物層の厚み(単位:nm)とした。
【0084】
(4)被覆層の厚み
積層体をミクロトームでフィルム表面に対して垂直方向に切削し、積層体断面を走査透過型電子顕微鏡で観察して測定した。観察は、株式会社日立製作所製STEM(走査透過型電子顕微鏡/H-9000UHRII)を使用し、100,000倍の倍率で3点撮像した。得られた3つの画像で、被覆層の厚さを測定し、それらを平均した値を被覆層の厚み(単位:nm)とした。
【0085】
(5)発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Y
作成した積層体を40mm×40mmにカットし、被覆層側を1×10-4mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液に60℃30分表面接触させた。次に、積層体をTHFに2度浸漬洗浄した後、洗浄したフィルム片の四隅をカットして、15mm×15mmに切り出し、石英板に固定して測定サンプルとした。測定サンプルを、蛍光リン光分光光度計(堀場製作所製、FluoroMax-4P)を用い、470nmの励起光、励起光スリット2nm、発光スリット2nmで、500~700nmを受光範囲として透過法にて蛍光測定を実施した。520~550nmに発光強度のピークが見られる場合に、そのピーク強度を発光強度Xとして算出した。
【0086】
さらに1×10-5mol/Lの4-Nitro-7-piperazino-2,1,3-benzoxadiazoleのTHF溶液を、光路長10mmの石英ガラス製セルを用いて測定した。測定して得られる520~550nmの発光強度のピークを、基準ピークの発光強度Yとして算出し、発光強度Xと基準ピークの発光強度Yの比率X/Yを算出した。
【0087】
(6)水蒸気透過率
JIS K 7129(2008)のB法に従い、MOCON/Modern Controls社製の水蒸気透過率透過率測定装置(“PERMATRAN(登録商標)”W3/31)を使用して、温度40℃湿度90%RHの条件で測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を算出し、水蒸気透過率とした。
【0088】
(7)酸素透過率
JIS K 7126-2(2006)の等圧法に従い、MOCON/Modern Controls社製の酸素透過率測定装置(“OXTRAN(登録商標)”2/20)を用いて、温度23℃湿度90%RHの条件で測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、得られた4つの測定値の平均値を算出し、酸素透過率とした。
【0089】
(8)FT-IR-ATR法での分析(P1/P2)
30mm×30mmにサンプリングした積層体を用い、日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-6100を使用してスペクトル測定し、解析ソフトのピーク検出モードで所定のピークP1、P2を検出した。得られたP1とP2の値からP1/P2を算出した。
【0090】
位置の異なる3点でP1/P2を算出し、3点の値を平均してそのサンプルのP1/P2とした。
・光源:高輝度セラミック光源
・検出器:TGS
・ビームスプリッター:Ge/KBr
・測定モード:ATR法(Geプリズム、入射角45°)
・測定波数範囲:4,000cm-1~600cm-1
・分解能:4cm-1
・積算回数:32回
・解析:Spectra Manager Version2 スペクトル解析プログラムでピーク検出した。
【0091】
(9)金属元素Mに由来するフラグメントイオンのピーク強度mと、Si-O結合を有するセグメントに由来するフラグメントイオンのピーク強度sの比率m/s
ION TOF社製、飛行時間型2次イオン質量分析計TOF-SIMS5および同社 測定ソフトSURFACE LAB 7.1を用い、被覆層の中央部について、2次イオン質量分析法によって金属元素Mに由来するフラグメントイオンのピーク強度mとSi-O結合を有するセグメントに由来するフラグメントイオンのピーク強度sを測定し、ピーク強度比m/sを求めた。測定条件は以下の通りである。
【0092】
・一次イオン種 :Bi(2pA、50μs)
・加速電圧:25kV
・検出イオン極性:positive
・測定範囲 :100μm×100μm
・分解能: :128×128
・エッチングイオン種:O2+(2keV、170nA)
・エッチング面積:300μm×300μm
・エッチングレート:1sec/cycle。
【0093】
(10)剥離強度
各実施例1~42および、比較例1~9で得た積層体上に、下記インキA、インキBを用いてベタ印刷層を設けた。
【0094】
[インキA:Richcure WL EB Cyan(内外インキ製造(株)製、電子線硬化型水なしオフセットインキ)、感光性樹脂を含む。アクリル当量166g/eq]。
【0095】
各種の積層体に対して、電子線硬化型インキAを転写させた。転写方法は、RIテスターを用いて展色した。そして、電子線照射装置(岩崎電気(株)製EC250/30/90LS)を用いて、加速電圧110kV、照射線量30kGyの電子線照射により硬化させることで、ベタ印刷物を得た。
【0096】
[インキB:“リオアルファ(登録商標)”S R39 藍(東洋インキ(株)製、裏刷り用溶剤グラビアインキ)、ポリウレタン樹脂含有]。
【0097】
各種の積層体に対して、溶剤インキBを転写させた。転写方法は、バーコーターの8番を用いた。そして、オーブンで80℃で1分乾燥させることで、ベタ印刷物を得た。
【0098】
次いで、それぞれで得られたベタ印刷物に、混合ラミネート接着剤(三井化学(株)製“タケラック(登録商標)”A626/“タケネート(登録商標)”A50)を、塗工量3.0g/mとなるように塗工し、厚み70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)(東レフィルム加工(株)製ZK-207)とラミネートした。その後、40℃で3日間エージングし、ラミネートサンプルを得た。得られたラミネートサンプルを15mm幅で短冊状にカットし、テンシロン万能試験機((株)オリエンテック製RTG-1210)を用いて剥離試験を行い、300mm/分で90°剥離した際の剥離強度(単位:N/15mm)を測定した。各2回ずつ測定し、その平均値を算出して密着性を評価した。
【0099】
剥離強度が2.0N/15mm未満であると密着性が不十分であり、2.0N/15mm以上3.0N/15mm未満であると密着性が良好であり、3.0N/15mm以上4.0N/15mm未満であると密着性がより良好であり、4.0N/15mm以上であると密着性が極めて良好と判断した。
【0100】
[実施例1]
(金属層または無機化合物層の形成)
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”P60)の片面に、無機化合物層として酸化アルミニウム層を12nm形成した。酸化アルミニウム層は、アルミニウムを蒸発させ、蒸着部に酸素を導入して酸化させる反応蒸着法で蒸着した。
【0101】
(被覆層の形成)
水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(以下PVAと略することもある、株式会社クラレ製ポバール28-98)を質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10質量%の水溶性高分子液を得た。次に、TEOS6.7gとメタノール2.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液10.6gを液滴しながら撹拌して、TEOS加水分解液を得た。さらに、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBM-5103)6.1gとメタノール10.6gを混合した溶液に、0.1N塩酸水溶液2.4gを液滴しながら撹拌して、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を得た。
【0102】
水溶性高分子液のPVA固形分と、TEOSのSiO換算質量の比率がPVA固形分/SiO換算質量=35/65になるように水溶性高分子液とTEOS加水分解液を混合した。得られた混合液に(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基量が1.12mol%となるよう添加し、全体の固形分が13質量%になるように水で希釈して塗工液を得た。塗工液を、上述の酸化アルミニウム層上に塗布し、150℃で1分間乾燥させて積層体を得た。
【0103】
[実施例2]
被覆層を乾燥させた後、さらに80℃で1週間熱処理した以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0104】
[実施例3]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が0.17mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0105】
[実施例4]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が0.28mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0106】
[実施例5]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が0.34mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0107】
[実施例6]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が0.56mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0108】
[実施例7]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が0.79mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0109】
[実施例8]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が1.01mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0110】
[実施例9]
被覆層の水溶性高分子を変性ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製“エクセバール(登録商標)”RS-1717)にしたこと、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が1.01mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
[実施例10]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が1.12mol%となるよう添加したこと以外は実施例9と同様にして積層体を得た。
【0111】
[実施例11]
被覆層の水溶性高分子を変性ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製ZF-15)にしたこと、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が1.01mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0112】
[実施例12]
被覆層の水溶性高分子を変性ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製“エクセバール(登録商標)”HR-3010)にしたこと、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が1.01mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0113】
[実施例13]
被覆層の水溶性高分子を変性ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製DF-20)にしたこと、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が1.01mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0114】
[実施例14]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が1.68mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0115】
[実施例15]
被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が5.59mol%となるよう添加したこと以外は実施例2と同様にして積層体を得た。
【0116】
[実施例16]
(金属層または無機化合物層の形成)
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”P60)の片面に、無機化合物層として酸化アルミニウム層を12nm形成した。酸化アルミニウム層は、アルミニウムを蒸発させ、蒸着部に酸素を導入して酸化させる反応蒸着法で蒸着した。
(被覆層の形成)
水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製ポバール28-98)を質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10質量%の水溶性高分子液を得た。次に、TEOS6.4gと3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBM-5103)0.3g、メタノール2.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液10.6gを液滴しながら撹拌して、(メタ)アクリロイル基含有TEOS加水分解液を得た。
【0117】
水溶性高分子液のPVA固形分と、TEOSのSiO換算質量の比率がPVA固形分/SiO換算質量=35/65になるように水溶性高分子液と(メタ)アクリロイル基含有TEOS加水分解液を混合した。全体の固形分が13質量%になるように水で希釈して塗工液を得た。塗工液を、上述の酸化アルミニウム層上に塗布し、150℃で1分間乾燥させた後、80℃で1週間熱処理して積層体を得た。
【0118】
[実施例17]
被覆層の塗液調合において、水溶性高分子液のPVA固形分とTEOS加水分解液のSiO換算質量の比率を、PVA固形分/SiO換算質量=20/80にしたこと以外は、実施例7と同様にして積層体を得た。
【0119】
[実施例18]
被覆層の塗液調合において、水溶性高分子液のPVA固形分とTEOS加水分解液のSiO換算質量の比率を、PVA固形分/SiO換算質量=80/20にしたこと以外は、実施例4と同様にして積層体を得た。
【0120】
[実施例19]
被覆層の塗液調合において、水溶性高分子液のPVA固形分とTEOS加水分解液のSiO換算質量の比率を、PVA固形分/SiO換算質量=55/45にしたこと以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0121】
[実施例20]
被覆層の塗液調合において、水溶性高分子液のPVA固形分とTEOS加水分解液のSiO換算質量の比率を、PVA固形分/SiO換算質量=5/95にしたこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0122】
[実施例21~23]
被覆層の塗工厚みを変えた以外は、実施例8と同様にして積層体を得た。
【0123】
[実施例24]
被覆層の塗液調合において、さらにジルコニウムキレート(マツモトファインケミカル株式会社製“オルガチックス(登録商標)”ZC-300:ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、固形分濃度12質量%)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量(被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液は除く)に対して2.98mol%添加したこと、塗工液を、酸化アルミニウム層上に塗布し、120℃で1分間乾燥させた後80℃1週間熱処理したこと以外は、実施例6と同様にして積層体を得た。
【0124】
[実施例25]
金属層または無機化合物層の形成において、厚さ12μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東レ株式会社製ポリプロピレンフィルム 融点170℃、Sa21nm)を用いたこと以外は、実施例24と同様にして積層体を得た。
【0125】
[実施例26]
金属層または無機化合物層の形成において、厚さ12μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東レ株式会社製ポリプロピレンフィルム 融点170℃、Sa21nm)を用いたこと、被覆層の塗液調合において、ジルコニウムキレートの代わりに、チタンキレート(マツモトファインケミカル株式会社製TC-310:チタンラクテート、固形分濃度44質量%)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量(被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液は除く)に対して0.61mol%添加したこと以外は、実施例24と同様にして積層体を得た。
【0126】
[実施例27~35]
被覆層の塗液調合において、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して0.17mol%、0.28mol%、0.34mol%、0.56mol%、0.79mol%、1.01mol%、1.12mol%、1.68mol%、5.59mol%添加したこと、さらにそれぞれチタンキレート(マツモトファインケミカル株式会社製TC-310:チタンラクテート、固形分濃度44質量%)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量(被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液は除く)に対してそれぞれ1.81mol%添加したこと以外は、実施例26と同様にして積層体を得た。
【0127】
[実施例36]
被覆層の塗液調合において、チタンキレート(マツモトファインケミカル株式会社製TC-310:チタンラクテート、固形分濃度44質量%)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量(被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液は除く)に対して3.56mol%添加したこと以外は、実施例26と同様にして積層体を得た。
【0128】
[実施例37]
被覆層の塗液調合において、チタンキレート(マツモトファインケミカル株式会社製TC-400:チタントリエタノールアミネート、固形分濃度79質量%)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量(被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液は除く)に対して8.15mol%添加したこと以外は、実施例26と同様にして積層体を得た。
【0129】
[実施例38~41]
被覆層の塗液調合において、ジルコニウムキレート(マツモトファインケミカル株式会社製オルガチックスZC-300:ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、固形分濃度12質量%)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量(被覆層の(メタ)アクリロイル基含有加水分解液は除く)に対して0.20mol%、0.41mol%、17.7mol%、19.7mol%添加したこと以外は、実施例26と同様にして積層体を得た。
【0130】
[実施例42]
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、アンダーコート層を形成してから、無機化合物層を形成したこと以外は実施例25と同様にして積層体を得た。
【0131】
アンダーコート層は、以下の手順で形成した。ポリエステルウレタン系水分散性樹脂である“ハイドラン(登録商標)”AP-201(DIC株式会社製、固形分濃度23%)100質量部に対し、架橋剤としてメラミン化合物“アミディア(登録商標)”APM(DIC株式会社製)を6質量部添加し、さらに架橋触媒として水溶性の酸性化合物である“キャタリスト”PTS(DIC株式会社製)を1質量部添加した。続いて純水を添加し、全体の固形分濃度が10%となるように調整して、混合塗剤を得た。この混合塗液を二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に塗布し、110℃で30秒乾燥して厚さ700nmのアンダーコート層を形成した。
【0132】
[比較例1]
被覆層を形成しないこと以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0133】
[比較例2]
(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を添加しないこと以外は実施例3と同様にして積層体を得た。
【0134】
[比較例3]
(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の添加量を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対して(メタ)アクリロイル基が18.72mol%となるよう添加したこと以外は実施例3と同様にして積層体を得た。
【0135】
[比較例4]
(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の代わりに、イソシアネート基含有加水分解液(実施例1における(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBM-5103)の代わりに、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製:X-12-1308ES、イソシアネート保護基付き)を使用したもの)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対してイソシアネート基が1.12mol%となるよう添加したこと以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0136】
[比較例5]
(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の代わりに、ビニル基含有加水分解液(実施例1における(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBM-5103)の代わりに、ビニルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBE-1003)を使用したもの)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対してビニル基が1.12mol%となるよう添加したこと以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0137】
[比較例6]
基材フィルムとして二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いたこと、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を添加しないこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0138】
[比較例7]
基材フィルムとして二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いたこと、(メタ)アクリロイル基含有加水分解液を添加しないこと、塗工液を塗布後、160℃で1分間乾燥したこと以外は実施例3と同様にして積層体を得た。
【0139】
[比較例8]
(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の代わりに、エポキシ基含有加水分解液(実施例1における(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBM-5103)の代わりに、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBE-403)を使用したもの)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対してエポキシ基が1.12mol%となるよう添加したこと以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0140】
[比較例9]
(メタ)アクリロイル基含有加水分解液の代わりに、カルボキシ基含有加水分解液(信越化学工業株式会社製:X-12-1135、有機官能基にカルボキシ基を持つ水系シランカップリング剤、加水分解済)を、被覆層に含まれる金属元素の総mol量に対してカルボキシ基が1.12mol%となるよう添加したこと以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
【0141】
[比較例10]
(金属層または無機化合物層の形成)
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”P60)の片面に、無機化合物層として酸化アルミニウム層を12nm形成した。酸化アルミニウム層は、アルミニウムを蒸発させ、蒸着部に酸素を導入して酸化させる反応蒸着法で蒸着した。
【0142】
(被覆層の形成)
水溶性高分子として、ポリビニルアルコール(以下PVAと略することもある、株式会社クラレ製ポバール28-98)を質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10質量%の水溶性高分子液を得た。次に、水溶性高分子液のPVAと、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製:KBM-5103)と、チタンキレート(マツモトファインケミカル株式会社製TC-310:チタンラクテート、固形分濃度44質量%)の固形分比が4/5/1となるように混合し、全体の固形分が13質量%になるように水で希釈して塗工液を得た。塗工液を、上述の酸化アルミニウム層上に塗布し、120℃で2分間乾燥させて積層体を得た。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
【表5】
【0148】
【表6】
【0149】
比較例2では、バリア性は良好であるが、被覆層に(メタ)アクリロイル基を含有しないため、電子線硬化型インキを用いた印刷層との密着性は得られなかった。
【0150】
比較例3では、被覆層に(メタ)アクリロイル基を多く含有するため、電子線硬化型インキを用いた印刷層との密着性は良好であるが、ヒドロキシル基の減少によりウレタン樹脂を含むグラビアインキとの密着性が大幅に悪化し、さらに疎水性が強く分子量も大きいアクリロイル基が被覆層の空隙を大きくするため、バリア性が悪化したと考えられる。
【0151】
比較例4、5では、(メタ)アクリロイル基に代えて、イソシアネート基、ビニル基を含有させたが、バリア性は良好であるものの、電子線硬化型インキを用いた印刷層との密着性は得られなかった。イソシアネート基は被覆層中のその他の成分と反応してしまい失活したと考えられる。ビニル基は分子量も小さくバリア性の観点から有利であったが、(メタ)アクリロイル基と比較してラジカル発生量が少なく、十分な密着力を得られなかったと考えられる。
【0152】
比較例7では、被覆層の乾燥温度が高く、フィルムの収縮によって被覆層がダメージを受け、微小なクラックなどがはいったため、特に酸素バリア性が大幅に劣化したと考えられる。
【0153】
比較例8、9では、(メタ)アクリロイル基に代えて、エポキシ基、カルボキシ基を含有させたが、バリア性は良好であるものの、電子線硬化型インキを用いた印刷層との密着性は得られなかった。(メタ)アクリロイル基と比較してラジカル発生量が少なく、十分な密着力を得られなかったと考えられる。また、疎水性の強い(メタ)アクリロイル基は被覆層表層に偏在しやすいため少量で密着力が向上できるが、親水性の官能基は被覆層内部へ拡散しやすく、少量で密着力を向上させることは難しいと考えられる。
【0154】
上記の結果から、本発明は各種インキを用いた印刷層との密着性が良好で、バリア性も良好な積層体を提供できる。さらに、耐熱性の低いポリオレフィン系樹脂基材を用いた積層体においても、各種インキを用いた印刷層との密着性が良好で、バリア性も良好な積層体を提供できる。
【符号の説明】
【0155】
1 基材フィルム
2 金属層および/または無機酸化物層
3 被覆層
【要約】
多様なインキからなる印刷層との高い密着性を示し、かつ高いガスバリア性を示す積層体を提供する。基材フィルムの少なくとも一方の面に、金属層および/または無機化合物層と、被覆層とをこの順に積層した積層体であって、発光ピークの発光強度Xと、基準ピークの発光強度Yの比率X/Yが、5以上300以下である積層体である。
図1