(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ及び逆入力遮断システム
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20241001BHJP
F16D 65/22 20060101ALI20241001BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20241001BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F16D41/08 A
F16D65/22
B60T13/74
F16D63/00 R
(21)【出願番号】P 2024542910
(86)(22)【出願日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2024014391
【審査請求日】2024-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2023115097
(32)【優先日】2023-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】畑中 和幸
(72)【発明者】
【氏名】金子 祥平
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎
(72)【発明者】
【氏名】前田 篤志
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026794(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/085395(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00-47/06,49/00-71/04
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に被押圧面を有するハウジングと、
前記被押圧面と同軸に配置される入力軸と、前記入力軸の中心軸を挟んで第一径方向に互いに離間して設けられた一対の入力側係合部と、を有する入力部材と、
前記入力軸と同軸に配置される出力軸と、前記第一径方向において一対の前記入力側係合部の間に設けられる出力側係合部と、を有する出力部材と、
前記被押圧面に対向する押圧面と、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部と、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部と、を有し、前記第一径方向に沿って互いに相対移動可能な一対の係合子と、
を備え、
前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記一対の係合子は、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との係合に基づいて、前記第一径方向の径方向内側に向かって互いに近づくように移動し、かつ前記出力側係合部と前記出力側被係合部との係合に基づいて、前記回転トルクを前記出力部材に伝達し、
前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記一対の係合子は、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との係合に基づいて、前記第一径方向の径方向外側に向かって互いに離間するように移動し、前記被押圧面と前記押圧面とを摩擦係合させ、
一対の前記入力側係合部は、前記入力部材の軸方向から見て、前記入力部材の中心軸を中心として互いに点対称な形状となるように形成されており、
前記入力側係合部は、
前記入力部材に第一回転方向の前記回転トルクが入力されたときに、前記係合子と接触する第一接触部と、
前記入力部材に前記第一回転方向とは逆方向である第二回転方向の前記回転トルクが入力されたときに、前記係合子と接触する第二接触部と、
を有し、
前記出力側係合部は、前記出力部材に前記回転トルクが逆入力されたときに、前記係合子と接触する出力側接触部を有し、
前記第一径方向と前記入力部材の中心軸との両方に直交する方向を第二径方向とした場合、
前記第一接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記出力側接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも大きく、
前記第二接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記出力側接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも小さい、
逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記出力側接触部は、
前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第一径方向と平行な第一基準線と、前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第二径方向と平行な第二基準線と、により区画される4個の領域において前記第一接触部と同じ領域に設けられる第三接触部と、
前記第一基準線と前記第二基準線とにより区画される4個の領域において前記第二接触部と同じ領域に設けられる第四接触部と、
を有し、
前記第三接触部及び前記第四接触部は、前記入力部材の回転中心からの前記第二径方向に沿う距離が同等となるように形成されている、
請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記第一接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記第二接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも大きい、
請求項
1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項4】
前記出力側接触部は、
前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第一径方向と平行な第一基準線と、前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第二径方向と平行な第二基準線と、により区画される4個の領域において前記第一接触部と同じ領域に設けられる第三接触部と、
前記第一基準線と前記第二基準線とにより区画される4個の領域において前記第二接触部と同じ領域に設けられる第四接触部と、
を有し、
前記第一接触部及び前記第二接触部は、前記入力部材の回転中心からの前記第二径方向に沿う距離が同等となるように形成されている、
請求項
1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項5】
前記出力部材に前記回転トルクが逆入力され、一対の前記押圧面が前記被押圧面に接触した状態で、前記出力側接触部は、一対の前記押圧面のうち一方の押圧面と前記被押圧面との接触部と、前記出力部材の回転中心と、を結ぶ仮想直線よりも前記第一径方向に関して前記出力部材の回転中心に近い側に位置する、
請求項
1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項6】
前記出力部材に逆入力される前記回転トルクの回転方向は、前記第二回転方向と一致する、
請求項
1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の逆入力遮断クラッチと、
前記逆入力遮断クラッチの前記出力部材に接続されるボールねじ機構と、
を備える、
逆入力遮断システム。
【請求項8】
前記逆入力遮断クラッチの前記入力部材と接続されるモータと、
前記ボールねじ機構の直動部品と接続され、ブレーキディスクを挟持するブレーキパッドと、
を備え、
前記逆入力遮断クラッチのロック機能により、電動キャリパブレーキのパーキングブレーキを行う、
請求項7に記載の逆入力遮断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆入力遮断クラッチ及び逆入力遮断システムに関する。
本願は、2023年7月13日に出願された日本国特願2023-115097号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源などの入力機構に接続される入力部材と、減速機などの出力機構に接続される出力部材と、を備え、入力部材から出力部材への回転トルクの伝達を許可するとともに出力部材から入力部材への回転トルクの逆入力を遮断する逆入力遮断クラッチ及びこの逆入力遮断クラッチを用いた逆入力遮断システムの構成が知られている。これらの逆入力遮断クラッチ及び逆入力遮断システムにおいて、性能を向上するための技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、被押圧面を有する被押圧部材と、被押圧面の径方向内側において互いに同軸に設けられた入力部材及び出力部材と、正面視で入力部材及び出力部材の間に介在し、径方向に移動可能な一対の係合子と、を有する逆入力遮断クラッチの構成が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、出力部材に回転トルクが逆入力されると、係合子と出力部材との係合に基づき係合子が被押圧面に近づく方向に移動して被押圧面と摩擦係合することにより、出力部材に逆入力された回転トルクを遮断できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術のように、入力部材と係合子との接触、及び出力部材と係合子との接触によりトルクの伝達や逆入力トルクの遮断(ロック)を行う技術にあっては、次のような課題がある。すなわち、逆入力が作用した場合に、入力部材と係合子との接触位置又は出力部材と係合子との接触位置によっては、係合子が径方向外側に移動し難くなり、ロックし難くなる場合がある。また、正入力が作用してロックを解除する場合に、各部品間の接触位置によってはロック解除に必要なトルクが増加し、トルクの伝達効率が低下する場合がある。
したがって、従来技術にあっては、逆入力に対するロック性及び正入力に対するトルク伝達効率の両方を向上するという点で課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術と比較して逆入力に対するロック性及び正入力に対するトルク伝達効率の両方を向上できる逆入力遮断クラッチ及びこの逆入力遮断クラッチを有する逆入力遮断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係る逆入力遮断クラッチは、内周面に被押圧面を有するハウジングと、前記被押圧面と同軸に配置される入力軸と、前記入力軸の中心軸を挟んで第一径方向に互いに離間して設けられた一対の入力側係合部と、を有する入力部材と、前記入力軸と同軸に配置される出力軸と、前記第一径方向において一対の前記入力側係合部の間に設けられる出力側係合部と、を有する出力部材と、前記被押圧面に対向する押圧面と、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部と、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部と、を有し、前記第一径方向に沿って互いに相対移動可能な一対の係合子と、を備え、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記一対の係合子は、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との係合に基づいて、前記第一径方向の径方向内側に向かって互いに近づくように移動し、かつ前記出力側係合部と前記出力側被係合部との係合に基づいて、前記回転トルクを前記出力部材に伝達し、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記一対の係合子は、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との係合に基づいて、前記第一径方向の径方向外側に向かって互いに離間するように移動し、前記被押圧面と前記押圧面とを摩擦係合させ、前記一対の入力側係合部は、前記入力部材の軸方向から見て、前記入力部材の中心軸を中心として互いに点対称な形状となるように形成されており、前記入力側係合部は、前記入力部材に第一回転方向の前記回転トルクが入力されたときに、前記係合子と接触する第一接触部と、前記入力部材に第一回転方向とは逆方向である第二回転方向の前記回転トルクが入力されたときに、前記係合子と接触する第二接触部と、を有し、前記出力側係合部は、前記出力部材に前記回転トルクが逆入力されたときに、前記係合子と接触する出力側接触部を有し、前記第一径方向と前記入力部材の中心軸との両方に直交する方向を第二径方向とした場合、前記第一接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記出力側接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも大きく、前記第二接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記出力側接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも小さい。
【0008】
本発明の第一の態様に係る逆入力遮断システムは、上述の逆入力遮断クラッチと、前記逆入力遮断クラッチの前記出力部材に接続されるボールねじ機構と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の逆入力遮断クラッチ及び逆入力遮断システムによれば、従来技術と比較して逆入力に対するロック性及び正入力に対するトルク伝達効率の両方を向上できる逆入力遮断クラッチ及びこの逆入力遮断クラッチを有する逆入力遮断システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る逆入力遮断システムの概略構成図。
【
図2】第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
【
図4】第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチの効果を説明するための模式図。
【
図5】第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチのロック解除時における効果を説明するための模式図。
【
図6】比較例に係る逆入力遮断クラッチのロック解除時における効果を説明するための模式図。
【
図7】比較例に係る逆入力遮断クラッチのロック解除時における効果を説明するための模式図。
【
図8】第2実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明において、軸方向、径方向、および周方向とは、特に断らない限り、逆入力遮断クラッチ1の中心軸線Cの軸方向、径方向、および周方向をいう。また、径方向のうち後述する一対の係合子の近接離間方向(対向方向)に沿う方向を第一径方向D1といい、径方向のうち第一径方向D1と直交する方向を第二径方向D2という場合がある。
【0012】
(第1実施形態)
(逆入力遮断システム)
図1は、第1実施形態に係る逆入力遮断システム10の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態の逆入力遮断システム10は、例えば自動車等の車両の電動キャリパブレーキとして使用される。逆入力遮断システム10は、詳しくは後述する逆入力遮断クラッチ1のロック機能(逆入力遮断機能)を用いて、電動キャリパブレーキのパーキングブレーキ機能を実現するためのシステムである。逆入力遮断システム10は、モータ11と、逆入力遮断クラッチ1と、ボールねじ機構12と、車両のブレーキディスク14を挟持する一対のブレーキパッド13と、を備える。
【0013】
モータ11は、逆入力遮断システム10における駆動源であり、モータ11の回転軸に逆入力遮断クラッチ1の入力部材2(入力軸)(
図2参照)が接続される。モータ11からの入力は逆入力遮断クラッチ1にとって正入力とされる。
【0014】
逆入力遮断クラッチ1の出力部材3(出力軸)(
図2参照)には、ボールねじ機構12が接続される。ボールねじ機構12は、逆入力遮断クラッチ1の出力部材3と接続されるボールねじ軸15と、ボールねじ軸15と螺合するナット16(請求項の直動部品)と、ボールねじ軸15及びナット16間に配置される球体17と、を有する。ボールねじ機構12は、モータ11から逆入力遮断クラッチ1を介してボールねじ軸15に入力された回転運動をナット16の直線運動に変換する。
モータ11の回転軸及びボールねじ機構12の中心軸は、いずれも逆入力遮断クラッチ1の中心軸線Cと同軸となるように配置されている。以下の説明において、中心軸線Cに沿う方向のうち逆入力遮断クラッチ1から見てモータ11側を軸方向の第一側といい、その反対(逆入力遮断クラッチ1から見てボールねじ機構12側)を軸方向の第二側という場合がある。
【0015】
ボールねじ機構12のナット16にはブレーキパッド13が接続されている。よって、モータ11を一方向に回転させると、ナット16及びブレーキパッド13がブレーキディスク14に近づくように軸方向の第二側に向かって移動し、一対のブレーキパッド13によりブレーキディスク14を挟持することにより、車両のブレーキを行う。また、モータ11を他方向に回転させると、ナット16及びブレーキパッド13がブレーキディスク14から離れるように軸方向の第一側に向かって移動することにより、ブレーキを解除する。
【0016】
本実施形態では、軸方向の第一側から見てモータ11の回転軸が反時計方向CCWに回転した場合に、ナット16が軸方向の第二側、すなわちブレーキディスク14に近づく方向に移動するようにボールねじ機構12が構成されている。軸方向の第一側から見てモータ11の回転軸が時計方向CWに回転した場合、ナット16は軸方向の第一側、すなわちブレーキディスク14から離れる方向に移動する。
【0017】
ここで、ボールねじ機構12は逆作動効率が良いため、例えばブレーキディスク14からの反力によりナット16に軸方向の推力が負荷されると、回転部品であるボールねじ軸15が回転してしまう場合がある。これを抑制するために、従来はパーキングブレーキ時にモータ11を常に駆動させてボールねじ軸15が回転しなうように維持する必要があった。しかしながら、常にモータ11を駆動させるので消費電力が増加し易い。
そこで、本実施形態の逆入力遮断システム10では、ボールねじ機構12と逆入力遮断クラッチ1とを組み合わせて使用することにより、モータ11からの正入力をボールねじ機構12に伝達し、かつボールねじ機構12からモータ11側への逆入力を逆入力遮断クラッチ1で遮断する構成を採用した。これにより、ブレーキディスク14からの反力が逆入力遮断クラッチ1により遮断されるので、モータ11を常に駆動させることなくパーキングブレーキを行うことが可能となる。
【0018】
(逆入力遮断クラッチ)
以下、逆入力遮断クラッチ1について詳細に説明する。
図2は、第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチ1を軸方向と直交する方向から見た断面図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、逆入力遮断クラッチ1は、入力部材2と、出力部材3と、ハウジング4と、一対の係合子5と、弾性部材6と、を備える。逆入力遮断クラッチ1は、入力部材2に入力される回転力を出力部材3に伝達する。一方、逆入力遮断クラッチ1は、出力部材3に逆入力される回転力を遮断して入力部材2に伝達しない、またはその一部のみを入力部材2に伝達して残部を遮断する逆入力遮断機能を有する。
【0020】
(入力部材)
入力部材2は、モータ11(
図1参照)の回転軸に接続される。入力部材2には、モータ11からの回転力が入力される。入力部材2は、入力軸本体21(請求項の入力軸)と、一対の腕部23と、を有する。入力軸本体21は、中心軸線Cを中心とする円柱状(又は円筒状)に形成されている。
【0021】
一対の腕部23は、入力軸本体21から軸方向の第二側に向かって延びている。腕部23は、入力軸本体21と一体形成されている。腕部23は、入力軸本体21に対して第一径方向D1の両端に一対設けられている。腕部23は、入力軸本体21よりもやや径方向の外側にオフセットした位置に設けられている。ここで、
図3に示すように、中心軸線Cを通り、かつ第一径方向D1と平行な直線を第一基準線L1とする。また、中心軸線Cを通り、かつ第一径方向D1及び軸方向と直交する第二径方向D2と平行な直線を第二基準線L2とする。このとき、腕部23は、第一基準線L1に対して互いに非対称な形状に形成されている。また、一対の腕部23は、軸方向から見て、中心軸線Cについて互いに点対称な形状となるように形成されている。具体的に、腕部23は、第一径方向D1の径方向内側に面するほぼ平坦状の入力側係合部25と、第一径方向D1の径方向外側に面する曲面部26と、第一基準線L1に関して第二径方向D2の一方側のみに設けられる側面部27と、を有する。曲面部26は、第一径方向D1の径方向外側に向かって凸となる円弧状に形成されている。側面部27は、入力側係合部25及び曲面部26の端部同士を接続している。第一基準線L1に関して、側面部27を有しない第二径方向D2の他方側において、入力側係合部25の端部と曲面部26の端部とが直接接続されている。
【0022】
腕部23は、後述する係合子5の数に応じて複数設けられる。本実施形態では、一対の係合子5が設けられることに応じて、一対の腕部23が設けられている。なお、腕部23の数は2個に限られず、係合子5の数に応じて、腕部23の数を1個、あるいは3個以上としてもよい。
【0023】
(出力部材)
図2に示すように、出力部材3は、ボールねじ機構12のボールねじ軸15(
図1参照)に接続され、モータ11からの回転力(回転トルク)を出力する。出力部材3は、入力部材2と同軸上に配置されている。
図2及び
図3に示すように、出力部材3は、出力軸本体31(請求項の出力軸)と、挿入部32と、を有する。出力軸本体31は、中心軸線Cを中心とする円柱状(又は円筒状)に形成されている。
【0024】
挿入部32は、出力軸本体31の軸方向の第一側の端部から軸方向の第一側に向かって延びている。挿入部32は、出力軸本体31と一体形成されている。挿入部32は、後述する一対の係合子5間に挿入される部分であり、入力部材2の一対の腕部23よりも径方向内側に配置されている。本実施形態において、挿入部32のうち一対の係合子5間に挿入される基端部(例えば
図2の止め輪39よりも軸方向の第二側に位置する部分)は、板状に形成されている。なお、挿入部32の基端部の形状は板状に限定されない。挿入部32の先端部(例えば止め輪39よりも軸方向の第一側に位置する部分)は、円柱状に形成されている。挿入部32の先端部は、ベアリング46を介して入力部材2に相対回転可能に嵌合している。ベアリング46は、例えば転がり軸受や滑り軸受等である。
【0025】
図3に示すように、挿入部32の基端部の外周面は、挿入部32の厚み方向(第一径方向D1)の両側にそれぞれ面する一対の出力側係合部35と、一対の出力側係合部35の端部同士を接続する一対の側面部36と、を有する。各出力側係合部35は、第二径方向D2に沿う平坦面により構成されている。各出力側係合部35は、一対の係合子5にそれぞれ面している。出力側係合部35は、入力部材2の入力側係合部25よりも第一径方向D1の径方向内側に設けられている。一対の側面部36は、出力側係合部35の両端部同士をそれぞれ接続している。
【0026】
挿入部32の出力側係合部35及び側面部36は、後述する係合子5の数に応じて複数設けられる。本実施形態では、一対の係合子5が設けられることに応じて、一対の出力側係合部35及び側面部36が設けられている。なお、出力側係合部35の数は2個に限られず、係合子5の数に応じて、出力側係合部35の数を1個、あるいは3個以上としてもよい。
【0027】
(ハウジング)
ハウジング4は、円筒状に形成されている。ハウジング4は、図示しない他の部材に固定されて、その回転が拘束されている。ハウジング4は、入力部材2及び出力部材3と同軸上に配置されている。ハウジング4は、入力部材2、出力部材3、及び一対の係合子5を収容している。ハウジング4は、第一収容孔41と、第二収容孔42と、被押圧面40と、を有する。
【0028】
図2に示すように、第一収容孔41は、ハウジング4を軸方向に貫通している。第一収容孔41は、中心軸線Cと同軸に形成されている。第一収容孔41は、ハウジング4のうち軸方向の第二側に設けられている。第一収容孔41の内側には、出力部材3の出力軸本体31が収容されている。第一収容孔41の内径は、出力部材3における出力軸本体31の外形よりも大きい。第一収容孔41は、ベアリング45を介して出力部材3を回転可能に保持している。
【0029】
第二収容孔42は、ハウジング4のうち軸方向の第一側に設けられている。第二収容孔42は、中心軸線Cと同軸に形成されている。第二収容孔42は、第一収容孔41よりも軸方向の第一側に設けられている。第二収容孔42の内径は、第一収容孔41の内径よりも大きい。よって、第一収容孔41と第二収容孔42とによりハウジング4の内側に段付きの貫通孔が形成される。第二収容孔42の内側には、入力部材2の腕部23が収容されている。第二収容孔42の内側であって腕部23のさらに内側には、出力部材3の挿入部32が収容されている。第二収容孔42の内径は、入力部材2における一対の腕部23の外形よりも大きい。第二収容孔42の内側では、ハウジング4に対して入力部材2が相対回転可能に収容されている。
【0030】
第二収容孔42の内周面は、被押圧面40とされている。被押圧面40は、中心軸線Cと同軸となるように形成されている。被押圧面40の径方向内側には、入力部材2の入力側係合部25及び出力部材3の出力側係合部35が設けられている。
【0031】
(係合子)
図2及び
図3に示すように、一対の係合子5は、半円形状に構成されており、ハウジング4の径方向内側に配置されている。一対の係合子5は、第一径方向D1に互いに対向するとともに、第一径方向D1において互いに近接離間するように移動可能に構成されている。一対の係合子5はそれぞれ、押圧面51と、底面52と、入力側被係合部55と、出力側被係合部56と、を有する。
【0032】
図3に示すように、押圧面51は、ハウジング4の被押圧面40を押し付ける径方向外側の面であり、円弧状の凸面となっている。なお、被押圧面40と面する係合子5の外周面の一部が押圧面51とされていてもよい。押圧面51は、逆入力遮断クラッチ1のロック状態(出力部材3からの逆入力が遮断された状態)において、被押圧面40を押圧する。押圧面51の曲率半径は、被押圧面40の曲率半径以下となっている。押圧面51は、1個の係合子5について2箇所設けられ、楔効果により係合子5と被押圧面40間の摩擦係合力が大きくなるように形成されている。2個の押圧面51は、互いに係合子5の周方向に離間した位置に設けられている。なお、押圧面51は、係合子5の外周面全体又は一部によって直接構成してもよいし、係合子5のその他の部分に比べて摩擦係数の大きい表面性状を有するように形成してもよい。例えば押圧面51は、係合子5に貼着や接着などにより固定した摩擦材によって構成してもよい。係合子5の各押圧面51は、ハウジング4の径方向内側に面している。
【0033】
係合子5の底面52は、押圧面51より第一径方向D1の径方向内側に設けられている。底面52は、詳しくは後述する係合子5の出力側被係合部56とともに、半円形状の係合子5の直線部分を形成している。本実施形態において、底面52は、後述する一対の凸部59を除いてほぼ平坦面状に形成されている。一対の係合子5の底面52は、第一径方向D1において互いに対向している。
一対の係合子5をハウジング4の内側に配置した状態で、被押圧面40と押圧面51との間、及び、一対の底面52と出力部材3との間の少なくとも一方に隙間が存在するように、被押圧面40の内径寸法と係合子5の外形寸法が設定されている。
【0034】
入力側被係合部55は、軸方向から見た係合子5の中央部を軸方向に貫通する孔である。入力側被係合部55は、第二径方向D2に延びる長孔状に形成されている。入力側被係合部55には、入力部材2の腕部23が挿入される。入力側被係合部55は、腕部23と係合する。入力側被係合部55は、入力部材2の腕部23を緩く挿入できる大きさを有している。具体的に、入力側被係合部55の内側に入力部材2の腕部23を挿入した状態で、腕部23と入力側被係合部55の内周面との間に隙間が存在するように形成されている。よって、係合子5がロックされておらず回転トルクも入力されていない中立状態において、腕部23は、入力側被係合部55(つまり係合子5)に対して入力部材2の回転方向への微小な変位が可能であり、係合子5は、腕部23に対して第一径方向D1への微小な変位が可能である。
【0035】
出力側被係合部56は、半円形状に形成された係合子5の直線部分(底面52)のうち、第二径方向D2の径方向における中央部近傍に設けられている。出力側被係合部56は、入力側被係合部55よりも第一径方向D1の径方向内側に設けられている。出力側被係合部56には、出力部材3の挿入部32が係合する。出力側被係合部56は、底面52と連続する平坦面状に形成されている。
【0036】
さらに係合子5の底面52には、底面52から他方の係合子5側に向かって突出する一対の凸部59が一体形成されている。一対の凸部59は、係合子5の底面52において第二径方向D2に離間して一対設けられている。一対の凸部59は、第二径方向D2において、底面52の最端部よりも内側かつ出力側被係合部56よりも外側に設けられている。凸部59の突出高さは、例えば係合子5のロック解除状態(入力部材2から出力部材3への回転力の伝達が許容された状態)において第一径方向D1に対向する一対の係合子5における凸部59同士が第一径方向D1に隙間を有して対向するような高さに設定されている。
【0037】
図2及び
図3に示すように、逆入力遮断クラッチ1が組み立てられた状態において、入力部材2の腕部23は、一対の係合子5のそれぞれの入力側被係合部55に軸方向から挿入され、かつ、出力部材3の挿入部32は、一対の係合子5の出力側被係合部56同士の間に軸方向から挿入される。すなわち、一対の係合子5は、それぞれの出力側被係合部56により、出力部材3の挿入部32を径方向外側から挟むように配置される。
【0038】
図2に示すように、係合子5の軸方向の両側には、軸方向における各部材の位置決めを行うための端板38が設けられる。また、係合子5に対して軸方向の第一側には、各部材の位置決めを行うための止め輪39が設けられている。位置決めする機能の他に、例えば係合子5と出力部材3及び入力部材2との接触を防止して摩耗を抑制する機能を有するように端板38等の部品を設けてもよい。
【0039】
(弾性部材)
図3に示すように、弾性部材6は、係合子5と出力部材3との間に弾性的に挟持されて配置されている。弾性部材6は、例えば板バネである。弾性部材6は、係合子5を第一径方向D1の径方向外側、すなわち被押圧面40に近づく方向に向かって付勢する。弾性部材6は、例えば全体が平板状に形成されている。弾性部材6の第二径方向D2の両端部には不図示の切欠きが形成されている。この切欠きに係合子5の一対の凸部59がそれぞれ嵌ることにより、弾性部材6が位置決めされている。
なお、弾性部材6が設けられなくてもよい。但し、弾性部材6の付勢力により各部品同士の隙間に起因したがたつきの発生を抑制できる点、及び弾性部材6の付勢力により係合子5が第一径方向D1の径方向外側に移動し易くなり逆入力をロックし易くなる点で、弾性部材6を有する本実施形態の構成は優位性がある。
【0040】
次に、上述した入力部材2又は出力部材3と係合子5との接触部とその位置関係について説明する。
図3に示すように、軸方向から見て、入力部材2の入力側係合部25は、第一接触部P1と、第二接触部P2と、を有する。第一接触部P1は、入力側係合部25と曲面部26との境界近傍に設けられている。第一接触部P1は、入力部材2に反時計方向CCW(請求項の第一回転方向)のトルクが入力されたときに、入力部材2が反時計方向CCWに回転し、係合子5と接触する。ここで、反時計方向CCWは、ブレーキを作動させる際に入力部材2に入力される回転トルクの回転方向である。すなわち本実施形態では、例えばモータ11を駆動させてブレーキパッド13をブレーキディスク14側に押し付けるときの回転方向が反時計方向CCWである。また、ブレーキを解除するときの回転方向は時計方向CWである。
第二接触部P2は、入力側係合部25と側面部27との境界近傍に設けられている。第二接触部P2は、入力部材2に時計方向CW(請求項の第二回転方向)の回転トルクが入力されたときに、係合子5と接触する。第一基準線L1から第一接触部P1までの第二径方向D2に沿う距離MI1(以下、入力側第一距離MI1)は、第一基準線L1から第二接触部P2までの第二径方向D2に沿う距離MI2(以下、入力側第二距離MI2)よりも大きい(MI1>MI2)。
【0041】
軸方向から見て、出力部材3の出力側係合部35は、第三接触部Q1(請求項の出力側接触部)と、第四接触部Q2(請求項の出力側接触部)と、を有する。第三接触部Q1は、第一基準線L1と第二基準線L2とにより区画される4個の領域において、対応する第一接触部P1と同じ領域に設けられている。第三接触部Q1は、出力側係合部35と側面部36との境界近傍に設けられている。第三接触部Q1は、出力部材3に時計方向CWの回転トルクが入力されたときに、係合子5と接触する。ここで、時計方向CWは、出力部材3に逆入力される回転トルクの回転方向である。本実施形態では、例えばブレーキディスク14からの反力によりボールねじ軸15が回転しようとする方向が時計方向CWである。よって、本実施形態においては、逆入力遮断クラッチ1に作用する逆入力トルクの回転方向は時計方向CWが主である。
第四接触部Q2は、第一基準線L1と第二基準線L2とにより区画される4個の領域において、対応する第二接触部P2と同じ領域に設けられている。第四接触部Q2は、出力側係合部35と側面部36との境界近傍に設けられている。第四接触部Q2は、出力部材3に反時計方向CCWの回転トルクが入力されたときに、係合子5と接触する。第一基準線L1から第三接触部Q1までの第二径方向D2に沿う距離MO1(以下、出力側第一距離MO1)と、第一基準線L1から第四接触部Q2までの第二径方向D2に沿う距離MO2(以下、出力側第二距離MO2)と、は同等となっている(MO1=MO2)。
なお、以下の説明において第三接触部Q1と第四接触部Q2とを互いに区別しない場合は、まとめて出力側接触部と言う場合がある。
【0042】
このとき、入力側第一距離MI1は、出力側第一距離MO1よりも大きい(MI1>MO1)。また、入力側第二距離MI2は、出力側第二距離MO2よりも小さい(MI2<MO2)。
【0043】
さらに、出力部材3に回転トルクが逆入力され、一対の押圧面51が被押圧面40に接触した状態において、出力側接触部Q1,Q2は、一対の押圧面51のうち一方の押圧面51と被押圧面40との接触部P5と、出力部材3の回転中心Cと、を結ぶ仮想直線LHよりも第一径方向D1に関して出力部材3の回転中心Cに近い側に位置する。
【0044】
(逆入力遮断クラッチの動作)
次に、本実施形態の逆入力遮断クラッチ1及び逆入力遮断システム10の動作について各図を参照しながら説明する。
まず、モータ11(
図1参照)を駆動させてブレーキを作動させる場合について説明する。ブレーキを作動させたい場合には、まずモータ11を反時計方向CCWに回転させる。
図3に示すように、モータ11から入力部材2に回転力が入力されると、入力部材2の腕部23が中心軸線Cを中心として反時計方向CCWに回転する。すると、第一接触部P1が係合子5に当接して入力側被係合部55の内面を第一径方向D1の径方向内側に向けて押圧し、これにより一対の係合子5が互いに近接するように移動する。そして、互いに近づいた一対の係合子5の出力側被係合部56により出力部材3の挿入部32が径方向の両側から挟持される。
【0045】
これにより、出力部材3における挿入部32の出力側係合部35と係合子5の底面52とがほぼ平行となり、挿入部32と一対の出力側被係合部56とがガタツキなく係合される。よって、入力部材2に入力された回転トルクが、一対の係合子5を介して出力部材3に伝達され、出力部材3からボールねじ機構12に出力される。
そして、ボールねじ機構12のボールねじ軸15が反時計方向CCWに回転することにより、ナット16及びブレーキパッド13が、軸方向のブレーキディスク14側へ移動する。その結果、ブレーキディスク14がブレーキパッド13により挟持され、ブレーキがかかる。
【0046】
次に、ブレーキをかけた後であって、かつブレーキディスク14からの反力が作用した場合について説明する。すなわち、ボールねじ機構12のナット16に軸方向の第一側への推力が発生し、この推力によりボールねじ軸15を介して逆入力遮断クラッチ1に逆入力が作用した場合について説明する。出力部材3に回転トルクが逆入力されると、出力部材3の挿入部32が、一対の出力側被係合部56同士の内側で、時計方向CWに回転する。すると、第三接触部Q1が係合子5に当接して出力側被係合部56を第一径方向D1の径方向外側に向けて押圧し、これにより一対の係合子5が被押圧面40に近づく方向にそれぞれ移動する。そして、一対の係合子5のそれぞれの押圧面51が、ハウジング4の被押圧面40に対して押し付けられる。このとき、押圧面51と被押圧面40とが、押圧面51の周方向に関する全範囲または少なくとも一部で摩擦係合する。
【0047】
この結果、出力部材3に逆入力された回転力が、不図示の他の部材に固定されたハウジング4に伝わることで完全に遮断されて入力部材2に伝達されないか、或いは、出力部材3に逆入力された回転力の一部のみが入力部材2に伝達され残部が遮断される。特に本実施形態では、逆入力が完全に遮断されて入力部材2に伝達されない。
よって、モータ11の駆動を停止した場合であっても、ブレーキディスク14からの反力の発生に伴うボールねじ軸15の回転を抑制できる。これにより、逆入力遮断クラッチ1を用いたパーキングブレーキを行うことが可能となる。
【0048】
次に、モータ11(
図1参照)を再び駆動させてブレーキを解除させる場合について説明する。ブレーキを解除したい場合には、まずモータ11を時計方向CWに回転させる。
図3に示すように、モータ11から入力部材2に回転力が入力されると、入力部材2の腕部23が中心軸線Cを中心として時計方向CWに回転する。すると、第二接触部P2が係合子5に当接して入力側被係合部55の内面を第一径方向D1の径方向内側に向けて押圧し、これにより一対の係合子5が互いに近接するように移動する。そして、互いに近づいた一対の係合子5の出力側被係合部56により出力部材3の挿入部32が径方向の両側から挟持される。
【0049】
これにより、出力部材3における挿入部32の出力側係合部35と係合子5の底面52とがほぼ平行となり、挿入部32と一対の出力側被係合部56とがガタツキなく係合される。よって、入力部材2に入力された回転トルクが、一対の係合子5を介して出力部材3に伝達され、出力部材3からボールねじ機構12に出力される。
そして、ボールねじ機構12のボールねじ軸15が時計方向CWに回転することにより、ナット16及びブレーキパッド13が、軸方向のブレーキディスク14から離間する側へ移動する。その結果、ブレーキパッド13がブレーキディスク14から離れ、ブレーキが解除される。
【0050】
本実施形態の逆入力遮断クラッチ1は、上述の動作が可能となるように、各構成部材間の隙間の大きさが調整されている。
例えば、出力部材3に回転トルクが逆入力されることによって係合子5の押圧面51が被押圧面40に接触した状態(ロック状態)において、入力部材2が中立位置に位置する。入力部材2の中立位置とは、腕部23の入力側係合部25と入力側被係合部55とが接触しない位置又は入力側係合部25と入力側被係合部55とが接触しているが力の伝達が行われていないときの入力部材の位置である。換言すれば、腕部23の入力側係合部25と入力側被係合部55の内面との間に、出力部材3の接触部Q1が出力側被係合部56を押圧することに基づいて押圧面51が被押圧面40を押圧することを許容する隙間が存在するようにしている。これにより、出力部材3に回転トルクが逆入力された場合に、係合子5が径方向の外側に移動するのを腕部23によって阻止されることがないようにしている。さらに、押圧面51が被押圧面40に接触した後も、押圧面51と被押圧面40との接触部に作用する面圧が、出力部材3に逆入力された回転トルクの大きさに応じて変化するようにすることで、出力部材3のロックまたは半ロックが適正に行われるようにしている。
【0051】
さらに、本実施形態の逆入力遮断クラッチ1では、入力側第一距離MI1を出力側第一距離MO1より大きくし、入力側第二距離MI2を出力側第二距離MO2よりも小さくし、かつ出力側接触部Q1,Q2を仮想直線LHよりも第一径方向D1に関して出力部材3の回転中心Cに近い側に位置させている。このように各寸法値を設定することで、ロック解除状態または半ロック解除状態からロック状態または半ロック状態への切り換え、及びロック状態または半ロック状態からロック解除状態または半ロック解除状態への切り換えをより円滑に行うことができる。この理由について、
図4から
図7を参照しつつ説明する。
【0052】
図4は、第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチ1の効果を説明するための模式図である。
図5は、第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチ1のロック解除時における効果を説明するための模式図である。
図4は、
図3において時計方向CWの逆入力トルクが作用したときに逆入力を遮断する場合の効果を説明するための模式図である。
図5は、押圧面51と被押圧面40との係合により逆入力が遮断された状態(逆入力遮断クラッチ1のロック状態)において、入力部材2から時計方向CWの回転トルクTが入力されてロック状態が解除されるときの効果を説明するための模式図である。
図5における第三接触部Q1に作用している上向きの矢印は、ロック状態においてブレーキディスク14からの反力により発生する逆入力トルクである。
【0053】
図4に示すように、入力側第一距離MI1が出力側第一距離MO1よりも大きい(MI1>MO1)場合、出力部材3に時計方向CWの回転トルク(逆入力)が入力されると、係合子5が第三接触部Q1を中心に反時計方向CCWに回転する傾向となる。そして、
図4に一点鎖線で軌跡rを示すように、一対の押圧面51のうち、第二径方向D2に関して第二基準線L2を挟んで第三接触部Q1と反対側(
図4の右側)に位置する押圧面51が、被押圧面40に強く押し付けられて食い込む傾向となる。これにより、押圧面51と被押圧面40との係合により係合子5がロックされ易くなり、出力部材3に逆入力された時計方向CWの回転トルクを遮断し易くなる。
【0054】
一方、ロック解除時には、
図5に示すように、入力側第二距離MI2が出力側第二距離MO2よりも小さく(MI2<MO2)、かつ第三接触部Q1が仮想直線LHよりも第一径方向D1に関して出力部材3の回転中心Cに近い側に位置する場合、入力部材2に時計方向CWの回転トルクTが入力されると、係合子5の各接触部P5が第三接触部Q1を中心に、時計方向CWに回転する傾向となる。このとき、
図5に一点鎖線で軌跡r1、r2を示すように、一対の押圧面51はいずれも、被押圧面40に対して押し付けられることはない。このため、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態へ切り換える際に、入力部材2の回転トルクが瞬間的に大きくなることがない。すなわちピークトルクの発生が抑制される。これにより、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態への切り換えが小さいトルクで円滑に行われる。また、ロックを解除する際にピークトルクが発生しないため、モータ11の最大出力トルクを徒に大きくする必要がなく、モータ11の大型化及び消費電力の増加が抑えられる。
【0055】
ここで、
図6は、比較例に係る逆入力遮断クラッチ801のロック解除時における効果を説明するための模式図である。
図6は、
図5と同様、押圧面51と被押圧面40との係合により逆入力が遮断された状態(逆入力遮断クラッチ1のロック状態)において、入力部材2から時計方向CWの回転トルクTが入力されてロック状態が解除されるときの効果を説明するための模式図である。
図6に示すように、入力側第二距離MI2が出力側第二距離MO2よりも小さい(MI2<MO2)場合であっても、第三接触部Q1が仮想直線LHよりも第一径方向D1に関して出力部材3の回転中心Cから遠い側に位置する場合には、入力部材2に時計方向CWの回転トルクTが入力されると、係合子5が第三接触部Q1を中心に、時計方向CWに回転する傾向となる。そして、
図6に一点鎖線で軌跡r3を示すように、一対の押圧面51のうち、第二径方向D2に関して第一基準線L1よりも第三接触部Q1に近い側(
図6の左側の接触部P5)に位置する押圧面51が、被押圧面40に強く押し付けられて食い込む傾向となる。このような被押圧面40に対する押圧面51の食い込みを解除するため、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態へ切り換える際に、入力部材2の回転トルクが瞬間的に大きくなる。すなわちロックを解除する際にピークトルクが発生し易くなる。
【0056】
したがって、
図5に示す本実施形態の構成と、
図6に示す比較例と、を比べた結果、入力側第二距離MI2が出力側第二距離MO2よりも小さく(MI2<MO2)、かつ第三接触部Q1が仮想直線LHよりも第一径方向D1に関して出力部材3の回転中心Cに近い側に位置する本実施形態の構成によれば、上述したとおりピークトルクの発生を抑えられる。よって、入力部材2に時計方向CWの回転トルクTが入力されてロック状態が解除される場合において、比較例よりもロック解除性を高めることが可能となる。
【0057】
さらに、
図7は、別の比較例に係る逆入力遮断クラッチ901のロック解除時における効果を説明するための模式図である。
図7は、
図5と同様、押圧面51と被押圧面40との係合により逆入力が遮断された状態(逆入力遮断クラッチ1のロック状態)において、入力部材2から時計方向CWの回転トルクTが入力されてロック状態が解除されるときの効果を説明するための模式図である。
【0058】
以下、
図5に示す本実施形態の逆入力遮断クラッチ1と
図7に示す比較例の逆入力遮断クラッチ901との相違点及びその作用効果を説明する。
図5及び
図7の下向き矢印に示すように、ロック状態において入力部材2に時計方向CWの回転トルクが入力されると、係合子5が時計方向CWに沿って回転する傾向となる。このとき、
図5に示す本実施形態において、入力される回転トルクをTとし、第一基準線L1から第二接触部P2までの第二径方向D2に沿う距離をAとした場合、第二接触部P2において係合子5に作用する荷重F1は、F1=T/Aで表すことができる。同様に、
図7に示すように、入力される回転トルクをTとし、第一基準線L1から第二接触部P2までの第二径方向D2に沿う距離をBとした場合、第二接触部P11において係合子5に作用する荷重F2は、F2=T/Bで表すことができる。ここで、A<Bである。
【0059】
よって、第一基準線L1から第二接触部P2までの第二径方向D2に沿う距離Aが比較的小さい場合(
図5参照)、第一基準線L1から第二接触部P11までの第二径方向D2に沿う距離Bが比較的大きい場合(
図7参照)と比較して、同じ回転トルクTを与えたときに第二接触部P2で発生する荷重が大きくなる(F1>F2)。このため、
図5に示す本実施形態の構成によれば、入力側第二距離MI2が入力側第一距離MI1よりも小さいので、ロック状態又は半ロック状態からロック解除状態へ切り換える際に必要な回転トルクを小さくできる。したがって、ロック解除時の入力部材2の回転方向である時計方向CW側の接触部(第二接触部P2)を第一接触部P1よりも第一基準線L1と近い側に配置した本実施形態の構成によれば、比較例と比べてロック解除性を高めることができる。
【0060】
(作用、効果)
本実施形態の逆入力遮断クラッチ1によれば、第一接触部P1と入力部材2の回転中心との第二径方向D2に沿う距離(入力側第一距離MI1)は、出力側接触部Q1と入力部材2の回転中心との第二径方向D2に沿う距離(出力側第一距離MO1)よりも大きい。これにより、出力部材3に時計方向CWの回転トルク(逆入力)が入力されると、係合子5が出力側接触部Q1を中心に反時計方向CCWに回転する傾向となる。このため、一対の押圧面51のうち一方(第2方向に関して第一基準線L1を挟んで出力側接触部Q1と反対側)の押圧面51が、被押圧面40に強く押し付けられて食い込む傾向となる。よって、第二回転方向の逆入力を効果的に遮断し、ロック性を高めることができる。
また、第二接触部P2と入力部材2の回転中心との第二径方向D2に沿う距離(入力側第二距離MI2)は、出力側接触部Q2と入力部材2の回転中心との第二径方向D2に沿う距離(出力側第二距離MO2)よりも小さい。これにより、入力部材2に時計方向CWの回転トルクが入力されると、係合子5が出力側接触部Q1を中心に、時計方向CWに回転する傾向となる。すなわち、一対の押圧面51は、それぞれ被押圧面40から離れる方向に押し付けられる。このため、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態へ切り換える際に、ピークトルクが瞬間的に大きくなることはなく、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。また、一対の押圧面51が被押圧面40に押し付けられないので、入力部材2からの第二回転方向に沿う回転トルクを効率的に係合子5及び出力部材3へ伝達できる。
よって、特に出力部材3及び入力部材2に入力されるトルクの回転方向が同一(本実施形態では時計方向CW)の場合、出力部材3からの逆入力を効果的に遮断しつつ、入力部材2からの回転トルクを効率良く伝達できる。
したがって、従来技術と比較して逆入力に対するロック性及び正入力に対するトルク伝達効率の両方を向上できる逆入力遮断クラッチ1を提供できる。
【0061】
出力部材3の第三接触部Q1及び前記第四接触部Q2は、第一基準線L1からの第二径方向D2に沿う距離が互いに同等とされている。また、第一接触部P1と第一基準線L1との第二径方向D2に沿う距離MI1と、第二接触部P2と第一基準線L1との第二径方向D2に沿う距離MI2と、が互いに異なる。このように、第一接触部P1及び第二接触部P2の第一基準線L1からの距離を互いに異ならせることにより、第一接触部P1と第一基準線L1との距離MI1を出力側接触部Q1と第一基準線L1との距離MO1よりも大きくし、かつ第二接触部P2と第一基準線L1との距離MI2を出力側接触部Q2と第一基準線L1との距離MO2よりも小さくできる。よって、出力側係合部35の形状を左右対称及び上下対称な形状とした場合であっても、出力部材3からの逆入力を効果的に遮断しつつ、入力部材2からの回転トルクを効率良く伝達できる。
【0062】
出力側接触部は、仮想直線LHよりも第一径方向D1に関して出力部材3の回転中心Cに近い側に位置する。これにより、出力側接触部Q1,Q2が仮想直線LHよりも第一径方向D1に関して出力部材3の回転中心Cから遠い側に位置する場合と比較して、入力部材2から時計方向CWに沿う正入力が作用した際に、押圧面51を被押圧面40からより離れ易い方向に押し付けることができる。よって、入力部材2に正入力が作用した際のピークトルクの増加を抑制し、ロック状態または半ロック状態からロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。また、一対の押圧面51が被押圧面40に対してより一層押し付けられ難くなるので、入力部材2からの時計方向CWに沿う回転トルクを効率的に伝達できる。
【0063】
出力部材3に逆入力される回転トルクの回転方向は第二回転方向(時計方向CW)と一致する。これにより、出力部材3からの逆入力を効果的に遮断しつつ、入力部材2からの回転トルクを効率良く伝達するという上述した作用効果を安定的に得ることができる。よって、特に出力部材3及び入力部材2に入力されるトルクの回転方向がともに時計方向CWの場合、従来技術と比較して逆入力に対するロック性及び正入力に対するトルク伝達効率の両方を効果的に向上できる。
【0064】
本実施形態の逆入力遮断システム10によれば、逆入力遮断システム10は、上述の逆入力遮断クラッチ1と、ボールねじ機構12と、を備える。ここで、ボールねじ機構12は、回転部品であるボールねじ軸15と直動部品であるナット16とを有し、ボールねじ軸15が回転することによりナット16が直動する。しかしながら、ボールねじ機構12の逆効率が良い場合には、ナット16が押圧された場合にボールねじ軸15が回転してしまうおそれがある。そこで、ボールねじ機構12と逆入力遮断クラッチ1とを組み合わせて使用することにより、逆効率が良いボールねじ機構12を使用した場合であっても、意図しないボールねじ軸15の回転及びナット16の移動を抑制できる。
したがって、従来技術と比較して逆入力に対するロック性及び正入力に対するトルク伝達効率の両方を向上できる逆入力遮断クラッチ1を備えた、高性能な逆入力遮断クラッチ1を提供できる。また、逆入力遮断クラッチ1とボールねじ機構12とを組み合わせて使用することにより、ボールねじ機構12をより好適に使うことができ、ボールねじ機構12を用いたシステムの汎用性を高めることができる。
【0065】
逆入力遮断システム10は、逆入力遮断クラッチ1の入力部材2と接続されるモータ11と、ボールねじ機構12のナット16と接続されるブレーキパッド13と、を備え、逆入力遮断クラッチ1のロック機能を用いて電動キャリパブレーキのパーキングブレーキを行う。モータ11とボールねじ機構12との間に逆入力遮断クラッチ1を設けることにより、ブレーキディスク14からブレーキパッド13に作用した反力がボールねじ機構12を介して逆入力遮断クラッチ1に伝達された場合に、ボールねじ機構12のボールねじ軸15の回転を逆入力遮断クラッチ1によりロック(遮断)できる。これにより、モータ11の動力をオフにした場合であっても、ブレーキパッド13の位置を維持できる。よって、逆入力遮断クラッチ1を用いない電動キャリパブレーキと比較して、モータ11の消費電力を低減できる。
したがって、特にパーキングブレーキ機能付きの電動キャリパブレーキにこの逆入力遮断システム10を採用することにより、逆入力遮断システム10を好適に使用できる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。なお、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図8は、第2実施形態に係る逆入力遮断クラッチ201の断面図である。
図8は、第1実施形態の
図3に対応する断面の断面図である。第2実施形態では、軸方向から見た入力部材202の腕部23の形状及び出力部材203の挿入部32の形状が上述した第1実施形態と相違している。
【0067】
第2実施形態において、入力部材202の腕部23は、軸方向から見て、一辺が湾曲した台形状に形成されている。具体的に、腕部23は、径方向の内側に面する入力側係合部25と、径方向の外側に面する曲面部26と、入力側係合部25及び曲面部26の端部同士を接続する2個の側面部27,27と、を有する。曲面部26は、中心軸線Cを中心とする円弧状に形成されている。
【0068】
入力部材202の入力側係合部25は、第一接触部P201と、第二接触部P202と、を有する。第一接触部P201は、入力側係合部25の一方の端部と側面部27との境界近傍に設けられている。第一接触部P201は、入力部材202に反時計方向CCWの回転トルクが入力されたときに、係合子5と接触する。第二接触部P202は、入力側係合部25の他方の端部と側面部27との境界近傍に設けられている。第二接触部P202は、入力部材202に時計方向CWの回転トルクが入力されたときに、係合子5と接触する。
【0069】
本実施形態において、第一基準線L1から第一接触部P201までの第二径方向D2に沿う距離MI201(入力側第一距離MI201)と、第一基準線L1から第二接触部P202までの第二径方向D2に沿う距離MI202(入力側第二距離MI202)と、は同等となっている(MI201=MI202)。
【0070】
また、出力部材203の挿入部32は、軸方向から見て、平行四辺形状に形成されている。具体的に、挿入部32は、一対の係合子5にそれぞれ面する一対の出力側係合部35と、出力側係合部35の端部同士を接続する一対の側面部36と、を有する。一対の側面部36は、出力側係合部35に対して傾斜している。一対の側面部36は、互いに平行となっている。
【0071】
出力部材203の出力側係合部35は、第三接触部Q201と、第四接触部Q202と、を有する。第三接触部Q201は、第一基準線L1と第二基準線L2とにより区画される4個の領域において、第一接触部P201と同じ領域に設けられている。第三接触部Q201は、出力側係合部35と側面部36との境界近傍に設けられている。第三接触部Q201は、出力部材203に時計方向CWの回転トルクが入力されたときに、係合子5と接触する。第四接触部Q202は、第一基準線L1と第二基準線L2とにより区画される4個の領域において、第二接触部P202と同じ領域に設けられている。第四接触部Q202は、出力側係合部35と側面部36との境界近傍に設けられている。第四接触部Q202は、出力部材203に反時計方向CCWの回転トルクが入力されたときに、係合子5と接触する。
【0072】
本実施形態において、第一基準線L1から第三接触部Q201までの第二径方向D2に沿う距離MO201(出力側第一距離MO201)は、第一基準線L1から第四接触部Q202までの第二径方向D2に沿う距離MO202(出力側第二距離MO202)よりも小さい(MO201<MO202)。
【0073】
上述の位置に各接触部P201,P202,Q201,Q202が設けられることにより、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、入力側第一距離MI201は、出力側第一距離MO201よりも大きくなる(MI201>MO201)。また、入力側第二距離MI202は、出力側第二距離MO202よりも小さくなる(MI202<MO202)。
【0074】
第2実施形態の逆入力遮断クラッチ201によれば、第一接触部P201及び第二接触部P202は、第一基準線L1からの第二径方向D2に沿う距離MI201,MI202が互いに同等とされている。また、第三接触部Q201と第一基準線L1との第二径方向D2に沿う距離MO201と、第四接触部Q202と第一基準線L1との第二径方向D2に沿う距離MO202と、が互いに異なる。これにより、入力側係合部25の形状を左右対称とした場合であっても、入力側第一距離MI201を出力側第一距離MO201よりも大きくし、かつ入力側第二距離MI202を出力側第二距離MO202よりも小さくできる。よって、入力側係合部25の形状を左右対称とした場合であっても、第1実施形態と同等の作用効果を得ることができる。すなわち、出力部材203からの逆入力を効果的に遮断しつつ、入力部材202からの回転トルクを効率良く伝達できる。また、第1実施形態と異なる構成とすることができるので、入力側係合部25の形状の自由度が向上し、逆入力遮断クラッチ201の汎用性を向上できる。
【0075】
なお、
図8では、係合子5の形状を簡略化して記載しているが、例えば第1実施形態と同様の形状の係合子5を用いてもよい。
【0076】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の各実施形態では、入力部材2の回転方向のうち逆入力トルクが生じる方向と同じ方向(時計方向CW)に回転したときにロック解除性が良くなるような接触部P1,P2,Q1,Q2の配置とされたが、これに限られない。例えば逆入力トルクが生じる方向が反時計方向CCWの場合には、入力部材2が時計方向CWに回転する場合と比較して、入力部材2が反時計方向CCWに回転した場合にロック解除性が良くなるように接触部P1,P2,Q1,Q2の位置関係を変更してもよい。また、逆入力トルクが生じる方向と反対方向に入力部材2が回したときに、よりロック解除性が良くなるように接触部P1,P2,Q1,Q2を配置してもよい。
【0077】
ボールねじ機構12の構成は上述した実施形態の構成に限定されない。例えば逆入力遮断クラッチ1の出力部材3にナット16が接続され、ボールねじ軸15がブレーキパッド13と接続されてもよい。
【0078】
上述した実施形態の逆入力遮断クラッチ1及び逆入力遮断システム10を、電動ブレーキのパーキングブレーキ以外のシステムに適用してもよい。例えば逆入力トルクの生じる方向が一定でないシステムに適用してもよい。但し、パーキングブレーキのように逆入力の回転方向が一定である場合には、その回転方向に対して逆入力遮断クラッチ1がよりロックし易くなるように逆入力遮断クラッチ1を形成し、ロック性及び伝達効率の両方を向上できるので、逆入力遮断クラッチ1をボールねじ機構12と組み合わせて電動ブレーキのパーキングブレーキとして使用する本実施形態の構成は優位性がある。
【0079】
上述の各実施形態では、逆入力遮断機構としてリンク構造を用いないリンクレス方式の逆入力遮断クラッチ1を例に説明したが、これに限られない。逆入力遮断機構として公知技術であるリンク機構を用いたリンク方式の逆入力遮断クラッチを採用してもよい。
【0080】
なお、本開示は、以下のような構成の組み合わせであってもよい。
(1)
内周面に被押圧面を有するハウジングと、
前記被押圧面と同軸に配置される入力軸と、前記入力軸の中心軸を挟んで第一径方向に互いに離間して設けられた一対の入力側係合部と、を有する入力部材と、
前記入力軸と同軸に配置される出力軸と、前記第一径方向において一対の前記入力側係合部の間に設けられる出力側係合部と、を有する出力部材と、
前記被押圧面に対向する押圧面と、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部と、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部と、を有し、前記第一径方向に沿って互いに相対移動可能な一対の係合子と、
を備え、
前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記一対の係合子は、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との係合に基づいて、前記第一径方向の径方向内側に向かって互いに近づくように移動し、かつ前記出力側係合部と前記出力側被係合部との係合に基づいて、前記回転トルクを前記出力部材に伝達し、
前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記一対の係合子は、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との係合に基づいて、前記第一径方向の径方向外側に向かって互いに離間するように移動し、前記被押圧面と前記押圧面とを摩擦係合させ、
一対の前記入力側係合部は、前記入力部材の軸方向から見て、前記入力部材の中心軸を中心として互いに点対称な形状となるように形成されており、
前記入力側係合部は、
前記入力部材に第一回転方向の前記回転トルクが入力されたときに、前記係合子と接触する第一接触部と、
前記入力部材に前記第一回転方向とは逆方向である第二回転方向の前記回転トルクが入力されたときに、前記係合子と接触する第二接触部と、
を有し、
前記出力側係合部は、前記出力部材に前記回転トルクが逆入力されたときに、前記係合子と接触する出力側接触部を有し、
前記第一径方向と前記入力部材の中心軸との両方に直交する方向を第二径方向とした場合、
前記第一接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記出力側接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも大きく、
前記第二接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記出力側接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも小さい、
逆入力遮断クラッチ。
(2)
前記出力側接触部は、
前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第一径方向と平行な第一基準線と、前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第二径方向と平行な第二基準線と、により区画される4個の領域において前記第一接触部と同じ領域に設けられる第三接触部と、
前記第一基準線と前記第二基準線とにより区画される4個の領域において前記第二接触部と同じ領域に設けられる第四接触部と、
を有し、
前記第三接触部及び前記第四接触部は、前記入力部材の回転中心からの前記第二径方向に沿う距離が同等となるように形成されている、
(1)に記載の逆入力遮断クラッチ。
(3)
前記第一接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離は、前記第二接触部と前記入力部材の回転中心との前記第二径方向に沿う距離よりも大きい、
(1)又は(2)に記載の逆入力遮断クラッチ。
(4)
前記出力側接触部は、
前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第一径方向と平行な第一基準線と、前記入力部材の中心軸を通り、かつ前記第二径方向と平行な第二基準線と、により区画される4個の領域において前記第一接触部と同じ領域に設けられる第三接触部と、
前記第一基準線と前記第二基準線とにより区画される4個の領域において前記第二接触部と同じ領域に設けられる第四接触部と、
を有し、
前記第一接触部及び前記第二接触部は、前記入力部材の回転中心からの前記第二径方向に沿う距離が同等となるように形成されている、
(1)に記載の逆入力遮断クラッチ。
(5)
前記出力部材に前記回転トルクが逆入力され、一対の前記押圧面が前記被押圧面に接触した状態で、前記出力側接触部は、一対の前記押圧面のうち一方の押圧面と前記被押圧面との接触部と、前記出力部材の回転中心と、を結ぶ仮想直線よりも前記第一径方向に関して前記出力部材の回転中心に近い側に位置する、
(1)から(4)のいずれか1つに記載の逆入力遮断クラッチ。
(6)
前記出力部材に逆入力される前記回転トルクの回転方向は、前記第二回転方向と一致する、
(1)から(5)のいずれか1つに記載の逆入力遮断クラッチ。
(7)
(1)から(6)のいずれか1つに記載の逆入力遮断クラッチと、
前記逆入力遮断クラッチの前記出力部材に接続されるボールねじ機構と、
を備える、
逆入力遮断システム。
(8)
前記逆入力遮断クラッチの前記入力部材と接続されるモータと、
前記ボールねじ機構の直動部品と接続され、ブレーキディスクを挟持するブレーキパッドと、
を備え、
前記逆入力遮断クラッチのロック機能により、電動キャリパブレーキのパーキングブレーキを行う、
(7)に記載の逆入力遮断システム。
【符号の説明】
【0081】
1,201,801,901 逆入力遮断クラッチ
2 入力部材
3 出力部材
4 ハウジング
5 係合子
10 逆入力遮断システム
11 モータ
12 ボールねじ機構
13 ブレーキパッド
14 ブレーキディスク
16 ナット(直動部品)
21 入力軸本体(入力軸)
25 入力側係合部
31 出力軸本体(出力軸)
35 出力側係合部
40 被押圧面
51 押圧面
55 入力側被係合部
56 出力側被係合部
CCW 反時計方向(第一回転方向)
CW 時計方向(第二回転方向)
D1 第一径方向
D2 第二径方向
L1 第一基準線
L2 第二基準線
LH 仮想直線
MI1,MI201 入力側第一距離
MO1,MO210 出力側第一距離
MI2,MI202 入力側第二距離
MO2,NO202 出力側第二距離
P1,P201 第一接触部
P2,P202 第二接触部
Q1,Q201 第三接触部(出力側接触部)
Q2,Q202 第四接触部(出力側接触部)
【要約】
逆入力遮断クラッチ(1)は、入力部材(2)と、出力部材(3)と、入力部材(2)の入力側係合部(25)及び出力部材(3)の出力側係合部(35)と係合する係合子(5)と、を備える。入力側係合部(25)は、係合子(5)と接触する第一接触部(P1)及び第二接触部(P2)を有する。出力側係合部(35)は、係合子(5)と接触する出力側接触部(Q1,Q2)を有する。第二径方向(D2)に関して、第一接触部(P1)と第一基準線(L1)との距離(MI1)は、出力側接触部(Q1)と第一基準線(L1)との距離(MO1)よりも大きい。第二接触部(P2)と第一基準線(L1)との距離(MI2)は、出力側接触部(Q2)と第一基準線(L1)との距離(MO2)よりも小さい。