(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】遺伝子増幅法及び遺伝子増幅用キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20241001BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241001BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12M1/34 Z
C12N9/12
(21)【出願番号】P 2021502223
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007232
(87)【国際公開番号】W WO2020175406
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019036367
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀之
(72)【発明者】
【氏名】森 朋子
(72)【発明者】
【氏名】喜田 幹子
(72)【発明者】
【氏名】宮原 裕二
(72)【発明者】
【氏名】松元 亮
(72)【発明者】
【氏名】田畑 美幸
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532593(JP,A)
【文献】特開2007-267738(JP,A)
【文献】国際公開第2005/118815(WO,A1)
【文献】特表2018-538007(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C12M 1/00- 3/10
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~35mMのNaH
2
PO
4
-Na
2
HPO
4
緩衝液、NaH
2
PO
4
-NaOH緩衝液又はクエン酸緩衝液と、30mM~125mMの塩化カリウム
とを含むpH
5.7~6.9の酸性反応液
中のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で対象遺伝子を増幅させる工程(I)を含む、遺伝子増幅法。
【請求項2】
工程(I)で用いる酸性反応液が、30mM~115mMの塩化カリウムを含むことを特徴とする、請求項
1に記載の遺伝子増幅法。
【請求項3】
工程(I)で用いるDNAポリメラーゼが、Thermus属、又はThermococcus属、又はBacillus属バクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼであることを特徴とする、請求項1に記載の遺伝子増幅法。
【請求項4】
工程(I)で用いる酸性反応液が
マグネシウム塩及び糖類
から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の遺伝子増幅法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の工程(I)、及び、該工程(I)で得られた増幅産物又は反応副産物に基づき前記対象遺伝子を検出する工程(II)を含む、遺伝子検出法。
【請求項6】
工程(II)に於いて、該工程(I)で生じた反応副産物の量を測定し、該反応副産物の測定量に基づき前記対象遺伝子の量を決定することを特徴とする、請求項
5記載の遺伝子検出法。
【請求項7】
反応副産物がピロリン酸である、請求項
6に記載の遺伝子検出法。
【請求項8】
工程(II)に於いて、ピリジルボロン酸との反応による電位変化を測定することによって、工程(I)で生じたピロリン酸の量を測定する、請求項
7に記載の遺伝子検出法。
【請求項9】
工程(II)に於いて、吸光度法により工程(I)で生じたピロリン酸の量を測定する、請求項
7に記載の遺伝子検出法。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の遺伝子増幅法を実施するための遺伝子増幅用キットであって、DNAポリメラーゼ、緩衝剤、及び反応試薬を含む、前記遺伝子増幅用キット。
【請求項11】
請求項
5~
9のいずれか一項に記載の遺伝子検出法を実施するための遺伝子検出装置またはシステムであって、請求項1
0に記載の遺伝子増幅用キットを含む、前記遺伝子検出装置またはシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子増幅法及び遺伝子増幅用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子を増幅する技術は、医療分野において病原菌の検査、がん診断などに、ライフサイエンス分野においては、食中毒菌の検査、水質検査、遺伝子組換え作物検査などに広く産業利用されている。遺伝子増幅は、目的遺伝子をテンプレートとしDNAポリメラーゼと作用させ、生成された目的遺伝子を電気泳動と染色で検出する方法が知られている。また、簡便な遺伝子増幅を確認する方法として、反応副産物であるピロリン酸を測定することで目的遺伝子の増幅を判別する方法が使用されている。
【0003】
反応副産物であるピロリン酸の測定法として蛍光試薬で検出する方法があり、リアルタイムPCRなどの検出系として実用化されている。しかし、該方法は、蛍光試薬を使用するため高価となること、蛍光物質の影響を受けやすいことが知られている。他のピロリン酸の測定方法として集積化トランジスタを用いた方法がある。該方法は、目的遺伝子増幅反応で副生したピロリン酸から生じるプロトンをpHセンサで捉え検出することで遺伝子増幅を評価する方法であり、DNAシーケンサの検出系としても実用化されている。しかしながら、該方法では、遺伝子増幅反応のプロトンを捉える必要があるため、反応液中の緩衝能を極力抑える必要があり、その為、酵素反応を繰り返すと遺伝子増幅反応で産生したプロトンが蓄積することで反応液が酸性に傾き酵素の至適pHから乖離し、酵素活性が低下、遺伝子増幅が低下することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
そこでこれら課題を解決する方法として、ピロリン酸を特異的に認識するピリジルボロン酸を用いた方法がある。該方法では、蛍光試薬を使用する必要がなく安価であり、また、酸性条件下でピロリン酸とピリジルボロン酸が作用するため、遺伝子増幅反応で産生したプロトンが蓄積しても問題なく検出できる。しかし、ピリジルボロン酸がピロリン酸と結合できるpHの範囲が5~7であり、一般的な遺伝子増幅反応が、アルカリ側で行われていること、また、酸性条件下では、遺伝子の脱プリン化が起こりやすいことが知られており(非特許文献2)、脱プリン化が起こった遺伝子では、DNAポリメラーゼが作用できず、その為、遺伝子増幅が起こらない。このことから、酸性条件下で遺伝子増幅を行える有効な方法が未だないため、本方法は活用されていない状況である。
【0005】
その他にも、遺伝子増幅については多く検討されており、これらの方法の多くは、アルカリ側での反応であるが、その中でpHが7以下における遺伝子増幅に関する記載のある公知文献がある(特許文献1、2、3)。しかし、該公知文献では、酸性条件下で遺伝子増幅を行うことが目的ではないため、酸性条件下でDNAポリメラーゼを反応させる具体的な組成や条件が示されてなく、実際に酸性条件下で遺伝子増幅を行った例については全く記載されていない。
【0006】
また、酸性条件に至適pHが6であるDNAポリメラーゼを用いて遺伝子増幅の検討が行なわれている(非特許文献3)。しかしながら、該方法では、遺伝子増幅の最適pHは8.2であり、pH7.4では遺伝子増幅が認められなかった。酵素の至適pHと遺伝子増幅の至適pHは異なっており、酸性条件に至適pHを有するDNAポリメラーゼであれば、酸性条件で遺伝子増幅ができるわけではない。以上のように、酸性条件下でピロリン酸を検出するのに有用なピリジルボロン酸を用いた方法等を活用できるような、実際に酸性条件下でのDNAポリメラーゼを用いた遺伝子増幅法は未だない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許4699415号明細書
【文献】特許5007440号明細書
【文献】特開2016-521120号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究成果報告書 課題番号26702013 2版 平成29年6月26日
【文献】ベーシックマスター 分子生物学 P15-16 出版年2006年12月 オーム社
【文献】Enzyme and Microbial technology,51, 334-341,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の遺伝子増幅に関する従来技術に於ける様々な問題点を解決し、酸性条件下でDNAポリメラーゼを用いて、測定対象の遺伝子を選択的且つ簡便に増幅する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、DNAポリメラーゼを用いて、測定対象の遺伝子を増幅する方法を詳細に検討した結果、予想外にも、酸性条件下での遺伝子増幅反応を有意に行うことを可能とする、緩衝液の種類及び各種塩濃度等の遺伝子増幅反応条件が存在することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、以下の[1]~[8]の態様に関する。
[1]pH4.2~6.9の酸性反応液中でのDNAポリメラーゼ反応で対象遺伝子を増幅させる工程(I)を含む、遺伝子増幅法。
[2]工程(I)で用いる酸性反応液をpH4.0~6.9の緩衝液を用いて調製することを特徴とする、態様[1]に記載の遺伝子増幅法。
[3]工程(I)で用いる酸性反応液が、5mM~125mMの塩化カリウムを含むことを特徴とする、態様[2]に記載の遺伝子増幅法。
[4]工程(I)で用いるDNAポリメラーゼが、Thermus属、Thermococcus属、又は、Bacillus属バクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼであることを特徴とする、態様[1]に記載の遺伝子増幅法。
[5]工程(I)で用いる酸性反応液が糖類を含むことを特徴とする、態様[1]に記載の遺伝子増幅法。
[6]態様[1]~[5]のいずれか一項に記載の工程(I)、及び、該工程(I)で得られた増幅産物又は反応副産物に基づき前記対象遺伝子を検出する工程(II)を含む、遺伝子検出法。
[7]工程(II)に於いて、該工程(I)で生じた反応副産物の量を測定し、該反応副産物の測定量に基づき前記対象遺伝子の量を決定することを特徴とする、遺伝子検出法。
[8]反応副産物がピロリン酸である、態様[7]に記載の遺伝子検出法。
[9]工程(II)に於いて、ピリジルボロン酸との反応による電位変化を測定することによって工程(I)で生じた反応ピロリン酸の量を測定する、態様[8]に記載の遺伝子検出法。
[10]工程(II)に於いて、吸光度法により工程(I)で生じたピロリン酸の量を測定する、態様[8]に記載の遺伝子検出法。
[11]態様[1]~[5]のいずれか一項に記載の遺伝子増幅法を実施するための遺伝子増幅用キットであって、DNAポリメラーゼ、緩衝剤、及び反応試薬を含む、前記遺伝子増幅用キット。
[12]態様[6]~[10]のいずれか一項に記載の遺伝子検出法を実施するための遺伝子検出装置またはシステムであって、態様[11]に記載の遺伝子増幅用キットを含む、前記遺伝子検出装置またはシステム。
【発明の効果】
【0012】
従来技術では、酸性条件下で測定対象の遺伝子を選択的に増幅させ、該遺伝子を検出することが不可能であったが、本発明に係る遺伝子増幅法に於いては、従来技術で見られたような遺伝子の脱プリン化も見られず、酸性条件下でもDNAポリメラーゼの作用により測定対象遺伝子を有意に増幅させることが出来る。更に、引き続き、増幅反応に使用した酸性反応液を用いて、該遺伝子を選択的且つ簡便に検出又は測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼにおける遺伝子増幅反応液中の緩衝液の影響を示す図である。
【
図2】Thermus属由来DNAポリメラーゼにおける遺伝子増幅反応液中の緩衝液の影響を示す図である。
【
図3】Thermococcus属由来DNAポリメラーゼにおける酸性条件下での遺伝子増幅反応における緩衝液及び塩化カリウム濃度の影響を示す図である。
【
図4】遺伝子増幅反応におけるマグネシウム濃度の影響を示す図である。
【
図5】遺伝子増幅反応における塩化カリウム濃度の影響を示す図である。
【
図6】遺伝子増幅反応におけるトレハロースの添加効果を示す図である。
【
図7】本発明と公知文献記載の遺伝子増幅反応組成における酸性条件下での遺伝子増幅反応の比較を示す図である。
【
図8】Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼにおける遺伝子増幅反応液中の緩衝液の影響を示す図である。
【
図9】Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼにおける遺伝子増幅反応液中の塩化カリウム濃度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、第一に、遺伝子増幅法に係る。本発明の遺伝子増幅法の工程(I)では、pH4.2~6.9、例えば、Thermus属及びThermococcus属由来のDNAポリメラーゼの場合、好ましくは、pH5.7~6.9又は、Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼの場合、好ましくは、pH5.0~6.5の範囲にある(酸性)反応液中でのDNAポリメラーゼ反応において、測定の対象となる遺伝子(DNA)を増幅させる。尚、上記の酸性反応液のpHは遺伝子増幅反応が進むにつれて多少変動するので、遺伝子増幅反応開始時のpHで規定する。本発明方法に使用するDNAポリメラーゼは、原核生物、真核生物及びウィルス由来の何れのDNAポリメラーゼでも良く、例えば、Bacillus属、Thermus属、Pyrococcus属、Thermococcus属、Sulfolobus属などの微生物由来やBacillus subtilisバクテリオファージなどのウィルス由来のDNAポリメラーゼが好ましい。また、組換え型DNAポリメラーゼでも良く、合成したDNAポリメラーゼでも良い。可溶性酵素が好ましいが、不溶性酵素に界面活性剤を組み合わせても良く、可溶化タンパクとの融合又は膜結合部分の削除等により不溶性酵素を可溶化させた酵素でも良い。DNAポリメラーゼの公知のアミノ酸配列を利用でき、組換え型のDNAポリメラーゼとしては、公知のDNAポリメラーゼと60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%以上の同一性を有するアミノ配列を有し、DNAポリメラーゼ活性を有する蛋白質を使用しても良い。尚、本発明の遺伝子増幅法に於いては、特定のpH範囲の酸性反応液中でのDNAポリメラーゼ反応において、測定対象の遺伝子の増幅を繰り返し行うことによって、ピロリン酸等の反応産生物(反応副産物)を増加させ、その後、該反応副産物を係る酸性pH条件下で測定することが可能となる。従って、このような反応液のpHの範囲に於いて有意な遺伝子増幅活性を有するDNAポリメラーゼを使用することが好ましい。尚、既に述べたように、DNAポリメラーゼ自体の至適pHと遺伝子増幅活性の至適pHとは必ずしも一致していない。
【0015】
本発明の遺伝子増幅法に使用するDNAポリメラーゼの調製方法としては、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、DNAポリメラーゼを含む対象物に加水し、粉砕機、超音波破砕機などで粉砕後、破砕した破砕物を遠心分離、濾過などで固形物を取り除いた抽出物、さらに当該抽出物をカラムクロマトグラフィーなどにより精製又は単離する方法があり、その精製又は単離したDNAポリメラーゼなどを用いることができる。
【0016】
当該遺伝子増幅反応に使用される酸性反応液中のDNAポリメラーゼ濃度は、試料の種類、推定される試料中の遺伝子濃度及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えば、遺伝子増幅反応液中のBacillus属、Thermus属、Pyrococcus属、Thermococcus属、Sulfolobus属などの微生物由来やBacillus subtilisバクテリオファージなどのウィルス由来のDNAポリメラーゼの濃度は、0.5μg/mL以上、より好ましくは1μg/mL以上、さらに好ましくは3μg/mL以上とすることができる。いずれにしても、本発明方法では、DNAポリメラーゼを繰り返し使用できるので、予想される試料中の遺伝子に対して、過剰量のDNAポリメラーゼを添加する必要はない、という利点を有する。従って、DNAポリメラーゼ濃度の上限は、経済性なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。
【0017】
本発明の遺伝子増幅法における対象遺伝子(DNA)は、当業者に公知の任意の方法で・手段で取得することが出来る。例えば、血液、生鮮食品、加工食品及び飲料など検査の目的に応じた試料から適宜調製することが出来る。各試料中からのDNA調製方法としては、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、試料をドデシル硫酸ナトリウム、酵素、ビーズ破壊などで溶解させ、得られた溶解液中のDNAをシリカ膜などに結合後、溶出液でDNAを溶出させるなどにより調製したDNAを遺伝子増幅用のDNA試料として使用することができる。更に、増幅反応の種類などに応じて、DNAはcDNAであっても良い。
【0018】
本発明の遺伝子増幅法で使用する特定のpH範囲の酸性反応液は、DNAポリメラーゼの種類や反応条件等に応じて、例えば、pH4.0~6.9、好ましくはpH5.0~6.5、より好ましくはpH5.5~6.5等の適当なpH範囲の緩衝液を用いて当業者が適宜調製することが出来る。該緩衝液としては、当業者に公知の任意の緩衝剤、好ましくは、NaH2PO4-Na2HPO4、NaH2PO4-NaOH、NaH2PO4-KOHなどのリン酸塩緩衝剤を用いて調製するリン酸塩緩衝液やクエン酸-クエン酸ナトリウム、クエン酸-NaOHなどのクエン酸緩衝剤を用いて調製するクエン酸緩衝液などを使用することが出来る。酸性反応液中の緩衝剤の(終)濃度に関しては、例えば、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼをpH5.5の緩衝液を用いて調製した反応液中で反応させる場合、該反応液中のリン酸塩の濃度は、0.1~200mMがよく、より好ましくは0.5~100mM、さらに好ましくは5~50mMがよい。このような緩衝剤の濃度の上限は、経済性なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。尚、酸性反応液の最終容量に対して、通常、1~10倍濃度の緩衝剤を1~25容量%程度を使用することによって上記のpH範囲の酸性反応液を調製することが出来る。
【0019】
本発明の遺伝子増幅法で使用する酸性反応液には塩化カリウムが含まれていることが好ましい。該反応液中の塩化カリウムの濃度は、DNAポリメラーゼの種類や反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。アルカリ側pHで反応させる従来の一般的な遺伝子増幅反応においては、塩化カリウム濃度が75mM以上になると遺伝子増幅反応が阻害されることが知られているが、本発明方法に於ける酸性条件下での遺伝子増幅反応においては、塩化カリウム濃度は、使用する反応液のpHが酸性になるほど、過剰となるように添加するのが好ましい。例えば、Thermus属由来のDNAポリメラーゼをpH6.0の緩衝液を用いて調製した酸性反応液中で反応させる場合、該反応液中の塩化カリウムの濃度は、5~115mMがよく、より好ましくは30~115mMがよい。例えば、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼをpH5.5の緩衝液を用いて調製した酸性反応液中で反応させる場合、該反応液中の塩化カリウムの終濃度は、5~115mMがよく、より好ましくは30~115mMがよい。更に、例えば、Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼをpH4.0の緩衝液を用いて調製した酸性反応液中で反応させる場合、該反応液中の塩化カリウムの終濃度は、5~125mMがよく、より好ましくは30~125mMがよい。塩化カリウムの濃度は、緩衝剤の濃度を考慮し、緩衝剤が高濃度の場合、塩化カリウム濃度は低濃度とし、緩衝剤が低濃度の場合、塩化カリウム濃度は高濃度とするのがよい。また、塩化カリウム濃度の上限は、経済性なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。
【0020】
本発明の遺伝子増幅法で使用する酸性反応液には更に二価イオンが含まれる。該二価イオンとしては、マグネシウム、マンガン、コバルトなどが使用できるが、マグネシウムを使用するのが好ましい。当該反応に使用される反応液中のマグネシウムの濃度は、適宜決められる。例えば、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼをpH5.5の緩衝液で反応させる場合、該反応液中のマグネシウム濃度は、1.5~9mMがよく、より好ましくは2~6mMがよい。例えば、Thermus属由来のDNAポリメラーゼをpH6.0の緩衝液を用いて調製した酸性反応液中で反応させる場合、該反応液中のマグネシウム濃度は、2~6mMがよく、より好ましくは2~4mMがよい。例えば、Bacillus subtilisバクテリオファージなどのウィルス由来のDNAポリメラーゼをpH4.0の緩衝液を用いて調製した酸性反応液中で反応させる場合、該反応液中のマグネシウム濃度は、1~30mMがよく、より好ましくは10~14mMがよい。
【0021】
本発明の遺伝子増幅法では、遺伝子を増幅させるため、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)の4種が混合されたデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を用いる。当該反応に使用される反応液中のdNTPの濃度は、各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められるが、例えば、dNTP濃度は、0.01mM以上がよく、より好ましくは0.1mM以上、さらに好ましくは0.2mM以上とすることができる。
【0022】
更に、本発明の遺伝子増幅法では、遺伝子を増幅させるために各種のプライマーを用いる。該プライマーは増幅の対象とする遺伝子の具体的なヌクレオチド配列に基づき、当業者が適宜、設計・調製することが出来る。当該反応に使用される反応液中のプライマーの濃度は、各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められるが、例えば、プライマー濃度は、0.01mM以上、より好ましくは0.1mM以上、さらに好ましくは0.2mM以上とすることができる。
【0023】
本発明の遺伝子増幅法の工程(I)における遺伝子増幅反応は、当業者に公知の任意の方法、例えば、各種のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で行われ、該反応の各サイクルに於ける温度や時間は、遺伝子増幅反応が生じるような任意の温度で良い。例えば、Thermus属及びThermococcus属のDNAポリメラーゼを用いる場合では、98℃・10sec→55℃・30sec→72℃・1minを繰り返すことや、94℃・3min→94℃・30sec→62℃・30sec→72℃・30secを繰り返した後、72℃・10minとすることなどできる。Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼを用いる場合では、95℃・1min加熱、30℃まで冷却した後、30℃・16hr→65℃・10min処理することなどできる。酸性条件下では、高温ほど遺伝子の脱プリン化が起こりやすいことから低温で遺伝子増幅を行うことが好ましい。
【0024】
また、本発明の遺伝子増幅法で使用する酸性反応液に糖類を含有させる(共存させる)ことによって、更に、反応産生物の量を増加させることが出来る。糖類としては、ショ糖、トレハロースなど当業者に公知の糖類が使用できる。当該反応に使用される反応液中の糖類の濃度は、各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えば、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼをpH5.5の緩衝液で反応させる場合、該反応液中の糖類濃度は、10%以下がよく、より好ましくは5%以下がよい。例えば 、Thermus属由来のDNAポリメラーゼをpH6.0の緩衝液を用いて調製した酸性反応液中で反応させる場合、該反応液中の糖類濃度は、1%以上がよく、より好ましくは5%以上がよい。例えば、Bacillus subtilisバクテリオファージなどのウィルス由来のDNAポリメラーゼをpH4.0の緩衝液を用いて調製した酸性反応液中で反応させる場合、該反応液中の糖類濃度は、0.1%以上がよく、より好ましくは1%以上がよい。
【0025】
さらに、本発明の遺伝子増幅法で使用する酸性反応液に牛血清アルブミン(BSA)、非イオン製剤、アンモニウムイオンを添加する(共存させる)ことによって、酵素やDNAの安定性を増し、反応産生物の量を増加させることが出来る。BSAの濃度は、各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えば、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼをpH5.5の緩衝液で反応させる場合、該反応液中のBSA濃度は、0.001%以上がよく、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.01%以上がよい。非イオン製剤としては、NP-40、TritonX-100など当業者に公知の非イオン製剤が使用できる。当該反応に使用される反応液中の非イオン製剤の濃度は、各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えば、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼをpH5.5の緩衝液で反応させる場合、該反応液中の非イオン製剤濃度は、0.0005%以上がよく、より好ましくは0.001%以上、さらに好ましくは0.01%以上がよい。また、アンモニウムイオンとしては、硫酸アンモニウムなど当業者に公知のアンモニウムイオンが使用できる。当該反応に使用される反応液中のアンモニウムイオンの濃度は、各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えば、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼをpH5.5の緩衝液で反応させる場合、反応液中のアンモニウムイオン濃度は、120mM以下がよく、より好ましくは100mM以下、さらに好ましくは80mM以下がよい。
【0026】
本発明方法の工程(I)で使用する反応試薬・酵素等の各反応成分は、所定の酸性条件下で遺伝子増幅反応が生じる添加方法である限り、当業者に公知の任意の手段・手順等で反応系に添加することができる。例えば、各成分を反応開始前に一度に反応液に予め添加するか、又は、DNAポリメラーゼ又は遺伝子を含む試料を最後に添加し反応させても良い。従って、例えば、本願明細書の実施例にあるように、塩化カリウム、二価イオン、及び、糖類等を予めPCR用緩衝液に含有させておくことが出来る。
【0027】
本発明は、第二に、pH4.2~6.9の酸性反応液中でのDNAポリメラーゼ反応で対象遺伝子を増幅させる工程(I)の後に、該工程(I)で得られた増幅産物又は反応副産物に基づき前記対象遺伝子を検出する工程(II)を含む、遺伝子検出法に係る。
増幅産物又は反応副産物に基づく対象遺伝子の検出は、当業者に公知の任意の方法・手段を用いて、定性的、半定量的、又は、定量的に実施することが出来る。
例えば、増幅産物である増幅遺伝子を電気泳動した後、これを染色することによって、定性的又は半定量的に検出することが出来る。又は、反応副産物であるピロリン酸を蛍光試薬で検出する方法もある。
或いは、工程(I)で生じたピロリン酸及び水素イオン等の反応副産物の夫々の量を測定し、該反応副産物の測定量に基づき対象遺伝子の量を決定する(定量的に検出する)ことが出来る。この方法では、反応副産物の量と測定対象遺伝子の量との一定の相関関係に基づく検量線等を利用することができる。特に、本発明の工程(I)で生じたピロリン酸の量の測定には、当業者に公知の任意の方法・手段を使用することができる。特に、本発明の工程(I)では酸性条件下で測定対象遺伝子の増幅が可能であるので、酸性条件下で行われる、ピロリン酸を特異的に検出するピリジルボロン酸により電位変化を測定する方法を効果的に使用することが出来る。また、本発明の工程(I)で生じたピロリン酸をヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、キサンチンオキシダーゼ又はキサンチンデヒドロゲナーゼを組み合わせた方法や、ピロリン酸を無機ピロホスファターゼなどで2分子のリン酸とし、そのリン酸を測定することで、より高感度の測定、例えば、ルミノールと無機ピロホスファターゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを組み合わせた方法などにより、ピロリン酸を吸光度法で測定できる。さらに遺伝子増幅反応に於いてピロリン酸から生じるプロトン(水素イオン)の測定には、水素イオンを検出するガラス電極やイオン感応性電界効果トランジスタにより電位変化を測定する測定方法などを使用することができる。本発明の工程(I)で生じたピロリン酸、水素イオンなどは、適宜、遺伝子増幅反応溶液から分離し、測定することができる。該反応溶液からのピロリン酸、水素イオンなどの分離方法としては、測定に影響の無い方法であれば特に限定されないが、例えば、ペーパークロマトグラフィー分離、マイクロ流体デバイスでの分離などが挙げられる。
【0028】
更に、本発明は上記の本発明方法を実施するための、対象遺伝子を増幅するに必要な前述の各成分、例えば、DNAポリメラーゼ、緩衝剤、反応試薬(プライマー及びdNTP等)並びに、糖類等の各種添加剤等を含む、遺伝子増幅用キットを提供する。当該キットは、安定化剤又は緩衝剤等の当業者に公知の他の任意成分を適宜含有させ、前記酵素等試薬成分の安定性を高めても良い。測定に影響の無い成分であれば特に限定されないが、例えば、卵白アルブミン、糖アルコール類、カルボキシル基含有化合物、酸化防止剤、界面活性剤等を例示できる。
【0029】
又、本発明は、当該遺伝子増幅用キットを含み、上記遺伝子検出法(測定法)を実施するための遺伝子検出装置または遺伝子検出システムを提供する。係る遺伝子検出装置または遺伝子検出システムには、当該遺伝子増幅用キットに加えて、本発明方法に於ける対象遺伝子の増幅工程(I)で得られた増幅産物又は反応副産物に基づき該遺伝子を検出する工程(II)を実施する様々な手段・方法に応じて、それらの各手段・方法に必要とされる当該技術分野に於いて公知である任意の試薬、装置、器具及びキット等を適宜含むことができる。
【0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(超好熱菌由来のポリメラーゼの調製)
Thermococcus waiotapuensis由来のDNAポリメラーゼ遺伝子(非特許文献3)を組み込んだプラスミドpET28b(+)で大腸菌Rosetta 2(DE3)pLysSを形質転換し、発現株として用いた。発現株について、カナマイシンを終濃度50μg/mL及びクロラムフェニコールを終濃度34μg/mL含むLB培地により37℃で4時間培養後、終濃度0.2mMとなるようにIPTGを添加した。さらに、培養液を25℃で終夜培養後、集菌を行い、得られた菌体を超音波破砕し、無細胞抽出液を調製した。調製した無細胞抽出液について遠心分離を行い、得られた上清の一部を用いて電気泳動法により目的酵素の発現を確認した。次いで残りの上清をアフィニティカラム(商品名:HiTrap Heparin HP、GEヘルスケア製)により夾雑タンパクを除去し、0.15mg/mLのThermococcus属由来のDNAポリメラーゼを得た。なお、Thermus属由来のDNAポリメラーゼはタカラバイオ製(商品名:Ex Taq HS)、Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼは関東化学製(商品名:phi29 DNAポリメラーゼ)を用いた。
【0032】
尚、上記Thermococcus属由来のポリメラーゼDNAの塩基配列は以下のとおりである。
[Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼ ]
ATGGGGATCCTGGACGCAGACTACATTACGGAAGATGGCAAGCCGGTCATTCGTGTGTTCAAGAAAGAAAAGGGCGAATTCAAAATCAATTATGATCGTGACTTTGAACCGTATATTTACGCTCTGCTGAAAGATGACAGCGCGATCGAAGATATTAAAAAGATCACCGCTGAACGTCACGGTACCACGGTCCGTGTGACGCGCGCCGAACGTGTTAAAAAGAAATTTCTGGGTCGCCCGGTTGAAGTCTGGAAACTGTATTTCACCCATCCGCAGGATGTGCCGGCTATTCGTGACAAAATCCGCGAACACCCGGCGGTGGTTGATATTTATGAATACGACATCCCGTTTGCAAAGCGTTATCTGATTGATAAAGGCCTGATCCCGATGGAGGGTAACGAAGAACTGCGCATGCTGGCGTTTGACATTGAAACCCTGTACCATGAAGGCGAAGAATTCGGCGAAGGTCCGATTCTGATGATCAGCTATGCGGATGAAGAAGGTGCCCGTGTGATTACCTGGAAAAATATCGACCTGCCGTATGTTGAAAGTGTCTCCACGGAAAAAGAAATGATTAAGCGCTTTCTGAAAGTGATCCAGGAAAAAGATCCGGACGTTCTGATTACCTATAACGGCGATAATTTTGACTTCGCGTACCTGAAGAAACGTTCAGAAACGCTGGGTGTTAAGTTCATTCTGGGCCGCGATGGTTCGGAACCGAAAATCCAACGTATGGGCGACCGCTTTGCCGTGGAAGTTAAAGGTCGCATCCACTTCGATCTGTACCCGGTGATTCGTCGCACCATCAACCTGCCGACCTATACGCTGGAAACGGTGTACGAAGCCATTTTTGGCCAGCCGAAAGAAAAGGTTTATGCAGAAGAAATCGCACAAGCTTGGGAAAGTGGCGAAGGTCTGGAACGCGTTGCCCGTTATTCCATGGAAGATGCGAAGGCCACCTACGAACTGGGTAAAGAATTTTTCCCGATGGAAGCACAGCTGAGCCGTCTGGTCGGCCAAAGCCTGTGGGATGTGTCTCGCAGCTCTACCGGTAACCTGGTGGAATGGTTCCTGCTGCGTAAAGCCTATGAACGCAACGAACTGGCACCGAATAAACCGGATGAACGTGAACTGGCACGTCGCGCAGAATCTTATGCGGGCGGTTACGTCAAGGAACCGGAAAAAGGCCTGTGGGAAAACATCGTGTACCTGGATTACAAGTCACTGTACCCGTCGATTATCATTACCCATAACGTTAGTCCGGATACGCTGAATCGTGAAGGCTGCCGCGAATATGACGTGGCACCGCAGGTTGGTCACCGCTTTTGTAAAGATTTTCCGGGCTTCATTCCGTCCCTGCTGGGTGACCTGCTGGAAGAACGTCAGAAGGTCAAGAAAAAGATGAAAGCGACCGTGGATCCGATCGAACGCAAGCTGCTGGACTATCGTCAACGCGCAATCAAAATTCTGGCTAACAGCTATTACGGCTATTACGGTTATGCAAATGCTCGTTGGTACTGCCGCGAATGTGCGGAATCTGTGACCGCCTGGGGCCGTCAGTACATTGAAACCACGATGCGCGAAATCGAAGAAAAGTTTGGTTTCAAAGTTCTGTATGCTGATACCGACGGCTTTTTCGCGACGATTCCGGGTGCGGATGCCGAAACCGTCAAAAAGAAAACGAAGGAATTCCTGAACTACATCAACCCGCGTCTGCCGGGCCTGCTGGAACTGGAATATGAAGGCTTCTACCGTCGCGGCTTTTTCGTTACCAAGAAAAAGTATGCCGTCATTGATGAAGAAGACAAAATCACCACGCGTGGCCTGGAAATTGTGCGTCGCGATTGGTCAGAAATCGCAAAAGAAACCCAGGCTCGCGTTCTGGAAGCGATTCTGAAACATGGTGATGTCGAAGAAGCCGTGCGTATCGTTAAGGAAGTCACGGAAAAACTGTCGCGCTATGAAGTGCCGCCGGAAAAACTGGTTATTTACGAACAAATCACCCGCAACCTGCGTGATTATCGTGCAACGGGTCCGCACGTCGCAGTGGCTAAGCGTCTGGCAGCGCGTGGCATCAAAATTCGTCCGGGTACCGTTATTAGTTACATCGTCCTGAAAGGCCCGGGTCGTGTGGGTGATCGCGCGATTCCGTTTGATGAATTCGACCCGGCCAAACATCGCTATGACGCAGAATATTACATTGAAAATCAGGTCCTGCCGGCAGTGGAACGTATCCTGCGTGCATTTGGTTATCGTAAAGAAGATCTGCGCTACCAGAAAACCAAGCAAGCAGGCCTGGGTGCTTGGCTGAAACCGAAGACGTAA
【実施例2】
【0033】
(Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼにおける酸性条件下での遺伝子増幅反応液中の緩衝液の影響)
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)時の終濃度として、表1に示す組成のものをPCR緩衝液とした。各PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、0.1% BSAを2.5μL、0.01% Triton X-100を5μL、10μM フォワードプライマー(1):CAGTCGTCATGCATTGCCTGCTC、及びリバースプライマー(1):GTAGGCGCAATCACTTTCGTCTACTCCGを各2μL、6.4ng/μLのλ―DNAを4μL、実施例1で取得したThermococcus属由来のDNAポリメラーゼを1μL添加し、50μLのPCR増幅反応液を調製した。PCRの反応温度と時間は、表2に示す条件で実施した。
【0034】
【実施例3】
【0035】
PCR増幅後、実施例2で調した実施品1~7について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図1のとおり、5mM NaH
2PO
4-NaOH pH5.5及び6.0、並びに、5mM NaH
2PO
4-Na
2HPO
4 pH6.0を用いたサンプル(実施品5~7)で、目的遺伝子の増幅が確認された。
【実施例4】
【0036】
(Thermus属由来DNAポリメラーゼにおける酸性条件下での遺伝子増幅反応液中の緩衝液の影響)
PCR反応時の終濃度として、表3及び表4に示す組成のものをPCR緩衝液とした。各PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(1)を各0.4μL、6.4ng/μLのλ―DNAを1μL、Ex Taq HSポリメラーゼを0.25μL、終濃度10%となるようにトレハロースを添加し(実施品8、9、10のみ添加)、50μLのPCR増幅反応液を調製した。PCRの反応温度と時間は、表5に示す条件で実施した。
【0037】
【0038】
【実施例5】
【0039】
PCR増幅後、実施例4で調製した実施品8~16について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図2のとおり、2mM NaH
2PO
4-Na
2HPO
4(pH6.0)を用いたサンプル(実施品8)では、目的遺伝子の増幅が確認されたが、クエン酸緩衝液を用いたサンプルは、いずれも増幅が見られなかった。また、2mM NaH
2PO
4-KOH(pH6.0)を用いたサンプル(実施品11)では、目的遺伝子の増幅が確認されたが、NaH
2PO
4-KOH(pH5.0、又は、5.5)を用いたサンプルは増幅が見られなかった。さらにマッキルベイン緩衝液(pH5.0、又は、5.5、又は、6.0)を用いたサンプルでは、増幅が見られなかった。
【実施例6】
【0040】
(Thermococcus属由来DNAポリメラーゼにおける酸性条件下での遺伝子増幅 反応液中の緩衝液及び塩化カリウムの濃度の影響)
PCR反応時の終濃度として、表6に示す組成のものをPCR緩衝液とした。各PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、0.1% BSAを2.5μL、0.01% Triton X-100を5μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(2):GCATTGCCCGTCAGGCTAATTCTGAAを各2μL、6.4ng/μLのλ―DNAを2.5μL、実施例1で取得したThermococcus属由来のDNAポリメラーゼを1μL添加し、50μLのPCR増幅反応液を調製した。また、PCRの反応温度と時間は、表7に示す条件で実施した。
【0041】
【実施例7】
【0042】
PCR増幅後、実施例6で調製した実施品17~22について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図3のとおり、50mM NaH
2PO
4-NaOH(pH5.5)を用いたサンプルでは、5mM KCl及び30mM KClを添加したサンプル(実施品17及び18)において目的遺伝子の増幅が確認されたが、50mM KClを添加したサンプルにおいては増幅が見られなかった。また、100mM NaH
2PO
4-NaOH(pH5.5)を用いたサンプルでは、5、30、50mM KClを添加したいずれのサンプルでも増幅が見られなかった。
【実施例8】
【0043】
(遺伝子増幅反応におけるマグネシウム濃度の影響)
PCR反応時の終濃度として、表8に示す組成のものをPCR緩衝液とした。各PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、0.1% BSAを2.5μL、0.01% Triton X-100を5μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(2)を各2μL、6.4ng/μLのλ―DNAを1μL、実施例1で取得したThermococcus属由来のDNAポリメラーゼを1μL添加し、50μLのPCR増幅反応液を調製した。PCRの反応温度と時間は、表7に示す条件で実施した。
【実施例9】
【0044】
PCR増幅後、実施例8で調製した実施品23~27について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図4のとおり、PCR反応時の終濃度で2、4、6mM MgCl
2を含むPCR緩衝液を用いたサンプル(実施品24~26)において、目的遺伝子の増幅が確認された。また、PCR増幅反応後の溶液中のピロリン酸をピロリン酸測定キット(商品名:PPiLight Inorganic Pyrophosphate Assay、LONZA製)を用いて測定したところ、表9のとおりとなり、PCR反応時の終濃度で2mM MgCl
2を含むPCR緩衝液を用いた時に、最もピロリン酸量が高かった。なお、ピロリン酸量は最も高い値を100%として相対値で示した。
【0045】
【実施例10】
【0046】
(遺伝子増幅反応における塩化カリウム濃度の影響)
PCR反応時の終濃度として、表10示す組成のものをPCR緩衝液とした。各PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、0.1% BSAを2.5μL、0.01% Triton X-100を5μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(2)を各2μL、6.4ng/μLのλ―DNAを1μL、実施例1で取得したThermococcus属由来のDNAポリメラーゼを1μL添加し、50μLのPCR増幅反応液を調製した。PCRの反応温度と時間は、表7に示す条件で実施した。
【実施例11】
【0047】
PCR増幅後、実施例10で調製した実施品28~33について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図5のとおり、PCR反応時の終濃度で30、50、75、又は100mM KClを含むPCR緩衝液を用いたサンプル(実施品30~33)において、目的遺伝子の増幅が確認された。また、PCR増幅反応後の溶液中のピロリン酸をピロリン酸測定キット(商品名:PPiLight Inorganic Pyrophosphate Assay、LONZA製)を用いて測定したところ、表11のとおり、PCR反応時の終濃度で75、又は100mM KClを含むPCR緩衝液を用いた時に、最もピロリン酸量が高かった。なお、ピロリン酸量は、最も高かった値を100%として相対値で示した。
【0048】
【実施例12】
【0049】
(酸性条件下での遺伝子増幅反応におけるトレハロース添加効果)
PCR反応時の終濃度として、表12に示す組成のものをPCR緩衝液とした。各PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(1)を各0.4μL、6.4ng/μLのλ―DNAを1μL、Ex Taq HSポリメラーゼを0.25μL添加し、50μLの遺伝子増幅反応液を調製した。PCRの反応温度と時間は、表5に示す条件で実施した。
【実施例13】
【0050】
PCR増幅後、実施例12で調製した実施品34~37について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図6のとおり、全てのサンプルについて、目的遺伝子の増幅が確認された。また、反応後の溶液中のピロリン酸をピロリン酸測定キット(商品名:PPiLight Inorganic Pyrophosphate Assay、LONZA製)を用いて測定したところ、表13のとおり、トレハロースを添加した方が遺伝子増幅反応で生じるピロリン酸量が多くなった。なお、ピロリン酸量は最も高かった値を100%として相対値で示した。
【0051】
【0052】
[比較例1]
(本発明と公知文献記載の遺伝子増幅反応組成における酸性条件下での遺伝子増幅反応の比較)
市販のDNAポリメラーゼ(商品名:Ex Taq HS、タカラバイオ製)の添付資料に記載の組成をもとに緩衝液のみ2mM NaH2PO4-Na2HPO4(pH6.0)に変更し、PCR反応時の終濃度として、表14に示す比較品1の組成のものをPCR緩衝液とした。PCR緩衝液を5μL、2.5mM dNTPを4μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(1)を各0.4μL、6.4ng/μLのλ―DNAを1μL、Ex Taq HSポリメラーゼを0.25μL添加し、50μLの遺伝子増幅反応液を調製した。PCRの反応温度と時間は、表5に示す条件で実施した。
【実施例14】
【0053】
PCR反応時の終濃度として、表14の実施品38の組成のものをPCR緩衝液とした。PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(1)を各0.4μL、6.4ng/μLのλ―DNAを1μL、Ex Taq HSポリメラーゼを0.25μL添加し、50μLの遺伝子増幅反応液を調製した。PCRの反応温度と時間は、表5に示す条件で実施した。また、表14の実施品39の組成のものをPCR緩衝液とし、PCR緩衝液に、2.5mM dNTPを4μL、0.1% BSAを2.5μL、0.01%、Triton X-100を5μL、10μM フォワードプライマー(1)及びリバースプライマー(2)を各2μL、6.4ng/μLのλ―DNAを1μL、Thermococcus属由来のDNAポリメラーゼを1μL添加し、50μLの遺伝子増幅反応液を調製した。また、PCRの反応温度と時間は、表7に示す条件で実施した。
【0054】
【実施例15】
【0055】
PCR増幅後、比較例1及び実施例16で調製した比較品1及び実施品38、39について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図7のとおり、従来の遺伝子増幅組成では、遺伝子増幅が認められなかったが、緩衝液の種類や塩化カリウム濃度を変えることにより、酸性条件下で遺伝子増幅が認められた。
【実施例16】
【0056】
(Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼにおける酸性条件下での遺伝子増幅反応液中の緩衝液の影響)
PCR反応時の終濃度として、表15に示す組成のものをPCR緩衝液とした。PCR緩衝液2μLに、0.5μg/μL pUC19を1μL、100μM M -13Fプライマー:CAGTCGTCATGCATTGCCTGCTCを2μL、滅菌水を5μL添加した、10μLのテンプレート混合液を調製した。テンプレート混合液を95℃、1分加熱後、30℃まで0.1℃/秒で冷却した。冷却後、PCR緩衝液2μLに、25mM dNTPを0.8μL、100mM DTTを1μL、100U/mL ピロホスファターゼを0.2μL、50μg/mL Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼを2μL、滅菌水を4μL添加した、10μLの反応混合液をテンプレート混合液に添加し、30℃、16時間のPCR反応を行った。
【0057】
【実施例17】
【0058】
PCR増幅後、実施例16で調製した実施品40~44について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図8のとおり、35mM クエン酸-クエン酸ナトリウム pH4.0、35mM クエン酸-クエン酸ナトリウム pH4.5、35mM NaH
2PO
4-NaOH pH5.0及び、35mM NaH
2PO
4-Na
2HPO
4 pH6.0を用いたサンプル(実施品41~44)で、目的遺伝子の増幅が確認され、酸性条件下において室温付近で遺伝子増幅を行うことで、pH4台において酸性条件下でも遺伝子増幅させることができることが認められた。
【実施例18】
【0059】
(Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼにおける酸性条件下での遺伝子増幅反応液中の塩化カリウム濃度の影響)
PCR反応時の終濃度として、表16に示す組成のものをPCR緩衝液とした。PCR緩衝液2μLに、0.5μg/μL pUC19を1μL、100μM M-13Fプライマー:CAGTCGTCATGCATTGCCTGCTCを2μL、滅菌水を5μL添加した、10μLのテンプレート混合液を調製した。テンプレート混合液を95℃、1分加熱後、30℃まで0.1℃/秒で冷却した。冷却後、PCR緩衝液2μLに、25mM dNTPを0.8μL、100mM DTTを1μL、100U/mL ピロホスファターゼを0.2μL、50μg/mL Bacillus subtilisバクテリオファージ由来のDNAポリメラーゼを2μL、滅菌水を4μL添加した、10μLの反応混合液をテンプレート混合液に添加し、30℃、16時間のPCR反応を行った。
【0060】
【実施例19】
【0061】
PCR増幅後、実施例18で調製した実施品45~47について、アガロース電気泳動にて目的遺伝子の増幅を確認したところ、
図9のとおり、PCR反応時の終濃度で75、115、又は、125mM KClを含むPCR緩衝液を用いたサンプル(実施品45~47)において、目的遺伝子の増幅が確認された。
【0062】
以上の結果から、本発明方法における遺伝子増幅反応では、DNAポリメラーゼを用いて、酸性条件下で測定対象の遺伝子を選択的且つ簡便に増幅させることができた。実施例2~7に示されるように、各種DNAポリメラーゼにおいて、緩衝液の種類や該緩衝液と塩化カリウムの濃度を適切な範囲に設定することよって酸性条件下での遺伝子増幅が変化することが分かった。また、実施例8~11及び、実施例18~19に示されるように、反応液中のマグネシウムや塩化カリウム濃度を適切な範囲に設定し、実施例12~13に示されるように、トレハロースを反応液に添加することによっても酸性条件下での遺伝子増幅が変化することが分かった。また、比較例1及び実施例14~15に示されるように、従来の遺伝子増幅条件では、酸性条件下で遺伝子増幅が起こらなかったが、本発明方法に於いて、緩衝液の種類や塩化カリウム濃度を適切な範囲に設定することで、酸性条件下でも遺伝子増幅させることができることが分かった。さらに実施例16~17に示されるように、室温付近で遺伝子増幅を行う場合には、pH4台の酸性条件下でも遺伝子増幅させることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
従来の遺伝子増幅条件では、酸性条件下でDNAポリメラーゼを反応させる具体的な組成や条件が示されていなかった。これに対して、本発明に係る遺伝子増幅法に於いては、酸性条件下で測定対象の遺伝子を増幅させるための適切な緩衝液、各種塩類、添加物等の反応組成及び反応条件を見出し、酸性条件下で測定対象の遺伝子を増幅させることができた。その結果、本発明に係る遺伝子増幅法は、遺伝子増幅反応で産生したプロトンが蓄積しても問題なく反応が進む。その結果、優れた遺伝子検出技術として有用である、ピロリン酸を特異的に認識するピリジルボロン酸を用いた遺伝子検出法等に本発明の遺伝子増幅法で用いた酸性反応液を直ちに利用することが可能である。更に、本発明方法は、蛍光試薬を使用する必要がなくて安価である。
【配列表】