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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】光磁気メモリインターフェース
(51)【国際特許分類】
   G11C 13/06 20060101AFI20241001BHJP
   G11C 11/16 20060101ALI20241001BHJP
   G11C 11/56 20060101ALI20241001BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20241001BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20241001BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20241001BHJP
【FI】
G11C13/06
G11C11/16 100A
G11C11/16 100C
G11C11/16 240
G11C11/56 100
H10B61/00
H01L29/82 Z
H10N50/10 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022553319
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037199
(87)【国際公開番号】W WO2022070325
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】水上 成美
(72)【発明者】
【氏名】深見 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】新田 淳作
(72)【発明者】
【氏名】飯浜 賢志
(72)【発明者】
【氏名】平山 祥郎
(72)【発明者】
【氏名】境 誠司
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/027555(WO,A1)
【文献】特開2012-209382(JP,A)
【文献】特開2009-60057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11C 13/06
G11C 11/16
G11C 11/56
H10B 61/00
H01L 29/82
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁気記録セルが配置されたメモリセル構造体と、前記メモリセル構造体に複数配置されている磁気記録セルを個々にあるいは任意数選択して電気信号を印加可能とする選択手段と、複数配置された任意数の前記磁気記録セルに対し光信号を照射する光照射部を具備し、前記磁気記録セルは前記光照射部からの照射光に応答して自身の磁化状態変化の感度が増大する磁気記録セルであり、前記磁気記録セルは前記光照射部からの照射光に起因し前記選択手段による選択に起因する印加電気信号に応じて自身の磁化状態が変化する磁気記録セルであることを特徴とする光磁気メモリインターフェース。
【請求項2】
前記電気信号の印加による前記磁気記録セルの選択手法が、電圧信号を用いた電圧効果による磁気異方性の減少、電流を用いたスピン注入トルク、スピン軌道トルク、電流を用いた熱的な磁気異方性の減少のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の光磁気メモリインターフェース。
【請求項3】
前記磁化状態変化とは、前記磁気記録セルに設けられている磁性層における磁化の一斉回転、磁区の移動、磁壁の移動、のうち、1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光磁気メモリインターフェース。
【請求項4】
前記磁気記録セルの磁化状態変化に対しエラーレート向上のためのバイアス磁場印加手段を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の光磁気メモリインターフェース。
【請求項5】
前記メモリセル構造体に複数の前記磁気記録セルがマトリクス状に配置されたことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の光磁気メモリインターフェース。
【請求項6】
マトリクス状に配置された前記複数の磁気記録セルのうち、横方向に並ぶ各行毎の磁気記録セルの一側に接続された基準側選択信号線と、縦方向に並ぶ各列毎の磁気記録セルの他側に接続された対向側選択信号線を具備し、前記基準側選択信号線への通電制御と前記対向側選択信号線への通電制御により前記メモリセル構造体の任意の前記磁気記録セルに通電自在としたことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の光磁気メモリインターフェース。
【請求項7】
前記基準側選択信号線と前記対向側選択信号線のうち、前記光照射部に近い側の選択信号線が透明電極線からなることを特徴とする請求項6に記載の光磁気メモリインターフェース。
【請求項8】
トランジスタ付きの磁気抵抗素子を備えた読出手段あるいは前記磁気記録セルに設けられている磁性体の漏れ磁場を検出するセンサーを備えたことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の光磁気メモリインターフェース。
【請求項9】
選択した前記磁気記録セルの磁性層に対し、特定磁区の領域の大きさに応じた信号を書き込む手段と、選択した前記磁気記録セルの磁性層に対し、複数のピン止めサイトに応じた特定磁区の領域の大きに応じた信号を書き込む手段と、選択した前記磁気記録セルの磁性層に対し、多値メモリの大きさに応じた信号を書き込む手段のいずれかを具備したことを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の光磁気メモリインターフェース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光磁気メモリインターフェースに関する。
【背景技術】
【0002】
光信号を記録し光信号として読み出す技術が開発されている。例えば、オックスフォード大学の研究チームは、相変化型光メモリセルを改善し、5ビットに相当する32の状態を記録できる光メモリのプロトタイプを実証できたことを非特許文献1に記載している。この種の光メモリでは、現状、世界最高記録密度とされている。
光信号は電気的情報処理回路でも用いられるため、光信号を電気信号に高速かつ大容量で変換するインターフェースも必要である。そのようなインターフェースが情報処理チップ内にあれば、電子回路が光信号を直接受信できるため、大容量・高速・低電力の信号処理が可能となる。その際、光信号を電気信号に変換し一時的に記録するメモリ型インターフェースの開発が重要である。
【0003】
光信号を電気信号に変換し、一時的に記録するメモリ型インターフェースの一例として、以下の非特許文献2に記載されている如く、チップ間光インターコネクトに用いられ、外部に用意したレーザーで、チップ間の高速情報伝達を達成する技術が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Li et al., Fast and reliable storage using a 5 bit, nonvolatile photonic memory cell, Optica, 6,1 (2019)
【文献】H.Becker et al. Out-of-Plane Focusing Grating Couplers for Silicon Photonics Integration With Optical MRAM Technology, IEEE J. Selected topic in Quan. elec., 26, 8300408 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2に記載された光磁気メモリインターフェースは、フォトダイオードのような光電変換素子を用いることなく、光導波路を伝搬する光信号を磁気トンネル接合の磁化状態へ直接転写し、不揮発に記憶する機能を有する。
しかし、従来の光磁気メモリインターフェースでは、メモリセルのサイズが光の波長あるいはサブ波長に制限されるため、メモリの集積度を高めることが原理的に不可能であり、用途が限定される問題がある。
【0006】
本願発明は、メモリセルのサイズが光の波長あるいはサブ波長に制限されることない構造であり、メモリの集積度を高めることが可能である光磁気メモリインターフェースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の光磁気メモリインターフェースは、複数の磁気記録セルが配置されたメモリセル構造体と、前記メモリセル構造体に複数配置されている磁気記録セルを個々にあるいは任意数選択して電気信号を印加可能とする選択手段と、複数配置された任意数の前記磁気記録セルに対し光信号を照射する光信号照射部を具備し、前記磁気記録セルは前記光信号照射部からの照射光に応答して自身の磁化状態変化の感度が増大する磁気記録セルであり、前記磁気記録セルは前記光信号照射部からの照射光に起因し前記選択手段による選択に起因する印加電気信号に応じて自身の磁化状態が変化する磁気記録セルであることを特徴とする。
【0008】
(2)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、前記電気信号の印加による前記磁気記録セルの選択手法が、電圧信号を用いた電圧効果による磁気異方性の減少、電流を用いたスピン注入トルク、スピン軌道トルク、電流を用いた熱的な磁気異方性の減少のいずれかであることが好ましい。
【0009】
(3)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、前記磁化状態の変化とは、前記磁気記録セルに設けられている磁性層における磁化の一斉回転、磁区の移動、磁壁の移動、のうち、1種または2種以上であることを特徴とする。
(4)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、前記磁気記録セルの磁化状態変化に対しエラーレート向上のためのバイアス磁場印加手段を有することが好ましい。
(5)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、前記メモリセル構造体に複数の前記磁気記録セルがマトリクス状に配置されたことが好ましい。
【0010】
(6)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、マトリクス状に配置された前記複数の磁気記録セルのうち、横方向に並ぶ各行毎の磁気記録セルの一側に接続された基準側選択信号線と、縦方向に並ぶ各列毎の磁気記録セルの他側に接続された対向側選択信号線を具備し、前記基準側選択信号線への通電制御と前記対向側選択信号線への通電制御により前記メモリセル構造の任意の前記磁気記録セルに通電自在としたことが好ましい。
(7)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、前記基準側選択信号線と前記対向側選択信号線のうち、前記光信号照射部に近い側の選択信号線が透明電極線からなることが好ましい。
【0011】
(8)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、トランジスタ付きの磁気抵抗素子を備えた読出手段あるいは前記磁気記録セルに設けられている磁性体の漏れ磁場を検出するセンサーを備えていることが好ましい。
【0012】
(9)本発明の光磁気メモリインターフェースにおいて、選択した前記磁気記録セルの磁性層に対し、特定磁区の領域の大きさに応じた信号を書き込む手段と、選択した前記磁気記録セルの磁性層に対し、複数のピン止めサイトに応じた特定磁区の領域の大きさに応じた信号を書き込む手段と、選択した前記磁気記録セルの磁性層に対し、多値メモリの大きさに応じた信号を書き込む手段のいずれかを具備したことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本形態により、高密度かつ不揮発性でもって光信号を磁化状態に転写し、記憶できる光磁気メモリインターフェースを提供できる。
磁化状態を制御するのは、電圧効果、スピン注入トルクやスピン軌道トルクを含む電流効果、熱効果のいずれかを磁気記録セルの選択のためのアシスト技術として用い、偏光に依存した光書き込み技術を用いて信号を情報として書き込むことができ、その書き込み情報は読み出すことができる。
書き込み情報の読み出しには、磁気抵抗効果や漏れ磁場を磁気センサーで検出する方法を採用できる。
本形態において、磁気記録セルのサイズは光の波長やサブ波長に制限されないため、高集積化が可能であるので、光磁気メモリインターフェースとしての構造を単純化できる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明に係る光磁気メモリインターフェ-スの第1実施形態を示す要部構成の概略図である。
図1B図1Aに示す構成が組み込まれている配線の一例を示す構成図である。
図2A図1Bと同じ配線の一例を示す構成図である。
図2B】同第1実施形態の光磁気メモリインターフェ-スにおける磁気記録セルの構成の一例を示す説明図である。
図3】同磁気記録セルにおいて、電圧効果と光照射により磁化の向きが変わる場合の一例について説明するための図であり、(a)は磁気記録セルの一部に設けられているフリー磁性層において初期状態の磁化の向きを示す説明図、(b)は電圧または電流印加状態におけるフリー磁性層の磁化の向きの一例を示す説明図、(c)は円偏光信号によりフリー磁性層の磁化の面直成分が駆動された結果の一例を示す説明図、(d)は印加電圧または電流をオフにした状態におけるフリー磁性層の磁化の向きを示す説明図である。
図4A】同磁気記録セルにおいて、円偏光パルス照射により磁性体の磁化の向きを駆動する構成に好適な積層構造の一例を示す説明図である。
図4B図4Aに示す積層構造において面内磁場1テスラ、光1パルスエネルギー密度(約1mJ/cm)、パルス幅(約120fs)の条件で得られる極カー回転角(°)と時間(ピコ秒)の関係を示すグラフである。
図5】同磁気記録セルにおいて、電圧信号を用いた電圧効果により磁性体の磁気異方性の変化によるセル選択が可能な積層構造の一例を示す説明図である。
図6】同磁気記録セルにおいて、電流を用いたスピン注入トルクによる磁性体の磁化方向の変化によりセル選択が可能な積層構造の一例を示す説明図である。
図7】同磁気記録セルにおいて、電流を用いたスピン軌道トルクによる磁性体の磁化方向の変化によりセル選択が可能な積層構造の一例を示す説明図である。
図8A】同磁気記録セルにおいて、電流を用いたジュール発熱による磁気異方性の減少によるセル選択が可能な積層構造の一例において待機状態の温度における磁性層の磁化の方向を示す説明図である。
図8B】同積層構造の一例において、加熱時に垂直磁気異方性が減少した状態の磁化の方向を示す説明図である。
図9A】同磁気記録セルにおいて、セル選択に加えてアナログ的にデータを書き込み可能な構造の第1の例を示す説明図であり、磁性層において磁壁を介し左右2つの磁区に分かれている状態を示す説明図である。
図9B】同磁性層に対し電流を流した状態を示す説明図である。
図9C】同磁性層に対し右回り円偏光の照射光を照射した状態を示す説明図である。
図9D】同磁性層において磁壁が移動して左側の磁区が広がった状態を示す説明図である。
図10A】同磁気記録セルにおいて、セル選択に加えてアナログ的にデータを書き込み可能な積層構造の具体例において左回り円偏光のレーザーパルスを入射した状態を示す説明図である。
図10B】同積層構造の具体例において、右回り円偏光のレーザーパルスを入射した状態を示す説明図である。
図11】同磁気記録セルにおいて、セル選択に加えてアナログ的にデータを書き込み可能な積層構造の第2の例を示す説明図である。
図12】前記第2の例においてRH(ホール抵抗)-ICH(チャネル電流)ループを求める場合のICHパルスとRH測定位置を示す説明図である。
図13】前記第2の例において得られるRH-ICHループの一例を示す説明図である。
図14】同磁気記録セルに適用される記録を磁気抵抗効果で読み出し、また電流アシストあるいは電圧アシストする際の回路図を示す説明図である。
図15A図1に示す光磁気メモリインターフェ-スの第1実施形態を組み込んだ光リザーバ計算機の一例を示す説明図である。
図15B図15Aに示す光リザーバ計算機に適用される光磁気メモリインターフェースの一例を示す説明図である。
図16】磁気記録セルに設けられている磁性層の漏れ磁場を検出するためのセンサーの一例を示す説明図である。
図17】磁気記録セルに設けられている磁性層の漏れ磁場を検出するためのセンサーの他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
図1図2は本発明に係る第1実施形態の光磁気メモリインターフェ-スの一例を示すもので、この例の光磁気メモリインターフェースAは、光信号照射部1と該光信号照射部1に対向するように配置されているメモリセル構造体2を具備する。図1Aでは矩形板状の光信号照射部1の下面側の光出射面に対し下方にメモリセル構造体2が配置された例を記載している。
光信号照射部1は光伝送路3から伝送されるパルス状の伝送光などを受け、光信号照射部1に対向するように設けられているメモリセル構造体2の必要な領域に、例えば、スポット状に照射光を出射するものである。光信号照射部1は、面外回折格子結合器の1種として知られるもので、入力した光の光路を変換すると同時に円偏光を発生させることができる素子を用いることができる。
【0016】
光伝送路3から右回り円偏光の照射光と左回り円偏光の照射光を伝送した場合、例えば、右回り偏光の照射光により後述するフリー磁性層が特定の磁化状態となった場合を「1」と定義し、左回り偏光の照射光により後述するフリー磁性層が特定の他の磁化状態となった場合を「0」と定義しておくことができる。ここでは光伝送路3から光信号照射部1を介しメモリセル構造体2に照射する照射光に情報を持たせておくことができる。
上述の定義によれば、「1」と「0」の光信号に応じた情報を連続的にあるいは間欠的に光信号照射部1からメモリセル構造体2の後述するいずれかの磁気記録セルのフリー磁性層に入力して各フリー磁性層の磁気情報を電気信号の情報として記憶することができる。
【0017】
図1Bでは構造を簡略化して示すために、メモリセル構造体2は横方向に並ぶ各行を構成する基準側選択信号線5が複数本(図1では5本)配列され、縦方向に並ぶ各列を構成する対向側選択信号線6が複数本(図1では5本)配列されている。よって、図1に示すメモリセル構造体2は5本の基準側選択信号線5と5本の対向側選択信号線6が平面視マトリクス状に配置された構造を有する。
なお、図1Bの例では5本ずつの基準側選択信号線5と対向側選択信号線6を配置した例を示したが、マイクロチップなどのように集積回路とする場合は、回路の集積度に応じて数1000本~数10万本などのように微細幅の配線を必要本数マトリクス状に配置した構造を採用することができる。
【0018】
基準側選択信号線5と対向側選択信号線6はいずれも図面では略されているデコーダ等の信号線選択器に接続されていて、図示略の電源から、必要に応じて信号線選択器が選択した基準側選択信号線5と対向側選択信号線6に通電自在に構成されている。
図1の例において基準側選択信号線5は金属配線からなり、対向側選択信号線6は透明電極線からなる。このため、光信号照射部1からメモリセル構造体2に対し出射された照射光は対向側選択信号線6を通過して対向側選択信号線6と基準側選択信号線5の間に複数配置されている後述の磁気記録セル8に到達できる。
本実施形態において光信号照射部1は、図1B図2Aに例示するように、基準側選択信号線5と対向側選択信号線6の交差部分の全てにスポット状に光を照射できるように形成されている。なお、光信号照射部1が光を照射できる範囲はこれに限らず、信号線の集積度合い、光信号照射部等に応じてより多くの交差部分に光を照射できるようにしてもよい。また、信号線の配置間隔や本数に合わせて複数の光信号照射部1を設けて光を照射できるように構成しても良い。即ち、光信号照射部1は任意数の磁気記録セル8に対し光信号を照射できるように構成することができる。
【0019】
図1Aに示す光磁気メモリインターフェースAにおいて、基準側選択信号線5と対向側選択信号線6が交差する部分に例えば図2Bに示す積層構造の磁気記録セル8が形成されている。図1Bの構成では5本の基準側選択信号線5と5本の対向側選択信号線6を設けた例を示しているので、これら信号線の交差部分は25箇所設けられ、全ての交差部分に磁気記録セル8が設けられている。このため、本形態の光磁気メモリインターフェースAには磁気記録セル8が複数(25個)配置されている。なお、信号線の交差部分の全てに磁気記録セル8を設ける必要はなく、磁気記録セル8は必要個数設けることができる。
【0020】
磁気記録セル8は、基準側選択信号線5の上にセル選択トランジスタあるいはセル選択ダイオードなどのセル選択素子9と、磁気トンネル接合部10と、光スピン変換層11が積層され、光スピン変換層11上に対向側選択信号線6が形成されている。従って、磁気記録セル8の一側に基準側選択信号線5が接続され、磁気記録セル8の他側に対向側選択信号線6が接続されている。以上の構造により、特定の基準側選択信号線5と特定の対向側選択信号線6に対し通電することにより、マトリクス状に配列された複数の磁気記録セル8のうち、特定の基準側選択信号線5と特定の対向側選択信号線6の交差部分に位置する特定の磁気記録セル8に電圧を印加可能とされている。
【0021】
以上の構成により、図1Bに示すようにマトリクス状に配置された複数の磁気記録セル8のうち、横方向に並ぶ各行毎の各磁気記録セル8の一側に1本の基準側選択信号線5が接続されている。また、縦方向に並ぶ各列毎の各磁気記録セル8の他側に1本の対向側選択信号線6が接続されている。このため、各基準側選択信号線5への通電制御と各対向側選択信号線6への通電制御によりこれらの各交差部分に設けられている磁気記録セル8を任意数選択して通電できるように構成されている。
【0022】
なお、基準側選択信号線5と対向側選択信号線6の間、及び、各磁気記録セル8の周囲には図示略の絶縁層が必要数積層形成されており、基準側選択信号線5と対向側選択信号線6は個々に絶縁されるとともに、隣接する各磁気記録セル8どうしも個々に絶縁されている。なお、セル選択素子9がセル選択トランジスタである場合、各セル選択トランジスタのベースに接続するための制御配線が必要となるが、図2では該当する制御配線の記載を略している。前記制御配線は別途設けられる制御配線選択器に接続され、必要に応じて選択したいずれかのセル選択トランジスタのスイッチングを制御できるように構成されている。
【0023】
磁気トンネル接合部10は例えば固定磁性層12とフリー磁性層13の間にトンネル障壁となる中間層15を介在させた構造を採用できる。この構造により、一例として図3(a)~(d)に示すように電圧方式による磁気記録セル8の選択ができる。
図3(a)に示すように電圧を印加していない初期状態において、フリー磁性層13の磁化容易軸がフリー磁性層13の膜面に対し垂直方向に配向されている。ここで、垂直磁化の向きは例えばフリー磁性層13の膜面に対し垂直上向きとされている。なお、必要に応じてフリー磁性層13の膜面に平行な方向に微弱な磁場(バイアス磁場)を印加しても良い。バイアス磁界はフリー磁性層13の近傍に配置した図示略のバイアス磁界発生層などにより発生させることができる。このバイアス磁界発生層がバイアス磁場印加手段となる。
【0024】
磁気トンネル接合部10に対し基準側選択信号線5と対向側選択信号線6を用いて電圧を印加すると電圧効果によりフリー磁性層13の磁気異方性が消失し、図3(b)に示すようにフリー磁性層13の磁化の向きは回転し、例えば、フリー磁性層13の膜面に対し平行な方向となる。例えば、図3(b)に示すバイアス磁場の向きと同じ方向となる。
なお、磁気トンネル接合部10の構造に応じて、電流の印加による加熱効果で磁気異方性の消失を行うこともできる。
【0025】
次に、図3(c)に示すように円偏光成分を有する照射光(円偏光信号)を光信号照射部1から光スピン変換層11に照射すると、円偏光信号の影響により磁化の向きをフリー磁性層13の膜面方向に対し所定角度で下向きに回転させることができる。換言すると、磁化の面直成分駆動ができる。
この状態から、基準側選択信号線5と対向側選択信号線6による電圧印加をオフにする(解除する)か、あるいは、印加電流をオフにする(解除する)と図3(d)に示すように図3(a)に示した初期状態の場合の垂直磁化の向きと180゜異なる向きの垂直磁化状態にすることができる。即ち、印加電気信号を加えるか除去した磁気記録セル8自身のフリー磁性層13の磁化の向きが変化する。
【0026】
図3(a)~(d)に示すようにフリー磁性層13の磁化の向きを複数の向きに変更できるので、変更前と変更後で、磁気トンネル接合部10は固定磁性層12の磁化に対するフリー磁性層13の磁化の向きに応じて、異なる抵抗状態を得ることができ、それぞれ抵抗値が異なる。このため、フリー磁性層13の磁化の向きに応じた抵抗値を読み取ることで抵抗の高い場合と低い場合を「0」あるいは「1」の情報として記録する情報記録ができることとなる。
なお、一度入力した磁気情報は、電圧印加や電流印加を行わなければそのまま保持されるので、不揮発的な情報となる。
【0027】
図1図2に示す光磁気メモリインターフェースAでは、メモリセル構造体2に右回り円偏光あるいは左回り円偏光の照射光を照射し、書き込みするべき磁気記録セル8に電気信号を与える。すると、磁気記録セル8の磁化状態が先の円偏光の照射光に起因して感度が向上しているので、選択した特定の磁気記録セル8のみのフリー磁性層13の磁化状態を変えることができる。即ち、光照射部1からの照射光に応答し、照射光が当たった磁気記録セル8自身のフリー磁性層13の磁化状態変化の感度が増大する。
磁化状態の変更とは、フリー磁性層13の全体磁化の一斉回転の他、後述する様々な磁区、磁壁の移動、などを適用できる。また、磁区の状態については、フリー磁性層13の全体の磁化が一斉に回転したか否かを「1」、「0」の2種類で表示するのみではなく、後述するように複数の安定状態を有する磁区状態として採用することもできる。
【0028】
また、磁気記録セル8に電圧または電流を付与し、フリー磁性層13の磁区状態を読み出す場合、エラーレート向上のために、図3に示す場合のようにバイアス磁場を印加してもよい。
また、磁気記録セル8のフリー磁性層13に対し磁化の状態を読み出す場合、トランジスタ付き磁気抵抗素子を用いたアレイ(読出手段)を用いて読出しても良い。あるいは、トランジスタセルのないクロスポイントでフリー磁性層13からの漏れ磁界を検知する磁気センサーで読出ししても良い。
【0029】
図4Aは円偏光パルス照射により極カー回転角が変化する積層構造の一例を示す説明図である。例えば、Si(100)/SiO基板17上にMgOからなる非磁性金属層(バリア層)18とFeCo層からなる厚さ2nmのフリー磁性層(強磁性層)19とPtからなる光スピン変換層20が積層されている。一例として、非磁性金属層18の膜厚は2nm、フリー磁性層19の膜厚は1nm、光スピン変換層20の膜厚は5nmを選択できる。
【0030】
図4Aに示す積層構造では、左回りの円偏光あるいは右回りの円偏光をパルス光として照射すると図4Bのグラフに示すように経過時間(ピコ秒)と共に極カー回転角(磁化の面直成分)が変化する。図4Bに示すグラフの変化が得られる条件は、一例として面内磁場:1テスラ、光1パルスエネルギー密度:約1mJ/cm、パルス幅:約120fsである。電圧印加なしの状態で強磁性層からなるフリー磁性層19と非磁性金属層18の2重層において極カー回転角が変化する。
【0031】
図4Bのグラフ上部側に描いた略図に示すように、右回りの円偏光照射によりフリー磁性層19の膜面に対し磁化が斜め上向きの成分を有する磁化を初期状態とし、ここから磁化が時間経過と共に歳差運動がなされる。これに対し、図4Bのグラフ下部側に描いた略図に示すように左回りの円偏光照射によりフリー磁性層19の膜面に対し磁化が斜め下向きの成分を有する磁化を初期状態とし、ここから時間経過とともに磁化の歳差運動がなされる。
【0032】
図4Bはフリー磁性層19と非磁性金属層18の2重層に対し、円偏光性の異なるヘリシティを持つ円偏光パルスを所定時間照射することにより励起される典型的な磁化歳差を生じることを示す。
図4(a)に示す積層構造を図2に示す磁気トンネル接合部10に適用することで、先の図3(c)に示した左回り円偏光あるいは右回り円偏光の照射光による磁化の面直成分駆動が可能となる。
【0033】
図1図4を基に説明した例では、磁気記録セル8の選択手段としてセル選択トランジスタあるいはセル選択ダイオードなどの選択素子9を用いたが、選択素子9として、以下に説明する種々の現象を利用した選択素子を用いても良い。
図5に示す構成は、不図示のMgO(001)基板上に、厚さ3nmの不図示のMgO層と厚さ30nmのクロム層25と厚さ0.8nmのFe層26と厚さ2.3nmのMgO層27と厚さ10nmのFe層(超薄膜Fe層)28を積層した構造の素子を示す。
この素子は、超薄膜Fe層を有するMgOベーストンネル接合(MTJ)素子として知られ、垂直異方性において大きな電圧誘起変化を起こすことが知られている。
よって、図5に示す積層構造を有する素子を利用することで、電圧信号により磁気異方性を減少させるような電圧誘起変化を磁気記録セル8の選択手法として利用することができる。
【0034】
図6に示す構成は、磁気トンネル接合(MTJ)を利用したスイッチングデバイスの一例として知られている。バリア層30を固定磁性層31とフリー磁性層32でサンドイッチした構造に対し、フリー磁性層32側にビット配線33を接続し、固定磁性層31側に選択トランジスタ35を介しソース配線36を接続し、選択トランジスタ35のベースにはワード配線37が接続されている。
積層構造の一例として、SiO基板/Ta(5)/Ru(10)/Ta(5)/CoFeB(1.0)/MgO(0.85)/CoFeB(1.7)/Ta(5)/Ru(5)/Cr/Auの積層構造(数値は膜厚:単位nm)を例示できる。
【0035】
初期状態でフリー磁性層32の磁化の向きは固定磁性層31の磁化の向きの影響を受けて膜面方向に揃えられているが、電流を流すことでフリー磁性層32の磁化にSTT(スピントランスファートルク)をかけることができ、しきい値を超えるとフリー磁性層32の磁化の向きを変えることができる。この現象を利用し、右回りの円偏光あるいは左回り円偏光が照射される際に磁化方向を少し変動することができ、円偏光による磁化反転を容易にできる。よって、図6に示す構造を有する素子を利用することで、電流を用いたスピン注入トルクを磁気記録セル8の選択手法として利用することができる。
【0036】
図7に示す構成は、スピン軌道トルク誘起スイッチングデバイスとして知られる構造であり、Taチャネル40に印加される電流を利用し、スピン軌道相互作用を利用して隣接する積層体41内のフリー磁性層に作用するスピン軌道トルク(SOT)を生成し、磁化を切り換えることができる。
Taチャネル及び積層構造の一例として、Ta(10)/CoFeB(1.46)/MgO(1.8)/CoFeB(1.5)/Co(0.8)/Ru(0.92)/Co(2.7)/Ru(5)の積層構造(数値は膜厚nmを示す)を例示できる。
【0037】
図7に示す構成では、磁化容易軸の方向として積層体の膜面方向のX方向とY方向及び膜面の厚さ方向としてのZ方向のいずれかを選択することができる。例えば、Z方向に磁化容易軸を配向した構造において、Taチャネル40に電流を流すことにより、スピン軌道トルク(SOT)を生成させて、積層体41に設けられているフリー磁性層の磁化の向きを変更することができる。
【0038】
Taチャネル40の両端にそれぞれ選択トランジスタTr、Trを配置し、両方のトランジスタのベースをワード配線WLに接続し、積層体41の上部を読み出し側ビット配線RBLに接続し、両方のトランジスタの他の端子を書き込み用ビット配線WBLに接続することで回路を構成し、スイッチングデバイスを構成できる。
よって、図7に示す構造を有する素子を利用することで、右回り円偏光あるいは左回り円偏光が照射される際に磁化方向を少し変動することができ、円偏光による磁化反転を容易にできるため、電流によるスピン軌道トルクを磁気記録セル8の選択手法として利用することができる。
【0039】
図8A図8Bは、垂直磁気トンネル接合を用いて電流により熱的に誘起される磁気異方性の減少を用いたスイッチングデバイスの構成例を示す。
図8Aにおいて磁気トンネル接合(MTJ)構造は、シード層/SAF層/MgOバリア層/フリー磁性層/キャップ層構造を採用できる。SAF層は、一例として、Ta(3)/Pt(5)/[Co(0.5)/Pt(0.4)]x5/Co(0.5)/Ru(0.9)/[Co(0.5)/Pt(0.4)]x3/Co60Fe2020(1.5)の積層構造(数値は膜厚nmを示す)を採用できる。フリー磁性層は、一例として、Co60Fe2020(1.2)/[Pd(1.2)/Co(0.3)]x3の積層構造を採用できる。図8ではSAF層(反強磁性接合層)42とMgOバリア層43とフリー磁性層44にモデル化して簡略記載している。
【0040】
図8Aに示すように待機状態の温度において大きなPMA(垂直磁気異方性)を示すが、電流が流れ加熱されるとTIAR(thermally induced anisotropy reorientation)の影響を受けて図8Bに示すようにPMAが減少し、フリー磁性層44の磁化が面内を向く。この状態で右回り円偏光あるいは左回り円偏光が照射されることで、電圧印加と同様のプロセスで円偏光による磁化反転ができる。
よって、図8A図8Bに示す構造を有する素子を磁気記録セル8の選択手法として利用することができる。
【0041】
図9図10は、先に説明したフリー磁性層13における磁化の一斉回転による磁化状態の変更ではなく、電流方式による磁壁の移動を磁化状態の変化として利用する例について示す説明図である。
図9図10は磁性層などをワイヤ状に積層した磁気ワイヤのフリー磁性層45において、電流の印加により磁壁45Aの移動が可能な構造を示すもので、磁気ワイヤのフリー磁性層45は図9Aに示す如く左右2つの磁区46、47を有している。
磁気ワイヤの一例構成として、ガラス基板上に形成した、Ta(3nm)/Pt(5nm)/Co(0.3nm)/Ni(0.6nm)/Co(0.3nm)/Pt(2nm)の6層を有する積層構造(数値は膜厚を示す)からなる磁気ワイヤを適用することができる。
【0042】
この磁気ワイヤのフリー磁性層45に対し長さ方向(図9Aの左右方向)に図9Bに示すように電流を流し、磁気ワイヤのフリー磁性層45を電流加熱する。この電流加熱によって、磁気ワイヤのフリー磁性層45において磁壁の移動を止めているエネルギー障壁を低下することができる。ただし、磁気ワイヤのフリー磁性層45に対し電流を流すのみでは磁壁が移動するわけではない。磁気ワイヤのフリー磁性層45では、例えば、35 Oeの保磁力(Hc)と770emu/cmの飽和磁化(Ms)を示す。
【0043】
ここで、電流加熱を続けながら磁気ワイヤの表面のPtからなる表面層に右回り円偏光のレーザーパルス光を図9Cに示すように照射すると熱スピン流ドラックによる磁壁移動が生じるので、左側の磁区46が拡張し、右側の磁区47が縮小する。次に、図9Dに示すように電流をオフにすると、磁壁45Aの移動が停止し、図9Dに示すように左側の磁区46が拡張し、右側の磁区47が縮小した状態が得られる。
なお、同様な条件で磁気ワイヤの表面に左円偏光のレーザーパルス光を照射すると熱スピン流ドラックによる磁壁移動が図9の場合と反対側に生じ、図9Dに示す場合と反対に左側の磁区46が縮小し、右側の磁区47を拡張した状態が得られる。このように右回り円偏光と左回り円偏光を使い分けることで磁壁45Aの移動を右側に調整するかあるいは左側に調整できる。
【0044】
図10AにTa/Pt/Co/Ni/Co/Ptの6層構造の積層体48を示す。積層体48の上面に左回り円偏光のレーザーパルス光を照射した場合の磁壁移動の状態を模式的に示す。図10Bに右回り円偏光のレーザーパルス光を照射した場合の磁壁移動時の状態を示す。適切なレーザーパルス光と電流印加を選択することで、磁壁の移動が可能となる。
この磁壁移動をフリー磁性層の磁化状態変化として先の実施形態と同様に利用することができる。なお、図9図10に示す構造によれば、円偏光の照射条件と電流の印加条件を調整すると磁壁の移動量を制御することができる。このことは、磁気記録セル8の選択のみならず、アナログ的な情報の書き込みができることを意味する。
【0045】
図11は、反強磁性体層50の上にフリー磁性層51を積層することで、フリー磁性層51に複数のピン止めサイトを導入した積層構造の概要を示す説明図である。図11ではフリー磁性層51が2つの特定磁区52、53に分かれ、その境界に磁壁51Aが形成されている。
詳細な積層構造の一例として、Ta(3)/Pt(4)/PtMn(tPtMn)/[Co(0.3)/Ni(0.6)]/Co(0.3)/MgO(1.2)/Ta(2)で示される積層構造(数値は膜厚(単位:nm)を示す)を適用することができる。この構造では反強磁性体層50がPtMn、フリー磁性層51がMgOからなる。
【0046】
図11に示す積層構造では、図9(c)に示す場合と同様に右回り円偏光の照射光を照射しても磁壁はピン止めされていて移動しない。ここで電流を印加し、SOT(スピン軌道トルク)アシスト電流あるいはSTT(スピントランスファートルク)アシスト電流を付加した場合に磁気記録セル8に相当するフリー磁性層51のみ磁壁51Aが移動する。
磁壁51Aが移動することで、特定磁区52、53の領域が拡張するか縮小する。
【0047】
図13に上述の積層構造により得られる特性の一例を示す。図12に示すように最初に大きさがIINTの初期パルスを積層構造に加え、0.5秒後の持続時間と種々の大きさのICHパルスのシーケンスを適用し、各パルス印加後のRHを測定する。この場合、垂直磁化は電流誘起トルクと円偏光レーザーの照射によってのみ反転するとともに、ループの中間点におけるRHは、IMAXとともに徐々に変化する。
この結果が得られることは、図11の構造では、磁気記録セル8の選択のみならず、多値メモリとしてアナログ的な情報の書き込みができることを意味する。
また、図11に示す構造を採用した場合、光信号を多値的に記録することができ、例えば、脳型情報処理インターフェースへの適用も可能となる。
【0048】
ところで、これまで説明した例では、複数本の基準側選択信号線5と複数本の対向側選択信号線6の交差部分の全てに同じ構造の磁気記録セルを設けた例について説明した。しかし、複数本の基準側選択信号線5と複数本の対向側選択信号線6の交差部分に対し、複数の異なる構成の磁気記録セルを適用しても良い。
例えば、図2図3に示す構成を適用した磁気記録セル8と、図4Aに示す構成を適用した磁気記録セルと、図5に示す積層構造を適用した磁気記録セルと、図6に示す積層構造を適用した磁気記録セルと、図7に示す積層構造を適用した磁気記録セルと、図8に示す積層構造を適用した磁気記録セルと、図9に示す積層構造を適用した磁気記録セルと、図10に示す積層構造を適用した磁気記録セルと、図11に示す積層構造を適用した磁気記録セルのうち、2種以上を選択して交差部分に適用しても良い。
2種以上の磁気記録セルを適用する場合、複数の光照射部1を設けて各照射部1が光信号を照射する領域毎に特定の磁気記録セル設けても良いし、1つの光照射部1が光信号を照射する領域に2種以上の磁気記録セルを適用しても良い。
【0049】
図14は、本形態の光磁気メモリインターフェースに適用可能なメモリの主要部を示す回路図である。
図14の回路図では、符号111で示す磁気トンネル接合部と選択トランジスタTrとからなる複数のメモリセル153が例えば縦横に行列状に複数個配置されている。図14に示す回路に組み込まれている磁気トンネル接合部111として先の実施形態で示した円偏光信号により磁化状態変化の感度が増大する磁気トンネル接合部を適用する。
図14の回路において同じ列に属するメモリセル153の一端子は同一のビット線132と接続され、他端子は同一のビット線142と接続されている。同じ行に属するメモリセル153の選択トランジスタTrのゲート電極(ワード線)139は相互に接続され、さらにロウデコーダ151と接続されている。
【0050】
ビット線132は、トランジスタ等のスイッチ回路154を介して電流ソース/シンク回路155と接続されている。また、ビット線142は、トランジスタ等のスイッチ回路156を介して電流ソース/シンク回路157と接続されている。電流ソース/シンク回路155、157は、書き込み電流を、接続されたビット線132、142に供給したり、接続されたビット線132、142から引き抜くことができる。
【0051】
ビット線142は、また、読み出し回路152と接続されている。読み出し回路152は、ビット線132と接続されていてもよい。読み出し回路152は、読み出し電流回路、センスアンプ等を含んでいる。
書き込みの際、書き込み対象のメモリセルと接続されたスイッチ回路154、156および選択トランジスタTrがオンされることにより、対象のメモリセルを介する電流経路が形成される。そして、電流ソース/シンク回路155 、157のうち、書き込まれるべき情報に応じて、一方が電流ソースとして機能し、他方が電流シンクとして機能する。この結果、書き込まれるべき情報に応じた方向に書き込み電流が流れる。
【0052】
書き込み速度としては、円偏光信号と同期して数ナノ秒から数マイクロ秒までのパルス幅を有する電流でスピン注入によるセル選択を行い、電流アシストの円偏光信号書き込みを行うことが可能である。その際、スピン注入ではなく、電流ジュール発熱による磁気異方性の減少や、スピン軌道トルク効果でも良い。また、電流ソース・シンクではなく、電圧信号のソース・シンクによる電圧効果による磁気異方性の減少も用いることができる。
読み出しの際、書き込みと同様にして指定されたMR素子(磁気抵抗素子)に、読み出し電流回路によって磁化反転を起こさない程度の小さな読み出し電流が供給される。そして、読み出し回路152は、MR素子(磁気抵抗素子)の磁化の状態に応じた抵抗値に起因する電流値あるいは電圧値を、参照値と比較することで、その抵抗状態を判定する。
【0053】
図14に示す回路を有するメモリを適用することで、照射する円偏光のヘリシティに応じた信号を電流ないし電圧によって選択されたセルの磁気状態に高速転写し記憶できるとともに、それを読み出すことができる磁気メモリインターフェースを提供できる効果がある。
【0054】
図15Aは、図1図2に示す構成の光磁気メモリインターフェースAを適用することができる光リザーバコンピューティングシステムCの一例を示すもので、この光リザーバコンピューティングシステムCは、生物脳の機能の一部を模倣した装置である。
例えば、多層的な構造を持つディープニューラルネットワークを使った深層学習によって物体認識を行う技術が研究されている。ニューラルネットワークでは、各ノード(神経細胞に相当)において、そのノードに入力された信号に重み付けを行い、適当な非線形関数を通して出力し、次のノードに伝搬させる。この重み付けを入力信号に対して適切な信号に変更することが学習に相当する。
【0055】
リザーバコンピューティングシステムは、中間層では重み付けを変更せず、出力層のみで重み付けを変更することで学習を行う。このリザーバコンピューティングを光回路で実施することで電子回路を超える高速かつ低電力での演算処理を行うものが、図15Aに示す光リザーバコンピューティングシステムCである。
【0056】
光リザーバコンピューティングシステムCは、光信号入力手段60と光変調器61と光入力層62とリザーバ層63と受信機64と出力層65を備える。
光変調器61に設けられている光路に入力された光に、光信号入力手段60からの変調光を多重化し、光フィルタ機能を有する入力層62で電子回路では困難な超高速、低消費電力処理を行うことができる。続いてリザーバ層63で多種多様な信号生成を非線形素子を入れた単純な光ループ回路で実現する。この結果得られた光信号を受信機64から電気回路65に電気信号として入力し、記録することにより、情報の記録と保存ができる。
【0057】
光リザーバコンピューティングシステムCにおいて、受信機64で受信された光信号は電気信号に変換され電気回路である出力層65に送られ重みづけ学習される。これら受信機64と出力層65の部分に図1図2に示す構成と同等構成の図15Bに示す光磁気メモリインターフェースAを適用することができる。
光リザーバコンピューティングシステムCに光磁気メモリインターフェースAを適用することにより、脳機能の学習の一部とその結果を記憶できるという効果の性能を各段に高速化できる。従って、高速の脳情報処理インターフェースへの適用ができることになる。
【0058】
図16は先に説明したいずれかの磁気記録セルに設けられている磁性体(フリー磁性層)の漏れ磁場を検出するためのセンサーの一例を示す説明図である。
図16に示す磁気センサー70は、フリー磁性層(強磁性薄膜)71とトンネル層(絶縁体薄膜)72と固定磁性層(強磁性体層)73を積層した薄膜積層型TMR(トンネル磁気抵抗効果)磁気センサーである。トンネル層72は、電子がトンネルできる厚さ数nm程度の極薄絶縁体薄膜である。トンネル層72はMgO薄膜などからなり、該トンネル層の両側にCoFeB層を配した積層構造などを採用できる。
【0059】
固定磁性層73における固定磁化の向きが符号74に示すように膜面内の一方向に固定され、これに対しフリー磁性層71の磁化の向きが影響を受けて図16の実線矢印の向きに拘束されている。これに対し、信号磁界(漏れ磁界)が印加されると、信号磁界の向きにより影響を受けてフリー磁性層71の磁化の向きが鎖線矢印に示すように所定角度回転する。固定磁性層73からフリー磁性層71側に電流を流すと磁化方向の相対角度差に応じて電気抵抗値が変わるので、磁気センサーとして利用することができる。
先に説明した複数の磁気記録セルを設けた光磁気メモリインターフェースAに磁気センサー70を適用するには、例えば、マトリクス状に配置されている磁気記録コアに対し、1対1対応になるように複数の磁気センサー70を基板上に配列して設け、1つ1つの磁気センサー70により各磁気記録コアの磁気情報を読み出すことができる。
【0060】
図17は先に説明したいずれかの磁気記録セルに設けられている磁性体(フリー磁性層)の漏れ磁場を検出するためのセンサーの他の例を示す説明図である。
図17に示す磁気センサー75は、軟磁性ヨーク薄膜76とナノグラニュラーTMR薄膜77と軟磁性ヨーク薄膜78を電流を流す方向に沿って順次配列した構造を有する。矩形状軟磁性ヨーク薄膜76、78の中央ギャップ部にナノグラニュラーTMR薄膜77が配置されている。
ナノグラニュラーTMR薄膜77は、一例として、磁性金属と酸化物またはフッ化物等の絶縁体からなる複層薄膜であり、直径数nmの磁性体金属微粒子が絶縁体中に孤立分散されている構造を有する。一例として、(Co・Fe)-MgF系において(Co・Fe)の金属量が25~45at%の範囲で大きな磁気抵抗変化率が得られる。
【0061】
軟磁性ヨーク薄膜76には磁界中熱処理により通電方向に対し直角に一軸磁気異方性が付与されている。外部から通電方向に平行に信号磁界が印加されると、軟磁性ヨーク薄膜76の磁化は磁界方向に回転し、磁束が発生する。この磁束はギャップ部に導かれナノグラニュラーTMR薄膜77に磁界が印加されギャップ部の電気抵抗が変化するので、この電気抵抗変化を読み取ることでセンサーとして機能させることができる。
先に説明した複数の磁気記録セルを設けた光磁気メモリインターフェースAに磁気センサー75を適用するには、例えば、マトリクス状に配置されている磁気記録コアに対し、1対1対応になるように複数の磁気センサー75を基板上に配列して設け、1つ1つの磁気センサー75により各磁気記録コアの磁気情報を読み出すことができる。
なお、本形態の光磁気メモリインターフェースAに適用できる漏れ磁場読取用のセンサーは、図16図17に示す構造に限るものではなく、漏れ磁場を検出できる公知のセンサーであれば、いずれの構成を適用しても良いのは勿論である
【符号の説明】
【0062】
A…光磁気メモリインターフェース、1…光照射部、2…メモリセル構造体、
3…光伝送路、5…基準側選択信号線、6…対向側選択信号線、8…磁気記録セル、9…セル選択素子、10…磁気トンネル接合部、11…光スピン変換層、
12…固定磁性層、13…フリー磁性層、15…中間層、17…基板、
18…非磁性金属層、19…フリー磁性層、20…光スピン変換層、
30…バリア層、31…固定磁性層、32…フリー磁性層
42…SAF層(反強磁性接合層)、43…バリア層、44…フリー磁性層、
45…フリー磁性層、45A…磁壁、46、47…磁区、
50…反強磁性体層、51…フリー磁性層、52、53…特定磁区、
C…光リザーバコンピューティングシステム、60…光信号入力手段、61…光変調器、62…光入力層、63…リザーバ層、64…受信機、65…出力層、
70、75…磁気センサー、111…磁気トンネル接合部、Tr…トランジスタ。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17