(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】故障予兆検知方法、故障予兆検知装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
G05B23/02 R
(21)【出願番号】P 2020182935
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【氏名又は名称】坪内 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 譲二
(72)【発明者】
【氏名】西山 薫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 久尚
(72)【発明者】
【氏名】河原 吉伸
(72)【発明者】
【氏名】武石 直也
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-139375(JP,A)
【文献】特開2019-190891(JP,A)
【文献】特開2020-035042(JP,A)
【文献】特開2018-010636(JP,A)
【文献】特開2020-144619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得ステップと、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類ステップと、を含み、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別
し、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって最も多く区分された既知の故障の割合が所定の閾値以下である場合に、前記ばらつきが大きいとする、故障予兆検知方法。
【請求項2】
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得ステップと、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類ステップと、を含み、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別
し、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障の確率分布のエントロピーが所定の閾値より大きい場合に、前記ばらつきが大きいとする、故障予兆検知方法。
【請求項3】
前記故障予兆分類ステップは、一定期間内に前記設備の複数の故障予兆が検知された場合に、
前記複数の故障予兆のそれぞれについて、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に未知の故障と判別し、
前記複数の故障予兆の半数以上が未知の故障と判別された場合に、最終的な分類結果を未知の故障とする、請求項
1又は2に記載の故障予兆検知方法。
【請求項4】
前記検出値データの次元を削減し、再構成誤差が生じることによって、前記設備の故障予兆が検知されたとする故障予兆検知ステップを含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の故障予兆検知方法。
【請求項5】
前記複数の分類器を融合させた学習モデルを機械学習によって生成する学習モデル生成ステップを含み、
前記学習モデル生成ステップは、過去の前記検出値データに基づく入力データと、前記入力データに対応する既知の故障がラベル付けされた出力データと、を含む訓練データを用いて、前記複数の分類器を生成する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の故障予兆検知方法。
【請求項6】
前記複数の分類器は複数の決定木であって、前記機械学習はランダムフォレストである、請求項
5に記載の故障予兆検知方法。
【請求項7】
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得部と、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類部と、を備え、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類部は、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別
し、
前記故障予兆分類部は、前記複数の分類器によって最も多く区分された既知の故障の割合が所定の閾値以下である場合に、前記ばらつきが大きいとする、故障予兆検知装置。
【請求項8】
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得部と、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類部と、を備え、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類部は、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別
し、
前記故障予兆分類部は、前記複数の分類器によって区分された既知の故障の確率分布のエントロピーが所定の閾値より大きい場合に、前記ばらつきが大きいとする、故障予兆検知装置。
【請求項9】
コンピュータに、
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得ステップと、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類ステップと、を実行させ、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別
し、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって最も多く区分された既知の故障の割合が所定の閾値以下である場合に、前記ばらつきが大きいとする、プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得ステップと、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類ステップと、を実行させ、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別
し、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障の確率分布のエントロピーが所定の閾値より大きい場合に、前記ばらつきが大きいとする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、故障予兆検知方法、故障予兆検知装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
設備の保全の手法として予知保全が近年注目されている。予知保全は、設備に取り付けられたセンサ情報から設備の状態を監視し、そのセンサ情報から設備の故障予兆を事前に把握して保全を行う状態基準保全(Condition Based Maintenance)である。
【0003】
設備の故障予兆を把握するために機械学習の手法が用いられることがある。例えば、特許文献1は、ランダムフォレストで回帰式を作って正常部分の予測モデルを作り、予測モデルと予測値の乖離をみて、故障の予兆を検知することを開示する。特許文献2は、異常の予測に有効な特徴量を選択するアルゴリズムとしてランダムフォレストを用いることを開示する。特許文献3は、故障の予兆の予測モデルの生成にランダムフォレストを利用し、追加学習して予測モデルを随時更新していくことを開示する。また、非特許文献1は、ランダムフォレストの決定木の出力の分布をラベルの分布の推定値とすることについて言及する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-5393号公報
【文献】特開2018-116545号公報
【文献】特開2019-28565号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. D. Malley et al., “Probability Machines: Consistent Probability Estimation Using Nonparametric Learning Machines” Methods Inf Med. 2012 Jan 10; 51(1): 74-81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
設備の故障予兆を検知する際に、故障内容(既知の故障のいずれか)を推定して分類することは、効率的な保全作業の実施に役立つ。しかし、学習されていない未知の故障が生じた場合に、誤って分類された故障内容が提示されると、かえって保全作業を遅らせるおそれがある。
【0007】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、未知の故障を高精度に判別可能な故障予兆検知方法、故障予兆検知装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る故障予兆検知方法は、
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得ステップと、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類ステップと、を含み、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別する。
【0009】
一実施形態に係る故障予兆検知装置は、
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得部と、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類部と、を備え、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類部は、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別する。
【0010】
一実施形態に係るプログラムは、
コンピュータに、
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得ステップと、
前記検出値データに基づいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を分類する故障予兆分類ステップと、を実行させ、
前記複数の分類器のそれぞれは、検知された前記故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行い、
前記故障予兆分類ステップは、前記複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、前記故障予兆を未知の故障と判別する。
【0011】
また、一実施形態に係る故障予兆検知方法は、
設備に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する取得ステップと、
前記検出値データの次元を削減し、再構成誤差が生じることによって、前記設備の故障予兆が検知されたとする故障予兆検知ステップと、
前記故障予兆検知ステップにおいて前記設備の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された前記故障予兆を未知の故障又は既知の故障のいずれかと判別する故障予兆分類ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、未知の故障を高精度に判別可能な故障予兆検知方法、故障予兆検知装置及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る故障予兆検知装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、分類器の生成方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、故障予兆の分類の概略を説明するための図である。
【
図4】
図4は、故障予兆の分類の第1の手法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、故障予兆の分類の第2の手法を説明するための図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る故障予兆検知方法を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る故障予兆検知方法のROC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(故障予兆検知装置)
図1は、一実施形態に係る故障予兆検知装置10の概略構成を示す機能ブロック図である。故障予兆検知装置10は、設備20の予知保全を行う装置であって、設備20の故障予兆を検知して、その故障予兆を未知の故障又は既知の故障のいずれかと判別する。本実施形態において、故障予兆検知装置10は、設備20と通信することによって、設備20に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する。また、故障予兆検知装置10は、設備20とともに故障予兆検知システム1を構成する。ここで、別の例として、故障予兆検知装置10は、設備20に組み込まれて、設備20と一体化した構成であってよい。故障予兆検知装置10は、検知した設備20の故障予兆及びその分類を例えば故障予兆検知システム1の管理者に示す。故障予兆検知システム1の管理者は、故障予兆検知装置10によって示された情報を用いて、設備20の保全作業を効率的に実施することができる。
【0015】
設備20は、例えば機械、装置、電子機器、計器などであってよい。本実施形態において、設備20は燃料電池装置であるが、これに限定されない。
【0016】
本実施形態において、設備20である燃料電池装置は、水素と酸素との化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換する発電設備である。
【0017】
故障予兆検知装置10は、取得部11と、故障予兆検知部12と、故障予兆分類部13と、学習モデル生成部14と、記憶部15と、表示部16と、を備える。ここで、
図1の故障予兆検知装置10の構成は一例であり、構成要素の一部を含まなくてよい。また、故障予兆検知装置10は別の構成要素を備えてよい。例えば故障予兆検知装置10は、学習モデル生成部14を備えずに、別の装置で生成された学習モデルを、取得部11を介して取得して、記憶部15に記憶する構成であってよい。また、例えば故障予兆検知装置10は、表示部16を備えずに、学習モデル生成部14が、検知した設備20の故障予兆及びその分類を、故障予兆検知装置10の外部の表示装置に表示させる構成であってよい。
【0018】
本実施形態において、故障予兆検知装置10が実行する処理は、「学習フェーズ」と「推定フェーズ」とに分けることができる。故障予兆検知装置10は、学習フェーズにおいて、過去の設備20のセンサの検出値を取得し、既知の故障がラベル付けされた訓練データを用いて、学習モデルを機械学習によって生成する。故障予兆検知装置10は、推定フェーズにおいて、稼働する設備20のセンサの検出値を取得し、学習済みの学習モデルを用いて、設備20の故障予兆を検出する(故障の発生を推定する)。また、故障予兆検知装置10は、推定フェーズにおいて、その故障予兆を未知の故障又は既知の故障のいずれかと判別する(発生する故障内容を推定する)。
【0019】
ここで、学習フェーズにおいて取得される「過去の」設備20のセンサの検出値は、設備20における故障の発生の有無及び発生した故障内容が特定されており、訓練データのために使用できるものであることを意味する。
【0020】
取得部11は、設備20に設けられたセンサの検出値を含む検出値データを取得する。取得部11は、設備20との通信の手法として、有線通信及び無線通信の少なくとも一方を用いて、検出値データを取得してよい。
【0021】
故障予兆検知部12は、取得された検出値データに基づいて、設備20の故障予兆を検知する。本実施形態において、故障予兆検知部12は、検出値データの次元を削減し、再構成誤差を計算し、再構成誤差を変化点情報として扱う。つまり、故障予兆検知部12は、再構成誤差が生じることによって、設備20の故障予兆が検知されたとする。
【0022】
次元の削減の手法は、本実施形態においてPCA(principal component analysis、主成分分析)であるが、これに限定されない。次元の削減の手法は、例えばMDS(multi-dimensional scaling、多次元尺度構成法)、CCA(canonical correlation analysis、正準相関分析)、SOM(self-organizing map、自己組織化マップ)、ベクトル量子化法、AE(autoencoder、自己符号化器)、t-SNE又はUMAPであってよい。次元を削減することによって、いわゆる次元の呪いを回避することができる。
【0023】
再構成誤差は、本実施形態において式(1)で示される。
【0024】
【0025】
式(1)において、設備20におけるセンサ数(すなわち元の次元数)をn、削減後の次元数をmとすると、W(∈Rn×m)は、訓練データの分散共分散行列の上位m個の固有値に対する固有ベクトルを並べた射影行列である。y(∈Rn)は取得された検出値である。yは訓練データの平均値及び標準偏差を用いて標準化される。ここで、訓練データは、後述する複数の分類器を生成するために用いられるデータである。
【0026】
故障予兆分類部13は、推定フェーズにおいて、検出値データに基づいて設備20の故障予兆が検知された場合に、複数の分類器の決定を用いて、検知された故障予兆を分類する。複数の分類器のそれぞれは、検知された故障予兆を既知の故障のいずれかに区分する決定を行う。故障予兆分類部13は、複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、故障予兆を未知の故障と判別する。故障予兆を未知の故障又は既知の故障のいずれかと判別する方法の詳細については後述する。
【0027】
学習モデル生成部14は、学習フェーズにおいて、複数の分類器を融合させた学習モデルを機械学習によって生成する。複数の分類器のそれぞれは、訓練データの一部だけを用いて生成される。そのため、各分類器は精度が高くない弱分類器であるが過学習を抑制できる。複数の分類器は、アンサンブル学習によって、予測の精度を高めることが可能である。本実施形態において、複数の分類器が複数の決定木であって、機械学習はランダムフォレストである。ランダムフォレストでは、通常、複数の決定木の結果を多数決によって選択することによって分類を実行する。
【0028】
ここで、機械学習の手法は、ランダムフォレストに限定されず、例えばSVM(support vector machine、サポートベクターマシン)、One Class SVM、ロジスティック回帰又は勾配ブースティングであってよい。学習モデル生成の詳細については後述する。
【0029】
記憶部15は、各種の情報を記憶するメモリとしての機能を有してよい。記憶部15は、例えば故障予兆検知装置10において実行されるプログラム、及び、故障予兆検知装置10において実行された処理の結果などを記憶してよい。また、記憶部15は、故障予兆検知装置10のワークメモリとして機能してよい。記憶部15は、例えば半導体メモリ等により構成することができるが、これに限定されず、任意の記憶装置とすることができる。例えば、記憶部15は、故障予兆検知装置10が備えるプロセッサの内部メモリであってよいし、故障予兆検知装置10に接続される外部の記憶装置であってよい。
【0030】
記憶部15は、学習モデル生成部14によって生成された、複数の分類器を融合させた学習モデルを記憶してよい。
【0031】
表示部16は、推定フェーズにおいて、学習モデルを用いて推定された結果、すなわち検知した設備20の故障予兆及びその分類を、例えば故障予兆検知システム1の管理者に示す。表示部16は、例えばLCD(liquid crystal display)のような各種のディスプレイであってよい。
【0032】
(学習モデル生成方法)
図2は、分類器の生成方法を説明するフローチャートである。上記のように、本実施形態における学習モデルは、複数の分類器を融合させることによって得られる。故障予兆検知装置10は、学習フェーズにおいて、
図2に示される学習モデル生成方法を実行する。
【0033】
故障予兆検知装置10の取得部11は、過去の検出値データを取得する(ステップS1)。過去の検出値は、一例として、燃料電池装置に設けられた63個のセンサから得られた過去の3カ月分の検出値である。過去の検出値については、それぞれの検出時における、燃料電池装置の故障発生の有無及び発生した故障内容が特定されている。特定された故障内容すなわち既知の故障は、例えば燃料電池の場合、燃料、空気又は改質水の流量が通常の流量値よりもずれていること、ラジエータの冷却異常、脱硫剤破過並びにセルスタックの改質ガス漏れが挙げられる。
【0034】
故障予兆検知装置10の故障予兆検知部12は、上記の式(1)で示される再構成誤差を計算する(ステップS2)。ここで、故障予兆検知部12は、故障の発生の無い期間(例えば過去の検出値を取得した期間の前)における各センサの平均値及び標準偏差を特定する。本実施形態において、検出値データは各センサの平均値及び標準偏差の値を含み、これらの値を上記の式(1)における訓練データの平均値及び標準偏差とすることができる。
【0035】
一般に、設備20に故障が生じる前に、センサの検出値は故障内容に応じて、通常時の値から変動すると考えられる。再構成誤差は、各センサの検出値の通常時(平均値及び標準偏差)からの変動を適切に示すパラメータであって、変化点情報として扱うことができる。故障予兆検知部12は、再構成誤差によって、設備20の故障予兆を効率的に検知することができる。故障予兆検知部12によって設備20の故障予兆が検出された検出値データは、対応する既知の故障がラベル付けされて、訓練データとして用いられる。
【0036】
ここで、取得される検出値データは、一般に複数の再構成誤差(複数の変化点)を含む。本実施形態において、複数の変化点について、その間隔が一定時間以上、離れたところで変化点を区切って群とみなし、各変化点群についてラベルが付与される。変化点群にラベル付けが行われることによって、再構成誤差にはらつきがある個々の変化点に対してラベル付けをする場合と比較して、瞬間的な変動の影響を吸収することができる。
【0037】
また、上記の式(1)におけるW(射影行列)は訓練データに基づいて生成される。Wを生成するための訓練データは、固定されてよいし、随時更新されてよい。訓練データを随時更新する場合に、故障予兆検知部12は、例えばACPCA(adjustment for confounding PCA)又はonlinePCAの手法を用いてよい。ACPCAはPCAで計算される主成分から対象とする変数の影響を除去する手法である。onlinePCAは訓練データを逐次的に追加して、PCAの射影行列であるWを更新する手法である。生成されたWは、記憶部15に記憶されてよい。
【0038】
故障予兆検知装置10の学習モデル生成部14は、過去の検出値データに基づく入力データと、入力データに対応する既知の故障がラベル付けされた出力データと、を含む訓練データを用いて、複数の分類器を生成する(ステップS3)。そして、学習モデル生成部14は、訓練データから一部を抽出し、抽出された訓練データを用いて分類器を生成することを複数実行する。学習モデル生成部14は、一例として500の分類器を生成する。生成された分類器は、記憶部15に記憶されてよい。
【0039】
(故障予兆検知方法)
図3は、故障予兆の分類の概略を説明するための図である。故障予兆検知装置10は、推定フェーズにおいて、生成された(学習済みの)複数の分類器を融合させた学習モデルを用いて、設備20の故障予兆を検知して、その故障予兆を未知の故障又は既知の故障のいずれかと判別する。
【0040】
図3において、故障予兆データは、再構成誤差及び検出値データの少なくとも一方である。決定木1~決定木500は複数の分類器の一例である。故障予兆1及び故障予兆2は既知の故障である(
図4及び
図5における故障予兆3及び故障予兆4も同様)。例えば、故障予兆1及び故障予兆2はそれぞれ燃料の流量ずれ及び空気の流量ずれといった故障内容に対応してよい。
【0041】
故障予兆検知装置10は、推定フェーズにおいて、設備20の故障予兆が検知された場合に、故障予兆データに基づいて決定木1~決定木500の決定を用いて、検知された故障予兆を分類する。
図3の例において、決定木1、決定木2及び決定木500は、それぞれ検知された故障予兆を故障予兆1、故障予兆2及び故障予兆1に区分する決定を行っている。故障予兆検知装置10は、ランダムフォレストの手法で、決定木1~決定木500の決定について多数決を行って、暫定的に故障予兆1に分類する。本実施形態において、故障予兆検知装置10は、さらに複数の分類器(決定木1~決定木500)の決定を集計し、複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、未知の故障と判別する。複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきの大きさを判定する手法は特に限定されないが、例えば後述する第1の手法又は第2の手法であってよい。
【0042】
ここで、故障予兆検知装置10は、上記のばらつきの大きさに基づいて未知の故障と判別する場合に、暫定的に分類した既知の故障を表示部16に示さなくてよい。また、故障予兆検知装置10は、上記のばらつきの大きさに基づいて未知の故障と判別する場合に、表示部16に未知の故障であることを示すとともに、暫定的に分類した既知の故障を参考として示してよい。また、故障予兆検知装置10は、上記のばらつきの大きさに基づいて未知の故障と判別しなかった場合に限って、複数の分類器の決定についての多数決を行ってよい。
【0043】
図4は、故障予兆の分類の第1の手法を説明するための図である。上記のように、取得される検出値データは一般に複数の再構成誤差(複数の変化点)を含む。つまり、一般に、一定期間内に設備20の複数の故障予兆が検知される。故障予兆検知装置10は、推定フェーズにおいても、変化点の時間の間隔に基づいて変化点群を特定し、各変化点群について未知の故障又は既知の故障のいずれかと判別する。
【0044】
第1の手法において、故障予兆検知装置10の故障予兆分類部13は、変化点群を構成する複数の変化点(複数の故障予兆)のそれぞれについて、複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に未知の故障と判別する。ここで、故障予兆分類部13は、複数の分類器によって最も多く区分された(最大多数の得票数を得た)既知の故障の割合が所定の閾値以下の場合に、ばらつきが大きいとする。
【0045】
図4の例において、所定の閾値は0.5である。
図4の「(1)変化点毎の既知・未知判定」に示すように、1つ目の変化点については、500個の決定木のうち200個が故障予兆2に区分する決定をしている。最大多数の得票数を得た故障予兆2の割合(0.4)は所定の閾値(0.5)以下であるため、故障予兆分類部13は、1つ目の変化点について未知の故障と判別する。また、2つ目の変化点については、500個の決定木のうち400個が故障予兆1に区分する決定をしている。最大多数の得票数を得た故障予兆1の割合(0.8)は所定の閾値(0.5)より大きいため、故障予兆分類部13は、2つ目の変化点について既知の故障と判別する。
【0046】
そして、故障予兆分類部13は、変化点群を構成する複数の変化点(複数の故障予兆)の半数以上が未知の故障と判別された場合に、最終的な分類結果を未知の故障とする。
【0047】
図4の「(2)変化点群の既知・未知判定」に示すように、故障予兆分類部13は、変化点群毎に、未知の故障と判別された数(未知予測数)と既知の故障と判別された数(既知予測数)とを比較して、多い方を変化点群の最終的な分類結果とする。
図4の例において、第1の変化点群は、未知予測数が半数以上であるため、最終的に未知の故障と判別される。また、第2及び第3の変化点群は、未知予測数が半数未満であるため、最終的に既知の故障と判別される。ここで、第2及び第3の変化点群について、上記のようにランダムフォレストの手法で多数決によって分類された故障内容が、最終的な分類となる。
【0048】
図5は、故障予兆の分類の第2の手法を説明するための図である。第1の手法は、変化点毎の判定と変化点群の判定との2段階の判定を含む。第2の手法は、第1の手法と異なり、最初から変化点群の既知・未知判定を行う。
図5の例において、第1の変化点群は、変化点件数が1000であり、最大多数の得票数を得た故障予兆3の割合(0.5)は所定の閾値(0.5)以下であるため、最終的に未知の故障と判別される。また、第2及び第3の変化点群は、それぞれ最大多数の得票数を得た故障予兆2の割合(0.9)及び故障予兆4の割合(0.8)が所定の閾値(0.5)より大きいため、最終的に既知の故障と判別される。第2の手法は、既知の故障の区分が多い場合に第1の手法に比べて演算量が多くなる。そのため、既知の故障の区分の数に応じて、第1の手法又は第2の手法が選択されてよい。
【0049】
図6は、一実施形態に係る故障予兆検知方法を説明するフローチャートである。故障予兆検知装置10は、推定フェーズにおいて、
図6に示される故障予兆検知方法を実行する。
【0050】
故障予兆検知装置10の取得部11は、検出値データを取得する(ステップS11)。ステップS11は、検出値データが、過去の検出値データでなく、稼働する設備20のセンサの検出値を含むことを除いて、
図2のステップS1と同様である。ここで、故障予兆検知装置10の故障予兆分類部13は、ステップS11の前に、記憶部15に記憶された学習済みの複数の分類器を読みだしてよい。
【0051】
故障予兆検知装置10の故障予兆検知部12は、再構成誤差を計算する(ステップS12)。ステップS12は、
図2のステップS2と同様である。
【0052】
故障予兆検知装置10は、故障予兆を検知した場合に(ステップS13のYes)、ステップS14の処理に進む。故障予兆検知装置10は、故障予兆を検知しない場合に(ステップS13のNo)、ステップS11の処理に戻る。
【0053】
故障予兆検知装置10の故障予兆分類部13は、例えば上記の第1の手法又は第2の手法によって、複数の分類器によって既知の故障のいずれかに区分し(ステップS14)、最も多く区分された(最大多数の得票数を得た)既知の故障の割合が閾値以下であるかを判定する(ステップS15)。
【0054】
故障予兆検知装置10の故障予兆分類部13は、最大多数の得票数を得た既知の故障の割合が閾値以下の場合に(ステップS15のYes)、未知の故障と判別する(ステップS16)。つまり、故障予兆分類部13は、複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きい場合に、未知の故障と判別する。
【0055】
故障予兆検知装置10の故障予兆分類部13は、最大多数の得票数を得た既知の故障の割合が閾値より大きい場合に(ステップS15のNo)、その既知の故障と判別する(ステップS17)。つまり、故障予兆分類部13は、複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきが大きくない場合に、最大多数の得票数を得た既知の故障と判別する。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る故障予兆検知装置10は、複数の分類器の決定のばらつきが大きいか否かを判定することによって、未知の故障を高精度に判別することができる。
【0057】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0058】
上記の実施形態において、複数の分類器によって区分された既知の故障のばらつきの大きさを判定する手法(第1の手法及び第2の手法)は、最大多数得票率(最大多数の得票数の割合)を用いる。ここで、ばらつきの大きさは、エントロピーによって判定されてよい。ここで、エントロピーは、事象の発生確率をpiとして、式(2)で示される。事象の発生確率は、具体的に言うと既知の故障の確率分布である。また、piは非ゼロとする。
【0059】
【0060】
故障予兆検知装置10の故障予兆分類部13は、複数の分類器によって区分された既知の故障の確率分布のエントロピーが所定の閾値より大きい場合に、ばらつきが大きいと判定してよい。つまり、故障予兆分類部13は、エントロピーが所定の閾値より大きい場合に、未知の故障と判別してよい。反対に、故障予兆分類部13は、エントロピーが所定の閾値以下の場合に、既知の故障と判別し、既知の故障のいずれかに分類してよい。
【0061】
図7は、一実施形態に係る故障予兆検知方法のROC曲線(receiver operatorating characteristic curve)を示す図である。
図7のC1は、故障予兆分類部13が最大多数得票率を用いてばらつきの大きさを判定した場合のROC曲線であって、分類における高い精度を示している。
図7のC2は、故障予兆分類部13がエントロピーを用いてばらつきの大きさを判定した場合のROC曲線であって、最大多数得票率を用いる場合とほぼ同じ精度を示すことがわかる。
【0062】
また、上記の実施形態において、機械学習はランダムフォレストであるとして説明したが、別の機械学習であっても同様に扱うことが可能である。ただし、機械学習がOne Class SVMのとき、最大多数得票率による判定に代えて、複数の分類器(該当又は非該当を決定)の全てが非該当である場合に未知の故障であると判別する。
【0063】
本開示に係る実施形態について装置及び方法を中心に説明してきたが、本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム、又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0064】
例えば、故障予兆検知装置10は、例えばメモリ及びハードディスクドライブなどの記憶装置、CPU(central processing unit)及び他のプロセッサなどの制御装置、ネットワークに接続するための通信装置並びに表示装置を備えるコンピュータで実現されてよい。このとき、取得部11はコンピュータの通信装置で実現されてよい。記憶部15はコンピュータの記憶装置で実現されてよい。表示部16はコンピュータの表示装置で実現されてよい。また、故障予兆検知部12、故障予兆分類部13及び学習モデル生成部14は、コンピュータの制御装置で実行されるプログラムで実施されてよい。プログラムは記憶装置に記憶されて、実施される場合に制御装置から読みだされてよい。
【符号の説明】
【0065】
1 故障予兆検知システム
10 故障予兆検知装置
11 取得部
12 故障予兆検知部
13 故障予兆分類部
14 学習モデル生成部
15 記憶部
16 表示部
20 設備