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特許7563700新規な化合物及びこれを含有する神経損傷、神経疾患または発達障害に対する神経細胞の増殖促進、分化、及び/または再生を通じた治療または予防用医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】新規な化合物及びこれを含有する神経損傷、神経疾患または発達障害に対する神経細胞の増殖促進、分化、及び/または再生を通じた治療または予防用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 257/02 20060101AFI20241001BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C07D257/02 CSP
A61K31/395
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/08
A61P9/10
A61P21/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022576493
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 KR2020011305
(87)【国際公開番号】W WO2021251551
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0071638
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522481178
【氏名又は名称】エトノヴァ セラピューティックス コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】512009953
【氏名又は名称】キュンポク ナショナル ユニバーシティ インダストリー-アカデミック コーオペレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、サ チョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】リ、チョン チン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、カ ラン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ヨン ミン
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501963(JP,A)
【文献】特開2018-070555(JP,A)
【文献】特表2012-504131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0322855(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C、C07D、A61K、A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表示される化合物またはその薬学的に許容可能な塩
[化学式1]
【化1】

前記化学式1で、
~Rは、それぞれ独立的に、水素、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、
Aは、*-(CH-A-*を表し、*は化学式1に示されたN原子と結合する箇所を表し、*はLinkerと結合する箇所を表し、
nは、0~5のいずれかの整数を表し、
は、*-COO-*、*-CO-*、*-NR-*、*-CH-*、*-CONH-*または*-O-*を表し、*はAにおける-(CH-と結合する箇所を表し、*はLinkerと結合する箇所を表し、
Linkerは、*-L-NHCO-L-*、*-L-O-R-O-L-*、*-L-CH-L-*、*-L-NR-L-*または*-L-COO-L-*を表し、*はAと結合する箇所を表し、*はBと結合する箇所を表し、
は、直鎖または分枝型の(C1-C30)アルキルを表し、
は、単結合または直鎖または分枝型の(C1-C30)アルキルを表し、
Rは、直鎖または分枝型の(C1-C20)アルキルを表し、
及びRは、それぞれ独立的に、水素または直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、
Bは、下記化学式2a、2bまたは2cを表す。
[化学式2a]
【化2】

[化学式2b]
【化3】

[化学式2c]
【化4】
【請求項2】
前記Bは、化学式2aを表すことを特徴とする請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩
【請求項3】
前記R~Rいずれも水素であることを特徴とする請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩
【請求項4】
前記nは、1~5のいずれかの整数を表し、前記Aは、*-CONH-*を表し、*はAにおける-(CH-と結合する箇所を表し、*はLinkerと結合する箇所を表すことを特徴とする請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩
【請求項5】
前記Linkerは、*-L-NR-L-*を表し、Rは、水素であり、*はAと結合する箇所を表し、*はBと結合する箇所を表すことを特徴とする請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩
【請求項6】
前記Lは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、前記Lは、単結合を表すことを特徴とする請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容可能な塩
【請求項7】
請求項1に係る化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
神経損傷、神経疾患または発達障害を治療または予防するためのものであることを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物が脳神経損傷、退行性脳疾患または虚血性脳疾患を治療または予防するためのものであることを特徴とする請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、癲癇、記憶力減退または虚血性脳卒中を治療または予防するためのものであることを特徴とする請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が末梢神経損傷、脊髓損傷、視神経損傷、筋萎縮性側索硬化症、運動失調または末梢神経疾患を治療または予防するためのものであることを特徴とする請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物が脳神経発達障害を治療または予防するためのものであることを特徴とする請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な化合物及びこれを含有する神経損傷、神経疾患または発達障害に対する神経細胞の増殖促進、分化、及び/または再生を通じた治療または予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞は、脳を含めて体の多くの所に分布されており、体は神経細胞の間の信号伝達によって外部状況を感じ、思い、反応し、運動することができる。よって、ある要因によって神経細胞が死滅すると、認知障害症状、麻痺症状、感覚障害症状、運動異常症状などのような多様な症状が現われる。アルツハイマー病は、脳の中の記憶を担当する所に存在する神経細胞の死滅によって発生し、パーキンソン病は、体の運動を調節する所に存在する神経細胞が死滅されて症状が現われるのである。
【0003】
神経細胞は死滅されると、再生しにくい。皮膚のような他の細胞の場合、損傷によって細胞が破壊されても周りの他の細胞が細胞分裂をして、その細胞を代替する新しい細胞を作るが、神経細胞は他の細胞とは違って、細胞分裂が起きないため、神経細胞の死滅と関連する疾患を治療することは非常に難しい。故に、今まで神経細胞の死滅による多数の病気の治療は症状を緩和させる方法に止まっている水準である。神経細胞の再生を通じて、神経損傷や神経疾患、発達障害を効果的に治療または予防することができる物質の開発が依然として要求されている。
【発明の概要】
【0004】
<技術的課題>
本発明の一目的は、神経損傷、神経疾患または発達障害を効果的に治療または予防することができる新規な化合物及びこれを含有する医薬組成物を提供することである。
【0005】
<技術的解決方法>
本発明の前述した目的は、下記化学式1で表示される化合物及びこれを含有する医薬組成物を提供することにより達成されることができた。
【0006】
[化学式1]
【化1】
【0007】
前記化学式1で、
~Rは、それぞれ独立的に、水素、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルであるか、任意結合を形成するための電子対を表し、
Aは、*-(CH-A-*を表し、
nは、0~5のいずれかの整数を表し、
は、*-COO-*、*-CO-*、*-NR-*、*-CH-*、*-CONH-*または*-O-*を表し、
リンカーは、*-L-NHCO-L-*、*-L-O-R-O-L-*、*-L-CH-L-*、*-L-NR-L-*または*-L-COO-L-*を表し、
は、直鎖または分枝型の(C1-C30)アルキルを表し、
は、単結合または直鎖または分枝型の(C1-C30)アルキルを表し、
Rは、直鎖または分枝型の(C1-C20)アルキルを表し、
及びRは、それぞれ独立的に、水素または直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、
Bは、レチノイン酸(retinoic acid)から由来の部分を表す。
【発明の効果】
【0008】
今まで神経損傷または神経退化及びこれに係わる各種疾病の治療は疾病の進行を緩和する水準であり、これらの完全な治療剤は全くない状況である。本発明に係る化合物は、直接的に神経突起の生成、神経突起の成長、神経細胞の分化、神経細胞の再生、及び/または神経細胞の増殖を誘発または促進させることができ、各種神経系疾患に対する根本的な治療を提供することができる。また、細胞毒性が低くて、薬物毒性による副作用が少ない。また、水に対する溶解度及び溶解安全性が高くて、製剤の剤形柔軟性が高く、体内吸収率が増加するので、神経再生、分化、保護効果がさらに増大されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の化合物(MMB-11903B)とATRA(比較用化合物、all-trans retinoic acid)を水に溶解した直後の状態及び前記化合物を20分間静置させた後の溶解状態を示す写真である。
図2a】ATRAの濃度及び経過時間による神経細胞生存率を示すグラフである。
図2b】MMB-11903Bの化合物の濃度及び経過時間による神経細胞生存率を示すグラフである。
図3a】ATRAの濃度及び経過時間による神経細胞毒性を示すグラフである。
図3b】MMB-11903Bの化合物の濃度及び経過時間による神経細胞毒性を示すグラフである。
図4】DO3AまたはMMB-11903B化合物の濃度及び処理時間による神経細胞形態のイメージである。
図5a】DO3AまたはMMB-11903B化合物で処理した神経細胞株を神経細胞分化に対するマーカーで染色した後、蛍光顕微鏡で撮影して獲得したイメージである。
図5b】DO3AまたはMMB-11903B化合物で処理した後に変化される神経細胞の神経突起の長さを測定して示したグラフである。
図6a】ATRAまたはMMB-11903B化合物で処理した神経細胞株を神経細胞分化に対するマーカーで染色した後、蛍光顕微鏡で撮影して獲得したイメージである。
図6b】ATRAまたは本発明の化合物MMB-11903Bで処理した神経細胞の分化を調べるために神経細胞分化に対するマーカーの抗体を利用して発現程度を色ヒストグラムで測定して示したグラフである。
図7a】DO3A、ATRAまたは本発明の化合物MMB-11903Bで処理した神経細胞株を細胞増殖に対するマーカーで染色した後、蛍光顕微鏡で撮影して獲得したイメージである。
図7b】DO3A、ATRAまたは本発明の化合物MMB-11903Bで処理した神経細胞の増殖を調べるためにKi-67抗体を用いて陽性細胞個数に対する比率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本出願で用いた用語は、ただ特定の実施例を説明するために用いられたもので、本発明を限定しようとする意図はない。異なるように定義されない限り、技術的または科学的用語を含んで、ここで用いられる全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有している。通常用いられる辞典に定義されているような用語は、関連技術の文脈上で有する意味と一致する意味を有することに解釈すべきであり、本出願で明白に定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されない。
【0011】
本発明の一様態に係ると、下記化学式1で表示される化合物が提供される。
【0012】
[化学式1]
【化2】
【0013】
前記化学式1で、R~Rは、それぞれ独立的に、水素、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルであるか、任意結合を形成するための電子対を表す。具体的には、前記化学式1で、前記R~Rは、それぞれ独立的に、水素、直鎖または分枝型の(C1-C3)アルキルであるか、任意結合を形成するための電子対を表すことができ、より具体的には、水素または任意結合を形成するための電子対を表すことができ、さらに具体的には、水素であることができる。
【0014】
また、前記化学式1で、Aは、*-(CH-A-*を表す。
【0015】
また、前記化学式1で、nは、0~5のいずれかの整数を表す。具体的には、前記化学式1で、nは、1~5のいずれかの整数を表すことができ、より具体的には、1~3のいずれかの整数であることができる。
【0016】
また、前記化学式1で、Aは、*-COO-*、*-CO-*、*-NR-*、*-CH-*、*-CONH-*または*-O-*を表す。具体的には、Aは、*-COO-*、*-CO-*、*-NR-*または*-CONH-*を表すことができ、より具体的には、*-CONH-*を表すことができる。
【0017】
また、前記化学式1で、リンカーは、*-L-NHCO-L-*、*-L-O-R-O-L-*、*-L-CH-L-*、*-L-NR-L-*または*-L-COO-L-*を表す。具体的には、前記リンカーは、*-L-NHCO-L-*または*-L-NR-L-*を表すことができ、より具体的には*-L-NH-L-*を表すことができる。
【0018】
また、前記化学式1で、Lは、直鎖または分枝型の(C1-C30)アルキルを表す。具体的には、前記Lは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキル、より具体的には、直鎖または分枝型の(C1-C5)アルキルを表すことができる。
【0019】
また、前記化学式1で、Lは、単結合または直鎖または分枝型の(C1-C30)アルキルを表す。具体的には、Lは、単結合または直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルであることができ、より具体的には、単結合または直鎖または分枝型の(C1-C5)アルキルを表すことができ、より具体的には、単結合であることができる。
【0020】
また、前記化学式1で、Rは、直鎖または分枝型の(C1-C20)アルキルを表す。具体的には、Rは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキル、より具体的には、直鎖または分枝型の(C1-C5)アルキルを表すことができる。
【0021】
また、前記化学式1で、R及びRは、それぞれ独立的に、水素または直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表す。具体的には、R及びRは、それぞれ独立的に、水素または直鎖または分枝型の(C1-C5)アルキルであることができる。より具体的には、Rは水素であることができる。また、より具体的には、Rは水素であることができる。
【0022】
また、前記化学式1で、Bは、レチノイン酸(retinoic acid)から由来の部分を表す。前記レチノイン酸は、オールトランスレチノイン酸(all-trans retinoic acid)(以下、ATRAとも称する)、13-シスレチノイン酸、9-シスレチノイン酸などのようなレチノイン酸の異性体を含むことができる。具体的には、前記Bは、下記化学式2a、2bまたは2cを表すものであり得る:
【0023】
[化学式2a]
【化3】
【0024】
[化学式2b]
【化4】
【0025】
[化学式2c]
【化5】
【0026】
前記化学式2aは、ATRAから由来の部分であり、前記化学式2bは、13-シスレチノイン酸から由来の部分であり、前記化学式2cは、9-シスレチノイン酸から由来の部分である。
【0027】
本発明の一具現例に係ると、前記化学式1で、前記Bは、化学式2aを表すものであり得る。
【0028】
本発明の他の一具現例に係ると、本発明の化合物は、前記化学式1において、nは1~5のいずれかの整数を表し、Aは、*-CONH-*を表すものであり得る。
【0029】
本発明の他の一具現例に係ると、本発明の化合物は、前記化学式1において、前記リンカーは、*-L-NR-L-*を表し、Rは、水素であり得る。
【0030】
本発明の他の一具現例に係ると、本発明の化合物は、前記化学式1において、Lは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、Lは、単結合を表すものであり得る。
【0031】
本発明の他の一具現例に係ると、本発明の化合物は、前記化学式1において、前記R~Rは、それぞれ独立的に、水素、直鎖または分枝型の(C1-C3)アルキルであるか、任意結合を形成するための電子対を表し、Aは、*-(CH-A-*を表し、nは、1~5のいずれかの整数を表し、Aは、*-COO-*、*-CO-*、*-NR-*または*-CONH-*を表し、リンカーは、*-L-NHCO-L-*または*-L-NR-L-*を表し、Lは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、Lは、単結合または直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、Rは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、R及びRは、それぞれ独立的に、水素または直鎖または分枝型の(C1-C5)アルキルを表し、Bは、前記化学式2a、2bまたは2cで表されるものであり得る。
【0032】
本発明の他の一具現例に係ると、本発明の化合物は、前記化学式1において、前記R~Rは、それぞれ独立的に、水素であるか、任意結合を形成するための電子対を表し、Aは、*-(CH-A-*を表し、nは、1~3のいずれかの整数を表し、Aは、*-CONH-*を表し、リンカーは、*-L-NR-L-*を表し、Lは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、Lは、単結合を表し、Rは、直鎖または分枝型の(C1-C10)アルキルを表し、Rは水素であり、Bは、前記化学式2a、2bまたは2cで表されるものであり得る。
【0033】
本発明に係る化学式1の化合物は、例えば、下記化学式1-1の化合物をレチノイン酸誘導体と反応させることにより製造されることができる。ここで、前記レチノイン酸誘導体は、化学式1で定義したLの前駆体、例えばスクシンイミドがレチノイン酸に結合した形態であり得る。
【0034】
[化学式1-1]
【化6】
【0035】
前記化学式1-1で、A及びLは、化学式1で定義した通りである。
【0036】
本発明の一様態に係ると、前述の化学式1の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有する医薬組成物が提供される。
【0037】
本発明に係る化学式1の化合物は、神経損傷、神経疾患または発達障害に対して、神経突起の生成、神経突起の成長、神経細胞の分化、神経細胞の再生、及び/または神経細胞の増殖を誘発または促進するのに有用である。
【0038】
用語「神経突起」は、神経細胞の細胞体からの突出部を意味し、例えば軸索及び樹状突起を含む。
【0039】
そこで、本発明の一様態に係ると、本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有する神経突起の生成、神経突起の成長、神経細胞の分化、神経細胞の再生、及び/または神経細胞の増殖を誘発または促進するための医薬組成物が提供される。
【0040】
また、本発明の他の一様態に係ると、神経突起の生成、神経突起の成長、神経細胞の分化、神経細胞の再生または神経細胞の増殖が必要な対象または神経細胞に本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を投与するステップを含む、神経突起の生成、神経突起の成長、神経細胞の分化、神経細胞の再生または神経細胞の増殖を誘発または促進する方法が提供される。
【0041】
また、本発明の一様態に係ると、本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする神経損傷、神経疾患または発達障害を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【0042】
本明細書で用いられる用語「治療」は、対象に好ましい治療効果が具現されることであり、進行速度の減少、進行速度の中断、症状の軽減、病態の改善、及び病態の治癒を含む。本発明に係る化合物は、損傷された細胞の形態的及び機能的回復を通じて疾患の根本的な治癒を提供することができ、そこで、前記治療は、具体的には、神経細胞の形態的及び機能的回復による疾患の治療を意味する。また、用語「予防」は、まだ病気が発病されなかったが、発病危険のある対象に対する使用を意味することができる。
【0043】
用語「神経損傷」は、脊髓損傷や視神経損傷のような神経系の何れの損傷を指称することで、これは、例えば、外傷によって誘発されたり、化学的に誘発されたり(例えば、神経毒によって、または免疫抑制効果を有する治療療法によって誘発)、または疾患や障害によって誘発された神経系の損傷を含む。また、前記神経損傷は、中枢神経系(CNS)の損傷及び末梢神経系(PNS)の損傷、より具体的には、脳神経損傷、脊髓損傷、視神経損傷、末梢神経損傷などを含む。
【0044】
用語「神経疾患」は、退行性神経疾患、虚血性神経疾患、及び末梢神経疾患を含む。前記「退行性神経疾患」は、具体的には、退行性脳疾患(例えば、記憶力減退、痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病など)、筋萎縮性側索硬化症、運動失調、癲癇などを含む。前記「虚血性神経疾患」は、具体的には、虚血性脳疾患(例えば、虚血性脳卒中)を含む。前記「末梢神経疾患」は、具体的には、多発神経障害、単神経障害、多発単神経塩、及び自律神経障害を含む。
【0045】
用語「発達障害」は、脳神経発達障害を含む。
【0046】
本発明の化合物は、後述する実施例でも分かるように、本発明の化合物は、神経細胞の神経突起を生成、成長させ、神経細胞を分化、再生、増殖させることができるので、それにより、本発明の前記化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有する医薬組成物は、神経損傷、神経疾患または発達障害を治療または予防する用途で用いられることができる。同時に、本発明の化合物は、学習能力向上剤または認知機能改善剤としても非常に有用に用いられることができる。
【0047】
また、本発明の他の一様態に係ると、神経損傷、神経疾患または発達障害の治療または予防が必要な対象に本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を投与するステップを含む、神経損傷、神経疾患または発達障害の治療または予防方法が提供される。
【0048】
本発明の一具現例に係ると、本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする脳神経損傷、退行性脳疾患または虚血性脳疾患を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【0049】
本発明の他の一具現例に係ると、本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする痴呆、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、癲癇、記憶力減退または虚血性脳卒中を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【0050】
本発明のまた他の一つの一具現例に係ると、本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする末梢神経損傷、脊髓損傷、視神経損傷、筋萎縮性側索硬化症、運動失調または末梢神経疾患を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【0051】
本発明のまた他の一具現例に係ると、本発明の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする脳神経発達障害を治療または予防するための医薬組成物が提供される。
【0052】
本発明の医薬組成物において、本発明に係る化学式1の化合物は、薬学的に許容可能な塩の形態で用いられることができる。前記「薬学的に許容可能な塩」は、ある化合物の薬学的活性を保持する化合物塩を意味するもので、例えば(i)塩酸、臭化水素酸、硫酸、窒酸、及びリン酸のような無機酸と形成された塩;(ii)酢酸、プロピオン酸、イソブチル酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マイレン酸、ヒドロキシマレイン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、ケイ皮酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びトルエンスルホン酸のような有機酸と形成される塩;(iii)ある化合物に存在する酸性プロトンが金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土金属イオンまたはアルミニウムイオンによって入れ替えられる時に形成される塩;(iv)エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルグルカミンのような有機塩基との配位体;または(v)アルギネートのようなアミノ酸の塩であり得る。
【0053】
また、本発明の医薬組成物は、本発明の前記化学式1の化合物の異性体、溶媒和物またはプロドラッグ(prodrug)を含むことができる。ここで、「異性体」は、ジアステレオマー及び鏡像異性体を含む全て可能な立体化学的異性体を含む。本発明の化合物は、全て可能な立体化学的異性体形態の混合物を指称するものと理解すべきである。また、用語「溶媒和物」は、溶質(例えば、化学式1の化合物)と溶媒の複合体を示すもので、溶媒が水である場合、前記溶媒和物は水和物に指称され得る。用語「プロドラッグ」は、生体内に投与された後に生体吸収及び代謝によって薬効を有する活性化合物に変換される化合物を示す。前記プロドラッグは、そのもので非活性であるか活性化合物より活性が劣る化合物であり、ただ、取り扱い、投与または代謝に有利な特性を提供することができる。前記プロドラッグは、活性化合物のエステル形態(例えば、生理学的に許容可能な代謝的に不安定なエステル)や糖誘導体の形態またはアミノ酸エステル誘導体の形態であり得る。
【0054】
本発明の医薬組成物は、前記化学式1で表示される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を単独で含むことができるが、それに加えて、薬学的に許容可能な担体を追加してさらに含むこともできる。前記薬学的に許容可能な担体は、薬剤学分野で通常用いられるものであり得、賦形剤(例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、セルロースなど)または希釈剤(例えば、生理食塩水、精製水など)であり得る。
【0055】
また、必要によって、本発明の医薬組成物は、前記薬学的に許容可能な担体以外の薬学的に許容可能な添加剤、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、フィルムコーティング基剤、腸溶性フィルムコーティング基剤、軟質カプセル基剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤、甘味剤、苦味剤、保存剤、増粘剤、芳香剤または着色剤をさらに含むこともできる。
【0056】
本発明の医薬組成物は、経口または非経口で投与することができる。非経口の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、及び直腸内投与などで投与することができる。経口投与の場合、本発明の医薬組成物は、固体または液剤剤形の形態に製剤化されることができる。固体剤形は、例えば、錠剤、カプセル剤(軟質&硬質カプセル剤)、散剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤などであり得、液体剤形は、例えば、エリキシル、懸濁液剤、乳液制、溶液剤、シロップ剤、リモナーデ剤などの形態であり得る。錠剤の場合、活性成分以外にも、ラクトース、とうもろこし澱粉などのような担体、ステアリン酸マグネシウムなどのような滑沢剤、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルアルコールなどのような結合剤、ベントナイト、アルギン酸ナトリウムなどのような崩壊剤などが通常追加されることができる。液剤の場合、活性成分を精製水、生理食塩水などのような担体、及び必要によって、モノステアリン酸スクロースなどのような溶解補助剤、ポリビニルピロリドンなどのような安定化剤などとともに製剤化することができ、経口用水性懸濁液制の場合、活性成分を懸濁化剤、及び必要によって界面活性剤、保存剤、安定化剤などとともに製剤化することができる。
【0057】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与方法、服用者の年齢、性別、患者の重症度、状態、不活性率、及び併用される薬物を考慮して決めることができ、1回または数回に分けて投与することができる。
【0058】
以下、本発明の詳細な理解のために、本発明の代表化合物を挙げて、本発明に係る化合物、その製造方法、及びこれを含有する医薬組成物の特性に対して説明する。ただ、本発明が以下の実施例によって限定されるのではない。
【0059】
1.本発明に係る化合物の製造例
【0060】
【化7】
【0061】
1)化合物aの合成
【0062】
【化8】
【0063】
オールトランスレチノイン酸(All trans retinoic acid)(4g、13.31mmol)を90mlのTHFに溶かした後、DCC(4.12g、19.97mmol)を添加して30分間撹拌した。30mlのTHFに溶かしたN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(2.30g、19.97mmol)溶液を4℃で滴加した後、常温で18時間反応させた。生成された固体を濾過した後、溶媒を除去し、ジクロロメタン(DCM)にさらに溶かしてシリカゲルカラムに通過させて化合物aを精製して得た。収率:4.6g(87.0%)
【0064】
2)化合物Aの合成
【0065】
【化9】
【0066】
DO3A(BuO)(10g、19.43mmol)を320mlのアセトニトリル(ACN)に溶かした後、KHCO3(5.93g、59.26mmol)を添加して、常温で30分撹拌した。ブロモ酢酸エチル(2.36ml、21.37mmol)を前記混合物に滴加して、70℃で24時間撹拌した後、無機塩を濾過して反応物の溶媒を除去した。真空乾燥して黄色の固体として化合物Aを得た。収率:11.5g(99%)
【0067】
3)化合物Bの合成
【0068】
【化10】
【0069】
化合物A(25.4g.42.30mmol)にエチレンジアミン(60ml、846.1mmol)を添加した後、常温で4日間撹拌した。反応が終わると、150mlのブライン(brine)溶液を添加し、150mlのDCM溶液で3回繰り返し抽出して有機溶媒層を得た。NaSOを利用して脱水した後、溶媒を除去し、DCM/MeOH展開液条件で、カラムクロマトグラフィーして精製した。得られた化合物にヘキサン(Hexane)を添加した後、常温で撹拌して、白色の固体として化合物Bを得た。収率:10.43g(40.2%)。
【0070】
4)化合物Cの合成
【0071】
【化11】
【0072】
化合物B(3g、4.88mmol)を20%のトリフルオロ酢酸(TFA)が含有されたDCM(12ml/48ml、v/v)に溶かした後、40℃で加熱還流して24時間反応させた。MeOHを入れながら溶媒を約3回繰り返し的に減圧蒸発させた後、MeOHにさらに溶かし、エチルエーテルに沈澱させた。得られた白色の固体を蒸溜水に溶かして、アセトンに再沈殿して精製された化合物Cを白色の固体として得た。収率:1.37g(62.9%)
【0073】
5)化合物MMB-11903Bの合成
【0074】
【化12】
【0075】
化合物C(0.2g、0.36mmol)をMeOHに溶かし、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(0.62ml、3.57mmol)を添加した後、3時間の間、常温で撹拌した。化合物a(0.17g、0.43mmol)を添加して、60℃で24時間加熱還流した後、エチルエーテルに沈殿して薄い黄色の固体を得た。前記化合物にイソプロピルアルコール(IPA)を添加して加熱した後冷却して生成される化合物を濾過して化合物MMB-11903Bを得た。収率:0.09g(34.3%)
【0076】
2.溶解度試験
本発明に係る化合物の溶解度を調べるために、前記製造例で製造した本発明の化合物MMB-11903B及びATRAを脱イオン水(Deionized water)1mLにそれぞれ100mMの濃度で添加し(本発明の化合物MMB-11903B:72.8mg/mL、ATRA:30.0mg/mL)、軽くボルテックス(vortex)して溶解させた。前記溶解直後の状態を写真で撮影して図1に示す。前記製造した本発明の化合物MMB-11903Bの溶液とATRA溶液を常温で20分放置した後、写真を再撮影して、各溶液で前記化合物の溶解状態を観察した(図1)。
【0077】
図1で分かるように、本発明の化合物MMB-11903B及びATRAは、初期には溶液の中に均一に溶解されていたが、時間が経つにつれて、ATRAは溶媒と分離、沈澱される一方、本発明の化合物MMB-11903Bは、ATRAと同じ時間静置されているにもかかわらず溶媒と分離されず、均一な溶解状態を保持することができた。これから、本発明の化合物MMB-11903Bは、水のような溶媒に溶解されやすくて溶解度が高いだけでなく、溶解安定性を有して、長期間静置しても溶解状態を保持することができ、このような本発明の化合物MMB-11903Bの溶解度及び溶解安定性はATRAに比べて、非常に卓越であるということが分かる。
【0078】
3.細胞毒性試験
3-1)細胞生存率試験
未分化された神経細胞株であるヒト神経芽細胞腫(Neuroblastoma)SH-SY5Yを対象としてCCK-8を利用した神経細胞株細胞の生存率(cell viability)分析を行った。参考に、前記CCK-8(Cell counting kit-8)は、高水溶性テトラゾリウム塩-SST-8を利用して分析が行われる。前記分析は、[2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、モノナトリウム塩]は、電子媒介体の存在下で還元される時、水溶性ホルマザン橙色染料を生成し、細胞で脱水素酵素によって生成されるホルマザン染料の量は生きている細胞の数に直接比例するという点に基づいたのである。具体的な実験方法は次の通りである。
【0079】
SH-SY5Yは、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum、FBS)、1%抗生物質-抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic、AA)、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加された最小必須培地(Minimum Essential Medium、MEM)で成長され、安定化された細胞は、細胞生存率を分析するために、1×10個/wellの密度で200μLの培地に浮遊されて、96-ウェルプレート(well plate)の各ウェル(well)に植えられた。14時間以上、37℃、5%COインキュベータで付着されて安定化されるのを待つ。翌日、成長培地を除去し、分化誘導のために、1%FBS、1%AA、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加されたダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco`s Modified Eagle Medium)/栄養混合液(Nutrient Mixture)F-12(DMEM/F-12=1:1)培地100μLに前記製造例で合成された本発明の化合物MMB-11903B及び比較用化合物として、オールトランスレチノイン酸(all-trans-Retinoic acid)(以下、ATRA)をそれぞれ多様な濃度(0、1、2、5、10、20、30、50μM)に希釈して、24、48、72時間、37℃、5%CO状態で培養した。収獲時間2時間前にCCK-8溶液10μLを各wellに添加して、2時間追加培養した。培養が完了されたプレートは、マイクロプレートリーダーを利用して450nmで吸光度を測定した。
【0080】
[細胞生存率計算式]
【0081】
【数1】

(前記式で、Aは、対照群ウェルで測定された吸光度値であり、Bは薬物が入ったウェルで測定された吸光度値である。)
【0082】
計算された値は、グラフパッドプリズム(graphPad Prism)応用プログラムを利用してグラフを作製した。得られた数値の統計的有意性は1元配置分散分析(One-way ANOVA with Dunnett`s multiple comparison test)を通じて確認した。*p<0.5、***p<0.01 vs.24h control、#p<0.5、### p<0.01 vs.48h control、†††p<0.01 vs.72h controlに対して有意性を有することを表す。ATRAと本発明の化合物MMB-11903Bに対する結果をそれぞれ図2a及び図2bに示す。
【0083】
図2a及び2bにおいて、ATRAまたは化合物MMB-11903Bの濃度が0μMの場合(すなわち、ATRA及び化合物MMB-11903Bを全く投与しない場合)の24時間生存率、48時間生存率、72時間生存率を100%とした時、ATRAは濃度が高くなるほど、及び時間が長くなるほど細胞生存率が低くなった(図2a参照)。これに対して、本発明の化合物MMB-11903Bを投与しない場合に比べて、これを投与した場合の72時間生存率が常にもっと高いということが分かる。本発明の化合物MMB-11903Bは、投与時間が経過するにつれて、細胞生存率をさらに高めることができるということが分かる。特に、50μMの濃度で72時間生存率は、ATRAに比べて本発明の化合物MMB-11903Bが約2倍以上高かった。これは、MMB-11903Bの長期間露出にも神経細胞に対する毒性が減少したことを確認した。
【0084】
3-2)乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase、LDH)分析を利用した細胞毒性試験
細胞毒性(Cytotoxicity)(細胞死滅)は、細胞生存率試験を通じて間接的に測定することができるが、より高感度で、正確な測定のためには、細胞死滅または細胞損傷と関連する酵素を利用した方法で検証する。乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase、LDH)は、細胞質に存在する安定した酵素であり、通常、細胞膜を通過できなくて細胞外に排出できないが、細胞膜が損傷されたり細胞が死ぬ場合、培地中に放出される。そのため、培地中のLDH量は死んだり傷害された細胞の数と比例するので、これを測定する。
【0085】
SH-SY5Yは、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum、FBS)、1%抗生物質-抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic、AA)、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加された最小必須培地(Minimum Essential Medium、MEM)で成長され、安定化された細胞は、細胞生存率を分析するために、2.5×10個/wellの密度で200μLの培地に浮遊されて、96-ウェルプレート(well plate)の各ウェル(well)に植えられた。14時間以上、37℃、5%COインキュベータで付着されて安定化されるのを待つ。翌日、成長培地を除去し、分化誘導のために、1%FBS、1%AA、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加されたダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco`s Modified Eagle Medium)/栄養混合液(Nutrient Mixture)F-12(DMEM/F-12=1:1)培地100μLに本発明の前記製造例で製造された化合物MMB-11903B及びオールトランスレチノイン酸(all-trans-Retinoic acid)(ATRA)をそれぞれ多様な濃度(0、1、5、10、20、30、50、100、200μM)に希釈して、24、48、72時間、37℃、5%CO状態で培養した。培養液の上層部分を新しい96-ウェルプレート(well plate)に10μL分注し、LDH反応混合物(reaction mixture)(D-PlusTM LDH kit、Cat.No.LDH-500)を各100μLずつ添加して30分間暗状態で反応させた。反応が完了されたプレートは、マイクロプレートリーダーを利用して450nmで吸光度を測定した。
【0086】
[細胞毒性計算式]
【0087】
細胞毒性(%)=(A-B)/(C-B)×100(%)
(前記式で、Aは、薬物が入った群の吸光度値であり、Bは、薬物処理しない群の吸光度値であり、Cは実験に用いられた細胞にLysis溶液10μLを添加させて、細胞で放出可能な最大LDH量を測定した吸光度値である。)
【0088】
計算された値は、グラフパッドプリズム(graphPad Prism)応用プログラムを利用してグラフを作製した。得られた数値の統計的有意性は1元配置分散分析(One-way ANOVA with Dunnett`s multiple comparison test)を通じて確認した。***p<0.01 vs. 24h control、### p<0.01 vs. 48h control, †p<0.5, †††p<0.01 vs. 72h controlに対して有意性を有する。ATRAと本発明の化合物MMB-11903Bに対する結果をそれぞれ図3a及び図3bに示す。
【0089】
図3aで、ATRAは、約30μM付近の濃度から細胞毒性が現われ始めて、200μMの濃度で24時間培養した時、細胞毒性が約55%であった。これに対して、図3bで、本発明の化合物MMB-11903Bは、約100μM付近の濃度から細胞毒性が現われ始めて、200μMの濃度で24時間培養した時、細胞毒性が約5%であった。これを通じて、本発明の化合物MMB-11903Bは、ATRAに比べて細胞毒性が顕著に低いという点(例えば、200μMの濃度で24時間培養した時、細胞毒性がATRAに比べて本発明の化合物MMB-11903Bが10倍以上低い)が分かる。
【0090】
4.神経細胞に対する効果確認
4-1)神経細胞の形態(morphology)変化
SH-SY5Yは、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum、FBS)、1%抗生物質-抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic、AA)、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加された最小必須培地(Minimum Essential Medium、MEM)で成長され、安定化された細胞は、細胞生存率を分析するために、4×10個/皿の密度で60mmの皿に植えられた。14時間以上、37℃、5%COインキュベータで付着されて安定化されるのを待つ。翌日、成長培地を除去し、分化誘導のために、1%FBS、1%AA、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加されたダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco`s Modified Eagle Medium)/栄養混合液(Nutrient Mixture)F-12(DMEM/F-12=1:1)培地に本発明の前記製造例で製造した化合物MMB-11903B及び下記化学式のDO3Aを多様な濃度(0、5、10、20μM)に希釈して、1、3、5日間37℃、5%CO状態で培養した。細胞の形態は、ニコンの倒立顕微鏡(Nikon inverted microscope)でイメージを獲得した(ニコン、イクリプス Ts2、株式会社ニコン、東京、日本)。DO3Aまたは本発明の化合物MMB-11903Bで処理した神経細胞株のイメージを図4に示した。
【0091】
[DO3Aの化学式]
【化13】
【0092】
本発明の化合物MMB-11903Bで処理した時、低い濃度から細胞形態変化の観察が可能であった。神経細胞への分化が誘導されて、細胞体(cell body)が小さくなり、神経軸索(axon)と樹状突起(dendrite)の前駆体である神経突起が伸長(neurite outgrowth)して、その長さが細胞体の2倍以上になった。日が増すにつれて神経突起の伸長はより拡張され、神経突起ネットワークの形成が明らかになった。本発明の化合物MMB-11903Bに比べて、DO3Aを処理した場合、神経突起の伸長が観察されず、むしろ 10μM、5日目と、20μM、3日目から細胞毒性による細胞死滅が観察された。DO3Aは、神経細胞分化能を有せず、むしろ毒性を誘発して神経細胞死滅に関与することに比べて、DO3Aのbackboneを有する本発明の化合物MMB-11903Bは、細胞毒性が改善されたことは勿論、神経細胞への分化が誘導されることを確認した。
【0093】
4-2)蛍光免疫染色法(immunofluorescence staining)を利用した神経突起伸長促進効果の試験
SH-SY5Yは、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum、FBS)、1%抗生物質-抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic、AA)、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加された最小必須培地(Minimum Essential Medium、MEM)で成長され、安定化された細胞は、細胞生存率を分析するために、4×10個/皿の密度で60mmの皿に植えられた。14時間以上、37℃、5%COインキュベータで付着されて安定化されるのを待つ。翌日、成長培地を除去し、分化誘導のために、1%FBS、1%AA、2mM L-グルタミン(L-Glutamine)が追加されたダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco`s Modified Eagle Medium)/栄養混合液(Nutrient Mixture)F-12(DMEM/F-12=1:1)培地に本発明の製造例で製造した化合物MMB-11903B及びDO3Aを10μMの濃度で処理して37℃、5%CO状態で培養した。培養した後、1、3、5日目に収獲された細胞はDPBSで水洗して、10%中性緩衝ホルマリン(Neutral Buffered Formalin)に10分間固定し、トリス緩衝生理食塩水(Tris-buffered saline、TBS)に3回水洗した後、0.3%トリトン(Triton)X-100(in TBS)に15分間反応させた。TBSに3回水洗して、5%のウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin、BSA)と正常ヤギ血清(Normalgoat Serum、NGS)(in TBS)の溶液を入れ、4℃で24時間反応させた。神経細胞特異的マーカー(Neuron specific marker)として、β-IIIチューブリン(tubulin)1次抗体、新生児未熟ニューロンマーカー(newborn immature neuron marker)でダブルコルチン(doublecortin)の1次抗体を利用して、神経細胞の分化及び神経突起の誘導を確認した。1次抗体を4℃で24時間反応させた後、TBSに3回水洗し、2次抗体は、Alexa Fluor(登録商標)488 fluorescent(緑(green))とAlexa Fluor(登録商標)555 fluorescent(赤(red))を1時間常温で反応させた。TBSに3回水洗し、マウント(VECTASHIELD(登録商標)Mounting Medium with DAPI;Vector Laboratories、Bur-lingame、CA、USA)し、蛍光顕微鏡でイメージを獲得した。このように獲得されたイメージを図5aに示した。図5aで分かるように、本発明の化合物MMB-11903Bで処理した場合には、神経突起の伸長及び神経突起ネットワークの形成が明らかになる一方、DO3Aを処理した場合、神経突起の伸長が観察されない。
【0094】
ImageJプログラムを利用して伸長突起の長さを測定した。細胞体長さの2倍以上になった神経突起の長さのみ測定した。計算された値は、グラフパッドプリズム(graphPad Prism)応用プログラムを利用してグラフを作製した。当該グラフを図5bに示した。得られた値の統計的有意性は、1元配置分散分析(One-way ANOVA with Dunnett`s multiple comparison test)を通じて確認した。*p<0.5、***p<0.01 vs.control、##p<0.1、### p<0.01 vs.DO3Aに対して有意性を有する。神経細胞マーカーを利用した蛍光染色後、神経突起の長さを測定した結果、MMB-11903Bのbackboneに対応するDO3Aは対照群と同じく、神経突起の伸長が現れず、対照群とDO3A処理群に比べて、本発明の化合物MMB-11903Bによる神経細胞の神経突起伸長は、1日目平均1.7倍、3日目平均2.6倍、5日目平均2.5倍の増加を誘導した。
【0095】
4-3)蛍光免疫染色法(immunofluorescence staining)を利用した神経突起伸長及び新生ニューロンの生成と成長効果の試験
追加的に、前述した方法と同じ方法によるが、DO3Aではなく、ATRAを比較化合物として、蛍光免疫染色法による神経細胞分化を観察した。蛍光顕微鏡で獲得したイメージを図6aに示した。
【0096】
ImageJプログラムを利用して色ヒストグラムを測定した。計算された値はグラフパッドプリズム(graphPad Prism)応用プログラムを利用してグラフを作製した。前記グラフを図6bに示した。対照群(無処理群)と陽性対照群であるATRA処理群に比べて、本発明の化合物MMB-11903Bの処理によって3日目から神経細胞の分化及び発現が増加し、これは5日目までも高い発現を保持することを確認した。新生ニューロンの発現も対照群と陽性対照群ATRA処理群が低く保持されることに比べて、3日目から顕著に増加することを確認した。得られた数値の統計的有意性は、1元配置分散分析(One-way ANOVA with Dunnett`s multiple comparison test)を通じて確認した。*p<0.5、***p<0.01 vs.control、#p<0.5、##p<0.1、### p<0.01 vs.ATRAに対して有意性を有する。
【0097】
4-4)蛍光免疫染色法(immunofluorescence staining)を利用した細胞増殖効果の試験
神経細胞増殖に対するマーカーであるKi-67に対する陽性個数を比較した。ImageJプログラムを利用して、自動に陽性細胞数(positive cell number)を獲得した。蛍光顕微鏡で獲得した写真は、図7aに示した。
【0098】
[Ki-67陽性細胞数(positive cell number)の計算式]
【0099】
Ki-67陽性細胞(positive cells)(%)=(ki-67陽性細胞数(positive cell number)/DAPI陽性細胞数(positive cell number)×100
【0100】
計算された値は、グラフパッドプリズム(graphPad Prism)応用プログラムを利用してグラフを作製した。当該グラフを図7bに示した。露出1日目には対照群(無処理群)に比べて、DO3A及び本発明の化合物MMB-11903B処理群で2倍に近い細胞増殖を示し、ATRAは対照群と有意な差を現わさなかった。露出3日目にはATRA処理群を除いて、全ての群で神経細胞増殖を現わし、本発明の化合物MMB-11903Bの場合、5日目まで高い神経細胞増殖率を示した。本発明の化合物MMB-11903Bによって神経細胞への分化を促進するとともに、新しい神経細胞の増殖も誘導することを確認した。得られた数値の統計的有意性は1元配置分散分析(One-way ANOVA with Dunnett`s multiple comparison test)を通じて確認した。*p<0.5、**p<0.1、***p<0.01 vs.control、#p<0.5、## p<0.1 vs.DO3A、†p<0.5、†††p<0.01 vs.ATRAに対して有意性を有する。
【0101】
前述した実施例4-1~4-4から本発明の化合物MMB-11903Bは、神経細胞株で対照群であるDO3AやATRAに比べて、神経細胞の増殖を誘発し、このような増殖を保持させることができるということが分かる同時に、神経突起の生成及び伸長を誘導して神経細胞への分化を促進するということが分かる。
【0102】
以上、本発明の好ましい実施例を参照して説明したが、当該技術分野において熟練された当業者は、特許請求範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更させることができることを理解すべきである。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b