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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】蒸着フィルム製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20241001BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20241001BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C23C14/56 A
H01G13/00 391C
C23C14/50 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023039637
(22)【出願日】2023-03-14
(65)【公開番号】P2024130112
(43)【公開日】2024-09-30
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】309024907
【氏名又は名称】マシン・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】加瀬部 強
(72)【発明者】
【氏名】三宅 徹
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248266(JP,A)
【文献】特開2003-308609(JP,A)
【文献】特開2005-076120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
H01G 13/00
C23C 14/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形のキャンローラを挟んで上室と下室とに仕切られた蒸着フィルム製造装置において、
キャンローラは軸を水平にして、下室側にて所定の中心角にわたり帯状の誘電体フィルムを当接させながら回転して送り、
金属蒸気をフィルム側に向けて放散する、下室に設けられた蒸散部と、
下室を第一の所定の真空度に保つ、下室に連通させた下室用真空ポンプと、
上室を第二の所定の真空度に保つ、上室に連通させた上室用真空ポンプと、
内部にホローカソードを収容し、外形が柱状であり長手を前記軸に平行にして配置した電子供給室と、
電子供給室内に電離用のガスを供給するガス供給部と、
電子供給室内を第三の所定の真空度に保つ室内圧制御手段と、
ホローカソードを介して電子供給室内のガスを電離させる電源部と、
を具備し、
更に、
電子供給室に、誘電体フィルムに覆われていないキャンローラ表面に向けて開口した、電子放出用のスリットを前記軸に平行に設け、
電子供給室とキャンローラとの間に、キャンローラ側からの電子の跳ね返りの上室側への拡散を防止する防止体を設け、
スリットから漏出する正に帯電したガスを所定方向に向けるガイド体を上室に設け、
キャンローラ表面を帯電させて誘電体フィルムのキャンローラへの密着性を高めつつ上室内にて意図しない放電発生を抑制することを特徴とする蒸着フィルム製造装置。
【請求項2】
キャンローラに当接する誘電体フィルムは、片面が既に前記金属蒸気と同一または異なる金属にて金属蒸着された誘電体フィルムであって、前記中心角を180°を超え270°以下としたことを特徴とする請求項1に記載の蒸着フィルム製造装置。
【請求項3】
室内圧力制御手段は、ガス供給部のガス供給量の調整手段、または、電子供給室用の真空ポンプであることを特徴とする請求項1に記載の蒸着フィルム製造装置。
【請求項4】
下室の圧力PD、上室の圧力PU、電子供給室の圧力PRに関し、
PD<PU<PRかつ10PU≦PR≦1000PUとしてキャンローラを帯電させることを特徴とする請求項1に記載の蒸着フィルム製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体フィルムのキャンローラへの密着度を高めつつ意図しない放電発生による悪影響を抑制し、高品質な金属蒸着フィルムを製造する蒸着フィルム製造装置に関し、特に、ホローカソードを用い装置の大型化を将来しない蒸着フィルム製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムコンデンサ用フィルムすなわち金属蒸着誘電体フィルムを製造する装置としてキャンローラを用いるものが知られている。これは連続的に供給される帯状の樹脂フィルムをキャンローラに所定の中心角(抱き角)分だけあてがって送り、当接部分にて金属蒸着をおこなう装置である。
フィルムは薄くその温度は事実上キャンローラの表面温度となるため、金属蒸着の際のフィルムの熱負けを生じさせないために、キャンローラを冷却する機構が採用される。これにより金属蒸着フィルムの品質が向上する。
【0003】
さらに、フィルムのキャンローラへの密着度が高いと、均質かつ速やかな冷却温度の伝搬がおこるので、キャンローラ上空に軸方向に長手に配したタングステンワイヤを通電し、熱電子を発生させてキャンローラを帯電させる機構も採用される。
【0004】
また通常、チャンバー内はキャンローラを挟んで上室と下室に仕切られ、金属蒸着をおこなう下室では10-2Pa(Pa:パスカル)程度以下の真空が保たれる様にしており、上室では10-1Pa程度としている。
このとき、上室用の真空ポンプとしては、メカニカルブースターポンプとロータリーポンプといった組合せを用い、下室では更に、油拡散ポンプを組み合わせ、高真空を実現する。
一般に、真空度を高めるほど多段階の真空引きが必要となり、キャンローラを用いる寿着フィルム製造装置では、上室用と下室用との事実上2セットの真空ポンプシステムが必要となるが、それでも、仕切りを設けずチャンバー内全体を10-2Pa程度以下に持って行くための真空ポンプシステムを導入するより、装置全体の構成の大型化が避けられ安価な装置導入が可能となる。
【0005】
しかしながら、キャンローラを帯電させる場合には、フィルムを巻き付けない上室側にてワイヤから電子を放出させる必要がある一方、雰囲気圧力が10-1Pa程度であると異常放電が生じてしまうという。
これを回避するため、第三の真空ポンプシステムを導入してワイヤ近傍だけでも10-2Pa程度にしたり、上室全体も異常放電の生じない10-2Paにする大型ポンプシステムを導入したりする必要があり、結局装置構成の大型化を招来してしまう、という問題点があった(結果として、装置が高くなってしまうことにもなる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-308609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、装置の大型化を将来せず高品質な金属蒸着フィルムを製造する金属フィルム蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の蒸着フィルム製造装置は、円柱形のキャンローラを挟んで上室と下室とに仕切られた蒸着フィルム製造装置において、キャンローラは軸を水平にして、下室側にて所定の中心角にわたり帯状の誘電体フィルムを当接させながら回転して送り、金属蒸気をフィルム側に向けて放散する、下室に設けられた蒸散部と、下室を第一の所定の真空度に保つ、下室に連通させた下室用真空ポンプと、上室を第二の所定の真空度に保つ、上室に連通させた上室用真空ポンプと、内部にホローカソードを収容し、外形が柱状であり長手を前記軸に平行にして配置した電子供給室と、電子供給室内に電離用のガスを供給するガス供給部と、電子供給室内を第三の所定の真空度に保つ室内圧制御手段と、ホローカソードを介して電子供給室内のガスを電離させる電源部と、を具備し、更に、電子供給室に、誘電体フィルムに覆われていないキャンローラ表面に向けて開口した、電子放出用のスリットを前記軸に平行に設け、電子供給室とキャンローラとの間に、キャンローラ側からの電子の跳ね返りの上室側への拡散を防止する防止体を設け、スリットから漏出する正に帯電したガスを所定方向に向けるガイド体を上室に設け、キャンローラ表面を帯電させて誘電体フィルムのキャンローラへの密着性を高めつつ上室内にて意図しない放電の発生を抑制するようにしたことを特徴とする。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、上室の真空度より高い圧力雰囲気で電離させた電子を加速して放出する、ホローカソードを収容した電子供給室を用いるので、装置の大型化を招来することなくフィルムの密着度を好適に上昇させる。更に、キャンローラ側からの電子の跳ね返りが上室内に広がることを抑制するので、意図しない放電発生の可能性を低減する。これらにより、品質のよい信頼性の高い金属蒸着フィルムを提供可能となる。加えて、ガス流を電子のたまりやすいところに向けて中和し、意図しない放電の発生を更に抑制する。異常放電を特に発生させたくないところにガスを向かわせることもできる。
【0010】
キャンローラの大きさは、適宜設計すればよく、たとえば、直径50cm~70cm、軸長(幅)350mm~950mmとすることができる。また、キャンローラを効率的に帯電させておくため、表面を誘電体層(絶縁層)で被覆しておくのが好ましく、たとえば、セラミックスにより形成する例を挙げることができる。セラミックスとしては、アルミナのみ、アルミナ+チタニア(アルミナとチタニアの混合セラミックス、一部チタン酸アルミニウムとなっていても良いものとする)、チタニアのみ、などを挙げることができる。なお、絶縁層の厚みは30μm~100μmの例を挙げることができる。
誘電体フィルムの素材としては、PP(ポリプロピレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリイミド、などを挙げることができる。また、厚みは1.5μm~50μm、幅は300mm~900mmの例を挙げることができる。
第一の所定の真空度は、金属蒸着に好適な真空度であればよく、たとえば、(0.5~50)×10-2Paとする例を挙げることができる。概ね10-2のオーダーであることが目安となる。
第二の所定の真空度は、電子供給室からの電離ガスの漏入、下室との圧力差を考慮し適宜設計すればよいが、たとえば、(0.5~50)×10-1Paとする例を挙げることができる。概ね10-1のオーダーであることが目安となる。
第三の所定の真空度は、スリット幅、電位差、ガス供給量、上室の真空度等に依存するが、たとえば0.5Pa~100Paとする例を挙げることができる。概ね10+1オーダーであることが目安となる。
電離用のガスは、フィルムや金属との反応性に乏しい希ガス、たとえばArを挙げることができる。
電源部による電圧は、ガスを効率的に電離させ、かつ、電子が加速されてスリットから連続安定的に射出するようにできるのであれば特に限定されず、カソードに対しての-4kV~-16kVの直流電圧(スリット部分をアース)とする例を挙げることができる。
【0011】
スリットの間隔は0.1mm~1.5mmとする例を挙げることができる。この間隔であると、フィルムが当たっていないキャンローラ表面へ適正かつ連続的な電子射出が実現される。また、いわば定常的な電子ビームが供給されるため、フィルム側に電子が逃げる場合であっても、キャンローラ表面とフィルムとの間には吸着力が持続し、高品質な蒸着フィルムを得ることができる。
【0012】
なお、スリット幅が狭いと電子ビームはほぼ広がらずキャンローラ表面に線状にあたる。スリットとキャンローラ表面との距離はたとえば、20cm~30cmとすることができる。
金属蒸着フィルムを製造する際のPDが概ね10-2オーダーであり、これに基づき各所の圧力やサイズが決まるため、スリット幅も絶対値として事実上決まるが、ホローカソードないし電子供給室の断面積Sに対してスリット幅wは1000≦S/w≦50000が目安となる。
【0013】
ここで、電子がキャンローラ表面に総て取り付くのが理想であるが、実際には、一部跳ね返りが生じる。このとき、上室の形状や各部の配置に伴って電子がたまりやすい部位が生じる場合があり、異常放電の原因となる(異常放電がフィルムに当たると当然ながら蒸着フィルムが損傷するなどしてしまう。直接当たらない場合であっても、各部に影響をもたらしフィルム品質低下の間接的な原因になってしまう)。そこで、防止体はそのような電子の跳ね返りを受け止めるために設けている。例えば、キャンローラの外形に追従した湾曲した防止板として形成することができる。適宜アースをとる、キャンローラと等電位となるように両者を接触させるなどしてもよい。
【0016】
防止体があっても一部の電子は上室内に拡散し、たまりやすいところにたまってくる。ガイド体は、スリットから漏れ出る正に帯電したガスを向けてこれを中和する。
なお、ガイド体は、板状の配向板であっても、漏斗のような絞りがついた形状であってもよい。また、電子供給室に連通しスリット側から延伸させた筒状の配向口のようにガイド体を形成することもできる(電子ビームとは干渉しないようにする)。
ガイド体はスリット近傍に、防止体はキャンローラ近傍に配することが好ましいが、ガイド体が上面であり防止体が下面であるような両者の一体物として形成することもできる。
【0017】
請求項に記載の蒸着フィルム製造装置は、請求項1に記載の蒸着フィルム製造装置において、キャンローラに当接する誘電体フィルムは、片面が既に前記金属蒸気と同一または異なる金属にて金属蒸着された誘電体フィルムであって、前記中心角を180°を超え270°以下としたことを特徴とする。
【0018】
すなわち、請求項に係る発明は、高品質な両面金属蒸着フィルムまたは高品質な片面多層金属蒸着フィルムを製造できる。
【0019】
同一装置内で二つのキャンローラを備え片面にまず金属蒸着をおこなった場合、仮にフィルムに熱が残っていたとしても抱き角を大きくし、かつ、好適にキャンローラにフィルムを密着させることができるので、二回目の蒸着でフィルムが熱負けして品質を落としてしまうようなことがない。
また、一つのキャンローラだけであって、二回目(以上の)金属蒸着をおこなう場合であっても、既に蒸着されている金属膜が加熱されることなく安定的な蒸着を実現する。
【0020】
請求項に記載の蒸着フィルム製造装置は、請求項1に記載の蒸着フィルム製造装置において、室内圧力制御手段は、ガス供給部のガス供給量の調整手段、または、電子供給室用の真空ポンプであることを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項に係る発明は、簡便に圧力制御をおこなうことができる。特にガス供給量の調整手段としては、バルブ(と流量計)を挙げることができ、装置構成を簡素化できる。
【0022】
請求項に記載の蒸着フィルム製造装置は、請求項1に記載の蒸着フィルム製造装置において、下室の圧力PD、上室の圧力PU、電子供給室の圧力PRに関し、PD<PU<PRかつ10PU≦PR≦1000PUとしてキャンローラを帯電させることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項に係る発明は、キャンローラに対して定常的かつ適正な帯電状態を維持させることが可能となる。
【0024】
なお、先に例を挙げたように、PD:10-2Paオーダー、PU:10-1Paオーダー、PR:10Paオーダーを目安とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、装置の大型化を将来せず、好適にキャンローラを帯電させ続け、品質のよい金属蒸着フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の蒸着フィルム製造装置を適用した両面蒸着フィルム製造装置の構成例を示した断面図である。
図2】本実施の形態の電子供給部およびその周囲の拡大断面模式図である。 なお、各図において構成要素の縮尺は説明の便宜上、実機における比を必ずしも反映させたものではない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、フィルムの両面に金属蒸着をおこなう蒸着フィルム製造装置について説明する。
図1は、本発明の蒸着フィルム製造装置を適用した両面蒸着フィルム製造装置の構成例を示した断面図である。
なお、以降では、説明の便宜上両面蒸着フィルム製造装置を単に両面蒸着装置と称することとする。
【0028】
両面蒸着装置1は、チャンバー10の中に配される、第一蒸着部100と第二蒸着部200と、送出巻取部300と、上室真空部400と、下室真空部500と、電子供給部600を主要な構成としている。
なお、チャンバー10は、後述のキャンローラ101およびキャンローラ201を挟んで、仕切11により上室10Uと下室10Dとに仕切られている。
【0029】
第一蒸着部100は、第一キャンローラ101と、第一蒸発器102と、を有する。
【0030】
第二蒸着部200は、第二キャンローラ201と、第二蒸発器202と、を有する。
【0031】
送出巻取部300は、送出ローラ301と、巻取ローラ302と、第一規制ローラ303と、第二規制ローラ304と、複数の補助ローラ305と、を有する。
【0032】
上室真空部400は、ロータリーポンプ401と、メカニカルブースターポンプ402と、を有する。
下室真空部500は、ロータリーポンプ501と、メカニカルブースターポンプ502と、ディフュージョンポンプ503と、を有する。
【0033】
電子供給部600は、電子供給室601と、ガスボンベ602と、電源603と、拡散防止カバー604と、ガスガイド605と、を有する。
【0034】
フィルムFは、幅50cm、厚み5.0μmの帯状の誘電フィルムである。蒸着前は無垢のOPPフィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)であってロール状に巻かれて送出ローラ301に取りつけられる。
【0035】
なお、送出ローラ301、巻取ローラ302、第一キャンローラ101、第二キャンローラ等各種のローラは総て軸が互いに平行かつ水平に配向されており、送出ローラ301から送出されたフィルムFは、各ローラを経て、両面蒸着されたフィルムFとして巻取ローラ302によってロール状に巻き取られる。なお、いうまでもないが各ローラの長さは、フィルムFの幅より長くしてある(様々なフィルム幅に対応可能に、通常用いられる最大のフィルム幅より長いローラ長としてあり、両面蒸着装置1の汎用性を高めている)。
【0036】
両面蒸着装置1によりなされる両面蒸着の概要は次のとおりである。
まず、送出ローラ301から連続的に繰り出されるフィルムFに対して、第一蒸着部100にて、第一キャンローラ101と第一蒸発器102とにより、片面に金属蒸着層が形成される。続いて、第二蒸着部200にて、表面にセラミックスコーティングされた第二キャンローラ201と第二蒸発器202とにより、反対側の面に金属蒸着層が形成される。
【0037】
第一キャンローラ101、第二キャンローラ201とも、所定の中心角にてフィルムFを巻き付け(当接させ)、外側から金属蒸着をおこなう。特に第二キャンローラ201に関しては、抱き角を240°とし、また、フィルムFが当たっていない表面に対して電子ビームを照射してフィルムFを第二キャンローラ201に誘引し続けて密着性を高めた蒸着をおこなう様にしている。また後述するように、拡散防止カバー604とガスガイド605により、意図しない放電発生の可能性を著しく低減するようにしている。
【0038】
以下、構成とともに両面蒸着装置1をより詳しく説明する。
送出ローラ301と巻取ローラ302とは、図示しない駆動モータにより回転し、フィルムFの送出・巻取速度が一定の100m/minとなるように制御されている。なお、この速度は可変であり、仕様の態様により適宜変更することができる。
【0039】
繰り出されたフィルムFは、送出ローラ301と第一規制ローラ303との位置関係により、概ね180°の中心角をもって第一キャンローラ101に密着する。
第一キャンローラ101は、直径60cm、幅55cmの金属円筒であり、耐摩耗性等を高めるために表面にクロムメッキが施してある。また、円筒内側に図示しない冷却機構を有し、表面温度は-10℃にたもたれている。この温度は可変であり、仕様の態様により適宜変更することができる。
【0040】
第一蒸発器102は、下室10Dに配され、キャンローラの軸方向に長いルツボ121と、これを下から加熱する電熱体122と、を有し、中に投入した金属、ここでは、亜鉛を蒸散させる。なお、ルツボ121にはスリットを有する蓋123が被せられ、蒸散金属をフィルムF表面に吹き付け、また、他所への放散が生じないように仕切124も設けられている。なお、金属は特に限定されず、両面蒸着フィルムの要求仕様により適宜アルミニウム、その他の金属に変更可能である。
【0041】
なお、ここでは図示しないが、第一蒸着部100にて、適宜マスキングオイルを用いたパターニングをおこなってもよく、複数の蒸発器を用いるなどして複数の金属蒸着層を片面に形成するようにしてもよい。
【0042】
片面に金属層が形成されたフィルムFは、補助ローラ305を介して、第二蒸着部200に送られる。ここで、二つの第二規制ローラ304との位置関係により、概ね240°の中心角(抱き角)をもってフィルムFを第二キャンローラ201に密着させるが、先の蒸着面の反対の面に金属蒸着をおこなうため、第一蒸着部100による蒸着層側が第二キャンローラ201に密着する向きとして、各種ローラを配している。
【0043】
第二キャンローラ201は、直径60cm、幅55cmの金属円筒であり、表面に50μm厚のアルミナ+チタニアのセラミックスをコーティングしてある(絶縁層211が形成されている)。なお、絶縁層211の素材や厚みは、仕様の態様により適宜変更でき、例えば素材としてはアルミナ+チタニアのほか、アルミナのみ、チタニアのみとしてもよい。厚みも、10μm~100μmとすることができる。また、円筒内側に図示しない冷却機構を有し、表面温度は-15℃にたもたれている。この温度は可変であり、適宜変更することができる。抱き角を大きくし、誘電作用によるフィルムのキャンローラへの密着性を高めているため、熱負けを生じさせず二度の金属蒸着であってもフィルム品質の信頼性を向上させることができる。
【0044】
第二蒸発器202は、下室10Dに配され、キャンローラの軸方向に長いルツボ221と、これを下から加熱する電熱体222と、を有し、第一蒸発器102と同様に、亜鉛を蒸散させる。なお、ルツボ221にはスリットを有する蓋223が被せられ、蒸散金属をフィルムF表面(無垢のOPP表面)に吹き付け、また、他所への放散が生じないように仕切224も設けられている。なお、金属は特に限定されず、両面蒸着フィルムの要求仕様により適宜アルミニウム、その他の金属に変更可能である。
【0045】
なお、第一蒸着部100同様、適宜、適宜マスキングオイルを用いたパターニングをおこなってもよく、複数の蒸発器を用いるなどして複数の金属蒸着層を片面に形成するようにしてもよい。このとき、既に蒸着をおこなっている反対側の面のパターンと位置合わせをする制御機構を具備するようにしてもよい。
【0046】
上室真空部400は、上室10Uを所定の真空度(圧力PU)にたもつ。本実施の形態では具体的には、PU=10-1Paに保つように真空引きをおこなう。このため、上室10Uにメカニカルブースターポンプ402を接続し、これにロータリーポンプ401を接続して脱気をおこなう。
【0047】
下室真空部500は、下室10Dを所定の真空度(圧力PD)にたもつ。本実施の形態では具体的には、PD=10-2Paに保つように真空引きをおこなう。真空度が高いため、下室10Dにはまずディフュージョンポンプ503を接続し、これにメカニカルブースターポンプ502、そしてロータリーポンプ501を接続する。
【0048】
なお、仕切り11のクリアランス(第一キャンローラ101および第二キャンローラ201との間隔)は、PU×0.1≧PD~10-2Paが実現できる程度に狭くする。
仕切り11を設けない場合は、蒸着用の真空度までチャンバー10全体を高真空へ真空引きしないといけないため、製造開始までに時間がかかり作業性が悪く、また、より高性能なディフュージョンポンプ503を導入する場合は時間はかからなくとも、装置の大型化、高価格化を招来してしまうこととなるため、いずれにせよ効率に劣る。
【0049】
第二蒸着部200においては、電子供給室601により第二キャンローラ201に対して電子ビームの照射がおこなわれる。なお、フィルムFには金属層があるため照射した電子の一部は印加当初は巻取ローラ302側に散逸するが、すぐに等電位を形成し、かつ、電子供給室601からの電子ビームは後述するように連続的に照射されるため、第二キャンローラ201を帯電させ続けることができる。これにより、フィルムFの誘電フィルム部分(もとのフィルム部分)が第二キャンローラ201側に引き寄せられ密着度が高まることとなる(フィルム品質および信頼性が向上する)。
【0050】
図2は、本実施の形態の電子供給部600およびその周囲の拡大断面模式図である。なお、電子供給室601はキャンローラの軸方向に対して垂直に切り取った断面図として示している。
電子供給室601は、一方に長手の直方体であって、長手方向をキャンローラ201の軸に平行に配している。ここでは大きさは510mm×45mm×45mmとしている。また、キャンローラ201と電子供給室601との間隔は150mmとしている。
【0051】
電子供給室601は、断面がコ字状のホローカソード611と、正極612からなり、正電極には幅1mmのスリット613が長手に設けられている。
【0052】
ホローカソード611内にはガスボンベ602からアルゴンガスが供給される。なお、アルゴンガスの供給量は、印加電圧と、電子供給室601の断面積とスリット613の間隔との比(上室10U内への漏出量)などにも依存するが、常圧下換算で毎分5cc~30ccとすることにより、適正な電離状態とすることができる。ここでは、毎分10ccとしている。
【0053】
アルゴンガス供給量の調整は、バルブ621によりおこなう。毎分10ccであると、電子供給室601内の圧力PR=10Paに保たれる。ホローカソードを用いる場合、10PU≦PR≦1000PUに調整することがこのましい。
【0054】
電源603は、直流電源であって、正極612をアースに取り、負極すなわちホローカソード611側を安定的なプラズマ状態にする電圧とする。ここでは-10kVとしている。この電位差により、ホローカソード611内に供給されたアルゴンガスが安定的に電離する。なお図では模式的に電源を描画しているが、適宜回路が構成されていても当然によい。
【0055】
電離により生じた電子は正極612側に引き寄せられ一部がスリット613を通り、ほとんど広がることなく軸に沿った線状の電子ビームとしてキャンローラ201に定常的に照射される。
【0056】
ここで、照射された電子は、一部はキャンローラ201で跳ね返り、上室10U側に拡散してしまう。これを防ぐためにキャンローラ201に近いところに拡散防止カバー604を設けている。拡散防止カバー604は、断面がキャンローラ201表面に添った円弧であり、軸に長手の曲面板である。拡散防止カバー604があることにより電子は再度キャンローラ201表面に向かい、意図しない場所での放電の招来を抑止し、所期の誘電効果(フィルムの密着効果)を得ることができる。なお、仕様の態様により、拡散防止カバー604端部と、キャンローラ端部とを摺接させるようにして、等電位面を形成するようにしてもよい。
【0057】
なお、拡散防止カバー604は、いわば中央に長手の孔があけられた曲面板であり、また、フィルムFとの間にも間が空いた形状とならざるを得ない。したがって、電子のごく一部はこれらの隙間から上室10Uに漏れ出てしまう場合がある。
【0058】
両面蒸着装置1を連続運転していくと、このようなごくわずかに漏れ出してしまう電子がたまる場所、集まりやすい場所が出てくる(この場所は、装置形状や各部の配置に依存しやすい)。これを放置しておくと、異常放電の原因ともなるので、これを防ぐべく、電子供給部600では、スリット613から漏出する、正に帯電したAr+ガスをその場所に仕向けるべくガスガイド605を設けている。本実施の形態では巻取ローラ302に向けたAr+ガスの流れを作るべく、ガスガイド605が配向している。これにより仮に巻取ローラ302近くに電子がたまるようなことがあっても中和され、両面蒸着された製品フィルム部分での放電発生の抑止を実現する。
【0059】
キャンローラに電圧をかける従来技術では、フィルムの金属層側がキャンローラの表面に当接する場合には、キャンローラ表面が金属であると、事実上帯電させることができない(フィルムの誘着ができない)。一方、キャンローラ表面に絶縁層を設けてあっても、絶縁層の厚みはフィルムより少なくとも数倍は厚くせざるを得ず、誘引力は電圧の二乗に比例し、距離(厚み)の二乗に反比例するので、絶縁層が邪魔して、密着効果が数十分の1程度となってしまう。印加電圧を高めればフィルムに対して所期の誘引力を発生させることができるが、チャンバー10内は真空引きされていることもあり、異常放電が生じやすくなり、かえってフィルムにダメージを与えてしまう。
【0060】
第二蒸着部200では、電位差でなく、直接的にキャンローラ201をチャージし続けることにより効果的な密着を実現する。これと、抱き角を大きくしていることにより、フィルムFの冷却が十全となり熱負けが生じず、蒸着の品質の維持向上が可能となる。
【0061】
なお、規制ローラ、補助ローラによって、フィルムFには所定のテンションがかかるようにしている。また、仕様の態様により、第一規制ローラ303と、第二規制ローラ304は、電圧印加機構を介して、フィルムFに局所的な電位差を設け、フィルムFに極性を持たせるようにして、補助的にキャンローラに対する密着度を向上させるようにしてもよい。
【0062】
以上の様に、両面蒸着装置1は、上室10Uを局所的にでも下室10Dのような真空度にする必要がなく、真空ポンプシステムひいては装置構成の大型化を招来せず品質のよい金属両面蒸着フィルムを製造できる。バルブ621の調整だけで簡便に電子供給室601内を安定的に電離させて電子ビームをキャンローラ201に照射するので操作性にも優れる。
【0063】
本発明の実施の形態は上述の構成に限定されない。
たとえば、送出ローラ301、巻取ローラ302、または、第一規制ローラ303、第二規制ローラ304の直近に除電機構を設けてフィルムを除電する構成を採用してもよい。なお、蒸着中に連続的または断続的に除電する場合であっても、電子供給部600により、第二キャンローラ201表面には、所定の帯電状態が維持されるようにしているのでフィルムのキャンローラへの誘引は持続する。
【0064】
また、連続的な両面蒸着でなく、第一蒸着部100をなくし、片面蒸着装置として本発明を実装することも可能である。また、片面蒸着を終えたロールに対して、反対側を蒸着する両面蒸着装置として利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
第一キャンローラ101のフィルムの密着度を向上させるために、電子供給室を第一蒸着部100にも供えるようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 両面蒸着装置
10 チャンバー
10D 下室
10U 上室
11 仕切
100 第一蒸着部
101 第一キャンローラ
200 第二蒸着部
201 第二キャンローラ
202 第二蒸発器
211 絶縁層
221 ルツボ
222 電熱体
223 蓋
224 仕切
300 送出巻取部
301 送出ローラ
302 巻取ローラ
400 上室真空部
401 ロータリーポンプ
402 メカニカルブースターポンプ
500 下室真空部
501 ロータリーポンプ
502 メカニカルブースターポンプ
503 ディフュージョンポンプ
600 電子供給部
601 電子供給室
602 ガスボンベ
603 電源
604 拡散防止カバー
605 ガスガイド
611 ホローカソード
612 正極
613 スリット
621 バルブ
図1
図2