(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ワイヤレス卵殻温度観測装置
(51)【国際特許分類】
G01K 1/024 20210101AFI20241001BHJP
G01K 1/14 20210101ALI20241001BHJP
A01K 41/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01K1/024
G01K1/14 E
A01K41/00
(21)【出願番号】P 2020180989
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】597017812
【氏名又は名称】株式会社ナベル
(72)【発明者】
【氏名】南部 邦男
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109819941(CN,A)
【文献】特開2011-060176(JP,A)
【文献】米国特許第04955728(US,A)
【文献】特開平07-063618(JP,A)
【文献】特開2014-060957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
A01K 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
孵卵機内に収容された卵ごとに設けられ卵殻温度を測定する温度センサ付きRFタグと、
各温度センサ付きRFタグを卵殻表面に押しつけるように接触させる保持具と、
各温度センサ付きRFタグに設けられたアンテナ部と通信を行う孵卵機外に設けられる外部アンテナと、
前記外部アンテナを介して得られた温度センサ付きRFタグからの温度データを読み取る読み取り部とを備えた、温度センサ付きRFタグを用いたワイヤレス卵殻温度観測装置。
【請求項2】
前記保持具は、卵殻の近傍の環境温度を測定する環境温度センサをさらに備えている、請求項
1記載のワイヤレス卵殻温度観測装置。
【請求項3】
前記保持具は、卵の胴体部分を保持し、卵の大きさに合わせて調整可能なものである、請求項
1または
2記載のワイヤレス卵殻温度観測装置。
【請求項4】
前記保持具は、卵ごとに設けられ卵殻に光を照射して得た卵の内部情報を観測する光学センサをさらに備えている、請求項
1、
2または
3記載のワイヤレス卵殻温度観測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的にワイヤレスで卵の卵殻温度を観測する方法、及び温度センサ付きRFタグを用いたワイヤレス卵殻温度観測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
雛の生産やワクチンの生産等に用いられる卵は、所定の温度、湿度等の環境下で孵卵され、孵卵の途中では、卵の内部における胚の活動状況、すなわち生死等を観測し、判定するような検査がなされる。
【0003】
卵の内部の状態を観測する観測装置として、例えば、特表2005-532046号公報(特許文献1)がある。この観測装置は、観測対象の卵に光を照射し、卵の内部を透過した光の強度の変化を観測するものである。
【0004】
また、別の観測装置として、例えば、特表2002-543804号(特許文献2)がある。この観測装置は、孵卵機の外に取り出された観測対象の卵から一定距離離れた位置で卵の周囲の温度を観測するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-532046号公報
【文献】特表2002-543804号公報
【文献】特開2011-106892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
卵の卵内温度は、卵殻表面の温度と密接に関係していることが知られている。卵の卵内温度を知るためには、卵殻表面の温度を測定する必要があるが、従来、接触式の温度計を卵に1個ずつ押し当てて手作業で測定する方法しかなかった。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するものであり、孵卵機において卵の卵殻温度を観測可能なワイヤレス卵殻温度観測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイヤレス卵殻温度観測装置は、温度センサ付きRFタグと、保持具と、外部アンテナと、読み取り部とを備える。温度センサ付きRFタグは、孵卵機内に収容された卵ごとに設けられ卵殻温度を測定する。保持具は、各温度センサ付きRFタグを卵殻表面に押しつけるように接触させる。外部アンテナは、各温度センサ付きRFタグに設けられたアンテナ部と通信を行う。外部アンテナは、孵卵機外に設けられる。読み取り部は、外部アンテナを介して得られた温度センサ付きRFタグからの温度データを読み取る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、孵卵機内で利用可能な、ワイヤレス卵殻温度観測装置を提供できる。
【0011】
この発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解されるこの発明に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるワイヤレス卵殻温度観測装置の概略図である。
【
図2】同実施形態にかかる温度センサ付きRFタグが卵に取り付けられた状態を示す図である。
【
図3】同実施形態にかかる温度センサ付きRFタグが卵に取り付けられた状態を示す図である。
【
図5】本発明の変形例を示す
図3に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態にかかるワイヤレス卵殻温度観測装置1と、ワイヤレス卵殻温度観測装置1を用いた観測方法について、
図1~
図4を用いて説明する。
【0014】
孵卵機10の内部には、複数のトレイ11が収容される。各トレイ11には、複数の収容部12が形成されており、孵化する前の卵Eが各収容部12に収容される。卵Eは、本実施形態の温度測定対象物である。孵卵機10では、内部が孵卵に適した雰囲気に保たれるとともに、トレイ11が揺り動かされる。
【0015】
本実施形態のワイヤレス卵殻温度観測装置1は、孵卵機10内に配置された卵Eごとに測定される卵殻温度に関する情報を得るためのもので、ワイヤレス卵殻温度観測装置1を用いて、連続的にワイヤレスで卵Eの卵殻温度が観測される。ワイヤレス卵殻温度観測装置1は、温度センサ付きRFタグ2と、保持具3と、外部アンテナ4と、読み取り部5とを備える。
【0016】
温度センサ付きRFタグ2は、孵卵機10内に収容された卵Eごとに設けられ卵殻温度を測定する。温度センサ付きRFタグ2は、卵Eの胴回り部分に設けられる。温度センサ付きRFタグ2は、卵Eへの装着状態と取り外し状態とをとり得る。温度センサ付きRFタグ2が卵Eにいったん装着されると、測温部(図示しない)と卵Eとの位置関係が一定に保たれる。
【0017】
温度センサ付きRFタグ2は、測温部が卵殻に向くように配置される。温度センサ付きRFタグ2は、シリコーンなどの樹脂製の介在物を介して卵Eに接触している。介在物は、熱伝導性が高く、卵殻の外表面の形状に沿って変形可能なものであればよく、耐摩耗性を有することが好ましい。なお、測温部が直接卵殻に接触していたり、測温部が卵殻と至近距離に保たれるような構造であってもよい。
【0018】
なお、本実施形態の温度センサ付きRFタグ2は、電池を内蔵しないRFタグであり、読み取り部5からの電波により情報を送受信するパッシブ型のRFタグである。
【0019】
また、各温度センサ付きRFタグ2には、アンテナ部(図示しない)が設けられている。アンテナ部と外部アンテナ4とは通信が可能である。
【0020】
保持具3は、卵Eに取り付けられている。保持具3は、各温度センサ付きRFタグ2を卵殻表面に押しつけるように接触させる。保持具3は、温度センサ付きRFタグ2を測定対象の卵Eに近づく方向に力を加えて卵殻に接触させて固定する。保持具3は、卵Eの胴体部分を保持し、取り付けられる卵Eの大きさに合わせて調整可能なものである。保持具3は、その一部または全部が屈曲または湾曲して、外力に応じて変形する。保持具3は、卵殻の近傍の環境温度を測定する環境温度センサ6をさらに備えている。
【0021】
環境温度センサ6は、卵殻近傍の環境温度を測定する測温部(図示しない)を備える。環境温度センサ6もRFタグと一体的に構成されている。
【0022】
外部アンテナ4は、孵卵機10の外に設けられる。外部アンテナ4は、各温度センサ付きRFタグ2に設けられたアンテナ部と通信を行う。
【0023】
読み取り部5は、孵卵機10の外に設けられる。読み取り部5は、外部アンテナ4を介して得られた温度センサ付きRFタグ2からの温度データを読み取る。読み取り部5と外部アンテナ4とは通信が可能である。読み取り部5は、孵卵機10の内部の温度センサ付きRFタグ2からの温度データを読み取る。読み取り部5は、非接触で温度センサ付きRFタグ2と非接触通信してデータを読み書きするもので、複数の温度センサ付きRFタグ2を同時に検出可能とするアンチコリジョン(衝突防止)機能を備えている。読み取り部5は、複数の卵Eの温度データをその区分記号とともに取得する。読み取り部5は、孵卵機10に収納された多数のRFタグ2を、孵卵機10の扉を開けることなく外部から読み取ることが可能である。また、読み取り部5は、温度センサ付きRFタグ2を作動させる電力を送信する。
【0024】
温度センサ付きRFタグ2で測温された情報は電気信号に変換され、読み取り部5を介して情報処理装置(図示しない)に送られる。情報処理装置では、温度センサ付きRFタグ2から得られる電気信号の解析により、卵Eの内部状態、例えば、当該卵Eの生死や胚の活動状況を判定する。情報処理装置は、例えば、判定対象の卵Eの測温部から得られた卵殻温度t1と閾値とを比較する。ここで閾値は、例えば、孵卵機10内の設定温度(37.8℃)としている。情報処理装置は、卵殻温度t1と閾値を比較して、卵殻温度t1が閾値よりも高ければ、胚が生存していると判定する。なお、孵卵開始12日目または13日目頃から胚が熱を産生して卵殻温度が上がることが知られている。一方、未受精卵、腐敗卵、中止胚は、孵卵機10に入っている間は孵卵機10内の温度と同程度に温められ、孵卵機10外に出されると外気温まで下がる。
【0025】
情報処理装置は、温度センサ付きRFタグ2から得られる卵殻温度情報と、環境温度センサ6から得られる環境温度情報とを用いて、演算処理を行ってもよい。情報処理装置は、例えば、温度センサ付きRFタグ2から得られた卵殻温度t1と、その温度センサ付きRFタグ2の一番近くに配置された環境温度センサ6から得られた環境温度t2とを比較し、卵殻温度t1が環境温度t2よりも閾値以上高ければ、生存卵であると判定する。
【0026】
本実施形態では、卵Eの卵殻温度を連続的に観測する。例えば、孵卵機10に卵Eが入れられてから卵Eが孵化するまでの約20日間にわたって観測してもよいし、卵Eをセッタートレイからハッチャートレイへ移し替える移卵日(18日目または19日目)までの期間にわたって観測してもよい。さらに、この期間中における特定のタイミングにおいて観測してもよい。例えば、特定の1日だけ、または、12時間ごと、24時間ごとに2分程度の観測を複数日にわたって行ってもよい。
【0027】
以上説明したように、本実施形態にかかる方法は、RFタグと温度センサとが一体的に構成された温度センサ付きRFタグ2を卵殻表面に押し付けるように接触させる。その状態で、連続的にワイヤレスで卵Eの卵殻温度を観測する。そして、孵卵機10内に配置された卵Eごとに測定される卵殻温度に関する情報を得る。
【0028】
本実施形態のワイヤレス卵殻温度観測装置1は、温度センサ付きRFタグ2と、保持具3と、外部アンテナ4と、読み取り部5とを備える。温度センサ付きRFタグ2は、孵卵機10内に収容された卵Eごとに設けられ卵殻温度を測定する。保持具3は、各温度センサ付きRFタグ2を卵殻表面に押しつけるように接触させる。外部アンテナ4は、各温度センサ付きRFタグ2に設けられたアンテナ部と通信を行う。外部アンテナ4は、孵卵機10外に設けられる。読み取り部5は、外部アンテナ4を介して得られた温度センサ付きRFタグ2からの温度データを読み取る。
【0029】
保持具3は、卵殻の近傍の環境温度を測定する環境温度センサ6をさらに備えているので、環境温度と卵殻温度とを用いた胚の状態の判定が可能となる。
【0030】
保持具3は、卵Eの胴体部分を保持し、卵Eの大きさに合わせて調整可能なものであるので、複数の卵Eに対する取り扱いが容易である。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に限られない。
【0032】
保持具3は、図示した形状のものには限られない。例えば、
図5に示すように、保持具3は、卵Eを挟み込むように配置された所定の把持力を有する部材を主体に構成されてもよい。保持具3は、二方向以上から卵Eを挟み込む。保持具3は、開閉可能なトング状やクリップ状のものである。閉じる方向への力は、バネなどの弾性力を利用すればよい。
【0033】
保持具3は、弾性を有するものであれば、バネを用いて構成されていてもよい。例えば、径の小さいコイルスプリングをゴムバンドの代わりに用いることが考えられる。保持具3は、全体が弾性を有する部材で作られていてもよいし、一部のみが弾性を有する部材で作られていてもよい。保持具3は、樹脂製、金属製、その他種々のものが考えられる。保持具3の端部は、両側が着脱可能であってもよいし、片側のみが着脱可能であってもよいし、両側が固定されて保持具3自身を変形させて卵Eに対して着脱するものであってもよい。
【0034】
また、
図6に示すように、保持具3は、卵Eごとに設けられ卵殻に光を照射して得た卵Eの内部情報を観測する光学センサをさらに備えるものであってもよい。光学センサは、この分野でよく知られる発光素子7または受光素子8のいずれか一方である。受光素子8によって受光する光の受光量の変化を観測することによって、胚の運動(胎動)、呼吸、心拍数を観測でき、胚が生きているか否かなどが判定できる。なお、卵Eに照射された光を受光することで、卵Eについて得られる情報について、出願人は、特開2011-106892(特許文献3)において、すでに報告している。
【0035】
なお、光学センサは、RFタグと一体的に設けられているものであれば、温度センサ付きRFタグ2を介した卵殻温度データと同様に、読み取り部5へ受光強度データ等を送ることができる。光学センサは、ケーブルを介して受光強度データ等を送信したり、電力供給が行われたりするものであってもよい。
【0036】
環境温度センサ6を備えないものであってもよい。環境温度センサ6は、RFタグと一体的に設けられているものであれば、温度センサ付きRFタグ2を介した卵殻温度データと同様に、読み取り部5へ環境温度データを送ることができる。環境温度センサ6は、ケーブルを介して環境温度データを送信したり、電力供給が行われたりするものであってもよい。環境温度センサ6は、卵殻温度測定用の温度センサ付きRFタグ2が取り付けられた卵Eの数と同数であってもよいが、それより少なくてもよい。
【0037】
卵殻温度測定用の温度センサ付きRFタグ2、環境温度センサ6、光学センサは、それぞれの配置場所や卵殻上の測定部位についても図示したものには限られない。
【0038】
今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、連続的に卵の卵殻温度を観測する方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…ワイヤレス卵殻温度観測装置
2…温度センサ付きRFタグ
3…保持具
4…外部アンテナ
5…読み取り部
6…環境温度センサ
10…孵卵機
E…卵