(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】攪拌部品及びこれを備える攪拌翼
(51)【国際特許分類】
B01F 27/07 20220101AFI20241001BHJP
B01F 27/90 20220101ALI20241001BHJP
B01F 27/92 20220101ALI20241001BHJP
【FI】
B01F27/07
B01F27/90
B01F27/92
(21)【出願番号】P 2021093270
(22)【出願日】2021-06-02
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】391050145
【氏名又は名称】日本ソセー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】森川 議博
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-117375(JP,A)
【文献】特開2018-068443(JP,A)
【文献】特開2002-079222(JP,A)
【文献】特開2002-248332(JP,A)
【文献】特開2008-126162(JP,A)
【文献】特開2018-047130(JP,A)
【文献】特開2014-004526(JP,A)
【文献】特開2003-144886(JP,A)
【文献】特開2015-174015(JP,A)
【文献】特表昭61-500418(JP,A)
【文献】特開2004-191424(JP,A)
【文献】実開平07-040110(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 35/00
B01F 27/90
B01F 27/92
B01F 27/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼を構成する攪拌部品であって、
前記回転軸に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボスと、
前記ボスに取り付けられて前記ボスの側方に延びる軸部、及び前記軸部の一端側に取り付けられるパドル部を有するパドル体と、を備え、
前記回転軸の軸心と直交する平面に対する前記パドル部の傾斜角を調整可能とし
、
前記パドル体は、前記回転軸の軸回りに沿って複数備えられていることを特徴とする攪拌部品。
【請求項2】
回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼を構成する攪拌部品であって、
前記回転軸に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボスと、
前記ボスに取り付けられて前記ボスの側方に延びる軸部、及び前記軸部の一端側に取り付けられるパドル部を有するパドル体と、を備え、
前記回転軸の軸心と直交する平面に対する前記パドル部の傾斜角を調整可能とし
、
前記軸部は、その軸回りに回転可能に前記ボスに取り付けられていることを特徴とする攪拌部品。
【請求項3】
回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼を構成する攪拌部品であって、
前記回転軸に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボスと、
前記ボスに取り付けられて前記ボスの側方に延びる軸部、及び前記軸部の一端側に取り付けられるパドル部を有するパドル体と、を備え、
前記回転軸の軸心と直交する平面に対する前記パドル部の傾斜角を調整可能とし
、
前記軸部は、その軸方向に移動可能に前記ボスに取り付けられていることを特徴とする攪拌部品。
【請求項4】
回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼を構成する攪拌部品であって、
前記回転軸に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボスと、
前記ボスに取り付けられて前記ボスの側方に延びる軸部、及び前記軸部の一端側に取り付けられるパドル部を有するパドル体と、を備え、
前記回転軸の軸心と直交する平面に対する前記パドル部の傾斜角を調整可能とし
、
前記回転軸に複数の前記攪拌部品を取り付ける際に、前記回転軸に対する前記ボスの取付位置及び前記パドル部の傾斜角を調整することで、
複数の前記攪拌部品の前記パドル部が前記回転軸の軸方向に沿って配置される第1配置形態と、
複数の前記攪拌部品の前記パドル部が前記回転軸の軸心を中心とするらせん状に配置される第2配置形態と、を選択的に構成可能であることを特徴とする攪拌部品。
【請求項5】
回転軸と、
前記回転軸に軸方向に沿って取り付けられる請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の
複数の攪拌部品と、を備えることを特徴とする攪拌翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌部品及びこれを備える攪拌翼に関し、更に詳しくは、回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼を構成する攪拌部品及びこれを備える攪拌翼に関する。
【背景技術】
【0002】
高粘度流体の混合は層流場になるので困難である。また、大型の攪拌翼が必要となるので、高トルクとなり、機械的強度も必要であり、必然的に高コストになる。さらに幾何形状が単純で壁面掻き取り効果のあるアンカー翼が用いられるケースが多いが、多くのドーナツリング状の未混合領域が発生するため、混合能力はヘリカルリボン翼などに比して格段に劣っている。一方、大型2枚パドル翼は幅広いレイノルズ数で使用可能であるが、Re<50になるとヘリカルリボン翼より若干性能が低く、また降伏応力を持つ流体では壁面近傍の攪拌性能が低い。近年、佐竹化学機械工業(株)の商品名スーパーミックスLR500(例えば、特許文献1、2を参照)はヘリカルリボン翼よりも混合性能が優れ、液面変化にも対応可能なことが見いだされた。さらにその際、中心軸の有無が混合性能に影響することが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-187424号公報
【文献】特開2016-83592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、流体の粘度や攪拌の形態(例えば、固液攪拌、近相系攪拌等)などに応じて良好な混合性能を発揮する攪拌翼の形態(例えば、アンカー翼、パドル翼、ヘリカルリボン翼等)を経験や実績などから類推的に選定することが一般に行われている。しかしながら、流体の粘度や攪拌の形態などに応じて攪拌翼の形態を使い分ける形式では、その開発コストも含め攪拌翼が高コストとなってしまう。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、低コスト化を図りつつ流体の粘度や攪拌の形態などに応じて良好な混合性能を発揮する様々なバリエーションの攪拌翼を容易に構成することができる攪拌部品及びこれを備える攪拌翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、攪拌翼開発の新たな着眼点として低コスト化に着目し、単純な幾何形状で製作が容易な攪拌翼の開発を試みた。そこで、幾何形状として多くの高粘度用攪拌翼が有していた曲面をできるだけ排除すべく、単純なパーツの組み合わせを考えた。ただし、パドル翼の単純な多段化は多数のドーナツリング状の未混合領域を生成するため得策ではない。そこで、パドル部の傾斜角が可変である攪拌部品を複数組み合わせ、攪拌部品を変形(パドル部の傾斜角の変化)及び合体(翼の多段化)させることにより、流体の粘度や攪拌の形態などに応じて良好な混合性能を発揮する様々なバリエーションの攪拌翼に進化させ得ることを知見して、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は以下の通りである。
1.回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼を構成する攪拌部品であって、前記回転軸に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボスと、前記ボスに取り付けられて前記ボスの側方に延びる軸部、及び前記軸部の一端側に取り付けられるパドル部を有するパドル体と、を備え、前記回転軸の軸心と直交する平面に対する前記パドル部の傾斜角を調整可能としたことを特徴とする攪拌部品。
2.前記パドル体は、前記回転軸の軸回りに沿って複数備えられている上記1.に記載の攪拌部品。
3.前記軸部は、その軸回りに回転可能に前記ボスに取り付けられている上記1.又は2.に記載の攪拌部品。
4.前記軸部は、その軸方向に移動可能に前記ボスに取り付けられている上記1.乃至3.のいずれか一項に記載の攪拌部品。
5.前記回転軸に複数の前記攪拌部品を取り付ける際に、前記回転軸に対する前記ボスの取付位置及び前記パドル部の傾斜角を調整することで、複数の前記攪拌部品の前記パドル部が前記回転軸の軸方向に沿って配置される第1配置形態と、複数の前記攪拌部品の前記パドル部が前記回転軸の軸心を中心とするらせん状に配置される第2配置形態と、を選択的に構成可能である上記1.乃至4.のいずれか一項に記載の攪拌部品。
6.回転軸と、前記回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられる上記1.乃至5.のいずれか一項に記載の攪拌部品と、を備えることを特徴とする攪拌翼。
【発明の効果】
【0008】
本発明の攪拌部品によると、回転軸に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボスと、ボスに取り付けられてボスの側方に延びる軸部、及び軸部の一端側に取り付けられるパドル部を有するパドル体と、を備え、回転軸の軸心と直交する平面に対するパドル部の傾斜角を調整可能とした。これにより、回転軸に複数の攪拌部品を取り付ける際に、回転軸に対するボスの取付位置及びパドル部の傾斜角を調整することで、流体の粘度や撹拌の形態などに応じて良好な混合性能を発揮する様々なバリエーションの攪拌翼を容易に構成することができる。
また、前記パドル体が、前記回転軸の軸回りに沿って複数備えられている場合は、より多様な攪拌翼を構成することができる。
また、前記軸部が、その軸回りに回転可能に前記ボスに取り付けられている場合は、ボスに対して軸部を軸回りに回転させることでパドル部の傾斜角が調整される。
また、前記軸部が、その軸方向に移動可能に前記ボスに取り付けられている場合は、ボスに対して軸部を軸方向に移動させることでパドル体の外径寸法が調整される。
さらに、前記回転軸に複数の前記攪拌部品を取り付ける際に、前記回転軸に対する前記ボスの取付位置及び前記パドル部の傾斜角を調整することで、第1配置形態と第2配置形態とを選択的に構成可能である場合は、流体の粘度や撹拌の形態などに応じて第1配置形態又は第2配置形態を適宜選択して構成することができる。
【0009】
本発明の攪拌翼によると、回転軸と、回転軸に軸方向に沿って複数取り付けられる上記攪拌部品と、を備える。これにより、回転軸に複数の攪拌部品を取り付ける際に、回転軸に対するボスの取付位置及びパドル部の傾斜角を調整することで、流体の粘度や撹拌の形態などに応じて良好な混合性能を発揮する様々なバリエーションの攪拌翼を容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】実施例に係る攪拌部品の斜視図であり、(a)は組付状態を示し、(b)は分解状態を示す。
【
図2】攪拌部品を構成するボスを説明するための説明図であり、(a)は斜視図を示し、(b)はb-b線断面図を示す。
【
図3】攪拌部品を構成するパドル体を説明するための説明図であり、(a)は平面図を示し、(b)はb矢視図を示す。
【
図4】攪拌部品の作用説明図であり、(a)は回転軸の軸方向からみた図を示し、(b)はb矢視図を示す。
【
図7】更なる他の形態に係る攪拌翼の斜視図である。
【
図8】更なる他の形態に係る攪拌翼の斜視図である。
【
図9】実験例に係る攪拌翼を用いた固液攪拌性能試験を説明するための説明図であり、(a)は多段傾斜パドル型(傾斜角:60度)の攪拌翼を用いた実験結果を示し、(b)は多段傾斜パドル型(傾斜角:45度)の攪拌翼を用いた実験結果を示し、(c)は多段傾斜パドル型(傾斜角:30度)の攪拌翼を用いた実験結果を示し、(d)はヘリカルリボン風の攪拌翼を用いた実験結果を示す。
【
図10】比較例に係る攪拌翼を用いた固液攪拌性能試験を説明するための説明図であり、(a)はLR500(既存翼)を用いた実験結果を示し、(b)は軸無しヘリカルリボン翼(既存翼)を用いた実験結果を示す。
【
図11】実験例に係る攪拌翼を用いた近相系攪拌性能試験を説明するための説明図であり、(a)は多段傾斜パドル型(傾斜角:30度)の攪拌翼を用いた実験結果を示し、(b)は多段傾斜パドル型(傾斜角:45度)の攪拌翼を用いた実験結果を示し、(c)は多段傾斜パドル型(傾斜角:60度)の攪拌翼を用いた実験結果を示し、(d)はヘリカルリボン風の攪拌翼を用いた実験結果を示す。
【
図12】比較例に係る攪拌翼を用いた近相系攪拌性能試験を説明するための説明図であり、(a)はLR500(既存翼)を用いた実験結果を示し、(b)は軸無しヘリカルリボン翼(既存翼)を用いた実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0012】
<攪拌部品>
本実施形態に係る攪拌部品は、例えば、
図5~
図8に示すように、回転軸2に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼3A~3Dを構成する攪拌部品1である。本攪拌部品1は、例えば、
図1~
図3に示すように、回転軸2に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボス5と、ボス5に取り付けられてボス5の側方に延びる軸部6、及び軸部6の一端側に取り付けられるパドル部7を有するパドル体8と、を備える。そして、例えば、
図4に示すように、回転軸2の軸心と直交する平面Pに対するパドル部7の傾斜角θを調整可能とした。
【0013】
ボス5の材質、形状、大きさ等は特に問わない。ボス5は、例えば、複数の分割部品を組み付けて構成されてもよいが、部品点数低減等の観点から、単一の部品で構成されることが好ましい。さらに、回転軸2へのボス5の取付形態は特に問わないが、例えば、
図1に示すように、ボス5には、回転軸2が挿通される挿通孔11と、一端がボス5の表面に開口し且つ他端が挿通孔11に連なるネジ孔12と、が形成されており、ネジ孔12に螺合されるネジ13の先端が挿通孔11に挿通された回転軸2の外周面を押圧することで回転軸3にボス5が取り付けられることができる。
【0014】
パドル体8の材質、形状、大きさ等は特に問わない。パドル体8は、例えば、1つのみ備えられていてもよいが、攪拌翼の多様性等の観点から、回転軸2の軸回りに沿って複数(特に2~5本)備えられていることが好ましい。特に、攪拌性等の観点から、複数のパドル体8が回転軸2の軸回りに沿って等角度間隔で配置されることが好ましい。
【0015】
パドル体8を構成する軸部6の材質、形状、大きさ等は特に問わず、撹拌形態等に応じて適宜選択される。軸部6は、例えば、鉄、ステンレス鋼、ハステロイ等の金属製であってもよいし、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、PEEK樹脂等の合成樹脂製であってもよい。また、軸部6の形状としては、例えば、直線状、曲線状、屈曲状、湾曲状などが挙げられる。さらに、軸部6は、例えば、中実状であってもよいし、中空状であってもよい。
パドル体8を構成するパドル部7の材質、形状、大きさ等は特に問わず、撹拌形態等に応じて適宜選択される。パドル部6は、例えば、鉄、ステンレス鋼、ハステロイ等の金属製であってもよいし、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、PEEK樹脂等の合成樹脂製であってもよい。さらに、パドル部7の形状としては、例えば、平板状、屈曲板状、湾曲板状などが挙げられる。
パドル体8は、例えば、別部品である軸部6とパドル部7を溶接、溶着、接着、螺合、嵌合等により一体化されたものであってもよいし、鋳造や射出成型等による一体成型品(インサート成型品も含む。)であってもよい。
パドル体8を構成する軸部6は、例えば、その軸回りに回転可能にボス5に取り付けられており、ボス5に対して軸部6を軸回りに回転させることでパドル部7の傾斜角θが調整されることができる(
図4参照)。さらに、軸部6は、例えば、その軸方向に移動可能にボス5に取り付けられており、ボス5に対して軸部6を軸方向に移動させることでパドル体8の外径寸法Dが調整されることができる。
上記の形態では、例えば、
図1に示すように、ボス5には、軸部6が挿入される挿入孔15と、一端がボス5の表面に開口し且つ他端が挿入孔15に連なるネジ孔16と、が形成されており、ネジ孔16に螺合されるネジ17の先端が挿入孔15に挿入された軸部6の外周面を押圧することでボス5に対してパドル体8が取り付けられることができる。
【0016】
本実施形態に係る攪拌部品1としては、例えば、回転軸2に複数の攪拌部品1を取り付ける際に、回転軸2に対するボス5の取付位置及びパドル部7の傾斜角θを調整することで、複数の攪拌部品1のパドル部7が回転軸2の軸方向に沿って配置される第1配置形態A1(
図5、6参照)と、複数の攪拌部品1のパドル部7が回転軸2の軸心を中心とするらせん状に配置される第2配置形態A2(
図7、8参照)と、を選択的に構成可能である形態が挙げられる。
第1配置形態A1を選択した場合、例えば、パドル部7の傾斜角θが鋭角である多段傾斜パドル型の攪拌翼3A(
図5参照)と、パドル部7の傾斜角θが直角であるアンカー風のパドル翼3B(
図6参照)と、を選択的に構成可能である。
第2配置形態A2を選択した場合、例えば、複数の攪拌部品1のパドル部7が連続的ならせん状に配置されるヘリカルリボン風の攪拌翼3C(
図7参照)と、複数の攪拌部品1のパドル部7が間欠的ならせん状に配置されるヘリカルリボン切取風の攪拌翼3D(
図8参照)と、を選択的に構成可能である。
ここで、攪拌の形態としては、例えば、温度均一、濃度均一、蒸留・蒸発、分離防止、被膜形防止などを目的とした均質液系の液液攪拌、混合・調合、溶解、希釈、反応などを目的とした異質液系(相互溶解)の液液攪拌、分散、乳化、洗浄、抽出、反応などを目的とした異質液系(相互不溶解)の液液攪拌、溶解、分散、浮遊防止、沈降防止、洗浄、抽出、破砕などを目的とした液固攪拌、吸収反応、分散(曝気、脱気、脱臭、浮遊選鉱など)、反応(酸化、硫化など)、発酵などを目的とした液気攪拌が挙げられる。このような多様な攪拌の形態において攪拌液の粘度等も様々なものとなるが、本攪拌部品1を複数組み合わせることで、攪拌の形態や攪拌液の粘度等に適した無限のバリエーションの攪拌翼を容易に構成することができる。
【0017】
<攪拌翼>
本実施形態に係る攪拌翼3A~3Dは、例えば、
図5~
図8に示すように、回転軸2と、回転軸2に軸方向に沿って複数取り付けられる上記の実施形態に係る攪拌部品1と、を備える。この攪拌部品1の取付個数や隣り合う攪拌部品1の間隔は特に問わない。
本攪拌翼3A~3Dは、通常、撹拌槽19内に配置されて使用される。
回転軸2は、例えば、モータ等の駆動部により一方向又は両方向へ回転されることができる。さらに、回転軸2は、例えば、撹拌槽19の中心に沿って配置されてもよいし、撹拌槽19の中心と平行に配置されてもよいし、撹拌槽19の中心に対して傾斜して配置されていてもよい。
【0018】
なお、上記実施形態で記載した各構成の符号は、後述する実施例に記載の具体的構成との対応関係を示すものである。
【実施例】
【0019】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
【0020】
本実施例に係る攪拌部品1は、回転軸2に軸方向に沿って複数取り付けられて攪拌翼3A~3D(
図5~
図8参照)を構成するものである。この攪拌部品1は、
図1に示すように、回転軸2に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボス5と、ボス5に取り付けられてボス5の側方に延びる軸部6、及び軸部6の一端側に取り付けられるパドル部7を有するパドル体8と、を備えている。
なお、回転軸2は、駆動モータ(図示省略)により回転駆動される。
【0021】
ボス5は、金属製で円筒状に形成されている。このボス5には、
図1及び
図2に示すように、回転軸2が挿通される挿通孔11と、一端がボス5の外周面に開口し且つ他端が挿通孔11に連なるネジ孔12と、が形成されている。このネジ孔12に螺合されるネジ(セットネジ)13の先端が挿通孔11に挿通された回転軸2の外周面を押圧することで回転軸2に対してボス5が取り付けられる。さらに、ボス5には、パドル体8の軸部6が挿入される挿入孔15と、一端がボス5の外周面に開口し且つ他端が挿入孔15に連なるネジ孔16と、が形成されている。このネジ孔16に螺合されるネジ(セットネジ)17の先端が挿入孔15に挿入された軸部6の外周面を押圧することでボス5に対してパドル体8が取り付けられる。
【0022】
パドル体8を構成する軸部6は、
図1及び
図3に示すように、金属製であり棒状に形成されている。この軸部6は、ボス5の挿入孔15に挿入されてその軸回りに回転可能に取り付けられている。また、パドル体8を構成するパドル部7は、金属製であり板状に形成されている。このパドル部7は、軸部6の一端側に溶接等により固定されている。さらに、パドル体8は、1つのボス5に対して回転軸2の軸回りに沿って等角度間隔(図中で180度)で複数(図中で2つ)備えられている。
【0023】
ここで、
図4に示すように、回転軸2に対してボス5を軸回りに回転及び軸方向に移動させることで、回転軸2に対するボス5の取付位置(具体的に、回転軸2の軸回り及び軸方向のボス5の取付位置)が調整可能とされている。また、ボス5に対して軸部6を軸回りに回転させることで、回転軸2の軸心Cと直交する平面P(具体的に水平面)に対するパドル部7の傾斜角θが調整可能とされている。さらに、ボス5に対して軸部6を軸方向に移動させることで、パドル体8の外径寸法D(
図1参照)が調整可能とされている。
【0024】
次に、上記構成の攪拌部品1を用いて構成される攪拌翼3A~3Dについて説明する。これら攪拌翼3A~3Dは、
図5~
図8に示すように、回転軸2と、回転軸2に軸方向に沿って取り付けられる複数の攪拌部品1と、を備えている。これら攪拌翼3A~3Dは、回転軸2に対するボス5の取付位置及びパドル部7の傾斜角θを調整することで1つを選択して構成することができる。
なお、攪拌翼3A~3Dは、流体(攪拌対象物)が投入される攪拌槽19内に配置される。
【0025】
攪拌翼3Aは、複数の攪拌部品1のパドル部7が回転軸2の軸方向に沿って配置される第1配置形態A1をなす多段傾斜パドル型の攪拌翼3Aである(
図5参照)。この攪拌翼3Aでは、パドル部7の傾斜角θが鋭角とされている。また、攪拌翼3Bは、複数の攪拌部品1のパドル部7が回転軸2の軸方向に沿って配置される第1配置形態A1をなすアンカー風の攪拌翼3Bである(
図6参照)。この攪拌翼3Bでは、パドル部7の傾斜角θが直角とされている。さらに、上下に隣り合う攪拌部品1のパドル部7の縁同士は、略隙間なく近接して配置されている。
【0026】
撹拌翼3Cは、複数の攪拌部品のパドル部が回転軸の軸心を中心とする連続的ならせん状に配置される第2配置形態A2をなすヘリカルリボン風の攪拌翼3Cである(
図7参照)。この攪拌翼3Cでは、上下に隣り合う攪拌部品1のパドル部7の縁同士は、略隙間なく近接して配置されている。また、撹拌翼3Dは、複数の攪拌部品1のパドル部7が回転軸2の軸心を中心とする間欠的ならせん状に配置される第2配置形態A2をなすヘリカルリボン切取風の攪拌翼3Dである(
図8参照)。この攪拌翼3Dでは、上下に隣り合う攪拌部品1のパドル部7の縁同士は、略隙間なく近接して配置されている。
【0027】
以上より、本実施例の攪拌部品1によると、回転軸2に軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能に取り付けられるボス5と、ボス5に取り付けられてボス5の側方に延びる軸部6、及び軸部6の一端側に取り付けられるパドル部7を有するパドル体8と、を備え、回転軸2の軸心Cと直交する平面Pに対するパドル部7の傾斜角θを調整可能とした。これにより、回転軸2に複数の攪拌部品1を取り付ける際に、回転軸2に対するボス5の取付位置及びパドル部7の傾斜角θを調整することができる。そのため、単純形状の攪拌部品1を組み合わせることで流体の粘度や攪拌の形態に適した無限のバリエーションの攪拌翼を生み出すことができる。
【0028】
次に、実験例及び比較例の攪拌翼を用いた固液攪拌性能試験について説明する。
本試験では、攪拌槽としてアクリル樹脂製平底円筒槽(槽径:D=0.15m、液高さ:H=0.15m)を用い、攪拌液としてグリセリン(密度:ρ=1256kg・m-3、粘度:μ=1.0Pa・s)を用いた。さらに、回転軸の回転数を32rpmとし、沈降性粒子としてガラスビーズ(比重:2.5、体積比率:30vol%)を用い、液温を21.8~22.3℃とし、攪拌翼の翼径(d/D)を0.97とした。そして、液体中に沈降したガラスビーズが分散されるまでの時間を測定した。
【0029】
実験例の攪拌翼として、上記の多段傾斜パドル型の攪拌翼3A(傾斜角:60度、45度、30度)と上記のヘリカルリボン風の攪拌翼3C(傾斜角:22度)とを用いた。さらに、比較例の攪拌翼として、佐竹化学機械工業(株)の商品名スーパーミックスLR500(既存翼)と軸無しヘリカルリボン翼(既存翼)とを用いた。
【0030】
その結果、実験例の攪拌翼3A(傾斜角:60度)では、攪拌開始から約5分経過でガラスビーズの分散が認められた(
図9(a)参照)。また、実験例の攪拌翼3A(傾斜角:45度)では、攪拌開始から約10分経過でガラスビーズの分散が認められた(
図9(b)参照)。また、実験例の攪拌翼3A(傾斜角:30度)では、攪拌開始から約30分経過でガラスビーズの分散が認められた(
図9(c)参照)。さらに、実験例の攪拌翼3Cでは、攪拌開始から約90秒経過でガラスビーズの分散が認められた(
図9(d)参照)。
一方、比較例のLR500(既存翼)では、攪拌開始から約90秒経過でガラスビーズの分散が認められた(
図10(a)参照)。さらに、比較例の軸無しヘリカルリボン翼(既存翼)では、攪拌開始から約5分経過でガラスビーズの分散が認められた(
図10(b)参照)。
【0031】
実験例の攪拌翼3Aでは、パドル部7の傾斜角θによって性能に差が生じるが、攪拌翼3A(傾斜角:60度)は比較例の軸無しヘリカルリボン翼(既存翼)と比較してほぼ同等の混合性能を持つことがわかった。さらに、実験例の攪拌翼3Cは、一般的に高性能と考えられる比較例のLR500(既存翼)とも同等の混合性能を発揮することがわかった。
このように、パーツ数の少ない実験例の攪拌翼3A、3Cが単純形状で良好な混合性能を発揮したことから、大幅なコストダウンにつながると考えられる。
【0032】
次に、実験例及び比較例の攪拌翼を用いた近相系攪拌性能試験について説明する。
本試験では、攪拌槽としてアクリル樹脂製平底円筒槽(槽径:D=0.15m、液高さ:H=0.15m、容量:2.65L)を用い、回転軸の回転数を30rpmとし、攪拌液としてグリセリン(密度:ρ=1256kg・m-3、粘度:μ=0.6Pa・s)を用いた。また、脱色法として、デンプン(1.0g/L)、ヨウ素(0.7ml/L)、チオ硫酸(2.0ml/L)を回転軸の横に添加した。さらに、液温を22.5~22.7℃とし、攪拌翼の翼径(d/D)を0.97とした。そして、ヨウ素の色を付けた液体と脱色剤(チオ硫酸)を混ぜた液体を混合して、ヨウ素の色が消えるまでの時間を測定した。
なお、実験例及び比較例の攪拌翼としては、上記の固液攪拌性能試験と同じ攪拌翼を用いた。
【0033】
その結果、表1に示すように、実験例の攪拌翼3A(傾斜角:60度)では、攪拌開始から約300秒経過でヨウ素の色の消失が認められた(
図11(c)参照)。また、実験例の攪拌翼3A(傾斜角:45度)では、攪拌開始から約190秒経過でヨウ素の色の消失が認められた(
図11(b)参照)。また、実験例の攪拌翼3A(傾斜角:30度)では、攪拌開始から約270秒経過でヨウ素の色の消失が認められた(
図11(a)参照)。さらに、実験例の攪拌翼3Cでは、攪拌開始から約190秒経過でヨウ素の色の消失が認められた(
図11(d)参照)。
一方、比較例のLR500(既存翼)では、攪拌開始から約130秒経過でヨウ素の色の消失が認められた(
図12(a)参照)。さらに、比較例の軸無しヘリカルリボン翼(既存翼)では、攪拌開始から約190秒経過でヨウ素の色の消失が認められた(
図12(b)参照)。
【0034】
【0035】
表1に示した数字は、Pv(単位体積当たりの動力)が小さく、混合時間が小さいほど混合性能が高いことを示すものである。実験例の攪拌翼3Aでは、パドル部7の傾斜角θによって性能に差が生じ、傾斜角θが45度の攪拌翼3Aの混合性能が最もよかった。また、比較例のLR500(既存翼)には及ばなかったが、比較例の軸無しヘリカルリボン翼(既存翼)と比較してほぼ同等の性能を発揮した。
このように、パーツ数の少ない実験例の攪拌翼3A、3Cが単純形状で良好な混合性能を発揮したことから、大幅なコストダウンにつながると考えられる。
【0036】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更することができる。すなわち、上記実施例では、パドル体8の軸部6が軸方向に移動可能にボス5に取り付けられる攪拌部品1を例示したが、これに限定されず、例えば、パドル体8の軸部6が軸方向に移動不能にボス5に取り付けられる攪拌部品1としてもよい。
【0037】
また、上記実施例では、複数のパドル体8の各軸部6が同一の直線上に配置される攪拌部品1を例示したが、これに限定されず、例えば、
図13に示すように、複数のパドル体8の各軸部6が互いに平行に配置される攪拌部品1としてもよい。この場合、パドル体8の外径寸法Dをより大きな範囲で調整することができる。
【0038】
また、上記実施例では、回転軸2に対するボス5の取付形態やボス5に対するパドル体8の取付形態としてセットネジ13、17を例示したが、これに限定されず、例えば、嵌合、クランプ機構、他のネジ等の取付形態を採用してもよい。さらに、上記実施例において、回転軸2に対してボス5をスプライン結合させたり、ボス5に対してパドル体8の軸部6をスプライン結合させたりしてもよい。
【0039】
また、上記実施例では、ボス5に対してパドル体8の軸部6を軸回りに回転させることでパドル部7の傾斜角θを調整する攪拌部品1を例示したが、これに限定されず、例えば、パドル体8の軸部6の一端側にパドル部7を軸回りに回転可能に設け、軸部6に対してパドル部7を軸回りに回転させることでパドル部7の傾斜角θを調整する攪拌部品1としてもよい。
【0040】
また、上記実施例では、複数のパドル体8においてパドル部7の傾斜角θをそれぞれ調整する攪拌部品1を例示したが、これに限定されず、例えば、複数のパドル体8において各パドル部7の傾斜角θを同時に調整する調整機構(例えば、ギヤ機構)を備える攪拌部品1としてもよい。
【0041】
さらに、上記実施例では、上下に隣り合う攪拌部品1のボス5が回転軸2の軸方向に離間して配置される攪拌翼3Aを例示したが、これに限定されず、例えば、
図14に示すように、上下に隣り合う攪拌部品1のボス5が回転軸2の軸方向に近接して配置される攪拌翼3Aとしてもよい。
【0042】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、流体を攪拌する技術として広く利用される。特に、一般化学工業、石油化学工業、樹脂工業、ゴム工業、接着剤工業、塗料インク工業、磁気材工業、製紙工業、医薬品工業、食品工業、醗酵醸造業、鉱業、窯業、環境設備、土木建設業、エネルギ関連等の各種分野の攪拌技術として好適に利用される。
【符号の説明】
【0044】
1;攪拌部品、2;回転軸、3A~3D;攪拌翼、5;ボス、6;軸部、7;パドル部、8;パドル体、A1;第1配置形態、A2;第2配置形態、C;回転軸の軸心、P;平面、θ;パドル部の傾斜角、D;パドル体の外径寸法。