(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】工具判定装置および工具判定方法
(51)【国際特許分類】
B24B 49/12 20060101AFI20241001BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20241001BHJP
B24D 11/00 20060101ALI20241001BHJP
B24D 5/00 20060101ALI20241001BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20241001BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241001BHJP
【FI】
B24B49/12
B24B27/06 H
B24D11/00 G
B24D5/00 Z
B23Q17/24 A
G06T7/00 350B
(21)【出願番号】P 2021198084
(22)【出願日】2021-12-06
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000150604
【氏名又は名称】株式会社ナガセインテグレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 幸泰
(72)【発明者】
【氏名】板津 武志
(72)【発明者】
【氏名】井村 諒介
(72)【発明者】
【氏名】川下 智幸
(72)【発明者】
【氏名】坂口 彰浩
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-019087(JP,A)
【文献】特開2021-028739(JP,A)
【文献】特開2020-009141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/12
B24B 27/06
B24D 11/00
B24D 5/00
B23Q 17/24
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置による加工に利用される工具であって、且つ、加工面が同加工面の移動方向に延びる長尺状をなす前記工具に適用されて、前記加工面の状態を判定する工具判定装置において、
前記加工面を撮像した画像から前記移動方向に延びる画像が切り取られるとともに当該切り取られた画像が前記移動方向に交差する方向に複数並べられて繋ぎ合わされた状態の画像からなる教師データによって学習された学習器を記憶する記憶部と、
判定対象の前記加工面を撮像した画像から前記移動方向に延びる画像が切り取られるとともに当該切り取られた画像が前記移動方向と交差する方向に複数並べられて繋ぎ合わされた状態の画像を、判定画像として記憶する入力部と、
前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記加工面の状態の指標値を出力する状態出力部と、
を備える工具判定装置。
【請求項2】
前記工具は、外面が前記加工面をなすワイヤ状のものであり、
前記教師データおよび前記判定画像は、前記加工面を撮像した画像から同加工面が写っていない部分を取り除く態様で前記移動方向に延びる画像が切り取られるとともに当該切り取られた画像が前記移動方向に交差する方向に複数並べられて繋ぎ合わされた状態の画像からなる
請求項1に記載の工具判定装置。
【請求項3】
前記工具は、複数の砥粒が結合剤によって固着された構造の回転砥石であり、
前記教師データおよび前記判定画像は、前記回転砥石の前記加工面における前記移動方向に延びる部分に関する情報を含む画像からなる
請求項1に記載の工具判定装置。
【請求項4】
加工装置による加工に利用される工具であって、且つ、加工面が同加工面の移動方向に延びる長尺状をなす工具に適用されて、前記加工面の状態を判定する工具判定方法であって、
前記加工面を撮像した画像を取得し、該取得した画像から前記移動方向に延びる画像を切り取るとともに当該切り取った画像を前記移動方向に交差する方向に複数並べて繋ぎ合わせた画像を生成し、同生成した画像からなる教師データによって学習器を学習させた後に、同学習器を工具判定装置の記憶部に記憶させる記憶工程と、
判定対象の前記加工面を撮像した画像を取得し、該取得した画像から前記移動方向に延びる画像を切り取るとともに当該切り取った画像を前記移動方向と交差する方向に複数並べて繋ぎ合わせた画像を生成し、同作成した画像を判定画像として前記工具判定装置の入力部に記憶させる入力工程と、
前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記加工面の状態の指標値を出力する状態出力工程と、
を備える工具判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具の加工面の撮像画像をもとに同加工面の状態を判定する工具判定装置および工具判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工装置に用いられる工具は、研削加工装置における回転砥石やワイヤソーにおけるダイヤモンドワイヤなど、多種多様である。加工装置による加工に際しては、そうした工具の加工面の状態により、ワークの加工面の仕上げ品質が左右される。
【0003】
従来、工具の加工面の状態を判定する工具判定装置が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の装置では、カメラを装着した金属顕微鏡を用いて工具の加工面が撮像されるとともに、その撮像データをもとに加工面の状態が判定される。
【0004】
近年、機械学習モデルを用いて、工具の加工面の状態を判定する工具判定装置等も提案されている。この装置では、先ず、カメラによって工具の加工面が撮像されるとともに、その撮像画像を教師データとして用いて学習器が学習される。そして、工具の加工面を判定する際には、判定対象の工具の加工面が撮像されるとともに、その撮像画像を入力データとして、学習済みの学習器から出力データが取得される。上記装置では、この出力データをもとに、判定対象の工具の加工面の状態が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加工装置に用いられる工具のうち、回転砥石やダイヤモンドワイヤは、加工面がその移動方向(具体的には、回転砥石の回転方向、あるいはダイヤモンドワイヤの軸線方向)において長尺状をなしている。
【0007】
上記工具判定装置において、こうした長尺状の加工面の全体を判定するためには、加工面の移動方向において区切られた撮像範囲毎にカメラによって同加工面を撮像するなどして、多数の撮像画像を取得する必要がある。この場合には、多数の撮像画像をもとに工具の加工面の判定を行うこととなるため、その判定に時間がかかってしまう。
【0008】
カメラの撮像範囲を広くすることにより、撮像画像の数を減らすことはできる。ただし、この場合には、カメラの撮像範囲が広くなる分だけ撮像画像が粗いデータになることで、同撮像画像に現れる「加工面における特徴的な状態の部分」を見つけにくくなるため、判定精度の低下が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための工具判定装置は、加工装置による加工に利用される工具であって、且つ、加工面が同加工面の移動方向に延びる長尺状をなす前記工具に適用されて、前記加工面の状態を判定する工具判定装置において、前記加工面を撮像した画像から前記移動方向に延びる画像が切り取られるとともに当該切り取られた画像が前記移動方向に交差する方向に複数並べられて繋ぎ合わされた状態の画像からなる教師データによって学習された学習器を記憶する記憶部と、判定対象の前記加工面を撮像した画像から前記移動方向に延びる画像が切り取られるとともに当該切り取られた画像が前記移動方向と交差する方向に複数並べられて繋ぎ合わされた状態の画像を、判定画像として記憶する入力部と、前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記加工面の状態の指標値を出力する状態出力部と、を備える。
【0010】
前記課題を解決するための工具判定方法は、加工装置による加工に利用される工具であって、且つ、加工面が同加工面の移動方向に延びる長尺状をなす工具に適用されて、前記加工面の状態を判定する工具判定方法であって、前記加工面を撮像した画像を取得し、該取得した画像から前記移動方向に延びる画像を切り取るとともに当該切り取った画像を前記移動方向に交差する方向に複数並べて繋ぎ合わせた画像を生成し、同生成した画像からなる教師データによって学習器を学習させた後に、同学習器を工具判定装置の記憶部に記憶させる記憶工程と、判定対象の前記加工面を撮像した画像を取得し、該取得した画像から前記移動方向に延びる画像を切り取るとともに当該切り取った画像を前記移動方向と交差する方向に複数並べて繋ぎ合わせた画像を生成し、同作成した画像を判定画像として前記工具判定装置の入力部に記憶させる入力工程と、前記判定画像を入力データとして、前記記憶部に記憶された学習済みの学習器から、前記判定画像に対応する前記加工面の状態の指標値を出力する状態出力工程と、を備える。
【0011】
上記工具判定装置、および工具判定方法によれば、カメラによって工具の加工面を撮像した画像から同加工面に現れる「特徴的な状態の部分」を含む部分を集めて繋ぎ合わせた画像を、教師データや判定画像として利用することができる。これにより、カメラの撮像範囲を狭くして細かい撮像画像を取得することが可能になるとともに、上記「特徴的な状態の部分」を多く含む画像を上記教師データや判定画像にすることが可能になる。したがって、教師データによって学習器を学習させる処理や、学習済みの学習器を利用して加工面の状態を判定する処理を、短い時間、且つ高い精度で実行することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工具の加工面を短い時間、且つ高い精度で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態の工具判定装置の概略構成図である。
【
図2】同工具判定装置が適用されるワイヤソーの加工用ローラおよびワイヤを示す平面図である。
【
図3】教師データや判定画像の生成手順を説明するための説明図である。
【
図4】学習器の学習態様を説明するための説明図である。
【
図5】学習器から出力される生成誤差を説明するための説明図である。
【
図7】(a)~(e)はワイヤの状態の一例を示す側面図である。
【
図8】作動制御処理の実行手順を示すフローチャートである。
【
図9】(a)~(c)はワイヤの加工面における砥粒の分散状態の一例を示す側面図である。
【
図10】他の実施形態の工具判定装置が適用されるワイヤ放電加工装置の概略構成を示す略図である。
【
図11】その他の実施形態の工具判定装置が適用される研削加工装置の概略構成を示す略図である。
【
図12】同実施形態での教師データや判定画像の生成手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、工具判定装置および工具判定方法の一実施形態について、
図1~
図8を参照しつつ説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態の工具判定装置20は、ワイヤソー10による加工に利用されるダイヤモンドワイヤ(以下、ワイヤ11)に適用される。
【0015】
<ワイヤソー10>
以下、加工装置としてのワイヤソー10について説明する。
ワイヤソー10は、上記ワイヤ11が巻き付けられる一対のリール12,13を有している。これらリール12,13は平行に延びる軸線を中心に回転可能に支持されている。またワイヤソー10は、一対の加工用ローラ14,15を有している。加工用ローラ14,15は、平行に延びる軸線を中心に回転可能に支持されている。加工用ローラ14,15の外周面には、多数の環状溝141,151が一定ピッチで形成されている。ワイヤソー10では、一本のワイヤ11が加工用ローラ14,15の環状溝141,151間に架設状態で周回されている。
【0016】
リール12には回転駆動部16が接続されている。回転駆動部16は、リール12を回転駆動するサーボモータ16Mと、同サーボモータ16Mの回転位相や回転速度を検出するためのエンコーダ16Eと、サーボモータ16Mの作動を制御するモータ制御装置16Cとを有している。リール13には回転駆動部17が接続されている。回転駆動部17は、リール13を回転駆動するサーボモータ17Mと、同サーボモータ17Mの回転位相や回転速度を検出するためのエンコーダ17Eと、サーボモータ17Mの作動を制御するモータ制御装置17Cとを有している。
【0017】
ワイヤソー10によるワークW1の加工に際しては、回転駆動部16,17の作動制御を通じて、リール12,13が回転駆動される。これにより、リール12,13に巻き付けられているワイヤ11が、加工用ローラ14,15上に導かれるとともに、両加工用ローラ14,15間で周回走行するようになる。
【0018】
ワイヤソー10は、ワークW1を着脱可能な状態で支持する支持部18を有している。支持部18は、加工用ローラ14,15間におけるワイヤ11の上方に配置されている。支持部18は、ワイヤ11に近づく方向(
図1の下方)や同ワイヤ11から離間する方向(
図1の上方)に移動可能な構造になっている。
【0019】
ワイヤソー10は電子制御装置30を有している。電子制御装置30には回転駆動部16,17が接続されている。電子制御装置30はCPU31と、ROM32と、RAM33と、各種のプログラムやデータを記憶する記憶部34とを有している。記憶部34は、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブ等の随時書き込み読み出しが可能な不揮発性メモリによって構成されている。電子制御装置30は、各種のプログラムやデータに基づいて各種の演算処理を実行するように構成されている。電子制御装置30は、その演算結果をもとに、回転駆動部16,17の作動制御を実行する。
【0020】
本実施形態では、回転駆動部16,17の作動制御を通じて、ワイヤソー10が以下に記載する[往動]と[復動]とを交互に繰り返すように動作(いわゆるトラバース動作)するようになっている。
【0021】
[往動]所定長さLGのワイヤ11がリール12から繰り出されるとともにリール13に巻き取られる。
[復動]所定長さLB(ただし、LG>LB)のワイヤ11がリール12に巻き取られるとともにリール13から繰り出される。
【0022】
上記回転駆動部16,17の作動制御では、上記[往動]と[復動]とが切り替えられる期間を除き、ワイヤ11の移動速度は略一定になるように調整される。本実施形態では、こうしたワイヤソー10の作動が実現される実行プログラムが定められるとともに電子制御装置30の記憶部34に予め記憶されている。
【0023】
ワイヤソー10によるワークW1の加工は次のように実行される。先ず、回転駆動部16,17の作動制御を通じて、加工用ローラ14,15間においてワイヤ11が周回走行する状態にされる。その後、支持部18の下部にワークW1を支持させた状態で、
図1中に白抜きの矢印で示すように、同支持部18が下降される。これにより、ワークW1がワイヤ11に押し付けられるようになるため、同ワイヤ11によってワークW1が切断されるようになる。このときワイヤ11は、リール12から所定長さLGだけ繰り出された後に同リール12に所定長さLBだけ巻き取られるといったようにトラバース動作する。このトラバース動作を通じて、ワイヤ11によるワークW1の切断加工が進行される。
【0024】
<工具判定装置20>
次に、本実施形態の工具判定装置20について説明する。
工具判定装置20は、ワイヤ11の外面(以下、加工面40)の状態を判定するための装置である。工具判定装置20は、ワイヤ11の加工面40をカメラ21によって撮像するとともに、その撮像画像(詳しくは、後述する判定画像50)を入力データとして学習済みの学習器51を利用することで、加工面40の状態を判定する。
【0025】
<カメラ21>
工具判定装置20は、ワイヤ11の加工面40を撮像するためのカメラ21を有している。カメラ21は、リール12と加工用ローラ14との間に、その撮像部分がワイヤ11の加工面40に対向する状態で配置されている。カメラ21は前記電子制御装置30に接続されている。電子制御装置30により、カメラ21の作動制御が実行される。カメラ21によって撮像された画像は、電子制御装置30の記憶部34に記憶される。
【0026】
<電子制御装置30>
電子制御装置30の記憶部34は、各種の実行プログラム52を記憶する記憶領域や、学習器51の機械学習に利用される教師データ53を記憶する記憶領域を有している。記憶部34は、学習済みの学習器51(詳しくは、機械学習の実行を通じて作成された学習データ)を記憶する記憶領域を有している。また記憶部34は、判定対象のワイヤ11の加工面40を撮像した画像(詳しくは、後述する判定画像50)を記憶する入力部としての記憶領域や、ワイヤ11の加工面40の状態を判定した結果を示す判定結果データ54を記憶する記憶領域を有している。
【0027】
電子制御装置30は、各種の演算結果をもとに、ワイヤ11の加工面40の状態の判定にかかる各種処理を実行する。本実施形態では、CPU31とROM32とRAM33とを有する制御部が状態出力部に相当する。
【0028】
実行プログラム52は、学習器51の機械学習を実行させるとともに同機械学習の実行結果を示すデータである学習データを生成させるためのプログラムを含んでいる。また、実行プログラム52は、カメラ21による撮像画像をもとに判定画像50を生成させるための画像生成プログラムを含んでいる。さらに実行プログラム52は、ワイヤ11の加工面40の状態の判定にかかる処理(判定処理)を実行させるための判定プログラムを含んでいる。
【0029】
教師データ53は、ワイヤ11の加工面40の状態を判定する能力を獲得するように、学習器51の機械学習を行うためのデータである。
<画像の生成>
本実施形態では、教師データ53を構成する画像や判定画像50として、カメラ21によって撮像した画像をそのまま用いるのではなく、複数の撮像画像を加工して1枚の画像にしたものが用いられる。以下、教師データ53を構成する画像や判定画像50を生成する手順について説明する。
【0030】
本実施形態では、ワイヤソー10を作動させた状況下、すなわちワイヤ11が移動(走行)している状況下において、予め定められた撮像パターンで、カメラ21によるワイヤ11の加工面40の撮像が実行される。具体的には、所定の時間間隔でのカメラ21による撮像がワイヤソー10の作動中に実行される。そして、カメラ21によって撮像された撮像画像は、電子制御装置30の記憶部34に記憶されている。
【0031】
図3に示すように、教師データ53や判定画像50を生成する際には、電子制御装置30の記憶部34に記憶されている撮像画像の中から3枚の撮像画像PA,PB,PCが取得される。そして、各撮像画像PA,PB,PCから、上記ワイヤ11が写っていない部分を取り除く態様で、上記ワイヤ11の軸線方向(
図3の左右方向)に延びる画像PPA,PPB,PPCが切り取られる。具体的には、各画像PA,PB,PCにおける上記ワイヤ11が写っている部分(
図3の上下方向の中央部分)を残すとともに縦横比が[3:1]になる態様で、画像PPA,PPB,PPCは切り取られる。その後、これら画像PPA,PPB,PPCを上記移動方向と交差(本実施形態では、直交)する方向(
図3の上下方向)に並べて繋ぎ合わせることで、矩形状の1枚の画像PTが生成される。本実施形態では、このようにして生成された画像PTが、教師データ53を構成する画像や判定画像50として用いられる。
【0032】
本実施形態では、教師データ53を構成する画像を生成する場合には、その生成が次のように実行される。この場合には、未使用の状態のワイヤ11が用意されるとともに、同ワイヤ11がワイヤソー10に取り付けられる。そして、ワークW1の加工を行わない態様で、ワイヤソー10が作動される。この状態で、カメラ21によるワイヤ11の加工面40の撮像が実行されるとともに、撮像画像が電子制御装置30の記憶部34に記憶される。そして、このようにして電子制御装置30の記憶部34に記憶された撮像画像の中から3枚の撮像画像PA,PB,PCが取得されるとともに、それら撮像画像PA,PB,PCから矩形状の1枚の画像PTが生成される。この画像PTが、教師データ53を構成する画像として用いられる。なお、教師データ53を構成する画像(上記画像PT)を取得する際には、本実施形態のワイヤソー10および工具判定装置20を利用することの他、別途の装置を利用することも可能である。
【0033】
本実施形態では、判定画像50を生成する場合には、その生成が次のように実行される。この場合には、ワークW1の加工を行うべくワイヤソー10を作動させた状態で、カメラ21によるワイヤ11の加工面40の撮像が実行されるとともに、その撮像画像が電子制御装置30の記憶部34に記憶される。そして、このようにして電子制御装置30の記憶部34に記憶された撮像画像の中から3枚の撮像画像PA,PB,PCが取得されるとともに、それら撮像画像PA,PB,PCから矩形状の1枚の画像PTが生成される。この画像PTが、判定画像50として、電子制御装置30の記憶部34に記憶される。本実施形態では、このようにして判定画像50を生成して電子制御装置30の記憶部34に記憶させる工程が入力工程に相当する。
【0034】
<学習器51>
図1に示すように、本実施形態では、学習器51として、敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks:GAN)が採用されている。本実施形態では、記憶部34に記憶された教師データ53をもとに学習器51の機械学習が実行される。詳しくは、教師データ53を構成する複数の画像の一つを抽出するとともに同画像を入力データとして学習器51を機械学習させるといった学習処理が、教師データ53を構成する画像毎に繰り返し実行される。そして、機械学習の実行を通じて作成された学習データが記憶部34に記憶される。本実施形態では、こうした学習器51の機械学習にかかる一連の処理が自動的に実行されるように、実行プログラム52が構築されて記憶部34に記憶されている。本実施形態では、このようにして学習器51の機械学習を実行する工程が記憶工程に相当する。
【0035】
図4に概念的に示すように、学習器51の機械学習は、詳しくは、入力データと、同入力データをもとに学習器51によって生成される生成画像データとを同一の画像を示すデータ(画像データA)にする態様で実行される。そして、学習済みの学習器51からは、入力データと生成画像データとの差分に相当する値(以下、生成誤差ΔP)が出力される。これにより、学習器51が適正に学習されている場合には、判定対象のワイヤ11(詳しくは、その加工面40)の状態を判定する判定処理が実行されると、学習器51から以下の値(生成誤差ΔP)が出力される。本実施形態では、生成誤差ΔPが判定画像50に対応する加工面40の状態の指標値に相当し、生成誤差ΔPを出力する工程が状態出力工程に相当する。
【0036】
判定対象のワイヤ11の加工面40が未使用の状態である場合には、入力データ(判定画像50)と学習器51によって生成される生成画像データとが略同一になる。そのため、この場合には学習器51から出力される生成誤差ΔPはごく小さい値(例えば「0」)になる。
【0037】
一方、ワイヤ11がある程度使用されて加工面40が劣化した状態になっている場合には、入力データ(判定画像50)と生成画像データとが一致しなくなる。この場合には、
図5に示すように、学習器51から出力される生成誤差ΔPは、入力データと生成画像データとの差分に応じた「正の値」になる。しかも、この場合には、実際の状態と未使用の状態との差が大きいときほど、入力データと生成画像データとの差分が大きくなるため、学習器51から出力される生成誤差ΔPも大きい値になる。したがって、学習器51を利用した判定処理では、生成誤差ΔPが大きい値であるときほどワイヤ11の加工面40の劣化が進んでいると判断することができる。
【0038】
<ワイヤ11の状態>
図6に示すように、ワイヤ11は、金属線からなる芯材の外面に複数の砥粒41が結合剤43によって固着された構造をなしている。ワイヤ11の加工面40は上記移動方向に延びる長尺状をなしている。ワイヤ11の使用に伴い、同ワイヤ11の加工面40の状態は、次のように変化する。
【0039】
図7(a)に示すように、未使用状態のワイヤ11は、砥粒41が摩耗していないため、同砥粒41の突端が尖った状態になっている。
図7(b)に示すように、ワイヤ11の使用に伴って加工面40が劣化すると、砥粒41の突端が徐々に平坦になる。
図7(c)に示すように、ワイヤ11の加工面40の劣化が進むと、同ワイヤ11における結合剤43の層からの砥粒41の突出量が小さくなる。さらにワイヤ11の加工面40の劣化が進むと、
図7(d)に示すように、同ワイヤ11における結合剤43の層がひび割れてしまったり、
図7(e)に示すように、結合剤43の層の一部が剥落してしまったりする。その他、ワイヤ11の使用に伴い、結合剤43の表面に削りカスが付着したり同結合剤43の表面が削られたりすることで、ワイヤ11の加工面40の最外周面において移動方向に延びる部分が現れたりもする。本実施形態では、ワイヤ11の使用に伴って同ワイヤ11の加工面40に現れる「特徴的な状態の部分」を捉えることで、同加工面40の状態の判定を行うことができる。
【0040】
<統計的処理>
本実施形態では、ワイヤ11の加工面40を判定する際には、「生成誤差ΔP」に統計的処理を施すことによってワイヤ11の状態についての指標値が算出される。本実施形態では、上記指標値としては、予め定められた所定期間Tにおいて学習器51から出力されて電子制御装置30の記憶部34に記憶された「生成誤差ΔP」の中央値が算出される。そして、この指標値をもとにワイヤ11の加工面40の状態が判定される。上述したように「生成誤差ΔP」が大きい値であるときほど加工面40の劣化が進んでいると判断することができることから、上記中央値が大きい値であるときほどワイヤ11の劣化が進んでいると判断することができる。
【0041】
上記所定期間Tとしては、所定長さLGだけワイヤ11を繰り出す[往動]期間と直後に所定長さLBだけワイヤ11を巻き取る[復動]期間とからなる同ワイヤ11の一往復期間が定められている。本実施形態では、この所定期間Tにおいて電子制御装置30の記憶部34に記憶された「生成誤差ΔP」が取り込まれるとともに、それら「生成誤差ΔP」に統計的処理が施されて、ワイヤ11の状態についての指標値(上記中央値)が算出される。
【0042】
こうした統計的処理を施すことで所定期間Tにおける「生成誤差ΔP」の出力傾向を把握することができるため、それら「生成誤差ΔP」をもとにワイヤ11の加工面40の状態を広範囲にわたって判定することができる。これにより、次の[誤判定1]および[誤判定2]のように、加工面40の一部の判定結果をもとに加工面40全体の状態が誤って判定されることを抑えることができる。[誤判定1]加工面40全体の劣化が進んでいるのにも関わらず、ごく一部において加工面40の劣化が進んでいないと判定されることで、加工面40の劣化が進んでいないと判定される。[誤判定2]加工面40全体の劣化が進んでいないのにも関わらず、ごく一部において加工面40の劣化が進んでいると判定されることで、加工面40の劣化が進んでいると判定される。
【0043】
<判定結果の反映>
本実施形態では、判定処理の判定結果(具体的には、上記中央値)は、ワイヤソー10(
図1)の回転駆動部16,17の作動制御に反映される。具体的には、判定処理において算出される中央値が判定値以上であるときには、前記[往動]における「所定長さLG」に所定値αを加算した値(=LG+α)が、新たな所定長さLGとして定められる。一方、中央値が判定値未満であるときには、「所定長さLG」から所定値αを減算した値(=LG-α)が、新たな所定長さLGとして定められる。
【0044】
ここで、中央値が大きい場合には、所定期間Tにおいて生成誤差ΔPが大きくなる傾向があることが分かるため、ワイヤ11の劣化が想定より進んでいると判断することができる。この場合には、想定よりも劣化した状態のワイヤ11によってワークW1の加工が実行されるため、ワークW1の加工精度の低下を招くおそれがある。
【0045】
本実施形態では、こうした場合には、[往動]における所定長さLGを大きくすることで、ワイヤ11の新規送り出し量、詳しくは[往動]における所定長さLGから[復動]における所定長さLBを減算した量(=LG-LB)が大きくされる。そのため、ワイヤ11における上記ワークW1の加工に供されている部分が更新されるようになる更新時間が短くなるため、ワイヤ11の劣化が想定よりも進んだ状況になることが抑えられる。これにより、ワイヤソー10によるワークW1の加工精度を高い水準で保つことができる。
【0046】
一方、中央値が小さい場合には、所定期間Tにおいて生成誤差ΔPが小さくなる傾向があることが分かるため、ワイヤ11の劣化が想定より進んでいないと判断することができる。この場合には、ワークW1の加工精度を高く保つことができるものの、ワイヤ11が未だ使用可能な状態であるのにも関わらず更新されてしまっている可能性がある。本実施形態では、こうした場合には、[往動]における所定長さLGを小さくすることで、ワイヤ11の新規送り出し量が小さくされる。これにより、上記更新時間を長くすることができるため、ワイヤ11の使用期間を伸ばすことができる。
【0047】
本実施形態では、発明者等による各種の実験やシミュレーションの結果から、ワークW1の加工精度を高い水準で保ちつつワイヤ11の長寿命化が図られるようになる上記判定値や所定値αが予め求められている。そして、これら判定値や所定値αは、ワイヤソー10を作動させるための実行プログラムに組み込まれるとともに電子制御装置30の記憶部34に記憶されている。
【0048】
以下、ワイヤソー10の作動にかかる各種処理(作動制御処理)について具体的に説明する。
図8は作動制御処理の実行手順を示している。同
図8のフローチャートに示される一連の処理は、回転駆動部16,17の作動制御およびカメラ21の作動制御の実行中であることを条件に、所定周期毎の処理として、電子制御装置30によって実行される。
【0049】
図8に示すように、この処理では、先ず、画像生成条件が成立したか否かが判断される(ステップS11)。ステップS11の処理では、カメラ21の作動制御を通じて、3枚の撮像画像が新たに取得されたことをもって、画像生成条件が成立したと判断される。
【0050】
画像生成条件が成立していないと判断される場合には(ステップS11:NO)、以下の処理(ステップS12~ステップS17の処理)を実行することなく、本処理は終了される。
【0051】
その後において本処理が繰り返し実行されて、画像生成条件が成立すると(ステップS11:YES)、新たに取得した3枚の撮像画像をもとに判定画像50が生成される(ステップS12)。そして、この判定画像50を入力データとして、学習済みの学習器51から、生成誤差ΔPが出力されるとともに(ステップS13)、この生成誤差ΔPが電子制御装置30の記憶部34に記憶される(ステップS14)。
【0052】
その後、所定期間Tにわたり生成誤差ΔPが記憶されたか否かが判断される(ステップS15)。生成誤差ΔPを記憶した期間が所定期間Tに至っていないと判断される場合には(ステップS15:NO)、以下の処理(ステップS16およびステップS17の処理)を実行することなく、本処理は終了される。
【0053】
その後において本処理が繰り返し実行されて、所定期間Tにわたり生成誤差ΔPが記憶されたと判断されると(ステップS15:YES)、ワイヤ11の状態についての指標値(前記中央値)が算出される(ステップS16)。ステップS16の処理では、所定期間Tにおいて記憶された生成誤差ΔPに統計的処理を施すことで、上記指標値として、それら生成誤差ΔPの中央値が算出される。
【0054】
そして、ワイヤ11の状態の指標値(前記中央値)に基づいて、前記[往動]における所定長さLGが補正される(ステップS17)。これにより、以後においては、ステップS17の処理で補正された所定長さLGをもとに、回転駆動部16,17の作動制御が実行される。このようにして所定長さLGが補正された後、本処理は終了される。
【0055】
<作用効果>
本実施形態によれば、以下に記載する作用効果が得られるようになる。
(1)電子制御装置30の記憶部34には、教師データ53によって学習された学習器51と、判定画像50とが記憶されている。教師データ53および判定画像50は、カメラ21によってワイヤ11の加工面40を撮像した撮像画像から移動方向に延びる画像が切り取られるとともに当該切り取られた画像が移動方向に直交する方向に複数並べられて繋ぎ合わされた状態の画像である。本実施形態では、判定画像50を入力データとして、学習済みの学習器51から、同判定画像50に対応する前記加工面40の状態の指標値である生成誤差ΔPが出力される。
【0056】
本実施形態によれば、複数の撮像画像から、加工面40に現れる「特徴的な状態の部分(
図7参照)」を含む部分を集めて繋ぎ合わせた画像を、教師データ53を構成する画像や判定画像50として利用することができる。これにより、上記「特徴的な状態の部分」を多く含む画像を、教師データ53や判定画像50にすることができる。しかも、上記「特徴的な状態の部分」を多く含む画像を取得するべくカメラ21の撮像範囲を広くする必要がなくなるため、カメラ21の撮像範囲を狭くして細かい撮像画像を取得することができる。したがって、教師データ53によって学習器51を学習させる処理や、学習済みの学習器51を利用して加工面40の状態を判定する処理を、短い時間、且つ高い精度で実行することができる。
【0057】
(2)ワイヤ11の加工面40を撮像した3枚の撮像画像から、上記ワイヤ11が写っていない部分を取り除く態様で、同ワイヤ11の軸線方向に延びる画像が切り取られる。そして、切り取られた画像を上記移動方向と直交する方向に並べて繋ぎ合わせることで、矩形状の1枚の画像が生成される。このようにして生成された画像が、教師データ53を構成する画像や判定画像50として用いられる。
【0058】
本実施形態によれば、複数の撮像画像から、加工面40の状態を判定するうえで必要な部分、すなわち加工面40が写っている部分だけを集めて1枚の画像にすることができる。言い換えれば、撮像画像から、加工面40の状態を判定するうえでは無駄な部分、すなわち加工面40が写っていない部分を取り除くことができる。そのため、撮像画像をそのまま判定に利用する場合と比較して、教師データ53を構成する画像の枚数や判定画像50の枚数を少なくすることができる。これにより、教師データ53によって学習器51を学習させる処理や、学習済みの学習器51を利用して加工面40の状態を判定する処理を、短い時間で実行することができる。しかも、撮像画像をそのまま判定に利用する場合と比較して、1枚の画像に含まれる上記「特徴的な状態の部分」を多くすることができる。これにより、教師データ53や判定画像50から上記「特徴的な状態の部分」を見い出しやすくなるため、高い精度での加工面40の状態の判定が可能になる。
【0059】
<変形例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・教師データ53を構成する画像や判定画像50を、2枚の撮像画像をもとに生成したり、4枚以上の撮像画像をもとに生成したりしてもよい。要は、教師データ53を構成する画像や判定画像50を、次のように生成すればよい。先ず、電子制御装置30の記憶部34に記憶されている撮像画像の中から所定枚数(N枚)の撮像画像を取得する。そして、各撮像画像から、ワイヤ11が写っている部分を残すとともに縦横比が[N:1]になる態様で画像(部分画像)を切り取る。その後、それら部分画像を上記移動方向と直交する方向に並べて繋ぎ合わせることで、矩形状の1枚の画像を生成する。このように生成した画像を、教師データ53を構成する画像や判定画像50として用いる。
【0061】
・前記所定期間Tとしては、ワイヤ11の一往復期間を定めることに限らず、任意の期間を設定することができる。所定期間Tとしては、例えばワイヤ11の[往動]と[復動]とが共に複数回実行される複数回往復期間を定めることができる。その他、所定期間Tとして、ワイヤ11が一回[往動]する期間を設定したり、ワイヤ11が一回[復動]する期間を設定したりすること等も可能である。
【0062】
・カメラ21による加工面40の撮像を実行するタイミングは任意に設定することができる。例えばカメラ21による撮像を休止する「休止期間」と同カメラ21による撮像を所定の時間間隔で実行する「実行期間」とが交互に設定される態様で、カメラ21による撮像を実行してもよい。ワイヤ11が[往動]する期間、および同ワイヤ11が[復動]する期間の一方のみにおいて、カメラ21による撮像を実行してもよい。その他、ワイヤ11が[往動]する期間の一部においてのみカメラ21による撮像を実行したり、ワイヤ11が[復動]する期間の一部においてのみカメラ21による撮像を実行したりすることなども可能である。なお、カメラ21による撮像の実行態様に合わせて、前記所定期間Tは任意に設定することができる。
【0063】
・所定期間Tにおいて記憶された生成誤差ΔPに施す統計的処理としては、中央値を算出する処理を採用することの他、平均値を算出する処理を採用したり、最頻値を算出する処理を採用したりすることができる。所定期間Tにおいて記憶された生成誤差ΔPの傾向が顕著に表れる値を算出することができるのであれば、統計的処理として任意の処理を採用することができる。
【0064】
・判定処理の判定結果(具体的には、中央値)を、回転駆動部16,17の作動制御に反映する反映態様は、以下の[反映態様1]や[反映態様2]に一例を記載するように、任意に変更することができる。
【0065】
[反映態様1]統計的処理において算出された中央値と前記[往動]における「所定長さLG」とに基づいて、予め設定されている関係(関係式または演算マップ)から、新たな「所定長さLG」を算出する。
【0066】
[反映態様2]判定処理において算出される中央値が判定値以上であるときには、前記[復動]における「所定長さLB」から所定値βを減算した値(=LB-β)を、新たな所定長さLBとして定める。一方、中央値が判定値未満であるときには、「所定長さLB」に所定値βを加算した値(=LB+β)を、新たな所定長さLBとして定める。
【0067】
要は、ワイヤ11の加工面40の状態が高い加工精度を維持しつつワイヤ11の高寿命化を図ることの可能な状態になるように、判定処理の判定結果に応じて[往動]の所定長さLGや[復動]の所定長さLBを調整できればよい。
【0068】
・判定処理の判定結果(具体的には、中央値)を回転駆動部16,17の作動制御に反映する処理(
図8のステップS17の処理)を省略してもよい。こうした構成によっても、判定処理の判定結果をもとに、ワイヤ11の加工面40の状態を把握することができる。
【0069】
・学習器51として、畳込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)を採用することができる。この場合には、学習器51の機械学習を、加工面40の状態についてのクラス分類が可能になるように実行させてもよい。
【0070】
この場合におけるクラス分類としては、加工面40の劣化状態(
図7(a)~
図7(e)参照)についてのクラス分類を採用することができる。同構成によれば、判定画像50を入力データとして、学習済みの学習器51から、加工面40の劣化状態を示すデータを出力させることができる。
【0071】
また、上記クラス分類としては、ワイヤ11の加工面40における砥粒41の分散状態についてのクラス分類を採用することができる。ここで、加工面40における砥粒41の分散状態は、
図9(a)に示すように、単位面積あたりの砥粒41の配置数が比較的多い密状態になったり、
図9(b)に示すように、同配置数が平均的な数である平均状態になったりする。また、加工面40における砥粒41の分散状態は、
図9(c)に示すように、単位面積あたりの砥粒41の配置数が比較的少ない粗状態になったりもする。上記構成によれば、判定画像50を入力データとして、学習済みの学習器51から、
図9(a)~
図9(c)に一例を示す砥粒41の分散状態を示す出力データを出力させることができる。これにより、例えばワイヤ11の製造工程における検査工程において、上記出力データを利用して、ワイヤ11の加工面40における砥粒41の分散状態を検査することができるようになる。
【0072】
・教師データや判定画像をカメラの撮像画像から生成する構成、教師データによって学習された学習器を記憶する構成、および、学習済みの学習器から加工面の状態の指標値を出力させる構成は、ワイヤ放電加工装置にも適用することができる。
【0073】
図10に、そうしたワイヤ放電加工装置60の一例を示す。
図10に示すように、ワイヤ放電加工装置60は、ワークW2の加工に利用される工具であるワイヤ61と、同ワイヤ61が巻き付けられる一対のリール62,63とを有している。各リール62,63には、回転駆動部(図示略)が接続されている。ワイヤ放電加工装置60によるワークW2の加工に際しては、ワイヤ11を一方のリール62から繰り出するとともに他方のリール63によって巻き取るといったように、リール62,63が回転駆動される。ワイヤ放電加工装置60は、電源装置64を有している。ワークW2の加工時には、電源装置64の正極がワイヤ61に接続されるとともに同電源装置64の負極がワークW2に接続される。ワイヤ放電加工装置60は、ワークW2を加工する際に同ワークW2をワイヤ61に対して相対移動させるための移動装置(図示略)を有している。ワイヤ放電加工装置60は、ワイヤ61の加工面611を撮像するためのカメラ65を有している。このカメラ65の撮像部分は、ワイヤ11の加工面611におけるワークW2を通過した後の部分に対向した状態になっている。カメラ65によって撮像された画像は電子制御装置の記憶部(図示略)に記憶される。
【0074】
ワイヤ放電加工装置60に適用される工具判定装置は、教師データを構成する画像や判定画像の生成を次のように実行する。先ず、ワイヤ61の加工面611をカメラ65によって撮像した複数枚の撮像画像から、ワイヤ61が写っていない部分を取り除く態様で、同ワイヤ61の軸線方向に延びる画像が切り取られる。そして、切り取られた画像をワイヤ61の移動方向と直交する方向に並べて繋ぎ合わせることで、矩形状の1枚の画像が生成される。このようにして生成された画像が、教師データを構成する画像や判定画像として用いられる。このようにして教師データを構成する画像や判定画像を生成することにより、前記(2)に記載の作用効果に準じた作用効果を得ることができる。
【0075】
ワイヤ放電加工装置60に適用される工具判定装置では、上記教師データによって学習された学習器が電子制御装置の記憶部に記憶される。そして、上記判定画像を入力データとして、学習済みの上記学習器から、加工面611の状態の指標値(生成誤差)が出力される。
【0076】
ここで、上記ワイヤ61は、外面が加工面611をなすワイヤ状のものである。ワイヤ61としては、具体的には、金属線(例えば真鍮線や亜鉛めっき加工された真鍮線)が用いられる。ワイヤ放電加工装置60の工具として用いられるワイヤ61は、使用に伴い劣化が進むと、加工面40に凹凸形状が生じる。上記構成によれば、そうしたワイヤ61の加工面611の形状変化を捉えて、同加工面611の状態を適正に判定することができる。また、その判定結果をもとに、ワイヤ61の送り速度やワークW2の移動速度を調節することで、ワークW2の加工精度を高く維持しつつ、ワイヤ61の高寿命化を図ることができる。
【0077】
・教師データや判定画像をカメラの撮像画像から生成する構成、教師データによって学習された学習器を記憶する構成、および、学習済みの学習器から加工面の状態の指標値を出力させる構成は、研削加工装置にも適用することができる。
【0078】
図11に、そうした研削加工装置70の一例を示す。
図11に示すように、研削加工装置70は、加工に利用される工具として、略円板状の回転砥石71を有している。回転砥石71は、基材の外周面に多数の砥粒が分散した状態で結合剤によって固着された構造をなすものである。回転砥石71の外周面をなす加工面711は、その移動方向に延びる長尺状をなしている。回転砥石71は、回転可能な状態で支持されている。回転砥石71には、例えばサーボモータを有する回転駆動部72が接続されている。研削加工装置70は、回転砥石71とワーク(図示略)とを相対移動させることが可能になっている。研削加工装置70では、回転砥石71を回転駆動しつつ同回転砥石71とワークとを相対移動させて回転砥石71をワークに接触させることにより、回転砥石71の加工面711によって同ワークの表面が研削加工される。研削加工装置70は、回転砥石71の加工面711を撮像するためのカメラ73を有している。カメラ73によって撮像された画像は電子制御装置の記憶部(図示略)に記憶される。
【0079】
研削加工装置70に適用される工具判定装置は、教師データを構成する画像や判定画像の生成を次のように実行する。
図12に概念的に示すように、先ず、カメラ73によって撮像した撮像画像PDから、加工面711の移動方向(
図12の上下方向)に延びる画像PEが切り取られる。そして、この画像PEを移動方向において分割して2枚の画像PE1,PE2にするとともに、それら画像PB1,PB2を上記移動方向と直交する方向に並べて繋ぎ合わせることで、矩形状の1枚の画像PTDが生成される。このようにして生成された画像PTDが、教師データを構成する画像や判定画像として用いられる。同様に、撮像画像PDから加工面711の移動方向に延びる画像PF,PG,PHが切り取られるとともに、画像PF,PG,PHをもとに矩形状の画像PTF,PTG,PTHが生成される。これら画像PTF,PTG,PTHも、教師データを構成する画像や判定画像として用いられる。
【0080】
研削加工装置70に適用される工具判定装置では、上記教師データによって学習された学習器が電子制御装置の記憶部に記憶されている。そして、上記判定画像を入力データとして、学習済みの上記学習器から、加工面711の状態の指標値(生成誤差)が出力される。
【0081】
ここで、未使用状態の回転砥石71や適正にドレッシングがなされた直後の回転砥石71では、加工面711の最外周面が砥粒の突端面のみによって構成されている。そして、回転砥石71による研削加工がある程度実行されると、加工面711の最外周面に、砥粒以外の部分PX(主に、結合剤によって構成されるいわゆるボンドテール)が現れるようになる。この部分PXは、砥粒の移動方向後ろ側の部分から同移動方向に延びる傾向がある。さらに回転砥石71による研削加工の総実行時間が長くなると、加工面711の状態変化が進むことにより、上記部分PXが、移動方向において並ぶ砥粒を繋ぐ態様で延びた状態になってしまう。このように、回転砥石71の加工面711の状態変化の度合いは、加工面711の最外周面において移動方向において延びる部分に現れる。
【0082】
上記構成によれば、教師データを構成する画像や判定画像を生成する際に、回転砥石71の加工面711を撮像した撮像画像から、移動方向において長い形状、すなわち加工面711に現れる「特徴的な状態の部分」を含み易い形状の画像を切り出すことができる。言い換えれば、回転砥石71の加工面711を撮像した撮像画像から、上記「加工面711の最外周面において移動方向において延びる部分」に関する情報を含み易い画像を切り出すことができる。そして、その切り出した画像を複数並べて繋ぎ合わせた画像、言い換えれば上記「特徴的な状態の部分」を多数含む画像を、教師データや判定画像として利用することができる。これにより、回転砥石71の加工面711の判定に際して、上記「特徴的な状態の部分」を高い確率で見出すことが可能になるため、同加工面711の状態を高い精度で判定することができるようになる。
【0083】
上記構成によれば、カメラ73によって撮像した撮像画像から「特徴的な状態」を含む部分を集めて繋ぎ合わせた画像を、教師データを構成する画像や判定画像として利用することができる。これにより、上記「特徴的な状態」の部分を多く含む画像を、教師データや判定画像にすることができる。しかも、「特徴的な状態」の部分を多く含む画像を取得するべくカメラ73の撮像範囲を広くする必要がなくなるため、カメラ73の撮像範囲を狭くして細かい撮像画像を取得することができる。したがって、教師データによって学習器を学習させる処理や、学習済みの学習器を利用して加工面711の状態を判定する処理を、短い時間、且つ高い精度で実行することができる。
【符号の説明】
【0084】
10…ワイヤソー
11,61…ワイヤ
20…工具判定装置
21,65,73…カメラ
30…電子制御装置
31…CPU
32…ROM
33…RAM
34…記憶部
40,611,711…加工面
50…判定画像
51…学習器
52…実行プログラム
53…教師データ
60…ワイヤ放電加工装置
70…研削加工装置
71…回転砥石