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▶ ユニバーシティ オブ ポーツマス ハイヤー エデュケーション コーポレーションの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20241001BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20241001BHJP
   C07K 14/54 20060101ALI20241001BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/4025 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/4725 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/46 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/453 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 31/222 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/68
G01N33/493 Z
C07K14/54
C12Q1/06
A61K45/00
A61P13/10
A61P43/00 111
A61K31/4025
A61K31/216
A61K31/137
A61K31/4725
A61K31/46
A61K31/453
A61K31/445
A61K31/222
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021544745
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 GB2020050194
(87)【国際公開番号】W WO2020157485
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】1901186.5
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521338536
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ポーツマス ハイヤー エデュケーション コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フィロウズマンド,セピノード
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0166739(US,A1)
【文献】国際公開第2017/073226(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/158937(WO,A1)
【文献】特表2014-500504(JP,A)
【文献】Sepinoud Firouzmand,New participant stratification and combination of urinary biomarkers and confounders could improve diagnostic accuracy for overactive bladder,Scientific Reports,2020年02月20日,Vol.10,Page.Article number: 308
【文献】Yoon Seok Suh,Potential Biomarkers for Diagnosis of Overactive Bladder Patients: Urinary Nerve Growth Factor, Prostaglandin E2, and Adenosine Triphosphate,Int Neurourol J,2017年09月12日,Vol.21 No.3,Page.171-177
【文献】Jon F. Pennycuff,Current Concepts in Urinary Biomarkers for Overactive Bladder: What Is the Evidence?,Curr Bladder Dysfunct Rep,2017年06月20日,Vol.12,Page.260-267
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/68
G01N 33/493
C07K 14/54
C12Q 1/06
A61K 45/00
A61P 13/10
A61P 43/00
A61K 31/4025
A61K 31/216
A61K 31/137
A61K 31/4725
A61K 31/46
A61K 31/453
A61K 31/445
A61K 31/222
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過活動膀胱障害(OAB)を診断するための指標を提供する方法であって、
対象から採取された尿試料中のアデノシン三リン酸(ATP)、アセチルコリン(ACh)、一酸化窒素(NO)、およびインターロイキン5(IL-5)のうちの1または複数の濃度を測定すること;
前記濃度を、前記尿試料中のクレアチニン(Cr)濃度に対して正規化すること;
前記正規化濃度および対象の年齢を、下記の値に対して範囲標準化すること(range standardising):年齢は120歳;ATP/Crは0.000001モル/mgxdl -1 ;ACh/Crは0.1モル/mgxdl -1 ;NO/Crは20000モル/mgxdl -1 ;IL-5/Crは100pgxml -1 /mgxdl -1
を含み、
OABを有している可能性(pOAB)は、
OAB=1/1+e-x
であり、Xは下記のうちの1または複数であり:
(a)(-2.688±1.050)+5.472±2.098×対象の年齢+1.356±0.559×性別(女性=1、男性=0)+(-7.998±40.273)×[IL-5/Cr];
(b)(-2.141±0.966)+4.506±1.902×対象の年齢+1.034±0.519×性別(女性=1、男性=0)+(-5294.063±9075.456)×[ACh/Cr];
(c)(-2.825±1.072)+5.964±2.167×対象の年齢+1.312±0.562×性別(女性=1、男性=0)+17.790±58.762×[IL-5/Cr]+(-9180.821±12700.057)×[ACh/Cr];
(d)(-2.993±1.197)+5.580±2.309×対象の年齢+1.724±0.719×性別(女性=1、男性=0)+63.571±73.444×[IL-5/Cr]+(-10908.523±13606.752)×[ACh/Cr]+(-566.991±636.589)×[ATP/Cr];
(e)(-3.090±1.200)+5.393±2.256×対象の年齢+1.797±0.717×性別(女性=1、男性=0)+34.767±56.331×[IL
-5/Cr]+(-562.743±629.316)×[ATP/Cr];または
(f)(-2.650±1.067)+5.516±2.120×対象の年齢+1.389±0.583×性別(女性=1、男性=0)+(-4.060±45.238)×[IL-5/Cr]+(-1.456±6.833)×[NO/Cr];
OABが閾値を超えていることは、当該対象がOABを有している、または発症している可能性が高いことを示しており、pOABが閾値未満であることは、当該対象がOABを有していないことを示す、
方法。
【請求項2】
前記pOAB閾値が0.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ATP、ACh、NO、IL-5、またはCrのいずれかの濃度が、抗体ベースのプラットフォーム、またはRNAアプタマーベースのプラットフォーム、またはこれらの組み合わせを用いて測定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ムスカリン薬またはβ3アドレナリン受容体作動薬を含む医薬組成物であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法を用いて診断された患者においてOABを治療するための、医薬組成物
【請求項5】
前記抗ムスカリン薬がダリフェナシン、オキシブチニン、トルテロジン、ソリフェナシン、トロスピウム、フラボキサート、プロピベリン、またはフェソテロジンのうちの1または複数から選択される、請求項に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記β3アドレナリン受容体作動薬がミラベグロンである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項7】
OABの進行をモニターするための指標を提供する方法であって、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法に従って第1POAB値および第2POAB値を測定することを含み、
前記第1POAB値および前記第2POAB値は、OABを有している対象またはOABを有していることが疑われる対象から採取された第1尿試料および第2尿試料から得られる、
方法。
【請求項8】
前記第1尿試料および前記第2尿試料が少なくとも2週間の間隔をおいて採取される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
以下のための各命令を実行するよう構成された処理手段/プロセッサを含むコンピュータシステム:
アデノシン三リン酸(ATP)、アセチルコリン(ACh)、一酸化窒素(NO)、およびインターロイキン5(IL-5)のうちの1または複数の測定濃度、並びにクレアチニン(Cr)の測定濃度を受け取ること;
ATP、ACh、NO、およびIL-5の濃度をCrの濃度に対して正規化すること;
前記正規化濃度および対象の年齢を、下記の値に対して範囲標準化すること:年齢は120歳;ATP/Crは0.000001モル/mgxdl -1 ;ACh/Crは0.1モル/mgxdl -1 ;NO/Crは20000モル/mgxdl -1 ;IL-5/Crは100pgxml -1 /mgxdl -1
下記式のうちの1または複数に従ってXを算出すること:
(a)X=(-2.688±1.050)+5.472±2.098×対象の年齢+1.356±0.559×性別(女性=1、男性=0)+(-7.998±40.273
)×[IL-5/Cr];
(b)X=(-2.141±0.966)+4.506±1.902×対象の年齢+1.034±0.519×性別(女性=1、男性=0)+(-5294.063±9075.456)×[ACh/Cr];
(c)X=(-2.825±1.072)+5.964±2.167×対象の年齢+1.312±0.562×性別(女性=1、男性=0)+17.790±58.762×[IL-5/Cr]+(-9180.821±12700.057)×[ACh/Cr];
(d)X=(-2.993±1.197)+5.580±2.309×対象の年齢+1.724±0.719×性別(女性=1、男性=0)+63.571±73.444×[IL-5/Cr]+(-10908.523±13606.752)×[ACh/Cr]+(-566.991±636.589)×[ATP/Cr];
(e)X=(-3.090±1.200)+5.393±2.256×対象の年齢+1.797±0.717×性別(女性=1、男性=0)+34.767±56.331×[IL-5/Cr]+(-562.743±629.316)×[ATP/Cr];または
(f)X=(-2.650±1.067)+5.516±2.120×対象の年齢+1.389±0.583×性別(女性=1、男性=0)+(-4.060±45.238)×[IL-5/Cr]+(-1.456±6.833)×[NO/Cr];並びに
Xを用いて、式pOAB=1/1+e-x により、対象がOABを有する可能性(pOAB)を算出すること。
【請求項10】
プロセッサ/処理手段によって実行された場合に、前記プロセッサ/処理手段に以下を行わせる命令を含むコンピュータプログラム:
アデノシン三リン酸(ATP)、アセチルコリン(ACh)、一酸化窒素(NO)、およびインターロイキン5(IL-5)のうちの1または複数の測定濃度、並びにクレアチニン(Cr)の測定濃度を受け取ること;
ATP、ACh、NO、およびIL-5の濃度をCrの濃度に対して正規化すること;
前記正規化濃度および対象の年齢を、下記の値に対して範囲標準化すること:年齢は120歳;ATP/Crは0.000001モル/mgxdl -1 ;ACh/Crは0.1モル/mgxdl -1 ;NO/Crは20000モル/mgxdl -1 ;IL-5/Crは100pgxml -1 /mgxdl -1 ;並びに
下記式のうちの1または複数に従ってXを算出すること:
(a)X=(-2.688±1.050)+5.472±2.098×対象の年齢+1.356±0.559×性別(女性=1、男性=0)+(-7.998±40.273)×[IL-5/Cr];
(b)X=(-2.141±0.966)+4.506±1.902×対象の年齢+1.034±0.519×性別(女性=1、男性=0)+(-5294.063±9075.456)×[ACh/Cr];
(c)X=(-2.825±1.072)+5.964±2.167×対象の年齢+1.312±0.562×性別(女性=1、男性=0)+17.790±58.762×[IL-5/Cr]+(-9180.821±12700.057)×[ACh/Cr];
(d)X=(-2.993±1.197)+5.580±2.309×対象の年齢+1.724±0.719×性別(女性=1、男性=0)+63.571±73.444×[IL-5/Cr]+(-10908.523±13606.752)×[ACh/Cr]+(-566.991±636.589)×[ATP/Cr];
(e)X=(-3.090±1.200)+5.393±2.256×対象の年齢+1.797±0.717×性別(女性=1、男性=0)+34.767±56.331×[IL-5/Cr]+(-562.743±629.316)×[ATP/Cr];または
(f)X=(-2.650±1.067)+5.516±2.120×対象の年齢+1
.389±0.583×性別(女性=1、男性=0)+(-4.060±45.238)×[IL-5/Cr]+(-1.456±6.833)×[NO/Cr];並びに
Xを用いて、式pOAB=1/1+e-x により、対象がOABを有する可能性(pOAB)を算出すること。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過活動膀胱障害(overactive bladder disorder)(OAB)の診断方法に関し、さらに、治療方法および疾患進行をモニターする方法に関する。また、コンピュータシステムおよびプログラムが提供される。
【背景技術】
【0002】
過活動膀胱(OAB)は、尿意切迫、頻度増加、夜間多尿、さらに場合によっては切迫性尿失禁(urgency incontinence)を特徴とする症状症候群である。OABはおよそ5人に1人の成人が罹患しており、有病率は年齢に伴い増加する。尿路症状(urinary symptom)の性質は患者の身体的および精神的な健康、社会的、性的、および職業的な生活に大きな影響を与える。経済的負担の推定には幅があるが、USデータに関する最近のメタアナリシスでは、患者1人当たりの年間コストは直接費で656~860USD、間接費で11,000USD超であることが報告され;後者は転倒・骨折、共存症、および労働生産性の悪化によるものであった。これらの経済的推定は、2018年の世界の年間コストが3.2兆ユーロになるという予測と合致している。
【0003】
OABの特徴である排尿症状は、LUTの感染症や代謝性疾患、その他の尿路系疾患でも呈するため、診断ではまずこれらの疾患を除外することが重要となる。そのため、診断ガイドラインでは、患者の病歴、身体検査、尿検査が組み合わされ、患者の症状を点数化するための排尿の日誌や質問票が義務付けまたは推奨される。質問票に基づいたOAB診断には主観性および鈍感性の問題がある。不快さのスコアや程度が陽性診断とOAB治療に必要であることについてコンセンサスが得られていない。
【0004】
「切迫性尿失禁を伴う、または伴わないOABは排尿筋過活動と推定される」という主張があるが[Abramsら、2017年]、これを支持しないエビデンスが存在する。OAB症状を呈する843名の女性(平均年齢55歳、範囲22~73歳)を対象とした研究では、54%にしか排尿筋不安定が見られず、また、排尿筋過活動(DO)を呈する1641名の女性では、28%にしかOAB症状が見られなかった[Digesuら、2003]。別の研究[HashimおよびAbrams]では、尿意切迫(urgency)および切迫性尿失禁を呈する男性の10%と女性の42%が、尿流動態検査で判明したDOを示さず、尿失禁を伴わないOABを呈する男性の31%と女性の56%がDOを示さなかった。
【0005】
OAB診断とは、尿意切迫、頻度、夜間多尿、尿失禁の有無を組み合わせて診断するものであり、OABの陽性診断はもちろん、OABを除外するための判別手段もないため、不快とはいえそれほど重度ではない尿路症状を示す症状の発現初期段階では特に、患者が誤って分類される恐れがある。すなわち、非侵襲的、高感度、且つOABに特異的な診断ツールがアンメットニーズとして存在する。OAB治療は健康関連の生活の質の向上に大きな効果があることが確認されているが、OABと診断された人の約76%が未治療のままであることが示されている。しかし、医療行為の頻度は、年齢やOABに関連する共存症の存在によって増加する。高齢者集団における多剤療法の臨床的意義や、OAB治療の早期中止の重要な要因の一つが多剤療法であることを考慮すると、OAB発症のリスクがある集団を特定することで、早期に定期的なモニタリングが可能となり、早期の分類と治療が可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Abrams P, Chapple CR, Junemann KP, Sharpe S. Urinary urgency: a review of its assessment as the key symptom of the overactive bladder syndrome. World J Urol. 2012 Jun;30(3):385-92.
【文献】Abrams P, Cardozo L, Wagg A, Wein A. (Eds) Incontinence 6th Edition (2017). ICI-ICS. International Continence Society, Bristol UK, ISBN: 978-0956960733.
【文献】Digesu GA, Khullar V, Cardozo L, Salvatore S. Overactive bladder symptoms: do we need urodynamics? Neurourology and Urodynamics. 2003;22:105-8.
【文献】Hashim H, Abrams P. Is the bladder a reliable witness for predicting detrusor overactivity? The Journal of Urology. 2006;175:191-4.
【文献】Irwin DE, Kopp ZS, Agatep B, Milsom I, Abrams P. Worldwide prevalence estimates of lower urinary tract symptoms, overactive bladder, urinary incontinence and bladder outlet obstruction. BJU Int. 2011;108:1132-8.
【文献】Lughezzani G, Saita A, Lazzeri M et al (in press). Comparison of the Diagnostic Accuracy of Micro-ultrasound and Magnetic Resonance Imaging/Ultrasound Fusion Targeted Biopsies for the Diagnosis of Clinically Significant Prostate Cancer. Eur Urol. (in press).
【文献】Valenberg FJPV, Hiar AM, Wallace E, et al. Prospective Validation of an mRNA-based Urine Test for Surveillance of Patients with Bladder Cancer. Eur Urol. (in press).
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、新規アルゴリズムを用いた解析により、対象が過活動膀胱障害(OAB)を有しているかどうかの可能性を判定することが可能な、バイオマーカーと交絡因子(年齢、性別など)の組み合わせを特定した。実際、この新規アルゴリズムは、OABを除外することにおいて特に目覚ましい精度を示した。すなわち、上記アルゴリズムを用いることで、OABを除外することができ、それにより、不必要または不適当な治療を減らす、または回避することができる。本発明の特別な利点は、上記の各バイオマーカーが非侵襲的に取得可能であることであり、これにより、患者経験を向上させ、診断の実施に伴うコストを大きく低減することができる。
【0008】
したがって、第一の態様において、本発明は、過活動膀胱障害(OAB)を診断する方法であって、
対象から採取された試料中のアデノシン三リン酸(ATP)、アセチルコリン(ACh)、一酸化窒素(NO)、およびインターロイキン5(IL-5)のうちの1または複数の濃度を測定すること;
前記濃度を、前記試料中のクレアチニン(Cr)濃度に対して正規化すること;
前記正規化濃度および対象の年齢を、下記の値に対して範囲標準化すること:年齢は120歳;ATP/Crは0.000001;ACh/Crは0.1;NOは20000;IL-5/Crは100;
を含み、
OABを有している可能性(pOAB)は、
pOAB=1/1+e-x
であり、Xは下記のうちの1または複数であり:
(a)(-2.688±1.050)+5.472±2.098×対象の年齢+1.356±0.559×性別(女性=1、男性=0)+(-7.998±40.273)×[IL-5/Cr];
(b)(-2.141±0.966)+4.506±1.902×対象の年齢+1.0
34±0.519×性別(女性=1、男性=0)+(-5294.063±9075.456)×[ACh/Cr];
(c)(-2.825±1.072)+5.964±2.167×対象の年齢+1.312±0.562×性別(女性=1、男性=0)+17.790±58.762×[IL-5/Cr]+(-9180.821±12700.057)×[ACh/Cr];
(d)(-2.993±1.197)+5.580±2.309×対象の年齢+1.724±0.719×性別(女性=1、男性=0)+63.571±73.444×[IL-5/Cr]+(-10908.523±13606.752)×[ACh/Cr]+(-566.991±636.589)×[ATP/Cr];
(e)(-3.090±1.200)+5.393±2.256×対象の年齢+1.797±0.717×性別(女性=1、男性=0)+34.767±56.331×[IL-5/Cr]+(-562.743±629.316)×[ATP/Cr];または
(f)(-2.650±1.067)+5.516±2.120×対象の年齢+1.389±0.583×性別(女性=1、男性=0)+(-4.060±45.238)×[IL-5/Cr]+(-1.456±6.833)×[NO/Cr];
pOABが閾値を超えている場合、当該対象がOABを有している、または発症している可能性が高いことを示しており、pOABが閾値未満である場合、当該対象がOABを有していないことを示す、
方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、参加者選別のフローダイアグラムを示す。ICIQ-OAB=尿失禁質問票に関する国際協議-過活動膀胱(International consultation on incontinence questionnaire-overactive bladder)
図2図2は、適格参加者のICIQ-OAB尿路症状スコアおよび尿路症状の不快度スコア(bothersome score)の度数分布を示す。(A~E)適格参加者のICIQ-OAB尿路症状スコアの度数分布(n=95)。 (F~J)適格参加者のICIQ-OAB尿路症状+不快度スコアの度数分布(n=81)。14人の参加者は症状に関連した不快度に関する質問の1つまたはいくつかが空白のままだった。ICIQ-OAB=尿失禁質問票に関する国際協議-過活動膀胱(International consultation on incontinence questionnaire - overactive bladder)
図3図3は、候補バイオマーカーの尿中濃度と参加者の合計ICIQ-OAB尿路症状スコアとの間の相関を示す。Cr=クレアチニン、全ての尿中バイオマーカー値は尿中クレアチニン濃度に対して正規化された;灰色の円=OAB症状クラスターからの参加者;黒色の円=OAB症状クラスターからの参加者;r=スピアマンr;p=p値;**=0.01≦p≧0.001の有意なp値;Y軸の数値形式=log。
図4図4は、診断において信頼性の高いOAB予測モデルの受信者動作特性曲線(ROC)を示す。(A)組み合わせ10=年齢+性別+IL-5。(B)組み合わせ12=年齢+性別+ACh。(C)組み合わせ14=年齢+性別+IL-5+ACh。(D)組み合わせ15-年齢+性別+IL-5+ACh+ATP。(E)組み合わせ17=年齢+性別+IL-5+ATP。(F)組み合わせ18=年齢+性別+IL-5+NO。AUC=ROC曲線下面積;対角的な黒色実線=予測モデル曲線;対角的な灰色破線=偶然線(chance line)。
図5図5は、本発明に従ってコンピュータプログラムを実行するように構成されたコンピュータシステムの模式図を示す。コンピュータ[外側の四角(outer box)]が示されている。前記コンピュータは、本明細書に記載の診断方法を実施するためのコンピュータプログラムを実行するように構成されている。前記コンピュータは、プロセッサ、メモリ、ディスプレイ、およびデータ受信および/またはデータ出力用の入出力を含んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の診断方法で用いられる交絡因子として、年齢および/または性別などの対象の特徴が挙げられる。性別は上記アルゴリズムへの入力用にコード化され、1が女性であり、0が男性である。
【0011】
各バイオマーカー濃度を、バイオマーカー標準化に一般的に用いられる尿中クレアチニン濃度の濃度に対して正規化する。クレアチニンは、骨格筋組織のクレアチニンリン酸代謝の分解生成物であり、腎臓により血液から濾過され、尿中に排泄される。健全な腎機能を有する個体の場合、クレアチニン排泄は通常一定の速度で起こる。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、各独立変数は、任意の1人の対象において測定可能な最高可能数値(highest possible number)に対して範囲標準化され(range standardised)(いくつかのバイオマーカーにおいては、考慮された値ははるかに高いものもあった)、すなわち、年齢は120歳に対して範囲標準化され;ATP/Crは0.000001に対して範囲標準化され;ACh/Crは0.1に対して範囲標準化され;NO/Crは20000に対して範囲標準化され;IL-5/Crは100に対して範囲標準化される。これにより、任意の測定値を、本発明のアルゴリズムで用いられる同じ値に対して範囲標準化することができる。
【0013】
本発明の診断方法のアルゴリズム(a)~(f)によって、OABの臨床的に信頼できる診断精度が得られることが示された。また、上記アルゴリズムを用いることで、陰性診断を実施、すなわち、OABを除外または排除することもでき、特に高い陰性適中率(89~92%)を有することが示されたことから、上記アルゴリズムがOABの除外に特に適していることが示された。関連バイオマーカーの尿中レベルを測定し、アルゴリズム(a)~(f)のうちの1または複数に値を入力することで、医療従事者は、排尿筋過活動(DO)の尿流動態検査による観察という現行の侵襲的手段と比較して、疾患発症のかなりより早い段階で、より高い精度で、対象がOABを有する可能性を予測することができる。重要なこととして、本発明の診断方法によって、医療従事者は、OABと症状が重複しているが病因の異なる疾患を有する患者において、高い精度で非侵襲的にOABを除外することが可能となる。
【0014】
上記アルゴリズムの結果はpOABの値である。pOABを閾値と比較し、pOABが閾値を超えている場合、当該対象がOABを有している、または発症している可能性が高いことを示しており、pOABが閾値未満である場合、当該対象がOABを有していないことを示している。通常、閾値はOABを有していない個体の適切な集団から求められる。この適切な集団は、例えば、食事、生活様式、年齢、性別、民族的背景、または正常なマーカーレベルに影響し得る任意の他の特徴に基づいて定めることができる。閾値が分かれば、測定されたpOAB値を比較することができる。
【0015】
本発明の実施形態において、pOAB閾値は0.5である。あるいは、感度または特異度またはその両方を最大にするため、pOAB閾値は最適化してもよい。例えば、感度および特異度(specify)が最大となるための最適なpOAB閾値は、以下の通りとなり得る:Xが(a)の場合は0.51;Xが(b)の場合は0.46;Xが(c)の場合は0.46;Xが(d)の場合は0.56;Xが(e)の場合は0.56;あるいは、Xが(f)の場合は0.51。これは、この検査が最大限の高い感度と特異性を同時に示すことを意味する。しかし、感度が検査を指示または実行する医療従事者にとって最も重要な要素である場合、より高い感度を示す他の閾値を考慮することもできるが、結果として得られる特異度は低いものとなるだろう。同様に、他の閾値を用いて特異度を最大にす
ることはできるが、結果として得られる感度は低いものとなるだろう。感度が最大となるpOAB閾値は以下の通りであり得る:Xが(a)の場合0.39;Xが(b)の場合0.41;Xが(c)の場合0.38;Xが(d)の場合0.35;Xが(e)の場合0.34;あるいは、Xが(f)の場合0.40。特異度が最大となるpOAB閾値は以下の通りであり得る:Xが(a)の場合0.80;Xが(b)の場合0.87;Xが(c)の場合0.80;Xが(d)の場合0.81;Xが(e)の場合0.81;あるいは、Xが(f)の場合0.80。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、試料は尿試料である。従って、試料は非侵襲的に採取することができる。これにより、特に評価が繰り返し必要となる、侵襲的な尿流動態検査に基づいた従来の診断方法と比較して、患者経験を大きく向上させることができる。本発明の方法は、尿流動態評価に要する特殊な装置(specialist equipment)や熟練した操作者を必要としないことにより、OAB診断実施に伴うコストを大きく削減することもできる。非侵襲的に採取された試料を用いることにより、本発明の診断方法は、虚弱者や高齢者などの、現行の診断方法が適切ではない患者群におけるOABの診断も可能にする。
【0017】
対象は通常は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。本発明の実施形態では、対象は小児の対象であっても老年の対象であってもよい。
【0018】
バイオマーカーはタンパク質、核酸、または生体分子とすることができる。各バイオマーカーの濃度は、抗体ベースのプラットフォームもしくはRNAアプタマーベースのプラットフォームまたはこれらの組み合わせなどのインビトロ診断プラットフォームを用いて測定することができる。
【0019】
本発明の診断方法は、OABを有していると診断された対象に治療薬を投与することをさらに含んでもよい。したがって、本発明は、OABを治療する方法であって、本明細書に記載の方法を用いて患者におけるOABを診断することと、上記患者に治療薬を投与すること、を含む方法、を提供する。上述の通り、本発明の診断方法は非侵襲的である(従って、他の侵襲的手法と比較して、患者にとって受け入れられやすく、より安価となる可能性がある)ため、OABのより早期の診断が可能となる。OABのより遅い段階では症状が部分的にしか回復可能でなくなると思われるため、これにより、診断後のOABを治療する際の成績を向上させることができる。
【0020】
OABを治療するための治療薬は当該技術分野において公知のものであり、抗ムスカリン薬およびβ3アドレナリン受容体作動薬が挙げられる。抗ムスカリン薬は、ダリフェナシン、オキシブチニン、トルテロジン、ソリフェナシン、トロスピウム、フラボキサート、プロピベリン、またはフェソテロジンのうちの1または複数から選択することができる。β3アドレナリン受容体作動薬はミラベグロンとすることができる。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、OABの進行をモニターする方法であって、本明細書に記載の診断方法に従って第1pOAB値および第2pOAB値を測定することを含み、上記第1pOAB値および上記第2pOAB値はOABを有している対象またはOABを有していることが疑われる対象から採取された第1試料および第2試料から得られる、方法を提供する。疾患の進行をモニターすることでも、OAB治療の有効性をモニターすることができ、例えば、段階特異的な治療応答をモニターすることができる。
【0022】
上記の第1試料および第2試料は、少なくとも2週間の間隔をおいて採取されたものとすることができる。
【0023】
本発明の本態様においては、第1pOAB値および/または第2pOAB値を、同じ対象をより早い時期に検査し、OABが進行している場合および/またはOABの治療が成功している場合に観察される可能性の高いpOAB値を断定する(predicating)ことで確立された予測pOAB値と比較してもよい。この予測は、単なる、pOAB値における増加または減少であってもよいし、あるいは、起こり得る変化を定量化することが可能であってもよい。
【0024】
本発明はさらに、以下のための各命令を実行するよう構成された処理手段/プロセッサを含むコンピュータシステムを提供する:
アデノシン三リン酸(ATP)、アセチルコリン(ACh)、一酸化窒素(NO)、インターロイキン5(IL-5)、およびクレアチニン(Cr)のうちの1または複数の測定濃度を受け取ること;
ATP、ACh、NO、およびIL-5の濃度をCrの濃度に対して正規化すること;
上記正規化濃度および対象の年齢を、下記の値に対して範囲標準化すること:年齢は120歳;ATP/Crは0.000001;ACh/Crは0.1;NOは20000;IL-5/Crは100;
下記式のうちの1または複数に従ってXを算出すること:
(a)X=(-2.688±1.050)+5.472±2.098×対象の年齢+1.356±0.559×性別(女性=1、男性=0)+(-7.998±40.273)×[IL-5/Cr];
(b)X=(-2.141±0.966)+4.506±1.902×対象の年齢+1.034±0.519×性別(女性=1、男性=0)+(-5294.063±9075.456)×[ACh/Cr];
(c)X=(-2.825±1.072)+5.964±2.167×対象の年齢+1.312±0.562×性別(女性=1、男性=0)+17.790±58.762×[IL-5/Cr]+(-9180.821±12700.057)×[ACh/Cr];
(d)X=(-2.993±1.197)+5.580±2.309×対象の年齢+1.724±0.719×性別(女性=1、男性=0)+63.571±73.444×[IL-5/Cr]+(-10908.523±13606.752)×[ACh/Cr]+(-566.991±636.589)×[ATP/Cr];
(e)X=(-3.090±1.200)+5.393±2.256×対象の年齢+1.797±0.717×性別(女性=1、男性=0)+34.767±56.331×[IL-5/Cr]+(-562.743±629.316)×[ATP/Cr];または
(f)X=(-2.650±1.067)+5.516±2.120×対象の年齢+1.389±0.583×性別(女性=1、男性=0)+(-4.060±45.238)×[IL-5/Cr]+(-1.456±6.833)×[NO/Cr];並びに
Xを用いて、式pOAB=1/1+e-xにより、対象がOABを有する可能性(pOAB)を算出すること。
【0025】
本発明はさらに、プロセッサ/処理手段によって実行された場合に、前記プロセッサ/処理手段に以下を行わせる命令を含むコンピュータプログラムを提供する:
アデノシン三リン酸(ATP)、アセチルコリン(ACh)、一酸化窒素(NO)、インターロイキン5(IL-5)、およびクレアチニン(Cr)のうちの1または複数の測定濃度を受け取ること;
ATP、ACh、NO、およびIL-5の濃度をCrの濃度に対して正規化すること;
上記正規化濃度および対象の年齢を、下記の値に対して範囲標準化すること:年齢は120歳;ATP/Crは0.000001;ACh/Crは0.1;NOは20000;IL-5/Crは100;並びに
下記式のうちの1または複数に従ってXを算出すること:
(a)X=(-2.688±1.050)+5.472±2.098×対象の年齢+1.356±0.559×性別(女性=1、男性=0)+(-7.998±40.273)×[IL-5/Cr];
(b)X=(-2.141±0.966)+4.506±1.902×対象の年齢+1.034±0.519×性別(女性=1、男性=0)+(-5294.063±9075.456)×[ACh/Cr];
(c)X=(-2.825±1.072)+5.964±2.167×対象の年齢+1.312±0.562×性別(女性=1、男性=0)+17.790±58.762×[IL-5/Cr]+(-9180.821±12700.057)×[ACh/Cr];
(d)X=(-2.993±1.197)+5.580±2.309×対象の年齢+1.724±0.719×性別(女性=1、男性=0)+63.571±73.444×[IL-5/Cr]+(-10908.523±13606.752)×[ACh/Cr]+(-566.991±636.589)×[ATP/Cr];
(e)X=(-3.090±1.200)+5.393±2.256×対象の年齢+1.797±0.717×性別(女性=1、男性=0)+34.767±56.331×[IL-5/Cr]+(-562.743±629.316)×[ATP/Cr];または
(f)X=(-2.650±1.067)+5.516±2.120×対象の年齢+1.389±0.583×性別(女性=1、男性=0)+(-4.060±45.238)×[IL-5/Cr]+(-1.456±6.833)×[NO/Cr];並びに
Xを用いて、式pOAB=1/1+e-xにより、対象がOABを有する可能性(pOAB)を算出すること。
【0026】
本発明はさらに、本明細書に記載のコンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体を提供する。通常、前記機械可読媒体は非一時的な媒体または記憶媒体であり、特に非一時的な記憶媒体である。
【0027】
以上から、本発明を用いることで、非侵襲的に採取された試料を利用して迅速かつ容易にOABが診断および/またはモニターされる、ポイントオブケアの診断検査が実現できる。
【0028】
以下、本発明を、図面を参照しながら、単なる例示として詳細に説明する。
【実施例
【0029】
材料および方法
参加者の募集
本研究およびそのすべての手順は、バークシャー南中央部国立研究倫理局(National Research Ethics Service)(NRES)委員会(REC参照:13/SC/0501)の承認を得た。ポーツマス大学(UoP)のスタッフと学生、およびワイト島のThe Briars Greensleeves Homes
Trust、The National Federation of Women’s Institutes、Portsmouth and Portsmouth Pensioners’ Associationの住民から、ボランティア抽出によって合計113名のボランティア参加者を募集した。参加者には、ICIQ-OAB(International consultation on incontinence questionnaire-overactive bladder)質問票への全記入と、新鮮な中間尿試料の提供を求めた。収集したサンプルとデータは、IDコードシステムにより匿名化した。
【0030】
参加基準
18歳以上、且つ研究への参加にインフォームドコンセントを与えることができる男性または女性。
【0031】
除外基準
以下の男性または女性参加者:18歳以下;インフォームドコンセントを与えることができない;神経疾患(脳卒中、MS、パーキンソン病、脊髄損傷)と診断された;子宮がん、子宮頸がん、膣がん、または尿道がんの病歴を有する;シクロホスファミド使用歴またはいずれかの種類の化学物質性膀胱炎の病歴;良性または悪性の膀胱腫瘍の病歴;ボツリヌス毒素注射、神経調節、または膀胱拡大術を受けたことがある。
【0032】
尿病理検査
採取した尿試料のごく一部に対して、顕微鏡検査、色素生産UTI培地検査、および尿試験紙を用いた尿検査を含む病理検査を直ちに実施した。検査が陽性の場合、試料は「不健康」とみなし、研究から除外した。残った尿試料を遠心(4000rpm、10分、4℃)にかけて、細胞ペレットと上清とに分離し、別々に-80℃で保存した。
【0033】
バイオマーカーアッセイ
候補バイオマーカーの尿中(無細胞)濃度は、ENLITEN(登録商標)ATP Assay System Bioluminescence Detection Kit(FF2000、プロメガ社(Promega)、英国);Amplex(登録商標)Red Acetylcholine/Acetylcholinesterase assay(インビトロジェン(Invitrogen)(商標)、モレキュラープローブス(Molecular Probes)(商標)、A12217、英国);Sievers Nitric Oxide Analyser(NOA(商標)280i、アナリティクス社(Analytix)、英国);BD OptEIA(商標)human MCP-1 enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)(559017、BDバイオサイエンス社(BD biosciences)、英国);Quantikine(登録商標)human IL-5 ELISA Kit(R&Dシステムズ社(R&D Systems)(登録商標)、D5000B、英国)、およびOptEIA(商標)Human IL-5 ELISA Set(555202、BDバイオサイエンス社、英国)を製造業者の取扱説明書に従って用いて測定した。
【0034】
クレアチニンアッセイ
全ての尿中バイオマーカー値は尿中クレアチニン(Cr)濃度に対して正規化した。クレアチニンは、Cayman Creatinine(urinary)Colourimetric Assay Kit(CAY500701、ケンブリッジ・バイオサイエンス社(Cambridge Bioscience)、英国)を製造業者の取扱説明書に従って用いて、測定した。
【0035】
統計解析
クラスター分析
IBM SPSS statistics 22.0を用いて、ICIQ-OAB質問
票から得られたデータ(データ未記載)に対して、TwoStepクラスター分析を実施した。各質問(症状/不快度尺度)に対する回答の分布を0~1の段階で範囲標準化した。前記ソフトウェアは、最大15個のクラスターを自動的に識別するようにプログラムされた。OAB患者の分類に使用できる尿特性スコアの最良の組み合わせを特定するために、ICIQ-OAB質問票から得られたデータの各種側面について、クラスター分析を実
施した。これには、尿路症状スコアのみ(urinary symptom scores only)(USSO)、尿不快度スコアのみ(urinary bothersome scores only)(UBSO)、尿路症状スコア+関連する不快度スコア(urinary symptom scores plus associated bothersome scores)(USCPABS)から得られたデータに基づく分類が含まれた。
【0036】
相関分析
スピアマンの順位相関係数(GraphPad Prism 6ソフトウェア)を用いて、候補尿中バイオマーカーと参加者の合計尿路症状スコアとの関係を評価した。さらに、相関検定(IBM SPSS statistics 22.0)を用いて、各独立変数と従属変数(アウトカム/OAB症状)との潜在的な関係の強さを評価し、独立変数間の多重共線性を評価した(r値が0.80超の2つの独立変数は相関していると見なす)。
【0037】
バイナリロジスティック回帰
ある人がOAB症状を有する可能性を予測する際の、各候補バイオマーカーの、個々の、または組み合わせた場合の(様々な組み合わせ設定、および交絡因子(年齢、性別、採取した尿量)との、能力を、バイナリロジスティック回帰検定(IBM SPSS statistics 22.0)を用いて調べた。この場合、各変数を本研究において取得可能な最大測定値に対し標準化するのではなく、各変数を任意の1人の人間について測定できる最大可能値に対し範囲標準化した(いくつかのバイオマーカーについては、考慮された値はさらに高いものであった)。すなわち、年齢は120歳に対して範囲標準化し;量は尿1000mlに対して範囲標準化し;各候補バイオマーカーは以下の値に対して範囲標準化した:ATP/Crは0.000001に対して、ACh/Crは0.1に対して、NO/Crは20000に対して、亜硝酸塩は200に対して、MCP-1/Crは100に対して、IL-5/Crは100に対して範囲標準化した。このようにして、今後測定されるいかなる値も、本研究で使用されたのと同じ値に対し範囲標準化でき、結果、作成されたロジット式に入力することで、OABの存在可能性を推定することができる。
【0038】
受信者動作特性(ROC)分析、陽性適中率(PPV)分析、および陰性適中率(NPV)分析
作成されたOAB予測モデルの、ロジスティック回帰分析により生成された予測可能性(PRE)値を用いての判別力を評価するために、ROC曲線分析(IBM SPSS statistics 22.0)を用いた。予測モデルがROC曲線下面積(AUC≧0.7)を有する場合に、臨床的に信頼できる診断力を有するものと見なした。それぞれの予測式における予測可能性(pOAB)の最適なカットオフ値は、ユーデン指数(J=感度+特異度-1)が最大となる値として決定した。各OAB予測式のPPVおよびNPVは、最適なカットオフ値における感度と特異度に基づき、OAB有病率を20%と推定して算出した[Irwinら、2011]。
【0039】
結果
参加者
OABに類似した尿路症状を呈する参加者は、除外基準と尿検査に基づいて解析から除外した。113名の募集参加者のうち、合計95名の参加者がさらなる分析に参加することができた(図1)。
【0040】
尿ICIQ-OAB特性スコアの分布
適格参加者の尿ICIQ-OAB特性スコアの度数分布を図2に示す。尿路症状スコアまたは尿路症状スコア+関連する不快度スコアの分布は右に裾をひいており(right
-skewed)、2つのグループ(OAB症状を有する群と無症状の群)を示唆するような明らかな二峰性の分布は確認されなかった。従って、従来のトータルスコアに基づく診断は、早期のOAB診断や本研究の参加者の分類には適していないと考えられる。
【0041】
クラスター分析
自然な分類(クラスター)を特定するため、参加者のICIQ-OAB尿スコアに対してTwoStepクラスター分析を実施した。ICIQ-OAB質問票のデータ(データ未記載)に基づいて、2つの自然クラスターが参加者の中から特定された。95名の適格参加者全員をUSSOに基づくクラスター分析の対象としたが、14名の参加者が不快度に関する質問の1つまたはいくつかを空白にしていたため、81名の参加者がUBSOまたはUSCPABSに基づく分析の対象とした。その結果、USSOに基づいて形成されたクラスターは、UBSOまたはUSCPABSに基づいた分析と比較して、自然な分類を決定するより高い統計的検出力を有する。さらに、クラスター分析で、尿意切迫(重要なOAB症状[Abramsら、2012年])が、USSOに基づいた分析における主要なクラスター予測成分であると特定された。そこで、USSOに基づいて形成された2つのクラスターをバイオマーカープロファイル評価用に選定した。95人の参加者のうち、36人の参加者と59人の参加者を、それぞれクラスター1とクラスター2に割り当てた(表1)。特定された2つのクラスターにおける尿路症状スコアの分布を表1に示す。クラスター2の参加者は、クラスター1の参加者と比較して、尿路症状スコアが統計的に有意に高く、高齢であった(表1)。このため、さらなる分析において、クラスター1を「OAB無症状性」、クラスター2を「OAB症状性」とした。
【0042】
【表1】
【0043】
相関分析
図3は、候補尿中バイオマーカー(ATP、ACh、NO、亜硝酸塩、MCP-1、およびIL-5)の濃度と、参加者の合計尿路症状スコアとの関係を示す。候補バイオマーカーと参加者の尿路症状スコアとの間にはポジティブな傾向が見られ、尿中ATP濃度の場合では統計的に有意なレベルに達していた(図3)。無症状群と症状群の間で候補バイオマーカー濃度が重複していることから、OAB発症の初期段階では、単一のバイオマーカーが診断基準として不十分であることがさらに明らかとなった(図3)。
【0044】
従属変数(アウトカム、すなわちOAB症状)と独立変数(すなわち参加者の年齢、性
別、総採尿量、並びにATP、ACh、NO、亜硝酸塩、MCP-1、およびIL-5の尿中濃度)との間の相関関係をまとめた(データ未記載)。年齢との相関のみ統計的に有意(p値=0.008)であったが、このことは、年齢が、ロジスティック回帰検定を行った場合、アウトカムの強力な個別予測因子となる可能性が示唆された。予測変数間に多重共線性(すなわち、r値>0.80)は認められなかったため、全て、ロジスティック回帰分析で同時に使用するのに適しているものと見なした。
【0045】
ロジスティック回帰分析
候補尿中バイオマーカーと参加者の交絡因子とを組み入れることで信頼性の高いOAB予測式を作成できるかどうかを、ロジスティック回帰分析を用いて評価した。まず,各予測パラメータの能力を個別に評価した(データ未記載)。全ての個別予測パラメータの中で、年齢は、予想通り、そのヌル予測モデルよりも統計的に有意なOAB予測力を示した唯一のパラメータだった(オムニバス検定p値=0.041、表2)。他の予測パラメータを加えることで年齢の予測力が増加するかどうかを評価するために、候補尿中バイオマーカーや他の交絡因子を組み入れて、20通りの組み合わせモデルを作成した(データ未記載)。作成された全ての予測モデルのうち、7つ(組み合わせ1、10、12、14、15、17、および18)は、関連する帰無モデルよりも統計的に有意なOAB予測力を有し、また、適合度が良好であることが示された(オムニバス検定p値≦0.05、HL検定p値≧0.05、表2)。
【0046】
【表2】
【0047】
ROC分析およびOAB予測式
統計的に有意なOAB予測能力(有意なオムニバス検定p値、表2)を有する8つの予測モデルの判別能力を、ROC分析により評価した。6つの予測モデル(すなわち、組み合わせ10、12、14、15、17、および18)が、臨床的に信頼できる診断力を有することが示された(表3、AUC≧0.7、ROCプロットを図4に示す)。そこで、これら6つの組み合わせについて、OABの可能性を予測する式を作成し(表4)、それぞれの式における関連バイオマーカーの尿中レベルを測定し、その値を式に入力することで、ある人がOABを有する可能性(pOAB)を算出することができた。
【0048】
それぞれの予測式における予測可能性(pOAB)の最適なカットオフ値は、ユーデン指数(J)が最大となる値として決定した(表5)。その最適カットオフ値における各予測式の感度および特異度を表5に示す。続いて、各OAB予測式の陽性適中率(PPV)および陰性適中率(NPV)を、最適カットオフ値における感度と特異度に基づき、OAB有病率を20%と推定して算出した[Irwinら、2011](表5)。PPV(41%)およびNPV(90%)の両方の値を考慮して、組み合わせ17の予測式が、他の予測式と比較して、より信頼性の高い式と見なされた(表5)。すなわち、IL-5およびATPの尿中濃度を測定し、Crに対して正規化・標準化した値を、患者の年齢および性別と共に、組み合わせ17の予測式に入力することで、pOABは算出することができ、pOAB>0.56(組み合わせ17のpOABカットオフ、表5)である場合、患者を、OABを有する/発症するリスクが高いと見なすことができる。OAB有病率が20%であることを考慮すると、実世界において、組み合わせ17の予測式は、OAB患者の41%を正しく診断し、非OAB患者の90%を正しく除外することができる。概して、予測式は全て高いNPV値(89~92%)を示したが、このことは、作成された予測式が、OABの陽性診断よりもOAB除外により適しているであろうことを意味している。しかしながら、作成された予測式は全て、DOの存在に基づいてOAB患者の診断を行う現在のゴールドスタンダードな侵襲的手段と比較して、PPV値およびNPV値がより高くなることを示した(表5、ΔPPVおよびΔNPV)。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
結論
この分析により、早期OABを有する参加者または有さない参加者を判別するための臨床的に信頼できる診断力を有する、6つの組み合わせが明らかになった(表2および図4)。6つ全ての組み合わせについての予測式では、NPV値は高い(89~92%)が、PPV値は比較的低くなり(30~41%)、これは、上記予測式がOABを除外するのに適していることを意味している。これらの組み合わせの性能は、膀胱癌[Valenbergら、2018年]や前立腺がん[Lughezzaniら、2018年]などの他の疾患用の、他の尿に基づいた検査と同様である。これは、各式の関連バイオマーカーの尿中レベルを測定し、その値を上記式に入力することで、これらの新規式が、尿流動態検査によるDOの確認という現在の侵襲的手段と比較して、かなりより早い発症段階でより正確に、ある人がOABを有する可能性を、医療従事者が予測可能となるであろうことを意味している(表5)。しかし、より重要なことは、これらの新規式が、OABと症状が重複する病因が異なる疾患を有する患者において、OABを正確且つ非侵襲的に除外できることであろう。
図1
図2
図3
図4
図5