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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】加工システム、及び金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/013 20060101AFI20241001BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALI20241001BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20241001BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20241001BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B23Q15/013
B23Q15/12 Z
G05B19/404 K
G05B19/18 X
B23Q17/09 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021546605
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033659
(87)【国際公開番号】W WO2021054153
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019168902
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】前田 一勇
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-172612(JP,A)
【文献】特開平11-320223(JP,A)
【文献】特開2016-112634(JP,A)
【文献】特開平09-085585(JP,A)
【文献】特開2011-023643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/00 -19/46
B23Q 15/00 -15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材からなる被削物を加工する穴あけ工具及び面取り工具と、
前記穴あけ工具を動作させる第一駆動機構、及び前記面取り工具を動作させる第二駆動機構と、
前記第一駆動機構及び前記第二駆動機構を制御する制御部と、
前記第一駆動機構の制御に関する第一物理量及び第二物理量を取得する測定部と、を備え、
前記被削物は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、
第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、
前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を有し、
前記第一駆動機構は、前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と、前記第二の板部に設けられる第二孔部とを同軸に順次加工するように前記穴あけ工具を動作させ、
前記第一孔部は、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部、及び前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部とを有する孔部であり、
前記第二孔部は、少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する孔部であり、
前記第二駆動機構は、前記表側の第一開口縁部及び前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方の第一開口縁部に第一面取り部を設け、前記裏側の第二開口縁部に裏側の第二面取り部を設けるように前記面取り工具を動作させ、
前記第一物理量は、前記穴あけ工具の送り速度であり、
前記第二物理量は、前記第一の板部の穴あけ加工の開始から前記第二の板部の穴あけ加工の開始までの第一時間であり、
前記制御部は、
前記第一物理量と前記第二物理量とに基づいて、前記少なくとも一方の第一開口縁部の位置と前記裏側の第二開口縁部の位置とを求め、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とに基づいて前記第二駆動機構を制御し、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とは、前記第一孔部の軸方向に沿った長さと、前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さとによって求められ、
前記第一孔部の軸方向に沿った長さと、前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さとは、前記送り速度と前記第一時間とに基づいて求められる、
加工システム。
【請求項2】
前記面取り工具は、前記穴あけ工具の外径よりも小さな外径を有する柱状のボディを有し、
前記ボディの先端部は、先端側に向かうほど先細り状の切れ刃を有し、
前記ボディの後端部は、後端側に向かうほど先細り状の切れ刃を有する請求項に記載の加工システム。
【請求項3】
前記第一駆動機構は、前記穴あけ工具を回転させる自転用の動力源を有し、
前記測定部は、前記自転用の動力源の電気量を取得し、
前記制御部は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記自転用の動力源の回転数を変え、
前記第一電気量は、前記自転用の動力源の回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の穴あけ加工中に前記測定部で取得された電気量である請求項1または請求項に記載の加工システム。
【請求項4】
前記第一電気量と前記第二電気量とは、前記自転用の動力源の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つである請求項に記載の加工システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記差分が閾値以下である場合、前記自転用の動力源の回転数をゼロとする請求項3または請求項4に記載の加工システム。
【請求項6】
金属部材からなる被削物を準備する工程と、
第一駆動機構によって動作される穴あけ工具を用いて前記被削物を穴あけ加工する工程と、
第二駆動機構によって動作される面取り工具を用い、切削加工によって前記被削物を面取り加工する工程と、を備え、
前記被削物は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、
第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、
前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を有し、
前記穴あけ加工する工程は、
前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と前記第二の板部に設けられる第二孔部とを同軸に順次加工する工程を含み、
前記第一孔部は、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部と前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部とを有する孔部であり、
前記第二孔部は、少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する孔部であり、
更に、
前記第一駆動機構の制御に関する第一物理量及び第二物理量を測定部で取得する工程と、
前記第一物理量及び前記第二物理量に基づいて、前記表側の第一開口縁部と前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方の第一開口縁部の位置と前記裏側の第二開口縁部の位置とを求める工程と、を含み、
前記第一物理量は、前記穴あけ工具の送り速度であり、
前記第二物理量は、前記第一の板部の穴あけ加工の開始から前記第二の板部の穴あけ加工の開始までの第一時間であり、
前記面取り加工する工程は、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とに基づいて、前記少なくとも一方の第一開口縁部に第一面取り部を設け、前記裏側の第二開口縁部に裏側の第二面取り部を設け、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とは、前記第一孔部の軸方向に沿った長さと、前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さとによって求められ、
前記第一孔部の軸方向に沿った長さと、前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さとは、前記送り速度と前記第一時間とに基づいて求められる、
金属部材の製造方法。
【請求項7】
前記面取り加工する工程では、前記第一面取り部および前記第二面取り部の面取り長さを前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さの寸法許容差よりも小さくするように前記第二駆動機構を動作させる請求項に記載の金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部材、加工システム、及び金属部材の製造方法に関する。
本出願は、2019年9月17日付の日本国出願の特願2019-168902に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、焼結部品に対し、ドリルで穴あけ加工を施すことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-336078号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る金属部材は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を備える金属部材であって、
前記第一の板部は、
前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と、
前記第一孔部を構成する開口縁部であって、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部、及び前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部と、
前記表側の第一開口縁部、及び前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方に設けられた第一面取り部と、を有し、
前記第二の板部は、
少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する第二孔部と、
前記裏側の第二開口縁部に設けられた裏側の第二面取り部と、を有し、
前記第一孔部の軸と前記第二孔部の軸とは、同軸であり、
前記少なくとも一方の第一面取り部と前記裏側の第二面取り部とは、切削痕を有する。
【0005】
本開示に係る加工システムは、
金属部材からなる被削物を加工する穴あけ工具及び面取り工具と、
前記穴あけ工具を動作させる第一駆動機構、及び前記面取り工具を動作させる第二駆動機構と、
前記第一駆動機構及び前記第二駆動機構を制御する制御部と、
前記第一駆動機構の制御に関する第一物理量及び第二物理量を取得する測定部と、を備え、
前記被削物は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、
第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、
前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を有し、
前記第一駆動機構は、前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と、前記第二の板部に設けられる第二孔部とを同軸に順次加工するように前記穴あけ工具を動作させ、
前記第一孔部は、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部、及び前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部とを有する孔部であり、
前記第二孔部は、少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する孔部であり、
前記第二駆動機構は、前記表側の第一開口縁部及び前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方の第一開口縁部に第一面取り部を設け、前記裏側の第二開口縁部に裏側の第二面取り部を設けるように前記面取り工具を動作させ、
前記制御部は、
前記第一物理量と前記第二物理量とに基づいて、前記少なくとも一方の第一開口縁部の位置と前記裏側の第二開口縁部の位置とを求め、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とに基づいて前記第二駆動機構を制御する。
【0006】
本開示に係る金属部材の製造方法は、
金属部材からなる被削物を準備する工程と、
第一駆動機構によって動作される穴あけ工具を用いて前記被削物を穴あけ加工する工程と、
第二駆動機構によって動作される面取り工具を用い、切削加工によって前記被削物を面取り加工する工程と、を備え、
前記被削物は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、
第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、
前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を有し、
前記穴あけ加工する工程は、
前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と前記第二の板部に設けられる第二孔部とを同軸に順次加工する工程を含み、
第一孔部は、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部と前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部とを有する孔部であり、
前第二孔部は、少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する孔部であり、
更に、
前記第一駆動機構の制御に関する第一物理量及び第二物理量を測定部で取得する工程と、
前記第一物理量及び前記第二物理量に基づいて、前記表側の第一開口縁部と前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方の第一開口縁部の位置と前記裏側の第二開口縁部の位置とを求める工程と、を含み、
前記面取り加工する工程は、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とに基づいて、前記少なくとも一方の第一開口縁部に第一面取り部を設け、前記裏側の第二開口縁部に裏側の第二面取り部を設ける。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態1に係る金属部材を示す斜視図である。
図2図2は、図1の(II)-(II)切断線で切断した金属部材の概略を示す断面図である。
図3図3は、図1の(II)-(II)切断線で切断した金属部材の別の概略を示す断面図である。
図4図4は、実施形態1に係る金属部材における面取り部の写真を示す図である。
図5A図5Aは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法における穴あけ加工を示す説明図である。
図5B図5Bは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法において、第一の板部に施す穴あけ加工を示す説明図である。
図5C図5Cは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法において、第二の板部に施す穴あけ加工を示す説明図である。
図6A図6Aは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法における面取り加工を示す説明図である。
図6B図6Bは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法において、第一孔部に施す面取り加工を示す説明図である。
図6C図6Cは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法において、第一孔部に施す面取り加工を示す説明図である。
図6D図6Dは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法において、第二孔部に施す面取り加工を示す説明図である。
図6E図6Eは、実施形態1に係る加工システム、及び金属部材の製造方法において、第二孔部に施す面取り加工を示す説明図である。
図7図7は、実施形態1に係る加工システムに備わる測定部が取得した穴あけ工具を自転させる自転用の動力源の負荷電流の推移を示すグラフである。
図8図8は、実施形態2に係る加工システムの制御手順を示すフローチャートである。
図9図9は、実施形態2に係る加工システムに備わる測定部が取得した穴あけ工具を自転させる自転用の動力源の負荷電流の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
穴あけ加工によって被削物に形成された孔部に挿通物を挿通させる場合、孔部の開口縁部には面取り部が設けられることがある。面取り部は、挿通物のガイドに利用できるからである。挿通物としては、例えば、切削工具やシャフトなどが挙げられる。面取り部の加工精度は、高いことが望まれる。面取り部の加工精度が低いと、挿通物が適切にガイドされ難い。そのため、挿通物が孔部に対して傾いたりして真っ直ぐ挿通され難い。面取り部の加工精度を高める観点から、面取り部は研削ではなく切削によって加工されることが望まれる。
【0009】
しかし、被削物の形状によっては、開口縁部を切削加工することが難しい場合がある。その理由の一つとして、切削加工する面取り工具を配置できる十分なスペースがない場合が挙げられる。また、その他の理由の一つとして、面取り工具を配置可能なスペースがあったとしても、被削物の寸法公差によって開口縁部の位置にばらつきが生じることが挙げられる。開口縁部の位置がばらつくと、開口縁部に対する面取り工具の位置がずれる。そのため、開口縁部に適切な面取り加工が施せず、面取り部の加工精度が低下する。
【0010】
本開示は、互いに間隔をあけて同軸に設けられた第一孔部と第二孔部とにおいて、少なくとも互いに対向する側の開口縁部の各々に切削加工された面取り部を有する金属部材を提供することを目的の一つとする。
【0011】
また、本開示は、互いに間隔をあけて設けられると共に互いに共通の軸を有する第一孔部と第二孔部とにおいて、少なくとも互いに対向する側の開口縁部の各々に切削加工された面取り部を有する金属部材を製造できる加工システム、及び金属部材の製造方法を提供することを別の目的の一つとする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示に係る金属部材における第一の板部と第二の板部とが互いに向かい合う箇所は、工具の取り回しの制約が大きく、加工し難い箇所と言える。加工が困難な箇所を有する形状であっても、本開示に係る金属部材は、第一孔部の軸と第二孔部の軸との同軸精度、第一孔部と第一面取り部との位置精度、並びに第二孔部と第二面取り部との位置精度とを兼備した部材とできる。
【0013】
本開示に係る加工システム及び本開示に係る金属部材の製造方法は、互いに間隔をあけると共に互いに共通の軸を有する第一孔部と第二孔部とにおいて、少なくとも互いに対向する側の開口縁部の各々に切削加工された面取り部を有する金属部材を製造できる。
【0014】
《本開示の実施形態の説明》
本発明者らは、第一孔部の軸と第二孔部の軸との同軸精度、第一孔部と第一面取り部との位置精度、並びに第二孔部と第二面取り部との位置精度とを兼備した金属部材を得るための検討を行った。
【0015】
上記金属部材を加工する際の素材として、第一の板部と第二の板部と脚部とが一体の素材を想定する。一体の素材とは、第一の板部と第二の板部と脚部とが接合された素材を含む。その場合、一つの穴あけ工具で第一の板部と第二の板部とに第一孔部と第二孔部とをそれぞれ連続的に加工することで、同軸精度の高い両孔部を加工することができる。ところが、両板部の向き合う箇所は、切削による面取り加工が困難である。例えば、両板部と脚部との間から工具を導入して第一孔部と第二孔部の向き合う開口縁部に面取り加工を行っても、適切な加工を行うことが事実上できない。工具が脚部に干渉しないように加工を行うには、工具の取り回しの制約が大き過ぎるからである。一方、第一孔部を通って第一の板部と第二の板部との間に工具を導入し、第一孔部と第二孔部の互いに向き合う開口縁部に第一面取り部と第二面取り部とを加工することが考えられる。その場合、上記各孔部の軸方向における各面取り部の位置精度が不十分となるおそれがある。各板部の厚み及び両板部の間隔には公差があるからである。
【0016】
次に、上記金属部材を加工する際の素材として、第一の板部と第二の板部と脚部とが分かれた素材を想定する。この場合、互いの位置精度が高い各孔部と各面取り部とを加工することができる。工具の取り回しの制約が少なく、各板部に個別に各孔部及び各面取り部の加工を行うことができるからである。一方、第一の板部と第二の板部と脚部とを組み合わせた際、両孔部の同軸精度を十分に確保することは難しい。複数の部材は、高い位置精度にて互いに接合することが難しいからである。
【0017】
以上の検討を基礎として、本発明者らは本発明を完成するに至った。以下、本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明において、第一の板部の第一表面及び第一裏面と、第二の板部の第一表面及び第二裏面とは、次の意味である。第一表面と第二表面とは、第一の板部と第二の板部の互いに離れる側に位置する面である。第一裏面と第二裏面とは、第一の板部と第二の板部の互いに近接する側に位置する面であり、互いに間隔をあけて向き合う面である。
【0018】
(1)本開示の一態様に係る金属部材は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を備える金属部材であって、
前記第一の板部は、
前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と、
前記第一孔部を構成する開口縁部であって、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部、及び前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部と、
前記表側の第一開口縁部、及び前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方に設けられた第一面取り部と、を有し、
前記第二の板部は、
少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する第二孔部と、
前記裏側の第二開口縁部に設けられた裏側の第二面取り部と、を有し、
前記第一孔部の軸と前記第二孔部の軸とは、同軸であり、
前記少なくとも一方の第一面取り部と前記裏側の第二面取り部とは、切削痕を有する。
【0019】
上記金属部材は、加工が困難な箇所を有する形状でありながら、第一孔部の軸と第二孔部の軸との同軸精度、第一孔部と第一面取り部との位置精度、並びに第二孔部と第二面取り部との位置精度とを兼備した部材とできる。
【0020】
表側の第一面取り部及び裏側の第二面取り部は、切削痕を有することで、挿通物を第一の板部の第一表面側から第一孔部、第二孔部の順に挿通させる際、挿通物を第一孔部及び第二孔部に適切にガイドできる。切削痕は、切削加工されることで設けられる。一般に、切削加工により形成された面取り部の加工精度は、研削加工により形成される面取り部の加工精度に比較して高い。そのため、加工精度の高い面取り部は、挿通物を第一孔部及び第二孔部に対して傾くことなく真っ直ぐ挿通させ易い。
【0021】
裏側の第一面取り部は、金属部材の見栄えの低下を抑制できる。第一の板部の第一表面から第一裏面に向かって穴あけ加工されることで第一孔部が形成される際、穴あけ工具の出口である裏側の第一開口縁部には、バリや欠けが形成されることがある。このバリや欠けは、金属部材の見栄えを低下させる。しかし、上記金属部材は、裏側の第一開口縁部に裏側の第一面取り部が設けられていることによって、バリや欠けを除去されているため、見栄えがよい。バリや欠けが除去されていることで、上記金属部材の製品の品質が高い。また、バリは挿通物の障害物となるおそれがあるため、バリが除去されていることで、挿通物が第一孔部内に挿通され易い上に、バリによって挿通物が第一孔部内で片寄ることを抑制できる。また、裏側の第二面取り部は、切削痕を有することで、金属部材の見栄えの低下を抑制できる。
【0022】
(2)上記金属部材の一形態として、
前記第二孔部は、前記第二表面と前記第二裏面とに貫通する貫通孔であり、
前記第一の板部は、
前記表側の第一開口縁部に設けられた表側の第一面取り部と、
前記裏側の第一開口縁部に設けられた裏側の第一面取り部と、を有し、
前記第二の板部は、
前記第二表面に設けられた表側の第二開口縁部と、
前記表側の第二開口縁部に設けられた表側の第二面取り部と、を有し、
前記表側の第一面取り部と前記裏側の第一面取り部と前記裏側の第二面取り部とは、切削痕を有することが挙げられる。
【0023】
上記金属部材は、挿通物を第二の板部の第二表面側から第二孔部、第一孔部の順に挿通させる場合であっても、第一孔部及び第二孔部に対して傾くことなく真っ直ぐ挿通させ易い。その上、上記金属部材は、第二孔部が貫通孔であるものの、表側の第二開口縁部に表側の第二面取り部が設けられていることで、見栄えがよい。
【0024】
(3)本開示の一態様に係る加工システムは、
金属部材からなる被削物を加工する穴あけ工具及び面取り工具と、
前記穴あけ工具を動作させる第一駆動機構、及び前記面取り工具を動作させる第二駆動機構と、
前記第一駆動機構及び前記第二駆動機構を制御する制御部と、
前記第一駆動機構の制御に関する第一物理量及び第二物理量を取得する測定部と、を備え、
前記被削物は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、
第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、
前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を有し、
前記第一駆動機構は、前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と、前記第二の板部に設けられる第二孔部とを同軸に順次加工するように前記穴あけ工具を動作させ、
前記第一孔部は、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部、及び前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部とを有する孔部であり、
前記第二孔部は、少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する孔部であり、
前記第二駆動機構は、前記表側の第一開口縁部及び前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方の第一開口縁部に第一面取り部を設け、前記裏側の第二開口縁部に裏側の第二面取り部を設けるように前記面取り工具を動作させ、
前記制御部は、
前記第一物理量と前記第二物理量とに基づいて、前記少なくとも一方の第一開口縁部の位置と前記裏側の第二開口縁部の位置とを求め、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とに基づいて前記第二駆動機構を制御する。
【0025】
上記加工システムは、加工が困難な箇所を有する形状でありながら、第一孔部の軸と第二孔部の軸との同軸精度、第一孔部と第一面取り部との位置精度、並びに第二孔部と第二面取り部との位置精度とを兼備した金属部材を製造できる。その理由は、次の通りである。
【0026】
上記加工システムは、脚部で固定された第一の板部と第二の板部とに第一孔部と第二孔部とを同軸に穴あけ加工する。そのため、上記加工システムは、第一孔部の軸と第二孔部の軸との同軸精度を高められる。
【0027】
上記加工システムは、被削物の寸法公差によって開口縁部の位置にばらつきが生じても、制御部によって、上記少なくとも一方の第一開口縁部の位置と第二開口縁部の位置とを正確に求められる。そして、上記加工システムは、制御部によって求められた上記少なくとも一方の第一開口縁部の位置と第二開口縁部の位置とに基づいて、面取り工具が上記少なくとも一方の第一開口縁部と第二開口縁部とを適切に面取りできるように被削物ごとに第二駆動機構を制御できる。そのため、上記加工システムは、第一孔部と第一面取り部との位置精度、及び第二孔部と第二面取り部との位置精度を高められる。
【0028】
(4)上記加工システムの一形態として、
前記第一物理量は、前記穴あけ工具の送り速度であり、
前記第二物理量は、前記第一の板部の穴あけ加工の開始から前記第二の板部の穴あけ加工の開始までの第一時間であり、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とは、前記第一孔部の軸方向に沿った長さと、前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さとによって求められ、
前記第一孔部の軸方向に沿った長さと、前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さとは、前記送り速度と前記第一時間とに基づいて求められることが挙げられる。
【0029】
上記加工システムは、上記少なくとも一方の第一開口縁部の位置と裏側の第二開口縁部の位置とを正確に把握できる。
【0030】
(5)上記加工システムの一形態として、
前記面取り工具は、前記穴あけ工具の外径よりも小さな外径を有する柱状のボディを有し、
前記ボディの先端部は、先端側に向かうほど先細り状の切れ刃を有し、
前記ボディの後端部は、後端側に向かうほど先細り状の切れ刃を有することが挙げられる。
【0031】
上記加工システムは、裏側の第一開口縁部には、後端部の切れ刃により面取り加工を施すことができる。また、上記加工システムは、表側の第一開口縁部及び裏側の第二開口縁部には、先端部の切れ刃により面取り加工を施すことができる。即ち、上記加工システムは、一つの面取り工具で、表側の第一開口縁部及び裏側の第一開口縁部の少なくとも一方の第一開口縁部と裏側の第二開口縁部とに対して連続して面取り加工を施すことができるため、金属部材の生産性に優れる。
【0032】
(6)上記加工システムの一形態として、
前記第一駆動機構は、前記穴あけ工具を回転させる自転用の動力源を有し、
前記測定部は、前記自転用の動力源の電気量を取得し、
前記制御部は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記自転用の動力源の回転数を変え、
前記第一電気量は、前記自転用の動力源の回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の穴あけ加工中に前記測定部で取得された電気量であることが挙げられる。
【0033】
自転用の動力源の回転中かつ被削物の加工前とは、実際に被削物を加工する際の切削条件と同じ切削条件で自転用の動力源によって穴あけ工具が回転した状態において、穴あけ工具と被削物とが接触しない状態のことをいう。被削物が加工システムのテーブルに保持されているか否かは問わない。以下、自転用の動力源の回転中かつ被削物の加工前を、単に自転用の動力源の空転中ということがある。
【0034】
上記加工システムは、穴あけ工具によって所定の穴あけ加工が施されていない不良品の生産を抑制できる。その理由は、上記加工システムによれば、後述するように上記閾値と上記差分との比較によって穴あけ工具の欠損を検出でき、穴あけ工具が欠損したとき制御部によって自転用の動力源の回転数を変えることができるからである。欠損は、穴あけ工具の刃部に欠けが生じることに加えて、穴あけ工具が折れる折損も含む。
【0035】
上記閾値と上記差分との比較によって穴あけ工具の欠損を検出できる理由は、次の通りである。穴あけ工具に欠損が生じると、被削物に対して非接触となる穴あけ工具の領域が多くなる。非接触となる穴あけ工具の領域が過度に多くなると、穴あけ加工自体が困難となる。この穴あけ加工が困難な状態は、実質的に被削物と穴あけ工具とが相対的に空転している状態とみなせる。即ち、第一電気量が第二電気量に近づき、上記差分が小さくなる。第二電気量が第一電気量と同程度になり、上記差分が実質的に無くなることもある。その結果、上記差分が閾値超から閾値以下に変化する。そのため、上記差分を求めることで、上記差分が閾値以下を満たすか否が把握でき、穴あけ工具に欠損が生じているか否かが把握できる。閾値については後述する。
【0036】
(7)上記(6)の加工システムの一形態として、
前記第一電気量と前記第二電気量とは、前記自転用の動力源の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つであることが挙げられる。
【0037】
上記加工システムは、穴あけ工具の欠損を検出し易い。その理由は、自転用の動力源の負荷電流大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つは、穴あけ工具の欠損と相関関係にあるからである。
【0038】
穴あけ工具に欠損が生じていると、穴あけ加工自体が困難となるため、被削物の加工時における加工抵抗が小さくなる。加工抵抗が小さいと、自転用の動力源の負荷トルクが小さくなるため、自転用の動力源の負荷電流が小さくなる。即ち、穴あけ工具に欠損が生じると、被削物の加工中における自転用の動力源の負荷電流が小さくなる。
【0039】
具体的には、穴あけ工具に欠損が生じて、穴あけ工具が被削物に接触しない場合、加工深さがゼロ(0)である。加工深さがゼロであることで、被削物の加工中における自転用の動力源の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、自転用の動力源の空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値と実質的に同程度になる。一方、穴あけ工具に欠損が生じたものの、穴あけ工具が被削物に接触する場合、加工深さが小さくなる。加工深さが小さいことで、被削物の加工中における自転用の動力源の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、穴あけ工具が被削物に接触しない場合ほどではないものの、相対的に小さくなる。即ち、被削物の加工中における自転用の動力源の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、自転用の動力源の空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値に近づく。よって、自転用の動力源の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つは、穴あけ工具が被削物を加工しているか否か、即ち穴あけ工具に欠損が生じているか否かを把握することに利用できる。
【0040】
(8)上記(6)又は上記(7)の加工システムの一形態として、
前記制御部は、前記差分が閾値以下である場合、前記自転用の動力源の回転数をゼロとすることが挙げられる。
【0041】
上記加工システムは、不良品が生産され続けることを防止できる。その理由は、上記差分が上記閾値以下の場合、即ち穴あけ工具に欠損が生じた場合に制御部によって自転用の動力源の回転数をゼロとすることができるからである。自転用の動力源の回転数がゼロになると、穴あけ工具又は被削物の回転が停止する。
【0042】
(9)本開示の一態様に係る金属部材の製造方法は、
金属部材からなる被削物を準備する工程と、
第一駆動機構によって動作される穴あけ工具を用いて前記被削物を穴あけ加工する工程と、
第二駆動機構によって動作される面取り工具を用い、切削加工によって前記被削物を面取り加工する工程と、を備え、
前記被削物は、
第一表面と第一裏面とを有する第一の板部と、
第二表面と第二裏面とを有する第二の板部と、
前記第一裏面と前記第二裏面とが間隔をあけて向き合うように前記第一の板部と前記第二の板部とを固定している脚部と、を有し、
前記穴あけ加工する工程は、
前記第一表面と前記第一裏面とを貫通する第一孔部と前記第二の板部に設けられる第二孔部とを同軸に順次加工する工程を含み、
第一孔部は、前記第一表面に設けられた表側の第一開口縁部と前記第一裏面に設けられた裏側の第一開口縁部とを有する孔部であり、
前第二孔部は、少なくとも前記第二裏面に設けられた裏側の第二開口縁部を有する孔部であり、
更に、
前記第一駆動機構の制御に関する第一物理量及び第二物理量を測定部で取得する工程と、
前記第一物理量及び前記第二物理量に基づいて、前記表側の第一開口縁部と前記裏側の第一開口縁部の少なくとも一方の第一開口縁部の位置と前記裏側の第二開口縁部の位置とを求める工程と、を含み、
前記面取り加工する工程は、
前記少なくとも一方の第一開口縁部の前記位置と前記裏側の第二開口縁部の前記位置とに基づいて、前記少なくとも一方の第一開口縁部に第一面取り部を設け、前記裏側の第二開口縁部に裏側の第二面取り部を設ける。
【0043】
上記金属部材の製造方法は、上述の加工システムと同様、加工が困難な箇所を有する形状でありながら、第一孔部の軸と第二孔部の軸との同軸精度、第一孔部と第一面取り部との位置精度、並びに第二孔部と第二面取り部との位置精度とを兼備した金属部材を製造できる。
【0044】
(10)上記金属部材の製造方法の一形態として、
前記面取り部を設ける工程では、前記面取り部の面取り長さを前記第一の板部と前記第二の板部との間の長さの寸法許容差よりも小さくするように前記第二駆動機構を動作させることが挙げられる。
【0045】
上記金属部材の製造方法は、面取り長さを寸法許容差よりも小さくする場合に好適である。通常、面取り長さが寸法許容差よりも小さい場合、開口縁部に面取り工具を適切に接触させられず、開口縁部に適切な面取り加工を施すことができない場合がある。しかし、上記金属部材の製造方法は、上述のように、各開口縁部の位置を正確に求められ、各開口縁部の位置に対応して面取り工具を動作させることができる。そのため、上記金属部材の製造方法は、面取り長さが寸法許容差よりも小さい場合であっても、各開口縁部に面取り工具を適切に接触させられ、適切な面取り加工を施すことができる。
【0046】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。
【0047】
《実施形態1》
〔金属部材〕
図1から図4を参照して、実施形態1に係る金属部材1を説明する。金属部材1は、第一の板部11と第二の板部12と脚部13とを備える。第一の板部11は、第一表面111と第一裏面112とを有する。第二の板部12は、第二表面121と第二裏面122とを有する。脚部13は、第一裏面112と第二裏面122とが間隔をあけて向き合うように第一の板部11と第二の板部12とを固定している。第一の板部11は、第一表面111と第一裏面112とを貫通する第一孔部113と、第一孔部113を構成する開口縁部であって、第一表面111に設けられた表側の第一開口縁部114、及び第一裏面112に設けられた裏側の第一開口縁部115と、を有する。第二の板部12は、少なくとも第二裏面122に設けられた裏側の第二開口縁部125を有する第二孔部123を備える。
【0048】
本形態に係る金属部材1の特徴の一つは、以下の要件(1)から要件(4)を備える点にある。
(1)第一孔部113の軸と第二孔部123の軸とは、図2又は図3に示すように、同軸である。
(2)第一の板部11は、表側の第一開口縁部114、及び裏側の第一開口縁部115の少なくとも一方に設けられた第一面取り部を有する。
(3)第二の板部12は、裏側の第二開口縁部125に設けられた裏側の第二面取り部127を有する。
(4)上記少なくとも一方の第一面取り部と裏側の第二面取り部127とは、図4に示すような切削痕15を有する。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0049】
[第一の板部]
第一の板部11の材質、及び種類は、特に限定されず、適宜選択できる。第一の板部11の材質は、例えば、純鉄、鉄合金、又は非鉄金属が挙げられる。第一の板部11の種類は、例えば、圧粉成形体、焼結体、又は溶製材などが挙げられる。圧粉成形体は、原料粉末を加圧成形したものである。焼結体は、圧粉成形体を焼結したものである。溶製材は、原料溶湯を凝固させたものである。第一の板部11は、本形態では、鉄合金からなる焼結体で構成されている。第一の板部11の外形は、扁平な形状であれば特に限定されず、適宜選択できる。第一の板部11の外形は、本形態では、円形状である。第一の板部11の第一表面111と第一裏面112とは、平面に限定されるわけではなく、凹凸が設けられていてもよい。
【0050】
(第一孔部)
第一孔部113は、図2又は図3に示すように、第一の板部11の厚み方向に貫通する貫通孔である。厚みとは、第一表面111と第一裏面112との間の長さである。即ち、第一の板部11の厚み方向とは、第一表面111と第一裏面112とが向かい合う方向に沿った方向である。図2図3とにおいて、第一の板部11の厚み方向とは、紙面上下方向である。第一孔部113は、表側の第一開口縁部114と裏側の第一開口縁部115とを有する。表側の第一開口縁部114は、第一の板部11における第一表面111に設けられる。裏側の第一開口縁部115は、第一の板部11における第一裏面112に設けられる。
【0051】
第一孔部113の内周形状は、本形態では、円筒状である。即ち、表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115の輪郭形状は、円形状である。第一孔部113の内周面は、切削痕を有することが好ましい。この切削痕は、第一孔部113の周方向に沿って複数の筋状に構成されている。第一孔部113の数は、特に限定されず、適宜選択できる。第一孔部113の数は、単数でもよいし、複数でもよい。第一孔部113の数は、本形態では、図1に示すように、5つである。5つの第一孔部113は、第一の板部11の中心を中心とする円周上に並列している。第一の板部11の中心は、第一の板部11の外接円の中心をいう。5つの第一孔部113は、本形態では、上記円周上に実質的に等間隔に設けられている。
【0052】
(第一面取り部)
第一の板部11は、表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115の少なくとも一方に設けられている第一面取り部を有する。本形態では、表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115の両方に第一面取り部が設けられている。以下、表側の第一開口縁部114に設けられている第一面取り部を表側の第一面取り部116、裏側の第一開口縁部115に設けられている第一面取り部を裏側の第一面取り部117という。
【0053】
表側の第一面取り部116は、第一孔部113に挿通させる挿通物のガイドとして機能させられる。挿通物の図示は省略する。挿通物としては、例えば、リーマなどの切削工具やシャフトなどの付属部品が挙げられる。一般的に、切削加工により形成された面取り部の加工精度は、研削加工により形成される面取り部の加工精度に比較して高い。加工精度の高い面取り部は、挿通物を適切にガイドし易い。即ち、表側の第一面取り部116は、切削加工により形成されているため、第一孔部113に対し、挿通物が傾くことなく挿通物を真っ直ぐ挿通させ易い。挿通物が例えばリーマの場合、リーマが第一孔部113に真っ直ぐ挿通されると、リーマによって第一孔部113の内周面を精度良く仕上げ加工することができる。よって、第一孔部113の内周面の加工精度が高められる。第一孔部113の内周面の加工精度が高いと、第一孔部113にシャフトを挿通させる場合、第一孔部113に対し、シャフトが傾くことなく真っ直ぐ挿通され易い。
【0054】
裏側の第一面取り部117は、金属部材1の見栄えの低下を抑制できる。第一の板部11の第一表面111から第一裏面112に向かって穴あけ加工されることで第一孔部113が形成される際、穴あけ工具の出口である裏側の第一開口縁部115には、バリや欠けが形成されることがある。このバリや欠けは、金属部材1の見栄えを低下させる。しかし、本形態の金属部材1は、裏側の第一開口縁部115に裏側の第一面取り部117が設けられていることによって、バリや欠けを除去されているため、見栄えがよい。バリや欠けが除去されていることで、金属部材1の製品の品質が高い。また、バリは挿通物の障害物となるおそれがあるため、バリが除去されていることで、挿通物が第一孔部113に挿通され易い上に、バリによって第一孔部113内で片寄ることを抑制できる。後述する第二孔部123が貫通孔であり、上記挿通物を第二の板部12の第二表面121側から第二孔部123、第一孔部113の順に挿通する場合、裏側の第一面取り部117は、挿通物を適切にガイドし易い。
【0055】
表側の第一面取り部116及び裏側の第一面取り部117は、各第一開口縁部の全周にわたって形成されている。表側の第一面取り部116及び裏側の第一面取り部117は、図4に示すような切削痕15を有する。切削痕15は、各第一面取り部の周方向に沿って複数の筋状に構成されている。切削痕15は、切削加工により形成される。表側の第一面取り部116及び裏側の第一面取り部117の形態としては、平面取りやR面取りが挙げられる。本形態の表側の第一面取り部116及び裏側の第一面取り部117は、平面取りである。
【0056】
[第二の板部]
第二の板部12の材質、及び種類は、上述の第一の板部11の材質、及び種類と同様の材質、及び種類が挙げられる。第二の板部12の材質、及び種類は、第一の板部11の材質、及び種類と同じ材質、及び種類が好ましい。第二の板部12は、本形態では、第一の板部11と同様、鉄合金からなる焼結体で構成されている。第二の板部12の外形は、扁平な形状であれば特に限定されず、適宜選択できる。本形態の第二の板部12の外形は、円形状である。第二の板部12の第二表面121と第二裏面122とは、第一の板部11と同様、平面に限定されるわけではなく、凹凸が設けられていてもよい。
【0057】
(第二孔部)
第二孔部123の軸は、図2又は図3に示すように、第一孔部113の軸と同軸である。即ち、第二孔部123の形成箇所は、第二の板部12における第一孔部113に臨む位置である。第二孔部123の数は、第一孔部113の数と同一であり、本形態では、図1に示すように、5つである。5つの第二孔部123は、本形態では、第二の板部12の中心を中心とする円周上に実質的に等間隔に設けられている。
【0058】
第二孔部123の種類は、図2に示す貫通孔、又は図3に示す止まり穴が挙げられる。貫通孔は、第二の板部12の厚み方向に貫通する。厚みとは、第二表面121と第二裏面122との間の長さである。即ち、第二の板部12の厚み方向とは、第二表面121と第二裏面122とが向かい合う方向に沿った方向である。図2図3とにおいて、第二の板部12の厚み方向とは、紙面上下方向である。貫通孔は、第二の板部12の第二表面121に設けられる表側の第二開口縁部124と第二裏面122に設けられる裏側の第二開口縁部125とを有する。一方、止まり穴は、底を有する穴であり、表側の第二開口縁部124は有さず、裏側の第二開口縁部125を有する。本形態の第二孔部123の種類は、図2に示す貫通孔である。
【0059】
第二孔部123の内周形状は、本形態では、第一孔部113の内周形状と同じ円筒状である。即ち、表側の第二開口縁部124と裏側の第二開口縁部125の輪郭形状は、円形状である。第二孔部123の内径は、第一孔部113の内径と同一径である。第二孔部123の内周面は、切削痕を有することが好ましい。この切削痕は、第二孔部123の周方向に沿って複数の筋状に構成されている。
【0060】
(第二面取り部)
第二の板部12は、少なくとも裏側の第二開口縁部125に設けられている裏側の第二面取り部127を有する。第二の板部12は、本形態では更に、表側の第二開口縁部124に設けられている表側の第二面取り部126をも有する。表側の第二面取り部126と裏側の第二面取り部127は、各第二開口縁部の全周にわたって形成されている。各第二面取り部は、図4を参照して説明した上述の切削痕15と同様の切削痕を有する。第二面取り部の切削痕は、各第二面取り部の周方向に沿って複数の筋状に構成されている。第二面取り部の切削痕は、切削加工により形成される。第二面取り部は、平面取りである。裏側の第二面取り部127は、切削加工により形成されているため、第一孔部113を通った挿通物が第二孔部123に対して傾くことなく真っ直ぐ挿通され易い。表側の第二面取り部126は、切削加工により形成されているため、見栄えがよい上に、挿通物を第二の板部12の第二表面121側から第二孔部123に挿通させる場合には、挿通物が第二孔部123に対して傾くことなく真っ直ぐ挿通され易い。
【0061】
(同軸精度)
第一孔部113の軸と第二孔部123の軸のずれ量は、例えば、Φ0.1mm以下である。この軸同士のずれ量がΦ0.1mm以下であることを、第一孔部113の軸と第二孔部123の軸とが同軸とする。軸同士のずれ量は、更にΦ0.05mm以下、特にΦ0.03mm以下が好ましく、ゼロ(0)が最も好ましい。
【0062】
軸同士のずれ量は、次のようにして求める。第一孔部113の軸と直交する仮想平面をとる。仮想平面上において、第一孔部113の軸との第一交点と第二孔部123の軸との第二交点とをとる。第一孔部113の軸は、第一孔部113の内接円の中心とする。第二孔部123の軸は、第二孔部123の内接円の中心とする。第一交点と第二交点との最短長さを求める。この最短長さを、軸同士のずれ量とする。
【0063】
(位置精度)
表側の第一面取り部116と裏側の第一面取り部117の面取り幅のずれ量は、片側0.05mm以下であり、面取り長さのずれ量は、片側0.05mm以下であることが好ましい。この面取り幅のずれ量は、更に片側0.025mm以下、特に片側0.015mm以下が好ましい。この面取り長さのずれ量は、更に片側0.025mm以下、特に片側0.015mm以下が好ましい。
【0064】
表側の第二面取り部126と裏側の第二面取り部127の面取り幅のずれ量は、片側0.05mm以下であり、面取り長さのずれ量は、片側0.05mm以下であることが好ましい。この面取り幅のずれ量は、更に片側0.025mm以下、特に片側0.015mm以下が好ましい。この面取り長さのずれ量は、更に片側0.025mm以下、特に片側0.015mm以下が好ましい。
【0065】
表側の第一面取り部116と表側の第二面取り部126の面取り幅のずれ量は、片側0.1mm以下であり、面取り長さのずれ量は、片側0.1mm以下であることが好ましい。この面取り幅のずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。この面取り長さのずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。
【0066】
裏側の第一面取り部117と裏側の第二面取り部127の面取り幅のずれ量は、片側0.1mm以下であり、面取り長さのずれ量は、片側0.1mm以下であることが好ましい。この面取り幅のずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。この面取り長さのずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。
【0067】
表側の第一面取り部116と裏側の第二面取り部127の面取り幅のずれ量は、片側0.1mm以下であり、面取り長さのずれ量は、片側0.1mm以下であることが好ましい。この面取り幅のずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。この面取り長さのずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。
【0068】
裏側の第一面取り部117と表側の第二面取り部126の面取り幅のずれ量は、片側0.1mm以下であり、面取り長さのずれ量は、片側0.1mm以下であることが好ましい。この面取り幅のずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。この面取り長さのずれ量は、更に片側0.05mm以下、特に片側0.03mm以下が好ましい。
【0069】
面取り部が平面取りの場合、面取り部を斜辺とする直角三角形において、斜辺を除く2辺のうち、第一孔部113又は第二孔部123の軸方向に直交する方向に沿った辺の長さを面取り幅とし、第一孔部113又は第二孔部123の軸方向に沿った辺の長さを面取り長さとする。面取り部がR面取りの場合、面取り部の曲面と曲面につながる各面との変曲点同士を直線で結ぶ線分を斜辺とする直角三角形において、斜辺を除く2辺のうち、第一孔部113及び第二孔部123の軸方向に直交する方向に沿った辺の長さを面取り幅とし、第一孔部113又は第二孔部123の軸方向に沿った辺の長さを面取り長さとする。
【0070】
[脚部]
脚部13は、図1に示すように、第一の板部11と第二の板部12とを固定している。脚部13は、本形態では、第一裏面112と第二裏面122とをつないでいる。脚部13の材質、及び種類は、上述の第一の板部11及び第二の板部12の材質及び種類と同様の材質及び種類が挙げられる。脚部13の材質及び種類は、第一の板部11及び第二の板部12の材質及び種類と同じ材質及び種類が好ましい。その理由は、第一の板部11と第二の板部12との連結強度を高め易いからである。本形態の脚部13は、第一の板部11の第一裏面112に一連に形成されている。脚部13の先端は、第二の板部12の第二裏面122に連結されている。この連結には、ろう付けなど適宜な手法が利用できる。脚部13の数は、特に限定されず、適宜選択できる。脚部13の数は、単数でもよいし、複数でもよい。脚部13の数は、本形態では5本である。5本の脚部13は、第一の板部11の中心を中心とする円周上に並列している。5本の脚部13は、本形態では、上記円周上に実質的に等間隔に設けられている。各脚部13は、周方向に隣り合う第一孔部113同士の間に配置されている。各脚部13の形状は、特に限定されず、適宜選択できる。各脚部13の形状は、本形態では、台形柱状である。
【0071】
[用途]
本形態に係る金属部材1は、各種の一般構造用部品に好適に利用できる。一般構造用部品としては、例えば、プラネタリキャリアなどの機械部品が挙げられる。
【0072】
〔作用効果〕
本形態に係る金属部材1は、加工が困難な箇所を有する形状でありながら、第一孔部113の軸と第二孔部123の軸との同軸精度、表側の第一面取り部116及び裏側の第一面取り部117と第一孔部113との位置精度、並びに表側の第二面取り部126及び裏側の第二面取り部127と第二孔部123との位置精度とを兼備した部材とできる。そのため、本形態に係る金属部材1は、第一孔部113及び第二孔部123に対して挿通物が傾くことなく真っ直ぐ挿通され易い。その上、本形態に係る金属部材1は、見栄えがよい。よって、本形態に係る金属部材1の製品の品質が高い。
【0073】
〔加工システム〕
図5Aから図5C図6Aから図6E図7を参照して、本形態に係る加工システム10を説明する。本形態に係る加工システム10は、図5Aなどに示す穴あけ工具21及び図6Aなどに示す面取り工具22と、第一駆動機構31及び第二駆動機構32と、測定部40と、制御部50とを有する。穴あけ工具21及び面取り工具22は、被削物100を加工する。第一駆動機構31は、穴あけ工具21を動作させる。第二駆動機構32は、面取り工具22を動作させる。制御部50は、第一駆動機構31及び第二駆動機構32を制御する。
【0074】
本形態に係る加工システム10の特徴の一つは、以下の(1)から(6)を備える点にある。
(1)穴あけ工具21は、特定の被削物100に対して特定の孔部を形成する。
(2)面取り工具22は、孔部の開口縁部に面取り部を形成する。
(3)第一駆動機構31は、穴あけ工具21に所定の動作を行わせる。
(4)第二駆動機構32は、面取り工具22に所定の動作を行わせる。
(5)測定部40は、第一駆動機構31の制御に関する第一物理量及び第二物理量を取得する。第一物理量及び第二物理量の詳細については後述する。
(6)制御部50が、孔部の開口縁部の位置を求め、孔部の開口縁部の位置に基づいて第二駆動機構32を制御する。
【0075】
本形態に係る加工システム10は、図1から図4を参照して説明した上述の金属部材1を作製できる。以下の説明は、被削物100の概要、加工システム10の各構成の詳細、の順に行う。なお、図5Aから図5C図6Aから図6Eとに示す第二演算部52、及び第二記憶部56は、後述の実施形態2で説明する。
【0076】
[被削物]
被削物100は、穴あけ工具21及び面取り工具22によって加工される加工対象である。この被削物100は、本形態では、図5Aに示すように、第一の板部11と第二の板部12と脚部13とを有する。被削物100は、上述の金属部材1において、第一の板部11が第一孔部113、及び各第一面取り部を有しておらず、第二の板部12が第二孔部123、及び各第二面取り部を有していないものに相当する。被削物100の材質、及び種類は、上述の通り、上記金属部材1と同じ材質、及び種類が利用できる。
【0077】
被削物100は、加工される際、テーブル200の上に保持される。テーブル200は、穴あけ工具21や面取り工具22の逃げ代となる孔部210を有するとよい。孔部210は、貫通孔で形成しているが、止まり穴でもよい。孔部210の内径は、図6Eに示すように、面取り工具22が第二孔部123の表側の第二開口縁部124を加工する際に、面取り工具22が孔部210の内周面に干渉しない程度の径とする。
【0078】
[穴あけ工具]
穴あけ工具21は、図5Bに示すように、第一の板部11に第一孔部113を形成し、図5Cに示すように、第二の板部12に第二孔部123を形成する。第一孔部113及び第二孔部123は、本形態では、図2を参照して上述した金属部材1の第一孔部113及び第二孔部123の通りである。穴あけ工具21としては、例えば、ドリルが挙げられる。
【0079】
[面取り工具]
面取り工具22は、第一の板部11においては、図6Bに示すように表側の第一開口縁部114に設けられる表側の第一面取り部116、及び図6Cに示すように裏側の第一開口縁部115に設けられる裏側の第一面取り部117の少なくとも一方の第一面取り部を形成する。面取り工具22は、第二の板部12においては、図6Dに示すように少なくとも裏側の第二開口縁部125に裏側の第二面取り部127を形成する。面取り工具22は、第一の板部11において、第一面取り部116、及び裏側の第一面取り部117の両方を形成してもよい。面取り工具22は、更に、図6Eに示すように第二の板部12の表側の第二開口縁部124に表側の第二面取り部126を形成してもよい。各第一面取り部及び各第二面取り部の形成は、切削加工によって行う。各第一面取り部及び各第二面取り部は、図2又は図3を参照して上述した金属部材1の各第一面取り部及び各第二面取り部の通りである。面取り工具22としては、例えば、面取りカッターが利用できる。
【0080】
面取り工具22は、本形態では、図6Aに示すように、穴あけ工具21の外径よりも小さな外径のボディ23を有する。即ち、ボディ23の外径は、第一孔部113及び第二孔部123の内径よりも小さい。ボディ23の先端部は、先端側に向かうほど先細り状の切れ刃24を有する。また、ボディ23の後端部は、後端側に向かうほど先細り状の切れ刃24を有する。以下、ボディ23の先端部の切れ刃24を単に先端側の切れ刃24といい、ボディ23の後端部の切れ刃24を単に後端側の切れ刃24ということがある。各切れ刃24は、図2又は図3を参照して説明した第一面取り部及び第二面取り部の形状に応じた形状を有する。平面取り用の面取り工具の場合、ボディ23の軸に対して傾斜した直線状の切れ刃又はねじれ刃が挙げられ、R面取り用の面取り工具の場合、円弧状の切れ刃が挙げられる。ボディ23の先端部及び後端部には、周方向に複数の切れ刃24が設けられている。
【0081】
面取り工具22の先端側の切れ刃24は、被削物100の孔部における面取り工具22の後退方向側に位置する開口縁部を加工できる。即ち、先端側の切れ刃24は、図6Bに示すように、表側の第一開口縁部114と、図6Dに示すように、裏側の第二開口縁部125とを切削加工できる。面取り工具22の後端側の切れ刃24は、被削物100の孔部における面取り工具22の前進方向側に位置する開口縁部を加工できる。即ち、後端側の切れ刃24は、図6Cに示すように、裏側の第一開口縁部115と、図6Eに示すように、表側の第二開口縁部124とを切削加工できる。面取り工具22は、両第一開口縁部と両第二開口縁部とに対して連続して面取り加工を施すことができる。そのため、上記加工システム10は、金属部材1の生産性に優れる。面取り工具22は、第一の板部11と第二の板部12との対向間隔がボディ23の軸方向に沿った長さよりも大きい範囲であれば、上記対向間隔が小さくても、裏側の第一開口縁部115に対して切削加工によって裏側の第一面取り部117を形成でき、裏側の第二開口縁部125に対して切削加工によって裏側の第二面取り部127を形成できる。
【0082】
[第一駆動機構]
第一駆動機構31は、図5Aから図5Cに示すように、穴あけ工具21を動作させ、被削物100の第一の板部11及び第二の板部12に対して所定の穴あけ加工を施すのに必要な動作を穴あけ工具21に行わせる。所定の穴あけ加工としては、一つの穴あけ工具21で第一の板部11、第二の板部12、の順に連続して施す穴あけ加工が挙げられる。この穴あけ加工により、図5Bに示すように、第一の板部11に第一孔部113が形成され、図5Cに示すように、第二の板部12に第一孔部113と同軸の第二孔部123が形成される。必要な動作としては、穴あけ工具21を穴あけ工具21の軸方向に移動させることと、穴あけ工具21を自転させることとが挙げられる。
【0083】
第一駆動機構31は、動力源と、動力源の動力を穴あけ工具21に伝達する伝達機構とを有する。動力源は、穴あけ工具21が加工に必要な動作を行うための動力を付与する部材である。穴あけ工具21の自転用の動力源は、例えば、モータが挙げられる。伝達機構は、公知の伝達機構が利用できる。第一駆動機構31としては、例えば、XYZテーブル、ボールねじなどが利用できる。XYZテーブルは、三次元座標上の任意の位置に穴あけ工具21を移動させられる。Z方向が、穴あけ工具21の昇降方向である。XY方向が、穴あけ工具21の昇降方向に直交する方向である。第一駆動機構31としては、少なくとも穴あけ工具21を昇降できればよいものの、昇降方向と直交する方向にも移動できることが好ましい。第一駆動機構31は、送り用の動力源31aと、自転用の動力源31cとを有する。送り用の動力源31aがZ方向用の動力源である。
【0084】
第一駆動機構31は、送り用の動力源31aによって、穴あけ工具21を穴あけ工具21の軸方向に移動させて被削物100に対して近づけるように前進させたり、遠ざけるように後退させたりする。図5Aから図5C中における穴あけ工具21の軸方向に沿う矢印は、穴あけ工具21の前進方向及び後退方向を示す。送り用の動力源31aの種類としては、例えば、モータ、シリンダ、ソレノイドなどが挙げられる。第一駆動機構31は、自転用の動力源31cによって、穴あけ工具21を自転させる。図5Aから図5C中における穴あけ工具21の周方向に沿う矢印は、穴あけ工具21の回転方向を示す。
【0085】
[第二駆動機構]
第二駆動機構32は、図6Aから図6Eに示すように、面取り工具22を動作させ、被削物100の複数の孔部の開口縁部に対して切削により所定の面取り加工を施すのに必要な動作を面取り工具22に行わせる。所定の面取り加工としては、第一の板部11に対しては、図6Bに示すように表側の第一開口縁部114に施す面取り加工、及び図6Cに示すように裏側の第一開口縁部115に施す面取り加工の少なくとも一方の面取り加工が挙げられる。また、所定の面取り加工としては、第二の板部12に対しては、図6Dに示すように少なくとも裏側の第二開口縁部125に施す面取り加工が挙げられる。この面取り加工により、第一の板部11には、図6Bに示す表側の第一面取り部116、及び図6Cに示す裏側の第一面取り部117の少なくとも一方の第一面取り部が形成される。また、この面取り加工により、第二の板部12には、図6Dに示す裏側の第二面取り部127が形成される。必要な動作としては、面取り工具22を面取り工具22の軸方向に移動させることと、面取り工具22を自転させることと、面取り工具22を孔部の開口縁部の周上に沿って公転させることとが挙げられる。
【0086】
第二駆動機構32は、動力源と、動力源の動力を面取り工具22に伝達する伝達機構とを有する。動力源は、面取り工具22が加工に必要な動作を行うための動力を付与する部材である。面取り工具22の自転用の動力源は、上述と同様、例えば、モータが挙げられる。伝達機構は、公知の伝達機構が利用できる。第二駆動機構32としては、例えば、第一駆動機構31と同様、XYZテーブル、ボールねじなどが利用できる。Z方向が、面取り工具22の昇降方向である。XY方向が、面取り工具22の昇降方向に直交する方向である。第二駆動機構32は、送り用の動力源32aと、自転用の動力源32cと、公転用の動力源32dとを有する。送り用の動力源32aがZ方向用の動力源である。公転用の動力源32dが、X方向用の動力源とY方向用の動力源とを有する。
【0087】
第二駆動機構32は、送り用の動力源32aによって、面取り工具22を面取り工具22の軸方向に移動させて被削物100に対して近づけるように前進させたり、遠ざけるように後退させたりする。図6Aから図6E中における面取り工具22の軸方向に沿う矢印は、面取り工具22の前進方向及び後退方向を示す。送り用の動力源32aの種類としては、上述した送り用の動力源31aの種類と同様、例えば、モータ、シリンダ、ソレノイドなどが挙げられる。
【0088】
第二駆動機構32は、自転用の動力源32cによって、面取り工具22を自転させる。第二駆動機構32は、公転用の動力源32dによって、面取り工具22を公転させる。公転用の動力源32dによって、面取り工具22の切れ刃24を開口縁部に接触させたり、開口縁部から離隔させたりする。図6Aから図6E中における面取り工具22の周方向に沿う矢印は、面取り工具22の自転方向を示し、面取り工具22の周方向に沿う白抜き矢印は、面取り工具22の公転方向を示す。面取り工具22の自転方向と公転方向とは同一方向でもよいし反対方向でもよい。
【0089】
本例の自転用の動力源32cの種類、及び公転用の動力源32dの種類は、いずれもモータである。
【0090】
第二駆動機構32は、第一駆動機構31と個別に設けられていてもよいし、第二駆動機構32の少なくとも一部を第一駆動機構31と共用してもよい。例えば、第二駆動機構32における送り用の動力源32a及び自転用の動力源32cは、第一駆動機構31における送り用の動力源31a及び自転用の動力源32cと共用してもよい。第二駆動機構32は、第一駆動機構31とは独立したものを用いてもよい。
【0091】
[測定部]
測定部40は、図5Aから図5Cに示すように、第一駆動機構31の制御に関する第一物理量及び第二物理量を取得する。測定部40で取得する第一物理量は、例えば、穴あけ工具21の送り速度であることが好ましい。測定部40で取得する第二物理量は、図7に示す第一時間であることが好ましい。図7は、測定部40で取得した穴あけ工具21の自転用の動力源31cにおける負荷電流の推移を示すグラフである。図7のグラフの詳細は後述する。第一時間は、第一の板部11の穴あけ加工の開始から第二の板部12の穴あけ加工の開始までの時間をいう。第一時間は、第一加工時間と中間時間とを有する。第一加工時間は、第一の板部11の穴あけ加工の開始から第一の板部11の穴あけ加工の完了までの時間をいう。中間時間は、第一の板部11の穴あけ加工の完了から第二の板部12の穴あけ加工の開始までの時間をいう。送り速度と第一時間が好ましい理由は、後述する制御部50の第一演算部51によって、第一孔部113における表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115の位置と、第二孔部123における裏側の第二開口縁部125の位置とを正確に演算し易いからである。
【0092】
測定部40は、更に、第一駆動機構31の制御に関する第三物理量も取得することが好ましい。第三物理量は、図7に示す第二時間であることが好ましい。第二時間は、第二の板部12の穴あけ加工の開始から第二の板部12の穴あけ加工の完了までの第二加工時間をいう。第二時間が好ましい理由は、後述する制御部50の第一演算部51によって、第二孔部123における表側の第二開口縁部124の位置をも正確に演算し易いからである。
【0093】
穴あけ工具21の送り速度は、送り用の動力源31aの設定値から取得できる。第一時間と第二時間とは、例えば、自転用の動力源31cにおける負荷電流の推移から取得できる。上記負荷電流は、穴あけ工具21の加工抵抗と相関関係にあるからである。自転用の動力源31cの負荷電流は、電流センサによって測定できる。
【0094】
穴あけ加工中には、穴あけ工具21の加工抵抗、即ち切削抵抗が大きくなるため、自転用の動力源31cの負荷トルクが大きくなり、上記負荷電流は大きくなる。穴あけ加工中とは、被削物100を穴あけ加工する際の切削条件で自転用の動力源31cによって穴あけ工具21が回転された状態において、穴あけ工具21と被削物100とが接触した状態をいう。穴あけ加工中は、第一の板部11の穴あけ加工の開始から完了までの間と、第二の板部12の穴あけ加工の開始から完了までの間とが挙げられる。
【0095】
一方、自転用の動力源31cの空転中には、穴あけ工具21の加工抵抗が実質的に無いため、自転用の動力源31cの負荷トルクが小さくなり、上記負荷電流は小さくなる。そのため、上記負荷電流は、実質的に一定の値をとる。自転用の動力源31cの空転中とは、第一の板部11の穴あけ加工の開始までの間と、第一の板部11の穴あけ加工の完了から第二の板部12の穴あけ加工の開始までの間と、第二の板部12の穴あけ加工の完了から穴あけ工具21が初期位置に後退するまでの間とが挙げられる。
【0096】
即ち、図7に示すように、上記負荷電流の一回目の上昇から下降を経て二回目の上昇までに要する時間が上記第一時間である。第一時間のうち、上記負荷電流の一回目の上昇から下降までに要する時間が上記第一加工時間である。第一時間のうち、上記負荷電流の一回目の下降から二回目の上昇までに要する時間が上記中間時間である。上記負荷電流の二回目の上昇から下降までに要する時間が第二加工時間である。
【0097】
[制御部]
制御部50は、穴あけ工具21に上述の所定の穴あけ加工を行わせるように第一駆動機構31を制御し、面取り工具22に上述の所定の面取り加工を行わせるように第二駆動機構32を制御する。制御部50は、第二駆動機構32の制御条件として、送り用の動力源32aによって面取り工具22の送り量を変える。送り量の変更は、第一演算部51の結果に基づいて行われる。制御部50は、代表的には、コンピュータにより構成される。コンピュータは、プロセッサ、メモリなどを備える。メモリには、後述する制御手順をプロセッサに実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを読み出して実行する。プログラムは、第一演算部51の演算結果に基づいて上記送り量を変える処理、に関するプログラムコードを含む。制御部50は、図5Aから図5C図6Aから図6Eに示すように、第一演算部51と、第一記憶部55とを有する。
【0098】
(第一演算部)
第一演算部51は、測定部40で取得した第一物理量及び第二物理量に基づいて、表側の第一開口縁部114の位置及び裏側の第一開口縁部115の位置の少なくとも一方の位置と、裏側の第二開口縁部125の位置とを演算する。表側の第一開口縁部114の位置及び裏側の第一開口縁部115の位置は、第一孔部113の軸方向に沿った長さによって求まる。第一孔部113の軸方向に沿った長さは、例えば、穴あけ工具21の送り速度と第一加工時間とに基づいて求まる。裏側の第二開口縁部125の位置は、第一孔部113と第二孔部123との間の対向間隔によって求まる。上記対向間隔は、例えば、穴あけ工具21の送り速度と中間時間とに基づいて求まる。
【0099】
第一演算部51は、測定部40で取得した第三物理量によって、更に、第二の板部12の表側の第二開口縁部124の位置も演算できる。表側の第二開口縁部124の位置は、第二孔部123の軸方向に沿った長さによって求まる。第二孔部123の軸方向に沿った長さは、例えば、穴あけ工具21の送り速度と第二加工時間とに基づいて演算できる。各開口縁部の位置は第一記憶部55に記憶させる。
【0100】
[制御手順]
図7を参照して、制御部50による制御手順を説明する。図7は、穴あけ工具21の自転用の動力源31cにおける負荷電流の推移を示すグラフである。図7の横軸は、時間を示す。図7の縦軸は、電流値を示す。図6は、欠損が生じていない正常な穴あけ工具21を用いて被削物100を加工したときの電流値の推移を示す。図7の電流値の波形は、説明の便宜上、簡略化して示されたものであり、必ずしも実際の波形に対応しているわけではない。本形態では、表側の第一開口縁部114、第一孔部113を通って裏側の第一開口縁部115、裏側の第二開口縁部125、第二孔部123を通って表側の第二開口縁部124の順に面取りする制御手順を説明する。
【0101】
測定部40は、予め、穴あけ工具21の送り用の動力源31aの設定値から第一物理量として穴あけ工具21の送り速度を取得しておく。また、測定部40は、穴あけ工具21による穴あけ加工の過程で、第二物理量として第一加工時間及び中間時間と、第三物理量として第二加工時間とを取得する。第一加工時間は、第一の板部11の穴あけ加工の開始から完了までに要した時間である。中間時間は、第一の板部11の穴あけ加工の完了から第二の板部12の穴あけ加工の開始までに要した時間である。第二加工時間は、第二の板部12の穴あけ加工の開始から完了までに要した時間である。第一加工時間と中間時間と第二加工時間とは、自転用の動力源31cの負荷電流値の推移から把握できる。
【0102】
測定部40は、穴あけ工具21が自転用の動力源31cによって回転させられると、自転用の動力源31cの電流値を取得する。穴あけ工具21は、図5Aから図5Cに示すように、送り用の動力源31aの駆動によって前進し、第一の板部11側から、第一の板部11、第二の板部12の順に穴あけ加工を施す。この穴あけ加工により、図5Bに示すように、第一の板部11に第一孔部113が形成され、図5Cに示すように、第二の板部12に第二孔部123が形成される。第二孔部123が形成されると、穴あけ工具21は、送り用の動力源31aの駆動によって後退し、初期位置に戻る。
【0103】
穴あけ工具21の前進及び後退の過程で、穴あけ工具21の負荷電流が変化する。図5Bに示す第一の板部11の穴あけ加工の開始から完了までの間では、穴あけ工具21の加工抵抗が大きくなるため、図7に示すように上記電流値は大きくなる。第一の板部11の穴あけ加工の完了から第二の板部12の穴あけ加工の開始までの間では、穴あけ工具21の加工抵抗が実質的に無いため、図7に示すように上記電流値は小さくなる。具体的には、上記電流値は、穴あけ加工の開始前の電流値に収束する。そして、図5Cに示す第二の板部12の穴あけ加工の開始から完了までの間では、穴あけ工具21の加工抵抗が大きくなるため、図7に示すように上記電流値は大きくなる。第二の板部12の穴あけ加工の完了から初期位置に戻るまでの間では、加工抵抗が実質的にないため、上記電流値は小さくなる。具体的には、穴あけ加工の開始前の電流値に収束する。測定部40は、この電流値の変化に基づいて、第一加工時間と中間時間と第二加工時間とを取得できる。
【0104】
第一演算部51は、測定部40で取得した穴あけ工具21の送り速度と第一加工時間と中間時間と第二加工時間とに基づいて、表側の第一開口縁部114、裏側の第一開口縁部115、表側の第二開口縁部124、及び裏側の第二開口縁部125の位置を演算する。表側の第一開口縁部114、裏側の第一開口縁部115、表側の第二開口縁部124、及び裏側の第二開口縁部125の位置の求め方は上述の通りである。
【0105】
制御部50は、各開口縁部の位置に基づいて表側の第一開口縁部114、裏側の第一開口縁部115、裏側の第二開口縁部125、表側の第二開口縁部124の順に各開口縁部を加工するように、第二駆動機構32を制御する。
【0106】
制御部50は、自転用の動力源32cを駆動させる。自転用の動力源32cを駆動させるタイミングは、切れ刃24が開口縁部に接触する前であればよい。即ち、自転用の動力源32cを駆動させるタイミングは、後述する送り用の動力源32aの駆動前でもよいし、送り用の動力源32aの駆動後、後述する公転用の動力源32dの駆動前でもよい。
【0107】
制御部50は、図6Aに示すように、初期位置にある面取り工具22が前進するように送り用の動力源32aを駆動させる。本形態では、面取り工具22のうち、先端側の切れ刃24における軸方向に沿った位置が表側の第一開口縁部114と同じ位置まで前進したら、制御部50は、送り用の動力源32aの駆動を停止する。この停止により、先端側の切れ刃24が表側の第一開口縁部114を加工できる位置に維持される。
【0108】
送り用の動力源32aの駆動が停止したら、制御部50は、図6Bに示すように、先端側の切れ刃24が表側の第一開口縁部114に接触し、表側の第一開口縁部114の全周を切削加工して、表側の第一面取り部116が形成されるように公転用の動力源32dを駆動させる。切削加工が完了したら、制御部50は、先端側の切れ刃24を表側の第一開口縁部114から離隔させるように公転用の動力源32dを駆動させる。面取り工具22を前進させても面取り工具22のボディ23が第一孔部113の内周面に接触しない位置まで面取り工具22が軸方向に対して直交する方向に移動したら、制御部50は、公転用の動力源32dの駆動を停止する。
【0109】
公転用の動力源32dの駆動が停止したら、制御部50は、面取り工具22を前進させるように送り用の動力源32aを駆動させる。面取り工具22が第一孔部113内に挿通され、面取り工具22における後端側の切れ刃24の位置が裏側の第一開口縁部115と同じ位置まで前進したら、制御部50は、送り用の動力源32aの駆動を停止する。この停止により、後端側の切れ刃24が裏側の第一開口縁部115を加工できる位置に維持される。
【0110】
送り用の動力源32aが停止したら、制御部50は、上述のように、公転用の動力源32dの駆動、公転用の動力源32dの駆動の停止、を順に行う。この過程で、図6Cに示すように、面取り工具22により裏側の第一開口縁部115が切削加工され、裏側の第一面取り部117が形成される。
【0111】
制御部50は、面取り工具22を前進させるように送り用の動力源32aを駆動させる。面取り工具22における先端側の切れ刃24の位置が裏側の第二開口縁部125と同じ位置まで前進したら、制御部50は、送り用の動力源32aの駆動を停止する。この停止により、先端側の切れ刃24が裏側の第二開口縁部125を加工できる位置に維持される。
【0112】
送り用の動力源32aが停止したら、制御部50は、上述のように、公転用の動力源32dの駆動、公転用の動力源32dの駆動の停止、を順に行う。この過程で、図6Dに示すように、面取り工具22により裏側の第二開口縁部125が切削加工され、裏側の第二面取り部127が形成される。
【0113】
制御部50は、面取り工具22を前進させるように送り用の動力源32aを駆動させる。面取り工具22における後端側の切れ刃24の位置が表側の第二開口縁部124と同じ位置まで前進したら、制御部50は、送り用の動力源32aの駆動を停止する。この停止により、後端側の切れ刃24が表側の第二開口縁部124を加工できる位置に維持される。
【0114】
送り用の動力源32aが停止したら、制御部50は、上述のように、公転用の動力源32dの駆動、公転用の動力源32dの駆動の停止、を順に行う。この過程で、図6Eに示すように、面取り工具22により表側の第二開口縁部124が切削加工され、表側の第二面取り部126が形成される。
【0115】
制御部50は、面取り工具22を後退させるように送り用の動力源32aを駆動させる。面取り工具22が初期位置にまで後退したら、制御部50は、送り用の動力源32aの駆動を停止する。
【0116】
上述の本形態のように、円周上に複数の第一孔部113及び第二孔部123を備える金属部材1を製造する場合、以上の過程を繰り返し行う。繰り返す場合、以上の過程を一通り経た後、次に以上の過程を経る前に、穴あけ工具21を穴あけ工具21の軸方向と直交する方向に所定距離の分だけ移動させる、或いは被削物100を所定角度の分だけ回転させる。
【0117】
自転用の動力源31cと自転用の動力源32cとが共用の場合、穴あけ加工完了後と面取り加工前に、穴あけ工具21と面取り工具22とを交換する。自転用の動力源31cと自転用の動力源32cとが独立する場合、自転用の動力源31cと自転用の動力源32cとは、次の被削物の加工があるときには駆動したままでもよいし、次の被削物の加工の開始前に一旦停止させておいて再駆動させてもよい。次の被削物の加工がない場合、自転用の動力源31cと自転用の動力源32cとは停止させる。
【0118】
[用途]
本形態に係る加工システム10は、各種の一般構造用部品を製造する加工システムに好適に利用できる。一般構造用部品は、上述の通りである。
【0119】
〔作用効果〕
本形態に係る加工システム10は、被削物100の寸法公差によって各開口縁部の位置にばらつきが生じても、第一孔部113の表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115の位置と第二孔部123の表側の第二開口縁部124及び裏側の第二開口縁部125の位置とを正確に求められる。そして、本形態に係る加工システム10は、面取り工具22が表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115と表側の第二開口縁部124及び裏側の第二開口縁部125とを適切に面取りできるように被削物100ごとに第二駆動機構32を制御できる。そのため、本形態に係る加工システム10は、上述の金属部材1を製造できる。
【0120】
〔金属部材の製造方法〕
本形態に係る金属部材の製造方法は、次の工程Aから工程Cを備える。
工程Aは、被削物100を準備する。
工程Bは、第一駆動機構31で穴あけ工具21を動作し、被削物100に穴あけ加工を行う。
工程Cは、第二駆動機構32で面取り工具22を動作し、穴あけ加工で形成された孔部の開口縁部に面取り加工を行う。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0121】
[工程A]
準備する被削物100は、穴あけ工具及び面取り工具によって加工される加工対象である。被削物100は、加工システム10の被削物100の欄で説明した通りであり、図5Aに示すように、第一の板部11と第二の板部12と脚部13とを有する。
【0122】
[工程B]
穴あけ加工は、図5Bに示すように、第一の板部11に上述の第一孔部113を形成し、図5Cに示すように、第二の板部12に上述の第二孔部123を形成する。第一の板部11及び第二の板部12に対する穴あけ加工は、図5Aから図5Cに示すように、第一の板部11の軸と第二の板部12の軸とが同軸となるように、第一の板部11側から、第一の板部11、第二の板部12の順に行われる。工程Bは、後述する工程B1及び工程B2を含む。
【0123】
(工程B1)
工程B1は、第一駆動機構31の制御に関する第一物理量及び第二物理量を測定部40で測定する。取得する第一物理量は、上述のように、穴あけ工具21の送り速度であり、取得する第二物理量は、第一時間であることが好ましい。工程B1では、更に、第三物理量として、第二時間を取得することが好ましい。好ましい理由は、上述の通りである。
【0124】
(工程B2)
工程B2は、第一物理量及び第二物理量に基づいて、穴あけ加工で形成された孔部の開口縁部の位置を演算する。この演算する開口縁部の位置とは、少なくとも第一の板部11における裏側の第一開口縁部115の位置と第二の板部12における裏側の第二開口縁部125の位置とが挙げられる。裏側の第一開口縁部115の位置及び裏側の第二開口縁部125の位置の求め方は、上述の通りである。この工程B2では、更に、第一物理量及び第二物理量に基づいて、第一の板部11における表側の第一開口縁部114の位置を演算することが好ましく、第一物理量と第二物理量と第三物理量とに基づいて、第二の板部12における表側の第二開口縁部124の位置を演算することが好ましい。
【0125】
[工程C]
面取り加工は、第一の板部11においては、図6Bに示すように表側の第一開口縁部114に設けられる表側の第一面取り部116、及び図6Cに示すように裏側の第一開口縁部115に設けられる裏側の第一面取り部117の少なくとも一方の第一面取り部を形成する。面取り加工は、第二の板部12においては、図6Dに示すように少なくとも裏側の第二開口縁部125に裏側の第二面取り部127を形成する。面取り加工は、更に、図6Eに示すように、表側の第二開口縁部124に表側の第二面取り部126を形成してもよい。面取り加工は、面取り工具22により切削加工することで行う。面取り部は挿通物のガイド性の向上だけでなく、穴あけ工具21が孔部を形成した際に形成されるバリを除去でき、確実に挿通物を孔部に挿入できる。
【0126】
表側の第一開口縁部114を面取り加工する際、図6Bに示すように、面取り工具22を第一表面111側から表側の第一開口縁部114に近づける。裏側の第一開口縁部115を面取り加工する際、図6Cに示すように、面取り工具22を表側の第一開口縁部115から第一孔部113に挿通させて裏側の第一開口縁部115へ近づける。裏側の第二開口縁部125を面取り加工する際、図6Dに示すように、面取り工具22を第一孔部113に挿通させて裏側の第二開口縁部125に近づける。表側の第二開口縁部124を面取り加工する際は、図6Eに示すように、面取り工具22を第一孔部113、第二孔部123の順に挿通させて表側の第二開口縁部124に近づける。
【0127】
面取り加工を施す順番は、表側の第一開口縁部114、裏側の第一開口縁部115、裏側の第二開口縁部125、表側の第二開口縁部124の順でもよいし、その逆の順でもよい。切削加工は、裏側の第一開口縁部115の位置と裏側の第二開口縁部125の位置とに対応して第二駆動機構32の制御条件を変えて行う。第二駆動機構32の制御条件の変更は、上述の通りである。
【0128】
裏側の第一開口縁部115と裏側の第二開口縁部125とへの面取り加工は、裏側の第一面取り部117及び裏側の第二面取り部127の面取り長さを第一の板部11と第二の板部12との対向間隔の寸法許容差よりも小さくすることが好ましい。面取り長さは、上述の通りである。寸法許容差とは、「JIS Z 8103(2019) 計測用語」の「許容差」に準拠する。
【0129】
面取り長さが寸法許容差よりも小さい場合、第一の板部11の裏側の第一開口縁部115と第二の板部12の裏側の第二開口縁部125とに面取り工具22が適切に接触させられず、適切な面取り加工を施すことができない場合がある。しかし、本形態に係る金属部材の製造方法は、第一の板部11の裏側の第一開口縁部115と第二の板部12の裏側の第二開口縁部125の位置を演算して、各々の位置に対応して第二駆動機構32を制御する。そのため、面取り長さが寸法許容差よりも小さい場合であっても、開口縁部に面取り工具22を適切に接触させられ、適切な面取り加工を施すことができる。
【0130】
[用途]
本形態に係る金属部材の製造方法は、各種の一般構造用部品を製造する製造方法に好適に利用できる。一般構造用部品は、上述の通りである。
【0131】
〔作用効果〕
本形態に係る金属部材の製造方法は、被削物100の寸法公差によって各開口縁部の位置にばらつきが生じても、第一孔部113の表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115の位置と第二孔部123の表側の第二開口縁部124及び裏側の第二開口縁部125の位置とを正確に求められる。そして、本形態に係る金属部材の製造方法は、表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115の位置と表側の第二開口縁部124及び裏側の第二開口縁部125の位置とに対応して、面取り工具22が表側の第一開口縁部114及び裏側の第一開口縁部115と表側の第二開口縁部124及び裏側の第二開口縁部125とを適切に切削加工できるように被削物100ごとに第二駆動機構32を制御できる。そのため、本形態に係る金属部材の製造方法は、上述の金属部材1を製造できる。
【0132】
《実施形態2》
〔加工システム〕
図5Aから図5C図8図9とを参照して、実施形態2に係る加工システム10を説明する。本形態に係る加工システム10は、以下の要件(1)が実施形態1に係る加工システム10と相違する。
(1)制御部50が、測定部40で取得される第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、自転用の動力源31cの回転数を変える。第一電気量と第二電気量の詳細については後述する。
以下の説明は、実施形態1に係る加工システム10との相違点を中心に行う。実施形態1に係る加工システム10と同様の構成の説明は省略する。
【0133】
[測定部]
第一電気量は、自転用の動力源31cの空転中に測定部40で取得された自転用の動力源31cの電気量である。第二電気量は、被削物100の加工中に測定部40で取得された自転用の動力源31cの電気量である。被削物100の加工中とは、被削物100の第一の板部11の穴あけ加工中と、被削物100の第二の板部12の穴あけ加工中とが挙げられる。即ち、第二電気量は、被削物100の第一の板部11の穴あけ加工中に測定部40で取得した自転用の動力源31cの電気量をいう。又は、第二電気量は、被削物100の第二の板部12の穴あけ加工中に測定部40で取得した自転用の動力源31cの電気量をいう。
【0134】
測定部40で取得された自転用の動力源31cの電気量には、例えば、電流センサで取得した値そのものの場合と、電流センサで取得した値に相関する値の場合と、電流センサで取得した値に所定の演算をして得られる値の場合とが含まれる。即ち、第一電気量及び第二電気量は、自転用の動力源31cを駆動させる電気量そのもの、その電気量に相関する物理量、或いはその電気量から演算された演算値が含まれる。第一電気量及び第二電気量としては、例えば、自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つが好ましい。その理由は、自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値のそれぞれと穴あけ工具21の欠損とが相関関係にあるため、穴あけ工具21の欠損が検出され易いからである。欠損は、穴あけ工具21の刃部が欠けることに加えて、穴あけ工具21が折れる折損も含む。自転用の動力源31cの負荷電流の大きさは、例えば、電流センサで取得された値そのものである。自転用の動力源31cの負荷電流の微分値及び積分値は、例えば、電流センサで取得された自転用の動力源31cの負荷電流値を演算することで求められる。この演算は、後述する制御部50が行える。
【0135】
穴あけ工具21に欠損が生じていると、被削物100に対して非接触となる穴あけ工具21の領域が多くなることで、穴あけ加工自体が困難となる。穴あけ加工が困難になると、穴あけ工具21の加工抵抗が小さくなる。穴あけ工具21の加工抵抗が小さいと、自転用の動力源31cの負荷トルクが小さくなるため、被削物100の穴あけ加工中における自転用の動力源31cの負荷電流の大きさが小さくなる。即ち、穴あけ工具21に欠損が生じると、自転用の動力源31cの負荷電流の大きさが小さくなる。
【0136】
具体的には、穴あけ工具21が折損して被削物100に接触しない場合、加工深さがゼロ(0)である。加工深さがゼロであることで、被削物100の穴あけ加工中における自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、自転用の動力源31cの空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値と実質的に同程度となる。一方、穴あけ工具21の刃部が欠けたものの、穴あけ工具21が被削物100に接触する場合、加工深さが小さくなる。加工深さが小さいことで、被削物100の加工中における自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、穴あけ工具21が被削物100に接触しない場合ほどではないものの、小さくなる。即ち、被削物100の加工中における自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、自転用の動力源31cの空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値に近づく。よって、自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つは、穴あけ工具21が被削物100を加工しているか否か、即ち穴あけ工具21に欠損が生じているか否かを把握することに利用できる。
【0137】
[制御部]
制御部50は、自転用の動力源31cを制御する。制御部50は、例えば、自転用の動力源31cを駆動させたり、自転用の動力源31cを停止させたりする。制御部50は、自転用の動力源31cの制御条件を変える。自転用の動力源31cの制御条件の変更は、代表的には、後述する第一の差分と、第二の差分とに基づいて行われる。制御部50は、代表的には、コンピュータにより構成される。コンピュータは、プロセッサ、メモリなどを備える。メモリには、後述する制御手順をプロセッサに実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを読み出して実行する。プログラムは、第二演算部52の演算結果が閾値以下を満たすか否かを判定する処理、判定に基づいて自転用の動力源31cの回転数を変える処理、に関するプログラムコードを含む。制御部50は、第二演算部52と第二記憶部56とを有する。
【0138】
(第二演算部)
第二演算部52は、第一電気量と第二電気量との差分を演算する。第二電気量は、被削物100の第一の板部11の穴あけ加工中に測定部40で取得した電気量と、被削物100の第二の板部12の穴あけ加工中に測定部40で取得した電気量とがある。即ち、第二演算部52は、第一電気量と被削物100の第一の板部11の穴あけ加工中に測定部40で取得した第二電気量との第一の差分と、第一電気量と被削物100の第二の板部12の穴あけ加工中に測定部40で取得した第二電気量との第二の差分とを演算する。上述したように第一電気量及び第二電気量が自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つである場合、演算する第一の差分と第二の差分とはいずれも、負荷電流の大きさ同士の差分、微分値同士の差分、積分値同士の差分の少なくとも一つが挙げられる。第一の差分と第二の差分とは、制御部50に備わる第二記憶部56に記憶される。
【0139】
第一電気量が自転用の動力源31cの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つの場合、第一電気量は実質的に一定の値をとる。第一電気量は、予め求めておいて、第二記憶部56に記憶させておくとよい。
【0140】
なお、第一電気量は、被削物100ごとに自転用の動力源31cの空転中に取得してもよい。被削物100ごとに自転用の動力源31cの空転中に第一電気量を取得する場合、第一電気量は、例えば、次の通りとすることが挙げられる。図5Aに示すように、穴あけ工具21が最も被削物100から後退した初期位置において、実際に被削物100を加工する際の切削条件と同じ切削条件で自転用の動力源31cによって穴あけ工具21が回転している。このときに測定部40で取得した自転用の動力源31cの電気量とすることが挙げられる。
【0141】
第二電気量は、自転用の動力源31cにおける負荷電流の大きさとする場合、次の通りである。第一電気量は、穴あけ工具21による第一の板部11の加工開始から加工完了までに取得した負荷電流の平均とする。又は、第二電気量は、穴あけ工具21による第二の板部12の加工開始から加工完了までに取得した負荷電流の平均とする。
【0142】
また、第二電気量は、自転用の動力源31cにおける負荷電流の微分値とする場合、次の通りである。第二電気量は、穴あけ工具21による第一の板部11の加工開始直後における電流値の微分値とする。又は、第二電気量は、穴あけ工具21による第二の板部12の加工開始直後における電流値の微分値とする。加工開始直後とは、加工開始から最大の電流値に達するまでの間である。
【0143】
更に、第二電気量は、自転用の動力源31cにおける負荷電流の積分値とする場合、次の通りである。第二電気量は、穴あけ工具21による第一の板部11の加工開始から加工完了までに取得した負荷電流の積分値とする。又は、第二電気量は、穴あけ工具21による第二の板部12の加工開始から加工完了までに取得した負荷電流の積分値とする。
【0144】
各加工開始時と各加工完了時とは、例えば、予め、欠損の生じていない穴あけ工具21を用いて複数の被削物を加工して求めておき、第二記憶部56に記憶しておくとよい。予め加工する複数の被削物の材質、形状、及びサイズと本加工用の被削物100の材質、形状、及びサイズとは、同一とする。予め加工する複数の被削物の加工条件と本加工用の被削物100の加工条件とは、同一とする。各加工開始時と各加工完了時とは、自転用の動力源31cの負荷電流により把握できる。予め加工する複数の被削物の数は、2個から10個程度でよい。
【0145】
記憶させる各加工開始時は、複数の被削物の各板部を加工したときの最も遅い加工開始時とすることが挙げられる。記憶させる各加工完了時は、複数の被削物の各板部を加工したときの最も早い加工完了時とすることが挙げられる。そうすれば、被削物の各板部の加工開始から加工完了までに求めた負荷電流の平均値及び積分値と被削物の各板部の加工開始直後における負荷電流の微分値とに、自転用の動力源31cの空転中の電流値が含まれ難くなる。そのため、被削物の各板部の加工開始から加工完了までに求めた負荷電流の平均値及び積分値と被削物の各板部の加工開始直後における負荷電流の微分値とは、各板部が実際に加工されているときの負荷電流の平均値及び積分値と微分値とに相当する。記憶させた各加工開始時は、被削物100の各板部を加工した際、加工開始時が遅くなるたびに更新してもよい。同様に、記憶させた各加工完了時は、被削物100の各板部を加工した際、加工完了時が早くなるたびに更新してもよい。
【0146】
制御部50は、上記第一の差分が第一の閾値以下、及び上記第二の差分が第二の閾値以下のいずれか一方を満たす場合、自転用の動力源31cの回転数をゼロとする。上記第一の閾値と上記第二の閾値とは、例えば、加工システム10の安全率や穴あけ工具21による適切な加工が可能か否かに基づいた値が挙げられる。上記第一の閾値と上記第二の閾値とは、第二記憶部56に予め記憶させておく。上記第一の閾値と上記第二の閾値とは、同一である場合がある。
【0147】
自転用の動力源31cの回転数がゼロになると、穴あけ工具21の回転が停止する。自転用の動力源31cの回転数を変えるタイミングは、穴あけ工具21の位置に依らない。自転用の動力源31cの回転数がゼロになった後、送り用の動力源31aを駆動して穴あけ工具21を初期位置に移動させておいてもよいし、送り用の動力源31aを駆動して穴あけ工具21を初期位置に移動させた後、自転用の動力源31cの回転数をゼロとしてもよい。いずれか一方を満たす場合、穴あけ工具21に欠損が生じている。そのため、制御部50が自転用の動力源31cの回転数をゼロにすることで、穴あけ工具21によって所定の加工が施されていない不良品が生産され続けることが防止される。
【0148】
制御部50は、上記第一の差分が上記第一の閾値超を満たし、かつ上記第二の差分が上記第二の閾値超を満たす場合、現在の穴あけ工具21の自転用の動力源31cの回転数を変えない。その場合、次の被削物100は、その直前の被削物100と同じ自転用の動力源31cの回転数で回転される穴あけ工具21によって穴あけ加工が行われる。
【0149】
[制御手順]
図8を参照して、制御部50による制御手順を説明する。自転用の動力源31cによって穴あけ工具21が回転すると、図8に示すステップS1として、測定部40が自転用の動力源31cの負荷電流を取得する。
【0150】
図8に示すステップS2として、第二演算部52は、上述の第一の差分を演算する。
【0151】
図8に示すステップS3として、制御部50は、上記第一の差分が第一の閾値以下を満たすか否かを判定する。ここでは、第一の閾値は、説明の便宜上、正常な穴あけ工具21を用いた場合において、第一の板部11の加工中の第二電気量と自転用の動力源31cの空転中の第一電気量との差の中間値に設定する。この中間値は、負荷電流の大きさ同士の差の中間値、微分値同士の差の中間値、及び積分値同士の差の中間値の少なくとも一つとする。
【0152】
ステップS3が第一の閾値以下を満たす場合、ステップS4として、制御部50は、自転用の動力源31cの回転数をゼロとする。自転用の動力源31cの回転数がゼロになると、穴あけ工具21の回転が停止する。そして、制御が終了する。ステップS3が閾値以下を満たす場合とは、詳しくは後述するように、被削物100との接触が不可となる欠損が生じた穴あけ工具を用いた場合や、欠損が生じたものの、被削物100に接触可能な穴あけ工具を用いた場合などが挙げられる。
【0153】
ステップS3の判定が否の場合、図8に示すステップS5として、測定部40が自転用の動力源31cの負荷電流を取得する。
【0154】
図8に示すステップS6として、第二演算部52は、上述の第二の差分を演算する。
【0155】
図8に示すステップS7として、制御部50は、上記第二の差分が第二の閾値以下を満たすか否かを判定する。ここでは、第二の閾値は、説明の便宜上、正常な穴あけ工具21を用いた場合において、被削物100の第二の板部12の加工中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つと、自転用の動力源31cの空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つと、との差の中間値に設定する。この中間値も、第一の閾値と同様、負荷電流の大きさ同士の差の中間値、微分値同士の差の中間値、及び積分値同士の差の中間値の少なくとも一つとする。
【0156】
ステップS7が第二の閾値以下を満たす場合、上述のステップS4の通り、制御部50は、自転用の動力源31cの回転数をゼロとする。
【0157】
ステップS7の判定が否の場合、制御部50は、自転用の動力源31cの回転数を変えない。即ち、次の被削物100は、その直前の被削物100と同じ自転用の動力源31cの回転数にて加工が行われ、ステップS3において、閾値以下と判定されるまで、次の被削物100の加工と、ステップS1からステップS3と、が繰り返される。ステップS3の判定が否の場合とは、詳しくは後述するように、欠損が生じていない正常な穴あけ工具を用いた場合が挙げられる。
【0158】
図9を参照しつつ、被削物100との接触が不可となる欠損が生じた穴あけ工具、欠損が生じたものの、被削物100に接触可能な穴あけ工具、及び欠損が生じていない正常な穴あけ工具、の各々が用いられた場合の制御部50の制御手順を説明する。図9は、上記各工具を用いて被削物100を加工したとき、測定部40が取得した自転用の動力源31cの負荷電流の推移を示す。図9の横軸は、時間を示す。図9の縦軸は、負荷電流値を示す。図9の破線は、被削物100との接触が不可となる欠損が生じた穴あけ工具を用いたときの負荷電流の推移を示す。図9の二点鎖線は、欠損が生じたものの、被削物100に接触可能な穴あけ工具を用いたときの負荷電流の推移を示す。図9の実線は、欠損が生じていない正常な穴あけ工具21を用いて第一の板部11を加工したときの負荷電流の推移を示す。図9の負荷電流の波形は、図7と同様、説明の便宜上、簡略化して示されたものであり、必ずしも実際の波形に対応しているわけではない。
【0159】
(接触不可な穴あけ工具を用いた場合)
図9の破線で示すように、被削物100の第一の板部11の穴あけ加工中における負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値は、自転用の動力源31cの空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値と実質的に同様になる。その理由は、接触不可な穴あけ工具は、被削物100に到達できず被削物100に対して加工自体が困難となるため、加工深さがゼロとなるからである。第二演算部52は、上述の第一の差分を演算する。演算された第一の差分は実質的にゼロに近づく。そのため、上述の第一の閾値と上記第一の差分とを比較すると、上記第一の差分は上記第一の閾値以下を満たす。制御部50は、その比較の結果に基づき、自転用の動力源31cの回転数をゼロとする。自転用の動力源31cの回転数がゼロになると、穴あけ工具の回転が停止する。
【0160】
(欠損したものの接触可能な穴あけ工具を用いた場合)
図9の二点鎖線で示すように、被削物100の第一の板部11の加工開始時は、正常な穴あけ工具21を用いた場合に比べて遅れる。その理由は、欠損したものの接触可能な穴あけ工具21は、第一の板部11に到達するものの、到着するまでに時間がかかるからである。そして、被削物100の第一の板部11の穴あけ加工中における負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値はいずれも、正常な穴あけ工具21を用いた場合に比べて小さくなる。その理由は、欠損したものの接触可能な穴あけ工具は、正常な穴あけ工具21に比べて、第一の板部11に対する加工深さが小さくなるからである。即ち、第一の板部11の穴あけ加工中における穴あけ工具の切削抵抗は小さくなる。第二演算部52は、上述の第一の差分を演算する。演算された第一の差分は小さくなる。そのため、上述の第一の閾値と上記第一の差分とを比較すると、上記第一の差分は上記第一の閾値以下を満たす。制御部50は、その比較の結果に基づき、自転用の動力源31cの回転数をゼロとする。
【0161】
(正常な穴あけ工具21を用いた場合)
図9の実線で示すように、被削物100の第一の板部11の穴あけ加工中における負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値は、自転用の動力源31cの空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値よりも大きくなる。その理由は、正常な穴あけ工具21は、被削物100との接触領域が多くなるため、切削抵抗が大きくなるからである。図示は省略しているものの、被削物100の第二の板部12の穴あけ加工中における負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値も同様の結果となる。第二演算部52は、上述の第一の差分と、上述の第二の差分と、を演算する。演算された第一の差分及び第二の差分は大きくなる。そのため、上述の第一の閾値と上記第一の差分とを比較すると、上記第一の差分は上記第一の閾値以下を満たさない。また、上述の第二の閾値と上記第二の差分とを比較すると、上記第二の差分は上記第二の閾値以下を満たさない。即ち、上記第一の差分は上記第一の閾値超を満たし、上記第二の差分は上記第二の閾値超を満たす。制御部50は、その比較の結果に基づき、自転用の動力源31cの回転数を変えない。自転用の動力源31cの回転数が変わらないため、穴あけ工具21の回転は維持される。
【0162】
例えば、穴あけ工具21が第一の板部11の穴あけ加工中に折損せず、第二の板部12の穴あけ加工開始時に折損した場合の負荷電流は、図示は省略しているものの、次の通りである。第一の板部11の穴あけ加工中の負荷電流は、図9の実線で示す波形と同様の波形となる。第二の板部12の穴あけ加工中の負荷電流は、図9の破線又は二点鎖線で示す波形と同様の波形となる。この場合、上記第一の差分は上記第一の閾値以下を満たさず上記第一の閾値超を満たし、上記第二の差分は上記第二の閾値以下を満たす。そのため、制御部50は、自転用の動力源31cの駆動を停止する。
【0163】
〔作用効果〕
本形態に係る加工システム10は、穴あけ工具21の欠損を検出できるため、穴あけ工具21によって所定の加工が施されていない不良品の生産を抑制できる。
【0164】
〔穴あけ工具の欠損を検知できる金属部材の製造方法〕
本形態の金属部材の製造方法は、上記工程Bが、自転用の動力源31cの回転数を変える工程を含む。自転用の動力源31cの回転数の変更は、第一電気量と第二電気量の差分に基づいて行われる。第一電気量と第二電気量とは、穴あけ工具21を動作させる第一駆動機構31の自転用の動力源31cの電気量であり、測定部40で取得される。以下、この工程の詳細を説明する。
【0165】
[工程B]
取得される第一電気量と第二電気量は、上述の通りである。上記差分としては、上述した第一の差分と、上述した第二の差分と、が挙げられる。そして、この工程では、第一の閾値と上記第一の差分との比較と、第二の閾値と上記第二の差分との比較とに基づいて自転用の動力源31cの回転数を変える。上記第一の閾値と上記第二の閾値とは、上述の通りである。
【0166】
上記第一の差分が上記第一の閾値以下、及び上記第二の差分が上記第二の閾値以下のいずれか一方を満たす場合、自転用の動力源31cの回転数をゼロとする。自転用の動力源31cの回転が停止したら、欠損した穴あけ工具が新しい穴あけ工具に交換される。新しい穴あけ工具に交換されたら、上記第一の差分が上記第一の閾値以下、及び上記第二の差分が上記第二の閾値以下のいずれか一方を満たすまで、次の被削物の加工が繰り返し行われる。
【0167】
一方、上記第一の差分が上記第一の閾値超、かつ上記第二の差分が上記第二の閾値超の場合、自転用の動力源31cの回転数は変えない。その場合、次の被削物100は、その直前の被削物100と同じ回転数の穴あけ工具によって穴あけ加工される。そして、上記第一の差分が上記第一の閾値以下、及び上記第二の差分が上記第二の閾値以下のいずれか一方を満たすまで、次の被削物100の加工が繰り返し行われる。
【0168】
〔作用効果〕
金属部材の製造方法は、穴あけ工具21の欠損を検出できるため、穴あけ工具21によって所定の穴あけ加工が施されていない不良品の生産を抑制できる。また、金属部材の製造方法は、金属部材の生産性を向上できる。その理由は、穴あけ工具21を一旦検知器に移動して穴あけ工具21の欠損の有無を確認する必要がないため、この確認作業を省略できるからである。
【0169】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0170】
1 金属部材
11 第一の板部
111 第一表面
112 第一裏面
113 第一孔部
114 表側の第一開口縁部
115 裏側の第一開口縁部
116 表側の第一面取り部
117 裏側の第一面取り部
12 第二の板部
121 第二表面
122 第二裏面
123 第二孔部
124 表側の第二開口縁部
125 裏側の第二開口縁部
126 表側の第二面取り部
127 裏側の第二面取り部
13 脚部
15 切削痕
10 加工システム
21 穴あけ工具
22 面取り工具
23 ボディ
24 切れ刃
31 第一駆動機構
31a 送り用の動力源
31c 自転用の動力源
32 第二駆動機構
32a 送り用の動力源
32c 自転用の動力源
32d 公転用の動力源
40 測定部
50 制御部
51 第一演算部
52 第二演算部
55 第一記憶部
56 第二記憶部
100 被削物
200 テーブル
210 孔部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9