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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】セルフレベリング材組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/14 20060101AFI20241001BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20241001BHJP
   C04B 111/62 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
C04B28/14
C04B14/28
C04B111:62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021552343
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020037962
(87)【国際公開番号】W WO2021075322
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019188315
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】和田 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】久保 浩之
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-126559(JP,A)
【文献】特開昭55-154365(JP,A)
【文献】特表2005-521622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/14
C04B 14/28
C04B 111/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半水石膏を必須成分とし、任意成分として、無機骨材及びセメントの少なくともいずれかを含んでもよい基材成分に、添加剤を含有してなるセルフレベリング材組成物であって、
前記基材成分の合計を100質量部とした場合に、前記半水石膏の含有量が55~100質量部、前記セメントの含有量が0~25質量部及び前記無機骨材の含有量が0~30質量部であり、
前記半水石膏は、α型半水石膏とβ型半水石膏とを含み、且つ、α型半水石膏とβ型半水石膏の合計を100質量部とした場合に、α型半水石膏の含有量が70~95質量部、β型半水石膏の含有量が5~30質量部であり、さらに、前記基材成分の合計を100質量部とした場合に、前記β型半水石膏の含有量は20質量部以下である、
JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する長さ変化が、0.05%以下であり、且つ、水を添加して調製されてなる評価用スラリーが、室温を10℃に保った条件で施工されてなる施工面における軽歩行可能時間が5時間以内であることを特徴とするせっこう系セルフレベリング材組成物。
【請求項2】
前記軽歩行可能時間が4時間台である請求項1に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
【請求項3】
前記セメントが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメント及びアルミナセメントからなる群から選ばれるいずれかである請求項1又は2に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
【請求項4】
前記基材の構成成分が、半水石膏とセメントである請求項1~3のいずれか1項に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
【請求項5】
前記無機骨材が、炭酸カルシウムである請求項1~3のいずれか1項に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
【請求項6】
前記半水石膏の合計を100質量部とした場合に、前記α型半水石膏の含有量が80~90質量部で、前記β型半水石膏の含有量が10~20質量部である請求項1~5のいずれか1項に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
【請求項7】
前記基材成分の合計を100質量部とした場合に、前記半水石膏の含有量が100質量部であり、前記任意成分を含まない請求項1に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床仕上げ下地材などとして使用されるセルフレベリング材組成物に関し、特に、施工作業性に優れた特性を示す、せっこう系のセルフレベリング材組成物を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
セルフレベリング材組成物(以下、セルフレベリング材或いはSL材とも呼ぶ)は、水と混練してスラリー状にして、ただ床に流すだけで自然に流動して水平な面を形成して硬化することから、広く床仕上げ下地材として使用されている。現在普及しているセルフレベリング材には、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定するせっこう系、セメント系がある。
【0003】
せっこう系のセルフレベリング材は、セメント系のセルフレベリング材と比較して、長さ変化が小さい製品である。具体的には、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する、長さ変化が0.05%以下の製品である。長さ変化が小さいため、せっこう系のセルフレベリング材は、セメント系のセルフレベリング材と比較して下記の利点がある。具体的には、施工したSL材のひび割れのトラブルが少ない、スラリーの流動性に優れる、硬化時間が短いといった利点がある。
【0004】
せっこう系セルフレベリング材製品では、硬化時間を、通常条件(気温20℃)で、3時間に設定している。SL材は下地材であり、床面を完成させるためには、スラリー状にしたSL材を床に流し、該スラリーがある程度硬化して、硬化体の上に人が乗っても足跡が残らないで歩けるようになった段階で、人が硬化体の上に乗って、次の作業を行う必要がある。スラリーを流した後、次の作業を行うことが可能になるまでの時間を「軽歩行可能時間」と呼んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硬化時間を設定したせっこう系のSL材製品を使用して施工作業をした場合、春から秋における20~35℃の気温下では、4時間以内に軽歩行ができるようになる。しかし、気温が10℃以下になる冬季などでは、6時間以上経過しないと軽歩行できず、作業効率の低下の原因となっている。すなわち、「軽歩行可能時間」が6時間以上と長くなると、SL材の施工当日に、次に行う施工したSL材の補修作業や、流れ止めの枠などの撤去作業などができないため、工期が1日余分に必要になることが生じる。
【0006】
本発明者らの検討によれば、これに対し、冬季に軽歩行が4時間以内にできるようせっこう系のSL材製品の硬化時間を調整すると、スラリーの可使時間が短くなってしまい、SL材の施工が難しくなる。ここで、可使時間とは、SL材をスラリー状にして床に流して、スラリーの均し作業等を円滑に行うことが可能な時間をいう。一般に、一連の作業手順から、可使時間は20分以上確保する必要がある。また、可使時間が短いと、せっこう系のSL材に必要な基本的な性能が十分に発揮されずに、施工したSL材の表面に不陸やシワが発生するという品質上の問題が生じる。
【0007】
上記したせっこう系のSL材製品における現状に対し、本発明が技術課題としている、必要な可使時間を確保しつつ、且つ、気温によって大きく変動し、特に低温条件下で施工した場合に長くなる「軽歩行可能時間」の気温によって生じる時間の変動を小さく抑えた、気温変動によって生じる施工の際の効率低下の問題が抑制された、作業性に優れるせっこう系のSL材の提供については、本発明者らが知る限り、これまで検討されてはいない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、可使時間を短くすることなく安定に保ち、且つ、冬季などの気温が低い条件下において生じる軽歩行可能時間の変動を抑制した、SL材に必要な基本性能を十分に発揮でき、しかも、気温変動によって生じる作業効率の低下の問題を簡便な構成で解決したせっこう系のセルフレベリング材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記のせっこう系セルフレベリング材組成物を提供する。
[1]半水石膏を必須成分とし、任意成分として、無機骨材及びセメントの少なくともいずれかを含んでもよい基材成分に、添加剤を含有してなるセルフレベリング材組成物であって、前記基材成分の合計を100質量部とした場合に、前記半水石膏の含有量が55~100質量部であり、前記半水石膏は、α型半水石膏とβ型半水石膏とを含み、且つ、α型半水石膏とβ型半水石膏の合計を100質量部とした場合に、α型半水石膏の含有量が70~95質量部、β型半水石膏の含有量が5~30質量部であり、さらに、前記基材成分の合計を100質量部とした場合に、前記β型半水石膏の含有量は20質量部以下である、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する長さ変化が、0.05%以下であることを特徴とするせっこう系セルフレベリング材組成物。
【0010】
本発明は、上記したセルフレベリング材組成物の好ましい形態として、下記の構成のものを提供する。
[2]前記基材成分の合計を100質量部とした場合に、前記半水石膏の含有量が55~100質量部、前記セメントの含有量が0~25質量部及び前記無機骨材の含有量が0~30質量部である上記[1]に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
[3]前記セメントが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメント及びアルミナセメントからなる群から選ばれるいずれかである上記[1]又は[2]に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
[4]前記基材の構成成分が、半水石膏とセメントである上記[1]~[3]のいずれかに記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
[5]前記無機骨材が、炭酸カルシウムである上記[1]~[3]のいずれかに記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
[6]前記半水石膏の合計を100質量部とした場合に、前記α型半水石膏の含有量が80~90質量部で、前記β型半水石膏の含有量が10~20質量部である上記[1]~[5]のいずれかに記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
[7]前記基材成分の合計を100質量部とした場合に、前記半水石膏の含有量が100質量部であり、前記任意成分を含まない上記[1]に記載のせっこう系セルフレベリング材組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な構成でありながら、可使時間を短くすることなく安定に保った状態で、冬場などの気温が低い条件下において生じていた軽歩行可能時間の変動を小さく抑えた、SL材としての十分な機能性と、気温変動によって生じる施工の際の作業効率の低下の問題を抑制し、従来製品に比して顕著な作業効率の向上効果を実現した実用性に優れた、せっこう系のセルフレベリング材組成物の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。まず、用語の説明をする。本発明において、SL材の「軽歩行可能時間」を決定する際における「軽歩行できる」とは、流したSL材のスラリーが硬化してSL材の表面に足跡が残らないように歩けるようになった、SL材がある程度硬化した状態をいう。本発明では、この軽歩行可能な硬化体の状態を客観的な数値でも見極めるため、各種ゴムやプラスチック製品などの硬さ測定に汎用されているデュロメータ(ゴム硬度計)を利用した。具体的には、デュロメータ(タイプD、JIS K 6253)を用いて硬化体の表面の硬度を測定し、その測定値を指標として、流したSL材のスラリーが硬化した程度を客観的に判断した。本発明では、デュロメータの測定によって、SL材を流してから、硬化体の表面硬度が55ポイント以上になった時間を「軽歩行可能時間」とした。
【0013】
なお、本発明では、水(練り水)と混練する前の粉体の状態のものを「セルフレベリング材組成物」或いは「セルフレベリング材(SL材)」と呼び、水(練り水)と混練して泥漿とした状態のものを「スラリー」と呼ぶ。
【0014】
本発明者らは、上記した従来技術の課題に対し鋭意検討した結果、本発明に至った。従来より、スラリーの可使時間を調整する方法として、SL材の形成材料に、凝結遅延剤や減水剤などの添加剤を配合することが行われている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの添加剤の配合を工夫することによっては、SL材の基本品質に影響する可使時間を短くすることなく、冬場などの気温が低い条件下で施工した場合に長くなる軽歩行可能時間を、施工作業において好適となる条件に調整した製品を得ることはできなかった。具体的には、例えば、10℃程度の低温条件下において、軽歩行可能時間を従来製品よりも短い、5時間以内、好適には4時間以内にした製品を得ることは、実現できていなかった。
【0015】
上記に対し、本発明者らは、添加剤を工夫するのではなく、基材自体を工夫することで、本発明の技術課題を解決することが実現できる手段はないかと考え、鋭意検討を行った。従来製品では、せっこう系のSL材を構成する基材の主成分である半水石膏として、α型半水石膏が使用されている。半水石膏にはα型半水石膏とβ型半水石膏があり、これらは焼成方法が異なる。α型半水石膏は湿式法で製造され、β型半水石膏は、乾式法で製造されており、α型半水石膏はJIS R 9111で規定する標準混水量がβ型半水石膏よりも少なく、硬化させるために必要になる水の量がβ型半水石膏よりも少なくてすむ。そして、このことも原因していると考えられるが、α型半水石膏を使用すると、硬化させた場合に強度が高くなるという利点がある。このようなことから、従来のせっこう系のSL材では、基材としてα型半水石膏が用いられていた。
【0016】
上記の現状に対し、本発明者らが鋭意検討した結果、せっこう系のSL材を構成する基材の主成分を半水石膏とする点は従来製品と同様であるが、驚くことに、基材とする半水石膏をα型半水石膏にβ型半水石膏を併用した構成とするという極めて簡便な手段により、上記の本発明の技術課題を解決できることを見出した。そして、さらなる検討の結果、α型半水石膏とβ型半水石膏の合計を100質量部とした場合に、α型半水石膏を70~95質量部の範囲で使用し、β型半水石膏を5~30質量部の範囲となるように構成し、さらに、基材成分の合計を100質量部とした場合に、β型半水石膏の含有量が20質量部以下となるように構成することで、安定して確実に、本発明が目的とする顕著な効果が得られることを見出して本発明を達成した。
【0017】
具体的には、冬場の施工を勘案した場合に、使用する半水石膏を上記のように構成することで、可使時間を確保しつつ、軽歩行可能時間の気温による変動を従来製品よりも格段に小さくできることを見出した。このように、本発明によって得られるSL材製品は、気温によって軽歩行可能時間が大きく変動することがないので、SL材の施工作業を、気温変動によらず常に安定して効率よくできるようになる。このことによって得られる、作業効率の向上などへの波及効果は極めて大きい。なお、上記の範囲でβ型半水石膏を使用したとしても、全てをα型半水石膏で構成されている従来のSL材製品と比べて、硬化後における強度の点で劣ることがないこともわかった。
【0018】
本発明者らは、まず、基材成分の構成を、他の材料を用いずに、全てを半水石膏とした場合について検討を行った。その結果、α型半水石膏にβ型半水石膏を併用した構成とすることで、可使時間に影響を及ぼすことなく、例えば、10℃の低温条件下で施工した場合の軽歩行可能時間を短縮できることを見出した。また、その場合に、β型半水石膏を併用することでスラリーの粘度が増えるが、併用するβ型半水石膏の使用量を調整すれば、増粘の程度を実用の範囲内に抑制できることがわかった。具体的には、後述するように、半水石膏の合計を100質量部とした場合に、α型半水石膏の含有量を70~95質量部とし、且つ、併用するβ型半水石膏の含有量を5~30質量部とした場合に、SL材の基本品質に影響する可使時間を確保しつつ、気温変動によって時間が長くなり、冬季における作業効率の低下の原因となっていた軽歩行可能時間を、低温の条件下においても4時間台に短くできることを見出した。
【0019】
また、気温変動によらず、軽歩行可能時間を4時間以内に、より短くするためには、β型半水石膏の含有量を10質量部以上にすることが有効であることを確認した。さらに、β型半水石膏を使用することによって生じる組成物の粘度の上昇を考慮すると、基材成分の合計を100質量部とした場合に、β型半水石膏の含有量を20質量部以下に調整することが必要であることを見出した。上記のことは、基材成分の構成を、他の材料を用いずに、全てを半水石膏とし、且つ、α型半水石膏に併用するβ型半水石膏の量を本発明で規定したように調整すれば、本発明が目的とする効果が得られ、実用に適したせっこう系のSL材組成物となることを意味している。
【0020】
本発明者らは次に、SL材の基材の材料に、半水石膏とともに通常用いられているセメントや無機骨材を併用した基材構成とした場合に、上記した低温環境下における軽歩行可能時間の短縮の効果や、当該効果を得るためにβ型半水石膏を併用することで生じる増粘に対する影響について詳細な検討を行った。
【0021】
セメントや無機骨材は、強度の向上やコストの低減などの目的で、建材に使用されている。通常、せっこう系のSL材では、基材成分の合計を100質量部とした場合に、半水石膏を55質量部以上として主成分とし、それ以外の成分として、セメントや、例えば、炭酸カルシウムなどの無機骨材を配合して基材としている。そこで、本発明者らは、基材成分100質量部の構成を、α型半水石膏とβ型半水石膏の配合を90:10とした65質量部の半水石膏に対して、セメントを5~30質量部の範囲で、無機骨材である炭酸カルシウムを10~35質量部の範囲で、それぞれ段階的に配合した基材構成のSL材組成物を調製し、それらのスラリーを用いて、粘度、可使時間、軽歩行可能時間への影響を検討した。その結果、後述する通り、セメントを5~25質量部の範囲で、無機骨材を10~30部の範囲で配合した基材を用いた場合も、前述したと同様の効果が得られることがわかった。すなわち、セメントや無機骨材を基材の任意成分として用いた場合も、半水石膏を基材の主成分とし、該半水石膏の構成を、本発明で規定するα型半水石膏とβ型半水石膏との配合要件を満たすものにすれば、粘度及び可使時間において問題を生じることなく、例えば、10℃程度の低温条件下における軽歩行可能時間を、5時間以内、好適には4時間以内に短縮できるという顕著な効果を得ることができることを見出した。
【0022】
以下、本発明のセルフレベリング材組成物を構成し得る各材料等について説明する。
(基材成分)
本発明のセルフレベリング材組成物を構成する基材成分は、水硬性材料である半水石膏を主成分とすることを必須とし、必要に応じて、任意成分として、セメントや、炭酸カルシウムなどの無機骨材を配合した構成にすることができる。本発明のセルフレベリング材組成物において重要なことは、基材の主成分として、半水石膏を用い、その際に、α型半水石膏に併用してβ型半水石膏を本発明で規定する特定の配合で用いることである。まず、本発明では、基材成分100質量部中に、半水石膏を55質量部以上含むことを必須とし、必要に応じて基材材料に、セメントや、増量材として用いられている炭酸カルシウムなどの無機骨材を用いてもよいとし、基材中に含まれる半水石膏の量を他の材料の合計量よりも多く含む、せっこう系とした。本発明のSL材は、上記したようにせっこう系であり、せっこう系のSL材には、基材にセメントが多く含有されるセメント系のSL材と比較して、水との混練物(スラリー)の硬化体の乾燥収縮が少なく、ひび割れが少なくなるといった利点がある。このため、本発明のSL材では、基材の構成を、基材成分の合計を100質量部とした場合に、半水石膏の含有量が55質量部以上となるようにすることを必須の要件とする。そして、本発明者らの検討によれば、本発明の効果を損なうことなく、必要に応じて任意に配合させることが可能な他の基材材料(成分)は、無機骨材及びセメントの少なくともいずれかである。そして、これらの任意成分の配合量の範囲は、セメントの含有量は0~25質量部程度、無機骨材の含有量は0~30質量部程度であることが好ましい。
【0023】
<半水石膏>
本発明のSL材を構成する基材の必須成分である半水石膏は、α型半水石膏にβ型半水石膏を併用した構成としたことを特徴とする。α型半水石膏とβ型半水石膏とは焼成方法が異なる。α型半水石膏は湿式法で製造され、二水石膏を水中(蒸気中を含む)で焼成して得られる。β型半水石膏は乾式法で製造され、二水石膏を大気中で焼成して得られる。先に述べた通り、従来のせっこう系のSL材では、硬化させるために必要になる水の量が少なくてすみ、硬化させた場合に強度が高くなるという利点があるため、α型半水石膏が使用されていた。これに対し、本発明のSL材では、基材を構成する半水石膏にβ型半水石膏を併用し、且つ、α型半水石膏とβ型半水石膏の合計を100質量部とした場合に、α型半水石膏の含有量が70~95質量部、β型半水石膏の含有量が5~30質量部となる比率で用いる。好ましくは、α型半水石膏の含有量が80~90質量部で、β型半水石膏の含有量が10~20質量部である。さらに、本発明のSL材では、基材を構成するβ型半水石膏の量を、半水石膏基材の合計を100質量部とした場合に、β型半水石膏の含有量を20質量部以下の範囲となるように構成する。上記構成としたことで、本発明のSL材は、従来のSL材によっては得られなかった優れた作業性を実現できると同時に、全てがα型半水石膏で構成されている従来製品と比べて、施工後における強度の点で劣ることがない。基材中におけるβ型半水石膏の使用量の下限は特に限定されないが、例えば、3質量部以上であればよい。
【0024】
<セメント>
本発明のSL材を構成する基材成分には、必要に応じてセメントを用いることができる。基材材料に用いることができるセメントとしては、下記に挙げるようなものがある。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント及びジェットセメントなどの各種のセメントが挙げられる。そして、これらの中から選択したセメント材料を、本発明のSL材を構成する基材の任意成分として適宜に用いることができる。上記セメントは、例えば、SL材によって形成される床仕上げ下地材の耐水性向上などの目的で基材に適宜に配合される。基材の任意成分として用いる際のセメントの配合量としては、基材成分100質量部中に、例えば、5~25質量部程度とするとよい。
【0025】
<無機骨材>
本発明のSL材を構成する基材には、必要に応じて無機骨材を用いることができる。基材の材料に用いることができる無機骨材としては、例えば、増量材として広く使用されている炭酸カルシウムなどを使用することができる。炭酸カルシウムは、価格が安く、これを増量材として用いることで、目的とするSL材を安価に提供することが可能になる。基材の任意成分として無機骨材を用いる場合の配合量は、例えば、基材成分100質量部中に、10~30質量部程度とするとよい。
【0026】
(添加剤)
本発明のせっこう系のSL材には、従来の製品と同様に、本発明の所期の目的に反しない範囲内で、減水剤(流動化剤又は分散剤)、消泡剤、増粘剤及び凝結遅延剤などの添加剤が、必要に応じて、適宜に選択されて配合されている。これらの添加剤は、総量で、基材に対して5%以下の量で配合することが好ましい。
【0027】
前記減水剤(流動化剤又は分散剤)としては、一般に市販されているものであれば、その使用は特に制限されない。通常、ポリカルボン酸系、ナフタレン系及びリグニン系の減水剤などが使用できる。SL材の場合、なるべく少ない水量で優れた流動性を得る必要があるため、通常、減水剤が使用されている。その際、使用量があまりに少ないとその効果が得られず、逆に多すぎると、任意成分として用いた無機骨材などの分離を引き起こし、形成される水平面の強度低下の原因となる場合があるので留意する必要がある。
【0028】
減水剤は、スラリーを調製する施工の際に添加してフロー値を調整するために使用することもできる。本発明者らの検討によれば、基材を構成するα型半水石膏の配合量が増えるとフロー値を大きくできるが、β型半水石膏に比べて低温時に凝結遅延を起こし、軽歩行可能時間が長くなる傾向が大きい。これに対し、基材を構成するα型半水石膏の量が減るとフロー値が小さくなるので、減水剤の使用量が増える。一方、減水剤の使用量が増えると凝結遅延が発生し、本発明が短縮を目的としている軽歩行可能時間が長くなるので、この点からも減水剤の過剰な使用は好ましくない。さらに、薬剤コスト高くなるという経済的な課題も生じる。
【0029】
前記消泡剤としては、例えば、ポリエーテル系、シリコーン系、アルコール系、鉱油系、植物油系及び非イオン性界面活性剤など、汎用されているものを適宜に使用できる。
【0030】
前記凝結遅延剤としては、クエン酸ソーダなどのクエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、ホウ砂などのホウ酸塩、ショ糖、ヘキサメタリン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、ジエチレントリアミン5酢酸、澱粉及び蛋白質分解物などが使用できる。凝結遅延剤の配合量は、必要な凝結遅延機能が果たせる程度に設定すればよい。
【0031】
本発明のSL材には、骨材の分離を防止する目的で、水と混練してスラリー(混練物)とした場合に、スラリーが、ある一定以上の粘性を有するものとなるように、増粘剤を配合してもよい。増粘剤としては、セルロースエーテルなどを用いることができる。
【0032】
(施工場所)
本発明のSL材は、水を添加して、十分に混合・混練してスラリー(混練物)とした後に床下地面に流し込み、展延、放置、硬化、乾燥することにより、床仕上げ下地材を形成する。床下地面として、モルタル、セメント、木質、プラスチック製タイル若しくはシート、セラミックス、ステンレスなどの金属が例示できる。この点については、従来のSL材と何ら異なることはない。
【0033】
上記したように、本発明のSL材を用いて施工する際には、水と混練してスラリーにする必要がある。使用する水の配合量としては、基材100質量部あたり35~70質量部程度であることが好ましい。水の配合量が少ないと十分な流動性が得られず、展延が困難となり作業性が低下することがある。逆に水の配合量が多すぎると、硬化体の表面の凹凸による表面状態の悪化や強度低下を引き起こすので、いずれも好ましくない。本発明のSL材は、スラリー(泥漿)を流し込んだ際に求められるフロー値が、190mm以上、例えば、210mm以上で260mm以下となるように調整されたものなどが好ましい。
【実施例
【0034】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、文中「部」とあるのは、特に断りがない限り質量基準である。
【0035】
[実施例1-1~1-5、比較例1、2]
基材として、半水石膏を65部、普通ポルトランドセメントを15部、無機骨材として炭酸カルシウムを20部用意した。この際、実施例1-1~1-5、比較例1、2では、基材を構成している半水石膏65部の内容を、それぞれ表1に示した通りとした。まず、比較例1では、基材に用いる半水石膏の全てをα型半水石膏とした。一方、実施例1-1~1-5及び比較例2では、半水石膏を、質量基準で100部として、α型半水石膏とβ型半水石膏との配合比率(αとβ比)が、表1に示したように、β型半水石膏の相対量が5~40部の間で段階的に増加するように調整した。そして、後述する検討結果で、スラリーの粘度が高くなり、SL材としての機能性や、施工の作業性に劣ったことから、α型半水石膏=60部、β型半水石膏=40部の配合比の例を比較例2とした。
【0036】
上記のようにして、α型半水石膏のみを用いた比較例1と、α型半水石膏とβ型半水石膏との配合がそれぞれに異なる半水石膏を用いた実施例1-1~1-5と比較例2の、β型半水石膏の配合量が異なる7種の基材に、それぞれ、同じ材料からなる、凝結遅延剤、膨張抑制剤、増粘剤及び消泡剤を同量ずつ添加し、常法にしたがって、構成の異なる7種のSL材を得た。
【0037】
得られたSL材100部をそれぞれに用いて、下記の方法で評価をした。まず、SL材100部に対して35部の水を添加して、評価用のスラリーを調製した。評価を同様の条件で行うため、スラリーを調製する際に、温度20℃の環境下で、JASS15 M103に準じて測定したフロー値がいずれも230±2mmとなるように減水剤を配合して、流動性を調整した。
【0038】
(評価)
上記のようにして得たSL材を用いて調整した各スラリーの物性値と、スラリーを施工した際における軽歩行可能時間を測定した。それぞれ下記の条件で測定した。なお、すべての試験において、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する長さ変化が0.05%以下であることを確認した。評価結果を、表1にまとめて示した。また、表1中に、本発明の目標が達成されたと判断できる評価結果を「達成目標値」として掲載した。
【0039】
<粘度>
温度20℃の環境下で、粘度測定器(商品名:ビスコテスタ「VT-06」、リオン社製)を用いて測定した。表1中に得られた結果をまとめて示した。本発明では、スラリーを調製する際の作業性の点から、スラリーの粘度の目標値を10~20dPa・sとした。
【0040】
<可使時間>
可使時間とは、スラリーを調製後、スラリーとして流せる最長の時間を意味する。具体的には、先に説明したようにして、20℃の環境下で、JASS15 M103に準じて測定したフロー値が230±2mmとなるようにスラリーを調製し、得られたスラリーを用い、当該スラリーのフロー値が、調製した際のスラリーが示した上記フロー値の90%以上の値を確保できている最長の時間を可使時間とした。表1中に得られた結果をまとめて示した。ここで、施工の開始作業の手順を考慮して、目標とする可使時間を20分以上とした。20分以上の可使時間があれば、作業者は、十分に、円滑に安定して施工の開始作業を行うことができる。
【0041】
<軽歩行可能時間>
軽歩行可能時間とは、スラリーを施工後、人が乗ってその後の作業を行えるようになる時間を意味する。異なる構成の各スラリーについて、施工後における温度条件の違いが軽歩行可能時間に及ぼす影響を調べるため、室温を10℃に保った場合と、室温を20℃に保った場合の2条件で、それぞれ試験を行った。具体的には、スラリーを施工後、施工面の表面の硬度を、デュロメータ(タイプD、JIS K 6253)を用いて測定し、その測定値を指標として用い、スラリーの施工の時点から、測定した表面硬度が55ポイント以上となった時間を計測することで「軽歩行可能時間」を客観的に評価し、確認した。本発明では、スラリーの調製、スラリーの施工、次に行う工程の1日に円滑に行える作業手順を考慮して、10℃の低温の条件下でも、上記のようにして計測した軽歩行可能時間が5時間以内になるようにすることを目標とした。
【0042】
【0043】
表1に示した通り、実施例1-1~1-5及び比較例1、2についての検討の結果、下記のことがわかった。基材に使用する半水石膏の全てをα型半水石膏とした比較例1の従来のSL材を用いたスラリーは、室温を20℃に設定した条件では、軽歩行可能時間が3時間程度であったが、室温を10℃に設定した条件では5時間を超えてしまうことを確認した。このことは、比較例1の組成物は、粘度や可使時間については問題ないものの、室温条件の10℃程度の違いで軽歩行可能時間が大きく異なり、大きく作業性に影響を与えたことを示している。この事実に対し、使用する季節や地域による大きな気温差や、1日の中で生じる気温差を考えると、この点を改善し、室温条件の違い(気温変動)で生じる軽歩行可能時間への影響が抑制された組成物の開発は急務であることがわかる。
【0044】
上記した比較例1に対し、表1に示した通り、実施例1-1~1-5及び比較例2の組成物を用いて調製したスラリーはいずれも、軽歩行可能時間が比較例1のスラリーに比べて短く、10℃の低温条件でも5時間を超えることがなく、短縮できることを確認した。さらに、基材の必須成分である半水石膏の構成において、α型半水石膏と併用するβ型半水石膏の配合率(αとβ比)を調整することで、10℃の条件下での軽歩行可能時間と、20℃の条件下での軽歩行可能時間との差を小さくできる。具体的には、比較例1のスラリーでは、その差が2時間30分もあったのに対し、実施例1-3~1-5及び比較例2のスラリーでは、45分~30分に短縮できることがわかった。このことは、従来の組成物と異なり、基材の必須成分の構成を、α型半水石膏とβ型半水石膏とを併用してなる本発明のSL材組成物では、気温差に対する軽歩行可能時間への影響が少なく、スラリーを施工後に、安定して作業効率よく、次の作業を開始できることを意味している。
【0045】
より具体的には、表1に示されているように、SL材の基材を構成する半水石膏100部を、α型半水石膏を60~95部、β型半水石膏を5~40部の比率で配合して併用することで、温度条件による軽歩行可能時間への影響を低減できることがわかった。α型半水石膏を60部、β型半水石膏を40部の配合とした比較例2の組成物は、比較例1の組成物と比較して、軽歩行可能時間が改善され、可使時間についての問題もないものの、別の問題として、スラリーとした場合に粘度が高くなりすぎるという実用上の課題があることを確認した。このため、本発明では、基材を構成する半水石膏として、α型半水石膏とβ型半水石膏の合計を100部とした場合に、α型半水石膏の含有量が70~95部、β型半水石膏の含有量が5~30部であることを必須の要件とした。また、表1の結果からもわかる通り、本発明においては、半水石膏100部の構成を、α型半水石膏の配合量を70~90部、β型半水石膏の配合量を10~30部とすること、さらには、粘度の点で、α型半水石膏の配合量を80~90部、β型半水石膏の配合量を10~20部とすることが、より好ましい。また、実施例1-5に示されている通り、基材の合計を100質量部とした場合に、β型半水石膏の含有量が20質量部以下であればβ型半水石膏を併用したことに由来する粘度が高くなりすぎるといった問題は生じない。これに対し、比較例2に示したように、β型半水石膏の含有量が20質量部よりも多くなると粘度が高くなり過ぎてしまうため、実用に適さない。
【0046】
[実施例2-1~2-6、比較例3]
先に述べた実施例1の結果から、基材を構成する半水石膏に、α型半水石膏を90部、β型半水石膏を10部で配合したもの(α:β=90:10)を用いた。そして、表2に示した通り、基材の構成を、必須成分である上記構成の半水石膏の量を50~80部の範囲で段階的に変えて、これに、基材成分として、無機骨材(炭酸カルシウム)を20部の一定量で加え、セメント(普通ポルトランドセメント)を0~30部の範囲で段階的に量を変えて加えて、実施例2-1~2-6、比較例3の組成物をそれぞれ調製した。具体的には、上記した構成が異なる7種の基材に、実施例1の場合と同様にして、それぞれ、所定量の凝結遅延剤、膨張抑制剤、増粘剤、消泡剤を添加してSL材を得た。
【0047】
上記で得られた各SL材100部をそれぞれに用いて、下記の方法で評価をした。まず、SL材100部に対して35部の水を添加して、評価用のスラリーを調製した。評価を同様の条件で行うため、スラリーを調製する際に、フロー値がいずれも230±2mmとなるように減水剤を配合して、流動性を調整した。
【0048】
(評価)
上記のようにして得たSL材の各スラリーの物性値と、スラリーを施工した際における軽歩行可能時間を、先に述べたと同様にして測定した。なお、すべての試験において、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する長さ変化が0.05%以下であることを確認した。試験結果を表2にまとめて示した。
【0049】
【0050】
表2に示した通り、基材の構成成分として、セメントを使用した場合、セメントの配合量が多くなると、相対的に基材中に占めるβ型半水石膏の量が少なくなるためと考えられるが、軽歩行可能時間が長くなる傾向があることを確認した。さらに、比較例3に示したように、半水石膏以外の基材材料の合計量が多くなると、スラリーの粘度が高くなって、作業性に劣るものになることがわかった。
【0051】
[実施例3-1~3-4、比較例4]
実施例1の結果から、基材を構成する半水石膏に、α型半水石膏を90部、β型半水石膏を10部で配合したもの(α:β=90:10)を用いた。そして、表3に示した通り、基材の構成を、上記構成の半水石膏の使用量を45~85部の範囲で段階的に変えて、これに、セメント(普通ポルトランドセメント)を15部の一定量で加え、さらに、無機骨材(炭酸カルシウム)を0~40部の範囲で段階的に量を変えて加え、実施例3-1~3-4、比較例4のSL材を調製した。具体的には、上記した構成が異なる5種の基材に、実施例1と同様にして、それぞれ、所定量の凝結遅延剤、膨張抑制剤、増粘剤、消泡剤を添加してSL材を得た。
【0052】
上記で得られた各SL材100部をそれぞれに用いて、下記の方法で評価をした。まず、SL材100部に対して35部の水を添加して、評価用のスラリーを調製した。評価を同様の条件で行うため、スラリーを調製する際に、フロー値がいずれも230±2mmとなるように減水剤を配合して、流動性を調整した。
【0053】
(評価)
上記のようにして得たSL材の各スラリーの物性値と、スラリーを施工した際における軽歩行可能時間を、先に述べたと同様にして測定した。なお、すべての試験において、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する長さ変化が0.05%以下であることを確認した。試験結果を表3にまとめて示した。
【0054】
【0055】
表3に示した通り、無機骨材の配合量が多くなると、相対的に基材中に占めるβ型半水石膏の量が少なくなるためと考えられるが、半水石膏の構成を工夫したことで得られた軽歩行可能時間が短くなる効果が損なわれ、軽歩行可能時間が長くなる傾向があることがわかった。また、実施例2の場合と同様に、基材の合計量に対し、半水石膏以外の基材材料の量が半分を超えて多くなった場合は、比較例4に示したように、低温条件下での軽歩行可能時間を短くする効果が殆ど失われることがわかった。
【0056】
[実施例4-1~4-4、比較例5、6]
本例では、基材材料に、セメントを15部の一定量で加えて、α型半水石膏とβ型半水石膏との配合比率(αとβ比)を表4に示したように段階的に変えた半水石膏を用いて、実施例1で行ったのと同様の方法でSL材を調製した。そして、実施例1と同様にして得られたSL材を評価した。なお、すべての試験において、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する長さ変化が0.05%以下であることを確認した。得られた評価結果を表4にまとめて示した。
【0057】
【0058】
表4に示した通り、セメントを基材材料に使用したことで、β型半水石膏の配合量を多くしたことに由来する、スラリーの粘度が高くなりすぎることを効果的に抑制できることがわかった。しかし、基材の合計100部中に占めるβ型半水石膏の量が20部を超えると、比較例6に示したように、セメントを基材材料に用いたとしてもスラリーの粘度が高くなって、作業性に劣るものになることがわかった。
【0059】
[実施例5-1~5-4、比較例7、8]
他の実施例の場合と異なり、本例では、基材材料にセメントや無機骨材を使用することなく、半水石膏のみを用いてSL材を調製した。具体的には、基材を構成する半水石膏として、α型半水石膏と、β型半水石膏とを、表5に示した通りに段階的に配合比を変えて用い、実施例1と同様の方法でSL材を調製した。そして、実施例1と同様にして、得られたSL材を評価した。なお、すべての試験において、JASS 15M-103(セルフレベリング材の品質基準)で規定する長さ変化が0.05%以下であることを確認した。得られた評価結果を表5にまとめて示した。
【0060】
【0061】
表5に示されている通り、α型半水石膏を100部とした比較例7との比較から、基材を構成する半水石膏100部を、α型半水石膏を75~95部、β型半水石膏を5~25部の比率で配合して併用することで、低温条件下において生じる軽歩行可能時間の長時間化への影響を低減できることがわかった。しかし、α型半水石膏を75部、β型半水石膏を25部の配合とした比較例8の組成物は、軽歩行可能時間が改善され、可使時間についての問題もないものの、基材の合計を100質量部とした場合のβ型半水石膏の含有量が20質量部を超えたため、別の問題として、β型半水石膏を併用しない比較例7の組成物と比較して、スラリーとした場合に粘度が倍以上に高くなるという実用上の課題があることがわかった。こうした実用上の理由から、本発明のSL材は、基材の合計を100質量部とした場合に、β型半水石膏の含有量が20質量部以下であることを要するとした。表5の結果から、本発明のSL材を構成する基材を半水石膏だけで構成する場合は、α型半水石膏と前記β型半水石膏の合計を100部として、α型半水石膏の含有量を80~95部、β型半水石膏の含有量を5~20部、より好適には、α型半水石膏の含有量を80~90部、β型半水石膏の含有量を10~20部とすることが効果的であることがわかった。