(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ミトコンドリア抽出物の腎障害関連疾患を治療及び/又は予防する用途
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20241001BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2022556517
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 CN2021081686
(87)【国際公開番号】W WO2021185341
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517319329
【氏名又は名称】台湾粒線体応用技術股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Taiwan Mitochondrion Applied Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】17F-7, No.65, Gaotie 7th Rd., Zubbei City, Hsinchu County, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】鄭漢中
(72)【発明者】
【氏名】許智凱
(72)【発明者】
【氏名】曾恵卿
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-507729(JP,A)
【文献】Ilias P. DOULAMIS et al.,“Mitochondrial transplantation by intra-arterial injection for acute kidney injury”,American Journal of Physiology-Renal Physiology,2020年07月,Vol. 319, No. 3,p.F403-F413,DOI: 10.1152/ajprenal.00255.2020
【文献】Hanieh JABBARI et al.,“Mitochondrial transplantation ameliorates ischemia/reperfusion-induced kidney injury in rat”,Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease,2020年04月28日,Vol. 1866, No. 8,Article No. 165809,DOI: 10.1016/j.bbadis.2020.165809
【文献】Ki Wung CHUNG et al.,“Mitochondrial Damage and Activation of the STING Pathway Lead to Renal Inflammation and Fibrosis”,Cell Metabolism,2019年10月,Vol. 30, No. 4,p.784-799.e5,DOI: 10.1016/j.cmet.2019.08.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアを含む、腎障害関連疾患を予防又は/及び治療するための組成物であって、
前記腎障害関連疾患は、
腎線維化に起因する腎臓疾患であ
り、
前記組成物中の前記ミトコンドリアの分量は15μg~40μgである、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア抽出物の二次用途に関し、特にミトコンドリア抽出物の腎障害関連疾患を治療及び/又は予防する用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、人体細胞内に存在する細胞小器官の1つであり、細胞の正常な活動に必要なATPを供給するものである。最近の研究では、細胞内のミトコンドリア数が増加及び活性化すると、幹細胞の分化に必要なエネルギーが供給され、幹細胞分化の成功に寄与することが指摘されている。つまり、ミトコンドリアが人体のエネルギー代謝において非常に重要な役割を担っているということである。例えば、仮にミトコンドリアに欠陥が生じた場合、アルツハイマー、筋無力症、筋疾患などの退化性又は加齢性疾患が生じてしまう。現在、多くの研究では、酸化損傷に起因するパーキンソン病やアルツハイマー病の患者が、ミトコンドリアの正常な機能を維持することや、体内の抗酸化能を高めることができれば、神経変性疾患の悪化抑制に寄与することが指摘されている。
【0003】
腎組織の損傷が3ヶ月以上持続し、腎臓の構造や機能を元の状態に戻すことができなくなった状態は、慢性腎臓病と呼ばれている。現在、臨床では薬物治療を主とし、飲食や生活習慣のコントロールで補う治療が多い。しかし、慢性腎臓病が経過とともに悪化し、腎臓の線維化によって腎臓の機能が徐々に失われていくと、患者は生命維持のために血液透析や腎臓移植を受けることが必要になる。これは、患者にとって非常に辛いプロセスであると同時に、国の医療費にとっても高額な負担となる。つまり、慢性腎臓病の発症機序や治療方法についての知見が未だ明確でないために、臨床において慢性腎臓病に対する有効な治療方法を提供できていないのが現状である。そのため、慢性腎臓病や腎線維化の治療に有効な組成物や方法を提供することが臨床医療において急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主な目的は、ミトコンドリア抽出物の二次用途を提供することであり、それは腎障害関連疾患を効果的に改善又は予防することができ、それにより腎臓病の治療や腎臓病の悪化を抑制する効果が達成される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明は、ミトコンドリア抽出物の、腎障害関連疾患を予防又は/及び治療する組成物を調製する用途を開示する。具体的には、一定量のミトコンドリア抽出物を腎障害関連疾患罹患者の個体に投与した場合に、腎細胞損傷を改善することができ、これにより腎障害関連疾患の治療又は悪化を予防する効果が達成されるというものである。
【0006】
本発明の実施例中、腎障害関連疾患は、腎線維化、腎臓の炎症、慢性腎臓病、急性腎障害、尿細管損傷、腎不全、腎前性腎損傷、腎因性腎損傷、腎後性腎損傷、糸球体腎炎、腎盂腎炎、ネフローゼ症候群、尿毒症である。
【0007】
本発明の1つの実施例中、腎障害関連疾患は、ミトコンドリア損傷に加えて、蛋白尿、水腫、乏尿、尿素窒素高値、クレアチニン高値、尿酸値異常、結石、糸球体濾過量異常のうちの少なくとも1つの症状を有する。
【0008】
本発明の別の実施例中、ミトコンドリアは、脂肪幹細胞、CD34+造血幹細胞、間葉系幹細胞、骨髄系幹細胞、臍帯幹細胞、羊膜幹細胞、羊水幹細胞、胎盤幹細胞、iPS、神経幹細胞などの幹細胞から分離する。
【0009】
本発明の実施例中、組成物中のミトコンドリアの分量は5~80μgであり、好適には、組成物中のミトコンドリアの分量は40μgである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有益な効果は以下の通りである。腎細胞において線維化や酸化ストレス、炎症といった環境に起因するミトコンドリアの損傷状態が発生した場合に、本発明が提供するミトコンドリア抽出物又はそれを含む組成物を投与することで、腎細胞のミトコンドリアの損傷状態を効果的に改善せしめ、これにより腎細胞損傷やその関連疾患を改善又は治療する効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】濃度の異なる過酸化水素で処理した腎上皮細胞の24時間後の生存率を統計解析した結果である。
【
図1B】腎上皮細胞を濃度の異なる過酸化水素で処理してから、用量の異なるミトコンドリア沈殿物を投与した後の生存率を統計解析した結果である。
【
図2A】腎上皮細胞を濃度の異なる終末糖化産物(AGEs-BSA)でそれぞれ異なる時間で処理した後、腎上皮細胞のコラーゲン分泌量を検出解析した結果である。
【
図2B】腎上皮細胞を濃度の異なるAGEs-BSAでそれぞれ処理し、且つ異なる用量のミトコンドリア沈殿物を投与した後、腎上皮細胞のコラーゲン分泌量を検出解析した結果である。
【
図2C】腎上皮細胞を濃度の異なる過酸化水素でそれぞれ処理し、且つ用量の異なるミトコンドリア沈殿物を投与した後、腎上皮細胞のコラーゲン分泌量を検出解析した結果である。
【
図3】腎上皮細胞を過酸化水素又はAGEs-BSAでそれぞれ処理し、且つ用量の異なるミトコンドリア沈殿物を投与した後、腎上皮細胞のミトコンドリアの損傷状態を検出解析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ミトコンドリア抽出物の二次用途を提供するが、それは即ち、一定量のミトコンドリア抽出物又はそれを含む組成物を腎障害関連疾患罹患者の個体に投与することにより、腎障害関連疾患を効果的に改善せしめ、且つ腎障害関連疾患の悪化を予防し得るというものである。
【0013】
通常、本発明が提供するミトコンドリアを個体に投与する用量は5~80μgであり、例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、60、65、70、80μgなどであるが、そのうち、好適には投与用量は15~40μgである。さらに、腎臓病の優れた治療又は改善効果を達成可能にするため、本発明が提供するミトコンドリアを他の組成分と組み合わせて組成物を調製してもよく、組み合わせる組成分は、例えば成長因子を含む血液製品、多血小板血漿(PRP)、血漿、血清、多血小板フィブリン(Platelet-Rich Fibrin)など、成長因子を有するのが好ましい。
【0014】
本発明において「ミトコンドリア抽出物」とは、細胞中から分離したミトコンドリアをいい、使用される分離技術又は方法は、ミトコンドリアの構造及び機能の完全性を維持し得るものでなければならない。本発明の当業者にとって、分離技術又は方法は物理的又は化学的であり得る。
【0015】
本発明において「細胞」とは、例えば脂肪幹細胞、間葉系幹細胞、骨格筋細胞、肝細胞、腎細胞、線維芽細胞、神経細胞、皮膚細胞、血球細胞などのミトコンドリアを有する細胞をいう。
【0016】
本発明において「組成物」とは、医薬組成物、食品、機能性食品、栄養補助食品などでよく、且つ種類に従って様々な組成分と組み合わせてなるものでよく、様々な剤形や様々な投与方法を有する。
【0017】
本発明において「腎障害関連疾患」とは、腎細胞の損傷に起因する疾患であり、例えば腎線維化、腎臓の炎症、腎臓病、急性腎障害、尿細管損傷、腎不全、腎前性腎損傷、腎因性腎損傷、腎後性腎損傷、糸球体腎炎、腎盂腎炎、ネフローゼ症候群、尿毒症など、ミトコンドリア損傷の症状を有する。
【0018】
以下、本発明が提供するミトコンドリア抽出物の効果を証明するため、幾つかの実施例を挙げつつ図面とともに詳しく説明する。
【0019】
以下の実施例中で使用したミトコンドリアは、ヒト脂肪幹細胞(adipose-derived stem cell)由来であるが、本発明のミトコンドリアはヒト脂肪幹細胞由来に限定されない。即ち、本発明のミトコンドリアは、人体の任意の細胞由来である。
【0020】
以下の実施例中で使用したミトコンドリアの用量は例に過ぎず、ミトコンドリアの用量15μgは低用量を表し、40μgは高用量を表してはいるものの、本発明の技術的特徴を限定するものでは決してない。即ち、本発明が提供するミトコンドリアは、用量5~80μgのいずれにおいても本発明が達成しようとする効果を達成することができる。
【実施例1】
【0021】
腎上皮細胞株の培養
【0022】
腎上皮細胞株をMEM-α Earl's saltと5%のウシ胎児血清を含有する細胞培地で培養し、且つ37℃(5%の二酸化炭素を含有)下で培養を行い、細胞培養が80%コンフルエントに達した時点で細胞培地を除去し、リン酸緩衝液で細胞を洗浄し、リン酸緩衝液を除去した後、0.25%トリプシン/2.21mM EDTAを加え、20分間反応させてから、5%のウシ胎児血清を含有するMEM-αを加えてトリプシンを中和し、懸濁している細胞を収集して遠心した後、細胞のカウントを行い、さらに5%のウシ胎児血清を含有するMEM-αで最終濃度が5x104細胞/mLになるまで希釈し、後の継代培養又は分析用とした。
【実施例2】
【0023】
ミトコンドリアの抽出
【0024】
ヒト脂肪幹細胞を細胞数が1.5x108細胞になるまで培養し、ダルベッコリン酸緩衝液(DPBS)で細胞を洗い流してからダルベッコリン酸緩衝液を除去し、トリプシンを加えて3分間反応させてから、幹細胞培養液(Keratinocyte SFM(1X)液体、bovine pituitary extract、10wt%ウシ胎児血清)を加えて反応を終了させた後、細胞を収集して遠心し(600g、10分間)、上清液を除去して、80mLのIBC-1緩衝液(緩衝液(225mMマンニトール、75mMショ糖、0.1mM EDTA、30mM Tris-HCl pH 7.4))を細胞中に加え、均質化してから遠心し、得られた沈殿物質がミトコンドリアである(以下はミトコンドリア沈殿物と呼ぶ)。ミトコンドリア沈殿物中に1.5mLのIBC-1緩衝液とタンパク質分解酵素阻害剤を加えて、4℃下に置き、以下の実施例で使用した。
【実施例3】
【0025】
腎上皮細胞損傷試験(1)
【0026】
実施例1で培養した腎上皮細胞を96ウェルプレート中で継代培養した。そのうち、ウェル毎の濃度は5x10
4cells/200μLとし、8時間培養してから上清液を除去して、リン酸緩衝液で洗浄した後、5%のウシ胎児血清を含有しない細胞培養液をウェル毎に200μL加えて8時間培養し、培養後にそれぞれ濃度の異なる過酸化水素(0.3、0.5、1、3、5、10mM)で処理した。濃度の異なる過酸化水素で24時間培養した後、それぞれ各ウェルの上清液を除去して、10%のアラマーブルー(Alamar blue)を含有する細胞培養液を加えて(100μL/ウェル)、3~4時間培養してから、蛍光指紋測定(Excitation/Emission:560/590nm)を行った。結果は
図1Aに示す通りである。
【0027】
図1Aの結果から、腎上皮細胞を濃度の異なる過酸化水素で24時間培養した後、腎上皮細胞に損傷状態が生じ始めていることが分かる。そのうち、過酸化水素の濃度が1mM以上の場合、腎上皮細胞が損傷により死亡する状況が大幅に増加しており、具体的には、腎上皮細胞を濃度1mMの過酸化水素で24時間処理した後の腎上皮細胞の生存率は81.4%であり、腎上皮細胞を濃度5mMの過酸化水素で24時間処理した後の腎上皮細胞の生存率は31.3%であり、腎上皮細胞を濃度10mMの過酸化水素で24時間処理した後の腎上皮細胞の生存率は24.2%であった。この結果は、腎上皮細胞を過酸化水素で処理することで確かに腎上皮細胞の損傷及び死亡モデルを構築し得ること、また、過酸化水素を添加する濃度が増加するにつれて、腎上皮細胞の損傷状態が悪化し、腎上皮細胞の死亡数も増加することを示している。
【実施例4】
【0028】
腎上皮細胞損傷試験(2)
【0029】
実施例1で培養した腎上皮細胞を96ウェルプレート中で継代培養した。そのうち、ウェル毎の濃度は1x10
4cells/200μLとし、8時間培養してから上清液を除去して、リン酸緩衝液で洗浄した後、5%のウシ胎児血清を含有しない細胞培養液をウェル毎に体積200μLを加えて8時間培養してから、それぞれ濃度が1mMと3mMの過酸化水素で4時間処理し、濃度の異なる過酸化水素処理を経た細胞に異なる用量(15μgと40μg)のミトコンドリア沈殿物(実施例2で調製したもの)を与えてから24時間培養し、培養完了後に上清液を除去して、10%のアラマーブルーを含有する細胞培養液を加えて(100μL/ウェル)、37℃の環境下で3~4時間培養してから、培養終了時に蛍光指紋測定(Excitation/Emission:560/590nm)を行った。結果は
図1Bに示す通りである。
【0030】
図1Bの結果から、過酸化水素処理を経た腎上皮細胞は損傷を受けて細胞生存率が下がるが、過酸化水素の誘導により損傷した腎上皮細胞に一定量のミトコンドリア沈殿物を投与すると、腎上皮細胞の生存率が顕著に向上し得ること、また、投与用量が増加するにつれて、腎上皮細胞の生存率も増加することが分かる。
【0031】
この結果から、本発明が提供するミトコンドリア抽出物は確かに腎上皮細胞を保護して、酸化又は炎症反応による腎上皮細胞の損傷状態の発生を防ぐことができ、且つ損傷した腎上皮細胞を修復し、腎上皮細胞の死亡を効果的に防ぎ得ることが分かる。つまり、本発明が提供するミトコンドリア抽出物又はそれを含む組成物は確かに酸化ストレスに起因する腎臓の損傷又は腎臓病を改善又は/及び予防し得る効果を有するということである。
【実施例5】
【0032】
腎上皮細胞線維化試験(1)
【0033】
実施例1で培養した腎上皮細胞を6ウェルプレートで5%のウシ胎児血清を含有する培養液により培養し、ウェル毎の濃度は1x10
5cells/2mlとし、24時間培養してから上清液を除去して、リン酸緩衝液で洗浄した後、5%のウシ胎児血清を含有しない細胞培養液をウェル毎に1ml加えて8時間培養してから、濃度の異なる(100μg/mlと400μg/ml)終末糖化産物(AGEs-BSA)を与えて4時間培養し、培養完了後、AGEs-BSAを含有する細胞培地を除去してリン酸緩衝液で洗浄してから、5%のウシ胎児血清を含有しない細胞培養液をウェル毎に1ml加えてそれぞれ24時間と48時間培養し、培養終了後にそれぞれ上清液を収集して、水溶性コラーゲン(soluble collagen)の測定キット(Sircol(登録商標) Soluble Collagen Assay Kit)でコラーゲン分泌測定を行った。結果は
図2Aに示す通りである。
【0034】
図2Aの結果は、高濃度(400μg/ml)又は低濃度(100μg/ml)のAGEs-BSAで処理された腎上皮細胞のいずれにおいても腎上皮細胞のコラーゲン分泌の発現量が増加していること、また、コラーゲン分泌の発現量は処理時間が増加するにつれて上昇していることを示しており、AGEs-BSAが確かに腎上皮細胞の病変を誘導して線維化の状態を生じさせることを示している。これは即ち慢性腎臓病の初期であり、コラーゲン分泌の発現量が増加し続けると慢性腎臓病を発症してしまう。
【実施例6】
【0035】
腎上皮細胞線維化試験(2)
【0036】
本実施例の工程は実施例5と概ね同じであるが、異なる点として、AGEs-BSAを含有する細胞培地を除去してから、5%のウシ胎児血清を含有しない細胞培養液と、異なる用量の(15μgと40μg)ミトコンドリア沈殿物(実施例2で調製したもの)をウェル毎に加えた後、それぞれ24時間培養して、培養完了後、それぞれ上清液を収集して、水溶性コラーゲン測定キットでコラーゲン分泌測定を行った。結果は
図2Bに示す通りである。
【0037】
図2Bの結果から、ミトコンドリア沈殿物を投与すると、AGEs-BSAに誘導されて生じる腎上皮細胞内のコラーゲン分泌量を低減し得ることが分かり、本発明が提供するミトコンドリア又はそれを含む組成物は腎線維化やそれに関連する腎臓病を効果的に改善又は/及び予防する効果を達成し得ることが示された。
【実施例7】
【0038】
腎上皮細胞線維化試験(3)
【0039】
本実施例の工程は実施例6と概ね同じであるが、異なる点として、腎上皮細胞の線維化を誘導する刺激薬をAGEs-BSAから過酸化水素に変更した。測定結果は
図2Cに示す通りである。
【0040】
図2Cの結果から、腎上皮細胞を過酸化水素処理することでコラーゲンの分泌量の増加が誘導されることが分かる。つまり、腎上皮細胞を過酸化水素処理することにより、確かに腎細胞の線維化モデルを構築し得るということである。過酸化水素処理を経た腎上皮細胞にミトコンドリア沈殿物を与えると、腎上皮細胞内のコラーゲン分泌量を顕著に低減することができており、本発明が提供するミトコンドリア又はそれを含む組成物が腎線維化やそれに関連する腎臓病を効果的に改善又は/及び予防する効果を達成し得ることが示された。
【実施例8】
【0041】
腎上皮細胞内のミトコンドリア機能の損傷試験
【0042】
実施例1で培養した腎上皮細胞を96ウェルプレート中で5%のウシ胎児血清を含有する細胞培養液により継代培養し、ウェル毎の濃度は5x10
4cells/200μLとし、24時間培養してから上清液を除去して、リン酸緩衝液で洗浄した後、5%のウシ胎児血清を含有しない細胞培養液をウェル毎に1ml加えて8時間培養してから、培養後にそれぞれ3mMの過酸化水素と100μg/mlのAGEs-BSAで4時間培養した後、過酸化水素又はAGEs-BSAを含有する細胞培養液を除去し、リン酸緩衝液で洗浄してから、5%のウシ胎児血清を含有しない細胞培養液1mlと異なる用量(15μgと40μg)のミトコンドリア沈殿物(実施例2で調製したもの)をウェル毎に加えてそれぞれ24時間培養し、培養完了後にリン酸緩衝液で洗浄して、10μMのJC-1染色試薬を含有する緩衝液を加えて37℃下で10分間反応させ、洗浄してから、蛍光指紋測定(Excitation/Emission:488/530nm)を行った。結果は
図3に示す通りである。
【0043】
図3の結果から、過酸化水素又はAGEs-BSAで処理しただけの腎上皮細胞は、その内のJCー1モノマー(monomer)の発現が増加していることが分かる。これは、腎上皮細胞内のミトコンドリアが過酸化水素又はAGEs-BSAによって生じた炎症環境によって損傷したことを示している。一方、先に過酸化水素又はAGEs-BSAで処理してから、異なる用量のミトコンドリア沈殿物で処理した腎上皮細胞は、その内のJC-1モノマーの発現が顕著に低下し、さらにミトコンドリア沈殿物の用量が増加するにつれて、腎上皮細胞中のJC-1モノマーの発現も低下していた。
【実施例9】
【0044】
動物試験
【0045】
10週齢のC57BL/6マウスを用意し、恒温・恒湿度下、12:12時間の明暗サイクル環境で飼育した。マウスの腎障害モデルは虚血再灌流のモデル(ischemia-reperfusion、以下はI/R腎障害モデルと呼ぶ)で実施した。工程は以下の通りである。先ず、腹腔内注射で150mg/kgのフェノバルビタール(phenobarbital)をマウスの腹部に注射し、マウスを昏睡させてから、マウスの左側の腎臓位置で手術を行い、左側腎臓を切開部から外に出して、血管鉗子で腎動脈の腎臓に流れる血管を遮断し、30分間遮断してから血管鉗子を外して再び血流を通し、I/R腎障害モデルを完成させた。
【0046】
I/R腎障害モデルの処理を経たマウスに、異なる用量のミトコンドリア(15μgと40μg)を腎動脈の血管注射で腎臓に送って、ミトコンドリア高用量群とミトコンドリア低用量群とした。対照群(I/R群)には、リン酸緩衝液を注射した。各群マウスでそれらの処理を終えた後、それぞれ腎臓を体内に戻して傷口を縫合し、各群マウスで実施後の1日目(D1)及び2日目(D2)に血液試料を収集して、血清クレアチニン(Creatinine,Cr)と血中尿素窒素(BUN)を測定した。次に抜き取った血液を遠心し、分離して血清を収集し、血清中の尿素窒素とクレアチニンの含有量を分析した。ここで、血清クレアチニン測定は、マウスクレアチニン分析キット(ブランド:Crystal Chem、型番:80350)で分析を行い、血清尿素窒素測定は、尿素分析キット(ブランド:abcam、型番:ab83362)で分析を行った。各群マウスを移植から7日目(D7)に犠牲にしてから、各マウスの左側腎臓に灌流してホルマリン固定した後、パラフィン包埋と組織片の切り出しを行い、H&E染色を行った。染色結果については、組織学に基づき虚血性損傷に起因する形態的な変化を調べ、Jablonskiの半定量標準を用いて腎障害レベルを評価し、0点を正常組織、1点を尿細管損傷面積5%未満、2点を尿細管損傷面積5%以上~25%以下、3点を尿細管損傷面積25%超~75%以下、4点を尿細管損傷面積75%超とした。
【0047】
上述の結果は下記表1に示す通りである。表1の結果から、コントロール群と比べて、I/R群は血清中の尿素窒素とクレアチニンの発現量に顕著な増加があることが分かる。これは、I/R群の腎障害モデルが確かに腎障害を引き起こしていることを示している。さらに、腎障害スコア結果からは、I/R群の点数が3~4点であり、尿細管損傷が重いことが分かる。一方、I/R群と比べて、ミトコンドリアを与えた群のマウスは、血清中の尿素窒素とクレアチニンの含有量が顕著に低下しており、ミトコンドリアが腎障害を効果的に改善し得ることを示している。また、腎障害スコア結果からは、ミトコンドリアを投与することで損傷した腎細胞を回復させ、尿細管損傷の状態を改善し得ること、また、与えるミトコンドリアの用量が増加するにつれて、腎障害を改善する効果も増加することが分かる。
【0048】
表1:各群マウスの異なる処理後の血清及び腎臓組織切片の分析結果
【0049】
上述の結果は、腎細胞において線維化や酸化ストレス、炎症といった環境に起因するミトコンドリアの損傷状態が発生した場合に、本発明が提供するミトコンドリア抽出物又はそれを含む組成物を投与することで、腎細胞のミトコンドリアの損傷状態を効果的に改善せしめ、これにより腎細胞損傷やその関連疾患を改善又は治療する効果を達成し得ることを示している。