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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】熱処理炉
(51)【国際特許分類】
   F27B 9/30 20060101AFI20241001BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F27B9/30
F27D17/00 101A
F27D17/00 101D
F27D17/00 104D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023035141
(22)【出願日】2023-03-08
(65)【公開番号】P2024126626
(43)【公開日】2024-09-20
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】519438877
【氏名又は名称】サンファーネス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直利
(72)【発明者】
【氏名】秋永 正樹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 高司
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-009556(JP,A)
【文献】特開平09-025510(JP,A)
【文献】特開昭61-099099(JP,A)
【文献】実開昭57-060026(JP,U)
【文献】実開昭56-2926(JP,U)
【文献】実開昭55-150287(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/30
F27D 17/00
F27D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加熱する加熱室と、
上記加熱室に対してワークの搬入および搬出を行う搬入搬出手段と、
上記加熱室の雰囲気ガスを導入する雰囲気ガス導入手段と、
上記ワークに付着した油分から生じた油煙が混入した雰囲気ガスを上記加熱室から排出し、油分分離手段により上記油煙に基づく油分を分離し、その油分が分離された雰囲気ガスを再び上記加熱室に戻す循環路と、
上記循環路において、上記油分分離手段の上流で上記油煙が混入した雰囲気ガスを予冷する予冷用熱交換器とを備え、
上記予冷用熱交換器は、上記加熱室から排出された油煙が混入した雰囲気ガスと、上記油分分離手段で油分が分離されて上記加熱室に戻す雰囲気ガスとを熱交換することにより、上記油煙が混入した雰囲気ガスを予冷するとともに、上記加熱室に戻す雰囲気ガスの予熱を行うように構成され、
上記油分分離手段は、上記油煙が混入した雰囲気ガスを冷却することにより上記油煙を凝縮して油分を分離するための分離用冷却管を有する分離用熱交換器であり、
上記分離用熱交換器の上記分離用冷却管と上記予冷用熱交換器の予冷管とは共通の管体として繋がっており、
上記予冷管と上記分離用冷却管には、上記共通の管体の全長にわたるように、熱交換による冷却を促進して油分の分離を促進する冷却促進素子が挿入されている
ことを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
上記冷却促進素子は、横断面で花弁状を描くように複数のループ状に屈曲させたワイヤにより形成され、上記各ループ状の部分を管の軸心に相当するところで撚り合わせた構造体であり、上記各ループ状の部分が、管の内壁に接触するとともに、ガスの流れに逆らう方向に斜めに配置されている
請求項1記載の熱処理炉。
【請求項3】
上記循環路により上記加熱室から排出する油煙が混入した雰囲気ガスの流量は、上記雰囲気ガス導入手段により導入される雰囲気ガスの流量の50倍以上である
請求項1または2記載の熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内に搬入したワークから生じる油煙を雰囲気から分離除去しうる熱処理炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炉内に搬入したワークを熱処理する熱処理炉において、ワークに付着した油分から生じる油煙が問題になることがある。油煙が炉内に充満すると、たとえば、炉内でワークの搬送位置を検知するセンサに誤検知を生じる、炉内を汚染する、排ガスに混じって油煙が排出されて環境を汚染する、等の問題が生じる。このような炉内の油煙(ミスト)を除去する技術に関する先行文献として、出願人はつぎの特許文献1を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-112690号公報
【0004】
特許文献1は、熱処理に伴って生じる液体ミストを分離除去し、非酸化性ガスを還流させる機構を有する熱処理装置および熱処理方法に関するものである。特許文献1には、つぎの記載がある。
[0056]
ところで、冷却処理に供されるワークWの被加熱部の温度は数百度程度にまで高められているため、ワークWを冷却液36に浸漬させると、冷却液36の液体成分が蒸発等することによって、密閉室4内で液体ミストが発生する。本実施形態では、冷却液貯留槽35に貯留された冷却液36の一部が冷却液貯留槽35の第2開口部35bを介して大気に接していることから、冷却液36への多少の酸素の溶け込みは避けられない。そのため、ワークWを冷却液36に浸漬させることによって密閉室4内で液体ミストが発生すると、液体ミストに含まれる酸素を要因とする酸化膜がワークW(特に、第1空間Aや通路Cに存在するワークW)の表面に生成される可能性がある。特に、本実施形態のように、全体焼入れが施されるワークWを冷却液36に浸漬させた際には多量の液体ミストが発生するため、液体ミストに含まれる酸素を要因とする酸化膜がワークW表面に生成され易いと言える。
[0057]
そこで、本実施形態の熱処理装置1は、その稼働率低下や熱処理コストの増大を招来することなく、冷却液36へのワークWの浸漬に伴って生じる液体ミストに含まれる酸素を要因とするワークW表面への酸化膜の生成を可及的に防止するための特徴的構成を有する。具体的には、図6に模式的に示すように、密閉室4(を構成する焼入れ準備室6)に接続されたガス還流機構50を備える。このガス還流機構50は、加熱されたワークWを冷却液36に浸漬させるのに伴って密閉室4内で生じる液体ミスト、および密閉室4内に介在する非酸化性ガスをまとめて吸引し、この吸引物60(図8参照)のうち、液体ミストを除去すると共に、非酸化性ガス(液体ミストとは分離された非酸化性ガス)を密閉室4内に還流させるガス還流処理を実行する。
[0058]
本実施形態のガス還流機構50は、密閉室4外に設置されたポンプ51と、一端52aが焼入れ準備室6の内部空間に開口すると共に他端52bがポンプ51の吸入ポート51aに接続された吸管52と、一端53aがポンプ51の吐出ポート51bに接続されると共に他端53bが焼入れ準備室6の内部空間に開口した吐出管53とを備える。図8に示すように、本実施形態のポンプ51は、吸入ポート51aと吐出ポート51bとの間に、吸引物60に含まれる液体ミスト(厳密には、液体ミストに含まれる水分や各種添加剤の微粒子等)を除去するためのフィルタ部54を有する。この場合、吸管52を介してポンプ51内に吸引された吸引物60がポンプ51内を流通するのに伴い、吸引物60に含まれる液体ミストがフィルタ部54で除去され、ポンプ51の吐出ポート51bからは、実質的に非酸化性ガス61のみが吐出される。そして、ポンプ51の吐出ポート51bから吐出された非酸化性ガス61は、吐出管53を介して焼入れ準備室6の内部空間に還流する。なお、フィルタ部54で除去した水分(又は油分)は、冷却液貯留槽35に戻して再利用するのが好ましい。これにより、熱処理コストを抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された技術は、焼入れ準備室6から吸引した吸引物60について、フィルタ部54によって液体ミストを除去し、非酸化性ガス61のみを焼入れ準備室6の内部空間に還流させる。このような液体ミストを除去する過程で、上記非酸化性ガス61は冷却される。冷却された非酸化性ガスを焼入れ準備室6に還流させると、焼入れ準備室6内部を冷却することになり、エネルギー効率が悪い。また、液体ミストをフィルタ部54で除去するため、フィルタ部54の定期的な交換が必要になってメンテナンスコストがかかる。上記特許文献1の技術は、これらのような問題を有している。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされたものである。
炉内に生じる油煙をエネルギー効率よく分離除去できる熱処理炉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の熱処理炉は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
ワークを加熱する加熱室と、
上記加熱室に対してワークの搬入および搬出を行う搬入搬出手段と、
上記加熱室の雰囲気ガスを導入する雰囲気ガス導入手段と、
上記ワークに付着した油分から生じた油煙が混入した雰囲気ガスを上記加熱室から排出し、油分分離手段により上記油煙に基づく油分を分離し、その油分が分離された雰囲気ガスを再び上記加熱室に戻す循環路と、
上記循環路において、上記油分分離手段の上流で上記油煙が混入した雰囲気ガスを予冷する予冷用熱交換器とを備え、
上記予冷用熱交換器は、上記加熱室から排出された油煙が混入した雰囲気ガスと、上記油分分離手段で油分が分離されて上記加熱室に戻す雰囲気ガスとを熱交換することにより、上記油煙が混入した雰囲気ガスを予冷するとともに、上記加熱室に戻す雰囲気ガスの予熱を行うように構成され、
上記油分分離手段は、上記油煙が混入した雰囲気ガスを冷却することにより上記油煙を凝縮して油分を分離するための分離用冷却管を有する分離用熱交換器であり、
上記分離用熱交換器の上記分離用冷却管と上記予冷用熱交換器の予冷管とは共通の管体として繋がっており、
上記予冷管と上記分離用冷却管には、上記共通の管体の全長にわたるように、熱交換による冷却を促進して油分の分離を促進する冷却促進素子が挿入されている
【0008】
請求項2記載の熱処理炉は、請求項1記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記冷却促進素子は、横断面で花弁状を描くように複数のループ状に屈曲させたワイヤにより形成され、上記各ループ状の部分を管の軸心に相当するところで撚り合わせた構造体であり、上記各ループ状の部分が、管の内壁に接触するとともに、ガスの流れに逆らう方向に斜めに配置されている
【0010】
請求項記載の熱処理炉は、1または2記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記循環路により上記加熱室から排出する油煙が混入した雰囲気ガスの流量は、上記雰囲気ガス導入手段により導入される雰囲気ガスの流量の50倍以上である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の熱処理炉は、加熱室と、搬入搬出手段と、雰囲気ガス導入手段と、循環路と、予冷用熱交換器とを備えている。上記加熱室は、ワークを加熱する。上記搬入搬出手段は、上記加熱室に対してワークの搬入および搬出を行う。上記雰囲気ガス導入手段は、上記加熱室の雰囲気ガスを導入する。上記循環路は、上記ワークに付着した油分から生じた油煙が混入した雰囲気ガスを上記加熱室から排出する。また、上記循環路は、油分分離手段により上記油煙に基づく油分を分離し、その油分が分離された雰囲気ガスを再び上記加熱室に戻す。上記予冷用熱交換器は、上記循環路において、上記油分分離手段の上流で上記油煙が混入した雰囲気ガスを予冷する。そして、上記予冷用熱交換器は、上記加熱室から排出された油煙が混入した雰囲気ガスと、上記油分分離手段で油分が分離されて上記加熱室に戻す雰囲気ガスとを熱交換する。これにより、上記油煙が混入した雰囲気ガスを予冷するとともに、上記加熱室に戻す雰囲気ガスの予熱を行う。
このように、上記油分分離手段の上流で予冷用熱交換器が上記油煙が混入した雰囲気ガスを予冷するため、油煙の凝集が促進され、上記油分分離手段における油分の分離効率がよくなる。また、上記油分分離手段で油分を分離した雰囲気ガスを上記加熱室に戻す前に予熱するため、加熱室の冷却を抑え、エネルギー効率の低下を抑制する。したがって、炉内に生じる油煙をエネルギー効率よく分離除去できる。したがって、加熱処理時間が短い場合や、加熱室に導入する窒素ガス等の雰囲気ガス量が少ない場合でも、油煙によるトラブルが起こりにくい。
また、上記油分分離手段が、上記油煙が混入した雰囲気ガスを冷却することにより上記油煙を凝縮して油分を分離するための分離用冷却管を有する分離用熱交換器である。上記分離用熱交換器の上記分離用冷却管と上記予冷用熱交換器の予冷管とは共通の管体として繋がっている。上記予冷管と上記分離用冷却管には、上記共通の管体の全長にわたるように、熱交換による冷却を促進して油分の分離を促進する冷却促進素子が挿入されている。したがって、上記冷却促進素子により、熱交換による冷却が促進され油分の分離が促進される。また、上記油分分離手段に導入されるまえに、上記予冷用熱交換器の予冷により油煙が凝集して大きくなった油滴が、上記分離用冷却管内で上記冷却促進素子に衝突することによっても油分の分離が促進される。上記予冷管においても、上記冷却促進素子によって予冷が促進され、油煙の凝集が促進される。これにより、炉内に生じる油煙を効率よく分離除去できる。さらに、上記冷却促進素子を予冷管に挿入することで管内に乱流が生じるとともに、冷却促進素子の表面が熱交換の伝熱面となるため、伝熱面の面積が増加し、熱交換が促進され、予冷が促進される。したがって予冷用熱交換器をコンパクトにすることができる。上記冷却促進素子を分離用冷却管に挿入することで熱交換が促進され、冷却が促進される。したがって分離用熱交換器をコンパクトにすることができる。また、管を流れる油煙が凝縮して油滴となり、上記冷却促進素子に衝突して雫となることにより、油分の分離が促進される。
【0012】
請求項2記載の熱処理炉は、上記冷却促進素子は、横断面で花弁状を描くように複数のループ状に屈曲させたワイヤにより形成され、上記各ループ状の部分を管の軸心に相当するところで撚り合わせた構造体であり、上記各ループ状の部分が、管の内壁に接触するとともに、ガスの流れに逆らう方向に斜めに配置されている。
上記冷却促進素子を予冷管に挿入することで管内に乱流が生じるとともに、冷却促進素子の表面が熱交換の伝熱面となるため、伝熱面の面積が増加し、熱交換が促進され、予冷が促進される。したがって予冷用熱交換器をコンパクトにすることができる。上記冷却促進素子を分離用冷却管に挿入することで熱交換が促進され、冷却が促進される。したがって分離用熱交換器をコンパクトにすることができる。また、管を流れる油煙が凝縮して油滴となり、上記冷却促進素子に衝突して雫となることにより、油分の分離が促進される。
【0014】
請求項記載の熱処理炉は、上記循環路により上記加熱室から排出する油煙が混入した雰囲気ガスの流量が、上記雰囲気ガス導入手段により導入される雰囲気ガスの流量の50倍以上である。油分分離手段で油煙に基づく油分を分離除去しながら上記循環路で循環させる雰囲気ガスの流量が、雰囲気ガス導入手段で新たに導入する雰囲気ガスの流量より十分に多い。言い換えると、循環により再利用する雰囲気ガス量が十分に多いため、新たに導入する雰囲気ガス量を節減できている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明が適用された熱処理炉の一実施形態の全体構成を説明する図である。
図2】循環路に設けられた予冷用熱交換器と分離用熱交換器を説明する図であり、(A)は断面図、(B)は模式図である。
図3】冷却促進素子を説明する図であり、(A)は管の縦断面で見た状態、(B)は管の横断面で見た状態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔全体構成〕
図1は本発明が適用された熱処理炉の一実施形態を説明する図である。
本実施形態の熱処理炉は、置換室20と、加熱室30と、冷却室40が連なって配置された3室型の熱処理炉である。上記置換室の前に装入台10が配置され、上記冷却室40の後に排出台50が配置されている。
【0017】
加熱対象となるワーク100は、装入台10、置換室20と、加熱室30と、冷却室40、排出台50の順に搬送されて一連の処理が終了するようになっている。図において、符号102は、上記ワーク100を載せて搬送するためのトレイ102である。
【0018】
すなわち、後述する第1~第5ローラーコンベヤ11,21,31,41,51は、上記加熱室30に対してワーク100の搬入および搬出を行う搬入搬出手段として機能する。また、上記ワーク100が、装入台10、置換室20と、加熱室30と、冷却室40、排出台50の順に搬送される際には、後述する第1開閉扉12、第2開閉扉22、第3開閉扉32、第4開閉扉42が、順次開閉する。また、上記装入台10、置換室20と、加熱室30と、冷却室40、排出台50において、図示した各トレイ102の進行方向における前端の位置に、トレイ102を停止させるための光電センサ(図示せず)が配置されている。
【0019】
この例では、上記ワーク100は、ドラム101に巻かれた電線である。上記電線は、たとえば伸線加工ののち網組され、加工油が付着した状態で、ステンレス製のドラム101に巻回されている。その状態で、上記ドラム101ごと本熱処理炉で焼鈍処理が行われる。
【0020】
〔装入台10〕
上記装入台10は、上記トレイ102とワーク100を、上記置換室20内に装入するためのものである。上記装入台10の上面には、上記トレイ102を載置してワーク100を搬送するための第1ローラーコンベヤ11が設けられている。上記装入台10に載せられたトレイ102とワーク100は、上記置換室20内に装入される。上記装入台10の上方(置換室20の入口近傍)には、排気フード13が配置されている。
【0021】
〔置換室20〕
上記置換室20は、上記トレイ102とワーク100を加熱する前に、周囲の環境雰囲気を所定の雰囲気ガスと置換する。上記置換室20の床面には、上記トレイ102を載置してワーク100を搬送するための第2ローラーコンベヤ21が設けられている。また、上記置換室20の入口には、第1開閉扉12が設けられている。上記置換室20には、上記加熱室30の雰囲気ガスを導入する雰囲気ガス導入手段が設けられている。この例では、上記雰囲気ガスとして不活性ガスである窒素ガスが用いられる。したがって、この例では、上記雰囲気ガス導入手段として窒素ガス導入路25が設けられている。上記置換室20に導入された窒素ガスは、上記置換室20に充満したのち、加熱室30および冷却室40に充満する。上記置換室20では、たとえば3時間程度のパージにより酸素濃度を0%まで低下させる。
【0022】
〔加熱室30〕
上記加熱室30は、ワーク100を加熱する。上記加熱室30は、その床面に、上記トレイ102を載置してワーク100を搬送するための第3ローラーコンベヤ31が設けられている。また、上記加熱室30の入口(上記置換室20の出口である)には、第2開閉扉22が設けられている。上記加熱室30の出口(上記冷却室40の入口である)には、第3開閉扉32が設けられている。上記加熱室30の天井部には、攪拌ファン35が設けられている。また、上記加熱室30の内周部は、耐火材36で覆われている。上記加熱室30内は、図示しないヒータにより、300~500℃に加熱される。
【0023】
上記加熱室30には、循環路90が接続されている。上記循環路90は、上記ワーク100に付着した油分から生じた油煙が混入した雰囲気ガスを上記加熱室30から排出し、油分分離手段により上記油煙に基づく油分を分離し、その油分が分離された雰囲気ガスを再び上記加熱室30に戻す。循環路90の詳細については後述する。
【0024】
〔冷却室40〕
上記冷却室40は、上記加熱室30から排出されたワーク100を窒素ガス雰囲気内で冷却する。上記冷却室40の床面には、上記トレイ102を載置してワーク100を搬送するための第4ローラーコンベヤ41が設けられている。上記冷却室40の天井部には、熱交換器45と冷却ファン46とが設けられている。上記熱交換器45により、雰囲気ガス(窒素ガス)を熱交換で冷却し、冷却した雰囲気ガスを上記冷却ファン46で攪拌してワーク100を冷却する。上記冷却室40の出口には、第4開閉扉42が設けられている。
【0025】
〔排出台50〕
上記排出台50は、上記冷却室40から排出されたワーク100を次工程に送る前に一時的に載置する。上記排出台50の上面には、上記トレイ102を載置してワーク100を搬送するための第5ローラーコンベヤ51が設けられている。上記排出台50の上方(冷却室40の出口近傍)には、排気フード53が配置されている。また、上記第5ローラーコンベヤ51の下側には、換気扇54が配置されている。
【0026】
〔循環路90〕
図2は、上記循環路90の詳細を説明するものであり、上記循環路90に設けられた予冷用熱交換器60と分離用熱交換器70を説明する図である。(A)は断面図、(B)は模式図である。
【0027】
上記循環路90は、上記ワーク100に付着した油分から生じた油煙が混入した雰囲気ガス(窒素ガス)を上記加熱室30から排出し、油分分離手段により上記油煙に基づく油分を分離し、その油分が分離された窒素ガスを再び上記加熱室30に戻す。
【0028】
上記循環路90には、油分分離手段としての分離用熱交換器70、予冷用熱交換器60、ブロア91、ドレンタンク92が設けられている。
【0029】
上記分離用熱交換器70は、上記油分分離手段として機能するものであり、上記加熱室30から排出した油煙が混入した窒素ガスから、上記油煙に基づく油分を分離する。上記分離用熱交換器70は、上記油煙が混入した窒素ガスを冷却することにより、上記油煙を凝縮して油分を分離するための分離用冷却管71を有する多管式熱交換器である。
【0030】
上記予冷用熱交換器60は、上記循環路90において、上記分離用熱交換器70の上流で上記油煙が混入した窒素ガスを予冷する。上記予冷用熱交換器60は、上記油煙が混入した窒素ガスを予冷する予冷管61を備えた多管式熱交換器である。
【0031】
この例では、上記予冷用熱交換器60と上記分離用熱交換器70は直列に接続されている。つまり、予冷用熱交換器60の予冷管61と分離用熱交換器70の分離用冷却管71はそれぞれ一本につながっている。共通の管体の上部が予冷管61として機能し、下部が分離用冷却管71として機能する。
【0032】
上記予冷用熱交換器60の上部には、加熱室30から排出された油煙が混入した窒素ガスが導入される導入空間62が設けられている。上記導入空間62に導入された油煙が混入した窒素ガスは、予冷管61を通過するあいだに予冷される。冷却媒体としては、分離用熱交換器70で冷却されて油分が分離除去された窒素ガスが導入される。この窒素ガスは、予冷用熱交換器60での熱交換により予熱されて再び加熱室30に戻される。
【0033】
上記予冷管61で予冷された油煙が混入した窒素ガスは、分離用冷却管71を通過するあいだに冷却され、油煙が凝縮した油分が分離され除去される。上記分離用熱交換器70には、冷却媒体として水が導入され、熱交換により温水となって排出される。
【0034】
上記分離用熱交換器70の下部には、油煙が凝縮した油分と、油分が分離除去された窒素ガスを気液分離するための分離空間72が設けられている。上記分離空間72で気液分離された油分はドレンタンク92に排出される。上記分離空間72で気液分離された窒素ガスは、ブロア91により吸引され、上記予冷用熱交換器60の冷却媒体として予冷用熱交換器60に導入される。
【0035】
このように、上記予冷用熱交換器60は、上記加熱室30から排出された油煙が混入した窒素ガスと、上記分離用熱交換器70で油分が分離されて上記加熱室30に戻す窒素ガスとを熱交換することにより、上記油煙が混入した窒素ガスを予冷するとともに、上記加熱室30に戻す窒素ガスの予熱を行う。
【0036】
上記のように、上記加熱室30に戻す窒素ガスの予熱を、上記油煙が混入した窒素ガスとの熱交換で行う。加熱室30に戻す窒素ガスを予熱して加熱室30の冷却を抑えることから、エネルギー効率の低下を抑制する。また、上記分離用熱交換器70で油分を分離する前段階で油煙が混入した窒素ガスを予冷することから、上記分離用熱交換器70の効率が向上し、分離用熱交換器70をコンパクト化できる。
【0037】
ここで、上記循環路90により上記加熱室30から排出する油煙が混入した窒素ガスの流量は、上記窒素ガス導入路25により導入される窒素ガスの流量の50倍以上である。たとえば、窒素ガス導入路25から導入する窒素ガスの流量が毎分50リットル、上記循環路90で上記加熱室30から排出する油煙が混入した窒素ガスの流量を毎分3m(3000リットル)とすることができる。
【0038】
〔冷却促進素子80〕
図3は、冷却促進素子80を説明する図であり、(A)は管の縦断面で見た状態、(B)は管の横断面で見た状態である。
【0039】
上記冷却促進素子80は、熱交換による冷却を促進するものである。上記冷却促進素子80は、上記分離用冷却管71に挿入され、熱交換による冷却を促進して油分の分離を促進する。また、上記冷却促進素子80は、上記予冷管61に挿入され、熱交換による予冷を促進する。この例では、上記分離用熱交換器70の上記分離用冷却管71は、上記予冷用熱交換器60の予冷管61と繋がっており、上記冷却促進素子80が、上記予冷管61から上記分離用冷却管71にわたって挿入されている。つまり、一本につながった予冷管61と分離用冷却管71の全長にわたって挿入されている。
【0040】
上記冷却促進素子80は、横断面で花弁状を描くようにループ状に屈曲させたワイヤ81によって形成されている。各ループ状の部分を管の軸心に相当するところで撚り合わせた構造体である。上記ループ状の部分は、管の内壁に接触しており、ガスの流れに逆らう方向に斜めに配置されている。
【0041】
上記冷却促進素子80を予冷管61に挿入することで管内に乱流が生じるとともに、冷却促進素子80の表面が熱交換の伝熱面となるため、伝熱面の面積が増加し、熱交換が促進され、予冷が促進される。したがって予冷用熱交換器60をコンパクトにすることができる。上記冷却促進素子80を分離用冷却管71に挿入することで熱交換が促進され、冷却が促進される。したがって分離用熱交換器70をコンパクトにすることができる。また、管を流れる油煙が凝縮して油滴となり、上記冷却促進素子80に衝突して雫となることにより、油分の分離が促進される。
【0042】
上記のように、加熱室30内の油煙を排出して油分を除去するため、加熱室30や冷却室40において、光電センサの検知を油煙が邪魔して搬送制御にトラブルが生じることを防止できる。また、加熱室30や冷却室40内における油分による汚染も少なく、メンテナンスコストを大幅に低下できる。また、油分を分離した窒素ガスは再利用できることから、窒素ガスの消費量も削減できる。
【0043】
〔本実施形態の効果〕
上記構成をとることにより、本実施形態の熱処理炉は、下記の作用効果を奏する。
【0044】
本実施形態は、加熱室30と、搬入搬出手段と、窒素ガス導入路25と、循環路90と、予冷用熱交換器60とを備えている。上記加熱室30は、ワーク100を加熱する。上記搬入搬出手段は、上記加熱室30に対してワーク100の搬入および搬出を行う。上記窒素ガス導入路25は、上記加熱室30の雰囲気ガスである窒素ガスを導入する。上記循環路90は、上記ワーク100に付着した油分から生じた油煙が混入した窒素ガスを上記加熱室30から排出する。また、上記循環路90は、分離用熱交換器70により上記油煙に基づく油分を分離し、その油分が分離された窒素ガスを再び上記加熱室30に戻す。上記予冷用熱交換器60は、上記循環路90において、上記分離用熱交換器70の上流で上記油煙が混入した窒素ガスを予冷する。そして、上記予冷用熱交換器60は、上記加熱室30から排出された油煙が混入した窒素ガスと、上記分離用熱交換器70で油分が分離されて上記加熱室30に戻す窒素ガスとを熱交換する。これにより、上記油煙が混入した窒素ガスを予冷するとともに、上記加熱室30に戻す窒素ガスの予熱を行う。
このように、上記分離用熱交換器70の上流で予冷用熱交換器60が上記油煙が混入した窒素ガスを予冷するため、油煙の凝集が促進され、上記分離用熱交換器70における油分の分離効率がよくなる。また、上記分離用熱交換器70で油分を分離した窒素ガスを上記加熱室30に戻す前に予熱するため、加熱室30の冷却を抑え、エネルギー効率の低下を抑制する。したがって、炉内に生じる油煙をエネルギー効率よく分離除去できる。したがって、加熱処理時間が短い場合や、加熱室30に導入する窒素ガス等の雰囲気ガス量が少ない場合でも、油煙によるトラブルが起こりにくい。
【0045】
上記熱処理炉は、上記分離用熱交換器70が、上記油煙が混入した窒素ガスを冷却することにより上記油煙を凝縮して油分を分離するための分離用冷却管71を有する。上記分離用冷却管71には、熱交換による冷却を促進して油分の分離を促進する冷却促進素子80が挿入されている。上記冷却促進素子80により、熱交換による冷却が促進され油分の分離が促進される。また、上記分離用熱交換器70に導入されるまえに、上記予冷用熱交換器60の予冷により油煙が凝集して大きくなった油滴が、上記分離用冷却管71内で上記冷却促進素子80に衝突することによっても油分の分離が促進される。このように、炉内に生じる油煙を効率よく分離除去できる。
【0046】
上記熱処理炉は、上記分離用熱交換器70の上記分離用冷却管71が、上記予冷用熱交換器60の予冷管61と繋がっている。そして、上記冷却促進素子80は、上記予冷管61から上記分離用冷却管71にわたって挿入されている。上記予冷管61においても、上記冷却促進素子80によって予冷が促進され、油煙の凝集が促進される。したがって、炉内に生じる油煙をさらに効率よく分離除去できる。
【0047】
上記熱処理炉は、上記循環路90により上記加熱室30から排出する油煙が混入した窒素ガスの流量が、上記窒素ガス導入路25により導入される窒素ガスの流量の50倍以上である。分離用熱交換器70で油煙に基づく油分を分離除去しながら上記循環路90で循環させる窒素ガスの流量が、窒素ガス導入路25で新たに導入する窒素ガスの流量より十分に多い。言い換えると、循環により再利用する窒素ガス量が十分に多いため、新たに導入する窒素ガス量を節減できている。
【0048】
〔変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明が示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
【符号の説明】
【0049】
10:装入台
11:第1ローラーコンベヤ
12:第1開閉扉
13:排気フード
20:置換室
21:第2ローラーコンベヤ
22:第2開閉扉
25:窒素ガス導入路
30:加熱室
31:第3ローラーコンベヤ
32:第3開閉扉
35:攪拌ファン
36:耐火材
40:冷却室
41:第4ローラーコンベヤ
42:第4開閉扉
45:熱交換器
46:冷却ファン
50:排出台
51:第5ローラーコンベヤ
53:排気フード
54:換気扇
60:予冷用熱交換器
61:予冷管
62:導入空間
70:分離用熱交換器
71:分離用冷却管
72:分離空間
80:冷却促進素子
81:ワイヤ
90:循環路
91:ブロア
92:ドレンタンク
100:ワーク
101:ドラム
102:トレイ
図1
図2
図3