(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】水素ガスの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20241001BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241001BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241001BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20241001BHJP
【FI】
C01B3/04 R
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/65
(21)【出願番号】P 2024031527
(22)【出願日】2024-03-01
(62)【分割の表示】P 2023209545の分割
【原出願日】2023-12-12
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595112203
【氏名又は名称】日本メディア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】北本 亮二
(72)【発明者】
【氏名】三村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】益子 恭太郎
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-149155(JP,A)
【文献】特表2005-519292(JP,A)
【文献】特開2003-059409(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0051633(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/04
C25B 1/04
C25B 9/00
C25B 9/65
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に水を配置し、前記電極間でパルス放電することで水分子を分解させ、水素ガスを発生させることを含み、
前記パルス放電の周波数は、190~196kHz又はその倍振動周波数である、水素ガスの製造方法。
【請求項2】
前記電極は、放電電極及びアース電極からなり、前記放電電極は水面上の絶縁オイル内に配置され、前記アース電極は水中に配置される、請求項1に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項3】
前記水に対して磁場を印加することをさらに含む、請求項1又は2に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項4】
水素ガスの製造装置であって、
共振変圧器及び水素生成装置を含み、
前記水素生成装置は、電極間で隔絶された
、絶縁オイル及び水の収容部分を有し、
前記電極は、放電電極を含み、前記放電電極は前記絶縁オイル内に配置するように構成され、前記共振変圧器は、前記電極間でパルス放電するように構成され、
前記パルス放電の周波数は、190~196kHz又はその倍振動周波数である、水素ガスの製造装置。
【請求項5】
前記電極は、放電電極及びアース電極からなる、請求項4に記載の水素ガスの製造装置。
【請求項6】
さらに、前記水の収容部分を囲むように配置された磁場印加手段を含む、請求項4又は5に記載の水素ガスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスの製造方法及び製造装置に関する。とりわけ、本発明は、高周波領域の定在波を用いて、水を原料として高いエネルギー効率で水素ガスを生成できる、水素ガスの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、燃焼しても水のみを生成し、二酸化炭素を排出しないため、脱炭素社会の実現のためのエネルギー源として期待されている。工業的に水素ガスを製造する方法としては、水を電気分解して得る方法が最も一般的な方法である。しかし、電気分解に使用される電力は依然として、化石エネルギー由来のものが主流であり、水素ガスの製造過程における環境負荷は重要な問題である。
【0003】
特許文献1(特開2007-314384号公報)には、水に波長が2.8μm以上かつ3.2μm以下の赤外線のみを照射することを特徴とする水素ガスの製造方法が開示されている。当該発明によれば、熱あるいは電気のエネルギーを必要とせず、太陽光線に含まれる遠赤外線を水に照射することのみによって、今後の燃料電池の燃料として大量に利用される水素ガスを製造することが可能になるとともに、太陽光線を効率よく利用することが可能になると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、太陽光を用いた水分子の分解では、太陽光の供給が不安定であるほか、受光面積確保のため、装置の大型化を避けられないという制約がある。また、太陽光線に含まれる特定の波長のみが、水分子の分解に関与するため、エネルギー効率が低いという問題点がある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、一実施形態において、高いエネルギー効率で水素ガスを生成できる水素ガスの製造方法を提供することを目的とする。本発明の別の実施形態において、そのような水素ガスの製造方法に適し、小型化が可能な水素ガスの製造装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の高周波領域の定在波を水分子に与えることで、水分子のOH基の結合を解離させ、水素ガスを効率的に生成できることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0008】
[1]
電極間に水を配置し、前記電極間でパルス放電することで水分子を分解させ、水素ガスを発生させることを含み、
前記パルス放電の周波数は、190~196kHz又はその倍振動周波数である、水素ガスの製造方法。
[2]
前記電極は、放電電極及びアース電極からなり、前記放電電極は水面上の絶縁オイル内に配置され、前記アース電極は水中に配置される、[1]に記載の水素ガスの製造方法。
[3]
前記水に対して磁場を印加することをさらに含む、[1]又は[2]に記載の水素ガスの製造方法。
[4]
水素ガスの製造装置であって、
共振変圧器及び水素生成装置を含み、
前記水素生成装置は、電極間で隔絶された水の収容部分を有し、前記共振変圧器は、前記電極間でパルス放電するように構成され、
前記パルス放電の周波数は、190~196kHz又はその倍振動周波数である、水素ガスの製造装置。
[5]
前記電極は、放電電極及びアース電極からなる、[4]に記載の水素ガスの製造装置。
[6]
さらに、前記水の収容部分を囲むように配置された磁場印加手段を含む、[4]又は[5]に記載の水素ガスの製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、高いエネルギー効率で水素ガスを生成できる水素ガスの製造方法を提供することができる。本発明の別の実施形態によれば、そのような水素ガスの製造方法に適し、小型化が可能な水素ガスの製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態における、水素ガスの製造方法のフロー図である。
【
図2】本発明の一実施形態における、水素生成装置の正面模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態における、水素生成装置の上面模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態における、水分子の加振における有効な周波数グラフである。
【
図5】本発明の実施例における、水分子の加振における周波数と水分子の分解との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
図1に、本発明の一実施形態における、水素ガスの製造方法のフローを示す。共振変圧器1によって作り出される高電圧、高周波のパルス放電は、導線2により水素生成装置3の電極4に伝えられる。これにより、電極4とアース8の間に配置される水6の分子が励起され、OH共有結合の解離が発生し、これにより水素ガスが発生する。アース8は放電方向を安定させるために設置されるものである。アース電極であるアース8の代わりに、別の導線により共振変圧器1に接続された電極としてもよい。
【0013】
ここで、パルス放電の周波数は、190~196kHz又はその倍振動周波数であることが重要である。すなわち、物質には固有のエネルギー準位があり各々吸収スペクトルが存在し、与えた振動(エネルギー)が大きい時、物質は励起状態に遷移する。小さなエネルギーで水分子のOH共有結合を解離させるために、水分子の振動に定在波ができる条件を構築し、励起状態を起こす必要がある。
【0014】
図4を参照すると、水分子の加振における有効な周波数グラフが示されている。当該グラフは、水分子の3自由度のIRスペクトルのグラフであり、横軸はパルス放電の周波数であり、縦軸はモル吸光係数である。このうち1自由度振動の値が最も大きく、その値の近似は理論値として1737cm
-1(周波数52THz)となる。水分子を加振させ共振させるためには、当該周波数又はその下位の倍振動が有効である。これにより加振した水分子の励起化が進み、共有結合が切断される。本発明者らの知見によると、190~196kHz又はその倍振動周波数は、現実的かつ高いエネルギー効率で水分子を加振できる周波数である。倍振動周波数とは、当該周波数範囲内の任意の周波数の整数倍の周波数を意味する。
【0015】
共振変圧器1は、上記条件でパルス放電が可能なものであれば特に限定されないが、一例としてテスラコイルを含む。共振変圧器1を外部電源(一例として、100V)に接続すると、交流電流が1次コイルに流れ、その結果として生成される振動磁場による電磁誘導により、2次コイルに交流電流が流れる。パルス放電する際のエネルギー量は特に限定されず、放電振動が励起される共振回路であれば十分である。
【0016】
放電電極である電極4は、水6の中に配置してもよいが、放電の安定性、及び生成された水素ガスの引火を防止する観点から、水6の水面上の絶縁オイル5内に配置されることが好ましい。絶縁オイル5の種類は特に限定されないが、例えばシリコーンオイルを使用することができる。
【0017】
さらに、パルス放電させる際、磁場印加手段を用いて、水6に対して磁場を印加することが好ましい。磁場を印加することで、酸素中の電子スピンを同じ方向に揃えられるので、水分子をより効率的に加振することができる。磁場を印加する方法は特に限定されないが、例えば、水6の周囲に環状の磁石を配置する方法、又は水6の周囲に導線コイルを配置して通電する方法が挙げられる。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態における、水素生成装置3の正面模式図であり、
図3は、本発明の一実施形態における、水素生成装置3の上面模式図である。水素生成装置3は、放電電極である電極4とアース電極であるアース8の間で隔絶された水の収容部分を有し、水の収容部分の周囲には、環状のネオジム(NdFeB)磁石7が配置されている。
【0019】
水素生成装置3の水の収容部分に水6を充填し、さらに絶縁オイル5を水面上に敷くと、電極4は絶縁オイル5の中に配置され、アース8は水6の中に配置される。これによりパルス放電が安定し、生成された水素ガスの引火を抑制することができる。
【0020】
上記方法及び装置により生成された水素と酸素の混合ガスは、装置内部と外部の圧力差によりパイプ等を用い収集することができる。水素と酸素の分離が必要な場合は、収集経路にポリマー膜を配置することができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0022】
図2及び
図3に示される水素生成装置3に、絶縁オイル5及び水6を装填し、共振変圧器1を用いて、電極4からパルス放電を行った。充填された水6の体積は120ccであった。パルス放電する際のエネルギーは100V、2Aとした。異なる周波数でそれぞれ10分間加振し、反応された水6の体積(すなわち、水6の体積の減少分)を記録した。結果を
図5に示す。
【0023】
図5に示されるように、横軸の加振周波数(kHz)に対し、縦軸の水の反応体積(cc)が190~196kHzの範囲で確認され、193Khz近辺で最大となる。したがって、190~196kHzの範囲でパルス放電することにより、水分子を分解させ水素ガスを生成できることが確認された。また、190~196kHzの範囲内のいずれかの周波数の倍振動周波数であっても、同様の原理により水分子を励起することが可能であるため、これらの倍振動周波数を用いることも可能であると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、水分子のOH共有結合を解離させるために有効な周波数に集中的にパルス放電することにより、高いエネルギー効率で水素ガスを製造することができる。また、パルス放電するための装置は小型で実現できるため、水素ガスの製造装置全体の小型化が可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 共振変圧器
2 導線
3 水素生成装置
4 電極
5 絶縁オイル
6 水
7 ネオジム磁石
8 アース
【要約】
【課題】高いエネルギー効率で水素ガスを生成できる水素ガスの製造方法を提供すること。
【解決手段】電極間に水を配置し、前記電極間でパルス放電することで水分子を分解させ、水素ガスを発生させることを含み、前記パルス放電の周波数は、190~196kHz又はその倍振動周波数である、水素ガスの製造方法。
【選択図】
図1