(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】熱成形装置及び熱成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/46 20060101AFI20241001BHJP
B29C 51/42 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B29C51/46
B29C51/42
(21)【出願番号】P 2024102007
(22)【出願日】2024-06-25
【審査請求日】2024-07-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-87977(JP,A)
【文献】特開2022-59444(JP,A)
【文献】特開2022-69770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C51/46
B29C51/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物である樹脂製シートを加熱するヒーターを有する熱成形装置において、
前記樹脂製シートの表面温度を計測する温度計測部と、
前記ヒーターの出力を制御する出力制御部と、
前記ヒーターの出力を計測する出力計測手段と、を備え、
前記出力制御部は、
前記温度計測部で計測される前記表面温度に基づき前記ヒーターの出力を制御する第1温度制御手段と、
該第1温度制御手段による制御で前記表面温度が目標温度になった後に、前記表面温度と前記目標温度との比較結果に応じた制御をするフィードバック制御を開始する、第2温度制御手段と、
前記出力計測手段の出力値に基づいて前記ヒーターが前記樹脂製シートに与える前記出力値の変化を直線近似して傾きとして評価する熱量評価手段と、を有すること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記出力計測手段は、前記ヒーターに流れる電流を測定する電流計であり、
前記出力値が前記電流計より得られた電流値であること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記出力計測手段は、前記ヒーターの表面温度を測定する温度計であり、
前記出力値が前記温度計より得られた温度であること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項4】
被加工物である樹脂製シートをヒーターにより加熱する熱成形方法において、
前記樹脂製シートの表面温度を計測する温度計測部と、
前記ヒーターの出力を制御する出力制御部と、
前記ヒーターの出力を計測する出力計測手段と、を備え、
前記出力制御部に備える第1温度制御手段は、前記表面温度が目標温度となるように前記ヒーターによる加熱制御を行い、
前記第1温度制御手段による制御で前記表面温度が目標温度になった際に、前記出力制御部に備える第2温度制御手段により前記表面温度と前記目標温度との比較結果に応じた制御をするフィードバック制御を開始し、前記樹脂製シートの内部温度が前記目標温度に近い温度となるまで前記フィードバック制御を継続し、
前記出力計測手段の出力値に基づいて前記ヒーターが前記樹脂製シートに与える前記出力値の変化を直線近似して傾きとして評価する熱量評価手段により、前記傾きがゼロになった時に、前記第2温度制御手段による前記フィードバック制御を終えること、
を特徴とする熱成形方法。
【請求項5】
請求項4に記載の熱成形方法において、
前記出力計測手段は、前記ヒーターに流れる電流を測定する電流計であり、
前記出力値が前記電流計より得られた電流値であること、
を特徴とする熱成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形装置の生産性向上に資する技術に関するもので、詳しくはヒーターの温度制御に関する。
【背景技術】
【0002】
熱成形装置は、樹脂製シート等の被加熱物に対してヒーターを用いて加熱した後、成形を行う。この熱成形装置のヒーターは、コンピュータを用いた制御装置によって制御され、被加熱物を所定の温度まで加熱する。
【0003】
特許文献1には、熱成形装置、熱成形方法、ヒーターの温度制御方法、加熱装置に係る発明が開示されている。ヒーターの温度制御方法は、ヒーターの温度を所定の温度まで上昇させた後に、計測した被加熱物の表面温度を目安にヒーターの温度を徐々に下げる制御を行う。そして、表面温度が目標温度になったとき、表面温度を目標温度付近に近づけるようにヒーターの温度をフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、第一の温度制御手段(加熱制御)で徐々にヒーターの設定温度を順次下げる制御を行い、第二の温度制御手段(温度保持制御)で被加熱物の表面温度を計測しながらのフィードバック制御を行って、このフィードバック制御を所定時間維持することで、被加熱物の内部温度上昇を実現するものだが、この第二の温度制御手段の終了条件はシートの特性によって決定することとなっている。
【0006】
しかしながら、こうした終了条件は経験的、或いは実験的に求められるものであり、現場では余裕を持って長めに設定されることが多い。ところが、温度保持制御時間を長めに設定すると、サイクルタイムの悪化を招き、短く設定すると熱成形品の不良率に影響する。そして、この保持時間は環境温度などによっても左右することが分かっているため、最適な条件設定を行うことは困難である。また、温度保持制御時間に余裕を持たせて長くした場合にはドローダウンなどを招くリスクがあり、熱成形品の不良に繋がることもある。このため、出願人は一定条件を満たすことで終了条件を判別する手法を見いだした。
【0007】
本発明は樹脂製シートの熱成形するにあたって、最適な樹脂製シートの加熱条件を満たすことが可能な熱成形装置の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による熱成形装置は、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)被加熱物である樹脂製シートを加熱するヒーターを有する熱成形装置において、
前記樹脂製シートの表面温度を計測する温度計測部と、
前記ヒーターの出力を制御する出力制御部と、
前記ヒーターの出力を計測する出力計測手段と、を備え、
前記出力制御部は、
前記温度計測部で計測される前記表面温度に基づき前記ヒーターの出力を制御する第1温度制御手段と、
該第1温度制御手段による制御で前記表面温度が目標温度になった後に、前記表面温度と前記目標温度との比較結果に応じた制御をするフィードバック制御を開始する、第2温度制御手段と、
前記出力計測手段の出力値に基づいて前記ヒーターが前記樹脂製シートに与える前記出力値の変化を直線近似して傾きとして評価する熱量評価手段と、を有すること、
を特徴とする。
【0010】
上記(1)に記載の態様により、最適な樹脂製シートの加熱を行うことができるので、熱成形装置の生産性を向上させることが可能となる。樹脂製シートの加熱時間を適切に管理するために、シートの加熱時間を熱量評価手段によってヒーターの熱量の変化から加熱処理を終える判断をする。
【0011】
具体的には、ヒーターの出力制御は第1温度制御手段によって出力制御され、第2温度制御手段でフィードバック制御されることで、ヒーター自身の温度変化率が小さくなっていく。この温度変化率を熱量評価手段によって監視し、ヒーターの出力値の変化率の傾きがゼロになったことを条件に第2温度制御手段による保温制御を終了することとしている。ここでヒーターの出力値の傾きとは、例えばヒーターに供給する電流値の変化曲線を積分して求められた数値であり、最小二乗法などの回帰直線を求める計算手法を用いて求めることが好ましい。
【0012】
この傾きがゼロになった段階で、樹脂製シートの内部温度と外部温度が等しくなっていることが実験的に確かめられているため、これを終了条件とすると外気温などの変化にも対応することが可能となる。つまり、最適な樹脂製シートの加熱条件を満たした加熱を行い、熱成形を行うことができるので、結果的にサイクルタイムを短縮して生産性の向上を実現可能である。
【0013】
なお、温度制御に関しては、前記第1温度制御手段は、前記表面温度が前記目標温度よりも低い所定の温度を示す温度情報に達した場合に、前記ヒーターの温度を低下させる制御を前記温度情報より高い温度に変更して繰り返し、前記第2温度制御手段は、前記樹脂製シートの内部温度が前記目標温度に近い温度となるまで前記フィードバック制御を継続し、前記熱量評価手段は、前記傾きがゼロになった時に、前記フィードバック制御を終えて前記ヒーターによる加熱を終えるといった制御を行っている。こうすることで、適切な温度制御が可能となる。
【0014】
(2)(1)に記載の熱成形装置において、
前記出力計測手段は、前記ヒーターに流れる電流を測定する電流計であり、
前記出力値が前記電流計より得られた電流値であること、
が好ましい。
【0015】
(3)(1)に記載の熱成形装置において、
前記出力計測手段は、前記ヒーターの前記表面温度を測定する温度計であり、
前記出力値が前記温度計より得られた温度であること、
が好ましい。
【0016】
上記(2)または(3)に記載の態様により、出力計測手段として電流値やヒーター温度を利用することで、正確な変化の調査を行うことが可能となる。
【0017】
また、前記目的を達成するために、本発明の他の態様による熱成形方法は、以下のような特徴を有する。
【0018】
(4)被加工物である樹脂製シートをヒーターにより加熱する熱成形方法において、
前記樹脂製シートの表面温度を計測する温度計測部と、
前記ヒーターの出力を制御する出力制御部と、
前記ヒーターの出力を計測する出力計測手段と、を備え、
前記出力制御部に備える第1温度制御手段は、前記表面温度が目標温度となるように前記ヒーターによる加熱制御を行い、
前記第1温度制御手段による制御で前記表面温度が目標温度になった際に、前記出力制御部に備える第2温度制御手段により前記表面温度と前記目標温度との比較結果に応じた制御をするフィードバック制御を開始し、前記樹脂製シートの内部温度が前記目標温度に近い温度となるまで前記フィードバック制御を継続し、
前記出力計測手段の出力値に基づいて前記ヒーターが前記樹脂製シートに与える前記出力値の変化を直線近似して傾きとして評価する熱量評価手段により、前記傾きがゼロになった時に、前記第2温度制御手段による前記フィードバック制御を終えること、
を特徴とする。
【0019】
(5)(4)に記載の熱成形方法において、
前記出力計測手段は、前記ヒーターに流れる電流を測定する電流計であり、
前記出力値が前記電流計より得られた電流値であること、
が好ましい。
【0020】
(6)(4)に記載の熱成形方法において、
前記出力計測手段は、前記ヒーターの表面温度を測定する温度計であり、
前記出力値が前記温度計より得られた温度であること、
が好ましい。
【0021】
上記(4)乃至(6)に記載の態様により、(1)に記載の熱成形装置同様に、最適な樹脂製シートの加熱を行うことができるので、熱成形装置による生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】本実施形態の、ヒーターユニットの平面図である。
【
図3】本実施形態の、ヒーター要素の平面図である。
【
図4】本実施形態の、ヒーターの温度制御の原理を説明する図である。
【
図5】本実施形態の、加熱部の制御に関するブロック図である。
【
図6】本実施形態の、温度制御に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明に係る実施形態の熱成形装置100の構成の概略について説明をする。
【0024】
図1に、本実施形態の熱成形装置100の概略図を示す。熱成形装置100は、シート供給部20、加熱部30、成形部40、成形品取出部60よりなり、それぞれが制御盤50に接続されて制御されている。熱成形装置100は、被加熱物であるシートS1を熱成形し、成形品S2を製造することが可能である。シートS1は、矩形にカットされた厚手のものが用意される。
【0025】
樹脂製シートにあたるシートS1の材質は、プラスチックに炭素繊維を含ませた炭素繊維加熱複合材や、プラスチックにガラスやアラミド繊維を含ませた厚みが1~10mm程度のいわゆる複合材料、又は厚手の単一素材を矩形のシート状にカットしたものを用いることを想定している。ただし、フィルム状のものであっても良いし、ロール状に巻き取られたものを引き出して使用するような方法を採用しても良い。つまり、被加熱物に関して本実施形態で説明する以外のものを採用することを妨げない。また、厚みに関しても増減することを妨げない。
【0026】
シート供給部20には、シートS1を吸着搬送するシート供給手段98と、シート供給手段98によって搬送されたシートS1を受け取り保持するシート保持手段99がシート投入側に備えられている。なお、シートS1の表面状態によっては吸着搬送ではなく、シートS1の端部をチャックして搬送するなど、他の搬送手段を用いることを妨げない。
【0027】
加熱部30は、供給されたシートS1を、ヒーターユニット10を用いて加熱して軟化させる機能を有している。ヒーターユニット10は、シートS1の上側から加熱を行う上側加熱手段11と、シートS1の下側から加熱を行う下側加熱手段12よりなる。
【0028】
図2に、ヒーターユニットの平面図を示す。
図3に、ヒーター要素の平面図を示す。ヒーター要素H3は、
図2に示す様にヒーターユニット10にタイル状に敷き詰められている。また、ヒーター要素H3は、主ヒーターH1と従ヒーターH2を含む。主ヒーターH1は、加熱側の面の略中央に配置され、従ヒーターH2はそれを取り囲むように配置されている。
【0029】
主ヒーターH1には、熱電対温度計34が取り付けられており、主ヒーターH1の温度をヒーター計測温度Dhmとして計測する。主ヒーターH1の近くには温度計測部として放射温度計33が配置されており、加熱部30に供給されたシートS1の表面温度をシート表面温度Dssとして検出する。従ヒーターH2は、主ヒーターH1の周りを囲むようにx方向、y方向に複数配列する。
【0030】
ヒーター要素H3は、急速応答可能な高速追従型ヒーターであり、つづら折りに形成されたヒーターエレメントH32が略八角形状の絶縁盤H31の一面に配置されて成る。ヒーターエレメントH32には、ニッケルクロム又は鉄クロムといった伝熱用合金を用いることができる。各ヒーター要素H3が発する熱量は、供給される電力量により制御される。ヒーター要素H3に供給される電力量の制御を行うことで、ヒーター要素H3の発熱量の調整ができる。この各ヒーター要素H3に供給される電力量の組み合わせを変化させることで、ヒーターユニット10全体での発熱量を規定することができる。
【0031】
例えば、ヒーター要素H3の発熱量を調整するにあたって、従ヒーターH2の点火比率RLは主ヒーターH1の値を基準として設定する。そして、主ヒーターH1よりも従ヒーターH2の方が点火比率RLを高くすることで均一な加熱を狙うことができる。なお、
図2に示すヒーター要素H3の配列はあくまで一例であるため、任意に変更することを妨げない。例えば、主ヒーターH1をシートS1の搬送方向先頭に配置し、搬送方向後方の従ヒーターH2の点火比率RLを下げることで、搬送中の過加熱を解消するような方法も考えられる。
【0032】
成形部40は、加熱されて軟化したシートS1を成形する機能を有している。成形部40は、真空成形または圧空成形を行うことのできる構成であり、供給されたシートS1の上側に配置される上型41と、シートS1の下側に配置されるクランプ42を有する。シートS1はクランプ42に保持されて図示しない昇降テーブルによって上型41に対して近接離間し、上型41に形成されたキャビティを用いて熱成形を行う。この際に、上型41のキャビティ内に差圧を発生させることで真空成形または圧空成形を行う。
【0033】
制御盤50は、加熱部30および成形部40などの制御を行っており、制御盤50にはPLC(Programmable Logic Controller)31などを備えている。制御盤50によって、加熱部30に備えるヒーターユニット10(上側加熱手段11及び下側加熱手段12)の温度制御や近接離間を行うための駆動装置を制御し、成形部40の上型41やクランプ42の昇降及び図示しない差圧発生回路を作動させる。
【0034】
シートS1を成形部40にて成形した後、上型41とクランプ42は待避位置に移動させ、成形品S2を成形品取出部60に送る。成形品取出部60では、成形を終えた成形品S2の取り出しを行う取出手段61が設けられている。シート供給部20と同様で成形品S2を取出手段61により吸着搬送して取り出す構成となっている。もちろん、取出手段61に吸着搬送以外の搬送手段を用いることを妨げないし、この工程に成形品S2のトリミングを行う手段を用いることを妨げない。
【0035】
次に、熱成形装置100を用いた成形手順及び制御について説明を行う。
【0036】
まず、熱成形装置100のシート供給部20にシートS1を投入する。シートS1はパレットSLに積まれた状態で投入され、シート供給手段98によってシートS1が移動される。そして、シート保持手段99によってシートS1を搬送し、加熱部30に移動する。加熱部30ではシートS1の上面を上側加熱手段11で、シートS1の下面を下側加熱手段12で加熱する。この時の加熱制御については後に言及する。
【0037】
次に、加熱の終わったシートS1を搬送して成形部40に移動する。成形部40では上型41及びクランプ42によってシートS1を成形する。そして、成形後の成形品S2は成形品取出部60に移動し成形品S2の取り出しを取出手段61を用いて行う。
【0038】
次に、加熱部30における加熱の制御についての説明を行う。
図4は、ヒーターの温度制御の原理を説明する図である。縦軸は温度(℃)、横軸は経過時間(t)を示している。ヒーター温度情報T1は、熱電対温度計34から得られるデータに基づく情報であり、表面温度情報T2は、放射温度計33から得られるデータに基づく情報であり、内部温度情報T3は、図示しないシートS1内部に埋め込んだ熱電対より得られた温度情報である。ただし、製品を作る際にはシートS1内部に熱電対を埋め込むわけにはいかないので、この熱電対はあくまでテスト的に温度変化を確認するためのものである。
【0039】
また、表面温度情報T2は、複数の放射温度計33を設置してシートS1上の複数の箇所から得られた情報を平均化したものを用いており、内部温度情報T3は同様に複数の内部温度情報を平均化したものを用いている。また、後述する加熱制御の範囲を加熱制御期間P1とし、温度保持制御の範囲を温度保持制御期間P2として示している。また、目標温度Tdと第1温度設定情報Ihd1(ヒーター温度設定情報Ihdのうち、ヒーターユニット10による加熱初期に設定された温度情報)に関しては一点鎖線で示している。
【0040】
図5に、ヒーターユニットの制御に関するブロック図を示す。加熱部30の制御盤50には、ユーザーインターフェイスとして用いるタッチパネル32が備えられる。タッチパネル32からは、例えばシートS1に関する識別情報を選択するなどの操作が可能である。放射温度計33及び熱電対温度計34からの温度情報はPLC31に伝えられる構成となっている。
【0041】
操作器35は、PLC31から出力される点火比率RLを元に、ヒーターユニット10に供給する電力量を制御する機能を有する。操作器35は交流電源とヒーター要素H3との間に配置され、図示していないが、ヒーターユニット10を構成するヒーター要素H3のそれぞれに接続されている。また、ヒーター要素H3への配線には電力量を測るための電流計37が設けられる。それぞれの回路の途中にはA/Dコンバーター36が配置されている。
【0042】
加熱制御は、ヒーターユニット10へ供給する電力量を操作器35により制御して、シートS1を一定の温度(目標温度Td)まで加熱する。第1温度制御手段312は、ヒーターユニット10に対して加熱制御を行う。目標シート温度情報Itsは、加熱制御において、PLC31がヒーター温度設定情報Ihdを変更する条件として使われ、目標とするシートS1の表面温度を示す情報である。ヒーター温度設定情報Ihdは、加熱制御においてPLC31がヒーター温度を設定するために用いられる情報である。
【0043】
加熱制御では、第1温度制御手段312がシート表面温度Dssと目標シート温度情報Itsとの比較結果に応じて、記憶装置311に記憶されているヒーター温度設定情報Ihdを呼び出し、シート表面温度Dssを参照しながら供給する電力量を決定して操作器35へ伝達することで電力量を制御する。そして、シート表面温度Dssが目標温度Tdに到達するまで、ヒーターユニット10による加熱指示を継続する。なお、この際の加熱制御は、例えば第1温度設定情報Ihd1よりヒーター温度設定情報Ihdを随時更新しながら設定温度を下げ、これに伴って目標シート温度情報Itsを徐々に下げていくように点火比率RLを決定しても良い。
【0044】
切り替え手段314は、シート表面温度Dssと目標温度Tdとを比較し、シート表面温度Dssが目標温度Tdに達すると、PLC31が行うヒーターユニット10に対する温度制御を加熱制御から温度保持制御に切り替える。すなわち、加熱制御を行う第1温度制御手段312から温度保持制御を行う第2温度制御手段313に切り替える。
【0045】
第2温度制御手段313は、ヒーターユニット10に対して温度保持制御を行う。温度保持制御では、シート表面温度Dssを元に、シートS1の温度を目標温度Tdに近づけるようヒーターユニット10の温度制御がなされる。第2温度制御手段313は、PID制御、PI制御などのフィードバック制御により、シートS1の温度を制御する。
【0046】
熱量評価手段315は、電流計37より得られる電流値Dac、または熱電対温度計34より得られるヒーター計測温度Dhmを取得して、その経時変化を評価する機能を備えており、温度保持制御の終了時を判断する。ヒーターユニット10に供給する電力量は操作器35によって制御されるが、そのアウトプットとして電流値Dacまたはヒーター計測温度Dhmを取得する。その上で、熱量評価手段315はその経時変化より描かれる曲線を最小二乗法などの手法により直線近似してその傾きIに基づいた判断を行う。そして成形部40にシートS1を移動させるタイミングを決定する。
【0047】
図6に温度制御に関するフローチャートを示す。
図6のステップS11では、ヒーター温度設定情報Ihd及び目標シート温度情報Itsの設定を行う。第1温度制御手段312は、ヒーター温度設定情報Ihd及び目標シート温度情報Itsを設定し、加熱制御を開始する。この処理により、PLC31から操作器35に対して、ヒーター温度設定情報Ihdに応じた点火比率RLが出力される。
【0048】
ステップS12では、ヒーターユニット10の保温設定を行う。第1温度制御手段312は、ヒーター温度設定情報Ihdで設定された温度となるようにヒーターユニット(主ヒーターH1)10の温度設定を行う。温度制御は、例えば第1温度制御手段312が、ヒーター計測温度Dhmと現在のヒーター温度設定情報Ihdとを比較し、比較結果に応じて点火比率RLを変化させて操作器35へ情報を渡す。
【0049】
この際に、ヒーターユニット10の出力値を記憶装置311に記録する。具体的には、電流計37より得られる電流値Dacを記憶装置311に記録する。例えば1回目であれば、第1電流値情報Dac1として記録する。または、ヒーター計測温度Dhmを記憶装置311に記録する。例えば1回目であれば、第1温度情報Dhm1として記録する。
【0050】
ステップS13では、シート表面温度Dssの取得を行う。第1温度制御手段312は、シート表面温度Dssを取得する。シート表面温度Dssは、主ヒーターH1の近くに配置された放射温度計33によって取得されるシートS1の表面温度である。
【0051】
ステップS14で、シート表面温度Dssが目標温度に達したかの判定を行う。第1温度制御手段312により、ステップS13で取得したシート表面温度Dssを目標温度Tdと比較する。シート表面温度Dssが目標温度Tdより低い場合(ステップS14:No)、ステップS12に戻る。シート表面温度Dssが目標温度Tdに到達している場合(ステップS14:Yes)は、ステップS15に進む。ステップS15からは、第1温度制御手段312による加熱制御から、第2温度制御手段313による温度保持制御に制御が切り替え手段314により切り替えられる。
【0052】
ステップS15で、シート表面温度Dssと電流値Dacの取得を行う。また、ヒーター計測温度Dhmの取得を行う。第2温度制御手段313は、ステップS13と同じくヒーターユニット10の出力値を記憶装置311に記録する。具体的には、電流計37より得られる電流値Dacまたは、ヒーター計測温度Dhmを記憶装置311に記録する。1回目であれば、第2電流値情報Dac2、または第2温度情報Dhm2として記録する。
【0053】
ステップS16で、比較量算出を行う。第2温度制御手段313は、ステップS15で取得したシート表面温度Dssと、目標温度Tdとの比較量を算出する。比較量は、例えば、シート表面温度Dssと目標温度Tdの差分を元に算出される。
【0054】
ステップS17で、比較量に応じて点火比率RLを修正する。第2温度制御手段313は、ステップS16で算出された比較量に応じて操作器35に出力する点火比率RLを修正する。修正後の点火比率RLに応じて操作器35がヒーターユニット10に供給する電力量を制御することで、シート表面温度Dssを目標温度Tdに近づけるためのフィードバック制御が行われる。
【0055】
ステップS18で、シート表面温度が目標温度に達したかを判断する。第2温度制御手段313は、シート表面温度Dssが目標温度Tdに達したかどうかを判断する。シート表面温度Dssが目標温度Tdに達していれば(ステップS18:Yes)、ステップS19に進み、達していなければ(ステップS18:No)、ステップS15に戻る。
【0056】
ステップS19で、傾きIがゼロかを判断する。熱量評価手段315は、電流値Dacまたはヒーター計測温度Dhmに基づくヒーター温度の変化を、直線近似して傾きIを求める。そして、この傾きIがゼロになっていなければ(ステップS19:No)、ステップS15に戻る。例えば、第1温度情報Dhm1と第2温度情報Dhm2など、ヒーター計測温度Dhmを用いて温度変化曲線を求め、その直線近似をして傾きIを調べる。ゼロになったと判断すれば(ステップS19:Yes)処理を終了する。そして、シートS1を搬送して成形部40に移動する。例えば、
図4に示す第1近似直線L1は傾きIがゼロになっていないため、ステップS15に戻り、第2近似直線L2は傾きIがゼロになっているため処理を終了する。
【0057】
第1実施形態の熱成形装置100は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0058】
まず、シートS1を熱成形するにあたって、ヒーターユニット10による最適なシートS1の加熱条件を満たすことが可能となる点が効果として挙げられる。これは、熱成形装置100が次のような構成を有するからである。まず、被加熱物である樹脂製シート(シートS1)を加熱するヒーター(ヒーターユニット10)を有する熱成形装置100において、シートS1の表面温度(シート表面温度Dss)を計測する温度計測部(放射温度計33)と、ヒーターユニット10の出力を制御する出力制御部(PLC31)と、ヒーターユニット10の出力を計測する出力計測手段(電流計37または熱電対温度計34)と、を備える。
【0059】
そして、PLC31は、放射温度計33で計測されるシート表面温度Dssが、初期温度から順次低くなるようにヒーターユニット10の出力を制御する第1温度制御手段312と、第1温度制御手段312による制御でシート表面温度Dssが目標温度Tdになった後に、シート表面温度Dssと目標温度Tdとの比較結果に応じた制御をするフィードバック制御を開始する、第2温度制御手段313と、出力計測手段(電流計37または熱電対温度計34)の出力値に基づいてヒーターユニット10がシートS1に与える出力値の変化を直線近似して傾きIとして評価する熱量評価手段315と、を有すること、を特徴としているためである。
【0060】
このうち、出力計測手段はヒーターユニット10に流れる電流を測定する電流計37であり、出力値は電流計37より得られた電流値Dacであること、または、出力計測手段はヒーターユニット10の表面温度を測定する熱電対温度計34であり、出力値が熱電対温度計34より得られたヒーター計測温度Dhmであること、が好ましい。
【0061】
出願人は、ヒーターユニット10の出力値を、電流値Dacまたはヒーター計測温度Dhmの数値で熱量評価手段315により評価して、直線近似した傾きIがゼロになった段階で、シートS1のシート表面温度Dssと内部温度が同じになることを確認している。この動きについて
図4を用いて説明する。実際に成形品S2を作るのに用いるシートS1には、内部温度を測るための熱電対を埋め込むことは困難なので、あくまで埋め込まれた場合に起こる動きである。
【0062】
まず、
図4に模式的に示しているが、傾きIがゼロになる近似直線L2を確認して、温度保持制御期間P2の終了点としている。そして、この時点で表面温度情報T2と内部温度情報T3はほぼ同じとなっておりかつ目標温度Tdに到達していることが分かる。出願人の実験によって、こうした傾向は外部温度環境などに左右されないことが確認できている。
【0063】
第1温度制御手段312によって加熱制御が開始された段階で、ヒーター温度情報T1で示されるヒーターユニット10の温度は第1温度設定情報Ihd1(ヒーター温度設定情報Ihd)まで一気に上昇し、シートS1の加熱を始める。これに伴い、表面温度情報T2で示されるシートS1の表面温度が上昇し、これに遅れて内部温度情報T3が上昇する。そして、第2温度制御手段313によって保温制御が行われることで、表面温度情報T2に内部温度情報T3が近づいていく。この時、ヒーターユニット10の出力を下げていくため、ヒーター温度情報T1の変化は緩慢になる。直線近似して傾きIを評価している理由は、ヒーター温度情報T1は細かく変動しているため、安定的になっても温度の上下動を繰り返すこととなる。これために近似直線を用いて評価することで対応している。
【0064】
傾きIがゼロになると、シートS1の表面温度も内部温度も目標温度Tdに達しているものとして第2温度制御手段313による温度保持制御を終了して次の成形部40に加熱の終わったシートS1を移動させ、成形を行う。こうしたプロセスによって、熱成形装置100による適切なシートS1の加熱が可能となり、成形品S2の歩留まり向上に貢献することができる。課題で言及した通り、温度保持制御を終了するトリガーを時間設定にすると、長めに設定する必要があり、結果的にシートS1のドローダウンを招いたり、サイクルタイムの悪化を招いたりすることがある。しかし、本実施形態のような制御を採用することで、温度保持制御の終了時間を適切に判断できるので、製品不良の低減やサイクルタイムの向上に繋がる。
【0065】
また、加熱部30においてこのようなプロセスを採用することで、例えば外部温度環境の影響によりシートS1の表面温度Dssに比べて内部温度の上昇が緩やかになった場合、ヒーターユニット10側に要求される電力量が増えるので、結果的に温度保持制御期間P2が長くなっても
図4でいう表面温度情報T2と内部温度情報T3が重なるタイミングで傾きIがゼロとなる。これはシートS1の材質が変わっても同様の結果が得られることを確認している。すなわち、シートS1の材質の変化や外部温度環境の変化にも対応できるようになる。
【0066】
そして、このような温度保持制御期間P2の決定プロセスは、制御盤50に備えられたPLC31によって決定されるため、課題で言及したような現場の作業者の作業量を減らすことにも貢献することができる。このことは、パラメーターの決定などに要する作業時間の短縮や、結果的に成形品S2の生産コストの削減に貢献する。
【0067】
以上、本発明に係る熱成形装置100に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、シートS1の搬送手段を変更したり成形品S2の取り出し手段を変更したりすることを妨げない。また、シートS1を複合材料と説明しているが、単一素材よりなるシート材やフィルム材に適用することを妨げない。尤も、本発明は比較的厚手の樹脂素材や温度条件の異なる複合材料に適用する方が好ましい。これは、厚手の素材などの方が、ヒーターユニット10による加熱によって、表面温度Dssと内部温度の乖離が起きやすい為である。
【符号の説明】
【0068】
I 傾き
S1 シート
Td 目標温度
Dss シート表面温度
10 ヒーターユニット
31 PLC
33 放射温度計
34 熱電対温度計
37 電流計
100 熱成形装置
312 第1温度制御手段
313 第2温度制御手段
315 熱量評価手段
【要約】
【課題】最適な樹脂製シートの加熱条件を満たすことが可能な熱成形装置の提供することを目的とする。
【解決手段】被加熱物であるシートS1を加熱するヒーターユニット10を有する熱成形装置100において、シートS1のシート表面温度Dssを計測する放射温度計33と、ヒーターユニット10の出力を制御するPLC31と、ヒーターユニット10の出力を計測する出力計測手段と、を備え、PLC31は、放射温度計33で計測されるシート表面温度Dssが、初期温度から順次低くなるようにヒーターユニット10の出力を制御する第1温度制御手段312と、第1温度制御手段312による制御でシート表面温度Dssが目標温度Tdになった後に、シート表面温度Dssと目標温度Tdとの比較結果に応じた制御をするフィードバック制御を開始する、第2温度制御手段313と、出力計測手段の出力値に基づいてヒーターユニット10がシートS1に与える出力値の変化を直線近似して傾きIとして評価する熱量評価手段315と、を有する。
【選択図】
図4