(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】降水予測システム、降水予測方法、プログラム、基地局選択システム及び基地局選択方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
G01W1/10 P
G01W1/10 T
(21)【出願番号】P 2024502886
(86)(22)【出願日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2023000122
(87)【国際公開番号】W WO2023162482
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2022027541
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」に関わる「多様なユースケースに対応するためのKa帯衛星の制御に関する研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519314722
【氏名又は名称】株式会社天地人
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 謙一
(72)【発明者】
【氏名】百束 泰俊
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 和也
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-106448(JP,A)
【文献】特開2019-105979(JP,A)
【文献】特開2013-130419(JP,A)
【文献】特許第3828316(JP,B2)
【文献】特開2020-088980(JP,A)
【文献】特開2017-003416(JP,A)
【文献】特開2019-125251(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0357029(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0348447(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113267834(CN,A)
【文献】多様なユースケースに対応するためのKa帯衛星の制御に関する研究開発―通信需要・回線条件の予測技術―,電子情報通信学会大会講演論文集(CD-ROM),Vol.2020,日本,2020年09月01日,161頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測部と、
前記地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測部と、
前記第1予測部の予測結果を前記第2予測部の予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測部と、
を含
み、
前記第3予測部が、前記第2予測部の予測結果を用いて前記第1予測部の予測結果を補正し、補正された前記第1予測部の予測結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測すること、
を特徴とする降水予測システム。
【請求項2】
前記第1予測モデルの生成のための機械学習が、過去の降水状況を示す画像データから降水領域及び前記降水強度の経時的変化を学習するものであること、
を特徴とする請求項1に記載の降水予測システム。
【請求項3】
前記第2予測モデルの生成のための機械学習が、前記複数の観測点における過去の降水強度の間の特徴量を学習するものであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の降水予測システム。
【請求項4】
前記第3予測部が、前記第2予測部
により得られた各観測点における降水量を用いて前記第1予測
により得られた画像データ上の対応するピクセル(観測点の位置に対応する格子点)内にプロットし、
プロット済みの画像データを補正モデル(格子点間の降水強度の関係性を学習させた予測モデル)に入力することによって得られる、降水強度について補正された画像データから、前記地点における降水のタイミング及び強度を予測すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の降水予測システム。
【請求項5】
コンピュータに対して、
予め設定された地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測ステップと、
前記地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測ステップと、
前記第1予測ステップにおける予測結果を前記第2予測部における予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測ステップと、
を実行させ
、
前記第3予測ステップが、前記第2予測ステップの予測結果を用いて前記第1予測ステップの予測結果を補正し、補正された前記第1予測ステップの予測結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測すること、
を特徴とする降水予測方法。
【請求項6】
コンピュータに対して、
予め設定された地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測ステップと、
前記地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測ステップと、
前記第1予測ステップにおける予測結果を前記第2予測部における予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測ステップと、
を実行させ
、
前記第3予測ステップが、前記第2予測ステップの予測結果を用いて前記第1予測ステップの予測結果を補正し、補正された前記第1予測ステップの予測結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する、
ためのプログラム。
【請求項7】
複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測部と、
前記複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測部と、
前記複数の基地局のそれぞれについて、前記第1予測部の予測結果を前記第2予測部の予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて当該基地局の所在する地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測部と、
前記第3予測部の予測結果に基づいて、前記複数の基地局の中から、前記所定時間後に衛星又は飛行体と通信すべき基地局を選択する選択部と、
を含み
、
前記第3予測部が、前記第2予測部の予測結果を用いて前記第1予測部の予測結果を補正し、補正された前記第1予測部の予測結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する、
基地局選択システム。
【請求項8】
コンピュータに対して、
複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測ステップと、
前記複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測ステップと、
前記複数の基地局のそれぞれについて、前記第1予測ステップにおける予測結果を前記第2予測ステップにおける予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて当該基地局の所在する地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測ステップと、
前記第3予測ステップにおける予測結果に基づいて、前記複数の基地局の中から、前記所定時間後に衛星又は飛行体と通信すべき基地局を選択する選択ステップと、
を実行させ
、
前記第3予測ステップが、前記第2予測ステップの予測結果を用いて前記第1予測ステップの予測結果を補正し、補正された前記第1予測ステップの予測結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する、
基地局選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降水予測システム、降水予測方法、プログラム、基地局選択システム及び基地局選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特開2013-130419号公報)は、高精度に局地的な強降水領域の位置予測を行うべく、降水位置の全体を示す降水領域と、降水領域の移動ベクトルとに基づいて、所定時間経過後の降水領域位置を特定し、降水領域内において、降水領域より小さい水平規模を示す局地的降水領域と、局地的降水領域の移動ベクトルとに基づいて、所定時間経過後の局地的降水領域位置を特定し、所定時間経過後の降水領域と局地的降水領域とを合成する、降水予測方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば衛星通信の分野においては、通信品質の維持・向上の観点から、複数の地上局のうち、通信衛星との通信のために好適な回線品質を持つ地上局が選択されることが望ましい。この点、Ka帯以上の周波数の電波を用いた通信では、回線品質は降水強度に影響されることから、地上局の位置する特定の場所において雨の降りだすタイミングと強さをピンポイントで予測することが重要である。
他にも、例えば、車両(陸上車、鉄道車両など)、船舶のような移動体が衛星と通信する場合や、航空機、ドローン、空飛ぶ車のような飛行体が地上局と通信する場合(つまり通信衛星から地上局にダウンリンクした通信を、地上局から飛行体へアップリンクする場面)などに、上記と同様の問題が生じ得る。
【0005】
そこで、本発明は、特定の場所における降水のタイミングと強さをピンポイントで予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決すべく、本発明の第1の態様は、
予め設定された地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測部と、
前記地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測部と、
前記第1予測部の予測結果を前記第2予測部の予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測部と、
を含むことを特徴とする降水予測システム、を提供する。
【0007】
本発明の降水予測システムでは、前記第1予測モデルの生成のための機械学習が、過去の降水状況を示す画像データから降水領域及び降水強度の経時的変化を学習するものであること、が好ましい。
【0008】
また、本発明の降水予測システムでは、前記第2予測モデルの生成のための機械学習が、前記複数の観測点における過去の降水強度の間の特徴量を学習するものであること、が好ましい。
【0009】
また、本発明の降水予測システムでは、前記第3予測部が、前記第2予測部の予測結果を用いて前記第1予測部の予測結果を補正し、補正された前記第1予測部の予測結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測すること、が好ましい。
【0010】
また、本発明の第2の態様は、
コンピュータに対して、
予め設定された地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測ステップと、
前記地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測ステップと、
前記第1予測ステップにおける予測結果を前記第2予測部における予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測ステップと、
を実行させることを特徴とする降水予測方法、を提供する。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、
コンピュータに対して、
予め設定された地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測ステップと、
前記地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測ステップと、
前記第1予測ステップにおける予測結果を前記第2予測部における予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて前記地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測ステップと、
を実行させるためのプログラム、を提供する。
【0012】
また、本発明の第4の態様は、
複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測部と、
前記複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測部と、
前記複数の基地局のそれぞれについて、前記第1予測部の予測結果を前記第2予測部の予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて当該基地局の所在する地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測部と、
前記第3予測部の予測結果に基づいて、前記複数の基地局の中から、前記所定時間後に衛星又は飛行体と通信すべき基地局を選択する選択部と、
を含む基地局選択システム、を提供する。
ここで、基地局は、衛星(例えば静止衛星)と通信する基地局の他、航空機、ドローン、空飛ぶ車等の飛行体と通信する基地局を含むものとする。また、基地局は、地上局の他、車両(陸上車、鉄道車両など)、船舶のような移動体に設置された移動局を含むものとする。
【0013】
また、本発明の第5の態様は、
コンピュータに対して、
複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点を囲む領域における過去の降水状況を示す画像データを用いて機械学習された第1予測モデルを用いて、前記領域における現在の降水状況を示す画像データから、当該領域における所定時間後の降水予測を示す画像データを出力する第1予測ステップと、
前記複数の基地局のそれぞれについて、当該基地局の所在する地点の近隣の複数の観測点における過去の降水強度を示す数値データを用いて機械学習された第2予測モデルを用いて、前記複数の観測点における現在の降水強度を示す数値データから、前記複数の観測点における前記所定時間後の降水強度の予測値を出力する第2予測ステップと、
前記複数の基地局のそれぞれについて、前記第1予測ステップにおける予測結果を前記第2予測ステップにおける予測結果と組み合わせ、その組合せの結果に基づいて当該基地局の所在する地点における降水のタイミング及び強度を予測する第3予測ステップと、
前記第3予測ステップにおける予測結果に基づいて、前記複数の基地局の中から、前記所定時間後に衛星又は飛行体と通信すべき基地局を選択する選択ステップと、
を実行させる、基地局選択方法、を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基地局の所在地などの特定の場所における降水のタイミングと強さをピンポイントで予測することができる。したがって、予測された降水条件に基づいて、複数の基地局の中から衛星との通信に好適な基地局を選択することができ、通信衛星を効率よく運用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る降水予測の手順を示すフローチャート図である。
【
図5】グラフコンボリューションネットワークの概念図である。
【
図6】衛星30と基地局との関係を示す概略図である。
【
図8】降水予測及び基地局選択システム10のソフトウェア構成を示すブロック図である。
【
図9】システム10を構成するコンピュータ100のハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る降水予測システム、降水予測方法、プログラム、基地局選択システム及び基地局選択方法の代表的な実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、本発明はこれら図面に限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0017】
本実施形態として、降水予測の手法について説明し、次いで、当該手法の1つの応用例としての基地局選択の手法を説明することとする。ここで、降水は降雨、降雪、霧及び降雹を含む概念として用いられる。
【0018】
1.降水予測の手法について
図1に示すように、本実施形態における降水予測手法は、(1)ある地点を囲む領域における面的な降水予測(第1予測ステップ;ステップS1)、及び(2)当該地点の近隣の観測点におけるネットワーク的な降水予測(第2予測ステップ;ステップS2)を行い、(3)これらの予測結果に基づいて当該地点における降水のタイミング及び強度を予測する(第3予測ステップ;ステップS3)。
以下、上記(1)~(3)について順に説明し、次いで本手法を実現する降水予測システム及び基地局選択システムの構成例を説明する。
【0019】
(1)面的な降水予測
図2を参照して、面的な降水予測を説明する。
面的な降水予測においては、予め設定された地点を囲む領域(例えば周囲10km四方)における過去の面的な気象データが収集され、データベースが構築される。予め設定された地点の例としては、後述する基地局の所在地が挙げられるが、これに限られるものではない。また、予め設定された地点は、地上に固定されていてもよいし、例えば移動体の現在地のように移動してもよい。
【0020】
ここで、面的な気象データとは、当該領域の気象状況を示すメッシュ状の観測データ(画像データ)であり、一例として、地上の気象レーダー又は気象衛星による観測から得られた画像データが挙げられる。この種のデータには、格子点ごとに、降水状況(降水レベル)が色彩で段階分けされて表示されている。この種のデータは、気象庁や気象情報提供会社のサーバ20から取得することができる(
図8参照)。
【0021】
面的な気象データは、予め設定された時間間隔(例えば30分、1時間ごと)で収集され、収集時刻と関連付けてデータベースに保存される。なお、サーバ20から提供される画像データがある地方(例えば関東地方、関西地方など)又は日本全域をカバーする場合には、元の画像データから必要な領域を抽出ないし切り出したうえでデータベースに保存してもよい。
【0022】
したがって、データベースには、観測時刻とメッシュ状の観測データ(画像データ)とが関連付けられて保存される。かかるデータベースは上述した時間間隔毎に更新される。
【0023】
次いで、上記データベースに収録された過去の面的な気象データに基づいて、当該領域における降水予測を行うための予測モデル(第1予測モデル)を作成する。
【0024】
この予測モデルは機械学習、とりわけ深層学習により生成される。本実施形態では、画像を用いた深層学習の一種であるU-Netにて予測モデルを生成することとするが、本発明はこれに限られない。
【0025】
ここで、
図3を参照して、U-netの概略を説明する。
U-netは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の一種であり、エンコーダとデコーダから成るモデルである。
【0026】
すなわち、U-Netのエンコーダは、入力された画像を何度か畳み込んで当該画像の特徴を抽出した後、プーリングなどのダウンサンプリングを行って解像度を低下させる、といった操作を複数回繰り返す。また、デコーダは、エンコーダによって抽出された特徴を受け取って逆畳み込み(deconvolution)を行い、入力画像と略同じサイズの特徴マップを出力する。
【0027】
ここで、逆畳み込みによって特徴マップを大きくする(アップサンプリングする)だけでは、物体の位置情報をうまく捉えることができない。そこで、U-Netでは、各階層(その折り返し点について対称な位置にある層)において、エンコーダの特徴マップをデコーダの特徴マップに連結させている(
図3の矢印参照)。これによって、エンコーダ側の大きな特徴マップの情報がデコーダ側に伝わるようになり、アップサンプリング時に物体の位置情報を捉えやすくなる。
【0028】
本実施形態では、データベースに収録された過去の面的な気象データをU-netに入力して降水領域(格子点)及び降水強度の変遷ないし経時的変化を学習することで、降水領域(格子点)及び降水強度を予測できるU-netアルゴリズム(予測モデル)を得る。
【0029】
そして、該当する領域におけるリアルタイムないし現在の面的な気象データを取得し、上述の学習により得た予測モデルに入力することで、所定時間(例えば30分~1時間程度)先の気象予測を得る。
【0030】
得られる予測結果は、例えば、所定時間後の降水状況を示す画像データであり、例えば当該領域内の格子点ごとの降水状況に関する情報が含まれている。例えば、降水量(mm/h)のレベルに応じて、当該領域を表す地図上の格子点が異なる色彩で着色されている。
【0031】
したがって、該当する地点における降水状況を把握するためには、得られた画像データ上で当該地点に対応する格子点での降水状況(例えば降水を示す着色の有無)を確認すればよい。
【0032】
上記の予測結果は、当該地点における降り出しタイミングを精度よく予測できるという利点がある。もっとも、降水強度の正確な把握に関しては十分とは言えない。そこで、本実施形態では、降水強度の正確な把握の観点から、面的な気象データの予測をネットワーク的な予測により補うこととしている。
【0033】
(2)ネットワーク的な予測
図4を参照して、ネットワーク的な降水予測を説明する。
ある地点(例えば衛星地上局)の近隣に気象の観測点が幾つかあるとする。それらの観測点の中から複数の観測点(
図4の例では観測点a,b,c,d)を選択する。選択された観測点のそれぞれにおいて観測された正確な降水強度データ(時系列データ)を収集し、データベースを構築する。
【0034】
ここで、観測点としては、地上に位置するものが好ましく、例えば気象台等の雨量計が挙げられる。また、観測点の選択に際しては、当該地点の東西南北に位置する観測点をバランスよく選択してもよいし、当該地点の地理的又は気象的な特性に応じて、特定の方角(例えば西側)に位置する観測点を多く採用してもよい。
【0035】
また、隣り合う観測点同士の間隔が10~30km程度、特に15~25km程度になるように、各観測点が選択されることが望ましい。この場合、観測データとして20km程度の間隔の離散的データが得られる。このような距離感は、各観測点のリアルタイムの観測データから、30分~1時間程度後の降水強度を精度よく予測するのに適している。ただし、当該地点の周囲10~30km程度の間に十分な数の観測点がない場合には、当該地点により近い又はより遠い観測点を加えてもよい。したがって、ここでいう「近隣の観測点」とは当該地点の「周囲の観測点」と言ってもよい。
【0036】
観測データは、予め設定された時間間隔で収集される。例えば、面的な気象データの収集間隔と同様に30分、1時間ごとでもよいし、より短く例えば5分、10分ごとでもよい。この種の観測データもまた、気象庁や気象情報提供会社のサーバ20から取得することができる(
図8参照)。
【0037】
したがって、データベースには、観測点、観測時刻及び観測された降水強度が関連付けられて保存されることとなる。かかるデータベースは上述した時間間隔毎に更新される。
【0038】
そして、複数か所における観測データの特徴量(例えば相関関係)を基に予測モデル(第2予測モデル)を作成する。本実施形態では、予測モデルはネットワークモデルであり、例えば、グラフニューラルネットワークの一種であるグラフコンボリューションネットワークによる学習モデルであるが、本発明はこれに限られない。
【0039】
ここで、
図5を参照してグラフコンボリューションネットワーク(GCN)の概略を説明する。
GCNとは、深層学習の一種であり、グラフ上の問題を扱うニューラルネットワークである。グラフは、何らかの状態(ノード特徴量)を保持するノード(
図5の例では円で示される。)と、ノード間の関係性を示すリンク(
図5の例では2つの円同士を繋ぐ線で示される。)と、から構成されるデータ構造を示すものである。
【0040】
GCNはCNN(畳み込みニューラルネットワーク)と同様に畳み込みを繰り返すところ、GCNは対象ノードの周辺の情報を畳み込むものである。つまり、グラフデータにおける畳み込みは、グラフ内のある対象ノード(
図5の例では●印で示されている。)が持っている特徴量に、隣接関係にあるノード(
図5の例では○印で示されている)の特徴量に重みを掛けたものを加えていく作業である(Aggregate(集約)とCombine(結合))。この作業によって、対象ノードの特徴量には対象ノード自体の特徴量だけでなく、どのような隣接関係を持ち、周囲ノードにはどのような特徴量を持つものがあるのかといった情報が含まれることになる。
【0041】
本実施形態では、複数の観測点をノードに、降水強度をノード特徴量に、観測点間の関係性をリンクに、それぞれ見立ててGCNを適用し、予測モデル(第2予測モデル)を得ることができる。
【0042】
そして、各観測点におけるリアルタイムの降水強度データを上記の予測モデルにインプットし、各観測点における所定時間後(例えば30分後、1時間後)の降水強度の予測結果を得る。予測結果は数値データとして与えられ、これにより、各観測点における正確性の高い降水強度の予測を得ることができる。
【0043】
(3)予測結果の結合
次いで、上記(1)で算出した予測と上記(2)で算出した予測とを組み合わせて、予測対象となる地点における降水のタイミングと強さを予測する。
【0044】
具体的には、面的予測の予測結果を降水強度の観点から(つまりネットワーク的予測の予測結果を用いて)補正し、補正された面的予測部の予測結果に基づいて当該地点における降水のタイミング及び強度を予測する。
【0045】
例えば、ネットワーク的予測により得られた各観測点における降水量を、面的予測により得られた画像データ上の対応するピクセル(観測点の位置に対応する格子点)内にプロットする。そして、プロット済みの画像データを補正モデル(格子点間の降水強度の関係性をU-net等により学習させた予測モデル)に入力し、降水強度について補正された画像データを得る。
この補正された画像データでは、観測点の周囲(当該地点を含む)における降水量が、観測点での降水量に応じて補正され、より正確なものとなっている。したがって、補正された画像データから、予測対象となる地点における降水のタイミング及び強さを読み取ることで、当該地点における降水のタイミング及び強度を正確に予測することができる。なお、直近の観測データでは降水が確認できないにも関わらず、上記の予測結果において、予測の対象となる地点に対応する格子点上に何らかの降水(例えば1mm/h以上の降水)が予測される場合には、所定時間後に雨等が降り出すと判定できる。
【0046】
このように、上記(1)及び(2)の予測手法の長所を活かすことで、予測対象となる地点における降水のタイミングと強さをピンポイントで予測することができる。
なお、上述した機械学習のアルゴリズムは自動化パイプラインに組み込まれてもよい。すなわち、降雨に関するリアルタイムデータが取得されると、次の処理が次々と実行されてよい:(a) データの前処理、(b)データの学習、(c)予測の算出(学習済みの予測モデルによる予測)、(d)予測結果の評価、及び(e)予測結果の出力。予測結果の出力はアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)での出力でもよい。
【0047】
2.基地局選択の手法
上記1で述べた降水予測の活用の一形態として、基地局の選択手法を説明する。ここで、基地局は主として衛星(例えば静止衛星)との間で通信するが、航空機、ドローン、空飛ぶ車等の飛行体との間で通信してもよい。また、ここでは、基地局の一例として衛星地上局を挙げて説明するが、基地局は、車両(陸上車、鉄道車両など)、船舶のような移動体に設置された移動局でもよい。
【0048】
図6に示すように、衛星通信の分野では、衛星と安定的に通信するために、A局、B局、C局...と複数の基地局(衛星地上局)が開設されている。
【0049】
通信品質の維持・向上の観点から、複数の基地局のうち、通信衛星との通信のために好適な回線品質を持つ基地局が選択されることが望ましい。特に、Ka帯以上の電波を用いた通信では、回線品質は降水強度に影響されることから、基地局の位置する特定の場所における降水のタイミング及び強さをピンポイントで予測することが重要である。
【0050】
そこで、本実施形態では、各基地局の所在地について、上記1で述べたプロセスで降水予測を行う。そして、得られた降水予測に基づき、所定時間後に衛星と通信すべき基地局を選択する(
図7参照)。
【0051】
具体的には、得られた降水予測を比較し、条件のより良い場所に所在する基地局を、衛星と通信すべき基地局として選択する。
【0052】
例えば、降水が予測されない場所と降水が予測される場所の間では、前者をより良い条件の場所とすることができる。また、降水が予測される場所同士の間では、予測される降水強度及び降水量が小さい場所及び予測される降り出し時刻が遅い土地をより良い条件の場所とすることができる。また、降水が予測されない場所同士の間では、雲がより少ないと予想される場所をより良い条件の場所とすることができる。
【0053】
上記のような基準に照らし、条件のより良い場所、好ましくは最も条件の良い場所の基地局を選択する。ただし、通信品質に影響を与えないほどの条件の差異は条件的に同じと扱ってよい。
【0054】
したがって、複数の基地局の中から衛星との通信に好適な基地局を選択することができ、通信衛星を効率よく運用することができる。
【0055】
3.降水予測システム及び基地局選択システム
図8及び
図9を参照して、上記1及び2を実現する降水予測及び基地局選択システム(以下、単にシステム10という)を説明する。
【0056】
システム10は、通信ネットワークを介してサーバ20と接続されたコンピュータである。サーバ20は、上記のとおり、各種観測データを提供するコンピュータであり、例えば気象庁及び気象情報提供会社の管理下にある。
【0057】
システム10を構成するコンピュータ100は、CPU101、RAM103、ROM105、通信インタフェース107、入力装置109、出力装置111といった各種ハードウェアを備える、1台又は複数台のコンピュータでもよい(
図9参照)。
【0058】
CPU101は、ROM105から各種のデータ及びプログラムをRAM103に読み込んで実行することで、後述する取得部11、モデル生成部13、予測部15及び選択部17として機能するプロセッサないし回路である。ROM105は、各種のデータやプログラムを記憶する、例えばハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリなどである。通信インタフェース107は、通信ネットワーク(図示せず)に接続するためのインタフェースであり、例えばイーサネット(登録商標)に接続するためのアダプタ、公衆電話回線網に接続するためのモデム、無線通信を行うための無線通信機、シリアル通信のためのUSB(Universal Serial Bus)コネクタやRS232Cコネクタなどである。入力装置109は、データを入力する、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、ボタン、マイクロフォンなどである。出力装置111は、データを出力する、例えばディスプレイやプリンタ、スピーカなどである。なお、システム10は例えば入力装置109及び出力装置111を省略することもできる。
【0059】
図8に示すように、システム10は、取得部11、モデル生成部13、予測部15、選択部17及び記憶部19といったソフトウェア構成を有する。すなわち、取得部11は、サーバ20などの外部コンピュータから観測データ(実績データ)などの各種データを受信し、記憶部19に記憶する。モデル生成部13は、上記1(1)及び(2)で述べた予測モデル(例えば第1及び第2予測モデル)を生成するものであり、モデル生成のためのプログラムを含んでもよい。予測部15は、予測モデルにリアルタイムデータを入力し、所定時間後の降水予測を得る。つまり、予測部15は第1~第3予測部として機能する。選択部17は、予測部15の降水予測に基づいて適切な基地局を選択する。記憶部19は、取得部11によって取得された実績データ、モデル生成部13によって生成された予測モデル、各種プログラム、予測部15の予測結果、選択部17の選択結果などを記憶する。
【0060】
なお、モデル生成部13、予測部15、選択部17の各機能部は、単一のコンピュータで構成されている必要はなく、各機能部が別個のコンピュータから構成されてもよい。したがって、予測部15を含むシステムは降水予測システムであり、選択部17を含むシステムは基地局選択システムである。基地局選択システムは予測部15を含んでもよい。
【0061】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それらも本発明に含まれる。
【0062】
例えば、面的予測の学習モデルの生成のために、本実施形態ではU-netを用いているが、他にコンボリューショナルLSTMが利用可能である。ここで、コンボリューショナルLSTMとは、LSTM(長・短期記憶)における重みの掛け算が畳み込みに変更された学習手法である。
【0063】
ネットワーク的予測の学習モデルの生成のために、本実施形態ではGCNを用いているが、他にGNNやLSTMが利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 システム
11 取得部
13 モデル生成部
15 予測部
17 選択部
19 記憶部
20 サーバ
30 衛星