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  • 特許-偏光板及びこれを用いた表示装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】偏光板及びこれを用いた表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241001BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20241001BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/14
G02F1/1335 510
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020040767
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021144076
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-09-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314017635
【氏名又は名称】株式会社トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルム
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】信田 康広
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6261802(JP,B1)
【文献】特開2019-144304(JP,A)
【文献】特開2019-148734(JP,A)
【文献】特開2018-044992(JP,A)
【文献】特開2013-174861(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168005(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046225(WO,A1)
【文献】特開2018-013691(JP,A)
【文献】特開2017-215582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 1/14
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子の一方面に保護フィルムAが貼り合わされ、他方面に保護フィルムBが貼り合わされた偏光板であって、
保護フィルムAが、トリアセチルセルロースフィルムの一面にハードコート層が積層されたハードコートフィルムであり、
前記保護フィルムBが、シクロオレフィンポリマーからなるフィルムであり、
前記ハードコート層が疎水性材料としてシクロオレフィンポリマーを含有し、前記シクロオレフィンポリマーの含有量が、前記ハードコート層の全固形分を100重量部としたとき、0.1/45~2.0/46.8重量部であり、
前記ハードコート層の膜厚が7~12μmであり、
40℃90%RHにおける保護フィルムA及びBの透湿度TA及びTBが以下の条件(1)及び(2)を同時に満足することを特徴とする、偏光板。
215g/m/day>TA>80g/m/day ・・・(1)
5g/m/day≧TB ・・・(2)
【請求項2】
前記ハードコートフィルムの鉛筆硬度が3H以上である、請求項に記載の偏光板。
【請求項3】
請求項に記載の偏光板を備える、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板及びこれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に用いられる偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムに、ヨウ素化合物や有機染料を吸着させ、PVAフィルムを延伸してヨウ素化合物や有機染料を配向させた偏光子を備える。PVAフィルムを用いて形成された偏光子は強度及び耐水性に劣るため、偏光子の両面には偏光子を保護するための保護フィルムが貼り合わされる。
【0003】
従来、偏光板の保護フィルムとしては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムの一面にハードコート層を設けたハードコートフィルムが一般的に用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。ただし、TACフィルムを基材としたハードコートフィルムの透湿度は、300~1000g/m/day程度であり、高温高湿下では偏光子の吸湿を十分に抑制できず、偏光子の劣化を引き起こすという問題があった。そこで、TACフィルムを基材とした保護フィルムよりも防湿性を向上させるため、シクロオレフィンポリマー(COP)やポリエチレンテレフタレート(PET)を基材として用いた保護フィルムが種々開発され(例えば、特許文献2参照)、保護フィルムの透湿度は、5~100g/m/day程度まで低減されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-175991号公報
【文献】特開2006-30807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両に搭載される表示装置が増加しているが、車載用途の表示装置は、高温の極めて過酷な環境で使用され得るため、偏光板にも高温環境下での耐久性が求められている。
【0006】
上述したCOPやPET等の低透湿性の基材を用いた保護フィルムを用いることにより、偏光板の外部から偏光子への水分の侵入は十分に低減することができる。しかしながら、偏光板が車内等の高温環境下に晒された場合、保護フィルムの基材に含まれている水分や、保護フィルムと偏光子との貼り合わせに用いた接着剤に含まれている水分が、偏光板の内部へと浸透し留まり続けるため、この水分によって偏光子の劣化が生じるということが分かってきた。
【0007】
それ故に、本発明は、高温下での耐久性に優れる偏光板及びこれを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る偏光板は、偏光子の一方面に保護フィルムAが貼り合わされ、他方面に保護フィルムBが貼り合わされたものであって、保護フィルムAが、トリアセチルセルロースフィルムの一面にハードコート層が積層されたハードコートフィルムであり、保護フィルムBが、シクロオレフィンポリマーからなるフィルムであり、ハードコート層が疎水性材料としてシクロオレフィンポリマーを含有し、シクロオレフィンポリマーの含有量が、ハードコート層の全固形分を100重量部としたとき、0.1/45~2.0/46.8重量部であり、ハードコート層の膜厚が7~12μmであり、40℃90%RHにおける保護フィルムA及びBの透湿度TA及びTBが以下の条件(1)及び(2)を同時に満足する。
215g/m/day>TA>80g/m/day ・・・(1)
5g/m/day≧TB ・・・(2)
【0009】
また、本発明に係る表示装置は、上記の偏光板を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温下での耐久性に優れる偏光板及びこれを用いた表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る偏光板の概略構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施形態に係る偏光板の概略構成を示す断面図である。
【0013】
偏光板10は、偏光子1と、偏光子1の一方面側に積層される保護フィルムAと、偏光子1の他方面側に積層される保護フィルムBとを備える。偏光子1は、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素または染料を吸着させ配向させることによって形成されたものである。偏光子1を構成するPVAは、強度及び耐水性に劣るため、偏光子1の両面に保護フィルムA及びBが貼り合わされる。
【0014】
保護フィルムAは、TACフィルムの一面にハードコート層が積層されたハードコートフィルムである。ハードコート層は、柔軟なTACフィルムをコートし、保護フィルムAに硬度を付与する機能層であり、紫外線硬化性材料を含有する塗工液を塗布し硬化させることにより形成することができる。保護フィルムA(ハードコートフィルム)の鉛筆硬度は3H以上であることが好ましい。また、TACフィルムは、水蒸気バリア性が低い(透湿度が高い)ため、ハードコート層により保護フィルムAの透湿度が調整される。具体的には、ハードコート層に疎水性材料を配合することにより、保護フィルムAの透湿度を後述する範囲内とすることができる。ハードコート層に含有させる疎水性材料としては、例えば、シクロオレフィンポリマーを使用することができる。保護フィルムAのTACフィルムが、水糊(PVA水溶液)を用いて偏光子1に貼り合わされる。
【0015】
保護フィルムAに用いるTACフィルムの厚みは、特に限定されないが、25~100μmであることが好ましい。また、ハードコート層の膜厚は、特に限定されないが、2~15μmであることが好ましい。ただし、保護フィルムAの透湿度が後述する範囲である限り、TACフィルムの厚み及びハードコート層の膜厚は適宜変更することができる。
【0016】
保護フィルムBは、低透湿性のフィルムであり、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート及びポリメチルメタクリレートのいずれか1種により構成することができる。保護フィルムBは、紫外線硬化性の接着剤を介して偏光子1に貼り合わされる。保護フィルムBの厚みは、特に限定されないが、10~100μmであることが好ましい。
【0017】
尚、表示装置において、保護フィルムBが表示パネル側に配置され、保護フィルムAのハードコート層が視認側(表示パネルとは反対側)に配置される。
【0018】
上述したように、偏光子1と保護フィルムAのTACフィルムとは、接着剤として水糊を用いて貼り合わされるため、乾燥工程を経た後においても、接着剤層中及びTACフィルム中には水分が含まれ得る。仮に、保護フィルムA及びBの両方を透湿度の低いフィルムを用いて構成した場合、外部からの水分の侵入は抑制されるものの、夏場の車内等の極めて高温な環境下において、接着剤層及び/またはTACフィルムから水分が発生して偏光板10内に留まり続けるため、偏光子1の劣化に繋がる。そこで、本実施形態に係る偏光板10においては、保護フィルムAの透湿度と保護フィルムBの透湿度とに差を設け、
かつ、保護フィルムAの透湿度と保護フィルムBの透湿度とをそれぞれ特定の範囲とすることによって、水分による偏光子1の劣化を抑制する。
【0019】
具体的に、40℃90%RHにおける保護フィルムA及びBの透湿度をそれぞれTA及びTBとすると、TA及びTBは以下の条件(1)及び(2)を同時に満足する。尚、透湿度TA及びTBはいずれも、JIS Z 0208-1976に準拠して測定した値である。
240g/m/day>TA>70g/m/day ・・・(1)
70/m/day≧TB ・・・(2)
【0020】
上記の条件(1)及び(2)を同時に満足することにより、外部から偏光板内部への水分の侵入を抑制しつつ、例えば、85℃の高温環境下に晒された場合に、保護フィルムAと偏光子1とを貼り合わせるための接着剤層及び/または保護フィルムAのTACフィルムから発生した水分を外部に排出させることができる。
【0021】
保護フィルムAの透湿度TAは、180g/m/day以上であることが好ましい。この場合、保護フィルムAの透湿度を調整するためにハードコート層に含有させる疎水性材料の量を低減することができるため、ハードコート層の表面硬度に優れる。また、保護フィルムBは、水分の出入りを完全に遮断するためのものであるので、保護フィルムBの透湿度TBは小さい方が好ましい。
【0022】
以上説明したように、本実施形態に係る偏光板10は、偏光子1の保護フィルムとして、上記条件(1)を満足する透湿度を有する保護フィルムAと、上記条件(2)を満足する透湿度を有する保護フィルムBとを備える。この構成において、表示パネル側に配置される保護フィルムBは水分の出入りをほぼ遮断する。一方、視認側に配置される保護フィルムAは、外部から偏光板10内部への水分の侵入を抑制するが、偏光板10内部で発生した水分の放出を可能とする。したがって、本実施形態に係る偏光板10は、高温環境下で用いられた場合に、偏光板10の内部で発生した水分が留まらないため、偏光子の劣化を抑制し、より長期に渡って偏光板10の光学性能を維持することが可能となる。
【実施例
【0023】
以下、本発明を具体的に実施した実施例を説明する。
【0024】
(実施例1)
厚み40μmのTACフィルム(商品名:TJ40UL 富士フイルム社製)に、ハードコート層形成用塗工液として表1に記載の組成1をワイヤーバーコーターを用いて塗布し乾燥させた後、塗膜に紫外線を100mJ/cmの露光量で照射して硬化させ、実施例1に係る保護フィルムA(ハードコートフィルム)を作成した。ハードコート層の硬化後の膜厚は、表2に記載の値とした。また、厚み5μmのCOPフィルムを保護フィルムBとした。
【0025】
保護フィルムAのTACフィルム面に水糊を用いて偏光子を貼り合わせて乾燥させた後、紫外線硬化性接着剤を用いて偏光子に保護フィルムを貼り合わせ、紫外線を照射することにより紫外線硬化性接着剤を硬化させ、実施例1に係る偏光板を得た。
【0026】
【表1】
【0027】
(実施例2~7)
ハードコート層形成用塗工液として、それぞれ表1に記載の組成2~7を用いたことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~7に係る偏光板を作成した。
【0028】
(比較例1)
ハードコート層形成用塗工液として、表1に記載の組成8を用い、紫外線の露光量を75mJ/cmとしたことを除き、実施例1と同様にして、比較例1に係る偏光板を作成した。
【0029】
(比較例2)
ハードコート層形成用塗工液として、表1に記載の組成9を用いたことを除き、実施例1と同様にして、比較例2に係る偏光板を作成した。
【0030】
(比較例3)
保護フィルムAとして、厚み40μmのPMMAフィルムを用いたことを除き、実施例1と同様にして、比較例3に係る偏光板を作成した。
【0031】
(比較例4)
保護フィルムAとして、厚み5μmのCOPフィルムを用いたことを除き、実施例1と同様にして、比較例4に係る偏光板を作成した。
【0032】
(透湿度)
偏光子に貼り合わせる前の保護フィルムAの透湿度TA及び保護フィルムBの透湿度TBを、JIS Z 0208-1976に準拠して40℃90%の条件で測定した。
【0033】
(高温高湿耐久試験後の偏光度)
実施例1~7及び比較例1~4に係る偏光板を85℃85%RHの恒温槽に投入し、投入から240時間後及び500時間後の偏光度を測定した。尚、偏光度は、積分球付き吸光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)により測定した値に対して、「JIS Z 8701」の2度視野(C光源)により視感度補正を行うことで算出した。
【0034】
表2に、実施例1~7及び比較例1~4で用いた保護フィルムAの透湿度TA、保護フィフィルムBの透湿度TB、偏光板の偏光度(初期値、高温高湿耐久試験前及び後)の測定値を示す。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例1~7に係る偏光板は、保護フィルムAの透湿度TA及び保護フィルムBの透湿度TBが上記の条件(1)及び(2)を満足するものであり、85℃85%RHの恒温槽に500時間投入された場合でも、高い偏光度の値を示した。実施例1~7に係る高温高湿耐久試験後の偏光度の試験結果は、高温高湿下に晒された場合でも、外部から偏光板内部に侵入する水分に起因する偏光子の劣化と、保護フィルムA及び/または保護フィルムAを貼り合わせるための接着剤に含まれていた水分に起因する偏光子の劣化とのいずれもが発生しなかったことを意味する。
【0037】
比較例1及び2に係る偏光板は、保護フィルムAの透湿度TAが上記の条件(1)の上限を超えて高いものである。比較例1及び2に係る偏光板は、85℃85%RHの恒温槽に240時間投入後の偏光度が実施例1~7に比べて低い値となった。また、比較例1及び2に係る偏光板を85℃85%RHの恒温槽に500時間投入した場合、偏光子の劣化が進行し過ぎて、偏光板を透過した光の光量(つまり、漏れ光の光量)が多くなり過ぎ、偏光度の測定ができなかった。比較例1及び2と実施例1~7との対比から、比較例1及び2に係る偏光板においては、高温高湿下で保護フィルムAから偏光板の内部へと水分が侵入した結果、偏光子が劣化したものと考えられる。
【0038】
比較例3及び4に係る偏光板は、保護フィルムAの透湿度TAが上記の条件(1)の下限よりも低いものである。比較例3及び4に係る偏光板もまた、85℃85%RHの恒温槽に240時間投入後の偏光度が実施例1~7に比べて低い値となった。また、比較例3及び4に係る偏光板を85℃85%RHの恒温槽に500時間投入した場合、偏光子の劣化が進行し過ぎて、偏光板を透過した光の光量(つまり、漏れ光の光量)が多くなり過ぎ、偏光度の測定ができなかった。比較例3及び4と実施例1~7との対比から、比較例3及び4に係る偏光板においては、高温高湿下で偏光板の内部への水分の侵入は抑制されているが、保護フィルムA及び/または保護フィルムAを貼り合わせるための接着剤に含まれていた水分により、偏光子が劣化したものと考えられる。
【0039】
以上より、本発明によれば、保護フィルムAの透湿度TA及び保護フィルムBの透湿度TBが上記の条件(1)及び(2)を満足することにより、高温高湿の極めて過酷な環境に長時間晒された場合でも、偏光子の劣化を抑制し、偏光板の光学性能を維持できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、表示装置に用いる偏光板として利用することができ、特に、車載用途等の高温環境下で用いられる表示装置の偏光板として好適である。
【符号の説明】
【0041】
1 偏光子
10 偏光板
A、B 保護フィルム
図1