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  • 特許-有機溶媒分散体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】有機溶媒分散体
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20241001BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20241001BHJP
   H01M 14/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01G9/20 111B
C01G23/053
H01G9/20 111C
H01M14/00 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020057533
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2020164410
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019064886
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 昭
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-201853(JP,A)
【文献】特表2009-519890(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052762(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/002755(WO,A1)
【文献】特開2006-001775(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136763(WO,A1)
【文献】特開2008-069046(JP,A)
【文献】特開2007-197296(JP,A)
【文献】特開2006-001774(JP,A)
【文献】特開2002-110261(JP,A)
【文献】特開2002-343453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
C01G 23/053
H01M 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンの凝集粒子が有機溶媒に分散した分散体であって、
酸化チタン粒子の一次粒子径が5nm以上25nm以下の範囲にあり、
前記凝集粒子の凝集粒子径(D50)が150nm以下であり、
前記凝集粒子の90%累積径と10%累積径の差分(D90-D10)が170nm以下であり、
前記酸化チタン粒子の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下の範囲で硝酸イオンが含まれる、
色素増感太陽電池の半導体層を形成するための有機溶媒分散体。
【請求項2】
粘度が1.0×10mPa・s以上、2.0×10mPa・s以下の範囲にある、請求項1に記載の有機溶媒分散体。
【請求項3】
前記酸化チタン粒子のアスペクト比が、1以上3以下の範囲にある、請求項2に記載の有機溶媒分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンの凝集粒子を含む有機溶媒分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、顔料、化粧料、光触媒として、幅広く使用されており、近年では、色素増感太陽電池にも使用されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、有機色素を用いて光起電力を得る太陽電池の1種である。色素増感太陽電池は、従来の太陽電池と比べて構造がシンプルで、材料や製造プロセスが安く、形状のフレキシビリティが高いという特徴を有している。この色素増感太陽電池の構造は種々検討されている。例えば、ガラス板又は透明プラスチックシートの内側表面に、インジウム/スズ系の透明伝導層を有した構造がある。この構造では、透明伝導層に、ルテニウム系等の有機色素を吸着させた二酸化チタン等の微粒子を固定した電極と、白金や炭素等の対極とを有する。そして、両電極の間にヨウ素溶液等の酸化還元体を充填したものが知られている。また、これらの構造をより簡易的に作成するために、印刷法を用いることも検討されている。
【0004】
色素増感太陽電池において広く用いられている二酸化チタンは、透明電極の表面に形成される多孔質半導体膜として用いられる。この二酸化チタンに吸着した色素が光エネルギーを吸収する。これよって励起された電子がこの多孔質半導体膜を通じて透明電極に移動することで、電気が発生する。したがって、色素増感太陽電池に用いられる二酸化チタンには、より多くの色素を吸着し得るように、多孔質で比表面積が大きいものが要望されていた。
【0005】
このような色素増感太陽電池用の二酸化チタンは、これまで種々検討されている。例えば、特許文献1には、平均一次粒子径が20nm以下の酸化チタンナノ粒子が集合した平均直径が30~500nmの集合体が記載されている。また、特許文献2には、平均粒子径が0.5~10μmの範囲にあり、細孔容積が0.1~0.8mL/gの範囲にある多孔質酸化チタン微粒子集合体と、平均粒子径が5~400nmの範囲にある非集合体酸化チタン微粒子とを含んでなる半導体膜形成用の塗料が記載されている。このような色素増感太陽電池用の二酸化チタンの改良に伴い、色素増感太陽電池の性能は向上しつつある。
【0006】
これらの二酸化チタンは、水や有機溶媒に分散した分散体として、塗布やスクリーン印刷等の方法に用いられ、多孔質半導体膜に成形される。このとき、均質な多孔質半導体膜を形成するためには、塗料の粘度が非常に重要なファクターである。しかし、これらの分散体には、長期間保存すると粒子の沈降等が発生して二酸化チタンの凝集状態に変化が生じ、長期間保存した後の粘度の変化が大きくなるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-213505号公報
【文献】特開2009-289669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、酸化チタンを含む有機溶媒分散体であって、長期間保存しても粘度の変化が小さいものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有機溶媒分散体中に含まれる酸化チタンの凝集粒子径に着目し、この凝集粒子径を特定の範囲に制御したうえでそのばらつきを小さくした。これによって、長期間保存しても粘度の変化が生じ難くなり、前記有機溶媒分散体の長期保存が可能になることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、酸化チタンの凝集粒子が有機溶媒に分散した分散体であって、酸化チタン粒子の一次粒子径が5nm以上25nm以下の範囲にあり、前記凝集粒子の凝集粒子径(D50)が150nm以下であり、前記凝集粒子の90%累積径と10%累積径の差分(D90-D10)が170nm以下である、有機溶媒分散体(以下、本発明の有機溶媒分散体ともいう。)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期間保存しても粘度の変化が小さい、酸化チタンを含む有機溶媒分散体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の有機溶媒分散体及びその製造方法のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の有機溶媒分散体の概要]
本発明の有機溶媒分散体は、酸化チタン粒子の凝集粒子径を特定の範囲に制御したうえで、そのばらつきを小さくしたものである。したがって、本発明の有機溶媒分散体は、極端に大きい又は小さい凝集粒子を可能な限り含まない。凝集粒子は、有機溶媒中において、特定の表面電位を有して分散している。この凝集粒子の大きさがばらつくと、その表面電位もばらつき、有機溶媒中において電荷が不均衡な状態になる。有機溶媒分散体がこのような状態にあると、凝集粒子の凝集状態が変化しやすくなる。このため、有機溶媒分散体の粘度も変化しやすくなる。そこで、例えば、図1に示される方法を用いて、酸化チタン粒子の凝集粒子径を特定の範囲に制御したうえで、そのばらつきを小さくする。そして、この凝集粒子を有機溶媒に分散させることで、長期間保存しても粘度の変化が小さい有機溶媒分散体が得られる。
【0014】
本発明では、酸化チタン粒子の凝集粒子径及びそのばらつきを、ゼータ電位測定法によりえられる粒度分布から算出した。具体的には、前記粒度分布において50%累積径(D50)を凝集粒子径とし、10%累積径(D10)と90%累積径(D90)の差分を凝集粒子のばらつき(D90-D10)とした。
【0015】
[先行技術との対比]
本発明の有機溶媒分散体は、特許文献1~2と比較し、「前記凝集粒子径(D50)が150nm以下であり、前記凝集粒子の90%累積径と10%累積径の差分(D90-D10)が170nm以下である」との点で少なくとも相違する。特に、有機溶媒分散体中に含まれる酸化チタンの凝集粒子径を特定の範囲に制御したうえで、そのばらつきを小さくするという思想は、前記特許文献に記載されていない。
【0016】
[本発明の有機溶媒分散体]
以下、本発明の有機溶媒分散体について、詳述する。
【0017】
[酸化チタン]
本発明の有機溶媒分散体は、酸化チタン粒子を含む。本発明において、酸化チタンとは、二酸化チタンのみを指すものではなく、二酸化チタンの酸素が一部欠損した組成のものも含む。また、これらの酸化チタン粒子の表面は、通常末端OH基を含むが、有機官能基で修飾されていてもよい。
【0018】
[酸化チタン粒子の一次粒子径およびアスペクト比]
本発明の有機溶媒分散体は、有機溶媒を分散媒にした酸化チタン凝集粒子の分散体であって、前記凝集粒子を構成する前記酸化チタンの一次粒子の大きさ(以下、「一次粒子径」ともいう。)は、5nm以上25nm以下の範囲にある。この一次粒子径は、5nm以上20nm以下の範囲にあることが好ましい。この一次粒子径が小さいほど、酸化チタン粒子の比表面積が大きくなる。例えば、本発明の有機溶媒分散体を用い、色素増感太陽電池用の多孔質半導体膜を形成した場合、酸化チタン粒子の比表面積が大きくなる。このため、前記多孔質半導体膜の色素吸着量が多くなるので好ましい。なお、この一次粒子径は、前述の有機溶媒分散体から抽出した酸化チタン粒子を電子顕微鏡観察する方法で算出される。また、例えば、有機溶媒分散体は、図1のような酸化チタンスラリーを調製した後で、水を有機溶媒に溶媒置換する方法で得ることができる。この有機溶媒分散体は、有機溶媒置換前の酸化チタンスラリーに含まれる酸化チタン粒子を電子顕微鏡観察することによっても、酸化チタン一次粒子径を算出することができる。この算出方法は、後述の実施例にて詳述する。
また、前記酸化チタン粒子のアスペクト比(長径/短径)は、1以上3以下の範囲にあることが好ましい。このようにアスペクト比が1に近い酸化チタン粒子を含む有機溶媒分散体を用いて酸化チタンの層を形成すると、層の密度が高くなりやすい。
【0019】
[凝集粒子径:D50
本発明の有機溶媒分散体に含まれる酸化チタン粒子は、有機溶媒分散体中において凝集粒子として存在する。本発明では、前記凝集粒子の大きさは、ゼータ電位測定して得られる粒度分布から算出される50%累積径で表される。ここで、本発明の有機溶媒分散体に含まれる前記凝集粒子径は、前記凝集粒子が溶媒中に分散した状態で測定することが重要である。これは、溶媒中における凝集粒子の状態が分散体の長期保存性に大きく影響をあたえるからである。溶媒中から前記凝集粒子を取り出し、電子顕微鏡で観察する測定方法では、溶媒を除去する際に凝集粒子同士がさらに凝集する。このような状態では凝集粒子の境界がわかりにくくなるので、本発明の有機溶媒分散体の凝集粒子径を測定する方法としては適切ではない。なお、本発明で用いるゼータ電位測定は、溶媒中に存在する粒子の粒度分布を測定する従来知られた測定方法のひとつである。ただし、この測定方法は、有機溶媒中であっても水系溶媒であっても実施できるが、水系溶媒中の方がより精度が高い。そこで、本発明では、有機溶媒分散体中の前記凝集粒子が成長しない条件で取り出した後、特定の条件で水系溶媒に再分散させて測定する。また、図1のような酸化チタンスラリーを調製した後で、水を有機溶媒に溶媒置換する方法で得られた有機溶媒分散体は、溶媒置換前の酸化チタンスラリーの測定値を有機溶媒分散体の測定値とみなすこともできる。
【0020】
本発明においてこの前記凝集粒子径(D50)は、150nm以下であり、50nm以上150nm以下の範囲にあることが好ましく、75nm以上125nm以下の範囲にあることがより好ましく、80nm以上100nm以下の範囲にあることが特に好ましい。前記凝集粒子径がこの範囲にある本発明の有機溶媒分散体は、長期間保存しても粘度の変化や粒子の沈降が起こりにくい。
【0021】
[凝集粒子径:D90-D10
本発明の有機溶媒分散体に含まれる前記凝集粒子の大きさのばらつきは、可能な限り小さくすることが好ましい。本発明では、前記凝集粒子の大きさのばらつきを表す指標として、前記有機溶媒分散体をゼータ電位測定して得られる粒度分布の10%累積径(D10)と90%累積径(D90)の差分(D90-D10)を用いた。この差分が小さい本発明の有機溶媒分散体は、長期間保存しても粘度の変化が起きにくい。具体的には、本発明の有機溶媒分散体は、この差分が170nm以下であり、160nm以下であることが好ましく、150nm以下であることが特に好ましい。なお、前記凝集粒子径(D50)が小さい場合は、凝集粒子の分散状態が変化しやすくなり、有機溶媒分散体の粘度も変化しやすくなる。そこで、前記凝集粒子径(D50)が50nm以下の場合は、この差分(D90-D10)が50nm以下であることが好ましい。
【0022】
[凝集粒子径:D100
本発明の有機溶媒分散体には、可能な限り粗大粒子が含まれていないことが好ましい。具体的には、前述のゼータ電位測定法を用いて測定された粒度分布の100%累積径(D100)が1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。本発明の有機溶媒分散体にこのような粗大粒子が含まれていると、有機溶媒分散体中の電荷がより不均一になる。
【0023】
[酸化チタン粒子の結晶構造]
本発明の有機溶媒分散体に含まれる酸化チタン粒子の結晶構造は、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型といった従来公知の結晶構造をとることができる。これらの結晶構造は、酸化チタン粒子の用途によって好ましい構造が異なる。例えば、光触媒用又は色素増感太陽電池用に含まれる半導体層用の酸化チタン粒子であれば、バンドギャップの大きいアナターゼ型が好ましい。また、リチウムイオン二次電池の負極として用いる場合は、ブルッカイト型が好ましい。なお、これらの結晶構造の有無は、X線回折測定により判断することができる。
【0024】
[酸化チタン粒子の濃度]
本発明の有機溶媒分散体に含まれる酸化チタン粒子の濃度は、TiO換算で、5質量%以上25質量%以下の範囲にあることが好ましく、10質量%以上20質量%以下の範囲にあることがより好ましい。この酸化チタン粒子の濃度が高すぎると長期間保存した際に粒子の沈降が起きやすくなる。
【0025】
[有機溶媒]
本発明の有機溶媒分散体に含まれる有機溶媒は、特に限定されない。有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、グリコール類、エーテル類、及びテレピン類等が好ましい。これらは、1種単独又は2種以上混合して使用することができる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びブタノール等が好ましい。ケトン類としては、例えば、アセトン等が好ましい。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、及びプロピレングリコール等が好ましい。エーテル類としては、例えば、ブチルカルビトール、及びブチルカルビトールアセテート等が好ましい。テレピン類としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、及びターピノーレン等が好ましい。特に、ブチルカルビトール、又はターピネオールが好ましい。本発明の有機溶媒分散体に含まれる有機溶媒の濃度は、その他の成分の濃度によっても変わるが、概ね50質量%以上の範囲にあることが好ましく、50質量%以上95質量%以下の範囲にあることがより好ましい。
【0026】
[増粘剤]
本発明の有機溶媒分散体は、必要によって増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ケトン樹脂、及びメラミン樹脂等の化合物を含んでいてもよい。本発明の塗料に含まれる増粘剤の濃度は、目標とする粘度によっても変わるが、概ね1質量%以上40質量%以下の範囲にあってもよく、4質量%以上10質量%以下の範囲にあってもよい。
【0027】
[粘度]
本発明の有機溶媒分散体の粘度は、0.5×10mPa・s以上2.0×10mPa・s以下の範囲にあることが好ましい。また、本発明の有機溶媒分散体を色素増感太陽電池の半導体層を形成するために用いる場合は、その粘度が1.0×10mPa・s以上2.0×10mPa・s以下の範囲にあることがより好ましい。この粘度が前述の範囲にある場合、スクリーン印刷等で多孔質半導体層を形成しやすくなる。
【0028】
[硝酸イオン濃度]
本発明の有機溶媒分散体を色素増感太陽電池の多孔質半導体層を形成するために用いる場合、本発明の塗料には硝酸イオンが含まれていることが好ましい。このように酸化チタン粒子と硝酸イオンが共存した有機溶媒分散体を用いて多孔質半導体層を形成すると、酸化チタンのバンドギャップに変化が生じる。このようなバンドギャップの変化は、吸収できる光の波長範囲を広げるので、好ましい。バンドギャップの変化は、加熱処理に伴う硝酸イオンによる酸化チタン表面の還元に起因するものと発明者は推測する。この推測は、本発明を限定するものではない。特に、本発明の有機溶媒分散体に含まれる酸化チタン粒子の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下の範囲で硝酸イオンが含まれることが好ましい。
【0029】
[水の含有量]
本発明の有機溶媒分散体に極性の有機溶媒又は増粘剤が含まれる場合、本発明の有機溶媒分散体にごく微量の水分が含まれることが好ましい。このような微量の水分は、原料に含まれる水分と、製造する過程で一定量の水分を含むよう調湿する工程を経て導入されたものである。このようにごく少量の水分を本発明の有機溶媒分散体に含ませておくことで、有機溶媒中において酸化チタン粒子の凝集粒子の分散性が良好になる。これにより、長期間保存しても粘度の変化や粒子の沈降が起きにくくなる。発明者は、微量の水分が存在することで極性の有機溶媒又は増粘剤が酸化チタン凝集粒子に配位しやすくなったためと推測する。この推測は、本発明を限定するものではない。
【0030】
[本発明の有機溶媒分散体の製造方法]
本発明の分散体は、例えば、下記(A)~(D)の工程を含む製造方法によって製造することができる。
(A)酸化チタンスラリー生成工程
(B)粗粒除去工程
(C)凝集状態調整工程
(D)溶媒置換工程
【0031】
[(A)酸化チタンスラリー生成工程]
この工程は、酸化チタンスラリーを生成する工程である。なお、本発明におけるスラリーは、液体に粒子が混ざった懸濁体であって、ゾルやゲルも含まれる。酸化チタンスラリーは、例えば、チタン化合物を加水分解して無定形のオルソチタン酸を生成し、これに結晶化剤を添加した後、水熱処理する方法で得ることができる。
【0032】
チタン化合物としては、チタンハロゲン化物(四塩化チタン等)、チタン塩(硫酸チタン、及び硫酸チタニル等)及びチタンアルコキシド(チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、及びチタンテトライソプロポキシド等)を用いることもできる。これらのチタン化合物を溶液として用いることが好ましい。チタン化合物の溶液における溶媒は、水、有機溶媒、又はこれらの混合物であってもよい。また、チタン化合物の溶液には、必要によって、酸やアルカリといった加水分解を促進させる成分が予め含まれていてもよい。このとき、チタン化合物の濃度は、TiO換算で、1質量%以上20質量%以下の範囲にあることが好ましく、1質量%以上10質量%以下の範囲にあることがより好ましい。チタン化合物の濃度がこの範囲にあると、均一な一次粒子径を有する酸化チタン粒子を得ることができる。
【0033】
これらのチタン化合物の溶液を水の存在下で加水分解する場合、この溶液を撹拌しつつ、酸又はアルカリを徐々に添加し、最終的なpHを7以上13以下の範囲にすることが好ましい。このとき、最終的なpHは8以上10以下の範囲にあることがより好ましい。また、酸又はアルカリは、少なくとも1時間以上かけて前述のpHの範囲になるように添加することが好ましい。このように、チタン化合物の溶液のpHを徐々に変化させ、前述の範囲にすることで、最終的に得られる酸化チタンの一次粒子径のばらつきが小さくなる。酸化チタンの一次粒子径のばらつきが小さくなれば、酸化チタンの凝集粒子径のばらつきも小さくなりやすい。なお、この溶液の温度は、0℃以上60℃以下の範囲にあることが好ましく、30℃以上50℃以下の範囲にあることがより好ましい。前述の温度の範囲で加水分解を行うことで、酸化チタン粒子の一次粒子径及びそのばらつきがさらに小さくなる。発明者は、上記の条件で加水分解することで微細で大きさが整った無定形のオルソチタン酸が生成すると推測する。そして、これが後述の水熱処理によって結晶化して酸化チタン粒子になると発明者は推測する。これらの推測は、本発明を限定するものではない。
【0034】
前述の加水分解を行って得られた無定形のオルソチタン酸を含む溶液を水熱処理して酸化チタンスラリーを得ることができる。この場合、この溶液をオートクレーブ中で100℃以上250℃以下の温度の範囲で水熱処理することが好ましい。更に、前述の温度範囲で保持する時間は、2時間以上48時間以下の範囲にあることが好ましい。この保持時間が短すぎると酸化チタン粒子が十分に生成しないことがある。この保持時間が長すぎても経済性の観点から好ましくない。
【0035】
無定形のオルソチタン酸を含む溶液には、必要によって結晶化剤を加えてもよい。結晶化剤としては、NaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物、第4級アンモニウムハイドロオキサイド、アルコールアミン等の有機塩基性化合物を用いることができる。本発明では、有機塩基性化合物を用いることが好ましい。また、結晶化剤は、結晶化剤のモル数(M)と無定形のオルソチタン酸のTiO2換算モル数(M)との比(M/M)が、0.0001以上0.1以下の範囲となるように前記溶液に添加されることが好ましい。0.001以上0.01以下の範囲となるように添加されることがより好ましい。結晶化剤は酸化チタン粒子の結晶化を促進する働きがある。このため、その添加量が少なすぎると結晶化が不十分になることがある。また、水熱処理後の酸化チタンスラリーに含まれる結晶化剤は、必要によってイオン交換法や限外ろ過法等を用いて除去することができる。
【0036】
この工程で得られた酸化チタンスラリーは、pHが2以下の範囲にあることが好ましい。酸化チタンはpHが1付近にあると凝集を始めるので、この段階でpHを上記の範囲に調整し、酸化チタンの凝集粒子を作成する。このように、一度酸化チタンの凝集粒子を作成しておき、後述の工程で粗粒を除去した後、この凝集粒子を解膠、再凝集する。このことによって、大きさのばらつきが小さい酸化チタンの凝集粒子を得ることができる。pH調整剤としては、硝酸が好ましい。
【0037】
[(B)粗粒除去工程]
この工程は、前述の酸化チタンスラリー生成工程で得られた酸化チタンスラリーから、粗粒を除去する工程である。この粗粒は、酸化チタンスラリーに含まれる過度に成長した酸化チタン粒子や、大きい凝集粒子等で構成される。この粗粒は、本発明の有機溶媒分散体を長期間保存する際に悪影響を及ぼす。そこで、この工程では、酸化チタンスラリーのゼータ電位を測定して得られる粒度分布において、D100が1μm以下になるまで従来公知の方法を用いてこの粗粒を除去する。
【0038】
この工程では、粗粒を除去する従来公知の方法として、特定の目開きを有する篩やメッシュを通過させる方法、遠心分離法等を用いることができる。特に大きい粗粒に対しては、篩やメッシュを通過させる方法が有効である。これ以外の粗粒に対しては、遠心分離法が有効である。前述の粒度分布の程度によって、これらの方法を適切に使い分ければよい。また、1回で除去しきれない場合は、この工程を複数回繰り返してもよい。
【0039】
[(C)凝集状態調整工程]
この工程は、前述の粗粒除去工程で粗粒が除去された酸化チタンスラリーに含まれる酸化チタンの凝集粒子を解膠し、再凝集させる。これによって、酸化チタンの凝集粒子の大きさを整える工程である。
【0040】
この工程では、酸化チタンスラリーに含まれる酸化チタンの凝集粒子を解膠する方法として、酸化チタンスラリーのpHを0.5以上2以下の範囲、及びゼータ電位を40mV以上の範囲に調整する。その後、超音波処理等の分散処理を行う方法を用いることができる。酸化チタンのpH及びゼータ電位を前述の範囲に調整することで、まず酸化チタン粒子が分散しやすい環境を作る。次に、このように酸化チタン粒子が分散しやすい環境下で酸化チタン粒子を分散処理して、凝集した酸化チタン粒子を解膠する。分散処理の方法としては、ホモジナイザーやビーズミル等を用いる方法がある。例えば、高圧ホモジナイザー又は超音波ホモジナイザーを用いることができる。
【0041】
この工程では、前述の分散処理を行ったのち、解膠した酸化チタン粒子を再凝集させ、一定の大きさの凝集粒子に整える。このとき、酸化チタンスラリーのpH及びゼータ電位を前述の範囲より低くすることで、解膠した酸化チタン粒子を再凝集させることができる。
【0042】
[(D)溶媒置換工程]
この工程では、前述の凝集状態調整工程を経て得られた酸化チタンスラリー中に含まれる水を有機溶媒に置換する工程である。
【0043】
酸化チタンスラリー中に含まれる水を有機溶媒に置換する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、酸化チタンスラリーを遠心分離して、発生した上澄み液を除いた後に、所定の有機溶媒を加えるという方法を用いることができる。また、このような操作を繰り返すことで、有機溶媒分散体中の有機溶媒の純度をより高めることができる。別の方法として、エタノール等の極性の有機溶媒で置換した後に、所定の有機溶媒を加え、その後ロータリーエバポレーターや真空乳化器を用いて極性の有機溶媒を除去する方法を用いることができる。また、このような方法を用いれば、有機溶媒の純度をさらに高めることができる。なお、増粘剤を添加する場合は、有機溶媒中で置換した後に添加することが好ましい。また、各方法で有機溶媒に置換した後は、超音波処理やホモジナイザー処理といった分散処理を行うことが好ましい。ただし、この分散処理は、凝集粒子を有機溶媒中に分散させる程度の強度で行う。このような溶媒置換処理を経て、有機溶媒分散体が得られる。
【0044】
前述の工程を経て得られた有機溶媒分散体に、ごく微量の水分を加えることで、有機溶媒分散体を長期間保存した際の粘度の変化をさらに抑制することができる。これは、単に有機溶媒分散体に水滴を添加したり、霧吹きを用いて水分を噴霧する方法ではなく、大気中の水分を利用して吸湿させる方法を用いる。大気中の水分を利用する方法は、ごく微量の水分を有機溶媒分散体に添加できる。このような方法を用いることで、有機溶媒分散体中に均一に水分を分散させることができる。具体的には、恒温恒湿槽において、有機溶媒分散体を露出した状態で混練する。このとき、槽内の湿度がどれだけ低下したかで、有機溶媒分散体に吸収された水分量をコントロールする。なお、前述の霧吹きを用いる方法等では、有機溶媒分散体中で水が偏析する。このため、有機溶媒分散体を長期間保存した際に粘度の変化が大きくなる。
【実施例
【0045】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施範囲に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
[(A)酸化チタンスラリー生成工程]
純水を限外ろ過してUF水を得た。このUF水は、反応容器において、40℃に加熱した。この加熱したUF水に四塩化チタン水溶液(大阪チタニウムテクノロジーズ製、TiO換算濃度:28.2質量%)を添加し、TiO換算濃度が約4質量%の四塩化チタン水溶液を得た。この四塩化チタン水溶液に、最終的に得られる無定形のオルソチタン酸を含む水溶液のpHが8.6となるようにアンモニア水溶液(NH濃度15質量%)を一定の速度で1時間かけて添加し、その後1時間撹拌し、無定形のオルソチタン酸を含む溶液を得た。この溶液を遠心分離して得られたケーキを、50℃に加熱したUF水で洗浄した。この洗浄したケーキにUF水を添加し、TiO換算濃度が7質量%の無定形のオルソチタン酸を含む溶液を得た。この溶液に、水酸化テトラメチルアンモニウム(多摩化学社製、濃度:25質量%)を添加し、この溶液に含まれる無定形オルソチタン酸のTiO換算モル数(M)と結晶化剤のモル数(M)とのモル比(M/M)が0.002である溶液を得た。この溶液を、オートクレーブを用いて、150℃で15時間加熱し、続けて190℃で2時間加熱し、酸化チタンスラリーを得た。この酸化チタンスラリーにUF水を添加し、TiO換算濃度が2.56質量%の酸化チタンスラリーを得た。この酸化チタンスラリーに硝酸(濃度:61質量%)を加え、pHが1.5の酸化チタンスラリーを得た。このスラリーをイオン交換して、水酸化テトラメチルアンモニウムを除去した。このスラリーは、TiO換算濃度が21質量%となるまで、限外濃縮法を用いて濃縮した。このときに発生した濾水は、後述の粗粒除去工程で濃度調整用の溶液として、保存した。
【0047】
[(B)粗粒除去工程]
前述の酸化チタンスラリー調製工程で得た酸化チタンスラリーを2800rpmで10分間遠心分離した。このスラリーから遠心分離により発生したケーキを除去し、残った上澄みにTiO換算濃度が20質量%となるまで前述の濾水を添加した。更に、このスラリーを6500rpmで10分間遠心分離した。このスラリーから遠心分離により発生したケーキを除去した。この操作によって酸化チタンスラリーから粗粒を除去した。
【0048】
[(C)凝集状態調整工程]
前述の粗粒除去工程で得た酸化チタンスラリーに塩酸(濃度:15質量%)を添加した。このとき、このスラリーのpHは1.1であり、そのゼータ電位は42mVであった。このスラリーを出力(300W、19.5kHz)で5分間超音波処理した。この超音波処理したスラリーに、硝酸(濃度:61質量%)を添加した。このとき、スラリーのpHは1.0であった。このスラリーは出力(300W、19.5kHz)で5分間超音波処理した。この工程を経て得られた酸化チタンスラリーのpHは1.0であり、そのゼータ電位は34mVであった。
【0049】
[(D)溶媒置換工程]
前述の凝集状態調整工程を経て得た酸化チタンスラリーにエタノールを添加した。このエタノールを添加した酸化チタンスラリーを、3000rpmで10分間遠心分離した。このとき遠心分離により発生した上澄みを除去し、残ったケーキにエタノールを添加した。その後、これを出力(300W、19.5kHz)で10分間超音波処理した。さらにこの工程(遠心分離、エタノール添加、超音波処理)を2回繰り返した。これを10000rpmで3分間ホモミキサ―処理し、エタノール分散体を得た。このエタノール分散体に、エチルセルロース(シグマアルドリッチ社製)、ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)及びブチルカルビトール(関東化学社製、製品名:2-(2-n-ブトキシエトキシ)エタノール)を添加した。更に、この分散体を、10000rpmで3分間ホモミキサ―処理し、その後、出力(300W、19.5kHz)で10分間超音波処理した。このホモミキサ―処理及び超音波処理を合計3回繰り返した。この分散体は、エバポレーター及び真空乳化器によってエタノールを除去し、酸化チタンを含むペーストを得た。25℃、湿度57%の恒温恒湿槽内において、この酸化チタンを含むペーストを3本ロール上で30分間以上混練した。このとき、恒温恒湿槽内の湿度は35%まで低下し、酸化チタンを含むペーストに一定量の水分が添加され、最終的に有機溶媒分散体を得た。
【0050】
[実施例2]
粗粒除去工程において酸化チタンスラリーを13000rpmで10分間遠心分離したこと、以外は実施例1と同様の方法で有機溶媒分散体を得た。この有機溶媒分散体の性状は、表1に示される。
【0051】
[実施例3]
粗粒除去工程において酸化チタンスラリーを13000rpmで100分間遠心分離したこと、以外は実施例1と同様の方法で有機溶媒分散体を得た。この有機溶媒分散体の性状は、表1に示される。
【0052】
[実施例4]
粗粒除去工程において酸化チタンスラリーを13000rpmで180分間遠心分離したこと、以外は実施例1と同様の方法で有機溶媒分散体を得た。この有機溶媒分散体の性状は、表1に示される。
【0053】
[実施例5]
粗粒除去工程において酸化チタンスラリーを13000rpmで240分間遠心分離したこと、以外は実施例1と同様の方法で有機溶媒分散体を得た。この有機溶媒分散体の性状は、表1に示される。
【0054】
[比較例1]
凝集状態調整工程において酸化チタンスラリーに塩酸(濃度:15質量%)を添加しなかったこと、溶媒置換工程において恒温恒湿槽を用いなかったこと、以外は実施例1と同様の方法で有機溶媒分散体を得た。この有機溶媒分散体の性状は、表1に示される。
【0055】
[酸化チタンの一次粒子径・アスペクト比測定]
前述の凝集状態調整工程を経て得られた酸化チタンスラリーを用いて、酸化チタンの一次粒子を測定した。酸化チタンスラリーは、凝集状態調整工程後、溶媒置換工程のエタノール添加前に、20mLスポイトを用いて、容器中央部のスラリー表面から液体とともに10mLを吸い取って1回採取した。これをエタノール20mLに分散させた。攪拌しながら別の5mLスポイトを用いて、2mL採取し、透過型電子顕微鏡の試料台に滴下し、溶媒を自然蒸発させた。その後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM1400)を用いて、酸化チタンの一次粒子を観察できる倍率で、試料の中央部を撮影した。そして、画像中央部にある300個の酸化チタンの一次粒子について、すべての長径と短径を定規で測定した。測定したすべての長径・短径を合計した値を300で除し、酸化チタンの一次粒子径を決定した。また、酸化チタンのアスペクト比(長径/短径)を決定した。
【0056】
[凝集粒子径の測定]
前述の凝集状態調整工程を経て得られ、溶媒置換工程におけるエタノール添加前の酸化チタンスラリーを用いて、凝集粒子径の測定を行った。具体的には、酸化チタンスラリー中の酸化チタンの濃度が20質量%、ゼータ電位を40mV以上45mV以下の範囲に調整した状態で、ゼータ電位測定装置(大塚電子社製、ELSZ-2000)を用いて、その粒度分布(体積基準)を測定した。この粒度分布から、10%頻度の粒子径(D10)、50%頻度の粒子径(D50)、90%頻度の粒子径(D90)を算出した。その結果を表1に示した。なお、有機溶媒分散体から酸化チタン粒子を取り出した後、これを水に再分散させる方法でも測定することができる。このとき、酸化チタンの濃度が10質量%、ゼータ電位が40mV以上45mV以下の範囲になるように溶媒を調整する。
【0057】
[粘度測定]
有機溶媒分散体の粘度(初日)を以下の条件で測定した。なお、この粘度は、有機溶媒分散体の調製が完了してから1日以内に測定した。
粘度計:型式RheoStress3000
ローター:型式C35/1Ti
恒温槽温度:30±1℃
サンプル量:1g
せん断速度:0~100(1/s)で変化させる
粘度 :せん断速度が4.2の時のせん断応力から算出。
【0058】
[粘度の経時変化評価]
有機溶媒分散体を、冷暗所(10℃)で90日間保管した。その後、前述の条件で有機溶媒分散体の粘度(90日後)を測定した。前述の粘度測定で得られた粘度(初日)および粘度(90日後)の値を用い、次の式から粘度の変化率を算出した。
粘度の変化率[%]=|粘度(初日)-粘度(90日後)|/粘度(初日)×100
【0059】
【表1】
図1