(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】電力変換制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H02M7/12 Q
(21)【出願番号】P 2020089878
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久野村 健
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊匡
(72)【発明者】
【氏名】佐▲藤▼ 賢司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 俊彰
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/175684(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/070815(WO,A1)
【文献】特開2017-188990(JP,A)
【文献】特開2005-304156(JP,A)
【文献】特開2005-073345(JP,A)
【文献】特開2019-165522(JP,A)
【文献】米国特許第05923550(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00~ 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線から入力された交流電力を電力変換するように構成された電力変換装置に、目的とする有効電力及び目的とする無効電力が入力されるように、パルス幅変調回路を介して前記電力変換装置を制御する電力変換制御装置であって、
架線電圧の検出値に基づいて力率を設定するように構成された力率設定部と、
前記電力変換装置に前記有効電力を入力するための有効電流指令値に、前記力率の力率角の正接を乗じることで、初期指令値を算出するように構成された算出部と、
前記算出部により算出された前記初期指令値に基づいて、前記電力変換装置に前記無効電力を入力するための無効電流指令値を算出し、前記パルス幅変調回路へ前記無効電流指令値を出力するように構成された無効処理部と、
前記有効電流指令値を前記パルス幅変調回路へ出力するように構成された出力部と、
を備え、
前記力率設定部は、
前記検出値に対する1次遅れ制御によって得られる電圧指令値から前記検出値を減じた電圧差を算出するように構成された前処理部
と、
前記電圧差がゼロの場合は予め定められた基準値を前記力率として設定し、前記電圧差が正の場合は、前記電圧差の絶対値に比例した第1調整値を前記基準値から減じた値を前記力率として設定し、前記電圧差が負の場合は、前記電圧差の絶対値に比例した第2調整値を前記基準値に加えた値を前記力率として設定するように構成された後処理部と、
を有する、
ように構成される、電力変換制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の電力変換制御装置であって、
前記前処理部は、前記電圧指令値が予め定められた上限指令値を超える場合は、前記電圧指令値を前記上限指令値に置き換えて前記電圧差を算出し、前記電圧指令値が予め定められた下限指令値未満の場合は、前記電圧指令値を前記下限指令値に置き換えて前記電圧差を算出するように構成され、
前記後処理部は、前記電圧差が正の場合は、前記電圧差及び予め定められた上限電圧差のうち小さい方に第1係数を乗じた値を前記第1調整値とし、前記電圧差が負の場合は、前記電圧差及び予め定められた下限電圧差のうち大きい方に第2係数を乗じた値を前記第2調整値とするように構成される、電力変換制御装置。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載の電力変換制御装置であって、
前記算出部により算出された前記初期指令値に
1次遅れ処理をして第1ゲイン値を乗ずるように構成された遅れ要素と、
前記算出部により算出された前記初期指令値に第2ゲイン値を乗ずるように構成された比例要素であって、前記第2ゲイン値と前記第1ゲイン値との和は1である、比例要素と、
前記遅れ要素の出力値と前記比例要素の出力値とを足し合わせた値を、第1指令値として出力するように構成された加算部と、を含む調整部をさらに備え、
前記無効処理部は、前記調整部から出力された前記第1指令値に基づいて、前記無効電流指令値を算出するように構成されている、
電力変換制御装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の電力変換制御装置であって、
前記有効電流指令値の大きさに応じて第1上限値を設定するように構成された上限値設定部と、
前記調整部から前記第1指令値が入力されると共に、入力された前記第1指令値、前記第1上限値、及び予め定められた第2上限値のうち、最も小さい値を、第2指令値として出力するように構成された制限部と、をさらに備え、
前記無効処理部は、前記制限部から出力された前記第2指令値に基づいて、前記無効電流指令値を算出するように構成されている、
電力変換制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
架線から交流電流を集電して走行する列車では、電力変換装置によって交流電力を電力変換して主電動機に供給する。架線を含む鉄道のき電回路では、列車を構成する車両の消費電力に応じて電圧が降下する。この電圧降下は、車両のさらなる消費電流の増加を招くため、電圧降下がさらに促進される。その結果、車両の推進力が不十分となるおそれがある。
【0003】
そこで、き電回路の電圧降下を補償するために、電力変換装置において無効電流を消費する第1の方法が考案されている(特許文献1参照)。第1の方法では、電力変換制御装置の交流電圧制御によって調整された無効電流指令値が、電力変換装置に入力される。
【0004】
また、力率を固定し、有効電力に応じて無効電力を決定する第2の方法も知られている(特許文献2参照)。第2の方法では、電力変換装置の連系点の電圧を電力変換制御装置に入力し、有効電力と無効電力とを決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-188990号公報
【文献】特許第4568111号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の第1の方法では、架線電圧として各車両の主変圧器における3次電圧を利用して交流電圧制御を行っている。そのため、3次電圧の取得値が各車両によってバラつくと、各車両の無効電力が不平衡となるおそれがある。
【0007】
また、上述の第2の方法では、電力変換制御装置が出力する進相無効電流指令値で有効電流指令値が決定されるため、有効電力の設定が制約される。そのため、車両の走行性能に支障が生じるおそれがある。
【0008】
本開示の一局面は、車両の走行性能を維持しつつ、複数の電力変換制御装置間の無効電力のバラつきを抑えられる電力変換制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、架線から入力された交流電力を電力変換すると共に、有効電力と無効電力とを消費するように構成された電力変換装置を制御する電力変換制御装置である。電力変換制御装置は、架線電圧の検出値に基づいて力率を設定するように構成された力率設定部と、電力変換装置に有効電力を消費させる有効電流指令値に、力率の力率角の正接を乗じることで、電力変換装置に無効電力を消費させる無効電流指令値を算出するように構成された算出部と、を備える。
【0010】
力率設定部は、検出値が予め定められた基準範囲内の場合は予め定められた基準値を力率として設定し、検出値が基準範囲より小さい場合は基準値よりも小さい値を力率として設定し、検出値が基準範囲より大きい場合は基準値よりも大きい値を力率として設定するように構成される。
【0011】
このような構成によれば、有効電力の設定が制約されないため、車両の走行性能が維持される。また、架線電圧の検出値の範囲に応じて設定される力率を使用して無効電流指令値が算出されるため、複数の電力変換制御装置間の無効電力のバラつきが抑制される。
【0012】
さらに、検出値が基準範囲よりも小さい場合に力率が小さくされ、かつ検出値が基準範囲よりも大きい場合に力率が大きくされることで、き電用の変電所の高負荷時におけるき電回路の電圧を安定させることができると共に、変電所の低負荷時におけるき電回路の過電圧を抑制できる。
【0013】
本開示の一態様は、算出部が算出した無効電流指令値を遅れさせるように構成された遅れ要素を含む調整部をさらに備えてもよい。このような構成によれば、き電回路の電圧の安定化を促進させることができる。
【0014】
本開示の一態様は、有効電流指令値の大きさに応じて第1上限値を設定するように構成された上限値設定部と、無効電流指令値が入力されると共に、入力された無効電流指令値、第1上限値、及び予め定められた第2上限値のうち、最も小さい値を新たな無効電流指令値として出力するように構成された制限部と、をさらに備えてもよい。このような構成によれば、電力変換装置における有効電力の消費を優先させることができる。そのため、車両の走行を安定させることができる。
【0015】
本開示の一態様では、力率設定部は、検出値に対する1次遅れ制御によって得られる電圧指令値から検出値を減じた電圧差を算出するように構成された前処理部と、電圧差がゼロの場合は基準値を力率として設定し、電圧差が正の場合は、電圧差の絶対値に比例した第1調整値を基準値から減じた値を力率として設定し、電圧差が負の場合は、電圧差の絶対値に比例した第2調整値を基準値に加えた値を力率として設定するように構成された後処理部と、を有してもよい。このような構成によれば、架線電圧の検出値に応じた力率の設定を的確に行うことができる。
【0016】
本開示の一態様では、前処理部は、電圧指令値が予め定められた上限指令値を超える場合は、上限指令値を電圧指令値として電圧差を算出し、電圧指令値が予め定められた下限指令値未満の場合は、下限指令値を電圧指令値として電圧差を算出するように構成されてもよい。後処理部は、電圧差が正の場合は、電圧差及び予め定められた上限電圧差のうち小さい方に第1係数を乗じた値を第1調整値とし、電圧差が負の場合は、電圧差及び予め定められた下限電圧差のうち大きい方に第2係数を乗じた値を第2調整値とするように構成されてもよい。このような構成によれば、力率が過大又は過小となることが抑制されるため、き電回路の電圧の安定化を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態における主回路システムの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、
図1の主回路システムにおける電力変換制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2とは異なる実施形態における電力変換制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図4】
図4Aは、従来の電力変換制御装置が出力する無効電流指令値の一例を示すグラフであり、
図4Bは、
図2の電力変換制御装置が出力する無効電流指令値の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す主回路システム100は、列車を構成する複数の車両それぞれに設置されている。ただし、列車を構成する全ての車両に主回路システム100が設置される必要はない。
【0019】
主回路システム100は、パンタグラフ101と、主変圧器102と、電力変換装置103と、逆変換装置104と、主電動機105と、架線電圧検出部106と、PWM回路107と、電力変換制御装置1とを備える。
【0020】
<パンタグラフ>
パンタグラフ101は、架線200から交流電力を集電する公知の装置である。パンタグラフ101は、架線200に摺動する。
【0021】
<主変圧器>
主変圧器102は、パンタグラフ101が集電した交流電力を減圧して電力変換装置103へ供給するように構成されている。
【0022】
主変圧器102は、一次巻線102Aと、二次巻線102Bと、三次巻線102Cとを有する。一次巻線102Aには、パンタグラフ101から交流電力が入力される。二次巻線102Bは、交流電力を減圧した二次出力電力を電力変換装置103へ出力する。三次巻線102Cは、交流電力を減圧した三次出力電力を補助回路システム(図示省略)へ供給する。
【0023】
<電力変換装置>
電力変換装置103は、二次出力電力を直流電力に電力変換するように構成されている。本実施形態の電力変換装置103は、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)コンバータである。
【0024】
電力変換装置103は、後述する電力変換制御装置1が出力する有効電流指令値及び無効電流指令値に基づいて、有効電力と無効電力とを消費するように構成されている。
【0025】
<逆変換装置>
逆変換装置104は、電力変換装置103から出力される直流電力を三相交流電力に変換して主電動機105に出力するように構成されている。本実施形態の逆変換装置104は、いわゆるVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)インバータ又はVFD(Variable-Frequency Drive)インバータである。
【0026】
<主電動機>
主電動機105は、車両の走行動力源であり、車両の車輪を回転させる。本実施形態の主電動機105は、三相誘導電動機である。
【0027】
<架線電圧検出部>
架線電圧検出部106は、架線200からパンタグラフ101に入力された電圧の大きさを検出するように構成されている。
【0028】
具体的には、架線電圧検出部106は、主変圧器102の三次巻線102Cから出力される三次出力電力を架線電圧検出値Vtr1[pu]として検出し、電力変換制御装置1に出力する。
【0029】
架線電圧検出値Vtr1は、主変圧器102の1次電圧(つまり架線電圧)の推定値であり、架線電圧の真値とは必ずしも一致しない。なお、架線電圧検出値Vtr1は、架線電圧検出部106においてpu単位系に変換されてもよいし、電力変換制御装置1においてpu単位系に変換されてもよい。
【0030】
<PWM回路>
PWM(Pulse Width Modulation)回路107は、電力変換制御装置1から入力される有効電流指令値Pref[pu]及び無効電流指令値Qref[pu]に基づいて、電力変換装置103を制御する。
【0031】
具体的には、PWM回路107は、電力変換装置103の複数のスイッチング素子を制御することで、有効電流指令値Prefに対応する有効電流と、無効電流指令値Qrefに対応する進相無効電流とを電力変換装置103において消費させる。
【0032】
有効電流指令値Prefは、電力変換装置103の定格入力電流値を基準として、有効電力に応じた有効電流を規格化したものである。有効電流指令値Prefは、電力変換装置103に目的とする有効電力を消費させる(つまり電力変換装置103に目的とする有効電力を入力する)ための指令値である。有効電力は、車両の走行に必要な電力、つまり逆変換装置104及び主電動機105を含む負荷へ供給すべき電力である。
【0033】
無効電流指令値Qrefは、電力変換装置103の定格入力電流値を基準として、無効電力に応じた無効電流を規格化したものである。無効電流指令値Qrefは、電力変換装置103に目的とする無効電力を消費させる(つまり電力変換装置103に目的とする進相無効電力を入力する)ための指令値である。
【0034】
<電力変換制御装置>
電力変換制御装置1は、電力変換装置103を制御する。
図2に示すように、電力変換制御装置1は、指令値生成部2と、力率設定部3と、算出部4と、調整部5と、上限値設定部6と、制限部7と、無効処理部8とを備える。
【0035】
電力変換制御装置1は、制御プログラムによって各部の機能を実行するコンピュータで構成されてもよいし、コンピュータと論理回路又はアナログ回路との組み合わせによって構成されてもよい。
【0036】
(指令値生成部)
指令値生成部2は、有効電力に応じて決定される有効電流指令値Prefを生成するように構成されている。
【0037】
指令値生成部2は、電力変換装置103と逆変換装置104との間に配置された変換装置電圧検出部108(
図1参照)が検出する電力変換装置103の出力電圧検出値Vcon[pu]に基づいて、有効電流指令値Prefを生成する。
【0038】
具体的には、指令値生成部2は、電力変換装置103の出力電圧が定格値に維持されるように、出力電圧検出値Vconが小さくなるほど生成する有効電流指令値Prefを大きくする。
【0039】
また、指令値生成部2は、列車のノッチの状態に応じて有効電流指令値Prefを生成してもよい。例えば、指令値生成部2は、ノッチが上がるほど生成する有効電流指令値Prefを大きくしてもよい。
【0040】
(力率設定部)
力率設定部3は、架線電圧検出値Vtr1に基づいて力率cosφ1を設定するように構成されている。力率設定部3は、前処理部31と、後処理部32とを有する。
【0041】
前処理部31は、架線電圧検出値Vtr1に対する1次遅れ制御によって得られる電圧指令値Vref[pu]から架線電圧検出値Vtr1を減じた電圧差ΔV[pu]を算出して後処理部32に出力するように構成されている。
【0042】
具体的には、前処理部31は、まず、時定数Ttr1を有しゲインが1である1次遅れフィルタ(つまり1次遅れ要素)で架線電圧検出値Vtr1を処理し、上限指令値Vrefmax[pu]と下限指令値Vrefmin[pu]とでリミットした値を電圧指令値Vrefとする。次に、前処理部31は、電圧指令値Vrefから架線電圧検出値Vtr1を減ずることで、電圧差ΔVを算出する。
【0043】
つまり、前処理部31は、1次遅れ制御で得た電圧指令値Vrefが予め定められた上限指令値Vrefmaxを超える場合は、上限指令値Vrefmaxを電圧指令値Vrefとして電圧差ΔVを算出する。また、前処理部31は、1次遅れ制御で得た電圧指令値Vrefが予め定められた下限指令値Vrefmin未満の場合は、下限指令値Vrefminを電圧指令値Vrefとして電圧差ΔVを算出する。
【0044】
後処理部32は、前処理部31が算出した電圧差ΔVに基づいて、力率cosφ1を出力するように構成されている。
【0045】
後処理部32は、電圧差ΔVがゼロの場合は予め定めた基準値cosφ0を力率cosφ1として設定する。また、後処理部32は、電圧差ΔVが正の場合は、電圧差ΔVの絶対値に比例した第1調整値を基準値cosφ0から減じた値を力率cosφ1として設定する。さらに、後処理部32は、電圧差ΔVが負の場合は、電圧差ΔVの絶対値に比例した第2調整値を基準値cosφ0に加えた値(つまり1に近づけた値)を力率cosφ1として設定する。
【0046】
具体的には、後処理部32は、電圧差ΔVが正の場合は、電圧差ΔV及び予め定められた上限電圧差ΔVmax[pu]のうち小さい方に第1係数Kpf1を乗じた(つまり比例処理した)値を第1調整値とする。
【0047】
また、後処理部32は、電圧差ΔVが負の場合は、電圧差ΔV及び予め定められた下限電圧差ΔVmin[pu]のうち大きい方に第2係数Kpf2を乗じた(つまり比例処理した)値を第2調整値とする。第1係数Kpf1及び第2係数Kpf2は、それぞれ、力率を調整するためのゲインである。
【0049】
(算出部)
算出部4は、指令値生成部2が生成した有効電流指令値Prefに、力率cosφ1の力率角φ1の正接tanφ1を乗じることで、初期無効電流指令値Qref0[pu]を算出するように構成されている。
【0050】
初期無効電流指令値Qref0は、最終的に無効電流指令値Qrefに変換されて、PWM回路107に出力される。つまり、初期無効電流指令値Qref0は、無効電流指令値Qrefの一形態である。
【0051】
(調整部)
調整部5は、遅れ要素51と、比例要素52とを含む。遅れ要素51は、算出部4が算出した初期無効電流指令値Qref0の応答を遅れさせるように構成されている。遅れ要素51は、時定数Ttr2及び遅れゲインKtr1を有する1次遅れフィルタである。
【0052】
比例要素52は、初期無効電流指令値Qref0に比例ゲインKptr1を乗ずるように構成されている。遅れ要素51の遅れゲインKtr1と、比例要素52の比例ゲインKptr1との和は1である。
【0053】
調整部5は、初期無効電流指令値Qref0を遅れ要素51によって1次遅れ処理した値と、初期無効電流指令値Qref0を比例要素52によって比例処理した値とを足し合わせた値を、第1無効電流指令値Qref1[pu]として出力する。
【0054】
(上限値設定部)
上限値設定部6は、有効電流指令値Prefの大きさに応じて無効電流指令値Qrefの第1上限値Qrefmax1[pu]を設定するように構成されている。
【0055】
第1上限値Qrefmax1は、電力変換装置103における有効電流指令値Prefに応じた有効電力の消費を優先しつつ、電力変換装置103に入力される全電流を定格入力電流値以下に抑えるために設定される。
【0056】
具体的には、上限値設定部6は、下記式(1)によって第1上限値Qrefmax1を決定する。
Qrefmax1=(1-Pref2)1/2 ・・・(1)
【0057】
(制限部)
制限部7は、第1無効電流指令値Qref1が入力されると共に、第2無効電流指令値Qref2[pu]を出力するように構成されている。
【0058】
制限部7は、調整部5から入力された第1無効電流指令値Qref1、上限値設定部6から入力された第1上限値Qrefmax1、及び予め定められた第2上限値Qrefmax2[pu]のうち、最も小さい値を新たな無効電流指令値(つまり第2無効電流指令値Qref2)として出力する最小値選択回路LVGである。
【0059】
第2上限値Qrefmax2は、無効電流指令値Qrefのリミッタである。無効電流指令値Qrefをリミットする必要がない場合は、第2上限値Qrefmax2は、1とされる。
【0060】
(無効処理部)
無効処理部8は、第2無効電流指令値Qref2に無効電流指令値無効化信号Qrefoff[pu]を乗じた値を無効電流指令値Qrefとして出力するように構成されている。
【0061】
無効電流指令値無効化信号Qrefoffは、電力変換装置103が回生運転する場合、地上側の設備によって電圧降下補償が可能な区間に車両が存在する場合等にゼロとされ、電力変換制御装置1による電圧降下補償が必要な場合は1とされる。
【0062】
無効処理部8から出力された無効電流指令値Qrefは、指令値生成部2から出力された有効電流指令値Prefと共に、PWM回路107に入力される。
【0063】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)力率に基づいて無効電流指令値を設定することで、有効電力の設定が制約されないため、車両の走行性能が維持される。また、架線電圧の検出値の範囲に応じて設定される力率を使用して無効電流指令値が算出されるため、複数の電力変換装置103間の無効電力のバラつきが抑制される。
【0064】
さらに、検出値が基準範囲よりも小さい場合に力率が小さくされ、かつ検出値が基準範囲よりも大きい場合に力率が大きくされることで、き電用の変電所の高負荷時におけるき電回路の電圧を安定させることができると共に、変電所の低負荷時におけるき電回路の過電圧を抑制できる。
【0065】
(1b)調整部5によって、き電回路の電圧の安定化を促進させることができる。
(1c)上限値設定部6及び制限部7によって、電力変換装置103における有効電力の消費を優先させることができる。そのため、車両の走行を安定させることができる。
【0066】
(1d)前処理部31における1次遅れ制御を利用した電圧差の算出と、後処理部32における比例制御を利用した第1調整値及び第2調整値の算出とによって、架線電圧の検出値に応じた力率の設定を的確に行うことができる。
【0067】
(1e)前処理部31及び後処理部32それぞれにおいてリミット制御を行うことで、力率が過大又は過小となることが抑制されるため、き電回路の電圧の安定化を促進させることができる。
【0068】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0069】
(2a)上記実施形態の電力変換制御装置1は、必ずしも上限値設定部6を備えなくてもよい。例えば、
図3に示す電力変換制御装置1では、制限部7は、第1無効電流指令値Qref1、及び第2上限値Qrefmax2のうち、最も小さい値を第2無効電流指令値Qref2として出力する。
【0070】
第2上限値Qrefmax2を適切に設定することによって電力変換装置103における有効電力の消費が制限されない場合には、
図3のように上限値設定部6を省略することで、電力変換制御装置1の演算負荷を低減できる。
【0071】
(2b)上記実施形態の電力変換制御装置1において、力率設定部3は、架線電圧の検出値の大きさに基づいて力率の大きさを調整できるものであれば、上述した回路又は構成に限定されない。
【0072】
(2c)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0073】
[3.実施例]
以下に、本開示の効果を確認するために行った解析例の内容とその評価とについて説明する。
【0074】
<比較例>
図4Aに、特開2017-188990号公報に開示された電力変換制御装置から出力される無効電流指令値の継時変化の一例を示す。
【0075】
図4A中、実線は主変圧器における架線電圧の検出値が真値の-3%であるケース、破線は架線電圧の検出値が真値の-1.5%であるケース、一点鎖線は架線電圧の検出値が真値と同値であるケース、二点鎖線は架線電圧の検出値が真値の+2%であるケースである。
【0076】
図4Aに示されるように、架線電圧の検出値のバラつきによって、無効電流指令値が不平衡になる。また、検出値が真値の-3%及び-1.5%のケースでは、無効電流指令値が上限値に到達している。
【0077】
<実施例>
図4Bに、
図2に示す電力変換制御装置1から出力される無効電流指令値の継時変化の一例を示す。
【0078】
図4Bには、
図4Aと同じ4つのケースのグラフが図示されている。
図4Bでは、4つのケースにおける無効電流指令値が平衡化されている。つまり、架線電圧の検出値のバラつきによる無効電流指令値の不平衡が抑制されている。
【符号の説明】
【0079】
1…電力変換制御装置、2…指令値生成部、3…力率設定部、4…算出部、
5…調整部、6…上限値設定部、7…制限部、8…無効処理部、31…前処理部、
32…後処理部、51…遅れ要素、52…比例要素、100…主回路システム、
101…パンタグラフ、102…主変圧器、102A…一次巻線、
102B…二次巻線、102C…三次巻線、103…電力変換装置、
104…逆変換装置、105…主電動機、106…架線電圧検出部、
107…PWM回路、108…変換装置電圧検出部、200…架線。