(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】バイオディーゼル燃料の析出物溶解剤
(51)【国際特許分類】
C10L 1/222 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
C10L1/222
(21)【出願番号】P 2020109596
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591125289
【氏名又は名称】日本ケミカル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】青柳 健
(72)【発明者】
【氏名】倉品 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】村本 智志
(72)【発明者】
【氏名】山口 和則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 繁彦
(72)【発明者】
【氏名】木月 一善
(72)【発明者】
【氏名】松永 真明
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-503040(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01227143(EP,A1)
【文献】特開2014-012831(JP,A)
【文献】特開2014-065848(JP,A)
【文献】特開昭54-083911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L
C10M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸モノグリセライドが析出したバイオディーゼル燃
料に添加される溶解剤であって、
組成成分
が、下記の式1で表されるアミン化合物
からなり、
前記バイオディーゼル燃料の中の前記脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途で、前記バイオディーゼル燃料の総体積に対する前記アミン化合物の濃度が0.05~10容量パーセントとなるように添加されるものであり、
式1中の置換基Rが、1~18個の炭素を有する炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基であって、
式1中の添字aと添字bとの和が、0~7である
ことを特徴とする、バイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【化1】
【請求項2】
脂肪酸モノグリセライドが析出したバイオディーゼル燃料の中に
、前記脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途で前記バイオディーゼル燃料に添加される溶解剤であって、
組成成分
が、下記の式2で表されるアミン化合物
からなり、
式2中の置換基Rが、1~18個の炭素を有する炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基であって、
式2中の添字aと添字bと添字cとの和が0~7である
ことを特徴とする、バイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【化2】
【請求項3】
脂肪酸モノグリセライドが析出したバイオディーゼル燃料の中に
、前記脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途で前記バイオディーゼル燃料に添加される溶解剤であって、
組成成分
が、下記の式3で表されるアミド化合物
からなり、
式3中の置換基Rが、12~18個の炭素を有する炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基であって、
式3中の添字aと添字bとの和が、0~7である
ことを特徴とする、バイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【化3】
【請求項4】
前記組成成分として、鎖式もしくは環式の炭化水素構造を持つアミン化合物、または、鎖式もしくは環式の炭化水素構造を持つアミド化合物を含む
ことを特徴とする、請求項1
~3の何れか一項に記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【請求項5】
前記バイオディーゼル燃料の総体積に対
する前記アミン化合物または前記アミド化合物の濃度が0.05~10容量パーセント
となるように添加される
ことを特徴とする、請求項
2又は3記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【請求項6】
前記バイオディーゼル燃料が、脂肪酸メチルエステルと軽油との混合物であり、
前記脂肪酸メチルエステルが、前記バイオディーゼル燃料の総質量に対して0.2質量パーセント以上含まれ、
前記脂肪酸モノグリセライドが、前記バイオディーゼル燃料の総質量に対して0.04質量パーセント以上含まれる
ことを特徴とする、請求項1~
5のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【請求項7】
前記アミン化合物が、ブチルエタノールアミンを含む
ことを特徴とする、請求項
1記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【請求項8】
前記アミン化合物が、ラウリルエタノールアミンを含む
ことを特徴とする、請求項
1記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【請求項9】
前記アミン化合物が、ヘキシルアミンを含む
ことを特徴とする、請求項
1記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【請求項10】
前記アミン化合物が、ポリオキシエチレン牛脂プロピレンジアミンであって、エチレンオキシドの付加モル数が3であるものを含む
ことを特徴とする、請求項
2記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【請求項11】
前記アミド化合物が、パーム核油油脂脂肪酸ジエタノールアミドを含む
ことを特徴とする、請求項
3記載のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオディーゼル燃料中に析出する脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途で添加される析出物溶解剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化防止の観点から、生物由来のバイオディーゼル燃料(Bio Diesel Fuel,BDF,登録商標)を普及させるための政策が世界各国で導入されている。例えば欧州では、再生可能エネルギー指令(RED,Renewable Energy Directive)に基づく法規制がEU加盟各国で推進され、バイオディーゼル燃料の利用が促進されている。また、原材料を生産する中南米や東アジアにおいては、バイオディーゼル燃料の輸出量が増加しており、バイオディーゼル燃料の利用は拡大するものと予想されている。
【0003】
バイオディーゼル燃料は、触媒としてのアルカリ(例えば水酸化カリウム)とメタノールとを生物由来の油脂に添加して、油脂をエステル化することで生成される(特許文献1~9参照)。例えば、植物油の脂質に含まれるトリグリセライド(トリグリセリド)とメタノールとのエステル化反応により、脂肪酸メチルエステル(FAME,Fatty Acid Methyl Ester)とグリセリンとを得ることができる。一方、このようなエステル化の過程で、副生成物である脂肪酸モノグリセライド(モノグリセリド)が生じることがある。脂肪酸モノグリセライドは、環境温度に応じて液中に析出し、燃料フィルターやインジェクターを目詰まりさせる要因の一つとなりうる。
【0004】
上記の課題に対し、バイオディーゼル燃料中に含まれる副生成物をあらかじめ取り除いてから使用することが提案されている。例えば、バイオディーゼル燃料を蒸留精製することや、析出した脂肪酸モノグリセライドを吸着材に吸着させて除去することや、冷却されたバイオディーゼル燃料を濾過することで脂肪酸モノグリセライドを除去することなどが提案されている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-256314号公報
【文献】特許第6086514号公報
【文献】特開2018-021091号公報
【文献】特許第5943252号公報
【文献】特許第5271594号公報
【文献】特開2009-057510号公報
【文献】特許第3159679号公報
【文献】特許第6143855号公報
【文献】特表2013-501090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の手法によれば、バイオディーゼル燃料中に含まれる副生成物を事前に取り除いておくことが可能である。しかしながら、燃料タンクに補充されたバイオディーゼル燃料中において、事後的に発生した副生成物を取り除くことはできない。従来の手法は、車両の燃料タンクに補充される前のバイオディーゼル燃料に対して適用されるものであって、燃料タンクに補充された後のバイオディーゼル燃料に対して適用することができない。したがって、例えば品質が保証されていないバイオディーゼル燃料をユーザーが車両の燃料タンクに給油してしまった場合に、その後に発生しうる燃料フィルター,インジェクターの目詰まりを防止する手立てがない。
【0007】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、バイオディーゼル燃料の中に析出する脂肪酸モノグリセライドを容易に溶解できるようにした析出物溶解剤を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで開示する第一のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤は、脂肪酸モノグリセライドが析出したバイオディーゼル燃料に添加される溶解剤であって、組成成分が、下記の式1(段落0012参照)で表されるアミン化合物からなり、前記バイオディーゼル燃料の中の前記脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途で、前記バイオディーゼル燃料の総体積に対する前記アミン化合物の濃度が0.05~10容量パーセントとなるように添加されるものであり、式1中の置換基Rが、1~18個の炭素を有する炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基であって、式1中の添字aと添字bとの和が、0~7である。
ここで開示する第二のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤は、脂肪酸モノグリセライドが析出したバイオディーゼル燃料の中に、前記脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途で前記バイオディーゼル燃料に添加される溶解剤であって、組成成分が、下記の式2(段落0019参照)で表されるアミン化合物からなり、式2中の置換基Rが、1~18個の炭素を有する炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基であって、式2中の添字aと添字bと添字cとの和が0~7である。
ここで開示する第三のバイオディーゼル燃料の析出物溶解剤は、脂肪酸モノグリセライドが析出したバイオディーゼル燃料の中に、前記脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途で前記バイオディーゼル燃料に添加される溶解剤であって、組成成分が、下記の式3(段落0022参照)で表されるアミド化合物からなり、式3中の置換基Rが、12~18個の炭素を有する炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基であって、式3中の添字aと添字bとの和が、0~7である。
【発明の効果】
【0009】
脂肪酸モノグリセライドを効率よく溶解させることができ、析出物を容易に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の析出物溶解剤は、バイオディーゼル燃料の中に析出する脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途でバイオディーゼル燃料に添加される。この析出物溶解剤は、組成成分として、アミン化合物またはアミド化合物を含む。具体例を挙げれば、ここでいう組成成分には、鎖式もしくは環式の炭化水素構造を持つアミン化合物や、鎖式もしくは環式の炭化水素構造を持つアミド化合物などが含まれる。
【0011】
[第一実施形態]
本発明の析出物溶解剤が含有するアミン化合物には、例えば下記の式1で表されるものを含ませることができる。式1中の置換基Rは、炭素数が1~18の炭化水素基(例えば、アルキル基,メチレン基,エチリデン基,プロピレン基,ポリメチレン基,メチリジン基,ビニル基,アリル基,プロペニル基,アリール基,フェニレン基,ベンジル基,フェネチル基,スチリル基,ベンゾ基,ベンザル基など)、または、動植物油脂から得られる炭化水素基である。式1中の添字a,bはそれぞれ0以上の整数値をとり、添字aと添字bとの和は0~7である。ここでいう炭化水素基は、好ましくは水酸基を含まない構造とされる。
【0012】
【0013】
ここでいうアミン化合物の具体例としては、以下のアミン化合物が挙げられる。これらは単独で、または、二つ以上組み合わせて使用することができる。
(a=0,b=0の場合)
メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン。
【0014】
(a=1,b=0の場合)
メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、プロピルエタノールアミン、ブチルエタノールアミン、ペンチルエタノールアミン、シクロプロピルエタノールアミン、シクロブチルエタノールアミン、シクロペンチルエタノールアミン、ラウリルエタノールアミン。
【0015】
(a=1,b=1の場合)
メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、プロピルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ペンチルジエタノールアミン、シクロプロピルジエタノールアミン、シクロブチルジエタノールアミン、シクロペンチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン。
【0016】
(aおよび、またはbが2以上の場合)
POE(ポリオキシエチレン)ラウリルアミン、POE(ポリオキシエチレン)ミリスチルアミン、POE(ポリオキシエチレン)パルミチルアミン、POE(ポリオキシエチレン)ステアリルアミン、POE(ポリオキシエチレン)イソステアリルアミン、POE(ポリオキシエチレン)オレイルアミン。
【0017】
ここでいう動植物油脂の具体例としては、以下の油脂が挙げられる。これらは単独で、または、二つ以上組み合わせて使用することができる。
ヤシ油、パーム核油、パーム油、カカオ脂、アマニ油、サフラワー油、ゴマ種子油、キリ油、綿実油、ナタネ油、ゴマ油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、カポック油、オリーブ油、カラシ油、落花生油、ヒマシ油、ツバキ油、ヤトロファ油、カメリナ油、カリナタ油、マンダリ油、微細藻類由来の油等の植物油、牛乳脂、ヤギ乳脂、水牛乳脂、牛脂、豚脂、羊脂、魚油、肝油、牛脚油。
【0018】
[第二実施形態]
本発明の析出物溶解剤が含有するアミン化合物には、例えば下記の式2で表されるものを含ませることができる。式2中の置換基Rは、炭素数が1~18の炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基である。式2中の添字a,b,cはそれぞれ0以上の整数値をとり、添字aと添字bと添字cとの和は0~7である。
【0019】
【0020】
ここでいうアミン化合物の具体例としては、以下のアミン化合物が挙げられる。これらは単独で、または、二つ以上組み合わせて使用することができる。なお、下記の「a=0,b=0,c=0の場合」以外については、煩雑な名称の記載を避けるべく説明を省略する。
(a=0,b=0,c=0の場合)
プロパンジアミン(トリメチレンジアミン)、メチルプロパンジアミン、エチルプロパンジアミン、プロピルプロパンジアミン、シクロプロピルプロパンジアミン。
なお、動植物油脂から得られる炭化水素基を含むアミン化合物の具体例としては、POE(ポリオキシエチレン)牛脂プロピレンジアミンが挙げられる。
【0021】
[第三実施形態]
本発明の析出物溶解剤が含有するアミド化合物には、例えば下記の式3で表されるカルボン酸アミドを含ませることができる。式3中の置換基Rは、炭素数が12~18の炭化水素基、または、動植物油脂から得られる炭化水素基である。式3中の添字a,bはそれぞれ0以上の整数値をとり、添字aと添字bとの和は0~7である。ここでいう炭化水素基は、好ましくは水酸基を含まない構造とされる。
【0022】
【0023】
ここでいうアミド化合物の具体例としては、以下のアミド化合物が挙げられる。これらは単独で、または、二つ以上組み合わせて使用することができる。
(a=1,b=0の場合)
ラウリン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、イソステアリン酸モノエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド。
【0024】
(a=1,b=1の場合)
ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、イソステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド。
(aおよび、またはbが2以上の場合)
POE(ポリオキシエチレン)ラウリン酸アミド、POE(ポリオキシエチレン)ミリスチン酸アミド、POE(ポリオキシエチレン)パルミチン酸アミド、POE(ポリオキシエチレン)ステアリン酸アミド、POE(ポリオキシエチレン)イソステアリン酸アミド、POE(ポリオキシエチレン)オレイン酸アミド。
【0025】
ここでいう動植物油脂の具体例としては、以下の油脂が挙げられる。これらは単独で、または、二つ以上組み合わせて使用することができる。
ヤシ油、パーム核油、パーム油、カカオ脂、アマニ油、サフラワー油、ゴマ種子油、キリ油、綿実油、ナタネ油、ゴマ油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、カポック油、オリーブ油、カラシ油、落花生油、ヒマシ油、ツバキ油、ヤトロファ油、カメリナ油、カリナタ油、マンダリ油、微細藻類由来の油等の植物油、牛乳脂、ヤギ乳脂、水牛乳脂、牛脂、豚脂、羊脂、魚油、肝油、牛脚油。
【0026】
[実施例・比較例]
析出物溶解剤の効果は、以下の手順で確認した。
手順1.脂肪酸メチルエステルが少なくとも0.2[質量%]以上配合されたバイオディーゼル燃料において、バイオディーゼル燃料の総質量に対して0.04[質量%]以上の脂肪酸モノグリセライドが析出していることを確認する。
手順2.バイオディーゼル燃料に対し、アミン化合物またはアミド化合物を含む析出物溶解剤を添加する。
手順3.10℃で15時間、静置する。
手順4.フィルターを使用して、燃料中の析出物を吸引濾過する。
手順5.全量の燃料をフィルターに通過させ、ノルマルヘキサンでフィルターを洗い流す。
手順6.フィルターに残留した析出物の質量を計測する。
手順7.析出物溶解剤を添加していない燃料の析出物に対する質量の割合(残存率)を算出する。
【0027】
以下の実施例1~7に係る物質を含む析出物溶解剤を添加した場合の結果を以下の表1に示す。実施例1~7では、パーム由来の脂肪酸メチルエステルが30[質量%]配合されたバイオディーゼル燃料が使用されている。また、析出物溶解剤を添加する前の析出物(脂肪酸モノグリセライド)の割合は0.165[質量%]である。
【0028】
【0029】
同様の手順で、比較例1~15に係る物質を含む析出物溶解剤を添加した場合の結果を以下の表2に示す。比較例1~15においても、実施例1~7と同様に、パーム由来の脂肪酸メチルエステルが30[質量%]配合されたバイオディーゼル燃料が使用されている。析出物溶解剤を添加する前の析出物(脂肪酸モノグリセライド)の割合は0.165[質量%]である。
【0030】
【0031】
比較例1は、n(ノルマル)-ブチルエタノールアミンの添加量を実施例1よりも減少させたものに相当し、比較例2は、n-ブチルエタノールアミンの添加量を実施例3よりも増加させたものに相当する。比較例1に示すように、n-ブチルエタノールアミンを含む析出物溶解剤において、添加量を0.01[容量%]にすると、溶解率が1.1[質量%]になる。この事例は、n-ブチルエタノールアミンの添加量が少なすぎる場合には、脂肪酸モノグリセライドの溶解作用が弱まることを示している。つまり比較例1では、n-ブチルエタノールアミンの添加量が過少である場合に、脂肪酸モノグリセライドがほとんど溶解せず、所望の効果が得られないことが示されている。
【0032】
また、比較例2に示すように、n-ブチルエタノールアミンの添加量を15.0[容量%]にすると、溶解率が97.2[質量%]になる。この事例は、実施例3との比較から、n-ブチルエタノールアミンの添加量を10.0[容量%]からさらに増加させたとしても、脂肪酸モノグリセライドの溶解作用の強さはほとんど変わらないことを示している。つまり、比較例2では、n-ブチルエタノールアミンの添加量が過多である場合に、脂肪酸モノグリセライドに対する溶解効果が飽和することが示されている。
【0033】
比較例3,4は、式1中の添字aと添字bとの和が7を超えるものに相当する。式1中の添字aと添字bとの和が7を超えるものはバイオディーゼル燃料への相溶性が低下することから、脂肪酸モノグリセライドの分散を阻害しやすいものと推定される。発明者らの知見によれば、脂肪酸モノグリセライドを効率よく分散させる上で好ましいと考えられるのは、式1中の添字aと添字bとの和が7以下のアミン化合物またはアミド化合物である。
【0034】
比較例5~8は、アミン化合物ではない物質例として挙げられたものであり、POE(ポリオキシエチレン)が付加された界面活性剤である。ヒマシ油はリシノレイン酸を含むエステル(グリセライド,グリセリド)であり、ソルビタントリステアレートは、三つのステアリン酸が結合したソルビタンである。これらは、脂肪酸モノグリセライドに対する溶解作用が低いことが示されている。
【0035】
比較例9は、式3に示すものに似た構造を持つアミド化合物として挙げられたものであり、式3の構造を持たないアミドである。ヤシ油脂肪酸N-メチルエタノールアミド(コカミドメチル・メチルエタノールアミド)は、脂肪酸モノグリセライドに対する溶解作用が低いことが示されている。
【0036】
比較例10は、式1中の置換基Rがエタノール(水酸基を含む、炭化水素基以外の構造)である場合の例である。トリエタノールアミンは、脂肪酸モノグリセライドに対する溶解作用をほとんど持たないことが示されている。また、比較例11は、式1中の置換基Rがない場合の例である。ジエタノールアミンも、脂肪酸モノグリセライドに対する溶解作用をほとんど持たない。なお、比較例12~15は、溶剤として使用されうる物質例である。これらの溶剤においても、脂肪酸モノグリセライドに対する溶解作用はほぼ認められない。
【0037】
[効果]
(1)組成成分として、アミン化合物またはアミド化合物を含む析出物溶解剤には、バイオディーゼル燃料の中に析出する脂肪酸モノグリセライドを溶解させるという新たな属性を見いだすことができる。このような析出物溶解剤は、バイオディーゼル燃料の析出物である脂肪酸モノグリセライドを溶解させる用途に好適であり、脂肪酸モノグリセライドを効率よく溶解させることができ、析出物を容易に除去することができる。
【0038】
また、特許文献2,3に記載の技術では、燃料タンク内で発生した析出物を除去することができない。これに対し、第一実施形態~第三実施形態に係る析出物溶解剤によれば、燃料タンク内で発生した析出物を燃料中に分散,溶解させることができ、析出物を事実上除去することができる。つまり、燃料タンクに補充されたバイオディーゼル燃料中において、事後的に発生した副生成物を取り除くことができ、燃料フィルターやインジェクターの目詰まりを防止することができる。
【0039】
(2)組成成分として、鎖式もしくは環式の炭化水素構造を持つアミン化合物、または、鎖式もしくは環式の炭化水素構造を持つアミド化合物を含む析出物溶解剤は、バイオディーゼル燃料の中に析出する脂肪酸モノグリセライドを溶解させる能力が高い。したがって、脂肪酸モノグリセライドを効率よく溶解させることができ、析出物を容易に除去することができる。
【0040】
(3)実施例1~5に示すように、式1で表されるアミン化合物を含む析出物溶解剤を使用することで、バイオディーゼル燃料中の脂肪酸モノグリセライドを溶解させることができる。例えば、n-ブチルエタノールアミンを含む析出物溶解剤の場合、添加量を0.05[容量%]にすれば、6.0[質量%]の溶解率を得ることができる。また、n-ブチルエタノールアミンの添加量を増加させるにつれて溶解率を増加させることができ、添加量を10.0[容量%]にすれば、97.0[質量%]の溶解率を得ることができる。したがって、所望の溶解率に応じて添加量を設定することができる。
【0041】
(4)実施例6に示すように、式2で表されるアミン化合物を含む析出物溶解剤を使用した場合にも、バイオディーゼル燃料中の脂肪酸モノグリセライドを溶解させることができる。例えば、POE-3牛脂プロピレンジアミンを含む析出物溶解剤の場合、添加量を0.5[容量%]にすれば、39.8[質量%]の溶解率を得ることができる。この溶解率は、添加量を増加させることで上昇するものと予想され、所望の溶解率に応じて添加量を設定することができる。
【0042】
(5)実施例7に示すように、式3で表されるアミド化合物を含む析出物溶解剤を使用した場合にも、バイオディーゼル燃料中の脂肪酸モノグリセライドを溶解させることができる。例えば、パーム核油脂肪酸ジエタノールアミドを含む析出物溶解剤の場合、添加量を0.5[容量%]にすれば、28.0[質量%]の溶解率を得ることができる。この溶解率についても、添加量を増加させることで上昇するものと予想され、所望の溶解率に応じて添加量を設定することができる。
【0043】
(6)実施例1~3と比較例1,2とを参照すれば、析出物の溶解効率に関して、少なくともアミン化合物,アミド化合物の添加濃度をバイオディーゼル燃料の総体積に対して0.05~10[容量%]程度にするのが効率的であると考えられる。この範囲内の添加濃度を設定することで、脂肪酸モノグリセライドを効率よく溶解させることができ、析出物を容易に除去することができる。なお、添加濃度に上限を設けることで、アミン化合物やアミド化合物の攻撃性に制限を加えることができる。例えば、析出物溶解剤による燃料タンクや配管の腐食や劣化を防止することができる。
【0044】
(7)なお、実施例1~7では、析出物溶解剤が適用される対象として、脂肪酸メチルエステル(FAME)がバイオディーゼル燃料の総質量に対して0.2[質量%]以上含まれ、脂肪酸モノグリセライドがバイオディーゼル燃料の総質量に対して0.04[質量%]以上含まれるものを例示している。上記の試験結果は、少なくともこのようなバイオディーゼル燃料に対する、析出物の溶解効果が認められることを示している。したがって、このようなバイオディーゼル燃料を対象にすることで、脂肪酸モノグリセライドを効率よく溶解させることができ、析出物を容易に除去することができる。