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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】レシオメトリックな近接検知の方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20241001BHJP
   B64C 1/00 20060101ALI20241001BHJP
   B64D 45/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01B7/00 101F
B64C1/00 A
B64D45/00 Z
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020133519
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2021047173
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】16/532,499
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シー, フォン
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0113005(US,A1)
【文献】米国特許第7358720(US,B1)
【文献】特開2012-185033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01R 33/00-33/26
B64C 1/00
B64D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシオメトリックな近接検知のための方法であって、
センサ供給ラインを介して供給電圧をセンサに供給すること、
前記センサの検知コイルに電圧を印加すること、
前記検知コイルに電圧が印加されている間に、前記供給電圧を測定すること、
前記検知コイルに電圧が印加されている間に、センサ電流を測定すること、
測定された前記センサ電流を測定された前記供給電圧で割って、商を表す信号を生成すること、
前記商を表す信号によって、スケーリングされた電流を生成すること、
前記スケーリングされた電流をモニタすること、及び
前記スケーリングされた電流の大きさに応じて前記センサの状態を解読することを含む、方法。
【請求項2】
記検知コイルの温度の変動を補償するように前記センサ電流を調整することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記解読の結果に基づいて、前記センサの作動状態を特定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
機能を制御することによって、前記センサの前記作動状態に応答することを更に含み、更に、前記機能が、航空機の飛行制御システムによって制御される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記解読の結果に基づいて、前記センサの健全性状態を特定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記センサの前記健全性状態を、非一過性の有形なコンピュータ可読記憶媒体内に記録することを更に含み、更に、前記記録することが、航空機の健全性モニタリングシステムによって実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
センサ及び供給電圧を前記センサに供給するように構成された電子機器ユニットを備えた、レシオメトリックな近接検知のためのシステムであって、前記センサが、
前記供給電圧が供給される供給回路、
前記供給回路から電流を受け取るように接続されたセンサコイル、
測定されたセンサ電流を測定された前記供給電圧で割って商を表す信号を生成し、次いで、前記商を表す信号によって、スケーリングされた電流を生成するように構成された電流スケーリング回路、及び
前記スケーリングされた電流を前記供給回路に提供するように構成された電流設定回路を備える、システム。
【請求項8】
前記電子機器ユニットが、前記スケーリングされた電流をモニタし、前記スケーリングされた電流の大きさに応じて、前記センサの状態を解読するように構成されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記電子機器ユニットが、前記解読の結果に基づいて、前記センサの作動状態を特定するように更に構成されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
航空機に搭載された装備を制御することによって、前記センサの前記作動状態に応答するように構成された、飛行制御システムを更に備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記電子機器ユニットが、前記解読の結果に基づいて、前記センサの健全性状態を特定するように更に構成されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
非一過性の有形なコンピュータ可読記憶媒体、及び、前記センサの前記健全性状態を、前記非一過性の有形なコンピュータ可読記憶媒体内に記録するように構成された、航空機の健全性モニタリングシステムを更に備える、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
検知コイルの温度の変動を補償するべく前記センサ電流を調整するように構成された、温度補償回路を更に備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項14】
前記電流スケーリング回路が、
第1の抵抗器、第2の抵抗器、第3の抵抗器、及び第4の抵抗器、
第1の入力及び第2の入力と1つの出力とを有する乗算器であって、前記乗算器の前記第1の入力が前記供給電圧を受け取るように接続されている、乗算器、
第1の入力及び第2の入力と1つの出力を有する第1の増幅器であって、前記第1の増幅器の前記出力が前記乗算器の前記第2の入力と前記第3の抵抗器とに接続され、前記第1の増幅器の前記第1の入力が、前記第1の抵抗器を介して前記センサ電流を受け取り、前記第2の抵抗器を介して前記乗算器の前記出力から信号を受信するように接続されている、第1の増幅器、並びに
第1の入力及び第2の入力と1つの出力とを有する第2の増幅器であって、前記第2の増幅器の前記第1の入力が第1の接続部を介して前記第3の抵抗器に接続され、前記第2の増幅器の前記出力が第2の接続部を介して前記電流設定回路に接続されている、第2の増幅器を備え、
前記第4の抵抗器が、前記第1の接続部と前記第2の接続部をブリッジする、請求項7に記載のシステム。
【請求項15】
検知コイルの温度の変動を補償するべく前記センサ電流を調整するように構成された温度補償回路を更に備え、前記第1の抵抗器が、前記温度補償回路の出力に接続されている、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広くは、2つの構造的要素又は構成要素の近接を示すためのシステム及び方法に関し、特に、誘導センサが静止した構成要素に取り付けられ、金属ターゲットが展開可能な構成要素(例えば、航空機の構成要素)に取り付けられた、そのようなシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
飛行制御は、インボード及びアウトボードのフラップ、スラット、スポイラー、エルロン、及び他の操縦翼面の移動を含む。着陸装置は、離陸後に格納され、下降中に展開される。車輪が地上に接触したときに、航空機の機体重量が車軸にかかった状態が確認された後でのみ、エンジンナセルの内側の逆噴射装置(thrust reverser)がオンにされる。前述の航空機の構成要素の位置及び移動は、搭載型の近接センサ及びセンサ電子機器システムを使用してモニタされる。典型的には、近接センサが、航空機の様々な場所につながっている専用ケーブルによって、航空機の電子装備ベイ内に置かれたシステムに接続される。
【0003】
電磁誘導近接センサは、それらの非接触検知の原理のおかげで、物理的接触に基づいた機械的に起動されるセンサの代わりに、航空宇宙産業によって広く採用されてきた。誘導近接センサは、2つの種類がある。すなわち、受動的と能動的である。典型的な誘導近接センサは、間隙によって金属ターゲットから分離された導電性コイルを含む。コイルを通る交流電流が、変動する磁場を生成する。金属ターゲットの断片が、電圧を印加されたコイルによって生成された磁束経路の中に移動したときに、コイルのインダクタンス及びコイルを通って流れる電流が変化して、ターゲットに物理的に接触することなしに、ターゲットの近接を示す。ターゲットは、鉄を含む鋼若しくはニッケルなどの磁気伝導性材料、又はアルミニウム若しくは銅などの非磁気伝導性材料から作製されてよい。
【0004】
受動的な二線式のセンサは、そのインダクタンスが金属ターゲットの存在により変動するコイルのみを含む。近接検知電子ユニット(PSEU)は、センサのインダクタンスの変化を測定及び解析して、ターゲットが近いか又は遠いかを判定する。PSEUは、ケーブルオープン(cable-open)及びケーブル短絡の故障も検出することができる。能動的なセンサは、図1で見られるように、コイルと、その出力がターゲットの作動又は非作動の状態を示す更なる内蔵型の電子機器とを有する。能動的な二線式のセンサは、典型的には、高い性能、及びノイズとケーブル長さのばらつきとの両方に対する耐性を有する。
【0005】
能動的な近接センサ向けの検知方法は、典型的には、絶対値(absolute magnitude)におけるセンサの電流を測定することに基づく。電流の量は、構成要素の許容誤差、プロセスの変動、及び環境効果に従って変動する。1つの解決策(図1を参照しながら以下でより詳細に説明される)は、最初の設置後のターゲットとセンサの間の作動間隙の任意の潜在的な変化を検出することができない。運航している期間にわたり、センサとターゲットの実際の位置は、工場で最初に較正されたそれらの位置から離れるようにシフトしたかもしれない。非特定性のセンサ状態は、曖昧さ、正しくない計器の表示や操縦室の混乱、制御誤差、システムの機能不全、及び更には地上での余分な整備作業にもつながる可能性がある。任意の潜在的な変化を検出し、曖昧さを解消し、これらの問題を解決するための、既存の構成を超えた任意の改善が、有益であろう。
【発明の概要】
【0006】
下で幾らか詳細に開示される主題は、誘導近接センサの動作電流及び動作電圧を改善されたやり方で測定するためのシステム及び方法を対象とする。提案される方法は、検知パラメータを供給電圧に比例した(レシオメトリックな:ratiometric)やり方で測定及び処理することである。一実施形態によれば、近接検知電子機器ユニットは、センサの電流(以後、「動作電流」)を、その動作電流を生成するセンサの供給電圧で割ることによって導かれた入力信号を近接センサから受信する。その除算の結果、すなわち商が、適切にスケーリングされて、センサの状態を表す。回路は、共通モード効果とセンサ状態閾値の変動とを解消することによって、その動作状態をレシオメトリックなやり方で特定し、センサの動作範囲を広げることなしに、更なる検知パラメータ及び健全性状態が測定及びモニタされることを可能にする。
【0007】
本明細書で提案される方法は、飛行機の構成の変化を伴わない飛行機の既存の検知システムに対する改善である。しかし、レシオメトリックな検知の提案される方法は、飛行機に搭載されるものに限定されない。機械加工、重機、及び生産ライン向けの産業用途は、誘導近接センサを広く採用する。本明細書で開示される概念は、絶対値の検知に基づく全てのセンサ用途に及ぶ。
【0008】
レシオメトリックな近接検知のためのシステム及び方法の様々な実施形態が、下で幾らか詳細に説明されることとなるが、それらの実施形態のうちの1以上は、以下の態様のうちの1以上によって特徴付けられ得る。
【0009】
下で詳細に開示される主題の一態様は、レシオメトリックな近接検知のための方法であって、センサ供給ラインを介して供給電圧をセンサに供給すること、センサの検知コイルに電圧を印加すること、検知コイルに電圧が印加されている間に、供給電圧を測定すること、検知コイルに電圧が印加されている間に、センサ電流を測定すること、測定されたセンサ電流を測定された供給電圧で割って、商を表す信号を生成すること、商によってセンサ供給ラインの供給電流をスケーリングすること、スケーリングされた供給電流をモニタすること、スケーリングされた供給電流の大きさに応じてセンサの状態を解読すること、及び解読の結果に基づいてセンサの作動状態と健全性状態とを特定することを含む、方法である。一実施形態によれば、該方法は、センサ電流が測定される前に、検知コイルの温度の変動を補償するようにセンサ電流を調整することを更に含む。
【0010】
下で詳細に開示される主題の別の一態様は、センサ及び供給電圧をセンサに供給しセンサのセンサ電流をモニタするように構成された電子機器ユニットを備えた、レシオメトリックな近接検知のためのシステムである。その場合、センサは、供給電圧が供給される供給回路、供給回路から電流を受け取るように接続されたセンサコイル、測定されたセンサ電流を測定された供給電圧で割って商を表す信号を生成し、次いで、商によってセンサ供給ラインの供給電流をスケーリングするように構成された電流スケーリング回路、及びスケーリングされたセンサ電流を供給回路に提供するように構成された電流設定回路を備える。電子機器ユニットは、スケーリングされた供給電流をモニタし、スケーリングされた供給電流の大きさに応じて、センサの状態を解読するように構成されている。一実施形態によれば、該システムは、検知コイルの温度の変動を補償するべくセンサ電流を調整するように構成された、温度補償回路を更に備える。
【0011】
下で詳細に開示される主題の更なる一態様は、供給電圧が供給される供給回路、供給回路から電力を受け取るように接続された基準回路、供給回路から電流を受け取るように接続されたセンサコイル、測定されたセンサ電流を測定された供給電圧で割って商を表す信号を生成し、次いで、商によってセンサ供給ラインの供給電流をスケーリングするように構成された電流スケーリング回路、及び、基準電流を基準回路から受け取り、スケーリングされたセンサ電流を供給回路に提供するように構成された電流設定回路を備える、センサである。
【0012】
直前の段落で説明されたセンサの1つの提案される実施態様では、電流スケーリング回路が、第1から第4までの抵抗器、第1の入力及び第2の入力と1つの出力とを有する乗算器であって、乗算器の第1の入力が供給電圧を受け取るように接続されている、乗算器、第1の入力及び第2の入力と1つの出力を有する第1の増幅器であって、第1の増幅器の出力が乗算器の第2の入力と第3の抵抗器とに接続され、第1の増幅器の第1の入力が、第1の抵抗器を介してセンサ電流を受け取り、第2の抵抗器を介して乗算器の出力から信号を受信するように接続されている、第1の増幅器、並びに第1の入力及び第2の入力と1つの出力とを有する第2の増幅器であって、第2の増幅器の第1の入力が第1の接続部を介して第3の抵抗器に接続され、第2の増幅器の出力が第2の接続部を介して電流設定回路に接続されている、第2の増幅器を備え、第4の抵抗器が、第1の接続部と第2の接続部をブリッジし、電流スケーリング回路が更に、検知コイルの温度の変動を補償するべくセンサ電流を調整するように構成された温度補償回路を備え、第1の抵抗器が、温度補償回路の出力に接続されている。
【0013】
レシオメトリックな近接検知のためのシステム及び方法の他の態様が、下で開示される。
【0014】
前述の特徴、機能、及び利点は、様々な実施形態において個別に実施することが可能であるか、又は更に別の実施形態において組み合わせることが可能である。先述の態様及び他の態様を示すために、図面を参照して、様々な実施形態が以下で説明される。このセクションで短く説明される図面の何れも、縮尺通りに描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】二線式の能動的な切り替え構成を有する近接検知システムの構成要素を特定するブロック図である。
図2図1で描かれたセンサについての動作状態閾値を示す棒グラフと、棒グラフで示されたそれぞれの動作状態閾値に対応する絶対動作電流の分布を示すグラフとを含む、ハイブリッド図である。
図3】一実施形態による、改善された近接検知システムの構成要素を特定するブロック図である。
図4】経時的な供給電圧の変動(中間のグラフ)、供給電圧の変動による経時的なアドミッタンスの変動(上のグラフ)、及び供給電圧の変動による経時的な電流の変動(下のグラフ)の一実施例をそれぞれ示す、3つのグラフを含む。
図5図3で描かれた改善されたセンサについての動作状態閾値を示す棒グラフと、供給電流によって表されるアドミッタンスの分布を示すグラフとを含む、ハイブリッド図である。
図6図6は、一実施形態による、レシオメトリックな近接検知のための方法のステップを特定するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下で図面を参照するが、異なる図面の中の類似の要素には同一の参照番号が付される。
【0017】
次に、例示目的で、レシオメトリックな近接検知のためのシステム及び方法が、幾らか詳細に説明される。しかし、実際の実施態様の全ての特徴が本明細書に記載されているわけではない。当業者であれば、そのような実施形態の開発においては、それぞれの実施態様によって異なるシステム関連の制約の遵守、ビジネスに関連した制約の遵守などの、開発者の特定の目的を達成するためには、多数の実施態様に特化した判断を行う必要があることを理解されたい。更に、このような開発のための労力は複雑であり、時間がかかるものであるが、本開示の利点を有する当業者にとっては、取り組むべき所定の事柄であることを理解されたい。
【0018】
能動的な近接センサ向けの既存の検知方法は、絶対値におけるセンサの動作電流を測定することに基づく。図1は、二線式の能動的な切り替え構成を有するそのような近接センサシステム2の一実施例の構成要素を特定するブロック図である。そのような構成は、航空機上での近接検知向けに典型的である。近接検知システム2は、センサ20及び近接検知電子機器ユニット10(以後、「PSEU10」)を含む。それらは、2つのワイヤーを有するケーブル15によって動作可能に(電気的に)接続されている。ある実施形態によれば、センサ20は、特定用途向け集積回路(ASIC)の形態を採る。PSEU10は、状態解読機能、制御機能、及びインターフェース機能を実行するように構成された、1以上のプロセッサ又はコンピュータを含む。
【0019】
図1で描かれている実施例では、PSEU10が、センサ20に供給電圧を提供し、センサ20の動作電流をモニタする。PSEU10は、複数のチャネル30(それらのうちの1つだけが、図1で示されている)を有し、各チャネル30が、ケーブル15を介してそれぞれのセンサ20に給電する。航空機の用途では、ケーブル15の長さが、2、3フィートから100フィートを超える範囲内にあってよい。チャネル30は、ケーブル15に沿ってセンサの動作電流をモニタしながら、センサ20に電力を提供する。
【0020】
センサ20は、供給回路21、検知コイル22、基準回路23、及び電流設定回路24を含む。供給回路21は、検知コイル22、基準回路23、及び電流設定回路24に動作電圧を提供する。供給回路21は、センサ20への供給電圧をできるだけ一定に維持する電圧調節器を含む。基準回路23は、調節された供給電圧の下でバイアスされる抵抗器を含む。基準回路23は、検知コイル22向けの基準電流を生成する。供給回路21は、検知コイル22に電圧を印加するためのパルス発電機を更に含んでよい。
【0021】
検知コイル22は、供給回路21から電流パルス又は直流電流(DC)の何れかを受け取ってよい。検知コイル22からの電流出力は、(金属から作製された)ターゲット25の相対的な位置の関数として変動することとなる。電流設定回路24は、検知コイル22によって出力された動作電流、及び基準回路23によって出力された基準電流を受け取るように、電気的に接続されている。電流設定回路24は、検知コイル22からの動作電流出力を、基準回路23によって出力された基準電流と比較するように構成されている。電流設定回路24は、(例えば、金属から作製された)ターゲット25とセンサ20の面とを分離する間隙の距離の大きさに応じて、供給回路21を介してPSEU10に渡されることとなる電流の量を調整する。検知状態が、較正され(調整され)、センサ20に電圧を提供したのと同じケーブル15のワイヤーに沿ってPSEU10に送り戻される。PSEU10は、センサ20から受け取った電流に基づいてセンサ20の状態を解読し、次いで、表示ドライバー32にセンサ状態の表示を開始させるように構成された、状態解読器31を含む。状態解読器31は、センサ状態に応じて、1以上の制御機能を開始させてもよい。
【0022】
図1で部分的に描かれている種類の典型的な近接センサは、4つの状態を有する。すなわち、オープン故障、非作動、作動、及び短絡故障である。これらのセンサ状態は、対応するセンサ動作電流の大きさの小さい順に表されている。図2は、図1で描かれた種類の能動的な非接触型二線式近接センサについての典型的な動作状態閾値を示す棒グラフと、棒グラフで示されたそれぞれの動作状態閾値に対応する絶対動作電流の典型的な分布を示すグラフとを含む、ハイブリッド図である。プロセスの変動、構成要素の許容誤差、及び動作環境により、センサの電流の大きさは、典型的には、図2で示されているガウス確率分布に従う。隣接するセンサ状態からの重複した閾値領域が存在するのは、異なるバッチ、異なる製造日、及び異なる生産工程から来た部品によるものである。例えば、ASICについて製作された抵抗器は、経時的に生産工程にわたり+25%の許容誤差を有し得る。供給電圧の変動に加えて、これも、PSEU10によって使用される検出閾値として図2で示されている4つの変動する鐘形の分布の原因である。更に、検知コイル22の銅線の抵抗は、その温度依存性を有し、それも、センサ電流の変動を増加させる。変動領域が重なり得るので、既存の方法は、非特定性の結果を生成し得るか、又は特定の条件下で正しくない結果を生成し得る。例えば、作動状態は、誤って非作動状態又は短絡故障として表示され得る。或いは、非作動状態は、作動状態又はオープン故障として誤って解釈され得る。飛行中のイベントが生じた場合、正しくない状態特定は、システムの機能不全及び混乱を飛行乗務員にもたらし得る。飛行中に生じる遷移イベントでは、正しくない状態特定が、次の整備工程中に地上で故障が見つからないという結論を生み出し得る。更に、機体の一定の振動、航空機の着陸中の操縦翼面の頻繁な移動及び繰り返し衝撃、ターゲットとセンサとの間の位置ずれ及び移動が、経時的に蓄積され得る。ターゲット断片とセンサ面との間の作動間隙が変化し、それによって、センサの状態の正確な特定を駄目にする可能性がある。
【0023】
つまり、典型的な既存の近接検知システムの際立った欠点は、すなわち、(a)非特定性の結果が、絶対値によって測定されたセンサパラメータの変動及び重複によってもたらされ、それは、曖昧さ及び故障状態につながる可能性がある。(b)センサとターゲットとの間の位置ずれが、経時的に蓄積し、運航中に物理的な損傷を受けるまでモニタされない。そして、(c)既存の搭載型の故障モニタは、時機を得たやり方で航空機の健全性モニタリングシステムに報告することができない。
【0024】
本明細書で提案される近接検知方法は、検知パラメータをレシオメトリックなやり方で測定及び処理することである。PSEU10に対する入力信号は、センサ電流である。そのセンサ電流は、センサ電流を生成するセンサの供給電圧によって割られる。その除算の結果、すなわち商が、適切にスケーリングされて、センサの状態を表す。
【0025】
図3は、一実施形態による、レシオメトリックな近接検知システム4の構成要素を特定するブロック図である。近接検知システム4は、図1で部分的に描かれたセンサ20を改善したセンサ20aを含む。近接検知システム4は、PSEU10を更に含む。それは、ケーブル15によってセンサ20aと動作可能に(電気的に)接続されている。図1及び図3で同じ参照番号によって示されている要素は、同一ではないとしても類似した機能を有し、それらの機能は、図1を参照しながら既に説明されている。
【0026】
図3で部分的に描かれているセンサ20aは、検知コイル22の電流に対して適切な温度補償を提供する、温度補償回路29を含む。したがって、検知コイル22の銅線の抵抗に対して温度が引き起こす変化による動作電流の変動が補償される。センサ20aは、検知コイル22からの温度が補償された電流を、レシオメトリックに変化させるように構成された、電流スケーリング回路6を更に含む。電流スケーリング回路6は、2つのフィードバックループ内にワイヤー接続された、1つの乗算器27、4つの抵抗器R1~R4、及び2つの増幅器26及び28(以後、「増幅器A1及びA2」)を含む。これらの構成要素は、供給回路21、基準回路23、及び電流設定回路24を有する、同じASICに実装されてよい。
【0027】
温度が補償された電流信号は、抵抗器R1及び接合部12を介して、増幅器A1の反転入力に供給される。供給回路21は、乗算器27の第1の入力に電圧Vを供給して、増幅器A1の出力電圧Vと掛け合わせる。増幅器A1によって出力された電流は、接続部18を介して乗算器27の第2の入力に供給される。一実施形態によれば、乗算器27は、二乗平均平方根(RMS)乗算器である。乗算器27の出力は、抵抗器R2及び接続部12を介して、増幅器A1の同じ反転入力に供給される。同じ値であるか又は異なる値である抵抗器R1とR2の抵抗値は、材料とレイアウト方向の両方で同一に合致した対として、ASIC内に実装されてよい。増幅器A1の反転入力において、V/R1+V/R2=0、すなわち、V=-(R2/R1)(V/V)である。
【0028】
増幅器A1からの出力は、接続部18、スケーリング抵抗器R3、及び接続部14を介して、増幅器A2の反転入力に供給される。増幅器A2の出力は、接続部16を介して電流設定回路24と動作可能に(電気的に)接続されている。スケーリング抵抗器R4は、接合部14と16をブリッジする。スケーリング抵抗器R3とR4は、同じ材料及び同じレイアウト方向からも作製される。異なる値を用いて、スケーリング抵抗器R3とR4の抵抗値は、検知範囲向けに適切にスケーリングされる。電流設定回路24の適切にスケーリングされた出力は、PSEU10によって解読されるために送り戻される供給電流の形態を採るが、センサ状態は、実際には、レシオメトリックに特定されたアドミッタンスの値によって表される。
【0029】
抵抗器は、同じチップ上でトランジスタと共に作製される。問題は、製作中に全て同じウエハ上で同じ時間に製作されたそれらのトランジスタのばらつきである。経時的に進行する生産におけるバッチごとに、集積回路(チップ)上の抵抗器は、+25%以上のばらつきを有し得る。しかし、典型的には、全ての抵抗器が、同じチップ上で上昇したり、同じチップ上で下降したりする。一実施例として、抵抗器R1とR2が、それぞれ30kΩと10kΩとして設計された場合、R1とR2の実際の抵抗値は、その+25%の枠の範囲内で、37.5kΩと12.5kΩ、又は22.5kΩと7.5kΩになり得る。したがって、レシオメトリックな動作では、比は一定(例えば、3)のままである。ASICは、既存の近接検知集積回路を超える改善として、レシオメトリックに動作し得る。更に、既存の近接検知集積回路は、温度補償回路29、抵抗器R1~R4、増幅器A1及びA2、並びに乗算器27を含む、電気構成要素のレシオメトリックな構成を含むように改良され得る。
【0030】
本明細書で開示されるレシオメトリックな検知方法は、シミュレーションによって解析されてきた。レシオメトリックな効果を見るために、実行時間は無関係である。供給電圧のみの変動に基づく1つのシミュレーションの結果が、図4に提示されている。それは、経時的な供給電圧の変動(中間のグラフ)、供給電圧の変動による経時的なアドミッタンスの変動(上のグラフ)、及び供給電圧の変動による経時的な電流の変動(下のグラフ)の一実施例をそれぞれ示す、3つのグラフを含む。ASICの内側の調節器は、基本的な種類であってよい。図4は、供給電圧が+33%だけ変動した場合、絶対値の動作電流が、それに応じた比率に従うことを示している。しかし、この場合のアドミッタンスとして提示された、レシオメトリックに生成された商の対応する変動は、0.1%未満であり、すなわち、共通モード効果の相殺により無視することができる。PSEU10によって見られるように、チップ上の抵抗器の変動の相殺と類似して、供給変動による効果は相殺され、共通モード効果及び環境変動は、実際の用途において全てがゼロではないにしても最小化される。提案された方法は、状態閾値のガウス分布を狭くすることによって性能を向上させ、共通モード効果を解消することで、より正確な位置検知及び状態解読を可能にする。図5は、図2と比較して改善された性能を示している。
【0031】
本明細書で開示される革新的な方法は、ターゲット25とセンサ20aとの間の実際の距離をモニタすることができ、ターゲット位置及びセンサ健全性についての更なる状態を報告することができる。具体的には、TTC(ターゲットが近過ぎる)状態が、センサ作動と短絡故障の状態との間に置かれてよく、TTF(ターゲットが遠すぎる)状態が、非作動とオープン故障の状態の間に置かれてよい。作動と非作動との間で、間隙距離のより精密な測定値が取得され得る。これらの更なる状態を導入することによって、搭載型システムが、更なるセンサの健全性状態を含み、図1で描かれた解決策が解決することができない上述の問題を解決することを可能にする。
【0032】
図6は、一実施形態による、レシオメトリックな近接検知のための方法100のステップを特定するフローチャートである。PSEU10が、センサ20aに電力を供給する(ステップ102)。次いで、供給回路21が、センサ構成要素に動作電圧を提供する(ステップ104)。供給回路21から直流電流又は電流パルスを受け取るや否や、検知コイル22に電圧が印加される(ステップ106)。金属ターゲットの断片が、電圧が印加されたコイルによって生成された磁束経路の中に移動したときに、コイル22のインダクタンス及びコイル22を通って流れる電流が変化して、物理的に接触することなしに、ターゲット25の近接を示す。レシオメトリックな検知を可能とするために、供給電圧が測定され(ステップ108)、温度補償されたセンサ電流が測定される(ステップ110)。次いで、センサ電流が、センサ20aに印加される供給電圧によって割られる(ステップ112)。商(センサのアドミッタンス)が、除算の後で得られる(ステップ114)。センサ供給ラインの供給電流が、商(アドミッタンス)によってスケーリングされる(ステップ116)。センサ状態が、PSEU10に報告されるように戻される(ステップ118)。より具体的には、PSEU10が、センサ20aによって引き出されている電流をモニタする。次いで、PSEU10が、センサ状態を解読する(ステップ120)。解読結果に基づいて、作動状態が特定され(ステップ122)、それぞれのアルゴリズムを実行するそれぞれのプロセッサ又はソフトウェアモジュール(PSEU10が組み込まれた)によって、センサの健全性状態が特定される(ステップ124)。航空機の飛行制御システムが、センサ状態に応答する(ステップ126)。航空機の健全性モニタリングシステムが、非一過性の有形なコンピュータ可読記憶媒体内にセンサの健全性状態を記録する(ステップ128)。センサ及びPSEUの検出のために動作範囲を更に広げることなしに、より多くの検知状態が、ターゲットとセンサの対の間隙距離、位置を表すこと、及び、センサの健全性モニタリングが実装され得る。
【0033】
例示目的で、以下の設計の実施例が提供される。図1で部分的に描かれているセンサ20内で、非作動状態から作動状態への変化が、6Vdcバイアスの下で100μAと300mVの変化を生成すると想定する。電流検出スキームでは、100μAが、長いケーブルにわたりピックアップされたノイズに対して失われ、したがって、基準回路23内の1つの30kΩの抵抗器が、100μAを3Vに変換し、それは、ケーブル15を介して3mAにスケーリングされ、PSEU10の状態解読器31によって見られる。1つのそのようなASICは、種々のコイル直径及び形状のセンサの多くの種類に対して使用される。各種類に対するそのような電流のスケーリングと較正は、製造、設置、及びリギングテスト(rigging test)中の手順の一部である。
【0034】
設計の一実施例として、図3で部分的に描かれている提案された近接検知システム4も、同じ6V供給を使用して、同じ3mAの作動電流をPSEU10に送り戻すことができる。抵抗値を以下のようにしてみよう。すなわち、R1=1kΩ、R2=10kΩ、R3=2kΩ、及びR4=12kΩである。同じ拡散材料及び同じ方向では、抵抗器R2の蛇行経路の長さが、抵抗器R1のものの10倍に相当し、抵抗器R4のものは、抵抗器R3のものの6倍に相当する。このようにして、ASIC設計によってマッチングが実現される。レイアウト正方形内の電流密度に応じて、R1/R2の対は、対応する2つのものが1つの対であれば、R3/R4の対とは異なるものであってもよい。300mVの信号変化が、+0.4%/°Cの温度係数を有する銅コイル向けに補償された温度であると更に想定する。増幅器A1の出力で、増幅器A1のフィードバックループを介して、V=-(10kΩ/1kΩ)(0.3V/6V)=-0.5である。増幅器A2のフィードバックループを介して、増幅器A2の利得=-(R4/R3)=-6である。増幅器A2の出力で、積は、(-0.5)(-6)=3である。この出力は、ケーブル15を介してASICの静止(バイアス)電流に加算される3mAに変換され、PSEU10の状態解読器31によって見られる。ここで、プロセスの変動を解消するために、レシオメトリックな幾つかの(除算)操作が存在し、供給電圧の変動も最小化することができる。
【0035】
レシオメトリックな近接検知のためのシステム及び方法が、特定の実施形態を参照して説明されてきたが、当業者には、本明細書の教示の範囲から逸脱することなく様々な変形例が可能であること、及び、その要素を均等物に置換し得ることが理解されよう。更に、その本質的な範囲から逸脱することなく特定の状況を本明細書の教示に適合させるために、多くの修正を行うことが可能である。したがって、以下で提示される特許請求の範囲は、開示された特定の実施形態に限定されないことが意図される。
【0036】
本明細書で使用される際に、「コンピュータシステム」という用語は、少なくとも1つのコンピュータ又はプロセッサを有するシステムと、ネットワーク又はバスを介して通信可能に接続された複数のコンピュータ又はプロセッサを有し得るシステムとを含むように、広く解釈されるべきである。前述の文章で使用される際に、「コンピュータ」及び「プロセッサ」という用語の両方は、処理ユニット(例えば中央処理装置)と、処理装置によって読み出されることが可能なプログラムを記憶する何らかの形態のメモリ(例えば、非一過性の有形なコンピュータ可読記憶媒体)を備えるデバイスを意味する。
【0037】
本明細書で説明された方法の少なくとも一部は、限定するものではないが、記憶デバイス及び/又はメモリデバイスを含む非一過性の有形なコンピュータ可読記憶媒体で具現化される実行可能な指示命令として符号化され得る。このような指示命令は、プロセッサ又はコンピュータによって実行されると、本明細書に記載された方法の少なくとも一部をプロセッサ又はコンピュータに実行させる。
【0038】
請求項の文言が、請求項に列挙されているステップのうちの幾つか或いは全てが実施される特定の順序を示す条件を明確に特定又は宣言していない限り、これらのステップが、アルファベット順(本明細書中の任意のアルファベット順はあらかじめ列挙されているステップを参照する目的でのみ使用されている)又はこれらのステップが列挙されている順で実施されることを、以下に記載される方法の請求項が要求していると解釈すべきではない。また、方法の請求項が、同時に又は交互に実施される2つ以上のステップの任意の部分を除外すると解釈すべきではないが、請求項の文言がそのような解釈を排除する条件を明確に示している場合は例外である。
【0039】
付記、以下の複数の条項は、本開示の更なる態様を説明している。
条項1.
供給電圧が供給される供給回路、
前記供給回路から電力を受け取るように接続された基準回路、
前記供給回路から電流を受け取るように接続されたセンサコイル、
測定されたセンサ電流を測定された供給電圧で割って商を表す信号を生成し、次いで、前記商によってセンサ供給ラインの供給電流をスケーリングして、スケーリングされたセンサ電流を生成するように構成された電流スケーリング回路、及び
基準電流を前記基準回路から受け取り、前記スケーリングされたセンサ電流を前記供給回路に提供するように構成された電流設定回路を備える、センサ。
条項2.
前記電流スケーリング回路が、
第1から第4までの抵抗器、
第1の入力及び第2の入力と1つの出力とを有する乗算器であって、前記乗算器の前記第1の入力が前記供給電圧を受け取るように接続されている、乗算器、
第1の入力及び第2の入力と1つの出力を有する第1の増幅器であって、前記第1の増幅器の前記出力が前記乗算器の前記第2の入力と前記第3の抵抗器とに接続され、前記第1の増幅器の前記第1の入力が、前記第1の抵抗器を介して前記センサ電流を受け取り、前記第2の抵抗器を介して前記乗算器の前記出力から信号を受信するように接続されている、第1の増幅器、並びに
第1の入力及び第2の入力と1つの出力とを有する第2の増幅器であって、前記第2の増幅器の前記第1の入力が第1の接続部を介して前記第3の抵抗器に接続され、前記第2の増幅器の前記出力が第2の接続部を介して前記電流設定回路に接続されている、第2の増幅器を備え、
前記第4の抵抗器が、前記第1の接続部と前記第2の接続部をブリッジする、条項1に記載のセンサ。
条項3.
検知コイルの温度の変動を補償するべく前記センサ電流を調整するように構成された温度補償回路を更に備え、前記第1の抵抗器が、前記温度補償回路の出力に接続されている、条項2に記載のセンサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6