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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】車載用燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0662 20160101AFI20241001BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20241001BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241001BHJP
   H01M 8/04223 20160101ALI20241001BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20241001BHJP
   H01M 8/04791 20160101ALI20241001BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241001BHJP
【FI】
H01M8/0662
H01M8/00 Z
H01M8/04 H
H01M8/04 N
H01M8/04223
H01M8/0438
H01M8/04791
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020161958
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054762
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智大
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-046159(JP,A)
【文献】特開2008-016217(JP,A)
【文献】特開2007-280717(JP,A)
【文献】特開2009-200006(JP,A)
【文献】特開2006-344388(JP,A)
【文献】特開2008-235225(JP,A)
【文献】特開2011-171171(JP,A)
【文献】特開2005-347008(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109860671(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 50/70 - 50/75
B60L 58/30 - 58/40
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に接続された水素排出流路を開閉する水素パージ弁を開弁して水素ガスを排出するとともに、前記燃料電池に接続された空気排出流路から排出される空気を前記水素ガスに混合して前記水素ガスをパージする機能を備えた車載用燃料電池システムにおいて、
前記水素パージ弁の下流側、かつ、前記空気排出流路と前記水素排出流路との合流部分の上流側に設けられた水素吸着離脱機能を有する水素吸着部材と、
前記水素吸着部材への水素の吸着及び離脱を制御する制御部と、
を備え
前記制御部は、前記空気排出流路へ排出される空気量に基づいて前記水素吸着部材への水素の吸着及び離脱を制御する、車載用燃料電池システム。
【請求項2】
前記水素吸着部材の温度を調節する温度調節手段を備え、
前記制御部は、前記温度調節手段を制御することにより前記水素吸着部材の水素の吸着及び離脱を制御する、請求項1に記載の車載用燃料電池システム。
【請求項3】
前記水素吸着部材に流入する前記水素ガスの圧力を調節する圧力調節手段を備え、
前記制御部は、前記圧力調節手段を制御することにより前記水素吸着部材の水素の吸着及び離脱を制御する、請求項1に記載の車載用燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記車載用燃料電池システムの起動時又は停止時、あるいは前記水素ガスを用いて前記燃料電池内から水分を排出させる掃気処理時に、前記水素パージ弁を開弁状態とし、前記水素吸着部材へ水素を吸着させる、請求項1又は2に記載の車載用燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素ガスと酸素(空気)との電気化学反応によって発電を行う。燃料電池では、水素極側に空気や水等の不純物がリークすることで水素の濃度が低下するため、定期的に水素極後方にあるパージ弁を開閉させて内部の水素ガスを入れ替えている。その際に、水素ガスが外部に排出されるが、水素は4~74%の濃度で引火する可能性があるため、外部に排出する水素の濃度を4%未満とすることが推奨されている。このため、燃料電池から排出する水素ガスに空気を混合する希釈器を設け、水素の濃度を低下させて排出する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水素パージ時に高濃度の水素を含む水素オフガスが一気に希釈器内に流入した場合でも、水素オフガスを良好に希釈して、水素濃度を十分に下げて排出可能な車載用燃料電池システムが開示されている。具体的には、発電時に燃料電池から排出された水素オフガスを流入させる水素排出流路と、水素オフガスを希釈する空気オフガスを導入する空気排出流路及びバイパス流路と、燃料電池自動車に設けた外気取り入れ口から外気を導入する外気導入流路とを備え、水素排出流路と空気排出流路とバイパス流路と外気導入流路とを希釈器内で合流させ、水素オフガスを、空気排出流路及びバイパス流路から導入される空気オフガス及び外気導入流路から導入される外気とで希釈して排出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-18910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の車載用燃料電池システムでは、燃料電池に空気を供給する流路からバイパス流路を介して希釈器へ直接空気を導入するように構成され、燃料電池へ供給する空気流量を所定の量に調節しつつ希釈器へ空気を導入している。このため、発電に用いる空気流量に加えて水素オフガスの希釈に用いる空気流量が必要であり、水素オフガスの排出量が多大になる高出力時においても空気流量を確保するためにはコンプレッサが大型化するおそれがある。あるいは、コンプレッサの出力が制限を受けることにより、希釈用の空気流量が制限され、水素オフガスのパージ時間やパージ量が制限されるおそれがある。さらに、特許文献1に記載の車載用燃料電池システムでは、バイパス流路の開閉に伴って燃料電池に供給される空気流量が不安定になったり、空気流量の制御が複雑になったりするおそれがある。したがって、特許文献1に記載の車載用燃料電池システムでは、燃料電池による発電制御に影響を与えることなく燃料電池からの水素オフガスの排出を任意のタイミングで実行することが困難である。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、発電制御に影響を与えずに燃料電池からの水素オフガスの排出を任意のタイミングで実行可能な車載用燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、燃料電池に接続された水素排出流路を開閉する水素パージ弁を開弁して水素ガスを排出するとともに、燃料電池に接続された空気排出流路から排出される空気を水素ガスに混合して水素ガスをパージする機能を備えた車載用燃料電池システムであって、水素パージ弁の下流側、かつ、空気排出流路と水素排出流路との合流部分の上流側に設けられた水素吸着離脱機能を有する水素吸着部材と、水素吸着部材への水素の吸着及び離脱を制御する制御部と、を備える車載用燃料電池システムが提供される。
【0008】
また、上記車載用燃料電池システムは、水素吸着部材の温度を調節する温度調節手段を備え、制御部は、温度調節手段を制御することにより水素吸着部材の水素の吸着及び離脱を制御してもよい。
【0009】
また、上記車載用燃料電池システムは、水素吸着部材に流入する水素ガスの圧力を調節する圧力調節手段を備え、制御部は、圧力調節手段を制御することにより水素吸着部材の水素の吸着及び離脱を制御してもよい。
【0010】
また、上記車載用燃料電池システムにおいて、制御部は、空気排出流路へ排出される空気量に基づいて水素吸着部材への水素の吸着及び離脱を制御してもよい。
【0011】
また、上記車載用燃料電池システムにおいて、制御部は、車載用燃料電池システムの起動時又は停止時、あるいは水素ガス又は空気を用いて燃料電池内から水分を排出させる掃気処理時に水素吸着部材へ水素を吸着させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、燃料電池からの水素の排出を任意のタイミングで実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る車載用燃料電池システムの全体構成の一例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る車載用燃料電池システムの制御部の機能構成を示すブロック図である。
図3】燃料電池が低出力で発電している状態での水素吸着部材の有無による排出水素濃度の違いを示す説明図である。
図4】燃料電池が高出力で発電している状態での水素吸着部材の有無による排出水素濃度の違いを示す説明図である。
図5】同実施形態による車載用燃料電池システムの起動時の水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
図6】同実施形態による車載用燃料電池システムの起動中の通常水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る車載用燃料電池システムの全体構成の一例を示す模式図である。
図8】同実施形態による車載用燃料電池システムの起動時の水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
図9】同実施形態による車載用燃料電池システムの起動中の通常水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
<<1.第1の実施の形態>>
<1-1.車載用燃料電池システムの全体構成例>
まず、本発明の第1の実施の形態に係る車載用燃料電池システムの全体構成例を説明する。本実施形態に係る車載用燃料電池システムは、水素吸着部材への水素の吸着及び離脱を切り替える手段として温度調節手段を備える。
【0016】
図1は、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1の全体構成の一例を示す模式図である。本実施形態において、車載用燃料電池システム1は、燃料電池車両に搭載されるシステムであるが、かかる例に限定されるものではなく、他の用途に用いられるシステムであってもよい。
【0017】
車載用燃料電池システム1は、酸化ガス経路11と、水素ガス経路20と、複数の燃料電池セルを有する燃料電池10と、システム全体を制御する制御部50とを備える。車載用燃料電池システム1は、燃料電池10に水素ガス及び酸化ガスを供給し、燃料電池セル内で水素ガスと酸化ガスとを電気化学反応させることによって発電を行う。また、車載用燃料電池システム1は、燃料電池10に冷媒を供給して燃料電池10を冷却する冷却水循環回路40と、システムの電力を充放電する図示しない電力系とを備える。本実施形態においては、酸化ガスとして空気(酸素)を用いる例を説明する。
【0018】
燃料電池10は、例えば固体高分子電解質型の燃料電池として構成され、複数の燃料電池セルを積層したスタック構造を有する。それぞれの燃料電池セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に酸素極を有し、他方の面に水素極を有する。また、燃料電池セルは、酸素極及び水素極を挟むように配置された一対のセパレータを有する。一方のセパレータの水素ガス流路に水素ガスが供給され、他方のセパレータの空気流路に空気が供給され、供給された水素ガス及び空気が反応することにより燃料電池10は発電する。
【0019】
酸化ガス経路11は、燃料電池10に供給される空気が流れる空気供給流路12と、燃料電池10から排出された酸化オフガスが流れる空気排出流路18とを含む。空気供給流路12は、エアフィルタ13を介して空気を取り込むコンプレッサ15を備える。空気供給流路12は、図示しない分岐部において分岐して複数の燃料電池セルのそれぞれの空気流路に接続されている。また、複数の燃料電池セルのそれぞれの空気流路は、図示しない合流部において合流して空気排出流路18に接続されている。空気排出流路18を流れる酸化オフガスは、空気排出流路18と水素排出流路35との合流部分に設けられた希釈器19を介して大気中に排出される。
【0020】
水素ガス経路20は、水素供給源21と、水素供給源21から燃料電池10に供給される水素ガスが流れる水素供給流路22と、燃料電池10から排出された水素ガス(水素オフガス)を水素供給流路22へ戻すための循環流路28と、循環流路28内の水素オフガスを水素供給流路22へ圧送する循環ポンプ25とを含む。また、水素ガス経路20は、循環流路28に設けられた気液分離器27と、気液分離器27に接続された排水流路31及び水素排出流路35とを含む。
【0021】
水素供給源21は、例えば高圧タンク又は水素吸着合金等により構成され、高圧の水素ガスを貯留する。水素供給流路22は、燃料電池10へ供給される水素ガスの圧力を調節する圧力調整弁23を備える。圧力調整弁23は、例えば水素ガスの圧力をあらかじめ設定された圧力に減圧する減圧弁であってもよい。圧力調整弁23の上流側に、燃料電池10への水素ガスの供給の可否を切り替える遮断弁を備えていてもよい。また、圧力調整弁23の下流側であって水素供給流路22と循環流路28との合流部の上流側には、水素供給流路22内の水素ガスの圧力を検出する上流側圧力センサ24が設けられている。また、水素供給流路22には、水素供給流路22内の水素ガスの温度を検出する温度センサが設けられていてもよい。水素供給流路22は、図示しない分岐部において分岐して複数の燃料電池セルのそれぞれの水素ガス流路に接続されている。また、複数の燃料電池セルのそれぞれの水素ガス流路は、図示しない合流部において合流して循環流路28に接続されている。
【0022】
循環ポンプ25は、制御部50により駆動されて、循環流路28内の水素ガスを燃料電池10へ循環供給する。循環流路28には、気液分離器27が設けられている。気液分離器27は、水素オフガスから水分を分離して回収する。気液分離器27には排水流路31及び水素排出流路35が接続されている。排水流路31は、水パージ弁33を介して希釈器19に接続されている。水パージ弁33は、制御部50によって開閉駆動されて、気液分離器27で回収した水分を希釈器19へ排出する。
【0023】
水素排出流路35は、水素パージ弁37を介して希釈器19に接続されている。水素パージ弁37は、制御部50によって開閉駆動されて、燃料電池10から排出される水素オフガスを希釈器19へ導入する。排出される水素オフガスは、希釈器19において酸化オフガスと混合されて希釈され、大気中に離脱される。水素排出流路35のうち、水素パージ弁37の下流側、かつ、希釈器19の上流側には水素吸着部材39が設けられる。
【0024】
水素吸着部材39は、所定条件で水素を吸着し、又、吸着した水素を離脱する水素吸着離脱機能を有する部材である。水素吸着部材39は、水素排出流路35の途中に配置又は充填される。これにより、水素パージ弁37を介して排出される水素オフガスが水素吸着部材39を通過可能になっている。水素吸着部材39による水素の吸着又は離脱は、水素吸着部材39の温度変化又は水素オフガスの排出圧力の変化を利用して制御することができる。
【0025】
水素吸着部材39には、金属材料又は非金属材料の部材がある。水素吸着離脱機能を有する金属材料としては、例えば、アルカリ土類系のMg2Ni又はCaNi5、希土類系のLaNi5又はMmNi4.5Al0.5、チタン系のFeTi1.150.024、Ti0.72Zr0.28Mn0.8CrCu0.2、Ti0.24Zr0.76(Ni0.55Mn0.30.063Fe0.0852.1又はZrMn0.60.2Co0.1Ni1.2、及び固溶体のTi25Cr4035又はV79Ti6.5Cr13Mn1.5等の水素吸着合金が挙げられる。水素吸着部材39は、これらの水素吸着合金のうちのいずれか一つを含んでもよく、複数の混合物を含んでいてもよい。
【0026】
車載用燃料電池システム1において水素吸着合金の温度変化を利用して水素の吸着及び離脱を制御するには、例示した水素吸着合金のうち、アルカリ土類系のCaNi5、希土類系のLaNi5又はMmNi4.5Al0.5、チタン系のFeTi1.150.024、Ti0.72Zr0.28Mn0.8CrCu0.2、Ti0.24Zr0.76(Ni0.55Mn0.30.063Fe0.0852.1又はZrMn0.60.2Co0.1Ni1.2、あるいは、固溶体のTi25Cr4035又はV79Ti6.5Cr13Mn1.5を用いることが好ましい。これらの水素吸着合金は、およそ30~60℃以下の状態で水素を吸着する一方、およそ30~60℃を超える状態で吸着していた水素を離脱する。この水素の吸着又は離脱が切り替わる温度を「水素吸着離脱温度」と称する。
【0027】
また、車載用燃料電池システム1において水素オフガスの排気圧力の変化を利用して水素の吸着及び離脱を制御するには、例示した水素吸着合金のうち、アルカリ土類系のMg2Ni又はCaNi5、希土類系のMmNi4.5Al0.5、あるいは、チタン系のTi0.72Zr0.28Mn0.8CrCu0.2又はTi0.24Zr0.76(Ni0.55Mn0.30.063Fe0.0852.1を用いることが好ましい。これらの水素吸着合金は、およそ0.1~0.5MPaの範囲内で水素オフガスの排出圧力を調節することにより、水素の吸着又は排出を制御することができる。具体的に、上記の水素吸着合金は、水素オフガスの排出圧力が所定の吸着圧力を超える状態で水素を吸着する一方、吸着圧力よりも低い所定の離脱圧力を下回る状態で水素を離脱する。
【0028】
水素吸着離脱機能を有する非金属材料としては、カーボンナノチューブ等の炭素系材料が挙げられる。カーボンナノチューブも、所定の温度以下の状態で水素を吸着する一方、当該温度を超える状態で吸着していた水素を離脱する機能を有する。
【0029】
本実施形態に係る車載用燃料電池システム1においては、例示した水素吸着部材39のうち、少なくとも温度変化を利用して水素の吸着及び離脱を制御可能な水素吸着部材39が用いられる。また、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1は、水素吸着部材39の温度を調節する温度調節手段として、冷却水循環回路40を備える。冷却水循環回路40は、その一部が水素吸着部材39に接してあるいは水素吸着部材39に近接して配置され、冷却水を循環させることにより水素吸着部材39から放熱させて水素吸着部材39の温度を低下させる。そして、水素吸着部材39の温度を水素吸着離脱温度以下にして、水素吸着部材39が水素を吸着可能な状態とする。
【0030】
図1に示した本実施形態に係る車載用燃料電池システム1では、燃料電池10を冷却するための冷却水循環回路40の一部が水素吸着部材39の配置位置を通過するように配設されて構成されている。具体的に、冷却水循環回路40は、燃料電池10を通過するように設けられた冷却水循環流路41と、冷却水循環流路41から分岐して水素吸着部材39の配置位置を通過するように配設されて再び冷却水循環流路41に合流する分岐流路43とを備える。
【0031】
燃料電池10の下流側、かつ、冷却水循環流路41及び分岐流路43の分岐部分の上流側には、冷却水循環ポンプ45が設けられている。冷却水循環ポンプ45の駆動は、制御部50により制御される。冷却水循環ポンプ45の吸入側には、燃料電池10から流出する冷却水を冷却する冷却器47が設けられている。冷却器47は、例えばラジエータ等の適宜の冷却手段であってよい。
【0032】
分岐流路43には、分岐流路43への冷却水の流通の可否を切り換える開閉弁49が設けられている。開閉弁49の駆動は、制御部50により制御される。開閉弁49は、制御部50により制御可能なものであれば特に限定されるものではなく、開弁状態と閉弁状態とを切り替え可能なオンオフ弁であってもよく、開口面積を調節可能な流量制御弁であってもよい。開閉弁49の開弁時には、冷却器47で冷却されて冷却水循環ポンプ45により吐出される冷却水が分岐流路43を流れ、水素吸着部材39が冷却される。図1に示した例では、開閉弁49が、冷却水循環流路41と分岐流路43との分岐部分の近傍に設けられているが、設置位置は特に限定されない。
【0033】
なお、水素吸着部材39の温度を調節する温度調節手段は、燃料電池10を冷却するための冷却水循環回路40を利用したものに限られない。例えば、温度調節手段は、燃料電池車両の駆動用モータの電力制御を行うコンバータあるいはインバータを冷却するための冷却水循環回路の一部が水素吸着部材39の周囲や内部に配置されて構成されていてもよい。この場合においても、水素吸着部材39の周囲や内部を通過する分岐流路への冷却水の流通の可否を切り換える開閉弁を設け、水素吸着部材39の温度を調節可能に構成されることが好ましい。
【0034】
また、ラジエータファンその他のファンあるいは走行風又は酸化オフガス等を利用して、空冷により水素吸着部材39が冷却されるように構成されてもよい。この場合においても、水素吸着部材39の配置位置への冷却風の供給又は停止を切り換える手段を設け、水素吸着部材39の温度を調節可能に構成されることが好ましい。水素吸着部材39の配置位置への冷却風の供給又は停止を切り換える手段は、弁機構やシャッタ機構等の適宜の手段を採用することができる。
【0035】
制御部50は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成される。制御部50の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。また、制御部50は、ソフトウェアプログラムや制御パラメータ、取得した情報等を記憶する記憶装置を備える。記憶装置は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶素子を含んでいてもよく、CD-ROMやストレージ装置等の記憶媒体を含んでいてもよい。
【0036】
制御部50は、車載用燃料電池システム1における発電を制御する。簡単に説明すると、制御部50は、車両の駆動用モータに電力を供給する場合、あるいは、駆動用モータに電力を供給する二次電池に充電する場合等において、燃料電池10に発電させる制御を行う。制御部50は、要求充電電力あるいは要求供給電力に基づく目標発電電力に応じてコンプレッサ15及び圧力調整弁23の駆動を制御し、燃料電池10に供給する空気流量及び水素ガスの流量を制御する。燃料電池10が発電を行う間、制御部50は、循環ポンプ25を駆動して燃料電池10から排出される水素ガスを循環流路28を介して水素供給流路22へ戻し、燃料電池10内に水素ガスを循環させる。これにより、燃料電池10において、空気と水素ガスとの電気化学反応が生じ、発電が行われる。
【0037】
また、制御部50は、適宜の時期に水素パージ弁37を開き、水素濃度が低下した水素オフガスを排出する制御を行う。以下、水素オフガスを排出する制御処理(以下、「水素パージ処理」ともいう)について詳しく説明する。
【0038】
<1-2.制御部の具体的構成例>
図2は、制御部50の構成のうち、水素パージ処理に関連する機能構成を示すブロック図である。
制御部50は、目標発電電力算出部51、コンプレッサ制御部53、圧力調整弁制御部55、循環ポンプ制御部57及び水素パージ制御部59を備える。これらの各部は、CPU等のプロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能である。
【0039】
目標発電電力算出部51は、駆動用モータへの要求供給電力及び駆動用モータに電力を供給する二次電池への要求充電電力のうちの少なくとも一つに基づいて、燃料電池10に発電させる目標発電電力を算出する。駆動用モータに電力を供給する二次電池とは異なる蓄電装置を備えている場合、目標発電電力算出部51は、さらに当該蓄電装置への要求充電電力を加算して目標発電電力を求めてもよい。
【0040】
コンプレッサ制御部53は、目標発電電力に基づいてコンプレッサ15の目標駆動量を設定し、コンプレッサ15の駆動を制御する。具体的には、目標発電電力に応じた流量の空気が燃料電池に供給されるようにコンプレッサ15の目標駆動量が設定される。コンプレッサ15の目標駆動量は、燃料電池10の発電能力に影響を与える燃料電池10の温度に基づいて補正されてもよい。
【0041】
圧力調整弁制御部55は、目標発電電力に基づいて、循環流路28を介して燃料電池10を循環する水素ガスの目標圧力を設定し、燃料電池10に供給される水素ガスの圧力を調整する。水素ガスの目標圧力も同様に、燃料電池10の温度に基づいて補正されてもよい。
【0042】
循環ポンプ制御部57は、目標発電電力に基づいて循環ポンプ25の目標駆動量を設定し、循環ポンプ25の駆動を制御する。具体的には、目標発電電力に応じた流量の水素ガスが燃料電池に供給されるように循環ポンプ25の目標駆動量が設定される。循環ポンプ25の目標駆動量も同様に、燃料電池10の温度に基づいて補正されてもよい。なお、コンプレッサ15の目標駆動量及び循環ポンプ25の目標駆動量は、いずれか一方で設定される目標駆動量に対応する流量に応じて他方の目標駆動量が設定されてもよい。
【0043】
水素パージ制御部59は、燃料電池10からの水素オフガスの排出を制御(水素パージ制御)する。本実施形態に係る車載用燃料電池システム1において、水素パージ制御部59は、水素パージ弁37及び開閉弁49を制御することにより、水素パージ制御を実行する。本実施形態に係る車載用燃料電池システム1では、温度が水素吸着脱離温度以下の状態で水素を吸着する水素吸着部材39が用いられている。このため、水素パージ制御部59は、希釈器19に導入される酸化オフガスの流量が多く、水素濃度を低下させやすい燃料電池10の出力が大きい状態に限らず、酸化オフガスの流量が少なくなる燃料電池10の出力が小さい状態においても、水素パージ弁37を開弁して水素オフガスを排出する処理を実行するように構成されている。
【0044】
なお、燃料電池10の出力が大きい又は小さい状態は、例えば、燃料電池10の発電電力が所定の閾値よりも大きい又は小さい状態として判断することができる。また、「燃料電池10の出力(発電電力)が小さいとき」とは、燃料電池10の発電が停止した状態も含む。つまり、「燃料電池10の出力が小さいとき」とは、燃料電池車両の運転中に燃料電池10の発電が停止している状態だけでなく、車載用燃料電池システムの起動が停止された状態も含む。
【0045】
燃料電池10の出力が小さい状態では、燃料電池10において空気と水素ガスとが反応する際に発生する反応熱量が小さくなるため燃料電池10の温度が低下し水素オフガスの温度も低下する。このため、燃料電池10の出力が小さい状態では、分岐流路43を流れる冷却水によって、水素吸着部材39の温度を比較的容易に水素吸着脱離温度以下にすることができる。
【0046】
また、水素パージ制御部59は、水素吸着部材39に水素を吸着させたい場合には、開閉弁49を開弁状態として冷却水を分岐流路43へ流通させ、水素吸着部材39の温度を水素吸着脱離温度以下にする。一方、水素パージ制御部59は、水素吸着部材39に吸着された水素を脱離させたい場合には、開閉弁49を閉弁状態として分岐流路43への冷却水の流れを停止し、水素吸着部材39の温度を上昇させる。
【0047】
例えば、燃料電池10の出力が大きい状態では、酸化オフガスの流量が多くなり、希釈器19において水素濃度を低下させやすい。このため、水素パージ制御部59は、燃料電池10の出力が大きい状態では、開閉弁49を閉弁状態とする。この場合、燃料電池10の温度は上昇し、排出される水素ガスの温度も高くなることから、水素吸着部材39の温度が速やかに水素吸着脱離温度を超える。一方、燃料電池10の出力が小さい状態では、酸化オフガスの流量が少なくなり、希釈器19において水素濃度を低下させにくい。このため、水素パージ制御部59は、燃料電池10の出力が小さい状態では、開閉弁49を開弁状態とする。この場合、燃料電池10の温度は低くなり、排出される水素ガスの温度も低くなることから、水素吸着部材39の温度が速やかに水素吸着脱離温度以下になる。
【0048】
具体的に、水素パージ制御部59は、車載用燃料電池システム1の起動時において、水素パージ弁37を開弁状態で保持する。車載用燃料電池システム1の起動時において、燃料電池10は水素ガス経路20内の空気や水分等の不純物を水素に置換するため、比較的多くの水素ガスを排出する。ただし、車載用燃料電池システム1の起動時には燃料電池10の温度が低く、水素ガスが導入される水素吸着部材39の温度も低く維持されることから、排出される水素は水素吸着部材39に吸着される。このとき、水素吸着部材39を水素吸着脱離温度以下に保つために、水素パージ制御部59は、開閉弁49を開弁状態として冷却水を分岐流路43へ流入させてもよい。
【0049】
また、水素パージ制御部59は、車載用燃料電池システム1の起動中において、燃料電池10から排出される酸化オフガスの流量(空気量)に基づいて水素パージ弁37及び開閉弁49の開閉を制御する。具体的に、水素パージ制御部59は、燃料電池10が低出力で発電しており、酸化オフガスの流量が少ない場合、開閉弁49を開弁状態として分岐流路43へ冷却水を流入させるとともに、比較的長時間に設定された第1の時間間隔を空けて水素パージ弁37を開閉する。例えば、水素パージ制御部59は、5秒間の開弁状態と60秒間の閉弁状態とを繰り返す。このとき、燃料電池10の出力が小さい状態では、燃料電池10の発熱量が小さく、分岐流路43を流れる冷却水によって水素吸着部材39が効率的に冷却されるため、排出される水素の一部は水素吸着部材39に吸着される。これにより、酸化オフガスの流量が少ないにもかかわらず、高濃度の水素が外部に放出されることを抑制することができる。
【0050】
図3は、燃料電池10が低出力で発電している状態での、水素吸着部材39の有無による排出水素濃度の違いを示す説明図である。図3に示した例では、水素パージ制御部59は、5秒間の開弁状態と60秒間の閉弁状態とを繰り返すように水素パージ弁37の駆動を制御する。また、破線は、水素吸着部材が設けられていない場合の排出水素濃度を示し、実線は、水素吸着部材39が設けられている場合の排出水素濃度を示す。
【0051】
燃料電池10が低出力で発電している場合、燃料電池10に供給される水素ガスの流量は少ないことから、低頻度で水素パージ弁37が開弁されて水素オフガスが外部に排出される。燃料電池10が低出力で発電している状態では酸化オフガスの流量も少ないため、水素吸着部材が設けられていない場合、排出される水素オフガスの希釈が不十分となって、排出水素濃度が排出規定濃度(例えば4%)を上回っている。これに対して、水素吸着部材39が設けられている場合、燃料電池10が低出力で発電している状態では水素吸着部材39の温度は水素吸着離脱温度以下に保たれ、排出される水素の少なくとも一部が水素吸着部材39に吸着される。したがって、酸化オフガスの流量が少ないにもかかわらず排出水素濃度を排出規定濃度(例えば4%)以下に維持することができ、高濃度の水素が外部に放出されることを抑制することができる。
【0052】
一方、水素パージ制御部59は、燃料電池10が高出力で発電しており、酸化オフガスの流量が多い場合、水素の消費量が多いことから、第1の時間間隔よりも短時間に設定された第2の時間間隔を空けて水素パージ弁37を開弁する。例えば、水素パージ制御部59は、5秒間の開弁状態と5秒間の閉弁状態とを繰り返す。このとき、燃料電池10の出力が大きい状態では、燃料電池10に供給される空気流量が多く、排出される酸化オフガスの流量も多くなることから、水素パージ制御部59は開閉弁49を閉弁状態として水素吸着部材39の温度を水素吸着離脱温度を超える温度にする。これにより、水素は希釈器19に導入され、酸化オフガスにより希釈されて外部に放出される。燃料電池10の出力が低出力から高出力に切り替わった場合には、水素吸着部材39に吸着されていた水素は徐々に離脱するため、短時間の間に高濃度の水素が放出されることを抑制することもできる。
【0053】
図4は、燃料電池10が高出力で発電している状態での、水素吸着部材39の有無による排出水素濃度の違いを示す説明図である。図4に示した例では、水素パージ制御部59は、5秒間の開弁状態と5秒間の閉弁状態とを繰り返すように水素パージ弁37の駆動を制御する。また、破線は、水素吸着部材が設けられていない場合の排出水素濃度を示し、実線は、水素吸着部材39が設けられている場合の排出水素濃度を示す。
【0054】
燃料電池10が高出力で発電している場合、燃料電池10に供給される水素ガスの流量は多くなり、高頻度で水素パージ弁37が開弁されて水素オフガスが外部に排出される。燃料電池10が高出力で発電している状態では酸化オフガスの流量も多いため、水素吸着部材が設けられていない場合であっても排出される水素オフガスは十分に希釈されて排出水素濃度を排出規定濃度(例えば4%)以下に維持することができる。また、水素吸着部材39が設けられている場合、燃料電池10が高出力で発電している状態で、水素吸着部材39の温度は水素吸着離脱温度を超える温度にされ、燃料電池10が低出力で発電している間に水素吸着部材39に吸着されていた水素が離脱させられる。これにより、水素吸着部材39を通過した水素オフガスの濃度は上昇するものの、比較的大流量の酸化オフガスにより十分に希釈されるため、排出水素濃度を排出規定濃度(例えば4%)以下に維持することができる。したがって、高濃度の水素が外部に放出されることを抑制することができる。
【0055】
また、水素パージ制御部59は、燃料電池10内に水素ガス及び空気を流すことにより燃料電池10内の水素ガス流路及び空気流路に生成された水分を排出させる掃気処理時に、所定時間水素パージ弁37を開弁してもよい。掃気処理は、燃料電池10の発電が中断している間に、水素ガス及び空気をそれぞれ燃料電池10内の水素ガス流路及び空気流路に所定時間供給することにより実行される。掃気処理時には、燃料電池10の発電は停止されることから、燃料電池10の温度が低下し、水素ガスが導入される水素吸着部材39の温度も低く維持されやすくなって、排出される水素は水素吸着部材39に吸着される。このとき、水素吸着部材39を水素吸着脱離温度以下に保つために、水素パージ制御部59は、開閉弁49を開弁状態として冷却水を分岐流路43へ流入させてもよい。吸着された水素は、その後、燃料電池10の発電中に水素吸着部材39から離脱して酸化オフガスにより希釈されて外部に放出される。
【0056】
さらに、水素パージ制御部59は、車載用燃料電池システム1の停止時において、所定時間水素パージ弁37を開弁してもよい。システム停止時には燃料電池10への空気及び水素ガスの供給が停止するが、水素パージ弁37が開弁されると、水素ガス経路20の内部圧力によって水素ガスが排出される。このとき、燃料電池10の温度も低下することから、水素吸着部材39の温度は水素吸着離脱温度以下となり、排出される水素は水素吸着部材39に吸着される。吸着された水素は、その後、温度上昇や圧力変化に伴って徐々に放出され、高濃度のままで外部に放出されることを抑制することができる。
【0057】
<1-3.車載用燃料電池システムの動作>
次に、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1における水素パージ処理の動作について説明する。以下、主として、車載用燃料電池システム1の起動時及び起動中のそれぞれにおける水素パージ弁37の開閉動作及び開閉弁49の開閉動作について説明する。
【0058】
図5は、車載用燃料電池システム1の起動時の水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
制御部50の水素パージ制御部59は、車載用燃料電池システム1の起動を検知すると(ステップS11)、水素パージ弁37を開弁状態にする(ステップS13)。システム起動時には、水素ガス経路20内の空気や水分等の不純物が水素に置換されるため、比較的多くの水素が排出される。ただし、燃料電池10の起動時には燃料電池10の温度が低く、排出される水素ガスの温度も低いことから、水素吸着部材39の温度が水素吸着離脱温度以下に保たれる。このため、排出される水素は、水素吸着部材39に吸着される。
【0059】
次いで、水素パージ制御部59は、燃料電池10による発電が開始されたか否かを判別する(ステップS15)。例えば、水素パージ制御部59は、目標発電電力算出部51により設定される目標発電電力がゼロを超える値になったときに燃料電池10による発電が開始されたと判定してもよい。ステップS15が肯定判定の場合(S15/Yes)、水素パージ制御部59は、後述する通常水素パージ処理の実行を開始する(ステップS17)。一方、ステップS15が否定判定の場合(S15/No)、水素パージ制御部59は、システム起動時の水素パージ処理を終了させるか否かを判別する(ステップS19)。例えば、水素パージ制御部59は、システム起動時からあらかじめ設定された所定の時間が経過したときに水素パージ処理を終了させると判定してもよく、燃料電池10の暖機が完了したときに水素パージ処理を終了させると判定してもよい。
【0060】
ステップS19が肯定判定の場合(S19/Yes)、水素パージ制御部59は、水素パージ弁37を閉弁状態に切り替えた後(ステップS21)、通常水素パージ処理の実行を開始する(ステップS17)。一方、ステップS19が否定判定の場合(S19/No)、水素パージ制御部59は、燃料電池10の温度が、あらかじめ設定された所定の閾値T0を超えたか否かを判別する(ステップS23)。このステップS23では、水素吸着部材39に導入される水素ガスによって、水素吸着部材39の温度が水素吸着脱離温度を超えるおそれがないかが判定される。閾値T0は、かかる観点からあらかじめ適切な値に設定される。なお、燃料電池10の温度は、例えば、燃料電池10に設けられた温度センサを用いて検出することができる。
【0061】
ステップS23が否定判定の場合(S23/No)、そのままステップS15へ戻る。一方、ステップS23が肯定判定の場合(S23/Yes)、水素パージ制御部59は、水素吸着部材39を水素吸着脱離温度以下に冷却するため、開閉弁49を開弁状態として分岐流路43に冷却水を流通させた後(ステップS25)、ステップS15へ戻る。
【0062】
このように、車載用燃料電池システム1の起動時において、水素パージ制御部59は、あらかじめ設定された起動時水素パージ処理を終了させる条件が成立するまでの間、あるいは、発電制御が開始されるまでの間、水素パージ弁37を介して燃料電池10から水素ガスを排出し、水素吸着部材39に吸着させる。車載用燃料電池システム1の起動時には燃料電池10に供給される空気流量は少ないものの、排出される水素は水素吸着部材39に吸着されるため、高濃度の水素ガスが外部に放出されることを抑制することができる。
【0063】
なお、本実施形態において、起動時水素パージ処理により水素吸着部材39に吸着された水素は、その後の通常水素パージ処理中において、燃料電池10の出力が高い状態で、燃料電池10から排出される酸化オフガスの流量が多い期間に水素吸着部材39から脱離し、希釈されつつ放出される。
【0064】
図6は、車載用燃料電池システム1の起動中の通常水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
制御部50の水素パージ制御部59は、燃料電池10が発電中であるか否かを判別する(ステップS31)。例えば、水素パージ制御部59は、目標発電電力算出部51により算出される目標発電電力が正の値になっている場合に燃料電池10が発電中であると判定する等、適宜の方法により燃料電池10が発電中であると判定してもよい。
【0065】
ステップS31が否定判定の場合(S31/No)、水素パージ制御部59は、今回の発電停止中にすでに燃料電池10内の掃気処理を完了したか否かを判別する(ステップS33)。ステップS33が肯定判定の場合(S33/Yes)、そのままステップS49へ進む。一方、ステップS33が否定判定の場合(S33/No)、水素パージ制御部59は、開閉弁49を開弁状態として分岐流路43に冷却水を流入させて水素吸着部材39を冷却させる(ステップS35)。また、水素パージ制御部59は、水素パージ弁37を所定時間開弁状態とする(ステップS37)。これにより、水素ガス流路内に生成されていた水分が水素オフガスとともに燃料電池10から排出され気液分離器27に回収されるとともに、水素オフガスは水素パージ弁37を介して水素吸着部材39に導入される。
【0066】
燃料電池10の発電が停止した状態では、燃料電池10の温度が低く、水素オフガスの温度が低いことも相俟って、水素吸着部材39の温度を水素吸着脱離温度以下に保持することができ、排出される水素の少なくとも一部を水素吸着部材39へ吸着させることができる。また、水素吸着部材39に吸着されない水素は、同じく空気流路の掃気処理に用いられた空気により希釈されて外部に放出される。
【0067】
また、ステップS31が肯定判定の場合(S31/Yes)、水素パージ制御部59は、燃料電池10の出力が低い状態であるか否かを判別する(ステップS39)。例えば、水素パージ制御部59は、目標発電電力があらかじめ設定された所定の閾値よりも低い場合に燃料電池10の出力が低い状態であると判定してもよい。
【0068】
ステップS39が肯定判定の場合(S39/Yes)、水素パージ制御部59は、開閉弁49を開弁状態として分岐流路43に冷却水を流入させて水素吸着部材39を冷却させる(ステップS41)。また、水素パージ制御部59は、第1の時間間隔で水素パージ弁37の開弁を繰り返す(ステップS43)。例えば、水素パージ制御部59は、5秒間の水素パージ弁37の開弁と、60秒間の水素パージ弁37の開弁とを繰り返す。これにより、燃料電池10の温度が低く、水素オフガスの温度が低いことも相俟って、水素吸着部材39の温度を水素吸着脱離温度以下に保持することができ、排出される水素を水素吸着部材39へ吸着させることができる。
【0069】
一方、ステップS39が否定判定の場合(S39/No)、水素パージ制御部59は、開閉弁49を閉弁状態として分岐流路43への冷却水の流入を停止させる(ステップS45)。また、水素パージ制御部59は、第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で水素パージ弁37の開弁を繰り返す(ステップS47)。例えば、水素パージ制御部59は、5秒間の水素パージ弁37の開弁と5秒間の水素パージ弁37の閉弁とを繰り返す。これにより、燃料電池10の温度が高く、水素オフガスの温度が高いことから、水素吸着部材39の温度が水素吸着脱離温度を超え、吸着していた水素が脱離する。ただし、燃料電池10の出力が高い状態では、燃料電池10から排出される酸化オフガスの流量も多いため、希釈器19において水素は希釈されて外部に放出される。
【0070】
次いで、水素パージ制御部59は、車載用燃料電池システム1がオフにされたか否かを判別する(ステップS49)。ステップS49が否定判定の場合(S49/No)、水素パージ制御部59はステップS31に戻り、上述した各ステップの処理を繰り返す。一方、ステップS49が肯定判定の場合(S49/Yes)、水素パージ制御部59は、水素パージ弁37を所定時間開弁し(ステップS51)、通常水素パージ処理を終了させる。これにより、水素ガス経路20内の内部圧力によって水素オフガスが排出される。システムがオフの状態では、水素オフガスの温度が低いことから、排出される水素は、水素吸着部材39に吸着される。吸着された水素は、その後、水素吸着部材39の温度の上昇や圧力の低下に伴って徐々に脱離し、低濃度の状態で外部に放出される。
【0071】
<1-4.第1の実施の形態による効果>
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車載用燃料電池システム1によれば、水素オフガスを排出する水素排出流路35に、温度によって水素を吸着又は脱離する機能を有する水素吸着部材39を備えるとともに、水素吸着部材39の温度を調節する温度調節手段を備える。このため、任意のタイミングで水素を希釈器19に流入させるように制御することができる。したがって、酸化オフガスの流量が少ない状態で高濃度の水素ガスが希釈器19へ流入することが抑制され、外部に放出される水素ガスの濃度のピーク値を低減して、高濃度の水素ガスが放出されることを抑制することができる。
【0072】
また、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1では、燃料電池10から排出される酸化オフガスの流量に基づいて水素吸着部材39の温度が調節され、水素吸着部材39への水素の吸着及び脱離が制御される。具体的に、酸化オフガスの流量が少ない間に水素吸着部材39に水素を吸着させ、酸化オフガスの流量が多い間に水素吸着部材39から水素を脱離させて、水素濃度を低下させたうえで外部に水素を放出させる。したがって、燃料電池10からの水素オフガスの排出を任意のタイミングで行うことができるようになる。
【0073】
<<2.第2の実施の形態>>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る車載用燃料電池システムの全体構成例を説明する。本実施形態に係る車載用燃料電池システムは、水素吸着部材への水素の吸着及び脱離を切り替える手段として圧力調節手段を備える。以下、第2の実施の形態に係る車載用燃料電池システムについて、主として第1の実施の形態に係る車載用燃料電池システムと異なる点を説明する。
【0074】
図7は、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1Aの全体構成の一例を示す模式図である。本実施形態に係る車載用燃料電池システム1においては、第1の実施の形態において例示した水素吸着部材39のうち、少なくとも圧力変化を利用して水素の吸着及び脱離を制御可能な水素吸着部材39が用いられる。
【0075】
また、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1Aは、水素吸着部材39に流入する水素オフガスの圧力を調節する圧力調節手段として、流路絞り弁38を備える。流路絞り弁38は、水素吸着部材39よりも下流側、かつ、希釈器19よりも上流側に設けられ、制御部50により駆動が制御されて流路面積を調節する。流路絞り弁38により流路面積が絞られた(小さくされた)場合、流路絞り弁38よりも上流側の水素排出流路35内の圧力が上昇する。これにより、水素吸着部材39に流入する水素ガスの圧力を吸着圧力を超える状態として、水素吸着部材39が水素を吸着可能な状態とする。
【0076】
なお、圧力調節手段は、流路絞り弁38に限られるものではなく、水素パージ弁37を介して排出される水素オフガスの排出圧力、あるいは、水素吸着部材39が配置された領域の圧力を調節可能な機構であればよい。例えば、水素パージ弁37よりも下流側の、水素吸着部材39が配置された領域を含む空間の容積を調節可能な機構であってもよい。
【0077】
本実施形態において、制御部50の水素パージ制御部59は、水素パージ弁37及び流路絞り弁38を制御することにより、水素パージ制御を実行する。水素パージ制御部59は、水素吸着部材39に水素を吸着させたい場合には、流路絞り弁38を駆動して水素排出流路35の流路面積を絞り、水素吸着部材39に流入する水素ガスの排出圧力が吸着圧力を超えるようにする。一方、水素パージ制御部59は、水素吸着部材39に吸着された水素を脱離させたい場合には、流路絞り弁38を駆動して水素排出流路35の流路面積を拡大し、水素吸着部材39に流入する水素ガスの排出圧力が脱離圧力以下となるようにする。
【0078】
なお、水素パージ弁37を開いた場合、水素ガス経路20の内部圧力によって水素吸着部材39に流入する水素オフガスの排出圧力が上昇するため、流路絞り弁38によって流路面積を絞ることによって、速やかに水素オフガスの排出圧力を吸着圧力を超える状態にすることができる。また、水素パージ弁37を閉じた場合、水素パージ弁37の下流側への水素オフガスの流入は停止するため、流路絞り弁38によって流路面積を拡大することによって、速やかに水素オフガスの排出圧力を脱離圧力以下の状態にすることができる。
【0079】
以下、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1Aの起動時及び起動中のそれぞれにおける水素パージ弁37の開閉動作及び開閉弁49の開閉動作について説明する。なお、第1の実施の形態に係る車載用燃料電池システム1による処理と同じ処理を行うステップには同一のステップ番号を付し、その説明を一部省略する場合がある。
【0080】
図8は、車載用燃料電池システム1Aの起動時の水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
制御部50の水素パージ制御部59は、車載用燃料電池システム1の起動を検知すると(ステップS11)、水素パージ弁37を開弁状態にするとともに、流路絞り弁38を駆動して流路面積を絞る(縮小する)(ステップS14)。システム起動時には燃料電池10の出力は小さく水素ガスの排出圧力が低いものの、流路絞り弁38により水素排出流路35の流路面積を絞ることによって水素吸着部材39に流入する水素ガスの排出圧力が吸着圧力を超える状態に保たれる。このため、排出される水素は、水素吸着部材39に吸着される。
【0081】
次いで、水素パージ制御部59は、燃料電池10による発電が開始されたか否かを判別する(ステップS15)。ステップS15が肯定判定の場合(S15/Yes)、水素パージ制御部59は、後述する通常水素パージ処理の実行を開始する(ステップS17)。一方、ステップS15が否定判定の場合(S15/No)、水素パージ制御部59は、システム起動時の水素パージ処理を終了させるか否かを判別する(ステップS19)。
【0082】
ステップS19が否定判定の場合(S19/No)、そのままステップS15へ戻る。一方、ステップS19が肯定判定の場合(S19/Yes)、水素パージ制御部59は、水素パージ弁37を閉弁状態に切り替えるとともに、流路絞り弁38を駆動して水素排出流路35の流路面積を拡大させた後(ステップS21)、通常水素パージ処理の実行を開始する(ステップS17)。ステップS21の処理により、水素吸着部材39が配置された領域の圧力が徐々に低下し、脱離圧力を下回った後には、水素吸着部材39に吸着されていた水素が徐々に脱離し、低濃度の状態で放出される。
【0083】
このように、車載用燃料電池システム1の起動時において、水素パージ制御部59は、あらかじめ設定された起動時水素パージ処理を終了させる条件が成立するまでの間、あるいは、発電制御が開始されるまでの間、水素パージ弁37を介して燃料電池10から水素ガスを排出し、水素吸着部材39に吸着させる。車載用燃料電池システム1の起動時には燃料電池10に供給される空気流量は少ないものの、排出される水素は水素吸着部材39に吸着される。起動時水素パージ処理により水素吸着部材39に吸着された水素は、その後の水素吸着部材39の圧力低下に伴って水素吸着部材39から徐々に脱離する。これにより、高濃度の水素が外部に放出されることを抑制することができる。
【0084】
図9は、車載用燃料電池システム1の起動中の通常水素パージ処理の動作を示すフローチャートである。
制御部50の水素パージ制御部59は、燃料電池10が発電中であるか否かを判別する(ステップS31)。ステップS31が否定判定の場合(S31/No)、水素パージ制御部59は、今回の発電停止中にすでに燃料電池10内の掃気処理を完了したか否かを判別する(ステップS33)。ステップS33が肯定判定の場合(S33/Yes)、そのままステップS49へ進む。一方、ステップS33が否定判定の場合(S33/No)、水素パージ制御部59は、所定時間、水素パージ弁37を開弁状態とするとともに流路絞り弁38により水素排出流路35の面積を絞る(ステップS34)。これにより、水素ガス流路内に生成されていた水分が水素オフガスとともに燃料電池10から排出され気液分離器27に回収されるとともに、水素オフガスは水素パージ弁37を介して水素吸着部材39に導入される。
【0085】
このとき、流路絞り弁38により水素排出流路35の流路面積が絞られていることから、水素吸着部材39に流入する水素オフガスの圧力を吸着圧力を超える圧力に保持することができ、排出される水素の少なくとも一部を水素吸着部材39へ吸着させることができる。また、水素吸着部材39に吸着されない水素は、同じく空気流路の掃気処理に用いられた空気により希釈されて外部に放出される。
【0086】
また、ステップS31が肯定判定の場合(S31/Yes)、水素パージ制御部59は、燃料電池10の出力が低い状態であるか否かを判別する(ステップS39)。ステップS39が肯定判定の場合(S39/Yes)、水素パージ制御部59は、第1の時間間隔で水素パージ弁37の開弁及び流路絞り弁38による水素排出流路35の流路面積の絞り動作を繰り返す(ステップS42)。例えば、水素パージ制御部59は、5秒間の水素パージ弁37の開弁及び流路面積の絞り動作と、60秒間の水素パージ弁37の開弁及び流路面積の拡大動作とを繰り返す。これにより、水素吸着部材39への水素の吸着と、水素吸着部材39に吸着した水素の脱離とが繰り返される。
【0087】
一方、ステップS39が否定判定の場合(S39/No)、水素パージ制御部59は、第1の時間間隔よりも短い第2の時間間隔で水素パージ弁37の開弁及び流路絞り弁38による水素排出流路35の流路面積の絞り動作を繰り返す(ステップS44)。例えば、水素パージ制御部59は、5秒間の水素パージ弁37の開弁及び流路面積の絞り動作と、5秒間の水素パージ弁37の閉弁及び流路面積の拡大動作とを繰り返す。これにより、水素吸着部材39への水素の吸着と、水素吸着部材39に吸着した水素の脱離とが繰り返される。ただし、燃料電池10の出力が高い状態では、燃料電池10の出力が低い状態に比べて水素の排出量が多くなるものの、燃料電池10から排出される酸化オフガスの流量も多いために希釈器19において水素は適切に希釈されて外部に放出される。
【0088】
次いで、水素パージ制御部59は、車載用燃料電池システム1がオフにされたか否かを判別する(ステップS49)。ステップS49が否定判定の場合(S49/No)、水素パージ制御部59はステップS31に戻り、上述した各ステップの処理を繰り返す。一方、ステップS49が肯定判定の場合(S49/Yes)、水素パージ制御部59は、所定時間、水素パージ弁37を開弁するとともに流路絞り弁38を駆動して水素排出流路35の流路面積を絞り(ステップS52)、通常水素パージ処理を終了させる。これにより、水素ガス経路20内の内部圧力によって水素オフガスが排出され、排出される水素が水素吸着部材39に吸着される。吸着された水素は、その後、水素吸着部材39の温度の上昇や圧力の低下に伴って徐々に脱離し、低濃度の状態で外部に放出される。
【0089】
<2-3.第2の実施の形態による効果>
以上説明したように、第2の実施の形態に係る車載用燃料電池システム1Aによれば、水素オフガスを排出する水素排出流路35に、温度によって水素を吸着又は脱離する機能を有する水素吸着部材39を備えるとともに、水素吸着部材39に流入する水素オフガスの排出圧力を調節する圧力調節手段を備える。このため、任意のタイミングで水素を希釈器19に流入させるように制御することができる。したがって、酸化オフガスの流量が少ない状態で高濃度の水素ガスが希釈器19へ流入することが抑制され、外部に放出される水素ガスの濃度のピーク値を低減して、高濃度の水素ガスが放出されることを抑制することができる。
【0090】
また、本実施形態に係る車載用燃料電池システム1では、燃料電池10から排出される酸化オフガスの流量に基づいて水素吸着部材39に流入する水素オフガスの圧力が調節され、水素吸着部材39への水素の吸着及び脱離が制御される。具体的に、酸化オフガスの流量が少ない間に水素吸着部材39に水素を吸着させ、酸化オフガスの流量が多い間に水素吸着部材39から水素を脱離させて、水素濃度を低下させたうえで外部に水素を放出させる。したがって、燃料電池10からの水素オフガスの排出を任意のタイミングで行うことができるようになる。
【0091】
なお、第2の実施の形態に係る車載用燃料電池システム1Aが、併せて第1の実施の形態で説明した温度調節手段を備えていてもよい。かかる車載用燃料電池システムによれば、燃料電池10の出力あるいは動作温度に応じて、温度調節手段又は圧力調節手段を選択的に使い分け、水素吸着部材39への水素の吸着及び脱離を効率的に制御することができる。例えば、燃料電池10の動作温度が低いシステム起動時には、温度調節手段を用いて水素吸着部材39の温度を水素吸着脱離温度以下に保持して、排出される水素を水素吸着部材39に吸着させ、燃料電池10の暖機完了後、排出される水素量が少ない間に吸着した水素を徐々に脱離させる。また、燃料電池10の起動後においては、圧力調節手段を用いて水素吸着部材39に流入する水素オフガスの圧力を吸着圧力を超える状態に保持して排出される水素を水素吸着部材39に吸着させ、酸化オフガスの流量が多い期間に吸着した水素を徐々に脱離させる。
【0092】
これにより、燃料電池10から排出される水素オフガス自体の温度あるいは圧力をできる限り利用して、水素吸着部材39への水素の吸着及び脱離を制御することができる。したがって、水素吸着部材39への水素の吸着及び脱離を効率的に行うことができるとともに、温度調節手段あるいは圧力調節手段の制御に消費されるエネルギを低減することができる。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0094】
例えば、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態において、希釈器19の上流に水素排出流路35を遮断する遮断弁あるいはシャッタ機構等の流路遮断手段を備えていてもよい。これにより、燃料電池10から排出される水素オフガス中の水素が水素吸着部材39に吸着される前に水素吸着部材39を透過する場合には流路遮断手段により流路を遮断して、水素吸着部材39への水素の吸着を促進させることができる。また、かかる流路遮断手段と併せて、あるいは、流路遮断手段に代えて、水素吸着部材39を透過した水素オフガスを水素吸着部材39の上流側へ戻すリターン配管を備えていてもよい。これにより、水素吸着部材39を透過した水素オフガスを再び水素吸着部材39へ戻すことができ、水素吸着部材39への水素の吸着を促進させることができる。
【符号の説明】
【0095】
1・1A…車載用燃料電池システム、11…酸化ガス経路、20…水素ガス経路、35…水素排出流路、37…水素パージ弁、38…流路絞り弁(圧力調節手段)、39…水素吸着部材、40…冷却水循環回路(温度調節手段)、41…冷却水循環流路、43…分岐流路、49…開閉弁、50…制御部、59…水素パージ制御部
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