(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20241001BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20241001BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20241001BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241001BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20241001BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20241001BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241001BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20241001BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20241001BHJP
C10M 133/56 20060101ALN20241001BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20241001BHJP
C10M 159/24 20060101ALN20241001BHJP
C10M 159/22 20060101ALN20241001BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20241001BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20241001BHJP
C10M 137/00 20060101ALN20241001BHJP
C10M 135/00 20060101ALN20241001BHJP
C10M 145/14 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
C10M169/04
C10N20:02
C10N20:04
C10N10:04
C10N40:04
C10N40:00 D
C10N30:00 Z
C10N30:10
C10M101/02
C10M133/56
C10M133/16
C10M159/24
C10M159/22
C10M133/12
C10M129/10
C10M137/00
C10M135/00
C10M145/14
(21)【出願番号】P 2020171285
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】角谷 真夕子
(72)【発明者】
【氏名】増田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲 紀子
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/095968(WO,A1)
【文献】特開2003-113391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0371357(US,A1)
【文献】特開平09-202890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(O)1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせを含んでなり、40℃における動粘度が6.0~12.0mm
2/sである潤滑油基油と、
(A)数平均分子量800以上のポリイソブテニル基を有するポリイソブテニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせを、組成物全量基準で窒素分として80質量ppm以上、かつ化合物として2.7質量%以下と、
(B)炭素数8~30のアルキル若しくはアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせを、組成物全量基準で窒素分として50~1300質量ppmと
、
(E)1種以上のリン含有化合物、若しくは、形式酸化数+II以下の硫黄原子を1分子中に少なくとも1つ含む1種以上の硫黄含有化合物、又はそれらの組み合わせを、リン分及び硫黄分の合計の含有量として、組成物全量基準で400ppm以上1000質量ppm以下と、
を含有し、
前記(A)成分の重量平均分子量(単位:Da)と、前記(A)成分の化合物としての含有量(単位:質量%)との積が16,000以下であることを特徴とする、潤滑油組成物。
【請求項2】
(C)1種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート清浄剤、若しくは1種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート清浄剤、又はそれらの組み合わせを、組成物全量基準でカルシウム量として10質量ppm以上100質量ppm未満含有する、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(D)1種以上のアミン系酸化防止剤および1種以上のフェノール系酸化防止剤を、合計量として組成物全量基準で0.1~3.0質量%含有する、
請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(A)成分の組成物全量基準での窒素分としての含有量A(単位:質量ppm)及び前記(B)成分の組成物全量基準での窒素分としての含有量B(単位:質量ppm)が、下記数式(1)で表される関係を満たす、
請求項1~
3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【数1】
【請求項5】
(F)重量平均分子量が25,000超である1種以上のポリアルキル(メタ)アクリレートを、組成物全量基準で5.0質量%以下含有するか、又は含有しない、
請求項1~
4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
重量平均分子量25,000以下の1種以上のポリマーを、組成物全量基準で0.1質量%未満含有するか、又は含有しない、請求項1~
5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
自動変速機の潤滑に用いられる、請求項1~
6のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
電動モーターの潤滑に用いられる、請求項1~
7のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の潤滑油組成物を、自動変速機および電動モーターを備える自動車の前記自動変速機に供給することと、
前記潤滑油組成物を、前記自動車の電動モーターに供給することと
を含む、自動変速機および電動モーターの潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関し、より詳しくは、自動変速機および/または電動モーターの潤滑に好ましく用いることのできる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機および終減速機等の歯車装置における省エネルギー化手段のひとつとして、潤滑油の低粘度化が挙げられる。例えば変速機や終減速機等は歯車軸受機構を有しており、これらに使用される潤滑油を低粘度化することにより、潤滑油の粘性抵抗に起因する攪拌抵抗および引きずりトルクが低減されて動力の伝達効率が向上し、その結果省燃費性の向上が可能になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-249496号公報
【文献】特開2014-159496号公報
【文献】特開2016-003258号公報
【文献】特開2016-020454号公報
【文献】国際公開2020/095968号
【文献】国際公開2020/095969号
【文献】国際公開2020/095970号
【文献】国際公開2020/171188号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、エネルギー効率および環境適合性の観点から、電動モーターを走行の動力源とする電気自動車、及び、走行の動力源として電動モーターと内燃機関とを併用するハイブリッド自動車が注目されている。電動モーターは運転に伴い発熱するところ、電動モーターにはコイルや磁石等の熱に弱い部品が含まれる。そこで走行の動力源として電動モーターを用いるこれらの自動車には、電動モーターを冷却する手段が設けられる。電動モーターを冷却する手段としては、空冷、水冷、及び油冷が知られている。これらの中でも油冷方式は、電動モーター内部に油を流通させることにより、電動モーター内の発熱部位(例えばコイル、コア、磁石等。)と冷却媒体(油)とを直接接触させ、高い冷却効果を得ることができる。油冷方式の電動モーターにおいては、電動モーター内部に油(潤滑油)を流通させることにより、電動モーターの潤滑および冷却が同時に行われる。電動モーターの潤滑油(電動モーター油)には、電気絶縁性が求められる。
【0005】
電動モーター及び変速機は、通常、異なる潤滑油を用いて潤滑される。電動モーター及び変速機(歯車機構)を同一の潤滑油によって潤滑することができれば、潤滑油循環機構を簡略化することが可能になる。しかしながら、従来の変速機油は、電動モーターの潤滑に用いるには電気絶縁性が不十分であった。また従来の電動モーター油は、変速機(歯車機構)の潤滑に用いるには酸化劣化に対する耐久性が不十分であった。
【0006】
変速機油や電気モーター油等の、一定以上の高温に曝される潤滑油にとって、酸化劣化は潤滑油の寿命を決める一つの要素である。潤滑油の酸化劣化により発生する高極性成分は不溶分として析出しやすいだけでなく、潤滑油の電気絶縁性を低下させ得る。また酸化劣化の進行に伴う酸価の増加は金属部材の腐食をもたらし得る。
【0007】
清浄分散剤は、潤滑油の酸化劣化に由来するこれらの問題を緩和して潤滑油のロングドレイン性を高める上で重要な成分である。清浄分散剤は、無灰分散剤および金属系清浄剤を包含する概念である。金属系清浄剤は油中でミセルを形成可能な有機酸の金属塩(例えばアルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート等。)、または該金属塩と金属塩基(例えば酸化物、水酸化物等。)との混合物である。無灰分散剤は通常、高極性成分と相互作用するための極性基(例えばアミノ基等。)と、高極性成分を油中に分散させるために十分な油性を有する長鎖のアルキル又はアルケニル基(例えばポリイソブテニル基等。)とを一分子中に有する。無灰分散剤として用いられる具体的な化合物の例としては、アルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合反応生成物、アルキル又はアルケニルフェノールとホルムアルデヒドとポリアミンとのマンニッヒ反応生成物等を挙げることができる。無灰分散剤は油中でミセルを形成しないので、無灰分散剤としての機能に必要な油性を確保するためには、金属系清浄剤を構成する有機酸が有する油性基よりも長鎖のアルキル又はアルケニル基が必要である。そのようなアルキル又はアルケニル基として、例えばイソブテン等のオレフィンの重合により得られるポリオレフィンから誘導されるアルキル又はアルケニル基(ポリイソブテニル基)が好ましく用いられる。したがって無灰分散剤は通常、金属系清浄剤よりも大きな分子量を有する。
【0008】
潤滑油中の金属系清浄剤の含有量が増えると、新油の電気絶縁性は顕著に低下する傾向にある。したがって電動モーターの潤滑に必要な電気絶縁性を確保する観点からは、潤滑油中の金属系清浄剤の含有量は少ないことが望ましい。金属系清浄剤が減量された又は金属系清浄剤を含有しない潤滑油において、潤滑油の酸化劣化に由来する問題を緩和してロングドレイン性を高めるためには、無灰分散剤の含有量を増やす必要がある。そうではあるが、無灰分散剤は金属系清浄剤ほど新油の電気絶縁性を低下させない一方で、金属系清浄剤に比べて潤滑油の粘度を増大させやすい。したがって潤滑油の省エネルギー性を高める観点からは、無灰分散剤の含有量は少ないことが望ましい。
【0009】
本発明は、省エネルギー性を高めた低粘度の潤滑油組成物でありながら、電動モーターの潤滑に求められる電気絶縁性を備えるとともに、自動変速機の潤滑および電動モーターの潤滑における酸化劣化に由来する問題を緩和してロングドレイン性を高めることが可能な潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、次の[1]~[10]の実施形態を包含する。
[1] (O)1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせを含んでなり、40℃における動粘度が6.0~12.0mm2/sである潤滑油基油と、
(A)数平均分子量800以上のポリイソブテニル基を有するポリイソブテニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせを、組成物全量基準で窒素分として80質量ppm以上、かつ化合物として2.7質量%以下と、
(B)炭素数8~30のアルキル若しくはアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせを、組成物全量基準で窒素分として50~1300質量ppmとを含有し、
前記(A)成分の重量平均分子量(単位:Da)と、前記(A)成分の化合物としての含有量(単位:質量%)との積が16,000以下であることを特徴とする、潤滑油組成物。
【0011】
[2] (C)1種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート清浄剤、若しくは1種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート清浄剤、又はそれらの組み合わせを、組成物全量基準でカルシウム量として10質量ppm以上100質量ppm未満含有する、[1]に記載の潤滑油組成物。
【0012】
[3] (D)1種以上のアミン系酸化防止剤および1種以上のフェノール系酸化防止剤を、合計量として組成物全量基準で0.1~3.0質量%含有する、[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
【0013】
[4] (E)1種以上のリン含有化合物、若しくは、形式酸化数+II以下の硫黄原子を1分子中に少なくとも1つ含む1種以上の硫黄含有化合物、又はそれらの組み合わせを、リン分及び硫黄分の合計の含有量として、組成物全量基準で1000質量ppm以下含有するか、又は含有しない、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0014】
[5] 前記(A)成分の組成物全量基準での窒素分としての含有量A(単位:質量ppm)及び前記(B)成分の組成物全量基準での窒素分としての含有量B(単位:質量ppm)が、下記数式(1)で表される関係を満たす、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0015】
【0016】
[6] (F)重量平均分子量が25,000超である1種以上のポリアルキル(メタ)アクリレートを、組成物全量基準で5.0質量%以下含有するか、又は含有しない、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0017】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する。
【0018】
[7] 重量平均分子量25,000以下の1種以上のポリマーを、組成物全量基準で0.1質量%未満含有するか、又は含有しない、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0019】
[8] 自動変速機の潤滑に用いられる、[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0020】
[9] 電動モーターの潤滑に用いられる、[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0021】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物を、自動変速機および電動モーターを備える自動車の前記自動変速機に供給することと、
前記潤滑油組成物を、前記自動車の電動モーターに供給することと
を含む、自動変速機および電動モーターの潤滑方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、省エネルギー性を高めた低粘度の潤滑油組成物でありながら、電動モーターの潤滑に求められる電気絶縁性を備えるとともに、自動変速機の潤滑および電動モーターの潤滑における酸化劣化に由来する問題を緩和してロングドレイン性を高めることが可能な潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳述する。なお本明細書においては、特に断らない限り、数値AおよびBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」と等価であるものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。本明細書において、「または」および「もしくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。本明細書において、要素E1およびE2について「E1および/またはE2」という表記は「E1、もしくはE2、またはそれらの組み合わせ」と等価であり、N個の要素E1、…、Ei、…、EN(Nは3以上の整数である。)について「E1、…、および/またはEN」という表記は「E1、…、もしくはEi、…、もしくはEN、またはそれらの組み合わせ」(iは1<i<Nを満たす全ての整数を値にとる変数である。)と等価である。また本明細書において、「アルカリ土類金属」にはマグネシウムも包含されるものとする。
【0024】
なお本明細書において、別途指定のない限り、油中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、リン、硫黄、ホウ素、バリウム、およびモリブデンの各元素の含有量は、JIS K0116に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。また油中の窒素元素の含有量は、JIS K2609に準拠して化学発光法により測定されるものとする。また本明細書において「重量平均分子量」および「数平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算での重量平均分子量および数平均分子量を意味する。GPCの測定条件は次の通りである。
[GPC測定条件]
装置:Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC UV RIシステム
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT900A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT200A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本を直列に接続
カラム温度:40℃
試料溶液:試料濃度1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:20.0μL
溶離液:テトラヒドロフラン
検出装置:示差屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)8点(分子量:2698000、597500、290300、133500、70500、30230、9590、2970)
上記条件に基づき測定した重量平均分子量が10000未満である場合、カラムおよび基準物質を以下条件に変更し再測定を行う。
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT125A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT45A(ゲル粒径1.7μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本を直列に接続
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)10点(分子量:30230、9590、2970、890、786、682、578、474、370、266)
【0025】
<(O)潤滑油基油>
本発明の潤滑油組成物(以下において「潤滑油組成物」または「組成物」ということがある。)は、主要量の潤滑油基油と、基油以外の1種以上の添加剤とを含んでなる。本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油としては、1種以上の鉱油系基油もしくは1種以上の合成系基油またはそれらの組み合わせを含んでなり、40℃における動粘度が6.0~12.0mm2/sである潤滑油基油(以下において「(O)成分」ということがある。)が用いられる。
【0026】
潤滑油基油としては、1種以上の鉱油系基油、もしくは1種以上の合成系基油、またはそれらの混合基油を用いることができる。一の実施形態において、潤滑油基油としては、API基油分類のグループI基油(以下において「APIグループI基油」ということがある。)、グループII基油(以下において「APIグループII基油」ということがある。)、グループIII基油(以下において「APIグループIII基油」ということがある。)、グループIV基油(以下において「APIグループIV基油」ということがある。)、若しくはグループV基油(以下において「APIグループV基油」ということがある。)、又はそれらの混合基油を用いることができる。APIグループI基油は、硫黄分が0.03質量%超かつ/又は飽和分が90質量%未満であって、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。APIグループIV基油はポリα-オレフィン基油である。APIグループV基油は上記グループI~IV以外の基油であって、その好ましい例としてはエステル系基油を挙げることができる。なお本明細書において、粘度指数とは、JIS K 2283-2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。また本明細書において「潤滑油基油中の硫黄分の含有量」は、JIS K 2541-2003に準拠して測定されるものとする。また本明細書において「潤滑油基油中の飽和分の含有量」は、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0027】
一の実施形態において、(O)成分としては、1種以上のAPIグループII基油、1種以上のAPIグループIII基油、1種以上のAPIグループIV基油、もしくは1種以上のAPIグループV基油、またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0028】
鉱油系基油の例としては、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理から選ばれる1種または2種以上の組み合わせにより精製したパラフィン系鉱油、およびノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油、ならびにこれらの混合物などを挙げることができる。APIグループII基油およびグループIII基油は通常、水素化分解プロセスを経て製造される。
【0029】
鉱油系基油の%CPは、組成物の粘度-温度特性および省燃費性をさらに高める観点から好ましくは60以上、より好ましくは65以上であり、また添加剤の溶解性を高める観点から好ましくは99以下、より好ましくは95以下、さらに好ましくは94以下であり、一の実施形態において60~99、又は60~95、又は65~95、又は65~94であり得る。
【0030】
鉱油系基油の%CAは、組成物の粘度-温度特性および省燃費性をさらに高める観点から好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。
【0031】
鉱油系基油の%CNは、添加剤の溶解性を高める観点から好ましくは1以上、より好ましくは4以上であり、また組成物の粘度-温度特性および省燃費性をさらに高める観点から好ましくは40以下、より好ましくは35以下であり、一の実施形態において1~40、又は4~35であり得る。
【0032】
本明細書において%CP、%CNおよび%CAとは、それぞれASTM D 3238-85に準拠した方法(n-d-M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%CP、%CNおよび%CAの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%CNは0を超える値を示し得る。
【0033】
鉱油系基油における飽和分の含有量は、組成物の粘度-温度特性を高める観点から、基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。なお本明細書において飽和分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0034】
また、飽和分の分離方法には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記ASTM D 2007-93に記載された方法の他、ASTM D 2425-93に記載の方法、ASTM D 2549-91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0035】
鉱油系基油における芳香族分の含有量は、基油全量を基準として、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、特に好ましくは0~1質量%であり、一の実施形態において0.1質量%以上であり得る。芳香族分の含有量が上記上限値以下であることにより、新油状態での低温粘度特性および粘度-温度特性を高めることが可能になるほか、省燃費性をさらに高めることが可能になるとともに、潤滑油の蒸発損失を低減して潤滑油の消費量を低減することが可能になる。また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目を効果的に発揮させることが可能になる。また、潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量が上記下限値以上であることにより、添加剤の溶解性を高めることができる。
【0036】
なお、本明細書において芳香族分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0037】
APIグループIV基油の例としては、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、およびこれらの水素化生成物等の、炭素数2~32、好ましくは炭素数6~16のα-オレフィンのオリゴマー及びコオリゴマー並びにそれらの水素化生成物を挙げることができる。
【0038】
APIグループV基油の好ましい例としては、モノエステル(例えばブチルステアレート、オクチルラウレート、2-エチルヘキシルオレート等);ジエステル(例えばジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等);ポリエステル(例えばトリメリット酸エステル等);ポリオールエステル(例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)等のエステル系基油を挙げることができる。APIグループV基油の他の例としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、等の芳香族系合成基油を挙げることができる。
【0039】
潤滑油基油(全基油)の40℃における動粘度は、新油の電気絶縁性を高める観点、および潤滑箇所での油膜形成を十分にして耐摩耗性を高める観点から6.0mm2/s以上、好ましくは6.5mm2/s以上、より好ましくは7.0mm2/s以上であり、また省燃費性および潤滑油組成物の低温粘度特性の観点から12.0mm2/s以下であり、一の実施形態において6.0~12.0mm2/s、又は6.5~12.0mm2/s、又は7.0~12.0mm2/sであり得る。なお本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された40℃での動粘度を意味する。
【0040】
潤滑油基油(全基油)の100℃における動粘度は、新油の電気絶縁性をさらに高める観点、および潤滑箇所での油膜形成を十分にして耐摩耗性をさらに高める観点から好ましくは1.9mm2/s以上、より好ましくは2.0mm2/s以上、さらに好ましくは2.1mm2/s以上であり、また省燃費性をさらに高める観点から好ましくは3.5mm2/s以下、より好ましくは3.4mm2/s以下、さらに好ましくは3.3mm2/s以下であり、一の実施形態において1.9~3.5mm2/s、又は2.0~3.4mm2/s、又は2.1~3.3mm2/sであり得る。なお本明細書において「100℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された100℃での動粘度を意味する。
【0041】
潤滑油基油(全基油)の粘度指数は、組成物の粘度-温度特性を高める観点、ならびに、省燃費性および耐摩耗性をさらに高める観点から好ましくは100以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは110以上、特に好ましくは115以上、最も好ましくは120以上である。なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283-2000に準拠して、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された粘度指数を意味する。
【0042】
潤滑油基油(全基油)の流動点は、潤滑油組成物全体の低温流動性の観点から好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下、特に好ましくは-17.5℃以下、最も好ましくは-20.0℃以下である。なお、本明細書において流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0043】
基油中の硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない基油を得ることができる。また、基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。潤滑油基油(全基油)中の硫黄分の含有量は、通常0.03質量%以下、酸化安定性の観点から好ましくは0.01質量%以下である。なお、本明細書において基油中の硫黄分の含有量とは、JIS K 2541-2003に準拠して測定される硫黄量を意味する。
【0044】
潤滑油基油は、基油全体(全基油)として40℃における動粘度が6.0~12.0mm2/sである限りにおいて、単一の基油成分からなってもよく、複数の基油成分を含んでもよい。
【0045】
一の実施形態において、潤滑油基油は、1種以上のAPIグループII基油、1種以上のAPIグループIII基油、もしくは1種以上のAPIグループIV基油、又はそれらの組み合わせを、基油全量基準で80~100質量%、又は90~100質量%、又は90~99質量%、又は95~99質量%含み得る。一の実施形態において、潤滑油基油は、1種以上のAPIグループIII基油、もしくは1種以上のAPIグループIV基油、又はそれらの組み合わせを、基油全量基準で80~100質量%、又は90~100質量%、又は90~99質量%、又は95~99質量%含み得る。潤滑油基油はAPIグループV基油を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油基油中の1種以上のAPIグループV基油の含有量は、一の実施形態において酸化安定性を高める観点から基油全量基準で好ましくは0~20質量%、又は0~10質量%、また耐疲労性を高める観点から1~10質量%、又は1~5質量%であり得る。潤滑油基油はAPIグループIV基油を含有してもよく、含有しなくてもよいが、一の実施形態において、潤滑油基油中の1種以上のAPIグループIV基油の含有量は、基油全量基準で0~60質量%、又は0~50質量%、又は1~60質量%、又は1~50質量%であり得る。
【0046】
潤滑油組成物中の潤滑油基油(全基油)の含有量は、潤滑油組成物全量基準で60質量%以上であり、好ましくは60~98.5質量%、より好ましくは70~98.5質量%、一の実施形態において75~97質量%であり得る。
【0047】
<(A)第1のコハク酸イミド化合物>
本発明の潤滑油組成物は、数平均分子量800以上のポリイソブテニル基を有するポリイソブテニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせ(以下において「(A)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で窒素分として80質量ppm以上、かつ化合物として2.7質量%以下含有する。当該縮合反応生成物(縮合生成物)は、ポリイソブテニルコハク酸イミドであり、下記一般式(2)又は(3)で表され得る。変性物の例は後述する。
【0048】
【0049】
一般式(2)中、R1は数平均分子量800以上のポリイソブテニル基を表し、aは1~10、好ましくは2~6の整数を表す。一の典型的な実施形態において、一般式(2)で表される化合物は、異なるaを有する化合物の混合物として得られる。一の実施形態において、R1の炭素数は、基油への溶解性の観点から好ましくは40以上、より好ましくは60以上であり、また組成物の低温流動性の観点から好ましくは400以下、より好ましくは350以下、さらに好ましくは250以下であり、一の実施形態において40~400、又は60~350、又は60~250であり得る。
【0050】
一般式(3)中、R2及びR3は、それぞれ独立に数平均分子量800以上のポリイソブテニル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、bは0~15、好ましくは1~13、より好ましくは1~11の整数を示す。一の典型的な実施形態において、一般式(3)で表される化合物は、異なるbを有する化合物の混合物として得られる。一の実施形態にいて、R2及びR3の炭素数は、基油への溶解性の観点から好ましくは40以上、より好ましくは60以上であり、また組成物の低温流動性の観点から好ましくは400以下、より好ましくは350以下、さらに好ましくは250以下であり、一の実施形態において40~400、又は60~350、又は60~250であり得る。
【0051】
(A)成分におけるポリイソブテニル基(R1~R3)は、イソブテンのオリゴマー(ポリイソブテン)から誘導される分岐鎖のアルキル又はアルケニル基である。ポリイソブテニルコハク酸無水物は例えば、C=C二重結合を有するポリイソブテンと無水マレイン酸とを100~200℃で反応させることにより得ることができる。この反応により得られるポリイソブテニルコハク酸無水物のポリイソブテニル基は、C=C二重結合を有するアルケニル基である。該アルケニルコハク酸無水物をさらに水素添加反応に供することにより、ポリイソブテニル基がアルキル基である形態のポリイソブテニルコハク酸無水物を得ることができる。
【0052】
(A)成分におけるポリイソブテニル基(R1~R3)の数平均分子量は、油溶性を高める観点から800以上、好ましくは900以上であり、また潤滑油の低温流動性を高める観点から好ましくは3500以下であり、一の実施形態において800~3500、又は900~3500であり得る。(A)成分のポリイソブテニル基の数平均分子量MnPIBは、対応するポリイソブテニルコハク酸の数平均分子量MnSAから、下記数式(4):
MnPIB=MnSA-117.08 …(4)
により算出することができる。本明細書において、ポリイソブテニルコハク酸の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算での数平均分子量を意味し、その測定方法は上記の通りである。ある(A)成分が与えられたとき、該(A)成分中のポリイソブテニル基の数平均分子量は、
(1)(A)成分(例えば100mg)を有機溶媒(例えばメタノール0.5ml)中で、水および強塩基(例えば6N水酸化ナトリウム溶液5ml)と反応(例えば160℃で5時間)させることにより、(A)成分をポリイソブテニルコハク酸とポリアミンとに加水分解するステップと;
(2)(1)の反応後の混合物に強酸(例えば6N塩酸)を加えることにより液性を酸性にした後、疎水性の有機溶媒(例えばヘキサン、トルエン等)で抽出するステップと;
(3)(2)により得られた有機相を、酸性の水溶液(例えば希塩酸等。)で洗浄することにより、有機相からポリアミン及びその塩を(存在していれば)除去して、ポリイソブテニルコハク酸の有機溶媒溶液を得るステップと;
(4)(3)により得られたポリイソブテニルコハク酸の数平均分子量MnSAを、GPCにより測定するステップと;
(5)(4)により得られたポリイソブテニルコハク酸の数平均分子量MnSAから、上記式(4)によりポリイソブテニル基の数平均分子量MnPIBを算出するステップと、
を経ることにより、決定することができる。
【0053】
ポリイソブテニルコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみがイミド化された、一般式(2)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端がイミド化された、一般式(3)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミド及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。(A)成分中のビスタイプのコハク酸イミド又はその変性物の含有量は、(A)成分の全量を基準(100質量%)として好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%である。
【0054】
(A)成分としては、上記縮合生成物をそのまま用いてもよく(すなわち無変性コハク酸イミド)、該縮合生成物を後述する変性物(誘導体)に変換して用いてもよい。ポリイソブテニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合生成物は、ポリアミン鎖の両末端がイミド化された、ビスタイプのコハク酸イミド(一般式(3)参照。)であってもよく、ポリアミン鎖の一方の末端のみがイミド化された、モノタイプのコハク酸イミド(一般式(2)参照。)であってもよく、それらの混合物であってもよい。ポリアミンの例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、オクタエチレンノナミン、ノナエチレンデカミン、デカエチレンウンデカミン、ウンデカエチレンドデカミン、ドデカエチレントリデカミン、トリデカエチレンテトラデカミン、テトラデカエチレンペンタデカミン、ペンタデカエチレンヘキサデカミン、及びヘキサデカエチレンヘプタデカミン等の、窒素原子数3~17のポリエチレンポリアミン、並びにそれらの混合物を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種以上を含むポリアミン原料を好ましく用いることができる。一の実施形態において、窒素原子数3~17、又は3~15、又は3~13の1種以上のポリエチレンポリアミンを含むポリアミン原料を好ましく用いることができる。他の一の実施形態において、窒素原子数3~11、又は3~7の1種以上のポリエチレンポリアミンを含むポリアミン原料を好ましく用いることができる。なお商業的に入手可能なポリエチレンポリアミンはしばしば、連続する窒素原子数を有する2種以上のポリエチレンポリアミンの混合物であり、そのようなポリエチレンポリアミン混合物も、(A)成分を製造する際のポリアミン原料として好ましく用いることができる。また上記一般式(2)及び(3)にはポリイソブテニルコハク酸又はその無水物と直鎖状のポリエチレンポリアミンとの縮合反応生成物の構造が表れているが、商業的に入手可能な窒素原子数4以上のポリエチレンポリアミンはしばしば、直鎖状のポリエチレンポリアミンに加えて、同じ窒素原子数を有する分枝状のポリエチレンポリアミンを構造異性体として含み得る。分枝状のポリエチレンポリアミンは、隣接する2つのアミノ基の各組がエチレン基によって連結されている点においては直鎖状のポリエチレンポリアミンと共通している。窒素原子数n(nは2以上の整数)の直鎖状のポリエチレンポリアミンは第1級アミノ基を2個、及び第2級アミノ基をn-2個有するのに対し、k個(kは1以上n-3以下の整数)の分岐を有する窒素原子数nの分枝状ポリエチレンポリアミンは第1級アミノ基を2+k個、第2級アミノ基をn-2-2k個、及び第3級アミノ基をk個有する。そのような分枝状の構造異性体を含むポリエチレンポリアミン混合物も、(A)成分を製造する際のポリアミン原料として好ましく用いることができ、そのような分枝状のポリエチレンポリアミンとポリイソブテニルコハク酸又はその無水物との縮合反応生成物およびその変性物も、(A)成分に包含される。なお一般式(2)及び(3)においては1個又は2個の第1級アミノ基がイミド化されたコハク酸イミドが表れているが、k個の分岐を有する分枝状ポリエチレンポリアミンとポリイソブテニルコハク酸又はその無水物との縮合反応においては、最大で2+k個の第1級アミノ基がイミド化され得る。そのような3個以上の第1級アミノ基がイミドされた縮合反応生成物(コハク酸イミド化合物)およびその変性物も、(A)成分に包含される。ポリアミン原料はエチレンジアミンをさらに含有してもよく、含有しなくてもよいが、縮合生成物またはその変性物の分散剤としての性能を高める観点からは、ポリアミン原料中のエチレンジアミンの含有量は、ポリアミン全量基準で好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%である。ポリイソブテニルコハク酸又はその無水物と、2種以上のポリアミンの混合物との縮合反応生成物として得られるコハク酸イミドは、一般式(2)又は(3)において異なるa又はbを有する2種以上の化合物を含む混合物である。ポリイソブテニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合反応は、例えば、水と共沸混合物を形成する有機溶媒(例えばトルエン等。)中で行うことができる。すなわち、ポリイソブテニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの混合物の溶液を還流撹拌しながら、縮合反応の進行に伴って生成する水を溶媒との共沸により取り除くことにより、縮合反応生成物を容易に得ることができる。ポリイソブテニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合反応における反応モル比は、例えばポリイソブテニルコハク酸又はその無水物:ポリアミン=1:10~10:1、又は1:5~5:1とすることができる。
【0055】
(A)成分の重量平均分子量は好ましくは1000~20000、より好ましくは2000~20000、さらに好ましくは3000~15000であり、一の実施形態において4000~15000であり得る。
【0056】
ポリイソブテニルコハク酸イミドの変性物(変性化合物、誘導体)の例としては、(i)含酸素有機化合物による変性物、(ii)ホウ酸変性物、(iii)リン酸変性物、(iv)硫黄変性物、及び(v)これらのうち2種以上の変性の組み合わせによる変性物、を挙げることができる。
(i)含酸素有機化合物による変性物は、上述のポリイソブテニルコハク酸イミドに、脂肪酸等の炭素数1~30のモノカルボン酸、炭素数2~30のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2~6のアルキレンオキサイド、又はヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(ii)ホウ酸変性物は、上述のポリイソブテニルコハク酸イミドにホウ酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(iii)リン酸変性物は、上述のポリイソブテニルコハク酸イミドにリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている変性化合物である。
(iv)硫黄変性物は、上述のポリイソブテニルコハク酸イミドに硫黄化合物を作用させることにより得られる変性化合物である。
(v)2種以上の変性の組み合わせによる変性化合物は、上述のポリイソブテニルコハク酸イミドに、含酸素有機化合物による変性、ホウ酸変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせて施すことにより得ることができる。
これら(i)~(v)の変性物(誘導体)の中でも、ホウ酸変性化合物、特にビスタイプのポリイソブテニルコハク酸イミドのホウ酸変性物を好ましく用いることができる。
【0057】
潤滑油組成物中の(A)成分の含有量は、酸化劣化後の組成物の電気絶縁性を高める観点、および酸化劣化後の組成物の酸価増加を低減する観点から、組成物全量基準で窒素分として80質量ppm以上、好ましくは100質量ppm以上であり、また組成物の粘度を低減して省燃費性を高める観点から組成物全量基準で化合物全体として2.7質量%以下、好ましくは2.5質量%以下であり、一の実施形態において2.3質量%以下であり得る。
【0058】
(A)成分の重量平均分子量(単位:Daすなわちg/mol)と、潤滑油組成物中の(A)成分の化合物全体としての含有量(単位:質量%)との積は、組成物の粘度を低減して省燃費性を高める観点から16,000以下、好ましくは15,000以下であり、一の実施形態において14,000以下であり得る。(A)成分が複数の成分からなる場合には、当該積の計算には全(A)成分としての重量平均分子量(Da)および全(A)成分としての含有量(質量%)を用いるものとする。
【0059】
<(B)第2のコハク酸イミド化合物>
本発明の潤滑油組成物は、炭素数8~30のアルキル若しくはアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの縮合反応生成物、若しくはその変性物、又はそれらの組み合わせ(以下において「(B)成分」ということがある。)を、組成物全量基準で窒素分として50~1300質量ppm含有する。当該縮合反応生成物(縮合生成物)は、アルキル又はアルケニルコハク酸イミドであり、下記一般式(5)又は(6)で表され得る。
【0060】
【化2】
一般式(5)及び(6)において、R
4~R
6は、それぞれ独立に炭素数8~30、好ましくは炭素数12~24、一の実施形態において12~18のアルキル又はアルケニル基を表す。R
7及びR
8は、それぞれ独立に炭素数1~4のアルキレン基、好ましくは炭素数2~3のアルキレン基、特に好ましくはエチレン基を表す。cは1~7、好ましくは1~6、より好ましくは1~5、さらに好ましくは1~4の整数を表す。dは1~7、好ましくは1~4、より好ましくは1~3の整数を表す。
【0061】
(B)成分は、炭素数8~30、好ましくは炭素数12~28のアルキル若しくはアルケニル基を有するアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、ポリアミンとの反応により、縮合反応生成物(縮合生成物)として得られる。(B)成分としては、該縮合生成物をそのまま用いてもよく(すなわち無変性コハク酸イミド)、該縮合生成物を後述する変性物(誘導体)に変換して用いてもよい。アルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合生成物は、ポリアミン鎖の両末端がイミド化された、ビスタイプのコハク酸イミド(一般式(6)参照。)であってもよく、ポリアミン鎖の一方の末端のみがイミド化された、モノタイプのコハク酸イミド(一般式(5)参照。)であってもよく、それらの混合物であってもよい。ポリアミンの例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、及びオクタエチレンノナミン等の、窒素原子数3~9のポリエチレンポリアミン、エチレンジアミン、並びにそれらの混合物を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種以上を含むポリアミン原料を好ましく用いることができる。一の実施形態において、窒素原子数3~9、又は3~6、又は3~5の1種以上のポリエチレンポリアミンを含むポリアミン原料を好ましく用いることができる。他の一の実施形態において、窒素原子数3~8、若しくは3~7、若しくは3~6、若しくは3~5の1種以上のポリエチレンポリアミン、若しくはエチレンジアミン、又はそれらの組み合わせを含むポリアミン原料を好ましく用いることができる。なお商業的に入手可能なポリエチレンポリアミンはしばしば、連続する窒素原子数を有する2種以上のポリエチレンポリアミンの混合物であり、そのようなポリエチレンポリアミン混合物も、(B)成分を製造する際のポリアミン原料として好ましく用いることができる。また上記一般式(5)及び(6)にはアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と直鎖状のポリエチレンポリアミンとの縮合反応生成物の構造が表れているが、(A)成分に関連して上記説明したように、商業的に入手可能な窒素原子数4以上のポリエチレンポリアミンはしばしば、直鎖状のポリエチレンポリアミンに加えて、同じ窒素原子数を有する分枝状のポリエチレンポリアミンを構造異性体として含み得る。そのような分枝状の構造異性体を含むポリエチレンポリアミン混合物も、(B)成分を製造する際のポリアミン原料として好ましく用いることができ、そのような分枝状のポリエチレンポリアミンとアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物との縮合反応生成物およびその変性物も、(B)成分に包含される。なお一般式(5)及び(6)においては1個又は2個の第1級アミノ基がイミド化されたコハク酸イミドが表れているが、k個の分岐を有する分枝状ポリエチレンポリアミンとアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物との縮合反応においては、最大で2+k個の第1級アミノ基がイミド化され得る。そのような3個以上の第1級アミノ基がイミドされた縮合反応生成物(コハク酸イミド化合物)およびその変性物も、(B)成分に包含される。ポリアミン原料はエチレンジアミンを含有してもよく、含有しなくてもよいが、縮合生成物またはその変性物の摩擦調整剤としての性能および酸化劣化耐性の向上作用を高める観点からは、ポリアミン原料中のエチレンジアミンの含有量は、ポリアミン全量基準で好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%である。アルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物と、2種以上のポリアミンの混合物との縮合反応生成物として得られるコハク酸イミドは、一般式(5)又は(6)において異なるc又はdを有する2種以上の化合物を含む混合物である。アルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合反応は、例えば、水と共沸混合物を形成する有機溶媒(例えばトルエン等。)中で行うことができる。すなわち、アルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの混合物の溶液を還流撹拌しながら、縮合反応の進行に伴って生成する水を溶媒との共沸により取り除くことにより、縮合反応生成物を容易に得ることができる。アルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物とポリアミンとの縮合反応における反応モル比は、例えばアルキル若しくはアルケニルコハク酸又はその無水物:ポリアミン=1:10~10:1、又は1:5~5:1とすることができる。
【0062】
(B)成分として用いることが可能なコハク酸イミド化合物の変性物(誘導体)の例としては、上記のコハク酸イミド化合物(縮合反応生成物)を、ホウ酸、リン酸、炭素数1~20のカルボン酸、及び硫黄含有化合物から選ばれる1種以上の化合物と反応させることにより得られる変性物を挙げることができ、これらの中でもホウ酸変性物を好ましく用いることができる。
【0063】
(B)成分や金属系清浄剤のような極性の高い成分は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性を低下させやすい。しかしながら本発明者らは、(A)成分と(B)成分とをそれぞれ所定の範囲内の含有量で併用することにより、(A)成分の含有量を低減して省エネルギー性を高めながらも、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性を大きく損なうことなく、酸化劣化油の酸価増加を低減できることを見出した。
【0064】
潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、酸化劣化油の酸価増加を低減する観点から、組成物全量基準で窒素分として50質量ppm以上であり、また酸化劣化油の電気絶縁性を高める観点から1300質量ppm以下である。
【0065】
(A)成分の含有量を低減して省エネルギー性を高めながらも、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性を大きく損なうことなく酸化劣化油の酸価増加をさらに低減する観点からは、(A)成分の組成物全量基準での窒素分としての含有量A(単位:質量ppm)と、(B)成分の組成物全量基準での窒素分としての含有量B(単位:質量ppm)とが、下記数式(1)で表される関係を満たすことが好ましい。下記数式(1)中の関数maxは、引数の最大値を返す関数である。
【0066】
【0067】
<(C)カルシウム系清浄剤>
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、1種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート清浄剤(以下において「(C1)成分」ということがある。)、若しくは1種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート清浄剤(以下において「(C2)成分」ということがある。)、又はそれらの組み合わせ(以下において「(C)成分」ということがある。)をさらに含み得る。(C)成分は(C1)成分のみを含んでもよく、(C2)成分のみを含んでもよく、(C1)成分および(C2)成分の両方を含んでもよい。
【0068】
(C1)炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート清浄剤の好ましい例としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩の過塩基性塩を挙げることができる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは300~1500であり、より好ましくは400~1300である。
アルキル芳香族スルホン酸の例としては、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸を挙げることができる。ここでいう石油スルホン酸の例としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等を挙げることができる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0069】
(C2)炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート清浄剤は、カルシウムサリシレートの過塩基性塩である。カルシウムサリシレートの好ましい例としては、下記一般式(7)で表されるカルシウムサリシレートを挙げることができる。
【0070】
【0071】
一般式(7)中、R9はそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキルまたはアルケニル基を表し、eは1又は2を表し、好ましくは1である。なおe=2であるとき、R9は異なる基の組み合わせであってもよい。
【0072】
カルシウムサリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、カルシウムの酸化物や水酸化物等のカルシウム塩基を反応させること、または、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからカルシウム塩と金属交換させること等により、カルシウムサリシレートを得ることができる。
【0073】
炭酸カルシウムで過塩基化されたカルシウムスルホネートまたはサリシレートを得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下でカルシウムスルホネートまたはサリシレートを水酸化カルシウム等の塩基と反応させることにより、炭酸カルシウムで過塩基化されたカルシウムスルホネートまたはサリシレートを得ることができる。
【0074】
(C1)成分及び(C2)成分の塩基価は、耐摩耗性、耐焼き付き性、及び湿式クラッチの伝達トルク容量を高める観点から好ましくは200mgKOH/g以上、より好ましくは250mgKOH/g以上であり、また同様の観点から好ましくは600mgKOH/g以下、より好ましくは550mgKOH/g以下であり、一の実施形態において200~600mgKOH/g、又は250~550mgKOH/gであり得る。なお(C1)成分が2種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート清浄剤を含む場合には、各炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート清浄剤の塩基価が上記範囲内であることが好ましい。同様に、(C2)成分が2種以上の炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート清浄剤を含む場合には、各炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート清浄剤の塩基価が上記範囲内であることが好ましい。なお本明細書において塩基価とは、JIS K2501に準拠して過塩素酸法により測定される塩基価を意味する。また金属系清浄剤は一般に、溶剤や潤滑油基油等の希釈剤中での反応により得られる。そのため金属系清浄剤は、潤滑油基油等の希釈剤によって希釈された状態で商業的に流通している。本明細書において、金属系清浄剤の塩基価は、希釈剤を含む状態での塩基価を意味するものとする。
【0075】
潤滑油組成物中が(C)成分を含有する場合、その含有量((C)成分が2種以上の清浄剤を含む場合には合計の含有量。)は、新油の電気絶縁性および省燃費性をさらに高める観点、ならびに耐疲労性を高める観点から、組成物全量基準でカルシウム量として好ましくは100質量ppm未満、より好ましくは95質量ppm以下、又は90質量ppm以下、一の実施形態において80質量ppm以下であり、また耐摩耗性、耐焼き付き性、耐疲労性、及び湿式クラッチの伝達トルク容量を高める観点から、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは15質量ppm以上、一の実施形態において20質量ppm以上であり、一の実施形態において10質量ppm以上100質量ppm未満、又は10~95質量ppm、又は15~90質量ppm、又は20~80質量ppmであり得る。
【0076】
一般に潤滑油分野において、金属系清浄剤としては、基油中でミセルを形成することが可能な有機酸金属塩(例えばアルカリ又はアルカリ土類金属アルキルサリシレート、アルカリ又はアルカリ土類金属アルキルベンゼンスルホネート、及びアルカリ又はアルカリ土類金属アルキルフェネート等。)、又は該有機酸金属塩と塩基性金属塩(例えば該有機酸金属塩を構成するアルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩等。)との混合物が用いられる。そのような有機酸は通常、金属塩基(典型的には金属酸化物および/または金属水酸化物。)と塩を形成可能なブレンステッド酸性を有する少なくとも1つの極性基(例えばカルボキシ基、スルホ基、フェノール性ヒドロキシ基等。)と、直鎖または分岐鎖アルキル基(例えば炭素数6以上の直鎖または分岐鎖アルキル基等。)等の少なくとも1つの親油性基とを一分子中に有する。金属系清浄剤の石けん基とは、金属系清浄剤の石けん分を構成する有機酸の共役塩基(サリシレート清浄剤にあっては例えばアルキルサリシレートアニオン、スルホネート清浄剤にあっては例えばアルキルベンゼンスルホネートアニオン、フェネート清浄剤にあっては例えばアルキルフェネートアニオン。)を意味する。
【0077】
本発明の潤滑油組成物は、(C)成分以外の1種以上の金属系清浄剤をさらに含有してもよく、含有しなくてもよい。ただし、潤滑油組成物中の(C)成分を含む全ての金属系清浄剤の合計の含有量は、新油の電気絶縁性、省燃費性、及び耐疲労性をさらに高める観点から、組成物全量基準で金属量として好ましくは100質量ppm未満、より好ましくは95質量ppm以下、又は90質量ppm以下、一の実施形態において80質量ppm以下であり、また耐焼き付き性、耐疲労性、及び湿式クラッチの伝達トルク容量をさらに高める観点、並びに、耐摩耗性をさらに高める観点から、好ましくは10質量ppm以上、一の実施形態において20質量ppm以上であり、一の実施形態において10質量ppm以上100質量ppm未満、又は10~95質量ppm、又は15~95質量ppm、又は20~80質量ppmであり得る。一の実施形態において、本発明の潤滑油組成物は、(C)成分以外の金属系清浄剤を含有しない潤滑油組成物とすることができる。
【0078】
<(D)酸化防止剤>
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、酸化防止剤(以下において「(D)成分」ということがある。)として、1種以上のアミン系酸化防止剤(以下において「(D1)成分」ということがある。)および1種以上のフェノール系酸化防止剤(以下において「(D2)成分」ということがある。)をさらに含み得る。
【0079】
(D1)成分の例としては、芳香族アミン系酸化防止剤、及びヒンダードアミン系酸化防止剤を挙げることができる。芳香族アミン系酸化防止剤の例としては、アルキル化α-ナフチルアミン等の第1級芳香族アミン化合物;及び、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン等の第2級芳香族アミン化合物;を挙げることができる。芳香族アミン系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、若しくはアルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、又はそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
【0080】
ヒンダードアミン系酸化防止剤の例としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を有する化合物(2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体)を挙げることができる。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体としては、4-位に置換基を有する2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体が好ましい。また、2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合していてもよい。また2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格のN-位は無置換であってもよく、該N-位に炭素数1~4のアルキル基が置換していてもよい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格は好ましくは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格である。
【0081】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基(R10COO-)、アルコキシ基(R10O-)、アルキルアミノ基(R10NH-)、アシルアミノ基(R10CONH-)、等を挙げることができる。R10は好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~24、さらに好ましくは炭素数1~20の炭化水素基である。炭化水素基の例としてはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等を挙げることができる。
【0082】
2個の2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格が、それぞれの4-位の置換基を介して結合する場合の置換基としては、ヒドロカルビレンビス(カルボニルオキシ)基(-OOC-R11-COO-)、ヒドロカルビレンジアミノ基(-HN-R11-NH-)、ヒドロカルビレンビス(カルボニルアミノ)基(-HNCO-R11-CONH-)、等を挙げることができる。R11は好ましくは炭素数1~30のヒドロカルビレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。
【0083】
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位の置換基としては、アシロキシ基が好ましい。2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格の4-位にアシロキシ基を有する化合物の一例としては、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとカルボン酸とのエステルを挙げることができる。該カルボン酸の例としては、炭素数8~20の直鎖又は分岐鎖脂肪族カルボン酸を挙げることができる。
【0084】
(D2)成分(フェノール系酸化防止剤)の例としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール);2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール);2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール;2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチル)フェノール;4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド;3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類;3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール脂肪酸エステル類、等のヒンダードフェノール化合物およびビスフェノール化合物を挙げることができる。3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類の例としては、オクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;デシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ドデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;テトラデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ヘキサデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート];2,2’-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、等を挙げることができる。
【0085】
潤滑油組成物が(D)成分を含有する場合、その含有量は、酸化劣化後の組成物の酸価の増加をさらに低減する観点から、(D1)成分と(D2)成分との合計量として組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、一の実施形態において0.3質量%以上であり、また新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、一の実施形態において2.3質量%以下であり、一の実施形態において0.1~3.0質量%、又は0.2~2.5質量%、又は0.3~2.3質量%であり得る。
【0086】
<(E)リン又は硫黄含有添加剤>
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、1種以上のリン含有化合物(以下において(E1)成分ということがある。)、若しくは形式酸化数+II以下の硫黄原子を1分子中に少なくとも1つ含む1種以上の硫黄含有化合物(以下において(E2)成分ということがある)、又はそれらの組み合わせ(以下において「(E)成分」ということがある。)をさらに含み得る。
【0087】
(E1)成分としては、潤滑油において摩耗防止剤または極圧剤として機能するリン含有化合物を用いることができる。(E1)成分としては1種のリン含有化合物を単独で用いてもよく、2種以上のリン含有化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
(E1)成分の例としては、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、及びこれらの金属塩を挙げることができる。
【0089】
これらのリン含有酸のエステル類は、通常、炭素数2~30、好ましくは3~20の炭化水素基を有する。該炭素数2~30の炭化水素基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキル置換アリール基、およびアリール置換アルキル基を挙げることができる。これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい。
【0090】
また、リン含有酸のエステル類の塩の例としては、リン酸部分エステル、モノチオリン酸部分エステル、ジチオリン酸部分エステル、トリチオリン酸部分エステル、亜リン酸部分エステル、チオ亜リン酸部分エステル、又はジチオ亜リン酸部分エステルに、金属塩基、又は、アンモニア、炭素数1~8の炭化水素基、もしくはヒドロキシ基含有炭化水素基のみを分子中に含有するアミン化合物等の含窒素化合物を作用させることにより、残存する酸性水素の一部または全部を中和した塩を挙げることができる。
【0091】
(E1)成分としては、下記一般式(8)で表される亜リン酸エステル化合物を特に好ましく用いることができる。
【0092】
【化4】
一般式(8)において、R
12及びR
13はそれぞれ独立に、炭素数1~18の直鎖炭化水素基、又は下記一般式(9)で表される炭素数4~20の基である。
【0093】
【化5】
一般式(9)において、R
14は炭素数2~17の直鎖炭化水素基であり、好ましくはエチレン基またはプロピレン基であり、一の実施形態においてエチレン基であり得る。R
15は炭素数2~17の直鎖炭化水素基であり、好ましくは炭素数2~16の直鎖炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数6~10の直鎖炭化水素基である。X
1は酸素原子または硫黄原子であり、好ましくは硫黄原子である。一般式(9)で表される基の炭素数は好ましくは5~20である。
【0094】
本明細書において、「亜リン酸」とは、酸化数+IIIのリンのオキソ酸H3PO3を意味する。なお通常、一般式(8)で表される亜リン酸エステル化合物は互変異性を有するが、本明細書においては、一般式(8)で表される化合物のいかなる互変異性体も(E1)成分に該当するものとする。
【0095】
一の実施形態において、R12及びR13の好ましい例としては、炭素数4~18の直鎖アルキル基を挙げることができる。直鎖アルキル基の例としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基を挙げることができる。
【0096】
一の実施形態において、R12及びR13の好ましい例としては、3-チアペンチル基、3-チアヘキシル基、3-チアヘプチル基、3-チアオクチル基、3-チアノニル基、3-チアデシル基、3-チアウンデシル基、4-チアヘキシル基、3-オキサペンチル基、3-オキサヘキシル基、3-オキサヘプチル基、3-オキサオクチル基、3-オキサノニル基、3-オキサデシル基、3-オキサウンデシル基、3-オキサドデシル基、3-オキサトリデシル基、3-オキサテトラデシル基、3-オキサペンタデシル基、3-オキサヘキサデシル基、3-オキサヘプタデシル基、3-オキサヘプタデシル基、3-オキサノナデシル基、4-オキサヘキシル基、4-オキサヘプチル基、及び4-オキサオクチル基、を挙げることができる。
【0097】
(E2)成分としては、潤滑油において摩耗防止剤または極圧剤として機能する硫黄含有化合物を用いることができる。そのような硫黄含有化合物は、形式酸化数+II以下の硫黄原子を1分子中に少なくとも1つ含んでいる。本明細書において、硫黄原子の形式酸化数は、その硫黄原子と結合している原子の電気陰性度と、硫黄原子の電気陰性度との関係に基づいて定められる。すなわち、硫黄原子と原子Xとの結合において、元素Xの電気陰性度が硫黄の電気陰性度より大であれば、両原子間の結合に関与していると考えられる電子は全て原子Xに与えられる。逆に、硫黄原子と原子Xとの結合において、元素Xの電気陰性度が硫黄の電気陰性度より小であれば、両原子間の結合に関与していると考えられる電子は全て硫黄原子に与えられる。硫黄原子同士の結合は酸化数を変化させない。本明細書において、硫黄を含む全ての元素の電気陰性度には、Allred-Rochowの電気陰性度が適用されるものとする。
【0098】
(E2)成分の例としては、チアジアゾール化合物、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイド、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物、硫化鉱油、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸モリブデン化合物、スルホラン化合物等を挙げることができる。(E2)成分としては1種の硫黄含有化合物を単独で用いてもよく、2種以上の硫黄含有化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
チアジアゾール化合物の好ましい例としては、下記一般式(10)で表される1,3,4-チアジアゾール化合物、下記一般式(11)で表される1,2,4-チアジアゾール化合物、及び下記一般式(12)で表される1,2,3-チアジアゾール化合物を挙げることができる。
【0100】
【0101】
【0102】
【化8】
(一般式(10)~(12)中、R
16及びR
17は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~20のヒドロカルビル基を表し;f及びgは同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に0~8の整数を表す。)
【0103】
上記チアジアゾール化合物の中でも、上記一般式(10)~(12)のいずれかで表され、ヒドロカルビルジチオ基を有するチアジアゾール化合物を特に好ましく用いることができる。
【0104】
硫化油脂は、硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)とを反応させて得られる生成物である。硫化油脂中の硫黄含有量は特に制限はないが、通常5~30重量%である。
【0105】
硫化脂肪酸としては、不飽和脂肪酸を任意の方法で硫化することにより得られる生成物を用いることができ、その例としては硫化オレイン酸などを挙げることができる。
硫化エステルとしては、不飽和脂肪酸エステル(例えば、不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸など)と各種アルコールとを反応させて得られる生成物。)を任意の方法で硫化することにより得られる生成物を用いることができ、その例としては硫化オレイン酸メチル、硫化米ぬか脂肪酸オクチル等を挙げることができる。
【0106】
硫化オレフィンの例としては、下記一般式(13)で表される化合物を挙げることができる。この化合物は、炭素数2~15のオレフィンまたはその2~4量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得ることができる。該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテン等を好ましく用いることができる。
【0107】
【化9】
(一般式(13)中、R
18は炭素数2~15のアルケニル基を表し、R
19は炭素数2~15のアルキル基又はアルケニル基を表し、hは1~8の整数を示す。)
【0108】
ジヒドロカルビル(ポリ)サルファイドは、下記一般式(14)で表される化合物である。ここで、R15及びR16がアルキル基の場合、硫化アルキルと称されることがある。
【0109】
【化10】
(一般式(14)中、R
20及びR
21は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基(直鎖でも分岐鎖でもよく、環状構造を有していてもよい。)、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基、又は炭素数7~20のアリールアルキル基を表し、iは1~8の整数を表す。)
【0110】
アルキルチオカルバモイル化合物の例としては、下記一般式(15)で表される化合物を挙げることができる。
【0111】
【化11】
(一般式(15)中、R
22~R
25は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基を表し、kは1~8の整数を表す。)
【0112】
アルキルチオカーバメート化合物の例としては、下記一般式(16)で示される化合物を挙げることができる。
【0113】
【化12】
(一般式(16)中、R
26~R
29は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1~20のアルキル基を示し、R
30は炭素数1~10のアルキレン基を示す。)
【0114】
チオテルペン化合物としては、例えば、五硫化リンとピネンの反応物を挙げることができる。
ジアルキルチオジプロピオネート化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等を挙げることができる。
【0115】
硫化鉱油は、鉱油に単体硫黄を溶解させることにより得られる物質である。硫化鉱油に用いられる鉱油は特に制限されるものではないが、その例としては、原油に常圧蒸留及び減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分に対して、公知の精製処理を適宜組み合わせて施すことにより精製されたパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。また、単体硫黄としては、塊状、粉末状、溶融液体状等いずれの形態のものを用いてもよい。硫化鉱油中の硫黄含有量は特に制限されるものではないが、硫化鉱油全量を基準として通常0.05~1.0重量%である。
【0116】
ジチオカルバミン酸亜鉛化合物としては下記一般式(17)で表される化合物を用いることができ、ジチオカルバミン酸モリブデン化合物としては下記一般式(18)で表される化合物を用いることができる。
【0117】
【化13】
(一般式(17)中、R
31~R
34は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1以上のヒドロカルビル基を表す。)
【0118】
【化14】
(一般式(18)中、R
35~R
38は同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素数1以上のヒドロカルビル基を表し、Y
1~Y
4はそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0119】
スルホラン化合物としては、例えば下記一般式(19)で表される化合物を用いることができる。
【0120】
【化15】
(一般式(19)中、lは1又は2の整数を表し、mは0又は1の整数を表し、m=1のとき、R
39は炭素数1以上のヒドロカルビル基を表す。)
【0121】
潤滑油組成物は(E)成分を含有してもよく、含有しなくてもよい。潤滑油組成物中の(E)成分の含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、リン分及び硫黄分の合計の含有量として、組成物全量基準で好ましくは0~1000質量ppm、より好ましくは0~900質量ppm、さらに好ましくは0~800質量ppmであり、また耐摩耗性を高める観点から好ましくは300質量ppm以上、より好ましくは400質量ppm以上、さらに好ましくは500質量ppm以上であり、一の実施形態において300~1000質量ppm、又は400~900質量ppm、又は500~800質量ppmであり得る。なお本明細書において、いかなるリン含有添加剤も(E1)成分の含有量に寄与するものとし、形式酸化数+II以下の硫黄を含有するがリンを含有しない添加剤のみが(E2)成分の含有量に寄与するものとする。また(E1)成分がリン及び形式酸化数+II以下の硫黄の両方を含む場合、当該(E1)成分は(E)成分のリン分としての含有量および硫黄分としての含有量の両方に寄与するものとする。なお、(E)成分はリン原子又は形式酸化数+II以下の硫黄原子を含む化合物であるが、(E)成分が形式酸化数+III以上の硫黄原子をさらに含む場合には、当該(E)成分中のいかなる形式酸化数の硫黄原子も(E)成分の硫黄分としての含有量に寄与するものとする。
【0122】
<(F)ポリ(メタ)アクリレート>
一の実施形態において、本発明の潤滑油組成物は、重量平均分子量が25,000超である1種以上のポリアルキル(メタ)アクリレート(以下において「(F)成分」ということがある。)をさらに含み得る。(F)成分としては1種のポリアルキル(メタ)アクリレートを単独で用いてもよく、2種以上のポリアルキル(メタ)アクリレートを組み合わせて用いてもよい。なお本明細書において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0123】
(F)成分としては、潤滑油において粘度指数向上剤または流動点降下剤として用いられるポリアルキル(メタ)アクリレートであって、重量平均分子量が25,000超であるものを特に制限なく用いることができる。(F)成分としては、非分散型ポリ(メタ)アクリレート及び分散型ポリ(メタ)アクリレートのいずれを用いてもよく、それらの組み合わせを用いてもよいが、耐焼付き性を高める観点からは非分散型ポリ(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。本明細書において、「分散型ポリ(メタ)アクリレート」とは窒素原子を含む官能基を有するポリ(メタ)アクリレート化合物を意味し、「非分散型ポリ(メタ)アクリレート」とは窒素原子を含む官能基を有しないポリ(メタ)アクリレート化合物を意味する。
【0124】
(F)成分の重量平均分子量は、耐疲労性を高める観点、および、新油の電気絶縁性をさらに高める観点から、好ましくは25,000超、より好ましくは27,000以上であり、また耐焼付き性を高める観点から好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下であり、一の実施形態において25,000超100,000以下、又は27,000~80,000であり得る。
【0125】
潤滑油組成物は(F)成分を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の(G)成分の含有量は、省燃費性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~5.0質量%、より好ましくは0~4.0質量%であり、また新油の低温流動性をさらに高める観点から好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上であり、一の実施形態において0.01~5.0質量%、又は0.015~4.0質量%であり得る。
【0126】
<その他の添加剤>
一の実施形態において、潤滑油組成物は、(B)成分および(E)成分以外の摩擦調整剤、(F)成分以外の粘度指数向上剤、(F)成分以外の流動点降下剤、(E2)成分以外の腐食防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、抗乳化剤、および着色剤から選ばれる1種以上をさらに含み得る。
【0127】
(B)成分および(E)成分以外の摩擦調整剤としては、例えば、(E)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物および(B)成分以外の無灰摩擦調整剤から選ばれる1種以上の摩擦調整剤を用いることができる。潤滑油組成物は摩擦調整剤を含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の摩擦調整剤の含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~2質量%、より好ましくは0~1質量%である。当該含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.005質量%以上であり得る。
【0128】
(E)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物の例としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を挙げることができる。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物の例としては、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられる。なお有機モリブデン化合物は、単核モリブデン化合物であってもよく、二核モリブデン化合物や三核モリブデン化合物等の多核モリブデン化合物であってもよい。
潤滑油組成物は、金属系清浄剤以外の金属含有添加剤(例えば有機モリブデン化合物やジアルキルジチオリン酸亜鉛等。)を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の金属元素の総含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で金属量として100質量ppm未満であることが好ましい。一の実施形態において、潤滑油組成物中の(C)成分以外の金属含有添加剤の総含有量は、組成物全量基準で金属量として好ましくは0~50質量ppm、より好ましくは0~30質量ppm、さらに好ましくは0~10質量ppmである。
【0129】
(B)成分以外の無灰摩擦調整剤としては、公知の油性剤系摩擦調整剤を特に制限なく用いることができる。無灰摩擦調整剤の例としては、分子中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる1種以上のヘテロ元素を含有する、炭素数6~50の化合物が挙げられる。さらに具体的には、炭素数6~30のアルキル基またはアルケニル基、好ましくは炭素数6~30の直鎖または分岐鎖アルキル又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪族アミン化合物、脂肪族イミド化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸ヒドラジド、脂肪酸金属塩、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族ウレア化合物、等の無灰摩擦調整剤を好ましく用いることができる。
【0130】
(F)成分以外の粘度指数向上剤としては、潤滑油において用いられる公知の粘度指数向上剤を特に制限なく用いることができる。その例としては、エチレン-α-オレフィン共重合体およびその水素化物、α-オレフィンと重合性不飽和結合を有するエステル単量体との共重合体、ポリイソブチレンおよびその水素化物、スチレン-ジエン共重合体の水素化物、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、ならびに、ポリアルキルスチレン等を挙げることができる。これらの中でもエチレン-α-オレフィン共重合体もしくはその水素化物、またはそれらの組み合わせを好ましく用いることができる。粘度指数向上剤は分散型であってもよく、非分散型であってもよい。一の実施形態において、粘度指数向上剤の重量平均分子量は例えば3000~100,000 であり得る。潤滑油組成物は粘度指数向上剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の粘度指数向上剤の含有量は、酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~5.0質量%、より好ましくは0~4.0質量%である。含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.1質量%以上であり得る。
【0131】
(F)成分以外の流動点降下剤としては、使用する潤滑油基油の性状に応じて、例えばエチレンビニルアセテート等の公知の流動点降下剤を用いることができる。潤滑油組成物は流動点降下剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の流動点降下剤の含有量は、酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~1質量%、より好ましくは0~0.8質量%である。含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.015質量%以上であり得る。
【0132】
潤滑油組成物は、(F)成分以外のポリマー成分(例えば粘度指数向上剤または流動点降下剤。)を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の重量平均分子量25,000以下のポリマー成分の含有量は、酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、好ましくは0質量%以上0.1質量%未満、より好ましくは0~0.05質量%、特に好ましくは0~0.01質量%である。
【0133】
(E2)成分以外の腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、およびイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を用いることができる。潤滑油組成物は腐食防止剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の腐食防止剤の含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~1質量%、より好ましくは0~0.5質量%である。当該含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.01質量%以上であり得る。
【0134】
防錆剤としては、例えば石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、および多価アルコールエステル等の公知の防錆剤を用いることができる。潤滑油組成物は防錆剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の防錆剤の含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~1質量%、より好ましくは0~0.5質量%以下である。当該含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.01質量%以上であり得る。
【0135】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、メルカプトベンゾチアゾール、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、ならびにβ-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を用いることができる。潤滑油組成物は金属不活性化剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の金属不活性化剤の含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは0~1質量%、より好ましくは0~0.5質量%である。当該含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.01質量%以上であり得る。
【0136】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、およびフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を用いることができる。潤滑油組成物は消泡剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の消泡剤の含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、好ましくは0~0.5質量%、より好ましくは0~0.1質量%である。当該含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.0001質量%以上であり得る。
【0137】
抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤(例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等。)等の公知の抗乳化剤を用いることができる。潤滑油組成物は抗乳化剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、潤滑油組成物中の抗乳化剤の含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、組成物全量基準で好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。当該含有量の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において1質量%以上であり得る。
【0138】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を用いることができる。
【0139】
<潤滑油組成物>
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点、ならびに潤滑箇所における油膜の形成を十分にして耐摩耗性を高める観点から、好ましくは1.8mm2/s以上、好ましくは2.0mm2/s以上、より好ましくは2.2mm2/s以上、一の実施形態において2.3mm2/s以上であり、また省燃費性を高める観点から好ましくは4.0mm2/s以下、好ましくは3.8mm2/s以下であり、一の実施形態において1.8~4.0mm2/s、又は2.0~4.0mm2/s、又は2.2~4.0mm2/s、又は2.3~3.8mm2/sであり得る。
【0140】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性、ならびに耐摩耗性をさらに高める観点から好ましくは6.8mm2/s以上、より好ましくは7.2mm2/s以上、一の実施形態において8.0mm2/s以上であり、また省燃費性をさらに高める観点から好ましくは14.5mm2/s以下、より好ましくは13.7mm2/s以下、一の実施形態において13.0mm2/s以下であり、一の実施形態において6.8~14.5mm2/s、又は7.2~13.7mm2/s、又は8.0~13.0mm2/sであり得る。
【0141】
省エネルギー性向上の観点からは、潤滑油組成物の動粘度は低いことが望ましい。しかしながら一般に、基油((O)成分)に添加剤が添加されると、潤滑油組成物全体の動粘度は増大する。このことは、潤滑油の低粘度化による省エネルギー性向上の限界点が、全基油((O)成分)の動粘度によって決まることを意味する。したがって省エネルギー性を高める観点からは、全基油の動粘度は低いことが望ましい。その一方で、耐摩耗性、酸化安定性、ならびに、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性を高める観点からは、全基油の動粘度は一定以上の水準にあることが望ましい。全基油の動粘度を所定の水準以上に保つ制約の下で潤滑油を低粘度化するにあたって障害となるものは、添加剤の増粘効果である。潤滑油組成物の40℃における動粘度KV40
Compと、全基油((O)成分)の40℃における動粘度KV40
BOとの差(KV40
Comp-KV40
BO)、すなわち添加剤の増粘効果は、省エネルギー性をさらに高める観点から、好ましくは2.5mm2/s以下、一の実施形態において2.4mm2/s以下であり、また酸化劣化に対する耐久性をさらに高める観点からは好ましくは1.0mm2/s以上、より好ましくは1.5mm2/s以上、一の実施形態において1.8mm2/s以上であり、一の実施形態において1.0~2.5mm2/s、又は1.5~2.5mm2/s、又は1.8~2.4mm2/sであり得る。
【0142】
潤滑油組成物の粘度指数は、省燃費性および耐摩耗性をさらに高める観点から好ましくは100以上、より好ましくは110以上、一の実施形態において115以上、又は120以上であり得る。
【0143】
一の実施形態において、潤滑油組成物の新油について測定される、80℃における体積抵抗率が、0.21×1010Ω・cm以上であることが好ましい。新油の80℃における体積抵抗率の上限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において当該体積抵抗率は0.21×1010~0.60×1010Ω・cm、又は0.21×1010~0.45×1010Ω・cmであり得る。本明細書において、新油の体積抵抗率は、JIS C2101に規定の体積抵抗率試験に準拠して油温80℃で測定されるものとする。
【0144】
一の実施形態において、潤滑油組成物の酸化劣化油について測定される、80℃における体積抵抗率が、0.10×1010Ω・cm以上であることが好ましい。酸化劣化油の80℃における体積抵抗率の上限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において当該体積抵抗率は0.10×1010~0.40×1010Ω・cm、又は0.10×1010~0.25×1010Ω・cmであり得る。本明細書において、酸化劣化油の体積抵抗率は、新油をJIS K2514-1に規定のISOT法(Indiana Stirring Oxidation Test)により165℃で150時間酸化処理することにより得られる酸化劣化油について、JIS C2101に規定の体積抵抗率試験に準拠して油温80℃で測定されるものとする。
【0145】
一の実施形態において、非フェノール性OH基(該OH基は他の官能基(例えばカルボキシ基、リン酸基等。)の一部であってもよい。)もしくはその塩、>NH基、又は-NH2基(以下において「O/N系活性水素含有基」ということがある。)を有する化合物(以下において「O/N系活性水素化合物」ということがある。)であって、金属系清浄剤(例えば(C)成分等の金属サリシレート清浄剤、金属スルホネート清浄剤、金属フェネート清浄剤等。)、アルコール残基にO/N系活性水素含有基を有しない亜リン酸ジエステル化合物(例えば一般式(8)で表される亜リン酸エステル化合物((E1)成分)等。)、第1のコハク酸イミド化合物((A)成分)、第2のコハク酸イミド化合物((B)成分)、アミン系酸化防止剤又はフェノール系酸化防止剤((D)成分)、及びポリ(メタ)アクリレート(例えば(F)成分等。)のいずれの含有量にも寄与しない化合物の総含有量は、新油および酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高める観点から、酸素元素および窒素元素の合計量として組成物全量基準で好ましくは0~500質量ppm、一の実施形態において0~300質量ppm、他の一の実施形態において0~150質量ppmであり得る。そのようなO/N系活性水素化合物の例としては、リン酸(塩を形成していてもよい。)およびその部分エステル;亜リン酸(塩を形成していてもよい。)およびその部分エステル(ただしアルコール残基に上記O/N系活性水素含有基を有しない亜リン酸ジエステルはO/N系活性水素化合物に該当しないものとする。);N-H結合を有する窒素含有油性剤系摩擦調整剤(例えば第1級脂肪族アミン、第2級脂肪族アミン、脂肪酸第1級アミド、脂肪酸第2級アミド、N-H結合を有する脂肪族ウレア、脂肪酸ヒドラジド等。);ヒドロキシ基を有する窒素含有油性剤系摩擦調整剤(例えば脂肪酸と第1級または第2級アルカノールアミンとのアミド、第1級または第2級脂肪族アミンと脂肪族ヒドロキシ酸とのアミド等。);カルボキシ基(塩を形成していてもよい。)を有する窒素含有油性剤系摩擦調整剤(例えばN-アシル化アミノ酸等。);ヒドロキシ基を有する油性剤系摩擦調整剤(例えばグリセロールモノオレエート等。)、カルボキシ基(塩を形成していてもよい。)を有する油性剤系摩擦調整剤(例えば脂肪酸および脂肪酸金属塩等。)、等を挙げることができる。一のO/N系活性水素化合物が酸素元素および窒素元素の両方を含む場合には、該化合物の各酸素原子が水素原子と結合しているか否か、及び、該化合物の各窒素原子が水素原子と結合しているか否かに関わらず、該化合物に由来する酸素元素量および窒素元素量の両方が上記O/N系活性水素化合物の総含有量(酸素元素および窒素元素の合計量)に寄与するものとする。
【0146】
(用途)
本発明の潤滑油組成物は、低粘度でありながら、電動モーターの潤滑に求められる電気絶縁性を備えるとともに、自動変速機の潤滑および電動モーターの潤滑における酸化劣化に由来する問題を緩和しているので、省燃費性を高めた潤滑油として自動変速機の潤滑に好ましく用いることができるほか、省エネルギー性を高めた潤滑油として電動モーターの潤滑および冷却に好ましく用いることができる。また本発明の潤滑油組成物を用いて、自動変速機および電動モーターの両方を潤滑することも可能である。そのような潤滑方法は、例えば、本発明の潤滑油組成物を、自動変速機および電動モーターを備える自動車の自動変速機に供給することと、当該潤滑油組成物を、当該自動車の電動モーターに供給することとを含み得る。
【実施例】
【0147】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0148】
<実施例1~20および比較例1~8>
表1~6に示されるように、本発明の潤滑油組成物(実施例1~20)、および比較用の潤滑油組成物(比較例1~8)をそれぞれ調製した。表中、「基油組成」の項目において「質量%」は基油全量を基準(100質量%)とする質量%を意味し、その他の項目において「質量%」は潤滑油組成物の全量を基準(100質量%)とする質量%を意味する。また「質量ppm」は潤滑油組成物の全量を基準とする質量ppmを意味し、元素Xについて「質量ppm/X」という表記は元素Xの量としての組成物全量基準での質量ppmを意味する。各成分の詳細は次の通りである。
【0149】
((O)潤滑油基油)
O-1:APIグループIII基油(水素化分解鉱油系基油)、動粘度(40℃):7.0mm2/s、動粘度(100℃):2.2mm2/s、粘度指数:121、飽和分:99.6、硫黄分:1質量ppm未満、%CP:77.4、%CN:22.0、%CA:0.6
O-2:APIグループIII基油(水素化分解鉱油系基油)、動粘度(40℃):19.2mm2/s、動粘度(100℃):4.2mm2/s、粘度指数:124、飽和分:99.7、硫黄分:1質量ppm未満、%CP:79.4、%CN:20.6、%CA:0.0
O-3:APIグループIII基油(水素化分解鉱油系基油)、動粘度(40℃):18.2mm2/s、動粘度(100℃):4.2mm2/s、粘度指数:135、飽和分:99.8、硫黄分:1質量ppm未満、%CP:86.6、%CN:13.4、%CA:0.0
O-4:APIグループIII基油(ワックス異性化鉱油系基油)、動粘度(40℃):9.2mm2/s、動粘度(100℃):2.6mm2/s、粘度指数:126、飽和分:99.8、硫黄分:1質量ppm未満、%CP:91.8、%CN:8.2、%CA:0.0
O-5:APIグループIV基油、動粘度(40℃):18.4mm2/s、動粘度(100℃):4.1mm2/s、粘度指数:124
O-6:APIグループV基油(オレイン酸2-エチルヘキシル)、動粘度(40℃):8.2mm2/s、動粘度(100℃):2.7mm2/s、粘度指数:186
【0150】
((A)第1のコハク酸イミド化合物)
A-1:ポリイソブテニルコハク酸無水物とポリアミンとの縮合反応生成物(無変性ポリイソブテニルコハク酸イミド分散剤)、重量平均分子量:5,200、N:1.3質量%、ポリイソブテニル基の数平均分子量:1,600
A-2:ポリイソブテニルコハク酸無水物とポリアミンとの縮合反応生成物のホウ酸変性物(ホウ酸変性ポリイソブテニルコハク酸イミド分散剤)、重量平均分子量:9,100、N:0.73質量%、B:0.19質量%、ポリイソブテニル基の数平均分子量:2,500
【0151】
((B)第2のコハク酸イミド化合物)
B-1:オクタデセニルコハク酸無水物とポリアミンとの縮合反応生成物、N:5.3質量%
【0152】
((C)金属系清浄剤)
C-1:炭酸カルシウム過塩基化カルシウムスルホネート、塩基価300mgKOH/g、Ca:12.0質量%
【0153】
((D)酸化防止剤)
D-1:アミン系酸化防止剤(アルキル化ジフェニルアミン)
D-2:フェノール系酸化防止剤(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル)
【0154】
((E)リン/硫黄系添加剤)
E-1:ビス(3-チアウンデシル)ホスファイト、P:7.3質量%
E-2:一般式(10)~(12)で表され、チアジアゾール環にジスルフィド結合(f,g=2)を介して結合したアルキル基を有するチアジアゾール化合物、S:36質量%
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
(添加剤による増粘)
潤滑油組成物のそれぞれについて、組成物の40℃における動粘度(KV40
Comp)の、全基油((O)成分)の40℃における動粘度(KV40
BO)に対する増分(KV40
Comp-KV40
BO)を算出することにより、添加剤に起因する粘度増加を評価した。結果を表1~6に示している。この値が小さいほど、添加剤の増粘効果による省エネルギー性の低下が小さいことを意味する。添加剤に起因する40℃動粘度の増加は2.5mm2/s以下であることが好ましい。
【0162】
(ISOT酸化試験)
潤滑油組成物のそれぞれについて、JIS K2514-1に準拠してISOT(Indiana Stirring Oxidation Test)法により油温165℃で150時間、新油を酸化処理することにより、酸化劣化油を得た。新油および酸化劣化油について、JIS K2501-2003に準拠して電位差滴定法により酸価を測定し、酸化劣化後の酸価の増加を評価した。結果を表1~6に示している。本試験において酸価の増加が少ないほど、酸化劣化に対する耐久性が良好であることを意味する。本試験における酸価の増加は1.5mgKHO/g以下であることが好ましい。
【0163】
(体積抵抗率)
潤滑油組成物のそれぞれについて、新油の体積抵抗率、及び、上記ISOT酸化試験により得た酸化劣化油の体積抵抗率を測定した。新油および酸化劣化油のそれぞれについて、体積抵抗率の測定は、JIS C2101に規定の体積抵抗率試験に準拠し、油温80℃で行った。結果を表1~6に示している。本試験において体積抵抗率が高いほど、電気絶縁性が良好であることを意味する。本試験における新油の80℃における体積抵抗率は0.21×1010Ω・cm以上であることが好ましい。また、本試験における酸化劣化油の80℃における体積抵抗率は0.10×1010Ω・cm以上であることが好ましい。
【0164】
(評価結果)
実施例1~20の潤滑油組成物は、添加剤による粘度増加が小さく低粘度でありながら、酸化劣化油の酸価増加、新油の電気絶縁性、及び酸化劣化後の組成物の電気絶縁性のいずれにおいても良好な結果を示した。
(A)成分の窒素分としての含有量(質量ppm)が過小であった比較例1の潤滑油組成物は、酸化劣化油の酸価増加、及び酸化劣化後の組成物の電気絶縁性において劣っていた。
(A)成分の化合物全体としての含有量(質量%)が過大であった比較例2の潤滑油組成物は、酸化劣化後の組成物の電気絶縁性において劣っていた。
(A)成分の重量平均分子量と(A)成分の化合物全体としての含有量(質量%)との積が過大であった比較例3の潤滑油組成物は、添加剤による粘度増加が大きく、省エネルギー性において劣っていた。
(A)成分の重量平均分子量と(A)成分の化合物全体としての含有量(質量%)との積が過大であり、(A)成分の化合物全体としての含有量(質量%)も過大であった比較例4の潤滑油組成物は、添加剤による粘度増加が大きく、省エネルギー性において劣っていたほか、新油の電気絶縁性においても劣っていた。
(B)成分を含有しなかった比較例5の潤滑油組成物は、酸化劣化油の酸価増加において劣っていた。
(B)成分の含有量が過大であった比較例6の潤滑油組成物は、酸化劣化後の組成物の電気絶縁性において劣っていた。
(B)成分を含有しない代わりに、(C)成分すなわち金属系清浄剤の含有量を増やすことで酸化劣化油の酸価増加を低減した比較例7の潤滑油組成物は、新油および酸化劣化油の電気絶縁性において劣っていた。
比較例7の組成物において(C)成分の含有量を減らすとともに(A)成分の含有量を増やすことにより酸化劣化油の酸価増加を低減した比較例8の潤滑油組成物は、新油の電気絶縁性において依然として劣っていたほか、添加剤による粘度増加が大きく、省エネルギー性においても劣っていた。