(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】呼吸器感染症に関する情報の取得方法、バイオマーカーの測定値のモニタリング方法、試薬キット、呼吸器感染症に関する情報の取得装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20241001BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20241001BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
G01N33/68
C07K14/47
C07K14/54
(21)【出願番号】P 2020177439
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 行人
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】Paul Gabarre et al,Acute kidney injury in critically ill patients with COVID-19 ,Intensive Care Medicine,2020年06月12日,46,1339-1348
【文献】Khalid Saad Alharbi et al,Impact of COVID-19 on Nephrology Patients: A Mechanistic Outlook for Pathogenesis of Acute Kidney Injury,Alternative Therapies in Health and Medicine,26,2020年09月13日,66-71
【文献】Zhi-Sheng Xu et al,Temporal profiling of plasma cytokines, chemokines and growth factors from mild, severe and fatal COVID-19,Signal Transduction and Targeted Therapy,2020年06月19日,1-3
【文献】Md. Hasanul Banna Siam et al,Pathophysiological mechanisms of disease severityin COVID-19: An update,Journal of Advanced Biotechnology and Experimental Therapeutics,2020年09月15日,3(4),68-78
【文献】Melika Lotfi et al,SARS-CoV-2:A comprehensive review from pathogenicity of the virus to clinical consequences,Journal of Medical Virology,2020年06月19日,92(10),1864-1874
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C07K 14/47
C07K 14/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器感染症に罹患した被検者又は前記呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定することを含み、前記バイオマーカーが、CXCL
9及びIL-18か
ら選択される少なくとも1つを含み、前記バイオマーカーの測定結果が、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、呼吸器感染症に関する情報の取得方法。
【請求項2】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される請求項1又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される請求項1又は
6に記載の方法。
【請求項8】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、少なくとも1つのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、全てのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される請求項1又は
8に記載の方法。
【請求項10】
呼吸器感染症に罹患した被検者又は前記呼吸器感染症が疑われる被検者から複数の時点において採取された検体を用い、前記各検体中の少なくとも1つのバイオマーカーの測定値を取得することを含み、前記バイオマーカーが、CXCL
9及びIL-18か
ら選択される少なくとも1つを含み、前記バイオマーカーの測定値が、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、バイオマーカーの測定値のモニタリング方法。
【請求項11】
前記複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の時点のうち、全ての時点において、前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される請求項
10又は
11に記載の方法。
【請求項13】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、前記複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、前記複数の時点のうち、全ての時点において、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される請求項
10又は
13に記載の方法。
【請求項15】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、前記複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される請求項
10に記載の方法。
【請求項16】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、前記複数の時点のうち、全ての時点において、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される請求項
10又は
15に記載の方法。
【請求項17】
前記被検者から複数の時点において採取された検体は、第1の時点において前記被検者から採取した第1の検体と、前記第1の時点とは異なる第2の時点において前記被検者から採取された第2の検体とを含む請求項
10~
16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
呼吸器感染症に罹患した被検者又は前記呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程と、
前記バイオマーカーの測定値に基づいて、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定する工程と
を含み、前記バイオマーカーが、CXCL
9及びIL-18か
ら選択される少なくとも1つを含む、
呼吸器感染症に関する情報の取得方法。
【請求項19】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高い判定する請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
18に記載の方法。
【請求項21】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
18に記載の方法。
【請求項22】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
18又は
21に記載の方法。
【請求項23】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
18に記載の方法。
【請求項24】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
18又は
23に記載の方法。
【請求項25】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、少なくとも1つのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
18に記載の方法。
【請求項26】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、全てのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
18又は
25に記載の方法。
【請求項27】
前記検体が、全血、血漿又は血清である請求項1~
26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記呼吸器感染症が、ウイルスによる感染症である請求項1~
27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ウイルスが、SARS-CoV-2、SARS-CoV又はMERS-CoVである請求項
28に記載の方法。
【請求項30】
CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試
薬及びIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬か
ら選択される少なくとも1つを含む、請求項1~
29のいずれか1項に記載の方法に用いるための試薬キット。
【請求項31】
プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、
前記メモリには、下記のステップ:
呼吸器感染症に罹患した被検者又は前記呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中のバイオマーカーの測定値を取得するステップと、
前記バイオマーカーの測定値を出力するステップと
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されており、
前記バイオマーカーが、CXCL
9及びIL-18か
ら選択される少なくとも1つを含み、前記バイオマーカーの測定値が、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、
呼吸器感染症に関する情報の取得装置。
【請求項32】
前記コンピュータプログラムが、前記バイオマーカーの測定値に基づいて、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定するステップを前記コンピュータにさらに実行させる、請求項
31に記載の装置。
【請求項33】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高い判定する請求項
32に記載の装置。
【請求項34】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
32に記載の装置。
【請求項35】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
32に記載の装置。
【請求項36】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
32又は
35に記載の装置。
【請求項37】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
32に記載の装置。
【請求項38】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
32又は
37に記載の装置。
【請求項39】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、少なくとも1つのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
32に記載の装置。
【請求項40】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、全てのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
32又は
39に記載の装置。
【請求項41】
コンピュータに読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムが、下記のステップ:
呼吸器感染症に罹患した被検者又は前記呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中のバイオマーカーの測定値を取得するステップと、
前記バイオマーカーの測定値を出力するステップと
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであり、
前記バイオマーカーが、CXCL
9及びIL-18か
ら選択される少なくとも1つを含み、前記バイオマーカーの測定値が、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、
呼吸器感染症に関する情報を取得するためのコンピュータプログラム。
【請求項42】
前記バイオマーカーの測定値に基づいて、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定するステップを前記コンピュータにさらに実行させる、請求項
41に記載のコンピュータプログラム。
【請求項43】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高い判定する請求項
42に記載のコンピュータプログラム。
【請求項44】
前記バイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
42に記載のコンピュータプログラム。
【請求項45】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
42に記載のコンピュータプログラム。
【請求項46】
前記バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
42又は
45に記載のコンピュータプログラム。
【請求項47】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
42に記載のコンピュータプログラム。
【請求項48】
前記バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
42又は
47に記載のコンピュータプログラム。
【請求項49】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、少なくとも1つのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定する請求項
42に記載のコンピュータプログラム。
【請求項50】
前記バイオマーカーがCXCL
9及びIL-18を含み、全てのバイオマーカーの測定値が、前記バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定する請求項
42又は
49に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸器感染症に関する情報の取得方法に関する。本発明は、バイオマーカーの測定値のモニタリング方法に関する。本発明は、これらの方法に用いられる試薬キットに関する。本発明は、呼吸器感染症に関する情報の取得装置に関する。本発明は、呼吸器感染症に関する情報を取得するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器感染症が重症化すると、急性腎障害や肺の線維化などの合併症を引き起こすことがある。そのような呼吸器感染症による合併症は、重篤な状態に進行する場合がある。また、合併症が生じると、呼吸器感染症の治癒後も後遺症が残ることがある。例えば、呼吸器感染症による肺の線維化では、線維化した部分が回復せずに、線維化が残存する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Han H.ら, Profiling serum cytokines in COVID-19 patients reveals IL-6 and IL-10 are disease severity predictors, Emerg Microbes Infect., 2020, vol.9, pp.1123-1130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
呼吸器感染症と、それによる合併症とでは治療方針が異なる。呼吸器感染症による合併症が生じるリスクを判定できれば、当該リスクに応じた治療方針を策定できる。非特許文献1には、COVID-19(Coronavirus disease 2019)の患者のうち、重症患者群の血清中のIL(Interleukin)-6及びIL-10の測定値が、軽症患者群に比べて有意に高いことから、IL-6及びIL-10が、COVID-19の重症化の予測マーカーになり得ることが記載されている。しかし、この文献には、呼吸器感染症による合併症が生じるリスクを判定するためのバイオマーカーについては記載されていない。
【0005】
本発明は、呼吸器感染症による急性腎障害及び肺の線維化が生じるリスクを判定可能なバイオマーカーを用いて、呼吸器感染症に関する情報を取得するための新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、CXCL9(CXC chemokine ligand 9)、CCL3(CC chemokine ligand 3)及びIL-18が、呼吸器感染症による急性腎障害及び肺の線維化が生じるリスクを判定するためのバイオマーカーとして利用できることを見出して、本発明を完成した。よって、本発明は、呼吸器感染症に罹患した被検者又は呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定することを含み、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つを含み、バイオマーカーの測定結果が、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、呼吸器感染症に関する情報の取得方法を提供する。
【0007】
本発明は、呼吸器感染症に罹患した被検者又は呼吸器感染症が疑われる被検者から複数の時点において採取された検体を用い、各検体中の少なくとも1つのバイオマーカーの測定値を取得することを含み、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つを含み、バイオマーカーの測定値が、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、バイオマーカーの測定値のモニタリング方法を提供する。
【0008】
本発明は、呼吸器感染症に罹患した被検者又は呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程と、バイオマーカーの測定値に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定する工程とを含み、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つを含む、呼吸器感染症に関する情報の取得方法を提供する。
【0009】
本発明は、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬からなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記の方法に用いるための試薬キットを提供する。
【0010】
本発明は、プロセッサ及びプロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、メモリには、呼吸器感染症に罹患した被検者又は呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中のバイオマーカーの測定値を取得するステップと、バイオマーカーの測定値を出力するステップとをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されており、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つを含み、バイオマーカーの測定値が、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、呼吸器感染症に関する情報の取得装置を提供する。
【0011】
本発明は、コンピュータに読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムが、呼吸器感染症に罹患した被検者又は呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中のバイオマーカーの測定値を取得するステップと、バイオマーカーの測定値を出力するステップとをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであり、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つを含み、バイオマーカーの測定値が、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる、呼吸器感染症に関する情報を取得するためのコンピュータプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図1B】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図1C】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図2】本実施形態の取得装置の一例を示す概略図である。
【
図3】本実施形態の取得装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4A】本実施形態の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図4B】本実施形態の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図4C】本実施形態の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図4D】本実施形態の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】COVID-19患者を、クラスター解析により、CCL17、VEGF(Vascular endothelial growth factor)、IL-6、CRP(C-reactive protein)、IL-10、IL-18、CCL3及びCXCL9の濃度に基づいて分類した結果を示す図である。
【
図6A】クラスターI~IVにおける、急性腎障害が生じた被検者及び急性腎障害が生じなかった被検者の割合を示すグラフである。
【
図6B】クラスターI~IVにおける、肺の線維化が生じた被検者及び肺の線維化が生じなかった被検者の割合を示すグラフである。
【
図7】クラスターI~IVにおけるCCL17、VEGF、IL-6、CRP、IL-10、IL-18、CCL3、CXCL9、リンパ球(Lym)、好中球(Neut)、P-SEP(Presepsin)、NT-pro-BNP(brain sodium peptide)、KL-6(Krebs von den Lungen-6)、SP-A(Surfactant protein A)及びLD(Lactose dehydrogenase)の測定値の分布を示すボックスプロットである。
【
図8A】急性腎障害が生じた被検者及び急性腎障害が生じなかった被検者の血清中のCXCL9濃度の推移を示すグラフである。
【
図8B】急性腎障害が生じた被検者及び急性腎障害が生じなかった被検者の血清中のCCL3濃度の推移を示すグラフである。
【
図8C】急性腎障害が生じた被検者及び急性腎障害が生じなかった被検者の血清中のIL-18濃度の推移を示すグラフである。
【
図8D】急性腎障害が生じた被検者及び急性腎障害が生じなかった被検者の血清中のIL-6濃度の推移を示すグラフである。
【
図8E】急性腎障害が生じた被検者及び急性腎障害が生じなかった被検者の血液中のCRP濃度の推移を示すグラフである。
【
図8F】急性腎障害が生じた被検者及び急性腎障害が生じなかった被検者の血液中のLD濃度の推移を示すグラフである。
【
図9A】肺の線維化が生じた被検者及び肺の線維化が生じなかった被検者の血清中のCXCL9濃度の推移を示すグラフである。
【
図9B】肺の線維化が生じた被検者及び肺の線維化が生じなかった被検者の血清中のCCL3濃度の推移を示すグラフである。
【
図9C】肺の線維化が生じた被検者及び肺の線維化が生じなかった被検者の血清中のIL-18濃度の推移を示すグラフである。
【
図9D】肺の線維化が生じた被検者及び肺の線維化が生じなかった被検者の血清中のIL-6濃度の推移を示すグラフである。
【
図9E】肺の線維化が生じた被検者及び肺の線維化が生じなかった被検者の血液中のCRP濃度の推移を示すグラフである。
【
図9F】肺の線維化が生じた被検者及び肺の線維化が生じなかった被検者の血液中のLD濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の呼吸器感染症に関する情報の取得方法(以下、「取得方法」ともいう)では、呼吸器感染症に罹患した被検者又は呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する。
【0015】
呼吸器感染症とは、鼻腔、咽頭、気管、気管支及び肺胞などの呼吸に関する器官に病原体が感染することによって起こる疾患を指す。病原体は特に限定されないが、例えばウイルス、細菌、真菌、寄生虫などが挙げられる。ウイルスとしては、例えばコロナウイルス、インフルエンザウイルスなどが挙げられる。コロナウイルスは特に限定されず、例えばα-コロナウイルス、β-コロナウイルス、γ-コロナウイルス及びδ-コロナウイルスが挙げられる。β-コロナウイルスとしては、例えばSARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoVなどが挙げられる。好ましい実施形態では、呼吸器感染症は、SARS-CoV-2による呼吸器感染症、すなわちCOVID-19である。
【0016】
被検者としては、呼吸器感染症に罹患した患者及び該呼吸器感染症が疑われる者が挙げられる。呼吸器感染症に罹患した患者は、病原体が検出されたことなどにより感染が確認された者をいう。本実施形態では、呼吸器感染症に罹患した患者のうち、呼吸器感染症が重症化していない患者、呼吸器感染症による急性腎障害が生じていない患者、及び呼吸器感染症による肺の線維化が生じていない患者が、被検者として好ましい。
【0017】
呼吸器感染症が疑われる者は、感染はまだ確認されていないが、呼吸器感染症に罹患している可能性がある者をいう。例えば、発熱、咳、鼻水、咽頭痛などの風邪症状及び/又は息苦しさ、労作時の息切れ、味覚及び嗅覚の異常などの所定の呼吸器感染症に特有の症状が出ている者、呼吸器感染症の患者と接触した者及び接触が疑われる者などが挙げられる。呼吸器感染症の患者との接触とは、例えば、該患者と1m以内の距離で会話をすること、該患者が存在する密閉空間内に滞在すること、該患者の唾液、せき等の飛沫を浴びることなどの行為をいう。
【0018】
検体は、被検者から採取され、且つ上記のバイオマーカーを含み得る試料であれば、特に限定されない。そのような試料としては、例えば血液試料、リンパ液、脳脊髄液、唾液、鼻咽頭拭い液、喀痰、気管支肺胞洗浄液、尿、大便などが挙げられる。血液試料としては、例えば、被検者から採取した血液(全血)、及びその血液から調製した血漿又は血清が挙げられる。本実施形態では、全血、血漿及び血清が好ましく、血漿及び血清が特に好ましい。
【0019】
検体に細胞などの不溶性の夾雑物が含まれる場合、例えば遠心分離、ろ過などの公知の手段により、検体から夾雑物を除去してもよい。また、検体は、必要に応じて適切な水性媒体で希釈してもよい。そのような水性媒体は、後述のバイオマーカーの測定を妨げないかぎり特に限定されず、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有するかぎり特に限定されない。そのような緩衝液は、例えばHEPES、MES、PIPESなどのグッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス塩酸緩衝液、トリス緩衝生理食塩水(TBS)などが挙げられる。
【0020】
本実施形態では、バイオマーカーは、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される1つ又は2つ以上のタンパク質分子を含む。CXCL9は、MIG(Monokine induced by interferonγ)とも呼ばれ、Th1タイプケモカインの一種である。CCL3は、MIP1a(Macrophage inflammatory protein 1 alpha)とも呼ばれ、急性炎症に関与するケモカインである。IL-18は、炎症性サイトカインの一種であり、Th1応答及びTh2応答の両方を誘導する。これらのタンパク質分子自体は公知であり、それらのアミノ酸配列は例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などの公知のデータベースから取得できる。
【0021】
本実施形態では、CXCL9、CCL3及びIL-18から選択される2つ以上のバイオマーカーの測定値を取得することが好ましい。2つ以上のバイオマーカーとしては、例えば、次のいずれかの組み合わせが挙げられる:
- CXCL9と、CCL3及びIL-18から選択される少なくとも1つとの組み合わせ;
- CCL3と、CXCL9及びIL-18から選択される少なくとも1つとの組み合わせ;
- IL-18と、CXCL9及びCCL3から選択される少なくとも1つとの組み合わせ;及び
- IL-18と、CXCL9と、CCL3との組み合わせ。
【0022】
本明細書において「バイオマーカーを測定する」とは、バイオマーカーの量又は濃度を反映する値を取得すること、及び、バイオマーカーの量又は濃度の値を決定することを含む。「バイオマーカーの量又は濃度を反映する値」とは、後述の標識物質の種類に依る値であり、標識物質の種類に応じた測定装置により取得できる。そのような値としては、例えば、発光強度の測定値、蛍光強度の測定値、放射線強度の測定値、光学密度の測定値などが挙げられる。「バイオマーカーの量又は濃度の値」は、バイオマーカーの量又は濃度を反映する値と、キャリブレータの測定結果とに基づいて決定できる。キャリブレータとは、対照試料の一種であり、被検物質又はそれに対応する標準物質を既知濃度で含む、被検物質の定量用試料である。本実施形態では、例えば、CXCL9、CCL3及びIL-18のそれぞれの組換え型タンパク質をキャリブレータとして用いることができる。
【0023】
本実施形態では、バイオマーカーの測定値は、検体中のバイオマーカーの量又は濃度を反映する値であり得る。また、バイオマーカーの測定値は、キャリブレータの測定結果に基づいて決定された、検体中のバイオマーカーの量又は濃度の値であり得る。
【0024】
バイオマーカーを測定する手段は特に限定されず、公知の測定方法から適宜選択できる。本実施形態では、バイオマーカーと特異的に結合可能な物質を用いて、該バイオマーカーを捕捉することを含む方法が好ましい。このような物質により捕捉されたバイオマーカーを、公知の方法で検出することにより、検体に含まれるバイオマーカーを測定できる。
【0025】
バイオマーカーと特異的に結合可能な物質としては、例えば抗体、アプタマーなどが挙げられる。それらの中でも抗体が特に好ましい。本明細書において「抗体」との用語は、全長の抗体及びそのフラグメントを包含する。抗体のフラグメントとしては、例えば還元型IgG(rIgG)、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、一本鎖抗体(scFv)、ダイアボディ、トリアボディなどが挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれであってもよい。上記の各バイオマーカーと特異的に結合する抗体自体は公知であり、一般に入手可能である。例えば、Kohler G.及びMilstein C., Nature, vol.256, pp.495-497, 1975に記載の方法により、バイオマーカーと特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを作製して、該抗体を取得してもよい。あるいは、市販の抗体を用いてもよい。
【0026】
抗体を用いてバイオマーカーを測定する方法は特に限定されず、酵素結合免疫吸着法(ELISA法)、酵素免疫測定法、免疫比濁法、免疫比ろう法、ラテックス凝集法などの公知の免疫学的測定法から適宜選択できる。本実施形態ではELISA法が好ましい。ELISA法の種類は、サンドイッチ法、競合法、直接法、間接法などのいずれであってもよいが、サンドイッチ法が特に好ましい。一例として、サンドイッチELISA法により、検体中のバイオマーカーを測定する場合について、以下に説明する。
【0027】
サンドイッチELISA法によるバイオマーカーの測定は、抗体とバイオマーカーとの複合体の形成工程と、該複合体の検出工程とを含む。複合体の形成工程では、バイオマーカーと、バイオマーカーを捕捉するための抗体(以下、「捕捉用抗体」ともいう)と、バイオマーカーを検出するための抗体(以下、「検出用抗体」ともいう)とを含む複合体を固相上に形成する。検体がバイオマーカーを含む場合、当該検体と捕捉用抗体と検出用抗体とを混合することにより、バイオマーカーと捕捉用抗体と検出用抗体とを含む複合体が形成され得る。そして、複合体を含む溶液と、捕捉用抗体を固定できる固相とを接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成できる。あるいは、捕捉用抗体があらかじめ固定された固相を用いてもよい。すなわち、捕捉用抗体が固定された固相と、検体と、検出用抗体とを接触することにより、上記の複合体を固相上に形成できる。なお、捕捉用抗体及び検出用抗体がいずれもモノクローナル抗体の場合は、互いのエピトープが異なっていることが好ましい。
【0028】
固相は、捕捉用抗体を固定可能な不溶性の担体であればよい。捕捉用抗体の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、捕捉用抗体と固相とを直接結合させてもよいし、捕捉用抗体と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、抗体と特異的に結合する分子を固相上に固定化し、該分子と抗体との結合を介して、抗体を固相上に固定することが挙げられる。抗体と特異的に結合する分子としては、プロテインA又はG、抗体を特異的に認識する抗体(二次抗体)などが挙げられる。また、抗体と固相との間を介在する物質の組み合わせを用いて、捕捉用抗体を固相上に固定することもできる。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチン類とアビジン類、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。ビオチン類とは、ビオチン、並びにデスチオビオチン及びオキシビオチンなどのビオチン類縁体を含む。アビジン類とは、アビジン、並びにストレプトアビジン及びタマビジン(登録商標)などのアビジン類縁体を含む。ハプテンと抗ハプテン抗体の組み合わせとしては、2, 4-ジニトロフェニル(DNP)基を有する化合物と抗DNP抗体との組み合わせが挙げられる。例えば、あらかじめビオチン類(又はDNP基を有する化合物)で修飾した捕捉用抗体と、あらかじめアビジン類(又は抗DNP抗体)を結合した固相とを用いることにより、ビオチン類とアビジン類との結合(又はDNP基と抗DNP抗体との結合)を介して、捕捉用抗体を固相上に固定できる。
【0029】
固相の素材は特に限定されず、例えば有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましく、磁性粒子が特に好ましい。
【0030】
本実施形態においては、複合体の形成工程と複合体の検出工程との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、バイオマーカーと結合しなかった捕捉用抗体及び検出用抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0031】
複合体の検出工程では、固相上に形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、バイオマーカーの測定値を取得できる。例えば、検出用抗体として、標識物質で標識した抗体を用いた場合は、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、バイオマーカーの測定値を取得できる。あるいは、検出用抗体に対する標識二次抗体を用いた場合も、同様にしてバイオマーカーの測定値を取得できる。
【0032】
本実施形態では、抗体を用いてバイオマーカーを測定する方法として、特開平1-254868号公報に記載の免疫複合体転移法を用いることもできる。
【0033】
本明細書において「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましく、定量的に検出することが特に好ましい。
【0034】
標識物質は特に限定されず、例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。標識物質としては、酵素が好ましく、アルカリホスファターゼ(ALP)及びペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0035】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本実施形態では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0036】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0037】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0038】
シグナルの検出結果は、バイオマーカーの測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、バイオマーカーの測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。陰性対照試料は適宜選択することができ、例えば、バイオマーカーを含まない緩衝液、健常人から得た検体、軽症又は無症状の呼吸器感染症患者から得た検体などが挙げられる。
【0039】
本実施形態では、磁性粒子に固定された捕捉用抗体と、酵素標識された検出用抗体とを用いるサンドイッチELISA法により、検体に含まれるバイオマーカーを測定することが好ましい。測定は、HISCL(登録商標)シリーズ(シスメックス株式会社製)などの市販の測定装置を用いて行ってもよい。
【0040】
後述の実施例に示されるように、血清中のCXCL9、CCL3又はIL-18の測定値が有意に高い患者群では、それ以外の患者群に比べて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化を発症した患者が顕著に多く含まれていた。このように、本実施形態では、バイオマーカーの測定結果は、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる。本実施形態において、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクとは、被検者から検体を採取した日から所定の期間(例えば1日~1ヶ月)の経過後に、該被検者が呼吸器感染症による急性腎障害及び肺の線維化のいずれか一方又は両方を発症する可能性である。
【0041】
本実施形態では、バイオマーカーの測定結果を、呼吸器感染症に関する情報として取得できる。呼吸器感染症に関する情報としては、例えば、呼吸器感染症による急性腎障害及び肺の線維化が生じるリスクが高いこと又は低いことを示唆する情報、呼吸器感染症による急性腎障害が生じるリスクが高いこと又は低いことを示唆する情報、呼吸器感染症による肺の線維化が生じるリスクが高いこと又は低いことを示唆する情報などが挙げられる。
【0042】
一実施形態において、呼吸器感染症による急性腎障害とは、呼吸器感染症に伴って生じた急激な腎機能の低下及び腎組織障害をいう。急性腎障害は、例えば、RIFLE、AKIN又はKDIGOの診断基準に基づいて診断できる。これらの診断基準では、被検者の血清クレアチニン値及び尿量が参照される。
【0043】
一実施形態において、呼吸器感染症による肺の繊維化とは、呼吸器感染症によって損傷した肺胞の間質に結合組織が増加して、肺の一部又は全部が硬化した状態をいう。肺の繊維化は、例えば胸部レントゲン検査、胸部CT検査、肺生検などにより診断できる。
【0044】
呼吸器感染症による肺の線維化では、呼吸器感染症の治癒後も、線維化した部分が回復せずに、後遺症として肺の線維化が残存する。後述の実施例においても、血清中のCXCL9、CCL3又はIL-18の測定値が有意に高く、且つ呼吸器感染症による肺の線維化が生じた患者の中には、病原体の感染が陰性と判定された後も肺に線維化が認められた者がいた。本実施形態では、バイオマーカーの測定結果は、呼吸器感染症による肺の線維化が残存するリスクの指標となり得る。すなわち、呼吸器感染症に関する情報は、呼吸器感染症による肺の線維化が残存するリスクが高いこと又は低いことを示唆する情報であり得る。本実施形態において、呼吸器感染症による肺の線維化が残存するリスクとは、被検者において、呼吸器感染症による肺の線維化が生じ、且つ病原体の感染が陰性と判定された後も肺の線維化が確認される可能性である。病原体の感染の判定は、病原体の種類に応じた公知の検出方法により行うことできる。例えば、病原体がウイルスの場合、公知のPCR法により病原体の感染が陰性であるか否かを判定することが好ましい。
【0045】
本実施形態では、取得したバイオマーカーの測定値と、該バイオマーカーに対応する所定の閾値とを比較することにより、該バイオマーカーの測定値を、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標として利用してもよい。一実施形態では、バイオマーカーの測定値が、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。
【0046】
さらなる実施形態では、バイオマーカーの測定値が、該バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0047】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0048】
一実施形態では、バイオマーカーがCCL3を含み、CCL3の測定値が、CCL3に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、CCL3の測定値が、CCL3に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0049】
一実施形態では、バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0050】
さらなる実施形態では、被検者から採取された検体中の少なくとも2つのバイオマーカーを測定してもよい。この実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも2つを含み、それらのバイオマーカーの測定結果が、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となり得る。例えば、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0051】
一実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0052】
さらなる実施形態では、被検者から採取された検体中の少なくとも3つのバイオマーカーを測定してもよい。この実施形態では、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18を含み、それらのバイオマーカーの測定結果が、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となり得る。例えば、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0053】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0054】
別の実施形態では、取得方法は、被検者から採取された検体中の少なくとも2つのバイオマーカーを測定することを含み、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも2つを含み、それらのバイオマーカーの測定値により、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを3段階に分類する。具体的には、下記のとおりである:
・取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆され;
・取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが中程度であることが示唆され;
・取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0055】
一実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが中程度であることが示唆される。また、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0056】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが中程度であることが示唆される。また、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0057】
本実施形態では、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つに加えて、他のバイオマーカーを測定してもよい。そのようなバイオマーカーとしては、例えばIL-6及びCRPが挙げられる。IL-6は、Th2タイプサイトカインの一種である。CRPは、急性期タンパクの一種である。後述の実施例に示されるように、血清中のIL-6及びCRPの測定値が高い患者群では、それ以外の患者群に比べて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化を発症した患者が多い傾向にあった。本実施形態では、IL-6及びCRPから選択される少なくとも1つの測定結果と、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つの測定結果とが、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となってもよい。IL-6及びCRPのアミノ酸配列自体は公知であり、例えばNCBIなどの公知のデータベースから知ることができる。IL-6及びCRPは、CXCL9、CCL3及びIL-18と同様にして測定できる。
【0058】
一実施形態では、バイオマーカーは、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つと、IL-6及びCRPからなる群より選択される少なくとも1つとを含む。この実施形態では、CXCL9、CCL3及びIL-18のうち、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であり、且つ、IL-6及びCRPのうち、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。
【0059】
各バイオマーカーに対応する所定の閾値は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、複数の呼吸器感染症患者から検体を採取し、検体中のバイオマーカーを測定して測定値を得る。検体採取から所定の期間(例えば2週間)の経過後、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じたか否かを確認する。取得した測定値のデータを、急性腎障害又は肺の線維化が生じた患者群のデータと、急性腎障害及び肺の線維化が生じなかった患者群のデータとに分類する。そして、各バイオマーカーについて、2つの患者群を最も精度よく区別可能な値を求め、その値を閾値として設定する。閾値の設定においては、感度、特異度、陽性的中率(PPV)、陰性的中率(NPV)などを考慮することができる。
【0060】
一実施形態では、CXCL9に対応する所定の閾値は、例えば100 pg/mL以上 365 pg/mL以下の範囲から設定される。CCL3に対応する所定の閾値は、例えば47.7 pg/mL以上66.7 pg/mL以下の範囲から設定される。IL-18に対応する所定の閾値は、例えば600 pg/mL以上750 pg/mL以下の範囲から設定される。IL-6に対応する所定の閾値は、例えば67.4pg/mL以上96.2 pg/mL以下の範囲から設定される。CRPに対応する所定の閾値は、例えば0.75 x104μg/L以上6.2 x104μg/L以下の範囲から設定される。
【0061】
医師などの医療従事者は、バイオマーカーの測定値による示唆と他の情報とを組み合わせて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定してもよい。ここで、「他の情報」とは、血清クレアチニン量、尿量、肺のX線画像又はCT画像の所見、その他の医学的所見を含む。
【0062】
本実施形態では、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと示唆された場合、その被検者に、急性腎障害又は肺の線維化に対する医学的介入を行うことができる。医学的介入には、例えば、薬剤の投与、透析、外科手術、免疫療法、遺伝子治療、酸素供給処置、人工心肺装置を用いた処置などが含まれる。薬剤は、急性腎障害又は肺の線維化に対する公知の治療薬又はその候補となる医薬から適宜選択できる。急性腎障害に対する医学的介入としては、補液療法、透析による腎代替療法、ステロイド薬の投与などの抗炎症療法が好ましい。肺の線維化に対する医学的介入としては、ステロイド薬、免疫抑制薬、抗線維化薬の投与などが好ましい。補液としては等張性晶質液が好ましく、例えば生理食塩水、乳酸リンゲル液などが挙げられる。ステロイド薬としてはコルチコステロイドが好ましく、例えばデキサメタゾン、プレドニゾロンなどが挙げられる。免疫抑制薬としては、例えばアザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどが挙げられる。また、抗IL-6抗体、抗IL-1beta抗体などの抗体医薬による特異的な免疫療法や、静注用免疫グロブリン(Intravenous Immunoglobulin:IVIG)などの生物製剤による免疫制御・抗炎症療法も考えられる。抗線維化薬としては、例えばピルフェニドン、ニンテダニブ、αvβ6インテグリン遮断薬、Gal-3阻害薬、オートタキシン阻害薬、リゾホスファチジン酸阻害薬、JNK阻害薬、mTOR経路モジュレータ、血清アミロイドP成分(SAP)、アンジオテンシン2受容体(AT2R)阻害薬などが挙げられる。
【0063】
本実施形態では、バイオマーカーの測定結果として、被検者におけるバイオマーカーの測定値の経時変化を取得してもよい。バイオマーカーの測定値の経時変化は、被検者から定期的又は不定期に複数回採取した検体中のバイオマーカーの測定値の推移を示す情報であれば、特に限定されない。そのような経時変化としては、例えば、複数の測定値から算出される値(例えば、任意の2つの時点で採取した2つの検体の測定値の差、比など)、測定値の記録(例えば、測定値の表や測定値をプロットしたグラフなど)などが挙げられる。
【0064】
本実施形態では、バイオマーカーの測定結果として、少なくとも2つのバイオマーカーの測定値を用いて多変量分析により得られる値を取得してもよい。多変量分析により得られる値としては、多重ロジスティック回帰分析により得られる予測値が好ましい。そのような予測値は、下記の回帰式により算出できる。
【0065】
P=1/[1+exp{-(a1x1+a2x2+ ・・・ +anxn+b)}]
【0066】
上記の回帰式において、x1~xnは各バイオマーカーの測定値であり、a1~anは各バイオマーカーの回帰係数であり、bは定数である。回帰係数及び定数は、使用するバイオマーカーの種類によって適宜設定できる。例えば、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じた複数の患者(発生群)及び生じなかった複数の患者(非発生群)とから採取した検体中のバイオマーカーの測定値のデータから、発生群と非発生群とを判別する多重ロジスティックモデルを作成することにより、回帰係数及び定数を設定できる。多重ロジスティックモデルは、SPSS Statistics(IBM社)などの統計分析ソフトウェアを用いて作成できる。本実施形態では、呼吸器感染症患者のバイオマーカーの測定値のデータから、あらかじめ多重ロジスティックモデルを作成しておくことが好ましい。
【0067】
本実施形態の取得方法は、バイオマーカーの測定値に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定する工程を含んでもよい。この工程では、例えば、取得したバイオマーカーの測定値と、該バイオマーカーに対応する閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いか又は低いかを判定してもよい。所定の閾値の詳細は上記のとおりである。
【0068】
一実施形態では、バイオマーカーの測定値が、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。さらなる実施形態では、バイオマーカーの測定値が、該バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0069】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9を含み、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0070】
一実施形態では、バイオマーカーがCCL3を含み、CCL3の測定値が、CCL3に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、CCL3の測定値が、CCL3に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0071】
一実施形態では、バイオマーカーがIL-18を含み、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0072】
さらなる実施形態では、被検者から採取された検体中の少なくとも2つのバイオマーカーを測定してもよい。この実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも2つを含み、それらのバイオマーカーの測定値に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定してもよい。例えば、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0073】
一実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0074】
さらなる実施形態では、被検者から採取された検体中の少なくとも3つのバイオマーカーを測定してもよい。この実施形態では、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18を含み、それらのバイオマーカーの測定値に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定してもよい。例えば、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0075】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0076】
別の実施形態では、取得方法は、被検者から採取された検体中の少なくとも2つのバイオマーカーを測定することを含み、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも2つを含み、それらのバイオマーカーの測定値により、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを3段階で判定してもよい。具体的には、下記のとおりである:
・取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され;
・取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが中程度であると判定され;
・取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0077】
一実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値のいずれか1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが中程度であると判定され得る。また、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、それら2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0078】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。また、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが中程度であると判定され得る。また、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、それら3つのバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと判定され得る。
【0079】
さらなる実施形態では、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つの測定値と、IL-6及びCRPからなる群より選択される少なくとも1つの測定値とに基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定してもよい。この実施形態では、CXCL9、CCL3及びIL-18のうち、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であり、且つ、IL-6及びCRPのうち、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定され得る。
【0080】
本実施形態では、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定された被検者に、急性腎障害又は肺の線維化に対する医学的介入を行うことができる。よって、本発明の一実施形態は、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化の治療方法(以下、「治療方法」ともいう)に関する。本実施形態の治療方法は、呼吸器感染症に罹患した被検者又は前記呼吸器感染症が疑われる被検者から採取された検体中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程と、前記バイオマーカーの測定値に基づいて、前記呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定する工程と、前記リスクが高いと判定された被検者に、急性腎障害又は肺の線維化に対する医学的介入を行う工程とを含み、前記バイオマーカーは、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも1つを含む。被検者、検体、バイオマーカー及びその測定、医学的介入などの詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0081】
本実施形態では、検体中のバイオマーカーの測定値をモニタリングしてもよい。本実施形態のバイオマーカーの測定値のモニタリング方法(以下、「モニタリング方法」ともいう)では、被検者から複数の時点において採取された検体を用いる。各検体中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定して、各検体から少なくとも1つのバイオマーカーの測定値を取得する。ここで、被検者、検体、バイオマーカー及びその測定などの詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0082】
本実施形態において、複数の時点は、2以上の互いに異なる時点であればよい。例えば、複数の時点は、第1の時点と、該第1の時点とは異なる第2の時点とを含む。第1の時点は、特に限定されず、任意の時点である。例えば、第1の時点は、被検者が呼吸器感染症に罹患していることが判明した時点、被検者に呼吸器感染症の症状が現れた時点、被検者が入院した時点などであってもよい。第2の時点は、第1の時点とは異なる限り、特に限定されない。好ましくは、第2の時点は、第1の時点から1ヶ月以内の期間が経過した時点である。例えば、第2の時点は、第1の時点から0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、12時間、15時間、18時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、12日、2週間、3週間、4週間又は1ヶ月が経過した時点である。
【0083】
本実施形態において「被検者から複数の時点において採取された検体」は、複数の時点のそれぞれにおいて同一の被検者から採取された検体である。例えば、被検者から複数の時点において採取された検体は、第1の時点において被検者から採取した第1の検体と、該第1の時点とは異なる第2の時点において該被検者から採取された第2の検体とを含む。本実施形態のモニタリング方法では、検体を採取する度にバイオマーカーを測定してもよいし、採取した各検体を保存しておき、それらをまとめて測定してもよい。
【0084】
本実施形態のモニタリング方法では、同一の被検者におけるバイオマーカーの測定値がモニターされ、該バイオマーカーの測定値が、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる。好ましい実施形態では、複数の時点における同一のバイオマーカーの測定値を取得する。各検体から取得したバイオマーカーの測定値と、該バイオマーカーに対応する所定の閾値とを比較することにより、該バイオマーカーの測定値を、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標として利用してもよい。所定の閾値の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0085】
一実施形態では、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、バイオマーカーの測定値が、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。さらなる実施形態では、複数の時点のうち、全ての時点において、バイオマーカーの測定値が、該バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0086】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9を含み、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。複数の時点のうち、全ての時点において、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0087】
一実施形態では、バイオマーカーがCCL3を含み、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、CCL3の測定値が、CCL3に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。複数の時点のうち、全ての時点において、CCL3の測定値が、CCL3に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0088】
一実施形態では、バイオマーカーがIL-18を含み、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。複数の時点のうち、全ての時点において、IL-18の測定値が、IL-18に対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0089】
さらなる実施形態では、各検体中の少なくとも2つのバイオマーカーを測定してもよい。この実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される少なくとも2つを含み、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、複数の時点のうち、全ての時点において、取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0090】
一実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、2つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18からなる群より選択される2つであり、複数の時点のうち、全ての時点において、2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0091】
さらなる実施形態では、各検体中の少なくとも3つのバイオマーカーを測定してもよい。この実施形態では、バイオマーカーが、CXCL9、CCL3及びIL-18を含み、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、取得したバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、複数の時点のうち、全ての時点において、取得したバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0092】
一実施形態では、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、複数の時点のうち、少なくとも1つの時点において、3つのバイオマーカーの測定値の少なくとも1つが、該バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆される。また、バイオマーカーがCXCL9、CCL3及びIL-18であり、複数の時点のうち、全ての時点において、3つのバイオマーカーの測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低い場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いことが示唆される。
【0093】
本実施形態のモニタリング方法を終了する条件は、特に限定されず、医師などの医療従事者が適宜決定してもよい。例えば、被検者から複数の時点において採取された検体から取得されたバイオマーカーの測定値により、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと示唆された場合、本実施形態のモニタリング方法を終了してもよい。この場合、その被検者には、急性腎障害又は肺の線維化に対する医学的介入を行うことが好ましい。医学的介入の詳細は上記のとおりである。あるいは、被検者から複数の時点において採取された検体から取得されたバイオマーカーの測定値により、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いと示唆され、且つ、該被検者に急性腎障害及び肺の線維化の兆候が認められない場合、本実施形態のモニタリング方法を終了してもよい。
【0094】
上記の各実施形態では、バイオマーカーの測定値が、該バイオマーカーに対応する所定の閾値と同じである場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いことが示唆又は判定されるとしたが、当該リスクが低いことが示唆又は判定されてもよい。
【0095】
本発明の一実施形態は、上記の本実施形態の取得方法、モニタリング方法又は治療方法に用いるための試薬キットである。本実施形態の試薬キットは、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬からなる群より選択される少なくとも1つを含む。さらなる実施形態では、試薬キットは、IL-6と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びCRPと特異的に結合可能な物質を含む試薬からなる群より選択される少なくとも1つをさらに含んでもよい。各バイオマーカーと特異的に結合可能な物質としては、例えば抗体、アプタマーなどが挙げられる。それらの中でも抗体が好ましい。
【0096】
本実施形態では、試薬キットは、各試薬を収容した容器が箱に梱包されて、ユーザに提供されてもよい。箱には、添付文書を同梱していてもよい。添付文書には、試薬キットの構成、各試薬の組成、使用方法などが記載されていてもよい。本実施形態の試薬キットの一例を、
図1Aに示す。
図1Aにおいて、11は、試薬キットを示し、12は、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬を収容した容器を示し、13は、梱包箱を示し、14は、添付文書を示す。この例の試薬キットでは、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬に替えて、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬又はIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬が含まれてもよい。この場合、添付文書には、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬又はIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬について、試薬組成、使用方法などが記載される。また、試薬キットは、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬に加えて、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬又はIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬をさらに含んでもよい。この場合、添付文書には、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬と、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬又はIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬とについて、試薬組成、使用方法などが記載される。また、試薬キットは、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬が含まれてもよい。この場合、添付文書には、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬と、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬と、IL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬とについて、試薬組成、使用方法などが記載される。
【0097】
好ましい実施形態では、本実施形態の試薬キットは、バイオマーカーの捕捉用抗体及び検出用抗体を含む。検出用抗体は、標識物質で標識されていてもよい。捕捉用抗体、検出用抗体及び標識物質の詳細は、上記の本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。試薬キットは、固相を含んでもよい。検出用抗体に用いた標識物質が酵素である場合、試薬キットは、該酵素の基質を含んでもよい。固相及び基質の詳細は、上記の本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0098】
さらなる実施形態の試薬キットの一例を、
図1Bに示す。
図1Bにおいて、21は、試薬キットを示し、22は、CXCL9の捕捉用抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、23は、CXCL9の検出用標識抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、24は、梱包箱を示し、25は、添付文書を示す。この例の試薬キットでは、CXCL9の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬に替えて、CCL3の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬、又は、IL-18の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬が含まれてもよい。また、試薬キットは、CXCL9の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬に加えて、CCL3の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬、及び/又は、IL-18の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬をさらに含んでもよい。
【0099】
上記のいずれの試薬キットにおいても、キャリブレータを含むことが好ましい。キャリブレータとしては、例えばCXCL9の定量のためのキャリブレータ(CXCL9用キャリブレータ)、CCL3の定量のためのキャリブレータ(CCL3用キャリブレータ)及びIL-18の定量のためのキャリブレータ(IL-18用キャリブレータ)が挙げられる。CXCL9用キャリブレータは、例えば、CXCL9を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、CXCL9を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。CCL3用キャリブレータは、例えば、CCL3を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、CCL3を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。IL-18用キャリブレータは、例えば、IL-18を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、IL-18を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。
【0100】
さらなる実施形態の試薬キットの一例を、
図1Cに示す。
図1Cにおいて、31は、試薬キットを示し、32は、CXCL9の捕捉用抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、33は、CXCL9の検出用標識抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、34は、CXCL9を含まない緩衝液を収容した第3容器を示し、35は、CXCL9を所定の濃度で含有する緩衝液を収容した第4容器を示し、36は、梱包箱を示し、37は、添付文書を示す。CXCL9を含まない緩衝液、及びCXCL9を所定の濃度で含有する緩衝液は、CXCL9用キャリブレータとして用いることができる。この例の試薬キットは、CXCL9の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬及びCXCL9用キャリブレータに替えて、CCL3の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬及びCCL3用キャリブレータ、又は、IL-18の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬及びIL-18用キャリブレータが含まれてもよい。また、試薬キットは、CXCL9の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬及びCXCL9用キャリブレータに加えて、CCL3の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬及びCCL3用キャリブレータ、及び/又はIL-18の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬及びIL-18用キャリブレータをさらに含んでもよい。
【0101】
本発明の一実施形態は、上記の試薬キットの製造のための、バイオマーカーと特異的に結合可能な物質を含む試薬の使用である。本実施形態は、呼吸器感染症に関する情報を取得するための試薬キットの製造のための試薬の使用であって、前記試薬が、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0102】
さらなる実施形態は、バイオマーカーの測定値をモニタリングするための試薬キットの製造のための試薬の使用であって、前記試薬が、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬、CCL3と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びIL-18と特異的に結合可能な物質を含む試薬からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0103】
本発明の一実施形態は、呼吸器感染症に関する情報の取得装置、及び呼吸器感染症に関する情報を取得するためのコンピュータプログラムである。本発明のさらなる実施形態は、バイオマーカーの測定値のモニタリング装置、及びバイオマーカーの測定値をモニタリングするためのコンピュータプログラムである。
【0104】
本実施形態の取得装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態は、この例に示される形態のみに限定されない。
図2に示された取得装置10は、免疫測定装置20と、免疫測定装置20と接続されたコンピュータシステム30とを含む。本実施形態のモニタリング装置は、本実施形態の取得装置と同じ構成であり得る。
【0105】
免疫測定装置の種類は特に限定されず、バイオマーカーの測定方法に応じて適宜選択できる。バイオマーカーをELISA法により測定する場合、免疫測定装置は、用いた標識物質に基づくシグナルの検出が可能であれば特に限定されない。
図2に示される例では、免疫測定装置20は、捕捉用抗体を固定した磁性粒子及び酵素標識された検出用抗体を用いるサンドイッチELISA法により生じる化学発光シグナルを検出可能な市販の自動免疫測定装置である。
【0106】
捕捉用抗体を固定した磁性粒子を含む試薬、酵素標識された検出用抗体を含む試薬及び被検者から採取した検体を免疫測定装置20にセットすると、免疫測定装置20は、各試薬を用いて抗原抗体反応を実行し、バイオマーカーと特異的に結合した酵素標識抗体に基づく光学的情報として化学発光シグナルを取得し、得られた光学的情報をコンピュータシステム30に送信する。
【0107】
図2を参照して、コンピュータシステム30は、コンピュータ本体300と、入力部301と、検体情報や判定結果などを表示する表示部302とを含む。コンピュータシステム30は、免疫測定装置20から光学的情報を受信する。そして、コンピュータシステム30のプロセッサは、光学的情報に基づいて、ソリッドステートドライブ(以下、「SSD」という)313にインストールされた、呼吸器感染症に関する情報を取得するためのコンピュータプログラムを実行する。なお、コンピュータシステム30は、
図2に示されるように、免疫測定装置20とは別個の機器であってもよいし、免疫測定装置20を内包する機器であってもよい。後者の場合、コンピュータシステム30は、それ自体で取得装置10となってもよい。市販の自動免疫測定装置に、呼吸器感染症に関する情報を取得するためのコンピュータプログラムを搭載してもよい。取得装置10は、免疫測定装置20とコンピュータシステム30とが一体的に構成された装置であってもよい。
【0108】
図3を参照して、コンピュータ本体300は、CPU(Central Processing Unit)310と、ROM(Read Only Memory)311と、RAM(Random Access Memory)312と、SSD313と、入出力インターフェイス314と、読取装置315と、通信インターフェイス316と、画像出力インターフェイス317とを備えている。CPU310、ROM311、RAM312、SSD313、入出力インターフェイス314、読取装置315、通信インターフェイス316及び画像出力インターフェイス317は、バス318によってデータ通信可能に接続されている。また、免疫測定装置20は、通信インターフェイス316により、コンピュータシステム30と通信可能に接続されている。
【0109】
CPU310は、ROM311又はSSD313に記憶されているプログラム及びRAM312にロードされたプログラムを実行することが可能である。CPU310は、バイオマーカーの測定値を算出し、表示部302に表示させる。
【0110】
ROM311は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM311には、上述のようにCPU310によって実行されるコンピュータプログラム及び該コンピュータプログラムの実行に用いるデータが記録されている。ROM311に記録されているコンピュータプログラムには、BIOS(Basic Input Output System)が含まれる。各バイオマーカーに対する所定の閾値は、コンピュータシステムの製造時にROM311又はSSD313にあらかじめ記憶されていてもよいし、入力部301によって入力されることによりROM311又はSSD313に記憶されてもよい。
【0111】
RAM312は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM312は、ROM311及びSSD313に記録されているプログラムの読み出しに用いられる。RAM312はまた、これらのプログラムを実行するときに、CPU310の作業領域として利用される。
【0112】
SSD313は、CPU310に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラムなどのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。なお、SSDに替えてハードディスクドライブを用いてもよい。
【0113】
読取装置315は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブ、USBポート、SDカードリーダ、CFカードリーダ、メモリースティックリーダなどによって構成されている。読取装置315は、上記の読取装置315に対応する可搬型記録媒体40に記録されたプログラム又はデータを読み取ることができる。
【0114】
入出力インターフェイス314は、例えば、USB、IEEE1394などのシリアルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス314には、キーボード、マウスなどの入力部301が接続されている。操作者は、該入力部301により、コンピュータ本体300に各種の指令を入力することが可能である。
【0115】
通信インターフェイス316は、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどの規格に準拠した無線インターフェイスなどである。コンピュータ本体300は、通信インターフェイス316により、プリンタなどへの印刷データの送信も可能である。通信インターフェイス316が無線インターフェイスである場合、コンピュータ本体300は、携帯電話、タブレット端末などのモバイルデバイスへのデータ送信が可能である。
【0116】
画像出力インターフェイス317は、D-Sub、DVI-I、DVI-D、HDMI(登録商標)、DisplayPortなどの規格に準拠したインターフェイスである。画像出力インターフェイス317は、その規格に対応したケーブルを介して、LCD、CRTなどで構成される表示部302に接続されている。これにより、表示部302は、CPU310から与えられた画像データに応じた映像信号を出力できる。表示部302は、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0117】
本実施形態の取得装置10より実行される処理手順について、図面を参照して説明する。
図4Aを参照して、1つのバイオマーカーの測定値を取得して出力する場合の処理手順を説明する。この例では、捕捉用抗体を固定した磁性粒子及び酵素標識された検出用抗体を用いるサンドイッチELISA法により生じる化学発光シグナルからCXCL9の測定値を取得し、出力する。CXCL9の測定値に替えて、CCL3又はIL-18の測定値を取得してもよい。
【0118】
ステップS101において、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得する。ステップS102において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL9の測定値を算出し、測定結果としてCXCL9の測定値を取得する。CPU310は、当該測定値をSSD313に記憶する。ステップS103において、CPU310は、CXCL9の測定値を出力する。例えば、CPU310は、CXCL9の測定値を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。CXCL9の測定値を出力する際に、参照情報としてCXCL9に対応する所定の閾値も出力してもよい。このように、本実施形態の取得装置は、呼吸器感染症に関する情報として、バイオマーカーの測定値を医師などに提供できる。上記のとおり、バイオマーカーの測定値は、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの指標となる。
【0119】
さらなる実施形態では、2つのバイオマーカーの測定値を取得して出力する。例えば、CXCL9及びCCL3の測定値を取得して出力する場合、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得し、取得した光学的情報からCXCL9及びCCL3の測定値を算出してSSD313に記憶する。CPU310は、CXCL9及びCCL3の測定値を出力する。例えば、CPU310は、CXCL9及びCCL3の測定値を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。CXCL9及びCCL3の測定値を出力する際に、参照情報としてCXCL9及びCCL3のそれぞれに対応する所定の閾値も出力してもよい。CXCL9又はCCL3の測定値に替えて、IL-18の測定値を取得してもよい。
【0120】
さらなる実施形態では、CXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を取得して出力する。この場合、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得し、取得した光学的情報からCXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を算出してSSD313に記憶する。CPU310は、CXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を出力する。例えば、CPU310は、CXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。CXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を出力する際に、参照情報としてCXCL9、CCL3及びIL-18のそれぞれに対応する所定の閾値も出力してもよい。
【0121】
図4Bを参照して、1つのバイオマーカーの測定値に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定する場合のフローについて説明する。ステップS201において、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得する。ステップS202において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL9の測定値を算出し、測定結果としてCXCL9の測定値を取得する。CPU310は、当該測定値をSSD313に記憶する。ステップS203において、CPU310は、算出したCXCL9の測定値と、SSD313に記憶されたCXCL9に対応する所定の閾値とを比較する。CXCL9の測定値が閾値以上であるとき、処理はステップS204に進行する。ステップS204において、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。ステップS203において、CXCL9の測定値が閾値より低いとき、処理はステップS205に進行する。ステップS205において、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。ステップS206において、CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。この例では、CXCL9の測定値に替えて、CCL3又はIL-18の測定値を取得してもよい。このように、本実施形態の取得装置は、呼吸器感染症に関する情報として、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの判定結果を医師などに提供できる。
【0122】
以下では、CXCL9に対応する所定の閾値を「第1の閾値」と呼び、CCL3に対応する所定の閾値を「第2の閾値」と呼び、IL-18に対応する所定の閾値を「第3の閾値」と呼ぶ。
【0123】
図4Cを参照して、2つのバイオマーカーの測定値に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定する場合のフローについて説明する。ステップS301において、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得する。ステップS302において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL9及びCCL3の測定値を算出し、測定結果としてCXCL9及びCCL3の測定値を取得する。CPU310は、当該測定値をSSD313に記憶する。ステップS303において、CPU310は、算出したCXCL9の測定値と、SSD313に記憶された第1の閾値とを比較する。CXCL9の測定値が第1の閾値より低いとき、処理はステップS304に進行する。ステップS304において、算出したCCL3の測定値と、SSD313に記憶された第2の閾値とを比較する。CCL3の測定値が第2の閾値より低いとき、処理はステップS305に進行する。ステップS305において、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。
【0124】
ステップS303において、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるとき、処理はステップS306に進行する。ステップS304において、CCL3の測定値が第2の閾値以上であるとき、処理はステップS306に進行する。ステップS306において、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。ステップS307において、CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。この例では、ステップS303及びステップS304の処理は順序を入れ替えることができる。この例では、CXCL9又はCCL3の測定値に替えて、IL-18の測定値を取得してもよい。IL-18の測定値を取得する場合、CPU310は、CCL3の測定値と第3の閾値とを比較する。
【0125】
別の実施形態では、取得装置は、2つのバイオマーカーの測定値の両方が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定してもよい。この場合のフローについて説明する。CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得し、取得した光学的情報からCXCL9及びCCL3の測定値を算出してSSD313に記憶する。CPU310は、CXCL9の測定値と第1の閾値とを比較する。CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるとき、CPU310は、CCL3の測定値と第2の閾値とを比較する。CCL3の測定値が第2の閾値以上であるとき、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。CXCL9の測定値が第1の閾値より低いとき、又は、CCL3の測定値が第2の閾値より低いとき、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。この例では、CXCL9又はCCL3の測定値に替えて、IL-18の測定値を取得してもよい。IL-18の測定値を取得する場合、CPU310は、CCL3の測定値と第3の閾値とを比較する。
【0126】
図4Dを参照して、CXCL9、CCL3及びIL-18の測定値に基づいて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定する場合のフローについて説明する。ステップS401において、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得する。ステップS402において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を算出し、測定結果としてCXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を取得する。CPU310は、当該測定値をSSD313に記憶する。ステップS403において、CPU310は、算出したCXCL9の測定値と、SSD313に記憶された第1の閾値とを比較する。CXCL9の測定値が第1の閾値より低いとき、処理はステップS404に進行する。ステップS404において、算出したCCL3の測定値と、SSD313に記憶された第2の閾値とを比較する。CCL3の測定値が第2の閾値より低いとき、処理はステップS405に進行する。ステップS405において、算出したIL-18の測定値と、SSD313に記憶された第3の閾値とを比較する。IL-18の測定値が第3の閾値より低いとき、処理はステップS406に進行する。ステップS406において、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。
【0127】
ステップS403において、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるとき、処理はステップS407に進行する。ステップS404において、CCL3の測定値が第2の閾値以上であるとき、処理はステップS407に進行する。ステップS405において、IL-18の測定値が第3の閾値以上であるとき、処理はステップS407に進行する。ステップS407において、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。ステップS408において、CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。この例では、ステップS403、ステップS404及びステップS405の処理は順序を入れ替えることができる。
【0128】
別の実施形態では、取得装置は、CXCL9、CCL3及びIL-18の測定値の全てが、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上である場合、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いと判定してもよい。この場合のフローについて説明する。CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得し、取得した光学的情報からCXCL9、CCL3及びIL-18の測定値を算出してSSD313に記憶する。CPU310は、CXCL9の測定値と第1の閾値とを比較する。CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるとき、CPU310は、CCL3の測定値と第2の閾値とを比較する。CCL3の測定値が第2の閾値以上であるとき、CPU310は、IL-18の測定値と第3の閾値とを比較する。IL-18の測定値が第3の閾値以上であるとき、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。CXCL9の測定値が第1の閾値より低いとき、CCL3の測定値が第2の閾値より低いとき、又は、IL-18の測定値が第3の閾値より低いとき、CPU310は、急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。
【0129】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「HISCL」はシスメックス株式会社の登録商標である。
【実施例】
【0130】
実施例1
呼吸器感染症患者から採取された検体を用いて、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクが高い患者を弁別可能なバイオマーカーを同定した。また、呼吸器感染症患者の入院期間中、バイオマーカーの測定値をモニタリングした。
【0131】
(1) 被検者及び検体
被検者は、PCR検査によりSARS-CoV-2の感染が確認され、神戸市立医療センター中央市民病院に入院した56名のCOVID-19患者であった。入院した日から3日以内に各被検者から血液を採取した。その後も複数の時点において、各被検者から血液を採取した。得られた血液を検体として用いた。各被検者について、急性腎障害が生じているか否かは、KDIGOの診断基準に基づいて診断した。また、肺の線維化が生じているか否かは、胸部CT検査により診断した。入院期間中に急性腎障害が認められた被検者は16名であった。そのうち、入院した日において既に急性腎障害が生じていた被検者は8名であり、残りの8名は、最初に採血した日より後に急性腎障害を生じた。入院期間中に肺の線維化が認められた被検者は28名であった。そのうち、14名は、PCR検査によりSARS-CoV-2の感染が陰性と判定された後も肺の線維化が残存し、残りの14名は肺の線維化は残存しなかった。なお、急性腎障害が認められた被検者の人数と肺の線維化が認められた被検者の人数のそれぞれには、急性腎障害と肺の線維化の両方が認められた被検者の人数が含まれる。
【0132】
(2) バイオマーカーの測定
(2.1) 血清中のタンパク質マーカーの測定
各被検者から最初に採取した血液から血清を調製した。各被検者の血清中のIL-6、IL-10、IL-18、CXCL9、CCL3、CCL17、VEGF、SP-A、KL-6、NT-pro-BNP及びP-SEPの濃度を、全自動免疫測定装置HISCL-5000(シスメックス株式会社)により測定した。HISCL-5000による測定は、各マーカーに特異的に結合する捕捉用抗体及び検出用抗体と、固相としての磁性粒子とを用いるサンドイッチELISA法による測定であった。例えば、CXCL9は、下記のR1~R5試薬を用いて測定した。残りのマーカーも、捕捉用抗体及び検出用抗体を替えたこと以外は、CXCL9の測定と同様にして測定した。
【0133】
・R1試薬
抗MIGモノクローナル抗体(RANDOX社)を慣用の手法によりペプシンなどで消化して、Fabフラグメントを得た。Fabフラグメントを慣用の手法によりビオチンで標識して、1%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.5%カゼイン含有バッファーに溶解して、R1試薬を得た。
【0134】
・R2試薬
表面にストレプトアビジンが固定された磁性粒子(以下、「STA結合磁性粒子」ともいう。平均粒子径2μm。磁性粒子1gあたりのストレプトアビジン量は2.9~3.5 mg)を、10 mM HEPES緩衝液(pH 7.5)で3回洗浄した。洗浄後のSTA結合磁性粒子を、ストレプトアビジン濃度が18~22μg/ml(STA結合磁性粒子の濃度が0.48~0.52 mg/ml)となるように10 mM HEPES(pH 7.5)に添加して、R2試薬を得た。
【0135】
・R3試薬
抗MIGモノクローナル抗体(RANDOX社)を慣用の手法によりペプシンなどで消化して、Fabフラグメントを得た。Fabフラグメントを慣用の手法によりALPで標識して、1%BSA及び0.5%カゼイン含有バッファーに溶解して、R3試薬を得た。
【0136】
・R4試薬及びR5試薬
R4試薬として、測定用緩衝液であるHISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R5試薬として、ALPの化学発光基質であるCDP-Star(登録商標)(アプライドバイオシステムズ社)を含むHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。
【0137】
HISCL-5000による測定手順は、次のとおりであった。血清(20μL)とR1試薬(50μL)とを混合した後、R2試薬(30μL)を添加した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR3試薬(100μL)を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR4試薬(50μL)及びR5試薬(100μL)を添加して、化学発光強度を測定した。キャリブレータとして、組換え型CXCL9を含む緩衝液を用いた。キャリブレータを、血清と同様に測定して検量線を作成した。各血清の測定で得られた化学発光強度を検量線に当てはめて、CXCL9の濃度を決定した。
【0138】
(2.2) 血液中のマーカーの測定
各被検者から最初に採取した血液中のCRP、LD及び血球数(リンパ球及び好中球)は、常法により測定され、それらの測定結果は診療記録に記載された。本実施例では、これらのマーカーの測定値を各被検者の診療記録から取得した。
【0139】
(3) クラスター解析
56名の被検者を、教師なし階層的クラスター解析により、炎症に関連する8つのマーカー(CCL17、VEGF、IL-6、CRP、IL-10、IL-18、CXCL9及びCCL3)の濃度に基づいて分類した。クラスター解析は、Cluster 3.0(東京大学)を用いて、ユークリッド距離に基づく完全連結法により行った。結果を
図5に示す。
図5に示されるように、被検者は、I、II、III及びIVの4つのクラスターに層別化された。クラスターIは、CCL17濃度のみが高い群であり、クラスターIIは、上記8つのマーカーの濃度が全体的に低い群であり、クラスターIIIは、CRP、IL-6及びVEGFの濃度が高い群であり、クラスターIVは、CXCL9、CCL3、IL-18、IL-10、CRP、IL-6及びVEGFの濃度が高い群であった。
【0140】
各クラスターにおける急性腎障害又は肺の線維化が生じた被検者の割合を調べた。結果を
図6A及びBに示す。
図6Aにおいて、「Non AKI」は、急性腎障害が生じなかった被検者であり、「PreAKI」は、入院後に急性腎障害が生じた被検者であり、「AKI」は、入院した日において既に急性腎障害が生じていた被検者である。
図6Bにおいて、「Non Fibrosis」は、肺の線維化が生じなかった被検者であり、「Fibrosis」は、肺の線維化が生じた被検者である。
図6Aに示されるように、クラスターIVには、他のクラスターに比べて、急性腎障害が生じた被検者が顕著に多く含まれていた。また、
図6Bに示されるように、クラスターIVには、他のクラスターに比べて、肺の線維化が生じた被検者が顕著に多く含まれていた。
【0141】
急性腎障害が生じた被検者及び生じなかった被検者を、クラスターIVとクラスターIV以外(クラスターI~III)とに分類した。また、肺の線維化が生じた被検者に関して、SARS-CoV-2の感染が陰性と判定された後も肺の線維化が残存した被検者及び肺の線維化が残存しなかった被検者を、クラスターIVとクラスターIV以外とに分類した。この分類に基づいて、COVID-19による急性腎障害が生じるリスクを判定した場合の感度、特異度、PPV及びNPVを算出した。結果を表1及び2に示す。同様にして、COVID-19による肺の線維化が残存するリスクを判定した場合の感度、特異度、PPV及びNPVを算出した。結果を表3に示す。表1~3に示されるP値は、フィッシャーの正確検定に基づいて算出した。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
表1~3に示される結果から、クラスターIVに属する被検者は、クラスターIV以外に属する被検者に比べて、呼吸器感染症による急性腎障害が生じるリスク及び肺の線維化が残存するリスクが高いことが示唆された。よって、クラスターIVと、クラスターIV以外(特にクラスターIII)とを弁別可能なバイオマーカーは、呼吸器感染症による急性腎障害及び肺の線維化が生じるリスクの判定に有用であることが示唆された。
【0146】
(4) クラスター間のバイオマーカーの測定値の比較
クラスターI~IVにおける各バイオマーカーの濃度を
図7に示した。図中、「Lym」はリンパ球を示し、「Neut」は好中球を示す。15種のマーカーのうち、IL-18、CCL3及びCXCL9は、
図7のF、G及びHに示されるように、クラスターI~IIIに比べてクラスターIVにおいて有意に高値であった。この結果より、CXCL9、CCL3及びIL-18は、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクを判定するためのバイオマーカーになり得ることが示唆された。
【0147】
図7のC及びDに示されるように、IL-6及びCRPは、クラスターI及びIIに比べてクラスターIII及びIVにおいて有意に高値であった。一方で、IL-6及びCRPの測定値は、クラスターIII及びIVの間に有意な差は認められなかった。この結果より、IL-6及びCRPは、CXCL9、CCL3及びIL-18と組み合わせて用いることで、呼吸器感染症による急性腎障害又は肺の線維化が生じるリスクの判定に有用であることが示唆された。
【0148】
(5) バイオマーカーの測定値のモニタリング
入院期間中の複数の時点で各被検者から採取した血液から血清を調製し、6種のバイオマーカー(CXCL9、CCL3、IL-18、IL-6、CRP及びLD)を測定した。急性腎障害が生じなかった被検者(Non AKI)、入院後に急性腎障害が生じた被検者(PreAKI)及び入院した日において既に急性腎障害が生じていた被検者(AKI)の各バイオマーカーの測定値をプロットして、グラフを作成した。結果を
図8A~Fに示す。また、SARS-CoV-2感染の陰性が確認された後に肺の線維化が残存しなかった被検者(Non Fibrosis)及び肺の線維化が残存した被検者(Fibrosis)の各バイオマーカーの測定値をプロットして、グラフを作成した。結果を
図9A~Fに示す。なお、PreAK及びAKIの被検者のうち、入院した日の血清クレアチニン値が基準値より高い被検者は、クレアチニン高値に分類し、入院した日の血清クレアチニン値が基準値以下の被検者は、クレアチニン正常に分類した。
【0149】
図8A~Cに示されるように、PreAK及びAKIの被検者のCXCL9、CCL3及びIL-18の測定値は、血清クレアチニン値が高値であるか又は正常であるかにかかわらず、入院期間中、Non AKIの被検者よりも高い傾向にあった。一方、
図8D~Fに示されるように、PreAK及びAKIの被検者のIL-6、CRP及びLDの測定値は、血清クレアチニン値が高値であっても、日数の経過とともに低下していく傾向にあった。
【0150】
図9A~Cに示されるように、肺の線維化が残存した被検者(Fibrosis)のCXCL9、CCL3及びIL-18の測定値は、入院期間中、肺の線維化が残存しなかった被検者(Non Fibrosis)よりも高い傾向にあった。一方、
図9D~Fに示されるように、IL-6、CRP及びLDの測定値は、肺の線維化が残存した被検者(Fibrosis)と、肺の線維化が残存しなかった被検者(Non Fibrosis)との間で大きな差は認められなかった。
【符号の説明】
【0151】
11、21、31: 試薬キット
12、22、32: 第1容器
23、33: 第2容器
34: 第3容器
35: 第4容器
13、24、36: 梱包箱
14、25、37: 添付文書
10: 取得装置
20: 免疫測定装置
30: コンピュータシステム
40: 記録媒体
300: コンピュータ本体
301: 入力部
302: 表示部
310: CPU
311: ROM
312: RAM
313: SSD
314: 入出力インターフェイス
315: 読取装置
316: 通信インターフェイス
317: 画像出力インターフェイス
318: バス