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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20241001BHJP
   C04B 41/65 20060101ALI20241001BHJP
   C04B 41/68 20060101ALI20241001BHJP
   C04B 41/70 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
E04G23/02 A
C04B41/65
C04B41/68
C04B41/70
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020192700
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081262
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏夫
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】横山 祐三
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-235444(JP,A)
【文献】特開2017-014081(JP,A)
【文献】特開2019-124053(JP,A)
【文献】特開2014-201929(JP,A)
【文献】特開2016-188156(JP,A)
【文献】特開平11-193638(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109336531(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00-23/08
E01D 1/00-24/00
C04B 41/00-41/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補修を行うコンクリートの表面にカルシウムを含む溶液を塗布する第1塗布工程と、
塗布された前記カルシウムを含む溶液を乾燥する第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程の後に、珪酸塩水溶液を含有する組成物を前記コンクリートの表面に塗布する第2塗布工程と、
塗布された前記組成物を乾燥する第2乾燥工程と、
珪酸塩水溶液およびポゾラン活性物質を含む組成物を積層体に塗布又は含浸させた補修材料を、前記第2乾燥工程後の前記コンクリートの表面に貼り付ける貼り付け工程と、
前記貼り付け工程後、前記補修材料を硬化させる硬化工程と、
を備えるコンクリート構造物の補修方法。
【請求項2】
前記第2塗布工程における前記珪酸塩水溶液および前記貼り付け工程における前記珪酸塩水溶液は、珪酸ナトリウム水溶液である、
請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
前記カルシウムを含む溶液は、硝酸カルシウム水溶液である、
請求項1または2に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
前記積層体は、
マルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせたシート状の第一層と、
ポリプロピレンスパンボンド不織布から形成されたシート状の第二層と、を有し、
前記コンクリートの表面側から前記第一層および前記第二層の順に配置される、
請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
前記積層体は、前記第一層の前記コンクリートの表面側に配置されたガラス不織布で形成されたシート状の第三層を更に備えた、
請求項4に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】
前記第1塗布工程の前に、前記コンクリートの表面をケレン処理するケレン工程を更に備えた、
請求項1~5のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、高強度で施工性に優れ、安価であるというメリットがあるため、日本では高度成長期を中心に多くのコンクリート構造物が作られてきた。コンクリート構造物は、耐久性に優れるが、長年の使用で大気中の二酸化炭素が水分とともに浸透することによって中性化が引き起こされたり、海風や凍結防止剤の飛沫に含まれる塩化物イオンが浸透することによって腐食膨張したりしてヒビ割れが生じることもある。
【0003】
このようなコンクリート構造物を補修する方法が、例えば、特許文献1~3に開示されている。
【0004】
図4は、特許文献1~3に開示されたコンクリート構造物の補修方法を示す斜視図である。図4では、二層以上のシート状部材を積層した積層体に硬化性液状成分が含浸された補修材料1010がコンクリート構造物100に接着された状態が示されている。また、特許文献3には、硬化性液状成分が積層体に含浸された補修材料をコンクリート構造物に密着させた状態で改質剤水溶液を塗布し補修する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6641106号公報
【文献】特開2017-186825号公報
【文献】特開2019-206896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来のコンクリート構造物の補修方法では、コンクリート構造物に対するシートの付着性に改善の余地があった。
【0007】
本開示は、かかる問題点を解決するためになされたもので、コンクリート構造物の表面への補修材料の付着性を向上可能なコンクリート構造物の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の開示のコンクリート構造物の補修方法は、第1塗布工程と、第1乾燥工程と、第2塗布工程と、第2乾燥工程と、貼り付け工程と、硬化工程と、を備える。第1塗布工程は、補修を行うコンリートの表面にカルシウムを含む溶液を塗布する。第1乾燥工程は、塗布されたカルシウムを含む溶液を乾燥する。第2塗布工程は、第1乾燥工程の後に、珪酸塩水溶液を含有する組成物をコンクリートの表面に塗布する。第2乾燥工程は、塗布された組成物を乾燥する。貼り付け工程は、珪酸塩水溶液およびポゾラン活性物質を含む組成物を積層体に塗布又は含浸させた補修材料を、第2乾燥工程後のコンクリートの表面に貼り付ける。硬化工程は、貼り付け工程後、補修材料を硬化させる。
【0009】
劣化したコンクリートではカルシウムが溶出している場合が多いため、補修材料をコンクリートの表面に貼り付けただけでは補修材料の組成物のコンクリート表面における硬化が低減し、接着性が弱くなることがある。
【0010】
本開示のコンクリート構造物の補修方法では、補修材料をコンクリートの表面に貼り付ける前に、1つ目のプライマーとしてカルシウムを含む溶液を塗布して乾燥させ、2つ目のプライマーとしての珪酸塩水溶液を含有する組成物をコンクリートの表面に塗布して乾燥させている。
【0011】
これにより、珪酸塩水溶液を勧誘する組成物がカルシウムを含む溶液と反応して徐々に硬化が進行するために、貼り付けた補正材料の接着性を向上することができ、劣化したコンクリート構造物に対しても補修材料を剥がれにくくすることができる。
【0012】
また、補修材料を貼り付ける下地を形成するプライマー(カルシウムを含む溶液と珪酸塩水溶液を含有する組成物)が無機系であるため、不燃性を有し、補修材料の不燃性能を妨げない。さらに、カルシウムを含む溶液と珪酸塩水溶液を含有する組成物が無機系であるため、膜等を形成せず補修材料の透湿性能を妨げない。
【0013】
第2の開示のコンクリート構造物の補修方法は、第1の開示のコンクリート構造物の補修方法であって、第2塗布工程における珪酸塩水溶液および貼り付け工程における珪酸塩水溶液は、珪酸ナトリウム水溶液である。
【0014】
これにより、いわゆる水ガラスをプライマーおよび硬化剤として用いることができる。
【0015】
第3の開示のコンクリート構造物の補修方法は、第1または第2の開示のコンクリート構造物の補修方法であって、カルシウムを含む溶液は、硝酸カルシウム水溶液である。
【0016】
硝酸カルシウムは溶解度が高いため、溶液のカルシウム濃度を濃くすることができ、珪酸塩水溶液を含有する組成物との反応による硬化が促進され、補修材料の付着性を向上することができる。
【0017】
第4の開示のコンクリート構造物の補修方法は、第1~第3のいずれかの開示のコンクリート構造物の補修方法であって、積層体は、第一層と、第二層と、を有する。第一層は、マルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせたシート状である。第二層は、ポリプロピレンスパンボンド不織布から形成されたシート状である。コンクリートの表面側から第一層および第二層の順に配置される。
【0018】
これにより、積層体に珪酸塩水溶液およびポゾラン活性物質を含む組成物を塗布・含浸させてコンクリート構造物に貼り付けることによって補修を行うことができる。
【0019】
第5の開示のコンクリート構造物の補修方法は、第4の開示のコンクリート構造物の補修方法であって、積層体は、第三層を更に備える。第三層は、第一層のコンクリートの表面側に配置されたガラス不織布で形成されたシート状である。
【0020】
これによって、補修材料の強度とコンクリートへの密着性を両立することができる。
【0021】
第6の開示のコンクリート構造物の補修方法は、第1~第5のいずれかの開示のコンクリート構造物の補修方法であって、ケレン工程を更に備える。ケレン工程は、第1塗布工程の前に、コンクリートの表面をケレン処理する。
【0022】
これにより、補修材料の付着性をより向上することができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、コンクリート構造物の表面への補修材料の付着性を向上可能なコンクリート構造物の補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示にかかる実施の形態における補修材料(三層構造)を用いてコンクリート構造物を補修した状態を示す図。
図2】本開示にかかる実施の形態における補修材料(二層構造)を用いてコンクリート構造物を補修した状態を示す図。
図3】本開示にかかる実施の形態におけるコンクリート構造物の補修方法を示すフロー図。
図4】従来のコンクリート構造物の補修方法を用いてコンクリート構造物を補修した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本開示にかかるコンクリート構造物の補修方法について説明する。
(補修材料10、10´)
図1に示すように、本開示の補修材料10は、コンクリート構造物100の補修するために用いられる。補修材料10は、液状の硬化性組成物と、少なくとも2層のシート状部材を積層した積層体4と、を備える。積層体4と硬化性組成物は、別個に存在させてもよいが、補修の際に後述するように硬化性組成物を積層体4に含浸させた状態とする。
【0026】
図1に示すように、補修材料10を貼り付けるコンクリート構造物100の表面100sには、含浸材層5が形成されている。含浸材層5は、後述するプライマーをコンクリート構造物100に含浸させることによって形成される。含浸材層5を設けることによって補修材料10の付着強度を向上することができる。
【0027】
図1に示すように、コンクリート構造物100の表面100sのうち含浸材層5が形成された部分に補修材料10を貼り付けることによって、補修材料10の硬化性組成物がコンクリート構造物100の表面に塗布含浸される。そして、硬化性組成物が硬化またはコンクリート構造物と結合することによって補修材料10によってコンクリート構造物100を補修することができる。
【0028】
(積層体4、4´)
補修材料10の積層体4は、二層以上のシート状部材を積層して構成される。
【0029】
例えば、図1に示す補修材料10の積層体4は、コンクリート構造物100に形成された含浸材層5上に配置された第三層3と、第三層3上に配置された第一層1と、第一層1上に配置された第二層2と、を備える。第三層3、第一層1および第二層2は、コンクリート構造物100側からこの順に積層されている。
【0030】
また、図1に示す補修材料10に限らず、図2に示す補修材料10´のような構成であってもよい。補修材料10´の積層体4´は、コンクリート構造物100の含浸材層5上に配置された第一層1と、第一層1上に配置された第二層2と、を備える。第一層1および第二層2は、コンクリート構造物100側からこの順に配置されている。
【0031】
(第一層1)
第一層1は、マルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせたシート状部材であることが好ましい。マルチフィラメントは、長繊維を利用して構成されたものが好ましく、引張強度150N以上のものが好ましい。マルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせたシート状部材の式(1)で表される値Xは2.0以上であることが好ましく、2.5以上、2.8以上又は3.0以上であることがより好ましい。
【0032】
X=A×B・・・・・(1)
ここで、Aは上記シート状部材の1方向の引張強度kN/50mmを表し、Bは上記シート状部材の軸数を表す。Aは、マルチフィラメントの50mm当たりの本数を変えることにより任意の値をとることができる。Bは、2~4の範囲を有するものが挙げられる。なかでも、Aは、0.75kN以上であることが好ましく、Bは2~3であるものが好ましい。
【0033】
本構成により第一層1は、コンクリート構造物から落下するコンクリート片を受け止める耐力層としての機能を満たすことができる。
【0034】
第一層1の材質としてはポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン、アラミド、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。なかでも、ビニロンメッシュシート又はガラスメッシュシートからなることが好ましい。ガラス長繊維は、ガラスヤーン又はロービングを用いることが好ましい。ガラスヤーンは、ガラス繊維に撚りをかけて合撚糸としたものであり、ロービングは、ガラス繊維を集束したものである。多軸メッシュの織り方は、平織り、綾織り、絡み織り、組布等が挙げられる。また多軸メッシュの織り方の方向は、直交する二軸、もしくは、それ以上の多軸織物であってもよい。
【0035】
第一層1の厚みは、0.1mm以上1.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以上1mm以下である。
【0036】
第一層1は、50g/mm2以上の目付量であることが好ましく、60g/mm2以上であることがより好ましく、さらに好ましくは75g/mm2以上である。
【0037】
このような目付量の範囲とすることにより、引張強度を向上させて、コンクリート片剥落時に破断を生じさせることなく、補修材料10、10´の十分な耐力を確保することができる。
【0038】
第一層1は、5mm以上25mm以下の目開きの二軸織物であることが好ましい。目開きをこの範囲とすることにより、後述する第二層2とコンクリート構造物100との間または第二層2と第三層3との間の接着力を向上させ、補修材料10、10´の十分な強度を確保することができる。また、第一層1の単位面積あたりの長繊維本数を適度な数として、第一層1が第二層2を破り出てくる際の抵抗力を高め、補修材料10、10´の十分な強度を確保することができる。
【0039】
第一層1は、5mm以上25mm以下の目開きで、50g/mm2以上の目付量の二軸織物であることがより好ましい。また、二軸織物と同等の開口率の多軸織物であってもよい。特に、第一層1は、引張強度150N以上のマルチフィラメントを、目開き5mm~25mmで組み合わせた二軸又は三軸メッシュのシート状部材であることがより好ましい。
【0040】
(第二層2)
第二層2は、透液性のシート状部材であることが好ましい。該透液性シート状部材の引裂強度は2.0N以上であることが好ましい。引裂強度を2.0N以上とすることにより、第二層2は、第一層1が第二層2を破り出てくる際の抵抗力を高める補強層としての機能を満たすことができる。
【0041】
第二層2の形状としては、織布、不織布等が挙げられる。第二層2の材質としてはポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン、アラミド、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。なかでも、ポリプロピレン不織布又はガラス不織布で構成されることが好ましく、特に、長繊維不織布であることがより好ましい。ガラス不織布は、硬化性組成物との相溶性に優れるため、硬化性組成物が浸透しやすく、硬化性組成物を硬化させたときに補修材料10、10´をコンクリート構造物100に強固に固着させることができる。好適なガラス不織布として、チョップドストランドマット、ガラスペーパー、フェルト等が挙げられる。
【0042】
ポリプロピレン不織布を用いる場合は、硬化性組成物との相溶性を高めるため、繊維に親水化処理を行うこともできる。親水化処理は、当該分野で公知の方法のいずれを利用してもよい。
【0043】
第二層2の厚みは、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.15mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。このような厚みの範囲とすることにより、第一層1が第二層2を破り出てくる際の抵抗力を高める補強層としての機能を満たすとともに、硬化性組成物の積層体4、4´への含浸量を抑えることができ、経済的にも有利である。
【0044】
第二層2は、30g/mm2以上の目付量であることが好ましく、50g/mm2以上であることがより好ましく、60g/mm2以上であることがさらに好ましい。このような目付量の範囲とすることにより、引張強度を向上させて、コンクリート片剥落時に破断を生じさせることなく、補修材料10、10´の十分な耐力を確保することができる。
【0045】
第二層2は、3mm以上30mm以下の目開きの二軸織物であることが好ましい。目開きをこの範囲とすることにより、後述する第三層3との接着力を向上させ、補修材料10、10´の十分な強度を確保することができる。また、第一層1の単位面積当たりの長繊維本数を適度な数として、第一層1が第二層2を破り出てくる際の抵抗力を高め、補修材料10、10´の十分な強度を確保することができる。
【0046】
第二層2は、引張強度10N以上のマルチフィラメントであることが好ましく、二軸又は三軸メッシュのシート状部材であることがより好ましい。また、引裂強度2.0N以上のシート状部材であることが好ましい。
【0047】
補修材料10、10´が、第一層1と第二層2との二層構造又はそれ以上の積層構造の場合、第一層1はマルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせたシート状部材であり、第二層2が引裂強度2.0N以上のシート状部材であることが好ましい。さらに、補修材料10、10´では第一層1が引張強度150N以上のマルチフィラメントを目開き5mm~25mmで多軸メッシュ状に組み合わせたシート状部材であり、第二層2が引裂強度2.0N以上のシート状部材であることが好ましい。
【0048】
(第三層3)
第三層3は、気孔率が90%以上かつ透液性のシート状部材であることが好ましい。これにより、硬化性組成物の含浸性を確保することができるため、補修材料10とコンクリート構造物100の接着強度を向上させる接着層としての機能を満たすことができる。
【0049】
第三層3の形状としては不織布が挙げられる。材質としてはポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン、アラミド、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられ、ポリプロピレン不織布又はガラス不織布で構成されることが好ましい。ガラス不織布は、硬化性組成物との相溶性に優れるため、硬化性組成物が浸透しやすく、硬化性組成物を硬化させたときに補修材料10をコンクリート構造物に強固に固着させることができる。好適なガラス不織布として、チョップドストランドマット、ガラスペーパー、フェルト等が挙げられる。
【0050】
ポリプロピレン不織布を用いる場合は、硬化性組成物との相溶性を高めるため、繊維表面に表面処理を行うことが好ましい。
【0051】
第三層3の厚みは、0.1mm以上1.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mm以上0.8mm以下である。第三層3の厚みが0.1mm以上であることにより、補修材料10とコンクリート構造物の接着強度が確保され、1.5mm以下であることにより、硬化性組成物の積層体4、4´への含浸量を抑えることができ経済的に有利である。
【0052】
積層体4として、例えば、第三層3としてガラス不織布を用い、第一層1として3軸ビニロンメッシュを用い、第二層2としてポリプロピレンスパンボンド不織布を用いることができる。
【0053】
(積層一体化)
少なくとも二層のシート状部材を積層して構成される補修材料10、10´は、硬化性組成物を含浸することにより一体化してもよいが、予め一体化させておくことが好ましい。一体化させておくことにより、塗布含浸時の各シート部材のズレを防ぐことができる。
【0054】
一体化の方法は、機械的な繊維交絡、化学的な接着等を利用することができ、例えば、縮絨、ニードルパンチ、ケミカルボンド、サーマルボンド、水流交絡等が挙げられる。
【0055】
図1においては補修材料10が三層構造の場合を示しているが、補修材料が四層以上であってもよい。四層以上の場合においても、第二層2はコンクリート構造物100と接する側から数えて第一層1よりも外側の層に配置されることが好ましい。このような積層構造により、補修材料10の強度とコンクリート構造物への密着性を両立することができる。なお、積層体4の最多積層数は特に限定されない。
【0056】
(硬化性組成物)
硬化性組成物(組成物の一例)は、積層体4、4´に塗布及び/又は含浸されるものである。硬化性組成物を積層体4、4´に塗布及び/又は含浸させた上で、硬化性組成物を硬化させることにより、コンクリート構造物100と補修材料10、10´とを接着することができる。例えば、硬化性組成物は、液状であるものが挙げられる。補修材料10、10´を接着することにより、コンクリート構造物100の劣化部分からのコンクリート片の剥落を防止することができる。
【0057】
硬化性組成物は、珪酸塩水溶液とホゾラン活性物質を含む。珪酸塩水溶液は、例えば、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の水溶液である。このように、珪酸塩水溶液とホゾラン活性物質を含む組成物を、以下「ジオポリマー」という場合がある。硬化性組成物は、通常、液状の組成物として調整されている。
【0058】
このように、硬化性組成物に無機系材料を用いることによって、コンクリート構造物100の耐火性能を損なわずに確保することができる。
【0059】
ジオポリマーでは、珪酸塩水溶液からなる液体成分とポゾラン活性物質からなる固体成分の比重差が、セメントスラリーに含まれる水とセメントの比重差に比べて小さいため、硬化性組成物における成分の分離を抑制することができる。
【0060】
また、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムは、コンクリート構造物100の表面100sに塗布及び/又は含浸されたときに、コンクリート中の水酸化カルシウムとC-S-Hゲルを生成することができるため、補修材料10、10´とコンクリート構造物100の接着強度をより強固にすることができる。
【0061】
このような硬化性組成物は、25℃での粘度が400~3000mPa・sであるものが好ましい。このような粘度とすることにより、積層体4、4´への含浸性を確保することができる。また、コンクリート構造物100に貼着した際の硬化性組成物の液だれを防止することができる。
【0062】
特に、ジオポリマーを用いる場合、ポゾラン活性物質は、電気伝導率差0.4mS/cm以上であるものが好ましく、0.5mS/cm以上、0.6、0mS/cm以上又は7mS/cm以上であるものがより好ましく、0.8mS/cm以上、1.0mS/cm以上、1.2mS/cm以上であるものがさらに好ましい。
【0063】
このような電気伝導率差とすることにより、珪酸塩水溶液との反応性を十分に確保でき、補修材料10、10´とコンクリート構造物100との接着強度を高めることができる。ここでの電気伝導率差は、アルカリ物質により誘発されるポゾラン活性物質の反応性に関連する指標であり、飽和水酸化カルシウム水溶液のポゾラン活性物質投入前後の電気伝導率の差を意味する。電気伝導率差は、次のように求められる。ポゾラン活性物質について『Cement Concrete Research, Vol.19, pp.63-68, 1989』に従い、40±1℃の条件で、Ca(OH)飽和水溶液200mlの電気伝導率を測定する。続いてメタカオリン5gを投入し、攪拌して2分後の電気伝導率を測定し、投入前の電気伝導率との差を電気伝導率差とする。
【0064】
ポゾラン活性物質とは、水と酸化カルシウム、水酸化カルシウム又は水酸化アルミニウム等とが反応して硬化する物質である。ポゾラン活性物質は、例えば、シリカダスト、珪藻土、タルク、アエロジル、ホワイトカーボン、カオリン、メタカオリン、活性白土、酸性白土等が挙げられる。なかでも、メタカオリンが好ましい。
【0065】
ポゾラン活性物質は、通常、ポゾラン活性物質中のシリカ成分をSiO換算した場合のシリカ成分含有量が40重量%以上であるもの又はアルミナ成分をAl換算した場合のアルミナ成分含有量が30重量%以上であるものが好ましい。
【0066】
ポゾラン活性物質は、通常、塊又は粉末状であるが、ポゾラン活性物質は塊状又は粉末状のものをそのまま用いてもよい。また、活性化させるために、溶射処理、粉砕分級、機械的エネルギーの作用等の方法を用いて、その状態を変化させたものを用いてもよい。
【0067】
溶射処理する方法としては、セラミックコーティングに適用される溶射技術が応用される。溶射技術は、例えば、プラズマ溶射法、高エネルギーガス溶射法、アーク溶射法等が挙げられる。好ましくは、材料粉末を2000~16000℃の温度で溶融し、30~800m/秒の速度で噴霧し、比表面積が0.1~100m/gの粉末とすることが好ましい。
【0068】
粉砕分級する方法としては公知の任意の方法が採用できる。粉砕は、ジェットミル、ロールミル、ボールミル等を用いる方法が挙げられる。また、分級は、篩、比重、風力、湿式沈降等を用いる方法が挙げられる。これらの手段は任意に併用することができる。
【0069】
機械的エネルギーを作用させる方法としては、ボール媒体ミル、媒体撹拌型ミル、ローラミル等を用いる方法が挙げられる。作用させる機械的エネルギーは、適度に活性化しつつ、負荷を最小限とするために、0.5kwh/kg~30kwh/kgが好ましい。
【0070】
硬化性組成物、例えば、ジオポリマーにおける珪酸塩水溶液に由来するナトリウム、カリウム、リチウム又はこれらの混合物は、その合計含有率が、硬化性組成物から得られる硬化物の乾燥固形分に対し、MO(Mはナトリウム、カリウム及びリチウム)に換算して、5~30重量%であることが好ましく、10~30重量%であることがより好ましい。また、ポゾラン活性物質に由来するアルミニウムの含有率は、硬化物の乾燥固形分に対し、Alに換算して、20~40重量%であることが好ましく、25~35重量%であることがより好ましい。
【0071】
さらに、硬化性組成物は、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の水溶液の下記数式で表される数値nが0.4~1.1であるものが好ましく、0.5~1.1であるものがより好ましく、0.5~1.0であるものがさらに好ましい。
【0072】
n=S/M
(S:水溶液に含まれるケイ素のモル数、M:水溶液に含まれるアルカリ金属のモル数)
【0073】
(硬化性組成物の他の成分)
硬化性組成物は、上記成分に加えて、当該分野で公知の添加剤を含んでいてもよい。例えば、フィラー、改質剤、分散剤、硬化時間調整剤、顔料、酸化防止剤、ポリマーエマルション等が挙げられる。これらは特に限定されず、公知のものを利用することができる。フィラーとしては、一般に充填剤として使用されるもののいずれであってもよい。
【0074】
例えば、カーボン、セルロース、鉱物質微粉末、合成された無機質結晶粉末などが挙げられる。改質剤としては珪酸塩水溶液と反応することができる各種金属塩が挙げられ、例えば軽焼酸化マグネシウム、亜鉛華等が挙げられる。ポリマーエマルションとしては、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0075】
これらの添加剤は、硬化性組成物の意図する作用を損なわない範囲において、任意の含有量で用いることができる。特に、ポリマーエマルションは、硬化性組成物の乾燥固形分の全重量に対して、ポリマーの固形分重量が3~10重量%となるように配合されていることが好ましい。これにより、硬化性組成物の流動性を向上し、硬化物の接着強度を向上し、硬化物の乾燥収縮を抑制することができる。
【0076】
なお、積層体4、4´への硬化性組成物の含浸量は特に限定するものではなく、積層体4、4´の全体にわたって均一に硬化性組成物が保持され、硬化性組成物の硬化によって積層体4、4´の全体が強固に一体化させることができるように調整することが好ましい。例えば、積層体:硬化性組成物の質量比は、1:4~1:12程度であることが好ましく、1:4~1:10であることがより好ましい。
【0077】
また、例えば、硬化性組成物として、水ガラス、ラテックス、メタカリオンおよび高炉スラグを含むジオポリマーを用いることができる。この場合において、積層体4として、第三層3としてガラス不織布を用い、第一層1として3軸ビニロンメッシュを用い、第二層2としてポリプロピレンスパンボンド不織布を用いたとき、養生時間としては、例えば、23度、50%RHで7日以上に設定することができる。
【0078】
(含浸材層5)
含浸材層5は、コンクリート構造物100に下記の2種類のプライマーを塗布して含浸させた後に乾燥させることによって形成される。
【0079】
含浸材層5は、1つ目のプライマーとして、カルシウムを含む溶液をコンクリート構造物100の表面100sに塗布し、コンクリート構造物100に溶液を含浸させる。その後、カルシウムを含む溶液が乾燥される。そして、2つ目のプライマーとして、乾燥された溶液上に珪酸塩水溶液を含有する組成物が塗布されて含浸し、その後に乾燥される。なお、カルシウムを含む溶液の乾燥および珪酸塩水溶液を含有する組成物の乾燥は、例えば指触乾燥の状態でよい。指触乾燥とは、指で軽く触っても溶液または組成物が指につかない乾燥状態をいう。
【0080】
カルシウムを含む溶液としては、例えば、硝酸カルシウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、亜硝酸カルシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、ギ酸カルシウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液、硫酸カルシウム水溶液等を挙げることができる。溶解度の観点から、硝酸カルシウム水溶液、亜硝酸カルシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液を用いる方が好ましい。鉄筋コンクリートに影響を与えにくいという観点から、硝酸カルシウム水溶液、亜硝酸カルシウム水溶液を用いる方がより好ましい。できるだけ多くのカルシウム分を含浸させたいという観点から、硝酸カルシウム水和物として50%以上が好ましい、より好ましくは60~70%である。なお、溶解度が高く、カルシウム濃度の高い溶液を作成することができるため、硝酸カルシウム4水和物を用いる方が好ましい。例えば、65%硝酸カルシウム4水和物を、100~300g/mの塗布量で塗布することができる。この場合、外気温および湿度に依存するが、目安として約90分で指触乾燥の状態となる。
【0081】
珪酸塩水溶液は、例えば、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム又はこれらの混合物の水溶液を挙げることができる。珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムは、コンクリート構造物100の表面に塗った溶液中のカルシウムとC-S-Hゲルを生成することができるため、補修材料10、10´とコンクリート構造物100の接着強度をより強固にすることができる。
【0082】
珪酸ナトリウム水溶液を含有する組成物は、SiOとNaOを含有する組成物であり、水ガラスである。
【0083】
例えば、水ガラス(SiO/NaO:モル比1.6、固形分26.8%)を100~200g/mの塗布量で塗布することができる。この場合、外気温および湿度に依存するが、目安として約180分で指触乾燥の状態となる。
【0084】
なお、カルシウムを含む溶液をコンクリート構造物100の表面100sに塗布する前に、表面100sをケレン処理する方が好ましい。
【0085】
<コンクリート構造物の補修方法>
本開示のコンクリート構造物の補修方法は、上述したコンクリート構造物の補修材料10、10´を用いて行うことができる。
【0086】
図3は、本開示のコンクリート構造物の補修方法を示すフロー図である。
【0087】
図3に示すように、本開示のコンクリート構造物の補修方法は、ステップS10(ケレン工程)と、ステップS20(第1塗布工程)と、ステップS30(第1乾燥工程)と、ステップS40(第2塗布工程)と、ステップS50(第2乾燥工程)と、ステップS60(貼り付け工程)と、ステップS70(硬化工程)と、を備える。
【0088】
(ステップS10(ケレン工程))
ステップS10において、補修を行うコンクリート構造物100の表面100sが、コンクリート用研磨刃を取り付けたグラインダーでケレン処理される。
【0089】
(ステップS20(第1塗布工程))
ステップS20において、ケレン処理されたコンクリート構造物100の表面100sに、カルシウムを含む溶液を塗布して、コンクリート構造物100の表面100sに含浸させる。
【0090】
カルシウムを含む溶液をコンクリート構造物100に塗布および含浸させる方法としては、例えば、ローラーを使って手作業で塗布含浸を行うハンドレイアップ法、またはスプレーにより塗布含浸する方法を用いることができる。
【0091】
(ステップS30(第1乾燥工程))
ステップS30において、カルシウムを含む溶液を塗布したコンクリート構造物100の表面100sを乾燥させる。乾燥の際には、常温で放置してもよいし、乾燥機(例えば、ドライヤー等)で乾かしてもよい。
【0092】
(ステップS40(第2塗布工程))
ステップS40において、カルシウムを含む溶液を乾燥させたコンクリート構造物100の表面100sに珪酸塩水溶液を含有する組成物を塗布して含浸させる。
【0093】
珪酸塩水溶液を含有する組成物をコンクリート構造物100に塗布および含浸させる方法としては、例えば、ローラーを使って手作業で塗布含浸を行うハンドレイアップ法、またはスプレーにより塗布含浸する方法を用いることができる。
【0094】
(ステップS50(第2乾燥工程))
ステップS50において、珪酸塩水溶液を含有する組成物を塗布したコンクリート構造物100の表面100sを乾燥させる。乾燥の際には、常温で放置してもよいし、乾燥機(例えば、ドライヤー等)で乾かしてもよい。
【0095】
(ステップS60(貼り付け工程))
ステップS60において、珪酸塩水溶液を含有する組成物を塗布して乾燥させたコンクリート構造物100の表面100sに、補修材料10、10´が貼り付けられる。
【0096】
貼り付け工程において、積層体4、4´に硬化性組成物を塗布して、硬化性組成物が積層体4、4´に含浸される。例えば、珪酸塩水溶液を含有する組成物を塗布して乾燥させたコンクリート構造物100の表面100sに硬化性組成物を塗布した後に、積層体4、4´を貼り付け、貼り付けた積層体4、4´の上から硬化性組成物を塗布することによって補修材料10、10´を貼り付けてもよい。
【0097】
なお、積層体4、4´を形成してから硬化性組成物を含浸させてもよいし、硬化性組成物を含浸させてから積層体4、4´を形成してもよいし、積層体4、4´を形成しながら硬化性組成物を含浸させてもよい。また、積層体4、4´を対象のコンクリート構造物に貼り付ける前後のいずれに硬化性組成物を含浸させてもよい。
【0098】
硬化性組成物を積層体4、4´に含浸させる方法としては、例えば、(1)ローラーを使って手作業で塗布含浸を行うハンドレイアップ法、(2)スプレーにより塗布含浸する方法、(3)金型により積層体4、4´の厚みを規定した後に、圧入によって硬化性組成物を積層体4、4´に塗布含浸させる方法、(4)減圧により積層体4、4´の厚みを規定した後、減圧注入によって硬化性組成物を積層体4、4´に含浸させる方法、(5)積層体4、4´を硬化性組成物に浸漬し、積層体4、4´に硬化性組成物を連続的に含浸させた後に、ロールによって積層体4、4´に厚みを規定する方法、(6)ロール転写により連続的に塗布含浸を行う方法等が挙げられる。これらは組み合わせて利用してもよい。
【0099】
含浸時の作業性を上げるため、また含浸シートへのゴミの付着や含浸シート同士の付着を防止するため、積層体4、4´の表裏面を樹脂製の保護フィルムでカバーしてもよい。この保護フィルムはコンクリート構造物に貼り付ける際に除去される。
【0100】
得られた補修材料10、10´を、珪酸塩水溶液を含有する組成物を塗布して乾燥させたコンクリート構造物100の表面100sに貼り付ける。この際、補修材料10、10´とコンクリート構造物100の表面の間に入り込んだ気泡を取り除くことは、特に、補修材料10、10´とコンクリート構造物100の表面100sとの密着性を高めるために重要である。気泡除去の方法としては、ロールや金へら等を使って気泡を補修材料10、10´の外側に追い出す方法が好適である。
【0101】
(ステップS70(硬化工程))
積層体4、4´に含浸された硬化性組成物の硬化は、コンクリート構造物100に補修材料10、10´を密着させた状態で設置することによって行なわれる。コンクリート構造物100の表面100sに硬化性組成物を含浸させる時間を確保するという観点から、硬化性組成物の硬化時間は30~300分であることが好ましく、より好ましくは45~240分である。
【0102】
硬化時間は、本開示の硬化性組成物は無機系材料であるため、含まれる水分量によって調整することができる。硬化性組成物がジオポリマーの場合は珪酸塩水溶液に由来するナトリウム、カリウム、リチウム又はこれらの混合物の含有率や珪酸塩水溶液に由来するSiOとMO(Mはナトリウム、カリウム及びリチウム)の比率(SiO/MO)、そしてポゾラン活性物質の電気伝導率差やアルミニウムの含有率等によって調整することができる。
【0103】
硬化性組成物の硬化が完了すると、コンクリート構造物100に補修材料10、10´が固着されて、コンクリート構造物100の補修を完了させることができる。
【実施例
【0104】
以下に実施例を用いて、本開示のコンクリート構造物の補修方法について説明する。
【0105】
(実施例1)
20年以上屋外暴露されたコンクリート壁を劣化コンクリート基材とした。
【0106】
上記ステップS10において、この劣化コンクリートの表面を、コンクリート用研磨刃を取り付けたグラインダーでケレンした。
【0107】
次に、上記ステップS20において、ローラーを用いて、65%硝酸カルシウム4水和物を塗布量200g/mで塗布し、劣化コンクリートに含浸させた。
【0108】
次に、上記ステップS30において、常温で90分放置し、劣化コンクリート表面を乾燥させた。
【0109】
次に、IS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液100gと48重量%水酸化ナトリウム水溶液25g、及び水53gを加えて調整した珪酸塩水溶液を24時間撹拌し、珪酸塩水溶液を得た。
【0110】
次に、上記ステップS40において、この珪酸塩水溶液を上記処理(65%硝酸カルシウム4水和物を塗布、乾燥)した劣化コンクリート表面にローラーを用いて、塗布量150g/mで塗布し、含浸させた。
【0111】
次に、上記ステップS50において、常温で180分放置し、劣化コンクリート表面を乾燥させ、下地処理を行った。下地処理部分が含浸材層5に相当する。
【0112】
つづいて、JIS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液56gと48重量%水酸化ナトリウム水溶液14g、水30g、ラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 商品名:SR-151)10gを24時間攪拌し、珪酸塩水溶液を得た。上記水溶液に、ポゾラン活性物質としてメタカオリン77g(BASF社製 商品名:SP-33 電気伝導率差0.8mS/cm)、JIS A 6206で規定する高炉スラグ微粉末44g(日鉄住金セメント株式会社製 商品名:エスメント)を混合することにより、硬化性組成物を調製した。
【0113】
次に、ガラス不織布(目付量25g/m、厚み0.2mm、気孔率95%)にビニロンマルチフィラメントからなる三軸メッシュシート(目付量90g/m2、目開き8mm、厚み0.35mm、X=3.0)と、親水化ポリプロピレンスパンボンド不織布(目付量30g/m2、厚み0.2mm、引裂強度16N)を積層することにより積層体を作製した。
【0114】
ガラス不織布が「第三層」に相当し、三軸メッシュシートが「第一層」に相当し、目付量30g/m2のスパンボンド不織布が「第一層」に相当する。
【0115】
次に、ステップS60において、上記で作製したシート状の積層体300mm×300mmに、100gの硬化性組成物を含浸させて、下地処理部分である含浸材層5の表面に補修材料を貼り付けた。
【0116】
次に、ステップS70において、コンクリート構造物100の表面100sに貼り付けた積層体に含浸した硬化性組成物を硬化させることにより、劣化コンクリート構造物の補修材料を作製した。
【0117】
(比較例1)
実施例1の65%硝酸カルシウム4水和物を塗布、乾燥させる工程、及び珪酸塩水溶液を塗布、乾燥させる工程を除いた以外は実施例1と同じ方法で補修材料を作製した。
【0118】
(比較例2)
実施例1の65%硝酸カルシウム4水和物を塗布、乾燥させる工程、及び珪酸塩水溶液を塗布、乾燥させる工程の代わりにCS-21ネオ(珪酸塩系表面含浸材、株式会社アストン)を200g/m塗布し、180分乾燥させた。この工程以外は実施例1と同じ方法で補修材料を作製した。
【0119】
(比較例3)
実施例1の65%硝酸カルシウム4水和物を塗布、乾燥させる工程、及び珪酸塩水溶液を塗布、乾燥させる工程の代わりにCS-21ビルダー(2液混合型珪酸塩系表面含浸材、主剤:助剤=5:1、株式会社アストン)を200g/m塗布し、180分乾燥させた。この工程以外は実施例1と同じ方法で補修材料を作製した。
【0120】
(比較例4)
実施例1の65%硝酸カルシウム4水和物を塗布、乾燥させる工程、及び珪酸塩水溶液を塗布、乾燥させる工程の代わりにCS-21ビルダー(2液混合型珪酸塩系表面含浸材、主剤:助剤=1:1、株式会社アストン)を200g/m塗布し、180分乾燥させた。この工程以外は実施例1と同じ方法で補修材料を作製した。
【0121】
(比較例5)
実施例1の65%硝酸カルシウム4水和物を塗布、乾燥させる工程を除いた以外は実施例1と同じ方法で補修材料を作製した。
【0122】
(接着力評価)
各実施例及び比較例のコンクリート構造物補修材料のコンクリートへの接着力は建研式簡易引張試験機(テクノテスター R-10000ND)により評価した。具体的には、各実施例で作製した補修材料を貼り付けたコンクリート壁を屋外に7日間養生した後、前記簡易引張試験機の標準使用方法に基づき接着力を測定した。簡易引張試験は各実施例、比較例とも3体ずつ行い、その平均を接着力とした。その結果を表1に示す。
【0123】
例えば、接着力が1N/mmの場合を良好とし、1N/mmよりも小さい場合に不可とする。
【0124】
【表1】
【0125】
実施例1と比較例1から、65%硝酸カルシウム4水和物を塗布して乾燥させ、珪酸塩水溶液を含有する組成物を塗布して乾燥させることによって補修材料のコンクリートへの接着力が増すことがわかる。
【0126】
比較例2におけるCS-21ネオでは、珪酸塩系の表面含浸材が用いられており、カルシウムが用いられていない。劣化したコンクリートではカルシウムが溶出しているため、実施例1のようにカルシウムを含む溶液を塗布することによって、珪酸塩水溶液との反応によって接着力が強くなると考えられる。
【0127】
比較例3、4では、主剤として珪酸塩系の表面含浸材が用いられ、助剤として水酸化カルシウムが用いられている。
【0128】
比較例3、4では、主剤と助剤を混合した後に、コンクリートに塗布しているが、本実施例1では、65%硝酸カルシウム4水和物を塗布して乾燥させた後に、珪酸塩水溶液を含有する組成物を塗布して乾燥させている。このため、実施例1では比較例3、4に比べて硬化が徐々に進行することによって、接着力が強くなると考えられる。
【0129】
また、水酸化カルシウムの溶解度は硝酸カルシムの溶解度よりもかなり低いため、比較例3、4では、カルシウム濃度が不足し、実施例1のように硝酸カルシウムを塗布することによって、珪酸塩水溶液との反応によって接着力が強くなると考えられる。
【0130】
比較例5では、カルシウムを含む溶液の塗布が行われていない。劣化したコンクリートではカルシウムが溶出しているため、実施例1のようにカルシウムを含む溶液を塗布することによって、珪酸塩水溶液との反応によって接着力が強くなると考えられる。
【0131】
以上のように、実施例の補修材料の接着力評価の結果から、本開示のコンクリートの補修材料は、劣化コンクリートに対する補強性能、かつ密着性能を大幅に向上させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0132】
1 第一層
2 第二層
3 第三層
4、4´ 積層体
10、10´ 補修材料
100 コンクリート構造物
100s 表面
図1
図2
図3
図4