(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】超純水製造システム及び超純水製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20241001BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241001BHJP
B01D 61/18 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C02F1/42 A
C02F1/42 B
C02F1/44 A
B01D61/18
(21)【出願番号】P 2020198484
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】市原 史貴
(72)【発明者】
【氏名】須藤 史生
(72)【発明者】
【氏名】近藤 司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-234356(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221187(WO,A1)
【文献】特開平10-057956(JP,A)
【文献】特開平09-187765(JP,A)
【文献】特開2002-263643(JP,A)
【文献】特開2003-145148(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
B01D 15/00-15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユースポイントに接続され、前記ユースポイントに超純水を供給する超純水供給ラインと、
前記ユースポイントで使用されない超純水を前記超純水供給ラインに戻すリターンラインと、
前記超純水供給ラインに設けられ
イオン交換樹脂のみが充填された少なくとも一つのイオン交換装置と、を有し、
前記少なくとも一つのイオン交換装置のうち、最も前記ユースポイントに近接する最終段イオン交換装置を流通する被処理水の空間速度が170(1/hr)以上である、超純水製造システム。
【請求項2】
前記空間速度が300(1/hr)以上である、請求項1に記載の超純水製造システム。
【請求項3】
前記最終段イオン交換装置と前記ユースポイントとの間に膜ろ過装置が設けられていない、請求項1または2に記載の超純水製造システム。
【請求項4】
前記最終段イオン交換装置と前記ユースポイントとの間に位置する精密ろ過膜装置または限外ろ過膜装置を有する、請求項1または2に記載の超純水製造システム。
【請求項5】
前記超純水供給ラインの、被処理水の流通方向に関し前記最終段イオン交換装置の上流に位置する前段イオン交換装置を有し、前記前段イオン交換装置を流通する被処理水の空間速度は30~100(1/hr)である、請求項1から4のいずれか1項に記載の超純水製造システム。
【請求項6】
前記最終段イオン交換装置は少なくとも一つのイオン交換塔を有し、前記前段イオン交換装置は複数のイオン交換塔を有し、被処理水が流通する前記前段イオン交換装置の前記イオン交換塔の塔数より、被処理水が流通する前記最終段イオン交換装置の前記イオン交換塔の塔数のほうが少ない、請求項5に記載の超純水製造システム。
【請求項7】
前記最終段イオン交換装置
は少なくとも一つのイオン交換塔を有し、前記前段イオン交換装置
は少なくとも一つのイオン交換塔を有し、前記最終段イオン交換装置の前記イオン交換塔に充填された前記イオン交換樹脂の樹脂層高が、前記前段イオン交換装置の前記イオン交換塔に充填された前記イオン交換樹脂の樹脂層高より小さい、請求項5または6に記載の超純水製造システム。
【請求項8】
前記最終段イオン交換装置の上流に位置する精密ろ過膜装置または限外ろ過膜装置を有し、前記精密ろ過膜装置または前記限外ろ過膜装置と前記最終段イオン交換装置との間に水処理装置が設けられていない、請求項1から7のいずれか1項に記載の超純水製造システム。
【請求項9】
ユースポイントに接続され、前記ユースポイントに超純水を供給する超純水供給ラインと、
前記ユースポイントで使用されない超純水を前記超純水供給ラインに戻すリターンラインと、
前記超純水供給ラインに設けられ
イオン交換樹脂のみが充填された少なくとも一つのイオン交換装置と、を有し、
前記少なくとも一つのイオン交換装置のうち、最も前記ユースポイントに近接する最終段イオン交換装置を流通する被処理水の線速度が51(m/hr)以上である、超純水製造システム。
【請求項10】
ユースポイントに接続され、前記ユースポイントに超純水を供給する超純水供給ラインと、前記ユースポイントで使用されない超純水を前記超純水供給ラインに戻すリターンラインと、前記超純水供給ラインに設けられ
イオン交換樹脂のみが充填された少なくとも一つのイオン交換装置と、を有する超純水製造システムを用いた超純水製造方法であって、
前記少なくとも一つのイオン交換装置のうち、最も前記ユースポイントに近接する最終段イオン交換装置に、被処理水を空間速度170(1/hr)以上で流通させることを有する、超純水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超純水製造システム及び超純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超純水製造システムは1次純水から超純水を製造するサブシステムを有している。このサブシステムでは紫外線酸化装置、イオン交換装置などの様々な装置が直列に配置されており、1次純水がこれらの装置で順次処理されることによって超純水が製造される。超純水が供給されるユースポイントの直前には、微粒子除去を目的として限外ろ過膜装置などの膜ろ過装置が設置される。近年、超純水の水質への要求が厳しくなっており、超純水中の微粒子を10nmレベルで管理することが要求されている。特許文献1には、直列に2段配置された限外膜ろ過装置を最終段に備える超純水製造システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された超純水製造システムは、微粒子の低減の観点から優れた効果を有する。しかし、限外膜ろ過装置が直列に2段配置された構成はコスト増加の一因となるだけでなく、圧力損失の増大に伴う流量の低下、ポンプ動力の増加などの課題を生じる。
【0005】
本発明は、より簡易な構成で超純水に含まれる微粒子を効率的に除去することのできる超純水製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の超純水製造システムは、ユースポイントに接続され、ユースポイントに超純水を供給する超純水供給ラインと、ユースポイントで使用されない超純水を超純水供給ラインに戻すリターンラインと、超純水供給ラインに設けられイオン交換樹脂のみが充填された少なくとも一つのイオン交換装置と、を有する。上記少なくとも一つのイオン交換装置のうち、最もユースポイントに近接する最終段イオン交換装置を流通する被処理水の空間速度が170(1/hr)以上である。
【発明の効果】
【0007】
本願発明者は最終段イオン交換装置を流通する被処理水の空間速度を170(1/hr)以上とすることで、微粒子を効率的に除去することができることを見出した。イオン交換装置は超純水製造システムが一般的に備えるものであり、新たな設備の追加とはならない。従って、本発明によれば、より簡易な構成で超純水に含まれる微粒子を効率的に除去することのできる超純水製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る超純水製造システムの概略構成図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る超純水製造システムの概略構成図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る超純水製造システムの概略構成図である。
【
図4】第3の実施形態において、前段イオン交換装置と最終段イオン交換装置の空間速度を異ならせる方法を示す概念図である。
【
図5】本発明の第4の実施形態に係る超純水製造システムの概略構成図である。
【
図6】本発明の第5の実施形態に係る超純水製造システムの概略構成図である。
【
図7】本発明の第6の実施形態に係る超純水製造システムの概略構成図である。
【
図9】実施例における微粒子数の測定結果を示すグラフである。
【
図10】実施例における微粒子数の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る超純水製造装置のサブシステム1の概要を示している。サブシステム1は、1次純水システム(図示せず)で製造された純水から、ユースポイントP.O.U.に供給される超純水を製造するためのシステムであり、超純水製造システムとも称する。超純水供給ラインL1はユースポイントP.O.U.に接続され、ユースポイントP.O.U.に超純水を供給する。リターンラインL2はユースポイントP.O.U.の下流側で超純水供給ラインL1に接続され、ユースポイントP.O.U.で使用されない超純水を超純水供給ラインの始端に戻す。具体的には、リターンラインL2は1次純水タンク2に接続され、1次純水タンク2を介して未使用の超純水を超純水供給ラインL1の始端に戻す。始端とは、被処理水(純水)の流通方向に関し、超純水供給ラインL1の最上流となる位置を意味し、1次純水タンク2は超純水供給ラインL1の始端に接続されている。このように、超純水供給ラインL1とリターンラインL2は、純水ないし超純水が循環する循環ラインを構成する。
【0010】
サブシステム1は、1次純水タンク2と、純水供給ポンプ3と、紫外線酸化装置4と、過酸化水素除去装置5と、膜脱気装置7と、最終段イオン交換装置10と、を有している。これらの装置は超純水供給ラインL1上に、被処理水の流通方向に沿って、この順で直列に設けられている。膜脱気装置7と最終段イオン交換装置10との間にはブースターポンプ8が設けられている。ブースターポンプ8は、例えば膜脱気装置7と最終段イオン交換装置10との間にレベル差がある場合に、揚程を確保するために設けられる。従って、サブシステム1の配置条件によっては、ブースターポンプ8を省略することができる。1次純水タンク2には1次純水システムで製造された純水が貯蔵され、上述したように、ユースポイントP.O.U.で使用されなかった超純水が還流される。
【0011】
1次純水タンク2に貯留された被処理水は、純水供給ポンプ3により送出され、熱交換器(図示せず)を通って温度調節され、紫外線酸化装置4に供給される。紫外線酸化装置4は被処理水に紫外線を照射し、被処理水に含まれる有機炭素を分解し、TOC(全有機炭素)を低減する。過酸化水素除去装置5はパラジウム(Pd)、白金(Pt)などの触媒を備え、紫外線照射によって発生した過酸化水素を分解する。これによって、後段の最終段イオン交換装置10(及び実施形態によっては前段イオン交換装置6)が酸化性物質によってダメージを受けることが防止される。膜脱気装置7は被処理水に含まれる溶存酸素や二酸化炭素を除去する。超純水はユースポイントP.O.U.に供給される前に最終段イオン交換装置10で処理される。最終段イオン交換装置10にはイオン交換樹脂が充填されている。
【0012】
被処理水は微粒子を含んでおり、特にブースターポンプ8を設ける場合は、より多くの微粒子を含む可能性がある。微粒子は表面に電位(ゼータ電位)を有していることが多いため、最終段イオン交換装置10で除去することができる。超純水中の微粒子は表面に負の電位(ゼータ電位)を有していることが多いが、正の電位(ゼータ電位)を有する微粒子も効果的に除去するために、イオン交換樹脂はアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混床形態で充填されているのが好ましい。超純水を高純度に維持するためにも、イオン交換樹脂は混床形態で充填されているのが好ましい。これによって、正の電位を有する微粒子と負の電位を有する微粒子の両者を効果的に捕捉し、微粒子の除去効率を高めることができる。しかし、アニオン交換樹脂またはカチオン交換樹脂が単床形態で充填されていても微粒子を除去する効果は得られる。また、微粒子は負の電位(ゼータ電位)を有していることが多いため、アニオン交換樹脂の重量比率がカチオン交換樹脂の重量比率よりも高いことが好ましい。微粒子を含む被処理水は樹脂の隙間を通るため、樹脂自体が物理的なフィルターとしても機能し、電気的な作用だけでなく物理的な作用によっても微粒子を捕捉する。このように、最終段イオン交換装置10は高い微粒子除去性能を有する。本実施形態では最終段イオン交換装置10とユースポイントP.O.U.との間に膜ろ過装置が設けられていないため、最終段イオン交換装置10で微粒子が除去された超純水に、膜ろ過装置で発生した微粒子が混入することがない。
【0013】
イオン交換樹脂は一般に、ゲル型とマクロポーラス型とに大別できるが、最終段イオン交換装置10に充填されるイオン交換樹脂は粒状のゲル型であることが好ましい。微粒子はイオン交換樹脂の表面からも発生することがある。しかし、ゲル型のイオン交換樹脂はマクロポーラス型に比べて表面積が小さいため、剥離して流出する微粒子が少なく、最終段イオン交換装置10に充填されるイオン交換樹脂として好適に使用できる。イオン交換樹脂としては、例えばH形の強酸性イオン交換樹脂とOH形の強塩基性イオン交換樹脂が用いられる。強酸性イオン交換樹脂と強基性イオン交換樹脂の平均粒径は500~800μm程度であるのが好ましい。最終段イオン交換装置10の樹脂層高は10cm以上とすることが好ましく、30cm以上とすることがより好ましい。
【0014】
最終段イオン交換装置10に供給される被処理水は超純水であるので、清浄度が極めて高い。このため、最終段イオン交換装置10は性能の劣化が生じにくく、最終段イオン交換装置10の出口では、高度に微粒子が除去された超純水が長期間、安定して得られる。最終段イオン交換装置10は長期間使用することが可能であるためメンテナンスの頻度も低い。従って、最終段イオン交換装置10としては、非再生式のイオン交換装置(カートリッジポリッシャー)を用いるのが有利である。すなわち、最終段イオン交換装置10のイオン交換樹脂としては非再生型の樹脂を使用するのが好ましい。しかし、再生型の樹脂を用いることも可能である。最終段イオン交換装置10は出口側の微粒子濃度が所定の値を超えたときに交換されるが、出口側の処理水の導電率が所定の値を超えたときに交換してもよい。最終段イオン交換装置10は、モノリスが充填されたイオン交換装置であってもよい。
【0015】
微粒子の発生をさらに抑制するため、最終段イオン交換装置10は、イオン交換樹脂の充填部の上方に超純水の入口部を、充填部の下方に超純水の出口部を有している。すなわち、被処理水は下向きないし下降流として最終段イオン交換装置10に通水される。これによってイオン交換樹脂層が動きにくくなり、イオン交換樹脂同士の摩擦による微粒子の発生を抑制することができる。通水に伴いイオン交換樹脂が圧密されていくため、イオン交換樹脂がさらに動きにくくなり、微粒子の発生をさらに抑制することができる。これによって、イオン交換樹脂の物理的なフィルターとしての機能も向上する。
【0016】
上述した超純水製造システムを運転する際には予め樹脂の洗浄ないしコンディショニングを行うことが好ましい。超純水製造に用いられる樹脂がR-Na型、R-Cl型である場合(Rは樹脂)、これをそのまま使用するとNaイオンやClイオンが解離し、超純水としての要求水質が満たされない可能性がある。このため、強酸性陽イオン交換樹脂には酸性溶液を用いて、強塩基性陰イオン交換樹脂には塩基性溶液を用いてそれぞれコンディショニングを行うことが望ましい。また、これらの操作によってR-Na型をR-H型に、R-Cl型をR-OH型に変換する場合、R-Na型を最終段イオン交換装置10に充填されている全樹脂数の0.1%未満に、R-Cl型を全樹脂数の1%未満にすることが望ましい。これとは別に、最終段イオン交換装置10で処理された超純水をユースポイントP.O.U.に供給する前に、最終段イオン交換装置10の出口におけるTOC(全有機炭素)が0.5μg/L(ppb)以下に減少するまでイオン交換樹脂に超純水を通水することが望ましい。TOC減少量は最終段イオン交換装置10の入口におけるTOCから最終段イオン交換装置10の出口におけるTOCを減じた値(ΔTOC)を意味する。微粒子の量を減らすためにはさらに長時間の通水を行うことが好ましい。例えば、後述の実施例で説明するように、SV300(1/hr)で24時間程度通水を続けることで、粒径20nm以上の微粒子を0.1個/ml未満とすることができる。なお、最終段イオン交換装置10に充填する前に予めイオン交換樹脂に超純水を通水して、TOC減少量が0.5μg/L(ppb)以下及び/または流出する粒径20nm以上の微粒子数が0.1個/ml未満となるまで洗浄し、その後、最終段イオン交換装置10にイオン交換樹脂を充填するようにしてもよい。
【0017】
イオン交換装置は通常、イオン(メタル、アニオン成分)除去の目的で設置される。しかし、上述の通り、イオン交換樹脂は微粒子を除去する性能を有している。限外ろ過膜や精密ろ過膜などのろ過膜は特に膜の2次側(出口側)の洗浄やコンディショニングが難しい。一方、粒状のイオン交換樹脂は、樹脂の表面や装置(塔)の内部に存在する微粒子を、洗浄やコンディショニングで容易に排出することができる。本願発明者は、十分な洗浄、コンディショニングを行えば、イオン交換樹脂からの微粒子の発生を抑制することができることを見出した。本実施形態によれば、微粒子除去を主目的とした最終段イオン交換装置10を設置することで、微粒子の少ない超純水を容易に製造することができる。
【0018】
本実施形態では、最終段イオン交換装置10を流通する被処理水の空間速度SVが170(1/hr)以上、好ましくは300(1/hr)以上とされている。一般にイオン交換装置を流通する被処理水の空間速度SVは30~100(1/hr)程度であるが、それに比べて空間速度SVが大幅に高められている。後述の実施例で述べるように、これによって、特に微粒子の除去効率が大幅に高められる。
【0019】
イオン交換装置(イオン交換塔)の空間速度SVは、流量/樹脂量(ろ過材量)で求められる。ここで、
流量=LV・S
樹脂量=h・S
ただし、LVはイオン交換塔の樹脂を流れる被処理水の線速度(流速)、Sはイオン交換塔の流路断面積、hはイオン交換塔に充填された樹脂の樹脂層高
であるので、SV=(LV・S)/(h・S)=LV/hとなる。従って、SVを増やすためには、線速度LVを増やすか(方法1)、樹脂層高hを減らすか(方法2)、のいずれかの方法を採用することになる。線速度LVと樹脂層高hの両方を変えることも可能であるが、その場合も、方法1と2の少なくともいずれかを行うことが必要となる。
【0020】
線速度LVは以下に示すいくつかの方法で増やすことができる。
(方法1-1)イオン交換塔の流路断面積Sを減らす。流量が一定の場合、線速度LVはイオン交換塔の流路断面積Sと反比例して増加する。新規にサブシステム1を設ける場合、最終段イオン交換装置10の設置面積の低減が可能となる。
(方法1-2)ブースターポンプ8(または純水供給ポンプ3)の流量を増やす。流量が増えるため、それに比例して線速度LVも増加する。
(方法1-3)最終段イオン交換装置10が並列接続された複数のイオン交換塔からなる場合に、一部のイオン交換塔だけに被処理水を供給する。この方法は方法1-1と類似しているが、一部のイオン交換塔の運転を止めるだけでいいため、既設の設備において容易に実現可能である。
【0021】
樹脂層高hを減らすには、単純に樹脂の充填量を減らせばよい。樹脂の使用量が減るため、交換する樹脂の節約となる。この方法も既設の設備において容易に実現可能である。
【0022】
(第2の実施形態)
図2は本発明の第2の実施形態に係る超純水製造装置のサブシステム101の概要を示している。本実施形態では、最終段イオン交換装置10とユースポイントP.O.U.との間に膜ろ過装置11が設けられており、その他の構成は第1の実施形態と同様である。説明を省略した要素及び効果については第1の実施形態を参照されたい。膜ろ過装置11は、精密ろ過膜装置または限外ろ過膜装置とすることができる。上述のように、最終段イオン交換装置10の空間速度SVを高めることで、微粒子除去性能は大きく向上するが、膜ろ過装置11を設けることで、さらに微粒子が除去された超純水を製造することができる。微粒子のほとんどは最終段イオン交換装置10で除去されるため、膜ろ過装置11の負荷は極めて小さい。従って、上述した洗浄やコンディショニングの問題が顕在化する可能性は低い。特にブースターポンプ8を設ける場合、被処理水中の微粒子数が増加し、最終段イオン交換装置10で微粒子を取りきれない可能性がある。このため、膜ろ過装置11は最終段イオン交換装置10のバックアップとして機能する。
【0023】
膜ろ過装置11の孔径、分画分子量等は対象とする微粒子によって決定することができる。例えば、最終段イオン交換装置10の樹脂から剥離した有機物微粒子を除去するのが主目的であれば、比較的孔径の大きな(または分画分子量の大きな)膜ろ過装置11で十分である場合がある。これによって、膜ろ過装置11の圧力損失が低減され、流量を増やすことができる。一方、膜ろ過装置11から発生(剥離)する(有機物)微粒子の数は孔径によって大きく変わらないため、膜ろ過装置11を通過した超純水に含まれる単位容積当たりの微粒子数が減少する(流量が増えることによる一種の希釈効果といえる)。従って、高純度の超純水を製造することが可能となる。
【0024】
(第3の実施形態)
図3は本発明の第3の実施形態に係る超純水製造装置のサブシステム201の概要を示している。本実施形態では、第1の実施形態に対し非再生型の前段イオン交換装置6が追加されており、その他の構成は第1の実施形態と同様である。説明を省略した要素及び効果については第1の実施形態を参照されたい。前段イオン交換装置6は、超純水供給ラインL1の最終段イオン交換装置10の上流、より詳細には過酸化水素除去装置5と膜脱気装置7との間に設けられている。前段イオン交換装置6はアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が混床充填されたカートリッジポリッシャーであり、被処理水中の金属イオンなどのイオン成分を除去する。前段イオン交換装置6は電気式脱イオン水製造装置(EDI)であってもよい。前段イオン交換装置6の空間速度SVは特に限定されないが、従来から一般的に用いられている30~100(1/hr)程度が好ましい。
【0025】
前段イオン交換装置6を設けることで、イオン性の不純物の除去効率を高めることができる。換言すれば、前段イオン交換装置6はイオン性の不純物の除去というイオン交換装置本来の機能を果たし、最終段イオン交換装置10は微粒子除去という、従来のイオン交換装置には見られない特殊な機能を果たす。両者を設けることで、イオン性の不純物と微粒子の双方を効率的に除去することができる。
【0026】
図4には、前段イオン交換装置6と最終段イオン交換装置10とで空間速度SVを変える方法を示している。ここでは、説明を容易にするため、前段イオン交換装置6と最終段イオン交換装置10は複数且つ同数(ここでは3つとする)のイオン交換塔6A~6C,10A~10Cからなるとする。
図4(a)は方法1-1を用いた概念を示している。最終段イオン交換装置10の各イオン交換塔10A~10Cの流路断面積S2を前段イオン交換装置6の各イオン交換塔6A~6Cの流路断面積S1より減らすことで、最終段イオン交換装置10の線速度LV2を前段イオン交換装置6の線速度LV1より大きくすることができる。
図4(b)は方法1-3を用いた概念を示している。最終段イオン交換装置10のイオン交換塔10A~10Cについては1塔(図示の例ではイオン交換塔10B)だけを運転し、他の塔(図示の例ではイオン交換塔10A,10C)は運転をしていない。サブシステム201を流れる被処理水の流量はn・LV・S=一定(n:イオン交換塔の塔数)であるので、流路断面積Sが一定であってもnを変えることで、線速度LVを前段イオン交換装置6と最終段イオン交換装置10とで異ならせることができる。新規にサブシステム201を設ける場合、一例として、前段イオン交換装置6として複数のイオン交換塔を設け、最終段イオン交換装置10として、これより少ない少なくとも一つのイオン交換塔を設けることができる。この場合、すべてのイオン交換塔は同一の構成とすることができる。
図4(c)は方法2を用いた概念を示している。最終段イオン交換装置10の各イオン交換塔10A~10Cの樹脂層高h2が、前段イオン交換装置6の各イオン交換塔6A~6Cの樹脂層高h1より小さくなっている。これらの方法は単独でまたは組み合わせて適用することができる。なお、方法1-2を採用しないのは、最終段イオン交換装置10の流速を上げると、前段イオン交換装置6の流速も上がるため、前段イオン交換装置6と最終段イオン交換装置10で空間速度SVを変えることができないためである。しかし、ブースターポンプ8(または純水供給ポンプ3)の容量を増加し最終段イオン交換装置10の流速を上げたうえで、方法1-1、1-3、2の少なくともいずれかを併用することは可能である。換言すれば、方法1-1、1-3、2によっては最終段イオン交換装置10の空間速度を十分に上げることができない場合、方法1-2を併用することが可能である。
【0027】
図4(a)~(c)に例示するように、前段イオン交換装置6と最終段イオン交換装置10とで性状(例えば、流路断面積、樹脂層高等等の構成や,運転塔数等の運転条件)を異ならせることで、空間速度SVを変えることができる。
【0028】
(第4の実施形態)
図5は本発明の第4の実施形態に係る超純水製造装置のサブシステム301の概要を示している。本実施形態では、第2の実施形態と同様、最終段イオン交換装置10とユースポイントP.O.U.との間に膜ろ過装置11が設けられており、第3の実施形態と同様、非再生型混床式の前段イオン交換装置6が追加されている。その他の構成は第1の実施形態と同様である。従って、本実施形態は第2の実施形態と第3の実施形態の特徴を併せ持ち、イオン性物質と微粒子が一層除去された超純水を製造することができる。それぞれの特徴については第2の実施形態及び第3の実施形態を参照されたい。また、それ以外の説明を省略した要素及び効果については第1の実施形態を参照されたい。
【0029】
(第5の実施形態)
図6は本発明の第5の実施形態に係る超純水製造装置のサブシステム401の概要を示している。本実施形態では、最終段イオン交換装置10の上流、具体的にはブースターポンプ8と最終段イオン交換装置10との間に膜ろ過装置11が設けられている。換言すれば、第2の実施形態に対して、最終段イオン交換装置10と膜ろ過装置11の位置が逆になっている。その他の構成は第1の実施形態と同様である。説明を省略した要素及び効果については第1の実施形態を参照されたい。膜ろ過装置11と最終段イオン交換装置10との間には他の水処理装置が設けられていない。膜ろ過装置11は精密ろ過膜装置または限外ろ過膜装置とすることができる。従って、本実施形態は第2の実施形態と同様、微粒子が一層除去された超純水を製造することができる。また、最終段イオン交換装置10の上流に膜ろ過装置11が設けられているため、最終段イオン交換装置10の負荷が減少する。これによって、最終段イオン交換装置10の交換頻度を伸ばすことができる。さらに、膜ろ過装置11から剥離して流出した微粒子を最終段イオン交換装置10で除去することができるため、超純水の水質の改善が可能となる。
【0030】
(第6の実施形態)
図7は本発明の第6の実施形態に係る超純水製造装置のサブシステム501の概要を示している。本実施形態では、第4の実施形態と同様、非再生型混床式の前段イオン交換装置6が追加されており、第5の実施形態と同様、最終段イオン交換装置10の上流に膜ろ過装置11が設けられている。換言すれば、第4の実施形態に対して、最終段イオン交換装置10と膜ろ過装置11の位置が逆になっている。その他の構成は第1の実施形態と同様である。説明を省略した要素及び効果については第1の実施形態を参照されたい。膜ろ過装置11と最終段イオン交換装置10との間には水処理装置が設けられていない。膜ろ過装置11は精密ろ過膜装置または限外ろ過膜装置とすることができる。従って、本実施形態は第4の実施形態と同様、イオン性物質と微粒子が一層除去された超純水を製造することができる。また、第5の実施形態同様、最終段イオン交換装置10の上流に膜ろ過装置11が設けられているため、最終段イオン交換装置10の負荷が減少する。さらに、膜ろ過装置11から剥離して流出した微粒子を最終段イオン交換装置10で除去することができるため、超純水の水質の改善が可能となる。
【0031】
(実施例)
図8に示す試験装置を用いて、微粒子除去性能を測定した。被処理水と処理水のTOCはともに0.6μg/L、比抵抗はともに18.2MΩ・cmであり、被処理水に含まれる粒径20nm以上の微粒子の数は0.8個/mLとした。樹脂カラムとしてパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の直径26mm、高さ500mmのカラムを用い、樹脂(ESP-2)を層高300mmで充填した。SVが60,170,300(1/hr)の場合について、試験装置に被処理水(純水)を通水して、樹脂カラムの出口水における微粒子数の時間的変化を測定した。
図9に結果を示す。SV60(1/hr)は線速度換算でLV18(m/hr)、SV170(1/hr)は線速度換算でLV51(m/hr)、SV300(1/hr)は線速度換算でLV90(m/hr)に相当する。SV60(1/hr)の場合、微粒子数の減少に非常に長い時間がかかる。SV170(1/hr)の場合、時々間歇的に微粒子が検出されるが、微粒子数は比較的安定している。SV300(1/hr)の場合、微粒子数は通水後初期段階で一時的に増加するが、その後急激に減少し、24時間程度経過した後は実質的に0になる。従って、微粒子数が安定するまでの時間に関してはSV170(1/hr)と300(1/hr)が好ましく、SV60(1/hr)は好ましくないといえる。
【0032】
図10(a)には、SV及びLVと樹脂カラムの出口水における微粒子数との関係を示す。微粒子数は安定した後の値を示している。樹脂カラムの樹脂層高は30cmとした。この場合、SVとLVは比例関係にある。処理水の水質の観点からもSV170(1/hr)以上(LV51(m/hr)以上)が好ましく、300(1/hr)(LV90(m/hr)以上)がより好ましいことがわかる。
図10(b)には、樹脂の層高及びLVと樹脂カラムの出口水における微粒子数との関係を示す。SVは400(1/hr)とした。この場合、層高とLVは比例関係にある。層高10cmの場合も、樹脂カラム出口水の微粒子数は樹脂カラム入口水の微粒子数より減少しているが、層高30cmでは樹脂カラム出口水の微粒子数はゼロとなる。これより、樹脂層高は少なくとも10cm以上あることが好ましく、30cm以上がより好ましいことがわかる。
図10(c)には、樹脂カラム入口水と出口水の微粒子数の関係を示す。樹脂カラムの樹脂層高は30cm、SVは400(1/hr)、LVは120(m/hr)とした。樹脂カラム入口水の微粒子数によらず高い微粒子除去効果が得られているが、特に微粒子数1.0(個/ml)以下で高い効果が得られており、本発明が極めて高純度の超純水を製造することに適していることがわかる。
【符号の説明】
【0033】
1 サブシステム(超純水製造システム)
6 前段イオン交換装置
10 最終段イオン交換装置
11 ろ過膜装置
L1 超純水供給ライン
L2 リターンライン
P.O.U. ユースポイント