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特許7563984情報処理速度を判定するためのデジタルクオリメトリックバイオマーカ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】情報処理速度を判定するためのデジタルクオリメトリックバイオマーカ
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20241001BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/11
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020562129
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2019061819
(87)【国際公開番号】W WO2019215230
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】18171567.3
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー,マイク
(72)【発明者】
【氏名】ベラチュウ,シベシー・ミティク
(72)【発明者】
【氏名】ゴッセンズ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】リンデマン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シュプレンゲル,イェルク
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05230629(US,A)
【文献】国際公開第2018/050763(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/050746(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/398
A61B 10/00-10/06
G06Q 50/22
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における情報処理速度を自動的に評価するコンピュータ実装方法であって、
a)前記被験者から得られた認知眼球運動活動測定値の既存のデータセットにおける、感覚伝達、認知および運動出力活動に関する少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータと、感覚伝達および運動出力活動に関する少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータとを判定するステップであって、前記認知眼球運動活動測定値のデータセットは、モバイルデバイス上で行われた情報処理速度(IPS)検査からのデータを含み、前記感覚伝達、認知および運動出力活動に関する前記少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータは、作業を行う前記被験者にとってなじみのあるものではない検査符号を使用した符号マッチング作業の応答時間を測定することによって判定され、前記感覚伝達および運動出力活動に関する前記少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータは、ベースライン応答時間を測定することによって判定される、ステップと、
b)前記第1のクオリメトリック活動パラメータと前記第2のクオリメトリック活動パラメータとを互いに比較することによって、認知の少なくとも1つの第3のクオリメトリック活動パラメータを判定するステップと、
c)前記少なくとも1つの第1、第2および第3のクオリメトリック活動パラメータに基づいて被験者における前記情報処理速度を評価するステップとを含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
被験者における前記情報処理速度を評価する前記ステップは、前記判定された第1、第2および第3のクオリメトリック活動パラメータを基準と比較するステップを含み、それによって前記情報処理速度が評価されることになる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モバイルデバイスは、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイス、またはタブレットコンピュータに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基準は、基準被験者またはそのグループから得られた認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出された少なくとも1つの第1および第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
認知機能障害に罹患していると疑われる被験者における認知機能障害を判定するコンピュータ実装方法であって、
i)請求項2の方法を実施することによって情報処理速度を判定するステップと、
ii)判定された前記情報処理速度に基づいて前記認知機能障害を判定するステップとを含む、コンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記基準は、ステップi)で言及されている前記認知眼球運動活動測定値のデータセットが前記被験者から得られた時点より前の時点における前記被験者の認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される、請求項5に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
判定された前記少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータと前記基準との間の悪化は、認知機能障害を示す、請求項6に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
前記基準は、認知機能障害に罹患しているとわかっている被験者またはそのグループの認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される、請求項5に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項9】
前記基準と比較して実質的に同一である判定された少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータは、認知機能障害に罹患している被験者を示す、請求項8に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項10】
前記基準は、認知機能障害に罹患していないことがわかっている被験者またはそのグループの認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される、請求項5に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項11】
前記基準と比較して悪化している判定された少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータは、認知機能障害に罹患している被験者を示す、請求項10に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項12】
前記認知機能障害は、錐体路、錐体外路、感覚系もしくは小脳系を冒す中枢神経系および/もしくは末梢神経系に関係する認知および運動疾病もしくは疾患、または神経筋疾病、もしくは筋疾病もしくは筋疾患に関連付けられる、請求項5から11のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項13】
前記認知および運動疾病または疾患は、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)およびNMOスペクトラム症、脳梗塞、小脳疾患、小脳性運動疾患、痙性対麻痺、本態性振戦症、筋無力症および筋無力症候群またはその他の形態の神経筋障害、筋ジストロフィー、筋炎またはその他の筋疾患、末梢神経障害、脳性麻痺、錐体外路症候群、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、その他の形態の認知症、大脳白質萎縮症、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥障害(ADD/ADHD)、DSM-5により定義される知的障害、加齢に伴う認知能力および予備力機能障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性神経障害、運動ニューロン疾病ならびに筋萎縮性側索硬化症(ALS)からなるグループから選択される、請求項12に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項14】
認知機能障害の療法を推奨するコンピュータ実装方法であって、請求項5から13のいずれか一項の方法のステップと、認知機能障害が判定された場合に前記療法を推奨するさらなるステップとを含む、コンピュータ実装方法。
【請求項15】
認知機能障害に対する療法の有効性を判定するコンピュータ実装方法であって、請求項5から13のいずれか一項の方法のステップと、前記認知機能障害が改善している場合に療法反応を判定するか、または前記認知機能障害が悪化しているかもしくは変化しないままである場合に反応の失敗を判定するさらなるステップとを含む、コンピュータ実装方法。
【請求項16】
被験者における認知機能障害を監視するコンピュータ実装方法であって、所定監視期間中に請求項5から13のいずれか一項の方法のステップを少なくとも2回実施することによって、被験者において前記認知機能障害が改善しているか、悪化しているか、または変化しないままであるかを判定するステップを含む、コンピュータ実装方法。
【請求項17】
プロセッサと、少なくとも1つのセンサと、データベースとを含むモバイルデバイスであって、前記モバイルデバイスに有形に組み込まれ、前記モバイルデバイス上で実行されると請求項1から16のいずれか一項の方法を実施するソフトウェアを含む、モバイルデバイス。
【請求項18】
少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスと、プロセッサとデータベースとを含むリモートデバイスとを含むシステムであって、前記リモートデバイスは、前記リモートデバイスに有形に組み込まれ、前記リモートデバイス上で実行されると請求項1から16のいずれか一項の方法を実施するソフトウェアを含み、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとは互いに動作可能にリンクされている、システム。
【請求項19】
被験者における情報処理速度および/または認知機能障害の評価において使用するための、請求項17のモバイルデバイス。
【請求項20】
被験者における情報処理速度および/または認知機能障害の評価において使用するための、請求項18のシステム。
【請求項21】
認知機能障害に罹患している被験者の、実生活、日常の状況および広い範囲のうちの少なくとも1つにおける監視において使用するため、または臨床試験中にも認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者における薬効を調査するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者のための療法決定を促進および/もしくは支援するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者に関する病院管理、リハビリテーション処置管理、健康保険評価および管理の支援ならびに/もしくは公衆衛生管理における決定の支援のため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者を生活様式および/もしくは療法の推奨により支援するための、請求項17のモバイルデバイス。
【請求項22】
認知機能障害に罹患している被験者の、実生活、日常の状況および広い範囲のうちの少なくとも1つにおける監視において使用するため、または臨床試験中にも認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者における薬効を調査するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者のための療法決定を促進および/もしくは支援するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者に関する病院管理、リハビリテーション処置管理、健康保険評価および管理の支援ならびに/もしくは公衆衛生管理における決定の支援のため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者を生活様式および/もしくは療法の推奨により支援するための、請求項18のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経学的評価の分野に関し、特に、薬物研究および開発、診断、および患者ならびに健康管理の環境における情報処理速度の評価に関する。より詳細には、本発明は、被験者における情報処理速度を自動的に評価するコンピュータ実装方法であって、被験者から得られた認知眼球運動活動測定値の既存データセットにおける、感覚伝達、認知および運動出力活動の少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータと、感覚伝達および運動出力活動の少なくとも1つの第2のクオメトリック活動パラメータとを判定するステップと、前記第1のクオリメトリック活動パラメータと前記第2のクオリメトリック活動パラメータとを互いに比較することによって、認知の少なくとも1つの第3のクオリメトリック活動パラメータを判定するステップと、前記少なくとも1つの第1、第2および第3のクオリメトリック活動パラメータに基づいて、被験者における情報処理速度を評価するステップとを含むコンピュータ実装方法に関する。本発明は、さらに、認知機能障害に罹患していると疑われる被験者において認知機能障害を判定する方法であって、情報処理速度を判定することと、判定された情報処理速度に基づいて認知機能障害を判定することとを含む方法を企図している。本発明は、本発明の方法を実施するためのモバイルデバイスまたはシステムと、情報処理速度および/または認知機能障害を評価するための前記モバイルデバイスまたはシステムの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
情報処理速度(IPS)は、情報を取得し、処理し、応答に組み込む速度を示す神経学的パラメータである。したがって、情報処理速度に関与する神経系には様々な異なる部分が存在する。このプロセスにおける主要なステップは、(1)求心性視覚情報の伝達と、(2)認知置換作業の遂行と、(3)遠心性運動出力の実行である(Costa 2017)。
【0003】
したがって、情報処理速度は異なるステップで損なわれる可能性がある。例えば、視覚情報の求心性伝達は、求心性神経が損傷を受けるかまたはその他により冒される場合に損なわれ得る。同様に、認知が損なわれることがあり、または遠心性運動出力。
【0004】
認知および運動疾病または疾患は、典型的には、認知機能障害および感覚機能障害または運動機能障害によって特徴づけられる。これらの疾病および疾患は頻度は低いが、それでも典型的には罹患患者にとって日常生活における重度の合併症を伴う。
【0005】
これらの疾病および疾患は、中枢神経系、末梢神経系、および筋肉系の機能障害の結果として、認知および運動能力障害を生じさせることが共通している。運動能力障害は、筋肉細胞および筋機能の直接障害による一次的障害であるか、または、末梢神経系および/または中枢神経系、特に、錐体路、錐体外路、感覚系または小脳系による筋肉制御の障害によって生じる二次的障害であることがある。機能障害は、神経細胞および/または筋肉細胞の損傷、劣化、中毒または傷害に関係することがある。
【0006】
典型的な認知および運動機能疾病および疾患には、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)およびNMOスペクトラム症、脳梗塞、小脳疾患、小脳性運動疾患、痙性対麻痺、本態性振戦症、筋無力症および筋無力症候群またはその他の形態の神経筋疾患、筋ジストロフィー、筋炎またはその他の筋疾患、末梢神経障害、脳性麻痺、錐体外路症候群、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、その他の形態の認知症、大脳白質萎縮症、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥障害(ADD/ADHD)、DSM-5により定義される知的障害、加齢に伴う認知能力および予備力機能障害、多発性神経障害、運動ニューロン疾病ならびに筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含むが、これらには限定されない。
【0007】
最もよく知られている重症疾病および疾患には、MS、脳梗塞、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病およびALSがある。
多発性硬化症(MS)は、現在、根治不能な重度神経変性疾病である。この病気を患う人は、世界で約200万ないし300万人いる。これは、若年成人の長期の重度機能障害を引き起こす、最もよく知られている中枢神経系(CNS)の疾病である。脳および脊髄の白質内の自己分子に対するB細胞およびT細胞媒介炎症過程がこの疾病を引き起こすという考え方を裏づける根拠がある。しかし、その病因はまだよくわかっていない。MS患者と健常者の両方にミエリン反応性のT細胞が存在することがわかっている。したがって、MSにおける主な異常は、増大T細胞活性状態および低緊縮性活性化条件に至る制御機能障害に関係している可能性が高いと考えられる。MSの原因には、CNS外部の脳炎誘発性、すなわち自己免疫ミエリン固有T細胞の活性化と、その後の血液脳関門の開口、T細胞およびマクロファージ浸潤、ミクログリア活性化および脱髄が含まれる。後者は、不可逆性神経傷害を引き起こす。
【0008】
脳梗塞は、血管の閉塞により血液サポートが損なわれる虚血性脳梗塞として、または血管の傷害および出血による出血性脳梗塞として発症し得る。脳梗塞の徴候および症状には、典型的には、片側動作/運動障害または感覚障害、歩行困難、言語異常、聴覚異常、回転性めまいまたは視覚異常が含まれ得る。前記の徴候および症状は、脳梗塞の発症後、即時またはまもなく現れることが多い。症状の継続が1時間または2時間未満の場合は、一過性脳虚血発作と呼ばれる。出血性脳梗塞は、激しい頭痛も伴うことがある。脳梗塞の症状は永続的であることがある。長期の合併症には、肺炎または膀胱制御喪失が含まれ得る。脳梗塞の早期の診断および治療が予後を決定づける。現在の脳梗塞診断は、磁気映像法(MRI)スキャン、ドップラー超音波、または血管造影などの撮像技術と、医師による神経学的診察を必要とする。毎年、1000万人以上が脳梗塞に罹患している。先進国では、それでも脳梗塞ユニットにより脳梗塞の管理がある程度効率的になっている。しかし、後進国では、都市部を除きそのような専門センターは存在しない。疾患の早期発見は、患者の脳梗塞の予後に大きく影響する。したがって、有能な脳梗塞ユニットおよび病院だけでなく、脳梗塞の徴候および症状の早期発見も必要である。脳梗塞の発見のほかに、急性脳梗塞治療介入に関連する中期ないし長期機能障害予後と、自然治癒およびリハビリテーション計画による治癒とを適切に評価することも絶対的に必要である。
【0009】
アルツハイマー病は、認知症およびそれに付随する問題を伴う重度かつ致命的な神経変性疾病である。実際、アルツハイマー病は、認知症の全症例のうちの60%から70%の症例の原因である。この疾患の初期症状は短期記憶の低下である。後発症状には、家族および社会からの引きこもりなどの社会的症状と、身体機能の喪失などの身体的症状とがある。アルツハイマー病の診断は、CT、MRI、SPECTまたはPETなどの撮像技術に基づく。また、認知機能の評価のための検査を含む、神経学的評価が医師によって行われる。典型的な検査には、絵の中に示されているものに類似した絵の模写、単語の記憶、読み、および連続した数値の引き算を行うように人が指示される検査がある。通常、アルツハイマー病患者自身は自分の欠陥に気づいていないために診断には介護者が必要である。アルツハイマー病には効率的な予防維持治療または療法がまだない。しかし、効率的な疾病管理のためには、信頼性のある早期診断が有用である。アルツハイマー病は、世界で約5000万人の患者がおり、高齢者では最も頻度の高い神経変性疾患の1つであると考えられる。したがって、この疾病の適切な管理のためには、徴候および症状の早期発見が必要であるとともに、疾病の進行を監視する必要がある。
【0010】
パーキンソン病は、運動系に中心的に影響を与える中枢神経系の神経変性疾患である。典型的な症状は、静止時振戦、姿勢不安定、震え、硬直、動作緩慢、および歩行障害である。この疾病のより重度の段階では認知症および抑うつ状態と、知覚障害、自律神経系障害および睡眠障害も起こることがある。運動障害は、ドーパミン作動性神経伝達の著しい変化を起こす中脳の黒質におけるニューロンの変性によって生じる。パーキンソン病には利用可能な治療がまだない。パーキンソン病の診断は、CT、MRI、PETまたはSPECTスキャンなどの撮像方法とともに神経学的評価に基づく。この疾患の診断のための神経学的基準には、動作緩慢、硬直、静止時振戦および姿勢不安定の評価がある。最近、デジタル処理で取得した神経学的パフォーマンスパラメータを使用したパーキンソン病の評価が報告されている(Lipsmeier 2018)。
【0011】
5000万人以上がパーキンソン病を患っている。この神経変性疾病の早期かつ信頼性のある診断と、疾病進行の監視が必要である。
ハンチントン病は、中枢神経系および特に脳におけるニューロンの死に至る遺伝性疾患である。最も初期の症状は、気分または知能の軽微な問題であることが多い。しかし、その後、典型的には協調運動の全般的障害、歩行不安定が起こる。進行した段階では、非協調身体運動が明らかになり、身体能力が徐々に悪化し、やがて協調運動が困難になり、患者は発話ができなくなる。認知能力も損なわれ、衰えて認知症になることがある。ただし、具体的な症状は個別に異なる。ハンチントン病にはまだ利用可能な治療法がない。ハンチントン病は優性常染色体的に遺伝性であるため、遺伝子的にリスクがある個人、すなわちこの病気の対応する家族歴がある患者について、ハンチンチン(HTT)対立遺伝子におけるCAG反復配列のゲノム検査が推奨されている。また、この疾患の診断は、DNA分析だけでなく、脳萎縮症を判定するためのCT、MRI、PETまたはSPECTスキャンなどの撮像法と、医師による神経学的評価も必要とする。具体的には、神経学的評価は、統一ハンチントン病評価尺度システムの基準に従って行うことができる。ハンチントン病は、アルツハイマー病およびパーキンソン病よりも頻度は低い。しかし、それでも重度かつ命にかかわる合併症を伴う、かなりの割合の人が発症する認知および運動疾病および疾患である。この神経変性疾病の早期かつ信頼性のある診断と、疾病の進行の監視とが必要である。
【0012】
ALSは、随意筋収縮を制御する下位および上位運動ニューロンの細胞死に関係する神経変性疾患である。ALSは、筋肉硬直、筋肉単収縮、筋萎縮、および、筋肉の大きさが縮小することにより徐々に悪化する脱力を特徴とし、結果として歩行、発話、嚥下および呼吸が困難になる。呼吸不全が、通常、ALS患者の死亡原因である。この致死性疾病の利用可能な治療法はまだない。ALSの診断は難しく、筋力低下、筋萎縮、嚥下障害または呼吸障害、罹患筋の筋けいれんまたは硬化、および/または発語不明瞭および鼻声などの症状および徴候の考えられる他の原因を除外する必要がある。医師による神経学的評価のほかに、診断は典型的には、EMG、神経伝導速度の測定、またはMRIを必要とする。筋生検を含む臨床検査も利用可能である。
【0013】
情報処理速度の評価は、上記の認知および運動疾病および疾患のすべての臨床的評価に有用である必要がある。特に、無症状のわずかな変化の特定と、疾病修飾治療(DMT)の効果の測定とが必要である。
【0014】
生活の他の面でも、神経学的パラメータとしての情報処理速度の評価を必要とすることがある。例えば、一見したところ健常である人の認知能力の検査、例えば、教育プログラムの環境での検査も、情報処理速度の評価に基づき得る。
【0015】
符号数字モダリティ検査(SDMT、Smith 1968)または処理速度検査(PST、Rao 2017)は、情報処理速度の測定のための検査である。10年来、SDMTは患者の情報処理速度を評価するための簡単で安価な感度のよい検査として広く受け入れられ、使用されてきた。2017年、Multiple Sclerosis Outcome Assessments Consortium (MSOAC)は、MS患者の認識機能低下の標準検査としてSDMTを推奨している。現在まで、SDMTは、患者が応答を書き込む(wSDMT)書面形式、または患者が発話し(oSDMT)、調査者が応答を書き留める口頭形式で適用されている。
【0016】
しかし、検査は両方とも情報処理の異なる段階を細かく分析することができない。1ステップでの情報処理の低下した速度を、別のステップでの上昇した速度によって埋め合わせることができるため、情報処理速度全体を測定すると、情報処理速度低下に関連する疾患または疾病の誤評価および誤診につながる可能性がある。特に、認知が誤ったデータに基づいて評価される可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、生活の臨床面および社会面での情報処理速度の正確かつ効率的な評価が必要である。そのような評価は、罹患患者による日常生活中の状況で単純な方式で行われる必要がある。
【0018】
本発明の基にある技術的問題は、上記の必要に応じる手段および方法の提供において明らかになり得る。この技術的問題は、特許請求の範囲で特徴づけられ、本明細書で以下に記載されている実施形態によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、本発明は、被験者における情報処理速度を自動的に評価するコンピュータ実装方法であって、
a)前記被験者から得られた認知眼球運動活動測定値の既存データセットにおける、感覚伝達、認知および運動出力活動の少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータと、感覚伝達および運動出力活動の少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータとを判定するステップと、
b)前記第1のクオリメトリック活動パラメータと前記第2のクオリメトリック活動パラメータとを互いに比較することによって、認知の少なくとも1つの第3のクオリメトリック活動パラメータを判定するステップと、
c)前記少なくとも1つの第1、第2および第3のクオリメトリック活動パラメータに基づいて被験者における前記情報処理速度を評価するステップとを含む、コンピュータ実装方法に関する。
【0020】
一部の実施形態では、この方法は、ステップ(a)の前に、被験者によって行われる所定の活動中に、モバイルデバイスを使用して被験者から認知眼球運動活動測定値を得るステップも含み得る。しかし、典型的には、この方法は、被験者とのいかなる物理的相互作用も必要としない、被験者の認知眼球運動活動測定値の既存のデータセットに対して行われる生体外方法、すなわち、既存のデータセットに対して行われるデータ分析および評価方法である。
【0021】
本発明によるものとして言及されるこの方法は、基本的に上記ステップからなる方法、または追加ステップを含み得る方法を含む。
この方法は、認知眼球運動活動測定値のデータセットが取得された後は、被験者によってモバイルデバイス上で行われてもよい。したがって、データセットを取得するモバイルデバイスとデータセットを評価するデバイスは物理的に同一、すなわち同じデバイスであってよい。このようなモバイルデバイスは、典型的にはデータ取得手段、すなわち、本発明による方法を実施するために使用されるモバイルデバイスにおいて、物理パラメータを定量的または定性的に検出または測定し、それらを評価ユニットに送信される電子信号に変換する手段を含む、データ取得ユニットを有するものとする。データ取得ユニットは、データ取得手段、すなわち、物理パラメータを定量的または定性的に検出または測定し、それらを、モバイルデバイスから遠隔にあり、本発明による方法を実施するために使用されるデバイスに送信される電子信号に変換する手段を含む。典型的には、前記データ取得手段は、少なくとも1つのセンサを含む。モバイルデバイスにおいて複数のセンサ、すなわち少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、または少なくとも10またはそれ以上の異なるセンサを使用することができることはわかるであろう。データ取得手段として使用される典型的なセンサは、ジャイロスコープ、磁力計、加速度計、近接センサ、温度計、湿度センサ、歩数計、心拍検出器、指紋検出器、触覚センサ、ボイスレコーダ、光センサ、圧力センサ、位置データ検出器、カメラ、タイムレコーダなどのセンサである。評価ユニットは、典型的にはプロセッサとデータベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアとを含む。より典型的には、そのようなモバイルデバイスは、評価ユニットによって実施された分析の結果をユーザに提供することを可能にする、画面などのユーザインターフェースも含み得る。
【0022】
あるいは、本発明の方法は、前記データセットを取得するために使用されたモバイルデバイスに対して遠隔にあるデバイス上で実施され得る。この場合、モバイルデバイスは、データ取得手段、すなわち物理パラメータを定量的または定性的に検出または測定し、それらを前記モバイルデバイスから遠隔にあり、本発明による方法を実施するために使用されるデバイスに送信される電子信号に変換する手段を含むだけでよい。典型的には、前記データ取得手段は、少なくとも1つのセンサを含む。モバイルデバイスにおいて複数のセンサ、すなわち少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、または少なくとも10またはそれ以上の異なるセンサを使用することができることはわかるであろう。データ取得手段として使用される典型的なセンサは、ジャイロスコープ、磁力計、加速度計、近接センサ、温度計、湿度センサ、歩数計、心拍検出器、指紋検出器、触覚センサ、ボイスレコーダ、光センサ、圧力センサ、位置データ検出器、カメラ、タイムレコーダなどのセンサである。したがって、モバイルデバイスと本発明の方法を実施するために使用されるデバイスとは、物理的に異なるデバイスであってよい。この場合、モバイルデバイスは、任意のデータ送信手段によって、本発明の方法を実施するために使用されるデバイスと通信し得る。このようなデータ送信は、同軸ケーブル、ファイバケーブル、光ファイバケーブル、ツイストペアケーブル、10BASE-Tケーブルなどの永続的または一時的物理接続によって実現され得る。あるいは、データ送信は、例えば、Wi-Fi、LTE、LTE-advancedまたはBluetoothなどの、電波を使用する一時的または永続的無線接続によって実現され得る。したがって、本発明の方法を実施するために唯一の要件は、モバイルデバイスを使用して被験者から得られた認知眼球運動活動測定値のデータセットの存在である。前記データセットは、取得モバイルデバイスから、後で本発明の方法を実施するために使用されるリモートデバイスにデータを転送するために使用することができる、永続的または一時的メモリデバイスに送信または記憶されてもよい。この設定で本発明の方法を実施するリモートデバイスは、典型的には、プロセッサとデータベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアとを含む評価ユニットを含む。より典型的には、前記デバイスは、評価ユニットによって実施された分析の結果をユーザに提供することを可能にする、画面などのユーザインターフェースも含み得る。したがって、この設定におけるモバイルデバイスとリモートデバイスとは、本発明の方法を実施するためのシステムを形成する。
【0023】
本明細書で使用される「コンピュータ実装」という用語は、本発明による方法が、より典型的には、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイス、またはタブレットコンピュータまたは従来型コンピュータなどの、モバイルデバイスまたはリモートデバイスの一部である、前記評価ユニットなどのデータ処理デバイスによって自動的に実施されることを意味する。
【0024】
本明細書で使用される「情報処理速度」という用語は、情報処理の速度を示す神経学的パラメータを指す。この場合の情報処理とは、二次的に出力、すなわちスマートフォンのタッチスクリーン上でキーを押すことによる応答に至る感覚系への視覚情報の入力で開始する異なるステップからなる。このプロセスの主要なステップは、(1)求心性視覚情報の伝達、すなわち感覚伝達と、(2)認知置換作業、すなわち認知情報処理の遂行と、(3)遠心性運動出力、すなわち手の運動出力の実行である。情報処理速度は、本明細書の他の箇所で具体的に言及されているものを含む神経系疾病または疾患に関連する認知機能障害によって影響され得るか、または被験者の認知能力の指標となり得る。
【0025】
本明細書で使用される「評価する」という用語は、被験者における情報処理速度を神経学的パラメータとして評価することを指す。この用語は、情報処理速度の絶対的判定と相対的判定とを含む。絶対的判定とは、典型的には、被験者における情報処理の実際の速度を示すパラメータの判定であるものとし、一方、相対的判定とは、典型的には、基準を基準にした、例えば、被験者における前に判定された情報速度を基準にした、または基準被験者またはそのグループにおける情報処理速度を基準にした、情報処理速度の判定であるものとする。本明細書でいう情報処理速度は、本発明の方法により判定される少なくとも1つの第1、第2および第3の活動パラメータによって反映される、典型的には、求心性視覚伝達、すなわち感覚伝達と、認知置換作業の遂行、すなわち認知情報処理と、遠心性運動出力、すなわち手の運動出力の実行の、3つの主要な要因の評価を含む。当業者にはわかるであろうように、このような評価は、調査対象の被験者の100%について正しいことが好ましいが、通常、そうではないことがある。しかし、この用語は、被験者の統計的に有意な部分を適正に評価可能であることを必要とする。部分が統計的に有意であるか否かは、様々なよく知られている統計的評価手段、例えば、信頼区画の判定、確率値判定、スチューデントt検定、マンホイットニー検定などを使用して当業者によるさらなる手間なしに判定することができる。詳細は、Downy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983で見られる。典型的に想定される信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。確率値は、典型的には、0.2、0.1、0.05である。したがって、本発明の方法は、典型的には、認知眼球運動活動測定値のデータセットを評価する手段を提供することによって、神経学的パラメータとしての情報処理速度の評価を支援する。
【0026】
情報処理速度の評価は、典型的には、病状の評価、疾病修飾治療および処置(DTM)を評価する情報処理速度の無症状のわずかな変化の特定/評価、特に実生活、日常の状況および広い範囲における患者の監視、生活様式および/または療法の推奨による患者の支援、例えば臨床検査中も含めて薬効の調査、療法決定の促進および/または支援、病院管理の支援、リハビリテーション処置管理の支援、健康保険評価および管理の支援、公衆衛生管理における決定の支援、および/または、認知能力の評価一般の支援の環境で行うことができる。本発明が、これらの目的のために情報処理速度を評価するための上記の方法の使用も企図していることはわかるであろう。
【0027】
「少なくとも1つ」という用語は、本発明により1つまたは複数のクオリメトリック活動パラメータ、すなわち少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つまたは少なくとも10またはそれ以上の異なるパラメータが判定され得ることを意味する。したがって、本発明の方法により判定可能な異なるパラメータの数には上限がない。ただし、典型的には、判定される認知眼球運動活動測定値の1データセットについて1つと3つの間の異なるパラメータが存在することになる。
【0028】
本明細書で使用される「クオリメトリック活動パラメータ」という用語は、感覚伝達、認知および/または運動出力活動またはこれらの組み合わせの有効性を示すパラメータを指す。典型的には、このようなパラメータは、作業を行うことができる質、例えば、行われた作業の正しさ、および作業を行うために要する時間を示す。したがって、クオリメトリックパラメータは、典型的には、作業を遂行するのに要する遂行時間などの時間パラメータ、または、速度の向上または速度の悪化などの作業を行っているときの速度の変化を示す時間パラメータであり得る。
【0029】
本発明の方法により分析されるクオリメトリック活動パラメータは、典型的にはコンピュータ実施情報処理速度(IPS)検査から導出される。
一実施形態では、コンピュータ実装IPS検査は、作業を行う被験者にとってなじみのある(例えば初見でない数字または符号)ものではない検査符号を使用した符号マッチング作業の応答時間を測定することによって前記被験者から得られる認知眼球運動活動測定値のデータセットにおける、感覚伝達、認知および運動出力活動の少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータを判定するものとする。IPS検査に有用な検査符号は、典型的には、文字または数学概念にほとんど類似性を示さず、したがって、文化的背景、読み書き能力、または教育水準などの影響に依存しないことも必要である。したがって、このような検査符号は、子供または教育水準の低い(例えば非識字)被験者にも使用することができる。また、視覚認識を向上させるために、検査符号は、細部の少ない単純なデザイン原理に従うものとする。より典型的には、符号は、読み方向に対して平行または読み方向に対して直角な鏡軸の両側にある特徴的フィーチャ(例えば左/右、上/下フィーチャ)を有する符号対として、または、回転対称、方向配向または特徴的エッジを有する認識可能な単独符号としてデザインすることができる。典型的な検査符号については、以下の添付の「実施例」で説明し、示す。
【0030】
検査は、典型的には、ディスプレイ上で検査符号と、検査中に示される異なる検査符号を初見の数字または文字などのその他の初見符号に割り当てる凡例とを被験者に示すことによって行われる。これらの初見の数字またはその他の初見符号は、検査を行う被験者が、検査符号に割り当てられている初見の数字または初見の符号の付いたキーを押すことができるようなキーパッド上にも存在する。この作業のためのIPS検査における応答時間は、反応時間と、手の運動出力の処理時間と、認知情報処理のための時間とに依存することはわかるであろう。
【0031】
前述のこのIPS検査では、各シーケンスが少なくとも6個の異なる検査符号のマッチング作業からなる、固定検査符号マッチングシーケンスの反復を行うことができる。検査符号マッチングシーケンスは、7個以上、および典型的には、7個、8個または9個の異なる検査符号も含み得る。
【0032】
典型的には、前記反復の後、新たなランダム化された検査符号マッチングシーケンスが行われる。最初の反復回と最後の反復回との間の応答時間の向上は、被験者の認知学習能力、または標準検査応答時間およびランダム化された符号マッチングシーケンス実行における応答時間を示す。典型的には、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回の検査符号マッチングシーケンスの反復が行われ、より典型的には、3回の検査符号マッチングシーケンスが行われる。また、反復回中に、典型的には、検査符号マッチングは標準臨床SDM検査におけるように実施することができる。典型的には、情報処理速度に関係のない感覚的影響を避けるために、IPS検査を実施するために使用されるモバイルデバイス上で表示される符号の凡例、符号の大きさ、キーパッドおよびその他のパラメータは、寸法、外観、コントラストなどに関する限り一定した条件に維持される。自動IPS検査の実装形態の典型的な例については、以下の「実施例」で詳述する。
【0033】
IPS検査は、一実施形態では、ベースライン応答時間を測定することによって前記被験者から得られた認知眼球運動活動測定値のデータセットにおける、感覚伝達および運動出力活動の少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータを判定するものとする。典型的には、前記ベースライン応答時間は、一実施形態では、初見の数字または符号を、モバイルデバイスのキーパッド上の一致初見数字または符号とマッチングするための時間を測定することによって判定される。より典型的には、初見数字または符号は、検査を行う個人が多大な認知上の苦労なくマッチングを行うことができるように選択されるものとする。より典型的には、0から9の数字を初見数字として使用してよい。初見数字または符号マッチングを使用したこのようなベースライン応答時間は、主として反応時間および手の運動出力の処理時間に依存するものとする。認知作業は、小さい役割のみを演じるものとし、ベースライン応答時間に有意に寄与しないものとする。
【0034】
一実施形態では、認知の少なくとも1つの第3のクオリメトリック活動パラメータを、前記第1のクオリメトリック活動パラメータと前記第2のクオリメトリック活動パラメータを互いに比較することによって判定することができ、すなわち判定された活動パラメータを前記ベースライン応答時間によって反応時間と手の運動出力の処理時間と認知情報処理の時間にデコンボリューションすることができる。デコンボリューションには、任意の適合する数学演算を使用することができる。例えば、少なくとも1つの第3のパラメータは、前記少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータから前記少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータを減算することによって得てもよい。比較可能な性質の第1および第2のパラメータは、例えば第1および第2の時間パラメータ、第1および第2の時間比パラメータ、または第1および第2のスコアパラメータなどを使用することはわかるであろう。
【0035】
したがって、本発明の方法により分析されるクオリメトリック活動パラメータを取得するために使用されるモバイルデバイス上でのコンピュータ実装IPS検査の実行では、反応時間と、手の運動出力のための処理時間と、認知情報処理のための時間とを含む作業(上述のように異なる非初見検査符号を、検査中に示される異なる検査符号をキーパッド上でそれぞれのキーを押すことによって、初見数字または文字などの初見符号に割り当てる凡例とマッチングする検査)と、反応時間と手の運動出力のための処理時間とを含む作業(典型的には初見数字または符号をキーパッド上の一致する初見数字または符号とマッチングするベースライン作業)との応答時間の差が、本発明の方法によって分析されるデータセットの一部である1つの認知クオリメトリック活動パラメータとして判定される。また、IPS検査は、同一検査符号マッチングシーケンスの反復回の終わりに検査作業を行うのに要した応答時間と、ランダム化された符号マッチングシーケンス実行を行うのに要した応答時間とを比較することによって、学習能力を判定することも目的とする。典型的には、この時間比較も、本発明の方法によるクオリメトリック活動パラメータとして判定され得る。
【0036】
したがって、本発明は、第1の符号マッチング作業と、同一符号マッチング作業の1回または複数回、典型的には4回の反復回後の符号マッチング作業との眼球運動活動測定値のデータセットについてステップa)からc)を行うことと、前記第1の眼球活動測定値のデータセットと、反復後に取られたデータセットとについて評価された情報速度処理の差を判定することとを含む、情報処理速度評価方法も提供する。前記速度の差は、被験者の認知学習能力の指標である。速度の向上は、正常認知能力または改善された認知能力の指標であり、一方、悪化は、認知機能障害の指標である。
【0037】
また、IPS検査から導出され、認知整合性を測定する検査内変動を反映する連続結果変数として捕捉される典型的なクオリメトリック活動パラメータは、
1)(n-1からの)応答前の経過時間と、
2)(n-1からの)正解応答前の経過時間と、
3)(n-1からの)誤り応答前の経過時間と、
4)(前の正解応答からの)正解応答間の経過時間と、
5)(前の誤応答からの)誤り応答間の経過時間と、
6)作業内のワーキングメモリと学習とを評価するために符号のシーケンスに変更を加えたときの特定の符号または符号のクラスタに適用されるパラメータ1)、2)および3)
とからなるグループから選択される。より典型的には、対象IPS検査導出クオリメトリック活動パラメータは、以下のリストのうちの1つまたは複数である。
【0038】
1.正解応答数
a.90秒間の全正解応答(CR)の総数
b.0秒から30秒までの時間の正解応答数(CR0-30
c.30秒から60秒までの時間の正確応答数(CR30-60
d.60秒から90秒までの時間の正解応答数(CR60-90
e.0秒から45秒までの時間の正解応答数(CR0-45
f.45秒から90秒までの時間の正解応答数(CR45-90
g.i秒からj秒までの時間の正解応答数(CRi-j)、ただしi、jは1秒と90秒の間であり、i<jである。
【0039】
2.誤り数
a.90秒間の誤り(E)の総数
b.0秒から30秒までの時間の誤り数(E0-30
c.30秒から60秒までの時間の誤り数(E30-60
d.60秒から90秒までの時間の誤り数(E60-90
e.0秒から45秒までの時間の誤り数(E0-45
f.45秒から90秒までの時間の誤り数(E45-90
g.i秒からj秒までの時間の誤り数(Ei-j)、ただしi、jは1秒と90秒の間であり、i<jである。
【0040】
3.応答数
a.90秒間の全応答(R)の総数
b.0秒から30秒までの時間の応答数(R0-30
c.30秒から60秒までの時間の応答数(R30-60
d.60秒から90秒までの時間の応答数(R60-90
e.0秒から45秒までの時間の応答数(R0-45
f.45秒から90秒までの時間の応答数(R45-90
【0041】
4.正解率
a.90秒にわたる時間の平均正解率(AR):AR=CR/R
b.0秒から30秒までの時間の平均正解率:AR0-30=CR0-30/R0-30
c.30秒から60秒までの時間の平均正解率:AR30-60=CR30-60/R30-60
d.60秒から90秒までの時間の平均正解率:AR60-90=CR60-90/R60-90
e.0秒から45秒までの時間の平均正解率:AR0-45=CR0-45/R0-45
f.45秒から90秒までの時間の平均正解率:AR45-90=CR45-90/R45-90
【0042】
5.作業終了疲労指数
a.最終30秒間の速度疲労指数(SFI):SFI60-90=CR60-90/最大(CR0-30,CR30-60
b.最終45秒間のSFI:SFI45-90=CR45-90/CR0-45
c.最終30秒間の精度疲労指数(AFI):AFI60-90=AR60-90/最大(AR0-30,AR30-60
d.最終45秒間のAFI:AFI45-90=AR45-90/AR0-45
【0043】
6.連続正解応答の最長シーケンス
a.90秒間の全連続正解応答(CCR)の最長シーケンス内の正解応答数
b.0秒から30秒までの時間の連続正解応答の最長シーケンス内の正解応答数(CCR0-30
c.30秒から60秒までの時間の連続正解応答の最長シーケンス内の正解応答数(CCR30-60
d.60秒から90秒までの時間の連続正解応答の最長シーケンス内の正解応答数(CCR60-90
e.0秒から45秒までの時間の連続正解応答の最長シーケンス内の正解応答数(CCR0-45
f.45秒から90秒までの時間の連続正解応答の最長シーケンス内の正解応答数(CCR45-90
【0044】
7.応答間の時間間隔
a.2つの連続する応答間の間隔(G)時間の連続変数分析
b.90秒にわたる時間の2つの連続する応答間の最大間隔(GM)経過時間
c.0秒から30秒までの時間の2つの連続する応答間の最大間隔経過時間(GM0-30
d.30秒から60秒までの時間の2つの連続する応答間の最大間隔経過時間(GM30-60
e.60秒から90秒までの時間の2つの連続する応答間の最大間隔経過時間(GM60-90
f.0秒から45秒までの時間の2つの連続する応答間の最大間隔経過時間(GM0-45
g.45秒から90秒までの時間の2つの連続する応答間の最大間隔経過時間(GM45-90
【0045】
8.正解応答間の時間間隔
a.2つの連続する正解応答間の間隔(Gc)時間の連続変数分析
b.90秒にわたる時間の2つの連続する正解応答間の最大間隔経過時間(GcM)
c.0秒から30秒までの時間の2つの連続する正解応答間の最大間隔経過時間(GcM0-30
d.30秒から60秒までの時間の2つの連続する正解応答間の最大間隔経過時間(GcM30-60
e.60秒から90秒までの時間の2つの連続する正解応答間の最大間隔経過時間(GcM60-90
f.0秒から45秒までの時間の2つの連続する正解応答間の最大間隔経過時間(GcM0-45
g.45秒から90秒までの時間の2つの連続する正解応答間の最大間隔経過時間(GcM45-90
【0046】
9.IPS検査中に捕捉された微細指運動技能機能パラメータ
a.90秒にわたる時間のタイピング応答中の、タッチスクリーン接触の存続期間(Tts)、タッチスクリーン接触と最近接目標数字キーの中心とのずれ(Dts)、およびミスタイプタッチスクリーン接触(Mts)(すなわちキーヒットを引き起こさないか、またはキーヒットを引き起こすが画面上の二次的スライドを伴う接触)の連続変数分析
b.0秒から30秒までの時間のエポックごとのそれぞれの変数:Tts0-30、Dts0-30、Mts0-30
c.30秒から60秒までの時間のエポックごとのそれぞれの変数:Tts30-60、Dts30-60、Mts30-60
d.60秒から90秒までの時間のエポックごとのそれぞれの変数:Tts60-90、Dts60-90、Mts60-90
e.0秒から45秒までの時間のエポックごとのそれぞれの変数:Tts0-45、Dts0-45、Mts0-45
f.45秒から90秒までの時間のエポックごとのそれぞれの変数:Tts45-90、Dts45-90、Mts45-90
【0047】
10.単一符号または符号のクラスタ別のパフォーマンスの符号固有分析
a.個別の9個の符号のそれぞれとそのすべての可能なクラスタ化組み合わせのCR
b.個別の9個の符号のそれぞれとそのすべての可能なクラスタ化組み合わせのAR
c.個別の9個の符号のそれぞれとそのすべての可能なクラスタ化組み合わせの前の応答から記録された応答までの間隔時間(G)
d.個別の9個の符号と個別の9個の数字の応答の誤置換の種類を利用して偏好誤応答を認識するためのパターン分析
【0048】
11.学習および認知予備力分析
a.IPS検査の連続した実行間のCR(#9で説明した全体および符号固有)におけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
b.IPS検査の連続した実行間のAR(#9で説明した全体および符号固有)におけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
c.IPS検査の連続した実行間の平均GおよびGM(#9で説明した全体および符号固有)におけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
d.IPS検査の連続した実行間の平均GcおよびGcM(#9で説明した全体および符号固有)におけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
e.IPS検査の連続した実行間のSFI60-90およびSFI45-90におけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
f.IPS検査の連続した実行間のAFI60-90およびAFI45-90におけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
g.IPS検査の連続した実行間のTtsにおけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
h.IPS検査の連続した実行間のDtsにおけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
i.IPS検査の連続した実行間のMtsにおけるベースライン(検査の最初の2回の実行からの平均パフォーマンスと定義されるベースライン)からの変化
本明細書で使用される「眼球運動活動測定値のデータセット」という用語は、認知眼球運動活動測定中に被験者からモバイルデバイスによって取得されたデータの全体、またはクオリメトリック活動パラメータを導出するのに有用な前記データの任意のサブセットを指す。詳細については、本明細書の他の箇所にも記載されている。特に、本発明により使用される「認知眼球運動活動測定値のデータセット」という用語に関連した活動測定値は、後述の添付の「実施例」で説明されている情報処理速度(IPS)検査の実施中のデータセットの測定値を含む。本発明の方法の一実施形態では、認知眼球運動活動測定値の前記データセットは、モバイルデバイス上で行われた情報処理速度(IPS)検査からのデータを含む。典型的には、前記モバイルデバイスは、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイス、またはタブレットコンピュータに含まれる。データセットは、既存のデータセットであり、これは、本発明の方法が典型的には被験者からのデータ取得を必要としないことを意味する。
【0049】
本明細書で使用される「被験者」という用語は、動物を指し、典型的には哺乳類を指す。特に、被験者は霊長類であり、最も典型的には人間である。本発明による被験者は、本明細書の他の箇所に記載されているような疾病または疾患に伴って起こり得る認知機能障害に罹患している場合があるか、または罹患していると疑われるものとする。あるいは、被験者は、その認知能力を検査される健常被験者であってもよい。
【0050】
典型的には、被験者における情報処理速度を評価することは、判定されたクオリメトリック活動パラメータを基準と比較し、それによって情報処理速度が評価されることになることを含む。
【0051】
本明細書で使用される「基準」という用語は、情報処理速度の評価を可能にする、判定されたクオリメトリック活動パラメータの弁別値を指す。このような弁別値は、所定の情報処理速度、例えば、被験者について期待される算術平均または平均情報処理速度、被験者において事前に判定された情報処理速度、または認知機能障害または健常な状態を示す情報処理速度の値を示す、クオリメトリック活動パラメータの値であり得る。本発明の方法の一実施形態では、前記基準は、基準被験者またはそのグループから得られた認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出された、本明細書で言及されている少なくとも1つのクオリメトリック活動パラメータである。
【0052】
一実施形態では、本明細書でいう基準クオリメトリックパラメータとは、評価済み情報処理速度を有する1人または複数の被験者からの眼球運動活動測定値のデータセットから導出され得る。典型的には、前記評価済み情報処理速度は、正常範囲、すなわち、健常被験者の範囲の情報処理速度、または認知機能障害に関連付けられた情報処理速度であり得る。
【0053】
したがって、一実施形態では、基準クオリメトリックパラメータは、正常情報処理速度を有することがわかっている被験者または被験者のグループの眼球運動活動測定値のデータセットから導出される。典型的には、そのような基準クオリメトリック活動パラメータと比較して実質的に同一であるか、または改善されている被験者からのクオリメトリック活動パラメータは、正常情報処理速度を示す。典型的には、前記正常情報処理速度は、被験者における健常状態に関連付けられる。
【0054】
さらに、一実施形態では、基準クオリメトリックパラメータは、障害のある情報処理速度を有することがわかっている被験者または被験者のグループの眼球運動活動測定値のデータセットから導出される。典型的には、そのような基準クオリメトリック活動パラメータと比較して実質的に同一であるか、または悪化した被験者からのクオリメトリック活動パラメータは、障害のある情報処理速度を示す。典型的には、前記障害のある情報処理速度は、前記被験者における認知機能障害に関連付けられる。より典型的には、被験者は、本明細書の他の箇所で言及されている疾病または疾患のうちの1つまたは複数に罹患している可能性がある。
【0055】
また、基準クオリメトリック活動パラメータは、より早期の段階に得られた被験者の眼球運動活動測定値のデータセットから導出され得る。典型的には、悪化した、より後の段階で被験者から判定された情報処理速度は、被験者における情報処理速度の悪化を示し、それによって、それに関連付けられた既存の認知機能障害および/または疾病または疾患の悪化、またはそれに関連付けられた認知機能障害および/または疾病または疾患の発症を示す。また、典型的には、改善している、より後の段階で被験者から判定された情報処理速度は、被験者における情報処理速度の改善を示し、それによって、それに関連付けられた既存の認知機能障害および/または疾病または疾患の改善を示す。変化していない情報処理速度は、典型的には、変化していない状態を示す。
【0056】
本明細書で言及されている、判定された少なくとも1つのクオリメトリックパラメータを基準と比較することは、コンピュータなどのデータ処理デバイス上で実装される自動比較アルゴリズムによって実現可能である。判定されたパラメータの値と、本明細書の他の箇所で詳細に明記されているような前記判定されたパラメータの基準とが互いに比較される。比較の結果、判定されたパラメータが基準と同一であるか異なっているか、または特定の関係にあるか(例えば基準より大きいかまたは低いか)を評価することができる。また、判定されたパラメータと基準との相違の程度を判定することによって、被験者における情報処理速度の定量評価が可能であるものとする。
【0057】
また、1つまたは複数のパラメータは、モバイルデバイスに記憶されるかまたは被験者に典型的にはリアルタイムで表示されてもよい。記憶されたパラメータは、タイムコースまたは同様の評価尺度にまとめることができる。このような評価済みパラメータは、本発明の方法により調査された活動能力のフィードバックとして被験者に提供することができる。典型的には、このようなフィードバックは、モバイルデバイスの適切なディスプレイ上に電子形態で提供可能であり、上記のような療法またはリハビリテーション処置の推奨に連関させることができる。
【0058】
また、評価済みパラメータは、診療所または病院にいる医師および、臨床検査の環境における診断検査の開発者または医薬品開発者、健康保険提供者、または公共もしくは民間医療システムのその他の利害関係者など、他の医療提供者にも提供され得る。
【0059】
典型的には、被験者における情報処理速度の本発明の評価方法は、以下のように実施され得る。
第1に、被験者から得られた認知眼球運動活動測定値の既存のデータセット内の、感覚伝達、認知および運動出力活動の少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータと、感覚伝達および運動出力活動の少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータとが判定される。前記データセットは、データセットから前記少なくとも1つのパラメータを導出するために、モバイルデバイスからコンピュータなどの評価デバイスに送信されるかまたはモバイルデバイス内で処理されてもよい。
【0060】
第2に、例えば、モバイルデバイスのデータプロセッサによって、または評価デバイス、例えばコンピュータによって実行されるコンピュータ実装比較アルゴリズムを使用して、前記第1のクオリメトリック活動パラメータと前記第2のクオリメトリック活動パラメータとを互いに比較することによって、認知の少なくとも1つの第3のクオリメトリック活動パラメータが判定され得る。
【0061】
第3に、少なくとも1つの第1、第2および第3の活動パラメータを提供し、被験者における情報処理速度へのそのそれぞれの寄与を判定することによって、被験者における情報処理速度が評価される。前記の結果は、典型的には、被験者または医師などの他の人物に提供される。
【0062】
あるいは、薬物療法などの療法、または特定の生活様式、例えば特定の栄養学的食事療法の推奨が、被験者またはその他の人物に自動的に提供される。このために、確定された評価が、データベース内の異なる評価に割り当てられた推奨と比較される。確定された評価が、記憶された割り当てられた評価のうちの1つと一致したら、確定された評価と一致する記憶されている評価への推奨の割り当てにより、適合する推奨が特定され得る。典型的な推奨は、本明細書の他の箇所に記載されている治療処置に関係する。
【0063】
さらに、上記に代えて、または上記に加えて、評価の基となる少なくとも1つのパラメータがモバイルデバイスに記憶される。典型的には、これは、本明細書の他の箇所に明記されているようなリハビリテーションまたは療法の推奨を電子的に支援することができる、モバイルデバイス上で実装されたタイムコースアセンブリングアルゴリズムなどの適合する評価手段によって、他の記憶されているパラメータとともに評価されるものとする。
【0064】
本発明は、上記に鑑みて、一実施形態では、被験者における情報処理速度を評価する方法も企図し、この方法は、
a)モバイルデバイスを使用して前記被験者から眼球活動測定値のデータセットを得るステップと、
b)前記被験者から得られた認知眼球運動活動測定値の前記データセットにおいて、感覚伝達、認知および運動出力活動の少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータと、感覚伝達および運動出力活動の少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータとを判定することと、
c)前記第1のクオリメトリック活動パラメータと第2のクオリメトリック活動パラメータとを互いに比較することによって、認知の少なくとも1つの第3のクオリメトリック活動パラメータを判定することと、
d)前記少なくとも1つの第1、第2および第3のクオリメトリック活動パラメータに基づいて被験者における情報処理速度を評価することとを含む。
【0065】
以下で使用される「有する」、「備える」もしくは「含む」またはこれらのあらゆる文法的変形は、非排他的に使用されている。したがって、これらの用語は、これらの用語で提示されている特徴の他に、その文脈で説明されている実体にさらなる特徴が存在しない状況と、1つまたは複数のさらなる特徴が存在する状況の両方を指し得る。一例として、「AがBを有する」、「AがBを備える」、および「AがBを含む」という表現は、AにB以外の他の要素が存在しない状況(すなわち、AがもっぱらBのみからなる状況)と、実体AにB以外に要素C、または要素CとD、またはそれ以上の要素など、1つまたは複数のさらなる要素が存在する状況の両方を指し得る。
【0066】
また、以下で使用される「具体的には」、「より具体的には」、「詳細には」、「より詳細には」、「典型的には」、および「より典型的には」という用語または類似の用語は、代替の可能性を制限することなく追加/代替の特徴とともに使用される。したがって、これらの用語により提示されている特徴は、追加/代替の特徴であり、いかなる点でも特許請求の範囲を制限することは意図されていない。当業者にはわかるように、本発明は、代替の特徴を使用して行われてもよい。同様に、「本発明の一実施形態では」という表現または同様の表現によって提示されている特徴は、本発明の代替の実施形態に関するいかなる制限もなく、本発明の範囲に関するいかなる制限もなく、そのように提示されている特徴を本発明の他の追加/代替または非追加/代替の特徴と組み合わせる可能性に関するいかなる制限もなしに、追加/代替の特徴であることが意図されている。
【0067】
符号数字モダリティ検査(SDMT、Smith 1968、1982)または処理速度検査(PST、Rao 2017)は、検査パフォーマンス全体における反応時間または運動出力時間の相対的重みのいかなる測定も考慮に入れていない。本発明の方法によると、ベースラインと、認知および情報処理速度と、眼球運動および運動機能クオリメトリック活動パラメータとの判定に、コンピュータ実装IPS検査が適用されることになるため有利である。これにより、モバイルデバイス上で作業を行うための応答時間を細かく分析することができ、応答に関与している神経系の個別の部分の寄与を判定することができる。このことは特に有利であるが、それは、従来のSDMTでは、神経系のうちの疾病に冒されている部分もしくは機能が、疾病に冒されていない部分または機能によって埋め合わせされることがあることがわかっているためである。それによりSDMTデータに基づいて偽陰性診断が確定される可能性がある。例えば、MSなどの疾病に罹患している患者が、優れた認知および情報処理速度によって不良な手の運動パフォーマンスを埋め合わせし、または不良な手の運動パフォーマンスが良好な情報処理速度を隠す可能性がある。SDMT作業を行うための全体的応答時間を測定した場合、このような患者は、認知機能障害に罹っているにもかかわらず健常な被験者よりも悪くないかまたはわずかにしか悪くないことがある。本発明の方法によると、情報処理速度の擬陽性評価または偽陰性評価、およびその結果として、認知機能障害に関する誤った臨床診断を回避することができる。
【0068】
したがって、本発明の方法は、
- 病状の評価、
- 情報処理速度の無症状のわずかな変化の特定/評価、
- 疾病修飾療法および治療(DTM)の評価、
- 特に、実生活、日常の状況および広い範囲における患者の監視、
- 生活様式および/または療法の推奨による患者の支援、
- 例えば臨床検査時においても薬効を調査すること、
- 療法決定の促進および/または支援、
- 病院管理の支援、
- リハビリテーション処置管理の支援、
- 医療保険評価および管理の支援、
- 公衆衛生管理における決定の支援、および/または、
- 認知能力一般の評価
のために使用可能である。
【0069】
以下では、本発明の有利な方法に基づくさらなる実施形態について説明する。上記の用語の説明および定義が準用される。
本発明は、さらに、認知機能障害に罹患していると疑われる被験者における認知機能障害を判定する方法に関する方法であって、
i)上記の方法を実施することによって情報処理速度を判定することと、
ii)判定された情報処理速度に基づいて認知機能障害を判定することとを含む方法に関する。
【0070】
また、上記方法は、典型的にはコンピュータ実装方式で自動的に実施される。
本明細書で使用される「認知機能障害」という用語は、中枢神経系または末梢神経系の認知機能に起因するかまたはそれに伴う認知のあらゆる障害を指す。典型的には、認知機能障害は、錐体路、錐体外路、感覚系もしくは小脳系を冒す中枢神経系および/もしくは末梢神経系に関係する認知および運動疾病もしくは疾患、または神経筋疾病もしくは筋疾病もしくは筋疾患に関連付けられる。より典型的には、前記認知および運動疾病または疾患は、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)およびNMOスペクトラム症、脳梗塞、小脳疾患、小脳性運動疾患、痙性対麻痺、本態性振戦症、筋無力症および筋無力症候群またはその他の形態の神経筋障害、筋ジストロフィー、筋炎またはその他の筋疾患、末梢神経障害、脳性麻痺、錐体外路症候群、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、その他の形態の認知症、大脳白質萎縮症、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥障害(ADD/ADHD)、DSM-5によって定義される知的障害、加齢に伴う認知能力および予備力機能障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性神経障害、運動ニューロン疾病ならびに筋萎縮性側索硬化症(ALS)からなるグループから選択される。
【0071】
認知機能障害を判定するための本発明の上記の方法では、第1のステップにおいて、本明細書の他の箇所に記載の情報処理速度評価方法を使用して情報処理速度が判定される。
後続のステップで、上記情報処理速度に基づいて認知機能障害が判定される。典型的には、前記判定は、判定された情報処理速度またはその基となる被験者からのクオリメトリック活動パラメータを、本明細書の他の箇所に記載されているような1つまたは複数の基準と比較するステップを含み得る。情報処理速度の評価が、情報処理速度が損なわれていることを示す場合、これは典型的には認知機能障害の指標である。情報処理速度の評価が、情報処理速度が正常範囲にあることを示す場合、これは典型的には認知機能障害がないことを示す指標である。
【0072】
認知機能障害を判定する上記方法の一実施形態では、前記基準は、被験者からステップi)で言及されている認知眼球運動活動測定値のデータセットが得られた時点より前の時点における前記被験者の認知眼球運動測定値のデータセットから導出される。
【0073】
より典型的には、判定された少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータと基準との間の悪化は、認知機能障害を示す。
認知機能障害を判定する上記方法の一実施形態では、前記基準は、認知機能障害に罹患しているとわかっている被験者またはそのグループの認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される。
【0074】
より典型的には、基準と比較して実質的に同一である判定された少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータは、認知機能障害に罹患している被験者を示す。
【0075】
認知機能障害を判定する上記方法の一実施形態では、前記基準は、認知機能障害に罹患していないことがわかっている被験者または被験者のグループの認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される。
【0076】
より典型的には、基準と比較して悪化している判定された少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータは、認知機能障害に罹患している被験者を示す。
【0077】
本発明は、コンピュータプログラム、コンピュータプログラム製品、または前記コンピュータプログラムが有形に組み込まれたコンピュータ可読記憶媒体であって、コンピュータプログラムはデータ処理デバイスまたはコンピュータ上で実行されると上記のような本発明の方法を実施する命令を含む、コンピュータプログラム、コンピュータプログラム製品またはコンピュータ可読記憶媒体も企図する。具体的には、本発明は、
- 少なくとも1つのプロセッサを含むコンピュータまたはコンピュータネットワークであって、プロセッサは本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するようになされた、コンピュータまたはコンピュータネットワークと、
- コンピュータロード可能データ構造がコンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うようになされたコンピュータロード可能データ構造と、
- コンピュータスクリプトであって、コンピュータプログラムが、コンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うようになされている、コンピュータスクリプトと、
- コンピュータプログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うプログラム手段を含むコンピュータプログラムと、
- 前記実施形態によるプログラム手段を含むコンピュータプログラムであって、プログラム手段はコンピュータにとって読み取り可能な記憶媒体に記憶されている、コンピュータプログラムと、
- 記憶媒体であって、記憶媒体上にデータ構造が記憶され、データ構造は、コンピュータの、またはコンピュータネットワークのメインメモリおよび/または作業用記憶域にロードされた後、本明細書に記載の実施形態の1つによる方法を行うようになされた、記憶媒体と、
- プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品であって、プログラムコード手段は、プログラムコード手段がコンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行される場合に本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うために記憶媒体に記憶可能であるかまたは記憶媒体に記憶されているコンピュータプログラム製品と、
- モバイルを使用して被験者から得られた眼球活動測定値のデータセットを含む典型的には符号化されたデータストリーム信号と、
- モバイルを使用して被験者から得られた眼球運動活動測定値のデータセットのデータセットから導出された少なくとも1つの少なくとも1つのクオリメトリックパラメータを含む、典型的には符号化されたデータストリーム信号とをさらに含む。
【0078】
また、本発明は認知機能障害に罹患していると疑われる被験者において認知機能障害を判定する上記方法のステップと、認知機能障害と判定された場合に療法を推奨するさらなるステップとを含む、認知機能障害の療法を推奨する方法に関する。
【0079】
本明細書で使用される「認知機能障害の療法」という用語は、薬物療法、外科手術、心理療法、物理療法などを含むあらゆる種類の医学的治療を指す。この用語は、生活様式の推奨、リハビリテーション処置および栄養学的食事療法の推奨も包含する。典型的には、この方法は、薬物療法、および具体的には、認知および運動疾病または疾患の治療に有用であることが知られている薬物による療法の推奨を包含する。このような薬物は、インターフェロンベータ-1a、インターフェロンベータ-1b、グラチマラー酢酸塩、ミトキサントロン、ナタリズマブ、フィンゴリモド、テリフルノミド、フマル酸ジメチル、アレムツズマブ、ダクリズマブ、遺伝子組み換え型組織プラスミノゲン活性化因子などの血栓溶解剤、タクリン、リバスチグミン、ガランタミンまたはドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、メマンチンなどのNMDA受容体作動薬、非ステロイド性抗炎症薬、レボドパ、トルカポンまたはエンタカポンなどのドーパカルボキシラーゼ阻害剤、ブロモクリプチン、ペルゴリド、プラミペキソール、ロピニロール、ピリベジル、カベルゴリン、アポモルヒネまたはリスリドなどのドーパミン拮抗薬、サフィナミド、セレギリンまたはラサギリン、アマンタジン、抗コリン作用薬、テトラベナジン、ニューロレプチック、ベンゾジアゼピン、およびリルゾールなどのMAO-B阻害剤などからなるグループから選択される1つまたは複数の薬物による療法であり得る。
【0080】
また、上記方法は、さらに一実施形態では、推奨される療法を被験者に適用する追加ステップを含み得る。
また、本発明は、認知機能障害に罹患していると疑われる被験者において認知機能障害を判定する上記方法のステップと、認知機能障害が改善している場合に療法反応を判定するか、または認知機能障害が悪化しているかもしくは変化しないままである場合に反応の失敗を判定するさらなるステップを含む、認知機能障害に対する療法の効果を判定する方法に関する。
【0081】
本発明により言及する改善とは、認知機能障害のあらゆる改善に関する。同様に、悪化とは、認知機能障害のあらゆる悪化を意味する。
また、本発明は、所定監視期間中に、認知機能障害に罹患していると疑われる被験者における認知機能障害を判定する方法のステップを少なくとも2回行うことによって、被験者における認知機能障害が改善しているか、悪化しているか、または変化していないかを判定することを含む、被験者における認知機能障害を監視する方法に関する。
【0082】
本明細書で使用される「所定監視期間」という用語は、少なくとも2回の眼球運動活動測定が行われる所定期間を指す。典型的には、そのような期間は、個々の被験者について予測される疾病または疾患の進行の経過に応じて、数日から数週間、数カ月、数年までの範囲であり得る。監視期間内に、通常は監視期間の開始時点である第1の時点と少なくとも1つのさらなる時点とにおいて活動測定値およびパラメータが判定される。しかし、活動測定およびパラメータ判定のための複数のさらなる時点が存在することも可能である。いずれにしても、第1の時点の眼球運動活動測定から判定される活動パラメータが、その後の時点のそのようなパラメータと比較される。このような比較に基づいて、所定監視期間中の悪化、改善または無変化の認知機能障害を判定するために使用される定量的相違が特定され得る。
【0083】
本発明は、モバイルデバイスであって、プロセッサと、少なくとも1つのセンサと、データベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると、本発明の上記方法のうちのいずれか1つの方法を実施するソフトウェアとを含むモバイルデバイスも企図する。
【0084】
本明細書で使用される「モバイルデバイス」という用語は、眼球運動活動測定値のデータセットを得るのに適合するセンサとデータ記録装置とを含む任意のポータブルデバイスを指す。典型的には、モバイルデバイスは、眼球運動活動を測定するためのセンサを含む。これは、データプロセッサと、記憶ユニットと、モバイルデバイス上で活動検査を電子的にシミュレーションするためのディスプレイも必要とし得る。また、被験者の活動からデータが記録され、モバイルデバイス自体で、または第2のデバイス上で本発明の方法により評価されることになるデータセットに編集されるものとする。想定される特定の設定によっては、モバイルデバイスは、取得されたデータセットをモバイルデバイスから1つまたは複数のさらなるデバイスに転送するためにデータ転送装置を備える必要がある場合がある。本発明によるモバイルデバイスとして特によく適するのは、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイスまたはタブレットコンピュータである。あるいは、データ記録装置および、任意により処理装置を備えたポータブルセンサが使用されてもよい。
【0085】
本発明は、少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスとリモートデバイスとを含むシステムであって、リモートデバイスは、プロセッサとデータベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の上記方法のうちのいずれか1つの方法を実施するソフトウェアとを含み、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとが互いに動作可能にリンクされている、システムをさらに企図する。
【0086】
「互いに動作可能にリンクされている」とは、これらのデバイスが、一方のデバイスから他方のデバイスへのデータ転送を可能にするように接続されるものと理解すべきである。典型的には、取得されたデータが処理のためにリモートデバイスに送信され得るように、少なくとも被験者からデータを取得するモバイルデバイスが本発明の方法のステップを実行するリモートデバイスに接続される。しかし、リモートデバイスもモバイルデバイスに、その正常な機能を制御または監視する信号などのデータを送信してもよい。モバイルデバイスとリモートデバイスとの間の接続は、同軸ケーブル、ファイバケーブル、光ファイバケーブルまたはツイストペアケーブル、10BASE-Tケーブルなどの永続的または一時的物理接続によって実現され得る。あるいは、接続は、例えば、Wi-Fi、LTE、LTE-advancedまたはBluetoothなどの電波を使用する一時的または永続的無線接続によって実現され得る。詳細は、本明細書の他の箇所に記載されている場合がある。データ取得のために、モバイルデバイスは、画面などのユーザインターフェースまたはデータ取得のためのその他の装置を備え得る。典型的には、活動測定は、モバイルデバイスが備える画面上で行うことができ、この場合、前記画面は例えば5.1インチ画面を含む、異なる大きさを有し得ることはわかるであろう。
【0087】
また、本発明のモバイルデバイスまたはシステムは、被験者における情報処理速度および/または認知機能障害の評価での使用のために提供される。
また、本発明のモバイルデバイスまたはシステムは、認知機能障害に罹患している被験者の、特に実生活、日常の状況および広い範囲における監視において使用するため、または例えば臨床試験中にも認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者における薬効を調査するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者のための療法決定を促進および/もしくは支援するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者に関する病院管理、リハビリテーション処置管理、健康保険評価および管理の支援ならびに/もしくは公衆衛生管理における決定の支援のため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者を生活様式および/もしくは療法の推奨により支援するためにも提供される。
【0088】
さらなる特定の実施形態を以下のように列挙する。
実施形態1:被験者における情報処理速度を自動的に評価するコンピュータ実装方法であって、
a)前記被験者から得られた認知眼球運動活動測定値の既存データセットにおける、感覚伝達、認知および運動出力活動の少なくとも1つの第1のクオリメトリック活動パラメータと、感覚伝達および運動出力活動の少なくとも1つの第2のクオリメトリック活動パラメータとを判定するステップと、
b)前記第1のクオリメトリック活動パラメータと前記第2のクオリメトリック活動パラメータとを互いに比較することによって、認知の少なくとも1つの第3のクオリメトリック活動パラメータを判定するステップと、
c)前記少なくとも1つの第1、第2および第3のクオリメトリック活動パラメータに基づいて被験者における前記情報処理速度を評価するステップとを含む、コンピュータ実装方法。
【0089】
実施形態2:被験者における前記情報処理速度を評価する前記ステップは、判定された前記クオリメトリック活動パラメータを基準と比較するステップを含み、それによって前記情報処理速度が評価されることになる、実施形態2の方法。
【0090】
実施形態3:認知眼球活動測定値の前記データセットは、モバイルデバイス上で行われた情報処理速度(IPS)検査からのデータを含む、実施形態1または実施形態2の方法。
【0091】
実施形態4:前記モバイルデバイスは、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイス、またはタブレットコンピュータに含まれる、実施形態3の方法。
【0092】
実施形態5:前記基準は、基準被験者またはそのグループから得られた認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出された少なくとも1つの第1および第2、および/または第3のクオリメトリック活動パラメータである、実施形態2から実施形態4のいずれか1つの方法。
【0093】
実施形態6:前記情報処理速度を評価する前記ステップは、評価された前記情報処理速度に基づいて、病状の評価、疾病修飾療法および治療(DTM)を評価する情報処理速度における無症状のわずかな変化の特定/評価、特に実生活、日常の状況および広い範囲における患者の監視、生活様式および/または療法の推奨による患者の支援、例えば臨床検査中も含めて薬効の調査、療法決定の促進および/または支援、病院管理の支援、リハビリテーション処置管理の支援、健康保険評価および管理の支援、公衆衛生管理における決定の支援、および/または、認知能力の評価一般の支援をさらに含む、実施形態1から5のいずれか1つの方法。
【0094】
実施形態7:認知機能障害に罹患していると疑われる被験者における認知機能障害を判定する方法であって、
i)実施形態2から実施形態5のいずれか1つの方法を実施することによって情報処理速度を判定するステップと、
ii)判定された前記情報処理速度に基づいて前記認知機能障害を判定するステップとを含む方法。
【0095】
実施形態8:前記基準は、ステップi)で言及されている認知眼球運動活動測定値の前記データセットが前記被験者から得られた時点より前の時点における前記被験者の認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される、実施形態7の方法。
【0096】
実施形態9:判定された前記少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータと前記基準との間の悪化は、認知機能障害を示す、実施形態8の方法。
【0097】
実施形態10:前記基準は、認知機能障害に罹患しているとわかっている被験者またはそのグループの認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される、実施形態7の方法。
【0098】
実施形態11:前記基準と比較して実質的に同一である判定された少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータは、認知機能障害に罹患している被験者を示す、実施形態10の方法。
【0099】
実施形態12:前記基準は、認知機能障害に罹患していないことがわかっている被験者またはそのグループの認知眼球運動活動測定値のデータセットから導出される、実施形態7の方法。
【0100】
実施形態13:前記基準と比較して悪化している判定された少なくとも1つの第1、第2および/または第3のクオリメトリック活動パラメータは、認知機能障害に罹患している被験者を示す、実施形態12の方法。
【0101】
実施形態14:前記認知機能障害は、錐体路、錐体外路、感覚系もしくは小脳系を冒す中枢神経系および/もしくは末梢神経系に関係する認知および運動疾病もしくは疾患、または神経筋疾病もしくは筋疾病もしくは筋疾患に関連付けられる、実施形態7から実施形態13のいずれか1つの方法。
【0102】
実施形態15:前記認知および運動疾病または疾患は、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)およびNMOスペクトラム症、脳梗塞、小脳疾患、小脳性運動疾患、痙性対麻痺、本態性振戦症、筋無力症および筋無力症候群またはその他の形態の神経筋障害、筋ジストロフィー、筋炎またはその他の筋疾患、末梢神経障害、脳性麻痺、錐体外路症候群、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、その他の形態の認知症、大脳白質萎縮症、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥障害(ADD/ADHD)、DSM-5により定義される知的障害、加齢に伴う認知能力および予備力機能障害、パーキンソン病、ハンチントン病、多発性神経障害、運動ニューロン疾病ならびに筋萎縮性側索硬化症(ALS)からなるグループから選択される、実施形態14の方法。
【0103】
実施形態16:認知機能障害の療法を推奨する方法であって、実施形態7から実施形態15のいずれか1つの方法のステップと、認知機能障害が判定された場合に前記療法を推奨するさらなるステップとを含む方法。
【0104】
実施形態17:認知機能障害に対する療法の有効性を判定する方法であって、実施形態7から実施形態15のいずれか1つの方法のステップと、前記認知機能障害が改善している場合に療法反応を判定するか、または前記認知機能障害が悪化しているかもしくは変化しないままである場合に反応の失敗を判定するさらなるステップとを含む方法。
【0105】
実施形態18:被験者における認知機能障害を監視する方法であって、所定監視期間中に実施形態7から実施形態15のいずれか1つの方法のステップを少なくとも2回実施することによって、被験者において前記認知機能障害が改善しているか、悪化しているか、または変化しないままであるかを判定するステップを含む方法。
【0106】
実施形態19:プロセッサと、少なくとも1つのセンサと、データベースとを含むモバイルデバイスであって、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると実施形態1から実施形態18のいずれか1つの方法を実施するソフトウェアを含む、モバイルデバイス。
【0107】
実施形態20:少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスと、プロセッサとデータベースとを含むリモートデバイスとを含むシステムであって、前記リモートデバイスは、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると実施形態1から実施形態18のいずれか1つの方法を実施するソフトウェアを含み、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとは互いに動作可能にリンクされている、システム。
【0108】
実施形態21:被験者における情報処理速度および/または認知機能障害の評価において使用するための、実施形態19のモバイルデバイスまたは実施形態20のシステム。
実施形態22:認知機能障害に罹患している被験者の、特に実生活、日常の状況および広い範囲における監視において使用するため、または例えば臨床試験中にも認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者における薬効を調査するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者のための療法決定を促進および/もしくは支援するため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者に関する病院管理、リハビリテーション処置管理、健康保険評価および管理の支援ならびに/もしくは公衆衛生管理における決定の支援のため、または認知および運動疾病もしくは疾患に罹患している被験者を生活様式および/もしくは療法の推奨により支援するための、実施形態19のモバイルデバイスまたは実施形態20のシステム。
【0109】
実施形態23:病状の評価、疾病修飾療法および治療(DTM)を評価する情報処理速度における無症状のわずかな変化の特定/評価、特に実生活、日常の状況および広い範囲における患者の監視、生活様式および/または療法の推奨による患者の支援、例えば臨床検査中も含めて薬効の調査、療法決定の促進および/または支援、病院管理の支援、リハビリテーション処置管理の支援、健康保険評価および管理の支援、公衆衛生管理における決定の支援、および/または、認知能力の評価一般の支援において使用される、実施形態19のモバイルデバイスまたは実施形態20のシステム。
【0110】
本明細書全体を通じて引用されているすべての参照文献は、具体的に言及されている開示内容およびその全体に関して本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1】IPS検査時の処理速度の変動および置換作業パフォーマンスの正確さを測定する認知クオリメトリック活動パラメータの一例を示す図であり、以下のグラフ(臨床検査NCT02952911の中間分析)に示されている正解応答間の経過時間は、この場合は15秒のエポックごとにパフォーマンスを監視し、分析すると90秒IPS検査中の時間にわたって悪化が観察されるため、ある程度の検査内「疲労性」を集団レベルで示している図である。
図2】90秒間の正解応答の総数が、<32(第1行)、32~39(第2行)、または>40(第3行)である、IPSパフォーマンス全体の可変レベルを基準にした被験者の3カテゴリにおける、符号-数字置換応答全体(左部)または正解符号-数字置換応答(右部)間の経過時間の検査内変動の可変時間プロファイルの例を示す図である。
図3】検査パフォーマンス中の応答時間全体の変動とベースライン変動とを概略的に示す図である。ベースラインと総応答時間との差が認知活動を構成する。
図4】マッチング作業の数回の反復後に観察されたパフォーマンスの変化を示す図である。パフォーマンスは、マッチング作業で健常ボランティアと患者において上昇している一方、ベースラインパフォーマンスは変化していない。
図5】IPSマッチング検査に有用な符号を示す図である。a)からc)は符号対、d)からf)は単独符号である。a)符号は、丸みがあり、強い関連付けおよび読み方向における鏡像一致を可能にし、b)符号は、セグメント化され、その結果としてわかりにくい目視検査となり、読み方向に鏡像であり、c)符号は鋭く尖っており、強い関連付けを可能にし、読み方向に対して直角な顕著な鏡軸を有し、d)符号は回転対称を有し、容易な目視検査を可能にし、e)符号は、方向性があり、読み軸に対して逆であり、f)符号は、読み方向に2つの鏡軸を有する。
図6】符号マッチング(a)およびベースライン作業パフォーマンス(b)のためのモバイルデバイスのディスプレイ上のIPS検査設定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0112】
実施例:
以下の実施例は、本発明を例示するに過ぎない。これらはいかなる点でも本発明の範囲を限定するように解釈すべきである。
【0113】
以下の実施例は、本発明を例示するに過ぎない。これらはいかなる点でも本発明の範囲を限定するように解釈すべきである。
実施例1:コンピュータ実装(電子)認知-情報処理速度(IPS)検査
a)IPS検査
情報処理速度検査の目的は、持続的注意、視覚的走査、および近時記憶を含む、反復視覚置換作業の基にある主要な神経認知機能の障害を検出することである。この場合の情報処理は、二次的に出力、すなわちスマートフォンのタッチスクリーン上のキーを押すことにより応答することに至る感覚系への視覚情報の入力で始まる、異なるステップからなる。このステップにおける主要ステップは、(1)求心性視覚情報の伝達と、(2)認知置換作業の遂行と、(3)遠心性運動出力の実行である(Costa 2017)。
【0114】
符号数字モダリティ検査(SDMT、Smith 1968)または処理速度検査(PST、Rao 2017)は、検査パフォーマンス全体における反応時間または運動出力時間の相対的重みのいかなる測定も考慮に入れていない。Rocheは、パフォーマンス全体から、別々に測定された反応時間および視覚処理時間と、運動出力時間とを差し引くことによって符号/数字置換作業の速度の明確な評価を可能にするためにIPS検査を開発した。
【0115】
IPS検査の符号セットは、単純な設計方式に従い、9個のキー、すなわち数字1から9に割り当てられる、9個の異なる抽象符号からなる。
参加者の反応時間と、遠心性運動出力を生じさせるのに要する時間とを考慮に入れるために、符号/数字置換作業の後に15秒の数字/数字マッチング課題が行われる。数字は、前の置換作業における符号のように数のアナログローテーション方式で提示され、同じユーザインターフェースに組み込まれることになる。
【0116】
IPS検査の符号/数字置換作業の場合、合計最大90秒の間に120個の抽象符号が順に表示される。9個の符号をそれぞれの1から9のマッチング数字とともに示す汎例キー(3つ以上のバージョンのラウンドロビン交替)が、参照のために傍らに表示されることになる。調査参加者は、90秒間に各反復符号についてスマートフォンの画面上の数字キーパッドの一致キーを可能な限り速くタイプすることによって、可能な限り多くの正解応答を与えるように求められる。
【0117】
符号マッチングおよびベースライン検査に対する正解応答の数が患者に表示されることになる。
b)結果
上述の情報処理速度(IPS)検査から、持続的注意、視覚走査および近時記憶を含む、反復視覚置換作業の基にある主要な神経認知機能の障害を検出し、測定することを目的とした認知クオリメトリック活動パラメータの例が作成された。数字から符号への置換作業は、軽度認知機能障害の状態における脳萎縮と相関があることがわかっており、モバイルデバイス上で行われるIPS検査は(SDMT(Smith 1968)またはPST(Rao 2017)などの類似の検査とは異なり)、視覚処理および運動実行時間の影響を考慮して調整しながら認知置換作業パフォーマンスを別個に測定することを可能にする。
【0118】
IPS検査中の処理速度および置換作業パフォーマンスの正確さの変動を測定する認知クオリメトリック活動パラメータの一例として、以下のグラフに示す正解応答間の経過時間(臨床実験NCT02952911の中間分析)は、この場合は15秒のエポックごとにパフォーマンスを監視し、分析すると90秒IPS検査中の時間にわたって悪化が観察されるために、ある程度の検査内「疲労性」を集団レベルで示している(図1)。
【0119】
90秒間の正解応答の総数が、<32(第1行)、32~39(第2行)、または>40(第3行)である、IPSパフォーマンス全体の可変レベルを基準にした被験者の3カテゴリにおける、符号-数字置換応答全体(左部)または正しい符号-数字置換応答(右部)間の経過時間内の検査内変動の可変時間的プロファイルの例も、図2に示す。
【0120】
IPS検査から導出され、認知整合性を測定する検査内変動を反映する連続結果変数として捕捉される認知クオリメトリック活動パラメータの典型的な例を、以下のように非網羅的に列挙する。1)(n-1からの)応答前の経過時間と、2)(n-1からの)正解応答前の経過時間と、3)(n-1からの)誤応答前の経過時間と、4)(前の正解応答からの)正解応答間の経過時間と、5)(前の誤応答からの)誤応答間の経過時間と、6)ワーキングメモリと作業内の学習とを評価するために符号のシーケンスに変更を加えたときの特定の符号または符号のクラスタに適用されるパラメータ1)、2)および3)。
【0121】
重要なことであるが、前述のような認知クオリメトリック活動パラメータは、モバイルデバイスから取得され、特定の認知作業の遂行中に認知機能および整合性における少なくとも1つの定性的特徴のパフォーマンス変動の単一尺度または複合尺度を備える任意の他の認知検査から導出可能であることはわかるであろう。
実施例2:認知をデコンボリューションし、学習を推定評価するコンピュータ実装IPS検査
スマートフォンデバイス用のコンピュータ実装IPS検査が確立された。1ステップでは、コンピュータ実装IPS検査は、作業を行う被験者にとってなじみのある(例えば初見でない数字または符号または構造的もしくは符号的に類似している符号)ものではない検査符号を使用した符号マッチング作業の応答時間を測定することによって、情報処理速度を判定するものとする。IPS検査に有用な検査符号は、文字または数学概念にほとんど類似性を示さず、したがって、文化的背景、読み書き能力、または教育水準などの影響に依存しないことも必要である。したがって、このような検査符号は、子供または教育水準の低い(例えば非識字)被験者にも使用することができる。また、視覚認識を向上させるために、検査符号は、細部の少ない単純なデザイン原理に従うものとする。符号は、鏡軸の両側にある特徴的フィーチャ(例えば左/右、上/下フィーチャ)を有する符号の対として、または、回転対称、方向配向または特徴的エッジを有する認識可能な単独符号としてデザインすることができる。図5を参照されたい。
【0122】
検査は、ディスプレイ上で検査符号と、検査中に示される異なる検査符号を初見の数字または文字などのその他の初見符号に割り当てる凡例とを被験者に示すことによって行われる。これらの初見の数字またはその他の初見符号は、検査を行う被験者が、検査符号に割り当てられている初見の数字または初見の符号の付いたキーを押すことができるようなキーパッド上にも存在する(図6参照)。この作業のためのIPS検査における応答時間は、反応時間と、手の運動出力の処理時間と、認知情報処理のための時間とに依存することはわかるであろう。
【0123】
前述のこのIPS検査では、各シーケンスが少なくとも6個の異なる検査符号のマッチング作業からなる、固定検査符号マッチングシーケンスの反復を行うことができる。前記反復の後、新たなランダム化された検査符号マッチングシーケンスが行われる。最初の反復回と最後の反復回との間の応答時間の向上は、被験者の認知学習能力、または標準検査応答時間およびランダム化された符号マッチングシーケンス実行における応答時間を示す。3回の検査符号マッチングシーケンスが行われてから、4回目のマッチングシーケンス実行で、ランダム化された符号が順に示される。また、検査符号マッチングは標準臨床SDMTにおけるように行うことができる。情報処理速度に関係のない感覚的影響を避けるために、IPS検査を実施するために使用されるスマートフォンデバイス上で表示される符号の凡例、符号の大きさ、キーパッドおよびその他のパラメータは、寸法、外観、コントラストなどに関する限り一定した条件に維持される(図6)。IPS検査は90秒間実施される。同一シーケンスの反復の前後の速度のこの測定によって、認知能力、特に学習能力の推定評価が可能になる(図4参照)。
【0124】
さらなるステップにおいて、IPS検査はベースライン応答時間を測定することによってベースライン情報処理速度を判定する。前記ベースライン応答時間は、初見数字または符号をスマートフォンデバイスのキーパッド上の一致する初見数字または符号とマッチングさせる時間を測定することによって判定される(図6)。初見数字または符号は、検査を行う個人が、多大な認知上の苦労なくマッチングを行うことができるように選択されるものとする。より典型的には、0から9までの数が初見数字として使用され得る。初見数字または符号マッチングを使用したこのようなベースライン応答時間は、主として手の運動出力のための反応時間および処理時間に依存するものとする。認知作業は小さい役割のみを演じることになり、ベースライン応答時間には有意には寄与しないものとする。これにより、後続のステップで判定される情報処理速度を、前記ベースライン応答時間によって反応時間と、手の運動出力のための反応時間および処理時間と、認知情報得処理のための時間とにデコンボリューションすることができる(図3)。
【0125】
したがって、スマートフォンデバイス上でのコンピュータ実装IPS検査実行において、反応時間と、手の運動出力のための処理時間と、認知情報処理のための時間とを含む作業(上述のような異なる非初見検査符号を、キーパッド上のそれぞれのキーを押すことによって、検査中に示される前記異なる検査符号を初見数字または文字などのその他の初見符号に割り当てる凡例とマッチングする検査)と、反応時間と手の運動出力のための処理時間とを含む作業(初見数字または符号をキーパッド上の一致する初見数字または符号とマッチングするベースライン作業)との応答時間の差が、分析するデータセットの一部である1つの認知クオリメトリック活動パラメータとして判定される。
【0126】
情報処理速度は多発性硬化症(MS)においてよく見られる認知機能障害であるため、前述のIPS検査はMSに罹患している患者の臨床管理に有用である。この検査は、MS患者の認知機能のわずかな変化でも検出することを目的とし、臨床環境または自己管理手法において使用可能である。
【0127】
引用文献
Smith 1968, Learning disorders: 83-91.
Costa 2017, Multiple Sclerosis Journal: 23(6) 772-789.
Rao 2017, Multiple Sclerosis Journal: Jan 1:1352458516688955.
Lipsmeier 2018, Movement Disorders, DOI: 10.1002/mds.27376.
図1
図2
図3
図4
図5
図6