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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20241001BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F16D7/02 Z
F16D7/02 A
F16D43/21
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021002491
(22)【出願日】2021-01-11
(65)【公開番号】P2022107566
(43)【公開日】2022-07-22
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 剛
(72)【発明者】
【氏名】天音 慈
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033279(JP,A)
【文献】実開昭51-155475(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
F16D 43/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成され、内周面に、回転軸方向に沿って、螺子が形成されたクラッチカバーと、
円環板状に形成され、前記クラッチカバーと同軸上に、前記クラッチカバーの内側に配置され、外周部に、回転軸方向に沿って、前記クラッチカバーの内周面に形成された螺子と螺合する螺子が形成されたクラッチディスクと、
前記クラッチディスクを挟むように配設された一対の第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートと、
前記第1クラッチプレートを前記クラッチディスクの方向に付勢する第1付勢部材と、
前記第2クラッチプレートを前記クラッチディスクの方向に付勢する第2付勢部材と、を備えることを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記クラッチカバーの内周面に形成された螺子と、前記クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合を解除する解除手段をさらに備え、
前記クラッチカバーは、円周方向に沿って、複数の部分に分割されており、
前記解除手段は、螺子の螺合を解除する際に、前記クラッチカバーを構成する複数の部分それぞれを、回転軸から放射線状かつ外側に駆動することを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
円環板状に形成され、外周部に、回転軸方向に沿って、螺子が形成されたクラッチディスクと、
前記クラッチディスクの回転軸と軸が平行になるように配置され、軸方向に垂直に交わる断面で見て外周面の一部に、軸方向に沿って、前記クラッチディスクの外周部に形成された螺子と螺合する螺子が形成されたシャフトと、
前記クラッチディスクを挟むように配設された一対の第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートと、
前記第1クラッチプレートを前記クラッチディスクの方向に付勢する第1付勢部材と、
前記第2クラッチプレートを前記クラッチディスクの方向に付勢する第2付勢部材と、を備えることを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項4】
前記シャフトの外周面の一部に形成された螺子と、前記クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合を解除する解除手段をさらに備え、
前記シャフトは、軸方向に垂直に交わる断面で見て外周面の前記一部を除く部位には、螺子が形成されておらず、
前記解除手段は、螺子の螺合を解除する際に、前記シャフトを回転させて、前記外周面の螺子が形成されていない部位を、前記クラッチディスクの外周部に形成された螺子に向けることを特徴とする請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記解除手段は、駐車ブレーキの作動に連動して駆動されることを特徴とする請求項2又は4に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、定常時に締結されているクラッチを有し、軸ねじり共振時等の過大トルク発生時にクラッチを滑らせることにより、駆動系に過大トルクが入力(伝達)されることを防止するトルクリミッタが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、内燃機関と、ダンパおよびトルクリミッタを介して内燃機関に動力を出力可能な電動モータとを備えた駆動装置が開示されている。このような駆動装置では、内燃機関の始動時(モータリング時)に共振が発生した場合や走行抵抗の急激な変化時等に過大なトルクがトルクリミッタに作用すると、トルクリミッタを構成するクラッチが滑ることにより、駆動系に過大なトルクが入力(伝達)することが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-233160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トルクリミッタを構成するクラッチは定常状態において締結されているため、例えば錆び付いて固着することが起こり得る。特に、ベルハウジング内のフライホイールとダンパとの間に乾式クラッチ式のトルクリミッタを配設しているタイプでは、クラッチが固着しやすくなる。そして、クラッチが固着すると、滑り出しトルクが上昇し、軸共振時等に駆動系に入力されるトルクが上昇するおそれがある。すなわち、過大トルクの入力を適切に防止(遮断)することができないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、トルクリミッタの錆び付き固着を抑制でき、かつ、もし仮に、トルクリミッタが錆び付き固着したとしても、過大なトルクが伝達されることを防止することが可能なトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るトルクリミッタは、円筒状に形成され、内周面に、回転軸方向に沿って、螺子が形成されたクラッチカバーと、円環板状に形成され、クラッチカバーと同軸上に、クラッチカバーの内側に配置され、外周部に、回転軸方向に沿って、クラッチカバーの内周面に形成された螺子と螺合する螺子が形成されたクラッチディスクと、クラッチディスクを挟むように配設された一対の第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートと、第1クラッチプレートをクラッチディスクの方向に付勢する第1付勢部材と、第2クラッチプレートをクラッチディスクの方向に付勢する第2付勢部材とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るトルクリミッタによれば、クラッチカバーの内周面に形成された螺子と、クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合部のフリクション分、トルクリミッタの設定値(設定トルク/トルク容量)を下げることができる。そのため、従来よりも低いトルク(滑り出しトルク)でトルクリミッタ(クラッチ)が滑り始める。よって、トルクリミッタ(クラッチ)が滑る機会が増え、トルクリミッタ(クラッチ)が錆びて固着することが抑制される。また、もし仮に、トルクリミッタ(クラッチ)が錆びて固着したとしても、従来よりも低いトルクでトルクリミッタ(クラッチ)が滑り始めるため、過大なトルクが伝達されることが防止される。その結果、トルクリミッタの錆び付き固着を抑制でき、かつ、もし仮に、トルクリミッタが錆び付き固着したとしても、過大なトルクが伝達されることを防止することが可能となる。
【0009】
本発明に係るトルクリミッタは、クラッチカバーの内周面に形成された螺子と、クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合を解除する解除手段をさらに備え、クラッチカバーが、円周方向に沿って、複数の部分に分割されており、解除手段が、螺子の螺合を解除する際に、クラッチカバーを構成する複数の部分それぞれを、回転軸から放射線状かつ外側に駆動することが好ましい。
【0010】
このようにすれば、クラッチカバーの内周面に形成された螺子と、クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合を解除することができる。そのため、トルクリミッタの作動後に、螺子に沿って軸線方向に移動して停止しているクラッチディスクを初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【0011】
本発明に係るトルクリミッタは、円環板状に形成され、外周部に、回転軸方向に沿って、螺子が形成されたクラッチディスクと、クラッチディスクの回転軸と軸が平行になるように配置され、軸方向に垂直に交わる断面で見て外周面の一部に、軸方向に沿って、クラッチディスクの外周部に形成された螺子と螺合する螺子が形成されたシャフトと、クラッチディスクを挟むように配設された一対の第1クラッチプレート及び第2クラッチプレートと、第1クラッチプレートをクラッチディスクの方向に付勢する第1付勢部材と、第2クラッチプレートをクラッチディスクの方向に付勢する第2付勢部材とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るトルクリミッタによれば、シャフトの外周面の一部に形成された螺子と、クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合部のフリクション分、トルクリミッタの設定値(設定トルク)を下げることができる。そのため、従来よりも低いトルク(滑り出しトルク)でトルクリミッタ(クラッチ)が滑り始める。そのため、トルクリミッタ(クラッチ)が滑る機会が増え、トルクリミッタ(クラッチ)が錆びて固着することが抑制される。また、もし仮に、トルクリミッタ(クラッチ)が錆びて固着したとしても、従来よりも低いトルクでトルクリミッタ(クラッチ)が滑り始めるため、過大なトルクが伝達されることが防止される。その結果、トルクリミッタの錆び付き固着を抑制でき、かつ、もし仮に、トルクリミッタが錆び付き固着したとしても、過大なトルクが伝達されることを防止することが可能となる。
【0013】
本発明に係るトルクリミッタは、シャフトの外周面の一部に形成された螺子と、クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合を解除する解除手段をさらに備え、軸方向に垂直に交わる断面で見てシャフトの外周面の上記一部を除く部位には、螺子が形成されておらず、解除手段が、螺子の螺合を解除する際に、シャフトを回転させて、外周面の螺子が形成されていない部位を、クラッチディスクの外周部に形成された螺子に向けることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、シャフトの外周面の一部に形成された螺子と、クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合を解除することができる。そのため、トルクリミッタの作動後に、螺子に沿って軸線方向に移動して停止しているクラッチディスクを初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【0015】
本発明に係るトルクリミッタでは、解除手段が、駐車ブレーキの作動に連動して駆動されることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、駐車ブレーキの作動に連動させて、クラッチカバーの内周面に形成された螺子又はシャフトの円周面(外周面)の一部に形成された螺子と、クラッチディスクの外周部に形成された螺子との螺合を解除することができる。すなわち、駐車ブレーキの作動に連動させて(運転者が駐車ブレーキを操作する度に)、クラッチディスクを初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トルクリミッタの錆び付き固着を抑制でき、かつ、もし仮に、トルクリミッタが錆び付き固着したとしても、過大なトルクが伝達されることを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係るトルクリミッタ、及び、該トルクリミッタが適用されたハイブリッド車両のパワートレインの構成を示す断面図である。
図2】第1実施形態に係るトルクリミッタ及び解除機構の全体構成を示す図である。
図3】第1実施形態に係るトルクリミッタの要部の構成を拡大して示す断面図である。
図4】第1実施形態に係るトルクリミッタの解除機構の要部の構成を拡大して示す図である。
図5】第2実施形態に係るトルクリミッタの要部の構成(螺合時)を示す図である。
図6】第2実施形態に係るトルクリミッタ及び解除機構の構成(螺合時)を示す断面図である。
図7】第2実施形態に係るトルクリミッタの解除機構の要部の構成(螺合時)を示す平面図である。
図8】第2実施形態に係るトルクリミッタの要部の構成(解除時)を示す図である。
図9】第2実施形態に係るトルクリミッタ及び解除機構の構成(解除時)を示す断面図である。
図10】第2実施形態に係るトルクリミッタの解除機構の要部の構成(解除時)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
まず、図1図4を併せて用いて、第1実施形態に係るトルクリミッタ1の構成について説明する。図1は、トルクリミッタ1、及び、トルクリミッタ1が適用されたハイブリッド車両(HEV)のパワートレインの構成を示す断面図である。図2は、トルクリミッタ1及び解除機構(レリーズ機構)50の全体構成を示す図である。図3は、トルクリミッタ1の要部の構成を拡大して示す断面図である。図4は、トルクリミッタ1の解除機構50の要部の構成を拡大して示す図である。なお、図1では、トルクリミッタ1を、シリーズ・パラレル・ハイブリッド車のパワートレインに適用した場合を例にして示した。また、トルクリミッタ1は回転対称であるので、図3等では、トルクリミッタ1の上半分のみを図示した。
【0021】
エンジン(図示省略)のクランクシャフト100は、エンジンの回転変動を吸収するフライホイール110、過大トルクの入力(伝達)を防止するトルクリミッタ1、及び、ダンパ130を介して、パワートレインの入力軸140に接続されている。すなわち、トルクリミッタ1は、フライホイール110とダンパ130との間に介装されている。
【0022】
トルクリミッタ1は、主として、フライホイール110を介してクランクシャフト100と接続されたクラッチカバー10と、ダンパ130を介してパワートレインの入力軸140と接続されたクラッチディスク20と、クラッチディスク20を挟むように配設(配置)された一対のクラッチプレート(第1クラッチプレート31及び第2クラッチプレート32)とを備えている。
【0023】
クラッチカバー10は、無底円筒状に形成されている。また、クラッチカバー10は、断面が角括弧状([ ])に形成されている。クラッチディスク20は、円環板状に形成され、クラッチカバー10と同軸上に、クラッチカバー10の内側(内部空間)に配置されている。
【0024】
クラッチディスク20、及び、第1クラッチプレート31、第2クラッチプレート32は、同軸上に、かつ、互いに平行に配置されている。
【0025】
クラッチディスク20の一方の面には、第1クラッチフェーシング21が取り付けられている。第1クラッチフェーシング21は、例えば、円環板状に形成された乾式の摩擦部材である。クラッチディスク20及び第1クラッチプレート31は、第1クラッチフェーシング21と同軸上に、かつ、第1クラッチフェーシング21を挟み込むように対向して配設されている。第1クラッチフェーシング21と第1クラッチプレート31とは摺動可能とされている。
【0026】
同様に、クラッチディスク20の他方の面には、第2クラッチフェーシング22が取り付けられている。第2クラッチフェーシング22は、例えば、円環板状に形成された乾式の摩擦部材である。第2クラッチプレート32は、第2クラッチフェーシング22と同軸上に、かつ、第2クラッチフェーシング22を挟んで、クラッチディスク20と対向して配設されている。第2クラッチフェーシング22と第2クラッチプレート32とは摺動可能とされている。
【0027】
第1クラッチプレート31と、クラッチカバー10と摺動可能に設けられた第1サポートプレート11との間には、軸方向に、かつ、クラッチディスク20(第1クラッチフェーシング21)と第1クラッチプレート31とが締結される方向に付勢力を付与する(すなわち、第1クラッチプレート31をクラッチディスク20の方向に付勢する)第1皿バネ41(特許請求の範囲に記載の第1付勢部材に相当)が介装されている。
【0028】
同様に、第2クラッチプレート32と、クラッチカバー10と摺動可能に設けられた第2サポートプレート12との間には、軸方向に、かつ、クラッチディスク20(第2クラッチフェーシング22)と第2クラッチプレート32とが締結される方向に付勢力を付与する(第2クラッチプレート32をクラッチディスク20の方向に付勢する)第2皿バネ42(特許請求の範囲に記載の第2付勢部材に相当)が介装されている。
【0029】
特に、トルクリミッタ1は、トルクリミッタ1(第1、第2クラッチフェーシング21、22)の錆び付き固着を抑制でき、かつ、もし仮に、トルクリミッタ1が錆び付き固着したとしても、過大なトルクが伝達されることを防止する機能を有している。
【0030】
そのため、円筒状に形成されたクラッチカバー10の内周面に、回転軸方向に沿って、螺子(雌ネジ)10aが形成されている。また、円環板状に形成されたクラッチディスク20の外周部に、回転軸方向に沿って、クラッチカバー10の内周面に形成された螺子10aと螺合する螺子(雄ネジ)20aが形成されている。
【0031】
そのため、トルクリミッタ1に過大トルクが入力されると、クラッチディスク20(第1、第2クラッチフェーシング21、22)が滑って回転し、軸方向に移動する。そして、過大トルクの入力が収まったところで停止する。そこで、クラッチカバー10の内周面に形成される螺子10aの軸方向長さは、想定される軸ねじり共振時等の過大トルクの大きさ(振幅)や持続時間等を考慮して設定される。例えば、クラッチカバー10の内周面に形成される螺子10aの軸方向長さは、軸ねじり共振時等の過大トルクが入力された場合に、クラッチディスク20が、螺子10aの端部(ストッパ)まで移動しないように、又は、第1、第2皿バネ41、42が潰れてしまうまで移動しないように(すなわち、ストッパに当たらないように)設定される。また、クラッチカバー10側の螺子10aとクラッチディスク20側の螺子20aとのフリクション分、トルクリミッタ1の設定トルクが下げられる。
【0032】
軸方向に移動して停止したクラッチディスク20を初期位置(中立位置)に戻すため、クラッチカバー10の内周面に形成された螺子10aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合を解除(レリーズ)する解除機構(レリーズ機構)50(特許請求の範囲に記載の解除手段に相当)が設けられている。
【0033】
より具体的には、まず、クラッチカバー10が、円周方向に沿って、複数(例えば120°毎に3つ)の部分に分割されている。そして、解除機構50は、クラッチカバー10を構成する複数の部分それぞれを、回転軸(回転中心)から放射線状かつ外側に駆動する(広げる)ことにより、双方の螺子の螺合を解除する。
【0034】
解除機構50は、例えば、駐車ブレーキ(パーキングブレーキ/サイドブレーキ)51の作動(操作)に連動して駆動されるように構成されている。
【0035】
より詳細には、駐車ブレーキ51が、板状又は棒状の解除レバー(レリーズレバー)52の一方の端部と例えばワイヤ等で接続されている。駐車ブレーキ51が引かれると、解除レバー52が、支点52aを中心として回動(揺動)し、他方の端部が、解除ベアリング(レリーズベアリング)53と解除カム(レリーズカム)54を軸方向に駆動する(押し出す)。
【0036】
ここで、解除ベアリング53、及び、解除カム54は、円環状(円筒状)に形成されている。また、解除カム54は、先端部の内面側が、先端に行くにしたがって拡がるテーパ状に形成されている。
【0037】
一方、例えば120°毎に3つの部分に分割されたクラッチカバー10の繋ぎ目には、例えば、逆三角形の溝部が形成(すなわち、円周方向に沿って120°間隔で溝部が形成)されており、当該3つの溝部それぞれに、球状の解除ボール(レリーズボール)55が配置されている。その際に、解除ボール55は、解除カム54の先端部のテーパ面に当接されている。
【0038】
そのため、駐車ブレーキ51が引かれて、解除カム54が軸方向に駆動されると(押し出されると)、テーパ面によって解除ボール55が径方向内側に押され、クラッチカバー10の溝部に押し込まれることにより、クラッチカバー10が外側に駆動される(開く)。その結果、クラッチカバー10の内周面に形成された螺子10aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合が解除され、移動して停止していたクラッチディスク20が、第1皿バネ41又は第2皿バネ42のバネ力によって初期位置(中立位置)に戻される。
【0039】
上述したように構成されることにより、過大トルクが発生した場合に、クラッチディスク20(第1、第2クラッチフェーシング21、22)が摺動する(滑る)ことにより、パワートレインに過大なトルクが入力(伝達)されることが防止される。
【0040】
また、上述したように構成されることにより、クラッチカバー10の内周面に形成された螺子10aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合部のフリクション分、トルクリミッタ1の設定値(設定トルク/トルク容量)を下げることができる。そのため、従来よりも低いトルク(滑り出しトルク)でトルクリミッタ1(クラッチ)が滑り始める。よって、トルクリミッタ1(クラッチ)が滑る機会が増え、トルクリミッタ1(クラッチ)が錆びて固着することが抑制される。また、もし仮に、トルクリミッタ1(クラッチ)が錆びて固着したとしても、従来よりも低いトルクでトルクリミッタ1(クラッチ)が滑り始めるため、過大なトルクが伝達されることが防止される。
【0041】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、トルクリミッタ1の錆び付き固着を抑制でき、かつ、もし仮に、トルクリミッタ1が錆び付き固着したとしても、過大なトルクが伝達されることを防止することが可能となる。また、本実施形態によれば、パワートレイン(駆動系)に入力される共振時のトルクが確実に低減されるため、パワートレインの小型・軽量化やコスト低減を図ることができる。
【0042】
さらに、本実施形態によれば、クラッチカバー10の内周面に形成された螺子10aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合を解除することができる。そのため、トルクリミッタ1の作動後に、螺子10aに沿って軸線方向に移動して停止しているクラッチディスク20を初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【0043】
特に、本実施形態によれば、駐車ブレーキ51の操作(作動)に連動させて、クラッチカバー10の内周面に形成された螺子10aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合を解除することができる。すなわち、駐車ブレーキ51の操作(作動)に連動させて(運転者が駐車ブレーキ51を操作する度に)、クラッチディスク20を初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、図5図10を併せて参照しつつ、第2実施形態に係るトルクリミッタ2について説明する。図5は、トルクリミッタ2の要部の構成(螺合時)を示す図である。図6は、トルクリミッタ2及び解除機構(レリーズ機構)70の構成(螺合時)を示す断面図である。図7は、トルクリミッタ2の要部の構成(螺合時)を示す平面図である。図8は、トルクリミッタ2の要部の構成(解除時)を示す図である。図9は、トルクリミッタ2及びの解除機構(レリーズ機構)70の構成(解除時)を示す断面図である。図10は、トルクリミッタ2の要部の構成(解除時)を示す平面図である。なお、図5図10において上記第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
【0045】
上述した第1実施形態に係るトルクリミッタ1では、クラッチカバー10の内周面に、回転軸方向に沿って、螺子(雌ネジ)10aが形成されていた。第2実施形態に係るトルクリミッタ2は、内周面に螺子10aが形成されたクラッチカバー10の代わりに、クラッチディスク20の回転軸と軸が平行になるように配置され、軸方向に垂直に交わる断面で見て円周面(外周面)の一部に、軸方向に沿って、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aと螺合する螺子60aが形成されたシャフト(軸)60を備える点で、上述した第1実施形態と異なっている。
【0046】
シャフト60の軸方向に垂直に交わる断面で見て、螺子60aが形成された円周面(外周面)の一部を除く部位(その他の部位)には、螺子が形成されていない。また、シャフト60の端部には、解除シャフト(レリーズシャフト)60Bが接続されており、双方によってL字状のリンクが形成されている。
【0047】
なお、円環板状に形成されたクラッチディスク20の外周部に、回転軸方向に沿って、螺子(雄ネジ)20aが形成されている点は、上述した第1実施形態と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0048】
トルクリミッタ2に過大トルクが入力されると、クラッチディスク20(第1、第2クラッチフェーシング21、22)が滑って回転し、軸方向に移動する。そして、過大トルクの入力が収まったところで停止する。そこで、シャフト60に形成される螺子60aの軸方向長さは、想定される軸ねじり共振時等の過大トルクの大きさ(振幅)や持続時間等を考慮して設定される。例えば、シャフト60に形成される螺子60aの軸方向長さは、軸ねじり共振時等の過大トルクが入力された場合に、クラッチディスク20が、螺子60aの端部(ストッパ)まで移動しないように、又は、第1、第2皿バネ41、42が潰れてしまうまで移動しないように(すなわち、ストッパに当たらないように)設定される。また、シャフト60側の螺子60aとクラッチディスク20側の螺子20aとのフリクション分、トルクリミッタ1の設定トルクが下げられる。
【0049】
軸方向に移動して停止したクラッチディスク20を初期位置(中立位置)に戻すため、シャフト60の円周面(外周面)の一部に形成された螺子60aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合を解除する解除機構70(特許請求の範囲に記載の解除手段に相当)が設けられている。
【0050】
より具体的には、上述したように、シャフト60の、螺子60aが形成された円周面(外周面)の一部を除く部位(その他の部位)には、螺子が形成されておらず、解除機構70は、シャフト60を回転させて、円周面(外周面)の螺子60aが形成されていない部位(面)を、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aに向ける(対向させる)ことにより双方の螺子の螺合を解除(レリーズ)する。
【0051】
解除機構70は、例えば、駐車ブレーキ(パーキングブレーキ/サイドブレーキ)51の操作(作動)に連動して駆動されるように構成されている。
【0052】
より詳細には、上述した第1実施形態と同様に、駐車ブレーキ51が、解除レバー52の一方の端部と例えばワイヤ等で接続されている。駐車ブレーキ51が引かれると、解除レバー52が、支点52aを中心として回動(揺動)し、他方の端部が、解除カム72を軸方向(クラッチディスク20方向)に駆動する(押し出す)。
【0053】
ここで、解除カム72は、軸線方向に沿って、小径の第1円筒部、該第1円筒部に一端がつながるテーパ部、該テーパ部の他端とつながる大径の第2円筒部が形成されている。すなわち、テーパ部は、大径の第2円筒部側から小径の第1円筒部側に近づくに従い、細く(径が小さく)なっている。
【0054】
駐車ブレーキ51が操作されていないときには、解除シャフト60B(L字状のリンク)の端部(基端部)が、解除カム72の小径の第1円筒部の側面に当接され、シャフト60の円周面(外周面)の一部に形成された螺子60aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとが螺合する。
【0055】
一方、駐車ブレーキ51が引かれて(操作されて)、解除カム72が軸方向(クラッチディスク20方向)に駆動されると(押し出されると)、解除シャフト60B(L字状のリンク)の端部が、解除カム72のテーパ部の側面(テーパ面)に押され、解除シャフト60Bが回動(揺動)する。それに伴って、シャフト60が回転し、シャフト60の円周面(外周面)の螺子60aが形成されていない部位(面)がクラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aに向けられる(対向させられる)ことにより、双方の螺子の螺合が解除される。その結果、シャフト60の円周面(外周面)に形成された螺子60aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合が解除され、移動して停止していたクラッチディスク20が、第1皿バネ41又は第2皿バネ42のバネ力によって初期位置(中立位置)に戻される。
【0056】
なお、その他の構成は、上述した第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0057】
本実施形態によれば、シャフト60の円周面(外周面)の一部に形成された螺子60aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合部のフリクション分、トルクリミッタ2の設定値(設定トルク/トルク容量)を下げることができる。そのため、従来よりも低いトルクでトルクリミッタ2(クラッチ)が滑り始める。よって、トルクリミッタ2(クラッチ)が滑る機会が増え、トルクリミッタ2(クラッチ)が錆びて固着することが抑制される。また、もし仮に、トルクリミッタ2(クラッチ)が錆びて固着したとしても、従来よりも低いトルクでトルクリミッタ2(クラッチ)が滑り始めるため、過大なトルクが伝達されることが防止される。その結果、トルクリミッタ2の錆び付き固着を抑制でき、かつ、もし仮に、トルクリミッタ2が錆び付き固着したとしても、過大なトルクが伝達されることを防止することが可能となる。すなわち、本実施形態によっても、上述した第1実施形態に係るトルクリミッタ1と同等の効果を奏することができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、シャフト60の円周面(外周面)の一部に形成された螺子60aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合を解除することができる。そのため、トルクリミッタ2の作動後に、螺子60aに沿って軸線方向に移動して停止しているクラッチディスク20を初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【0059】
さらに、本実施形態によれば、駐車ブレーキ51の操作(作動)に連動させて、シャフト60の円周面(外周面)の一部に形成された螺子60aと、クラッチディスク20の外周部に形成された螺子20aとの螺合を解除することができる。すなわち、駐車ブレーキ51の動作(駆動)に連動させて(運転者が駐車ブレーキ51を操作する度に)、クラッチディスク20を初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態(図1の例)では、本発明に係るトルクリミッタ1をシリーズ・パラレル・ハイブリッド車(HEV)のパワートレイン(駆動系)に適用したが、異なる形式のハイブリッド車(例えば、パラレル・ハイブリッド車など)や、外部から充電可能なプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)にも適用することができる。また、本発明に係るトルクリミッタ1を、エンジンとトランスミッションとを備える(電動モータを備えていない)コンベンショナルな車両に適用してもよい。
【0061】
上記第1実施形態では、クラッチカバー10を3つの部分に分割(3分割)したが、分割数は3つに限られることなく、例えば、4つ以上に分割してもよい。
【0062】
上記実施形態では、駐車ブレーキ51と解除レバー52の一方の端部とをワイヤで接続したが、例えば、電動パーキングブレーキが採用されている車両では、ワイヤに代えてモータ等で解除レバー52を駆動することにより、同様にクラッチディスク20を初期位置(中立位置)に戻すことができる。
【符号の説明】
【0063】
1,2 トルクリミッタ
10 クラッチカバー
10a 螺子
11 第1サポートプレート
12 第2サポートプレート
20 クラッチディスク
20a 螺子
21 第1クラッチフェーシング
22 第2クラッチフェーシング
31 第1クラッチプレート
32 第2クラッチプレート
41 第1皿バネ
42 第2皿バネ
50 解除機構
51 駐車ブレーキ
52 解除レバー
53 解除ベアリング
54 解除カム
55 解除ボール
60 シャフト
60B 解除シャフト
60a 螺子
70 解除機構
72 解除カム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10