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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20241001BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20241001BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20241001BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20241001BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241001BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241001BHJP
   F16D 25/063 20060101ALI20241001BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20241001BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241001BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60W10/00 102
B60W10/02
B60W10/04
B60K6/387 ZHV
B60K6/48
B60W10/02 900
B60W10/08 900
F16D25/063 Z
F16D28/00 A
F16D48/06 102
B60L50/16
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021006749
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110978
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 智也
(72)【発明者】
【氏名】貝吹 雅一
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/108070(WO,A1)
【文献】特開2017-190038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F02D 45/00
F16D 25/063
F16D 48/06
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、前記クラッチアクチュエータへ調圧された油圧を供給する油圧制御回路と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動時において、前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える過渡期に、前記エンジンのクランキングに必要なトルクである必要クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように、前記油圧の油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力するクラッチ制御部と、
前記エンジンの始動時において、前記電動機の出力トルクを前記必要クランキングトルク分増加するように前記電動機を制御すると共に前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部と、
前記電動機の回転速度が所定回転速度で維持されるように、前記電動機からフィードバックトルクを出力させるフィードバック制御を実行するフィードバック制御部と、
前記フィードバック制御を実行可能な状態での前記エンジンの始動時において、前記エンジンの始動開始前後の前記フィードバックトルクの変動量に基づいて、前記油圧の油圧指令値の学習を行う学習制御部と、を含み、
前記学習制御部は、前記エンジンの始動時において車両停止中で前記フィードバック制御を実行しない場合には、学習の開始時点での前記電動機の回転速度を基準とする該回転速度の変動量に基づいて、前記油圧の油圧指令値の学習を行う
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、電動機と、エンジンと電動機との間を断接可能なクラッチと、を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、電動機と、エンジンと電動機との間を断接可能なクラッチと、を備えた車両が知られている。特許文献1に記載の車両がそれである。特許文献1には、エンジンの始動時において、クラッチのファーストフィル(クイックアプライともいう)時のファーストフィル圧(クイックアプライ圧ともいう)を、電動機の回転速度の変動量に基づいて補正する油圧学習に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-83509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、電動機の回転速度の変動量に基づいてファーストフィル圧の補正を行っているが、例えば車両の停止中において、電動機によってクリープトルクを出力するための電動機の回転速度の変動量に基づくフィードバック制御が実行されると、そのフィードバック制御によるフィードバックトルクの影響を受けるため、電動機の回転速度の変動量を適切に検出することができず、ファーストフィル圧を適切に学習することができない可能性がある。これに対して、フィードバック制御によるフィードバックトルクを固定することが考えられるが、電動機の回転速度が安定しなくなるため、油圧学習を適切に行うことが困難になる。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンと、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に連結された電動機と、前記動力伝達経路におけるエンジンと電動機との間の連結を断接可能なクラッチとを備えた車両において、電動機によるフィードバック制御が実行される場合であっても、クラッチに供給される油圧の油圧指令値を適切に学習することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、前記クラッチアクチュエータへ調圧された油圧を供給する油圧制御回路と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動時において、前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える過渡期に、前記エンジンのクランキングに必要なトルクである必要クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように、前記油圧の油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力するクラッチ制御部と、(c)前記エンジンの始動時において、前記電動機の出力トルクを前記必要クランキングトルク分増加するように前記電動機を制御すると共に前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部と、(d)前記電動機の回転速度が所定回転速度で維持されるように、前記電動機からフィードバックトルクを出力させるフィードバック制御を実行するフィードバック制御部と、(e)前記フィードバック制御を実行可能な状態での前記エンジンの始動時において、前記エンジンの始動開始前後の前記フィードバックトルクの変動量に基づいて、前記油圧の油圧指令値の学習を行う学習制御部と、を含み、(f)前記学習制御部は、前記エンジンの始動時において車両停止中で前記フィードバック制御を実行しない場合には、学習の開始時点での前記電動機の回転速度を基準とするその回転速度の変動量に基づいて、前記油圧の油圧指令値の学習を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、学習制御部は、エンジン始動時において、エンジンの始動開始前後のフィードバックトルクの変動量に基づいて、クラッチアクチュエータに供給される油圧の油圧指令値の学習を行うため、フィードバック制御の実行中であっても、フィードバック制御によるフィードバックトルクの変動量から油圧指令値を精度良く学習することができる。また、エンジン始動時において車両停止中で前記フィードバック制御を実行しない場合には、学習の開始時点での電動機の回転速度を基準とした回転速度の変動量に基づいて、油圧の油圧指令値の学習を行うため、学習前の回転速度の変動量を含むことなく学習が可能になり、油圧指令値の学習精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】K0クラッチの一例を示す部分断面図である。
図3】K0制御用フェーズ定義における各フェーズの一例を説明する図表である。
図4】エンジンの始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図5】車両停止中におけるエンジンの始動制御時に実行される学習制御を説明するタイムチャートの一例を示す図である。
図6】EV走行中におけるエンジンの始動制御時に実行される学習制御を説明するタイムチャートの一例を示す図である。
図7図1の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジンの始動制御時において学習パラメータを適切に検出するための制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0012】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源である、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0013】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0014】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。具体的には、電動機MGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生する。又、電動機MGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。電動機MGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0015】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0016】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、電動機MGと駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、エンジン12及び電動機MGの駆動力源の各々からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0017】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的に電動機MGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。電動機連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、駆動力源(エンジン12、電動機MG)の各々からの駆動力を流体を介して変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわち公知のロックアップクラッチである。
【0018】
LUクラッチ40は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が解放された状態である完全解放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、及びLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全解放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバーター状態とされる。又、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22a及びタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0019】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0020】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0021】
K0クラッチ20は、例えば後述する油圧式のクラッチアクチュエータ120により押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式又は乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、後述する電子制御装置90によりクラッチアクチュエータ120(図2参照)が制御されることによって、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。なお、K0クラッチ20が、本発明のクラッチに対応している。
【0022】
図2は、K0クラッチ20の一例を示す部分断面図である。図2において、K0クラッチ20は、クラッチドラム100と、クラッチハブ102と、セパレートプレート104と、摩擦プレート106と、ピストン108と、リターンスプリング110と、バネ受板112と、スナップリング114と、を含んでいる。クラッチドラム100とクラッチハブ102とは、同じ軸線CS上に設けられている。図2では、軸線CSの上半分におけるK0クラッチ20の径方向外周部分が示されている。軸線CSは、エンジン連結軸34、電動機連結軸36などと共通の軸線である。クラッチドラム100は、例えばエンジン連結軸34と連結されており、エンジン連結軸34と一体的に回転させられる。クラッチハブ102は、例えば電動機連結軸36と連結されており、電動機連結軸36と一体的に回転させられる。セパレートプレート104は、複数枚の略円環板状の外周縁がクラッチドラム100の筒部100aの内周面に相対回転不能に嵌合されている、すなわちスプライン嵌合されている。摩擦プレート106は、複数枚のセパレートプレート104の間に介在させられて、複数枚の略円環板状の内周縁がクラッチハブ102の外周面に相対回転不能に嵌合されている、すなわちスプライン嵌合されている。ピストン108は、セパレートプレート104及び摩擦プレート106の方向に伸びる押圧部108aが外周縁に設けられている。リターンスプリング110は、ピストン108とバネ受板112との間に介在させられており、ピストン108の一部がクラッチドラム100の底板部100bに当接するように付勢している。つまり、リターンスプリング110は、セパレートプレート104と摩擦プレート106とを非係合側とするようにピストン108を付勢する付勢部材として機能する。スナップリング114は、ピストン108の押圧部108aとの間にセパレートプレート104及び摩擦プレート106を挟む位置において、クラッチドラム100の筒部100aに固定されている。K0クラッチ20には、ピストン108とクラッチドラム100の底板部100bとの間に油室116が形成されている。クラッチドラム100には、油室116に通じる油路118が形成されている。K0クラッチ20では、クラッチドラム100、ピストン108、リターンスプリング110、バネ受板112、油室116などによって油圧アクチュエータとしてのクラッチアクチュエータ120が構成されている。
【0023】
油圧制御回路56は、クラッチアクチュエータ120へ調圧された作動油の油圧であるK0油圧PRk0を供給する。K0クラッチ20において、油圧制御回路56からK0油圧PRk0が油路118を通って油室116に供給されると、K0油圧PRk0によってピストン108がリターンスプリング110の付勢力に抗してセパレートプレート104及び摩擦プレート106の方向に移動し、ピストン108の押圧部108aがセパレートプレート104及び摩擦プレート106を押圧する。K0クラッチ20は、セパレートプレート104及び摩擦プレート106が押圧されると、係合状態へ切り替えられる。K0クラッチ20は、K0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。尚、LUトルクTlu、CBトルクTcb、K0トルクTk0などの係合装置のトルク容量は、係合装置が伝達できる最大のトルクすなわち最大伝達トルクに相当し、狭義には、係合装置が実際に伝達するトルクに相当する係合装置の伝達トルクとは異なるが、本実施例では、特に区別しない場合には、係合装置の伝達トルクも係合装置が伝達できる最大のトルクを表すものとする。例えば、K0トルクTk0は、K0クラッチ20の伝達トルクと同意である。
【0024】
K0トルクTk0は、例えば摩擦プレート106の摩擦材の摩擦係数やK0油圧PRk0等によって決まるものである。K0クラッチ20では、油室116に作動油OILが充填され、リターンスプリング110による付勢力に対抗するピストン108の押し付け力(=PRk0×ピストン受圧面積)によってセパレートプレート104と摩擦プレート106との間のクリアランスが詰められた状態、すなわちK0クラッチ20のパッククリアランスが詰められた状態とされると、所謂パック詰めが完了させられる。本実施例では、K0クラッチ20のパッククリアランスが詰められた状態をパック詰め完了状態と称する。K0クラッチ20は、パック詰め完了状態から更にK0油圧PRk0が増大させられることで、K0トルクTk0が発生させられる。つまり、K0クラッチ20のパック詰め完了状態は、そのパック詰め完了状態からK0油圧PRk0を増大させればK0クラッチ20がトルク容量を持ち始める状態すなわちK0トルクTk0が発生し始める状態である。K0クラッチ20のパック詰めの為のK0油圧PRk0は、ピストン108がストロークエンドに到達し、且つK0トルクTk0が発生していない状態とする為のK0油圧PRk0である。
【0025】
図1に戻り、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介してポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。すなわち、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と駆動輪14とを動力伝達可能に連結する。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とポンプ翼車22aとの間の動力伝達が遮断される。すなわち、K0クラッチ20は、解放されることによってエンジン12と駆動輪14との間の連結を切り離す。電動機MGはポンプ翼車22aに連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路に設けられて、その動力伝達経路を断接するクラッチ、すなわちエンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。つまり、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と電動機MGとを連結する一方で、解放されることによってエンジン12と電動機MGとの間の連結を切り離す、断接用クラッチである。
【0026】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0027】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、電動機MG)により回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを供給する。
【0028】
車両10は、更に、エンジン12の始動制御などに関連する車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0029】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0030】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0031】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、及び変速制御手段すなわち変速制御部96を備えている。
【0032】
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0033】
ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0034】
ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。MG制御指令信号Smは、例えばそのときのMG回転速度NmにおけるMGトルクTmを出力する電動機MGの消費電力Wmの指令値である。
【0035】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0036】
ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=EV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、EV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態で電動機MGのみを駆動力源として走行するEV走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、HV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態で少なくともエンジン12を駆動力源として走行するエンジン走行すなわちHV走行を行う。他方で、ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部92は、要求駆動トルクTrdem等に基づいて、HV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、EV走行中にエンジン12を始動したりして、EV走行モードとHV走行モードとを切り替える。
【0037】
ハイブリッド制御部92は、始動判定手段すなわち始動判定部92cとしての機能と、始動制御手段すなわち始動制御部92dとしての機能と、フィードバック制御手段すなわちフィードバック制御部92eとしての機能と、を更に含んでいる。
【0038】
フィードバック制御部92eは、車両停止時などの所定の条件下において電動機MGのMG回転速度Nmが所定回転速度で維持されるように、MG回転速度Nmと目標MG回転速度Nmpとの差回転ΔNm(=Nm-Nmp)を偏差とする、電動機MGから出力されるフィードバックトルクTmfbによるフィードバック制御(以下、MGFB制御)を行う。例えば、車両停止中のエンジン12の始動時において、K0クラッチ20のK0トルクTk0がK0反力補償分のMGトルクTmg以上のトルクを持っている又は満たない場合、K0反力補償との誤差分がMG回転速度Nmに影響を与える。このとき、フィードバック制御部92eは、差回転ΔNmを偏差とする電動機MGのフィードバックトルクTmfb(以下、MGFBトルクTmfb)を算出し、このMGFBトルクTmfbを電動機MGから出力させる。このMGFB制御が実行されることでMG回転速度Nmの変動が抑制される。尚、目標MG回転速度Nmpは、予め設計的に規定される値である。又、フィードバック制御部92eは、所定の条件下にあるかに基づいてMGFB制御を実行可能であるかを判定する。フィードバック制御部92eは、例えば車両停止中にはMGFB制御を実行可能と判定し、EV走行中にはMGFB制御を実行不能と判定する。
【0039】
始動判定部92cは、エンジン12の始動要求の有無を判定する。例えば、始動判定部92cは、EV走行モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値未満であるか否かなどに基づいて、エンジン12の始動要求が有るか否かを判定する。又、始動判定部92cは、エンジン12の始動制御が完了したか否かを判定する。
【0040】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、エンジン回転速度Neを引き上げるトルクであるエンジン12のクランキングに必要なトルクをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。つまり、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにクラッチアクチュエータ120を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。本実施例では、エンジン12のクランキングに必要なトルクを必要クランキングトルクTcrnという。
【0041】
始動制御部92dは、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部92dは、始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせて、電動機MGが必要クランキングトルクTcrnを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、必要クランキングトルクTcrnを電動機MGが出力するように、すなわちMGトルクTmを必要クランキングトルクTcrn分増加するように、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。
【0042】
又、始動制御部92dは、始動判定部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン12の始動に際して、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0043】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクであるクランキング反力トルクTrfcrが生じる。このクランキング反力トルクTrfcrは、EV走行時には、エンジン始動中のイナーシャによる車両10の引き込み感、つまり駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12を始動する際に必要クランキングトルクTcrnに向けて増加させられるMGトルクTmは、クランキング反力トルクTrfcrを打ち消す為のMGトルクTmであって、クランキング反力トルクTrfcrを補償するMGトルクTm分すなわちK0反力補償分のMGトルクTmである。必要クランキングトルクTcrnは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる、エンジン12のクランキングに必要なMGトルクTmである。必要クランキングトルクTcrnは、例えばエンジン12の諸元、エンジン12の始動方法等に基づいて予め定められた例えば一定のクランキングトルクTcrである。
【0044】
始動制御部92dは、EV走行中のエンジン12の始動の際には、EV走行用のMGトルクTmつまり駆動トルクTrを生じさせるMGトルクTmに加えて、必要クランキングトルクTcrn分のMGトルクTmを電動機MGから出力させる。その為、EV走行中には、エンジン12の始動に備えて、必要クランキングトルクTcrn分を担保しておく必要がある。従って、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える範囲は、出力可能な電動機MGの最大トルクに対して、必要クランキングトルクTcrn分を減じたトルク範囲となる。出力可能な電動機MGの最大トルクは、バッテリ54の放電可能電力Woutによって出力可能な最大のMGトルクTmである。
【0045】
変速制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0046】
ここで、エンジン12の始動に際してK0クラッチ20の制御状態が精度良く制御される為に、エンジン12の始動過程において切り替えられるK0クラッチ20の制御状態毎に区分された複数の進行段階、すなわちフェーズがクラッチアクチュエータ120の制御用に定義されたK0制御用フェーズ定義Dphk0が、電子制御装置90に予め定められている。
【0047】
図3は、K0制御用フェーズ定義Dphk0における各フェーズの一例を説明する図表である。図3において、K0制御用フェーズ定義Dphk0は、「K0待機」、「クイックアプライ」、「パック詰め時定圧待機」、「K0クランキング」、「クイックドレン」、「再係合前定圧待機」、「回転同期初期」、「回転同期中期」、「回転同期終期」、「係合移行スイープ」、「完全係合移行スイープ」、「完全係合」、「バックアップスイープ」、「算出停止」などのフェーズが定義されている。
【0048】
「K0待機」フェーズは、エンジン12の始動制御時に、K0クラッチ20の制御を開始させずに待機させるフェーズである。「K0待機」フェーズは、エンジン12の始動制御を開始するときにK0待機判定が有る場合に遷移させられる。
【0049】
「クイックアプライ」フェーズは、速やかにK0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一時的に高いK0油圧PRk0の指令値を印加するクイックアプライを実行し、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させるフェーズである。「クイックアプライ」フェーズは、エンジン12の始動制御を開始するときにK0待機判定が無い場合に遷移させられる。又は、「クイックアプライ」フェーズは、K0クラッチ20の制御開始の待機中にK0待機判定が取り下げられた場合に、「K0待機」フェーズから遷移させられる。
【0050】
K0油圧PRk0の指令値は、油圧制御回路56によって調圧されたK0油圧PRk0をクラッチアクチュエータ120に供給させる為の油圧指令値である。本実施例では、K0油圧PRk0の指令値をK0油圧指令値Spk0と称する。K0油圧指令値Spk0は、電子制御装置90に備えられた、K0クラッチ20用ソレノイドバルブを駆動するソレノイド用ドライバに対する指示電流に一意に変換される。K0クラッチ20用ソレノイドバルブは、油圧制御回路56に備えられたK0油圧PRk0を出力するソレノイドバルブである。K0油圧制御指令信号Sk0は、K0クラッチ20用ソレノイドバルブを駆動するソレノイド用ドライバに対する指示電流、又は、このソレノイド用ドライバが供給する駆動電流又は駆動電圧である。つまり、K0油圧指令値Spk0は、K0油圧制御指令信号Sk0に変換されて油圧制御回路56へ出力される。本実施例では、便宜上、K0油圧指令値Spk0とK0油圧制御指令信号Sk0とを同意に取り扱う。
【0051】
「パック詰め時定圧待機」フェーズは、K0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一定圧で待機するフェーズである。「パック詰め時定圧待機」フェーズは、クイックアプライが完了した場合に、「クイックアプライ」フェーズから遷移させられる。
【0052】
「K0クランキング」フェーズは、K0クラッチ20によるエンジン12のクランキングを行うフェーズである。「K0クランキング」フェーズは、K0クラッチ20のパック詰めが完了させられた場合に、「パック詰め時定圧待機」フェーズから遷移させられる。
【0053】
「クイックドレン」フェーズは、次のフェーズである「再係合前定圧待機」フェーズにおいて速やかに所定のK0油圧PRk0例えばパックエンド圧で待機できるように、一時的に低いK0油圧指令値Spk0を出力するクイックドレンを実行し、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させるフェーズである。「クイックドレン」フェーズは、エンジン12のクランキングが完了し、クイックドレン実施判定が有る場合に、「K0クランキング」フェーズから遷移させられる。
【0054】
「再係合前定圧待機」フェーズは、エンジン12の完爆の外乱とならないように、所定のK0トルクTk0で待機するフェーズである。エンジン12の完爆は、例えばエンジン12の点火が開始された初爆後にエンジン12の爆発による自立回転が安定した状態である。エンジン12の完爆の外乱とならないということとは、エンジン12の自立回転を妨げないということである。「再係合前定圧待機」フェーズは、エンジン12のクランキングが完了し、クイックドレン実施判定が無い場合に、「K0クランキング」フェーズから遷移させられる。又は、「再係合前定圧待機」フェーズは、クイックドレンが完了した場合に、「クイックドレン」フェーズから遷移させられる。
【0055】
「回転同期初期」フェーズは、速やかにエンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させる為に、K0トルクTk0を制御してエンジン回転速度Neの上昇を補助するフェーズである。「回転同期初期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件及び「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が何れも不成立であった場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。尚、エンジン制御部92aは、例えばエンジン回転速度Neが予め定められたエンジン12の完爆回転速度に到達した時点からの経過時間が予め定められた完爆通知待機時間TMengを超えたときにエンジン12の完爆通知を出力する(後述の図4参照)。完爆通知待機時間TMengは、例えばエンジン12の排ガス要件が考慮されて予め定められている。
【0056】
「回転同期中期」フェーズは、エンジン12が適切な吹き量(=Ne-Nm)となるようにK0トルクTk0を制御するフェーズである。「回転同期中期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期中期」フェーズは、「回転同期初期」フェーズの実行中に、「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期初期」フェーズから遷移させられる。
【0057】
「回転同期終期」フェーズは、K0トルクTk0を制御し、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させるフェーズである。「回転同期終期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期初期」フェーズの実行中に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期初期」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期中期」フェーズの実行中に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期中期」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期中期」フェーズの実行中に、自動変速機24の変速制御中ではなく、且つ、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとの同期が不可能であると予測された状態が強制回転同期移行判定時間以上連続して成立した場合に、「回転同期中期」フェーズから遷移させられる。
【0058】
「係合移行スイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を係合状態にするフェーズである。「係合移行スイープ」フェーズは、「回転同期終期」フェーズの実行中に、回転同期判定が成立した場合に、「回転同期終期」フェーズから遷移させられる。
【0059】
「完全係合移行スイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を完全係合状態にするフェーズである。K0クラッチ20を完全係合状態にするとは、例えばK0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態までK0トルクTk0を上げることである。「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズの実行中に、K0係合判定が成立した場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズの実行中に、K0クラッチ20の回転同期状態を維持できない場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズ開始からの経過時間が予め定められた強制係合移行判定時間を超え、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた完全係合移行スイープ強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。K0差回転ΔNk0は、K0クラッチ20の差回転速度(=Nm-Ne)である。
【0060】
「完全係合」フェーズは、K0クラッチ20の完全係合状態を維持するフェーズである。「完全係合」フェーズは、「完全係合移行スイープ」フェーズの実行中に、完全係合判定が成立した場合に、「完全係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合」フェーズは、「完全係合移行スイープ」フェーズ開始からの経過時間が予め定められた強制完全係合移行判定時間以上となり、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた完全係合強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「完全係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。
【0061】
「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズからも遷移させられる。「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズの実行中に、完全係合判定が成立し、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められたバックアップ時回転同期判定差回転以下であるとの判定が予め定められたバックアップ時回転同期判定回数以上連続して成立した場合に、「バックアップスイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズの実行中に、エンジン12の始動制御の開始後に「K0待機」フェーズ以外のフェーズに遷移してからの経過時間が予め定められたエンジン始動制御タイムアウト時間以上となり、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が完全係合強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「バックアップスイープ」フェーズから遷移させられる。
【0062】
「バックアップスイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を係合するバックアップ制御を行うフェーズである。「バックアップスイープ」フェーズは、例えば「K0クランキング」フェーズ、「再係合前定圧待機」フェーズ、「回転同期初期」フェーズ、「回転同期中期」フェーズ、及び「回転同期終期」フェーズの各フェーズのうちの何れかのフェーズの実行中に、制御スタックを防止する為、実行中のフェーズ開始からの経過時間が予め定められた実行中のフェーズ用のバックアップ移行判定時間を超え、且つ、K0差回転ΔNk0が予め定められた実行中のフェーズ用のバックアップ移行判定差回転以上であると判定された場合に、実行中のフェーズから遷移させられる。
【0063】
「算出停止」フェーズは、エンジン12の始動に際して、フェールセーフ制御が実行されている間は、エンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース補正圧や要求K0トルクTk0dの算出を停止するフェーズである。前記フェールセーフ制御は、例えばK0クラッチ20用ソレノイドバルブから調圧されたK0油圧PRk0が出力されないフェールが発生したときに、K0クラッチ20用ソレノイドバルブを介することなくK0クラッチ20の完全係合状態を維持することが可能なK0油圧PRk0をクラッチアクチュエータ120に供給するように油圧制御回路56内の油路を切り替える制御である。完全係合状態を維持することが可能なK0油圧PRk0は、例えばK0クラッチ20用ソレノイドバルブなどに供給されるライン圧などの元圧である。前記ベース補正圧は、エンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース圧が作動油温THoilなどに基づいて補正された値である。要求K0トルクTk0dは、エンジン12の始動制御時にエンジン12のクランキングやK0クラッチ20を係合状態へ切り替える為に要求されるK0トルクTk0である。
【0064】
K0制御用フェーズ定義Dphk0は、例えばエンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース補正圧や要求K0トルクTk0dの算出を目的に作成されている。K0制御用フェーズ定義Dphk0は、K0油圧PRk0やK0トルクTk0を制御したいという、K0クラッチ20に対する制御の要求状態に基づいて各フェーズが定義されている。つまり、K0制御用フェーズ定義Dphk0は、K0クラッチ20の制御状態を切り替える制御要求に基づいて定義されている。
【0065】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0制御用フェーズ定義Dphk0に基づいて、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにクラッチアクチュエータ120を制御する。
【0066】
始動制御部92dは、エンジン12の始動の際には、K0クラッチ20の制御状態に合わせて電動機MG及びエンジン12を制御する。エンジン12の始動制御では、必要クランキングトルクTcrnを電動機MGが出力するように電動機MGを制御すれば良く、又、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御すれば良い。その為、エンジン12の始動の際、始動制御部92dは、K0制御用フェーズ定義Dphk0のうちの電動機MG及びエンジン12の制御に必要なフェーズに基づいて、電動機MG及びエンジン12を制御する。これにより、エンジン12の始動に際して制御の簡素化を図ることができる。
【0067】
図4は、エンジン12の始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。図4において、「K0制御フェーズ」は、K0制御用フェーズ定義Dphk0における各フェーズの遷移状態を示している。又、要求K0トルクTk0dをK0油圧PRk0に換算した油圧値を、K0油圧PRk0のベース補正圧に加算した合計油圧値が、K0油圧指令値Spk0として出力される。
【0068】
図4のt1時点は、アイドル状態で停車しているEV走行モード時に、又は、EV走行中に、エンジン12の始動要求が為され、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。エンジン12の始動制御の開始後、「K0待機」フェーズ(t1時点-t2時点参照)、「クイックアプライ」フェーズ(t2時点-t3時点参照)、「パック詰め時定圧待機」フェーズ(t3時点-t4時点参照)が実行されている。K0クラッチ20のパック詰め制御に続いて、「K0クランキング」フェーズが実行される(t4時点-t5時点参照)。図4の実施態様では、「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいて、「K0クランキング」フェーズで要求される必要クランキングトルクTcrnに相当するK0油圧PRk0が加えられている。「パック詰め時定圧待機」フェーズでは、実際のK0油圧PRk0はK0トルクTk0を生じさせる値以上には上昇させられていない。「K0クランキング」フェーズにおいて、実際のK0油圧PRk0はK0トルクTk0を生じさせる値以上に上昇させられる。尚、「パック詰め時定圧待機」フェーズでは、K0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持する為のK0油圧PRk0が加えられても良い。「K0クランキング」フェーズでは、要求K0トルクTk0dつまり必要クランキングトルクTcrnに相当する大きさのMGトルクTmが電動機MGから出力させられる。「K0クランキング」フェーズにおいて、エンジン回転速度Neが引き上げられると、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる。尚、着火始動が行われる場合には、例えばエンジン回転速度Neの引き上げ開始と略同時にエンジン12が初爆させられる。
【0069】
エンジン12の初爆後、エンジン12の完爆の外乱とならないように、「K0クランキング」フェーズに続いて、「クイックドレン」フェーズ(t5時点-t6時点参照)、「再係合前定圧待機」フェーズ(t6時点-t7時点参照)が実行され、一時的に低いK0油圧指令値Spk0が出力される。エンジン制御部92aからエンジン完爆通知が出力されると(t7時点参照)、「回転同期初期」フェーズ(t7時点-t8時点参照)、「回転同期中期」フェーズ(t8時点-t9時点参照)、「回転同期終期」フェーズ(t9時点-t10時点参照)、「係合移行スイープ(図中の「係合移行SW」)」フェーズ(t10時点-t11時点参照)が実行され、エンジン12と電動機MGとの回転同期制御が行われる。「係合移行スイープ」フェーズに続いて、「完全係合移行スイープ(図中の「完全係合移行SW」)」フェーズが実行され(t11時点-t12時点参照)、K0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態までK0トルクTk0が漸増させられる。K0トルクTk0がK0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態まで上昇させられると、「完全係合」フェーズが実行され(t12時点-t13時点参照)、K0クラッチ20の完全係合状態が維持される。t13時点は、エンジン12の始動制御が完了させられた時点を示している。
【0070】
図3図4の「K0クランキング」フェーズを参照すれば、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える過渡中に、K0油圧指令値Spk0として、必要クランキングトルクTcrnをK0クラッチ20が伝達するようにクラッチアクチュエータ120へのK0油圧PRk0を調圧する為のクランキング用のK0油圧指令値Spk0を油圧制御回路56へ出力する。
【0071】
ところで、K0トルクTk0は、K0油圧指令値Spk0に対して種々の要因によってばらつきが発生する。その為、K0トルクTk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係を補正する学習制御を行うことが望まれる。従来では、学習制御によって学習される学習値(補正値)が、電動機MGの回転速度の変動量(差回転の積算値や差回転の絶対値等)に基づいて算出されていた。又、上記算出は、誤検出を回避するために車両10の状態や運転者のドライバ操作が安定しているときに実行されることが望ましい。ここで、車両停止中が最も安定した状態となるが、車両10では、車両停止中においてクリープ力を実現するための電動機MGによるMGFB制御(MGフィードバック制御)が実行される。その結果、トルク誤差に起因する回転速度の変動量が上記MGFB制御によってなまされてしまい、回転速度の変動量を適切に検出することが困難になる。これに対して、MGFB制御によって電動機MGから出力されるMGフィードバックトルク(以下、MGFBトルク)Tmfbを固定することで、回転速度の変動を検出することが考えられるが、トルク誤差の方向や大きさによっては過剰な引き込み等により元圧の供給不足によるトルク変動や過剰な吹き上がりによるNV悪化に繋がる虞がある。
【0072】
そこで、電子制御装置90は、エンジン12の始動時において電動機MGによるMGFB制御が実行される場合であっても、学習値を適切に算出できる学習制御手段すなわち学習制御部98を備えている。学習制御部98は、エンジン12の始動時において、電動機MGによるMGFB制御が実行可能な状態である場合には、エンジン12の始動開始前後におけるMGFB制御によるMGFBトルクTmfbのトルク変動量ΔTmfbに基づいて、K0油圧指令値Spk0の学習を行う。具体的には、学習制御部98は、MGFB制御が実行可能な状態である場合、エンジン12の始動開始前(又は始動開始時点)におけるMGFBトルクTmfb(以下、基準MGFBトルクTmfbb)と、電動機MGのMGFB制御によるMGFBトルクTmfbと、の差であるトルク変動量ΔTmfb(Tmfbb-Tmfb)を学習パラメータとして算出し、算出されたトルク変動量ΔTmfbにゲイン処理等を施すことで、K0油圧指令値Spk0の学習値(補正値)を算出する。
【0073】
エンジン12の始動時において、K0クラッチ20のK0トルクTk0が、エンジン始動制御におけるK0反力補償分のMGトルクTm以上のトルクを持っている場合、又は、MGトルクTmに満たない場合、反力補償との誤差分が電動機MGのMG回転速度Nmに影響を与える。ここで、MGFB制御が実行可能な場合には、MG回転速度Nmの変動を抑えるためにMGFB制御が作動し、電動機MGからMGFBトルクTmfbが出力される。このMGFBトルクTmfbのトルク変動量ΔTmfbを学習パラメータとして算出することで、MGFB制御が実行される状態であってもK0油圧指令値Spk0の学習が可能になる。
【0074】
例えば、車両停止中では、クリープ力を実現するに当たってMGFB制御が実行可能になる。ここで、エンジン12の始動時において、K0クラッチ20のK0トルクTk0が、K0反力補償分のMGトルクTm以上のトルクを持っている場合、MG回転速度Nmが低下する。このとき、MG回転速度Nmの低下が解消されるように、正の方向に作用するMGFBトルクTmfbが電動機MGから出力される。これに関連して、学習パラメータであるトルク変動量ΔTmfb(Tmfbb-Tmfb)が負の値となり、この学習パラメータによってK0油圧指令値Spk0が減少側に補正される。MGFBトルクTmfbが正の値の場合には、K0クラッチ20がK0反力補償分以上のK0トルクTk0を持っているため、このとき学習パラメータが負の値に算出されることで、K0油圧指令値Spk0の学習値についても負の値に補正される。すなわち、K0油圧指令値Spk0及びK0トルクTk0が減少する側に補正される。
【0075】
又、エンジン12の始動時において、K0クラッチ20のK0トルクTk0が、K0反力補償分のMGトルクTmに満たない場合、MG回転速度Nmが上昇する(吹き上がる)。このとき、MG回転速度Nmの上昇が抑えられるように、負の方向に作用するMGFBトルクTmfbが電動機MGから出力される。これに関連して、学習パラメータであるトルク変動量ΔTmfb(Tmfbb-Tmfb)が正の値となり、この学習パラメータによってK0油圧指令値Spk0が増加側に補正される。MGFBトルクTmfbが負の値の場合には、K0クラッチ20がK0反力補償分のK0トルクTk0に満たないため、このとき学習パラメータが正の値に算出されることで、K0油圧指令値Spk0の学習値についても正の値に補正される。すなわち、K0油圧指令値Spk0及びK0トルクTk0が増加する側に補正される。
【0076】
このように、MGFBトルクTmfbのトルク変動量ΔTmfbを学習パラメータとして検出することで、MGFB制御が実行されてもトルク変動量ΔTmfbから学習値を算出することができる。又、エンジン12の始動中において、クイックアプライの制御時間、K0クラッチ20がパック詰めされた状態となるパックエンド圧など、複数の学習が連続して実行されるが、各学習ともに、エンジン12の始動開始前(又は始動開始時点)に検出される基準MGFBトルクTmfbbから学習パラメータが算出される。これより、各学習ともに、K0クラッチ20による外乱がない安定したトルクを基準にして学習パラメータが算出されるため、今回の学習対象よりも前の学習で生じたばらつきの影響をなくしつつ学習パラメータの算出が可能になる。
【0077】
又、フィードバック制御を継続しつつ学習パラメータを算出できることから、電動機MGのMG回転速度Nmの低下に起因する、エンジン12の始動過渡期に発生する失火やMOP58の吐出量の減少が抑制されるため、車両10の状態が安定した状態で学習パラメータの算出が可能になる。
【0078】
図5は、車両停止中におけるエンジン12の始動制御時に実行される学習制御を説明するタイムチャートの一例を示す図である。図5において、tb1時点は、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。tb1時点~tb2時点では、「K0待機」フェーズが実行され、tb2時点~tb3時点では、「クイックアプライ」フェーズが実行され、tb3時点~tb5時点では、「パック詰め時定圧待機」フェーズが実行されている。t2b時点において「クイックアプライ」フェーズが開始されると、実K0油圧PRk0の応答性を向上させるためにK0油圧指令値Spk0が一時的に高められる。ここで、K0油圧PRk0の油圧のばらつきに起因して、「クイックアプライ」フェーズにおいてK0トルクTk0がトルクを持つことで、MGトルクTmの一部がK0クラッチ20側に伝達され、電動機MGのMG回転速度Nmが目標MG回転速度Nmpよりも低下している。このとき、MGFB制御が実行され、電動機MGの目標MG回転速度NmpとMG回転速度Nmとの偏差(Nmp-Nm)に基づいて電動機MGから正の値であるMGFBトルクTmfbが出力されることで、t4b時点以降ではMG回転速度Nmが上昇し、t5b時点においてMG回転速度Nmが目標MG回転速度Nmpに復帰している。
【0079】
このように、MGFB制御は、MG回転速度Nmが目標MG回転速度Nmpに維持されるように電動機MGによってMGトルクTmの過不足を補償する制御である。MGFBトルクTmfbは、MGFB制御によって過不足が補償された後のMGトルクTmであり、K0反力補償分のMGトルクTmを除いた分のMGトルクTmである。基準MGFBトルクTmfbbは、エンジン12の始動開始前または始動開始時点でのMGFBトルクTmfbである。従って、MGFB制御が実行される場合には、MGFBトルクTmfbのトルク変動量ΔTmfb(=Tmfbb-Tmfb)が、学習パラメータとして用いられる。
【0080】
上記のようにMGFB制御が実行可能な場合においては、MGFBトルクTmfbのトルク変動量ΔTmfb(=Tmfbb-Tmfb)を学習パラメータとして学習値が算出されるが、EV走行中などMGFB制御が実行不能な場合には、電動機MGのMG回転速度NmのMG回転変動量ΔNm(Nm-Nmb)を学習パラメータとして学習値が算出される。ここで、回転速度Nmbは、各学習の開始時点での電動機MGのMG回転速度Nmを示している。以下、各学習の開始時点におけるMG回転速度Nmbを基準MG回転速度Nmbと称する。これより、学習制御部98は、エンジン12の始動時においてMGFB制御を実行不能な場合には、各学習毎の開始時点での基準MG回転速度Nmbを基準とする回転変動量ΔNm(Nm-Nmb)を学習パラメータとして、油圧の油圧指令値Spk0の学習を行う。尚、学習の種類毎にエンジン12の始動過渡期における学習期間が異なるため、基準MG回転速度Nmbは学習の種類毎に変更される。
【0081】
エンジン12の始動制御におけるK0反力補償分の電動機MGのMGトルクTmとK0クラッチ20の実際のK0トルクTk0との間に誤差が生じている場合、正しく反力補償が為されず、MG回転速度Nmに影響が生じる。ここで、MGFB制御が作動しない場合には、MG回転変動量ΔNmがMGFB制御によってなまされることもないため、この場合には、MG回転変動量ΔNmが学習パラメータとして用いられる。尚、誤学習を防止するため、MG回転変動量ΔNmを算出するときのMG回転速度Nmは、例えば一次遅れ処理を行ったMG回転速度Nmが適用される。
【0082】
例えば、K0反力補償分のMGトルクTmよりも実際のK0トルクTk0が小さい場合、すなわちK0トルクTkoが不足している場合には、エンジン12側に伝達されるMGトルクTmが、K0反力補償分のMGトルクTmよりも小さくなる。このとき、余剰分のMGトルクTmによってMG回転速度Nmが上昇し、K0トルクTk0のばらつきがMG回転速度Nmの上昇分として現れる。又、学習パラメータであるMG回転変動量ΔNm(Nm-Nmb)が正の値となり、学習値についても正の値となる。従って、K0油圧指令値Spk0が増加側に補正される。
【0083】
又、K0反力補償分のMGトルクTmよりも実際のK0トルクTk0が大きい場合、すなわちK0トルクTk0を持ちすぎている場合には、エンジン12側に伝達されるMGトルクTmが、K0反力補償分のMGトルクTmよりも大きくなる。このとき、駆動トルクTr分のMGトルクTmの一部がエンジン12側に伝達されることにより、駆動トルクTr分のMGトルクTmの不足によってMG回転速度Nmが低下し、K0トルクTk0のばらつきがMG回転速度Nmの低下分として現れる。又、学習パラメータであるMG回転変動量ΔNm(Nm-Nmb)が負の値となり、学習値についても負の値となる。従って、K0油圧指令値Spk0が減少側に補正される。
【0084】
このように、MGFB制御が作動しない場合には、MG回転変動量ΔNmを学習パラメータとして算出することで、適切な学習パラメータに基づいて学習値を算出することができる。又、エンジン12の始動制御中において、クイックアプライの制御時間、K0クラッチ20がパック詰めされた状態となるパックエンド圧など、複数の学習が連続して実行されるが、各学習の開始時点におけるMG回転速度Nmが基準MG回転速度Nmbに設定されることで、学習開始時点以前の回転変動が学習パラメータとして検出されないことから、今回の学習対象よりも前の学習で生じたばらつきの影響をなくしつつ、学習パラメータの算出が可能になる。従って、学習値の学習精度が向上する。
【0085】
又、MGFB制御を実行可能な状態であっても、エンジン12の始動開始直前のMGFBトルクTmfbが収束したときのMGトルクTmを固定する、すなわちMGFB制御を一時的に停止することで、MG回転変動量ΔNmを学習パラメータとして用いることができる。
【0086】
図6は、EV走行中におけるエンジン12の始動制御時に実行される学習制御を説明するタイムチャートの一例を示す図である。図6のタイムチャートでは、車両10が走行中(EV走行中)であり、MGFB制御が非作動(実行不能)とされている。図6において、t1c時点は、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。t1c時点~t2c時点では、「K0待機」フェーズが実行され、t2c時点~t3c時点では、「クイックアプライ」フェーズが実行され、t3c時点~t5c時点では、「パック詰め時定圧待機」フェーズが実行されている。t2c時点において「クイックアプライ」フェーズが開始されると、実K0油圧PRk0の応答性を向上させるため、K0油圧指令値Spk0が一時的に高められる。ここで、K0油圧PRk0の油圧のばらつきに起因して、「クイックアプライ」フェーズにおいてK0トルクTk0がトルクを持つことで、MGトルクTmの一部がK0クラッチ20側に伝達され、電動機MGのMG回転速度Nmが目標MG回転速度Nmpよりも低下している。このとき、EV走行中では、MGFB制御が作動しないことから、MG回転速度NmがMGFB制御によってなまされることがないため、回転変動量ΔNmを学習パラメータとして用いることが可能になる。尚、目標MG回転速度Nmpは、EV走行中の車速V、自動変速機24の変速比γat、アクセル開度θacc等に基づいて算出される。
【0087】
又、回転変動量ΔNmを学習パラメータとした学習制御では、学習開始時点でのMG回転速度Nmが基準MG回転速度Nmbに設定されることで、今回の学習開始時点以前の回転変動が学習パラメータとして検出されなくなる。図6のt4c時点において、例えばパックエンド圧の学習が開始されると、そのt4c時点でのMG回転速度Nmが基準MG回転速度Nmbに設定される。従って、今回の学習開始以前の回転変動量ΔNmの影響が排除される。また、エンジン12の始動制御中に実行される各学習についても、それぞれの学習開始時点におけるMG回転速度Nmが基準MG回転速度Nmbに設定される。従って、各学習の開始時点においてそれ以前の回転変動量ΔNmがリセットされるため、今回の学習対象よりも前のばらつきの影響を受けることなく学習パラメータを検出することができる。その結果、学習値の学習精度が向上する。
【0088】
図7は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン12の始動制御時において学習値を算出するための学習パラメータを適切に検出するための制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、エンジン12の始動制御時において学習制御を実行する毎に実行される。
【0089】
図7において、先ず、始動判定部92cの制御機能に対応するステップ(以下、ステップを省略)S10において、エンジン12の始動要求があるかが判定される。つまり、エンジン12の始動制御が開始されるかが判定される。S10の判定が否定される場合には本ルーチンが終了させられる。S10が肯定された場合、学習制御部98の制御機能に対応するS20において、今回のエンジン始動制御で実行される各学習制御の各々のK0学習対象期間に入ったか否かが判定される。S20が否定される場合には、再度S20に戻されS20が肯定されるまで繰り返しS20の判定が実行される。S20が肯定された場合、フィードバック制御部92eの制御機能に対応するS30において、MGFB制御が実行可能であるか否か判定される。例えば、車両停止中であればMGFB制御が実行されるため、MGFB制御が実行可能と判定されてS30が肯定される。又、例えばEV走行中であればMGFB制御が実行されないため、MGFB制御が実行不能と判定されてS30が否定される。
【0090】
学習制御部98の制御機能に対応するS40において、エンジン始動制御開始前の基準MGFBトルクTmfbbと現在のMGFBトルクTmfbとのトルク変動量ΔTmfb(Tmfbb-Tmfb)が学習パラメータとして取得される。また、学習制御部98の制御機能に対応するS50において、MG回転速度Nmと各学習の開始時点における基準MG回転速度Nmbとの回転変動量ΔNm(Nm-Nmb)が学習パラメータとして取得される。次いで、学習制御部98の制御機能に対応するS60において、K0学習対象期間から出たか否かが判定される。S60が否定される場合にはS30に戻される。S60が肯定される場合、学習制御部98の制御機能に対応するS70において、取得された学習パラメータを用いたK0学習制御が実行される。尚、上記フローチャートにおけるK0学習対象期間は、各学習対象毎にそれぞれ異なることから、各学習対象毎に上記フローチャートが実行される。
【0091】
上述のように、本実施例によれば、エンジン12の始動時において、エンジン12の始動開始前後のMGFBトルクTmfbのトルク変動量ΔTmfbを学習パラメータにして、クラッチアクチュエータ120に供給される油圧の油圧指令値Spk0の学習を行うため、MGFB制御の実行中であっても、MGFB制御によるMGFBトルクTmfbのトルク変動量ΔTmfbから油圧指令値Spk0を精度良く学習することができる。又、エンジン12の始動時においてMGFB制御が実行不能の場合には、学習の開始時点での電動機MGの回転速度Nmを基準とした回転速度Nmの回転変動量ΔNmに基づいて、油圧の油圧指令値Spk0の学習を行うため、学習前の回転速度Nmの変動の影響を含むことなく学習が可能になり、油圧指令値Spk0の学習精度が向上する。
【0092】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0093】
例えば、前述の実施例では、エンジン12の始動方法として、K0クラッチ20が解放状態から係合状態へ切り替えられる過渡状態におけるエンジン12のクランキングに合わせてエンジン12を点火し、エンジン12自体でもエンジン回転速度Neを上昇させる始動方法を例示したが、この態様に限らない。例えば、エンジン12の始動方法は、K0クラッチ20が完全係合状態又は完全係合状態に近い状態とされるまでエンジン12をクランキングした後にエンジン12を点火する始動方法などであっても良い。
【0094】
また、前述の実施例では、MGFB制御が実行不能の場合に実行されるMG回転変動量ΔNmが、一次遅れ処理を行ったMG回転速度Nmと基準MG回転速度Nmbとの差から算出されるものであったが、必ずしも一次遅れ処理を行う必要はなく、一次遅れ処理を行わない状態でのMG回転速度NmからMG回転変動量ΔNmが算出されるものであっても構わない。或いは、MG回転変動量ΔNmの別の算出方法として、その時点でのアクセル開度θacc、車速V、自動変速機24の変速比γat等に基づいて、学習開始後のMG回転速度Nmの予測値Nm*を算出し、MG回転速度Nmと予測値Nm*との差(Nm-Nm*)からMG回転変動量ΔNmを算出するものであっても構わない。
【0095】
また、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。
【0096】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0097】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0098】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
20:K0クラッチ(クラッチ)
56:油圧制御回路
90:電子制御装置(制御装置)
92d:始動制御部
92e:フィードバック制御部
94:クラッチ制御部
98:学習制御部
120:クラッチアクチュエータ
MG:電動機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7