(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】軸ずれ推定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
G01S7/40 126
(21)【出願番号】P 2021011992
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公一
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-066144(JP,A)
【文献】特開2020-187022(JP,A)
【文献】特開2019-158485(JP,A)
【文献】特開2019-046251(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03239737(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0161597(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/64,
G01S 13/00-13/95,
G01S 15/00-15/96,
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたレーダ装置(3)の軸ずれ角を推定する軸ずれ推定装置(7)であって、
前記レーダ装置により検出された
、当該レーダ装置を搭載した前記車両の周囲の物体の反射点のそれぞれについて、少なくとも前記レーダ装置と前記反射点との相対速度と、前記反射点についての方位角であってレーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた前記方位角と、を含む反射点情報を、繰り返して取得するように構成された情報取得部(31、S100)と、
前記情報取得部によって取得された前記反射点情報に基づいて、前記レーダ装置の軸ずれ角を複数の推定手法によってそれぞれ推定するように構成された軸ずれ角推定部(33、S110、S120、S130)と、
前記軸ずれ角推定部
にて前記複数の推定手法によってそれぞれ推定された前記それぞれの軸ずれ角に対して、信頼性の程度を示す信頼度をそれぞれ算出するように構成された信頼度算出部(35、S140)と、
前記反射点情報に影響を与える外部要因の状態を推定するように構成された要因状況推定部(37、S220)と、
前記信頼度算出部によって
前記それぞれの軸ずれ角に対してそれぞれ算出された前記それぞれの信頼度を、前記要因状況推定部によって推定された前記外部要因の状態によって補正するように構成された信頼度補正部(39、S150)と、
前記軸ずれ角推定部によって推定された前記それぞれの軸ずれ角に対して、前記信頼度補正部によって補正された前記それぞれの信頼度を用いて重み付けした値に基づいて、統合軸ずれ角を算出するように構成された統合軸ずれ角算出部(41、S160)と、
を備えた、軸ずれ推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記信頼度補正部は、予め、前記外部要因の状態に対して前記信頼度を補正する補正量を備えるように構成された、
軸ずれ推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記要因状況推定部は、前記レーダ装置の汚れの状態を推定する構成を有し、
前記信頼度補正部は、前記汚れの程度が低いほど、前記軸ずれ角に対する前記信頼度を高く補正するように構成された、
軸ずれ推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記軸ずれ角推定部は、前記物体のうち静止物について、当該静止物の前記反射点情報から前記軸ずれ角を推定する第1の前記推定手法を備えており、
前記第1の推定手法にて前記軸ずれ角の推定を行う場合であって、前記信頼度補正部にて、前記汚れの状態に応じて前記信頼度を補正する際には、他の前記推定手法と比較して高い前記信頼度に補正するように構成された、
軸ずれ推定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記要因状況推定部は、前記レーダ装置の周囲の降雨の状態を推定する構成を有し、
前記信頼度補正部は、前記降雨の程度が低いほど、前記軸ずれ角に対する前記信頼度を高く補正するように構成された、
軸ずれ推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記軸ずれ角推定部は、前記物体のうち路面について、当該路面の前記反射点情報から前記軸ずれ角を推定する第2の前記推定手法を備えており、
前記第2の推定手法にて前記軸ずれ角の推定を行う場合であって、前記信頼度補正部にて、前記降雨の状態に応じて前記信頼度を補正する際には、他の前記推定手法と比較して低い前記信頼度に補正するように構成された、
軸ずれ推定装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記軸ずれ角推定部は、前記物体のうち自車の前を走行する先行車について、当該先行車の前記反射点情報から前記軸ずれ角を推定する第3の前記推定手法を備えており、
前記第3の推定手法にて前記軸ずれ角の推定を行う場合であって、前記信頼度補正部にて、前記降雨の状態に応じて前記信頼度を補正する際には、他の前記推定手法と比較して高い前記信頼度に補正するように構成された、
軸ずれ推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記要因状況推定部は、前記レーダ装置の周囲からの電波干渉の状態を推定する構成を有し、
前記信頼度補正部は、前記電波干渉の程度が低いほど、前記軸ずれ角に対する前記信頼度を高く補正するように構成された、
軸ずれ推定装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の軸ずれ推定装置であって、
前記軸ずれ角推定部は、前記物体のうち自車の前を走行する先行車について、当該先行車の前記反射点情報から前記軸ずれ角を推定する第3の前記推定手法を備えており、
前記第3の推定手法にて前記軸ずれ角の推定を行う場合には、前記信頼度補正部は、前記レーダ装置の周囲からの電波干渉の状態に応じた前記信頼度の補正において、他の前記推定手法と比較して高い前記信頼度に補正するように構成された、
軸ずれ推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置の軸ずれを推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載のレーダ装置では、何らの原因で設置状態等が変化することで、レーダビームの中心軸がずれる事態、所謂軸ずれが生じることがある。このような軸ずれが発生すると、レーダ装置の検出対象である物体の検出精度が低下する。
【0003】
この対策として、例えば下記特許文献1に記載のように、所定の推定ロジックを用いて、レーダ装置の軸ずれを推定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、従来のレーダ装置では、例えばレーダ波の送信部分や受信部分等の装置の汚れなどの外部要因によって、軸ずれの角度(即ち、軸ずれ角)の推定精度が低下する、という課題が見出された。
【0006】
本開示の1つの局面は、軸ずれ角の推定精度の低下を抑制できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、移動体に搭載されたレーダ装置(3)の軸ずれ角を推定する軸ずれ推定装置(7)に関するものである。この軸ずれ推定装置は、情報取得部(31、S100)と軸ずれ角推定部(33、S110、S120、S130)と信頼度算出部(35、S140)と要因状況推定部(37、S220)と信頼度補正部(39、S150)と統合軸ずれ角算出部(41、S160)とを備えている。
【0008】
情報取得部は、前記レーダ装置により検出された物体の反射点のそれぞれについて、少なくとも前記レーダ装置と前記反射点との相対速度と、前記反射点についての方位角であってレーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた前記方位角(例えば、水平角度及び垂直角度の少なくとも一方)と、を含む反射点情報を、繰り返して取得するように構成されている。
【0009】
軸ずれ角推定部は、前記情報取得部によって取得された前記反射点情報に基づいて、前記レーダ装置の軸ずれ角を複数の推定手法によってそれぞれ推定するように構成されている。
【0010】
信頼度算出部は、前記軸ずれ角推定部によって推定された前記それぞれの軸ずれ角に対して、信頼性の程度を示す信頼度をそれぞれ算出するように構成されている。
要因状況推定部は、前記反射点情報に影響を与える外部要因の状態を推定するように構成されている。
【0011】
信頼度補正部は、前記信頼度算出部によって算出された前記それぞれの信頼度を、前記要因状況推定部によって推定された前記外部要因の状態によって補正するように構成されている。
【0012】
統合軸ずれ角算出部は、前記軸ずれ角推定部によって推定された前記それぞれの軸ずれ角に対して、前記信頼度補正部によって補正された前記それぞれの信頼度を用いて重み付けした値に基づいて、統合軸ずれ角を算出するように構成されている。
【0013】
このような構成により、本開示では、レーダ装置の汚れ等の外部要因によって、レーダ装置の軸ずれ角の推定精度に影響がある場合でもあっても、その外部要因による影響を低減して、軸ずれ角の推定精度の低下を抑制することができる。
【0014】
つまり、本開示では、各推定手法(即ち、推定するための構成)によって推定された各軸ずれ角に対して、各推定手法における各信頼度(即ち、外部要因の状態に応じて補正された信頼度)を用いて重み付けした値に基づいて、例えば、各軸ずれ角を各推定手法に対応した各信頼度で重み付けした重み付け平均(即ち、加重平均)をとることによって、統合軸ずれ角を算出する。
【0015】
この統合軸ずれ角は、各推定手法において外部要因の影響を考慮して補正した信頼度を加味して得られた軸ずれ角であるので、外部要因の影響を考慮しない場合に比べて、軸ずれ角の推定精度を高めることができる。これにより、外部要因の影響がある場合でも、軸ずれ角の推定精度の低下を抑制することができる。
【0016】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態の軸ずれ推定装置を備えた車両制御システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】レーダ波の垂直方向における照射範囲を説明する説明図である。
【
図3】レーダ波の水平方向における照射範囲を説明する説明図である。
【
図5】軸ずれ推定装置の構成を機能的に示すブロック図である。
【
図6】第1実施形態にて実施されるメイン処理を示すフローチャートである。
【
図7】信頼度補正処理を示すフローチャートである。
【
図8】汚れの状態に対応した信頼度補正項算出マップを示す説明図である。
【
図9】比較例において静止物反射点を用いた場合の軸ずれ角や軸ずれ角の分散を示すグラフである。
【
図10】比較例において路面反射点を用いた場合の軸ずれ角や軸ずれ角の分散を示すグラフである。
【
図11】比較例において先行車反射点を用いた場合の軸ずれ角や軸ずれ角の分散を示すグラフである。
【
図12】第2実施形態において降雨の状態に対応した信頼度補正項算出マップを示す説明図である。
【
図13】第3実施形態において電波干渉の状態に対応した信頼度補正項算出マップを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本開示の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
なお、以下でいう「垂直」とは、厳密な意味での「垂直」に限るものではなく、同様の効果を奏するのであれば厳密に「垂直」でなくてもよい。以下でいう「水平」、「一致」についても同様である。
【0019】
[1.第1実施形態]
[1-1.全体構成]
まず、本第1実施形態における軸ずれ推定装置を含む車両制御システムの全体構成について説明する。
【0020】
図1に示す車両制御システム1は、車両に搭載されるシステムである。車両制御システム1は、レーダ装置3と、車載センサ群5と、信号処理部7と、支援実行部9と、軸ずれ通知装置11と、搭載角調整装置13と、を備える。
【0021】
なお、信号処理部7で行われる処理のうち、軸ずれ推定の処理を行う構成が軸ずれ推定装置に該当する。
以下では、車両制御システム1を搭載する車両を自車VHともいい、自車VHの周囲の車両を他車ともいい、他車のうち自車VHより前方の車両を先行車ともいう。また、自車VHの車高方向を垂直方向、自車の車幅方向を水平方向ともいう。
【0022】
レーダ装置3は、レーダ波を繰り返し送受信して自車VHの周辺を監視する、周知の電磁波を用いた探知装置である。このレーダ装置3は、レーダ波としてミリ波帯の電磁波を使用するいわゆるミリ波レーダであってもよい。また、レーダ波としてレーザー光を用いるレーザレーダ、レーダ波として音波を用いるソナーであってもよい。
【0023】
いずれにしても、レーダ波を送受信するアンテナ部は、水平方向及び垂直方向のいずれについても反射波の到来方向を検出できるように構成されている。本第1実施形態では、アンテナ部は、垂直方向及び水平方向に並ぶ複数のアンテナを備える、アレイアンテナである。
【0024】
レーダ装置3は、
図2及び
図3に示すように、自車VHの前側に搭載される。レーダ装置3は、自車VH前方の所定の角度範囲である照射範囲にレーダ波を照射する。具体的には、レーダ装置3は、垂直方向における照射範囲Rv及び水平方向における照射範囲Rhに、レーダ波を照射する。レーダ装置3は、照射したレーダ波の反射波を受信することで、レーダ波を反射した反射点に関する反射点情報を生成する。
【0025】
レーダ装置3は、照射するレーダビームの中心軸の方向に沿った方向であるビーム方向が、自車VHの前後方向(即ち、進行方向)と一致するように取り付けられ、自車VHの前方に存在する各種物標を検出するために用いられる。レーダ装置3が生成する反射点情報には、レーダ装置3と反射点との相対速度、反射点の方位角(即ち、方位角度)が少なくとも含まれ、さらに、レーダ装置3と反射点との距離が含まれていてもよい。
【0026】
反射点の方位角とは、
図4に示すように、レーダ装置3(詳しくは、レーダビーム)の基準方向Aを基準として求められた反射点の角度のうち垂直方向の角度(以下、垂直角度)Ver及び水平方向の角度(以下、水平角度)Horの少なくとも一方である。
【0027】
本第1実施形態では、垂直角度Ver及び水平角度Horの両方が反射点の方位角を表す情報として反射点情報に含まれる。垂直角度Verは、自車VHを右側面から見た場合において、レーダ装置3の基準方向Aを基準(すなわち、0°)として、レーダ装置3の基準方向Aから右回りをプラス、左回りをマイナスとする角度で表す。水平角度Horは、自車VHを上空から見た場合において、レーダ装置3の基準方向Aを基準として、レーダ装置3の基準方向Aから右回りをプラス、左回りをマイナスとする角度で表す。
【0028】
レーダ装置3の基準方向Aとは、基準として設計上定められたレーダ装置3の方向である。本第1実施形態では、照射範囲の中心軸の方向がレーダ装置3の基準方向Aとして設定される。
【0029】
レーダ装置3は、レーダ装置3の基準方向Aが車両の基準方向と一致するように自車VHに搭載される。車両の基準方向とは、基準として設計上定められた車両の方向であり、自車VHの進行方向Bが車両の基準方向として設定される。
【0030】
レーダ装置3の基準方向Aと自車VHの進行方向Bとが一致するように、レーダ装置3が自車VHに搭載されると、検出された反射点の方位角と、自車VHの進行方向Bに対する反射点の角度と、が一致する。換言すれば、レーダ装置3の基準方向Aと自車VHの進行方向Bとの間にずれが生じると、自車VHの進行方向Bに対する反射点の角度を表す情報が正しく得られないことになる。
【0031】
図4は、レーダ装置3に、垂直方向における軸ずれ、すなわち垂直面であるx-z平面内における軸ずれが生じている様子を示している。軸ずれとは、レーダ装置3の基準方向Aが、車両の基準方向(例えば、自車VHの進行方向B)とずれている状態をいう。また、軸ずれ角(即ち、軸ずれ角度)とは、レーダ装置3の基準方向Aと車両の基準方向(例えば、自車VHの進行方向B)とのずれの大きさを示す角度をいう。
【0032】
なお、以下では、軸ずれとして垂直方向の軸ずれを例に挙げて説明するが、水平方向の軸ずれについても同様なことが言える。
本第1実施形態では、レーダ装置3は、公知のFMCW方式を採用しており、上り変調区間のレーダ波と下り変調区間のレーダ波をあらかじめ設定された変調周期で交互に送信し、反射したレーダ波を受信する。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略である。
【0033】
これにより、レーダ装置3は、変調周期ごとに、上述のように反射点との相対速度と、反射点の方位角度である垂直角度Ver及び水平角度Horと、を反射点情報として検出する。なお、レーダ装置3は、反射点までの距離と、受信したレーダ波の受信電力と、を更に反射点情報として検出し得る。
【0034】
図1に戻り、車載センサ群5は、自車VHの状態等を検出するために自車VHに搭載された各種センサである。ここでは、車載センサ群5を構成するセンサとして、車輪の回転に基づいて車速を検出する車速センサが少なくとも含まれている。
【0035】
支援実行部9は、信号処理部7が実行する各種の処理結果に基づき、各種車載機器を制御して、所定の運転支援を実行する。制御対象となる車載機器には、各種画像を表示するモニタ、警報音や案内音声を出力する音響機器が含まれる他、自車VHの内燃機関、パワートレイン機構、ブレーキ機構等を制御する制御装置が含まれていてもよい。
【0036】
軸ずれ通知装置11は、車室内に設置された音声出力装置である。軸ずれ通知装置11は、信号処理部7から出力される情報に基づき、自車VHの乗員に対して、警告音を出力する。
【0037】
搭載角調整装置13は、モータと、レーダ装置3に取り付けられた歯車とを備える。搭載角調整装置13は、信号処理部7から出力される駆動信号に従ってモータを回転させる。これにより、モータの回転力が歯車に伝達され、垂直方向に沿った軸及び水平方向に沿った軸を中心にレーダ装置3を回転させることができる。
【0038】
信号処理部7は、CPU21と、ROM23、RAM25、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、メモリ27)と、を有するマイクロコンピュータ(以下、マイコン)を中心に構成される。
【0039】
信号処理部7の各種機能は、CPU21が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ27が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。なお、メモリ27には、例えば、レーダ装置3によって得られた各種の測定データや演算結果等が記憶される。
【0040】
信号処理部7を構成するマイコンの数は1つでも複数でもよい。また、信号処理部7が有する各種機能を実現する手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の要素について、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現してもよい。例えば、上記機能がハードウェアである電子回路によって実現される場合、その電子回路は多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路、あるいはこれらの組合せによって実現してもよい。
【0041】
信号処理部7は、レーダ装置3の軸ずれ角を推定する処理を行う装置(即ち、軸ずれ推定装置)を構成するものであり、後に詳述するように、複数の推定手法によって推定された各軸ずれ角に対して、各推定手法における信頼度(即ち、外部要因の状態に応じて補正された信頼度)を用いて重み付けして、重み付け平均をとることにより、統合軸ずれ角を算出し、その統合軸ずれ角に基づいて軸ずれ角の判定等を行う。
【0042】
この信号処理部7は、
図5に機能的に示すように、情報取得部31と軸ずれ角推定部33と信頼度算出部35と要因状況推定部37と信頼度補正部39と統合軸ずれ角算出部41とを備えている。
【0043】
情報取得部31は、レーダ装置3により検出された物体の反射点のそれぞれについて、少なくともレーダ装置3と反射点との相対速度と、反射点についての方位角であってレーダビームの中心軸に沿った方向であるビーム方向を基準として求められた水平角度及び垂直角度の少なくとも一方である方位角と、を含む反射点情報を、繰り返して取得するように構成されている。
【0044】
軸ずれ角推定部33は、情報取得部31によって取得された反射点情報に基づいて、レーダ装置3の軸ずれ角を複数の推定手法によってそれぞれ推定するように構成されている。なお、推定手法とは、軸ずれ角を推定するために用いられるアルゴリズム等の構成である。
【0045】
信頼度算出部35は、軸ずれ角推定部33によって推定されたそれぞれの軸ずれ角に対して、信頼性の程度を示す信頼度をそれぞれ算出するように構成されている。
要因状況推定部37は、反射点情報に影響を与える汚れ等の外部要因の状態を推定するように構成されている。
【0046】
なお、外部要因としては、レーダ装置3自体の構成(例えば、レーダ装置3のハード構成)以外の外部の要因(例えば、レーダ装置3の汚れ、雨等の天気の要因、外部からの電磁波等)が挙げられる。具体的には、例えば、レーダ装置3によって物標の情報(即ち、反射点情報)を取得する際に、レーダ装置3に付着した汚れ等のように、反射点情報に影響を与える要因が挙げられる。言い換えれば、レーダ装置3によって物標を検知する際に、物標の検知に影響を与えるレーダ装置3自体以外の外部の要因が挙げられる。
【0047】
信頼度補正部39は、信頼度算出部35によって算出されたそれぞれの信頼度を、要因状況推定部37によって推定された外部要因の状態によって補正するように構成されている。
【0048】
統合軸ずれ角算出部41は、軸ずれ角推定部33によって推定されたそれぞれの軸ずれ角に対し、信頼度補正部39によって補正されたそれぞれの信頼度を用いて重み付けして、重み付け平均をとることによって、統合軸ずれ角を算出するように構成されている。
【0049】
[2.処理]
次に、信号処理部7にて実施される各種の処理について、
図6、
図7のフローチャート等を用いて説明する。本処理は、イグニッションスイッチ(即ち、IG)がオンである間に実施される。
【0050】
なお、以下では、垂直方向における軸ずれ角(即ち、垂直軸ずれ角αv)を推定する例を説明するが、水平軸ずれ角αhについても同様なことが言える。
<メイン処理>
まず、信号処理部7が実行する全体の処理(即ち、メイン処理)の処理について、
図6のフローチャート等を用いて説明する。
【0051】
信号処理部7は、本処理が起動すると、ステップ(以下、S)100で、物標情報取得処理を行う。
この物標情報取得処理とは、レーダ装置3を用いて、自車VHの周囲(例えば、前方)の物標(即ち、物体)を検出して、その物標に関する情報を取得する処理である。ここで物標とは、レーダ波の反射点に対応したものであり、本第1実施形態では、後述するように、路側物等の静止物における反射点、路面における反射点、先行車における反射点が含まれる。
【0052】
この物標情報取得処理については、例えば特許6321448号等に記載のように周知の処理であるので、詳しい説明は省略する。
具体的には、レーダ装置3から各反射点の情報(即ち、反射点情報)を取得する。この反射点情報には、自車VHと反射点との相対速度と、反射点の方位角としての垂直角度Ver及び水平角度Horと、レーダ装置3から反射点までの距離とが含まれる。
【0053】
続くS110では、第1軸ずれ角推定処理を行う。この第1軸ずれ角推定処理とは、所定の推定手法(即ち、第1の推定手法)によって、軸ずれ角(即ち、第1軸ずれ角m1)を推定する処理である。なお、第1軸ずれ角推定処理は、物標を検知する測定サイクル毎に実施される。
【0054】
この第1の推定手法としては、周知のように(例えば、特開2018-54315号公報参照)、レーダ装置3によって得られる多くの反射点から静止物に由来する静止物反射点を抽出し、その静止物反射点に基づいて、相対速度(即ち、自車VHと静止物反射点との相対速度)と観測速度(即ち、自車VHの速度)とから、軸ずれを推定する手法である。例えば、静止物であれば、静止物との相対速度は自車速度と同じであるので(但し、向きは逆)、この速度の条件から静止物と判定することができる。
【0055】
この静止物としては、道路に沿って配置されたガードレール等の路側物が挙げられる。なお、静止物には路面も含まれるが、路面を除いた静止物を採用してもよい。例えば、道路の側方の所定の範囲(例えば、所定の横位置や縦位置の範囲)に存在する静止物を、路側物として採用してもよい。
【0056】
続くS120では、第2軸ずれ角推定処理を行う。この第2軸ずれ角推定処理とは、第1の推定手法とは異なる第2の推定手法によって、軸ずれ角(即ち、第2軸ずれ角m2)を推定する処理である。なお、第2軸ずれ角推定処理は、物標を検知する測定サイクル毎に実施される。
【0057】
この第2の推定手法としては、周知のように(例えば、特許第6321448号公報参照)、レーダ装置3によって得られる多くの反射点から路面における反射点(即ち、路面反射点)を抽出し、その路面反射点に基づいて軸ずれを推定する手法である。
【0058】
なお、この第2の推定手法としては、本願出願人が出願した特願2020-47820号に記載の手法を採用できる。具体的には、反射点との距離、反射点の方位、反射点による電力、反射点との相対速度、自車の走行状態、カメラ画像等を考慮して、多くの反射点から、路面の反射点である可能性の高い反射点を抽出する手法である。
【0059】
続くS130では、第3軸ずれ角推定処理を行う。この第3軸ずれ角推定処理とは、第1、第2の推定手法とは異なる第3の推定手法によって、軸ずれ角(即ち、第3軸ずれ角m3)を推定する処理である。なお、第3軸ずれ角推定処理は、物標を検知する測定サイクル毎に実施される。
【0060】
この第3の推定手法としては、周知のように(例えば、特開2004-45229号公報参照)、レーダ装置3によって得られる多くの反射点から先行車おける反射点(即ち、先行車反射点)を抽出し、その先行車反射点に基づいて軸ずれを推定する手法である。
【0061】
この第3の推定手法では、レーダ波の反射波の到来方位等の条件から、先行車の反射点を抽出することが可能である。また、反射点が先行車の反射点である場合には、反射点が移動しているので、自車VHと反射点との相対速度から、反射点が移動物体(例えば、先行車)であると推定することも可能である。
【0062】
なお、前記第1~第3軸ずれ角推定処理で推定された第1~第3軸ずれ角m1~m3は、メモリ27に記憶される。
続くS140では、推定信頼度算出処理を行う。この推定信頼度算出処理とは、前記第1~第3軸ずれ角推定処理で得られた所定回数分の第1~第3軸ずれ角m1~m3から、各第1~第3軸ずれ角m1~m3についてそれぞれ分散w1~w3を求め、各分散w1~w3をそれぞれ第1~第3軸ずれ角m1~m3の信頼度として採用する処理である。
【0063】
例えば、第1軸ずれ角推定処理は、各測定サイクル毎に実施されるので、各測定サイクル毎にそれぞれ第1軸ずれ角m1が得られる。よって、複数の測定サイクルにて得られた所定回数(例えば100サイクル分)の第1軸ずれ角m1の分散w1を、第1軸ずれ角m1の信頼性の程度を示す指標である信頼度として求める。なお、第2、第3軸ずれ角m2、m3についても同様である。
【0064】
なお、前記推定信頼度算出処理で算出された、第1軸ずれ角m1の分散w1、第2軸ずれ角m2の分散w2、第3軸ずれ角m3の分散w3は、メモリ27に記憶される。
続くS150では、信頼度補正処理を行う。この信頼度補正処理とは、前記推定信頼度算出処理にて算出された第1~第3軸ずれ角m1~m3の各信頼度の補正を行って、補正信頼度を求める処理である。なお、この処理については後に詳述する。
【0065】
続くS160では、統合軸ずれ角算出処理を行う。この統合軸ずれ角算出処理とは、信頼度補正処理で求めた第1~第3軸ずれ角m1~m3に対応する各補正信頼度を用いて、第1~第3軸ずれ角m1~m3を重み付けして、総合的な軸ずれ角を算出する処理である。なお、本処理については、後に詳述する。
【0066】
そして、この統合軸ずれ角が、軸ずれが発生したと判断する判定値以上である場合には、軸ずれの発生に対応した所定の処理を行う。例えば、軸ずれ通知装置11を駆動して、軸ずれが発生したことの通知を行うことができる。また、軸ずれ角が修正可能な範囲であるときには、搭載角調整装置13を駆動して軸ずれ角の修正を行うことができる。
【0067】
続くS170では、本処理を終了するか否かの終了判定を行う。
具体的には、イグニッションスイッチがオフか否かを判定し、ここで肯定判断されると一旦本処理を終了し、一方否定判断されるとS100に戻る。
【0068】
なお、後述するように、例えば汚れの程度が所定以上の酷い場合のように、外部要因によって軸ずれ推定の精度が大きく低下する恐れがある場合には、軸ずれの推定を一旦停止することができる。また、軸ずれ推定に用いた測定データをリセットして、再度軸ずれ推定を行うことができる。
【0069】
<信頼度補正処理>
次に、前記S150にて実施される信頼度補正処理について、
図7のフローチャート等に基づいて説明する。
【0070】
まず、
図7のS200にて、メモリ27から、第1~第3の軸ずれ角推定処理によって得られた、第1軸ずれ角m1、第2軸ずれ角m2、第3軸ずれ角m3を取得する。なお、各軸ずれ角は、各測定サイクル毎に得られるので、この第1~第3軸ずれ角m1~m3としては、例えば所定期間(即ち、所定サイクル数)における平均値を用いる。
【0071】
続くS210では、メモリ27から、第1軸ずれ角m1の信頼度w1、第2軸ずれ角m2の信頼度w2、第3軸ずれ角m3の信頼度w3を取得する。
続くS220では、メモリ27に記憶されている信頼度補正項算出マップを検索し、各信頼度w1、w2、w3の補正項wk1、wk2、wk3をそれぞれ求める。
【0072】
なお、第1軸ずれ角m1の信頼度w1の補正項がwk1であり、第2軸ずれ角m2の信頼度w2の補正項がwk2であり、第3軸ずれ角m3の信頼度w3の補正項がwk3である。
【0073】
図8にレーダ装置3の汚れの状態に対応した信頼度補正項算出マップを示すが、この信頼度補正項算出マップは、汚れの状態(即ち、汚れの程度)と反射点の種類とから補正項wk1~wk3の数値を求めるためのマップである。
【0074】
このマップでは、汚れの程度を、例えば、0、20、40、60、80、100の6つのレベルに区分しており、レベルの数が大きいほど汚れの程度が高いこと(即ち、汚れが酷いこと)を示している。なお、汚れの程度が、例えば、0以上10未満をレベル0、10以上30未満をレベル20、30以上50未満をレベル40、50以上70未満をレベル60、70以上90未満をレベル80、90以上をレベル100としている。なお、どのようにレベルを区分するかについては、後述する他のマップも同様である。
【0075】
汚れの程度は、公知のように(例えば、特許第4321487号公報参照)、例えば、汚れが酷いとレーダ波の反射波の受信強度が低下するので、受信強度の程度から判断することができる。なお、実験等によって、汚れの程度と受信強度との関係を調べ、受信強度のレベルに応じて、汚れの程度を上述のように区分することができる。
【0076】
この
図8では、第1の推定手法で用いる静止物反射点と、第2の推定手法で用いる路面反射点と、第3の推定手法で用いる先行車反射点とについて、それぞれ汚れの程度に応じた補正項を記載してある。
【0077】
この
図8は、本発明者の研究の結果に基づいて作成されたものである。つまり、3種の反射点のいずれかを用いる場合において、汚れの程度に応じて実際にどのように軸ずれ角の信頼度が変化するかを調べ、実際に信頼度が低くなる場合には、実際に合せて信頼度を低下させるように補正項を設定したものである。
【0078】
また、本第1実施形態では、
図8から明らかように、汚れの程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度を高く補正するように補正項が設定されている。
さらに、静止物反射点を用いる第1の推定手法にて軸ずれ角の推定を行う場合には、汚れの程度に応じて信頼度を補正する際に、他の推定手法(即ち、第2、第3の推定手法)と比較して、高い信頼度に補正するように補正項が設定されている。
【0079】
続くS230では、前記S210で取得した各信頼度w1、w2、w3と、前記S220で取得した各補正項wk1、wk2、wk3と、を用いて、下記式(1)~(3)によって、各補正信頼度hw1、hw2、hw3を算出する。つまり、各信頼度w1、w2、w3を補正し、一旦本処理を終了する。
【0080】
なお、各式の左辺が補正後の信頼度(即ち、補正信頼度)hw1、hw2、hw3である。つまり、第1軸ずれ角m1の補正信頼度がhw1であり、第2軸ずれ角m2の補正信頼度がhw2であり、第3軸ずれ角m3の補正信頼度がhw3であり、
hw1=w1*wk1・・・・(1)
hw2=w2*wk2・・・・(2)
hw3=w3*wk3・・・・(3)
<統合軸ずれ角算出処理>
次に、前記S160にて実施される統合軸ずれ角算出処理について説明する。
【0081】
本第1実施形態では、下記式(4)を用いて、統合軸ずれ角TGを算出する。
【0082】
【0083】
なお、式(4)におけるwkiは、前記式(1)~(3)におけるwk1、wk2、wk3に対応する値である。
つまり、式(4)に示すように、第1~第3の推定手法によって推定された第1~第3軸ずれ角m1~m3に対し、
図8のマップの補正項によって補正された信頼度(即ち、信頼度と補正項の積である補正信頼度)w1*wk1(即ち、hw1)、w2*wk2(即ち、hw2)、w3*wk3(即ち、hw3)を用いて重み付けして、重み付け平均をとることによって、統合軸ずれ角TGを算出する。
【0084】
[1-3.実験例]
ここでは、比較例の技術で軸ずれを推定した結果と、本第1実施形態によって軸ずれを推定した結果とを示す。なお、ここでは、実験対象として、実際には軸ずれのない(即ち、軸ずれ角が0°:0deg)レーダ装置3を使用した。
【0085】
比較例では、前記式(4)とは異なる下記式(5)を用いて、統合軸ずれ角TGを算出した。
【0086】
【0087】
この式(5)では、補正しない信頼度w1~w3を用いて統合軸ずれ角TGを算出した。
その結果、比較例では、軸ずれ角の誤差は2°であった。
また、
図9~
図11に、静止物反射点、路面反射点、先行車反射点を用いた場合において、軸ずれ角や信頼度等のデータを示す。
図9~
図11の縦軸は、軸ずれ角(即ち、垂直軸ずれ角)のずれを示しており、0°からの上方へのずれを+で示し、下方へのずれを-で示す。横軸は、時間[分]を示している。なお、縦軸には、軸ずれ角の分散も示しており、上方にゆくほど分散が大きくなることを示している。
【0088】
なお、
図9~
図11において、丸(○)は所定期間(例えば、100サイクル)における軸ずれ角の平均を示し、バツ(×)は軸ずれ角の分散を示す。なお、時系列に沿って上限に細かく変動するグラフG1は軸ずれ角の各測定サイクルの瞬間値を示す。
【0089】
この
図9から、この実験の比較例においては、静止物反射点を用いた場合は、軸ずれ角の推定精度の変動は少なかったことが分かる。また、
図10から、路面反射点を用いた場合は、軸ずれ角は0°~-5°程度の誤差があったことが分かる。さらに、
図11から、先行車反射点を用いた場合は、軸ずれ角は+4°の誤差があったことが分かる。
【0090】
なお、周囲の環境等の実験条件によって実験結果が異なるので、どの反射点を用いるのがいいのは一概に言えないが、複数の種類の反射点を組み合わせて用いることにより、軸ずれ角の推定精度の低下を安定して抑制できると考えられる。
【0091】
一方、本第1実施形態では、前記式(4)に基づいて、信頼度w1~w3を補正した補正信頼度w1*wk1~w3*wk3用いて統合軸ずれ角TGを算出した。
その結果、本第1実施形態では、軸ずれ角の誤差は0.5°とわずかであった。
【0092】
[1-4.効果]
上記第1実施形態では、以下の作用効果を得ることができる。
(1a)本第1実施形態は、車載のレーダ装置3の軸ずれ推定装置7は、情報取得部31と軸ずれ角推定部33と信頼度算出部35と要因状況推定部37と信頼度補正部39と統合軸ずれ角算出部41とを備えている。そして、軸ずれ角推定部33によって推定されたそれぞれの軸ずれ角m1~m3に対し、信頼度補正部39によって補正されたそれぞれの信頼度(即ち、補正信頼度)hw1~hw3を用いて重み付けして、重み付け平均をとることによって、統合軸ずれ角TGを算出するように構成されている。
【0093】
このような構成により、レーダ装置3の汚れに関する外部要因によって、レーダ装置3の軸ずれ角の推定精度に影響がある場合であっても、その外部要因による影響を低減して、軸ずれ角の推定精度の低下を抑制することができる。
【0094】
つまり、各推定手法によって推定された各軸ずれ角m1~m3に対して、各推定手法に対応した補正信頼度hw1~hw3を用いて重み付けして、重み付け平均をとることにより、統合軸ずれ角TGを算出することができる。
【0095】
この統合軸ずれ角TGは、各推定手法において外部要因の影響を考慮して補正した補正信頼度hw1~hw3を加味して得られた軸ずれ角であるので、外部要因の影響を考慮しない場合に比べて、軸ずれ角の推定精度を高めることができる。これにより、外部要因の影響がある場合でも、軸ずれ角の推定精度の低下を抑制することができる。
【0096】
(1b)本第1実施形態では、信頼度補正部39は、予め、レーダ装置3の汚れの状態(即ち、汚れの程度)に対して信頼度を補正する補正量(即ち、補正項)を備えるように構成されている。
【0097】
具体的には、この補正項を規定する汚れの状態に対応した信頼度補正項算出マップを備えているので、このマップを用いることによって、適切に信頼度w1~w3の補正を行うことができる。
【0098】
(1c)本第1実施形態では、要因状況推定部37は、レーダ装置3による物体の情報の検知状況(例えば、受信強度)から、レーダ装置3の汚れの状態を推定するように構成され、信頼度補正部39は、汚れの程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度を高く補正するように構成されている。
【0099】
本発明者の研究により、レーダ装置3の汚れの程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度が高いことが分かっている。よって、レーダ装置3の汚れの程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度を高く補正することにより、推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0100】
(1d)本第1実施形態では、軸ずれ角推定部33は、物体のうち静止物について、静止物の反射点情報から(例えば、相対速度と観測速度とから)、第1軸ずれ角m1を推定する第1の推定手法を備えている。そして、第1の推定手法にて第1軸ずれ角m1の推定を行う場合であって、信頼度補正部39にて、汚れの程度に応じて信頼度を補正する際には、他の推定手法(即ち、第1、第2の推定手法)と比較して高い信頼度に補正するように構成されている。
【0101】
本発明者の研究により、第1の推定手法にて軸ずれ角の推定を行う場合に、汚れの程度に応じて信頼度の補正を行うときには、他の推定手法と比較して信頼度が高いことが分かっている。よって、第1の推定手法にて軸ずれ角の推定を行う場合に、汚れの程度に応じて信頼度の補正を行うときには、他の推定手法と比較して信頼度を高くすることによって、推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0102】
[1-4.文言の対応関係]
本第1実施形態と本開示との関係において、レーダ装置がレーダ装置3に対応し、軸ずれ推定装置が軸ずれ推定装置(即ち、信号処理部)7に対応し、情報取得部が情報取得部31、S100に対応し、軸ずれ角推定部が軸ずれ角推定部33、S110、S120、S130に対応し、信頼度算出部が信頼度算出部35、S140に対応し、要因状況推定部が要因状況推定部37、S220に対応し、信頼度補正部が信頼度補正部39、S150に対応し、統合軸ずれ角算出部が統合軸ずれ角算出部41、S160に対応する。
【0103】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では主として第1実施形態との相違点について説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0104】
[2-1.第2実施形態の要部の説明]
本第2実施形態では、信頼度補正項算出マップとして、降雨の状態(即ち、雨の状態)に対応した信頼度補正項算出マップを用いるので、このマップについて説明する。
【0105】
図12に示す信頼度補正項算出マップは、自車VH(従って、レーダ装置3)の周囲の降雨の程度と反射点の種類とから補正項の数値を求めるためのマップである。
このマップは、前記第1実施形態と同様に、降雨の程度を、0、20、40、60、80、100の6つのレベルに区分しており、レベルの数が大きいほど降雨の程度が高いこと(即ち、雨が激しいこと)を示している。なお、レベルに区分する方法は、汚れの程度と同様である。
【0106】
降雨の程度は、公知の技術(例えば、特開2007-3210号公報、特許第4005442号公報参照、特開2019-46251号公報参照)を用いて判断することができる。
【0107】
例えば、ワイパー作動センサや雨滴センサの出力や、カメラ画像から雨の程度を判断することができる。また、例えば、降雨の程度に応じて雨粒を示す反射波が得られるので、反射波の状態から降雨の程度を判断することができる。具体的には、雨粒を示す信号は路面より上方に出現するので、路面より上方に出現する信号の状態から降雨の程度を判断することができる。
【0108】
この
図12では、第1の推定手法で用いる静止物反射点と、第2の推定手法で用いる路面反射点と、第3の推定手法で用いる先行車反射点とについて、それぞれ降雨の程度に応じた補正項を記載してある。
【0109】
この
図12は、本発明者の研究の結果に基づいて作成されたものである。つまり、3種の反射点のいずれかを用いる場合において、降雨の程度に応じて実際にどのように軸ずれ角の信頼度が変化するかを調べ、実際に信頼度が低くなる場合には、実際の信頼度に対応して信頼度を低下させるように補正項を設定したものである。
【0110】
本第2実施形態では、
図12から明らかように、降雨の程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度を高く補正するように補正項が設定されている。
また、路面反射点を用いる第2の推定手法にて第2軸ずれ角m2の推定を行う場合には、降雨の程度に応じて信頼度を補正する際に、他の推定手法(即ち、第1、第3の推定手法)と比較して低い信頼度に補正するように補正項が設定されている。
【0111】
さらに、先行車反射点を用いる第3の推定手法にて第3軸ずれ角m3の推定を行う場合には、降雨の状態に応じた前記信頼度の補正において、前記他の推定手法と比較して高い信頼度に補正するように構成されている。
【0112】
[2-2.効果]
(2a)本第2実施形態は、第1実施形態と同様な効果を奏する。
(2b)本第2実施形態では、要因状況推定部37は、レーダ装置3の周囲の降雨の程度を推定するように構成されている。そして、信頼度補正部39は、降雨の程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度を高く補正するように構成されているので、軸ずれ角の推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0113】
(2c)本第2実施形態では、軸ずれ角推定部33は、路面の反射点情報から、第2軸ずれ角m2を推定する第2の推定手法を備えている。そして、第2の推定手法にて第2軸ずれ角m2の推定を行う場合には、信頼度補正部39にて、降雨の状態に応じて信頼度を補正する際に、他の推定手法と比較して低い信頼度に補正するように構成されている。これによって、軸ずれ角の推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0114】
(2d)本第2実施形態では、軸ずれ角推定部33は、先行車の反射点情報(例えば、レーダ波の反射波の到来方位)から、第3軸ずれ角m3を推定する第3の推定手法を備えている。そして、第3の推定手法にて第3軸ずれ角m3の推定を行う場合に、降雨の程度に応じて信頼度を補正する際には、他の推定手法と比較して高い信頼度に補正するように構成されている。これによって、軸ずれ角の推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0115】
[3.第3実施形態]
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では主として第1実施形態との相違点について説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0116】
[3-1.第3実施形態の要部の説明]
本第3実施形態では、信頼度補正項算出マップとして、他車のレーダ装置から送信されるレーダ波による干渉の状態(即ち、電波干渉の状態)に対応した信頼度補正項算出マップを用いるので、このマップについて説明する。
【0117】
図13に示す信頼度補正項算出マップは、電波干渉の程度と反射点の種類とから補正項の数値を求めるためのマップである。
このマップは、前記第1、2実施形態と同様に、電波干渉の程度を、0、20、40、60、80、100の6つのレベルに区分しており、レベルの数が大きいほど電波干渉の程度が高いこと(即ち、電波干渉が大きいこと)を示している。なお、レベルに区分する方法は、汚れや降雨の程度と同様である。
【0118】
電波干渉の程度は、公知の技術(例えば、特許第3723804号公報参照)を用いて判断することができる。具体的には、外部からのレーダ波による電波干渉があると、レーダ装置3にて受信した受信信号の受信強度が全体的に上昇するので、この受信強度の状態から電波干渉の程度を判断することができる。
【0119】
図13では、第1の推定手法で用いる静止物反射点と、第2の推定手法で用いる路面反射点と、第3の推定手法で用いる先行車反射点とについて、それぞれ電波干渉の程度に応じた補正項を記載してある。
【0120】
この
図13は、本発明者の研究の結果に基づいて作成されたものである。つまり、3種の反射点のいずれかを用いる場合において、電波干渉の程度に応じて実際にどのように軸ずれ角の信頼度が変化するかを調べ、実際に信頼度が低くなる場合には、実際の信頼度に対応して信頼度を低下させるように補正項を設定したものである。
【0121】
本第3実施形態では、
図13から明らかように、電波干渉の程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度を高く補正するように補正項が設定されている。
また、先行車反射点を用いる第3の推定手法にて第3軸ずれ角m3の推定を行う場合に、電波干渉の程度に応じて信頼度を補正するときには、他の推定手法(即ち、第1、第2の推定方向)と比較して高い信頼度に補正するように補正項が設定されている。
【0122】
[3-2.効果]
(3a)本第3実施形態は、第1、第2実施形態と同様な効果を奏する。
(3b)本第3実施形態では、要因状況推定部37は、レーダ装置3による物体の情報の検知状況から、レーダ装置3の周囲からの電波干渉の状態を推定する。そして、信頼度補正部39は、電波干渉の程度が低いほど、軸ずれ角に対する信頼度を高く補正する。これによって、軸ずれ角の推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0123】
(3c)本第3実施形態では、軸ずれ角推定部33は、先行車の反射点情報(例えば、レーダ波の反射波の到来方位)から、第3軸ずれ角m3を推定する第3の推定手法を備えている。そして、第3の推定手法にて第3軸ずれ角m3の推定を行う場合に、電波干渉の状態に応じて信頼度を補正するときには、他の推定手法と比較して高い信頼度に補正する。これによって、軸ずれ角の推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0124】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0125】
(4a)本開示では、軸ずれ角を推定する推定手法として、第1~第3の推定手法を例に挙げたが、その他の推定手法を採用できる。また、推定手法の数は複数であればよく、2種又は4種以上であってもよい。
【0126】
(4b)上記実施形態では、垂直方向の軸ずれ角を推定する例を挙げて説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。つまり、垂直方向の軸ずれ角及び水平方向の軸ずれ角のいずれか一方を推定するように構成されてもよい。
【0127】
例えば、信号処理部は、水平角度のみを含む反射点情報を生成してもよいし、垂直角度のみを含む反射点情報を生成してもよい。
(4c)上記実施形態では、レーダ装置がレーダ波を車両の前方に向けて送信する形態を示したが、レーダ波の送信方向は車両の前方に限定されるものではない。例えば、レーダ装置は、車両の前方、右前方、左前方、後方、右後方、左後方、右側方及び左側方の少なくとも一方に向けてレーダ波を送信するように構成されてもよい。
【0128】
つまり、照射するレーダ波(即ち、レーダビーム)のビーム方向は、車両の進行方向に一致していなくともよく、任意の方向に設定可能である。
(4d)上記実施形態では、レーダ装置がFMCW方式を採用している例を示したが、レーダ装置のレーダ方式は、FMCWに限定されるものではなく、例えば、2周波CW、FCM又はパルスを採用するように構成されてもよい。FCMは、Fast-Chirp Modulationの略である。
【0129】
(4e)上記実施形態では、信号処理部が軸ずれ角の推定や軸ずれ角の調整の処理を実行する例を示したが、レーダ装置が軸ずれ角の推定や軸ずれ角の調整の処理を実行するように構成されてもよい。
【0130】
(4f)本開示に記載の軸ずれ推定装置およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0131】
あるいは、本開示に記載の軸ずれ推定装置およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0132】
もしくは、本開示に記載の軸ずれ推定装置およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0133】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(即ち、非遷移的実体的記録媒体)に記憶されてもよい。制御部に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0134】
(4g)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0135】
(4h)上述した軸ずれ推定装置の他、当該軸ずれ推定装置を構成要素とするシステム、当該軸ずれ推定装置のコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移有形記録媒体、制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0136】
3:レーダ装置、7:軸ずれ推定装置、31:情報取得部、33:軸ずれ角推定部、35:信頼度算出部、37:要因状況推定部、39:信頼度補正部、41:統合軸ずれ角算出部