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特許7564004プレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法
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  • 特許-プレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】プレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
E04B1/94 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021017387
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120476
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-016030(JP,A)
【文献】特開2002-079606(JP,A)
【文献】特開2014-105566(JP,A)
【文献】特開平07-268985(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0316347(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨部材と、この鉄骨部材の表面に設けられるとともに加熱により所定の温度帯で発泡する発泡性の耐火材料とを備えるプレコート部材において、プレコート部材に対する溶接熱で耐火材料が発泡しないとともに火災時に耐火材料が所定の耐火性能を発揮することが可能な耐火材料の配置位置を設計する方法であって、
鉄骨部材の端部どうしを溶接する際の鉄骨部材の鋼材温度上昇量と溶接位置からの距離の関係を鋼材の板厚ごとに求めるステップと、
前記関係を表す関係式の係数と、鋼材の板厚の関係を求めるステップと、
鋼材の板厚と鋼材温度上昇量を設定し、設定した鋼材の板厚に基づいて前記関係式の係数を決定するとともに、設定した鋼材温度上昇量を前記関係式に当てはめて溶接位置からの距離を求めるステップと、
求めた距離に基づいて、耐火材料の配置位置を設計するステップとを有することを特徴とするプレコート部材の設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレコート部材の設計方法に基づいて耐火材料の配置位置を設計するステップと、
設計した配置位置の鉄骨部材の表面に耐火材料を施工してプレコート部材を製作するステップとを有することを特徴とするプレコート部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプレコート部材の製造方法に基づいてプレコート部材を製作するステップと、
製作したプレコート部材に設定された溶接位置に対し、他の鉄骨部材を溶接するステップとを有することを特徴とするプレコート部材の溶接方法。
【請求項4】
請求項2に記載のプレコート部材の製造方法に基づいて、鉄骨部材の表面に下塗り材、耐火材料である主材、中塗り材および/または上塗り材を順次塗り重ねてプレコート部材を製作する場合において、
溶接位置であるプレコート部材の端部に近い側の表面に塗布される下塗り材よりも主材の塗布範囲を溶接位置から遠い側に設定し、下塗り材との境界をなす主材の端部を中塗り材および/または上塗り材で保護することを特徴とするプレコート部材の防水対策方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨部材に対して耐火塗料等を工場等で先行施工した後、建設現場に搬送して他部材と溶接されるプレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼構造建築物など、鋼材を使った構造物が火災に曝された場合、鋼材は温度上昇によって強度や剛性が低下して、構造物が崩壊する危険性がある。そのため、鉄骨造の梁や柱には、火災加熱による温度上昇を抑制するために、耐火被覆が施される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
耐火被覆材料の一つとして、ポリリン酸アンモニウムを主成分とする耐火塗料がある。耐火塗料は、火災時に熱を受けると200~300℃程度で発泡を開始して、20~30倍に発泡して断熱層を形成し、鋼材の温度上昇を抑制する。
【0004】
鉄骨部材に対して耐火塗料を工場等で先行塗装し、当該部材(以下、耐火塗料等を工場等で先行塗装した部材をプレコート部材ということがある。)を建設現場に運搬して建方を行った場合、他の鉄骨部材と接合するために溶接接合および/またはボルト接合を行うのが一般的である(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-222958号公報
【文献】特公平6-69614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、プレコート部材に対して溶接を行うと、溶接時に発生する熱によって耐火塗料の塗膜が悪影響を受けることが懸念される。プレコート部材端部と他の部材とを溶接接合する際に、プレコート部材の鋼材温度が前述した耐火塗料の発泡温度である200~300℃に達すると、火災を受けていないにも関わらず耐火塗料が発泡してしまい、火災時に所要の性能を発揮できなくなるおそれがある。このため、耐火塗料を工場で先行塗装したプレコート部材と他の部材を接合するために部材端部に対して溶接を行う際、溶接熱が耐火塗料および耐火塗料の下地となる下塗塗装(例えば、さび止め塗装)の塗膜に悪影響を及ぼすことなく、火災時に耐火塗料が所要の性能を発揮することのできる技術が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、火災時に所要の耐火性能を発揮することができるプレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るプレコート部材の設計方法は、鉄骨部材と、この鉄骨部材の表面に設けられるとともに加熱により所定の温度帯で発泡する発泡性の耐火材料とを備えるプレコート部材において、プレコート部材に対する溶接熱で耐火材料が発泡しないとともに火災時に耐火材料が所定の耐火性能を発揮することが可能な耐火材料の配置位置を設計する方法であって、鉄骨部材の端部どうしを溶接する際の鉄骨部材の鋼材温度上昇量と溶接位置からの距離の関係を鋼材の板厚ごとに求めるステップと、前記関係を表す関係式の係数と、鋼材の板厚の関係を求めるステップと、鋼材の板厚と鋼材温度上昇量を設定し、設定した鋼材の板厚に基づいて前記関係式の係数を決定するとともに、設定した鋼材温度上昇量を前記関係式に当てはめて溶接位置からの距離を求めるステップと、求めた距離に基づいて、耐火材料の配置位置を設計するステップとを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るプレコート部材の製造方法は、上述したプレコート部材の設計方法に基づいて耐火材料の配置位置を設計するステップと、設計した配置位置の鉄骨部材の表面に耐火材料を施工してプレコート部材を製作するステップとを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るプレコート部材の溶接方法は、上述したプレコート部材の製造方法に基づいてプレコート部材を製作するステップと、製作したプレコート部材に設定された溶接位置に対し、他の鉄骨部材を溶接するステップとを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るプレコート部材の防水対策方法は、上述したプレコート部材の製造方法に基づいて、鉄骨部材の表面に下塗り材、耐火材料である主材、中塗り材および/または上塗り材を順次塗り重ねてプレコート部材を製作する場合において、溶接位置であるプレコート部材の端部に近い側の表面に塗布される下塗り材よりも主材の塗布範囲を溶接位置から遠い側に設定し、下塗り材との境界をなす主材の端部を中塗り材および/または上塗り材で保護することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプレコート部材の設計方法によれば、鉄骨部材と、この鉄骨部材の表面に設けられるとともに加熱により所定の温度帯で発泡する発泡性の耐火材料とを備えるプレコート部材において、プレコート部材に対する溶接熱で耐火材料が発泡しないとともに火災時に耐火材料が所定の耐火性能を発揮することが可能な耐火材料の配置位置を設計する方法であって、鉄骨部材の端部どうしを溶接する際の鉄骨部材の鋼材温度上昇量と溶接位置からの距離の関係を鋼材の板厚ごとに求めるステップと、前記関係を表す関係式の係数と、鋼材の板厚の関係を求めるステップと、鋼材の板厚と鋼材温度上昇量を設定し、設定した鋼材の板厚に基づいて前記関係式の係数を決定するとともに、設定した鋼材温度上昇量を前記関係式に当てはめて溶接位置からの距離を求めるステップと、求めた距離に基づいて、耐火材料の配置位置を設計するステップとを有するので、火災時に耐火材料が所要の耐火性能を発揮可能なプレコート部材を設計することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係るプレコート部材の製造方法によれば、上述したプレコート部材の設計方法に基づいて耐火材料の配置位置を設計するステップと、設計した配置位置の鉄骨部材の表面に耐火材料を施工してプレコート部材を製作するステップとを有するので、火災時に耐火材料が所要の耐火性能を発揮可能なプレコート部材を製造することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係るプレコート部材の溶接方法によれば、上述したプレコート部材の製造方法に基づいてプレコート部材を製作するステップと、製作したプレコート部材に設定された溶接位置に対し、他の鉄骨部材を溶接するステップとを有するので、火災時に所要の耐火性能を発揮することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係るプレコート部材の防水対策方法によれば、上述したプレコート部材の製造方法に基づいて、鉄骨部材の表面に下塗り材、耐火材料である主材、中塗り材および/または上塗り材を順次塗り重ねてプレコート部材を製作する場合において、溶接位置であるプレコート部材の端部に近い側の表面に塗布される下塗り材よりも主材の塗布範囲を溶接位置から遠い側に設定し、下塗り材との境界をなす主材の端部を中塗り材および/または上塗り材で保護するので、建設現場などにおいて主材が雨水などに濡れて溶出する事態を未然に防止することができる。このため、火災時に所要の耐火性能を発揮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、溶接時の鋼材温度上昇(初期温度からの温度上昇量)と溶接位置からの距離の関係を示す図である。
図2図2は、鋼材温度上昇と板厚の関係の回帰式における係数と板厚との関係を示す図であり、(1)は係数aと板厚の関係、(2)は係数bと板厚の関係である。
図3図3は、鋼材温度上昇と板厚の関係の回帰式における係数a・bを示すテーブル図である。
図4図4は、パス間管理温度350℃、鋼材許容温度200℃、鋼材初期温度の場合の溶接位置からの離隔距離の計算例を示すテーブル図である。
図5図5は、パス間管理温度250℃、鋼材許容温度200℃、鋼材初期温度の場合の溶接位置からの離隔距離の計算例を示すテーブル図である。
図6図6は、本発明に係るプレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法の実施の形態を示す図であり、(1)は要部側面図、(2)はP部分の断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、耐火塗料(耐火材料)を工場で先行塗装したプレコート部材と他の部材を接合するために部材端部に対して溶接を行う際、溶接熱が耐火塗料および耐火塗料の下地となる下塗塗装(例えば、さび止め塗装)の塗膜に悪影響を及ぼすことなく、火災時に耐火塗料が所要の性能を発揮するための技術に関するものである。以下に、本発明に係るプレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
まず、本発明に至った検討の経緯および本発明の基本的構成について説明する。
プレコート部材の塗膜に影響を及ぼす溶接熱に関して、本発明者は以下の三つの性質を考えた。
(1)溶接する鋼材の板要素が厚いほど単位溶接長さ当たりの溶接回数(パス数)が増えるものの、鋼材の板要素が厚いほど熱容量が大きいことから、溶接による単位溶接長さ当たりの熱エネルギー量は鋼材の板要素の厚さにかかわらずほぼ同程度と考えることができる。しかしながら、板要素の厚さが厚くなっても、単位溶接長さ当たりの放熱面積は鋼材の板要素の厚さによってほとんど変わらない。そのため、板要素が厚いほど放熱による冷却が遅くなることから、若干、板要素の厚い方が鋼材温度は高くなる可能性がある。
(2)溶接時のパス間温度の管理温度を低くすれば、上記の板厚による鋼材温度上昇の差異は小さくなる。
(3)熱伝導による熱エネルギーの消費、および鋼材表面から周囲の空気等への対流熱伝達や放射熱伝達による熱エネルギーの放出により、鋼材温度は、溶接位置から部材の材軸方向に離れるに従い低くなる。
【0019】
これら(1)~(3)の三つの性質を検証するために、本発明者は鉄骨部材に対する溶接実験を実施した。鉄骨部材には、外法寸法一定H形鋼(SN490B)の鉄骨梁を用いた。このH形鋼の断面は700×250×12×tである。フランジ板厚tは、t=19、22、25mmの3種類とした。フランジ板厚が同じである鉄骨部材の端部どうしを突き合わせ、ガセットプレートを介してウェブ部分をボルト接合した後、フランジどうしをレ形完全溶込み突合せ溶接により溶接し、その時の鋼材温度を測定することによって温度影響範囲を確認した。
【0020】
図1に、溶接時の鋼材温度上昇(初期温度からの温度上昇量)と溶接位置からの距離の関係を示す。図1(1)、(2)はパス間温度管理がT=350℃の場合、図1(3)、(4)はT=250℃の場合である。また、図1(1)、(3)は上フランジ、図1(2)、(4)は下フランジである。各図には、鋼材温度上昇(y)と溶接位置からの距離(x)の関係を回帰分析した結果(回帰式)を併せて示してある。これらの図から、上記の三つの性質が概ね確認された。
【0021】
被溶接部材の被溶接板要素の鋼材温度を、耐火塗料の発泡温度である200~300℃に達しないようにするためには、溶接位置からプレコートによる塗装部分までの間に、離隔距離を設ける必要がある。離隔距離は、図1に示した回帰式の係数を板厚に応じて算定して求めればよい。図1の回帰式の係数と板厚との関係を図2に示す。なお、回帰式の係数aとbは、図1に示した回帰式に基づいた、下記の式(1)による。
【0022】
y=a×exp(bx) ・・・ 式(1)
ここに、y:鋼材温度上昇(℃)、x:溶接位置からの距離(mm)、aおよびb:回帰式の係数である。
【0023】
なお、図2の中には、係数a、b(y)と板厚(x)の関係を回帰分析した結果(回帰式)を併せて示してある。この回帰式をまとめると図3のようになる。
【0024】
上記の式(1)は、鋼材温度上昇と板厚の関係式である。実際には鋼材は初期温度があるため、目標とする鋼材温度上昇の値は、目標とする鋼材温度から鋼材の初期温度を減じた値とする必要がある。これを式で表すと式(2)および式(2A)となる。
【0025】
(T-T)=a×exp(bx) ・・・ 式(2)
すなわち、
=a×exp(bx)+T ・・・ 式(2A)
【0026】
ここに、T:目標とする鋼材温度(℃)、T:鋼材の初期温度(℃)である。式(2)を溶接位置からの離隔距離xをTで表す式に変形すると式(3)となる。
【0027】
x=(1/b)×log{(T-T)/a} ・・・ 式(3)
【0028】
ここに、aおよびbは図3による。この式(3)に対して、板厚tから得られるaおよびb、許容される鋼材温度T、鋼材の初期温度Tの三つの条件を与えることにより、必要な離隔距離xを算定することができる。ただし、図3の係数aおよびbは板厚t=19mm、22mm、25mmの結果から得られたものであり、これらの板厚よりも大きく異なる場合は外挿になるため、必要に応じて溶接試験などを行い確認することが望ましい。
【0029】
例として、パス間管理温度350℃および250℃の場合に関して、鋼材許容温度T=150℃、鋼材初期温度T=20℃とした場合の離隔距離の計算結果を図4図5にそれぞれ示す。
【0030】
上記の方法により、パス間管理温度、鋼材許容温度、鋼材初期温度、板厚に基づいて、溶接位置(鋼材端部)からプレコート範囲までの離隔距離を決定することができる。したがって、プレコート部材を設計する場合には、パス間管理温度、鋼材許容温度、鋼材初期温度、板厚を設定し、設定した板厚に基づいて係数a、bを決定する。そして、設定した鋼材許容温度、鋼材初期温度を式(3)に当てはめて離隔距離を決定し、この離隔距離に基づいて、耐火塗料のプレコート範囲(配置位置)を設計すればよい。そして、鉄骨部材に対し離隔距離の部分を避けて耐火塗料をプレコートすることにより、溶接時の鋼材温度が耐火塗料の発泡温度である200~300℃に達しないようなプレコート部材を製作することができる。
【0031】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明する。
図6は、上記の方法を用いて製作されたプレコート部材の端部側の側面の一例を示したものである。この図に示すように、プレコート部材1は、ウェブ2、上フランジ3、下フランジ4を有するH形鋼からなる。プレコート部材1の端部5側の表面は、プレコート塗装を行わない無塗装部6と、プレコート塗装を行った塗装部7とに区分されている。無塗装部6は、プレコート部材1の端部5から塗装部7までの離隔距離Lの範囲に設定される。塗装部7は、プレコート部材1の端部5から離隔距離Lだけ離れた位置よりも内方に設定される。塗装部7の塗り重ね仕様は、下塗り材8(さび止め塗装)のみの部分Aと、下塗り材8、主材9(耐火塗料)、中塗り材10、上塗り材11がこの順番で塗り重ねられた部分Bと、その境界の部分Cとにより区分されている。
【0032】
なお、この図の例では、断面寸法が700×250×12×tのH形鋼(SN490B)からなるプレコート部材を想定している。フランジ板厚tとして19、22、25mmを想定し、プレコート部材1の端部5にフランジ板厚tが同じである鉄骨部材を突き合わせ、フランジどうしをレ形完全溶込み突合せ溶接により溶接する場合を想定している。この場合、プレコート部材1における離隔距離Lは200mm程度、部分Aの区間長LAは100mm程度、部分Cの区間長LCは10mm程度に設定することができる。このようなプレコート部材を建設現場に運搬して建方を行い、他の鉄骨部材との溶接を行うようにすれば、溶接熱が主材9(耐火塗料)および下塗り材8の塗膜に悪影響を及ぼすことがないので、火災時に耐火塗料が所要の性能を発揮することが可能である。
【0033】
また、プレコート部材を他の部材と接合した後、接合部廻りの耐火被覆を施さなければならないが、本実施の形態によれば、耐火塗料のプレコート範囲を最大限まで拡げることができ、建設現場における耐火被覆の範囲を最小限にすることができる。このため、建設現場における耐火被覆工事を省力化することができる。
【0034】
なお、上記のプレコート部材1において、溶接の熱影響を受ける範囲についてはプレコート塗装を行わない無塗装部6となるため、無塗装部6で発生した錆(例えば降雨等による錆汁)が塗装部7のプレコート範囲を汚さないようにする工夫が必要である。そこで、溶接作業までの錆防止対策として、プレコート部材1の端部5をラッピング材で事前にラッピングしておき、溶接時に剥がすなどの対策を行ってもよい。また、このようにする代わりに、無塗装部6と下塗り材8との境界を幅50mm程度のマスキングテープで覆っておき、溶接時には剥がさずに、現場塗装時に剥がすようにしてもよい。また、下塗り材8と主材9の境界を中塗り材10と上塗り材11で保護し、現場塗装時に中塗り材10と上塗り材11の保護層を紙やすり等で目荒しする対策を行ってもよい。
【0035】
なお、プレコート部材と他の部材の溶接が完了し、その後、その上部に床や屋根などが構築されるまで、プレコート部材は雨水などに曝される可能性がある。耐火塗料の主成分である水溶性のポリリン酸アンモニウムが雨水などに濡れると溶出してしまい、所定の耐火性能を発揮することができなくなる。そこで、図6(2)のように、下塗り材8と主材9の境界(部分C)を中塗り材10と上塗り材11で保護することが望ましい。このような保護方法は、耐火塗料の主成分である水溶性のポリリン酸アンモニウムが雨水などに濡れて溶出することを防止する効果があり、所定の耐火性能を確保する上で重要な方法である。
【0036】
また、溶接時にプレコートの塗装部7を養生するために、スパッタ飛散防止対策を施してもよい。この場合、例えば、フランジ内面側の無塗装部6に先付けされる照明取付け用先付け金物などをスパッタ飛散防止用の部材として活用してもよい。
【0037】
以上説明したように、本発明に係るプレコート部材の設計方法によれば、鉄骨部材と、この鉄骨部材の表面に設けられるとともに加熱により所定の温度帯で発泡する発泡性の耐火材料とを備えるプレコート部材において、プレコート部材に対する溶接熱で耐火材料が発泡しないとともに火災時に耐火材料が所定の耐火性能を発揮することが可能な耐火材料の配置位置を設計する方法であって、鉄骨部材の端部どうしを溶接する際の鉄骨部材の鋼材温度上昇量と溶接位置からの距離の関係を鋼材の板厚ごとに求めるステップと、前記関係を表す関係式の係数と、鋼材の板厚の関係を求めるステップと、鋼材の板厚と鋼材温度上昇量を設定し、設定した鋼材の板厚に基づいて前記関係式の係数を決定するとともに、設定した鋼材温度上昇量を前記関係式に当てはめて溶接位置からの距離を求めるステップと、求めた距離に基づいて、耐火材料の配置位置を設計するステップとを有するので、火災時に耐火材料が所要の耐火性能を発揮可能なプレコート部材を設計することができる。
【0038】
また、本発明に係るプレコート部材の製造方法によれば、上述したプレコート部材の設計方法に基づいて耐火材料の配置位置を設計するステップと、設計した配置位置の鉄骨部材の表面に耐火材料を施工してプレコート部材を製作するステップとを有するので、火災時に耐火材料が所要の耐火性能を発揮可能なプレコート部材を製造することができる。
【0039】
また、本発明に係るプレコート部材の溶接方法によれば、上述したプレコート部材の製造方法に基づいてプレコート部材を製作するステップと、製作したプレコート部材に設定された溶接位置に対し、他の鉄骨部材を溶接するステップとを有するので、火災時に所要の耐火性能を発揮することができる。
【0040】
また、本発明に係るプレコート部材の防水対策方法によれば、上述したプレコート部材の製造方法に基づいて、鉄骨部材の表面に下塗り材、耐火材料である主材、中塗り材および/または上塗り材を順次塗り重ねてプレコート部材を製作する場合において、溶接位置であるプレコート部材の端部に近い側の表面に塗布される下塗り材よりも主材の塗布範囲を溶接位置から遠い側に設定し、下塗り材との境界をなす主材の端部を中塗り材および/または上塗り材で保護するので、建設現場などにおいて主材が雨水などに濡れて溶出する事態を未然に防止することができる。このため、火災時に所要の耐火性能を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係るプレコート部材の設計方法、製造方法、溶接方法、防水対策方法は、鉄骨部材に対して耐火塗料等を工場等で先行施工した後、建設現場に搬送して他部材と溶接されるプレコート部材に有用であり、特に、火災時にプレコート部材の耐火塗料等が所要の耐火性能を発揮するのに適している。
【符号の説明】
【0042】
1 プレコート部材
2 ウェブ
3 上フランジ
4 下フランジ
5 端部
6 無塗装部
7 塗装部
8 下塗り材
9 主材(耐火塗料、耐火材料)
10 中塗り材
11 上塗り材
図1
図2
図3
図4
図5
図6