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特許7564011ステンレス鋼スラグ及びその製造方法、並びに土中埋設用材料
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  • 特許-ステンレス鋼スラグ及びその製造方法、並びに土中埋設用材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ステンレス鋼スラグ及びその製造方法、並びに土中埋設用材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20241001BHJP
   C04B 7/153 20060101ALI20241001BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C04B5/00 B
C04B7/153 ZAB
C21C7/00 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021022057
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124345
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 徹
(72)【発明者】
【氏名】江原 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】蛭濱 修久
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴博
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-132046(JP,A)
【文献】特開2006-170513(JP,A)
【文献】特開2020-079183(JP,A)
【文献】特開2005-254082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B01D 53/34-53/73
B01D 53/74-53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
C21C 7/00- 7/10
C21B 3/00- 5/06
C21B 11/00-15/04
C21C 5/00
C21C 5/28-5/50
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO及びSiO2を合計で50質量%以上含み、
Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、Cr23が0.2~8.0質量%、Al23が2.0~15.0質量%、MgOが3.0~20.0質量%、Mnが0.10~5.00質量%、Sが0.010~0.500質量%、Fが0.50質量%以下であり、
塩基度(CaO/SiO2)が0.8~1.5であり、
MnS相の平均粒子径が25.0μm以下である、ステンレス鋼スラグ。
【請求項2】
Fe、Ti、B及びPから選択される少なくとも1種を含み、その合計量が5.00質量%以下である、請求項1に記載のステンレス鋼スラグ。
【請求項3】
前記MnS相が0.01~2.00体積%、MgO・Al23・Cr23相が0.01~20.00体積%であり、
前記MgO・Al23・Cr23相に対する前記MnS相(MnS相/MgO・Al23・Cr23相)の体積比が0.004以上である、請求項1又は2に記載のステンレス鋼スラグ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のステンレス鋼スラグの製造方法であって、
C濃度が1.7質量%以上、Si濃度が0.2質量%以上、式(1)で表されるXが10.0以下となるように原料を溶解して精錬することによりステンレス溶鋼の組成を制御する工程と、
前記ステンレス溶鋼の上部に生成した製鋼スラグを前記ステンレス溶鋼から分離して冷却する際に、その表面温度500℃以上である時間が10時間以下となるように冷却する工程と
を含むステンレス鋼スラグの製造方法。
X=Cr/(0.5×C+Si+Mn) ・・・ (1)
式中、Cr、C、Si及びMnは、当該元素の含有量(質量%)を表す。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のステンレス鋼スラグを含む土中埋設用材料。
【請求項6】
高炉スラグ、固化助剤、混和剤及びアルカリ刺激剤から選択される少なくとも1種を更に含む請求項5に記載の土中埋設用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼スラグ及びその製造方法、並びに土中埋設用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼の製造では、一般に、原料を溶解してステンレス溶鋼を得る際(以下、「溶解工程」という)や、ステンレス溶鋼を精錬する際(以下、「精錬工程」という)に製鋼スラグが発生する。こうした製鋼スラグには、ステンレス溶鋼中のSiやAlなどが酸化されたSiO2やAl23などの酸化物や、溶解炉の耐火物に含まれるCaOやMgOなどが含有される。また、溶解工程の低温期や精錬工程の酸素吹込み期においてCrの一部が酸化されて生成したCr酸化物も製鋼スラグに含有される。Cr酸化物の一部は、排滓や冷却時の条件によっては微量の6価クロムに変化することがあり、製鋼スラグの資源化(例えば、道路材や土木用材などへの利用)における一つの懸念要因となっていた。
【0003】
そこで、6価クロムの溶出を抑制する方法として、特許文献1には、ステンレス鋼の脱炭製錬後、還元処理を経た溶融状態の酸化クロム含有スラグに対し、不活性ガスの吹込み攪拌下に、FeSなどの2価S化合物を添加して、スラグ中のS濃度を0.20wt%以上とするステンレス鋼スラグの改質方法が提案されている。
しかしながら、この方法は、クロム含有スラグに2価S化合物を均一に混合させることが困難である。そのため、この方法によって得られるステンレス鋼スラグは、水に接触した場合に2価S化合物が溶解し、黄色を呈する「黄水」が発生することがある。
【0004】
また、特許文献2には、スラグの塩基度(CaO/SiO2)を1.2以下に調整して、遊離の未滓化CaOを滓化させた後、排滓する含クロム鋼精錬スラグの処理方法が提案されている。
しかしながら、この方法は、遊離の未滓化CaOを完全に滓化するために、1550℃以上に保つ必要があるため、消費電力量が増大し、多大な費用がかかる。
【0005】
また、特許文献3には、Cr23を含むスラグに含まれる全Cr量に対するMgO・Cr23に含有されるCr量の割合に応じて、所定の温度まで非酸化雰囲気で冷却を行うCr23含有スラグの処理方法が提案されている。
しかしながら、この方法は、実操業で非酸化雰囲気とするためには密閉容器が必要であり、非酸化雰囲気の使用も含めて多大な費用がかかる。
【0006】
さらに、特許文献4には、溶融状態にある酸化クロム含有スラグに対して、添加後の総重量に対しアルミ灰を1~30重量%、及びマグネシア系産業廃棄物を0.5~15重量%添加する酸化クロム含有スラグの改質方法が提案されている。
しかしながら、この方法は、溶融状態にある酸化クロム含有スラグと、アルミ灰及びマグネシア系産業廃棄物とを均一に混合させることが難しい上、アルミ灰及びマグネシア系産業廃棄物によって酸化クロム含有スラグの量が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-104553号公報
【文献】特開2003-301215号公報
【文献】特開2014-237556号公報
【文献】特開平6-171993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の方法及びそれによって得られるステンレス鋼スラグは、上記のように様々な問題があることから、上記のような問題が生じないステンレス鋼スラグ及びその製造方法が求められていた。
したがって、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、6価クロムの溶出を抑制可能なステンレス鋼スラグ及びその製造方法、並びに土中埋設用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ステンレス鋼スラグについて鋭意研究を行った結果、組成(特に、Cr23、Al23、MgO、Mn及びSの含有量)及びMnS相の平均粒子径が、6価クロムの溶出と密接に関係しているという知見を得た。そして、ステンレス鋼スラグの組成及びMnS相の平均粒子径を制御することにより、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、ステンレス溶鋼の組成及び生成した製鋼スラグの冷却条件(特に、表面温度500℃以上である時間)を制御することにより、ステンレス鋼スラグの組成及びMnS相の平均粒子径を制御し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、CaO及びSiO2を合計で50質量%以上含み、
Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、Cr23が0.2~8.0質量%、Al23が2.0~15.0質量%、MgOが3.0~20.0質量%、Mnが0.10~5.00質量%、Sが0.010~0.500質量%、Fが0.50質量%以下であり、
塩基度(CaO/SiO2)が0.8~1.5であり、
MnS相の平均粒子径が25.0μm以下である、ステンレス鋼スラグである。
【0011】
また、本発明は、前記ステンレス鋼スラグの製造方法であって、
C濃度が1.7質量%以上、Si濃度が0.2質量%以上、式(1)で表されるXが10.0以下となるように原料を溶解して精錬することによりステンレス溶鋼の組成を制御する工程と、
前記ステンレス溶鋼の上部に生成した製鋼スラグを前記ステンレス溶鋼から分離して冷却する際に、その表面温度500℃以上である時間が10時間以下となるように冷却する工程と
を含むステンレス鋼スラグの製造方法である。
X=Cr/(0.5×C+Si+Mn) ・・・ (1)
式中、Cr、C、Si及びMnは、当該元素の含有量(質量%)を表す。
【0012】
さらに、本発明は、前記ステンレス鋼スラグを含む土中埋設用材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、6価クロムの溶出を抑制可能なステンレス鋼スラグ及びその製造方法、並びに土中埋設用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るステンレス鋼スラグの断面のSEM像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0016】
本発明の実施形態に係るステンレス鋼スラグ(以下、単に「スラグ」と略すことがある)は、原料を溶解してステンレス溶鋼を得る溶解工程及びステンレス溶鋼を精錬する精錬工程で発生する製鋼スラグを固化して得られたものである。
ステンレス鋼の精錬方法としては、特に限定されず、電気炉や転炉などを用い、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。例えば、電気炉内に原料を投入して加熱することでステンレス溶鋼とした後、ランスから酸素を吹き込むことによって精錬することができる。精錬終了後、電気炉内の製鋼スラグは、容器(例えば、スラグポット)に排滓し、冷却して固化させることにより、ステンレス鋼スラグとすることができる。
【0017】
スラグは、CaO及びSiO2を主成分とする。すなわち、スラグは、CaO及びSiO2を合計で50質量%以上含む。
CaOは、精練時に脱酸・脱硫剤として配合されるとともに、原料の溶解時に炉の耐火物が溶損することを抑制する目的でも配合され、スラグ中に含有される成分である。
SiO2は、ステンレス溶鋼中で脱酸元素であるSiが酸化されることで生成し、スラグ中に含有される成分である。
【0018】
スラグの塩基度(CaO/SiO2)は、0.8~1.5である。塩基度が0.8未満であると、スラグ中のS濃度が低下するため、6価クロムの溶出が多くなる。一方、塩基度が1.5を超えると、スラグ中にCaSが生成し、水に溶出して黄水の原因となる。
【0019】
スラグは、Cr23、Al23、MgO、Mn、S及びFを更に含む。
Cr23は、ステンレス溶鋼中のCrが酸化されることで生成し、スラグ中に含有される成分である。
スラグにおけるCr23の含有量は、Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、0.2~8.0質量%、好ましくは0.5~6.0質量%である。Cr23の含有量が0.2質量%未満であると、6価クロムが生成することはないため、本発明の対象外である。一方、Cr23の含有量が8.0質量%を超えると、6価クロムの溶出が多くなるとともに、有価金属である多くのCrが無駄になってしまう。
【0020】
Al23は、原料の溶解時に炉の耐火物が溶損することや、ステンレス溶鋼中において脱酸元素であるAlが酸化されることで生成し、スラグ中に含有される成分である。
スラグにおけるAl23の含有量は、Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、2.0~15.0質量%、好ましくは5.0~12.0質量%である。Al23の含有量が2.0質量%未満であると、スラグの滓化性が低下し、粘度が高くなってしまう。その結果、スラグの除去が難しくなり、操業に適さなくなる。一方、Al23の含有量が15.0質量%を超えると、6価クロムの生成原因となるMgO・Al23・Cr23の生成量が増加し、6価クロムの溶出が多くなる。
【0021】
MgOは、原料の溶解時に炉の耐火物が溶損することでスラグ中に含有されるとともに、炉の耐火物が溶損することを抑制する目的でも配合される成分である。
スラグにおけるMgOの含有量は、Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、3.0~20.0質量%、好ましくは4.0~18.0質量%である。MgOの含有量が3.0質量%未満であると、溶解炉の耐火物の溶損が激しくなる。一方、MgOの含有量が20.0質量%を超えると、6価クロムの生成原因となるMgO・Al23・Cr23の生成量が増加し、6価クロムの溶出が多くなる。
【0022】
MnO及びMnSは、ステンレス溶鋼中のMnが酸化及び/又は硫化されることで生成し、スラグ中に含有される成分である。このようにMnは、冷却固化後のスラグ中においてMnO及びMnSの形態で存在するが、これらの化合物を成分組成で区別することは難しいため、本発明ではMnとして組成を規定する。
スラグにおけるMnの含有量は、Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、0.10~5.00質量%、好ましくは0.50~3.00質量%である。Mnの含有量が0.10質量%未満であると、6価クロムの生成抑制に有効なMnSが生成し難くなるため、6価クロムの溶出が多くなる。一方、Mnの含有量が5.00質量%を超えると、有価金属である多くのMnが無駄になってしまう。
【0023】
Sは、原料(ステンレス溶鋼)に含まれ、スラグ中に含有される成分である。
スラグにおけるSの含有量は、Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、0.010~0.500質量%、好ましくは0.050~0.500質量%である。Sの含有量が0.010質量%未満であると、6価クロムの生成抑制に有効なMnSが生成し難くなるため、6価クロムの溶出が多くなる。一方、Sの含有量が0.500質量%を超えると、スラグ中にCaSが生成し、水に溶出して黄水の原因となる。
【0024】
Fは、造滓剤(CaF2)に含まれ、スラグ中に含有される成分である。造滓剤は、スラグの融点を低下し、スラグの流動性を向上させ、ステンレス溶鋼との反応性を高めるために用いられる。なお、CaF2は、成分組成でCaOと区別することが難しいため、本発明ではFとして組成を規定する。
スラグにおけるFの含有量は、Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときに、0.50質量%以下、好ましくは0.30質量%以下である。Fの含有量が0.50質量%を超えると、スラグの水溶性が高くなるため、6価クロムやFの溶出が多くなる。
なお、Fの含有量の下限は、特に限定されず、ゼロであってもよいが、好ましくは0.01質量%である。
【0025】
スラグは、必要に応じて、Fe、Ti、B及びPから選択される少なくとも1種を更に含むことができる。これらの成分は、原料や各種添加剤に含まれ、スラグ中に含有される成分である。
スラグ(スラグ全体の量)におけるこれらの成分の含有量は、6価クロムの溶出にほとんど影響しないため特に限定されないが、合計量が好ましくは5.00質量%以下、より好ましくは4.50質量%以下である。
【0026】
なお、スラグは、上記の成分以外に不可避不純物を含むことができる。不可避不純物とは、原料中に含まれる微量成分や各工程中に意図せず混入する微量成分などである。
【0027】
スラグは、MgO・Al23・Cr23相を含むことができる。また、スラグは、MnS相を含むことが好ましい。
これらの相は、スラグの断面をSEMによって観察することによって特定することができる。
ここで、スラグ断面のSEM像の模式図を図1に示す。スラグは、図1に示されるように、CaO及びSiO2を含む相10と、MnS相20と、MgO・Al23・Cr23相30とを含む。
なお、MnS相は、Mn濃度が20質量%以上、及びS濃度が20質量%以上である相である。また、MgO・Al23・Cr23相は、Mg濃度が10質量%以上、Al濃度が10質量%以上、及びCr濃度が10質量%以上である相である。
【0028】
本発明者は、様々な組成を有するスラグを作製し、スラグにおけるMnS相及びMgO・Al23・Cr23相を調査した結果、特にMnS相の平均粒子径が6価クロムの溶出と密接に関係しているという知見を得た。
MnS相の平均粒子径は、6価クロムの溶出を抑制する観点から、25.0μm以下、好ましくは10.0μm以下である。MnS相の平均粒子径が25.0μmを超えると、MnS相の個数密度が低下する。その結果、ステンレス鋼スラグを破砕すると、MgO・Al23・Cr23相が表面に露出した際にその近傍にMnS相が十分に存在せず、Crが酸化し易くなるため、6価クロムの溶出を抑制する効果が十分に得られない。
一方、MnS相の平均粒子径の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.50μm、より好ましくは1.0μmである。
なお、本明細書において平均粒子径とは、スラグ断面のSEM像において測定される円相当直径の平均値のことを意味する。円相当直径とは、観察面に現れている相の面積と等しい面積を持つ円の直径のことを意味する。
【0029】
一方、MgO・Al23・Cr23相の平均粒子径は、6価クロムの溶出にあまり影響しないため、特に限定されない。MgO・Al23・Cr23相の典型的な平均粒子径は10.0~50.0μmである。
【0030】
スラグにおけるMnS相の量は、特に限定されないが、6価クロムの溶出を安定して抑制する観点から、好ましくは0.01~2.00体積%、より好ましくは0.01~1.50体積%である。
スラグにおけるMgO・Al23・Cr23相の量は、特に限定されないが、6価クロムの溶出を安定して抑制する観点から、好ましくは0.01~20.00体積%、より好ましくは0.10~15.00体積%、更に好ましくは1.00~12.00体積%である。
MgO・Al23・Cr23相に対するMnS相(MnS相/MgO・Al23・Cr23相)の体積比は、好ましくは0.004以上、より好ましくは0.005以上である。なお、当該体積比の上限値は、特に限定されないが、好ましくは0.500、より好ましくは0.100、更に好ましくは0.080である。
【0031】
ここで、本明細書においてMnS相及びMgO・Al23・Cr23相の量は、スラグ断面のSEM像の観察視野における各相の面積割合を、各相の体積割合(体積%)と推定した。
【0032】
上記のような特徴を有する本発明の実施形態に係るステンレス鋼スラグは、C濃度が1.7質量%以上、Si濃度が0.2質量%以上、式(1)で表されるXが10.0以下となるようにステンレス溶鋼の組成を制御する工程(以下、「組成制御工程」という)と、生成した製鋼スラグを、表面温度500℃以上である時間が10時間以下となるように冷却する工程(以下、「冷却工程」という)とを含む方法によって製造することができる。
X=Cr/(0.5×C+Si+Mn) ・・・ (1)
式中、Cr、C、Si及びMnは、当該元素の含有量(質量%)を表す。
【0033】
<組成制御工程>
ステンレス溶鋼のC濃度の上限値は、特に限定されないが、好ましくは5.0質量%、より好ましくは4.5質量%である。
ステンレス溶鋼のSi濃度の上限値は、特に限定されないが、好ましくは3.0質量%、より好ましくは2.0質量%である。
ステンレス溶鋼のCr及びMnの各濃度は、式(1)で表されるXが上記の範囲となるような範囲であれば特に限定されない。ステンレス溶鋼の典型的なCr濃度は、8.0~25.0質量%である。また、ステンレス溶鋼の典型的なMn濃度は、0.1~7.0質量%である。また、本発明の効果に対する影響が少ないため、特に記載していないが、ステンレス溶鋼中には、上記成分の他に、Ni、Mo、Nなどのステンレス鋼に一般的に含有される成分が含有されていてもよい。
【0034】
ステンレス溶鋼の組成の制御方法は、特に限定されないが、例えば、脱酸剤(Si、Al)、脱酸・脱硫剤(CaO)、耐火物溶損防止剤(MgO)などの添加剤の量を調整することによって行うことができる。また、ステンレス溶鋼が上記の組成となるように、原料の種類を選択して用いてもよい。
【0035】
なお、組成制御工程は、原料を溶解してステンレス溶鋼を得る溶解工程や、ステンレス溶鋼を精錬する精錬工程の一部であり得る。
組成制御工程においてステンレス溶鋼の上部に生成した製鋼スラグは、ステンレス溶鋼と分離して容器(例えば、スラグポット)に排滓される。
【0036】
<冷却工程>
上記のようにして生成した製鋼スラグは、冷却工程によって固化させることにより、ステンレス鋼スラグとなる。
冷却工程では、生成した製鋼スラグを、表面温度500℃以上である時間が10時間以下となるように冷却する。表面温度500℃以上である時間が10時間を超えると、内部でMnS相が粗大化し、MnS相の個数密度が低下する。また、MnS相がCaSO4相やスラグ中のMnO成分に分離してしまう場合があり、MgO・Al23・Cr23相に対するMnS相の体積比を適切な範囲に制御するのが難しくなる。その結果、ステンレス鋼スラグを破砕すると、MgO・Al23・Cr23相が表面に露出した際にその近傍にMnS相が十分に存在せず、Crが酸化し易くなるため、6価クロムの溶出を抑制する効果が十分に得られない。
冷却方法としては、上記の冷却条件を満たすことが可能な方法であれば特に限定されないが、製鋼スラグを排滓した容器に散水冷却する方法や、当該容器をスラグとともに水槽に浸漬する方法、又はスラグのみを水槽に浸漬する方法を用いることが好ましい。
【0037】
本発明の実施形態に係るステンレス鋼スラグは、6価クロムの溶出を抑制することができるため、道路材、土木用材、建築用材などの様々な用途で用いることができる。その中でも、このステンレス鋼スラグは、土中埋設用材料に用いることが好ましい。
【0038】
本発明の実施形態に係る土中埋設用材料は、上記のステンレス鋼スラグを含む。
土中埋設用材料に用いられるステンレス鋼スラグは、粉砕することにより、粒径が40mm未満に調整されていることが好ましい。
土中埋設用材料におけるステンレス鋼スラグの含有量としては、特に限定されないが、好ましくは20~40質量%である。
【0039】
本発明の実施形態に係る土中埋設用材料は、ステンレス鋼スラグに加えて、必要に応じて、高炉スラグ、固化助剤、混和剤及びアルカリ刺激剤から選択される少なくとも1種を更に含むことができる。
土中埋設用材料における高炉スラグの含有量としては、特に限定されないが、好ましくは40~60質量%である。
固化助剤としては、特に限定されないが、シリカ含有物質及びポゾラン反応性を有する材料、石膏、ポルトランドセメントなどが挙げられる。シリカ含有物質及びポゾラン反応性を有する材料としては、例えば、石炭灰、各種セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント他)などがある。これらの中でも、ステンレス鋼スラグの有効利用という観点からは、高炉セメント、フライアッシュが好ましい。土中埋設用材料における固化助剤の含有量としては、特に限定されないが、好ましくは10~30質量%である。
【0040】
混和剤としては、特に限定されないが、カチオン型界面活性剤、アニオン型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤、両性界面活性剤、高分子型分散剤などが含まれている分散剤などが挙げられる。混和剤の配合量は、特に限定されないが、ステンレス鋼スラグ、高炉スラグ及び固化助剤の合計100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましい。
アルカリ刺激剤としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸化物、硫酸塩、塩化物、又はトリエチルアミン、ジエチルアミン、n-ブチルアミン、p-ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミンなどのアミン類、又はアンモニア、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラメチルアンモニウムフルオライド、テトラn-ブチルアンモニウムフルオライド、ベンジルトリメチルアンモニウムフルオライドなどの4級アンモニウム塩類などが挙げられる。アルカリ刺激剤の配合量は、特に限定されないが、ステンレス鋼スラグ、高炉スラグ及び固化助剤の合計100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましい。
【実施例
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0042】
ステンレス鋼の原料を電気炉に投入して加熱することでステンレス溶鋼とした後、脱酸剤(Si、Al)、脱酸・脱硫剤(CaO)の添加量を調整し、表1の組成となるように制御して溶解した。
【0043】
【表1】
【0044】
溶解後、ステンレス溶鋼の上部に生成した製鋼スラグをステンレス溶鋼と分離して鉄製容器に排滓した(5~10t)。次に、鉄製容器を大気中で散水放冷することにより、製鋼スラグを表面温度500℃以上である時間が表2に示す条件となるように冷却し、ステンレス鋼スラグを得た。得られたステンレス鋼スラグの組成を表2に示す。ステンレス鋼スラグの組成は、蛍光X線分析により求めた。ただし、Fの含有量についてはイオン電極分析により求めた。蛍光X線分析では、ステンレス鋼スラグを振動ミルで予め粉砕し、得られた粉末を圧粉して粉末ブリケットを作製し、蛍光X線分析試料として供した。蛍光X線分析は、島津製作所製のMXF-2100(X線ターゲット:Rh)を用い、X線源の出力は、管電圧45kV、管電流60mAとした。また、イオン電極分析では、ステンレス鋼スラグをアルカリ融解して溶液を作製し、イオン電極分析試料として供した。イオン電極分析は、サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製のOrion Dual Star(登録商標)を用いた。なお、ステンレス鋼スラグの組成において、CaO、SiO2、Fe、Ti、B及びPの含有量は、ステンレス鋼スラグ全体を100%としたときの含有量であり、Cr23、Al23、MgO、Mn、S及びFの含有量は、Cr23、CaO、SiO2、Al23、MgO、Mn、S及びFの合計量を100質量%としたときの含有量である。
【0045】
【表2】
【0046】
上記で得られたステンレス鋼スラグを切断し、切断面を乾式切断した後にSEM観察を行った。SEM観察では、未滓化CaOの有無を確認するとともに、観察視野内におけるMnS相及びMgO・Al23・Cr23相の量を求めた。MnS相及びMgO・Al23・Cr23相の量(体積%)は、上記の方法によって求めた。また、この結果からMnS相/MgO・Al23・Cr23相の体積比を算出した。
また、SEM観察で得られた1mm×1mm以上の視野中で任意のMnS相20個の円相当直径を測定し、その平均値をMnS相の平均粒子径とした。
【0047】
次に、上記で得られたステンレス鋼スラグを粉砕し、6価クロムの溶出試験を行った。この試験は、土壌環境基準の検定方法である環境庁告示第46号に則した溶出試験方法に基づいて行った。溶出試験に使用したステンレス鋼スラグの粒径は、環境庁告示第46号に従い2mm以下に調整した。6価クロムの溶出量は、0.05mg/L以下であれば合格とみなすことができる。
上記の各評価結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3に示されるように、No.1~10のステンレス鋼スラグ(本発明例)は、6価クロムの溶出量が少なかった。
これに対してNo.11のステンレス鋼スラグ(比較例)は、Cr23の含有量が多すぎたため、6価クロムの溶出量が多くなった。これは、MgO・Al23・Cr23相がMnS相に比べて多く生成したことが原因であると考えられる。
No.12のステンレス鋼スラグ(比較例)は、Al23の含有量が多すぎたため、6価クロムの溶出量が多くなった。これは、MgO・Al23・Cr23相がMnS相に比べて多く生成したことが原因であると考えられる。
No.13のステンレス鋼スラグ(比較例)は、Sの含有量が少なすぎたため、6価クロムの溶出量が多くなった。これは、MnS相がMgO・Al23・Cr23相に比べて少なく生成したことが原因であると考えられる。
【0050】
No.14のステンレス鋼スラグ(比較例)は、Mnの含有量が少なすぎるとともに、塩基度が高すぎたため、6価クロムの溶出量が多くなった。これは、MnS相がMgO・Al23・Cr23相に比べて少なく生成したことが原因であると考えられる。
No.15のステンレス鋼スラグ(比較例)は、MnS相の平均粒子径が大きすぎたため、6価クロムの溶出量が多くなった。MnS相が粗大化したのは、ステンレス鋼スラグの製造工程において、製鋼スラグの冷却速度が遅く、表面温度500℃以上である時間が15時間と長すぎたためであると考えられる。また、6価クロムの溶出量が多くなったのは、MnS相の粗大化によってMnS相の個数密度が低下し、スラグ破砕時に露出したMgO・Al23・Cr23相の近傍にMnS相が十分に存在せず、Crが酸化して6価クロムを生成する反応が起こり易くなったためであると考えられる。
【0051】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、6価クロムの溶出を抑制可能なステンレス鋼スラグ及びその製造方法、並びに土中埋設用材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 CaO及びSiO2を含む相
20 MnS相
30 MgO・Al23・Cr23
図1