(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】静脈圧検査装置、静脈圧検査プログラム、および静脈圧検査方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
A61B5/022 400Z
(21)【出願番号】P 2021031491
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽香
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-517711(JP,A)
【文献】特表2020-503087(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0008684(US,A1)
【文献】特表平04-500167(JP,A)
【文献】中国実用新案第204813854(CN,U)
【文献】特開2019-076120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の所定の測定位置においてセンサにより静脈波を測定することで、前記対象者の中心静脈圧を推定する静脈圧検査装置であって、
前記対象者の心臓から前記測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、前記心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした前記対象者の前記測定位置で、前記センサにより前記静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定する推定部を有する、静脈圧検査装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記特定姿勢をした前記対象者の前記測定位置で、前記センサにより前記静脈波が検出された場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧以上と推定する、請求項1に記載の静脈圧検査装置。
【請求項3】
前記基準静脈圧を受け付ける受付部と、
受け付けられた前記基準静脈圧に基づいて、前記対象者の前記特定姿勢を特定する特定部と、
をさらに有する請求項2に記載の静脈圧検査装置。
【請求項4】
前記所定の測定位置は上腕であり、
前記センサはカフであり、
前記カフのカフ圧を前記基準静脈圧に設定する設定部をさらに有し、
前記推定部は、前記対象者の上腕に装着され、カフ圧が前記基準静脈圧に設定された前記カフにより前記静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定し、前記静脈波が検出された場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧以上と推定する、請求項2または3に記載の静脈圧検査装置。
【請求項5】
前記特定部は、腕を垂らした状態の前記対象者の上体と下体とがなす角度を前記特定姿勢として特定する、請求項3に記載の静脈圧検査装置。
【請求項6】
前記特定部は、仰臥位で上腕を前記心臓より垂直方向に上げた状態の前記対象者の上体と前記上腕とがなす角度を、前記特定姿勢として特定する、請求項3に記載の静脈圧検査装置。
【請求項7】
前記特定部は、上腕を前記心臓より垂直方向に上げた状態の前記対象者の上体と下体とがなす角度、および前記上腕と前記上体とがなす角度を、前記特定姿勢として特定する、請求項3に記載の静脈圧検査装置。
【請求項8】
前記推定部は、前記カフ圧を前記基準静脈圧から変化させるとともに、前記静脈波の振幅が最大となったときの前記カフ圧を前記中心静脈圧として推定する、請求項4に記載の静脈圧検査装置。
【請求項9】
前記対象者の背面と接触する背面接触面を屈折させることで前記対象者の前記上体と前記下体とがなす角度を調整可能な姿勢誘導器具の前記背面接触面の屈折角を、前記特定部により前記特定姿勢として特定された、前記対象者の前記上体と前記下体とがなす角度に設定することで、前記対象者の姿勢を前記特定姿勢にする制御部をさらに有する、請求項5に記載の静脈圧検査装置。
【請求項10】
前記特定部は、前記対象者の体表において前記心臓と前記ピーク点とにそれぞれ対応する点を結ぶ線分の長さおよび前記線分の水平に対する角度に基づいて前記特定姿勢を特定する、請求項5に記載の静脈圧検査装置。
【請求項11】
前記特定部により特定された前記特定姿勢を表示する表示部をさらに有する、請求項3に記載の静脈圧検査装置。
【請求項12】
前記受付部は、前記対象者の身体情報をさらに受け付け、
前記特定部は、前記対象者の体表において前記心臓と前記ピーク点とにそれぞれ対応する点を結ぶ線分の長さを、受け付けられた前記身体情報に基づいて算出する、請求項10に記載の静脈圧検査装置。
【請求項13】
前記対象者の前記上体と前記下体とがなす角度を検出する角度センサの出力に基づいて、前記対象者の前記上体と前記下体とがなす角度を前記対象者の姿勢として検出する姿勢検出部をさらに有し、
前記推定部は、検出された前記姿勢が前記特定姿勢であるときに、前記対象者の前記所定の測定位置で、前記センサにより静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定する、請求項5に記載の静脈圧検査装置。
【請求項14】
対象者の所定の測定位置においてセンサにより静脈波を測定することで、前記対象者の中心静脈圧を検査する検査プログラムであって、
前記対象者の心臓から前記測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、前記心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした前記対象者の前記測定位置で、前記センサにより前記静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定する手順をコンピューターに実行させるための静脈圧検査プログラム。
【請求項15】
対象者の所定の測定位置においてセンサにより静脈波を測定することで、前記対象者の中心静脈圧を推定する静脈圧検査方法であって、
前記対象者の心臓から前記測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、前記心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした前記対象者の前記測定位置で、前記センサにより前記静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定する推定段階を有する静脈圧検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈圧検査装置、静脈圧検査プログラム、および静脈圧検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
右心房近傍の静脈圧は中心静脈圧と呼ばれ、循環動態の把握における重要な指標となっている。
【0003】
中心静脈圧は、右心房近傍までカテーテルを挿入することで侵襲的に測定できるが、近年、患者の負担が少ない非侵襲的な中心静脈圧の測定が可能な静脈圧検査装置の開発が進められている。
【0004】
下記特許文献1には次の先行技術が開示されている。測定対象者の体の長軸の、水平面に対する傾斜角度と、当該傾斜角度に対応する、測定位置における内頚静脈の拍動強度を連続的に測定し記憶させる。そして、記憶されたデータに基づいて、拍動の検出ができる範囲とできない範囲との境界の傾斜角を算出し、算出された傾斜角と、右心房から当該測定位置までの距離から内頚静脈圧を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、臨床現場ではある基準に対する中心静脈圧の大小だけを速やかに判断したいという要求がある。上述した先行技術は、このような要求に対応できないという問題がある。
【0007】
本発明は上述の問題を解決するためになされたものである。すなわち、中心静脈圧が任意の基準より低いかどうかを速やかに推定可能な静脈圧検査装置および静脈圧検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0009】
(1)対象者の所定の測定位置においてセンサにより静脈波を測定することで、前記対象者の中心静脈圧を推定する静脈圧検査装置であって、前記対象者の心臓から前記測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、前記心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした前記対象者の前記測定位置で、前記センサにより前記静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定する推定部を有する、静脈圧検査装置。
【0010】
(2)対象者の所定の測定位置においてセンサにより静脈波を測定することで、前記対象者の中心静脈圧を検査する検査プログラムであって、前記対象者の心臓から前記測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、前記心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした前記対象者の前記測定位置で、前記センサにより前記静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定する手順をコンピューターに実行させるための静脈圧検査プログラム。
【0011】
(3)対象者の所定の測定位置においてセンサにより静脈波を測定することで、前記対象者の中心静脈圧を推定する静脈圧検査方法であって、前記対象者の心臓から前記測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、前記心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした前記対象者の前記測定位置で、前記センサにより前記静脈波が検出されない場合、前記対象者の中心静脈圧が前記基準静脈圧未満と推定する推定段階を有する静脈圧検査方法。
【発明の効果】
【0012】
心臓から所定の測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした対象者の当該測定位置における静脈波の有無を検出し、静脈波が検出されない場合、中心静脈圧が基準静脈圧未満と推定する。これにより、中心静脈圧が任意の基準静脈圧より低いかどうかを速やかに推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】静脈圧検査システムの概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】制御部の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】心臓と静脈のピーク点との垂直距離を説明するための図である。
【
図7】基準静脈圧と姿勢誘導器具の屈折角との関係を示す図である。
【
図8】静脈圧検査システムの動作を示すフローチャートである。
【
図9】特定姿勢の変形例を説明するための図である。
【
図10】特定姿勢の他の変形例を説明するための図である。
【
図11】静脈圧検査システムの概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図12】静脈圧検査システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、図中、同一の部材には同一の符号を用いた。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
(第1実施形態)
図1は本実施形態に係る静脈圧検査システム100の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
図2は制御部170の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【0016】
静脈圧検査システム100は、対象者の中心静脈圧を推定するシステムである。中心静脈圧の推定には、中心静脈圧の値の推定の他、任意の基準値に対する中心静脈圧の大小の推定等が含まれる。中心静脈圧は、右心房で測定された圧(右房圧)を反映する指標であり、心臓に戻る血液量および右房の前負荷を反映する。
【0017】
図1に示すように、静脈圧検査システム100は、カフ111、および静脈圧検査装置160を備える。カフ111は、静脈圧検査装置160に接続可能に構成される。静脈圧検査装置160は、加圧ポンプ112、排気弁113、圧力センサ114、カフ圧検出部115、ADコンバーター(ADC)116、入力装置120、出力装置130、ネットワークインターフェース140、および制御部150を備える。
【0018】
カフ111、加圧ポンプ112、排気弁113、圧力センサ114、カフ圧検出部115、およびADC116は、対象者の静脈波を測定するセンシング処理を行う構成の一例であり、センサを構成する。
【0019】
カフ111は、患者の上腕に巻回される空気袋である。加圧ポンプ112は、制御部150の指示に応じて、カフ111に空気を送り込み、空気袋内の圧力(以下、「カフ内圧」という)を増加させる。これにより、カフ111による患者の上腕への圧迫圧力(以下、「カフ圧」という)を増加させうる。排気弁113は、空気袋内の空気を大気に開放することにより、カフ111から徐々に空気を排気し、カフ内圧を減少させる。これにより、カフ圧が減少し得る。
【0020】
圧力センサ114はカフ内圧を検出する。カフ内圧には、カフ圧が増加および減少される過程における患者の脈波(以下、「カフ脈波」という)が重畳する。後述するように、カフ脈波は静脈波および動脈波が重畳した波形であり得る。カフ圧検出部115は、検出されたカフ内圧からカフ内圧に重畳したカフ脈波を抽出し、カフ内圧および抽出したカフ脈波をそれぞれアナログ信号としてADC116に出力する。ADC116は、カフ内圧およびカフ脈波のアナログ信号をディジタル信号に変換して制御部150へ送信する。なお、圧力センサ114、カフ圧検出部115、およびADC116がカフ111と一体化された構造であってもよい。また、圧力センサ114およびカフ圧検出部115がカフ111と一体化され、ADC116が静脈圧検査装置160内にある構成であってもよい。
【0021】
入力装置120は、静脈圧検査装置160を操作するユーザの入力操作を受け付け、当該入力操作に対応する入力信号を生成する。入力装置120は、例えば、出力装置130のディスプレイ131上に重ねて配置されたタッチパネル、静脈圧検査装置160の筐体に取り付けられた操作ボタン、マウス、またはキーボード等を含む。入力装置120によって生成された入力信号は、制御部150に送信される。制御部150は、入力信号に応じて所定の処理を実行する。後述するように、入力操作には、基準静脈圧の入力が含まれる。基準静脈圧は、対象者の中心静脈圧が高いか低いかの基準となる静脈圧である。
【0022】
出力装置130は、対象者の中心静脈圧の推定結果を出力する。推定結果には、対象者の中心静脈圧が基準静脈圧未満か基準静脈圧以上かの推定結果が含まれる。出力装置130は、ディスプレイ131およびスピーカ132を含む。ディスプレイ131は、静脈圧検査装置160の筐体に取り付けられた液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等であり得る。ディスプレイ131は、ユーザの頭部に装着される透過型、または非透過型のヘッドマウントディスプレイ等の表示装置であってもよい。
【0023】
スピーカ132は、静脈圧検査装置160の筐体に取り付けられ、中心静脈圧の推定結果を音声で出力し得る。
【0024】
なお、出力装置130は、ディスプレイ131およびスピーカ132に限らず、例えば、中心静脈波の推定結果を印刷して出力するためのプリンタであってもよい。
【0025】
ネットワークインターフェース140は、制御部150を通信ネットワークに接続するように構成されている。具体的には、ネットワークインターフェース140は、通信ネットワークを介して外部装置と通信するための各種インターフェース用の処理回路を含んでおり、通信ネットワークを介して通信するための通信規格に適合するように構成されている。通信ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等である。
【0026】
制御部150は、対象者の中心静脈圧を推定する。制御部150は、静脈圧検査装置1
60の主たる制御を司るソフトウェアおよびハードウェアであってもよく、制御部150が独立した装置であってもよい。例えば制御部150は、中心静脈圧の検査を行う専用の医療装置であってもよいし、中心静脈圧の検査を行うためのプログラムがインストールされたパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等であってもよい。さらに、制御部150は、対象者の身体(例えば、上腕等)に装着されるウェアラブルデバイス等であってもよい。
【0027】
制御部150の機能の詳細については後述する。
【0028】
図2に示すように、制御部150は、CPU(Central Processing
Unit)151、メモリ152、補助記憶部153、および入出力インターフェース154を備える。
【0029】
メモリ152は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を備え得る。ROMには、各種プログラムや各種パラメータ等が記憶されている。また、RAMは、CPU151により実行される各種プログラム等が格納されるワークエリアを備える。CPU151は、ROMや補助記憶部153に記憶されている各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMと協働することにより各種処理を実行するように構成されている。
【0030】
補助記憶部153は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、USBフラッシュメモリ等の記憶装置(ストレージ)を備え得る。補助記憶部153は、各種プログラムや各種データを格納する。また、補助記憶部153は、中心静脈圧の推定結果を保存する。
【0031】
入出力インターフェース154は、CPU151と、入力装置120および出力装置130とのインターフェースとして機能する。入出力インターフェース154は、マウスやキーボード等の入力デバイスとの通信を行う各種の通信モジュールや、ディスプレイ131およびスピーカ132を駆動する駆動モジュール等を備える。
【0032】
CPU151がプログラムを実行することにより、制御部150は、静脈圧検査システム100の各部を制御し、様々な機能を実現する。
【0033】
図3は、制御部150の機能を示すブロック図である。制御部150は、受付部201、特定部202、測定制御部203、推定部204、および表示制御部205として機能する。測定制御部203は、設定部を構成する。
【0034】
受付部201は、入力装置120に入力された基準静脈圧を受け付ける。基準静脈圧は、ユーザ(または対象者)により入力装置120に入力される。例えば、基準静脈圧は、医療従事者であるユーザが診断したい循環動態に応じて入力される。例えば、体うっ血の診断においては、基準静脈圧として10mmHgが入力され得る。
【0035】
特定部202は、基準静脈圧に基づいて、対象者の中心静脈圧が基準静脈圧未満か基準静脈圧以上かを推定するための特定姿勢を特定する。
【0036】
図4は、心臓から上腕に至る静脈を示す図である。
図5は、特定姿勢を説明するための図である。
図6は、心臓と静脈のピーク点Pとの垂直距離(以下、単に「垂直距離」とも称する)を説明するための図である。
【0037】
図4において太い矢印で示すように、心臓から出る静脈の信号(静脈波)は、右心房か
ら右鎖骨下静脈を介して、カフ111が装着された測定位置である上腕の静脈(右上腕静脈等)に伝わり得る。従って、カフ111により検出されるカフ脈波に静脈波が含まれ得る。以下、静脈波を含むカフ脈波が検出されることを、単に静脈波が検出されるとも称する。しかし、右心房から上腕に至る静脈は、右鎖骨下静脈付近に垂直方向のピーク点Pをもつ。ピーク点Pとは、一定の姿勢の対象者の、心房から測定位置(
図5の例においては上腕)に至る静脈において、垂直方向で最も高い点である。従って、測定位置である上腕で静脈波が検出されるためには、心臓から排出された静脈血がピーク点を超えることが必要である。すなわち、上腕で静脈波が検出されるのは、中心静脈圧が、垂直距離に対応する水柱圧以上の場合である。
【0038】
図5に示す姿勢誘導器具300は、対象者の背面と接触する背面接触面301を屈折させることで対象者の上体と下体とがなす角度θを調整可能な器具である。
図5の例においては、姿勢誘導器具300としてベッドが例示されている。姿勢誘導器具300は、ベッド以外の器具であってもよく、例えば椅子等であってもよい。姿勢誘導器具300上で仰臥位の姿勢にある対象者の背面と接触する背面接触面301を屈折させることで、腕を垂らした状態の対象者の上体と下体とがなす角度θ(姿勢)を調整できる。
【0039】
図6に示すように、対象者の体表において心臓(より詳細には右心房)とピーク点Pとにそれぞれ対応する点の、対象者の体表上の距離(以下、単に「体表距離」とも称する)を、対象者の心臓とピーク点Pとの距離として、予め測定しておく。この測定値を三平方の定理に代入することにより、心臓とピーク点Pとの垂直距離が基準静脈圧に対応するときの、姿勢誘導器具300の屈折角(すなわち、対象者の上体と下体とがなす角度θ)を算出できる。すなわち、対象者の体表において心臓とピーク点Pとにそれぞれ対応する点を結ぶ線分の長さ(体表距離)、および当該線分の水平に対する角度(姿勢誘導器具300の屈折角に相当)に基づいて、腕を垂らした状態の対象者の上体と下体とがなす角度θを、特定姿勢として特定できる。垂直距離が基準静脈圧に対応するときとは、当該垂直距離に対応する水柱圧が基準静脈圧と略一致するときである。
【0040】
なお、体表距離と身体情報との対応関係(例えば、複数人の体表距離と身体情報との対応関係のサンプルデータに基づいて算出された近似式)を予め算出して補助記憶部153に記憶させておき、受付部201で対象者の身体情報をさらに受け付けることで、当該対応関係を用いて体表距離が算出されてもよい。身体情報には、例えば、身長、性別、および体格(大柄/小柄)等が含まれる。
【0041】
図7は、基準静脈圧と姿勢誘導器具300の屈折角との関係を示す図である。
図7の例においては、体表距離として15cmを仮定している。
【0042】
例えば、姿勢誘導器具300の屈折角が15°の場合は、基準静脈圧は2.9mmHg(15・sin(15°)=3.89cm、3.89cmH2O=2.9mmHg)となる。姿勢誘導器具300の屈折角が15°の場合は、基準静脈圧は5.6mmHg(15・sin(30°)=7.5cm、7.5cmH2O=5.6mmHg)となる。
【0043】
このように、特定部202は、基準静脈圧に基づいて、対象者の上体と下体とがなす角度θを特定姿勢として特定する。
【0044】
測定制御部203は、ネットワークインターフェース140を介して姿勢誘導器具300(
図5参照)へ制御信号を送信することで、姿勢誘導器具300の背面接触面301を屈折させる。これにより、測定制御部203は、対象者の姿勢を特定姿勢になるようにする。
【0045】
測定制御部203は、特定姿勢の対象者の上腕に装着されたカフ111のカフ内圧を増加させることでカフ圧を基準静脈圧に設定して、カフ脈波を測定する。測定制御部203は、公知の方法で、カフ脈波から静脈波を抽出することで、静脈波を検出する。静脈波を検出する時間は、少なくとも1回の心拍が入る時間でよい。測定制御部203は、例えば、公知のパターンマッチング法によりカフ脈波から静脈波を抽出し得る。
【0046】
測定制御部203は、静脈波が検出された場合、さらにカフ圧を基準静脈圧から変化させるとともに、静脈波の振幅が最大となったときのカフ圧を中心静脈圧と推定し得る。
【0047】
推定部204は、測定制御部203により静脈波が検出されない場合、対象者の中心静脈波が基準静脈圧未満と推定する。推定部204は、測定制御部203により静脈波が検出された場合、対象者の中心静脈波が基準静脈圧以上と推定する。
【0048】
なお、推定部204は、カフ圧を基準静脈圧から変化させることで測定制御部203により中心静脈圧が推定された場合、推定された中心静脈圧と基準静脈圧を比較することで、改めて、推定された中心静脈圧が基準静脈圧以上かどうか推定し得る。
【0049】
表示制御部205は、推定部204による推定結果をディスプレイ131に表示する。すなわち、対象者の中心静脈圧が、基準静脈圧未満か基準静脈圧以上かを表示する。表示制御部205は、推定部204による推定結果をスピーカ132から音声により出力してもよい。また、表示制御部205は、推定部204による推定結果を、ネットワークインターフェース140を介して外部の端末等へ出力(送信)してもよい。
【0050】
図8は、静脈圧検査システム100の動作を示すフローチャートである。本フローチャートは、補助記憶部153に記憶されたプログラムに従い、制御部150により実行され得る。
【0051】
制御部150は、ユーザにより入力装置120に入力された基準静脈圧を受け付ける(S101)。
【0052】
制御部150は、基準静脈圧に基づいて特定姿勢を特定する(S102)
制御部150は、対象者が特定姿勢になるように、姿勢誘導器具300の屈折角を制御する(S103)。なお、対象者を特定姿勢にするための方法は、この方法に限定されない。例えば、ディスプレイ131に特定姿勢(例えば、上体と下体とがなす角度)を表示し、またはスピーカ132から特定姿勢を音声出力することで対象者が特定姿勢をするように対象者を誘導してもよい。
【0053】
制御部150は、特定姿勢の対象者の上腕に装着されたカフ111で、カフ圧を基準静脈圧に設定して静脈波を検出する(S104)。
【0054】
制御部150は、静脈波が検出されたかどうか判断し(S105)、静脈波が検出されないと判断したときは(S105:NO)、対象者の中心静脈圧は基準静脈圧未満と推定する(S106)。
【0055】
制御部150は、静脈波が検出されたと判断したときは(S105:YES)、対象者の中心静脈圧は基準静脈圧以上と推定する(S107)。
【0056】
(変形例1)
図9は、特定姿勢の変形例を説明するための図である。
【0057】
図9に示すように、特定部202は、仰臥位で上腕を心臓より垂直方向に上げた状態の対象者の上体と上腕とがなす角度θ
1を特定姿勢として特定し得る。
【0058】
図9の例においては、ピーク点Pは、カフ111が装着された測定位置となる。垂直距離は、ピーク点Pの垂直方向の高さから、心臓の垂直方向の高さ(背中から心臓までの距離に相当)を差し引いた値となる。ピーク点Pの垂直方向の高さは、上腕の付け根からカフ111の装着位置までの距離と、上体と上腕とがなす角度θ
1とに基づいて算出され得る。上腕の付け根からカフ111の装着位置までの距離、および背中から心臓までの距離は、予め測定されて補助記憶部153に記憶され利用され得る。特定部202は、基準静脈圧に対応する垂直距離となる角度θ
1を特定する。
【0059】
(変形例2)
図10は、特定姿勢の他の変形例を説明するための図である。
【0060】
図10に示すように、特定部202は、上腕を心臓より垂直方向に上げた状態の対象者の上体と下体とがなす角度θ、および上腕と上体とがなす角度θ
2を、特定姿勢として特定し得る。
【0061】
図10の例においては、ピーク点Pは、変形例1と同様に、カフ111が装着された測定位置となる。垂直距離は、ピーク点Pの垂直方向の高さから、心臓の垂直方向の高さを差し引いた値となる。垂直距離は、背中から心臓までの距離、上腕の付け根からカフ111の装着位置までの距離、上体と下体とがなす角度θ、および上腕と上体とがなす角度θ
3に基づいて算出され得る。上腕の付け根からカフ111の装着位置までの距離、および背中から心臓までの距離は、予め測定されて補助記憶部153に記憶され利用され得る。特定部202は、基準静脈圧に対応する垂直距離となる角度θおよび角度θ
2を特定する。
【0062】
(変形例3)
第1実施形態における、カフ111、加圧ポンプ112、排気弁113、圧力センサ114、およびカフ圧検出部115に代替して、静脈波を測定するための他のセンサを用いて上腕の静脈波を検出してもよい。他のセンサは、光、電気的インピーダンス、および超音波の少なくともいずれかの物理量を検知することで静脈波を検出するセンサであり得る。他のセンサの対象者の身体への装着場所は、静脈波が検出可能な場所であれば限定されない。他のセンサは、例えば四肢に装着され得る。
【0063】
なお上述の例では姿勢誘導具300の角度が変更するような構成であったが、対象者が特定姿勢をとっていることを前提としても良い。すなわち上述のステップS102、103が無い構成であっても良い。すなわち対象者が特定姿勢であることが既知である場合(たとえば上述のθが30度である姿勢をとっていることが分かっている場合)は、角度センサ161により対象者の上体と下体とがなす角度θを検出しなくてもよい。また、制御部150の推定部204により、対象者の姿勢(角度θ)が特定姿勢であるかどうか判断しなくてもよい。すなわち、この場合は、対象者が特定姿勢であることが前提となるため、測定制御部203により静脈波が検出されない場合、対象者の中心静脈波が基準静脈圧未満と推定する。また、測定制御部203により静脈波が検出された場合、対象者の中心静脈波が基準静脈圧以上と推定する。
【0064】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、姿勢誘導器具300により、対象者の姿勢を特定姿勢に強制的に導いている。一方、本実施形態においては、対象者の姿勢を制限せずに、角度センサにより、対象者の上体と下体とがなす角度θを対象者の姿勢として検出し、対象者の姿勢
が特定姿勢であるときに、上腕の測定位置で静脈波が検出されるかどうかにより、対象者の中心静脈圧を推定する。その他の点については、本実施形態は第1実施形態と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0065】
図11は本実施形態に係る静脈圧検査システム100の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【0066】
角度センサ161は、対象者の上体と下体とがなす角度θを検出する。角度センサ161は姿勢検出部を構成する。角度センサは、例えば加速度センサにより構成され得る。角度センサ161は、角度θをアナログ信号としてADC162に出力する。ADC162は、角度θのアナログ信号をディジタル信号に変換して制御部150へ送信する。
【0067】
制御部150の推定部204(
図3参照)は、対象者の姿勢(角度θ)が特定姿勢であるかどうか判断し、対象者の姿勢が特定姿勢であると判断したときに測定制御部203により静脈波が検出されない場合、対象者の中心静脈波が基準静脈圧未満と推定する。推定部204は、対象者の姿勢が特定姿勢であると判断したときに測定制御部203により静脈波が検出された場合、対象者の中心静脈波が基準静脈圧以上と推定する。
【0068】
表示制御部105は、特定姿勢をディスプレイ131に表示し得る。これにより、対象者は、自らの姿勢を、表示された特定姿勢と一致させるように促されるため、短時間での中心静脈圧の推定が可能になる。
【0069】
(第3実施形態)
第1実施形態においては、基準静脈圧を受け付け、基準静脈圧に基づいて特定姿勢を特定している。一方、本実施形態においては、対象者の姿勢を特定姿勢として受け付け、特定姿勢に基づいて基準静脈圧を算出する。そして、静脈波が検出されるかどうかにより、対象者の中心静脈圧が基準静脈圧未満か基準静脈圧以上かを推定する。その他の点については、本実施形態は第1実施形態と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0070】
図12は本実施形態に係る静脈圧検査システム100の動作を示すフローチャートである。
【0071】
制御部150は、ユーザ等により入力装置120に入力された、対象者の姿勢を特定姿勢として受け付ける(S201)。対象者の姿勢には、例えば、対象者の上体と下体とのなす角度が含まれる。なお、制御部150は、対象者の姿勢を検出することで、対象者の姿勢を特定姿勢として受け付けてもよい。
【0072】
制御部150は、特定姿勢に基づいて基準静脈圧を算出する(S202)。基準静脈圧は、第1実施形態において基準静脈圧から特定姿勢を算出した演算の逆演算により、特定姿勢に基づいて算出し得る。
【0073】
制御部150は、対象者の上腕に装着されたカフ111で、カフ圧を基準静脈圧に設定して静脈波を検出する(S203)。
【0074】
制御部150は、静脈波が検出されたかどうか判断し(S204)、静脈波が検出されないと判断したときは(S204:NO)、対象者の中心静脈圧は基準静脈圧未満と推定する(S205)。
【0075】
制御部150は、静脈波が検出されたと判断したときは(S204:YES)、対象者の中心静脈圧は基準静脈圧以上と推定する(S206)。なお、推定結果は、算出された
基準静脈圧とともにディスプレイ131に表示等され得る。
【0076】
実施形態は以下の効果を奏する。
【0077】
心臓から所定の測定位置までの静脈の垂直方向のピーク点と、心臓との垂直距離に対応する水柱圧が所定の基準静脈圧となる特定姿勢をした対象者の当該測定位置における静脈波の有無を検出し、静脈波が検出されない場合、中心静脈圧が基準静脈圧未満と推定する。当該推定では、心拍1拍程度の時間だけ特定姿勢の対象者をカフで低圧で圧迫するだけで、中心静脈圧が任意の基準より低いかどうかを速やかに推定できる。すなわち、侵襲性が非常に低いカフ加圧を短時間行うだけで、対象者の循環動態の良否を把握することが可能となる。
【0078】
さらに、特定姿勢をした対象者の測定位置で、センサにより静脈波が検出された場合、対象者の中心静脈圧が基準静脈圧以上と推定する。これにより、中心静脈圧が任意の基準以上かどうかを速やかに推定できる。
【0079】
さらに、基準静脈圧を受け付け、基準静脈圧に基づいて、対象者の特定姿勢を特定する。これにより、柔軟かつ速やかに中心静脈圧が任意の基準以上か基準未満かを推定できる。
【0080】
さらに、所定の測定位置を上腕とし、センサをカフとし、カフ圧を基準静脈圧に設定し、対象者の上腕に装着され、カフ圧が基準静脈圧に設定されたカフにより静脈波が検出されない場合、中心静脈圧が基準静脈圧未満と推定し、静脈波が検出された場合、中心静脈圧が基準静脈圧以上と推定する。これにより、より簡単に中心静脈圧が任意の基準以上か基準未満かを推定できる。
【0081】
さらに、腕を垂らした状態の対象者の上体と下体とがなす角度を特定姿勢として特定する。これにより、中心静脈圧の推定における対象者への負担を軽減できる。
【0082】
さらに、仰臥位で上腕を心臓より垂直方向に上げた状態の対象者の上体と上腕とがなす角度を、特定姿勢として特定する。これにより、中心静脈圧の推定における対象者への負担を軽減できる。
【0083】
さらに、上腕を心臓より垂直方向に上げた状態の対象者の上体と下体とがなす角度、および上腕と上体とがなす角度を、特定姿勢として特定する。これにより、中心静脈圧の推定における対象者への負担を軽減できる。
【0084】
さらに、カフ圧を基準静脈圧から変化させるとともに、静脈派の振幅が最大となったときのカフ圧を中心静脈圧として推定する。これにより、中心静脈圧の推定精度を向上できる。
【0085】
さらに、対象者の背面と接触する背面接触面を屈折させることで対象者の上体と下体とがなす角度を調整可能な姿勢誘導器具の背面接触面の屈折角を、上体と下体とがなす角度に設定することで、対象者の姿勢を特定姿勢にする。これにより、中心静脈圧の推定における対象者への負担をさらに軽減できる。
【0086】
さらに、対象者の体表において心臓とピーク点とにそれぞれ対応する点を結ぶ線分の長さおよび当該線分の水平に対する角度に基づいて特定姿勢を特定する。これにより、簡単かつ高精度に、中心静脈圧を推定できる。
【0087】
さらに、特定姿勢を表示する表示部を設ける。これにより、対象者に、自らの姿勢を表示された特定姿勢と一致させるように促すことで、短時間で中心静脈圧を推定できる。
【0088】
さらに、対象者の身体情報を受け付け、対象者の体表において心臓とピーク点とにそれぞれ対応する点を結ぶ線分の長さを、受け付けられた身体情報に基づいて算出する。これにより、中心静脈圧の推定におけるユーザへの負担を軽減できる。
【0089】
さらに、対象者の上体と下体とがなす角度を検出する角度センサの出力に基づいて、上体と下体とがなす角度を対象者の姿勢として検出し、検出された姿勢が特定姿勢であるときに静脈波が検出されない場合、中心静脈圧が基準静脈圧未満と推定する。これにより、中心静脈圧の推定における対象者への負担をさらに軽減できる。
【0090】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されない。
【0091】
例えば、上述した実施形態においてプログラムにより実現される機能の一部または全部を回路等のハードウェアにより実現してもよい。
【0092】
また、上述したフローチャートは、一部のステップを省略してもよく、他のステップが追加されてもよい。また各ステップの一部は同時に実行されてもよく、一つのステップが複数のステップに分割されて実行されてもよい。
【符号の説明】
【0093】
100 静脈圧検査システム、
111 カフ、
112 加圧ポンプ、
113 排気弁、
114 圧力センサ、
115 カフ圧検出部、
116 ADC、
120 入力装置、
130 出力装置、
131 ディスプレイ、
150 制御部、
160 静脈圧検査装置。