(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】水素製造システムおよび水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20241001BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20241001BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20241001BHJP
C25B 9/67 20210101ALI20241001BHJP
C25B 15/027 20210101ALI20241001BHJP
C25B 15/029 20210101ALI20241001BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/042
C25B9/65
C25B9/67
C25B15/027
C25B15/029
C25B15/08 302
(21)【出願番号】P 2021043482
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
(72)【発明者】
【氏名】新山 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭介
(72)【発明者】
【氏名】大川 英晃
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-232525(JP,A)
【文献】特開2008-115430(JP,A)
【文献】特開2010-090425(JP,A)
【文献】特開2020-128576(JP,A)
【文献】特開2006-307290(JP,A)
【文献】特開2009-001878(JP,A)
【文献】特表2018-532049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素製造システムであって、
電気分解により水蒸気を含む原料ガスから水素を製造する電解セルと、
外部の熱源から提供される熱を利用して水を加熱して水蒸気を生成する蒸発器と、
水素と、前記蒸発器により生成された水蒸気とを前記原料ガスとして混合する混合部と、
前記混合部により混合された前記原料ガスを加熱する加熱器と、
前記電解セルの温度を取得する温度取得部と、
前記加熱器から前記電解セルへと供給される水蒸気の量を取得する水蒸気量取得部と、
前記温度取得部により取得された温度を用いて
、電気分解のために前記電解セルに入力される電
力を変化させる制御部
であって、変化後の電力と、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合部に対する水素の供給量を変化させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記温度取得部により取得された温度が上昇した場合に
、前記電解セルに入力される電力を減少させ、
かつ、減少後の電力と、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合部に対する水素の供給量を減少させ、
前記温度取得部により取得された温度が低下した場合に
、前記電解セルに入力される電力を増加さ
せ、かつ、増加後の電力と、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合部に対する水素の供給量を増加させる、水素製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素製造システムであって、
前記制御部は、
前記温度取得部により取得された温度が上昇した場合に、さらに、前記電解セルに入力される減少後の電力を用いて、前記蒸発器への水の供給量を減少させ、
前記温度取得部により取得された温度が低下した場合に、さらに、前記電解セルに入力される増加後の電力を用いて、前記蒸発器への水の供給量を増加させる、水素製造システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水素製造システムであって、
前記制御部は、一定電圧で電流密度を変化させることにより、前記電解セルに入力される電力を変化させる、水素製造システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の水素製造システムであって、
前記制御部は、前記混合部に供給される水素の一部を、前記蒸発器へと供給する、水素製造システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の水素製造システムであって、
前記水蒸気量取得部は、
前記加熱器から前記電解セルへと供給される前記原料ガス中の酸素分圧を検出する酸素分圧検出部を有し、
前記酸素分圧検出部により検出された前記酸素分圧を用いて、前記水蒸気の量を算出する、水素製造システム。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の水素製造システムであって、
前記水蒸気量取得部は、
前記加熱器内の前記原料ガス中の水素分圧を検出する水素分圧検出部を有し、
前記水素分圧検出部により検出された前記水素分圧を用いて、前記水蒸気の量を算出する、水素製造システム。
【請求項7】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の水素製造システムであって、
前記水蒸気量取得部は、
前記蒸発器から前記混合部へと供給される前記原料ガスの流量を検出する流量検出部を有し、
前記流量検出部により検出された前記原料ガスの流量を用いて、前記水蒸気の量を算出する、水素製造システム。
【請求項8】
水素製造方法であって、
水を外部の熱源から提供される熱を利用して加熱し、水蒸気を生成する蒸発工程と、
水素と、前記蒸発工程により生成された水蒸気と、を原料ガスとして混合する混合工程と、
混合された前記原料ガスを加熱する加熱工程と、
加熱された前記原料ガスから電解セルの電気分解により水素を製造する水素製造工程と、
前記電解セルの温度を取得する温度取得工程と、
前記電解セルへと供給される水蒸気の量を取得する水蒸気量取得工程と、
前記温度取得工程により取得された温度を用いて
、電気分解のために前記電解セルに入力される電
力を変化させる制御工程
であって、変化後の電力と、前記水蒸気量取得工程により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合工程で混合される水素の供給量を変化させる制御工程と、
を備え、
前記制御工程では、
前記温度取得工程により取得された温度が上昇した場合に
、前記電解セルに入力される電力を減少させ、
かつ、減少後の電力と、前記水蒸気量取得工程により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合工程で混合される水素の供給量を減少させ、
前記温度取得工程により取得された温度が低下した場合に
、前記電解セルに入力される電力を増加さ
せ、かつ、増加後の電力と、前記水蒸気量取得工程により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合工程で混合される水素の供給量を増加させる、水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造システムおよび水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温水蒸気を電気分解することにより水素を製造するSOEC(Solid Oxide Electrolyser Cell:固体酸化物形電解セル)が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された水素製造装置では、SOECで製造された水素の一部と、蒸発器で生成された水蒸気とが混合部で混合され、水蒸気を含む原料ガスが生成されている。原料ガスに含まれる水蒸気の生成および予熱には、SOECの燃料側出口の高温ガスと、外部熱源である原子炉とから供給される熱が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SOECでは、水素を効率的に製造するために、SOECにおける水蒸気の利用率が高いことが好ましい。一方で、水蒸気の利用率が高すぎると、燃料側の電極が高い酸素分圧にさらされて、電極が劣化してしまうおそれがある。また、SOECでは、一定温度の下で水素が製造されることが好ましい。SOECの温度を一定に保つためには、水の電気分解による吸熱と、電力供給による抵抗での発熱とのバランスが取れた温度でSOECが稼働することが好ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された水素製造装置のように、外部熱源を用いて水蒸気の生成および予熱が行われていると、外部熱源から供給される熱量の変化に応じて、生成される水蒸気の量が変化するため、SOECの温度が変化する。SOECの温度が変化すると、電極における水蒸気の利用率が変動するため、水蒸気の利用率を高く維持できなかったり、電極を劣化させてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、SOEC(電解セル)の電極の劣化を抑制した上で、SOECにおける水蒸気の利用率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。水素製造システムであって、電気分解により水蒸気を含む原料ガスから水素を製造する電解セルと、外部の熱源から提供される熱を利用して水を加熱して水蒸気を生成する蒸発器と、水素と、前記蒸発器により生成された水蒸気とを前記原料ガスとして混合する混合部と、前記混合部により混合された前記原料ガスを加熱する加熱器と、前記電解セルの温度を取得する温度取得部と、前記加熱器から前記電解セルへと供給される水蒸気の量を取得する水蒸気量取得部と、前記温度取得部により取得された温度を用いて、電気分解のために前記電解セルに入力される電力を変化させる制御部であって、変化後の電力と、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合部に対する水素の供給量を変化させる制御部と、を備え、前記制御部は、前記温度取得部により取得された温度が上昇した場合に、前記電解セルに入力される電力を減少させ、かつ、減少後の電力と、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合部に対する水素の供給量を減少させ、前記温度取得部により取得された温度が低下した場合に、前記電解セルに入力される電力を増加させ、かつ、増加後の電力と、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量とを用いて、前記混合部に対する水素の供給量を増加させる、水素製造システム。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、水素製造システムが提供される。この水素製造システムは、電気分解により水蒸気を含む原料ガスから水素を製造する電解セルと、外部の熱源から提供される熱を利用して水を加熱して水蒸気を生成する蒸発器と、水素と、前記蒸発器により生成された水蒸気とを前記原料ガスとして混合する混合部と、前記混合部により混合された前記原料ガスを加熱する加熱器と、前記電解セルの温度を取得する温度取得部と、前記加熱器から前記電解セルへと供給される水蒸気の量を取得する水蒸気量取得部と、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量および前記温度取得部により取得された温度を用いて、前記混合部に対する水素の供給量と、電気分解のために前記電解セルに入力される電力とを変化させる制御部と、を備える。
【0009】
この構成によれば、電解セルの温度変化に応じて、電解セルに入力される電力と、電解セルに供給される原料ガス中の水素の供給量とが調整される。電解セルに入力される電力が調整されることにより、電解セル内における電解反応が調整されて、発熱項と吸熱項との温度バランスが調整され、電解セルの温度変化が抑制される。そのため、電解セルにおける高い水蒸気の利用率を維持し、水素が高効率に製造される。さらに、原料ガスに含まれる水素の割合が調整されることにより、電解セルにおける水蒸気濃度が所定値以上に上昇して、電極が高い酸素分圧にさらされることを抑制する。これらの結果、本構成の水素製造システムによれば、電解セルの電極の劣化を抑制した上で、電解セルにおける水蒸気の利用率を向上させることができる。
【0010】
(2)上記態様の水素製造システムにおいて、前記制御部は、前記水蒸気量取得部により取得された前記水蒸気の量を用いて、さらに、前記蒸発器への水の供給量を変化させてもよい。
この構成によれば、電解セルに入力される電力と、電解セルへの水素の供給量とに加えて、電解セルへの水蒸気の供給量も調整される。これにより、電解セルにおける水蒸気利用率の制御精度をより高くできるため、電解セルの電極の劣化をさらに抑制した上で、電解セルにおける水素の利用率をさらに向上させることができる。
【0011】
(3)上記態様の水素製造システムにおいて、前記制御部は、一定電圧で電流密度を変化させることにより、前記電解セルに入力される電力を変化させてもよい。
この構成によれば、電圧を一定に維持したままで入力電力を簡単に変化させることができる。
【0012】
(4)上記態様の水素製造システムにおいて、前記制御部は、前記混合部に供給される水素の一部を、前記蒸発器へと供給してもよい。
この構成によれば、蒸発器に供給された一部の水素は、気泡スラグとして蒸発器の流路内を流れる。流路内を流れる水素の気泡スラグは、流路内を流れる水の液スラグの輸送量を調整する。気泡スラグ周りの薄液膜は、小さい熱抵抗と広い蒸発界面積とを有するため、水蒸気の飽和温度と壁温度との差が小さく、気泡スラグの量が調整されることにより、蒸発器内の温度勾配の変化が抑制される。温度勾配の変化の抑制により、生成したい水蒸気の供給量に対して、実際に生成される水蒸気の供給量の追従性が高くなる。この結果、蒸発器の熱容量に依存した温度遅れを抑制し、電解セルの温度制御性を改善できる。
【0013】
(5)上記態様の水素製造システムにおいて、前記水蒸気量取得部は、前記加熱器から前記電解セルへと供給される前記原料ガス中の酸素分圧を検出する酸素分圧検出部を有し、前記酸素分圧検出部により検出された前記酸素分圧を用いて、前記水蒸気の量を算出してもよい。
この構成によれば、水蒸気量取得部は、酸素分圧検出部により検出された酸素分圧を用いて、蒸発器により生成された水蒸気の量を取得できる。
【0014】
(6)上記態様の水素製造システムにおいて、前記水蒸気量取得部は、前記加熱器内の前記原料ガス中の水素分圧を検出する水素分圧検出部を有し、前記水素分圧検出部により検出された前記水素分圧を用いて、前記水蒸気の量を算出してもよい。
この構成の水素分圧検出部は、電解セルに流入する原料ガスの温度よりも低い温度である熱交換器内の原料ガス中の水素分圧を取得できる。これにより、水蒸気量取得部は、本構成の水素製造システムにおいてより上流側の原料ガスに含まれる水蒸気の量を取得できる。この結果、水蒸気の量の取得から、水素の供給量および入力電圧の設定までの時間が短くなる。すなわち、本構成によれば、水蒸気量の取得から水素の供給量および入力電力の制御までのタイムラグを短くできるため、制御部の制御精度が向上する。
【0015】
(7)上記態様の水素製造システムにおいて、前記水蒸気量取得部は、前記蒸発器から前記混合部へと供給される前記原料ガスの流量を検出する流量検出部を有し、前記流量検出部により検出された前記原料ガスの流量を用いて、前記水蒸気の量を算出してもよい。
この構成の流量検出部は、流量検出部を通過する原料ガスの合計の流量を取得する。水蒸気量取得部は、流量検出部により検出された原料ガスの総流量から、制御により既知の水素の供給量を差し引くことで、蒸発器により生成される水蒸気の量を算出できる。流量検出部は、本構成のシステム内において配置されるための温度条件がない、すなわち加熱される前の原料ガスの流量を検出できる。そのため、流量検出部がよりシステム内のより上流側に配置されることにより、水蒸気の量の算出から、水素の供給量および入力電圧の設定までの時間が短くなる。すなわち、本構成によれば、水蒸気量の取得から水素の供給量および入力電圧の制御までのタイムラグを短くできるため、制御部の制御精度が向上する。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水素製造システム、SOEC、水素製造システムの制御装置、水素製造システムの制御方法、水素制御方法、およびこれらの装置を備えるシステム、これら装置を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態としての水素製造システムのブロック図である。
【
図2】熱中立点と電流密度と関係についての説明図である。
【
図4】水素製造システムが水素を製造する際の処理についてのフローチャートである。
【
図5】第2実施形態の水素製造システムのブロック図である。
【
図6】蒸発器内の気泡スラグと液スラグとの説明図である。
【
図7】蒸発器内の気泡スラグと液スラグとの説明図である。
【
図8】蒸発器における隔壁温度分布と蒸気温度分布との関係の説明図である。
【
図9】蒸発器に供給された水素の効果についての説明図である。
【
図10】第2実施形態の水素製造システムが水素を製造する際の処理についてのフローチャートである。
【
図11】変形例2における水素製造システムのブロック図である。
【
図12】変形例3における水素製造システムのブロック図である。
【
図13】変形例における水素製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
1.水素製造システムの構成:
図1は、本発明の一実施形態としての水素製造システム200のブロック図である。水素製造システム200は、SOEC(Solid Xxide Electrolyser Cell:固体酸化物形水電解セル)10を用いて、電気分解により水蒸気を含む原料ガスから水素を製造するシステムである。本実施形態の水素製造システム200は、水素を製造しているSOEC10の電気分解のための入力電力と、SOEC10において水素を製造する燃料側の原料ガス中の水素の割合とを調整することにより、SOEC10の電極の劣化を抑制した上で、水素の製造効率を高く維持する。本実施形態のSOEC10は、複数のセルが積層されたセルスタック構造を有している。
【0019】
図1に示されるように、水素製造システム200は、高温の水蒸気を電気分解して水素を製造するSOEC10と、原料ガスとしての水蒸気の元となる水を貯蔵する水貯蔵タンク70と、水素製造システム200に含まれない外部熱源300から提供される熱を利用して水を加熱して水蒸気を生成する蒸発器60と、SOEC10に供給される原料ガスに含まれる水素を貯蔵する水素貯蔵タンク80と、水素と水蒸気とを原料ガスとして混合する混合部50と、SOEC10の燃料側12から排出される燃料側オフガスの熱を利用して混合部50から供給される原料ガスを加熱する熱交換器(加熱器)30と、熱交換器30からSOEC10へと供給される原料ガス中の酸素分圧を検出する酸素センサ(酸素分圧検出部)90と、SOEC10の温度を取得する温度センサ(温度取得部)110と、各種制御を行う制御部(水蒸気量取得部)40と、SOEC10が水蒸気を電気分解するため電力を供給する電力供給部20と、を備えている。
【0020】
水貯蔵タンク70は、タンク内の水を蒸発器60へと供給するためのポンプ(
図1では不図示)を有している。水素貯蔵タンク80は、タンク内の水素を混合部50へと供給するためのマスフローコントローラー(
図1では不図示)を有している。水貯蔵タンク70が有するポンプと、水素貯蔵タンク80が有するマスフローコントローラーとは、制御部40により制御される。
【0021】
蒸発器60は、水貯蔵タンク70から供給される水を、外部熱源300から提供される熱を利用して、およそ摂氏150度(℃)の水蒸気まで加熱する。そのため、水貯蔵タンク70から供給された水は、蒸発器60の入口から出口に向かって、水だけの液相域、水と水蒸気とが混在する2相域、水蒸気のみが存在する気相域へと変化している。本実施形態の外部熱源300の媒体としては、工場等から排出される排出ガスが挙げられる。
【0022】
混合部50は、水素貯蔵タンク80から供給された水素と、蒸発器60により生成された水蒸気とを原料ガスとして混合する。原料ガスは、制御部40により、10~20vol%の水素を含むように調整され、熱交換器30の燃料側31に流入する。燃料側31に流入した原料ガスは、排気側32に供給される燃料側オフガスからの熱により、およそ650℃~700℃まで加熱される。加熱された原料ガスは、SOEC10の燃料側12へと供給される。
【0023】
熱交換器30により加熱された原料ガスが供給されるSOEC10の燃料側12では、電力供給部20から供給される電力により、原料ガスに含まれる高温水蒸気の電気分解が行われる。なお、本実施形態のSOEC10の電極は、Ni(ニッケル)で形成されたNi電極である。燃料側12から排出される排出ガスは、熱交換器30の排気側32に供給される。SOEC10の空気側11から排出される排出ガスは、
図1に図示されていない熱交換器により熱が回収される。本実施形態の酸素センサ90は、ジルコニア固体電解質を用いた挿入プローブ式の酸素分圧検出手段である。制御部40は、酸素センサ90により検出された酸素分圧と、酸素センサ90が有する温度測定手段により測定された原料ガスの温度とを用いることにより、原料ガス中の水蒸気分圧を測定できる。制御部40は、測定された水蒸気分圧を用いて、SOEC10へと供給される水蒸気の量を算出する。
【0024】
制御部40は、ECU(Electronic Control Unit)で構成されている。制御部40は、
図1中の破線で示された制御信号の受信および送信を行う。具体的には、本実施形態の制御部40は、酸素センサ90の検出値(酸素分圧および温度)と、温度センサ110により取得されたSOEC10のセルスタック温度Tscとを取得する。制御部40は、酸素センサ90の検出値とセルスタック温度Tscとを用いて、電力供給部20からSOEC10への入力電力と、水貯蔵タンク70から蒸発器60への水の供給量F
H2Oと、水素貯蔵タンク80から混合部50への水素の供給量F
H2とを制御する。本実施形態の制御部40は、SOEC10への入力電力として、一定電圧で電流密度を変化させた電力を供給する。制御部40が行う具体的な処理については後述する。
【0025】
2.SOECのセルスタック温度と水蒸気量との関係:
SOEC10のセルスタックにおける電解反応は、セルスタック温度Tscが一定の下で行われることが好ましい。電解反応では、エントロピー変化による不可逆熱TΔSと、SOEC10のセルスタック外部への放熱Qlossと、出入口ガスエンタルピー差ΔHとを合わせた吸熱項および抵抗発熱Qrである発熱項が存在する。SOEC10に供給される水蒸気の量が変動すると、出入口ガスエンタルピー差ΔHが変化する。そのため、水蒸気の量が変化したにも関わらず、SOEC10への入力電力が一定のままだと、SOEC10内での吸熱と発熱とのバランスが変化し、セルスタック温度Tscを一定に維持できなくなる。
【0026】
水素製造システム200を高効率で作動させるために、SOEC10の水蒸気利用率Usが最大化されることが好ましい。本実施形態では、高い水蒸気濃度によるNi電極の酸化を抑制するために、原料ガスに水素が加えられて、水蒸気利用率Usが0.85~0.90になるように制御される。高い水蒸気利用率Usで作動していると、特にSOEC10の燃料側12の出口付近では、水蒸気の量が低下した場合に局所的に水蒸気利用率Usが0.90よりも高くなり、Ni電極上の水蒸気が枯渇する場合がある。すなわち、水素製造システム200における高い水蒸気利用率Usの運転と、Ni電極の劣化の抑制とを両立するために、SOEC10に供給される水蒸気の量が制御されることが好ましい。
【0027】
水から水蒸気を生成している蒸発器60は、外部熱源300から提供される熱を利用している。外部熱源300から提供される熱量は一定ではなく変化するため、蒸発器60が生成する水蒸気の温度が変化する。生成された水蒸気の温度は、熱交換器30によりSOEC10の排ガス温度まで上昇する。一方で、SOEC10に供給される水蒸気を含む原料ガスの温度に応じて、燃料側12の入口の温度が変化し、さらに、熱交換器30の排気側32に流入する排出ガスの温度も変化する。すなわち、外部熱源300から提供される熱量の変化に応じて、SOEC10の燃料側12の吸熱項であるガスエンタルピー変化量が変化する。そのため、SOEC10の温度を一定に維持するためには、発熱項である抵抗発熱Qrを増加/減少させる必要がある。
【0028】
3.制御部の制御内容:
制御部40は、水素製造システム200における高い水蒸気利用率Usの運転と、Ni電極の劣化の抑制とを両立するために、原料ガス中の酸素分圧およびセルスタック温度Tscを用いて、水の供給量FH2Oと、水素の供給量FH2と、入力電力とを変化させる。制御部40は、セルスタック温度Tscが上がった場合には、SOEC10で製造される水素を減らす。この場合に、制御部40は、SOEC10への入力電力の電流密度iを減少させ、かつ、水の供給量FH2Oおよび水素の供給量FH2を減少させる。一方で、制御部40は、セルスタック温度Tscが下がった場合には、SOEC10で製造される水素を増やす。この場合には、制御部40は、電流密度iを増加させ、かつ、水の供給量FH2Oおよび水素の供給量FH2を増加させる。
【0029】
本実施形態の制御部40は、水素製造システム200による水素の製造が開始されると、入力電力の電流密度iとして熱中立点の電流密度を設定する。
図2は、熱中立点と電流密度と関係についての説明図である。
図2には、抵抗発熱Qrと不可逆熱TΔSとが等しい値を表す直線L1(一点鎖線)と、抵抗発熱Qrと不可逆熱TΔSとが等しい場合の電流密度iである熱中立線を表す直線L2(一点鎖線)とが示されている。直線L2で表される熱中立線は、抵抗発熱Qrと不可逆熱TΔSとが等しい直線L1の場合に、電力供給部20からSOEC10へと供給される電流密度である。
図2に実線で示される熱量差H1と電流密度i1とについては、後述する。
【0030】
制御部40は、水素製造の開始時に電流密度iの設定に加え、水貯蔵タンク70から蒸発器60への水の供給と、水素貯蔵タンク80から混合部50への水素の供給とを開始する。本実施形態の制御部40は、水素製造の開始時では、水蒸気利用率Usを0.85に設定し、原料ガス中の水素の割合を10vol%になるように設定する。制御部40は、当該設定に応じた水の供給量FH2Oと水素の供給量FH2とを設定する。なお、水素製造の開始時における制御部40の制御内容は、予め水素製造システム200を用いた測定が行われることにより決定されている。
【0031】
制御部40は、セルスタック温度Tscと、セルスタックの目標温度である制御温度Tsc,tとの差の絶対値が予め設定された閾値εTSCを超えた場合に、電流密度iと、水の供給量FH2Oと、水素の供給量FH2とを変化させる。制御部40は、下記式(1)~(4)の関係を用いて、電流密度iと、水の供給量FH2Oと、水素の供給量FH2とを算出する。
【0032】
セルスタック内の熱バランスの釣り合いから下記式(1)が導かれる。
【数1】
ASR(Ω・cm
2):SOEC10のセルスタックの面積抵抗
Ae(cm
2):セルスタックの電解有効面積
Ccs(J/K):セルスタックの相当熱容量
Δt(s):温度測定サンプリング時間
ΔS(J/(K・cm
2)):単位有効電解面積当たりのエントロピー変化量
セルスタックの相当熱容量Ccsは、予め水素製造システム200を用いた測定が行われることにより決定されている。
【0033】
上記式(1)を電流密度iについて解くと、下記式(2)が導かれる。
【数2】
【0034】
予め目標として設定された水蒸気利用率Usとクーロン効率ηcとを用いて、水の供給量FH2Oおよび水素の供給量FH2は、下記式(3),(4)のように表される。
【0035】
【数3】
【数4】
F:ファラデー定数
C
H2:水素濃度
【0036】
図2の時刻t1においてセルスタック温度Tscが上がり、セルスタック温度Tscと制御温度Tsc,tとの差の絶対値が閾値ε
TSCを超えると、制御部40は、熱量差H1に応じて、SOEC10へと入力する電流密度iをステップ関数状に変化する電流密度i1のように変化させる。具体的には、制御部40は、時刻t1において、電流密度iを熱中立点から減少させる。一方で、時刻t2において、セルスタック温度Tscが下がり、セルスタック温度Tscと制御温度Tsc,tとの差の絶対値が閾値ε
TSCを超えると、制御部40は、SOEC10へと入力する電流密度iを、電流密度i1のように増加させる。
【0037】
図3は、制御部40の制御による効果の説明図である。
図3には、電流密度iと、水の供給量F
H2Oと、水素の供給量F
H2とが制御部40により制御された実施例の場合の、水蒸気利用率Usaと、燃料側12の入口の水素濃度baとが実線で示されている。さらに
図3には、比較例の水蒸気利用率Uszおよび水素濃度bzが破線で示されている。比較例では、実施例と異なり、SOEC10の温度に関わらず、SOEC10へと入力される電流密度iと、水の供給量F
H2Oと、水素の供給量F
H2と、一定のまま制御されている。
図3に示されるように、実施例の水蒸気利用率Usaおよび水素濃度baは、セルスタック温度Tscが変化した時刻t1,t2,t3において一定である。一方で、比較例の水蒸気利用率Uszおよび水素濃度bzは、応答遅れが発生して変化している。すなわち、実施例は、比較例と比べると、高い水蒸気利用率Usの運転と、Ni電極の劣化の抑制とを実現している。
【0038】
4.水素製造システムの水素製造フロー:
図4は、水素製造システム200が水素を製造する際の処理についてのフローチャートである。水素製造フローでは、初めに、制御部40は、SOEC10の燃料側12において水蒸気の電気分解を行うための入力電力を供給する(ステップS1)。制御部40は、SOEC10へと初めに入力する電力として、熱中立点となる電流密度の電力を供給する。
【0039】
制御部40は、水貯蔵タンク70から蒸発器60への水の供給と、水素貯蔵タンク80から混合部50への水素の供給とを開始する(ステップS2)。本実施形態の制御部40は、水素製造の開始時において、水蒸気利用率Usを0.85に設定し、原料ガス中の水素の割合を10vol%に設定する。
【0040】
温度センサ110は、SOEC10のセルスタック温度Tscを取得する(ステップS3)。制御部40は、SOEC10の制御温度Tsc,tから、温度センサ110により取得されたSOEC10のセルスタック温度Tscを引いた差を算出する(ステップS4)。制御部40は、ステップS3で算出された差の絶対値が閾値εTSCよりも小さいか否かを判定する(ステップS5)。絶対値が閾値εTSCよりも小さいと判定された場合には(ステップS5:YES)、制御部40は、ステップS3以降の処理を繰り返す。
【0041】
絶対値が閾値εTSCよりも大きいと判定された場合には(ステップS5:NO)、制御部40は、酸素センサ90により検出された原料ガス中の酸素分圧を検出する(ステップS6)。制御部40は、検出された酸素分圧と、酸素センサ90により検出された原料ガスの温度とを用いることにより、原料ガスに含まれる水蒸気の量を算出する(ステップS7)。
【0042】
制御部40は、上記式(1)~(4)を用いて、算出された水蒸気の量に応じて、水貯蔵タンク70から蒸発器60への水の供給量FH2Oを設定する(ステップS8)。制御部40は、セルスタック温度Tscが制御温度Tsc,tよりも低い場合には、水の供給量FH2Oを増加させる。一方で、制御部40は、セルスタック温度Tscが制御温度Tsc,tよりも高い場合には、水の供給量FH2Oを減少させる。
【0043】
制御部40は、水素貯蔵タンク80からの水素の供給量FH2の算出および設定を行う(ステップS9)。制御部40は、SOEC10への入力電圧における電流密度の算出および設定を行う(ステップS10)。その後、制御部40は、水素製造フローを終了するか否かを判定する(ステップS11)。水素製造フローを終了しないと判定された場合には(ステップS11:NO)、ステップS3以降の処理が繰り返される。水素製造フローを終了すると判定された場合には(ステップS11:YES)、水素製造システム200の制御フローが終了する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の水素製造システム200では、温度センサ110がSOEC10のセルスタック温度Tscを取得する。制御部40は、酸素センサ90の検出値を用いて、蒸発器60により生成された水蒸気の量を算出する。制御部40は、算出された水蒸気の量を用いて、混合部50への水素の供給量FH2と、高温水蒸気の電解反応のためにSOEC10に入力される電力とを変化させる。本実施形態の水素製造システム200では、セルスタック温度Tscの変化に応じて、SOEC10への入力電力と、SOEC10への水素の供給量FH2とが調整される。これにより、SOEC10内における電解反応が調整されて、SOEC10内における発熱項と吸熱項との温度バランスが調整され、セルスタック温度Tscの温度変化が抑制される。この結果、SOEC10における高い水蒸気の利用率を維持し、水素が高効率に製造される。さらに、原料ガスに含まれる水素の割合を調整されることにより、SOEC10における水蒸気濃度が所定値以上に上昇して、Ni電極が高い酸素分圧にさらされることを抑制する。そのため、本実施形態の水素製造システム200では、SOEC10の電極の劣化を抑制した上で、SOEC10における水蒸気の利用率を向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態の制御部40は、原料ガスに含まれる水蒸気の量およびセルスタック温度Tscを用いて、さらに、水の供給量FH2Oを変化させる。そのため、本実施形態の水素製造システム200では、SOEC10の入力電力と、SOEC10への水素の供給量FH2とに加えて、SOEC10への水蒸気の供給量FH2Oも調整される。これにより、SOEC10における水蒸気利用率Usの制御精度をより高くできるため、SOEC10の電極の劣化をさらに抑制した上で、SOEC10における水素の利用率をさらに向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態の制御部40は、SOEC10への入力電力として、一定電圧で電流密度iを変化させた電力を電力供給部20から供給する。そのため、本実施形態の水素製造システム200では、SOEC10に印加する電圧を一定に維持したままで入力電力を簡単に変化させることができる。
【0047】
また、本実施形態の制御部40は、酸素センサ90により検出された酸素分圧と、酸素センサ90が有する温度測定手段により測定された原料ガスの温度とを用いることにより、原料ガス中の水蒸気分圧を測定する。そのため、本実施形態の水素製造システム200では、制御部40は、酸素センサ90により検出された酸素分圧を用いて、蒸発器60により生成された水蒸気の量を算出できる。
【0048】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態の水素製造システム200aのブロック図である。第2実施形態の水素製造システム200aでは、第1実施形態の水素製造システム200と比較して、水素貯蔵タンク80からの水素の供給量F
H2が、蒸発器60と混合部50とに分けられて供給されている点が異なり、他の構成および制御等については第1実施形態の水素製造システム200と同じである。そのため、第2実施形態では、第1実施形態の水素製造システム200と異なる点について説明し、同じ構成および制御等についての説明を省略する。第2実施形態の水素製造システム200aでは、蒸発器60に供給された水素が気泡スラグとして機能して、蒸発器60の温度変化を抑制することにより、入力電圧の電流密度iの変化に対する水蒸気生成の応答性を向上させている。
【0049】
第2実施形態の制御部40aは、第1実施形態で混合部50へと供給されていた水素の一部を蒸発器60へと供給する。蒸発器60では、ステンレス等の金属により形成された伝熱隔壁により、水および水素が通る流路と、外部熱源300からの熱媒とは隔離されている。蒸発器60を通る水および水素は、伝熱隔壁とフィンとを介して熱伝導により熱媒から熱が供給される。蒸発器60への水素の供給量に応じて、流路内で水素が形成する気泡スラグの長さが調整され、流路内における水の液スラグの輸送量が変化する。
【0050】
図6および
図7は、蒸発器60内の気泡スラグと液スラグとの説明図である。
図6および
図7には、流路61の一部の断面において、ハッチングで示された液体中を流れ方向に沿って流れる気泡スラグが示されている。
図6と
図7では、
図6に示される状態の方が、
図7に示される状態よりも多くの水素が供給されている。
図6に示される液スラグの長さである液スラグ長L
A1は、
図7に示される液スラグ長L
A2よりも大きい。その結果、
図6に示される流路61内を輸送される水の量である液スラグ量V
L1は、
図7に示される液スラグ量V
L2よりも少ない。気泡スラグ周りの薄液膜は、小さい熱抵抗と広い蒸発界面積とを有するため、外部熱源300から供給される熱媒温度が低くても高い蒸発性能を有する。
【0051】
図8は、蒸発器60における隔壁温度分布と蒸気温度分布との関係の説明図である。
図8には、水および水素の流れ方向において変化する、伝熱隔壁の隔壁温度Tw1,Tw2と、蒸気温度T
H2O_1,T
H2O_2とが示されている。実線で示されている隔壁温度Tw1および蒸気温度T
H2O_1は、
図6に示される水の供給量F
H2Oが少ない場合の温度である。破線で示されている隔壁温度Tw2および蒸気温度T
H2O_2は、
図7に示される水の供給量F
H2Oが多い場合の温度である。第2実施形態の制御部40aは、水と水蒸気とが混在する2相域と、水が存在せずに水蒸気のみが存在する気相域とにおいて、隔壁温度Tw1と隔壁温度Tw2との温度勾配の変化、および、蒸気温度T
H2O_1と蒸気温度T
H2O_2との温度勾配の変化を抑制するように制御する。
【0052】
第2実施形態の制御部40aは、上記温度勾配の変化を抑制するために、水の供給量F
H2Oを用いて、下記式(5)のように蒸発器60への水素の供給量F
H2,in60を算出する。式(5)に示されるように、蒸発器60への水素の供給量F
H2,in60は、水の供給量F
H2Oにより決まる関数である。水の供給量F
H2Oと、蒸発器60への水素の供給量F
H2との関係は、予め水素製造システム200を用いた測定が行われることにより決定されている。
【数5】
【0053】
制御部40aは、下記式(6)を用いて水素貯蔵タンク80から混合部50への水素の供給量F
H2,in50を算出する。なお、合計の水素の供給量F
H2_totalは、第1実施形態において、水素貯蔵タンク80から混合部への水素の供給量F
H2と同じである。
【数6】
【0054】
図9は、蒸発器60に供給された水素の効果についての説明図である。
図9には、第1実施形態の
図2に示すような制御が行われた場合の、合計の水素の供給量F
H2,totalの時間変化と、水の供給量の時間変化を表す供給量F
H2O_con(破線),F
H2O_A(実線),F
H2O_Z(一点鎖線)の時間変化とが示されている。供給量F
H2O_conは、蒸発器60で生成したい水蒸気の目標供給量である。供給量F
H2O_Aは、第2実施形態の制御部40aの制御により蒸発器60で実際に生成された水蒸気の供給量の時間変化である。供給量F
H2O_Zは、水素が蒸発器60に供給されていない比較例の蒸発器60で実際に生成された水蒸気の時間変化である。
図9に示されるように、供給量F
H2O_conと供給量F
H2O_Aとは、ほとんどの領域で重複している。すなわち、蒸発器60に水素が供給されている第2実施形態では、目標供給量に対して実際に生成される水蒸気の量の追従性が高い。一方で、比較例の供給量F
H2O_Zでは、時刻t1,t2を経過した後に、供給量F
H2O_conに対する応答遅れが発生している。
【0055】
図10は、第2実施形態の水素製造システム200aが水素を製造する際の処理についてのフローチャートである。
図10に示される第2実施形態の水素製造フローにおいて、ステップS21~S28までの処理は、第1実施形態の水素製造フロー(
図4)におけるステップS1~S8までの処理と同じである。そのため、第2実施形態では、ステップS28以降の処理について説明する。
【0056】
図10に示されるステップS28の処理が行われると、制御部40aは、算出された水の供給量F
H2Oを上記式(5)に代入することにより、水素貯蔵タンク80から蒸発器60への水素の供給量F
H2,in60を算出する(ステップS29)。制御部40aは、算出された水素の供給量F
H2,in60を用いて混合部50への水素の供給量F
H2,in50を算出し、蒸発器60および混合部50へと算出した量の水素を供給する(ステップS30)。制御部40aは、算出された蒸発器60への水素の供給量F
H2,in60と上記式(1)~(4),(6)とを用いて、水素貯蔵タンク80から混合部50への水素の供給量F
H2,in50を算出する。制御部40aは、算出された供給量F
H2,in60の水素を蒸発器60へと供給し、算出された供給量F
H2,in50の水素を混合部50へと供給する。
【0057】
制御部40aは、第1実施形態と同じように、SOEC10への入力電圧における電流密度iの算出および設定を行う(ステップS31)。その後、制御部40は、水素製造フローを終了するか否かを判定する(ステップS32)。水素製造フローを終了しないと判定された場合には(ステップS32:NO)、ステップS23以降の処理が繰り返される。水素製造フローを終了すると判定された場合には(ステップS32:YES)、水素製造システム200aの制御フローが終了する。
【0058】
以上説明したように、第2実施形態の水素製造システム200aでは、制御部40aは、混合部50に供給される水素の一部を蒸発器60へと供給する。蒸発器60に供給された水素は、気泡スラグとして流路61内を流れる。流路61内を流れる水素の気泡スラグの量は、流路61内を流れる水の液スラグの輸送量を調整する。気泡スラグ周りの薄液膜は小さい熱抵抗と広い蒸発界面積とを有するため、水蒸気の飽和温度と壁温度との差が小さいため、蒸発器60内の温度勾配の変化が抑制される。温度勾配の変化の抑制により、
図9に示されるように、目標供給量である供給量F
H2O_conに対して、実際に生成される水蒸気の供給量F
H2O_Aの追従性が高くなる。この結果、蒸発器60の熱容量に依存した温度遅れを抑制し、SOEC10の温度制御性を改善できる。
【0059】
<上記実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0060】
<変形例1>
上記第1実施形態および第2実施形態では、水素製造システム200,200aの一例について説明したが、水素製造システム200,200aは、算出された蒸発器60により生成された水蒸気量を用いて水素の供給量FH2および入力電力を変化させる範囲で変形可能である。制御部40は、入力電力の電流密度i以外の要素を制御することにより、SOEC10への入力電力を変化させてもよい。例えば、SOEC10への入力電力は、一定電流の下、電圧が制御されることにより変化してもよい。制御部40は、入力電力と水素の供給量FH2とを変化させて、水貯蔵タンク70からの水の供給量FH2Oを変化させなくてもよい。外部熱源300は、工場等から排出される排出ガス以外であってもよく、周知の高熱源を採用できる。
【0061】
上記第1実施形態では、
図4のステップS3,S4の処理に示されるように、制御部40は、セルスタック温度Tscと制御温度Tsc,tとの差に応じて入力電力の電流密度i等を制御したが、セルスタック温度Tscに応じて制御してもよい。例えば、サンプリング期間Δtを用いた温度変化に応じて、SOEC10への入力電力および水素の供給量F
H2が制御されてもよい。上記第1実施形態では、水蒸気利用率Usとして一例の数値範囲を挙げたが、水蒸気利用率Usについては任意に設定可能である。
【0062】
<変形例2>
上記第1実施形態および第2実施形態では、制御部40,40aは、酸素センサ90により取得された酸素分圧を用いて蒸発器60で生成する水蒸気の量を算出していたが、その他の検出値を用いて水蒸気の量を算出してもよい。
図11は、変形例2における水素製造システム200bのブロック図である。水素製造システム200bでは、第1実施形態の水素製造システム200と比較して、制御部40bが、水素センサ(水素分圧検出部)90bにより検出された原料ガス中の水素分圧を用いて水蒸気の量が算出される点が異なる。水素製造システム200bは、イットリア添加バリウムジルコネート材(BaZr
0.8Y
0.2O
3-δ)が用いられた水素センサ90bを備えている。水素センサ90bは、プロトン伝導体を用いた起電力測定により、SOEC10に流入する原料ガスの温度(650℃~700℃)よりも低い温度(400℃)の熱交換器30内の原料ガス中の水素分圧を検出できる。この変形例では、制御部40bは、水素センサにより検出された熱交換器30内の原料ガス中の水素分圧を用いて水蒸気の量を算出する。制御部40bは、この変形例の水素センサ90bの検出値を用いることにより、水素製造システム200bにおいてより上流側の温度が低い原料ガスに含まれる水蒸気の量を算出できる。この結果、水蒸気の量の算出から、水素の供給量F
H2および入力電力の設定までの時間が短くなる。すなわち、この変形例では、水蒸気量の検出から水素の供給量F
H2および入力電力の制御までのタイムラグを短くできるため、制御部40bの制御精度が向上する。
【0063】
<変形例3>
図12は、変形例3における水素製造システム200cのブロック図である。水素製造システム200cでは、第1実施形態の水素製造システム200と比較して、制御部40bが、流量センサ(流量検出部)90cにより検出された原料ガスの流量を用いて水蒸気の量が算出される点が異なる。制御部40cは、混合部50から熱交換器30へと流入する原料ガスの流量を用いて、蒸発器60で生成された水蒸気の量を算出する。この変形例の水素製造システム200cは、混合部50と熱交換器との間に配置されたオリフィスを用いて、オリフィス入口とオリフィス出口との圧力差を用いて水蒸気の量が算出されている。流量センサ90cとしてのオリフィスを用いる場合、水素製造システム200cを用いた圧力差の測定が予め行われることにより、制御部40cは、オリフィスを通過する原料ガスの総流量を算出できる。この変形例では、制御部40cは、流量センサ90cにより検出された原料ガスの総流量から、制御により既知の水素の供給量F
H2を差し引くことで、蒸発器60により生成された水蒸気の供給量F
H2Oを算出できる。流量センサ90cは、水素製造システム200において配置されるための温度条件がない、すなわち加熱される前の原料ガスの流量を取得できる。そのため、流量センサ90cがより水素製造システム200cのより上流側である混合部50と熱交換器30との間に配置されることにより、水蒸気の量の算出から、水素の供給量F
H2および入力電力の設定までの時間が短くなる。すなわち、この変形例では、水蒸気量の算出から水素の供給量F
H2および入力電力の制御までのタイムラグを短くできるため、制御部40cの制御精度が向上する。
【0064】
<変形例4>
図13は、変形例における水素製造方法のフローチャートである。第1実施形態の
図4に示される水素製造フローは、
図13に示される水素製造フローのように換言できる。この変形例の水素製造フローでは、外部熱源300から抵抗される熱を利用して蒸発器60により水蒸気を生成する蒸発工程が行われる(ステップS41)。水素貯蔵タンク80から供給された水素と、蒸発器60により生成された水蒸気とを、原料ガスとして混合部50で混合する混合工程が行われる(ステップS42)。混合された原料ガスを熱交換器30により加熱する加熱工程が行われる(ステップS43)。加熱された原料ガス中の高温水蒸気からSOEC10の電解反応により水素を製造する水素製造工程が行われる(ステップS43)。温度センサ110によりSOEC10のセルスタック温度Tscを取得する温度取得工程が行われる(ステップS44)。SOEC10の制御温度Tsc,tから、温度センサ110により取得されたセルスタック温度Tscを引いた差の絶対値が閾値ε
TSCよりも小さいか否かが判定される(ステップS45)。絶対値が閾値ε
TSCよりも小さいと判定された場合には(ステップS45:YES)、ステップS43以降の処理が繰り返される。
【0065】
絶対値が閾値εTSCよりも大きいと判定された場合には(ステップS45:NO)、セルスタック温度Tscとを用いることにより、蒸発器60により生成された水蒸気の量を算出する水蒸気量取得工程が行われる(ステップS47)。上記第1実施形態、変形例2、および変形例3に示されるように、水蒸気の量を算出する方法としては、酸素分圧や水素分圧が用いられてもよい。取得された水蒸気の量に応じて、水貯蔵タンク70から蒸発器60への水の供給量FH2Oと、SOEC10への入力電力との算出および設定を行う制御工程が行われる(ステップS48)。その後、水素製造フローを終了するか否かが判定される(ステップS49)。
【0066】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…SOEC(電解セル)
11…SOECの空気側
12…SOECの燃料側
20…電力供給部
30…熱交換器(加熱器)
31…熱交換器の燃料側
32…熱交換器の排気側
40,40a,40b,40c…制御部(水蒸気量算出部)
50…混合部
60…蒸発器
61…流路
70…水貯蔵タンク
80…水素貯蔵タンク
90…酸素センサ(酸素分圧検出部)
90b…水素センサ(水素分圧検出部)
90c…流量センサ(流量検出部)
110…温度センサ(温度取得部)
200,200a,200b,200c…水素製造システム
300…外部熱源
FH2…水素の供給量
FH2O…水の供給量
FH2O_A…第2実施形態の水蒸気の供給量
FH2O_con…水蒸気の目標供給量
FH2O_Z…比較例の水蒸気の供給量
FH2,in50…混合部への水素の供給量
FH2,in60…蒸発器への水素の供給量
FH2,total…合計の水素の供給量
H1…熱量差
L1…直線
L2…直線
LA1,LA2…液スラグ長
Qr…抵抗発熱
TΔS…不可逆熱
TH2O_1,TH2O_2…蒸気温度
εTSC…閾値
Tsc,t…制御温度
Tsc…セルスタック温度
Tw1,Tw2…隔壁温度
Us…電流密度利用率
Us,Usa,Usz…水蒸気利用率
VL1,VL2…液スラグ量
ba,bz…水素濃度
i,i1…電流密度
t1~t3…時刻