(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】超音波計測装置及び超音波計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 17/02 20060101AFI20241001BHJP
G01N 29/11 20060101ALI20241001BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01B17/02 Z
G01N29/11
G01N29/48
(21)【出願番号】P 2021108162
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】松井 祐二
(72)【発明者】
【氏名】北澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑己
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】森 勇人
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-062395(JP,A)
【文献】特開2003-107164(JP,A)
【文献】特開平09-061144(JP,A)
【文献】特開2008-309512(JP,A)
【文献】特開2005-233745(JP,A)
【文献】特開平04-301762(JP,A)
【文献】特開2012-251895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 17/02
G01N 29/11
G01N 29/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に配置され、超音波を送信する送信用探触子と、
前記コンクリート構造物の前記表面に配置され、反射波を受信して波形信号に変換する受信用探触子と、
前記コンクリート構造物の前記表面における前記送信用探触子の位置及び前記受信用探触子の位置を変更する移動装置と、
前記送信用探触子の位置と前記受信用探触子の位置との組合せに対応する複数の波形信号を収録し、前記複数の波形信号を選別して処理する信号処理装置と、を備えた超音波計測装置であって、
前記信号処理装置は、
前記送信用探触子と前記受信用探触子の距離が相対的に短い場合の第1の波形信号の振幅の積分値と、前記送信用探触子と前記受信用探触子の距離が相対的に長い場合の第2の波形信号の振幅の積分値とを比較し、
前記第1の波形信号の振幅の積分値が前記第2の波形信号の振幅の積分値より大きいときに、前記第1の波形信号を処理対象に含めるものの、前記第1の波形信号の振幅の積分値が前記第2の波形信号の振幅の積分値より小さいときに、前記第1の波形信号を処理対象に含めないことを特徴とする超音波計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波計測装置において、
前記信号処理装置は、処理対象である波形信号の数が所定の閾値に達しない場合に、前記送信用探触子の位置と前記受信用探触子の位置との組合せを追加して、対応する波形信号を取得することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波計測装置において、
前記信号処理装置は、処理対象である複数の波形信号を加算する処理を行うことを特徴とする超音波計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波計測装置において、
前記信号処理装置は、前記コンクリート構造物内の位置毎に、処理対象である複数の波形信号の対応する振幅を抽出して加算して、振幅分布画像を生成する処理を行うことを特徴とする超音波計測装置。
【請求項5】
コンクリート構造物の表面における送信用探触子の位置及び受信用探触子の位置を変更しながら、前記送信用探触子で超音波を送信すると共に、前記受信用探触子で反射波を受信して波形信号に変換することにより、前記送信用探触子の位置と前記受信用探触子の位置との組合せに対応する複数の波形信号を取得し、前記複数の波形信号を選別して処理する超音波計測方法であって、
前記送信用探触子と前記受信用探触子の距離が相対的に短い場合の第1の波形信号の振幅の積分値と、前記送信用探触子と前記受信用探触子の距離が相対的に長い場合の第2の波形信号の振幅の積分値とを比較し、
前記第1の波形信号の振幅の積分値が前記第2の波形信号の振幅の積分値より大きいときに、前記第1の波形信号を処理対象に含めるものの、前記第1の波形信号の振幅の積分値が前記第2の波形信号の振幅の積分値より小さいときに、前記第1の波形信号を処理対象に含めないことを特徴とする超音波計測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波計測方法において、
処理対象である波形信号の数が所定の閾値に達しない場合に、前記送信用探触子の位置と前記受信用探触子の位置との組合せを追加して、対応する波形信号を取得することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項7】
請求項5に記載の超音波計測方法において、
処理対象である複数の波形信号を加算する処理を行うことを特徴とする超音波計測方法。
【請求項8】
請求項5に記載の超音波計測方法において、
前記コンクリート構造物内の位置毎に、処理対象である複数の波形信号の対応する振幅を抽出して加算して、振幅分布画像を生成する処理を行うことを特徴とする超音波計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の厚みを計測する超音波計測装置及び超音波計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波計測は、非破壊計測の一つであり、被検査体の厚み計測などに用いられている。詳しく説明すると、超音波を被検査体に送信し、被検査体の底面で反射された反射波(底面エコー)を受信し、底面エコーの受信時間(すなわち、超音波の伝播時間)に基づいて被検査体の厚みを演算する。
【0003】
特許文献1は、表面波(ノイズ)に対する反射波(底面エコー)のSN比を向上する方法を開示する。特許文献1では、被検査体の表面に配置された送信用探触子と受信用探触子の間隔を変更しながら、送信用探触子で超音波を送信すると共に、受信用探触子で表面波及び反射波を受信して波形信号に変換することにより、送信用探触子と受信用探触子の間隔に応じた複数の波形信号を取得する。送信用探触子と受信用探触子の間隔を変更すれば、波形信号における表面波の成分が大きく変化するのに対し、反射波の成分が大きく変化しない。そのため、複数の波形信号を加算する処理を行うことにより、表面波の振幅を低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波計測をコンクリート構造物の厚み計測に用いる場合、コンクリート構造物内の骨材によって散乱波(散乱ノイズ)が生じ、この散乱ノイズに対する底面エコーのSN比が低下する。そこで、例えば特許文献1の技術を採用して、散乱ノイズに対する底面エコーのSN比の向上を図ることが考えられる。送信用探触子又は受信用探触子の位置を変更すれば、波形信号における散乱ノイズの成分が大きく変化するのに対し、底面エコーの成分が大きく変化しない。そのため、複数の波形信号を加算する処理を行うことにより、散乱ノイズの振幅を低減することが可能である。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、全ての波形信号を加算する処理を行うことから、SN比が低下する可能性がある。詳しく説明すると、例えばコンクリート構造物の表面に突起、窪み、又は付着物があれば、送信用探触子又は受信用探触子とコンクリート構造物の表面との密着性が損なわれるため、受信用探触子の受信感度が低下し、波形信号全体の振幅が低下する。そのため、振幅が低減した波形信号が混在する状態で、全ての波形信号を加算する処理を行えば、SN比が低下する。
【0007】
本発明の目的は、複数の波形信号を選別して処理することにより、SN比の向上を図ることができる超音波計測装置及び超音波計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、コンクリート構造物の表面に配置され、超音波を送信する送信用探触子と、前記コンクリート構造物の前記表面に配置され、反射波を受信して波形信号に変換する受信用探触子と、前記コンクリート構造物の前記表面における前記送信用探触子の位置及び前記受信用探触子の位置を変更する移動装置と、前記送信用探触子の位置と前記受信用探触子の位置との組合せに対応する複数の波形信号を収録し、前記複数の波形信号を選別して処理する信号処理装置と、を備えた超音波計測装置であって、前記信号処理装置は、前記送信用探触子と前記受信用探触子の距離が相対的に短い場合の第1の波形信号の振幅の積分値と、前記送信用探触子と前記受信用探触子の距離が相対的に長い場合の第2の波形信号の振幅の積分値とを比較し、前記第1の波形信号の振幅の積分値が前記第2の波形信号の振幅の積分値より大きいときに、前記第1の波形信号を処理対象に含めるものの、前記第1の波形信号の振幅の積分値が前記第2の波形信号の振幅の積分値より小さいときに、前記第1の波形信号を処理対象に含めない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の波形信号を選別して処理することにより、SN比の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態における超音波計測装置の構成を表す概略図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における送信用探触子及び受信用探触子の配置を表す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態における送信用探触子の位置と受信用探触子の位置との組合せに対応する複数の波形信号を表す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における送信用探触子及び受信用探触子の配置を表す図であり、受信用探触子の受信感度が低くなる場合を示す。
【
図5】本発明の第1の実施形態における波形信号の取得及び選別に係わる制御の手順を表すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施形態における複数の波形信号の具体例を表すと共に、探触子間の距離と波形信号の振幅の積分値との関係を表す図である。
【
図7】第1の比較例における加算信号の具体例を表す図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態における加算信号の具体例を表す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態における超音波計測装置の構成を表す概略図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態における移動装置の移動機構の構造を表す概略図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態におけるコンクリート壁内の超音波の伝播経路を幾何学的に表す図である。
【
図12】第2の比較例における振幅分布画像の具体例を表す図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態における振幅分布画像の具体例を表す図である。
【
図14】本発明の一変形例におけるコンクリート壁の形状を移動装置の移動機構と共に表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施形態における超音波計測装置の構成を表す概略図である。
図2は、本実施形態における送信用探触子及び受信用探触子の配置を表す図である。
図3は、本実施形態における送信用探触子の位置と受信用探触子の位置との組合せに対応する複数の波形信号を表す図である。
【0013】
本実施形態の超音波計測装置は、床1に立設されたコンクリート壁2の厚み計測を行うものである。本実施形態の超音波計測装置は、コンクリート壁2の表面3に配置された送信用探触子11及び受信用探触子12と、コンクリート壁2の表面3における送信用探触子11の位置を変更する移動装置13Aと、コンクリート壁2の表面3における受信用探触子12の位置を変更する移動装置13Bと、移動装置13A,13Bを制御する移動制御装置14と、送信用探触子11及び受信用探触子12との間で信号を入出力する超音波探傷器15と、移動制御装置14及び超音波探傷器15に配線を介し接続された信号処理装置16と、信号処理装置16に配線を介し接続された表示器17とを備える。表示器17は、例えばディスプレイで構成されている。
【0014】
移動装置13Aは、移動制御装置14からの指令に応じて床1上を走行する走行体と、走行体の上側に設けられ、送信用探触子11をコンクリート壁2の表面3に押付ける支持体とを有する。また、走行体の走行に係わる状態量を検出する走行センサ(図示せず)を有し、走行センサの検出信号を移動制御装置14へ出力する。
【0015】
同様に、移動装置13Bは、移動制御装置14からの指令に応じて床1上を走行する走行体と、走行体の上側に設けられ、受信用探触子12をコンクリート壁2の表面3に押付ける支持体とを有する。また、走行体の走行に係わる状態量を検出する走行センサ(図示せず)を有し、走行センサの検出信号を移動制御装置14へ検出信号を出力する。
【0016】
移動制御装置14は、図示しないものの、プログラムに従って制御を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリとを有する。移動制御装置14は、機能的構成として、移動制御部18、位置演算部19、及び距離演算部20を有する。移動制御部18は、移動装置13A,13Bへ指令を出力して、コンクリート壁2の表面3における送信用探触子11の位置及び受信用探触子12の位置を制御する。
【0017】
移動制御装置14の位置演算部19は、移動装置13Aの走行センサの検出信号に基づき、コンクリート壁2の表面3における送信用探触子11の位置を演算し、移動装置13Aの走行センサの検出信号に基づき、コンクリート壁2の表面3における受信用探触子12の位置を演算し、信号処理装置16へ出力する。距離演算部20は、送信用探触子11の位置及び受信用探触子12の位置に基づき、送信用探触子11と受信用探触子12の間の距離を演算し、信号処理装置16へ出力する。
【0018】
超音波探傷器15は、パルサ21及びレシーバ22を有する。パルサ21は、送信用探触子11の位置及び受信用探触子12の位置のうちの少なくとも一方が変更される度に、送信用探触子11の圧電素子に電圧を印加して、コンクリート壁2へ超音波を送信させる。受信用探触子12の圧電素子は、コンクリート壁2からの反射波を受信し波形信号に変換して、レシーバ22へ出力する。レシーバ22は、波形信号をデジタル変換して信号処理装置16へ出力する。なお、波形信号は、送信用探触子11による超音波の送信タイミングを基準とし、受信用探触子12で受信された反射波の振幅(強度)の経時変化を示すものである。
【0019】
信号処理装置16は、図示しないものの、プログラムに従って制御を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリとを有する。信号処理装置16は、送信用探触子11の位置と受信用探触子12の位置との組合せと、これに対応する波形信号や探触子間の距離を収録する。
【0020】
具体的に説明すると、コンクリート壁2の表面3に対し、横方向(X方向)に所定の間隔ΔPで位置P
1、P
2、P
3、P
4、P
5、…、P
k-1、P
kが設定されている(
図2参照)。そして、送信用探触子11が位置P
1に配置され、受信用探触子12が位置P
2、P
3、P
4、P
5、…、P
k-1、P
kに逐次配置されることにより、対応する波形信号W
12、W
13、W
14、W
15、…、W
1(k-1)、W
1kを取得して収録する。その後、送信用探触子11が位置P
2に配置され、受信用探触子12が位置P
3、P
4、P
5、…、P
k-1、P
kに逐次配置されることにより、対応する波形信号W
23、W
24、W
25、…、W
2(k-1)、W
2kを取得して収録する。なお、送信用探触子11が位置P
2に配置され且つ受信用探触子12が位置P
1に配置された場合の波形信号W
21は、送信用探触子11が位置P
1に配置され且つ受信用探触子12が位置P
2に配置された場合の波形信号W
12と理論的に同じであるから、取得していない。更に、送信用探触子11の位置と受信用探触子12の位置の組合せを変更しながら、波形信号を取得して収録する。最終的に、送信用探触子11が位置P
k-1に配置され、受信用探触子12が位置P
kに配置されることにより、波形信号W
(k-1)kを取得して収録する。
【0021】
各波形信号は、
図2の実線矢印で示すようにコンクリート壁2の底面4で反射された反射波(底面エコー)だけでなく、
図2の点線矢印で示すようにコンクリート壁2内の骨材5によって散乱された散乱波(散乱ノイズ)を含む。そのため、信号処理装置16は、複数の波形信号を加算する処理を行い、加算信号を生成する。これにより、加算信号における散乱ノイズの振幅を低減して、底面エコーのSN比の向上を図る。そして、加算信号から底面エコーの受信時間を抽出し、これに基づいてコンクリート壁2の厚みを演算する。
【0022】
ここで、仮に、信号処理装置が全ての波形信号を加算する処理を行えば、SN比が低下する可能性がある。詳しく説明すると、例えば、
図4(a)~
図4(c)で示すようにコンクリート壁2の表面3に突起6、窪み7、又は付着物8がある場合、送信用探触子11又は受信用探触子12とコンクリート壁2の表面3との密着性が損なわれるため、受信用探触子12の受信感度が低下し、波形信号全体の振幅が低下する。また、例えば
図4(d)で示すようにコンクリート壁2内の骨材5が超音波の伝播経路に偏って存在する場合も、受信用探触子12の受信感度が低下し、波形信号全体の振幅が低下する。そのため、振幅が低減した波形信号が混在する状態で、全ての波形信号を加算する処理を行えば、SN比が低下する。
【0023】
そこで、本実施形態の信号処理装置16は、複数の波形信号を選別して処理することにより、SN比の向上を図るようになっている。信号処理装置16は、機能的構成として、波形信号収録部23、積分値演算部24、信号選別部25、及び信号処理部26を有する。波形信号収録部23は、送信用探触子11の位置と受信用探触子12の位置との組合せと、これに対応する波形信号や探触子間の距離を収録する。積分値演算部24は、各波形信号の振幅の積分値を演算し、波形信号収録部23に収録させる。
【0024】
信号処理装置16の信号選別部25は、波形信号収録部23で収録された複数の波形信号のうち、探触子間の距離が相対的に短い場合の第1の波形信号と探触子間の距離が相対的に長い場合の第2の波形信号を順次選択し、それらの振幅の積分値を比較する。そして、第1の波形信号の振幅の積分値が第2の波形信号の振幅の積分値より大きいときに、受信用探触子12の受信感度が正常であると判断して、第1の波形信号を処理対象に含める。一方、第1の波形信号の振幅の積分値が第2の波形信号の振幅の積分値より小さいときに、受信用探触子12の受信感度が低下していると判断して、第1の波形信号を処理対象に含めない。
【0025】
信号処理装置16の信号処理部26は、処理対象である複数の波形信号を加算する処理を行い、加算信号を生成する。そして、加算信号から底面エコーの受信時間を抽出し、これに基づいてコンクリート壁2の厚みを演算する。表示器17は、例えば、加算信号や、コンクリート壁2の厚みを表示する。
【0026】
次に、本実施形態における波形信号の取得及び選別に係わる制御の詳細について説明する。
図5は、本実施形態における波形信号の取得及び選別に係わる制御の手順を表すフローチャートである。
図6(a)~
図6(d)は、本実施形態における複数の波形信号の具体例を表し、
図6(e)は、探触子間の距離と波形信号の振幅の積分値との関係を表す図である。
【0027】
まず、ステップS1にて、信号処理装置16は、送信用探触子11の位置に対応する識別子mを初期化し(m=1)、ステップS2にて、移動装置13Aは、送信用探触子11を位置P1に設定する。
【0028】
ステップS3にて、信号処理装置16は、受信用探触子12の位置に対応する識別子nを初期化し(n=(m+1)であり、最初はn=2)、ステップS4にて、移動装置13Bは、受信用探触子12を位置P2に設定する。
【0029】
ステップS5及びS6に進み、信号処理装置16は、送信用探触子11の位置P
1と受信用探触子12の位置P
2との組合せに対応する波形信号W
12(
図6(a)参照)を取得し、その振幅の積分値A
12を演算し、それらを収録する。この時点では、1つの波形信号しかないため、ステップS7~S10をスキップして、ス
テップS11に移る。
【0030】
ステップS11にて、信号処理装置16は、識別子nを変更し(n=3)、ステップS4にて、移動装置13Bは、受信用探触子12を位置P3に設定する。
【0031】
ステップS5及びS6に進み、信号処理装置16は、送信用探触子11の位置P
1と受信用探触子12の位置P
3との組合せに対応する波形信号W
13(
図6(b)参照)を取得し、その振幅の積分値A
13を演算し、それらを収録する。ステップS7に進み、信号処理装置16は、探触子間の距離がΔPである場合の波形信号W
12の振幅の積分値A
12と探触子間の距離が(ΔP×2)である場合の波形信号W
13の振幅の積分値A
13を比較する。そして、例えば
図6(e)で示すように、波形信号W
12の振幅の積分値A
12が波形信号W
13の振幅の積分値A
13より大きければ、ステップS8に進み、波形信号W
12を処理対象に含める。
【0032】
ステップS10に進み、信号処理装置16は、送信用探触子11を位置P1に配置した場合の処理対象である波形信号の数が所定の閾値(例えば(k-1))に達しているかどうかを判定する。この時点では、波形信号の数が所定の閾値に達していないため、ステップS11に移る。
【0033】
ステップS11にて、信号処理装置16は、識別子nを変更し(n=4)、ステップS4にて、移動装置13Bは、受信用探触子12を位置P4に設定する。
【0034】
ステップS5及びS6に進み、信号処理装置16は、送信用探触子11の位置P
1と受信用探触子12の位置P
4との組合せに対応する波形信号W
14(
図6(c)参照)を取得し、その振幅の積分値A
14を演算し、それらを収録する。ステップS7に進み、信号処理装置16は、探触子間の距離が(ΔP×2)である場合の波形信号W
13の振幅の積分値A
13と探触子間の距離が(ΔP×3)である場合の波形信号W
14の振幅の積分値A
14を比較する。そして、例えば
図6(e)で示すように、波形信号W
13の振幅の積分値A
13が波形信号W
14の振幅の積分値A
14より小さければ、ステップS9に進み、波形信号W
13を処理対象に含めない。
【0035】
ステップS10を経てステップS11に進み、信号処理装置16は、識別子nを変更し(n=5)、ステップS4にて、移動装置13Bは、受信用探触子12を位置P5に設定する。
【0036】
ステップS5及びS6に進み、信号処理装置16は、送信用探触子11の位置P
1と受信用探触子12の位置P
5との組合せに対応する波形信号W
15(
図6(d)参照)を取得し、その振幅の積分値A
15を演算し、それらを収録する。ステップS7に進み、信号処理装置16は、探触子間の距離が(ΔP×3)である場合の波形信号W
14の振幅の積分値A
14と探触子間の距離が(ΔP×4)である場合の波形信号W
15の振幅の積分値A
15を比較する。そして、例えば
図6(e)で示すように、波形信号W
14の振幅の積分値A
14が波形信号W
15の振幅の積分値A
15より大きければ、ステップS7に進み、波形信号W
15を処理対象に含める。
【0037】
上述したステップS4~S11を繰り返す(説明は省略)。なお、送信用探触子11の位置P1と受信用探触子12の位置Pkとの組合せに対応する波形信号W1kは、ステップS7の判定を行うことなく、処理対象に含まれる。上述したように波形信号W13を処理対象に含めていなければ、送信用探触子11を位置P1に配置した場合の処理対象である波形信号の数が所定の閾値に達していない。そのため、波形信号W1kを取得して収録した後も、ステップS10を経てステップS11に移る。
【0038】
ステップS11にて、信号処理装置16は、識別子nを変更し(n=3’)、ステップS4にて、移動装置13Bは、受信用探触子12を位置P3’に設定する。すなわち、送信用探触子11の位置と受信用探触子12の位置との組合せを追加する。なお、位置P3’は、位置P3と位置P4又はP2の間である。
【0039】
ステップS5及びS6に進み、信号処理装置16は、送信用探触子11の位置P
1と受信用探触子12の位置P
3’との組合せに対応する波形信号W
13’(図示せず)を取得し、その振幅の積分値A
13’を演算し、それらを収録する。ステップS7に進み、信号処理装置16は、探触子間の距離が相対的に短い場合の波形信号W
13’の振幅の積分値A
13’と探触子間の距離が相対的に長い場合の波形信号W
14の振幅の積分値A
14を比較する。そして、例えば
図6(e)で示すように、波形信号W
13’の振幅の積分値A
13’が波形信号W
14の振幅の積分値A
14より大きければ、ステップS8に進み、波形信号W
13’を処理対象に含める。これにより、送信用探触子11を位置P
1に配置した場合の処理対象である波形信号の数が所定の閾値に達する。そのため、ステップS10を経てステップS12に移る。
【0040】
ステップS12にて、信号処理装置16は、送信用探触子11の移動が完了しているかどうか、すなわち、送信用探触子11が位置Pk-1に設定されているかどうかを判定する。この時点では、送信用探触子11の移動が完了していないため、ステップS13に移る。
【0041】
ステップS13にて、信号処理装置16は、識別子mを変更し(m=2)、ステップS2にて、移動装置13Aは、送信用探触子11を位置P2に設定する。その後、上述した手順を繰り返す(説明は省略)。
【0042】
ステップS12にて、送信用探触子11の移動が完了していれば、すなわち、送信用探触子11が位置Pk-1に設定されていれば、この制御が終了する。その後、信号処理装置16は、処理対象である複数の波形信号(詳細には、波形信号W12、W13’、W14、W15など)を加算する処理を行う。
【0043】
以上のように本実施形態においては、複数の波形信号を選別して処理することにより、SN比の向上を図ることができる。また、処理対象である波形信号の数が所定の閾値に達しない場合に、送信用探触子11の位置と受信用探触子12の位置との組合せを追加して、対応する波形信号を取得することにより、SN比の向上を図ることができる。
【0044】
図7は、第1の比較例(詳細には、振幅が低減した波形信号が混在する状態で、全ての波形信号を処理した場合)における加算信号の具体例を表す。
図8は、本実施形態における加算信号の具体例を表す。これらの図からも明らかなように、本実施形態においてはSN比の向上を図ることができる。
【0045】
本発明の第2の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0046】
図9は、本実施形態における超音波計測装置の構成を表す概略図である。
図10は、本実施形態における移動装置の移動機構の構造を表す概略図である。
【0047】
本実施形態の超音波計測装置は、移動装置13A,13Bに代えて、コンクリート壁2の表面3における送信用探触子11の位置及び受信用探触子12の位置を変更する移動装置13を備える。
【0048】
移動装置13は、移動制御装置14からの指令に応じて床1上を走行する一対の走行体27A,27Bと、走行体27A,27Bの間で架設され、コンクリート壁2の表面3に沿う横方向(X方向)に延在する固定枠28と、固定枠28に設けられ、移動制御装置14からの指令に応じて送信用探触子11を移動する移動機構29Aと、固定枠28に設けられ、移動制御装置14からの指令に応じて受信用探触子12を移動する移動機構29Bとを備える。
【0049】
移動機構29Aは、固定枠28に回転可能に設けられた環状のベルト30Aと、移動制御装置14からの指令に応じてベルト30Aを回転するモータ31Aと、ベルト30Aの回転によって横方向(X方向)に移動するホルダ32Aと、ホルダ32Aのネジ穴に螺合されたネジ33Aと、コンクリート壁2の表面に向かう方向(Z方向)にネジ33Aを付勢するバネ(図示せず)と、ネジ33Aの先端側に設けられ、送信用探触子11を保持するジンバル34Aとで構成されている。
【0050】
同様に、移動機構29Bは、固定枠28に回転可能に設けられた環状のベルト30Bと、移動制御装置14からの指令に応じてベルト30Bを回転するモータ31Bと、ベルト30Bの回転によって横方向(X方向)に移動するホルダ32Bと、ホルダ32Bのネジ穴に螺合されたネジ33Bと、コンクリート壁2の表面に向かう方向(Z方向)にネジ33Bを付勢するバネ(図示せず)と、ネジ33Bの先端側に設けられ、受信用探触子12を保持するジンバル34Bとで構成されている。
【0051】
移動装置13は、走行体27A,27Bの走行に係わる状態量を検出する走行センサ(図示せず)と、モータ31Aの回転量を検出するモータセンサ35Aと、モータ31Bの回転量を検出するモータセンサ35Bと、ネジ33Aの回転量を検出するネジセンサ36Aと、ネジ33Bの回転量を検出するネジセンサ36Bとを有し、走行センサ、モータセンサ35A,35B、及びネジセンサ36A,36Bの検出信号を移動制御装置14へ出力する。
【0052】
移動制御装置14の移動制御部18は、移動装置13へ指令を出力して、コンクリート壁2の表面3における送信用探触子11の位置及び受信用探触子12の位置を制御する。位置演算部19は、走行センサ、モータセンサ35A、及びネジセンサ36Aの検出信号に基づき、コンクリート壁2の表面3における送信用探触子11の位置を演算し、走行センサ、モータセンサ35B、及びネジセンサ36Bの検出信号に基づき、コンクリート壁2の表面3における受信用探触子12の位置を演算し、信号処理装置16へ出力する。
【0053】
第1の実施形態と同様、信号処理装置16の波形信号収録部23は、送信用探触子11の位置と受信用探触子12の位置との組合せと、これに対応する波形信号や探触子間の距離を収録する。積分値演算部24は、各波形信号の振幅の積分値を演算し、波形信号収録部23に収録させる。
【0054】
第1の実施形態と同様、信号処理装置16の信号選別部25は、波形信号収録部23で収録された複数の波形信号のうち、探触子間の距離が相対的に短い場合の第1の波形信号と探触子間の距離が相対的に長い場合の第2の波形信号を順次選択し、それらの振幅の積分値を比較する。そして、第1の波形信号の振幅の積分値が第2の波形信号の振幅の積分値より大きいときに、受信用探触子12の受信感度が正常であると判断して、第1の波形信号を処理対象に含める。一方、第1の波形信号の振幅の積分値が第2の波形信号の振幅の積分値より小さいときに、受信用探触子12の受信感度が低下していると判断して、第1の波形信号を処理対象に含めない。
【0055】
信号処理装置16の信号処理部26Aは、コンクリート壁2内の位置毎に、処理対象である複数の波形信号の対応する振幅を抽出して加算して、振幅分布画像を生成する処理を行う(フルマトリクスキャプチャ方式)。
【0056】
コンクリート壁2内の位置pにおける振幅(加算値)の演算方法について説明する。
図11で示すように、送信用探触子11が位置P
mに配置され、受信用探触子12が位置P
nに配置され、送信用探触子11からの超音波が位置pで反射され、受信用探触子12で受信された場合を想定する。送信用探触子11の位置P
mをXZ座標系の座標(x
m,z
m)で定義し、受信用探触子12の位置P
nをXZ座標系の座標(x
n,z
n)で定義し、位置pを極座標系の座標(r,θ)で定義する。
【0057】
送信用探触子11から位置pまでの超音波の伝播距離rmは、下記の式(1)で与えられる。また、位置pから受信用探触子12までの超音波の伝播距離rnは、下記の式(2)で与えられる。したがって、送信用探触子11から受信用探触子12までの超音波の伝播時間τmnは、下記の式(3)で与えられる。なお、式中のcは、コンクリート壁の音速である。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
コンクリート壁2内の位置pにおける振幅(加算値)Sは、下記の式(4)で与えられる。すなわち、波形信号毎に、コンクリート壁2内の位置pに対応する伝播時間における振幅を抽出し、それらを加算する。但し、上述の
図3で示すように一部の波形信号(詳細には、波形信号W
11、W
21、W
22、W
31、W
32、W
33、…、W
kk)が存在しないため、それらを除外する。そして、各位置pの振幅を輝度等で示す振幅分布画像を生成し、表示器17に表示させる。
【0062】
【0063】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様、複数の波形信号を選別して処理することにより、SN比の向上を図ることができる。また、第1の実施形態と同様、処理対象である波形信号の数が所定の閾値に達しない場合に、送信用探触子11の位置と受信用探触子12の位置との組合せを追加して、対応する波形信号を取得することにより、SN比の向上を図ることができる。
【0064】
図12は、第2の比較例(詳細には、振幅が低減した波形信号が混在する状態で、全ての波形信号を処理した場合)における振幅分布画像の具体例を表す。
図13は、本実施形態における振幅分布画像の具体例を表す。これらの図からも明らかなように、本実施形態においてはSN比の向上を図ることができる。
【0065】
なお、第1及び第2の実施形態において、計測対象であるコンクリート構造物は、曲率を有しないコンクリート壁2である場合を例にとって説明したが、これに限られず、例えば
図14で示すように、曲率を有するコンクリート壁2であってもよい。また、コンクリート壁2以外の他のコンクリート構造物であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
2 コンクリート壁
3 表面
11 送信用探触子
12 受信用探触子
13,13A,13B 移動装置
16 信号処理装置