(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/15 20160101AFI20241001BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241001BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241001BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241001BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20241001BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20241001BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20241001BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241001BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/48 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/02 900
B60W20/10
F16D48/02 640S
B60L50/16
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2021130300
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 智也
(72)【発明者】
【氏名】南 貴文
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096386(JP,A)
【文献】特開2011-037409(JP,A)
【文献】特開2012-092664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F16D 48/02
B60L 50/16
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンを停止状態から運転状態へ切り替える場合には、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要な所定の第1クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチのトルク容量を制御すると共に前記第1クランキングトルクを前記電動機が出力するように前記電動機を制御し、前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する第1始動制御と、
前記エンジンを運転状態から停止状態へ切り替える停止過程において再び運転状態へ切り替える場合には、前記クラッチにトルク容量を生じさせない状態で前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御し、前記エンジンの運転開始後に前記クラッチにトルク容量を生じさせて前記クラッチを係合状態へ切り替える第2始動制御と、
を行う始動制御部を含んでおり、
前記始動制御部は、前記第1始動制御による前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの始動に失敗した場合には、又は、前記エンジンの始動の失敗が予測されると判定した場合には、前記第1クランキングトルクよりも大きい所定の第2クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチのトルク容量を制御すると共に前記第2クランキングトルクを前記電動機が出力するように前記電動機を制御し、前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する強制始動制御を行うものであり、
前記始動制御部は、前記第2始動制御による前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの始動に失敗した場合には、又は、前記エンジンの始動の失敗が予測されると判定した場合には、前記第1始動制御又は前記強制始動制御を行うことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機との間に設けられたクラッチを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両のエンジン始動制御装置がそれである。この特許文献1には、ロック機構により駆動輪がロックされていない非ロックモードでの車両停止中にエンジンを始動する場合、エンジンをクランキングする為の電動機による始動トルクが比較的低くされた第1始動モードによりエンジンを始動すること、又、第1始動モードによるエンジンの始動が不能とされた場合に、ロック機構により駆動輪がロックされたロックモードへ移行させた上で、第1始動モードよりも始動トルクを増加させた第2始動モードによりエンジンを始動することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、クラッチにトルク容量を生じさせない状態で、つまりエンジンをクランキングする為の電動機による始動トルクを生じさせない状態で、エンジンを始動することが考えられる。特許文献1に記載の技術では、始動トルクによるエンジンの始動に失敗した場合、始動トルクを増加させることによってエンジンを始動し、エンジンの始動性の低下を抑制しているが、始動トルクを生じさせない状態でエンジンを始動する場合に、エンジンの始動性の低下を抑制することについては改善の余地がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、クラッチにトルク容量を生じさせない状態でエンジンを始動する際に、エンジンの始動性の低下を抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンを停止状態から運転状態へ切り替える場合には、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要な所定の第1クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチのトルク容量を制御すると共に前記第1クランキングトルクを前記電動機が出力するように前記電動機を制御し、前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する第1始動制御と、(c)前記エンジンを運転状態から停止状態へ切り替える停止過程において再び運転状態へ切り替える場合には、前記クラッチにトルク容量を生じさせない状態で前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御し、前記エンジンの運転開始後に前記クラッチにトルク容量を生じさせて前記クラッチを係合状態へ切り替える第2始動制御と、を行う始動制御部を含んでおり、(d)前記始動制御部は、前記第1始動制御による前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの始動に失敗した場合には、又は、前記エンジンの始動の失敗が予測されると判定した場合には、前記第1クランキングトルクよりも大きい所定の第2クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチのトルク容量を制御すると共に前記第2クランキングトルクを前記電動機が出力するように前記電動機を制御し、前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する強制始動制御を行うものであり、(e)前記始動制御部は、前記第2始動制御による前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの始動に失敗した場合には、又は、前記エンジンの始動の失敗が予測されると判定した場合には、前記第1始動制御又は前記強制始動制御を行うことにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、クラッチにトルク容量を生じさせない状態でエンジンを始動する第2始動制御によるエンジンの始動に際して、エンジンの始動に失敗した場合には、又は、エンジンの始動の失敗が予測されると判定された場合には、第1クランキングトルクによりエンジンを始動する第1始動制御又は第2クランキングトルク(>第1クランキングトルク)によりエンジンを始動する強制始動制御が行われるので、電動機によるクランキングを伴わないエンジン始動が失敗したときや失敗しそうなときには、電動機によるクランキングによって始動し易くされる。よって、クラッチにトルク容量を生じさせない状態でエンジンを始動する際に、エンジンの始動性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】エンジンの第1始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図3】エンジンの始動制御が自律復帰始動にて実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図4】第1始動制御によるエンジンの始動に際して、強制始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図5】自律復帰始動によるエンジンの始動に失敗した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図6】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、自律復帰始動の際にエンジンの始動性の低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、動力源SPとして機能する、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0011】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0012】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。具体的には、電動機MGは、バッテリ54から供給される電力により動力を発生する。又、電動機MGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。バッテリ54は、電動機MGの発電による電力を充電する。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0013】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。自動変速機24は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた変速機である。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0014】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0015】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。トルクコンバータ22は、動力源SPからの動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結する、つまり電動機連結軸36と変速機入力軸38とを連結する直結クラッチとしてのLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、公知のロックアップクラッチである。
【0016】
LUクラッチ40は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が完全に解放された状態である解放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、及びLUクラッチ40が完全に係合された状態である係合状態がある。LUクラッチ40が解放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバータ状態とされる。又、LUクラッチ40が係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22a及びタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0017】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0018】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0019】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0020】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0021】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0022】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、動力源SPにより回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、LU油圧PRlu、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0023】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0024】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0025】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0026】
CB油圧制御指令信号Scbは、油圧制御回路56から調圧されたCB油圧PRcbを供給させる為の油圧指令値であるCB油圧指令値Spcbに相当する。K0油圧制御指令信号Sk0は、油圧制御回路56から調圧されたK0油圧PRk0を供給させる為の油圧指令値であるK0油圧指令値Spk0に相当する。LU油圧制御指令信号Sluは、油圧制御回路56から調圧されたLU油圧PRluを供給させる為の油圧指令値であるLU油圧指令値Spluに相当する。
【0027】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、動力源制御手段すなわち動力源制御部92、始動制御手段すなわち始動制御部94、停止制御手段すなわち停止制御部96、及び変速機制御手段すなわち変速機制御部98を備えている。
【0028】
動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行するハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部である。
【0029】
動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。
【0030】
動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、車両10を駆動する駆動モードをBEV駆動モードとする。BEV駆動モードは、K0クラッチ20の解放状態において、電動機MGのみを動力源SPに用いて走行するモータ走行(=BEV走行)が可能なモータ駆動モードである。一方で、動力源制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、駆動モードをエンジン駆動モードつまりHEV駆動モードとする。HEV駆動モードは、K0クラッチ20の係合状態において、少なくともエンジン12を動力源SPに用いて走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HEV走行)が可能なハイブリッド駆動モードである。他方で、動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電が必要な場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV駆動モードを成立させる。
【0031】
始動制御部94は、エンジン12の制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン始動要求の有無を判定する。例えば、始動制御部94は、BEV駆動モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電が必要であるか否かなどに基づいて、エンジン始動要求が有るか否かを判定する。
【0032】
始動制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、始動制御部94は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。クランキングトルクTcrは、エンジン回転速度Neを引き上げるエンジン12のクランキングに必要な所定の第1クランキングトルクである。
【0033】
始動制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部94は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、K0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせて、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。又、始動制御部94は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。始動制御部94は、エンジン12の点火が開始された初爆後にエンジン12の爆発による自立回転が安定した状態すなわちエンジン12が完爆した状態となるようにエンジントルクTeを出力する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0034】
このように、始動制御部94は、エンジン12を停止状態から運転状態へ切り替える場合には、クランキングトルクTcrをK0クラッチ20が伝達するようにK0トルクTk0を制御すると共にクランキングトルクTcrを電動機MGが出力するように電動機MGを制御し、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御する第1始動制御CTst1を行う。
【0035】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクが生じる。この反力トルクは、BEV走行時には、エンジン始動中のエンジン12等のイナーシャによる駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12を始動する際にクランキングトルクTcrに向けて増加させられるMGトルクTmは、この反力トルクを打ち消す為のMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる、エンジン12のクランキングに必要なMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、例えばエンジン12の諸元、エンジン12の始動方法等に基づいて予め定められた例えば一定のクランキングトルクである。
【0036】
始動制御部94は、第1始動制御CTst1を行う際、エンジン12のクランキングを実行した後には、電動機MGがクランキングトルクTcrの出力を停止する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力すると共に、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度とを同期させる為の同期用K0トルクTk0sycが得られるように、K0クラッチ20を完全係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。同期用K0トルクTk0sycは、クランキングの実行後に、エンジン12の完爆の外乱とならない為の、クランキングトルクTcrよりも小さな予め定められたK0トルクTk0である。エンジン12の完爆の外乱とならないということとは、エンジン12の初爆後に、エンジン12の自立回転を妨げないということである。このように、始動制御部94は、エンジン12のクランキングの実行後、K0クラッチ20を完全係合状態へ切り替えるようにK0トルクTk0を制御する。つまり、始動制御部94は、エンジン12のクランキングの実行後、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度とを同期させる同期制御を行う。K0クラッチ20の入力回転速度は、エンジン連結軸34の回転速度であって、エンジン回転速度Neと同値である。K0クラッチ20の出力回転速度は、電動機連結軸36の回転速度であって、MG回転速度Nmと同値である。つまり、始動制御部94は、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させるK0クラッチ20による同期制御すなわちK0同期制御を行う。
【0037】
図2は、エンジン12の第1始動制御CTst1が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図2において、t1時点は、例えばBEV走行中に、運転者によるアクセルペダルの踏み増し操作に伴ってエンジン始動要求が有ると判定されたことにより、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。エンジン12の始動制御の開始後、K0クラッチ20のパック詰め制御すなわちK0パック詰め制御が行われる(t1時点-t2時点参照)。K0パック詰め制御は、K0クラッチ20の摩擦プレート等におけるパッククリアランスを詰められた状態とする制御である。K0パック詰め制御では、先ず、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させる為に、一時的に高いK0油圧指令値Spk0を出力するクイックアプライが実行され、次いで、K0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一定圧で待機するパック詰め用定圧待機が実行される。破線に示すK0油圧指令値Spk0では、K0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持する為のK0油圧PRk0が出力されている。実線に示すK0油圧指令値Spk0では、K0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持する為のK0油圧PRk0に、クランキングトルクTcrに相当するK0油圧PRk0分を加えたK0油圧PRk0が出力されている。破線に示すK0油圧指令値Spk0と実線に示すK0油圧指令値Spk0とでは、K0パック詰め制御の期間は本来は異なるが、
図2では便宜上同じ長さとしている。K0パック詰め制御の実行後、エンジン12をクランキングする為に、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達するK0クラッチ20によるクランキングすなわちK0クランキングが実行される(t2時点-t3時点参照)。K0クランキング時において、エンジン回転速度Neが引き上げられると、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる。K0クランキングの実行後、K0同期制御が実行される(t3時点-t4時点参照)。K0同期制御では、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させる為に、一時的に低いK0油圧指令値Spk0を出力するクイックドレンが実行され、次いで、K0クラッチ20を完全係合状態へ切り替える為に、同期用K0トルクTk0sycに相当するK0油圧指令値Spk0が出力される。K0同期制御の期間中には、エンジン12の爆発による自立回転によってエンジン回転速度Neが上昇させられ、エンジン12が完爆させられる。t4時点は、エンジン12の始動制御が完了させられた時点を示している。
【0038】
停止制御部96は、エンジン12の制御状態を運転状態から停止状態へ切り替えるエンジン12の停止要求であるエンジン停止要求の有無を判定する。例えば、停止制御部96は、HEV駆動モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲内であって、エンジン12等の暖機が不要であり、バッテリ54の充電が不要であるか否かなどに基づいて、エンジン停止要求が有るか否かを判定する。
【0039】
停止制御部96は、エンジン停止要求が有ると判定した場合には、エンジントルクTeを漸減する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。その後、停止制御部96は、K0クラッチ20を解放状態へ切り替えた後に、エンジン12への燃料供給を停止するフューエルカットを実施する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0040】
K0クランキングが必要なクランキング始動を例示してエンジン12の始動制御を説明した。エンジン12の始動制御は、このクランキング始動に限らない。例えば、エンジン12の制御状態を運転状態から停止状態へ切り替える過渡中に、エンジン12の再始動が要求される場合がある。この場合、フューエルカットを解除し、エンジン12を点火することによってエンジン12の自律運転が可能であるならば、K0クランキングは必要ない。このようなエンジン12の始動制御を、自律復帰始動と称する。この自律復帰始動においても、クランキング始動と同様に、エンジン回転速度NeやエンジントルクTeが安定したエンジン12の完爆後に、K0同期制御が実行され、K0クラッチ20が速やかに係合状態とされる。
【0041】
つまり、始動制御部94は、エンジン12を運転状態から停止状態へ切り替える停止過程において再び運転状態へ切り替える場合には、K0クラッチ20にK0トルクTk0を生じさせない状態でエンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御し、エンジン12の運転開始後にK0クラッチ20にK0トルクTk0を生じさせてK0クラッチ20を係合状態へ切り替える第2始動制御CTst2を行う。エンジン12の運転開始後は、例えばエンジン12の完爆後である。K0クラッチ20にK0トルクTk0を生じさせない状態でエンジン12を始動する始動制御は、自律復帰始動である。
【0042】
図3は、エンジン12の始動制御が自律復帰始動にて実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図3において、t1b時点は、例えばK0クラッチ20の解放状態で行われているエンジン12の停止過程において、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作に伴ってエンジン始動要求が有ると判定されたことにより、自律復帰始動によるエンジン12の始動制御が開始された時点を示している。自律復帰始動では、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる。エンジン12の初爆後、エンジン12の爆発による自立回転によってエンジン回転速度Neが上昇させられ、エンジン12が完爆させられる。自律復帰始動時には、K0パック詰め制御が行われるものの、K0クランキングは実行されない(t1b時点-t2b時点参照)。t2b時点は、エンジン12の完爆通知が出力された時点を示している。エンジン12の完爆通知は、例えばエンジン回転速度Neが予め定められたエンジン12の完爆回転速度に到達した時点からの経過時間が予め定められた完爆通知待機時間を超えたときにエンジン制御部92aにより出力される。この完爆通知待機時間は、例えばエンジン12の排ガス要件が考慮されて予め定められている。エンジン12の完爆通知が出力されると、K0同期制御が実行され(t2b時点-t3b時点参照)、その後、エンジン12の始動制御が完了させられる(t3b時点参照)。
【0043】
変速機制御部98は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0044】
ここで、クランキング始動にてエンジン12の始動制御が実行される第1始動制御CTst1において、エンジン始動が失敗したときや失敗しそうなときには、K0クランキングによるエンジン12の始動が成功し易くされる為に、K0クランキング時のクランキングトルクTcrを増大させる。加えて、同期用K0トルクTk0sycも増大させる。
【0045】
つまり、始動制御部94は、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に際して、エンジン12の始動に失敗した場合には、又は、エンジン12の始動の失敗が予測されると判定した場合には、嵩上げクランキングトルクTcrpをK0クラッチ20が伝達するようにK0トルクTk0を制御すると共に嵩上げクランキングトルクTcrpを電動機MGが出力するように電動機MGを制御し、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御する強制始動制御CTstcを行う。嵩上げクランキングトルクTcrpは、エンジン回転速度Neを確実に引き上げる為の予め定められたクランキングトルクであって、クランキングトルクTcrよりも大きい所定の第2クランキングトルクである。
【0046】
始動制御部94は、例えばクランキングトルクTcrの出力開始時点から所定完爆時間までの間に、エンジン制御部92aから完爆通知が出力されていないか否かに基づいて、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したか否かを判定する。始動制御部94は、例えばエンジン12の冷間時であるか否かに基づいて、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動の失敗が予測されるか否かを判定する。
【0047】
始動制御部94は、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したと判定した場合には、始動アシスト要求フラグをオフ(=OFF)からオン(=ON)へ切り替える。又、始動制御部94は、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動の失敗が予測されると判定した場合には、始動アシスト要求フラグをオフからオンへ切り替える。
【0048】
図4は、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に際して、強制始動制御CTstcが実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図4において、t1c時点は、例えばBEV走行中に、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。エンジン12の始動制御の開始後、K0パック詰め制御が行われる(t1c時点-t2c時点参照)。実線に示すK0油圧指令値Spk0では、K0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持する為のK0油圧PRk0に、クランキングトルクTcrに相当するK0油圧PRk0分を加えたK0油圧PRk0が出力されている。K0パック詰め制御の実行後、K0クランキングが実行される(t2c時点-t3c時点参照)。K0クランキングの実行に当たり、始動アシスト要求フラグがオンとされているので、つまり始動アシスト要求が有るので、エンジン12をクランキングする為に、クランキングトルクTcrよりも大きな嵩上げクランキングトルクTcrpをエンジン12側へ伝達するK0クランキングが実行される。尚、二点鎖線に示すK0油圧指令値Spk0は、始動アシスト要求が無いときに、クランキングトルクTcrによってK0クランキングが実行される場合である。K0クランキングの実行後、K0同期制御が実行され(t3c時点-t4c時点参照)、その後、エンジン12の始動制御が完了させられる(t4c時点参照)。K0同期制御において、始動アシスト要求が有るときは、同期用K0トルクTk0sycが嵩増しさせられる。始動アシスト要求が有るときは、同期用K0トルクTk0sycの嵩増しと併せて、同期用K0トルクTk0sycの下限ガード処理が為されても良い。尚、二点鎖線に示すK0油圧指令値Spk0は、始動アシスト要求が無いときの同期用K0トルクTk0sycに相当するK0油圧指令値Spk0が出力された場合である。
【0049】
ところで、自律復帰始動における、K0クランキングが実行されない第2始動制御CTst2において、エンジン始動が失敗したときや失敗しそうなときには、エンジン12の始動が成功し易くされる為に、K0クランキングが実行される始動制御によってエンジン12の始動を行うことが好ましい。
【0050】
つまり、始動制御部94は、第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動に際して、エンジン12の始動に失敗した場合には、又は、エンジン12の始動の失敗が予測されると判定した場合には、第1始動制御CTst1又は強制始動制御CTstcを行う。第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動に失敗した場合には、エンジン12の停止状態からエンジン回転速度Neを引き上げる必要があるので、K0クランキングが実行される、第1始動制御CTst1又は強制始動制御CTstcによってエンジン12の始動が行われる。又は、第2始動制御CTst2の実施に当たり、エンジン12の始動の失敗が予測されると判定した場合には、自律復帰始動をサポートするという観点から、第1始動制御CTst1又は強制始動制御CTstcが行われる。
【0051】
始動制御部94は、例えば自律復帰始動の過渡中にエンジン12が停止状態となったか否かに基づいて、第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動に失敗したか否かを判定する。始動制御部94は、例えばエンジン12の冷間時であるか否かに基づいて、又は、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したという履歴が有るか否かに基づいて、第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動の失敗が予測されるか否かを判定する。始動制御部94は、例えば前回の第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動の際にエンジン12の始動に失敗したと判定されたか否かに基づいて、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したという履歴が有るか否かを判定する。尚、エンジン12の始動の失敗が予測されると判定されたときに第1始動制御CTst1が行われる場合、エンジン12の停止状態からではなくエンジン12の停止過程からの自律復帰始動によるエンジン始動のサポートであるので、エンジン12の冷間時である場合や第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したという履歴が有る場合でも、エンジン12を始動し易くされる。
【0052】
始動制御部94は、第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動に失敗したと判定した場合には、始動アシスト要求フラグをオフからオンへ切り替える。又、始動制御部94は、第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動の失敗が予測されると判定した場合には、始動アシスト要求フラグをオフからオンへ切り替える。
【0053】
第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動に失敗したときに、更に、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したという履歴が有る場合には、第1始動制御CTst1が行われてもエンジン12の始動に失敗する可能性があるので、強制始動制御CTstcによってエンジン12を始動する。つまり、始動制御部94は、第2始動制御CTst2によるエンジン12の始動に失敗したときに、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したという履歴が有る場合には、強制始動制御CTstcを行う。
【0054】
図5は、自律復帰始動によるエンジン12の始動に失敗した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図5において、t1d時点は、例えばK0クラッチ20の解放状態で行われているエンジン12の停止過程において、自律復帰始動によるエンジン12の始動制御が開始された時点を示している。エンジン12の初爆後、エンジン回転速度Neが上昇させられず、エンジン12が停止状態とされると、自律復帰始動に失敗したと判定され、始動アシスト要求フラグがオフからオンへ切り替えられる(t2d時点参照)。尚、例えばエンジン回転速度Neが所定回転速度以上であるという判定が所定回数連続して成立させられなかった場合にも、始動アシスト要求フラグがオフからオンへ切り替えられる。自律復帰始動に失敗した場合には、K0クランキングが実行される、第1始動制御CTst1又は強制始動制御CTstcが行われる。この際、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したという履歴が有る場合には、強制始動制御CTstcが行われる。実線に示すK0油圧指令値Spk0は、強制始動制御CTstcが行われた場合であり、二点鎖線に示すK0油圧指令値Spk0は、第1始動制御CTst1が行われた場合である(t2d時点-t3d時点参照)。その後、エンジン12の始動制御が完了させられる(t3d時点参照)。
【0055】
図6は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、自律復帰始動の際にエンジン12の始動性の低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
【0056】
図6において、フローチャートの各ステップは始動制御部94の機能に対応している。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、エンジン12の始動制御の実行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合はS20において、K0パック詰め制御が未完了であるか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合はS30において、K0パック詰め制御が実行される。上記S20の判断が否定される場合はS40において、エンジン12の完爆前であるか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合はS50において、エンジン12の始動制御が自律復帰始動であるか否かが判定される。このS50の判断が肯定される場合はS60において、始動アシスト要求が有るか否かが判定される。このS60の判断が否定される場合は上記S40に戻される。上記S50の判断が否定される場合は、又は、上記S60の判断が肯定される場合は、S70において、K0クランキングが未完了であるか否かが判定される。このS70の判断が肯定される場合はS80において、第1始動制御CTst1であるか第2始動制御CTst2(自律復帰始動)であるか強制始動制御CTstcであるかに応じた、K0クランキングが実行される。上記S40の判断が否定される場合は、又は、上記S70の判断が否定される場合は、S90において、第1始動制御CTst1であるか自律復帰始動であるか強制始動制御CTstcであるかに応じた、K0同期制御が実行される。
【0057】
上述のように、本実施例によれば、自律復帰始動によるエンジン12の始動に際して、エンジン12の始動に失敗した場合には、又は、エンジン12の始動の失敗が予測されると判定された場合には、第1始動制御CTst1又は強制始動制御CTstcが行われるので、電動機MGによるクランキングつまりK0クランキングを伴わないエンジン始動が失敗したときや失敗しそうなときには、K0クランキングによって始動し易くされる。よって、自律復帰始動の際に、エンジン12の始動性の低下を抑制することができる。
【0058】
また、本実施例によれば、自律復帰始動によるエンジン12の始動に失敗したときに、第1始動制御CTst1によるエンジン12の始動に失敗したという履歴が有る場合には、強制始動制御CTstcが行われるので、K0クランキングを伴わないエンジン始動が失敗したときにK0クランキングによっても始動し難いときには、より大きなクランキングトルクTcrによるクランキングによって始動し易くされる。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0060】
例えば、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機などであっても良い。要は、エンジンと電動機とを含む動力源と、エンジンと電動機との間に設けられたクラッチと、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
【0061】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0062】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0063】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
20:K0クラッチ(クラッチ)
90:電子制御装置(制御装置)
94:始動制御部
MG:電動機