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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】Ni基合金被覆アーク溶接棒
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/365 20060101AFI20241001BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20241001BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B23K35/365 M
B23K35/30 320Q
C22C19/03 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021181466
(22)【出願日】2021-11-05
(65)【公開番号】P2023069545
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真弓
(72)【発明者】
【氏名】北川 良彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩二
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-272432(JP,A)
【文献】特開昭56-095490(JP,A)
【文献】国際公開第2015/105011(WO,A1)
【文献】特開昭57-109595(JP,A)
【文献】特公昭48-034295(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/365
B23K 35/30
C22C 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心線を被覆剤で被覆したNi基合金被覆アーク溶接棒であって、
前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
SiO:1質量%以上7質量%以下、
CO:2.5質量%以上7.0質量%以下、
F:0.5質量%以上5.0質量%以下、及び
Ni:40質量%以上を含有するとともに、
TiO及びAlのいずれか一方又は両方を、
TiO:0質量%超2.0質量%以下、及び
Al:0質量%超2.0質量%以下、の範囲で含有し、
前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、
Li:0.3質量%以上1.2質量%以下、
Na:0.5質量%以上1.5質量%以下、及び
K:0.6質量%以上1.8質量%以下、を含有し、
前記被覆剤中のLi含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[Li]とし、前記被覆剤中のK含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[K]とする場合に、
[Li]/[K]が0.15以上1.4以下であることを特徴とする、Ni基合金被覆アーク溶接棒。
【請求項2】
前記被覆剤の被覆率は、20質量%以上60質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【請求項3】
さらに、前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
C:1.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【請求項4】
さらに、前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
Al:0質量%超2.0質量%以下、
Ti:0質量%超2.0質量%以下、
Mg:0質量%超0.5質量%以下、及び、
Fe:0質量%超12.0質量%以下、から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【請求項5】
さらに、前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
Cr:0質量%超20.0質量%以下、
Mo:0質量%超15.0質量%以下、
W:0質量%超5.0質量%以下、
Mn:0質量%超5.0質量%以下、及び、
Nb:0質量%超5.0質量%以下、から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金被覆アーク溶接棒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)の貯蔵タンク等には、高い強度及び靱性を有する9%Ni鋼が多用されている。そして、9%Ni鋼を用いた構造物を製造するために、優れた強度及び靱性を有する溶接金属を得ることができる種々のNi基合金被覆アーク溶接棒が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、心線中のNi、Cr、C、Si、Nb、Cu、N及びHの含有量を制御するとともに、被覆剤中のH含有量を制御したNi基合金被覆アーク溶接棒が開示されている。この特許文献1には、Ti、Al、Zr、V、Bを心線中に適切な含有量で含有させることにより、溶接金属中の酸素を低減し、ブローホールの発生を抑制できることが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、心線中のC、Si、Mn、Mg等を制御するとともに、被覆剤中のMn、Cr、Mo、Nb、Ta、W、Ni、Co及びFeの含有量の合計、Ti、Al及びMgの含有量の合計、Si含有量等を制御したNi基合金被覆アーク溶接棒が開示されている。この特許文献2には、機械的性質に優れるとともに、気孔欠陥の発生が少ない溶接金属を得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-169192号公報
【文献】特許第6296550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載のNi基合金被覆アーク溶接棒は、耐吸湿性について何ら検討されていない。被覆アーク溶接棒において、被覆剤が吸湿し、溶接棒全質量に対する水分の量が高いと、溶接金属にブローホールが発生するという問題点がある。そして、溶接金属中に形成されたブローホールは、溶接金属の機械的性質を低下させるおそれがある。
【0007】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであり、被覆剤の耐吸湿性に優れ、溶接時のブローホールの発生を抑制することができるNi基合金被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Ni基合金被覆アーク溶接棒の上記課題について鋭意検討した結果、耐吸湿性を向上させるには、被覆剤中にLiを含有させることが有効であることを見出すとともに、被覆剤中に含まれるKが、特に耐吸湿性を劣化させることを確認した。そして、本発明者らは、Li、Na、Kを特定の範囲に制御するとともに、被覆剤中のLiとKとの比率を特定の範囲に制御することにより、耐吸湿性を向上させ、溶接時のブローホールの発生を抑制可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきなされたものであり、本発明の上記目的は、Ni基合金被覆アーク溶接棒に係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 心線を被覆剤で被覆したNi基合金被覆アーク溶接棒であって、
前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
SiO:1質量%以上7質量%以下、
CO:2.5質量%以上7.0質量%以下、
F:0.5質量%以上5.0質量%以下、及び
Ni:40質量%以上を含有するとともに、
TiO及びAlのいずれか一方又は両方を、
TiO:0質量%超2.0質量%以下、及び
Al:0質量%超2.0質量%以下、の範囲で含有し、
前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、
Li:0.3質量%以上1.2質量%以下、
Na:0.5質量%以上1.5質量%以下、及び
K:0.6質量%以上1.8質量%以下、を含有し、
前記被覆剤中のLi含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[Li]とし、前記被覆剤中のK含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[K]とする場合に、
[Li]/[K]が0.15以上1.4以下であることを特徴とする、Ni基合金被覆アーク溶接棒。
【0010】
また、Ni基合金被覆アーク溶接棒に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[5]に関する。
【0011】
[2] 前記被覆剤の被覆率は、20質量%以上60質量%以下であることを特徴とする、[1]に記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【0012】
[3] さらに、前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
C:1.0質量%以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【0013】
[4] さらに、前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
Al:0質量%超2.0質量%以下、
Ti:0質量%超2.0質量%以下、
Mg:0質量%超0.5質量%以下、及び、
Fe:0質量%超12.0質量%以下、から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【0014】
[5] さらに、前記Ni基合金被覆アーク溶接棒全質量に対して、
Cr:0質量%超20.0質量%以下、
Mo:0質量%超15.0質量%以下、
W:0質量%超5.0質量%以下、
Mn:0質量%超5.0質量%以下、及び、
Nb:0質量%超5.0質量%以下、から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載のNi基合金被覆アーク溶接棒。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被覆剤の耐吸湿性に優れ、溶接時のブローホールの発生を抑制することができるNi基合金被覆アーク溶接棒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
以下、本実施形態に係るNi基合金被覆アーク溶接棒について説明する。
【0017】
〔被覆アーク溶接棒〕
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒は、心線を被覆剤で被覆したNi基合金被覆アーク溶接棒である。上記心線は、例えば純Ni又はNi基合金からなる。また、上記Ni基合金被覆アーク溶接棒は、溶着金属の成分がNi基合金となる溶接棒である。以下、Ni基合金被覆アーク溶接棒を、単に「被覆アーク溶接棒」ともいう。
【0018】
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒の被覆剤及び被覆アーク溶接棒に含有される成分について、その添加理由及び数値限定理由を、以下で詳細に説明する。以下の説明において、Li、Na、Kは被覆剤中に含有される成分の含有量を、被覆剤全質量に対する含有量で規定する。それ以外の成分は、心線及び被覆剤に含有される成分の合計量を、被覆アーク溶接棒全質量(心線と被覆剤の合計量)に対する含有量とした値で規定する。
【0019】
(Li:0.3質量%以上1.2質量%以下)
Liは、被覆剤の耐吸湿性を向上させる効果を有する。被覆剤中のLi含有量が、0.3質量%未満であると、耐吸湿性を向上させる効果を得ることができない。したがって、被覆剤中のLi含有量は、被覆剤全質量に対して0.3質量%以上とし、0.35質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆剤中のLi含有量が、1.2質量%を超えると、被覆剤の粘性が小さくなり、被覆剤の被覆工程において被覆作業が困難になる。また、被覆剤中のLi含有量が、1.2質量%を超えると、被覆後における被覆剤の脱落及び乾燥時における乾燥割れが生じやすくなる。したがって、被覆剤中のLi含有量は、被覆剤全質量に対して1.2質量%以下とし、1.0質量%以下であることが好ましく、0.9質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
なお、本実施形態に係る被覆アーク溶接棒では、被覆剤の耐吸湿性を向上させるため、被覆アーク溶接棒全体に対するLi含有量ではなく、心線の周囲を被覆する被覆剤中のLiの含有量を制御することが重要であるため、被覆剤中に含まれるLi含有量を規定している。また、同様の理由により、後述するNaとKも被覆剤中における含有量を規定している。Liは、炭酸塩、酸化物、フッ化物等の化合物の形態で被覆剤中に含有される。また、本実施形態において、Li含有量とは、被覆剤中に含まれるすべてのLiの含有量をいう。
【0021】
(Na:0.5質量%以上1.5質量%以下)
Naは、被覆剤の固着性及びアーク安定性を確保する効果を有する成分である。また、被覆剤中のNa含有量を所定の範囲内に制御することにより、被覆剤の耐吸湿性を向上させることができる。被覆剤中のNa含有量が、0.5質量%未満であると、アークが不安定になるとともに、被覆後における被覆剤の脱落及び乾燥時における乾燥割れが生じやすくなる。したがって、被覆剤中のNa含有量は、被覆剤全質量に対して0.5質量%以上とし、0.6質量%以上であることが好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆剤中のNa含有量が、1.5質量%を超えると、被覆剤の耐吸湿性が劣化する。したがって、被覆剤中のNa含有量は、被覆剤全質量に対して1.5質量%以下とし、1.3質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
Naは、フッ化物、酸化物等の化合物の形態で被覆剤中に含有される。本実施形態においてNa含有量とは、被覆剤中に含まれるすべてのNaの含有量をいう。
【0023】
(K:0.6質量%以上1.8質量%以下)
Kは、Naと同様に、被覆剤の固着性及びアーク安定性を確保する効果を有する成分である。また、被覆剤中のK含有量を所定の範囲内に制御することにより、被覆剤の耐吸湿性を向上させることができる。被覆剤中のK含有量が、0.6質量%未満であると、アークが不安定になるとともに、被覆後における被覆剤の脱落及び乾燥時における乾燥割れが生じやすくなる。したがって、被覆剤中のK含有量は、被覆剤全質量に対して0.6質量%以上とし、0.65質量%以上であることが好ましく、0.7質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆剤中のK含有量が、1.8質量%を超えると、被覆剤の耐吸湿性が劣化する。したがって、被覆剤中のK含有量は、被覆剤全質量に対して1.8質量%以下とし、1.3質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
Kは、フッ化物、酸化物等の化合物の形態で被覆剤中に含有される。本実施形態において、K含有量とは、被覆剤中に含まれるすべてのKの含有量をいう。
【0025】
([Li]/[K]:0.15以上1.4以下)
被覆剤中の成分のうち、Li及びKは、耐吸湿性に及ぼす影響が特に大きい成分であり、Liは、耐吸湿性を向上させ、Kは耐吸湿性を低下させる。したがって、本実施形態においては、被覆剤中のLi含有量とK含有量との比を適切に制御することにより、被覆剤の耐吸湿性を向上させている。
【0026】
被覆剤中のLi含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[Li]とし、被覆剤中のK含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[K]とする場合に、式([Li]/[K])により得られる値が0.15未満であると、被覆剤の耐吸湿性が低下する。したがって、式([Li]/[K])により得られる値は0.15以上とし、0.20以上であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましい。
一方、式([Li]/[K])により得られる値が1.4を超えると、被覆剤の固着強度が低下するため、乾燥割れ等の塗装性が低下する。また、アークが弱くなり、不安定になる。したがって、式([Li]/[K])により得られる値は1.4以下とし、1.2以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましい。
【0027】
上記のとおり、上記Li、Na及びKは被覆剤中の含有量が重要であるが、以下に示す成分は、被覆アーク溶接棒に含有されていれば、被覆剤中に含有されていてもよく、また心線中に含有されていてもよい。本実施形態に係るNi基合金被覆アーク溶接棒は、心線として純Ni及びNi基合金のいずれにおいても使用することができるため、純Niからなる心線を使用する場合には、Ni以外の成分は、被覆剤中に含有されることとなる。
【0028】
(SiO:1質量%以上7質量%以下)
SiOは、主に被覆剤中に含有され、粘結剤及び造滓剤として作用するとともに、脱酸剤として作用する成分である。
被覆アーク溶接棒中のSiO含有量が、1質量%未満であると、粘結剤としての効果を得ることができず、脱酸剤としての効果も不十分となる。したがって、被覆アーク溶接棒中のSiO含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、1質量%以上とし、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のSiO含有量が、7質量%を超えると、スラグがガラス状になって、スラグの剥離性が劣化する。したがって、被覆アーク溶接棒中のSiO含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、7質量%以下とし、6.5質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態において、SiO含有量とは、被覆剤中及び心線中に含有されるすべてのSiをSiOに換算した換算値である。
【0029】
(CO:2.5質量%以上7.0質量%以下)
金属炭酸塩は、高温分解により発生したガスによりアークをシールドし、健全な溶接金属を得る効果を有する。また、被覆アーク溶接棒中に金属炭酸塩を含有させることにより、スラグの流動性を適正化し、良好な溶接作業性を確保することができる。本実施形態において、金属炭酸塩としては、BaCO、CaCO、LiCO等が挙げられる。本実施形態において、金属炭酸塩は、すべての金属炭酸塩をCOに換算したCO含有量として規定する。
【0030】
CO含有量が、2.5質量%未満であると、健全な溶接金属及び良好な溶接作業性を得ることができない。したがって、被覆アーク溶接棒中のCO含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して2.5質量%以上とし、3.0質量%以上であることが好ましく、3.2質量%以上であることがより好ましい。一方、COを多量に含有させると、スラグ剥離性及びビード外観等が低下する。したがって、被覆アーク溶接棒中のCO含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、7.0質量%以下とし、6.5質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
(F:0.5質量%以上5.0質量%以下)
Fは、アーク強度を高めるとともに、スラグの粘性及び凝固温度を下げて流動性を向上させることで、スラグ剥離性の向上、融合不良防止、ピット・ブローホール防止に効果を発揮する成分である。
被覆アーク溶接棒中のF含有量が、0.5質量%未満であると、上記効果を十分に得ることができない。したがって、被覆アーク溶接棒中のF含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0.5質量%以上とし、1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のF含有量が5.0質量%を超えると、アーク強度が強くなり過ぎてスパッタが増加するとともに、アンダーカットが生じ易くなって、ビード形状が凸になる。したがって、被覆アーク溶接棒中のF含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して5.0質量%以下とし、4.0質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以下であることがより好ましい。
なお、Fは、CaF、LiF等の金属フッ化物の形態で被覆アーク溶接棒中に含有される。本実施形態において、F含有量とは、被覆アーク溶接棒に含まれるすべてのFの含有量をいう。
【0032】
(Ni:40質量%以上)
本実施形態のNi基合金被覆アーク溶接棒において、Niは主成分であり、溶接金属において安定したオーステナイト組織を形成させ、極低温での靱性を確保する効果を有する。被覆アーク溶接棒中のNi含有量が、40質量%未満であると、母材希釈を受けた際にオーステナイト組織を維持できず、靱性が低下するおそれがある。したがって、被覆アーク溶接棒中のNi含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して40質量%以上とし、43質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。被覆アーク溶接棒中のNi含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して80質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
(TiO:0質量%超2.0質量%以下)
(Al:0質量%超2.0質量%以下)
TiO及びAlは、造滓剤として作用する成分であるが、本実施形態の被覆アーク溶接棒には、TiO及びAlのいずれか一方が含有されていればよく、両方が含有されていてもよい。TiO及びAlの合計の含有量が、0質量%であると、スラグの粘性が低下してビード形状が劣化する。したがって、被覆アーク溶接棒中には、TiO及びAlのいずれか一方及び両方が、被覆アーク溶接棒全質量に対して、0質量%超の含有量で含有されているものとし、TiO含有量及びAl含有量は、それぞれ、0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましい。一方、TiO及びAl含有量がそれぞれ2.0質量%超になると、スラグがガラス状になり、スラグ剥離性が劣化する。したがって、被覆アーク溶接棒中のTiO及びAlの含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、それぞれ2.0質量%以下とし、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、TiOは、酸に不溶なTi化合物のTiO換算値、Alは、酸に不溶なAl化合物のAl換算値である。
【0034】
本実施形態の被覆アーク溶接棒において、Cr、Mo、Fe、W、Mn、Al、Ti、Nb及びMgは必須の成分ではないが、Al、Ti、Mg及びFeは、溶接金属の靱性に影響を与える成分であり、Al、Ti、Mg及びFeから選択される少なくとも1種を、それぞれ以下に示す含有量の範囲で被覆アーク溶接棒中に含有させてもよい。また、Cr、Mo、W、Mn及びNbは、溶接金属の固溶強化等を実現することができる成分であるため、Cr、Mo、W、Mn及びNbから選択される少なくとも1種を、それぞれ以下に示す含有量の範囲で被覆アーク溶接棒中に含有させてもよい。
【0035】
(Cr:0質量%超20.0質量%以下)
Crは、溶接金属の固溶強化、耐食性強化等を目的として、被覆アーク溶接棒中に含有される金属成分である。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもCrを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のCr含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、7.0質量%以上であることがさらに好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のCr含有量が、20.0質量%以下であると、溶接金属の靱性を向上させることができる。したがって、被覆アーク溶接棒中のCr含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して20.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
(Mo:0質量%超15.0質量%以下)
Moは、上記Crと同様に、溶接金属の固溶強化、耐食性強化等を目的として、被覆アーク溶接棒中に含有される金属成分である。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもMoを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のMo含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以上であることがさらに好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のMo含有量が、15.0質量%以下の場合、溶接金属の強度が過剰となるのを抑制し、靱性を向上できる。したがって、被覆アーク溶接棒中のMo含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して15.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
(Fe:0質量%超12.0質量%以下)
Feは、Niに固溶し、溶接金属の延性向上に有効であるが、過剰に添加すると低温靱性を低下させる。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもFeを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のFe含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以上であることがさらに好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のFe含有量が12.0質量%以下であると、溶接金属の靱性低下を防ぐことが出来る。したがって、被覆アーク溶接棒中のFe含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して12.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
(W:0質量%超5.0質量%以下)
Wは、上記Cr等と同様に、溶接金属の固溶強化、耐食性強化等を目的として、被覆アーク溶接棒中に含有される金属成分である。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもWを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のW含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のW含有量が、5.0質量%以下であると、溶接金属の所望の靱性を確保することができる。したがって、被覆アーク溶接棒中のW含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して5.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
(Mn:0質量%超5.0質量%以下)
Mnは、溶接金属の固溶強化、及び脱酸剤として、被覆アーク溶接棒中に添加される金属成分である。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもMnを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のMn含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のMn含有量が、5.0質量%以下の場合、溶融金属の粘性が低下することを抑制し、溶接作業性を向上できる。したがって、被覆アーク溶接棒中のMn含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
(Nb:0質量%超5.0質量%以下)
Nbは、溶接金属の固溶強化を目的として、被覆アーク溶接棒中に添加される金属成分である。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもNbを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のNb含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のNb含有量が、5.0質量%以下の場合、溶接金属の耐高温割れ性を向上できる。したがって、被覆アーク溶接棒中のNb含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して5.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
(Al:0質量%超2.0質量%以下)
Alは、脱酸剤であり、溶接金属中の酸素量を低減し、靱性を向上させる効果を有する成分であるため、被覆アーク溶接棒中にAlを含有させることが好ましい。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもAlを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のAl含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のAl含有量が、2.0質量%以下であると、溶接金属の良好な衝撃性能を維持することができるとともに、溶接金属の延性や耐欠陥性の劣化を防止することができる。したがって、被覆アーク溶接棒中のAl含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して2.0質量%以下であることが好ましく、1.8質量%以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、Al含有量とは、単体のAlや合金のAlに含まれるAlの含有量である。
【0042】
(Ti:0質量%超2.0質量%以下)
TiはAlと同様に、脱酸剤であり、溶接金属中の酸素量を低減し、靱性を向上させる効果を有する成分であるため、被覆アーク溶接棒中にTiを含有させることが好ましい。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもTiを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のTi含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましく、0.1質量%以上であることが好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のTi含有量が、2.0質量%以下であると、溶接金属の良好な衝撃性能を維持することができるとともに、溶接金属の延性の低下を防止することができる。したがって、被覆アーク溶接棒中のTi含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、Ti含有量とは、単体のTiや合金のTiに含まれるTiの含有量である。
【0043】
(C:1.0質量%以下)
被覆アーク溶接棒中のC含有量が1.0質量%以下であると、気孔欠陥を抑制することができる。したがって、被覆アーク溶接棒中のC含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して1.0質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることがより好ましく、0.07質量%以下であることがさらに好ましい。なお、Cは、被覆アーク溶接棒中に不可避的に混入するため、実質的に0.0005質量%が下限値となる。本実施形態において、C含有量とは、酸化物に含まれるCを除いたCの含有量である。
【0044】
(Mg:0質量%超0.5質量%以下)
Mgは、Alと同様に、脱酸剤であり、溶接金属中の酸素量を低減し、靱性を向上させる効果を有する成分であるため、被覆アーク溶接棒中にMgを含有させることが好ましい。被覆アーク溶接棒中には、必ずしもMgを含有させる必要はないが、被覆アーク溶接棒中のMg含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0質量%超であることが好ましい。一方、被覆アーク溶接棒中のMg含有量が、0.5質量%以下の場合、スラグ剥離性の劣化を抑制することができる。したがって、被覆アーク溶接棒中のMg含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して0.5質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
(Ca:2質量%以上10質量%以下)
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒には、上記成分の他の成分として、炭酸塩及び金属フッ化物等に含まれるCaが含有される。被覆アーク溶接棒中のCa含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、2質量%以上であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましい。
【0046】
(Ba:0質量%以上5質量%以下)
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒は、炭酸塩としてBa炭酸塩を含んでもよい。被覆アーク溶接棒のBa含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、0質量%以上5質量%以下とすることができる。
なお、被覆アーク溶接棒中のCa含有量及びBa含有量の合計量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、4質量%以上であることが好ましく、12質量%以下であることが好ましい。
【0047】
(ZrO:0質量%以上2.0質量%以下)
本実施形態に係るNi基合金被覆アーク溶接棒には、造滓剤としてZrOを含有させてもよい。被覆アーク溶接棒中のZrO含有量は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、0質量%以上2.0質量%以下とすることができる。なお、本実施形態において、ZrOは、被覆アーク溶接棒に含まれるすべてのZrのZrO換算値である。
【0048】
なお、本実施形態において、被覆アーク溶接棒が、Cr、Mo、Mn、Nb、Fe及びWを含まない場合は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、SiO、CO、F、Ni、TiO、及びAlの合計の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが好ましい。また、本実施形態の被覆アーク溶接棒が、Cr、Mo、Mn、Nb、Fe及びWのいずれか一種以上を含む場合は、SiO、CO、F、Ni、TiO、Al3、Cr、Mo、Mn、Nb、Fe及びWの合計の含有量が80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上であることが好ましい。
【0049】
<不可避的不純物>
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒には、不可避的不純物が含有されており、不可避的不純物としては、例えばV、Cu、P、S、B、Zr、Ta、Co、H、N等が挙げられる。被覆アーク溶接棒中の不可避的不純物は、被覆アーク溶接棒全質量に対して、それぞれ0.5質量%以下に規制することが好ましい。
【0050】
<被覆率:20質量%以上60質量%以下>
被覆率は、被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤の質量である。被覆剤の被覆率が20質量%以上であると、被覆剤によるシールドの効果を十分に得ることができ、良好な耐ブローホール性を確保することができる。したがって、被覆率は20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。一方、被覆率が60質量%以下であれば、良好な溶接作業性を得ることができる。また、アーク熱により被覆剤中の金属成分を十分に溶融させることができるため、溶接金属に未溶融の金属粒子が混入することを防止し、この未溶融の金属粒子により溶接欠陥が生じることを防止することができる。したがって、被覆率は60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
従来の被覆アーク溶接棒は、溶接棒を使用するために開封した後に一日程度が経過した場合、被覆剤が吸湿してしまうため、炉に入れるなどして再乾燥させる必要がある。上記のような構成とされた本実施形態に係る被覆アーク溶接棒は、耐吸湿性に優れるため、開封した後に数時間が経過した後でも再乾燥をしなくても、溶接時のブローホールの発生を抑制することができる。
【0052】
[被覆アーク溶接棒の製造方法]
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
まず、心線を準備するとともに、水ガラス等の粘結剤を混錬した被覆剤の材料を準備し、心線の周囲に、上記した所望の被覆率となるように被覆剤の材料を塗布した後、水分を除去するため、例えば、100~550℃で焼成する製造方法が挙げられる。
【実施例
【0053】
[被覆アーク溶接棒(試験材)の製造]
以下、被覆アーク溶接棒に含有される成分が、本発明で規定する含有量の範囲内である発明例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。
まず、Ni基合金からなる心線の周囲に、被覆剤の材料を塗布し、乾燥させることにより、含有成分の含有量を種々に調整した、試験材としての被覆アーク溶接棒を製造した。なお、心線の直径は3.2mmとした。
【0054】
[被覆アーク溶接棒の評価]
得られた被覆アーク溶接棒について、カール・フィッシャ-法(KF法)を用いて、被覆剤の水分量を測定した。具体的には、得られた被覆アーク溶接棒を予備乾燥させた後、以下の吸湿条件で被覆アーク溶接棒に対して吸湿させ、吸湿後に被覆剤を削り取り、被覆剤の部分のみの水分量を測定した。予備乾燥条件、吸湿条件及び水分量の測定条件を以下に示す。
【0055】
棒予備乾燥温度・時間:250℃・1時間
吸湿条件(温度×相対湿度)・時間:30℃×80%Rh・24時間
測定方法:カール・フィッシャ-法
抽出温度:750℃
抽出雰囲気:乾燥空気
【0056】
なお、本実施例においては、水分量が15000ppm以下であったものを、被覆剤の耐吸湿性が優れたものであったと判定し、10000ppm以下であったものを特に優れたものと判定した。
【0057】
各発明例及び各比較例についての被覆剤の被覆率、被覆剤全質量に対する被覆剤中のLi、Na及びKの含有量、並びにLi含有量とK含有量との比([Li]/[K])を下記表1に示し、被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆アーク溶接棒中の成分の含有量及び水分量の測定結果を下記表2に示す。
なお、[Li]/[K]における[Li]とは、被覆剤中のLi含有量を被覆剤全質量に対する質量%で表した値であり、[K]とは、被覆剤中のK含有量を被覆剤全質量に対する質量%で表した値である。また、表1及び表2に示す各成分の含有量の欄において、「-」とは、被覆剤の製造時においてLiを添加していないことを表す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
上記表1及び表2に示すように、発明例No.1~7は、被覆剤中の成分の含有量及び被覆アーク溶接棒中の成分の含有量が、本発明の範囲内であったため、24時間の吸湿試験後の水分量が15000ppm以下となり、被覆剤の耐吸湿性が優れたものとなった。特に、発明例No.1~6は、被覆剤中のK含有量が本発明の好ましい範囲内であるため、24時間の吸湿試験後の水分量が10000ppm以下となり、耐吸湿性がより一層優れたものとなった。また、水分量が15000ppm以下であった発明例No.1~7のワイヤを使用して溶接を実施した場合に、溶接金属にブローホールの発生が防止できることを確認することができた。また、本発明例については、溶接金属の強度及び靱性が良好であることも確認した。
【0061】
一方、比較例No.1、6、7及び9は、被覆剤中のLi含有量及び[Li]/[K]の値が、本発明範囲の下限未満であり、比較例No.2及び5は、被覆剤中のLi含有量が本発明範囲の下限未満であったため、いずれも被覆剤中の水分量が高くなった。
【0062】
また、比較例No.3は、被覆剤中のK含有量が本発明範囲の上限を超えており、比較例No.4及び8は、被覆剤中のLi含有量及び[Li]/[K]の値が、本発明範囲の下限未満であるとともに、K含有量が本発明範囲の上限を超えていたため、いずれも被覆剤中の水分量が高くなった。
【0063】
以上詳述したように、本発明によれば、被覆剤中の成分の含有量及び被覆アーク溶接棒中の成分の含有量を特定の範囲に制御することにより、被覆剤の耐吸湿性に優れ、溶接時のブローホールの発生を抑制することができるNi基合金被覆アーク溶接棒を得ることができる。