(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ソラフェニブ化合物を含む療法のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20241001BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241001BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20241001BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20241001BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241001BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241001BHJP
A61K 31/4412 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
C12Q1/68
G01N33/53 M
G01N33/53 D
G01N33/574 A
A61K31/47
A61P35/00
C12N15/12
A61K31/4412
(21)【出願番号】P 2021518200
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038995
(87)【国際公開番号】W WO2020071451
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】船橋 泰博
(72)【発明者】
【氏名】箕嶋 幸範
(72)【発明者】
【氏名】兼清 道雄
(72)【発明者】
【氏名】宮野 沙里
(72)【発明者】
【氏名】星 太輔
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167306(WO,A1)
【文献】FINN, R. S. et al.,Analysis of serum biomarkers (BM) in patients (pts) from a phase 3 study of lenvatinib (LEN) vs sorafenib (SOR) as first-line treatment for unresectable hepatocellular carcinoma (uHCC),Annals of Oncology,2017年,VOLUME 28, SUPPLEMENT 5, V617,doi.org/10.1093/annonc/mdx440.022
【文献】LIU, M. et al.,Clinicopathologic characterization of sorafenib-induced endoplasmic reticulum stress in human liver cancer cells,Journal of Physiology and Pharmacology,2018年08月,Vol. 69, No. 4,P. 1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N
C12N
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象を治療するための、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の有効成分を含む抗腫瘍剤であって、
前記治療が、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に対するヒト対象の応答を予測する方法
と、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答しないと予測されたヒト対象に前記ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の有効成分を含む抗腫瘍剤を投与する方法と、を含み、
前記
予測する方法が、前記ヒト対象から得られた生物学的試料中の線維芽細胞増殖因子21(FGF21)のベースライン発現レベルを測定するか、又は測定しているステップ、及び
ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答するヒト対象から得られた生物学的試料と比較して高いFGF21のベースライン発現レベルを有する前記ヒト対象が、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答しないことを予測するステップを含み、
前記ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の有効成分が、レンバチニブ又はその薬学的に許容される塩である、抗腫瘍剤。
【請求項2】
前記生物学的試料が、血液試料、血清試料、又は血漿試料である、請求項
1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
FGF21の前記ベースライン発現レベルが、前記生物学的試料中のFGF21をコードするmRNAの量を測定することによって測定される、請求項1
又は2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
FGF21の前記ベースライン発現レベルが、前記生物学的試料中のFGF21タンパク質の量を測定することによって測定される、請求項1
又は2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩がソラフェニブトシル酸塩である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
前記肝細胞癌が切除不能な肝細胞癌である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
前記ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の有効成分がレンバチニブメシル酸塩である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、一般的にはバイオマーカー及び肝細胞癌に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]肝細胞癌(HCC)は肝臓がんの最も一般的な種類であり、がん死亡の世界で3番目に多い原因である。この疾患は通常、慢性肝疾患、特に肝硬変を有する人に発生し、外科的切除の可能性を制限する。
【0003】
[0003]ソラフェニブは、がん細胞の増殖に関与することが知られているRafキナーゼ並びに腫瘍周囲の血管新生に関与することが知られている血管内皮増殖因子受容体-2/-3(VEGFR-2/-3)及び血小板由来増殖因子受容体-ベータ(PDGFR-β)のマルチキナーゼ阻害剤である。ソラフェニブトシル酸塩は、肝細胞癌、腎細胞癌、及びある特定の種類の甲状腺癌の患者の治療のために米国食品医薬品局によってネクサバール(NEXAVAR)(登録商標)として承認されている。ソラフェニブは、進行したHCCの患者のファーストライン療法のための標準的療法の治療剤として確立されており、世界中で利用可能である。
【0004】
[0004]ほとんどの抗腫瘍治療は、深刻な吐き気、嘔吐、又は重度の倦怠感などの管理が必要な望ましくない副作用を伴う。また、抗腫瘍治療は成功しても、投与された患者全てにおいて有意な臨床応答がもたらされるわけではなく、望ましくない副作用、遅延、及び無効な治療に関連するコストが生じる。したがって、抗腫瘍剤を投与する前に、抗腫瘍剤に対する対象の応答を予測するために使用することができるバイオマーカーが大いに必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
[0005]本出願は、少なくとも部分的には、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答しない肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象を特定又は選択するために使用することができるバイオマーカーの特定に基づいている。治療前にヒト対象から取得した生物学的試料中の線維芽細胞増殖因子21(「FGF21」)の発現レベル(「ベースラインレベル」)は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答しない肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象の有用な予測因子として特定される。したがって、本明細書で記載したバイオマーカー及び組成物は、例えば、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法によって利益を得られない肝細胞癌を有している患者又は患者の集団を特定、層別化、及び/又は選択するのに有用である。さらに、本明細書で記載した方法は、例えば、肝細胞癌を罹患しているか、有していることが疑われるか、又は発症する危険性がある対象のための適切な治療様式(例えば、ソラフェニブ若しくはその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法又は代替肝細胞癌療法、例えば、ソラフェニブ若しくはその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法)を選択するのに有用である。
【0006】
[0006]一態様では、本開示は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答しない肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象を特定する方法を提供する。この方法は、療法の実施前に対象から得られた生物学的試料をアッセイするステップと、対照と比較して生物学的試料中のFGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)の発現レベルが高いことを判定するステップとを含む。生物学的試料中のFGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)の発現レベルが高い対象は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答しないと予測される。
【0007】
[0007]第2の態様では、本開示は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法の実施から肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象を除外する方法を特徴とする。この方法は、FGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)のベースラインレベルについて、ヒト対象から得られた生物学的試料をアッセイするステップを含む。生物学的試料中のFGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)のベースラインレベルが対照と比較して高いことが判定された場合、対象は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法の実施から除外されることとなる。ある特定の実施形態では、この方法は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法をヒト対象に実施するステップをさらに含む。
【0008】
[0008]第3の態様では、本開示は、肝細胞癌を治療する方法を提供する。この方法は、治療前に肝細胞癌を有しているヒト対象から得られた生物学的試料を用意するステップと、生物学的試料において対照と比較して高いFGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)発現レベルを測定するステップと、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤の治療有効量をヒト対象に投与するステップとを含む。
【0009】
[0009]第4の態様では、本開示は、肝細胞癌を治療する方法を提供する。この方法は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤の治療有効量を、肝細胞癌を有しているヒト対象に投与するステップを含み、このヒト対象は対照と比較してFGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)発現レベルが高いことが特定されている。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、ヒト対象から得られた生物学的試料においてFGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)の発現レベルが高いことが特定されている。
【0010】
[0010]第5の態様では、本開示は、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象を治療する方法を特徴とする。この方法は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法をヒト対象に実施するステップを含み、このヒト対象はヒト対象から得られた生物学的試料において対照よりもFGF21(例えば、FGF21タンパク質又はFGF21をコードするmRNA)のベースライン発現レベルが高いことが既に判定されている。
【0011】
[0011]以下の実施形態は、上記の態様全てについて想定される。
【0012】
[0012]一実施形態では、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩はソラフェニブトシル酸塩である。
【0013】
[0013]一実施形態では、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤は、肝細胞癌の治療に使用するか、又は使用することができる薬剤から選択される任意の1つ又は複数の抗腫瘍剤を含む。一実施形態では、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤は、スニチニブ化合物、ブリバニブ化合物、リニファニブ化合物、エルロチニブ化合物、ドキソルビシン化合物、レンバチニブ化合物、ブリバニブ化合物、エベロリムス化合物、ラムシルマブ、S-1、ADI-PEG20、チバンチニブ化合物、レゴラフェニブ化合物、カボザンチニブ化合物、抗CTLA-4抗体(例えば、トレメリムマブ及びイピリムマブ)、抗PD-1抗体(例えば、ニボルマブ及びペムブロリズマブ)及び抗PD-L1抗体(例えば、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ)から選択されるがこれらに限定されない任意の1つ又は複数の抗腫瘍剤である。一実施形態では、抗腫瘍剤はスニチニブ化合物、ブリバニブ化合物、リニファニブ化合物又はレンバチニブ化合物である。一実施形態では、抗腫瘍剤はレンバチニブ化合物である。一実施形態では、抗腫瘍剤はレンバチニブメシル酸塩である。ある特定の実施形態では、レンバチニブ化合物(例えば、レンバチニブメシル酸塩)は、12mg(ベースライン体重(BW)≧60kg)又は8mg(ベースラインBW<60kg)の投与量で1日1回対象に投与される。
【0014】
[0014]ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の2つ以上の抗腫瘍剤が併用療法として患者に投与される場合、薬剤は同時に、又は実質的に同時に、又は順次投与することができる。いくつかの場合では、2つ以上の抗腫瘍剤は、(例えば、単一の錠剤若しくはカプセル剤に、又は単一の液体合剤として)一緒に製剤化することができる。その他の場合では、2つ以上の抗腫瘍剤は合剤されていない(例えば、別々の錠剤若しくはカプセル剤として、又は別々の注射剤若しくは注入剤として投与される)。
【0015】
[0015]一実施形態では、肝細胞癌は切除不能な肝細胞癌である。
【0016】
[0016]一部の実施形態では、生物学的試料は、血液試料、血清試料、血漿試料、肝細胞癌保存腫瘍試料、及び肝細胞癌生検試料からなる群から選択される。
【0017】
[0017]一部の実施形態では、対照は事前に確立されたカットオフ値である。一実施形態では、事前に確立されたカットオフ値は、カットオフなしと比較して高い陽性予測値を有する腫瘍応答を予測する受信者動作特性(ROC)分析又はパーセンタイル分析に基づいて決定されたFGF21タンパク質濃度であり、事前に確立されたカットオフ値を下回るFGF21タンパク質の濃度は、低濃度のFGF21であり、事前に確立されたカットオフ値と等しいか又は高い値は、高濃度のFGF21である。腫瘍応答は、奏効率(ORR)、臨床的有効率(CBR)又は最大腫瘍縮小の%である。別の実施形態では、事前に確立されたカットオフ値は生存を予測するシミュレーションモデル又はパーセンタイル分析に基づいて決定されたFGF21タンパク質濃度であり、事前に確立されたカットオフ値を下回るFGF21タンパク質の濃度は、低濃度のFGF21であり、事前に確立されたカットオフ値と等しいか又は高い値は、高濃度のFGF21である。この文脈において、生存とは、無増悪生存期間(PFS)又は全生存(OS)である。一部の実施形態では、ORR、CBR、又はPFS及びOSは、Eisenhauer、EAら、Eur.J.Cancer 45:228~247(2009)に記載されているRECIST1.1応答基準によって定義される。
【0018】
[0018]一部の実施形態では、この方法は、対象の医療提供者への試験結果の連絡をさらに含む。ある特定の実施形態では、この方法は、対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答するか又は応答しないことを示すために、対象の医療記録を修正するステップをさらに含む。特定の実施形態では、記録は、コンピュータ読み取り可能な媒体に作成される。ある特定の実施形態では、この方法は、ベースラインFGF21発現プロファイルが、対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答しないことを予測している場合、対象のためにソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法を処方するステップをさらに含む。ある特定の実施形態では、この方法は、ベースラインFGF21発現プロファイルが、対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答することを予測している場合、対象のためにソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法を処方するステップをさらに含む。一部の実施形態では、この方法は、ベースラインFGF21発現プロファイルが、対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答しないことを予測している場合、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む治療用を対象に実施するステップをさらに含む。一部の実施形態では、この方法は、ベースラインFGF21発現プロファイルが、対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答することを予測している場合、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法を対象に実施するステップをさらに含む。一部の実施形態では、医師が生物学的試料の取得及びアッセイ、FGF21の発現レベルの測定の各ステップを実行することができるか、又はその他の医療従事者が医師の指示の下でステップそれぞれを実行することができる。
【0019】
[0019]一実施形態では、FGF21の濃度は、免疫学的方法によって測定される。一部の実施形態では、免疫学的方法は、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ラテックス比濁免疫測定法、ラテックス測光免疫測定法、免疫クロマトグラフィーアッセイ、及びウエスタンブロッティングからなる群から選択される。別の実施形態では、FGF21の濃度は、酵素免疫測定法によって測定される。
【0020】
[0020]第6の態様では、本開示は、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答する見込みがないことを予測するのに使用するためのFGF21タンパク質検出剤を提供する。一実施形態では、FGF21タンパク質検出剤は抗FGF21抗体である。
【0021】
[0021]第7の態様では、本開示は、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答する見込みがないことを予測するのに使用するためのFGF21遺伝子発現検出剤を含むキットを特徴とする。ある特定の実施形態では、FGF21遺伝子発現検出剤は、FGF21mRNAに相補的な検出可能に標識されたポリヌクレオチドプローブである。ある特定の実施形態では、FGF21遺伝子発現検出剤は抗FGF21抗体である。ある特定の実施形態では、抗FGF21抗体はモノクローナル抗体である。その他の実施形態では、抗FGF21抗体はポリクローナル抗体である。ある特定の実施形態では、抗体は検出可能な薬剤とコンジュゲートしている。一実施形態では、検出可能な薬剤は西洋ワサビペルオキシダーゼ、ビオチン、蛍光部分、放射性部分、ヒスチジンタグ、又はペプチドタグである。一実施形態では、検出可能に標識された抗体をマイクロプレートにコーティングする。ある特定の実施形態では、マイクロプレートは96ウェルマイクロプレートである。ある特定の実施形態では、キットは、1つ又は複数の濃度標準物、1つ又は複数の緩衝液(例えば、洗浄緩衝液)、1つ又は複数の希釈剤(例えば、アッセイ及び/又は較正希釈剤)、及びFGF21タンパク質検出剤が対象から得られた生物学的試料中のFGF21に特異的に結合するかどうかの検出を容易にする1つ又は複数の試薬(例えば、着色試薬、停止溶液)を任意選択で含む。
【0022】
[0022]特に定義しない限り、本明細書で使用される技術及び科学用語は全て、本発明が属する業界の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似又は同等の方法及び材料は、本発明の実行又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び材料を以下に記載している。本明細書で言及されている刊行物、特許出願、特許、及びその他の参考文献は全て、その全体が参考として組み込まれている。矛盾する場合、定義を含めて本出願が優先される。材料、方法、及び実施例は単なる例示にすぎず、制限することを意図するものではない。
【0023】
[0023]本発明のその他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】それぞれLEN10mg/kg(白四角)、LEN30mg/kg(白三角)及びSOR30mg/kg(黒四角)による治療を受けている、及び治療なしの(黒丸)、FGF21-TF(左)及びモック-TF(右)を有するマウスにおける腫瘍体積の変化を示した図である。
【
図2】それぞれLEN10mg/kg、LEN30mg/kg又はSOR30mg/kgによる治療を受けている、及び治療なしの、FGF21-TF(左)及びモック-TF(右)を有するマウスにおける相対的体重の変化を示した図である。各群の記号は
図1と同じである。
【
図3】HCC PDxモデル(LI0334)におけるFGF21タンパク質発現を示した図である。光学顕微鏡によって撮影された代表的画像を示している。矢印は濃縮されたFGF21染色を示している。
【
図4】両群の第3四分位数カットオフポイントにおけるOSのFGF21カプラン-マイヤー(KM)曲線を示した図である。実線と破線はそれぞれ、低及び高FGF21群を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[0025]本開示は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答する肝細胞癌対象(ヒト患者など)を特定するための方法及び組成物を提供する。本開示は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法を実施することが推奨される、肝細胞癌(例えば、切除不能な肝細胞癌)を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性がある対象を特定するための予測バイオマーカーとしてFGF21を提供する。本明細書で記載したバイオマーカー、組成物、及び方法は、肝細胞癌を罹患しているか、有していることが疑われるか、又は発症する危険性がある対象のための適切な治療的様式(例えば、ソラフェニブ若しくはその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法又は代替肝細胞癌療法、例えば、ソラフェニブ若しくはその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤)を選択するのに有用である。さらに、本発明は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法から利益を得ることができない肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性がある患者を選択する方法並びに治療の方法を提供する。
【0026】
[0026]定義
「対象」という用語は、ヒト、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、ヒヒ、サル、マウス、ラット、ブタ、ウマ、イヌ、及びウシを含むがこれらに限定されない哺乳動物を意味する。ある特定の好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0027】
[0027]「ソラフェニブ」という用語は、4-[4-[[4-クロロ-3-(トリフルオロメチル)フェニル]カルバモイルアミノ]フェノキシ]-N-メチルピリジン-2-カルボキサミドを意味する。ソラフェニブ及びその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩(p-トルエンスルホン酸塩))は、本明細書に全体を参考として組み込まれている米国特許第7235576号及び米国特許第7351834号に開示されている。ソラフェニブトシル酸塩は、切除不能な肝細胞癌、進行した腎細胞癌、及びある特定の種類の甲状腺癌の治療のために米国食品医薬品局によってネクサバール(登録商標)として承認されている。
【0028】
[0028]「薬学的に許容される塩」という用語は、親化合物に類似した有効性を有し、生物学的に、又はその他の点で望ましくないものではない塩を意味する(例えば、その受容体に対して毒性もなく、その他の点でも有害ではない)。本明細書で使用したように、「薬学的に許容される塩」という用語は、塩の種類について特に限定はされない。このような塩の例には、限定はしないが、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、臭化水素酸塩及びヨウ化水素酸塩などの無機酸付加塩;酢酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、及びトリフルオロ酢酸塩などの有機カルボン酸付加塩;メタンスルホン酸塩、ヒドロキシメタンスルホン酸塩、ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩及びタウリン塩などの有機スルホン酸付加塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、プロカイン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N、N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、N-メチルグルカミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタン塩及びフェネチルベンジルアミン塩などのアミン付加塩;並びにアルギニン塩、リジン塩、セリン塩、グリシン塩、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩などのアミノ酸付加塩が含まれる。
【0029】
[0029]「ソラフェニブ化合物」という用語は、「ソラフェニブ又はその薬学的に許容できる塩」を意味する。「レンバチニブ化合物」及び「スニチニブ化合物」などの同様の表現は、「レンバチニブ又はその薬学的に許容される塩」及び「スニチニブ又はその薬学的に許容される塩」と解釈されるべきである。
【0030】
[0030]「ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の任意の抗腫瘍剤」という用語は、肝細胞癌の治療、例えば化学療法に使用されるか、又は使用することができる、ソラフェニブ化合物を除く任意の抗腫瘍剤を意味する。このような抗腫瘍剤には、限定はしないが、本明細書に全体を参考として組み込まれているIkedaら、Jpn J Clin Oncol、2018、48(2)103~114に開示されているスニチニブ化合物、ブリバニブ化合物、リニファニブ化合物、エルロチニブ化合物、ドキソルビシン化合物、レンバチニブ化合物、ブリバニブ化合物、エベロリムス化合物、ラムシルマブ、S-1、ADI-PEG20、チバンチニブ化合物、レゴラフェニブ化合物、カボザンチニブ化合物、抗CTLA-4抗体(例えば、トレメリムマブ及びイピリムマブ)、抗PD-1抗体(例えば、ニボルマブ及びペムブロリズマブ)、抗PD-L1抗体(例えば、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ)が含まれる。
【0031】
[0031]「レンバチニブ」という用語は、4-(3-クロロ-4-(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)-7-メトキシ-6-キノリンカルボキサミドを意味する。この化合物は、米国特許第7253286号の実施例368(段落270参照)に開示されている。米国特許第7253286号は、本明細書に全体を参考として組み込まれている。「レンバチニブ化合物」という用語は、「レンバチニブ又はその薬学的に許容できる塩」を意味する。レンバチニブの薬学的に許容される塩の一例は、本明細書に全体を参考として組み込まれている米国特許第7612208号に開示されたレンバチニブメシル酸塩(メタンスルホン酸塩)である。レンバチニブメシル酸塩はまた、E7080と呼ばれる。レンバチニブメシル酸塩は、局所再発性若しくは転移性、進行性、放射性ヨウ素抵抗性分化型甲状腺がん、切除不能な肝細胞癌の患者の治療のために、又は進行した腎細胞癌の患者の治療のためにエベロリムスと組み合わせて、米国食品医薬品局によってレンビマ(LENVIMA)(商標)として承認されている。
【0032】
[0032]「タンパク質」という用語は、長さや翻訳後修飾に関係なく、アミノ酸の任意のペプチド結合鎖を意味する。典型的には、本明細書に記載したタンパク質は、調製物中の総タンパク質の少なくとも60重量%、例えば、試料中の総タンパク質の60%を構成している場合、「単離」されている。一部の実施形態では、本明細書で記載した単離されたタンパク質は、調製物中の総タンパク質の少なくとも75重量%、少なくとも90重量%、又は少なくとも99重量%を占める。
【0033】
[0033]「療法に応答する/応答性の」という用語は、療法を実施された対象が提供された療法に対して正の応答を示すことを意味する。このような正の応答の非限定的な例は、腫瘍サイズの減少、腫瘍の転移の減少、又は治療後の生存期間の延長である。
【0034】
[0034]対象の試料中のタンパク質の「ベースラインレベル」という用語は、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩の療法を対象に実施する前の試料中のそのタンパク質の濃度を意味する。
【0035】
[0035]線維芽細胞増殖因子21
線維芽細胞増殖因子21は、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーの1メンバーである。FGFファミリーのメンバーは、広範な細胞分裂促進及び細胞生存活性を有し、多様な生物学的プロセスに関与している。このタンパク質は、主要な代謝調節因子として機能する分泌性内分泌因子である。コードされたタンパク質は、脂肪組織におけるグルコース取り込みを刺激する。
【0036】
[0036]FGF21の遺伝子ID、関連URL、タンパク質ID及びUniProtKBアクセッション番号は以下の通りである:
公式遺伝子名:FGF21
遺伝子ID:26291
URL:www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/26291
UniProt KBアクセッション番号:Q9NSA1
【0037】
[0037]対照と比較して高いFGF21(例えば、タンパク質又はmRNA発現)のベースラインレベルは、対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答する可能性が低いことを指示/予測している。例えば、療法による治療の前の対象から得られた生物学的試料中のベースラインFGF21タンパク質の濃度が(対照と比較して)高いことは、対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答する可能性が低いことを予測している。
【0038】
[0038]ある特定の実施形態では、対象が療法による治療の後に部分奏効を示していない場合、対象は、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答していないと判定される。「部分奏効」とは、ベースラインの最長径(LD)の合計を基準にして、標的病変のLDの合計が少なくとも30%減少していることを意味する。一部の実施形態では、対象が療法による治療の後に腫瘍縮小を示していない場合、対象はソラフェニブ化合物を含む療法に応答していないと判定される。「最大腫瘍縮小の%」(MTS)とは、ベースラインの直径の合計を基準にして、標的病変の直径の合計の変化率を意味する。その他の実施形態では、対象が全生存を示していない場合、対象はソラフェニブ化合物を含む療法に応答していないと判定される。「全生存期間」(OS)とは、無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間を意味する。「無作為化」とは、患者の治療計画を決定するときに、患者を試験群又は対照群に無作為化することを意味する。一部の実施形態では、対象が全生存期間及び腫瘍縮小の両方を示していない場合、対象はソラフェニブ化合物を含む療法に応答していないと判定される。その他の実施形態では、対象が無増悪生存期間を示していない場合、ソラフェニブ化合物を含む療法に応答していないと判定される。「無増悪生存期間」(PFS)とは、無作為化された日から、最初に疾患の進行又は死亡が確認された、いずれか早い方の日までの期間を意味する。一部の実施形態では、対象が無増悪生存期間及び腫瘍縮小のどちらも示していない場合、対象はソラフェニブ化合物を含む療法に応答していないと判定される。
【0039】
[0039]本開示は、ソラフェニブ化合物以外の抗腫瘍剤を含む療法よりも、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法の後に延命効果(例えば、OS)を得られる可能性が低い肝細胞癌を有している対象を特定する方法を提供する。この方法では、ソラフェニブ化合物を含む療法による治療の前に得られた対象の生物学的試料をアッセイし、FGF21タンパク質のレベルを測定する。対照と比較してベースラインFGF21タンパク質の濃度が高いことは、対象が、ソラフェニブ化合物以外の抗腫瘍剤を含む療法よりも、ソラフェニブ化合物を含む療法の後に延命効果(例えば、OS)を得られる可能性が低いことを示している。
【0040】
[0040]FGF21の濃度は、免疫学的アッセイなどの当業界で知られている任意の方法を使用して測定することができる。このような方法の非限定的な例には、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ラテックス比濁免疫測定法、ラテックス測光免疫測定法、免疫クロマトグラフィーアッセイ、及びウエスタンブロッティングが含まれる。ある特定の実施形態では、FGF21の濃度は、酵素免疫測定法によって測定される。
【0041】
[0041]対照
前述したように、本発明の方法は、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症の危険性がある対象の生物学的試料中のFGF21のベースラインレベルを測定するステップを含むことができ、対照と比較したFGF21の発現レベルは、対象がソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む治療に応答しない(又は利益を得ることができない)ことを予測する。ある特定の実施形態では、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症の危険性がある対象の生物学的試料中のベースラインFGF21の濃度が対照よりも高い場合、対象はソラフェニブ化合物を含む療法に応答しないと特定される。この文脈では、「対照」という用語は、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答する対象から得られた(例えば、同じ組織の)試料を含む。「対照」という用語は、ソラフェニブ化合物を含む療法に応答することが知られている対象から過去に得られ、療法の必要性が予測される対象から採取された試験試料と将来比較するための参考として使用される(例えば、同じ組織の)試料も含む。
【0042】
[0042]一部の実施形態では、「陽性対照」を「対照」の代わりに使用することができる。特定の細胞種又は組織中におけるFGF21の「陽性対照」濃度は、代替的に、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答しないと特定された1つ又は複数の対象の分析によって、事前に確立されていてもよい。この事前に確立された基準値(療法に応答しないと特定された複数の対象から採取された発現レベルの平均又は中央値であってもよい)を、その後試験試料との比較において「陽性対照」発現レベルとして使用してもよい。このような比較では、分析されているFGF21の濃度が、事前に確立された陽性対照基準と同じ、又は同等(少なくとも85%であるが100%未満である)である場合、対象はソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答しないと予測される。
【0043】
[0043]ある特定の実施形態では、「対照」は事前に決定されたカットオフ値である。
【0044】
[0044]カットオフ値
一部の実施形態では、本明細書で記載した方法は、FGF21の濃度が所定のカットオフ値を上回るか又は下回るかを判定するステップを含む。
【0045】
[0045]本明細書で記載した方法及び組成物によれば、ベースラインFGF21の基準濃度は、それを上回るか又は下回るとソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法の必要性が予測されるカットオフ値として特定される。いくつかのカットオフ値は、臨床的な相関関係がカットオフ値の両側の一定の範囲の値にわたって依然として有意なままであり得るという点で絶対的なものではないが、特定の種類の試料についてFGF21の濃度の最適なカットオフ値(例えば、H-スコアの変化)を選択することは可能である。本明細書で記載した方法で使用するために決定されたカットオフ値は、例えば、公表されている濃度範囲と比較することができるが、使用する方法や患者集団に合わせて個別に設定することができる。最適なカットオフ値の改善は、使用した統計学的方法の洗練度及び異なる種類の試料の基準レベル値を決定するために使用した試料の数及び原料に応じて決定され得ることを理解されたい。したがって、確立されたカットオフ値は、定期的な再評価又は方法若しくは集団分布の変化に基づいて、上下に調整することができる。
【0046】
[0046]FGF21の基準濃度は、多様な方法で決定することができる。基準レベルは、例えば、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答する、又はソラフェニブ化合物を含む療法に応答しない対象(例えば、患者)の集団におけるFGF21の濃度を比較することによって決定することができる。これは、例えば、患者のコホート全体をグラフによって表し、第1軸がFGF21の濃度を表し、第2軸が試料に1つ又は複数の濃度が含まれるコホート内の対象の数を表すヒストグラム分析によって達成することができる。FGF21の基準濃度の決定は、これらの別々の群を最もよく区別する量又は濃度に基づいて行うことができる。基準レベルは全対象に等しく適用できる単一の数値とすることもできるし、又は基準レベルは対象の特定の部分集団に応じて変化させることもできる。例えば、同じがんの適応症について、高齢の対象は若い対象とは異なる基準レベルを有していてもよい。さらに、より進行した疾患(例えば、切除不能な肝細胞癌)を有する対象は、より軽度の疾患を有する対象とは異なる基準値を有していてもよい。
【0047】
[0047]事前に確立されたカットオフ値は、受信者動作特性(ROC)分析に基づいて決定されるタンパク質濃度とすることができる。ROC曲線は、臨床試験のカットオフ値を決定するために使用される。2つの患者群があり、確立された標準的技術を使用することによって、1つの群はソラフェニブ化合物を含む療法に応答することがわかっており、もう一方の群はソラフェニブ化合物を含む療法に応答しないことがわかっている場合を考えてみる。2つの群のメンバー全ての生物学的試料を使用した測定は、ソラフェニブ化合物を含む療法に対する応答を試験するために使用される。この試験では、ソラフェニブ化合物を含む療法に応答しない対象が全てではなく一部見いだされる。(確立された標準的技術によってわかっている)療法に応答しない対象の総数に対する、試験によって見いだされた療法に応答しない対象の割合が、真の陽性率である(感度としても知られている)。この試験では、ソラフェニブ化合物を含む療法に応答する対象が全てではなく一部見いだされる。(確立された標準的技術によってわかっている)療法に応答する対象の総数に対する、試験によって見いだされた療法に応答する対象の割合が真の陰性率である(特異度としても知られている)。上記の試験のROC曲線分析によって、偽陽性及び偽陰性の数を最小限に抑えるカットオフ値が見いだされることが期待される。ROCは、識別閾値を変化させたときのバイナリークラス層別システムの性能を示すプロット図である。これは、様々な閾値の設定で、陽性のうちの真の陽性の画分対陰性のうちの偽陽性の画分をプロットすることによって作成される。
【0048】
[0048]一実施形態では、FGF21の濃度は、陽性的中率で腫瘍応答を予測するROC分析に基づいて決定され、事前に確立されたカットオフ値を下回るFGF21の濃度は低濃度のFGF21であり、事前に確立されたカットオフ値と等しいか又は高い値は高濃度のFGF21である。陽性的中率とは、真の陽性である陽性の試験結果の割合のことで、陽性の試験結果が試験する基礎疾患を反映している確率を表している。ROC曲線を構築し、陽性的中率を決定する方法は当業界でよく知られている。ある特定の実施形態では、腫瘍応答は、奏効率(ORR)、臨床的有効率(CBR)、又は最大腫瘍縮小率の%である。
【0049】
[0049]別の実施形態では、事前に確立されたカットオフ値は生存を予測するシミュレーションモデルに基づいて決定されたFGF21の濃度であってもよく、事前に確立されたカットオフ値を下回るFGF21の濃度は低濃度のFGF21であり、事前に確立されたカットオフ値と等しいか又は高い値は高濃度のFGF21である。一部の実施形態では、生存は、無増悪生存期間(PFS)である。その他の実施形態では、生存は、全生存(OS)である。
【0050】
[0050]ある特定の実施形態では、FGF21タンパク質の事前に確立されたカットオフ値は、対象の集団の20パーセンタイル~80パーセンタイルの濃度範囲内にある。一部の実施形態では、事前に確立されたカットオフ値は、対象の集団の20パーセンタイル~75パーセンタイル、25パーセンタイル~80パーセンタイル、又は25パーセンタイル~75パーセンタイルの濃度範囲内にあってもよい。一部の実施形態では、事前に確立されたカットオフ値は、対象の集団の中央値、第1三分位値、第2三分位値、第1四分位値、第3四分位値、第1五分位値、第2五分位値、第3五分位値、又は第4五分位値であってもよい。
【0051】
[0051]これらの実施形態の全てにおいて、事前に確立されたカットオフ値を下回るFGF21タンパク質の濃度は低濃度のFGF21であり、事前に確立されたカットオフ値と等しいか又は高い値は高濃度のFGF21である。この文脈で、「約」は±10%を意味する。
【0052】
[0052]生物学的試料
本明細書で記載した方法に適した生物学的試料には、FGF21タンパク質を含有する任意の生体液、細胞、組織、又はそれらの画分が含まれる。生物学的試料は、例えば、対象(例えば、ヒトなどの哺乳類)から得られた検体であるか、又はそのような対象に由来するものであってもよい。例えば、試料は、生検によって得られた組織切片、保存された腫瘍組織、又は組織培養に入れた、若しくは適応された細胞であってもよい。生物学的試料とは、血液、血漿、血清などの生体液、又は基板(ガラス、ポリマー、紙など)に吸着した試料であってもよい。生物学的試料には、肝細胞癌の組織試料も含まれる。特定の実施形態では、生物学的試料は、腫瘍又は前癌病変を含有することが疑われる対象の領域から得られた腫瘍細胞(複数可)又は腫瘍組織である。例えば、生物学的試料は、肝細胞癌腫瘍試料であってもよい。生物学的試料は、所望するならば、特定の細胞種を含有する画分にさらに分画することができる。例えば、血液試料は、血清又は赤血球若しくは白血球(白血球(leukocyte))などの特定の種類の血液細胞を含む画分に分画することができる。所望するならば、試料は、組織及び流体試料の組み合わせなどの対象の試料の組み合わせであってもよい。
【0053】
[0053]生物学的試料は、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性がある対象から得ることができる。ある特定の実施形態では、対象は進行した肝細胞癌を有している。その他の実施形態では、対象は切除不能な肝細胞癌を有している。
【0054】
[0054]生物学的試料を得るための任意の適切な方法を採用することができるが、例示的な方法には、例えば、静脈切開術、穿刺吸引細胞診法が含まれる。試料はまた、例えば、顕微解剖(例えば、レーザー捕捉顕微解剖(LCM)又はレーザー顕微解剖(LMD))によっても収集することができる。
【0055】
[0055]試料中の分子(例えば、核酸又はタンパク質)の活性又は完全性を維持している試料の入手及び/又は保存方法は、当業者にはよく知られている。例えば、生物学的試料を、緩衝液、及び/又は、試料中の分子(例えば、核酸又はタンパク質)を維持するか又は変化を最小限に抑える、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、及びホスファターゼ阻害剤のうちの1つ又は複数を含む阻害剤などの、1つ又は複数の追加の薬剤とさらに接触させることができる。このような阻害剤には、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(p-アミノエチルエーテル)N,N,N1,N1-四酢酸(EGTA)などのキレート剤、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、アプロチニン、ロイペプチン、アンチペインなどのプロテアーゼ阻害剤、リン酸塩、フッ化ナトリウム、バナジン酸塩などのホスファターゼ阻害剤などが含まれる。分子を単離するために適した緩衝液及び条件は、当業者にはよく知られており、例えば、解析すべき試料中の分子の種類に応じて変化させることができる(例えば、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(付録47)、John Wiley & Sons、New York(1999)、Harlow及びLane、Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988)、Harlow及びLane、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press(1999)、Tietz Textbook of Clinical Chemistry、第3版、Burtis及びAshwood編、W.B.Saunders、Philadelphia、(1999))。試料は、妨害物質の存在を排除するか又は最小限に抑えるために処理することもできる。例えば、生物学的試料は、対象としない1つ又は複数の材料を除去するために、分画又は精製することができる。生物学的試料を分画又は精製する方法には、液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、又はアフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法が含まれるが、これらに限定されるものではない。本明細書で記載した方法で使用するために、試料は様々な物理的状態であってもよい。例えば、試料は液体や固体であってもよく、液体に溶解又は懸濁していてもよく、エマルジョン又はゲル中にあってもよく、材料に吸収されていてもよい。
【0056】
[0056]バイオマーカーの発現レベル/濃度の決定
遺伝子の発現は、例えば、標的遺伝子のタンパク質又はRNAの発現として検出することができる。つまり、遺伝子の存在又は発現レベル(量)は、その遺伝子のmRNA又はタンパク質発現のレベルを検出及び/又は測定することによって決定することができる。一部の実施形態では、FGF21の発現は、FGF21遺伝子によってコードされるFGF21の活性として検出することができる。
【0057】
[0057]遺伝子のmRNA発現のレベルを検出及び/又は測定するために、様々な適切な方法を採用することができる。例えば、mRNA発現は、ノーザンブロット若しくはドットブロット分析、逆転写PCR(RT-PCR、例えば、定量的RT-PCR)、in situハイブリダイゼーション(例えば、定量的in situハイブリダイゼーション)、又は核酸アレイ(例えば、オリゴヌクレオチドアレイ若しくは遺伝子チップ)分析を使用して決定することができる。このような方法の詳細は、以下及び、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第2版、1、2及び3巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor、New York、USA、Nov.1989;Gibsonら(1999)Genome Res.、6(10):995~100i、及びZhangら(2005)Environ.Sci.Technol.、39(8):2777~2785、米国公報第2004086915号、欧州特許第0543942号、及び米国特許第7101663号に記載されており、これらのそれぞれの開示は本明細書に全体が参考として組み込まれている。
【0058】
[0058]一実施形態では、生物学的試料中のFGF21mRNA集団の離散母集団の存在又は量は、生物学的試料から全mRNAを単離し(例えば、Sambrookら(上記)及び米国特許第6812341号を参照)、単離されたmRNAにアガロースゲル電気泳動を行いmRNAをサイズによって分離することによって決定することができる。その後、サイズ分離されたmRNAをニトロセルロース膜などの固相支持体に(例えば、拡散によって)移す。次に、目的のmRNA配列に相補的で、対応するmRNA集団に結合し、したがって検出可能にさせる、1つ又は複数の検出可能な標識ポリヌクレオチドプローブを使用して、生物学的試料中のFGF21mRNA集団の存在又は量を決定することできる。検出可能な標識には、例えば、蛍光剤(例えば、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロライド、アロフィコシアニン(APC)又はフィコエリスリン)、発光剤(例えば、ユーロピウム、テルビウム、Quantum Dot Corporation、Palo Alto、CAによって供給されるQdot(商標)ナノ粒子、放射線(125I、131I、35S、32P、33P、又は3H)及び酵素(西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼ)標識が含まれる。
【0059】
[0059]別の実施形態では、生物学的試料中のFGF21mRNAの離散母集団の存在又は量は、核酸(又はオリゴヌクレオチド)アレイ(例えば、以下の「アレイ及びキット」で記載したアレイ)を使用して決定することができる。例えば、生物学的試料から単離したmRNAは、RT-PCRを使用して、例えば、ランダムヘキサマー若しくはオリゴ(dT)プライマー媒介第一鎖合成を用いて増幅することができる。アンプリコンは、より短いセグメントに断片化することができる。RT-PCRステップは、アンプリコンを検出可能に標識するために使用することができ、又は、任意選択で、RT-PCRステップの後にアンプリコンを検出可能に標識することができる。例えば、検出可能な標識は、様々な適切な技術のいずれかを使用して、アンプリコンに酵素的に(例えば、ニックトランスレーション若しくはT4ポリヌクレオチドキナーゼなどのキナーゼによって)又は化学的にコンジュゲートさせることができる(例えば、Sambrookら、上記参照)。次に、検出可能に標識されたアンプリコンを、複数のポリヌクレオチドプローブセットと接触させるが、各セットは、対応するアンプリコンに特異的な(及び結合することができる)1つ又は複数のポリヌクレオチド(例えば、オリゴヌクレオチド)プローブを含有しており、複数は、それぞれが異なるアンプリコンに対応する多数のプローブセットを含有している。
【0060】
[0060]一般的には、プローブセットは固相支持体に結合しており、各プローブセットの位置は固相支持体にあらかじめ決定されている。検出可能に標識されたアンプリコンのプローブセットの対応するプローブへの結合は、生物学的試料中の標的mRNAの存在又は量を示す。核酸アレイを使用してmRNA発現を検出する追加の方法は、例えば、米国特許第5445934号、第6027880号、第6057100号、第6156501号、第6261776号、及び第6576424号に記載されており、これらのそれぞれの開示は、本明細書に全体を参考として組み込まれている。
【0061】
[0061]検出可能な標識を検出及び/又は定量する方法は、標識の性質に左右される。適切な酵素(検出可能な標識が酵素である場合、上記参照)によって触媒される反応の生成物は、限定はしないが、蛍光、発光若しくは放射性であってもよく、又は可視光若しくは紫外線を吸収してもよい。このような検出可能な標識を検出するのに適した検出器の例には、限定はしないが、X線フィルム、放射線計数器、シンチレーションカウンター、分光光度計、比色計、蛍光光度計、ルミノメーター、及び濃度計が含まれる。
【0062】
[0062]一実施形態では、FGF21の発現は、FGF21遺伝子によってコードされるFGF21の発現又は濃度を検出及び/又は測定することによって決定される。タンパク質発現/濃度を決定する方法は、当業界ではよく知られている。一般的に使用される方法には、目的の標的タンパク質に特異的な抗体の使用が含まれる。例えば、タンパク質発現を決定する方法には、ウェスタンブロット又はドットブロット分析、免疫組織化学(例えば、定量的免疫組織化学)、免疫細胞化学、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、酵素結合免疫吸着スポット(ELISPOT;Coligan、J.E.ら編(1995)Current Protocols in Immunology.Wiley、New York)、放射性免疫測定法、化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ラテックス比濁免疫測定法、ラテックス測光免疫測定法、免疫クロマトグラフィーアッセイ、及び抗体アレイ分析(例えば、米国公報第20030013208号及び第2004171068号、これらのそれぞれの開示は本明細書に全体が参考として組み込まれている)が含まれるが、それらだけには限定されない。上記の方法の多く及びタンパク質発現を検出するための追加の方法のさらなる説明は、例えば、Sambrookら(上記)に見いだすことができる。
【0063】
[0063]一例では、FGF21の発現の存在又は量は、ウエスタンブロッティング技術を使用して決定する。例えば、溶解物は生物学的試料から調製することができるか、又は生物学的試料そのものをLaemmli緩衝液と接触させ、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行うことができる。SDS-PAGEで分解してサイズによって分離したタンパク質は、次にフィルター膜(例えば、ニトロセルロース)に移し、FGF21に特異的な検出可能に標識した抗体を使用してイムノブロッティング技術を行うことができる。結合した検出可能な標識抗体の存在又は量は、生物学的試料中のタンパク質の存在又は量を示す。
【0064】
[0064]別の例では、FGF21のタンパク質発現を検出及び/又は測定するために、免疫測定法が使用される。上記のように、検出のために、免疫測定法は検出部位(例えば、蛍光剤又は酵素)を有する抗体を用いて実行することができる。生物学的試料のタンパク質は、固相マトリックス(例えば、マルチウェルアッセイプレート、ニトロセルロース、アガロース、セファロース、コード化された粒子、又は磁気ビーズ)に直接コンジュゲートさせることができ、又は特異的結合対の第2のメンバー(例えば、ストレプトアビジン又はビオチン)への結合によって固相マトリックスに結合している特異的結合対の第1のメンバー(例えば、ビオチン又はストレプトアビジン)にコンジュゲートさせることができる。固相マトリックスへのこのような結合によって、検出抗体との接触の前に、生物学的試料のその他の干渉する、又は無関係な成分からタンパク質を精製することができ、結合していない抗体を後で洗浄することもできる。ここで上記のように、結合した検出可能な標識抗体の存在又は量は、生物学的試料中のタンパク質の存在又は量を示している。
【0065】
[0065]抗体の形態には特に制限はなく、本開示には、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体が含まれる。ウサギなどの動物をFGF21又はその断片で免疫することによって得られた抗血清、またあらゆる種類のポリクローナル及びモノクローナル抗体、ヒト抗体、並びに遺伝子組み換えにより作製されたヒト化抗体も含まれる。
【0066】
[0066]免疫のための抗原として、完全なタンパク質又はその部分ペプチドを使用することができる。タンパク質の部分ペプチドとして、例えば、タンパク質のアミノ(N)末端断片及びカルボキシ(C)末端断片を挙げることができる。
【0067】
[0067]FGF21をコードする遺伝子又はその断片(例えば、免疫学的断片)を公知の発現ベクターに挿入し、本明細書で記載したベクターで宿主細胞を形質転換することによって、標準的な方法を使用して所望のタンパク質又はその断片を宿主細胞の外部又は内部から回収する。このタンパク質は、感作抗原として使用することができる。また、タンパク質を発現している細胞、細胞溶解物、又は本発明の化学合成されたタンパク質も感作抗原として使用することができる。
【0068】
[0068]感作抗原によって免疫される哺乳類は限定されていないが、細胞融合に使用される親細胞との適合性を考慮して動物を選択することが好ましい。一般的には、齧歯目、ウサギ目、又は霊長類に属する動物が使用される。使用することができる齧歯目に属する動物の例には、例えば、マウス、ラット、及びハムスターが含まれる。使用することができるウサギ目に属する動物の例には、ウサギが含まれる。使用することができる霊長類の目に属する動物の例には、サルが含まれる。使用するサルの例には、狭鼻下目(catarrhini)、例えば、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ、及びチンパンジーが含まれる。
【0069】
[0069]さらに、本開示の方法で使用される抗体は、FGF21に結合する限り、抗体断片又は修飾抗体であってもよい。例えば、Fab、F(ab’)2、Fv又はH鎖Fv、及びL鎖Fvがリンカーによって適切に連結されている単鎖Fv(scFv)(Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:5879~5883、(1988))を抗体断片として挙げることができる。
【0070】
[0070]抗体は、蛍光物質、放射性物質、及び発光物質などの様々な分子にコンジュゲートさせることができる。このような部位を抗体に結合させる方法は、当分野では既に確立されており、従来から行われている(例えば、米国特許第5057313号及び第5156840号参照)。
【0071】
[0071]抗体の抗原結合活性をアッセイする方法の例には、例えば、吸光度の測定、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、放射性免疫測定法(RIA)及び/又は免疫蛍光法が含まれる。例えば、ELISAを使用する場合、本開示の抗体でコーティングしたプレートに、本発明のバイオマーカーによってコードされるタンパク質を添加した後、抗体試料、例えば、抗体産生細胞の培養上清又は精製抗体を添加する。その後、アルカリホスファターゼ及びこのような酵素によって標識された、一次抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートをインキュベートして洗浄し、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質を添加した後、吸光度を測定して抗原結合活性を評価する。タンパク質として、タンパク質断片、例えば、C末端を含む断片、又はN末端を含む断片を使用することができる。本発明の抗体の活性を評価するために、BIAcore(GE Healthcare)を使用することができる。
【0072】
[0072]これらの方法を使用することによって、本発明の方法で使用した抗体及びFGF21を含有すると推定される試料を接触させ、前述の抗体とタンパク質との間に形成される免疫複合体を検出又はアッセイすることによって、FGF21を検出又はアッセイする。
【0073】
[0073]質量分析計をベースにした定量分析法、例えば、限定はしないが、安定同位体で標識した内部標準物質と組み合わせた多重反応モニタリング(MRM)をベースにしたアプローチは、免疫測定法に代わるタンパク質の定量測定法である。これらのアプローチでは抗体を使用する必要がないため、コストと時間をかけずに分析を実行することができる(例えば、Addonaら、Nat.Biotechnol.、27:633~641,2009;Kuzykら、Mol.Cell Proteomics、8:1860~1877、2009;Paulovichら、Proteomics Clin.Appl.、2:1386~1402、2008)参照)。さらに、MRMは多重化機能に優れているため、多数のタンパク質を並行して同時に定量することを可能にする。これらの方法の基本的な理論はよく確立されており、低分子の薬物代謝及び薬物動態解析に広く利用されている。
【0074】
[0074]応答プロファイルの作成
本明細書で記載した方法は、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法について、肝細胞癌を有している対象の応答プロファイルを作成するためにも使用することができる。プロファイルは、例えば、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩による治療の前のFGF21のベースライン発現レベルを示す情報、及び/又は任意の肝細胞癌の組織学的分析を含むことができる。得られた情報(ソラフェニブ療法応答プロファイル)は、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性がある対象(例えば、ヒト患者)が、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答しないことを予測するために使用することができる。
【0075】
[0075]ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)応答プロファイルは、電子的な形態(例えば、コンピュータ又はDVD、CD若しくはフロッピーディスクなどのその他の電子(コンピュータ読み取り可能な)媒体に保存された電子的患者記録)又は書面の形態であってもよいことを理解されたい。ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)応答プロファイルは、数人(例えば、2人、3人、4人、5人、10人、20人、30人、50人又は100人以上)の対象(例えば、ヒト患者)の情報を含むことができる。このような多数対象の応答プロファイルは、例えば、対象コホートの特定の特性に関する分析(例えば、統計分析)に使用することができる。
【0076】
[0076]ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に対する対象の応答性は、いくつかの方法で分類することができ、分類は対象の疾患、疾患の重症度、及び対象者に投与される特定の医薬品に左右される。最も単純な意味では、応答性とは、治療前と比較して病状が減少することであり、非応答性とは、治療前と比較して病状のいかなる変化も欠如していることである。肝細胞癌を有する対象(例えば、ヒト)の応答性は、限定はしないが、腫瘍サイズ、臨床的有用性(CB)、無増悪生存期間(PFS)、全生存(OS)、最大腫瘍縮小の%(MTS)、又は奏効率(ORR)などの客観的な臨床指標の数のうちの1つ又は複数に基づいて分類することができる。一部の実施形態では、CB、PFS、OS、及びORRは、Eisenhauer,E.A.ら、Eur.J.Cancer 45:228~247(2009)に記載されているRECIST1.1応答基準によって定義されている。
【0077】
[0077]「臨床的有用性」とは、以下の状態、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、又は6ヵ月以上の無増悪生存期間(PFS)を有する安定状態(SD)のうちの1つを有することを意味する。「完全奏効」とは、標的病変全てが完全に消失することを意味する。「部分奏効」とは、標的病変の最長径(LD)の合計がベースラインのLD合計を基準にして少なくとも30%減少していることを意味する。「進行性疾患」(PD)とは、治療開始以降に記録された最小のLD合計を基準にして、標的病変のLD合計が少なくとも20%増加していること、又は1つ又は複数の新たな病変が出現していることを意味する。「安定状態」とは、治療開始以降の最小のLD合計を基準にして、PRに適格な標的病変の十分な縮小もPDに適格な十分な増大もないことを意味する。
【0078】
[0078]「全生存」(OS)は、無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義される。「無作為化」とは、患者の治療計画を決定するときに、患者を試験群又は対照群に無作為化することを意味する。
【0079】
[0079]「無増悪生存期間」(PFS)とは、無作為化された日から、最初に疾患の進行又は死亡が確認された日、いずれか早い方の日までの期間を意味する。
【0080】
[0080]「最大腫瘍縮小の%」(MTS)とは、ベースラインの合計直径を基準として、標的病変の直径の合計のパーセント変化を意味する。
【0081】
[0081]「奏効率」(ORR)とは、完全奏効(CR)又は部分奏効(PR)のいずれかの対象と、安定状態(SD)又は進行性疾患(PD)のいずれかの対象とを比較したものである。
【0082】
[0082]キット
本発明はまたキットを提供する。ある特定の実施形態では、キットは、FGF21又はその濃度若しくは発現レベルを検出するために使用することができる抗体又は抗体(複数可)を含むことができる。キットの抗体は、モノクローナル又はポリクローナルであってもよく、検出可能な標識とさらにコンジュゲートさせることができる。キットは、生物学的試料中のFGF21の濃度を検出及び/又は測定するための指示書を任意選択で含有することができる。
【0083】
[0083]キットは、任意選択で、例えば、対照(例えば、FGF21タンパク質の濃度標準物)を含むことができる。いくつかの例では、対照は、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法の必要性を予測するFGF21の発現レベル又は発現レベル範囲を含有する挿入物(例えば、紙の挿入物又はCD、DVD、若しくはフロッピーディスクなどの電子媒体)であってもよい。
【0084】
[0084]一部の実施形態では、キットは、生物学的試料を処理するための1つ又は複数の試薬(例えば、較正試薬、緩衝液、希釈剤、着色試薬、反応を停止するための試薬)を含むことができる。例えば、キットは、生物学的試料からタンパク質を単離するための試薬、及び/又は生物学的試料中のFGF21の存在及び/又は量を検出するための試薬(例えば、FGF21に結合する抗体及び/又はFGF21に結合する抗体に結合する抗体)を含むことができる。
【0085】
[0085]ある特定の実施形態では、キットは、少なくとも1つのマイクロプレート(例えば、96ウェルプレート;すなわち、8ウェル12列)を含む。マイクロプレートには、それに対応するプレートカバーを用意することができる。マイクロプレートは、ポリスチレン又は任意のその他の適切な材料であってもよい。マイクロプレートは、各ウェル内にコーティングされたFGF21の存在を確認するために使用される抗体を有することができる。抗体は検出可能な標識にコンジュゲートされていてもよい。キットはまた、少なくとも1つの粘着性の細片を含んでいてもよい。
【0086】
[0086]一部の実施形態では、キットは、例えば、発現プロファイル又はマイクロアレイ分析の結果を分析するためのソフトウェアパッケージを含むことができる。
【0087】
[0087]本明細書で記載したキットは、任意選択で、ソラフェニブ化合物以外の治療を含む療法を実施するための指示書を含むこともでき、FGF21の濃度によって、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性がある対象が、ソラフェニブ化合物(例えば、ソラフェニブトシル酸塩)を含む療法に応答しないことを予測する。
【0088】
[0088]以下は、本発明の手法の例である。これらは、本発明の範囲をけっして限定するものではないと解釈される。
【実施例】
【0089】
[0089]実施例1.HCC細胞株及び患者におけるFGFリガンド及びそれらの受容体の発現パターン
方法:肝細胞癌(HCC)におけるFGF関連遺伝子発現を評価するために、2つの公的データベース:The Cancer Genome Atlas(TCGA)及びThe Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE)から遺伝子発現データを収集した。
TCGA LIHCデータセット(LIHC患者コホート)
RNA-seq(Illumina HiSeq)によって測定した遺伝子発現データは、UCSC Xena hubウェブサイトからダウンロードした(Dataset ID:TCGA.LIHC.sampleMap/HiSeqV2)。このデータセットは、20531個の遺伝子の発現レベル×423個のLIHC(肝臓肝細胞癌)試料を含有しており、発現レベルはlog2 RSEM正規化カウントで表されている。423個の試料のうち、HCC患者の原発腫瘍部位由来の368個の試料がFGF関連遺伝子発現の評価に使用され、分析から除外された55個の試料は原発腫瘍部位以外又はHCC以外の患者から採取された。7つのFGF関連遺伝子:FGF19、FGF21、FGFR1(線維芽細胞増殖因子受容体1)、FGFR2、FGFR3、FGFR4、及びKLB(Klotho Beta)のそれぞれについて、発現レベル>0の患者の割合を算出した。
CCLE LIHCデータセット(ヒト細胞株)
RNA-seq(Illumina HiSeq)によって測定した遺伝子発現データは、NCI(米国国立がん研究所)のCTD2データポータルウェブサイト(Translational Genomics Research Institute(TGen):Quantified Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE)RNA-seq Data)から入手した。このデータセットは、55874個の遺伝子の発現レベル×936個のがん細胞株を含有しており、発現レベルはTPM(Transcripts per Million)で表されている。それらのうち、32個のLIHC細胞株を選択し、分析を行った。
結果:TCGAデータベースの分析では、FGF21、FGFR1-4、及びFGFR共受容体KLBは、ほぼ全てのHCC患者で発現していることが示された(FGF21、97%、FGFR1-4、100/99/100/100%、KLB、100%)。しかし、CCLEデータベースの全HCC細胞株では、FGF21の発現は検出レベルを下回っていた。
【0090】
[0090]実施例2.FGF21を発現するHCC腫瘍細胞株及びマウスのPDX腫瘍異種移植モデルにおけるレンバチニブ及びソラフェニブの抗腫瘍活性
方法:ピギーバックシステムを使用して、ヒトFGF21及びMockをトランスフェクトしたHCC PLC/PRF/5細胞(それぞれFGF21-TF及びMock-TF)を樹立した。これらの腫瘍に対する抗腫瘍活性を評価するために、FGF21-TFの4.2×106細胞又はMock-TFの4.3×106細胞をマトリゲル(BD Biosciences)とともに雌ヌードマウス(Charles River、Japan)に皮下注射した。腫瘍体積が約200~300mm3に達したとき、マウスを腫瘍体積に応じて各群に分け、レンバチニブメシル酸塩(略称LEN)(10mg/kg及び30mg/kg)又はソラフェニブトシル酸塩(略称SOR)(30mg/kg)のいずれかを1日1回経口投与した。HCC患者由来の異種移植片(PDX)由来の腫瘍(HCl3mM(レンバチニブ用の賦形剤)で処理したLI0334HCC PDX腫瘍モデル)のフォローアップ分析では、免疫組織化学によってFGF21の発現レベルを評価した。パラフィン包埋した腫瘍試料の3μm厚の切片を脱パラフィンし、水和させた。抗原賦活化は、試料をDako REAL Target Retrieval sol.(pH6.0)(Dako)中で30分間インキュベートすることによって実行した。内在性ペルオキシダーゼ活性は、スライドを3%過酸化水素で10分間インキュベートすることによってブロックした。スライドは、1%BSA/PBSで1:100にした一次抗体、ヒトウサギ抗ヒトFGF21(ab64857、Abcam)で4℃で一晩インキュベートした。スライドを洗浄し、EnVision+シングル試薬/ウサギHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)(Dako カタログ番号K4002)で室温で30分間インキュベートした。HRP活性はDABによって可視化し、スライドはヘマトキシリン(New Haematoxylin type G、Muto Pure Chemicals)で対比染色し、カバーガラスを載せた。スライドは、光学顕微鏡によってデジタル撮影した。
結果:Mock-TFモデルではLEN及びSORの両方が抗腫瘍活性を示したが、FGF21-TFモデルではLENのみが活性を示した(
図1)。いずれの治療も、非治療状態と比較して腫瘍の存在に伴う体重減少を悪化させなかった(
図2)。SORではなくLENによって阻害されるLI0334HCC PDX腫瘍モデル(例えば、Matsukiら、Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting 2017;2017 Apr 1~5;Washington,DC.:AACR;Cancer Res 2017;77(13追補):Abstract nr 1805で報告されている)は、免疫組織化学(IHC)分析によって、FGF21を高発現していることが見いだされた(
図3)。
LENは、FGF21を高発現しているか否かにかかわらず、前臨床のHCC腫瘍モデルに対して抗腫瘍活性を示したが、SORはFGF21が高レベルではないHCCモデルに対してのみ抗腫瘍活性を示した。
【0091】
[0091]実施例3.レンバチニブ又はソラフェニブによる肝細胞癌を有する対象のバイオマーカー分析
目的:
バイオマーカー分析の目的は、主要又は副次的評価項目の評価によって決定されるように、レンバチニブに対する対象の応答を予測するのに有用であり得る血液又は腫瘍のバイオマーカーを特定することであった。潜在的な予測バイオマーカーを探索するために、バイオマーカー、レンバチニブ/ソラフェニブ群及びそれらの交互作用項の交互作用分析を実行した。
方法:
E7080-G000-304は、切除不能なHCCの対象における一次全身治療としての、レンバチニブ対ソラフェニブの有効性及び安全性を比較するための多施設共同無作為化非盲検非劣性第3相試験である。対象は、レンバチニブ12mg(ベースライン体重[BW]≧60kg)又は8mg(ベースラインBW<60kg)のいずれかを1日1回(QD)経口投与する治療、又はソラフェニブ400mgを1日2回(BID)経口投与する治療に、1:1の割合で無作為に割り当てた。対象は、地域、巨視的門脈侵襲(MPVI)若しくは肝外転移(EHS)の有無又はその両方、Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG PS)0若しくは1、及びBW(<60kg若しくは≧60kg)によって層別化された。合計951人の対象(476人のレンバチニブ、475人のソラフェニブ)が登録され、治療を受けた。レンバチニブ及びソラフェニブは、28日サイクルで連続して毎日同じ時間に(食事の有無にかかわらず一貫して)対象自身によって経口的に自己投与された。対象は、疾患が進行するか、許容できない毒性が生じるか、対象の要求があるか、又は同意を撤回するまで、試験治療を受けた。
臨床試験に登録され、レンバチニブ又はソラフェニブの投与を割り当てられた954人の対象のうち、407人の対象(全てのITT対象の42.7%、レンバチニブ群、n=279人、ソラフェニブ群、n=128人)が血清バイオマーカーアッセイに含められた。
血清試料は、サイクル1の1日目(治療前)に採取した。レンバチニブ群の対象279人及びソラフェニブ群の対象128人(対象合計407人)の試料におけるサイクル1の1日目のFGF21の血清レベル(ベースラインレベル)は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)によって判定した。バイオマーカーデータは全て、別々に作成したデータ転送仕様書に従って、申請臨床試験データモデル(SDTM)に転送された。血清中のFGF21ベースラインレベルと無増悪生存期間(PFS)などの臨床転帰との相関関係を評価した。PFSは、無作為化した日から、疾患の進行又は死亡が最初に確認された日までの期間と定義した。
統計学的方法
統計分析は全て、2016年11月13日に臨床試験を完了し、データベースのスナップショットを取得した後で、エーザイ株式会社(東京、日本)の臨床データサイエンス部門が実行した。PFSとの相関分析には、RECIST1.1による独立画像判定(IIR)に基づくデータセットを使用した。統計分析はSASバージョン9.3を使用して実行した。
ベースライン血清バイオマーカー相関分析
血清バイオマーカーの各ベースラインレベルについて、生存転帰尺度(OS及びPFS)との相関分析を、レンバチニブ群及びソラフェニブ群別々に単変量Cox回帰法を使用して実行した。
ベースライン血清バイオマーカーカットオフ分析
対象は、各血清バイオマーカーのベースラインレベルに基づいて、2つの高低群に分けた。カットオフポイントは第3四分位とした。群と生存転帰尺度(OS及びPFS)との関連は、選択したカットオフポイントを用いて、単変量Cox回帰法及びログランク検定を使用して調べた。
ベースライン血清FGF21レベルとOSとの相関
二分法分析では、両群とも第3四分位カットオフポイントにおいて高いベースラインFGF21レベルが生存期間の短縮に関連していた。レンバチニブ群では高FGF21群のOS中央値(OS中央値=10.9カ月、95%CI:8.2~13.1)は、低FGF21群のOS中央値(OS中央値=18.0カ月、95%CI:14.1~20.9)よりも短かった(HR=1.745[95%CI:1.266~2.406]、P値=0.0006、表1)。ソラフェニブ群では、低及び高群(カットオフポイント:第3四分位)のOS中央値は、それぞれ17.8カ月(95%CI:13.7~22.9)及び6.8カ月(95%CI:4.6~10.3)であった(HR=3.341[95%CI:2.081~5.365]、P値<0.0001、表2)。両群の第3四分位数カットオフポイントにおけるOSのFGF21K-M曲線を
図4に示す。治療群、ベースラインレベル及びその交互作用を用いた多変量Cox回帰分析では、第3四分位数カットオフポイントにおいて有意な交互作用が示された(P交互作用値=0.0397)。
HR:ハザード比、CI:信頼区間、MST:生存期間中央値
これらの結果は、高いベースライン血清FGF21レベルが、両群においてOSの短縮と関連することを示した。しかし、レンバチニブ群のHR(HR=1.745)は、ソラフェニブ群のHR(HR=3.341)よりも低く、レンバチニブとソラフェニブの間には有意な交互作用があった(P交互作用値=0.0397)。これらのデータは、高いFGF21レベルは、レンバチニブ群と比較してソラフェニブ群においてOSの短縮の潜在的な予測バイオマーカーであることを示唆している。
ベースライン血清FGF21レベルとPFSとの相関
ベースライン血清FGF21レベルの二分法分析では、レンバチニブ群では第3四分位数カットオフポイントにおいて、ベースラインの高群と低群の間でPFS(RECIST1.1)の明確な差は示さなかった(表3)。ソラフェニブ群では、ベースライン血清FGF21レベルは、第3四分位カットオフポイントにおいて、高群は低群よりもPFS中央値(RECIST1.1)が短いことが推定された(表4)。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
[0096]特定の実施形態
本発明の特定の実施形態は以下の通りである。
1.ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に対する、肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象の応答を予測する方法であって、ヒト対象から得られた生物学的試料中の線維芽細胞増殖因子21(FGF21)のベースライン発現レベルを測定するか、又は測定しているステップを含み、
対照と比較して高いFGF21のベースライン発現レベルが、ヒト対象がソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を含む療法に応答しないことを予測する、方法。
2.ヒト対象に、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法を実施するステップをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
3.肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象を治療する方法であって、ヒト対象に、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法を実施するステップを含み、
ヒト対象が、ヒト対象者から得られた生物学的試料中で、対照よりも高いFGF21のベースライン発現レベルを有している、方法。
4.肝細胞癌を有しているか、有している疑いがあるか、又は発症する危険性があるヒト対象を治療する方法であって、
ヒト対象から得られた生物学的試料中で対照と比較して高いFGF21のベースライン発現レベルを測定するか又は測定しているステップと
ヒト対象にソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤を含む療法を実施するステップと
を含む方法。
5.生物学的試料が、血液試料、血清試料、又は血漿試料である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.FGF21のベースライン発現レベルが、FGF21をコードするmRNAの量に基づいて測定される、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.FGF21のベースライン発現レベルが、FGF21タンパク質の量に基づいて測定される、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
8.ソラフェニブの薬学的に許容される塩がソラフェニブトシル酸塩である、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.肝細胞癌が切除不能な肝細胞癌である、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤がレンバチニブ又はその薬学的に許容される塩である、実施形態2~9のいずれか1つに記載の方法。
11.ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩以外の抗腫瘍剤がレンバチニブメシル酸塩である、実施形態2~9のいずれか1つに記載の方法。
【0097】
[0097]その他の実施形態
本発明はその詳細な説明と併せて説明してきたが、前述の説明は本発明を例示することを意図しており、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。その他の態様、利点、及び変更は、以下の特許請求の範囲内にある。